些細な切っ掛け
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分厚く焼いたハムと砂糖が山盛りにされたフレンチトーストをテーブルに置くと、類家小五郎はコーヒーカップの準備をする。

用意したカップに、自画自賛を当たり前に出来るほどに厳選に厳選を重ねたコーヒーを注ぐ。

カップの数は、二つ。

一つは自分の席であるテーブルの中央へ。

もう一つを斜め左の、角が丸くなったテーブルの端へと静かに置く。

椅子も無い場所にカップを用意する彼の姿を第三者が見たならば、さぞかし滑稽と思うだろう。

しかし類家はそんな動作を淡々と進める。

彼にとってコレは不自然な事ではない、『彼等』にとってはコレが自然なのだから。

「斎原ー、コーヒー入ったぞ」

類家は宙に向かって声を掛けると、自分の椅子へと手を掛ける。

腰を下ろしたところで不意に、一陣の風が頬を掠めるように吹き抜けた。

そしてテーブルに置かれたままのカップから、音を立てて黒い液体が僅かに減る。

手も触れずに中身が減るそれは手品でもなんでもなく、相棒である斎原邦彦がコーヒーを飲んでいるだけである。

何時もの事だと思いながらも、類家はその光景を不思議な気持ちで眺めてしまう。

何せカップは全く動かないのに、中身は確実に減って行くのだ。

渦を巻くように波紋が広がり、まるでカップの底に穴でも開いているかのように嵩が低くなる。


(ストローとかで吸い上げてるのかね?)


角型に切り分けたハムに被り付きながら、幽霊になると飲み方も変わるのかと考えて、


(あ…)


類家は思い出した。

幽霊の飲み方が、けして人と異なるものではない事を。


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ツギ
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ショコ / イリグチ