若年寄日記

長野のふしぎ(居酒屋編)
 長野県。ここには不思議なことがたくさんある。例えば、居酒屋。今までいろいろなタイプの居酒屋に出会ってきた。古典的な赤ちょうちんはもちろん、最近流行の和風ダイニングのような少し意匠をこらしたところや、立ち飲みなんかにも行ったことがある。しかし、こんな店はいままでお目にかかったことがない。

「カラオケパブ割烹」

 ありえない組み合わせである。いったいどんな店なのだろうか。カウンター越しの腕のよさそうな大将が凝った料理を出し、上品な女将が注文をとりながら、一方ではギラギラの装飾品で飾りたてたおばちゃんがカラオケのリストを眺めながら水滴で濡れたグラスを拭いてくれるのだろうか。いろいろ想像が膨らむ。とにかく、こんな店を発見してしまっては、行ってみるしかない。ということで、恐る恐るこの店に入ってみた。
 入ってみると、やはりそこは単なるいなかのパブという感じだった。薄暗いくすんだ照明と小学校のクリスマスパーティーみたいなちゃっちい飾りで飾られた店内では、数人のおばちゃんがダルそうに酒を飲み、おっさんが古臭い唄を音程をおもっきりはずしながらうたっていた。「なんや、普通のカラオケパブやん」そう思っていた。
 しかしである。料理を一口いただいてみると、この考えは一変した。なぜかうまいのである。いわゆる「いなかパブ」で出てくる、缶詰のいわしの煮付けとかしめったピーナッツではなく、新鮮な魚と野菜がふんだんに使われた、割烹顔負けの料理だったのである。これには正直驚いた。おみそれしました、という感じである。話を聞いてみると、なんでもこの店は以前は魚屋を経営していたらしい。それが何を思ったのか、わざわざコテコテのいなかパブ風の店内に改装して、いっちょまえの料理を出すという、この店独特のスタイルを確立してしまったのだそうだ。素人目には、料理がおいしいのだから、カラオケなんてやらないで料理一本でお店を持ったほうがよさそうに思える。しかし、お店の人に言わせると、いなかではカラオケなしでは人が集まらないそうだ。しかし、カラオケだけではほかのいわゆる「いなかパブ」と同じになってしまう。そこで、この一見不可能とも思われる、割烹とカラオケパブの融合が生まれたのである。
 長野県。この地にいるとなぜか無限の可能性を感じてしまう。不可能を可能に変える力。そんな力の偉大さを改めて実感した。
2002年05月10日



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