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    (20)護身用の一筒


これは「麻雀101話(村石利夫・昭和51年7月)」に載っている短編小説。著者が誰か書いてないが、たぶん村石氏。かなり傑作で、思わず吹き出す。例によって全文はupできないので さわりだけ。


 前からなじみのお喜代はともかく、一所に風呂に入ったせいか志津恵も君子もすっかりうちとけ、まるで十年来の知己のように心を許し、わいわいぎゃあぎゃあ騒いでの麻雀であった。
 なんでもインチキをやって見せろということであったが、二つ三つ彼女らの眼をあざむくとさすがに緊張しだし、なんとか見破ろうとやっきになってきた。

 夜も少しずつ更け、三戦目ぐらいに入っていた。別に彼女たちから勝つつもりはなかったが、すでにかなりの点差が開き、その場で現金で払えるかどうか疑問であった。そこで彼女に謎をかけた。

 「君子、そんなに負けて払えるだろうね」
 「払えないわ」
 「じゃぁどうする」
 「だってナーさん、インチキするんですもの」
 「それは約束じゃないか」
 「じゃ、身体で払うわ」
 「お喜代に怒られるぞ。お喜代、お前いいのかい」
 「しらない」といっても、別に怒っているふうもなかった。

 そんなとき、また大きなアガリ手がきた。

一筒二筒二筒三筒三筒四筒五筒六筒七筒八筒九筒九筒九筒

 すると対面にいた志津恵が七筒を出した。声も出さずに裡向牌に手をかけようとすると、
 「やめて、なーさん。アガらないで。私も身体をあげるから許して」
 しかたなく手を公開した。
 「なによ、その待ち。いっぱいありそうね」と君子がつぶやく。六面待ちで一筒なら一気通貫に一盃口までからむというどえらい手であった。
 「ナーさん、その手は一筒であがれば一番高いんでしょ。こうなったら一筒であがりなさいよ」とお喜代が余分なことを言う。

 「志津恵と君子、あんたあっちの手の中に一筒ある?」とお喜代が聞く。
 「あるわ、1枚だけ」
 「私も」と二人が答えた。残るはあと1枚だけである。
 数巡ムダ自摸がつづいた。5巡目にようやく八筒 を引いてきたが、彼女はそれでは駄目だという。そこで最後の手段を使うことにした。

 「あーあ、いよいよ流れだね。ラス牌は誰のところへ行くのかな?」
 と女三人の注意をそちらにそらし、その隙に準備した。女たちは私にラス牌をツモらせまいとやっきになってチーポンしたので、ラス牌の一つ前が私の最後のツモとなった。その牌をツモって手元でひるがえし、自分の地におくとそれはまぎれもなく一筒であった。

 「ナーさん、ついにやったわね。いまのは実際なの。それとも細工?。だとしたら立派だわ。ねえ、黙ってないでなんとかいってよ」
 お喜代はあっけにとられて、それだけ云うのがやっとだった。

 「自然にツモったかどうか、もう1枚の一筒を探せばわかるだろう」
 「そうだわ、早くそれに気がつかないなんて私たちバカね」
 と、気を取りなおして君子が王牌をひっくり返しはじめた。

 「あったわ、あったわ。でもこれでは5枚目の一筒 ね」
 「ナーさん、これはどういうことなの。まるで魔法使いね。ねえ、教えてよ」
 「護身用の一筒 さ」
 「護身用って....、そんなもの、いつも持って歩いてるの」
 「ああ」
 「でもどうして....」

 最後のツモ牌を手元に引いて、音も立てずに袂(たもと)の底に落とし、その代わり自分の一筒を....と余計な説明はしなかった・・・・ 

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