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16 コミックスを読むポイント

 コミックスは英語のcomic stripの略で、帯状に連なった喜劇的なものという意味です。早い話が、ストーリー性のある漫画です。『鳥獣戯画』の昔から漫画は庶民に親しまれてきましたが、本という媒体の中でもコミックスのウエイトが高くなっているのが現状です。
 日本でストーリー性のあるコミックスが描かれたのは、田河水泡の『のらくら』や島田啓三の『冒険ダン吉』が最初でしょう。『サザエさん』など長谷川町子の作品は、その系譜を継ぐものですが、日本のコミックスを確立したのは、やはり手塚治虫でしょう。
 手塚治虫の初期代表作といえば『鉄腕アトム』ですが、『ジャングル大帝レオ』や『リボンの騎士』などで、少年少女漫画の世界は切り開かれました。後年には『火の鳥』や『陽だまりの樹』などにより、漫画が持っていた世代間の壁を打ち破りました。
 白土三平の『忍者武芸帳』や『カムイ外伝』から、大友克洋の『童夢』や『AKIRA』まで、コミックスを少年少女対象から解き放した作品は、今でも数限りなく登場していますが、コミックスを表現として認知させたのは、手塚治虫の功績といえるでしょう。
 アニメーションの技術の進化も力にして、コミックスは雑誌や単行本だけでなく、TVや映画でも多くの人に支持され、大きな文化勢力として伸長しています。1週間に500万部発行される少年週刊誌から、初版100万部の単行本コミックスが生まれます。
 文字だけの表現に比べると、コミックスの表現の可能性は多様であり、端的にデフォルメすることにより、形式もはるかに自由に表せます。読書の範囲からコミックスを取り除いたら、これからの時代の感性は理解できません。積極的に触れたい世界です。

・ テーマを読みとる
 大胆かつダイレクトに、コミックスはテーマを提示しています。友情、正義、修行など、小説や評論の世界では伝わりにくいテーマを、見事に描いている作品が多いのも一つの特長です。シンプルですが力強い表現形式が、読者の胸に迫るからでしょう。

・ 絵と文字を繋げる
 コミックスは絵本でもなく、戯曲でもありません。絵と台詞や擬音語の組み合わせで、イメージを表現しています。吹き出しの文字だけを追いかけたら、平板な内容しか感じ取れません。絵だけを評価したら稚拙なものもあります。両者を一体で受けとめましょう。

・ 雰囲気を共有する
 天衣無縫なシチュエーションに惑わされて、コミックスを敬遠する人もいますが、全体を貫く雰囲気に馴染み、楽しみながら読むことが肝心です。角を生やしたアニマル・ビキニのラムちゃんや、下駄履きで突然発砲する両津巡査を、素直な気持ちで受け入れることです。

・ 自分から飛び込む
 純文学や人文科学の本を読むのはカッコ良く、漫画を読んでいる姿はカッコ悪いなど、自分の内部にある知のヒエラルキーを突き崩しましょう。たくさんの人に受け入れられている表現形式を、フラットに捉えるだけでも従来の価値観を問い直せます。

 年代を重ねるに連れて、コミックスは意識的に接しなければ、遠ざかっていく世界と考えましょう。定期購読誌の中にいくつかのコミックス誌を組み入れることです。

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