JaJe AU R-18

【 Private Islands 】
10











  
 ―結局

 初めてのセックスは、豪奢なキングサイズベッドでもゲストルームのベッドですらなくて。

 二人は、広いリビングのソファの上で抱き合うことになった。
 ゆったりとしているとはいえ、そこは体格のいい二人が収まるには狭かったので、最終的には床に転がって抱き締め合った。
 ベッドまで辿り着く余裕は、まるで無かった。

 全裸のジェンセンに、はじめての時以上に、異常なくらいに興奮して、後から思い返してみれば、正直、ジャレッドは有り得ないくらいめちゃくちゃだった。

 仕事でラブシーンを演じる時のような、シナリオがあり、BGMが流れる中でのハーレクイン小説のようなドラマティックな夜には程遠かった。
 そんなムードに構ってなどいられない程に。ジャレッドはジェンセンに夢中だった。



 噛み付くように口付けながら、服が擦れて赤くなるくらい無理矢理急いでTシャツを首から引っこ抜き、ジーンズを蹴り下ろす。

 上半身を脱いでいるところや、足を晒している姿は何度も見たことがある。
 けれど、抱き合う為に脱がせた躰は、何処かそれとは違っていた。

 初めてすべてを目にするジェンセンの躰は、まるでミケランジェロの創った若く瑞々しい瞬間を閉じ込めたダビデの像のようにそこに魂が宿っているのが不思議なくらいに美しかった。

 僅かに汗を滲ませた、ミルクを溶かしたような肌の色。

 何も付けない頬には、そばかすがうっすらと散っていて、少し視線をずらせば、見つめているのが怖くなるほど深い湖のような碧の瞳に切なく見つめ返される。
 目が合うだけで、ジャレッドの体に電流が流れるように胸が疼いた。

 五百年以上もの間、幾多の戦火を潜り抜け、人々の視線を惹き付け続けてきた像に魅了されるのと同じようにジャレッドもジェンセンの、丹念に創り上げられた彫刻のような躰に深く囚われていく。
 これが最初で最後というわけではないのに、激しく焦がれたその躰を目の裏に焼き付けるようにして堪能した。

 彼とラブシーンを演じた女優が溜息を吐くのも納得できる。 
 女優は演技力よりも前に、美人であるのが当たり前の商売だというのに―彼は、そんな彼女達より、更に秀でた器を持っているのだから。

 抜きん出た俳優としての才能と、綺麗過ぎて役を落とされたこともあるという曰くつきの美貌をもちながら、彼は家の外には出たことのない怯えた仔猫のように何故かこの世界を怖がっていた。

 そんな彼の強がりな殻ごと、弱さごと。包み込んで守りたいと希うほど、ジャレッドは彼を好きになってしまっていた。
 もう、ここからは誰にも渡せない。

 何も着けないジェンセンが、とろりと濡れた瞳のまま、息を荒くして
既に半勃ちした性器を晒して、足を開いた無防備な状態で自分の下にいるのを見ただけで。
 ジャレッドは頭と心臓と、それから股間にだけ全ての血液が集中するのを感じる。

 はあ…、と息を深く吐いて、とりあえず先に謝っておこうと思い口を開く。

「ジェン、ゴメン、僕、もう全然ダメかも」

「え…なに…」

 溶けた表情のままきょとんとして、何がだ?と聞こうとしたジェンセンに全てを言わせることなく覆い被さって口付ける。
 優しく、やさしくしたかったのに、ジャレッドには正直まったくそんな余裕はなさそうだった。

 始める前に、多少考えていた流れとか、気遣いとか、準備であるとかそういうものは、ジェンセンのヌードを見た瞬間に全てがぶっ飛んでしまった。

 訳がわからなくなって、ずっとしたかった事を体が勝手に実行していく。
それを、どこか冷静に、スローモーションのように見つめている自分がいた。

 しっとりとした練り絹のような極上の肌を、筋肉のついた美しく鍛え上げられた締まった躰を、身体中を掌で撫で辿り、くちびるで辿って何処も彼処も舐め回す。彼の汗の味にすら酷く興奮した。
 身体中で、ジェンセンを感じたかった。

 それだけで息を荒くして殺した喘ぎを洩らし、淡い色をした乳首に軽く唇を触れさせただけで、ジェンセンはぴくりと身を捩らせる。
 舐めまわして強く吸い上げると、鼻から抜ける甘い声に我慢が出来なくなって歯を立てる。
 その度に必死に声を噛み殺し、腕を伸ばしてジャレッドにしがみ付き、喉を晒して仰け反る彼が死にそうに愛しかった。
 
 跡を付けてはいけない、という事は理性では分かっていたが、欲望には逆らえず。結局ジャレッドの我慢が限界を超えた証にいくつかのキスマークがジェンセンに残された。

 そうしているうちに勃ち上がっている前も可愛がってあげたかったけれど、それよりもずっと焦がれていたジェンセンのなかに早く入りたくて、ジャレッドは、横向きにさせたジェンセンに自身の片足を持たせる。
 そうして尻たぶから尾てい骨、それからきゅっと窄まった小さな蕾を披きたくて興奮にまかせて延々と舐めていると、甘く苦しそうな声が洩れる。

 少しづつ柔らかくなっていくそこに、舌を差し込んで出し入れしながら舐めると、ジャレッド、もうそれはいい、もういい、やめてくれと、啜り泣くように言われる。

 それでも、初めてのジェンセンの汗と匂いに興奮して、意地悪でもなんでもなく、ジャレッドはその制止を全く聞いてやる事ができなかった。

「…ジャレッド、ジェ、イ、も、…嫌だ…イく、!」

 ん、ンッ、とくぐもった鳴き声が聞こえて、あ、と思った時にはジェンセンは自分の手の中に零していた。

 くったりと脱力して、真っ赤になり、胸を喘がせている彼はとても可愛かったけれど、達する瞬間を見られなかった残念さに、濡れた手をぬぐってやりながらそっと力を失っている前に口付ける。
 ぴくんと奮えたジェンセンの反応に、ジャレッドは、今度はそれに夢中になった。

 え…、と呆然としているジェンセンが先端にちろりと舌を這わせると、きゅっと目を瞑って震えたのが恐ろしく可愛かった。

 同性のものを口にする事に、全く抵抗がないことが不思議だった。
 口に含んで激しく吸引すると、自分の顔を隠すようにして両手で目の辺りを覆い、ひくひくしながら喘ぐ彼の声が余計にジャレッドの興奮を呷った。

「あ、そこ…、ダメだ、嫌だ、ジェイッ、」

 前を甘噛みしながらとろとろにほぐした後ろにそっとゆびを這わせると、逃げるように腰がいざる。
 腰骨を強く掴んで、逃がさないようにし、ジャレッドは濡れた蕾にゆびをゆっくりと押し入れた。
 ジェンセンの内部の焼けるような熱に、欲望のままにゆびを増やして注挿する。ちゅくっとしゃぶるような音を立てる
その感触に陶酔するまもなく。じわりと新しく口の中に苦いものが溢れる。

 顔が見たくて、口から出し、促すように扱いてやりながらジャレッドは射精するジェンセンを凝視していた。

 その視線に気付くことなく、横を向いてクッションに顔を押し付けながら、ジェンセンは喉の奥でくぐもったうめきを洩らし、びく、びくん、と体を強張らせて数回、自分の腹に吐き出した。
 一度達したばかりの割に、ジェンセンが二度目に到達するのは早かった。

 目をぎゅっと瞑り、くちびるを噛んで顔を赤らめ、躰を震わせて達する彼はとても美しく、ジャレッドは半ば呆然とそれに魅入ってしまう。

 含ませたゆびがその瞬間痛いくらいに締め付けられ、そしてふっと柔らかく蠢く。
 その熱い感触と、射精するジェンセンの快感に無防備な表情とに自分のものが限界を覚えているのを実感して、
 ジャレッドはジェンセンに追い被さり、柔らかな耳朶を食みながらそっと囁いた。


















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