<サッカーボーイズ>  2011年12月31日 日記より


<小説編> 

はらだ みずき 著 
『サッカーボーイズ 再会のグラウンド』 2008年 
『サッカーボーイズ 13歳 雨上がりのグラウンド』 2009年 
『サッカーボーイズ 14歳 蝉時雨のグラウンド』 2010年 
『サッカーボーイズ 15歳 約束のグラウンド』 2011年 

今年、小説は相当読みましたが、 
ベスト衝撃は、間違いなくこのシリーズ。 
まさかの児童書系からエントリー。 

内容は、その名の通り、 
サッカーに打ち込む少年達の物語。 
たったそれだけのお話が熱いのだよ。 

一つのチームが一丸となって、 
勝ち進んでいくようなお話ではなく、 
様々な環境における少年達が、 
個々に、年を積み重ねた自らとサッカーの距離感を掴んでいく 
群像劇に近いかな。 

この作品が展開する 
少年サッカー界は複雑だよね。 
まず、U12。 
小学校のグラウンドを母体としながらも、 
学校とは直接関係ないという、不思議な存在のサッカー少年団が一つ。 
これは、保護者がメイン運営を行い、 
サッカー好きなボランティアコーチがやりくりする 
何よりも手軽で、サッカーと少年が出会える場。 

そして、もう少し本格的な 
クラブチームという選択肢が一つ。 
これは、真面目に授業料を取るタイプのチームかな。 
15歳までサポートしているチームが多く、 
小中、一貫して通えるのが魅力だろか。 

第一作は、 
誰よりもサッカーが好きで、 
何よりも熱中している主人公の少年が、 
少年団で、キャプテンの座を失う所からお話がスタート。 

選ばれたのは、もう一人の裏主人公。 
主人公の友人でありながら、 
彼のサッカーは、主人公とは違う道を歩みます。 
二人とも、サッカー馬鹿に間違いないのですが、 
彼の方が、常に上手(ウワテ)なのです。 

ここで、"才能"は言い過ぎにしても、 
いくら努力しても、いくら好きでも、 
世には、別枠が存在するという事への 
現実との巡り合いがあるのですよ。 
12歳にそれは早いよね。 
早いが、仕方が無いのが「本気」の世界なのさ。 
厳しい本なのです。 

そして、サッカーに熱中する少年を"6"とすれば、 
その環境作りに躍起になる大人が"4"。 
この絶妙なバランスが、この作品の最大の特徴かな。 
児童書で、サッカー少年達の心を掴みつつ、 
その保護者にも読んでもらおうという欲が、 
とっても上手く回っております。 

子供達の「サッカー好き」を疑ってる大人は居ないんだよ。 
しかし、用意できる環境に個人差があるのは、 
世の仕組みです。 
この愛情と葛藤のおかげで、 
オッサンにも読みやすい、読みやすい。 
裏裏主人公は、いい年して、仕事の合間にグラウンドに出かける 
真のサッカー馬鹿のコーチ陣なんだよね。 

本当に好きならば、実力、結果、立場に拠らず、 
その関わり方は無限だろうと言う 
人生への賛歌こそが。真のテーマだと断言できる。 
今後、振り分けられる少年達を見るまでもなく、 
答えは既にココにある。 


そして第二作。 
13歳を迎えますと、(U15) 
ここに、中学校の部活サッカーという選択肢と同時に、 
Jリーグのジュニアユースという枠が加わるわけですよ。 
これは、選抜の試験を経ないと入れないエリートコースだね。 

裏主人公は、前作の最後でJのJrユースに受かります。 
それが、彼にとっての「本気のサッカー」なのよ。 
しかし、部活少年が「本気」でない訳がない。 
週に7日も練習する彼らこそ、 
ある意味では、一番熱中している面々なわけですよ。 
ところが、このチームにはサッカーを知ってる大人は、 
一人として存在しないんだな。 

顧問を引き受ける教師は、温厚な先生で、 
自分の休暇を割いて、部活に付き合ってくれる 
非常に良い"大人"なんだけど、 
全くサッカー経験は無いんですよ。 
ここに、子供側から見ても、大人側から見ても、 
手の打ちようのない、もどかしさがある。 

また、同じ中学校で、同じくサッカーに打ち込んでいて、 
同じクラスの友達同士でありながら、 
異なるチームでプレイするサッカーにおいては、殻を持ち合う関係性。 
この距離感も絶妙。 
互いを尊重しているのか、していないのか…… 

主人公達が、部活サッカーあるあるネタを繰り広げる傍ら、 
裏主人公は裏主人公で、 
コミュニケーションが苦手な事が災いして、 
チームで浮いてしまうんだね。 
そこを契機に、自身の本気が見えなくなってきて、 
最後には、 
「お前……来年は無いから」みたいな事を 
若干、13歳にして言われてしまうわけですよ。 
つまりは、クビだなw 
恐ろしい。 

そこで、何処に所属すれば良いのかってお話だね。 
サッカー自体を止めようかという裏主人公が、 
部活来いよと誘う主人公に対して、 
「俺のサッカーは本気だったから…」という、 
ぶっ殺してやろうかと思う発言をするんですが、 
これが、とっても自然。 
そこに納得できるだけの環境と経緯を 
読者も、少年達も知っているわけなんだよね。 
子供は子供なりに、本物への尊重を知っている。 
自己の内面では子供全開ながら、 
外への対応、受け入れ方が大人すぎ。 
面白い。 


三作目14歳は、完全に青春群像劇。 

始める奴も居れば、 
辞める奴も居るのさ。 
小学生の頃はサッカー好きでも、 
何か、馴染めずに、部活から離れての 
お約束、不良コースも居れば、 
少年団サッカー→中学野球部 
→さらに二年目でサッカー部に移るという 
掟破りをやって、揉める子供も居る。 

特に印象に残るエピソードは「転校」。 
しかも、その理由が、 
「親がマイホームを買ったから」でっせw 
このリアリティ。 
それを、中学二年生の最後とか、 
勘弁してあげてください。 
2年間かけて、チーム作りに関わってきて、 
最後の数ヶ月で集大成と言う中、 
その展開は、有り得ないでしょう。 
でも、それが家庭環境なんだよな。 
部活サッカーの現実。 

僅か14年間の生活においてすら、 
親に対し、どれだけ自身が本気かを示しそこなった 
その子供の帰結なのよ。 
ハナから、クラブチーム所属ならば、 
関係ないですからね。 
現実は厳しい!! 

なお、 
主人公は、色々なチームの実力者を集めて行う市単位の合同練習に、 
ちょくちょく、呼ばれこそはするけど、 
そこの面子相手に、実力は示し損ねる程度。 
微妙な立位置でしょう。 

裏主人公は、馴染みのクラブチームの監督からのスカウトを蹴って、 
結局、部活サッカーを歩むのだけど、 
このクールな人柄からは、イマイチ目指す所がハッキリ見えてこない。 

来年には、各々、答えは出ているだろうと言う 
期待感で終わる繋ぎの一本。 


四作目は完結編を期待したのですが、 
「15歳上巻」ってトコでしょか。 

待望のサッカー経験者教師の赴任。 
それも、かなりの古株で、地元サッカー界ではちょっとした顔役。 
この人の個性が強烈よ。 
有り得ないくらい厳しくて、怖くて、 
それでいて、偏屈なオッサン。 
試合中も、常に大声で怒鳴っていて、 
部活面子にとっては、恐怖と憎悪の象徴。 
しかしながら、関係ない生徒から見れば、 
普段は、温厚で大人しい教師なんだよね。 
居る居る、こういう先生って居ますよねという 
大人読者の共感を一身に受け止めるニクイ存在。 

どーも、あの顧問は、下級生の育成にばかり気が向いて、 
三年目の自分達を相手にしてないのでは? との焦り。 
これまた、どちらの立場も理解できないでもない。 
本当にこの小説は、どこまでも厳しく、 
一筋縄ではいけません。 

また、「一つ上」を目指す指導になった時、 
全てのメンバーが、それを受け入れられるとは 
限らないんだよね。 
これは、やる気以前のお話として、 
もっと本質的な問題だな。 
中学における「部活」サッカーの意義にまで問い掛ける 
非常にテーマ性の高い一本になっております。 

高校は部活の専門学校みたいな私学がいっぱいあるから、 
ある種の職業集団なんだろうけど、 
日本の中学校は別だよね。 

現在、続刊中。 



「本気」の多彩さに驚かされる作品です。 
みんな、本気で足掻いて生きてるんだけど、 
それが何に向くかと言う事は、人それぞれ。 
例え、児童本であっても、 
このあたりが、丁寧でクソ真面目な本は良いね。 


戻り