前からなじみのお喜代はともかく、一所に風呂に入ったせいか志津恵も君子もすっかりうちとけ、まるで十年来の知己のように心を許し、わいわいぎゃあぎゃあ騒いでの麻雀であった。
なんでもインチキをやって見せろということであったが、二つ三つ彼女らの眼をあざむくとさすがに緊張しだし、なんとか見破ろうとやっきになってきた。
夜も少しずつ更け、三戦目ぐらいに入っていた。別に彼女たちから勝つつもりはなかったが、すでにかなりの点差が開き、その場で現金で払えるかどうか疑問であった。そこで彼女に謎をかけた。
「君子、そんなに負けて払えるだろうね」
「払えないわ」
「じゃぁどうする」
「だってナーさん、インチキするんですもの」
「それは約束じゃないか」
「じゃ、身体で払うわ」
「お喜代に怒られるぞ。お喜代、お前いいのかい」
「しらない」といっても、別に怒っているふうもなかった。
そんなとき、また大きなアガリ手がきた。
すると対面にいた志津恵がを出した。声も出さずに裡向牌に手をかけようとすると、
「やめて、なーさん。アガらないで。私も身体をあげるから許して」
しかたなく手を公開した。
「なによ、その待ち。いっぱいありそうね」と君子がつぶやく。六面待ちでなら一気通貫に一盃口までからむというどえらい手であった。
「ナーさん、その手はであがれば一番高いんでしょ。こうなったらであがりなさいよ」とお喜代が余分なことを言う。
「志津恵と君子、あんたあっちの手の中にある?」とお喜代が聞く。
「あるわ、1枚だけ」
「私も」と二人が答えた。残るはあと1枚だけである。
数巡ムダ自摸がつづいた。5巡目にようやく を引いてきたが、彼女はそれでは駄目だという。そこで最後の手段を使うことにした。
「あーあ、いよいよ流れだね。ラス牌は誰のところへ行くのかな?」
と女三人の注意をそちらにそらし、その隙に準備した。女たちは私にラス牌をツモらせまいとやっきになってチーポンしたので、ラス牌の一つ前が私の最後のツモとなった。その牌をツモって手元でひるがえし、自分の地におくとそれはまぎれもなくであった。
「ナーさん、ついにやったわね。いまのは実際なの。それとも細工?。だとしたら立派だわ。ねえ、黙ってないでなんとかいってよ」
お喜代はあっけにとられて、それだけ云うのがやっとだった。
「自然にツモったかどうか、もう1枚のを探せばわかるだろう」
「そうだわ、早くそれに気がつかないなんて私たちバカね」
と、気を取りなおして君子が王牌をひっくり返しはじめた。
「あったわ、あったわ。でもこれでは5枚目の ね」
「ナーさん、これはどういうことなの。まるで魔法使いね。ねえ、教えてよ」
「護身用の さ」
「護身用って....、そんなもの、いつも持って歩いてるの」
「ああ」
「でもどうして....」
最後のツモ牌を手元に引いて、音も立てずに袂(たもと)の底に落とし、その代わり自分のを....と余計な説明はしなかった・・・・
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