上 級 編
24 行間の余韻を味わおう

 俳句や和歌の奥行きが深いのは、言葉で表現されない余白に、さまざまな意味を感じさせ、大きな世界を演出するからです。松尾芭蕉の山寺立石寺で詠んだ俳句などは、情景として映るのは一面に響く蝉時雨です。その鳴き声が大きいほど静寂が伝わります。
 こうした表現形式は、日本人には好まれています。山寺の孤立した静けさを表すのに、対照的な蝉時雨の響きを強く描写して、他に何もないことを暗示しています。敬語などにも見られるように、直接的な表現を避けるのが日本人の美学です。
 国際的なコミュニケーションの問題としては、いろいろな課題が残されているでしょうが、文化として捉えたときには、大切に守りたい日本人の感性です。日常の動作の中に、ふとしたことで宇宙を発見するのは、華道や茶道にも通じる意識なのです。
 短詩型の作品だけでなく、普通の文章を読むときでも、行間に秘められた思いを、どれだけ察することができるかで、読む深さは確実に異なります。相手を激しく批判するときさえ、シロクロつけずに悟らせるのが、日本人の書く文章の典型です。
 年長者からの手紙には、文面の裏側まで配慮して、真意を読みとる必要があります。成功を祝う言葉の陰に、自重を促す戒めが隠されていたり、厳しい叱責の奥には、大きな期待が宿っていたりします。察しが悪い人には、こうした表現は伝わりません。
 実用的な目的で本を読むだけでなく、ぼんやりとページを開いてみましょう。菜の花の咲き乱れる草原で、午睡を楽しむような無為の時間を、日々の生活の中に採り入れましょう。余韻を味わえるのは、気持ちの余裕があるからです。

・ 何が隠れているか
 オーウェンの『動物農場』やソルジェニツィンの『ガン病棟』は、政治権力を諷刺した小説ですが、直接的に批判の対象は描かれていません。作品全体が暗喩になっていることも、書かれた状況によっては考えられます。洞察力が求められるのです。

・ 文の真意を察する
 ビジネス文書では、督促状や抗議状などの文面でも、事後の関係を保とうと配慮しますから、ていねいな文が綴られています。しかし、その内容は、明らかに督促であり抗議です。柔らかな表現に惑わされず、真意を読みとらないと、タイヘンなことになります。

・ リラックスしよう
 言葉の意味を追っているだけでは、行間の余韻を味わうことはできません。穏やかな気持ちで、ゆったりと向き合えば、イメージが広がってきます。俳句や短歌の短詩なら、一首読むたびに目を瞑り、ビジュアルな映像を頭の中に描きましょう。

 キャパシティが大きい人ほど、文章の行間を読みとります。猪突猛進して目的を果たすだけでなく、道草する人生があることも知っておきましょう。

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