《コラム》父は荷車、息子は果物?
──ロビンたちの本名の由来に迫る!
攻略本などで明かされている設定では、ふたりのロビンの正体はヤーマスのパブ「シーホーク」で働く給仕とマスターであり、彼らは親子、名前はそれぞれライム(息子)/トラックス(父)であるとされています。
……しかし、ここで注目されたいのが、彼らの名前。
「ライム」「トラックス」どちらも共に英語の一般名詞であり、人名として使用することはあまり一般的ではありません(憶測)。
何故、彼ら親子にはこのような名前が付いているのか? そしてその名が意味するものは何なのか?
今回も、そんな素朴な疑問を 無駄に 追究してみましょう。
1)まずは直訳だ! 「ライム」英語でどういう意味!?
ではまず、息子「ライム」君の名前検証から。
攻略本(ロマンシングサ・ガ3 基礎知識編)によると、名前の綴りは「Lime」とあります。引っかけ無しの直球です。
綴り違いに「rhyme」と書いてライムと呼ぶ言葉もありますが(「韻」という意味があるようです)、今回は参考資料に従って「Lime」で調査を進めて行きましょう。
ここで早速、当方がかつて高校を卒業した家族から掠め取った英和辞典(ショボ)の出番です。
【lime(名詞)】
1:ライム(ミカン科の低木、ライムの実)。
そのままじゃァー!!!(叫)
父「お前の名前はね、果物のライムから付けたんだよ」
こんな投げやりな説明ではいまどきの子供は到底ついてきません。
息子「どうして果物のライムなの?」
父(酒場経営)「そうだな……たまたまそこにあった商売ものがライムだったからかな」
完。
……いや……ありうるか……
本当にこんな理由だったとしたら息子が自閉的に育つのも無理はない気がします。
これで終わってしまっては元も子もないので、2番目の意味を調べてみることにしましょう。
【lime(名詞)】
2:石灰。
別の意味でそのままじゃァー!!!!
こんな燃え尽きた名前(偏見)を息子に付けるようじゃシーホークの運命も先が知れてるゼ!!(失礼な)。
2)くそう! それなら「トラックス」はどうだ!!
気を取り直して父上の名前「トラックス」を調べてみます。スペルは「Trucks」とありますね。
英和辞典様のお力をふたたび拝借すると、予想通り「truck」しか載っていません。「トラック」ではあまりにも語呂が悪いので、「s」を付けて人名らしさを表現したのでしょうか。
【truck(名詞)】
1:貨物自動車、トラック。 2:トロッコ。
【truck(動詞)】
1:物を(トラックなどで)運ぶ。
息子に負けず劣らずの直球。
ロマサガ3世界の自動車といえば、メイドバイ教授のミョウチキリンなマシンくらいのものでしたので、お父様の名前は「トラック」から来たものではなさそうです。
「トロッコ」いわゆる運搬用の手押し車をもじって付けたものとも考えられますが、鉱山のあるランスやミュルスならともかく、果たして港町のヤーマスで、こんな名前を付けるものかどうかが少々疑問です。(←そこまでリアリティを追求するか!)
……ああ、ヤーマスにも塩鉱があるな。岩塩の運搬にもトロッコを使うのでしょうか。
また、ニアピンの「tracks」には、「線路」「航路」「人や動物の通った跡(轍)」などの意味があります。
3)もうちょっと詳しく調べてみよう!
やはり中学生御用達の初級英和辞典では、データの調達に限界がある!
と言うことで、当方、会社所蔵の英和辞典をコッソリ拝借(職権濫用)。おもむろに「Lime」を検索します。
おお! 今度はさすがに通人向け、6つも7つも項目が記載されていて、かなり期待できる予感ですネ!
【lime】(名詞)
3:とりもち。
【lime】(動詞)
1:〈人を〉罠にかける。
………………
……帰ります。(どこへ)
口直しにお父様の名前でも調べてみることにしましょう。こちらは……
【truck(名詞)】
2:交易品。
【truck(動詞)】
2:交易をする。
なるほど、こんな意味もありますか。いかにもヤーマスらしいですね。
しかしさらに驚いたのがこの後の項目です。
【truck(名詞)】
2:(船などの)檣冠。
読めません。
まあ、ちゃんと「しょうかん」とルビが振ってあったのですが。
この英和辞典、図解入りでバッチリ説明する気合いの入れようで、それによると「(船の)マストの先端にある木製の飾り」を意味するようです。何のためにある部品なのでしょうか。旗でもくくりつけておくのか?
しかしこのふたつは、なんとなくトラックスの父が貿易商や船乗りをしていたことを連想させます。どちらもヤーマスでは一般的な職業のようですし。
見張り台に立つことが多かった祖父が、いつも眺めている檣冠にふと目を止め、息子が生まれついての船乗りであるように名付けた……など、ちょっとドラマチックではありませんか。
父(少年時代)「親父、俺の名前はどうしてトラックスって言うんだ?」
祖父(健在)「そうさな……たまたまいつも仕事で眺めてたからだな」
すみません。冷静に考えるとライムと同レベルでした。
4)まだあるのか!? 「ライム」に隠されたもうひとつの意味!
……いいかげん止めときゃいいのに(ボソリ)
という脳内神の声は迷惑メールと解釈して無視。
さて、石灰やらトリモチやら散々な意味を発掘する羽目になった「lime」ですが、実は他にも意味があります。
なんと英国では、あの菩提樹(ぼだいじゅ)のことを「lime」、または「linden」と呼ぶんだとか。
菩提樹とは言っても、お釈迦様がムチャリンダに見守られながら悟りを開くべく結跏趺坐していた方の奴ではなく(メガテン風味)、一般的には西洋菩提樹(もしくはリンデンバウム)と呼ばれるシナノキ科のものをさします。シューベルトの曲でも有名なやつですね。
ちなみに東洋の菩提樹はクワ科で、英語では「bo tree」「peepul」などと書く別物なのだとか。――おお! なんだかやけに学術的になってきたじゃないか。
西洋菩提樹には何だかいろいろ種類があるようで、樹高が調べる文献ごとにばらばら(低:6〜8m/高:40m前後)なのが植物学スキルゼロの当方には気にかかりますが、ともかくそのどれか(あるいは全部?)をライムと呼ぶのは間違いないようです。
さらに、ヨーロッパでは古来より聖木とされ、ドイツやオーストリアでは街路樹として親しまれている……
…………ドイツ?
ドイツといえば、ロアーヌの住人はみんなドイツ名だったな……
そういえば街並もどことなく荘厳で中世のドイツ風だ(出鱈目言うな)。
ドット絵に描き切れなかっただけで、実はあの街の大通りには菩提樹が立ち並んでいるのではないだろうか。
いや立ち並んでいるはずだ。立ち並んでいる。むしろ俺は立ち並んでいるのを見た。
そうか。謎はすべて解けた。
のちにライムの母となる女性は、実はロアーヌからの移民だったのだ。
ヤーマスでトラックスと知り合い、一児をもうけると、
彼女は故郷ロアーヌの街を懐かしむ意味で、
また息子が菩提樹のような大きく暖かい存在に育つことへの願いを込めて、
その子に「ライム」と名付けた。
決定。
残念ながら菩提樹に似たのは図体のでかさだけのような気もしますが、これですべてのつじつまが合います(お前だけだろう)。
当方はより一層深い 妄想狂への 思索の扉を開くことに成功しました。
5)余談――まだやる気か!!
余談その1。
果物の「ライム」を日本語で表した言葉というのは存在しないのでしょうか。
天下の広辞苑で調べてみても「ミカン科の常緑低木」という当たり障りのない言葉ではぐらかされるばかりで、日本語の名前が存在する気配はありません。
ならば漢字の楽園中国ではどうだ! とあちこちのHPを巡ってみたところ、iMacの「ライム」が「莱姆緑」と訳されていたのには相当ヘコみました。どう見ても読みがそのまんまです。
「青蜜柑」とか「緑柑橘」とか、何かないのでしょうか。……ないか。キャベツだって「大葉玉」とは言わないもんな……。
余談その2。
不思議なことに、英語の一般名詞をそのまま名前に使用している人間キャラは、ライムとトラックス、それにグレートアーチの海賊2名しか居ません(タチアナは偽名なので除外)。
ブラックとジャッカルは通り名かもしれませんが、この世界の港町には、縁起を担ぐ意味で、人名に一般名詞を付ける風習があるのかもしれません。
サンプルがたった2名ではどこまでも妄想の域を超えませんが……。
ちなみにドフォーレはどうやら「de forest」をフランス語読みにした名前のようです。
なぜフランス語!? 気分か!? 単に開発者の気分なのか!!?(真理)