『クレヨンしんちゃん モーレツ! 大人帝国の逆襲』 − 2001/12/15


 なかなかビデオソフト化しなかったが、やっとなったので
『クレヨンしんちゃん モーレツ! 大人帝国
の逆襲』をレンタルしてくる。
「クレヨンしんちゃん」というと子供向けアニメと思われる方も
多いし、実際TVシリーズなどは私も見てはいないが、映画は別。
 実はTVで映画版が放送された時になにげなに観てハマッて
しまった私ですが、とにかく制作スタッフが映画が大好きなのが
伝わるくらいに日本だけでなく、ハリウッドそして香港映画等の
エッセンスを取り入れたエンターテイメントしている映画なんですよ。

 これに比べたら『メトロポリス』なんてゴミです。
『ポケモン』なんざ映画じゃありません、あんなの。
『ドラえもん』が子供に比重をおいているのと違って「しんちゃん」の
場合は明らかに大人の観客への比重をかけているのだが、特に
この最新作は
「いいのか? ここまでやっていいのか?(汗)
 っていうか、コレを観た子供は何を思うんだ??」

 と心配になるくらいのテーマ性を入れてきたんですよ!

▼ 
 大阪万博をメインモティーフにした20世紀博覧会に大人達は子供を
ほったらかして夢中になっていたが、それは秘密組織「イエスタディ・
ワンス・モア」の陰謀だった。リーダー・ケンとチャコの狙いはこの日本を
かつて未来に夢と希望があった20世紀…昭和40年代へと戻すべく暗躍
をしていたのだ!


 … ってのがまぁストーリーの流れ。

そこに提示された「時代」「人達」はヒロシを泣かせ
「なんでこんなに懐かしいんだ! このままじゃ頭がおかしくなりそうだ!」
 と叫ばせる。その涙さえもよおさせる郷愁の対局に位置するのが、自分達も
含めた、自分達が築き上げてきた「家族」、ってのは… この「時代」「現代」に
対するテーゼたり得ているのではないだろうか。
 そして、

==(ここからネタバレなので注意)=======

 事が失敗に終わり、自殺しようとしたケンとチャコに対して
「ずるいよ!」
 としんちゃんに言わせるあたり、ただの懐古趣味でもなければ今の大人達へ
の言い訳でも終わらせぬ。
 もっとも、
「ずるいや! おとなだけでバンバンジージャンプをしようとするなんて! オラもするぞ!」
 ってなオチをつけるのだから辛気くさくも無い。

 また、ラストでかすかべ町へ戻る登場人物達のBGMが吉田拓郎で、しかも

 私は今日まで生きてきました…

 という歌を使うってねぇ…
過去への郷愁の道具としての筈だった夕日の中で、それぞれの家に帰る、明日
への象徴も含めてあの歌が流れるんですよ。だけどそれは必ずしも、全ての登場 人物に
とって幸福な事じゃぁないし、解決でもなければメデタシメデタシでも無いんですよな。でも、
だからこそ、この歌が苦く効いて くる巧さったら!


 ========(ネタバレ終わり)======

 確かに、我々にとっての「現代」とは回帰、懐古すべき場所であるかどうかは
わからない。かつての… それこそ大阪万博の頃のようにまだ未来が夢と希望と、
そして発展の可能性のあったものでは無かろう。

 物の繁栄というよりも氾濫は、例えば私の子供の頃はまだ火鉢があった。TVは
わざわざ「カラー」とつける必要があった。ボテトチップスも日清のカップラーメンも
私の生まれた後に出来たものだ。

 物は無かったが心が豊か豊かだった時代、と言う人も決して少なくはないが、だが
それだけでいいのか? それを言うだけでいいのか? 時代が変わろうとも、続いて、
変わらぬものはある筈じゃぁないですか? そして造り上げるものではないんですか?
 たとえばそれは「家族」も…
 
 というメッセージだと思うんですが…
これを、理解出来る「大人」が何人いるのかは解らない。それこそ懐古趣味のうわべで
喜んでる… それこそ冒頭のシーンのようになるだけかもしれない、ってのを承知して
いて、それでも自分達が思う、自分達のメッセージ、テーゼを盛り込みつつも、こんなに
エンターテイメントに針を振った映画って… 最近の日本映画にゃぁ無いですよ。

 そりゃぁまぁ今回は子供にとっては辛い、と言うかワケわかんない映画になるんだろう
けど、だけど自分が子供の頃の事を思い返せば、こういう、どこかで子供を無視してる
作品って、ずっと印象に残るんですよね… まぁ、それも人それぞれですけど。

 泣いたり、喚いたり、怒ったり、絶叫したり、説教しなけりゃ伝わらない事なんて実は
そんなに無いんですよ。でも、それが「型」、「そうするものだ」と思っている製作者連中の
何と想像力の貧困な事か! そんなのを軽やかに飛び越えて笑わせてしまったこの映画
って、本当にいい作品だと思いましたよ…


 でね、もし時間があられる方で、こんな駄文ででも興味を持たれた方は観ていただけ
ませんか? 時間の損はしない、と思います。基本的には笑える作品ですから。

 そして既に観られた方がいらっしゃいましたらば、感想とか教えていただけませんか?


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