ネオン。嬌声。悲鳴。どんなに寒くても頑張るむき出しの太もも。
呪文。咆哮。爆発音。
酔ってしゃがみこんだ同僚が、ちょっと目を離すと消える街。
坊主頭やら金髪やらパンチパーマ(!)やらが暗がりの中、頭を寄せ合い輪になっている。趣味の悪いスーツや派手な柄シャツ(袖から覗く彫り物付き)と言う前時代的かつ典型的な身元照会の手間を省く非常に分かり易い外見の集団だ。もちろん彼らは内緒話をしているわけではないし、下を向いているからと言って蟻の観察をしているわけでもない。背の高い男たちに囲まれて外側からは見えないが輪の中心には小柄な少年がいた。
男たちに見下ろされた少年は口の中でぶつぶつと依頼内容を確認した。「ええっと、ランクは特A、タイプC、至急。ってことは――」丈の長いパーカーに隠れていた尻ポケットから銃を引き抜く。
「おいおい撃てんのか?慣れないことはよせよ坊主」
「情報さえ渡してくれれば、無事に帰してやるよ」
服装も台詞もいかにもな、と言うよりはわざとらしく嘘くさい男たちに笑顔で答える。
「信用商売ですから」
銃口を自分の額に当てると即座に引き金を引いた。
三分後。少年の勤め先で、従業員の一人が自分より遥かに年下の雇用主に一言告げた。
「ミチがリタイア」
「あ?まじ……弱ったな。今空いてる奴いるっけ」
出社したばかりの彼女はランドセルの中身を取り出しながら尋ねる。
「ユキか俺か、後は社長ね」
「ユキ呼んで」
この辺りで『伝言屋』と言う言葉はその職種と彼女の店と彼女自身、の三通りの意味を持つ。ややこしいことこの上ないと思うのだが一般人の私には何の関係もない。
私が伝言屋(という職業に従事する少女)を初めて見たのは午前三時のマックだった。
彼女は大きく広がる赤いフレアスカートに毛足の長いピンクのセーターを着ていた。おまけに黒いリボンで二つに結った明るい茶色の髪にもゆるくウェーブがかかっていたから全身ふわふわ状態だ。ふわふわ少女は店内をぐるりと見渡すとポテトを摘みながら文庫本を呼む男子中学生に目を留めた。にっこり微笑んで足音を響かせながら男に近づく。
「石井さんでいらっしゃいますか」高いヒールのブーツ。
「は、い」少年が怪訝そうに答えると彼女はこう言った。
「伝言屋です」そして何のためらいもなくスカートを捲って見せた。小さな下着の上の形の良い臍の横で真っ赤な猫が笑っていた。
「ええっと、ランクはA になりますので」
伝言屋のふわふわ少女はそれなりに経験をつんでいて、度胸もあった。
ただ、非常に残念なことに、あの時あの店には石井と言う名の15歳の少年が二人いたのだ。
そこで何が起こったのか詳しく語る気はない。
とにかくそれまでの私の人生の中で一、二を争う大イベントが繰り広げられ最終的には伝言屋本人が颯爽と現れて責任を取り(現金をつかみ出すという非常に分かり易い手段で)私は彼女に朝食を奢ってもらった。どう見ても小学生以上の歳には見えない少女に。
仕事の話があるとメールをもらい、何度か彼女と食事をした店に行く。最もごくごく普通の大学生で、おまけに頭と顔と行動力は普通以下の私には彼女の仕事なんて手伝いようがない。大抵の場合、彼女の仕事の合間の暇つぶしだ。
ガラガラ、というなんとも耳障りな音のベルを鳴らしてドアを開け、薄暗い階段を降りた。
伝言屋は約束の時間を過ぎても現れなかった。プライベートでは兎も角仕事に対する彼女の几帳面さを知っている私は不安になった。
黒い壁にオレンジ色の照明がぼんやりと灯る店内では、誰もが西公園の魔法使いの話をしていた。黒尽くめの魔法使いは昨日死んだらしい。
斜め前の席に座る高校生らしい二人組みも熱心にその話をしている。二人が紅茶とシフォンケーキのセットを頼んでいるのを見たら私も食べたくなった。既にバナナチョコレートパフェを頼んでいたのだがまあいい。どうせここは伝言屋のおごりだ。私はアールグレイシフォンとカルボナーラとミックスサンドを追加注文することにした。
「栗に喰われた」グレーのブレザーに臙脂のネクタイを絞めた方が言った。
「くり?」銀縁の眼鏡を掛け、相手とは別の紺色の制服を着ている方が高い声を出す。
「召喚魔法に失敗したんだ。何を呼び出すつもりだったか知らないけど、でかい栗を呼んでそいつに喰われたんだと」
「すげえ」
「ちなみに昨日の服装はタキシードだったらしい」
「嘘だね」
「なんで?」
「だって白いシャツなんか着る訳ないでしょあの人が」
「なるほど」
「一回対抗したんだ。中学のセーラー、黒だったんだよね、紺じゃなく」
「そりゃ珍しい。……対抗?」
「だから、制服のひだスカートと、黒いセーターと黒いローファーで公園行ったんだけど、あっちは黒いシャツと黒いベストと黒いパンツと黒いブーツと黒いキャスケットと黒い――」
二人組みの会話に耳を傾けながら、タキシードには白いシャツと決まっているのだろうかとそんなことをぼんやりと考えていた。
頼んだ物が全部運ばれても伝言屋はまだやって来ない。
まさか食べ終わるまで来ないんじゃないよな。
「ゴメン遅れて」
現れた伝言屋の服装を見て私は思わず笑い出した。濃い赤と紫の縦縞のスーツ。黒いシャツにオレンジのネクタイ。だらしなく緩められた襟元。
「うわあ、何のコスだよそれ」
しかしどんなにふざけた格好をしていても可愛いのだから美少女と言うのは得なものだ。
「コス?」コーヒーを頼み終えた伝言屋は怪訝そうにこちらを向いた。
「コスプレ」
コスと言えばここのウェイトレスの制服がまさにそうだろう。まあ、多かれ少なかれウエイトレスの制服なんてそんなものだけど。ここはすごい。丸襟で袖の膨らんだ黒いワンピース。スカート丈は踝までのロングでその上にフリルたっぷりの白いエプロンを重ねている。もちろん頭の上にはひらひらレースのカチューシャ付き。
「ああ。違うよ、あんたみたいなおたくと一緒にしないでくれ」
私は断じておたくではない。おたく、と言えるほどの深い知識を持ち合わせていない。狭く浅くがモットーだ!……と言うわけでもないが。
「それからあんたのつまらない『おたくの定義』ならもう三回聞いたよ」
くそむかつく。お前のそのいつもやたら目立ちまくる服装と喋りの方がよっぽどあれだあれ。やばいって。大体小学生がコーヒーなんて頼むんじゃねえ。おまけにブラックで飲むんだよこいつは。むかつく。
「ヤクザ?つーかアホ?しかし良くサイズがあったね」
こんな子供服を売っている店はどこにあるのだろう。伝言屋の身長は百五十もない。実は本当の年齢なんて知らないが。
こつこつと足音を立ててウエイトレスがコーヒーを運んでくる。ここの制服はワンピースが真っ黒なところが良いと思う。丸い襟も袖口のレースも何もかも全部黒一色だ。
「既製品とは限らないだろう貧乏人」
これほど派手なスーツをわざわざ作らせたとしたらそっちのほうが余計におかしい。
「それで用って?」
私はウエイトレスがコーヒーを置いて立ち去るのを待って尋ねた。
「一晩付き合ってくれ」
真っ黒で苦い液体を一口啜って彼女は言った。
「……はい?」
「泣きたいんだ」
「一人で勝手に泣けよバカ」
「それはもう昨夜やった。気持ち良かった。だから今度は可哀想な自分に酔いつつ、さらに他人の同情を感じながら泣きたいんだ」彼女はまじめな面持ちで続けた。
「あんた今日仕事だって言わなかった?」
「ああ、言ったな。だからさっきのが伝言だ。私からの」
「断る」
「OKハニィ。言い方を変えよう。スイートを取ってある。今夜は二人で涙の海に溺れよう?」
ああ、くさいと言うか寒いと言うか。こんな笑える台詞でもこんだけ綺麗な顔で言われるとなんか可愛いとか思える。
……むかつく。
「残念ながらあたしはロリでもレズでもない。大体どうしたよ美人の恋人は?」
途端に伝言屋は黙った。なんだ。振られたのか。
注文した料理をあらかた食べ終えた私は最後に残ったシフォンケーキにフォークを突き刺す。
伝言屋は何杯目かのコーヒーを飲み干すと長い睫毛のでかい目で私を睨みつける。
「何?」
「いいことを教えてやる」
「何?」
「もうすぐ世界は終わるよ」
「もうすぐ?」
伝言屋は黙って頷きまた黙り込む。
「あんた最近学校は?」
なんとなくそう口にして、なんだか離婚で離れた子供と久しぶりに会った親みたいだと思った。
「月、水の授業は出てる。あと木曜の五、六時間目も」
小学校って週三で良いとこだったろうか。私の記憶ではそんなものじゃないんだが。
「不登校児に学校のことは安易に聞くべきじゃないぞ。傷付くかもしれないだろう」
「うるさいよ馬鹿。最近の出来事を聞くのは会話の普通の流れだろうが。一般的に学校に通ってるだろう年齢の子にあって学校のこと聞いちゃうのも当たり前でしょう」
「私は普通に通ってないんだ。昔のあんたと違って」
私のことなんか知りもしないくせに偉そうなやつだ。
「へいへい。じゃあ、仕事はどうよ?社長さん?」
「購入希望図書のアンケートに『にんじん』を書いた馬鹿がいたな」
「図書室なんてあんの?あの狭い事務所に?」
「学校の話が聞きたいんだろ」
「……『にんじん』ね。そりゃまあ図書室にあるだろうね。あれってなんか、名作とかそんな感じでしょ」
「嫌いなんだ」
「会話つながってねえよ。まあ、あたしも嫌いだわ。あれって絶対子供向けじゃないよねえ。何で自分も子供で毎日暗い生活送ってんのに虐げられる子供の話読んで余計に暗くなんなきゃいけないのかって」
「気が合うな、やっぱり。今晩どう?」
「遠慮しときます。後は?」
「『芥川』っていい話だな」
「芥川?龍之介?」
「いや、伊勢物語の。ほら知らない?『露と答へて消えなましものを』ってやつ」
「鬼に喰われる話ね。うんいいね。うん?あれ小学校でやるっけ?」
「図書室で読んだ。少年少女古典文学全集は全制覇したから何でも聞いてくれ。増鏡でも水鏡でも栄華物語でもとりかへばやでも落窪でも」
全制覇?
「あんた、学校行ってんじゃん?」
「……ああ学校には毎日行っている。授業に出ていないだけだ」
保健室登校ってやつかよ、似合わねえ。あ、図書室登校か?
伝言屋に金を払わせ、重くなった腹を抱えて外に出る。
彼女は無言で歩き駅へと向かう。
「何、今日電車?」
「………」
「お迎えの車来ないの?」
「………」
「なんか言えよ」
俯いて歩く彼女の顔に、こげ茶色の細い髪がかかって、ああなんて言うか。本当に。
本当に、
綺麗だ美人だ美少女だ。
もしも伝言屋が私と同い年だったら一緒になんかいられなかったと思う。
だって綺麗過ぎる。
綺麗で強くて頭が良くて。
誰が自分より優れまくってる人間と付き合うか。
私が彼女と一緒にいて平気なのは、彼女が私よりずっと年下だからだ。多分。
「ねえ…」
声を掛けると伝言屋はようやく顔を上げ、足を止める。
「正確には一週間後だ」
もうすぐ、終わる。世界が。もうすぐ。
「……で?それがあたしに何か?」
「世紀の大イベントを一緒に過ごさないかと誘いに来たんだ」
私は彼女の整った顔が歪み、ぎゅっと閉じられた瞼から涙が次々と溢れてゆくのを呆然と眺めた。
体が固まって、動く事が出来なかった。
彼女がしゃくり上げ始めてから、やっとぎこちなく腕を上げる。
「ああ、そう言えばあたし昔妹がいたよ」
自分でも意味不明な会話だと思いながら伝言屋の背に腕を回す。そっと抱いて見ればやはり彼女は小さくて幼くて温かくて柔らかくて、子供だった。
明日世界が滅びるとしたら、それまで貴方は誰と過ごしますか?
うーん良い質問だ。両親なんて問題外、友人は二人ほど浮かぶがどちらも最後を過ごしたい相手は私ではないだろう。
この美少女は私と一緒にいたくて泣いている。母やら姉やらがいたらしい彼女にとって、年上の女なら誰でも良かったのかもしれないがなかなか良い気分だ。
「分かったから、一晩と言わず一週間でも一緒にいてあげるから、ほら鼻かんで」
ポケットティッシュを差し出せば彼女は潤んだ目でこちらを見上げる。
本当に、でかい目。
「……ほん、と、に?一週間ずっと?」
「おお」
こんなしけた街のホテルに一泊三十五万なんて部屋があるのが不思議だ。私なんか三万五千円の部屋だって今後自分で泊まる機会があるとは思えないのに。そんなことを考えながら二人でタクシーを待つ。
「でで」
突然伝言屋から妙な声が聞こえた。
「でで?」
『ででででででで電話だよ電話』
彼女は慌てず騒がずスーツから携帯を取り出し、折りたたみ式のそれをぱかっと開く。
何だよ電話かよ。
「何よその着メロ。ってか着声って言うの?」
「可愛いだろ」
「そうかあ?しかも電話ってんのにメールだしさあ」
「メールの方の声はあんまり可愛くないんだ。しかし困ったな」
「ん?」
彼女は容姿に似合わぬ乱暴な仕草で細い首をがりがりと掻きながら唇を尖らせる。
「とっとと街を出なきゃいけなくなった」
彼女の携帯にぶら下がるストラップに見覚えがあった。じっと目を凝らして考えればそれはずいぶん前に私が旅行の土産にやった安物だった。
なんか、好かれてんのかな、と、思って。ちょっといい気分。
「別にどこでもいいけど。どうする?どっか行く?」
伝言屋は俯いて少しの間考えてそれから顔を上げてきっぱりと言う。
「温泉」
「温泉、いいねえ。温泉」
伝言屋がいったん着替えに戻り、私もとりあえず荷物を取りに帰り駅で待ち合わせた。
「待たせたな」
デニム地のスカートに黒いパーカーと言う普段と比べれば恐ろしく地味でまともな格好で現れた彼女はひらひらと二人分の切符を振って見せさっさと歩き出す。
「あー新幹線かあ。高校の修学旅行以来だわ」
「……私は初めてだ」
妙に暗い。おかしい。
「まじ?良かったじゃん。じゃあ弁当買ったりトランプしたりしよう!」
気を使ってわざと明るく振舞って見せてんのに伝言屋は馬鹿にしたように言う。
「たった二時間だぞ?」
新幹線は空席だらけで、私たちと同じ車両には老夫婦が二組いるだけだった。
伝言屋は妙に暗い顔のまま一昨日見たと言う死体について語った。決して大きくはないが良く通る声が響いて四人のジジババの顔が引きつっているのが分かった。
「もう少し健全なお話をしませんかお嬢さん?」
途中で口を挟むと、彼女は顔を顰める。
「健全?」
「そう、健全。あと、できれば明るい話題を」
フン、と鼻を鳴らして伝言屋は言った。
「じゃあ、愛のない性交渉について」
「……素敵」
全室離れ、露天風呂付き。
一泊いくらだかわかんないけど高そうな宿につき二人で温泉に浸かる頃には伝言屋の機嫌も浮上し笑顔が浮かぶようになっていた。綺麗な顔で綺麗に笑う美少女はいつもどおり駅から宿までのタクシー代も払ってくれた。
のぼせそうになるまで露天風呂に浸かり、刺身と肉をがつがつ食い、(がっついてたのはもちろん私だけできれいな彼女はもちろん食事中も可愛らしい)調子に乗って強くもない日本酒まで飲んでみる。一口飲んでまずいと吐き出した彼女を子供だなと笑って馬鹿にしてやってから楽しく眠りについた。
はずだった。
少なくとも私は、ほとんど眠りそうになっていたのだ。
重い。
温かくて、重い。
まさか、金縛りなんだろうか。
そっと目を開ければ、
「伝言屋?」
彼女は私の上に馬乗りにまたがっていた。
「何やってんの?」
「やばいんだよ、あんた」
「何言ってんの?」
『危険な温泉!浴衣美少女逆レイプ!!』、とかそーゆーのが始まるんだろうか。売れそうにないな。タイトルが悪い。あんまり見たことないからなあ。『熱くなっちゃう。浴衣美少女初開花』乱れ咲きの方がいいかな。あ、温泉が入ってない。『桃色温泉――
「顔も声もすげえやばい」
もしかして貞操の危機なのか。
「ちょっと、重いんだけど」
「目も鼻も口も、ねえ、なんでそんななの?」
「なんでそんなに似てんの?」
そこまで言うと急に声が小さくなった。ぼそぼそと呟くように。そう言えばさっきから口調もなんか普通だ。
ああ。なんだ。お母さんね。
しかしどうやったら私に似た母親からこの顔が生まれるんだ?父親はよっぽどの美形か?それとも隔世遺伝ってやつか?
「そんなの分かるわけないでしょう。ほら重いよ」
伝言屋はすっぱい物でも食べたような顔のままのろのろと立ち上がった。
ツメが、甘かったらしい。明日は手を繋いで歩こう。風呂で頭と身体を洗ってやって一緒に百数えよう。メシの時は無理やり野菜を食わせて、口の周りが汚れたらごしごし拭いてやろう。彼女の体重なら、何とかおんぶも出来る。メリーゴウランドに乗せて、手を振ろう。とりあえず今すべきことは分かってる。私は起き上がると伝言屋の布団をずるずる引っ張って私のとくっつけた。
「ほら、子供はもう寝る」
真ん中に寄せた彼女の枕を叩く。
「伝言屋、明日は言葉の使い方教えてやるよ」
「思い残すこととかない?本当に私と一緒で……」
なあ、伝言屋。お前が悪い。人がせっかく親子やってやろうとしてんのに、お前がそうゆうことを言うから駆け落ちか心中カップルになっちゃうんだよ。
「髑髏パンツ」
「あ?どくろ?」
「はいてたんだよ。あの子が、ほら私が最初に会った髪にパーマ掛けてふわふわした子。なんか赤い地に黒い髑髏がどーんと笑ってるヤツ。あれ、なんか可愛いと思ってたんだよねえ」
「それ、はすぐには手に入らないだろうな。メーカーの特定も……パーマ、はユキか。辞めてからずいぶん経つし」
「じゃあ、作るか。うん作ろう。それ、と名前は?」
「え?」
「名前。あんたの。好きなように呼んでやるから」
「……迂闊に本名教えると呪われるんだぞ」
「おんみょーじかなんかかよ。思いっきり和風な。まあ、明日の朝でもいいし」
眠りに落ちる直前、耳元に温かい息が掛かって小さな小さな声が顔に良く似合う可愛らしい名前を伝えた。
明日の予定。
朝風呂。
ケーキバイキング。
国語のお勉強。
赤いパンツと油性マジックを買って髑髏の絵を描く。
終