読み方の技術

上 級 編
23 レベルを判断する基準を持つ

 自分にとって読みやすい本が、レベルの高い本とは限りません。読みやすい本から読書生活をスタートさせるにしても、やはりレベルの高い本を読みこなせるようになり、人生や仕事で実力を身に付けたいのがホンネです。レベルアップを図りたいのです。
 基本的には、たくさんの本を読んで、表現形式の多様さを理解して、ボキャブラリーを豊かにし、読解能力を高めることが大切です。古典や名著として評価を得ている本は、長い風雪に堪えて生き残った本ですから、判断基準として考えるには最適です。
 その一方で、古典や名著は読者ニーズが薄くなり、新しい翻訳書が登場していない問題があります。『源氏物語』を読むにも、校注本より現代語訳されたもののほうが読みやすく、与謝野晶子や谷崎潤一郎の訳より、瀬戸内寂聴の新訳のほうが人気があります。
 名著と呼ばれるものの多くは、昭和初期に翻訳されたまま、新訳が登場していないため、言葉がゴツゴツしていて、私たちの感性には馴染みません。そうしたハードルを乗り越えて、エッセンスを吸収することも、本を読む楽しみと考えることです。
 新しく刊行されてくる本は、わかりやすさが一番大事です。難しいことを、難しいままで表現するのは、著者の怠慢と思われても仕方ありません。難しい内容を、どれだけ噛み砕いて伝えられるか、それが本に付加価値を与えると、書き手は早く気づくべきです。
 そのうえで、どれだけオリジナリティがあるのか、そこをきちんと読みとりましょう。少しくらい文章が下手でも、独自の発想と展開がある本は、レベルが高いと判断できます。新しい理論や形式に対しては、積極的にアプローチしたいものです。

・ どこまで行き届いているか
 細かい部分までフォローして、隙間を埋めている本は、書き手がテーマをよく理解し、伝えようとする気持ちが溢れています。わかりやすい表現ができるのは、著者に自信と裏付けがあるからです。くどいくらいに説明してある本は、読む値打ちがあるといえます。

・ 従来の論理を乗り越えたか
 無前提にオリジナルな意見を発表されても、どう位置付ければ良いのかわかりません。従来の諸説を踏まえて、アウフヘーベンした結果、新しい論理を展開しているなら、その値打ちは納得できます。どれだけ論理を積み重ねているかで判断しましょう。

・ どれほどの感動を与えたか
 読んだ後に心が震え、涙が止まらないような本は、世間の評価とは別に、自分にとっては価値ある1冊です。どこが心を震わせたのか、何度も読み直して、自分自身の感性を磨くことも必要です。喜怒哀楽にダイレクトに迫る本は、感性を高めるベースになります。

・ 文章の完成度が高いか否か
 日本語としての表現や言葉の選び方で、ひと味違う文章を理解するためには、エッセイの名手と呼ばれる人の本を、たくさん読んでイメージをふくらますことです。芭蕉のどこが凄いのか、わかるようになれば、文章を見る目が養われてきたのです。

 質屋さんは修業時代に、本物の宝石をたくさん見ます。そのことで真贋を見分ける目が鍛えられるのです。評価の定まっている本を、たくさん読むことに通じます。

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