Treatis 論考 

    (36)麻雀勝敗論(前編)


 目的があって手段がある。手段があって目的がないことはない。そして、この世に存在する多くのゲームは勝つことを目的としている。当然「勝ち」の基準が曖昧なゲームはない。

 ところが不思議なことに、麻雀においてはこの基準がきわめて曖昧である。それは〇〇連盟、あるいは〇〇協会という麻雀団体の間でさえ勝敗の基準が異なっている事からもよく分かる。

 麻雀が同じ卓上ゲームとして何かにつけて碁・将棋と比較されるにもかかわらず、その社会的評価が碁・将棋の足下(あしもと)にも及ばないのは、このようなゲームとしての根本的な部分が確立していないという点にも大きな原因がある。

 もちろん麻雀が碁、将棋にくらべ、はるかに偶然性に左右されるゲームであることも社会的評価が低い原因になっている。たしかに「何が来るか(ツモるか)分からない」という点は、否定しようがない麻雀の偶然性である。

 また巷間いわれる麻雀の運は、何が来るか分からないという本質な偶然性以外に、一発、裏ドラなどに代表される人為的に導入された偶然性ルールに起因する点も多々ある。もちろんこれら人為的部分に関しては、ルールを見直すことによって改善が可能である。しかしルールは闘うための手段の問題であり、勝敗は闘いの結果に対する評価の問題である。両者は表裏一体の関係にはあるが、同一の問題ではない。

 問題は、このような勝敗基準さえ曖昧な状態では、いかに各麻雀団体、あるいはプロ競技者が麻雀を碁・将棋と比肩するゲームに育てたいと熱望しても、ザルで水を汲むようなものと言うことである。

 現在、いわゆる競技麻雀においては、以下のような勝敗評価法が採用されている。

(1)プラマイ式
 プラスであればプラス分だけ勝ち。マイナスであればマイナス分だけ負け、という評価法。
(2)順位点式
 順位を点数に換算する評価法。
(3)連勝式
プラスマイナスの大小に関係なく、プラスは1勝、マイナスは1敗とする評価法。
(4)複勝式
 1位3勝 2位2勝1敗 3位1勝2敗 4位3敗とする評価法。
(5)101式
  1位勝ち(1勝)、2位・3位無勝負(引き分け扱い)、4位は (ペナルティとして)1敗とする評価法。
(6)単勝式
  1位勝ち(1勝)、その他は負け(1敗)とする評価法。
 これらの評価法を、まず(1)プラマイ式から考察する。
 *各評価法の名称は、内容を把握しやすくするため、便宜上 名付けたもの。

(1)プラマイ式
 通算成績は、通算プラスであればそのプラス点だけ勝ち、マイナスであればマイナス点だけ負け。通算プラスが大きいほど大勝、通算マイナスが大きいほど大敗と称する。これは麻雀発祥以来、現在でも一般麻雀をはじめ種々の麻雀大会で採用されている評価法である。

 この方式では、たとえば6ゲームプレーした場合、6ゲーム終了時にトータルがプラスかマイナスかという点だけが問題になり、1ゲームごとのプラマイは問題にならない。

 しかし碁でも将棋でも、はたまた野球、サッカーでもすべてのゲームは1ゲーム単位で勝敗が評価される。逆に言えば通算得点の大小で勝敗が問われるゲームはない。たとえば野球でが3試合した時、1ゲーム目と2ゲーム目が0対1、3ゲーム目が10対0であった場合、差し引きプラス8点での勝ちとはならない。

 囲碁でも、Aが1目差で2連敗し、3戦目に10目差で勝ったとしても、差引プラス8目でAの勝ちとはならない。野球、囲碁、両方のケースとも2勝1敗でBの勝ちと評価される。これはどのようなゲームでも同じである。

 先進的な競技麻雀の指導者、古川凱章氏も、「数ゲームの合計プラスマイナスが評価の対象という事は、仮に10回戦であればその10回戦がゲームの単位という事になる。これでは1回1回のゲームの区切りは単なる息ぬき、気分転換だけのもので勝負の単位とは言えない」と述べているが、まさにその通りである。

 仮りにもし勝敗というものが、通算のプラスマイナス点であらわすものとすれば、将棋や連珠(五目並べ)などは勝敗をつけようがないことになる。すなわちトータルの成績として競われるべきは、1ゲーム1ゲームの勝ち負けの通算であって、勝敗を決める元となった内容(点数等)の通算ではない。

*数ゲームの通算点で成績を評価するゲームが世の中に存在しないわけではない。たとえばゴルフのストロークプレイという競技法では、数ゲームの打数の通算で成績を評価する。しかしこれはテレビ普及にともない、視聴率アップand観客動員のために考案された特殊なゲーム法であり、本来の勝敗基準の競技法ではない。本来の競技法は1ゲーム単位で勝敗を決めるマッチプレイである。
また目碁と称し、数ゲームの目差で金銭をやり取りする賭け碁はあるが、これも賭けの1方法であって、勝敗の問題ではない。

 では本来、ゲームの成績評価法としては変則である通算プラマイ式が、なぜ一般麻雀、あるいは種々の麻雀大会で採用されているのか。これは麻雀が碁、将棋と違い、純然たるゲームではなく、もともとバクチとしてのゲームであったことに起因する。

 麻雀に限らず、バクチの目的は金銭を得ることである。それも最終的に、つまり約束された数ゲームの結果、お金を手にすること。したがって各ゲームでちょいマイナスを続けても、最後のゲームで大プラスすれば大勝と称する。競輪 競馬でいえば、1レースごとに1万円を投資し 9回予想が外れても1回のレースで100万円をゲットすればよいという感じ。これがバクチの勝ち負けの概念である。

 すなわち一般麻雀で通算プラマイ式が用いられているのは、一般麻雀が単なる小バクチであり、それ以上のものではない事の証左でもある。

 また麻雀団体などが主催する麻雀大会などで通算プラマイ式が採用されているのは、この方式が成績算出に手っ取り早いこと。もう一つには各麻雀団体に勝敗評価に対するまともな認識がないためでもある。

 一般麻雀と競技性を追求した麻雀では、その性質/目的が大きく異なる。そこで一般麻雀でどのような方式で勝ち負けが争われていようと問題はない。しかし通算プラスマイナスの結果を成績として評価するような麻雀が、金銭を賭けていないという理由だけで競技麻雀と称している現状については、大いに疑問を呈せざるをえない。

 「賭け」という観点から言えば、どのようなゲームでもその結果に金銭を賭けることは可能である。逆に言えば金銭がかかっている、いないがそのゲームのレベルを決めるものではない。すなわちノーレート自体は大いに結構なことであるが、ノーレート麻雀=競技麻雀ではない。

 以上の理由により、プラマイ式は競技性を目的とした麻雀の勝敗評価の方式としてはまったく不適切である。

(2)順位点式
 これは順位に点数(ポイント)を設定し、ゲーム終了時、得点はいっさい無視し、順位点の合計のみを評価得点不加算式と、得点にその順位点を加算して評価得点加算式したりする方式。両式とも通算成績は、その合計順位点で評価する。

 得点不加算式は、たとえば1位10点・2位5点・3位-5点・4位-10点とした場合、その順位になれば、そのときの得点は評価せず固定順位点のみを得るという方式。これは現在、中国麻将大会などで用いられている。

 もちろんこの固定順位点には、4321とか5320など、さまざまある。また同じトップでも1人プラス、二人プラス、3人プラスでは取得順位点が異なるという変動順位点 得点不可算式という方式もある。

 順位点に得点を加算する得点加算式でも、ゲーム終了時の点数プラマイに関係なく順位によって固定的な順位点を加算する固定順位点加算式と、プラスマイナスによって変動する順位点を加算する変動順位点加算式(2人プラスの場合は8642。1人プラスの場合は10532(20ポイント増減式)などがある。またこの他に16P増減式、12P増減式などもある。

 しかしまず問題になるのは、順位点そのもの。固定順位点といっても、どのような根拠で設定されたのか。得点のプラスマイナスによって順位点を増減させるのも、その増減値がどのような根拠で設定されたのか曖昧である。ましてや得点とはまったく関係なく設定された順位点を得点に加算する順位点加算式などは論理を超越している。

 実は順位点の原点は一般麻雀のトップ賞である。麻雀大会が盛んになったとき、“競技麻雀だから”と云うので持ち点3万点でゲームされることになった。しかし素点の多寡だけではトップに対する見返りが弱い。そこで当時、行われていたトップ賞額がトップに対する順位点として設定された(当時はのトップ賞は1万2千点が主流であったので、順位点も1万2千点(12ポイント)と設定された)。その後、順位点に関する主宰者の考えの相異によって、16ポイント式とか20ポイント式などが登場した。

 いずれにせよこのようなさまざまな順位点の設定があるということは、この数値が絶対的な数値ではないからである。絶対的な数値でなければ、さまざまな順位点・方式が登場しても不思議ではない。

 また順位にポイントを設定してその合計を評価するものであるから、順位点方式には最初から勝敗という観点がない。すなわち順位点方式は、どの方式がベターかという問題はあるにしても ゲームの勝ち負けという評価とは関係がないのである。

 順位点が絶対的な数値ではないという事に対し、「1位は1であるから1点、2位は2であるから2点とすれば、絶対的な数値と言えるのではないか」という論もある。しかしこれは、4321方式で は数字が多い方が良い成績となるのに対し、数字の合計が少ない方が良い成績ということになるだけで、ゲームの勝ち負けとは関係がないという本質は変わらない。

 また「1234という順位点は、1位1点、2位2点という意味ではなく、1位=1位、2位=2位という順位という意味をあらわす。麻雀は4人の順位を争うゲームであるから、1234位という順位を評価するなら絶対的」という論もある。

 たしかに或る1ゲームに限って云うなら、そのゲームで発生した4人の順位に意味はある。しかし順位とは、持ち越して通算されるべき性質のモノではない。4ゲームの結果が1位3位3位2位だったとして、合計9位なんて事にはならないのである(平均順位としての9/4=2.25という数値には意味がある)。

 すなわち順位・順位率(平均順位)とは「勝ち・負け」というゲームの結果生じるものであって、勝敗・勝率とは別問題の存在である。

 

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