読み方の技術

裏ワザ編
34 人間そのものを好きになろう

 読むという作業は、理解することを目的とします。関わっている世界の全体像を知ることで、自分自身を主役にした人生を送りたいから、人間はさまざまなものを読むのです。書き表された言葉だけでなく、その奥に秘められたメッセージを探ります。
 どれだけ深く読み込めるかは、どれだけ対象に打ち込めるかで決まります。知識を得るにも、人物から学ぶにも、読む人の情熱が強ければ強いほど、たくさんのメッセージが伝えられるのです。読書量を誇るより、真剣に向かい合うことが大切です。
 集中力を高めて深く関わるためには、興味を持たなければなりません。誰かに強制されたり、義務感で読もうとせず、読書を楽しむことです。人間そのものに関心を抱き、もっと距離を縮めようと願えば、さまざまな情報が向こうから寄ってきます。
 どんな本を読むときにも、著者の主張を素直に受け入れることです。最終的に批判したり、否定するのは、読む人の判断で良いのですが、最初から斜に構えて読むくらいなら、時間潰しになるだけですから、他のことをやったほうが生産的でしょう。
 初対面の人と会うときは、いろいろな評判を耳にしていても、先入観を持たずに話を聞くでしょう。そのうえで話の内容を判断し、人物に対する評価を下すものです。本を読むときも、まったく同じように考えれば良いのです。心を開いて接しましょう。
 人間関係のポイントが、相手を好きになることであるように、読み方を上達させるには、人間を好きになることが一番大事です。正統派の知識人を崇拝するだけでなく、異端の系譜に連なる人も含めて、人間という存在に興味を持ちましょう。

・ 同質の人を好きになろう
 読んでいて共感を覚えたり、心が穏やかになる著者は、自分と同じ価値観を持っています。悩んだときや疲れたときに、やさしく癒してくれる相手です。昔からの友人と同じように、掛け替えのない財産です。読書計画の中心に据える著者と考えましょう。

・ 異質の人を好きになろう
 意見が真っ向から対立したり、感情を逆撫でされるような印象を受けたら、人間としての器を大きくしてくれる著者と思いましょう。著者と自分との距離感を確かめながら、謙虚に学ぶ態度が求められます。自分自身に執着せず、フラットな視線で読みましょう。

・ 過去の人を好きになろう
 人類の知的財産は膨大であり、汲んでも涸れない泉のようです。1,000年の風雪に堪えた言葉が、柔らかな感性に染み渡っていきます。孔子や老子の人生の英知は、今なお新鮮に響きます。あえて襟を正さなくとも、自然に頭を垂れる珠玉の文章です。

・ 未来の人を好きになろう
 人間がこれからも繁栄することを願い、辛口のコメントを書き続ける著者は、心の温かい人です。人生という舞台から退いたら、後は野となれ山となれでは、淋しい話だと思いませんか。少しでも人の役に立つ文章は、力強く励まされるものです。

 世の中には、いろいろな人がいるから、おもしろく過ごせるのです。食わず嫌いしないで、さまざまな著者と出会いましょう。確実にキャパシティが大きくなります。

  
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