「ゆり」にまつわる話 |
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母「さくら」は、「ゆり」を生んで後、3度出産している。
すなわち、「ゆり」は「さくら」の赤ちゃんを3度経験しているわけである。 |
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1度目・・・つまり、すぐ下の弟妹が産まれた時の「ゆり」は、「君子危うきに近づかず」と、全く近寄ろうとしなかった。
あからさまに、避けていた。
程なくして、子犬達の目が開き、彼らの方から近寄って来だして、自ずと距離が縮まったが。 |
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その次の赤ちゃんが産まれた時は、劇的だった。
「ゆり」2歳を迎えた頃。 |
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「さくら」が、授乳の合間に、ちょっと赤ちゃんから離れた寸暇を盗んで、「ゆり」は、キューキューと鳴きながら、うごめく赤ちゃんを、ソーッと覗いた。
恐る恐る足音をしのばせ、および腰で、・・産室に頭だけを突っ込んでいた。
その後、何度か、そのナイショの行動は、密かに繰り返された。 |
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そして、決断の「それ」が起きたのは、赤ちゃんが、生後10日くらいの時である。
その日も、「ゆり」は、「さくら」の留守に、覗いていたが、スーッと吸い込まれるように入ってしまった。
「あっ、入った!」と思っていると、間もなく、「さくら」が戻ってきたので、「ゆり」は、「すみません」とばかり、首を落として出て行った。
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翌朝、私に、ヒーヒーと訴える「さくら」が居た。
なんと、「ゆり」が、産室に入って、4匹の赤ちゃんを抱いているではないか!
「さくら」が入ろうとすると、唸って、入らせない。
まさか!と思って調べてみると、「ゆり」の下2つの乳首から、おっぱいがしみ出ている。
子犬を産んでもいないのに・・・。
子犬全部を「さくら」に戻すのが当然ではあるが、「ゆり」の母性がしのびなく、4匹のうち2匹ほどを、時々拝借する事にした。
「ゆり」は、ご満悦でおっぱいをあげるのだが、いかんせん、にわか乳母、小さな乳首が真っ赤になって痛々しかった。 |
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それから、2年近く過ぎ、「ゆり」に自分の赤ちゃんが誕生した。
それは図らずも、「さくら」の最後の出産と同じ頃になった。
既に、予行演習した「ゆり」である。
授乳は、手馴れたものであった。
そして、この時も、「さくら」の赤ちゃん達のうち、おっぱい争奪戦に負けて、押し出された子にも、自分のおっぱいをあげると言う「肝っ玉母さん」ぶりを発揮した。 |