競技麻雀という言葉がある。しかし競技囲碁、競技将棋、はたまた競技チンチロリン、競技ビンゴという言葉は存在しない。すなわち他ゲームにはない“競技”という冠称が存在するところに、日本麻雀のもっとも大きな特徴がある。一般に競技麻雀といういう言葉からは、ノーレートで偶然性が少ないルールの麻雀がイメージされる。
しかしどのようなゲーム・スポーツであっても、勝敗が存在するものについては賭けが可能である。したがってノーレートそのものは競技麻雀の一要素であっても、競技なる冠称を有する麻雀の不可欠な要素ではない。
競技とは、文字通り技を競うことである。そこでゲームそのものが完全な偶然性に立脚するチンチロリンやビンゴ等のゲームには、通常の意味の“競技”は存在しない。そこでこのような偶然度の強いゲームには“競技”なる冠称も存在しないことになる。逆に囲碁・将棋等は、ルールそのものに不可知性・偶然性は存在しない。
囲碁・将棋等では、プレーヤーのポカ、あるいは勘違いは別として、勝敗は常にプレーヤーの技術=能力の差によって決する。分かり易く云えば囲碁・将棋は本質的に技が競われるゲームであり、いまさら“競技”なる冠称など必要ない。
しかし麻雀は基本的に情報の不可知性を内包したゲームである。したがってその勝敗はたぶんに偶然性に左右される。しかし情報の不可知性といっても、情報が存在しないわけではない。そこで不充分な情報であっても、それを拠り所にした技が介在する余地がある。反面、不充分な情報ゆえに技の成果が端的には顕れにくい性格も有している。
たとえばパソコン通信NIFTY上における1996年1月〜1998年8月までの通信対局の記録、あるいは某麻雀団体における長期記録など、これまでに蓄積された長期に渡るゲーム実績に依れば、現在日本で普及している一般的な立直麻雀においては、その成績が統計上のゆらぎ、いわゆる“ツキ”に依らない=プレーヤの技量を表している、と言い得るゲーム数はおおよそ1000ゲームと算定されている。
さらにそのゲーム実績は、たとえば単純に得点のプラスマイナスの割合で評価した場合、トップレベルと称されるプレーヤーが初心者から熟達者までランダムな相手と長期間プレーした場合、プラス率の上限値が70%を超える事はないことも示している。
下限値についても同様で、ルールを覚えたばかりという超初心者を除いたいわゆる一般的な初級者でも、40%程度のプラス率は挙げうる事を示している。すなわち麻雀では40%から70%、シビアーに判定しても45%から65%という技量差のあるプレーヤーが存在する。
とはいえプラス率の上限が70%ということは、その様な数値を挙げうるトッププレーヤーであっても、30%はマイナスでゲームを終了することになる。そして不可知性・偶然性を内包したゲームであるため、その30%のマイナスも10回に必ず3回のマイナスするというコンスタントなものではなく、短期的に見れば連続マイナスと言う形となって顕れることもある。
しかしこのシビアにいっても上限下限の20%という数値差は、短期的には統計上のゆらぎに支配されても、長期的にはそれなりの技量差を示すという麻雀のゲームとしての特質、また囲碁・将棋のような不可知性が存在しないゲームにはあり得ない、“競技”なる冠称を受容しうるゲームとして認識される数値を顕わしていると考えられる。
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