西表島にやって来れば、どこででも見られる亜壇(アダン)。タコノキ科の植物で、人間の頭大の果実は熟すれば、赤みを帯びた黄色になり、パイナップルが生えているところを知らない人は野生のパイナップルと間違えてしまったりします。
そんなアダンは昔から島の人々と切っても切り離せない大事な有用植物でした。例えばその根の繊維を取り出し、縄や籠を編んだり、葉を利用してパナマ帽を作ったりなどしていました。パナマ帽が全盛の頃、島には一時期青々と葉の生い茂るアダンの姿が見られなくなったほどであったらしいです。
また、こうした加工目的以外にも食用としても利用されてきました。ここでは、今も法事の時などに食されることのあるアダンの芯の採取の様子をご紹介しましょう。
オレンジに熟したアダンの果実。その昔、島が貧しかった頃、アダンは子供たちのいいオヤツだったそう。でも、すごく繊維質が強く、食べると言うより、しがんで果汁を吸うという感じ。味は腐りかけた柿みたい?
グネグネと伸びる幹の先端にだけ葉がついている。ここを少し根元のほうから鉈で切り落とすが、アダンの葉には鋸の様な刺があり、手袋と長袖の間の皮膚に無数の傷をつける。
長い葉が丸く束になっているアダンの新芽部分。鎌で硬い外の方の葉を落とし、長さを揃えて形成していくオバア。「昔は手袋なんてなかったからよ、娘らでアガ!アガ!言いながらやったもんよ」
きれいに揃えられたアダンの新芽。もとはこの20倍以上の大きさがあったが、捨てる部分が圧倒的に多い。「昔は葉も捨てんかったよ。きれいに刈って他に使ったさあ」ここまでに一時間を要した。重労働だ。
家に帰り、たっぷりの水を入れた釜に新芽をあけてオクドさんに火をくべる。なかなか薪に火が移らない。「アガヨォ!最近さぼってたからよ、ヒヌカン(火の神)様が怒って上手く焚けないさあ」
オバアは膝が悪いので長い間しゃがんでいられない。積み上げた薪の上に腰を下ろし、くべた薪に火が移るのを待つオバア。
茹で上がった新芽を水を張ったタライに上げる。タライにはこぼれてもどんどん水を足し、熱い新芽を冷ます。
茹で上がった新芽の上の方、硬い部分を更に手でちぎって柔らかい芯の部分だけ取り出す。茹でると刺は柔らかくなるが、巻いた葉の一枚一枚を手でちぎっていくのはかなりの面倒くささ。しかもすぐグチャグチャに潰れてしまう。
芯の根元の部分をナイフで削り取る。なんという地道で細かい作業なのかと思うぐらい。削った部分は鶏にやるらしい。因みに剥がれた新芽の根元部分をかじってみると、微かに筍のような香り。マヨネーズが合いそうだ。ただ少しアクがあるので一晩水に曝す方がいいようだ。
「オバア、どうやって食うのが美味い?」
「チャンプルがいいさあ。牛殺して、豚殺してチャンプルしたらよ、自分のシェエネンガッピ(生年月日)も忘れるさあ。これホントよ」
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