Mahjan talk 雀話

    (103)不敗の論理


 むかし或る麻雀サークルに参加していた頃の話。
 その仲間にHさんという人がいた。いかにも押しが強そうなサラリーマンであったが、本人も口論や言い争いで負けたことがないと云うことを自慢していた。

 普通の人は、言い争い自体めったに経験しないが、なぜかこの人の回りでは、口論じみた事が多かった。要はなにかと理屈っぽい人なので、みんな敬遠していた。

 自分も敬遠していたが、どうしてもつきあいというものがある。それである時、成り行きでHさんを交えて数人で飲みに行くことになった。そしてよりによってσ(-_-)がHさんの隣に席に座ることに(正確に言うと、みんな、隣に坐りたくないので遠くの席にさっさと坐る。気が付いたら、隣の席しか空いていなかった....)。

 麻雀サークルの飲み会だから、話題となれば麻雀しかない。その中で、先日サークルで起きた“起家マークの表示ミス”が話題となった。これは、南場に入ったとき、東家が起家マークをひっくり返すのを忘れたため、まだ東場だと勘違いした西家が東のみでアガってしまったというトラブル。

 もちろん起家マークは便宜上置かれているだけのもので、場を支配する効力などない。そこで、その場は西家のチョンボということでケリがついた(そのトラブルが発生したとき、σ(-_-)は、その場に居合わせなかった)。しかし“それで良かったのか”というのが、Hさんの持ち出した話題。

 Hさんの言い分は、「起家マークがになっていて、全員が東場だと認識してゲームしていた上、東場として処理すべきではなかったか」というもの。

 σ(-_-)は、「家マークが場を支配するほど重要な存在なら、起家マーク無しでゲームできない。しかし実際は起家マーク無しでもゲームされている。つまり起家マークは“あると便利”というだけのモノにすぎない。である以上、表示がどうなっていようと南場として処理されて当然」と返事した。

 しかしHさんは「絶対に、あれは東場として処理すべきだった」と自説を曲げず、この話は物別れに終わった。そうこうしていたら、他のメンバーが、「そう言えばリーチ(途中立直)って、中国麻雀には無かったんだってね」と別な話題を振ってきた。

 「うん、あれは日本で出来たルールだから」と何気なく返事すると、さっきの話で面白くないという顔をしていたHさんが、さっそく「そんなこと、どうして分かる」と噛みついてきた。

 そこで「だって中国のどの麻雀の本にも途中立直ルールに関する記述は無い。おまけに日本側の本には、日本人が作ったことを思わせる記述がある」と返事した。

 すると、「あんたは、中国の麻雀の本をすべて読んだのか」という。
 「そんなもん、全部読めるわけないじゃないか
 「なら、どうして断言できる。まだ読んでない本に、途中立直のことが書いてあるかもしれない。たとえ本に書いてなくても、じっさいには行われていたかも知れない

 「途中立直が中国でも行われていたなんて、いくら何でも....」と返事すると、
 「じゃあ、あんたは、中国大陸へ行ったことがあるのか。行ったことがあるとしても、中国全土を隅々まで歩いたのか」

 「隅々どころか、行ったこともないですよ
 「あの広大な中国大陸のことだ。どこの地方でどのようなルールが行われていたか分からない。たとえ中国全土を隅なく歩いたとしても、昔はどうだったのか、タイムマシンでも無ければ分からない。あんたはタイムマシンでも持っていて、そう云ってるのか

 もうアホらしくなって黙っていたが、Hさんが口論に負けたことがないというのがよく分かった。あれは不敗の論理を通り越して、腐敗の論理としか思えなかったな....

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