里山オーナーの話 (9)


2005年7月31日 <山の測量 : 前編> 

人間というものは、本当に、自分がその立場にならないと、人のことが理解できないもの・・・・・。


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我が里山のオーナーは、全部で20人。
<里山オーナー>として会員登録をしている者が20名で、我が家の場合は、夫がその会員だ。
そして、
その20名プラス家族や友人達が、里山に出入りしているわけだけれども
それら全体の諸経費は、会員の年会費でまかなわれている。
諸経費とは
トイレのトイレットペーパー代とか
夏場、トイレから蚊を追い出すためのキンチョール代!!とか
この会の会報の紙代とか、郵送費とか・・・色々。
が、
その経費が心もとない
もっと会員を増やして、会費を集めようではないか??
ということに、この度なった。
というのも、今、
里山では、有志が、杉の間伐材でログハウスを作っており
それらに何かと経費がかかる・・・というのもあって。

ただ
新しく会員を募るためには、新しく貸し出す区画が必要になってくる。
それで、
マスターTさんの広大な持ち山の一部分を、さらにまた、貸していただくことになったのだ。
快く貸していただき、本当に本当にありがとうございます。マスターTさん。

とはいえ
貸し出すためには、その山の<区画割り>をしなきゃいけない。
具体的には、どういうことをするのか?といえば
ド〜〜ン!!
と提供していただいた山の斜面を、幅20メートルくらいの縦割りにして
区画の目印に、ビニールテープを貼っていく
という作業をするのだ。
これを、先日、オーナー仲間の有志でやった。
・・・・・・・・・・やったのだが・・・・・・・・・・。



<山の斜面を、幅20メートルずつの区画に分けていく>

って、文字で書くとメチャクチャ簡単だし、
作業を想像された方も、結構簡単そうに思われたかもしれない。

この山の斜面
障害物の無い草原みたいな所じゃないのだ。
20数年、人の手が入っていないジャングル状態。
おまけに

そうねぇ、我々が手入れを始める前の、自分達の区画って、まさにこういう姿だったわ〜

などと、
経験者の私が、感慨にふけっている余裕も無いくらい、足元は急斜面。
立っているのが、やっとなほどの。

で、その斜面で、
どういうふうにして<区画割り>を行うかというと
まず、作業メンバーを、3つの班に分ける。
第1班を斜面のてっぺん、つまり山の尾根に置き
第2班を山の中腹
そして、第3班を山のすそ野に置く。
尾根を行く1班と、すそ野を行く3班は、それぞれ人の通れる道があるので、
そこを20メートルずつ測りながら、区画を割っていく。
で、割ったところで
尾根のポイントから、すそ野のポイントまで、一気に目印のテープを貼りながら、斜面を降りて行け・・・
ればいいんだけれど
先に書いたとおり、そこはジャングル状態。すそ野目指して、一直線には降りられない!
そもそも、
各班は、お互いの姿が全く見えないのだ。なにせジャングルだから。
だもんで

「おーい!」

「ここじゃーー!!」

などと、声を出し合って、お互いの居場所を確認するのだけれども
尾根からすそ野までは、結構距離があるので、声が通りにくい。
そこで
中腹を行く第2班が、必要になってくるわけだ。
第2班が、
尾根の第1班の声を頼りに、ここら辺が第1班の真下あたりかな〜という場所へ行き
中腹部分のポイントを決め
(中腹はジャングル状態なので、第2班自身で、20メートルを、キッチリと測ることは無理なのである)

ここが中腹のポイントだーー!
ということを、すそ野の第3班にも、声を出して伝える。
そこで初めて、
山の斜面を通る<区画割り>の線が出来上がる・・・というわけ。
もちろん、
こんな<声を出してポイントを決める>なんて方法、我々が知ってるはずは無く
農林家にして、地元の森林組合メンバー、マスターTさんが教えて下さった
昔からのやり方なのだそうだ。

「意外に、この声ゆうんは頼りになるもんなんやでー」

とマスターTさん。
実際やってみたら、本当に、声で、ここらへんが第1班の真下かな?というポイントがつかめたので
いやビックリしました。
先人の知恵は、すごい!

ともあれ、その昔ながらのやり方で、
マスターTさん指導の元、我々有志は、山を測量していくことになったのだけれども・・・・・。



・・・さて
大体、ここまで読んで、

「第2班の作業は、かなり難儀だ」

と、多くの方が、気づかれたのではなかろうか??
なにせ、道無き場所、
ジャングルのまっただ中を行くわけだし
そのジャングルの中で、第1班・第3班の動きを、じっと待ってなきゃならないんだし。
・・・そして
大体皆さん、もうお察しになられたかもしれないけれども
そう、我々夫婦が割り振られたのは
その第2班さ!!!



かくして、測量は始まった。

尾根を行く第1班に3人。
中腹には我々夫婦&マスターTさん。
すそ野には2人。
そして、尾根からすそ野へのテープ貼りに、2人。(←実は、第2班以上に、この仕事が難儀)

いざGOGOGO!
時は7月18日。
梅雨明け直後の、メチャクチャ蒸し暑いジャングルへ!


2005年8月16日 <山の測量 : 後編> 

さて、私達が立ち向かった山の斜面というのは、こんな所である。



この田んぼの上の所がそうなのだけれども、
ここに、縦50メートル・横幅20メートルくらいの区画を10区画作ろうというわけなのだった。

かくして、我々はジャングルへ。
各自、長袖シャツ・長ズボン・体中には「これでもか!」というくらいの防虫スプレー。
が、しかし、
スプレーもなんのその。
我々の後には、ヨン様に群がる日本女性のごとく、大量のヤブ蚊が付き従うのだ。
足元は、厚く落ち葉の積もった急斜面。行く手をさえぎるのは、木の枝。そして蜘蛛の巣。
それでも
それらにめげず、突き進む<中腹班>の我々の前方に現れた、最初の障害物はこれだった。



この、↑中央で横になっているのは、クヌギの倒木。
おそらく、去年の台風でぶっ倒れたものと思われるのだけれど、これがまた、でかかった!!
写真ではわかりにくいと思うのだけれど、
大きさで言えば、昨年私達夫婦の区画で倒れた大クヌギと良い勝負・・・というでかさ。
つまりこれが
長々と、斜面に横たわっているわけなのだ。
・・・これを迂回するには、山の尾根か、すそ野まで行かねばならないんじゃあ・・・
と思った瞬間
私と夫から、迂回する気は失せた。。
この急な斜面を、何10メートルも上り下りして迂回する気力は、我々には無い。
というわけで、
私は、四つん這いになって倒木と地面の間をかいくぐり
夫は幹によじ登って、これを越えた。
しかし、一体、我々は何をやっているのだ?罰ゲームか??
(マスターTさんは、この時、すそ野班に合流していたため、倒木は越えず)

ともあれ、無事に倒木は越えた。落ち葉まみれ・土まみれにはなったけども。

ホッとする間も無く、次に出現したのは↓



もう、こんなとこ、イノシシだって通れやしない!密集する女竹(メダケ)の群落よ!
で、
これがまた、迂回しようが無いほど、広範囲に群生しているのだった。
これは、もう突き進むしか無い。
だって、20メートルのポイントは、絶対に、このメダケの藪の中にあるんだもの。
・・・でも、どうやって進んだらええのよ??
と、ボーゼンとしている私の耳に聞こえたのは、すそ野から戻って来たマスターTさんの声。

「僕について来まい」

の、ひと言のもと、ナタをふるって、マスターTさん、メダケの藪に突入。
私は

「ひえええええ」

と叫びつつ、ついて行くのみ。
ナタを振り回しながら藪を突き進むマスターTさん、
もう、完全にインディー・ジョーンズだ。
カッコイイぞ!

・・・でも、
インディー・ジョーンズって、映画で観ているから楽しいんであって、
自分がその渦中に放り込まれるのは・・・。

ともあれ、ヤブ蚊舞うメダケの群生の中で

「おーい、おーい」

と呼ばわってみたらば、果たして、この藪の中にポイントはあった。
なので

「ここじゃー!」

と、テープ貼り班を呼ぶ。
こうなると、もう、テープ貼り班も、大変である。
ただでさえ
四つん這いにならないと登れないような急斜面を、何度も上り下りしてテープを貼る
という重労働を、やってるというのに
加えて
ナタでメダケの藪を切り開きながら、ポイントにたどり着かなきゃならない。
なので、あまりのことに、早々と測量を終えた<すそ野班>からも、応援がやって来る。
メダケ。
今、図鑑で調べたら、
この細い竹の稈(かん:茎のこと)は、笛や釣り竿、煙管(きせる)、籠(かご)などの材料に使われる・・・
などと書いてあった。
古来から、人の役に立ってきた植物のはずなのに・・・・・、今の私達にとっては、ただただ
キィィ〜〜〜〜〜!!!!!

さて、中腹でこのようなことが起こっていた時、尾根班は、どうだったかといえば
尾根は尾根で、通路があるにはあったものの
なにせ、
長年誰も通らない道ゆえ、膝上まで草がボーボーに生え、木の枝やイバラに行く手をはばまれ
それをかき分け、切り払いながら
ゼーゼー言いながら進んでいたそうだ。
先に<中腹は難儀>と書いたけれども、
結果的には、全員、落ち葉まみれの土まみれ、蜘蛛の巣まみれ&汗まみれとなって
ヨロヨロになりつつ
作業をやっていたというわけ。


それでも、なんとか10区画目までたどり着いて、測量は終わった。
最後の区画を測り終わり、山を降りて、マスターTさんの田んぼのあぜ道に転がり出た時には
もう心の底から

「助かった」

と思ったものだった。
なにせ、ここには、風が吹いているし、蚊も出ない。
そして、
この時、驚いたのは、時計を見れば、作業開始から、なんとすでに2時間もが経過していたこと。
30分くらいしか経ってないと思ってたのに・・・。
他の人に聞いても

「こんなに時間が経ってるとは思わなかった」

という答えだったから、いやもう、皆、ハイテンションだったということでしょう。それくらいに。



ともあれ、こうして大騒ぎで測量&区画割りは終わったのだけれども
作業後、皆でマスターTさんの家へ帰る道すがら、
ついつい口をついて出たのは

「・・・ホンマにこんなとこ借りて整備してくれる人、おるんかいな?」

「さぁー・・・・・・・」

もちろん、ここにいるメンバーは、皆、
こういうジャングル状態の山を整備するために山を借りているわけだから
世の中には、こういう人間もたくさんいるのは、よ〜くわかっているのだけれども・・・

でも、

<里山オーナー制度>は、香川県が主催して、新聞やらフリーペーパーやらに
どんどん記事にしてもらって、
県の広報誌にも、募集記事を載せて・・・
と、大がかりに宣伝してやっている制度。
それで、たくさんのオーナー希望者が集まり、抽選までしてオーナーを決めているのだ。
が、
一方
我が<里山オーナー会>の新規会員募集は、あくまでも口コミが頼り。
広く募集すると、面接やら抽選やらで、大変なことになるからなのだけれども
それにしても
10人も、集まるんだろうか・・・?

そして、募集のため、友人知人にこのことを話して聞かせるとして、皆が思ったのは

「本当のことを言ってもええんだろうか???」

つまり、ズバリ
<ジャングルを開拓しませんか?>
と言っても良いのか??ということ。

いや、そこはやはり、森林浴とかバードウォッチングとか、山歩きとかの
キーワードで誘った方が良いのでは・・・

と私は思い、思った瞬間、

ああ、県の<みどり整備課>の人の気持ちがわかった!!

と、目からウロコが落ちたのだった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


ここで、前編の冒頭

<自分がその立場にならないと、人のことが理解できないもの>

に戻るのだけれども

私は常々、香川県みどり整備課が作った<里山オーナー募集>のチラシや、広報の記事には
強い不快感を覚えていた者なのだ。
これは、<里山オーナーの話>の最初の頃にも書いたことなのだけれども
なにせ、その募集の言葉っていうのが

<気持ちの良い森の中>とか
<森林浴>とか
<バードウォッチング>とか
<キノコの栽培>とか

とにかく、笑顔と遊びと楽しさに満ち満ちていて、
募集のチラシに載せてある写真も、やっぱ、そういう感じで
山仕事の真実

<汗><土><重労働>
<ジャングル><ヤブ蚊><いったい私は何でこんなことをやっているのか??>


などというものが、どこにも感じられなかったから。

「奇麗ごと言いやがってーー!」

と、夫と、しょっちゅう言い合っていた私なのだった。

それが。



・・・そうかぁ、県の<みどり整備課>の人も、随分と悩んだんやろなぁ〜・・・・・

と、つくづく思った。納得したこの日だった・・・。





ともあれ、
この8月から新規会員の募集は始まる。
先日、オーナー会会長が作った募集のチラシには、<ジャングル開拓>
とまではいかないものの
結構、ズバリ本当のことが書かれてあって、
これを見て、それでもやって来てくれるのなら、その人のこと、信じられそうだなぁ
と思えるものがあった。
そう、
会員にはなったものの、

「やっぱ無理です。」「しんどい」

で、放棄されたら、皆困るだけだものね。



というわけで、このHPをご覧の皆様のお知り合いで、<山の整備>をやってみようか
ってな方、いらっしゃいませんでしょうか??
苦しいけれども、すっごく面白いことは請け合いです。
飛んだり跳ねたり
といった、ハードな動きをするわけじゃないけれども
地道に3時間、4時間と体を動かし続けるので
ダイエットには最適。
確実に痩せまっせ。
体力もつくし、
頭をカラッポにして作業していると、ストレスの解消にもなるし。

私には良いことずくめに思えるんだけど・・・
どうかなぁ・・・・・・・?????



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