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 気が付けば盗賊の一家にお世話になっていた。物心ついたときには、って言っても間違いじゃないくらい僕が小さなころのこと。
「めずらしいな、ヒビキ。おまえが自分のことを話すなど」
「そうかなァ」
 オボロが言うならそうなのかもしれない。なにしろ内緒にしていろと約束させられたことがたくさんあって、昔の話しをすればどれかは喋ってしまいそうだから。
 僕は子守歌にかつていた大盗賊の話を聞かされ、積み木の代わりに鍵開けをして、かけっこをするころには壁を登って遊んでいた。一家は僕を入れて七人だったけど、生き残ったのは僕一人だ。
「騎兵隊でも来たのか」
「さァ よく覚えてない」
 逃げ出してきたのだろう、と言われたら多分そんな感じだったのだろうと思う。僕を保護した男は大きな町の神父だった。血と泥で汚れた僕をお風呂に入れてくれて、好きなだけいなさいと言ったから、飽きるまで一緒にいた。一年か、二年か、結構長い間だったと思う。神父の話は魔王復活や勇者の話で、それなりにおもしろかったから。
「その神父はおまえに勇者になれと言ったのか」
「言わなかったよ。選ばれなければ本物の勇者や魔王にはなれないんだって言ってた」
 天使や魔界の王が選ぶのだから。神父はそういって、これは異端な考えだから絶対口にしてはいけないと言った。僕はもっと聞きたくなって、けれど口にしてはいけなかったから教会をでることにした。神父の顔を見れば聞きたくなるから。
 町を出て、行く先を決めていなかったことに気が付いて、まあいいやと街道を進んでいるうちに商隊に拾われて、そこで金になる人間と金になる物の見つけ方を教えてもらった。かなり参考になったし、僕の好きな物はあまり金にならないものだっていうのもわかった。
「金になる人間の見分け方とは」
「えェとね。歯が丈夫で爪がそろってると高く売れる」
 だったかな。まあ結局その商隊も山賊に襲われてちりぢりになって、僕は山賊の野営地から金になる物と食べ物を失敬して、森に入った。街道は飽きたから。
 探検し尽くそうと思った森は広くて、気が付いたときには、食料がなくなっていた。生き物の少ない森で食べ物を見つけながら、というのは無理そうだった。静かな森だった。
「それから?」
「うん、それから魔法使いが現れてね、私の頼みを聞いてくれたら森から出してあげましょうって言うんだ。おもしろそうだからいいよって言ったよ」
「それで?」
「うん、それで」
 思い出してみれば、僕は、昔話をしたことがない。話す理由も無かったし、誰も、僕の過去など必要としなかったから。
「うん。それだけ」
「そうか」
 オボロはいつもみたいに頷いて、それからもう少しだけ言葉をつなげた。
「いろいろあったな」
「そうだね」
――055.一人旅 




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