1920年代、アメリカで麻雀ブームが巻き起こった。この火付け役となったのが、ジョセフ・P・バブコックというアメリカ人。アメリカの石油会社の社員として上海に赴任し、そこで麻雀を覚えた。
アメリカ本国でも麻雀が流行しつつあったので、麻雀セットの輸出入をすることにした。牌を売るためには、ルールも知ってもらわなければならない。そこでルールブックを著し、牌セットに付録としてつけた。このルールブックは、表紙が赤いためレッドブックと呼ばれ、牌セットとともに非常によ売れた。そして、ここに記されたルールは、上海の英米租界でも標準ルールとされた。
上海近辺で作らせた麻雀牌はアメリカへどんどん運ばれた。道具が供給されるようになったので、アメリカでの普及に拍車がかかり、大麻雀ブームとなった。
このバブコックが作らせた麻雀牌は、いくつか特徴がある。それは
(1)1筒に「自由麻雀」という文字が刻印されている。
(2)8筒は全部が赤色。
(3)萬子は略万。
(4)索子は棒状タイプ。
(5)数牌、インデックス入り。
等々である。
そして今回紹介したのは、そのバブコック牌の後期タイプ。
(1)1筒の図柄は、「自由麻雀」という文字が刻印されていない他は、そのまんまバブコック。
(2)8筒が赤色。
8筒が赤色なのは、筒子の模様がサイコロの目に由来することを示している。現在のサイコロは1の目だけが赤色であるが、中国の古いサイコロは4も赤色である。6筒はその4と2の組み合わせであるから、4の方が赤色で2は黒色となっている。6筒の丸が4と2に分離しているのは、この為だ。7筒は4と3の組み合わせだから4が赤。3が斜めになっているのも、サイコロの目が斜めだからである。8筒は4二つなので、全部赤色となるわけである。ただし「8筒はすべて赤色」というわけではない。麻雀博物館に収蔵されているバブコック牌の中には、青色8筒、黒色8筒も存在する。これはバブコック牌の製造時期(初期か後期か)や製造職人によって異なったと思われる。
(3)萬子は略万。
(4)索子は棒状タイプ。
(5)数牌、インデックス入り。
数牌にインデックスを入れたのは、バブコックの創案と言われている。
この牌はこれらの特徴をすべて備えている。これがバブコック後期タイプ牌というのは、まず3筒、7筒が逆流れになっているため。3筒、7筒が逆流れなのはインデックスを入れやすくする為であるが、初期のバブコック牌はそこまで考えが至らず、本来の紋様のところに、そのままインデックスを入れた。そこで初期のバブコック牌の3筒、7筒はそのまま順流れになっている。
1筒の図柄はバブコック紋そのままであるが、「自由麻雀」の文字が刻印されていない。これは生産性をあげるため、刻印を省略したものである。
いずれにしても、この2点が初期のバブコック牌と異なるが、その他のオリジナリティの特徴から、バブコック牌の後期タイプと類推される。
もう一つ、バブコック牌の特徴を示しているのが、この外箱。
ちょっと写真ではわかりにくいかもしれないが、正面の落としぶたに「MAH-JONGG」と刻印されている。これはもちろんマージャンの音写であり、現在では、このMAH-JONGG(あるいはMAHJONG)は、単なる「麻雀」の英語表記としての意味でしかない。
しかし実はこれはバブコックの登録商標である。いちはやくバブコックが、このMAH-JONGGという表記を登録してしまった。そのためライバル業者は、このう表記を使用できなかった。そこで他の同業者は「Mahchow(マーチョー)」とか、「Pon Chow(ポンチョー=ポンチーのこと)」などの名称を使っていた。しかしPon ChowやMahchowではインパクトが弱く、やはりずばりMAHJONGGと表記したバブコック牌が圧倒的なシェアを占めていた。
#それにしても、Mahchowなんて表記は、まるで友人が香港でつかまされたROULEX時計やSOMYのウオークマンみたいだな。(笑)
箱は唐木(からき)ではなく軟材であるが、オリジナルのままで、しっかりしている。「MAHJONGG」の刻印もあり、資料的にはこの箱だけでもかなり価値がある。しかし残念ながら牌が何枚か欠落していて、骨董的価値は低い。
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