JaJe AU R-18

【 Private Islands 】











  
 どうしたいの、と聞かれてジェンセンは言葉に詰まる。

「僕はもう伝えたよ。決めるのは、君だ」

 ジェンセンを膝に乗せたまま、僅かに体を支えるようにウエストに手を添えているだけで、それ以上触れてこようとはせずに、静かな目でジャレッドは淡々と聞いてくる。

 決死の覚悟で男との経験が無い事を告げたのにも関わらず、決断をジェンセンに委ねて突き放し、うろたえたのは一瞬だけの冷静さが憎らしくてジェンセンはくちびるを噛んで潤んだ目のままジャレッドを睨む。

 すると、何故かふっと気まずそうに目を逸らされて深く傷付く。

 こっちを見ろよ!という思いで、ジェンセンはジャレッドの肩に手を掛け、強く引き寄せながら乱暴に口付けた。
 ジャレッドがキスをするたびにいつも好きだといってくれるくちびるで口付けたなら、いつもの優しいジャレッドに戻ってくれるのではないかと思った。

 くちびるを押し付け、開いた隙間から舌を滑り込ませて必死にジャレッドのそれと絡める。

 一瞬だけ硬直した後、舌が触れた瞬間にジェンセンを掬い上げるようにしてきつく抱き締めたジャレッドは、ハッと我に返ったように、肩を掴んでまたすぐさまジェンセンをもぎ離す。

 そうして顔を背けて濡れた唇を拭うジャレッドに、ジェンセンはたまらなくなって叫んだ。

「お前…本当は、俺のこと好きなんかじゃないんだろ?!」

「――――、は?」

 その言葉に、抑え難い欲情を必死で制御していたジャレッドは、仰天して突っ込みを入れたくなる。

 ―何言ってんのこの人は。

 だが、ジェンセンは全くもって本気のようで、地団太を踏みそうな勢いでジャレッドを睨みつけて目を潤ませ、顔を赤くしていた。

「優しくなったり冷たくなったり、俺を振り回して楽しんでるのか?」

 あそびならこれまでにしてくれ!、と言うとジェンセンは涙を堪える事が出来なくなったのか、ジャレッドの膝の上に乗ったまま腕で顔を覆ってもう殆ど泣いてしまっている。

「ちょ、ちょっと待ってよジェンセン、どうしてそうなるわけ?」

 また泣かせてしまった事と、意味の分からないセリフに慌てたジャレッドは全く事の展開が読めず、恐る恐るジェンセンを抱き締める。

 顔を覆ったままの腕の中のジェンセンの熱と感触に、あぁヤバイ、と思いながらそれでも離せず、もういいやと半ば自棄になって更に彼を深く抱き込む。 
 首筋に鼻先を埋め、無意識にジェンセンの匂いを嗅ぎながら

「冷たくした覚えなんて僕には全然無いよ?」

 と聞くと、さっき、ドア閉めた、と言われてあぁと思い至る。

「あれは…君がこんなとこにきてまでトムに電話してるから…」

 嫉妬したんだ、と言い辛そうにいうと、びっくりしたようにジェンセンは顔を上げる。
 目の端は涙で濡れているし、鼻は少し赤くなっている。

 撮影で泣くときもジェンセンは基本的に本気泣きだけれど、こんなに子供のように我を忘れてぐしゃぐしゃに泣く彼をジャレッドは初めて見た。

 シーズンUのディーンが父親の墓に向かって問い掛ける泣きのシーンで、カットの声がかかっても止められず、嗚咽しながら震えていた時には皆から隠す為に抱き締めたジャレッドにさえ両手で顔を覆ってしまい、ジェンセンはその表情を決して見せてはくれなかったから。

 少し惚けたように頬と目元を赤くして、涙でぐしゃぐしゃに濡れた顔を困惑した表情のまま晒すジェンセンは、ちょっとヤバいくらいに可愛かった。
 くちびるも、キスの余韻でジャレッドの唾液で濡れている。

 いつもの秀逸な綺麗さとはまた違う少し崩れたその魅力にジャレッドはクラリとやられそうになる。

 こんなに魅惑的な、エロティックとさえいえる表情で人を見つめておきながら、それでいて全く本人に自覚が無いのは大問題だ、と思った。

 そのジェンセンが、ジャレッドを見つめたまま瞬きをすると、またつうっと新しい涙が目の端から伝う。
 唇を近付けて驚かさないようにそっとそれを吸い取ってやる。
 頬を伝うように口付け、そのままかたちのいい頭を抱き込むようにしてちいさく耳元で囁く。

「…いつも、君の回りの人間にジェラシー燃やしてばっかだよ、僕は」

 そう言うと、背中にまわったジェンセンの手がぎゅっとジャレッドの服を掴むのがわかった。

 嫉妬している事なんか、本当は言いたくなかった。

 俳優である以上、人に好かれる事、人気のあることが必然だ。
 そんなに魅力のある彼を独り占めしているんだと、今まで女優の彼女がいたときと同じように自分に言い聞かせてはみても、彼に対しては今までのように我慢が出来なかった。

 自分以外のオトコと親しくして飼い猫のように心を開いて懐く彼が本気で憎らしかった。


 ―あぁこんな情けないオトコだったんだ僕って。

と、ジャレッドは軽く自己嫌悪に陥る。

 嫉妬なんか吹き飛ばすくらい明るく愛情表現をして全部忘れてしまいたいのに。
 ジェンセンに対してだけはどうしてもそれができない。
 仕事の事はきっぱりと割り切る。どれだけの女優達と恋のシーンを演じても構わない。
 だから、プライベートでだけは、彼を自分だけのものにしていたくてたまらなかった。

「…て、くれ…」

 正面から抱き合った上体のまま、ジェンセンが何かを呟いた。
 え、と聞き返すと、彼はもう一度呟いた。

「…言ってくれ、お前の…そういう気持ちも、全部」

 ぜんぶ知りたい。

 そうして不安を、全部なくしてほしい。

 そう言ってジェンセンは泣いた頬を摺り寄せるようにして、ジャレッドにくちづける。
 熱心にそうされて、必死に抑えていた情熱に火をつけられる。

 ―そうか、言えばよかったのか、とジャレッドはすこんと納得する。

 この嫉妬も、不安も、激しい恋心も、燃えるような欲情もすべて。

 キスの合間に、ジェンセンの頬を両手で包み込むようにして
濡れて透き通る深碧の瞳を見つめる。

「…ジェンが、嫌がっても逃げようとしても、
ベッドに縛り付けてでもやりたいくらい、僕は君に飢えてる。
さっきドアの隙間から背中に触れられた時、ジェンのゆびの感触だけで勃ちそうだった。
だから、今も触るのが怖かった。
でも、そんなこと言ったら余計ジェンは引いて逃げちゃうと思った、だから―――」

 彼が全部いってほしいというのなら、言おうと思った。

 自分の醜い部分も汚い部分も、激しい部分も、狂おしいまでの愛情も全て、ジェンセンに受け止めてもらえたなら。

 びっくりした顔をしているジェンセンにもう一度深くくちづけ、舌を絡ませてから名残惜しく離し、荒い息のままで額をくっつけあってジャレッドはくすりと笑った。

「…だいたい、めちゃくちゃ好きじゃなかったらこんなクソ高い島を3日も借り切ったり、早く二人きりになる為にジェットをチャーターしたりしない…
僕は、そこまで馬鹿じゃない。
―馬鹿になるのは、ジェンのためだけだよ」


 僕がジェンをどれだけ好きか、教えてあげる。


 そう言ってジャレッドはジェンセンを包み込むようにしてぎゅっと抱き締めた。

 …でも絶対に俺のほうが好きだと思う、ともごもごと口の中で呟きながら、ジェンセンは、その心地いい熱に、初めて知ったジャレッドの本音に。ようやく、息が吐ける思いがして、熱いジャレッドの体を強く抱き締め返した。


















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