Book review 

 
    (44)大スクープ


 東京マージャンマガジンという麻雀メルマガがある。質量ともにクオリティが高く、麻雀メルマガの中でもダントツの人気を誇る。その東京マージャンマガジンの’03年3月20日号に、大スクープ記事が載っている。

 さいわい発行者の塔四郎氏が了解を得られたので、その大スクープ記事を転載する。以下は、そのスクープ記事の内容である。


━◇>東京マージャンWatching<◇━━━━━━━━━━━━━━━━

独走スクープ!雀聖・阿佐田哲也氏の最古?の麻雀小説発掘!!

 今年もまた、偉大な雀聖・阿佐田哲也氏の命日がやってまいります。氏の功績については今更語るまでもありませんが、この機会に氏の打ち立てた金字塔を改めて思い返してみるのもまた良しでしょう。

 さて阿佐田氏といえば、色川武大の本名でも作家活動をしていたことはあまりにも有名。加えて昭和30年代に「井上志摩夫」の名で時代小説を中心に執筆活動を行っていたのは知る人ぞ知る事実であります。

 そして、30年代半ばに井上志摩夫の名を捨て本名色川武大で賞を取り、40年代に入って阿佐田哲也の名で麻雀小説を書き始めた…と伝えられています。ところがこの度当編集部は、この通説を180度覆すかも知れない資料を入手いたしました。

 この資料とは、昭和34年に発行された「オール読切」という娯楽小説雑誌の3月号で、ここに収録されている小説のうちのひとつが何と井上志摩夫作の「天和をつくれ!」という10ページの麻雀小説なのです。

 井上志摩夫名義の作家活動は、阿佐田氏本人曰く「生活のための売文活動」とのことで、各種資料によれば、

 ・昭和30年代に執筆活動を行っていたものの、その作品の大半が散逸
 ・寡作であり、かつ時代小説が大半で現代小説はほとんど存在しない
 ・昭和30年台半ばにぷっつりと姿を消し、しばらくして本名で復活


となっています。すなわちただでさえ少ない井上志摩夫名義の現代小説の中に麻雀物があると伝える資料は皆無であり、「阿佐田哲也」名義で初めて麻雀物を世に著したとする通説が覆される可能性を持った資料なのです。

 さてこの「天和をつくれ!」の内容ですが、サマ師の「俺」がたまたま知り合った女を「お引き」にして稼ぎまくるが、最後の最後にどんでん返しが待っているというもの。

 これと似た内容の麻雀小説は後年発表されている気もいたしますし、阿佐田氏の麻雀小説の大半を目にしている立場から申し上げれば、いわゆる「名作」という位置付けにはならないのでありますが、これが発表された頃にはもちろん「阿佐田」氏の小説は存在していません。すなわち「つばめ」も「便天」も初の公開だったはずで、当時からすればかなり衝撃的な内容だったのではないでしょうか。

 これで井上志摩夫名義の麻雀小説がブレイクしていたら麻雀界の歴史は大きく変わっていたのでしょうが、なぜかこの小説は話題にならなかったらしく、その後井上志摩夫は姿を消す運命となりました。もっとも当時の状況に関しては知る人も少なく、また「天和をつくれ!」の前後に麻雀小説が存在したのかも定かではありません。今後の研究と発掘が待たれるところです。

 ちなみに、当小説における一節で、

「強いんでしょう。さっき皆が噂してたわ。英さんは麻雀の神様だって」
「しけた神様だな――」


という会話があります。これが阿佐田氏名義の小説ならば「英さん」ではなく「哲さん」だったのでしょうが、こんな部分や牌活字が全く使用されていないところが歴史を感じさせるところであります。

 ※これが証拠写真だ↓
  http://www.geocities.co.jp/Playtown-Bingo/9095/inouesimao.jpg

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