「なぁ、青子・・・パラレルワールドって知ってるか?」
 ふと思い浮かんだ言葉を口にしてみる。


 二人で爆睡し、目覚めたら、一夜が明けていた。
 昨日も、ほぼ丸1日眠っていたから、何だか、寝過ぎって感じもする。
 けれど、疲れはすっかり取れていた。
 体だけでなく、後頭部に溜まっていた澱のような、気だるさも。
 これは、傍らで、無防備に寝息を立てている存在のせいだと、考えなくともわかった。
 そして、現在。
 ややあって、目覚めた青子が、パニクるのを宥め、さっき、ようやっと、落ち着いたところ。


 「うん?SFとかで出てくる?」
 身じろぎした青子の髪がくすぐったい。
 「ん、まぁ、そうだな。平行宇宙ってやつなんだけど。」
 「現実と同じようで、少しずつ違った世界があるっていう・・・あれでしょ?」
 「うん・・・」
 「それがどうしたの?」
 「いやさ、もしかしたら、俺と青子も、もう少し違った出会いをしてこんな風に・・・その・・・恋人同士になってる世界があるのかなぁって・・・。」
 柄にもなく、『恋人同士』なんて言葉にときめいてしまう自分に、思わず苦笑しながら、思いついたまま口にしてみる。
 「違うって、・・・たとえばどんな?」
 「そう・・・だなぁ・・・。たとえば、幼なじみなんてのはどうだ?」
 「幼なじみ・・・?」
 「うん。・・・で、そうだな、生まれたときからってのはあんまり趣味じゃねえから、もうちっとでかくなってから、偶然出会うっての。」
 「おおきくって・・・」
 「ま、小学校入った頃・・とか?」  
 ふつう初恋って、それくらいだろ?って言いかけて、それはあまりにも恥ずかしいので取りやめた。
 「ふうん・・・」
 「で、学校時代はずっと一緒・・・とかさ。」
 「中学とか、高校とかも?」
 「うん、そうすりゃ、・・・その・・・青子の親父さんとも、俺、顔なじみになれんじゃん。」
 「お父さん・・・か。」
 そしたら、中森警部に、ちゃんと、青子をくれって・・・
 一人妄想を繰り広げる俺の傍らで、青子は思案顔をしている。
 ・・・迂闊だった。警部を出すのは、やっぱ、まだ、まずいか・・・なんて思っているうち、ワンテンポ遅れた。 
 「ねぇ。」
 唐突に青子が、俺をのぞき込む。
 「そこでも快斗はやっぱりキッドなの?」
 ・・・それ、不意打ちじゃねぇ?
 「ねぇ、快斗?」
 答えを促す青子に、少しためらって、
 「そ・・・だな。」
 親父の後を引き継いだとはいえ、キッドは信念を持ってやってきた。
 それを否定する気など、さらさら持てねぇ。
 「じゃ、さ。お父さんには、がんばって長生きしてもらってぇ・・・。」
 何を言い出すのかと青子を見ると、両手を合わせてにっこり笑って・・
 「念願のキッド逮捕を果たしてもらわなきゃ!」
 ベッドの中でずるりとこけると、青子は極上の笑みを俺に向けた。
 「だから、快斗もがんばって逃げてね。」
 まばゆい光に、こぼれんばかりの笑顔。
 これが、青子なんだな・・・。
 俺は、手に入れた最高の幸せを抱きしめると、間近にその瞳をのぞき込んだ。
 「あったりめぇだろ? 俺を誰だと思ってんだよ。」
 明るく笑う青子に、そんな世界でも、俺はとっくにお前に捕まってるんだろうなんて思いながら。



The End       



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