研究紹介

漢詩文     解読 文責    尾 臺 成 大

綬 江
印 邨





錫 君
長 謝
寅 印



星 春
漢詩文 
七言絶句
卓 午 新 蝉 促 睡 鳴
胡 床 枕 手 夢 初 成
隣 翁 報 喚 清 茶 熟
驚 起 固 公 我 亦 驚
江村傳左衛門 落款  江邨綬印(エムラジュイン)  君錫(クンシャク)
(エムラ デンザエモン)  
【読み方】
卓午(タクゴ)新蝉(ニイゼミ)睡(ネムリ)を促(ウナガ)して鳴(ナ)き
胡(イズクンゾ)床(ユカ)に枕手(マクラデ)し夢(ユメ)初(ハジメ)に成(ナ)す
隣翁(リンオウ)報喚(ホウカン)にして清茶(セイチャ)を熟(ジュク)し
驚(オドロキ)て起(オ)き固公(ココウ)にして我(ワレ)亦(マタ)驚(オドロ)く
【語釈】
卓午(タクゴ)  正午、おひる
新蝉(ニイゼミ)夏の初めに鳴く蝉
隣翁(リンオウ)親しい老人、父、大先輩
報喚(ホウカン)叫んで知らせること
清茶(セイチャ)入れたてのお茶
固公(ココウ)厳格な公務
【詩文解釈】
昼間に蝉の鳴き声を聞いていると、すごく睡魔に襲われてしまった。
なぜだろう、床に寝転んでしまい腕枕で眠ってしまい夢まで見てしまったよ。
父が、お茶が渋くなってしまうぞと叫んでいる。
その声にビックリして目が覚めた。私は厳格な公務をしているのに、このように
うっかり眠ってしまうこともあるのかと、我ながら驚いている。
【書評】
鋒先の切れ味の良い筆線で明るく仕上げ、清澄な線は深く落ち着き、品致に満ちている。
【書作者】江村 伝左衛門 (エムラ デンザエモン)
江戸時代の儒学者(1713年〜1788年)75歳没  墓所:京都本圀寺(ホンコクジ)
号:北海  源流字:君錫名1:源 綬   名2:江 邨 綬  名3:松 永 綬 
この作品の落款には、《江村 傳左衛門》と記され陰刻で《江邨綬印》陽刻で《君錫》刻され押印
されている。数多くの著書があるが、著作名は《江邨北海》《北海江邨綬》《北海江邨綬君錫》など
が使われている。
《江村 伝左衛門》は、明石の人で、名は《綬》、字は《君錫》、号を《北海》と称している。
越前福井藩儒であった伊藤龍洲の次男であり、兄は伊藤錦里である。
明石の河村家で育ち、明石藩儒の梁田悦巌に朱子学を学び詩文に長じた。
その後、宮津藩儒である江邨毅庵の養子となり、江邨姓を名乗って宮津藩に仕えて儒臣となる。
晩年は、京都に家塾を開き門弟の教授に専念した。
当時、京の江邨北海は大阪の片山北海、江戸の入江北海と共に「三都の北海」と称された。
【画作者】与謝 蕪村 (ヨサノ ブソン)
江戸時代中期の俳人、画家(1716年〜1784年)68歳没
本姓:谷口 信章  通称:寅 俳号:蕪村 宰鳥 夜半亭  画号:春星 謝寅 呉春 長庚
この画の作品の落款には、《蕪村》と記され陰刻で《謝印長寅》と《春星》の2本を押印されている。
江村北海と蕪村は、年齢も近く、宮津や京で接点も多い。蕪村は応挙などとも合作されている。
解読文責 : 尾 臺 成 大