読み方の技術

上 級 編
26 リファレンスの限界を知る

 文章を読むときも書くときも、辞書や事典などのリファレンスは、とても便利で重宝します。わからない言葉を見つけると、すぐに辞書のお世話になります。言葉の意味では不充分だと、百科事典で調べます。新しい言葉なら、現代用語事典です。
 普通の本を読んでいるときより、リファレンスに書かれてあることは、間違いないと思いがちですが、実はここが落とし穴なのです。辞書にも事典にも、それぞれの執筆者が存在し、一人ひとりの主張や全体の編集方針があります。
 大槻文彦の『言海』や新村出の『広辞苑』など、1冊の辞書を編纂する努力は筆舌に尽くせるものでなく、その事業の持つ意味は決して軽々に論じられるものではありません。下中弥三郎が道を開いた百科事典の編纂にしても、一朝一夕には語れない事業です。
 それだけに、リファレンスの限界をわきまえて、有効に活用することが求められるのです。幾多の参考文献をひもとき、できるだけ客観的な記述を心がけながら、与えられた紙幅の範囲もあり、執筆者の判断により項目は完成します。それが精一杯なのです。
 辞書や事典を引くときは、その距離感を確かめて、過不足を自分で調整することです。専門的な分野であれば、リファレンスでは追いつかず、基礎文献を集めるしかありません。だからといってリファレンスが無用でなく、パイロットとしての役割を果たします。
 私たちが普通に本を読むときには、一般的なリファレンスで充分に間に合います。辞書や事典を引けば、すぐに納得してしまいます。だからこそ、リファレンスを100%正しいと、思い込まないことが必要なのです。フラットな目で読むことです。

・ 机の上に常備しよう
 国語事典と漢和辞典と英和辞典の三種類は、必ず机上に備えておきましょう。できれば百科事典や用語事典も、すぐ取り出せる書棚に揃えておきたいものです。本を読みながら疑問を感じたら、軽い気持ちで辞書や事典をコキ使いましょう。

・ 自分の判断で読もう
 辞書や事典に記載されている項目は、客観的事実から外れていませんが、微妙に主観を展開しています。どのくらいスペースを割いているか、項目そのものを採り上げているか、リファレンスを編纂した執筆者の意図によるものです。

・ 最新情報は求めない
 できるだけ正しい情報を提供する姿勢で編纂されていますから、評価が定まらず流動的な項目に対しては、採用が見送られるのが普通です。雑誌などで見つけた最新用語は、辞書や事典を調べても、本来の用例しか記載されていません。

・ 情報源を追いかける
 リファレンスを調べて、もの足りないと感じたら、情報源になる基礎文献を調べましょう。多少手強く感じるかも知れませんが、知識の源泉に触れるような感動を覚えます。

 そうは言っても、辞書や事典は有り難いものです。ときには先人の苦労に思いを馳せて、一つひとつの言葉を大事に扱いましょう。

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