上 級 編
22 ものごとを立体的に捉える

 お茶や海苔を入れる茶筒は、上から見れば円ですし、横から見れば長方形です。斜めから立体的に見たときに、初めて円筒とわかります。言われてみれば、簡単なことですが、私たちは意外と一方向からしか、ものごとを捉えないケースが多いようです。
 提出された企画書や報告書を読むときに、書かれた文章を素直に受け入れるだけでは、読み手としての見識が疑われかねません。一つひとつデータや資料を確かめて、着眼点が正しいか否か判断し、気になるところは必ずチェックするでしょう。
 それが、本という形になると、頭から鵜呑みにしてしまいます。手書きの文字と印刷された文字の違いはありますが、最近のパソコンやワープロを使えば、それなりに美しい文書は仕上げられます。器用な人なら、糊とホチキスで製本までするのです。
 だからといって、社内文書は社内文書に過ぎません。出版社から刊行されている本は、その道のプロである編集者が認め、値打ちがあると判断したからこそ、書店の棚や平台に並べられているのです。そうした意見は、ある角度からは正論といえるでしょう。
 しかし、企画書や報告書のクオリティに差があるように、出版物の内容もピンからキリまであるのは事実です。市場に50万点の書籍が流通しているのですから、1位から50万位までランキングしたときに、刊行するレベルに達していない本もあり得ます。
 同じ出版社から刊行されている本でも、編集者によってコンセプトも異なり、細かい部分の本づくりも違います。まして著者一人ひとりを捉えれば、同じ情報を手に入れても、それぞれ解釈は分かれます。判断する角度は一方向ではないのです。

・ ベースになる情報は信じられるか
 文章の前提になる情報に、どれだけ信頼をおけるのか、極めて重要な意味を持ちます。間違った前提から導かれる論証は、どれだけ精緻に組み立てられても、正しい結論には至りません。斬新なテーマであるほど、眉に唾をつけてから読むことです。

・ データや資料の数値は正確なのか
 科学的根拠のある推論でも、確率が50%なのか5%なのかでは、問題の大きさが違います。針小棒大にデータを扱えば、読者を煙に巻けますが、すぐにお里が知れてしまいます。データや資料の扱い方に根拠がない本は、文章からも説得力を感じません。

・ 文章展開の筋道は通っているのか
 最初に書かれてある主張と、最後に力説している主張が、途中のプロセスで説明もなく、いきなり逆転している本があります。読み手の力量の問題もあるでしょうが、基本的なところで論理が飛躍する本は信用できません。読者としては、振り回される気分です。

・ 書き手の価値観に納得できるのか
 社会規範に反せず人権を侵害しなければ、表現の自由は保障されていますから、さまざまな価値観に基づいた出版物が刊行されています。自分にとって納得できない本も、数多く書店に陳列されていると考えましょう。価値観の距離をきちんと測ることです。

 有名な著者だから、名の知れた出版社だから、無前提に正しいと考えるのではなく、自分の目で値打ちを確かめることが大事です。無名でも掘り出し物はあるのです。

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