075:ひとでなしの恋
今日は服装検査があったので、私の履いているのは校則に則って『膝がしらが隠れる程度の長さ』の正しいスカートだ。
友達のお姉さんにもらったお古。自分のは教師に咎められなくて親も許してくれるぎりぎりの短さで切ってしまったので検査の日には使えない。
普段はウエストで折り返して上着で隠す、という手もあるけど、プリーツががたがたに壊れてしまうし、おなか周りが膨らむし、夏服になると使えないのがネックだ。
もっと気合を入れている女子は、検査の直前にトイレで着替えて、終了後にはまたすぐ改造スカートに戻すけど私はそこまでするやる気はない。検査の日は朝から家に帰るまで一日中そのまんま。

斎藤に「一緒に帰ろう」と誘われて、それを死ぬほど後悔した。

私にとって彼女はそういう相手だった。

初夏は好きだ。
緑がすごくて、明るくて、それまでの服装だと暑いのに、一枚減らすと寒い。
日差しは眩しいのに、薄着になった肌に空気はすーすーして少しさみしい。
だから好きだ。
さみしい五月の道を二人で歩く。とりとめのない話をしながら。斎藤の上着の袖口にアメピンが留めてあるのとか、スカートのお尻が擦れてテカってるのとかを眺めながら。
私は、臆病なので待っている。短くてさらさらした黒い髪や、白くて小さい顔を眺めながら。斎藤が、なんか言ってくれないかと待っている。

「あんたとやりたい」
私は、確かに待っていた。望んでいた。
斎藤が何か言ってくれるのを。
斎藤に、言ってほしかった。私より先に。斎藤より、優位に立ちたかった。

でも、これはないだろ?
びっくりしすぎて、目をそらしてしまう。青い空とか、緑の若葉とか、爽やかなものたちにに視線をさまよわせた。
「あんたとやらないまま死んだらすごく後悔するし、でも、あんたのためならやらせてくれなくても死ねるし、死ぬほどやりたい」
「何、死ぬの?」
ああ、ここは笑うところだな、と思いながら斎藤を見たら、ぼろぼろと泣いていた。
「あいしてる」
馬鹿な。
「ハンカチ、ハンカチ、あるんらけど」
口がうまく回らない。らけど、ってなんだ。馬鹿。
「あるんだけど、先月の服装検査から入れっぱなしで」
斎藤は首を横に振る。
「いらない」
斎藤は、握った手の甲で、ごしごしと顔をぬぐった。
「愛してる」

初夏は好きだ。素敵な五月に、私は、校則に則った丈の正しいスカートを着て、路上ですごいことを言われている。
「あいしてる」
ちょっとすご過ぎる。
「あー。あの、さ、初チューもまだのお子様なんで、レベル下げてください」
「……ちゅー?」
「ちゅー」
わざと唇を尖らせてからうなずくと、泣いた余韻で赤かった斎藤の顔は、じわじわとさらに赤くなった。
ああ。すごいよ斎藤。
赤い顔をして、ファミレスののぼりを指さすあんたは死ぬほど可愛い。

「いや、あの、……あれ、おごるから、チューさせて」

039:オムライスに続きます。