(13)イーペーコーについて(月刊近代麻雀・昭和61年8月号)
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先月号(昭和61年7月号)の近代麻雀を見ていたら、この「麻雀Q&A」に両般高(リャンペーコー)という用語がでていました。しかし以前読んだ「麻雀職人」という小説には、イーペーコーが「一並刻」と出ていました。
また雀荘で見かけるイーペーコーは「一盃口」となっています。リャンペーコーが両般高なのに、どうしてイーペーコーには、こんないろいろな表記があるのでしょう。(東京・長○部
進)
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イーペーコーの元の字は「一般高」です。中国語風に発音するとイーパンカオですが、日本では訛ってイーペーコーと発音されます。それならそれで一般高と表記すればよさそうなものですが、それにはこんなワケが。
第二次大戦前に日本で普通に行われていた麻雀では、イーペーコーは採用されていませんでした。この戦前に主流であった麻雀は、一般に二十二麻雀(アルシーアルマージャン)と呼ばれています。
第二次大戦後、現在一般的に行われているリーチ麻雀が普及してきました。そして大阪で普及したリーチ麻雀で、二十二麻雀では採用されていなかったサンシキやイーペーコーが採用されるようになりました。
で 三色同順は略してもサンショクやサンシキなので発音もしやすかったのですが、「一般高」はどうも発音しにくかったようです。そこで適当に「いっぱんこう」とか「いっぺいこう」と呼ばれながら関東方面にも普及していきました。
しかし口づてで普及したので正しい表記もされず、適当な当て字がされていました。その間の事情を日本牌棋院の創立者である故 天野大三氏は次のように記しています。
「(イーペーコーは)終戦直後、関西で急速に普及し、昭和22、23年頃には関東にも伝播した。伝播した当時は「いっぱんこう」とか「いっぺいこう」と呼ばれていたが正しい字が分からず「一並子」とか「一配刻」などの字が当てられていた」
そして天野氏には「いっぺいこう」がまるで「一杯、行こう」と云っているように聞こえたので、盃と口を組み合わせ、「一盃口」と当て字したということです。そして著書等でもこの字を使用したので、「一盃口」という表記がもっとも広く普及しました。
イーペーコーにはこのほかに一並口、一傍高、あるいは一平行などさまざまな当て字が用いられました。そこで「一盃口」という表記がもっとも広く普及しているとしても、そのほかにいろんな表記が用いられているわけです。
そこで「どの字が正しいのか」と言えば、いちおう「一般高が正しい」ということになります。しかし実は一般高という表現も、イーペーコーというアガリ役の本来の表記ではありません。
人の名前にも本名の他に通称 愛称などがあるように、麻雀のアガリ役にも複数の名前があります。たとえば三色同順も別名を混一般高(ホンイーパンカオ)、雅名を三姉妹といいます。また三色同刻は、別名 対一般高(トイ イーパンカオ)、雅名 三結義。そしてイーペーコーの本名は一色同順で、雅名は求成双(むりやり読むとチューシェンシャン)。
つまり一般高というのは “同じような揃い” というほどの表現であって、一色同順専用の別名ではないのです。しかし三蔵法師は沢山いても、単に三蔵法師といえば玄奘法師のこと。それと同じでイーペーコーと云えば、一色同順を意味する状況となっているわけです。
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