熊野の青空  <その3: 怒りのバス乗り場>


相変わらず、最高気温は36度のままだ。

ラフティングでハイになり、
中上健次のお墓捜しでヨレヨレになった後
猛暑の中、熊野古道を1ルート歩き、ますますにヨレヨレになった我々は
モーローとする頭で、快晴の熊野を後にした。

この後は、お伊勢参りである。
伊勢も、もう4度目。
もう大分、町の様子もわかってきたから
今回はレンタサイクルでも借りて、のんびり町を探検しようか・・・・・
などと事前に話し合っていたことは、猛暑の伊勢に着いた瞬間、無かった約束になった。
冷房の効いたバスで移動。
もうそれしか考えられないくらい、強烈な残暑は続いていたのだった。


さて、伊勢到着の翌日
まだまだ続く青空の下
伊勢内宮&外宮の参拝をすませた我々は
K美さんご推薦の<金剛證寺>という
伊勢内宮から、バスで20分強くらいの山の上にあるお寺へ向かう予定だった・・・・・のだけれども
これは、
内宮から件の寺へ行くバスが、午前と午後、それぞれ一便しかなく
しかも午後の便に乗ると、「こちらへ帰ってくるバスは、もうありません」
などと、無情にも言われてしまったので
午後の便で出かける予定だった私達は、金剛證寺行きを、今回は断念したのだった。
残念だけれど、
これはまた、次に伊勢を訪れた時の楽しみに取っておこう・・・ということにして。
                     (情報を下さったK美さん、せっかく教えて下さったのにすみませんでした。)



と、
そうこうするうちに旅も終わり、高松へ帰る日。
伊勢から近鉄特急で大阪・なんばへ。
なんばから、高速バスで明石海峡大橋を渡り高松へ帰る・・・という段取り。
いや、暑かったけれども
天気が良くってなによりでしたな。
もう、なんばまで来たら、後はバスに乗ってグースカ寝てたら高松でっせ。
と、やれやれといった表情で高速バス乗り場へ向かった我々だった。
が、
そこで最後に、アッパーカットを喰らうとは。


田舎者にして出不精の我々夫婦。
かつて、バスの窓から見た大阪のゴミ焼却場を、USJと間違えて大喜びしたことからもわかるように
ホンマに世の中を知らない。
そんな我々が、ノコノコ、キョロキョロとやって来た、なんばの高速バス乗り場とは??

知っている人は、もうよく知っているでしょうけれど
知らない方のために説明しますと
そのバス乗り場があるのは、旧南海サウスタワーホテル、現スイスホテルの5階。
高速道路通ってガーッと乗り付けたら、5階の高さがちょうど良いってことなんだろうけれど
このホテルの5階
いわゆる高級ブランドのブティック街なのだ。

バス乗り場に向かうために、ホテルの1階へ入っていった時から
ホテルの内装の高級感と、自分達の姿のギャップに、困ったものを感じていた我々だったのだけれど
いざ、
エレベーターで5階にたどり着いて見れば
そこには、ほとんど買い物客もいない高級ブランドのお店がズラリ。
そう、なにせ高級だから
どの店も、ほとんど居るのは店員ばかりだ。

フェラガモとかゼニアとか
絶対に私は買いそうにないブランドの店と
最新のデザインの服に、隙もなく身を包んだ店員達。
そして、そこを通り抜けなくては、バス乗り場にはたどり着けないというのに
私が着ているのは
Tシャツ:ユニクロ
チノパン:ユニクロ
靴は登山靴
背中にはリュック
もちろん化粧無し。


そりゃあ別に、誰も私の格好なんて見ちゃあいないだろうけれど
でも、高速バスの乗り場って
普通、周りには
軽食を取れるコーヒースタンドとか
雑誌を売ってるコンビニとか
大阪名物岩おこしを売ってる土産物屋とか
うどん屋とかタコヤキ屋とか
そういうものがあるんじゃないの??
そういう店の間を、
大きな荷物を提げた旅行者とか田舎もんが、ゾロゾロと歩いて行くもんじゃないの??
なのに何故??
フェラガモ??ゼニア?????
(↑いや、もっと他にもブランドはあったけれど、知らないしロゴが読めなかったので略。)


・・・かつて、ホリー・ゴライトリーは
「テファニーみたいな家で暮らすのが夢♪」と言った。
多分、
アメリカの、すっごい田舎町で育ったホリーには、
五番街は、ものすっごく美しい場所に見えただろうし
テファニーは、王侯貴族が出入りするような、夢のようなお店に思えたはず。
・・・・・・・・・・このバス乗り場も、つまりそういうことかしら?
バスでやって来た田舎もんを
いきなり高級ブティックの群でびっくりさせてやろうと・・・??
そりゃ、バスを降りた場所が、いきなりシャネルやらゼニアやらのブティックだったら
地方出身者は圧倒されるかも。
現に私は絶句したんだし、
通り抜ける時には、その高級さにヒシヒシと重圧を感じたんだし。

でも
そう、
ここで安い服着てるからと、気おくれする私が間違ってるんだとは、わかってる。
どうでもいいじゃん、服なんて!!!!!

と言い切りたいところだけれど、
社会で生活する以上
なんとな〜〜く、高い服を身につけてる方が堂々としていられる・・・
ってなことも刷り込まれてるわけで・・・・・。

ああ、
いったい全体
なんで岩おこしが並んでいないのだ、このバス乗り場の周辺はっ!!
ゼニアじゃなくって岩おこしだったら
こんな、
旅の終わりになって、
いきなり、<自分の人間の小ささ>について、悩みだしたりしないですんだってのに!!!

と、
暑い暑い残暑の一週間は
私の頭を、かくも熱くさせて終わった。


最後のバス乗り場はともかく
今回の旅は、夫の厄年が無事終わったことへの御礼参りの旅でもあったのだけれど
いや
暑かった。
でも、青空を堪能できた日々でした。


                      熊野の青空 : おしまい



             ← <その2>へ
  
             トップページへ戻る