ある朝目を覚ますと鶴になっていた。
鏡を覗けば鶴になった私は白くて華奢で、人間だった頃よりもずっとずっと綺麗だった。
鶴になった私は、何しろ鶴初心者だからどうやって飛んだらいいのか良く分からなくて、よたよたと歩いていた。少しだけかっこ悪かった。二、三歩歩いたところでこけた。かなりかっこ悪かった。
飛ぶべきだろう。だって鶴だし。
飛べるはずだろう。鶴なんだから。
どうして飛べないんだ?鶴なのに。
しかもここどこよ!
ある朝目を覚ますとだだっ広い雪原に突っ立っていた。
私は鶴だった。
雪だ。今は六月だってのに。
北海道か?
丹頂鶴なのか?
求愛のダンス………。
翼を広げてみる。上下に動かす。
えーと……浮かないよ?
飛べやしない鶴ビギナーたる私は、よたよたと銀世界を歩き出す。チクショウ東北生まれは雪なんかに感動しねえんだよばーかばーか。
『ガツン!』
あ?
ある朝目を覚ますと鶴になっていた私は只今罠に捕獲されました!
たっ!たっ!いったああああー!
そう叫んだつもりの声は
「カッカッカ!クワー!」
ああ。
「クワークワー……」
物悲しい、かも。悲嘆にくれる私に、優しい声が掛けられたのはその時だった。
「大丈夫?」
それは、今年からおんなじクラスになった後ろの席の橋本君だった。
「可哀想に」
彼は雪の上に膝をついて私の足から罠を外してくれる。実はまだあんまり話したこと無いけど、顔は好き。優しそうで。笑うと可愛い。うわーって、頭をぐしゃぐしゃ撫で回したいくらい。
優しい橋本君は制服のワイシャツをびりびり破いて私の傷口に巻いて縛ってくれた。ハンカチとか持ってないのかな。そして、私を見て、
「綺麗だな」
と、そう、ぽつりと。
うわーうわーわー。綺麗だって!ねえ、この状況で飛べない私はどうすればいいわけ?よたよた歩いてったら馬鹿みたいじゃん。大体どこへ行けと?
仕方ないから、持てる限りの演技力を駆使して、羽をニ、三度動かしてぴょんぴょん飛び跳ねてからふらふらと倒れてみる。
怪我したのは足なんだけど。気づかないでくれ。お願い。
橋本君は、優しいから、倒れた私に驚いて駆け寄って、そして自分の家へと抱えて帰ってくれた。
こうなったら。アレしかないと思う。だって、鶴だし。助けられたし。綺麗だし。
あれだ。鶴の恩返しだ。つかの間の夫婦生活だ!キャー恥ずかしい!
夫婦だってよ!わー!
問題は、私が色黒で茶髪のショートでいかり肩でチビでデブで白い着物が似合わない、どころかそもそもどうやったら人間に戻れるのか分からないということだ。
終