機動戦士ガンダムSEED
FREEDOM

□キラ・ヤマト

 DESTINYではSEEDで心に傷を負った事であまり感情を表に出さず終始沈んでいましたが、今作では感情をむき出しにして本音を曝け出すところが見られて良かったです。ずっと溜めていたキラの気持ち、ラクスへの思いを知る事が出来ました。

□アスラン・ザラ

 今作のアスランは精神が安定して終始落ち着いています。何と言っても良かったのはキラに正面からぶつかりその本心を引き出させた事です。SEEDシリーズに於いてキラとアスランの絆と言うのは非常に重要なのですが、反面ドラマで掘り下げられる事はありませんでした。だからとうとうそれが中心に来た事や、キラを立ち直らせる役割がアスランである事が良かったです。
 ちょっと面白いのはキラとの喧嘩で、キラが必死に殴り掛かってきても全部捌いて一方的にアスランが殴っている事です。アスランと言えば生身の戦闘力も異常に高い訳で、そんな彼とキラが戦ったらこうなると言うのが存分に見せつけられました。
 気になった点としてはシュラを執拗に使えないと煽ったり、戦闘中に破廉恥な妄想をする事でした。どちらもアスランらしくなく違和感があります。

□シン・アスカ

 和解したシンはキラに懐くのではとファンの間でも予想されており、実際にドラマCDでその一端が垣間見えていましたが、今作ではまさにその思い描いていた通りの姿でした。パンフレットにある福田己津央のインタビューによると、キラに認められたくてキラの真似をして相手のコクピットを狙わない戦い方をしているらしく、もう最高に可愛いです。
 DESTINYから一貫して子供と言われていましたが、ミレニアムを乗っ取る時にルナマリアに悪戯を仕掛けようとするのも本当に子供らしくて無邪気でした。

□ラクス・クライン

 ラクスは以前よりキラの事が大好きでしたが、今回改めて其処がフィーチャーされ、そして彼女の思いが報われました。正直、オルフェの策もありキラとの関係に亀裂が入るところは見ていてもどかしかったのですが、それだけに救出されて思いが通じ合うカタルシスはありましたし、最終決戦に勇ましく参加する姿が良かったです。
 今回初めてラクスのSEEDが発現する瞬間がありました。これまでは目のハイライトが消えただけだったのでどちらなのか意見が分かれていましたが、正式にSEEDを持つ者と判明しましたね。

□カガリ・ユラ・アスハ

 DESTINYの終盤では扱いが悪かったカガリですが今作では特に不満はありません。リモート操作と言う形でアスランと共闘した事や、最後にお互いの気持ちが通じ合っている事が改めて示されたのは良かったです。
 ただ、カガリの演者が変更されていました。後任者の声も悪くなくカガリに合っていましたが、当然ながら前任者とは違います。やっぱり進藤尚美の声が良かったとどうしても思ってしまいますね。

□ルナマリア・ホーク

 シンとの関係が微笑ましくて良かったです。戦闘では汚名返上とばかりに核ミサイルの狙撃を見事に成功させました。

□ムウ・ラ・フラ

 出番はそんなになかったのですが、アークエンジェルが撃沈された時の「お前らあああ!」と言う叫びに怒りがこもっていて良かったです。

□ヒルダ・ハーケン、ヘルベルト・フォン・ラインハルト、マーズ・シメオン

 ヘルベルトとマーズは前半で死んでしまうのですが、何と言うかこの二人が死んでも反応に困ります。DESTINYで何の為に居たのかよく理解らない人物でしたからね。短い出番でしたがそれでも台詞の量はDESTINYより多かったのではないでしょうか? 死んだ事で多少は存在意義が生まれました。ヒルダが言及して仇を取ってくれたのはせめてもの救いです。
 ヒルダは幼いシンやルナマリアに対する年上のパイロットとして良い役割でした。

□メイリン・ホーク

 「見ているだけの方がよっぽど辛い、って事もあるんですよ」が全てですね。
 様様な経験を経てもう姉へのコンプレックスも無くなり、立派な自立した女性へと成長していました。とても頼りになります。

□アグネス・ギーベンラート

 キラに迫って拒まれたらシュラに靡いて裏切る、この流れで所謂クェスポジションと理解し、今作でも桑島法子が死ぬと確信しました。ところが予想に反して生き残りました。
 正直、本筋に絡まず存在がノイズだったのですが、入場者特典小説『月光のワルキューレ』を読むと理解度が段違いに上がりました。恋人に拘っていた理由、シンを子供と軽んじていた事、そんなシンを恋人にしたルナへの見下し、ルナから人の恋人を奪うと言われた事、それらの意味が全部理解ります。はっきり言ってこの小説を読んでから映画を観た方が良いくらいです。これを踏まえた上ですと映画の結末も納得出来ると言うか、ルナとの関係も魅力的になりました。決して仲が良いとは言えないけれども今後も腐れ縁として続いていくでしょう。面白い人物です。

□オルフェ・ラム・タオ

 福田己津央は明るいキラと評していましたが、あまりそんな感じはしませんでした。陰湿ですし、抑抑キラ自身が本来は明るい性格です。
 ラスボスとしての魅力はそんなにありませんでした。これは台詞回しが凡庸であった事も一因ではないでしょうか。思えばガンダムの歴代ラスボスでも高い評価を得ているラウ・ル・クルーゼですが、彼とて物語の大半ではあまり目立ちませんでした。それが最終決戦にて演者の熱演によって存在感が増したのです。そしてそれを彩ったのが両澤千晶の脚本です。叶わぬ話ですが、もし両澤女史が担当していたら、オルフェの印象も変わったのではないでしょうか。
 最後にキラはオルフェを殺しましたがこれには思うところがないでもありません。問答無用で殺してしまうのではなく対話での解決を目指すべきだったのではないでしょうか。どうしても殺さないといけない相手として描写は出来ていなかった事も、ラスボスとして不足を感じます。
 オルフェの発言で『よまよいごと』と言うのがありましたが、『よまいごと』の間違いですよね? 演者もディレクションする側も誰も疑問に思わなかったのでしょうか?

□サイ・アーガイル

 サイが画面に映って喜びましたし喋ってくれる事を期待したのですが台詞はありませんでした。それなりに画面に映る時間は長かったので残念です。「キラ・・・」の一言で良いからほしかったです。ミリィと一緒にカガリの戦闘に同行していましたから扱いは良かったのですがね。

□ミリアリア・ハウ

 公開前にTwitterにてカウントダウンイラストが描かれたので登場はするだろうと思いました。その割に中中出ずやきもきしましたがちゃんと出ましたし少ないながら台詞もありました。ディアッカへの言及がなかったのは残念でしたがそんな場合ではありませんでしたからね。

□カズイ・バスカー

 1カットだけ登場すると事前に福田己津央の口から明かされていました。何も知らずに劇場で見て驚きたかったので余計な事を言ったと思いましたが、これは知らなかったら気付かなかったかもしれません。

□アンドリュー・バルトフェルド

 予告や公式サイトでも見かけないし、演じる置鮎龍太郎が主演していない事を示唆していたので絶望視していましたが、案の定出番はありませんでした。正確にはカズイ同様台詞無しの1カットのみです。エターナルが出た時は乗っているのではと期待してしまいましたよ。残念です。クーデターを鎮圧する為にバクゥが突入する場面があるのですが、それを指揮していたら嬉しかったのですがねぇ。

□シホ・ハーネンフース

 台詞があったので本編で初めて喋ったと喜んだのですが、キャストクレジットに名前はありません。本人ではなく別人による兼ね役でしたか。

□アビー・ウィンザー

 何故か担当声優が変わっていました。本来の演者はヒルダ役で今作にも出演しているのに何故でしょう? 僅かしか台詞がないのに態態新しい方を起用したのが摩訶不思議です。

□アコード

 コーディネイターを超える種として登場しました。心を読んだり操ったりとオカルティックな力がありこれまでのSEEDらしくなく違和感は強かったです。キラ、アスラン、シンが揃ったらどんな相手なら敵になるか考えるのに腐心していたので、その回答がこういう特殊な能力なのでしょうね。

□ライジングフリーダム

 前座である事は見透かされていましたが思ったより早く徹底的に破壊されました。ただそれまでの戦闘では存分に暴れまわりましたし格好良かったです。特にイモータルジャスティスとビームサーベルの同時突きでデストロイに止めを刺すところは、パイロットがキラとシンと言うのも含めて熱かったです。

□イモータルジャスティス

 ライジングフリーダムと同様です。何でも当初のデザインオーダーでは同型機の装備違いだったのが、大河原邦夫の筆が乗って別の機体になったとの事なので最初から軽い扱いの予定だったのでしょうね。

□デストロイ

 景気良く出て来ましたね。見事な暴れっぷりでした。半壊状態の機体を使っているのも現地運用と言う感じで良かったです。

□ウィンダム

 ウィンダムがこんなに活躍しているのを初めて見ました! 非常に格好いいデザインなのに不遇だったのでやっと報われましたね。

□バクゥ

 クーデターを鎮圧する時にのしのし歩いていたのが可愛かったです。

□ゲルググメナース

 待望のSEED版ゲルググです! SEEDにジオンMSリメイクが登場するのは快く思っていませんが、それはそれとしてドムまで出たのにゲルググだけ省かれた事には不満がありましたから満を持しての登場は嬉しいです。ただ顔があまりゲルググらしくないのですよねぇ。ゲルググと言うかマラサイです。マラサイはマラサイで好きなのですが。ゲルググにあまり似ていないのは不満ですが、全体的にはザフトMSのラインを踏襲していて好ましいです。前半ではルナ、ヘルベルト、マーズ、後半ではヒルダが搭乗しましたから終始出番はありました。

□シヴァ、ルドラ

 見落としたかもしれませんがビームマントがあまり戦闘に活用されていなかった気がしました。シヴァの胸に搭載されているのが強力なビームとかではなくニードルガンなのが生生しい殺意がありました。

□ズゴック

 まさかのズゴック! それもアスランが乗っている! シンが意外な機体に乗ると言われていましたが、アスランの方がよっぽど意外な機体に乗っていますよ! アスランが乗ったズゴックが真面目に活躍しているのが可笑しいです。ザクやゲルググはザクウォーリア、ゲルググメナースと新たな名前が与えられているのですが、ズゴックはそのままズゴックなのですよね。
 そしてアスランはまさか最後までズゴックに乗るのだろうかと訝しんだところで光り輝き、「すわ、また自爆か?」となったところで何とズゴックの中からジャスティスが出て来ました! いや、どういう事ですか!(笑) こんなの予想出来る筈がありません。ネタバレを踏まずに観に行って良かったです。
 ズゴックが飛行ユニットと思しき翼を背負っていたのですが、これはそのままジャスティスのバックパックなのですよね。どっちみちズゴックの中にジャスティスは物理的に無理があるのに、此処だけ妙に律儀です。そしてズゴックに角が生えていまして、これはオリジナルには存在しない指揮官機のアンテナを表現したと思ったら、実はジャスティスの角がそのまま出ているのでした。これは上手な処理です。
 ズゴックについてデザイナーの大河原邦夫はジャスティスが着込むアーマーとして表現しようとしたのを、福田己津央が飽く迄ズゴックそのままにするようにと指示したとの事でした。これはどちらの言い分も分かりますなぁ。デザイナーからすると整合性を大切にしたいでしょうし、演出家としてはサプライズにしたいので見た目で予想されたくなかったのでしょう。

□カルラ

 ラスボスです。悪いデザインではありませんがプロヴィデンスほどのインパクトはないです。ザフトングを出してくれた方が良かったですなぁ。
 ただストライクフリーダムを元にして作られたであろう武装構成が、(仮面ライダーで言うところの)アナザーストライクフリーダムと言うべき存在なのは魅力的です。フリーダムにとって最強の敵がフリーダムと言うのは相応しい相手です。

□デュエルブリッツ、ライトニングバスター

 インパルスと同じやり方でデュエルとバスターも出せないかと思っていたら期待通りに登場しました。しかも映画を観ている時は気付かなかったのですが新型になっています。福田己津央は旧型のままで良いと考えたそうですが、若いスタッフが新型をデザインしたとの事です。デュエルなんてブリッツの名を冠しているのが泣けま・・・うん? ブリッツデュエルではなくデュエルブリッツなのですか? それは新型デュエルではなく新型ブリッツでありませんか?
 ディアッカがバスターを気に入っている発言をしたのは、本編で言っていた事を踏まえていますね。

□インパルスSpecU

 ブラスト、ソード、フォースと全ての形態を見せるのは、仮面ライダーが映画でフォームチェンジ祭りをする様な楽しさがあります。ソードとブラストのカラーリング変化がより大きくなっているのは分かり易い差別化です。
 デスティニーからのデュートリオンビーム給電はエモーショナルでした。

□マイティーストライクフリーダム

 ストライクフリーダムとプラウドディフェンダーが合体した最強形態と言うべき機体なのですが、完全な新型フリーダムを期待しておりましたので少し残念でした。抑抑ストライクフリーダムはフリーダムと比べて不満が皆無とは言えなかったので、今回こそこれぞ最強最高フリーダムの決定版を出してほしかったです。
 ただマイティーストライクフリーダムが格好悪かったわけではありません。ハイメガキャノンこと額のディスラプターやらよく理解らない雷攻撃やら凄そうではありました。

□デスティニーSpecU

 デスティニー自体は好きな機体ですがフリーダム同様に新型を期待しておりましたので、カラー変更のSpecUだったのは残念です。デスティニーと言えば血の涙を流しているのが最高に格好良いのですが、シンの変化に伴って爽やかな顔立ちになったら絶対に感動したのですよねぇ。それに高エネルギー長射程ビーム砲の名前やデザインも変えてほしかったです。
 しかし活躍については文句なしです! アロンダイト、高エネルギー長射程ビーム砲、パルマフィオキーナ、フラッシュエッジとあらゆる武器を使いこなしますし、初めてデスティニーの高機動が描写されましたし鬼神の如く大活躍でした! 一番の衝撃は分身殺法ゴッドシャドーの如く分身をした事です。分身其其が別の動きをして攻撃しているのですが、一体どういう事ですか? DESTINY当時からの不満がやっと解消されました。

□アークエンジェル

 不沈艦アークエンジェルがとうとう撃沈されたのは少少ショックでした。アークエンジェルはホワイトベースの色が強くてSEED世界に馴染んでいない感がありましたが、それでもこれだけ長く活躍を見守って来ましたから愛着がありました。

□ミレニアム

 新造戦艦でスーパーミネルバ級だそうです。ギミックが豊富で良かったです。

□クサナギ

 クサナギはローエングリンを四門も搭載しているのですが、大体「陽電子砲が効かない!?」と言う役割でした。しかし今回はちゃんとクサナギのローエングリンが効果を発揮していました。

□ニコルの戦術、戦術バジルール

 ファンサービスですね。戦術バジルールはともかく、ブリッツのミラージュコロイドを活かすのは別にニコルの戦術でも何でもない気がします。

□レクイエム

 レクイエムで人を殺す時の描写がより残酷になっていました。

□ステラ

 シンの中にある闇としてステラが出現しましたが、その描写がギャグだったのは好きではありません。しんみりさせる方向が望ましかったです。

□挿入歌

 本当は新曲が良かったのですが、Meteorはそれはそれでやっぱり盛り上がりますね。
 他に中島美嘉の新曲がありましたが、これは主題歌を担当した小室哲哉がもう一曲作りたいと言い出したそうで、そういう気持ちが嬉しいですね。
 EDでSee−Sawの復活が実現したのでFictionJunctionYuukaも復活してほしかったのですが、こちらは残念ながら叶いませんでした。

□オルフェを殺害

 ラクスが説得する素振りだったのでキラが問答無用で殺した事に若干戸惑いがありました。オルフェ自身は所業からしても殺されてしかるべきではありますが、去迚キラが何の躊躇も無く殺すと言うのは如何なものでしょうか。

□総評

 戦闘は充実しておりデスティニーを筆頭に見たかった活躍が見られ、総合的には大変面白い映画でした。見終えた時の満足感は非常に高く、長年待ち続けたSEEDの映画を観る事が出来て本当に良かったと心から思えます。
 ただSEEDシリーズの脚本家であった両澤千晶の不在をまた大きく感じたのも事実です。先ず過去の作品ほど印象に残る台詞がありませんでした。SEEDの台詞回しは両澤千晶ならではだったのですなぁ。それに最終決戦で稍ギャグにはしったきらいがありましたが、これも両澤千晶が居たら違った気がします。福田演出と両澤脚本が合わさったのがSEEDだったのですが、本作は(後半で特に)福田色が強くなりすぎており嘗てのSEEDとは違うと思わされます。両澤千晶が存命だったら、とは叶わぬ願いですが、せめて両澤千晶の弟子を自認する吉野弘幸に脚本を任せられなかったのでしょうか? そうしていたらもっと違っていたと思います。どうしても従来のSEEDらしさから離れてしまったのが残念な点であります。但し自分の好みを別にするとこれは必ずしも悪いとは言い切れません。本作が公開されて盛り上がっているのはこの福田SEEDだったからと言うのもあるわけで、何が正解なのかは難しいです。
 面白かったけれどもっと前に作られていれば、そんな風にも思ってしまう複雑な作品です。またガンダムの映画となるとやっぱり期待するのは新型ガンダムなので、フリーダムやデスティニーの新型が出なかった事も致命的です。

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(24.02.25)