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 文庫本棚 U(秘 剣)



   

兵法各流派の太刀名義は、それぞれに面白いものがあります。多くは技法上の姿態を動植物ないしは天然現象になぞられたものが多く、理屈っぽいものがあればしゃれたものもあり、理解するのは中々難しいものです。戸部新十郎は無外流の使い手で居合の達人。津本 陽は剣道三段、中村流抜刀術五段の腕前、決して小手先の業で小説を書くのではなく、剣客達の息づかいを奥深いところで捉えて読者に迫ります。



書籍名 柳生兵庫助(1〜8巻)
著者名 津本 陽 発行年 1992年 出版社 (株)文藝春秋
全8巻からなる長い物語のうち、巻3までは兵庫助の幼少期から兵法開眼までを辿る青春記で、石舟斎が他界して兵庫助が新陰流の大黒柱として立つまでが描かれています。巻4以降はそれまでに習得した剣の極意を確固不動のものとするための、兵庫助の精神練磨の物語です。それにしても文庫本8冊は長いですね、途中で休んだりして読むのに2ヶ月ほどかかりました。かなり深い内容なので飽きることはありませんでしたが、少々疲れました。


書籍名 明治剣侠伝
著者名 津本 陽 発行年 1984年 出版社 徳間文庫
明治五年、元京都見回廻組、直心影流の剣客であった市川 貢は国事犯として収監されている函館監獄を野外使役中に逃亡、港で補吏に追い詰められ死を覚悟した時、北前船蓬莱丸の船主・町田総角に救われた。町田は北辰一刀流の使い手で政府転覆を計る易水社の盟主であった。町田の人となりと目的に共鳴した貢は血盟を約し、騒擾の世情を煽るる尖兵を決意するのだった。最後の剣客たちを骨太に描く津本快心の長編で、滅び行くものの美しさがテーマになっており、剣豪の強さだけを書くのではなく全て、死の運命を背負ったものがその直前に見せる剣に賭けた生の輝であるゆえに美しくも哀しい清冽な男の詩となっています。


書籍名 日本剣豪譚<維新編>
著者名 戸部新十郎 発行年 1989年 出版社 光文社文庫
幕末動乱期、道場剣法は隆盛を極めたが、やがて文明開化の世の中になり、絶滅寸前の危機を迎える。華やかな剣技を競った剣豪たち。そしてまた、どん底の時代に在って、数々の苦難に耐え、日本の剣道を後世に伝えた達人たち。武市瑞山と岡田以蔵、佐々木只三郎、中村半次郎、松崎浪四郎、榊原健吉、山岡鉄舟など、激変する時代に剣一筋に生きた男たちの不撓不屈の勇姿を戸部新十郎が描きます。


書籍名 日本剣豪譚<幕末編>
著者名 戸部新十郎 発行年 1993年 出版社 光文社文庫
空前の隆盛を迎えた幕末期の剣界は、まさに百花繚乱。剣聖とたたえられた白井亨、男谷精一郎あり、江戸三大道場主と謳われた千葉周作、斎藤弥九郎、桃井春蔵が出現し、これに長大剣の大石進、正新剣の島田虎之助が挑む。坂本龍馬、桂小五郎ら志士の奮励に対し、多摩の一角から近藤勇一党が台頭する。激動の中、剣に託した男たちの生きざまを活写。歴史の中の虚実を自家薬籠中のものにした作者の筆致によって、彼ら剣客たちは我が国の剣流発達史の中で余人の描き得ない軌跡を描いていき、その姿は私たちにとって、一読、忘れ難い印象を残しています。


書籍名 日本剣豪譚<江戸編>
著者名 戸部新十郎 発行年 1989年 出版社 光文社文庫
この作品は、戸部の小説、評伝などの形式のキャリアと自信のほどをうかがわせる秀作が揃っており、戦国期から江戸期にかけて実在した様々な剣豪たちの事跡や苦闘のあとをたどり、「芸」から「道」へと変遷していく剣のありかたを見据えた、一種の剣流発達史としての体裁をなしています。人を斬ることのない時代に、人を斬るすべを究めようとした剣客たちがたどった、悪戦苦闘の求道の記録です。居合・林崎甚助、念流・樋口定次、相抜け・針ヶ谷夕雲、放心・柳生連也、無外流・辻月丹、から激越平山行蔵まで、人を斬ることのない太平の世に、人を斬るすべてを求めて苦悩する剣士たちの壮絶な求道の足跡です。


書籍名 日本剣豪譚<戦国編>
著者名 戸部新十郎 発行年 1995年 出版社 光文社文庫
兵法の歴史を見れば、相手に打ち勝つための「術」が「芸」になり、やがて「道」に昇華する道程を示す事がわかるし、兵法者それぞれの個人的成長も変りはありません。直載に剣忍上に血みどろの足跡を残した人の苦闘のそれ自体人生だった。一の太刀・塚原ト伝、陰の流・上泉伊勢守、小太刀・富田勢源、無双剣・伊東一刀斎から孤高の宮本武蔵まで、戦国の世に撩乱と花開かせた剣法中興の祖たちの死生のはざまで体得した不動の人生を見てみよう。


書籍名 秘剣 水鏡
著者名 戸部新十郎 発行年 1998年 出版社 徳間文庫
剣豪小説集の逸品というよりも、後の「花車」「龍牙」と続く戸部新十郎の“秘剣”シリーズの先駆けを成した一冊です。「無明」「善鬼」「岩柳」「大休」「水月」「無外」「牡丹」「水鏡」「空鈍」「花影」。以上十編、戸部新十郎の、枯淡、練達の筆致は、確かな人間把握によって、剣客たちの技と心の内容に迫っているといえますが、その中で、「空鈍」に記されている「まあ、そうだな。しかし、気が向けば来てもよろしい。嫌ならやめてもよろしい。元来兵法などあってもなくてもよいものだ。そんなものに、精進せなばならぬということもない」という、無住心剣流・小田切一雲の言葉にこそ戸部の自負が見えます。


書籍名 秘剣 花車
著者名 戸部新十郎 発行年 2002年 出版社 徳間文庫
聚楽第の主、関白豊臣秀次は〈兵法数奇〉であった。そんな中秀次は“花に埋もれて死ぬる”を極意とする死の太刀〈花車〉を聞き知る…。「大捨」「八寸」「栴檀」「花車」「仏手」「笹葉」「玉光」「音無」「浮鳥」「逆髪」剣に憑かれた武士たちの凄絶な生き様十様。人がどう生き、どう死んだか、であり。歴史小説ならそこに歴史観が、剣豪小説ならば剣の妙諦が彫り込まれることになる――唯それだけのことである。だが、それだけのことの中に、底の知れない何事かが記されているのが戸部新十郎作品の醍醐味であります。


書籍名 秘剣埋火(うつみび)
著者名 戸部新十郎 発行年 2000年 出版社 徳間書店
吹毛、金剛刀に構え瞼を閉じ相手の剣が身に触れたと思った瞬間に右足を引き打ち下ろす、これを一刀流吹毛の剣という。必勝、九箇の太刀の第一に上げられる太刀新陰流。微塵、根岸兎角の微塵流を破る林田左門の中条流微塵。埋火、相手の剣が打ち下ろされた瞬間腰を落とし左ひざを立て、下段霞から逆霞に持ち替え斬り上げる中条流の太刀。南蛮、敵が打ち下ろし刃がまさに頭上に触れようとするせつな打ち込む富田流の技。雙六(すごろく)、中条流兵法秘訣によると、当方無手にてひっきょう敵の目を打って勝つ、賽の目により進み勝つ雙六の如くなれば雙六と名づける、という。柳雪、打ち落とされの法といい、相手の術に応じ故意に小太刀を落とす宮本武蔵の技。参差(かたたがえ)一人が上段霞にもう一人が霞逆上段に執る伊賀者の剣。蛾鷹(がおう)、必死三昧、すなわち飢鷹の鳥を掴むが如し、獲物を見たら直ちに獲るべし、獲ったら直ちに喰らうべし。逡巡はならぬ剣とはそういうものという、忠孝真貫流の剣。松葉、敵の刀とわが刀を松葉の如く重ね合わせた一瞬、切先で相手の拇指を切る山岸流居合の秘奥。傑作剣豪小説集です。


書籍名 新陰流 小笠原長治
著者名 津本 陽 発行年 1990年 出版社 新潮社
弱肉強食の乱世を戦い、ひたすら剣の修行を続け、ついには道を極めるため琉球、明に渡って明の武芸者と対決した男のロマン!後に小笠原源信斉と名乗り江戸に出て諸方の名人達者といわれる兵法者と立会い片端から打ち破り、新陰流最強の剣士といわれた。あまりの強さに、たとえ剣聖といわれた上泉伊勢守でも八寸の延矩にはかなわなかっただろうと噂された。
「八寸の延矩(のべがね)」とは
鹿島神流(鹿島神流武道連盟)の説明によりますと、明らかに武器としての一種の戈を指しているのではなく、“戈を遣う術”を基として新たに発案した武術の基本原理であると解釈するのが妥当であるといっています。
「八寸の延矩」を武器と見なしている説としてはは、“二方棍”が挙げられます。二方棍とは二尺五寸の棒の先に二寸程の鎖で八寸の両刃鋼鉄板が繋いである武器で、いかにも尤もらしい説ですが、江戸時代の誇り高い侍が表芸に遣う武具としてはちょっと考えられません。
「八寸の延矩」は術理であるとの論理的な伝承が、寛政年間に書かれた赤石郡司兵衛孚祐(直心影流の達人)の著「斑龍軒覚書」に存在します。この伝承記述に「小笠原源信が八寸の延矩(ノビガネ)左右より打込むとき、上にて四寸、下にて四寸づつ八寸開く事、又敵より打込むかしらへ右の如く開いて摺り込む事、跡足より引事も右の如し、或は左右を一足づつがくがくとはづしながら引く事(ワザ)もあり、 何れも上へ下にて八寸の矩を用ゆ」とあります。
最初に敵と対峙した線から、体を躱す位置を金指で測り、金指(カネジャク)すなわち矩の語を充てて幾何学的に表現しています。ここで、「上にて四寸」とは上体の躱しを示し、「下にて四寸」とは足運びの躱しを示していると解釈してます。お解りになりますか、難しいですね…


書籍名 北の狼
著者名 津本 陽 発行年 1989年 出版社 集英社文庫
祇園石段下の決闘、捨身の一撃、うそつき小次郎と龍馬、明治兜割り、道場剣法、北の狼、長しない。維新前夜夜の京都、佐幕派の侍八人と対して斬死した薩摩藩の若い武士。初めて人を斬った日の塚原卜伝。他人の知恵や力量を利用して、上手に世渡りする才能があった陸奥宗光。老境にある榊原鍵吉の意地。道場剣法の練達者が実戦で予想もしなかった経験をつむ話。新撰組永倉新八の苦渋にみちた後半生の一時期を描く表題作「北の狼」。長大な体躯の剣客が、槍のような竹刀をひっさげ江戸の道場を席捲する話。著者自ら選んだ傑作時代小説です。


書籍名 人斬り剣奥義
著者名 津本 陽 発行年 1988年 出版社 新潮社
小太刀勢源、松柏祈る、身の位、肩の砕き、抜き・即・斬、念流手の内、天に消えた星。本書収録の諸作は短編にもかかわらず、各編を読み終えるごとに、剣光一閃、時には心胆寒からしめるほどの切れ味の鋭さを見せつけます。剣の勝負は、所詮人と人とのぶつかり合いで、技の背後には剣客たちの様々な生きざまが見えてきます。その一つ一つを描くために津本 陽は細心の注意を払って書いています。


書籍名 秘剣 龍牙
著者名 戸部新十郎 発行年 1999年 出版社 徳間書店
醉猫(すいびょう)、浮舟(うきふね)、燕飛(えんぴ)、陽炎(かげろう)、足譚(そくたん)、龍牙(りょうが)、芥子(からしな)。秘剣シリーズ短編七話があり、どれも作者の思い切り簡略化された文体が描出する剣の妙技とそれを使う男たちの思いを敢えて描かずに行間をして語らしめる小説作法。更にそこから匂いたつように伝わる戸部新十郎の枯淡の境地が感じられます。


書籍名  鬼 剣
著者名 戸部新十郎 発行年 2000年 出版社 徳間書店
甚四郎剣、九内剣、とかくこの世は、秘太刀「放心の位」、樹下石上の剣。四つの短編と一つの中篇からなる剣豪小説です。第一話は古々然の剣技を伝える草深甚四郎。二話は一途で無骨な剣豪美濃九内を描く。三話は似非剣客としての根岸兎角を登場させ他の剣豪との比較の組み合わせの妙を。四話は真の剣豪柳生新陰流の柳生兵庫助の話。五話は宮本武蔵の生涯を、生い立ちから数々のエピソードを含めて、実録風に記述してます。


書籍名  剣にかける
著者名 津本 陽 発行年 1997年 出版社 幻冬舎文庫
天吹、睡り猫、桜田門外の決闘、桜田門外・一の太刀、道場剣法、小太刀の冴え、真田ひも。天吹は薩摩古楽器天吹にまつわる剣人の逸話。睡り猫は伊藤典膳の一刀流に伝えられる「猫の妙術」を語る。桜田門外の変は日ごろ剣術を鍛錬し免許皆伝の腕前をもつ志士達が小手はおろか、突きも出せないで逆上してしまったエピソードが。その他でも剣の使い手達が、命を賭けて危険に立ち向かい乗り越えてゆくプロセスは読む人の共感を呼びます。


書籍名 秘剣 虎乱
著者名 戸部新十郎    発行年 2003年 出版社 徳間書店
六華(りくか)、茶巾(ちゃきん)、夢枕(ゆめまくら)、風水(ふうすい)、虎切(こせつ)、面影(おもかげ)、虎乱(こらん)、山影(やまかげ)、ほう捨(ほうしゃ)。本書は全九編のうち、半数以上が何らかのかたちで作者の郷里である加賀金沢の歴史に材をとり、中条流、もしくは幕府の政治を背景とした中条流対新陰流の確執に依っているのが特色です。剣客たちの息づかいを奥深い所で捉えて読者に迫り、その奥深さは常人の理を超えた所にあるもので、戸部新一郎は常ならざる境地に達した男たちの奇随を、理におとさず奇随のままとして書いています。


書籍名 明治撃剣会
著者名 津本 陽 発行年 1984年 出版社 文春文庫
明治初年、和歌山へやってきた撃剣興行一座、その一番の遣い手にいどまれた旧幕臣が腕の冴えを見事に描いた表題作や津本 陽が剣豪作家として活躍する契機となった「孤独な武者振り」。外「血ぬられた日」、「宵宮の五人斬り」、「隼人の太刀風」、「祇園石段下の決闘」、「闇を奔る」、「明治劇剣会」、「橋本皆介の奮闘」、など意欲作八編です。一読、鋭い太刀風に背筋に冷気が走るのを覚えるすばらしい剣技描写が光る骨太な剣豪小説集です。


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