Wondering Blue



 「ったく、なんてことしやがる・・・。」
 けほんと、また一つ咳が出る。
 思わず、頭に指を突っ込んで、わしわしかき上げると、次の瞬間、にやりと笑っちまった。
 ま、俺が、あんなもんに巻き込まれるわけなんざねぇけど。
 それをわかってやってるんだから、おもしれぇガキだ。
 しかも・・・!
 突然、思い出し笑いがこみ上げる。
 気配を消して、さりげなく、一般通行人のふりして、傍を通りかかったときに見かけた、奴の顔と来たら!
 バタンッ
 ・・・いてぇ・・・くっ・・くくく・・・
 広げたノートパソが視界から消え、代わってベッドの足が目に入った。
 はぁ〜
 ひとしきり笑い転げてから、俺と一緒にひっくり返った椅子を起こすと、パソを眠らせ、ベッドに転がった。
 
 おもしれぇ奴だよな、ホント。
 小さな体を目一杯張って、必死に種明かしをしに来るあいつ。
 いつも、しっかり種明かしできるくせに、なんで、いつも、ああ詰めが甘いんだ?
 あれじゃ、平成のシャーロックホームズだの、警視庁の救世主なんて名が、泣くじゃねぇか。
 ま、所詮、ホームズは、ルパンには、勝てないってことか。
 そんなことをつらつら考えていると、携帯にメールが入った。
 画面を見て、ほんの少し安堵の息を漏らすと、それをすぐさま消す。
 よし、寺井ちゃんも無事生還。
 ベッドに携帯を転がして、俺は暗闇を見つめる。
 警部は、どこまでかぎつけた?
 まぁ、寺井ちゃんが、しっぽを掴ませるようなことは、無いだろうけれど。
 にしても、若い女が手下だぁ?
 ・・・どこで、そんな情報仕入れてくるんだよ・・・
 なんて思いと共に、胸の奥で、痛みがくすぶった。
 手下・・・なんてもんじゃないけど。
 何も知らないのに、本人の知らぬまま、協力させてるあいつに、こういうときは、罪悪感なんてものがわき上がる。
 利用してる・・・
 いつもは潜んでいる感情が、こんな時に限って、やたらと自己主張しやがる。
 『青子・・・』
 吐息だけで、囁いてみると、暗い天井に、毎日見慣れてる顔が浮かび上がる。
 そう、見慣れてるはずなのに、飽きないのは、きっと大容量の俺のメモリにも入りきらないくらいの鮮やかな百面相のせい。
 『青・・・』
 もう一度呟きかけて、不意に、体の奥に熱がわき上がるのを感じ、そのまま、ため息にすり替えた。
 ・・・すり替えたところで、頭が体を全てコントロールできる訳じゃないことくらい、わかってるんだけどさ。
 空の青に海の青。
 お前の青は、きっと、空の青だよな。
 そうであって欲しいと、願っているのは、弱気な自分なのだろうか。
 そう、何ものにも揺るがない、包み込むような青であって欲しいと願うのは・・・。
 
 しかし。
 水たまりは青くないだぁ?
 んっとに、夢のねぇ奴!
 ・・・そう思いながら、自分に夢があるのかと問われれば、どう答えるだろうと、一瞬考え込んでしまった。
 夢なのだろうか?
 パンドラをいち早く探し出し、たたきつぶすと言うことは。
 親父の死に隠されたものを、白日の下に曝すというのは。
 夢・・・ねぇ。 
 足を振り上げ、その勢いで起きあがると、もう一度、髪をくしゃりとかき上げる。
 売られたけんかを買ってるだけかもしんねぇな、今日みたいに。
 にこやかにパネルの中で微笑む親父に問いかけてみる。
 「親父の夢って、何だった?」 
 仄かな月明かりの下で、パネルの親父が、にっと笑ったような気がする。
 『青子ちゃんのことを考えていたんじゃないのかね?』と。
 けっ。
 やっぱ、同じってか?
 名探偵も怪盗も・・・所詮・・・
 苦笑を漏らし、とりあえず、本日の業務は終了と言うことで、俺はさくさくと、シャワーを浴びるため、部屋を後にした。
 

で、コナン君は?