ひげコンサルティング塾
   グループ学習
2.参 考 資 料−企 業 概 要
 問 題:戦 略 と 情 報 化 企 画

1.概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    ハイパー・テクノロジー社は埼玉県草加市にある創業15年、資本金2億円の若く成長
   力のある製造会社である。東京、大阪、名古屋、京都の各都市とその近郊の大手メーカ企
   業を対象に、高い加工精度を要求される部品を製造している。宮本社長が一代で築いたハ
   イテク企業である。
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    最近3年間の売上推移は2000年度が85億円(利益7億2千万円)、2001年度
   は91億円(利益8億2千万円)、そして昨(2002)年度は97億円(利益8億8千
   万円)と大幅な増加を示している。
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    当社の主要製品は超鋼金型部品、光通信機器部品、各種ピンゲージである。その技術的
   特徴は極細ピンの研削・研磨加工で、創業以来これらの加工技術だけを追求してきた。こ
   れらのピンは、インクジェット・プリンターのノズル穴あけ用金型ピン、光ファイバーコ
   ネクタのインジェクション成形用金型ピン、グリーンシート(本焼結前のセラミックシー
   ト)の孔あけ用パンチなとどとして使用される。
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    顧客の大半は一部上場の大手企業、二部上場の中堅企業である。取引製品の全てが上記
   の精密加工部品であるが、 高度な加工技術力を有することから新規部品の試作依頼も多
   い。
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    当社では、リストラクチャリング等で自主退職したやる気のある社員と定期的には新卒
   を採用している。最近の新卒採用は毎年約5名(学卒3名、高卒2名、男女別では半々)
   を採用している。売上増加に比べできるだけ人員を増加させることなく、有効性と効率性
   を向上することによって、顧客を拡大するとともに収益力を向上させている。 採用自体
   も、電子媒体により、効率良く行うことも必要かと考えている。 現在の社員数は72名
   (内パート20名)である。
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    当社の組織を下図で示した。マネジメントの階層は2層で、宮本社長と製造チームの佐
   田リーダ、支援チームの沢下リーダの簡単な組織である。・・・・・・・・・・・・・・
ハイパー・テクノロジー社
組織図
    営業部門は特になく、 社長が定期的に顧客の設計・製造・営業部門を訪問し、 技術動
   向、需要の動向を把握している。このことは創業以来変っていない。
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    受注はFAX(図面付き)主体、一部電話でも受けている。支援チームは受注表に受注
   案件を記入し、希望の納期を製造チーム佐田リーダに確認し決定している。必ずしもその
   場で決まるものばかりでなく、後日決定した日付で調整することも少なくない。大手取引
   先の海外進出に関連して、最近米国のオハイオ州の企業との取引も始まった。
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    支援チームの仕事は受注、受注台帳記入、受注入力、 受注に関する問合わせ、 ファイ
   リング、梱包後の出荷事務、出荷伝票作成、請求、顧客よりの支払明細の認、入金消込、
   手形管理などである。また経理関係で日報、月次決算処理、期末決算処理を行っている。
   取引先が大手であるせいか、最近では手形取引が減少している。このほかに給与、社会保
   健、賞与、年末調整処理、パートの支払計算、採用などの業務がある。
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    社長の手腕と先見性から企業の成長は著しい。しかし、情報システムは5年前に特注し
   た見積システムがW95のスタンドアロンシステムとして稼動しているだけである。ほか
   には半年ほど前に購入したCADシステムのパッケージと給与・経理システムがそれぞれ
   単独のパソコンで稼動している。これらのソフトウェアもW95ベースである。
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    情報システムを担当する責任者は最近、中途入社した支援部隊の山川さんである。かつ
   て大企業で購買の仕事をしていたが、社長の知人を通して1週間前に入社したばかりであ
   る。情報システムについては詳しくなく、またこれまでの経緯も良く分からない状況であ
   る。これまでは、社長と佐田リーダがシステム化に対応していた。
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    製造チームは佐田リーダほか社員とパート7〜8名でグループを構成し、 全体で9グ
   ループよりなる。グループのリーダは社員で、製造現場の要員(出退勤、残業、休出)、
   品質、納期管理を任されている。そのほか最終検査員2名、出荷準備・梱包等の担当者1
   名で行っている。 昨年から、佐田リーダと自社製造メンバー2名、支援メンバ1名とで
   ISO 9000品質システムの勉強会を開き、認証取得の準備活動を開始している。 製品のト
   レーサビリティをどう実現したらよいかが最近のテーマとなっている。
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2.顧客との関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    常に変化する顧客の期待やニーズの動向を判断するため、 社長は定期的に顧客を訪問
   し、設計部門の責任者の考え方、製造現場におけるニーズ、営業部門の動向などキメ細か
   く情報収集するとともに、自社の事業計画、投資計画を検討材料としている。
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    最近の顧客の要求は短納期化であり、さらなる加工精度の向上へと向かっている。
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   また、見積や発注にあたってインターネットが使えないかという要求もあり、現場設備

   (センターレスグラインダー、平面研削盤、万能研削盤、特殊ラップ盤、スライシングマ
   シンなど)に力を入れてきたが、これからは業務処理の効率化も重要と考え始めている。

   <当社の主要な取引企業>
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   ・新河電機  ・全日本製鉄  ・西芝電機  ・ツベルクリン工業
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   ・杉下電器  ・夕立製作所  ・住替電工  ・四洋電機
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   ・杉下通工  ・エジソン   ・カノン   ・宇治ゼロックス
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   ・ジャープ  ・オシロン   ・MEC   ・富士山工業
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    1995年 1月17日の早朝に発生した阪神淡路大震災による工場の操業停止や19
   97年2月1日発生したアイシン精機の工場火災による部品供給ストップで、トヨタ自動
   車の組立ラインが4日間の操業停止を強いられたことがあった。この教訓から、宮本社長
   はお客様の信頼を裏切らないように、取引にあたっては自社だけの取引でなく複数社購買
   をお願いするようにしている。
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    また、社員に対しては、常々次の事を口にしている。
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    ・お客様があってのハイパー・テクノロジー社であり、お客様に喜んでもらえる製品・
     づくりに注意を払うこと
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    ・自社の製品がどのようにお客様の製造現場で使われているか
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    ・もっと改善したら良いという点はないか
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    ・納期の2日前にはお届けできるようにする
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    ・品質には胸を張って出せる製品を心掛ける
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    このような取組みが成果となって、最近ではますます取引が拡大しつつある。製品の特
   徴と歩留まりの関係から在庫品となるものもあるが、これらはお客様からの再発注時に再
   検査して出荷することにしている。
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3.サプライヤーとの関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    材料として超硬材( FM10K,FM20K,FS10,FS20,G50,SUS420J2タングステン ) の購買が3〜5
   社、製品外注として5〜6社と常時取引している。これら以外には消耗品、什器・備品、
   修理品、治工具などがあり、大物購買では設備購入など全体で20社ほどとの取引があ

   る。
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    当社の戦略として、受注品の中で最高の加工精度を要するものや試作品については積極
   的に自社でやり、それ以外の製品で、能力外のものを外注することにしている。
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4.競争要因・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    市場で求められるのは「より硬度があり、より高精度のピン」である。そんな製品を生
   み出すための経営資源として、
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    @装置、A原材料、B加工技術、C人材
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   の4つが不可欠と考えている。
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    例えば、仕上げの工程を行う室内では、空調によって常に温度20度、湿度40%に維持し
   ている。一定した最適な環境条件下でなければ金属の極細ピンの加工精度に狂いが生じる
   可能性がある。仕上りを測定する機器自体が正しく機能しない場合も考えられる。詰まる
   ところ、当社のハイテク技術は人間の感覚が支えている。担当する技術者は神経を集中さ
   せなければできない仕事である。
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    このような仕事に従事する従業員の精神的ストレスや肉体の疲労をできる限り軽減する
   ために、本社工場の壁面はガラス張りとし、採光にも配慮している。社員食堂にも1日中
   やわらかな日差しが差し込む。また、玄関、階段、廊下、食堂にとさまざまな美しい絵画
   が架けられ、疲れを癒し、気分転換を促進させる配慮はきめこまかい。
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    また、これからの社会は女性がもっと良き働き手となるように、出産後の勤務がやりや
   すい保育の施設を準備するなどの必要があると考えている。 さらに、高齢化する社会に
   あって、中高年者を採用することも進めているが、一般に、長年大企業を経験した退職者
   は、小回りの利く仕事に不向きで、頭の切り替えができないケースが多く、すぐ退職して
   しまうことも少なくない。
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5.重要なその他の要因・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    当社は最終製品を作ってはいないが、パソコン社会を底辺で支えているという自負があ
   る。これからますます本格化するマルチメディア社会にあっても、今まで同様に社会を底
   辺で支える企業であり続けたい。そのためには、当社が求める人材も変化する。
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    その人材像は『新職人』である。『新職人』とは、
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     第一に新しい機械を開発できる能力
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     第二にNC機やコンピュータを使いこなす能力
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     第三に顧客の満足・喜びを考える能力
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   を備えた技術者であると考えている。したがって、そのためには従業員が社会に対して幅
   広い関心を持つように工作機械の見本市の見学など社会性を持った職人づくりに注力して
   いる。
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    当社が掲げるビジョンは次のものである。
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    1.ニッチトップを目指す(高度専門性)
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    2.独自技術を追及し続ける(差別化)
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    3.社会での役割を追及する(社会性)
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    また、全社員の日常の行動原理として、「挨拶をする、掃除をする、約束を守る」の3
   点を掲げている。
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    企業の社会的役割として、お客様に自社の製品で迷惑をかけないこと、また雇用を創出
   してこそ企業の役割があると考えている。したがって、最近みられるように、リストラす
   ることで株価を上げるような経営には大きな疑問を感じている。なお昨年度は「埼玉県優
   良工場」、「中小企業長官賞」など受賞している。
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    宮下社長は今年57才になる。子息はいない。まだ公言こそしていないが、65才には
   引退しようという考えを持っている。「それまでに何をなすべきか?」と考えることも多
   くなった。一つの大きな課題である。企業の行く末、お客様のこと、社員のこと、後継者
   のこととさまざまである。今はなき、本田宗一郎氏を尊敬し、また内橋克人著『退き際の
   研究』などを読んでみてはいるが、まだ明確なイメージはできていない。
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                                         以上
参考資料
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