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14 ベストセラーを読むポイント

 ベストセラーとは、ある一定期間に最も多く売れた本です。月刊ランクや週間ランクを、店頭で発表している書店もあります。内容の評価とは別に、読者に最もアピールしたという点で、注目すべき要素はたくさんあります。魅力があるから、売れたのです。
 ベストセラーを軽薄なものと決めつけて、絶対にページを開かない知識人もいます。自分を一段高い場所に置き、一般大衆を見下した発想です。メディアに踊らされたとしても、財布の紐を緩めて本を買ったのは、ベストセラーを支持した一人ひとりの読者です。
 電波媒体と企画段階からジョイントしたり、全国紙に大々的な広告を掲載したり、他のメディアと複合的にイベントを展開したり、その結果でベストセラーに押し上げた例もあります。しかし、同じことをやって、企画倒れになるものも少なくないのです。
 学術書や専門書に読者の目が向けられず、地道な出版活動が継続しにくい状況で、書くことは素人に近い芸人やタレントの本が、アッという間に数十万部売れてしまうと、ひと言はさみたくなる気持ちはよくわかります。文化レベルが低いと嘆きたくなるでしょう。
 だからといって、売れない本が高級というわけではありません。難しいテーマを、難しいままで伝えようとするから、ますます受け入れられないのです。文化のレベルは国民のレベルであり、ベストセラーを批判することは、天に向かって唾吐く行為と同じです。
 四の五のリクツを言う前に、ベストセラーのどこが支持されたのか、謙虚な姿勢で向き合うことが大切です。何の理由もなくお金を払うほど、日本人は裕福ではありません。素直に読者ニーズを知ることで、企画のコンセプトを理解しましょう。

・ 時代の空気を感じよう
 不況が長く続くと「節約」をテーマにした本が注目されたり、政財界で贈収賄事件が頻発すると『清貧の思想』が広く読まれたり、ベストセラーの背景には、時代に漂う匂いがあります。捕らえどころのない状況を、解き明かすキーワードがあります。

・ トレンドの最先端を読もう
 変化の激しい時代になるほど、対応の遅れは致命的になります。新しい発想やシステムを提示すると、間違いなく反応する読者層があります。層が厚いテーマであれば、ミリオンセラーまで成長します。ライフサイクルが短いものが多いようです。

・ 誰が時代のシンボルなのか
 山口百恵が芸能界を引退するときに発表した『蒼い時』は、彼女のファンだけでなく幅広い読者の支持を得ました。そのとき彼女は一人の歌手でなく、時代をシンボライズしていたのです。芸能人やタレントの本は、どんなに人気者でも、それだけでは売れません。

・ プロモーションを学ぼう
 初版部数の決定から広告宣伝のメディア戦略まで、本という商品をプロモートするやり方を勉強して、自分の仕事のプレゼンテーションに活かしましょう。ベストセラーになるような本は、細かいところまで神経が行き届いています。そこを見逃さないことです。

 ベストセラーは時代を映す鏡です。好き嫌いに関わらず、同時代を生きている雰囲気を、皮膚感覚で吸収することです。ミーハー感覚を忘れないことです。

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