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13 推理小説を読むポイント

 江戸川乱歩によれば、推理小説とは「犯罪に関わる難解な秘密を、論理的に解いていくおもしろさを主眼」としたものです。もちろん、これは本格推理小説と呼ばれるものに対してであり、ハード・ボイルドやミステリーに対しては説明不足のように思えます。
 チャンドラーの『長いお別れ』やフレミングの『ロシアより愛をこめて』も良いのですが、あまり範囲を広げすぎると頭の中が混乱しますので、ここでは江戸川乱歩の定義に基づいて、推理小説を「謎解きの文学」と解釈して進めます。
 1841年に発表されたE・A・ポーの『モルグ街の殺人』が、最初の推理小説です。最初の名探偵オーギュスト・デュポンも、このときに誕生しています。世界で一番有名な名探偵シャーロック・ホームズは、その後にコナン・ドイルの手で生み出されました。
 『Xの悲劇』『Yの悲劇』のエラリー・クィーン、『樽』のクロフツ、ミステリーの女王と称されたアガサ・クリスティなど、推理小説の名手は枚挙に暇がありません。灰色の脳細胞を刺激して、読者を思考の迷路に誘います。フレキシビリティが謎を解く鍵です。
 日本では、江戸川乱歩の『二銭銅貨』から、推理小説の系譜は始まります。横溝正史、小栗虫太郎、高木彬光、鮎川哲也らを輩出し、松本清張が登場する舞台の準備が整いました。エンタティナーはその後も数多く生まれましたが、清張の存在は超えられていません。
 『点と線』で推理小説は、社会小説として位置付けられました。密室のトリックだけでなく、犯罪の背景に潜む社会の暗部にメスを入れ、人間の切なさと哀しみを描いたのが、清張の作品の特色です。清張は推理小説の手法で、歴史へのアプローチも試みました。

・ 解決へのルートを整理する
 推理小説の醍醐味は、読者が名探偵になり、難事件を解決することです。与えられたヒントを組み立て、目的に至る方法論を探り出しましょう。見落としている点はないか、方向性は間違っていないか、冷静な判断力が求められます。

・ 犯罪心理にアプローチする
 推理小説のもう一人の主人公は、名探偵に追い込まれる犯人です。犯罪に至る心理プロセスは、犯人にとっては必然の帰結です。自分が犯人と同じ境遇であれば、どのような選択をしたのか、シミュレーションを展開し、人間心理の深層に迫ることが必要です。

・ 柔軟な発想でジャンプする
 問題を解決するキーワードは、言葉の森に隠されていることもあります。筋道立った思考回路を追うだけでなく、ときには飛躍した発想で、問題の本質に迫ることです。今まで築きあげたものをすべて捨て、まったく違った角度から捉え直しましょう。

・ 知のピラミッドを構築する
 推理小説は、基本的に著者と読者の知恵比べですから、さまざまな知的ゲームが仕掛けられています。発想や思考を競うだけでなく、博学多才な著者の罠に、読者が陥ることもあります。読み終わった後に、新しい世界に目が見開かれるのも、推理小説の楽しみです。

 柔らかな頭にならなければ、推理小説の犯人を追い詰めることも、仕事の問題を解決することも、なかなか思い通りになりません。ときには大きく深呼吸しましょう。

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