読み方の技術

上 級 編
27 ビジュアルな表現を読もう

 本という媒体は、文字による表現を伝えるだけでなく、写真や絵画から図版やグラフまで、ビジュアルな表現を的確に伝えます。写真集や画集としても数多く刊行されていますが、文字と組み合わせて使われるケースもたくさんあります。
 日本の写真は、1857年に上野彦馬が薩摩藩主・島津斉彬を、銀板写真で撮影したのが最初と伝えられています。20世紀に入ってから、日本工房を設立した名取洋之助の影響を受けて、木村伊兵衛や土門拳らの写真家が活躍しました。
 絵画そのものは独自の歴史を持っており、印刷技術の発達により画集を刊行できるようになったのですが、最初から出版を意図したものが、文中に掲載されたイラストレーションや挿絵です。この分野でのパイオニアは、竹久夢二や岩田専太郎などです。
 図形やグラフについては、出版社や印刷会社の現場で、試行錯誤しながらつくられているのが現状です。最近では、ブックデザインやレイアウトの専門デザイナーも登場していますが、この分野でのビジュアルに対する評価は未だ確立されていないようです。
 文字を読むときは、目で追う時間や考える時間が必要ですから、読み手が判断する余裕が残されていますが、ビジュアル表現はダイレクトであり、イマジネーションに直接訴えます。それだけに、読み方を誤ると、後からの修正がきかなくなるのです。
 私たちが本を買うときにも、最初に目に飛び込むのは、カラー印刷された装幀です。装幀に魅力がない本は、手に取ろうともせず、通り過ぎてしまいます。どれだけのイメージを伝えているのか、読む側としてもチェックすることが必要です。

・ 写真は一瞬を理解する
 スペイン戦争の報道写真で一躍伝説となったロバート・キャパは、ノルマンディ上陸作戦の一瞬をフィルムに焼き付け、その名を不動のものとしました。報道写真に限らず、写真は一瞬に生命の輝きを封じ込め、すべてを語り尽くしてしまいます。

・ 印刷技術をチェックする
 印刷インクはマゼンタ(紅)、シアン(青)、イエロー(黄)、スミ(黒)の4色を混ぜ合わせ、ほとんどの色を表現できます。メーカーによっても色相は微妙に違いますから、原画を見る目を養って、忠実なレプリカであることを、確かめましょう。

・ 個展や作品展を覗こう
 本の装幀やイラストを描いているデザイナーは、多方面で活躍しています。個展や作品展をチェックして、こまめに足を運んでみましょう。デザイナーの思想やポリシーがわかれば、本を選ぶときの楽しみが一層増します。インターネットも覗いてみましょう。

・ 図表やグラフを読むコツ
 図表やグラフは、文章をフォローするためのものです。グラデーションなど技術を駆使しても、テキストを理解する役に立たなければ、図表やグラフの意味はないのです。どんなに凝っていても、煩わしく感じられたら、評価できないものと考えましょう。

 ビジュアルを理解するのは、基本的に感性です。後でリクツをつけても、どんどん本質から離れます。感性を磨くためには、本物に触れる機会を増やすのが一番です。

NDEX TOP