『柳生一族の陰謀』 1978年
監:深作欣二  出演:萬屋錦之介
★★★★☆

徳川三代目、家光と忠長の後継者争いを舞台に
柳生宗矩が家光を擁して野望を遂げるお話。

時代劇の時代が遠い昔となった頃に撮られた
東映による意地の一作。

何よりも傑出しているのは大スター萬屋錦之介の存在感。
出演者全員のリアル志向の演技が続く中で
一人、歌舞伎の世界からそのまま出てきたかのような台詞回しを繰り返す
主人公の圧倒的なインパクトに即ノックアウト。
登場、第一声からもう虜。

登場人物、全員が悪人か野心家という強烈な世界観の元
ダイジェスト気味のジェットコースター展開が続くのだが
一つ一つのシーンに十分な重みある演出が用いられ
丁寧な積み上げが成されているために決して退屈はしないね。
豪華ゲストの連発というのもあるために
ドラマよりは全体の贅沢さで楽しむ作品かな。
大がかりなロケーションや、殺陣の緊張感を適切なペースで挟みつつの
一大エンターテイメントが最後の最後の最後まで味わえる。

「時代劇=ファンタジー」である事を主張するかのように
冒頭から嘘ばかりなテキトーな歴史解説が入るのも
怪しさ全開に振り切っていて素晴らしいね。
とにもかくにも、萬屋錦之介に始まり、萬屋錦之介に終わる
とってもふざけた最高の東映時代劇です。





『柳生武芸帳 夜ざくら秘剣』 1961年
監:井沢雅  出演:近衛十四郎
★★★☆☆

柳生新陰流開祖の重大な秘密が記されたという
武芸帳を巡って争われる剣戟映画。

東映、柳生武芸帳シリーズの二作目ながら
後のTV時代劇の完璧な雛形がココにあるね。
何の毒もない明朗快活な主人公が
八面六臂の大活躍をする勧善懲悪時代劇。
悪者は悪者であり、上様は上様であり
厳しくも良き理解者である上司も居れば
要所で足を引っ張る嫌な敵役も居る。
コントのような心地よい掛け合いを繰り広げる
お転婆ヒロインも完備の様式美。

最後は、もはやこれまで!、出会え出会え! と来る中
圧倒的な美しさを誇る近衛十四郎の殺陣の元で
斬って斬って斬りまくる爽快感。
これはこれで珠玉の一品。

大きな衝撃を受ける事もないが
僅か、80分程度に必要な物が見事に詰まっている良作。





『約束』 1972年
監:斎藤耕一  主演:岸惠子、萩原健一
★★★☆☆

寒風吹く秋の日本海を舞台に
列車内で出会った訳アリ二人の
実に切ない男女の物語。

フランス映画かと見まごうばかりの
哀愁たっぷりの悲恋だね。

子供のような無邪気さを見せる若者が
閉ざされた年上女の心を次第に溶してくお話なのだが
とにかくこの岸恵子が醸し出す
訳アリ女の"訳アリ"っぷりが凄まじい。
こんな空気を出す女にアタックし続ける男も尋常じゃないよね。
しかし、人生の暗部を知り尽くしたかのような彼女の中に
次第に純情さが見えてくるのはさすがの大女優。

その対比としての萩原健一の存在感がまた見事。
普通の映画であれば
どれもが劇的なシーンで使われるだろう彼女の貫禄芝居を
この若い馬鹿男が見事ににはぐらかし続ける。
自暴自棄で好き勝手に生きている犯罪者の若者だが
こちらはこちらで、愛嬌たっぷりの中に
どこか悲しげで寂しげな雰囲気があるんだよね。
愛情を知らずに育ったのだろうという背景が自然と見え隠れ。

出会った瞬間に不幸が確定しているような
哀しすぎる男女の哀愁溢れる関係性を
逃避行にすらなっていない短い列車旅の中に
これでもかという程に詰め込んだ一品。





『約束の旅路』 2007年
監:ラデュ・ミヘイレアニュ  主演:ヤエル・アベカシス
★★★★☆

虐殺から逃れたユダヤ人難民として生きる
子供の成長物語。

ただ一人の人生を追っているだけ。
劇的な仕掛けはたったの一つ。
それ以外の全ては淡々と進むお話。
それでもこの人生の重みは
画面から目を離す事を決して許さない。
実母の愛、家族の愛、全ての人類愛……愛は素晴らしいよ。

愛を描く際、または社会的なテーマを描く際
そこに嫌味や押し付けの無い事は良作の条件だと思うが
今作は実にスマートだね、しかしそれでいて重い。
この両立は一級品の証か。
シンプルでありつつ、退屈をさせない感動映画というのは
本当に上手いんだろうなと思える一本。





『野性の証明』 1978年
監:佐藤純彌  主演:高倉健
★★☆☆☆

田舎の小村で起こった大量殺戮事件をきっかけに
特殊工作部隊を除隊した元自衛隊員の主人公と
生き残りである少女が紡ぐ物語。

クソ真面目なオジサン高倉健の存在感と
あどけない不思議ちゃん少女の薬師丸ひろ子との
何とも噛み合わない疑似親子関係が面白い一本。
その絶妙なアンバランスさの中から
他では見られないオンリーな世界観は見つかるだろう。

ただ、それだけの映画かな。
事件の謎を追うサスペンスとしても
社会や世相を扱ったテーマからしても
権力に翻弄される個人の弱さを描くにしても
あまりにも単純化された人物像と展開の羅列で
物語らしいものは一つも存在しない。

全てがソレっぽさだけで構成されており
行き当たりばったりなシーンが断絶的に繋がれるだけでは困ってしまう。
常に映像面の豪華さばかりが先に目に付いてしまい
映像シチュエーションありきな作り方なのかな。
同監督、同主演の『君よ憤怒の河を渉れ』も中々だったが
あの作品をさらに荒唐無稽にして開き直ったような一作だろうか。

途中、もはや諦めきったかのような超展開を経て
全てを投げっぱなしにして終わる様は圧巻。
あまりのことに一見の価値はあるかもしれないね。

あくまで空気を楽しむ映画なのだろう。
主演が一人いれば何とか成立してしまうスター映画の何たるかを
本当にギリギリのラインまで攻めてみた作品かもしれない。
あらゆる大御所俳優の無駄遣いを犠牲にして
薬師丸ひろ子一人を発掘した点は十分な価値あり。





『ヤッターマン』 2009年
監:三池崇史  主演:櫻井翔
★★★☆☆

ヤッターマン以外の何者でもない映画。 
全要素確認、完璧な実写化だろう。。 
最後、どーみてもテンポ悪い蛇足が20分くらい入るのだが
それさえなければ非の打ち所がない。
但し思い入れが全く無い場合は
常時、スベリすぎてて辛い作風かもしれないね。
悪乗りしすぎ感も、ヤッターマン側の影の薄さも、
元々があんな感じでございます。
 
主演が桜井翔である必要は無いんだけど
別に桜井翔では駄目な理由も特にない。 
そんないい加減さもまたヤッターマンの真髄か。





『八つ墓村』 1977年
監:野村芳太郎  主演:萩原健一、渥美清
★★☆☆☆

自身の生まれ故郷と言われた山間の田舎村へと出向いた
主人公の周りで起こる謎の殺人事件のお話。

こんなにシンプルで良いのだろうか。
閉じられた集落ホラーとしても
祟りを臭わせる世界観としても
血族の因縁の恐ろしさとしても
どれも結びつきが弱くその場その場で終わってしまう映画。
個々のシーンはとても充実しているんだけどね。

祟りを祟りとして正面から描き切る手法は面白いが
雰囲気だけで進めすぎて人物もお話もいまいち深みが足りない。
せっかくの世界観も途切れ途切れで、どーも浸りきらせてはくれない。
役者が完璧なだけに何かがもったいない一本。

鍾乳洞撮影のスケールの大きさは素晴らしい。





『無宿』 1974年
監:斎藤耕一  主演:勝新太郎、高倉健
★★★☆☆

刑務所時代に知り合った男二人が
不思議な縁で死にゆくお話。

勝新太郎と高倉健の異色コンビで作られた
フランス映画ともアメリカンニューシネマとも言える
情緒溢れる破滅型の流浪物語。

細かい場面が淡々と繋ぎ合わさり進む展開は
決して多くは語らないのだが
何となくの状況は理解できる絶妙なバランスで
掴みどころが薄く心許ない雰囲気が抜群だね。
何よりも、二人が醸し出す空気の楽しい一本だろう。

まず、強面でありながら儚い死生観のままに
復讐に生きる高倉健のキャラクターが素晴らしい。
かつて惚れた女の旦那の仇を追い求めるという一途さと
やる時は躊躇なくやるだろう怖さが同居する姿は
男の憧れが完璧な形で一つ詰まっている。

彼は目的を果たしたところで
再び逮捕されるか復讐の連鎖で殺されるかの身の上。
抜け殻のような空虚さに捕らわれてしまう人間なんだけど
そこを勝新太郎が受け止める構図が実に美しい。

一方の勝新キャラクターはやや不思議。
いかつい見た目とは裏腹に愛嬌抜群で社交的。
父親の残した沈没船の地図を大事に抱えて
子供ような宝探しを続けている夢追い人なのだが
その実、一人心に決めた女もいるし
成功すれば家を建てるのが夢だと言う。
彼もまた一見すれば宿無し人生に見えるが
望みを聞けば堅実な人間にも見える。

この真逆な二人が緊張感ある関係性から始まり
自然と馴れ合っていく距離感が綺麗なんだ。
画面に登場しているだけで世界が成立してしまう
各々が作るさすがのキャラクター性が最高のスター映画。
異質な二人の相性が抜群。

そこに、これまた人生を捨ててしまっているような
流れゆくままの足抜け遊女、梶芽衣子が加わり
男二人+女一人の不思議な世界が生まれる。

海辺のあばら屋で沈没船を探すために
三人が協力し合っている共同生活の中
「いつまでも、こんな生活が続けば良い」と漏らす女の心境は
そうならない事が誰しも理解できているからこそ
どこか共感できてしまうんだろうね。

健さんの実直さに惚れて、勝新の優しさに惚れる。
ある種、幻の人間関係を追い求めた映画なのかな。
夢とロマンと退廃、そして憧れに満ちた一本。
『冒険者たち』のオマージュであることは一目瞭然ながら
この日本的な世界観は二人だけのものかな。





『危いことなら銭になる』 1962年
監:中平康  主演:宍戸錠、長門裕之、草薙幸二郎
★★★☆☆

とある組織の偽札犯罪の臭いをかぎつけた
愉快なアウトロー三人が、その計画を横取りしてやろうと企むお話。

良い。
日活のお馬鹿活劇は本当に素晴らしい。
宍戸錠、長門裕之、草薙幸二郎のそれぞれのキャラクターが
本当に楽しく騒いでくれる自由な一本。。
ジョーはどこまでもキザで、哲はひたすら狡賢く、健は真っ直ぐ。
そこに浅丘ルリ子がヒロインとして絡み
全く生活臭を感じさせない独自のエンタメ世界を構築している。
軽快なノリで行われるシニカルな掛け合いが見事だよね。
見事なキャラクター映画だろう。

しかし宍戸錠はカッコイイね。
悪役イメージが強いけど案外にグレゴリー・ペックみたいな雰囲気が出せるのね。
長門裕之は津川雅彦の若い頃のようだ。
その演技は遥かに軽妙だが何ともそっくりで
つまりは逆、弟さんの方こそが後に影響を受けたんだろね。

最初から最後までニヤニヤしながら見守れるお洒落な一本。
1960年代のオシャレで軽い映画が見たいなら是非。




『山桜』 2008年
監:篠原哲雄  主演:田中麗奈
★★★☆☆

夫に先立たれ二度目の嫁ぎ先でもどこか上手くいかず。
そんな主人公と剣術師範を務める若侍とのプラトニックなお話。

綺麗だね。
極限まで無駄が省かれていて、全くクドさが無い。
美しい映画に求めているのはこのテンポ。
藤沢周平原作の映画が面白くなるのは珍しい。

結局、この主人公は何処でも苦労はする性分だろうけど
それでも苦労にも質という物がある。
冒頭から名前だけ出てくる叔母が
実は幸せだったのではないかという話が上手く効いてくる。
若侍に余計な出番が無いのが本当にスリム。

彼らが直接会って言葉を交わしたのは、
ただの一度だけ。
色々と人間らしい汚い舞台を軸にしながらも
いや、あればこそかな。
人の思いってのはこんなに美しくいられるものか。
そういう映画。
シンプルにちょっと良い気分になりましょう。




『山猫』 1963年
監:ルキーノ・ヴィスコンティ  主演:バート・ランカスター、アラン・ドロン
★★★☆☆

19世紀、統一戦争で揺れるイタリアを舞台に
時代の波にのまれ、消え行く貴族の悲哀を描く芸術映画。

贅沢な映画ですよ。
豪華絢爛という言葉がこれほど似合う作品も珍しい。
ただただ純粋に、繰り広げられる貴族文化の映像が美しい。
「派手」という言葉とはまた違う華やかさ。
真に迫った物を見てるんだなという実感がステキな一品だろか。

お話はゴッドファーザーの物語だよね。
バート・ランカスター演じる家父長の冷静さ。
時折漏れる人間味の中からも、一家の将来を優先する渋さが全ての軸。
時代は貴族という存在を必要とするのか、しないのか。
一体どう生きていくべきなのか。
生産性のない古き良き時代への郷愁だけでは決して終わらない
重厚な言動の数々には、確実に今見てもどこか打たれる物がある。

ただし冒頭で述べた通り芸術映画だよ。
ある意味こんな地味であり派手な作品はないと思う一品。





『山の音』 1954年
監:成瀬巳喜男  主演:原節子、山村聡、上原謙
★★★☆☆

義理の父母と同居しながら
夫との関係に悩む若い嫁の物語。

鎌倉を舞台とした情緒ある世界の元に話が進み
コメディとすら言えるほのぼのシーンも多いのだが
その中身は行き場のない家族の崩壊に満ちていて
地獄のような修羅場が続く映画だね。

今ではほとんど見られなくなった
「サザエさん型」の親子夫婦同居のお家。
それとは夫婦の立場は逆だけど
夫の世話と両親の世話を両方こなす嫁稼業というわけですわ。

なお、今作の主人公は嫁ではなくお義父さん。
彼は嫁が大好きで、嫁も義父が大好きなのだが
結局は家庭でのこの関係性が夫の居場所を失わせ
引いては嫁の居場所をも奪っている図式だろう。
夫自身はとんでもない糞野郎なのだが
この息の詰まりっぷりには同情も生まれてしまうさ。

そこに出戻りの妹やら、夫の浮気相手やらも登場しての
身内ならではのやりとりがあまりに生々しく
本当の悪人やヘイトが出てこないだけに
かえって息苦しさが半端じゃない一品だ。

現代ではほぼファンタジーの世界に映るが
これが核家族がスタンダードになる前の日本の原風景なのか…
男も女も結婚が早い時代だったろうからか
バリバリに息子と一緒に現役で働いている義父の
圧倒的な立場と存在感が実に新鮮でカッコいい。
これは家父長型の家族形態の崩壊を描いた物語か。

明らかに富裕層で余裕のあろう世帯で
一見すれば何て幸せで平和な連中だと映るが
結局はどんな階級も中に抱える問題は一緒なんだろうね。

決して本心を見せない「良い嫁」の存在感を
綺麗すぎてむしろ胡散臭い笑顔をやらせれば天下一品の原節子が
見事に演じきっている。

下手をすればただの綺麗な情景集になりそうなお話を
しっかり、人間がちょっと怖くも美しく思える映画に仕上げている
さすがの成瀬巳喜男の監督作品。



『闇の狩人』 1979年
監:五社英雄  主演:仲代達矢
★★★☆☆

江戸中期、田沼意次の世。
江戸の街に暗躍する闇社会の元締めの物語。

とにかくギラギラした映画だね。
登場人物ほぼ全員がセックスと殺し合いに明け暮れる映画だもの。
一応、一本の謎が解き明かされるようなベースの話はあるものの
展開やキャラクターの言動に納得性はほとんど無い。
どいつもこいつも男女の関係に脆すぎて
かつ脇が甘すぎて何をやってるんだと終始ツッコミ必至。
主役の仲代達矢演じる元締めが一番酷いという体たらく。

しかし、要所要所でテンポよく差し込まれる
血が飛び散る数々の殺陣シーンは抜群にカッコいい。
痴情のもつれ、命の取り合い、意味深な顔。
この3つを延々と披露するだけの映画が絶妙に楽しいんだよね。
仲代達矢、原田芳雄、藤田まこと、梅宮辰夫、成田三樹夫、夏八木勲、千葉真一……
どんだけ濃いメンツを集めたのかという彼らの熱演が全ての理性理屈を吹っ飛ばす。

全く意味もなく蝋燭が倒れ、ただのお寺が気付けば炎上の大見せ場に早変わり。
ラストは江戸もへったくれもない謎の原野で仲代と千葉が一騎打ち。
池波正太郎原作の空気感を期待すると確実に大火傷をするが
ハッタリ100%の五社映画として望めば
キレッキレの演出と空気感に満足度は高い一品。



『ヤングガン』 1988年
監:クリストファー・ケイン  主演:エミリオ・エステヴェス
★★☆☆☆

権力争いにより、信頼する牧場主を惨殺された
若き牧童達の復讐のお話。

若さだね。
何がそんなに暴力的な衝動に駆り立てるのか。
主人公、ビリー・ザ・キッドの世の中に対する
不満や憤りが痛い程に全面に描かれる若者映画。
西部劇の名は借りているが、テーマはそういう事だろう。

それにしても、ビリーのキャラクターは凄まじい。
不正や陰謀、癒着、腐敗…これらの社会の理屈に正義が捻じ伏せられる中
彼は延々と暴力一筋に自身の存在を訴え続ける。
お調子者で何を考えているかわからない狂犬みたいな男。
そんな彼に愛想を尽かしつつも、成り行きで付き合うお尋ね物集団の若者達。
全く出口の見えない中で足掻く様は圧巻。

ただそれだけなんだよね。
さすがに他の見所が一つも見つからないのは辛い。
西部劇である事はかえってマイナスだし、
このテーマならより洗練された作品がいくらでもある。
半端物だろうか。





『勇気ある追跡』 1969年
監:ヘンリー・ハサウェイ  主演:ジョン・ウェイン
★★★☆☆

悪党に父親を殺された少女が
復讐のため、荒くれ保安官と追跡の旅に出るお話。

見事なる馬映画だな。
雄大な大地を思う存分駆け抜ける疾走感。
こんなに素敵な情景が連続する作品があろうか。
この時代にまだこういう映像が撮れたんだね。

ただ、お話は普通かな。
完成された人物像が各々に好き放題やるだけで、
特に互いに影響しあったりという事はなく
ドラマと言える程の人間ドラマは見られない。
ジョン=ウェインの荒くれ保安官という珍しい役どころも
演技、存在感こそ完璧ながら、元々の活躍の場が地味。
主役として据えられているのはむしろ我儘少女の方だが
自分こそが唯一絶対の存在だと思い込んでるような
そんなエゴ全開の強烈なキャラクターも
淡々と自己の主義を終始貫くだけで
物語に深みを与えてくれるわけではない。

全体に漂う格式の高さからすれば
どうしても、薄味な展開が気になる一品だろか。
掛け合いに面白みが無い西部劇は一つ物足りない。




『ユージュアル・サスペクツ』 1995年
監:ブライアン・シンガー  主演:ガブリエル・バーン、ケヴィン・スペイシー
★★★★☆


ある港で起こった大量殺人事件の謎を
目撃者の証言から迫るサスペンス。

先に結果を示して
そこから回想シーンとしての映像を挟む形で
事件の真相を紐解く不思議な形式で、
警察内で尋問をされている一人の人物の言葉が
その映像とリンクしていく仕組み。

一言で現すなら、緻密に練られた脚本勝ちの一本。
観客と尋問員の視線が連動し
おぼろげな物語が繋がる事での安心感が
見事に共有される仕掛けは珠玉。

だが証言は証言、現実は現実。
全てが繋がるのは
結局、繋がる事を求めながら見ているからではないのか。
だからどうしたと言われればそれまでの空虚さは残るね。
求める視聴者には中々に良いパンチを浴びせてくれる
ドンデン返し系の良作。
あくまで構成メインの一本だろうか。




『遊星からの物体X』 1982年
監:ジョン・カーペンター  主演:カート・ラッセル
★★★★☆

アメリカの南極探検隊が、基地内にある生き物を抱え込んでしまう。
それをめぐって疑心暗鬼になる隊員達の足掻きのお話。

こんなストーリーからは想像もできないくらいの一級映画だね。
隔絶された南極基地という舞台において
一体誰が信用できて、誰が信用できないのか
どうすれば解決への道が開くのか
全く先の見えない不安による緊迫感が見事に現れた傑作。
劇中の人物のみならず観客だって確信を持てはしないのだからね。

そしてクリーチャーの造型が凄まじい。
犬なら犬、人間なら人間で
既存のパーツの特徴をしっかりと残しつつの異形の物。
極限までグロく極限までリアリティを追求したお仕事は見事。
一見すると安っぽい脅しに見えなくもない中
よくよく見れば細部に至るまで中々の拘りなのです。

そして終わり方がステキ。
蛇足もなく冗長にもならず、語りすぎもせず。
終わるべきタイミングできっちり終われる映画というのは良いね。
未知なる物は怖い怖い。

ただ、本当に彼らは一人が好きだね。
絶対に固まって一秒足りとも互いに目を離してはいけないと
常識的に思う場面ですら何故か分業をしたがる連中には
やや冷めた視線を向けざるを得ないかな。
このあたり不自然な展開が多いのはご愛嬌か。
純粋なサスペンスではないのだからそこは良しか。




『Uターン 』 1997年
監:オリヴァー・ストーン  主演:ショーン・ペン
★★★☆☆

明らかに訳ありのチンピラ男が
車の故障で立ち寄った田舎町の中で
次から次へと運の悪い事態に遭遇していくお話。

少しコメディチックで、少しエログロで
何処か度胸の足りない半端男が
一線を越えないまま延々と不条理に巻き込まれていく
ナンセンスなサスペンス話なんだけど
周囲を囲うキャラクターの作りが面白く
仮にそんな中で一歩進んだところでというお話でもある。

主人公の一見カッコイイけど良すぎない
度胸ありそうだけど有りすぎない
悪そうに見えるけど悪すぎない
そんなキャラクター性が見事で
観客のどこか共感できる部分が綺麗に発揮されているんだろうね。
だって、何をやっても上手くいかないんだ……

劇中にもある台詞
見事に「愛しているけど信じられない」人間の集まり。
寂しいくせに信じるのも怖い
好きと嫌いの裏表を延々と彷徨いながら
怖がっている同士が集まっても碌な事になるはずもない
一歩入るとUターンできない
あの街に誰もが現実では片足を踏み込んでいるのだろうか。

コメディタッチながら綺麗に纏まった脚本が
不条理すぎて逆に面白い良作。




『夕陽のガンマン』 1965年
監:セルジオ・レオーネ  主演:クリント・イーストウッド
★★★★☆

二人の対照的な賞金稼ぎが
大物ギャングの親玉を狙っていくお話。

至高の雰囲気芸。
前作から続く、哀愁漂う口笛によるテーマ曲が
作品全体を不思議な世界感に包み込んでくれます。
主役の二人にはほぼ生活感はなく
如何にすれば映えるかという一点をただただ追求してくれる。
ココまで割り切っていいものかという映像の先鋭化で
一つのカットに異常な尺をかける割に
余計な間は一つも存在しない芸術よ。
一々、絵が美しい点も見逃せない。

明確なライバル像も確立され、
二作目にてスタイルが完成されてます。
渋親父と若造のコンビが素敵です。
マカロニウェスタンではコレが最高峰かな。





『夕陽のギャングたち』 1971年
監:セルジオ・レオーネ  主演:ロッド・スタイガー、ジェームズ・コバーン
★★☆☆☆

革命で荒れるメキシコを舞台に
地元ギャングの悪党と発破専門の革命家との友情物語。

セルジオ・レオーネの悪い方向が前面に出ている作風。
演出や映像だけは2時間40分、何処を切り取っても見所なのだが
全体ではどうも冗長でクドイ、つまりは映画として退屈。
『ウエスタン』のようなカッコ良さを求めると痛い目をみる一品。
ケレン味、カッコツケを取り除いて芸術性だけを残すと
監督の作品はこうなるわけだね。

お互いに敵対、反発しながらも
行動を共にする内に育まれる友情という二人の物語は、
ほぼ『続夕陽のガンマン』そのまんま。
もちろん、これ自体は素敵な雰囲気になるのだが
軸がそれだけで160分は辛いです。
溜めに溜める演出もその後に報われる一瞬が無くなると
急にただ長いだけに見えてしまうから不思議。
紙一重なんだね。

イタリア映画のイメージを転換した監督が
結局、ここまでシンプルな芸術作風に辿り着いたのは面白いかも。
そういう見方で楽しむ映画かな。




『郵便配達は二度ベルを鳴らす』 1981年
監:ボブ・ラフェルソン  主演:ジャック・ニコルソン、ジェシカ・ラング
★★★★☆

流れ者の男と、ドライブインを営む夫持ちの女。
そんな二人が繰り広げる卑劣な犯罪のお話。

凄いね。
こんなに同情の欠片も持てないような
駄目人間同士の男女が主人公。
結局どちらが悪いのか。
これはどっちもどっちとしか言えないな。

だがどこか人間臭いんだよね。
二人とも最初から結末を考えていたわけではないはず。
どちらがより本気かどちらがより愛しているか、
その心の探り合いのエスカレート。
何が怖いってこの生の感情が行き着く泥臭さが怖いわ。

その上で社会の執行者とも言える連中の悪意は、
この二人の卑劣ながらもシンプルな非道をも、
軽く上回るんだよ。
大手を振って市民面してる彼らもまた十分に悪党だよ。

ジャック・ニコルソン、ジェシカ・ラング。
この二人の好演だけで楽しめる不思議な変遷を辿る犯罪映画。





『U・ボート』 1981年
監:ウォルフガング・ペーターゼン  主演:ユルゲン・プロホノフ
★★★★☆

第二次世界大戦の最中
無謀な作戦に駆り出されていった
ドイツ潜水艇の内部を描くお話。

戦争映画における受身の緊迫感は別格。
まして舞台は海中、狭苦しい潜水艇と来れば
その圧迫たるや想像を絶する物になるだろう。

それを丹念に再現された艦内の映像の元
ただただ、敵国と自国の無茶な要求の両面から
追い詰められいてく様を淡々と描く骨太な一品。

面子は十分個性的なのだが
誰が主役と言うよりは、全員合わせての運命共同体っぷりが
画面から自然と伝わってくる密度が素晴らしい。
ドイツ映画の底力を見せてくれる良作映画。





『雪之丞変化』 1963年
監:市川崑  主演:長谷川一夫
★★★☆☆

両親の仇を求め江戸の舞台に立ち続ける
歌舞伎女形の華麗なる復讐絵巻。

万人が楽しめる痛快なエンターテイメント作品ながらも
堂々の芸術作風でもあるのかな。
劇場映画ならではの横長レイアウトを存分に使いきり
画面の大半が真っ黒な背景に人の姿だけが浮き出る
狂おしい程の遠景ショットという
実にピーキーな絵作りが延々と続く、何とも不思議な映像映画。
所々に目を見張る美しさは確かにあるね。

お話は古典的な復讐悲劇。
主人公は男でありながら女形の役者という設定で
復讐の力強さとヒロイズムを一人で抱える不思議な存在感が素敵。
他はコテコテの時代劇ながらのキャラクターが
記号として脇を添える安心の作り。

ただ、これが歌舞伎のノリなのは判るし
貫禄たっぷりの存在感も良いのだが
終始、オジサンの女言葉の映画は少し見ていて辛いかな。
こちらは晩年のリメイクらしいのだが
30年近く前の若い頃のバージョンも見てみたいね。
そのあたりは名人芸として見て見ぬ振りが正解か。

さすが長谷川一夫の記念作品
市川雷蔵や 勝新太郎らがゲストで華を添える豪華さも楽しい。





『許されざる者』 1992年
監:クリント・イーストウッド  主演:クリント・イーストウッド
★★★☆☆

かつて悪名を欲しいままにした伝説のアウトローが
今では銃の腕も落ち、馬にもろくに乗れず
自身の過去を思い悩むお爺さんになっていたというお話。
この主人公役を『荒野の用心棒』から28年後の
クリント・イーストウッドが演じてる時点で反則技。
それで最高級の哀愁が漂わないわけがない。

落ち着いた映像と演出で淡々と人間の業を堪能はできるが
その分、突き抜けたインパクトはない作品かな。
暴力とプライドの連鎖の行く果ての虚しさは大いに響くんだけどね。

物語は、娼婦に男としての尊厳を笑われた人物が
彼女の顔を切り刻むシーンから始まる。
これは明らかに「やりすぎ」なんだよね。
復讐ならば逆に女としての人間性を否定する言葉を
浴びせてやるだけで十分だっただろう。
しかし、とっても可哀相な娼婦が描かれると思いきや
今度は彼女達が男の罪が軽すぎることに憤慨して
賞金を賭けて殺人を依頼するわけだ。
これもまた「やりすぎ」だろう。
女の顔に一生物の傷を付けられた事への復讐ならば
例えば「男のチ○コを切り落とせ」くらいの依頼で五分ではなかろうか。

つまりは、自制しきれない人間が織り成す暴力の無限連鎖を
冒頭から堂々と見せている映画に見えた。
その最たる象徴が、殺し屋としての過去を背負っている主人公と
権力の元に正義の独裁を信じる暴力保安官なんだな。

法の意義と意味なのか、または時代の移り変わりを描く賛歌なのか。
題材は間違いなく素晴らしいのだが
あまりに壮大すぎるだけに満足いくまでは辿り着かないな。
皆が皆「許されざる者」であろう中
その業を結局は背負っていくであろうラストーシーンの作りに
理解はできるが少し乱暴すぎると思ってしまった。
雰囲気芸としては間違いなく一級品だが
それでも全体では少々ぼんやりしてる感じが抜けない一品。

基本、西部劇の伝説なんてもんは
大体が誇張された大法螺吹きという
徹底したヒーロー否定像もあるだろうね。
散々、歴代名作の自己流オマージュ作品を撮り続けた
イーストウッド西部劇の決定版だろう。





『許されざる者』 2013年
監:李相日  主演:渡辺謙
★★★☆☆

かつて、人斬りとして恐れられた老人が
旧友の説得にほだされて
貧村へ賞金首を取りにいくお話。

言うまでもなく
クリント・イーストウッドのリメイク作品で
日本を舞台にリメイクするなら
この時代、この地しかないというマッチっぷりが見事。
明治開拓時代の北海道との相性が素晴らしく
雪景色と新緑の世界が、西部劇チックな世界観に
ココまで合うとは思わなかった。
最初から今作のために書かれた脚本かと見紛うばかり。

少々、大仰な演出が多いのは目に悪いが
オリジナルが示した人間の業の物語は
見事に日本式に昇華されている。
維新の勝ち犬と負け犬、老いと若さ
倭人と土地を奪われたアイヌ人、貧困がもたらす悲劇……
全てに置いてテーマ自体をぶらさずに
多方面に展開しているのだから素晴らしい。

渡辺謙、柄本明のコンビは人間味上々。
ジーン・ハックマンの位置に佐藤浩市は不安はあったが
蓋を開ければ、超越者としての存在感は抜群。

導き出される最終結論の描写差も含めて
最後の最後まで日本式が楽しめる良リメイク。





『醉いどれ天使』 1948年
監:黒澤明  主演:志村喬
★★★★☆

口の悪い町の酔いどれ老医者と
若き病気持ちヤクザとの交流のお話。

人生の酸いも甘いも噛みしめているだろう
人情家の老医者キャラクターが素晴らしいね。
彼の罵りともいえる暴言の数々の中に含まれる
実に正しいお説教が本当に良い。
世の中に斜に構えているようでいて
他者への愛情も医者としての誇りも
実は心の中には持っているわけだよ。
志村喬の名演、こんな爺さんが居たら最高だ。

そこに華を添える三船敏郎がまた良く
時代を生き急ぐ突っ張った若者の儚さが見事に現れている。
このギラついた男の野生味と色気が
死の影に怯えつつも意地を張る若者の虚栄に
何とも怪しげな魅力を乗せているね。
これまた完璧なキャラクター。

その完璧さに寄りかからないお話作りもさすが。
黒澤作品の厳しさが見事に出ており
若ヤクザが残された命を賭して兄貴分と刺し違えることで
結果、周囲の事態が丸く収まるという展開を
この物語は決して許さないんだ。
彼は義理でも恩義でもなく自己犠牲でもなく
あくまで結核より先に自らが作った人生観や環境により殺される。

老医者、志村喬の言い分としては
彼は逃げた男になるのかな。
封建的な旧時代の感性から抜け出せなかった男として
若者の側が配置されているのが面白い。
若者がそのために命を落とし続けることの虚しさに
戦中を生き抜いた親父の嘆きが伝わってくる。

結果、暴力とは最も縁遠い存在であった
結核患者の女子高生こそ本当に強い人間であるという点に
今作の強烈な意思を感じるね。
劇中曰く、理性の勝利とはその通り。
お涙頂戴にも任侠浪花節にも頼らない
圧巻のヒューマニズムが完成されている傑作。

また公開当時のイケてる若者風俗が画面から垣間見えるのも面白い。
特にダンスホールでゲスト的に登場する笠置シヅ子が見せるパフォーマンスと
その歌声に合わせて踊り狂う三船敏郎のダンディっぷりが素敵すぎます。





『妖怪大戦争』 2005年
監:三池崇史  主演:神木隆之介
★★☆☆☆

ワケありで田舎へ引っ越した男の子が
不思議な妖怪大戦争へと巻き込まれるお話。

あくまでお祭り映画なので
特殊メイクで妖怪と化した有名人の数々を見るだけで
相応に騒ぎながら楽しめる一本かな。
ただ、次から次へとダイジェスト気味の登場ばかりなので
誰一人として十分な出番もドラマも貰えていないのが残念。

特にストーリーは希薄。
家庭環境に少し事情がありそうで、学校ではやや虐められ気味。
少々、内向きの小学生である神木隆之介クンが
田舎に古くから伝わるお祭りに選ばれて
数多の妖怪と触れ合う不思議な冒険譚という筋書だよ。
一夏の体験を経てちょっとだけ大人へと成長する男の子。
そんな完璧に近いシチュエーションを用意しておきながら
何故に本編がこうもスッカスカなのだろうか。

特に冒頭10分で彼自身の回想として
「恋のお話」「嘘のお話」というワードが目立ち
つい本格派の作品を期待させてしまうね。
まして、大人になって妖怪が見えなくなったという
冴えない中年の存在まで絡んでくれば
ほろ苦いドラマを期待するに決まってるよ。

マニア向けの小ネタ要素は豊富で遊びは多いが
そんなシーンに尺を割いている余裕があるならば
もう少し真面目に作って欲しいかな。
120分以上もの尺がありながら
一番盛り上がるシーンが冒頭のクレジットで
「水木しげる、京極夏彦、荒又宏、宮部みゆき」の4名が
1ページ内に名を連ねた瞬間という楽屋出オチでは
あまりに不健全な映画だろうか。
数多くの鬼太郎ネタに加えて
『帝都物語』より加藤がボス役で出演するという
オタクなサービスっぷりも少々空回り。

特に後半30分が見るに堪えない程のスローテンポで
見るのも恥ずかしいアクション映画と化すのはいただけない。
最後、冒頭で期待させたような物語へ繋がる
取って付けたような強引な締めも拍子抜け。

出さねばならない人間、入れねばならないシーンが
物語を紡げない程に膨れ上がった大きな企画だったのか。





『用心棒』 1961年
監:黒澤明  主演:三船敏郎
★★★★☆

敵対する二大勢力が凌ぎを削りあう町で
流れ者の用心棒が両陣営を往復しつつ
痛快に立ち回っていくお話。

まずキャラクターでしょう。
三船敏郎演じる主人公の荒々しさに惚れ惚れする。
行動の破天荒さ、物怖じしない男っぽさ
表情豊かな無精ひげの素浪人ビジュアル……
現代に受け継がれる「ミフネ」のイメージは今作からだね。
殺陣もスピード感も勢いも満点で
かつ敵を追っかけて後ろから泥臭い事この上ない。
このパワフルさは既存の時代劇としては別格の存在
短いシーンなのに強烈な印象が残る。

物語自体はシンプルな構成でありながら
演出もカメラもキレッキレ。
キャラクターを如何にカッコよく見せるか
しかも旧来の尺度とは違う斬新なカッコ良さに全てが注がれ
見事な一大エンターテイメントが成立している。
ライバル役仲代達矢の存在が別の味を一つ添えているのも良いね。




『ヨーク軍曹』 1941年
監:ハワード・ホークス  主演:ゲイリー・クーパー
★★★☆☆

第一次世界大戦で功を上げた
実在英雄の半生を描いたお話。

舞台はアメリカの片田舎。
キリスト教が根付いた清貧な環境で正しい感性を営み
農業開拓に勤しむ純朴な青年主人公が
第一次大戦への参戦を期に招聘され
悩みながらも戦い英雄になるという
古き良きアメリカ理想の体現みたいな映画だね。
むしろ、アメリカの求めた幻想とまで言えるだろうか。

無論、現実世界は正しいはずの理屈が
正しく運用されない事への歪みがあるはずだが
今作はその全てに敢て目を瞑った世界になっている。
正しい人間による正しい戦争の世界を牧歌的に描く
アメリカ的な純粋さが見事に詰まった
徹底的に綺麗、かつ完成度抜群の一品。

まさに時代の象徴とも言える1941年映画。




『善き人のためのソナタ』 2006年
監:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク  主演:ウルリッヒ・ミューエ
★★★★★

崩壊直前の80年代東ドイツを舞台に
公安を担う当局の姿と、対象である市民側との対比で
東の監視社会が持つ様相を描くお話。

これは素晴らしい人間賛歌だわ。
東側の思想監視社会を見事に描写してみせた
ドキュメント系映画とも取れるのだが
やはり本質は当局主人公の人間としての変遷だろう。

「このソナタを本気で聴いた物は悪人にはなれない」
劇中にレーニンの言葉として登場する台詞だが
まさに、この作品の全てが集約されている。

盗聴される対象としての作家は
活動家としての意義は別として
そのパーソナルな男女関係においては
取り立てて感動的な二人という事はあるまい。
愛し合いながらも、どこか上手くいかないという
世界中、何処にでもありふれた恋人同士である。

しかし、それで十分なのだろう。
そんな普遍的な一般人の生活ですら
毎日24時間の盗聴を続けていれば主人公の心は揺れてしまう。
当たり前の人間の当たり前の生活。
それを本気で聴いていれば心を奪われるのは当たり前なのだ。
50億人居れば、50億通りの本気の人生がある。
その全ての価値、当たり前を信じきった人間賛歌だよ。

彼は、善き人だったのではない。
はからずも、善き人になってしまったのだろう。

決して、大仰な感動作ではない。
クドサもなければ、アザトサもない、壮大な音楽もない。
主人公は、一切笑わず、怒らず、叫ばない。
しかし淡々と任務をこなし、無表情の中で心揺れ動く様を描くだけで
彼の心は観客へとダイレクトに伝わってくる。
この静かさが見事なまでに心地よい一本。

ドイツ映画の底力か。
骨太なテーマ性はもちろん、脚本から、演出に至るまで
全くスキを見せない完璧なヒューマンドラマ。




『夜霧よ今夜も有難う』 1967年
監:江崎実生  主演:石原裕次郎
★★★☆☆

BARを経営する元船乗りの主人公の元に
その昔、結婚の約束をしていた女が
夫の密出国を依頼しに現れるお話。

これはもう、日本の横浜港に舞台を移した
純度100%の『カサブランカ』だね。
ボギー役を日本式の解釈で演じるは
大人のダンディズムに溢れた30代の石原裕次郎。

彼の主演映画を見て抱く感想はいつだって一つ。
つまりは「裕次郎カッコイイ!」
今作もこれに尽きる一本。
ヤンチャさと愛嬌の両面を売りにしていた
若い頃とはまた一味違ったオジサンの魅力が出ている。
実に大真面目な存在感は哀愁抜群。
特に表題の挿入歌
『夜霧よ今夜もありがとう』をピアノで歌うシーンの
ムード歌謡全開の美しさはちょっと他では出せないだろう。

ただ、映画としてのエンタメ性を求めるが故か
当時の日活らしい雑にすぎる展開や演出も多いかな。
チープなアクションシーンなども挟まり
やや辛い時間も見られる作品ではあるが
何と言っても根っこにあるプロットの完成度が高すぎるよね。

あの作品が持っていたオシャレさを
日本のファンタジー風に描くとこうなるという
納得感はある一本。




『横道世之介』 2013年
監:沖田修一  主演:高良健吾
★★★★☆

1980年代と思われる東京を舞台に
ある男子大学生の日常を描いたお話。

彼の存在自体が「良い思い出」そのものだろう。
一見、何処にでも居そうだが、そうは居ない
少し抜けているが、圧倒的にイイ奴で
不思議な魅力に溢れたホンワカ野郎
疎遠になって久しいが
思い起こせば、楽しい記憶ばかりがよみがえる男。
誰しも、一人か二人は脳内に登場させられるはずの
そんな友達の物語だね。

彼の普通すぎる惚気生活を媒介に
自然と自身の過去を美化できる何とも心地の良い
爽かながらも哀愁が沸き起こる映画。

是非、現役の大学生には楽しい毎日を送って欲しい。
仮に楽しくなくとも
後に楽しいと思い返せる毎日であれば幸いです。





『吉原炎上』 1987年
監:五社英雄 主演:名取裕子
★★★★☆

明治末期、吉原最後の時代を舞台に
女郎として生き抜く女達の物語。

あまりに非人間性に溢れた廓のシステムの中で
必死に人として足掻く女達が描かれていくオムニバス映画だね。
名取裕子が演じる女郎が中心には居るものの
特別に誰が主役という事はなく
ある女はしたたかに生き抜き、ある女はドロップアウトしていく……
そして、その都度ごとに映画的な見せ場が
まさに本当の見せ場として用意されていくのが
さすがの五社英雄作品だろうか。

一人として健康そうな女が出てこない
圧巻の絶望感とエロスに満ちた世界観ながら
エンターテイメントとしても成立するのが面白い。
そんな馬鹿なという展開や演出まで含めて一つの名人芸で
豪華絢爛な大セットも表題の「炎上」も見応え抜群。
まさに超大作と言える一品。

何よりも劇中に登場する男連中の気楽さ加減に対する
女の気概と言ったら、もう気が滅入るレベルだね。
女が奴隷のように扱われ、しかも裸に次ぐ裸、SEXに次ぐSEXなのに
その実、この監督は女性の強さが好きなのかな…と
逆に伝わってくるから不思議な作品だ。

ただ、事実上の前作にあたるであろう
宮尾登美子の原作を下敷きにした文芸映画群とは少々空気が異なっており
地に足着いた格調高い世界観は薄めかな。
あの相反する路線の融和が生み出す
綱渡りのような絶妙なバランスが好きならば
今作はやや突き抜けすぎな感じを受けるかも。




『四谷怪談』 1965年
監:豊田四郎 主演:仲代達矢
★★★★☆

欲得の赴くままに殺人を繰り返し
女房までを手にかけた男が報いを受ける怪談話。

どこか退廃的で幻想チックな世界観の下で
ド屑男が見せる堕落の物語。
何よりも圧巻の映像美が素晴らしい。
闇の中で全く映らないことすら恐れない
明暗の鋭さが本当に美しい。
「見えない」という展開や演出を駆使ししての
溜めに溜めたワンシーンへの期待感は抜群だね。
誰もが知るシンプルなお岩さんの怪談話でありながら
絶妙な気持ち悪さが残る妖艶な空気だけで緊張感が保ててしまう。

そんなホラー的な見せ方の工夫だけで
十分にゾクゾクさせるパワーもありつつ
その上で本当に怖いのは、結局は目の前の幸せに満足できない
人間の欲であるとうオチも綺麗に決まっている。
被害者の悲惨さに同情し、主人公のクズっぷりに憤慨しつつも
実は自身の中にもそれを見出せるという意識にまで手を伸ばした
中々に贅沢な芸術映画かな。





『世にも怪奇な物語』 1968年
監:ロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、フェデリコ・フェリーニ 主演:ジェーン・フォンダ 他
★★★☆☆

エドガー・アラン・ポー原作の三篇をオムニバス式に映像化した
芸術寄りの映画作品。

監督:ロジェ・ヴァディム
黒馬の哭く館

馬に魅了されて死に行く女のお話。
これは完全に映像を見る映画かな。
特にお話が凝っているわけではなく
豪華絢爛な衣装などで古典の世界観を楽しむ一品。
仰々しい音楽と不気味な雰囲気には酔えるが
物語はあっさりと終わる。

監督:ルイ・マル
影を殺した男

ドッペルゲンガーのお話。
これは劇的なシーンの緊張感を見る映画かな。
何よりアラン・ドロン演じるクソ野郎の悪行を楽しむ作品だろう。
彼はしょーもない男の役が本当に似あうね。
散々に暴れた上で出会うもう一人の自分が見せどころ。
もっともシンプルに見られる一遍だろう。

監督:フェデリコ・フェリーニ
悪魔の首飾り

これはもう理解できんね。
まるで、『8 1/2』を再び見せられているかのような狂乱映画。
完全ラリった名俳優がイタリアに招かれ
夢うつつのままに感情と流れに身を任せながら
スポーツカーで爆走して死に行くお話。
雰囲気は間違いなく楽しいだろうが意味は判りませんね。

全体的にアート寄りで
あまり怖さや不気味さを感じる映画ではないかな。
各監督の持つ研ぎ澄まされた演出術を楽しむくらいの気持ちが良いだろう。





『四人の復讐』 1938年
監:ジョン・フォード  主演:ロレッタ・ヤング、 リチャード・グリーン
★★★☆☆

イギリス軍における武器の横流しに巻き込まれ
不名誉除隊となった父の汚名を返上するべく
4人の息子が事件の真相に迫るお話。

典型的なサスペンス映画。
証人なり証拠なりに辿り着き事件の糸口が繋がると思った矢先
すんでのタイミングで消されてしまう。
このイライラさせっぷりは王道中の王道。
あくまで辿り付く快感までの布石。

殺人事件や死の商人と扱っている題材が暗い割に
雰囲気は明るくコメディ描写も多め。
4人のキャラクターがどれも個性的で
気軽に見られる良質エンタメ。
特に欠点も無いが見所も少ない普通の一品。




『夜の大捜査線』 1967年
監:ノーマン・ジュイソン  主演:シドニー・ポワティエ、ロッド・スタイガー
★★★★☆

アメリカ南部、ミシシッピ州の町で起こった殺人事件を
偶然に立ち寄っていた黒人刑事が、
周囲との確執たっぷりの中で解決していくお話。

殺人事件の謎を解き明かすサスペンスと共に
黒人主人公を襲う迫害の足音と言う
二重の緊迫感が素晴しい。

何せ刑事でありながら、油断して一人で居れば
襲われて殺されかける町だからね。
町の有力者は、自分から刑事を殴っておいて
殴り返されたら正当防衛で撃ち殺せると
何の冗談でもなく本気で思い込んでいる。
そんな360度、誰が真の敵かもわからない中
逃げ出す事なく捜査を進めていく理性と意思に惚れる。

見ていて気分が悪くなる程のアメリカの恥部でありながら
それを映画化して、自ら世界中に訴えるのもまたアメリカの仕事。
本当に世界の軽蔑と尊敬を同時に集められる不思議な国だ。

そんな中、次第に主人公に情を移していく
暴力ワンマン警察署長の姿が実に愛らしい。
最悪の出会いからスタートしての
ラストの言葉少ない掛け合いは、名シーン中の名シーンだろう。
所々で流れるレイチャールズの歌声がまた良く
作品の世界観をより一層際立たせている。

一級の密度を保つサスペンス映画でありながら
公民権運動の流れを汲むだろうテーマ性の高さも味わえる
贅沢なA級傑作。




『夜を楽しく』 1959年
監:マイケル・ゴードン  主演:ロック・ハドソン、ドリス・デイ
★★★★☆

占有時間で揉める電話の回線共有者という
顔も知らずに険悪になっていた男女が
結果として恋に落ちていくコメディロマンス話。

愛すべき最低男だね。
先に個人を特定できたプレイボーイ側が
遊びのつもりでと嘘で塗り固めた経歴を引っ提げて女性側に猛アタック。
この大筋を聞いただけで
どうせ途中から本気の恋に落ちるんでしょと
子供ですら想像できてしまう。
そんな期待を真正面から完璧な職人芸で描き切った傑作です。

とにかく男の悪意ある洒落っ気が効きまくり。
女を裏切って友人を裏切っての悪ふざけ。
何度も言うが本当に最低野郎です。
でもそれで気付けば自身が惚れてるんだから世話ないよね。
女性側は女性側で、相手が本気になってる事になど気付かず
そりゃ遊ばれた事がばれたら怒りますよ。
そんなもどかしいやり取りを最後まで、
顔をにやつかせながら堪能できる平和な一品。
練り込まれた脚本に拍手。

台詞や展開のテンポ、センスも満点級
所々で挿入される細やかなギャグパートも冴えに冴え、
完璧なコメディが楽しめる。

しかし、男と女の一風変わった関係を描けるアイテムってのは
どんな時代にもあるもんだね。
この作品は一つの電話回線を他人と共有する過密都市NYのインフラ。
受話器を取れば共有者の電話内容が聞き放題。
そんな冗談のような環境から上記の出会いが出来上がり。
このアイディア、見事の一言でしょう。




『四十挺の拳銃』 1957年
監:サミュエル・フラー  主演:バーバラ・スタンウィック
★★★☆☆

犯罪者を追って故郷?へと舞い戻ったガンマンが
町の女ボスとなっている幼馴染?と繰り広げるメロドラマ。

インパクトある映像集だね。
冒頭、主人公の馬車に雲の影が落ちるシーンで
いきなり心を掴まれてしまった。
そして立て続けに馬40頭による圧巻の疾走シーン。
この流れと女ボスがカッコイイんだ。
その後も無駄のない引き締まったテンポと構図だけで
十分に楽しめてしまう80分の短編作品。

展開や場面場面の派手さは薄めかな。
女ボスの弟がクソみたいな悪ガキで、
あくまで弟を守りたい彼女と、それに連鎖した被害にあう町の面々、
一応、正義の側に居るものの
自身の存在など過去の栄光だと自嘲を続ける主人公。
その他、ちょっとした悪党やロマンスも含めた登場人物諸々。
かなり慌しい展開でどういうお話か、非常に一本では通しにくいのだが
結局は恋に素直になれない男女のもどかしさが主題ではないのかな。
なにやらとても珍しい構成です。

全般、クオリティは高めなのだが
絶妙に王道からは、すかされる西部劇。
深く考えずともちょっとイイ気持ちにはなれる一品。




Back