次表は中国古典麻雀以来用いられている面子小符表で、現在、日本でも一般的に使用されている。
表1 面子小符表(小算法)
組合せ |
* |
中張 |
幺九 |
一翻 |
対子 |
* |
0 |
0 |
2 |
刻子 |
明刻 |
2 |
4 |
4 |
〃 |
暗刻 |
4 |
8 |
8 |
槓子 |
明槓 |
8 |
16 |
16 |
〃 |
暗槓 |
16 |
32 |
32 |
当時はまだ門風(メンフォン=自風(じかぜ))だけで、圏風(けんふう=場風(ばかぜ))はなかった。清麻雀(チンマージャン=花牌を使わない麻雀)発生以来、この表に基づいて計算されていたが、1900年初頭(明治末期〜大正初期)、上海の外国人租界(米、英、仏、日)で場風が採用され始めた。
ところが場風が採用されれば、自動的に連風牌が発生する。その連風牌の対子符をどう扱うか、という事が問題になった。そしてやがて中国(上海)在住の日本人を中心にした愛好者の中で、次のような小符表が採用され始めた。
表2 面子小符表(中算法)
組合せ |
* |
中張 |
幺九 |
一翻 |
連風 |
対子 |
* |
0 |
0 |
2 |
4 |
刻子 |
明刻 |
2 |
4 |
4 |
4 |
〃 |
暗刻 |
4 |
8 |
8 |
8 |
槓子 |
明槓 |
8 |
16 |
16 |
16 |
〃 |
暗槓 |
16 |
32 |
32 |
32 |
見た通り連風牌の対子だけ4符になっている(後は表1に同じ)。これは「一翻牌の対子が2符なら、連風牌の対子は4符であるべきだ」という理由に基づいている。
これに対し、今日、歴史学派と呼ばれるグループの中心的存在であった榛原茂樹は、
「麻雀の計算は倍々勘定が基本である。したがって『連風牌の対子は4符、刻子、槓子は一翻牌も連風牌も同じ』という方式は変則である。
もし連風牌の対子を4符にするなら、連風牌の暗刻子は16符、暗槓子は64符としなければならない。この暗刻子16符、暗槓子64符という方式を大算法と呼称するとし、大算法と小算法を比べてみると、大算法では符が大きすぎて、点数のバランスが大きく崩れる」と反対した。
表3 面子小符表(大算法)
組合せ |
* |
中張 |
幺九 |
一翻 |
連風 |
対子 |
* |
0 |
0 |
2 |
4 |
刻子 |
明刻 |
2 |
4 |
4 |
8 |
〃 |
暗刻 |
4 |
8 |
8 |
16 |
槓子 |
明槓 |
8 |
16 |
16 |
32 |
〃 |
暗槓 |
16 |
32 |
32 |
64 |
この榛原氏の主張は大方に受け入れられ、現在に至るまで日本麻雀では小算法が主流として採用されている。しかし中算法も一部では採用され、今日に至っている。
しかし実は「変則である」と評された中算法の方が、論理性、合理性では小算法や大算法よりはるかに優っている。たしかに通常の麻雀の計算は、倍々勘定が基本である。しかしその数理の基本は小符ではなく実数の段階で求められるべきものだからである。
翻牌は刻子になると一翻、すなわち符が2倍になる。そこで一九牌と翻牌は、見かけは同じ点数でも実数では倍の差が生じる。ところが翻牌であっても、対子では一翻することはできない。そこで小符の段階で加2符として、全体的なバランスをとっているのである。
これは槓子の符にしても同じ事。一翻牌が槓子になったからといって、倍々計算を2回するわけにはゆかない。そこで小符の段階で刻子の倍にしてある。それが連風牌と一翻牌が同じ小符であれば刻子、槓子実数に倍の差があっても対子実数は同じとなってしまうのである。となれば小算法こそ倍々勘定の基本から外れるという事になる。
表4 面子小符実数表(小算法)
組合せ |
* |
中張 |
幺九 |
一翻 |
連風 |
対子 |
* |
0 |
0 |
2 |
2 |
刻子 |
明刻 |
2 |
4 |
8 |
16 |
〃 |
暗刻 |
4 |
8 |
16 |
32 |
槓子 |
明槓 |
8 |
16 |
32 |
64 |
〃 |
暗槓 |
16 |
32 |
64 |
128 |
この実数表(表4)で分かる通り、数字を横列で見ると刻子、槓子ではきれいに倍々数字が並んでいるのに、対子部分だけ同数字となっている。これに対し中算法(表5)では、すべてきれいな倍々数字となっている。
組合せ |
* |
中張 |
幺九 |
一翻 |
連風 |
対子 |
* |
0 |
0 |
2 |
4 |
刻子 |
明刻 |
2 |
4 |
8 |
16 |
〃 |
暗刻 |
4 |
8 |
16 |
32 |
槓子 |
明槓 |
8 |
16 |
32 |
64 |
〃 |
暗槓 |
16 |
32 |
64 |
128 |
ましてや小符の段階で、刻子、槓子に大きく点差をつけてある大算法では、倍々勘定などどこかへ飛んでいってしまうことになる。もっとも歴史学派が中算法に反対したのは、単に「連風牌対子を4符にするなら、連風刻子、槓子も32、64にすべき」という理由だけでなく、連風牌(すなわち場風)の存在そのものに反対であった事も一因ではないかと思われる。
古典麻雀ではアガリ役が極めて少なく、一翻といえど取得するのは困難であった。そのような麻雀では、たった3枚で両翻という連風牌は現在のドラ3以上のパワーがあった。そのパワーが一人の競技者にしか有効でないような連風牌(場風)の採用は賛成出来ない、というわけである。
そのような背景の中から「連風牌(場風)の不採用は不可避としても、連風牌の価値が更に大きくなるような方式は絶対反対」という意識があり、連風対子4符不採論となったかもしれない。
いずれにせよ、数理上だけの論であれば「中算法」が最も論理的である。しかし麻雀の得点計算は、原初の精算法から四捨六入法へ、さらには現在のオール切上げ式へと大きく変化している。
このオール切上げ式は、ある部分では2符の違いが2千点近くの得点差になる事がある反面、ある部分では4符や8符違っても得点は同じという事が多々生じる計算法である。このような大ざっぱな得点計算法を採用している中では、連風牌の対子符の問題は、あまり大きな問題とはいえない状況となっている。
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