『夢と子猫と黒猫と』・中の弐

                                                               あるまじろ



    ☆ ☆ ☆ ☆



 「ま、今日のところは――――――十六夜?!」
 「ええ!」

 中庭にいた薫達は、すぐさまそのピンと来た方角へと走り出す。

 「この感じ……これが……」
 「薫。 あの娘は寮にいますよ?」

 薫には、十六夜さんの言いたい事が手に取るようにわかった。

 「あぁ…それ以上言わんでもええね。 一度謝ったケド、もう一回、ちゃんとせんとね。 疑ったおわび」
 「はい♪」

 十六夜さんは、そういう素直に謝れる薫がとても好きだった。

 「それより、今はこの先の奴じゃ。 スピード、あげる」
 「はい!」
 「(耕介さん……寮の方、頼みます)」

 一方、さざなみ寮内では……
 耕介がいくら天付の才を持っているからといって、神咲一灯流の修行をし始めて、一年かそこらいで薫達の様な鋭敏な感覚を持てるわけでもない。
 だが、ほんの少しでも、心得がある人間が寮にいるのといないのでは、薫の心の持ちようが違ってくるのだ。

 …………
 ……


 「……おかしい……確かにこっちに……」
 「薫…変だと思いませんか? 私達が追っても追っても、一向に霊気が強くなりません」
 「ああ、それはうちも感じちょる。 じゃけん、敵が逃げ……しまった! こっちは囮か?!」

 薫は、すでに結構な距離の林の中を走っていた。 今まで『ソイツ』と遭遇した時の事を考え、体力を消耗しないよう押さえて走ってきたが、そんな悠長な事は言ってられなくなったようだった。

 「なんて間抜けなんじゃ、うちは!」
 「薫! 今はそんな事言ってる時では」
 「そうやね……耕介さん………」

  ・
  ・
  ・

 「(ぴくん)…………」
 「……レンちゃん?」

 レンの耳が不自然に動く。 何かを聞きつけたのか、耕介の側から離れて中庭の方に出ていく。
 耕介は、条件反射というか何というか…自然にレンの後へと付いていこうとするが……

 「……?(なんだこの気配)」

 レンが睨み付けるその先の茂みから、えらく禍禍しいというか攻撃的というか…敵対意識剥き出しの気をびんびんに感じとることが出来た。

 (がさり)

 のそり、とその気を纏っているモノは姿を表す。

 「…………」
 「…え? 美緒! 美緒じゃないか?!」

 そう。 確かにソレは、美緒の姿はしていた。 服のあちこちは擦り切れ、手の甲や頬の一部に擦過傷を負ってはいたが。

 「美緒!」

 耕介は美緒の姿を認めた途端、先程までの警戒意識なぞふっ飛ばして、その美緒に近づこうとする。

 「! ぐがう!」
 「!!」

 美緒に近づこうとした耕介であったが、その瞬間、何かに腕を引っ張られて、後ろの方へいささか不恰好に転がってしまう。

 「てて…何するんだ、レンちゃん!」

 耕介から文句を言われたレンだが、依然その視線は美緒の姿をしたもの、に定められていた。

 「レンちゃん! ……痛ッ……あれ、なんだこれ……」

 いたずらにしては悪ふざけが過ぎる事と、周りの状況を考えるように、とレンを叱ろうとした耕介であったが、左頬と鼻に、なにかに引っ掻かれた様な傷が出来ていた。 しかも新しい。 まるで、つい今しがたつけられた様な……

 「美緒……?」
 「ぐるるるる・・・」

 美緒の姿をしたものは、腰を落とし膝を曲げ、これから襲撃を行う野生のネコ科の動物を思わせた。、

 「(ふるふる)!」
 「レンちゃん……」

 また、いつ襲われてもおかしくない耕介の前に、レンが立ち塞がり、美緒の行動を否定する。

 「ぐるるるる・・・ぐがう!」

 (ふるふる)

 「美緒…」
 「ぐるるるる・・・お、お前さえ、こ、来なかったら…お、おと…さんと、もと…い、いっしょ……ぐ、ぐぐわーーーー!」

 美緒の脚の筋肉が限界まで引き締められた時、耕介に、その筋肉に秘められた力を一気に開放しにかかる。

 「あぶない!」

 とっさに目の前のレンを抱え込んだ耕介は、美緒の姿をしたものの攻撃を、横っ飛びでかわす…が、かわしきれずにズボンの裾をすっぱりと持っていかれた。

 「………!」
 「ととっ… レンちゃん大丈夫?」
 
 (こくん)

 耕介に抱きしめられながら、レンはしっかりと頷く。

 「コラ美緒! 危ないじゃないか! レンちゃんまでケガさせるとこだったんだぞ!」
 「・・・ぐるるるる・・・・」
 「美…緒…?」

 美緒の姿のしたものは、そんな耕介の言葉には耳を貸さず、盛んに示威と威嚇を繰り返す。
 と、耕介の腕の中にいたレンが、

 「……きぜつ…させて……」
 「――え?」
 「……………」
 「れ、レン…きみ、しゃべれるのか?」

 (こくん)

 「それならそうと……い、いや、今それどこじゃないよな。 気絶させる? 美緒をか?」

 (こくん)

 「そ、そりゃーその方がいいかもしれないが……」

 耕介が、レンとの会話に気をとられ、美緒の姿をしたものから注意が一瞬それたのを、相手は見逃さなかった。

 「シャーーー!」
 「うわ?!」
 
 (パン)

 美緒の姿をしたものからの攻撃を、耕介は避けられなかった…少なくとも、自力では避けられなかった筈である。
 だが、現実には、今の攻撃で耕介は傷を負わなかったようだ。

 「ぐるるるる・・・」
 「……レン?」
 「…………」

 そう。 今のは、レンが美緒の姿をしたものの攻撃を、見事に弾いてみせたのだ。

 「ぐるるるる・・・」

 美緒の姿をしたものは、唸る相手を耕介からレンに変更する。
 唸られた方のレンといえば、いつも柔らかに纏っていた「ほわん」とした雰囲気は消え失せ、金色に光る眼は半眼に据えられていた。

 シュ…と耕介は音を聞いたような気がした。
 何度かその音を聞いたと思った。

 「なんの音だ…?」

 疑問に思う暇もなく、先手はすでに相手側から切られていた。
 横振りの爪攻撃。 大ぶりで雑な攻撃の仕方だった。
 だが、それも美緒とゆうベースがあればちがってくる。
 美緒の抜群の運動能力と反射神経があれば、只の大振り攻撃もその攻撃スピードは疾風の如きに為り得るのだ。

 「…!」
 「ぐっ!」

 耕介の目の前で、レンが美緒の姿をしたものの両腕をとらえ、その動きを封じる。

 「……いま」
 「お。おう!」
 「ぐぎゃーーー!」

 両腕を封じられた美緒の姿をしたものは、なんとかその自由を取り戻そうとするのだが、捕まえているレンが、加えられてくる力をうまく分散させて、相手の反撃を出させない。
 押してきたら引き、引いてきたら押す。 足での攻撃が繰り出されようとしたら、バランスを崩す、といった具合である。

 少しばかり両者の攻防に圧倒されつつも、耕介はレンの指示通りに動く。
 免許皆伝や目録の腕前ではないといっても、動きの封じられた相手を気絶させる事は、そう難しい事ではなかった。

 「後でいっぱい謝るからな…」

 呟きつつ、耕介は美緒の姿をしたものの後頭部に手刀を叩き込む。

 「が!」

 相手の瞳から急速に生気が失われていく。

 「……まだまだだな、オレ」

 …………
 ……

 気絶した美緒の姿をしたものは、レンに支えられてぐったりとしていた。

 (がさり)



    ☆ ☆ ☆ ☆




 (がさり)

 「誰だ!」 「耕介さーん!」 「耕介さまー!」
 「…あ……」

  ・
  ・
  ・

 「これで大丈夫なはずです」

 部屋には、薫が張った結界の御札が四隅に貼られており、すでに耕介に起こされた寮の全員が集まっていた。

 「で? 説明はしてくれるんだろうな?」

 完全なマジモードに入っている真雪がレンに問いただす。

 「…………」

 若干考え込む振りを見せると、レンはリスティに視線を投げかける。

 「ん…」と、リスティはレンに頷き返し、一同を見まわしながら、最後に薫に目を合わせて説明を始める。

 「本当は、能力を使った方が早いとおもうケド、ま、順に話すとするか」
 「勿体ぶるなよぼうず」
 「む。 そんな事いうと、教えてやる気が失せるなー」
 「なんだとテメッ…」
 「つーん」
 「こ、この…」
 「ま、まぁまぁ…」

 いつものケンカ騒ぎになりそうなところだったが、知佳の効果的なタイミングの仲裁でその場は収まる。
 まぁ、その所為、とゆうか、そのおかげで、ギスギスと尖っていたこの場の雰囲気が、若干和らぐ。

 「ふん!」
 「お、おねぇちゃん」

 真雪は拗ねてみせるが、事情が聞きたいとゆうのは本当であろう。

 「……ところで、気になっていたんだが…なんでリスティが事情を説明できるんだ?」
 「そうそう。 うちもソレ不思議に思ってたんやわ〜」
 「ですよねー」
 「あ、それは多分……」

 耕介やゆうひ、みなみの疑問に答えるべく、愛が説明をしようとするが、

 「チッチッチ。 そんなの簡単な事じゃないか。 コレ」 とリスティはピアスをはじいてみせる。
 「そうか、テレパス!」

 それは知佳の声だった。

 「おひおひ…知佳…自分だって能力使えるだろうに……」
 「あ、あははは……」

 笑って誤魔化そうとする知佳を、リスティはジト目で睨む。 後ろで「今言おうとしたのに〜」とか愛さんの声が聞こえて来るが、とりあえず無視する。

 「はぁ…やっぱり、みんなに『観て』もらう事にするから。ちょっと目、閉じて」

 全員がリスティの言葉に従い、目を閉じた数瞬後、目の奥がチリチリとした感じがしてくる。 そして、目を閉じているにも関わらず、明確な映像が、リスティの声と共に飛び込んできた。

 『……だから、元々こいつがドコに居たのかは解らないんだ。 レン達が欧州の方の人…人間だから、多分そっちにいたんじゃないかな? でもってココからが大事なんだけど、ソイツは被害者となる人間に獲り憑いて、その人間の負の感情を増幅し利用する性質があるって事なんだ』

 リスティの説明と同時に、今までソイツに獲り憑かれた人間達が引き起こした惨事が、全員の脳裏に映し出される。
 ある者は、金銭に執着した為に、連続銀行強盗犯になり最後は射殺された者や、広域に渡って強殺を繰り返した者。
 またある者は、愛欲の虜になり、その相手を殺して食べてしまったり、剥製にしたりした。
 また、妹に異常な情愛を注ぐ者は、彼女に近づく男を皆殺しにし、結局、森の奥で人知れず死に果てた。 勿論、妹を道連れにして…

 「おいおい……」 まず真雪が喋り出す。
 「なんか…やばくねーか、コレ……」

 それが全員の一致した意見であろう。 獲り憑いた相手が美緒でなければ、速攻、強行手段に訴えるところだ。
 だが、身体は美緒である。

 「…………」

 レンは無表情である。 もっとも、部屋の中央で簀巻きにされ転がされている美緒の側から、片時も離れ様とはしなかったが。

 「……なんか…日本で言うところの『夢魔』ではありませんかそれ」 薫が知識の一旦を披露する。
 「確かに似てるけど…力がダンチだね」

 リスティが薫に返事をする。 夢魔については、おおよその知識は全員持っているらしく、そのことについては誰も聞こうとはしない。
 結構、メジャーではある。

 「でも、それなら一安心ですね。 だって、妖怪みたいなやつなら、薫さんが退治出来るから……」

 そうだそうだ…良かった良かった…これで解決…美緒ちゃんも無事…等と、皆が騒いでいると……

 「それは……無理じゃ」

 いかにも辛そうに、だがキッパリと薫は宣言する。

 「え…でも、薫ちゃんは、その、そっち関係の専門家やろ?」
 「ええ」
 「ほんなら……」

 別に責めているわけではないだろうが、やはり多少キツイ口調になってしまうのは避けれない。

 「ゆうひ」

 耕介の窘めによって、ゆうひは自分の非礼に気付いたようだ。

 「あ、べ、別に責めとるんとちゃうで。 ただ、ちょう残念やな〜と…あ、あはは…ゴメン薫ちゃん」
 「いえ、うちの力不足も否めませんし…もしかしたら出来るのかもしれませんし…」
 「え?」

 その言葉に耕介が反応する。 では、先程の否定の言はなんだったのか…と思いたくもなるだろう。

 「ただ獲り憑いているだけなら、うちがなんとかします。 いえ、他の神咲を呼んでもいいでしょう。 ですが…」
 「どうゆうことだよ」

 真雪が、その場の人々の疑問を口にする。

 「さっき、一応調べてみました……多分、アレはそれ程力のある存在ではないようです」
 「……?」
 「アレは、獲り憑いた対象の精神に入り込んで、負の感情を激発させるのです」
 「それはさっきボクが言った」

 リスティが茶々を入れる。

 「ちょっと待て、精神に入り込む?」

 耕介が質問し直す。

 「ええ」と薫。

 耕介その他の住人達が、更なる説明を求める。

 「つまり…普通、『獲り憑く』という状態は、被害者の精神、意志を無視して、外から包み込む、封じ込めるわけです。 その場合、被害者の肉体は憑きモノに自由にされますが、心…つまり精神は、奥へ押し込められているだけなのです。 したがって、憑きモノさえ落としてしまえば、ほとんどが元通りになります」

 ここで薫は一旦話しを途切れさせ、その内容をみなに理解してもらう時間を与える。

 「それで…」知佳が先を促す。 どうやら、ある程度は飲み込めたようだ。

 「だけどコイツは……人の負の感情を利用して、人の心そのもの…つまり精神に入り込んで、乗っ取ってしまうんです」
 「乗っ取るっておまえ……ヤクザな不動産屋じゃあるまいし…」

 その先の事実を認めたくないのか、今度は真雪が茶々を入れる。

 「それで…どうなるの、薫さん…」

 今度も知佳が先を促す。 それがどう言う事かを理解していながら……

 「だから……つまり……これは、もう肉体は陣内であっても心は陣内じゃない……」
 「……美緒ちゃん……いなく…なった…の?」
 「も、もう美緒ちゃんに会えないの?!」

 みなみもようやく、事の次第が飲み込めたようだった。

 「ウソつけ!!」

 薫の隣に座っていた真雪が、薫の胸倉を掴み叫ぶ。

 「じゃ、じゃー、コイツはなんだってんだよ! え?! 見ろよ、このツラ!」

 未だ気絶している美緒の顔を、薫に見せつける様に真雪は動かす。

 「どっからどう見ても、バカねこそのものじゃねーか! ……こら……バカねこ…おめーもこんなことアイツに言われて悔しくねーのか?! さっさと起きて、いつもみたいに…いつも、みたにさ…いっしょにさー……コイツの…悪口…言い合おうぜ…なー…美緒〜〜……」

 真雪は最後の方はほとんど涙声となって、美緒の身体に取りすがる。

 「おねぇちゃん……」
 「真雪さん……」

 周りから、すすり泣きの声が聞こえてくる。

 「陣内を取り戻す方法――――ー無いわけじゃ、なか……」




    ☆ ☆ ☆ ☆



 「なんだって!!」「それ、どうゆうことですか?!」「ホント?!」……

 異口同音ではないにしろ、その場のレン以外の全員が薫に聞き直す。

 「方法はある」薫は言い切る。

 「……なーんだ…それを早く言えよ…ったく、だからお前はバ神咲なんだぞ」

 露骨に安心した口調で話す真雪だ。 が、その発言の内容に比して、薫の表情は優れない。

 「お、怒ったのか? そんなバ神咲なんて言われたぐらいで怒ん…な、よ………どした……」

 真雪にたたかれた軽口に、反応をしようともしない薫に、一旦は真雪と同じように安心した…いや、希望を見出した住人達が、また不安な心が鎌首をもたげてくる。

 「あのー、薫さん?」知佳が率先して尋ねてみる。

 「……成る程ね…確かに方法はある、ね。 正確な言葉だよ」
 「リスティ!」

 薫が怒鳴る。 先程、薫にだけ、また目にちりちりとした感覚があったのだ。

 「ふん…まどろっこしいからだよ…それにしても…確かに方法はあるよね」
 「…リスティ?」

 確かに、無断で薫の思考を読んでしまったのはイケナイ事だろう。 だが、薫の思考を読んだのなら、美緒を元に戻す方法があったのなら、何故リスティはあんなに不機嫌なのだろう……知佳は疑問に思う。 そして、不吉な予感も……

 「話してやったら? 薫先生」

 明かに嫌味を利かしたリスティの物言いに、薫はガンを飛ばす。

 「……まぁ、いい。 それより…確かに方法はある。 じゃけん、その方法を行う手段が無い……」
 「え? それってどうゆう…」

 悪い話であることは間違いなさそうだ。 しかし、知識もない人間に、そんな事を言われて理解しろ、と言う方が無理なのだ。
 耕介たちは、次々に薫に質問する。 要するにどのようにしたら美緒を元に戻せるか? と言う事に尽きる。

 「方法は…その、仮にアレを『夢魔』と呼んでいいのかどうか御幣がありますが、便宜上夢魔とします。 その夢魔を陣内の心から引き剥がせばいいのです。 ただ…引き剥がすといっても…想像してみて下さい。 フルーツジュースを作った後、それぞれをもう一度元の材料に分ける事は、不可能に近い事です。 一度混ざった、融合したものを元に戻す事はできません」

 「仮に出来たとしても、陣内の心が前のまま、とゆう保証はどこにもない」

 薫の話を聞いていた面々は、その希望の無さに一気に暗くなる。

 「で、でも方法があるって…」
 「……ええ。 そうですね。 じゃあその方法をお話しておきますね」

 そういうと、薫は視線を泳がす。

 「つまり結果的に、陣内と夢魔の精神を分離させれば良いのです」

 ソレっきり薫は口を閉じる。

 「…………それだけ?」

 ゆうひの言う事ももっともだ。
 確かに薫の言う通り、美緒と夢魔の精神を分離出来れば、その後夢魔を退治してハッピーエンドだろう。
 だが、それを行う手段が無い。

 「なんじゃそりゃー!」

 最初に怒ったのは、やはりとゆうか真雪である。

 「お、おねぇちゃん、落ち着いて…」
 「あのな…そんな事はさっきの説明で解りきったことじゃねーか! だからどうしたらいいのか? って事を聞きたいんだよ、あたしは!」
 「……だからいった筈です。 手段が無いと……」
 「……打つ手無しかーー」

 流石に、真雪や耕介、ゆうひ達も気落ちを隠せない。

 「それを行うには、人の…陣内の精神、心に直接入り込まないといけないのですから。 確かに、うちよりもっと修行を積んだ、高徳なお方なら出来るかも知れませんし、知佳ちゃん達にも、そうゆう能力をもっている人もいるかも知れません…… でも、うちには無理です…」

 もっと修行を積んでいれば……薫の表情からはその思いが滲んでいた。「薫…」母親代わりでもある十六夜さんが、そんな薫を慰める。

 「知佳、ぼうず? そんなヤツの知り合いいねーのか?」

 真雪が一縷の望みを掛けて聞いてみる。

 「ご、ごめん…そんな人……」

 リスティも同様である。

 「振りだし、かー……」

 耕介が脱力したように呟く。
 みなの思いも同じであろう。

 「他に、方法じゃないのか…手段? はねーのか?」

 期待薄なのは解っていたが、聞かずにはいられない真雪である。
 もっとも、はなから答えは期待していなかったが。
 が、律儀な薫は、一応、という事で返答をする。 これも、言ったからどうにかなる、という事を期待しての事ではなかったが。

 「後の手段は…そうですね。 人間の精神の発露、再構築する作用があるモノといった意味合いがある……」

 「……『夢』……」

 今の今まで黙って聞いていたレンであったが、その一言を呟く。
 ようやく言えた、とばかりに……

 「……そ、そう…夢の中です…」

 なんで、とばかりに薫はレンを凝視する。 一人リスティが何かをしている。

 「そう…キミにはそんなチカラが……はっはっは! いいぞ、これでイケルかもしれない!!」

 リスティは一人喜び始める。
 もちろん知佳には、リスティがなにをしたのかすぐにわかった。

 「リスティ! お願い、みんなにも見せて! ……あ、ごめんなさいレンちゃん……いいかな?」
 「……(こくん)」

 レンは、リスティに自分の思考を読み取られた事も気にせず、知佳の頼みに頷く。

 (ちりちりちり)

 レンが頷くやいなや、リスティはすぐに全員に自分が観たレンの能力と、薫が言う手段が存在する事を伝える。

 「おい!これって?!」
 「えー、ほんまですかー」
 「うわ!ちょうええやん!」
 「レンちゃんすごいです〜」
 「美緒を助けれる!」

 言い方はそれぞれであったが、本当の光明が、希望がみえたのは皆いっしょだ。 そして、彼ら彼女らはレンに感謝する。 レンがここにいた偶然を。

 「………(にこ)」



    ☆ ☆ ☆ ☆


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