2002年「英語教育」3月号(大修館)の私の投稿文に対して,東京外語の先生からご教授をいただきました.(センター試験は生徒の〈英語力〉を検定したかを読んで「英語教育」2002年7月号)

 私は,自分がセンターの作問が間違っており,正解は「haven't」だと書いたつもりはありませんでしたが,.確かに,「納得できない」といったニュアンスはあって,その部分に音声学専門の立場からお答えをいただきました。
 斎藤氏が定期試験に出題し,不正解の学生に実際に発音してもらった,という記述を参考に,私はあらためて,あの問題について「英語力を検定しているのか」と観点から,投稿しました。
そこで,2002年9月号に投稿した次の拙文は,結構,時間と手間がかかりました。

「センター試験は<生徒の英語力>を検定したか」(その2)

斎藤氏が本欄において,強勢の問題を出題することは意味がある。thoughtに強勢が置かれることは,「機能語・内容語」「旧情報・新情報」のルールを教えれば,解答可能である,と指摘いただいた。もとより全国50数万の受験生を対象に実施された試験の解答に異を唱え,解答を覆そうとしたわけではない。そういう意味で斎藤氏の答えは模範解答といえる。一言だけコメントを付け加えるならば,氏は「『正解』はthoughtである」「(thoughtこそ)重要であり,はっきり聞こえなくてはならない」と断言する一方で,「否定形は母音を弱化せずに強くはっきりと発音することが多い。」「I haven’t thought about it.全体がJimの質問に対する答えであり,新しい情報と考えるべきである」といった留保をつけておられる。私の主張はhaven’tでもthoughtでもいいのではないか。また,実際には判然としないのではないか,というものである。

ところで,斎藤氏はこの問題について素晴らしいヒントを与えてくれた。実際に誤答した学生に対話を読ませ,その「(英語の読みの)不自然さ」を確かめるというものである。この4月より勤務校が変わったので,あらたにこの問題について調査をした。3年担当生徒136名にまず今年度本試,追試の発音,強勢に関する問題を解いてもらった。そして,当該の問題正解者10名(成就率7.4%)と問題は不正解であったが,定期試験上位者の10名の合計20名に次の対話を読んでもらい,録音した。 

Jim: What job do you eventually want to have?

Rie: I haven’t thought about it. Have you?

Jim: Yeah, I want a job that allows me to travel.

無作為に並んだ20名の読みの録音を英語科同僚の6名とALT,それに私の8名が聞き,「読みの自然さ」についてABCの3段階,haven’tthoughtのどちらに強勢を置いて読んでいるか,(A)haven’t (B)thought (C)判断できない,の3つで判定した。その集計結果は下のようなものであった。

生徒

合計

A

B

C

haven't

thought

?

22

6

2

0

2

1

5

×

22

6

2

0

1

2

5

×

20

4

4

0

4

2

2

×

20

4

4

0

5

1

2

×

19

4

3

1

4

1

3

×

19

3

5

0

2

1

5

×

19

4

3

1

5

1

2

19

3

5

0

2

1

5

×

18

2

6

0

4

0

4

×

18

2

6

0

3

0

5

×

17

1

7

0

3

0

5

16

1

6

1

4

2

2

×

15

0

7

1

3

1

4

15

0

7

1

3

1

4

13

0

5

3

3

1

4

11

0

3

5

2

0

6

11

0

3

5

6

0

2

10

0

2

6

6

0

2

10

0

2

6

3

2

3

9

0

1

7

4

1

3

表の説明(「読みの自然さ」についてA3点B2点C1点に換算し,それを合計し,高得点順に並べてある。生徒の○×は問題の正解,不正解。haven’t, thought, ?の数はそれぞれの職員の判断の総数。

8名の判断の厳しさ,甘さがあるのは当然であるが,8名中6名がAと採点した生徒の読みは高校生としては「自然」で,8名中1人もAと採点せず,7名がCと採点した生徒の読みは「不自然」だと判断してもよいだろう。前回はセンター総得点と当該の問題の相関を紹介したが,今回は実際の読みと答えについて判断したものである。thoughtを選んだことが,なんら読みの「自然さ」を検定していないのは,下位7名が問題を正解した生徒で占めていることで明らかだ。そしてそのうち3名は誰1人として,thoughtに強勢が置かれて読んでいる,と判断しなかったのである。この出題がいかに理不尽なものか,少なくとも本校の生徒からはうかがえる。「高校生としては『自然な』読みをしている」と判断された生徒が問題に不正解となり,3点減点され,場合によっては志望校の決定にも影響を受けたかもしれないのである。また,thoughtを選んだ生徒にはthoughtそのものの発音が出来ず,though, throughあるはsowsaw?)に近い発音をしていた生徒もいたことを付け加えておく。

斎藤氏はセンターの英語では高得点を獲得したであろう学生を指導しておられる。語学研究では最高レベルの学生たちである。是非,私と同じ手法で調査をしていただき,その結果を公表していただきたい。その上で,この問題の正解,不正解と読みの「自然さ」に私の小規模な調査と全く逆の結果になるのならば,この問題が発音問題として意味をなしているものと認めたい。