April 23 Gifu
Shoukawa


 夜10時

 ようやく、明日使うフライを巻き終えた。


実は前日の段階で準備は万端・・・の筈だった。
軽めの夕食を済ませ、天気予報を確認しがてら自分のホームページで昨年の釣行記を見ていると、早春の庄川では黄色系のフライに反応が良かった事に、出発直前になって気付いたのである。

「まいったな。こりゃ」
あわててタイイングデスクに向かう。一心不乱にフライを巻く。それを見て、妻が笑う。

「ホームページを持ってて良かったかな?」濃い目のコーヒーをすすりながら、一人つぶやく。

 1年を通じて、黒っぽいフライを好む自分のフライボックスに、明るい色調のフライは極端に少ない。
出発予定時刻を2時間オーバーして、どうにか黄色系カラーのパラダン・CDCダン・ソラックスダン・フローティングピューパ・ついでにヘアーズイヤーニンフを各3本ずつ巻き上げた。


昼間では考えられないほど空いている国道を、岐阜に向けて車を走らせる。

途中、2度コンビニでタバコを一服し、深夜2時前に白鳥に到着した。


「ここまで来たら、後は高速で荘川ICまで行くだけだ」
ところが、高速道路は工事中で朝の6時まで通行止め。「まいったな。こりゃ」フライの件も含め、どうも歯車がうまく噛み合っていない。

仕方なく、近くのコンビニでビールとつまみを買い、空き地に車を停めて遅めの晩酌。長時間の運転で疲れた体に、ビールがジワジワと染み渡る。

携帯電話の目覚ましをセットし、シートを倒して寝ようとするが、何度経験してもやっぱり車の中では眠りにくい。
虫の声も、車の音も、風の音もしない。

静寂。

「いい年して、こんな所で何やってんだか・・」

何となく不安で、そして寂しいような、猛烈な孤独感。でも、こう感じる瞬間こそが、実は結構好きな時間だったりする。
腕枕と窮屈に曲げた体勢が、うまい具合にフィットした。フッと眠りに落ちる。


ハッと目が覚める。朝の6時。目覚ましに勝った! 普段の仕事がある日なら、絶対こうはいかない。
買っておいたパンをかじり、コーヒーを飲んでタバコを一服。車外は想像以上の寒さで、一気に目が覚める。

 荘川ICすぐ下の道の駅に到着。気温2℃。日陰にはまだ雪が残り、遠くの山も雪化粧。約10ヶ月ぶりの奥飛騨は三重県とは違い、やはり雪国だ。
とりあえず、車であちこちポイントを回ってみる。この気温だ、魚が動き出すにはまだ早い。

車を走らせ川を覗き込むと、相変わらずクリアな流れがそこにあった。雪解けの水が流れ込んでいるためか、少し増水気味。

まだ早いのは分かっている。分かっているつもりだ。

しかし、はるばる遠くからやってきて、ただ川を眺めているなんて自分には出来なかった。

寝不足の筈なのに、さっさとロッドを繋ぎ、ウェーダーをはいて意気揚々と川へ降りる。

4月末なのにまだ解け残った雪が、この川が豪雪地帯である事を教えてくれる。
しばらくドライで釣りあがってみる・・・。

反応は無い。

ニンフを沈めてみた・・・。

やっぱりダメだ。水温がまだ低すぎるのだろうか?


石をひっくり返すと、羽化間近のニンフがウヨウヨ。それにしても、魚影が全く確認できない。
流れの所々では、#26ぐらいのミッジが水面近くを飛んでいた。

しばらく様子を伺っていたが、期待していたライズは一度も起こらなかった。
ところで、気になったのは川岸の様子。

遠目には、以前と大して変わらない感じなのだが、所々で護岸が崩れ落ち、木が根こそぎ倒れていたりする。


この川も、昨年の豪雨災害の被害を受けたのだろうか?

毎年良い思いをする上流のポイントを諦めて、下流へ移動してみる。

?・・ん??

何箇所かの橋の近くで、明らかに地元の釣り人と思われる団体が、椅子を持ち込んで話し込んでいる。竿も既に用意しているが、誰一人釣っていない。

一体何なのだろう?

牧戸地区まで下ってくると、そこには以前とは全く違う光景が広がっていた。広いチャラ瀬だった流れは重機で一本の細い流れに変えられ、その工事は未だ現在進行中のようだ。

今年は三重県宮川をはじめ、どこの川へ行っても工事の連続である。昨年の豪雨は、東海地方の渓流にとてつもない爪痕を残していった。

「この川もか・・・」
少しがっかりしながら、今度は上流の寺河戸川の様子を見に行く。途中、多数の釣り人が一箇所に固まって釣っていた。

道路から釣り糸を垂れていた二人組みがいたので、近くから様子を伺う。

すると、少し水深がある岩の近くに、ユラユラといくつもの魚影が見える。
サイズも25センチぐらいはある。何なんだこれは?もしかして昨日か今日に放流があったのだろうか。


その後、寺河戸川のさらに上流へ向かうと、橋の付近には必ず3〜4名の餌釣り師が陣取っていた。橋の真下以外は、魚がいないようだ。

しかし、よく見ると餌釣り軍団の固まっている橋のやや下流で、魚影が見える。さらにライズ!
逸る気持ちを抑えつつ、車に戻りロッドを持って、ライズポイントよりやや下流から入渓することにした。


何年やっていても、ライズを発見した時はドキドキしてしまう。

フライフィッシングというのは、本当に奥が深い。そして、いつも新鮮な喜びを与えてくれる。




この釣りに出会えた事を心より感謝・・




感・・・




か・・・・・












・・・・。

ブフッ!!






がっはっはっは! ちょ・ちょっと待て! なにをさり気なく、放送禁止用語級の立て札立ててるんですか!?

見た瞬間速攻で「CHIN-BOU-IWA(←ローマ字にする意味不明)なら、入口じゃなくてむしろ出口だろ!」とか突っ込んでしまった自分が怖い。


ガラガラガラガラ・・。

い・いかん! ちょっとお上品な釣行記に挑戦してみたけど、化けの皮が豪快に剥がれてきてる!

あまりにも気になったので、家に帰ってから調べてみると、飛騨荘川観光協会のホームページに詳しく載っていました。
なんと、観光名所だそうです。以下説明を抜粋。


”珍棒岩は古代から存在し、東に珍棒岩西に女岩あり仲良く存在してきたと言われています。
子供に恵まれない人、お婿さんに恵まれない人、夫婦仲の良くない人、
一度この珍棒岩にさわると、てきめんに御利益があると言われ信仰されてきた岩です。”






女岩のほうがスゲー気になる。


男女両方あるって事は、やっぱりあれですかね。祭りとかあるんでしょうか。年に一度、フンドシ締めた屈強な男共が、珍棒岩をワッショイワッショイと担ぎ出し女岩の中心目掛けてドーンと突撃

祭りのクライマックスには、突撃の衝撃に耐えて最後まで珍棒岩にしがみついていた男が、その年の福男になり「NO MORE 少子化!! NO MORE 過疎!!」と叫んでフィナーレを迎える。

全国から取材が殺到すると思う。是非実行しましょう。


ついでに看板も作り変えましょう。

うん、ユーモアたっぷりだ。あと観光協会の紹介文。
「子供に恵まれない人、お婿さんに恵まれない人、夫婦仲の良くない人・・・てきめんにご利益がある・・・」

全然ダメ。ありきたりすぎ。今日日、もっと分かりやすく、若者に強烈にアピールできないと、観光名所になんてなれない。
多少大げさに書いて丁度良いんです。

私がお手本を見せましょう。

”先端を一度触るたびに珍棒が5mm長くなり、横をさすれば直径が5mm太くなる。根元を叩けばED改善、願いを込めて祈れば持続力が5分アップします。また、特定の症状でお悩みの方が抱きつくと、一皮剥けます
また、女性が抱きつくとパートナーの一物がワンサイズ大きくなり、テクニックが飛躍的に向上します。しかし、サイズアップのご利益は年1回まで。EDと持続力のご利益は効果が1年ですのでご注意下さい。”



完璧。

これで毎年荘川村へ全国から観光客が殺到します。村役場が10階建てのビルになるほどの経済効果間違いなし!





で、何を書いてたんだっけ?(←オイ)え?ライズ?

キッチリ釣りました。そのまんま放流魚ですけどね。

ついでに捕食物を確認しましたが、ご覧のとおり。ごく僅かですが、メイフライがハッチしていましたので、フローティングピューパ投げたら簡単に釣れました。

ああ、やっぱりこういう釣行記のほうが書きやすい。真面目な文章は書いてると疲れる(汗)

一色川まで戻ってくると、場所取りしていた餌釣りの人が全員釣りを開始していた。今日放流があったのかもしれない。
しかし、気になったのが放流された魚。

どう見てもニジマス。庄川に来て3年目になるが、ここで虹鱒を釣った記憶は無い。
岩魚やアマゴの養魚場が被害を受けたのだろうか?

ここでも餌釣り師が固まってる下流でライズを発見。さっきと同じくフローティングピューパをキャストするとこれも簡単にヒット。

釣れてきたのは、なんとヤマメ。
岐阜ってアマゴの生息圏じゃないのだろうか?游漁証を買った店に置いてあった釣り大会のチラシには「ヤマメ・アマゴ釣り大会」とか書いてあったし、生態系とか考えてるんだろうか?

自主放流の関係で色々調べたりしてるので、かなり気になる。と思ってたら、庄川は岐阜県内の川でも、日本海に流れ込むヤマメ生息圏でした(汗)

ついでに、護岸が崩落している箇所が結構ある。上の写真なんか、道路と民家のすぐ下の護岸が流されてるので、多分、今年中に工事が始まると思う。そうなれば、多分釣りなんか出来ない。


写真見たらどこか分かる人も多いと思いますが、釣りやすく、数も出る区間なので本当に残念だ。

一応、魚は大量に放流されてるみたいですが、餌釣りの人が足に根が生えたが如く陣取ってますので、GW過ぎぐらいに出かけるのが良いかもしれません。
2年前は、綺麗な岩魚が沢山釣れたのに、まさかこんな事になってるとは。

あちこちで見かけた光景。こんな釣り方を繰り返していて、日本の渓流釣りに明るい未来はあるのだろうか?

珍棒岩で大喜びしている自分には、何をどうすれば状況が良くなるのか分からない。



まずは自分に出来る事。地元の、アマゴが姿を消しつつある川での自主放流活動。ボチボチ頑張ります。


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