<小説 編>  2009年3月10日 日記より


最初、映画で書いてたんだけど、 
何か、やたら原作話が長くなったので、 
いっそ小説編で。 
最近、質の高い本を紹介してもらったのもあって、 
ちょっと熱がこっち方向に。 



モンテクリスト伯 アレクサンドル:デュマ 

スーパー娯楽大作。 
あまりにも美しい伯爵の復讐劇。 
幸せの絶頂から突き落とされた若者の物語、 
誠実な青年である彼の怒涛の人生を暖く見守る 
手に汗握る王道・・・・・・と思わせて、 
舞台は一転、妖艶なモンテクリスト伯爵登場と、 
見事な展開の裏切りが冴えます。 
華麗なるパリの社交界における芸術的な仕掛けの数々。 
長編ですが、全くブレのない究極の世界観小説です。 

そして、一貫して病的で冷酷な伯爵でありながらも、 
アルベールとの嘘のない友情。 
これが伯爵を一言で片付けられない実に奥の深い 
魅力的な人物を描ききっております。 

ストーリー構成という意味で、 
これ以上の物にはまだ出会ってません。 


大地 パール・バック 

月並みな言葉ですと、"人生の書"でしょか。 
冗談抜きに、こういう衝撃に出会えるから 
小説の世界は奥が深い。 

中国の貧しい農家から始まる激動の人生を送る一家の物語ですが、 
結局は、人間って地に根を張って生きるもんだよねというお話です。 
読後に元気になれるか、なれないかは読み手次第。 
色々と考えさせられますね。 
生きる上での最も基本的な心持ちってやつだろか。 
こういう話は、クドすぎると引いてしまう物が多いのですが、 
この作品は、一切嫌味が無いのがステキです。 
あくまで読者に全てお任せ。 



私本太平記 吉川英治 

日本史上、 
最も重要な時代であるにも関わらず、 
最も触れられる機会の少ない時代の物語。 

自ら"私本"と銘打つ吉川英治の読みやすさが全て。 
あの複雑に絡み合ってグッダグダな時代を 
ココまでお話として完成させられるものだろか。 
美しさの欠片も無く、あれほど分り難い話を 
結局は、高氏と後醍醐帝の物語に帰結させられるあたり、 
流石の一言。 

どんな歴史でも、物語性を付け加えるだけで、 
読み物として完成してしまう。 
やはり、この方は大衆小説の天才ですよ。 

原作とは大分違いますが、 
NHK大河ドラマの出来も良いです。 

吉川英治から一作挙げるとなればこれですね。 
完結さえしていれば、 
新 水滸伝も推したいのですが、 
これは言ってもしょうがない事。 




砂の器 松本清張 

殺人事件にまつわる刑事物・・・・・か?w 
犯人を追っていく内に明らかになる 
暗い暗い裏のお話。 
上質なサスペンスですが、ミステリーではありません。 
このお話は、ちと勘違いされている方が多いですが、 
別段、社会問題を取り扱ったとか、そういう事でもないです。 
あくまで、テーマとして底にしっかりと通している事が重要。 
直接的にアレは酷いだのコレは駄目だの 
そんなのはおせっかいで、野暮な作品は滑稽なだけですよね。 

ハンセン病そのものを取り上げているとうよりは、 
対象が何であろうと、そういう物事に対しての救いようのない人間の業を 
手に汗握るストーリーの中に絶妙に散りばめているのが妙。 

短くはない小説ですが、 
ノンストップの疾走感があります。 




ラブクラフト全集 一巻  H・P・ラヴクラフト 
(インスマンスの影、闇に囁くもの 等収録) 

ホラー?  
いや、ファンタジー=妄想狂 でしょ(^^;; 

大体、触れなくても良い物に 
何故か触れてしまう運の悪い人が、 
"やや"(重要)不幸になってしまうお話が多いですね。 

この人の世界観は、何より弱さと不気味さ。 
どいつもこいつも、 
人の枠を越えてる連中にしては、物凄い慎重で臆病でコスイのよ。 
あまりにも弱くて脆い。 
それだけに生々しくて恐ろしいわけだ。 
弱い故に、丁寧な丁寧な現実からのズレが気になってくる。 
あのくどい文章で、何度も同じ事を繰り替えす気持ち悪さ。 

なんつーか一言。 
全てが"不快"ですw 

本家以降の体系物はあんま好きじゃないですね〜 
設定厨ではないもんで。 




ハムレット  シェイクスピア 

大学時代の教養科目で扱われてて、 
その時に何度も読み倒した作品。 
(短いからね) 
さすがによく出来ている。 
短編としての完成度は別格だよね。 

" to be or not to be " 

これほど便利というか、真に迫った言葉があろうか。 
オイラも冗談交じりの時にちょくちょく口に出します。 
このあたりの気の利き方、センスも上々。 

今の時代にみれば、単調というか単純ですが、 
結局、一つの劇に必要な全ての要素の基礎はココに詰まってるわけですよ。 
起承転結に無駄がない。 
本当に気持ちよいくらいサクっと終わるよ。 
まぁ、、、、、そりゃ、完全なる劇作家だよな。 



蝿の王 ゴールディング 
ヲタクの必修科目だと思います。 
後味の悪い無人島物です。 

人間なんて、一人一人は真面目なもんだと思いますよ。 
ただ、集団心理といいますか、 
子どもが集まって意味もなく盛り上がった時のノリ。 
この時の客観性の欠如は、やはり特殊な代物ではないだろか。 

大好きな映画であるウェストサイト物語もそういう事だよな。 
一人ではやるはずのない事が、流れでやれちゃうんだよね。 
ちょっと考えればわかる事がわからなくなっている。 

こういう話は好きですね。 
読むたび、見るたびにやはり不快になりつつも 
まぁ、好きです。 



虎王伝説 井内秀治 

ラノベを一冊挙げてみよか。 
つーても、当時はそんな言葉は無かったと思うけど。 

子どもが小学生から中学生に上がった時の 
何ともいえない現実との出会い。 
"子供"である事をある意味自覚した上で、 
ただ馬鹿やって騒げていた小学生時代から、 
大人になるというより、ならされる過程。 
正確には、お利巧に かな。 
ココが中学校への進学でないだろか。 
このあたりの青春の感覚を欠かせたら天才的ですね。 
ショタ作家の異名をとるだけの事はありますよ。 

主人公の戦部ワタル君なのですが、、、、 
最初は、例の話を楽しそうに周囲に話して持て囃されるのですが、 
あくまでそれは、"創作の才能"としての評価なんですよね。 
あまりにしつこく話す過程で、妄想少年扱いされるのが嫌になって、 
いつからか、人に話す事を封印していたり、 
結局・・・・・ 
アレって夢だったんじゃねーかな〜 と 
3年経った今では、自らを納得させようとしてるってあたりが、 
展開として衝撃的です。 

てめぇ井内!、オレのワタルに 
何してくれるんだと思いつつも、 
この帰結が実に面白い。 



マリーアントワネット シュテファン・ツヴァイク 

著者にそのつもりがあったかはわかりませんが、 
こと、日本人が読むにあたっては、 
誤解を解くための小説と言ってよいと思います。 

流れるままに、自らに与えられた常識に従って生きてきた 
不幸な女なんだな〜という結論になりますね。 
もとい、不幸で強い女ですね。 

骨子は最終的にフランス革命に繋がる話なのですが、 
それも含めての歴史的なあらゆる一大事件を 
淡々と客観的に外の世界から皮肉たっぷりに描くのがステキです。 
そういう意味では、ほとんど共通な 
マリーアントワネットの視線と、著者の視線が 
妙に被って面白いのです。 

世の中、流れからどうしようもない事ってあるよね。 
別に自分は意識していなくても、 
それが、他から見ればトンデモなく映ったり。 
娯楽的ですが、ちょっと考えさせられる一作。 



一夢庵風流記 隆慶一郎 

「花の慶次 」です。 
もう一冊、時代小説からと思い、 
色々な大御所のタイトルが浮かんだのですが・・・・・ 
全ての誘惑を振り払って、コレでフィニッシュ。 

まぁ厨二小説ですね〜 
でも、これほど完璧に、 
読者が欲しい物だけを綺麗に仕立て上げた作品って無いと思うのですよ。 
この人の小説は全てそう。 
所謂、"男"像ですか 
とにかく、カッコイイのだよ。 
これ以外の言葉は要らんべさ。 

読後に、ただひたすら気分よくなれる一冊。 


若干、読みにくくなるのでランク外ですが、 
『死ぬことと見つけたり』が、その点ではより良いですよ。 

結局、悪くても「死ぬだけ」なんだから、 
常に堂々と振舞っって暴れたって良いじゃないという 
時代遅れの武士集団の独特の哲学。 
最終的には、どうせ殿様と一緒に殉死するだけだし、 
時代の変化とか、権力の移り変わりとか、老後とか、 
別に悩まされる事もないジャン? 

賛同できるかという話ではなく、 
とにかく、そこに一貫した生き様がカッコいい。 
ちょと、武士道の何たるかを考えるお話です。

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