『ダークナイト』 2008年
監:クリストファー・ノーラン  主演:クリスチャン・ベール
★★★★☆

『バットマン ビギンズ』に続くノーランバットマンの2作目。

前作で巻いたシリアスな種を
見事に収穫した意欲作。
愉快犯たるジョーカーの本領発揮だ。
自身が最も楽しめる結果を求めるための犯罪の数々…
人間の心を狩りにくる彼の仕掛けが重すぎるね。
前作ラスト、ゴードン警部補が口にした「競走」という言葉が
見事にここに繋がっている。
バットマンが自らのカリスマ的な存在をもって街に君臨するならば
そのカウンターとしての脅威のパフォーマー、ジョーカーの登場も必然だろう。

2008年のスタイリッシュ描写をもって
見事にバットマン式のアイテムやファッションを再現しつつ
その裏では、本気で視聴者の心を取りにくる本格派。





『ダークナイト ライジング』 2012年
監:クリストファー・ノーラン  主演:クリスチャン・ベール
★★★☆☆

ダークナイト三部作と呼ばれる作品の完結編。

クリストファー・ノーランの手による
映像、世界観の重厚感、脚本の緻密さは、
過去三作から受け継がれた約束された代物で
安心して楽しめる。

ただ、前作『ダークナイト』が
単体の映画として十分な視聴に耐え得るコンセプトだった事に対し
今作はあくまで『バットマン・ビギンズ』から続く
シリーズ通しての完結編という位置付けになっている。

結果、全ての収束点は
バットマンこと、ブルース・ウェインが
最終的に導き出す結論にかかってくる。
法を犯す悪党を倒すため、自らもアウトロウに身をやつした存在である。
この三部作通しての仕掛けにカタルシスを覚えられなければ
少々、退屈な作品と言えるかもしれない。

また、敵役のベインは少々役者不足。
最も恐ろしい男である事は、劇中から伝わるのだが
何故、彼はそんなに強いのか。
一作目のラーズ・アル・グールは
人類の文化、歴史こそが生み出した蓄積の怪物。
二作目のジョーカーは
逆に、一人の人間は何処まで狂気に走れるのかを象徴する存在だった。
対してベインの力の源は何なのか。
その描写が弱いまま、思う様にバットマンを圧倒するだけでは
むしろ、理不尽さを感じる存在ではなかろうか。

前二作が大衆に挑戦状を突きつけた意欲作とすれば
今作はあくまで既存ファンのために作られた
完結自体を目的した作品だろうか。





『ダークマン』 1990年
監:サム・ライミ  主演:リーアム・ニーソン
★★★☆☆

マフィアの暴行で自らの容姿を奪われた人口皮膚研究者が
研究成果を使い復讐を行っていくお話。

映像マジックだね。
バラエティに富んだ不思議な演出に満ちていて
展開よりも何より、まずは見た目から決して飽きさせない一品。
特殊メイクや化け物と自嘲する主人公の造形は見事。

全体では豪華でド派手なシーンも多く
大作アクション映画のノリで進むのだが
時折、驚く程にチープなシーンも含まれていて
A級とB級をわざと行き来するかのような
不思議な雰囲気が醸し出されている。
登場人物の何所か作り物なキャラクター性も含めて
サービス満点な遊び心が面白い良作映画。

火傷によって真っ当な容姿を失った主人公が
「元の生活」への憧憬を抱きながらも
その心までをも失っていく過程は当然に重いのだが
彼の男らしい人間性がダークヒーロー誕生の瞬間といった
一種のケレン味にも繋がっており
割とスマートな感覚も与えてくれる。

所々でカルトな雰囲気を楽しめつつも
トータルで素直に楽しめる贅沢な一作かな。




『ダーティーハリー』 1971年
監:ドン・シーゲル  出演:クリント・イーストウッド
★★★★☆

犯罪溢れるニューヨークシティを舞台に
荒くれ刑事のハリーが事件を解決していくお話。

刑事ドラマとしての社会問題の全てがココにあるね。
1970年代以降に日本で流行する全ての雛型が、
この短い尺の中に見事なまでに集約されている。
それも圧倒的な高クオリティさが凄まじい。

様々な事件が起こる中で
物語は世相を弄ぶ愉快犯の登場で最高峰へ。
法治と暴力の限界点にまで挑んだ意欲的なお話は必見。

最後、耐えに耐えただけに
社会と決別したハリーのカッコヨサは格別。
バスシーンの登場は震えるね。

テーマとしてはあのEDで完成しているので
2以降は不要ではないだろうか。





『ダーティハリー2』 1973年
監:テッド・ポスト  出演:クリント・イーストウッド
★★☆☆☆

前作ラストで組織との決別を決意したはずが
しっかり続編で警察官をやっているハリーの物語。

一作目が社会問題を巧みに取り入れた
警察物の転期ともなる傑作映画だったのに対し
二作目以降はやや薄味のアクションメインの作品へとシフトしていく。

今作のテーマは正義感溢れる若手警官達による私刑殺人事件。
事件が進むにつれ
ハリーも認めた熱血若手連中の暴走が発覚する。
法の虚しさと限界を誰よりも知っているハリーだからこそ
一線を超えてしまう彼らに対して
その大いなる違いに思う所はあるのだろう。

主軸としては、そんな作品ではあるのだが
どうもテーマを前面に押し出す気はないようで
作品の細部は粗く社会に対する皮肉は薄め。
オチも取って付けたような雑っぷり。

結局は友人を殺されたハリーの怒りが爆発する
アクション映画でファイナルアンサーだろう。




『ダーティハリー3』 1976年
監:ジェームズ・ファーゴ  出演:クリント・イーストウッド
★★☆☆☆

暴力刑事ハリーの三作目。
今回のテーマは時代を表す女性警官。

昔気質の塊であるハリーの相棒に採用されたのは
まさかの実務経験もない女性刑事。
ここで繰り広げられる凹凸会話を楽しむ作品かと思いきや
思った程のドラマは用意されない。
彼女は正面からハリーとぶつかる事もせず
また、ハリーも必要以上に絡んだりはしない。
その上で劇的な途中退場をされても
果たして何のために居たのか自体を疑問に思う次第。

やはり、薄味仕上げで
ド派手なアクションだけが冗長に続く作品。
イーストウッド自身と44マグナムを楽しむだけの映画で
本当に良いものだろうか。




『ダーティハリー4』 1983年
監:クリント・イーストウッド  出演:クリント・イーストウッド
★★★☆☆

暴力刑事ハリーの活躍を描く4作目。

少々、薄味で乱暴だった前二作と比べて
ストーリーに一本筋が通った作品。
ある女性のレイプ犯への復讐、私刑物としての側面と
閉鎖的な地方警察体制の側面が
綺麗に主人公を中心に繋がっていく物語。
ハリーの言動は相変わらずの痛快さで
彼自身の姿を楽しめれば間違いはない作品。

一作目を越えるような大きな衝撃は無いのだが
あくまで、このキャラクターを退屈なく楽しめる点が重要。
イーストウッドが監督を兼ねた事がプラスに回った一本だろう。





『ダーティハリー5』 1988年
監:バディ・ヴァン・ホーン  出演:クリント・イーストウッド
★★☆☆☆

暴力刑事ハリーを描く人気シリーズの5作目にして最終作。

初代公開から数えて実に17年。
もはや一見して初老とすら言えるイーストウッドなのだが
物語はこの衝撃を有効には使ってくれない。
かのハリー・キャラハンが
既に「いい年」である事は誰が見ても明白なのだが
劇中、この点には一切触れられず
いつも通りのステレオタイプな姿が描かれるだけでは
少々もったいないのではないか。
前作から5年も空けて、これでは何のための復活だったのか。

作品内容もふらふらと主軸の定まらない作りで
マスコミ嫌いなハリーの姿を描きたいのか
犯人不明のサスペンスがやりたいのか
猟奇殺人の内容に触れたいのか。
短い尺の中で何を中心に据えたかったかが
さっぱり見えてこない半端物。
全般、薄味仕立て。

いつも以上にハリー自身を見てニヤニヤするだけが目的の一本かな。





『ターミナル』 2004年
監:スティーヴン・スピルバーグ  主演:トム・ハンクス
★★★★☆

祖国のクーデターにより無国籍となってしまった男が
アメリカの空港到着時点で行き場がなくなり
そのままターミナル内で生活を営むお話。

お気楽ハリウッドの典型とも言える
コメディ有り、ロマンス有り、ヒューマン有りの贅沢な作りながら
その舞台も、人物も、展開も…
全てが僅か空港一つの内側で完結されているのが素晴らしい。
本当に空港だけで繰り広げられる物語ながら
全くスケールの小ささを感じない完成度。
それでこのクオリティのハリウッド作品が作れるものなんだな。

主人公の人柄に空港の従業員達が次第に惹かれていく様が
ただただ気持ちの良い愉快な映画。





『ターミネーター』 1984年
監:ジェームズ・キャメロン  主演:アーノルド・シュワルツェネッガー 他
★★★★☆

ごくごく一般的な人生を歩んできた女性が
突如、謎の殺人マシンに命を狙われるお話。

この映画はホラーだと思う。
未来から自分を殺しに来る殺人者の迫り来る姿と
その時空を使った動機のギミックが恐ろしい。
ここまで徹底した恐怖を出せているのは初代だけの特権。
一切の爽快感無しにただただ追いつめられるだけの圧迫感は凄まじい。

中身はカーアクションとガンアクションを繰り返すだけなのだが
設定一つ、キャラクター性一つでココまで退屈しないのだから大したもんだ。
殺人マシンの無表情、無個性が怖さの元凶ながら
その実そこに有るのは圧倒的な個性というのが面白い。
まさにシュワルツネッガーの凄さだろうか。

しかし、この映画の真骨頂はラスト15分。
肝心のシュワルツネッガーが退場して現れる
骨組みターミネーターのビジュアルが素敵すぎる。
そして何より、リンダ・ハミルトンがヒロインから主役に変わる瞬間だね。
守られる女から、立ち向かう女へ。
お腹の大きな彼女が見せる凛々しい姿に
暗雲立ち込める未来への不安と希望が入り混じっているわけだ。
安易なハッピーエンドのラブロマンスに仕上げなかった
このエンディングは見事。




『ターミネーター2』 1991年 
監:ジェームズ・キャメロン  主演:アーノルド・シュワルツェネッガー 他
★★★★☆

ターミネータの続編として
より巨大なエンターテイメント方向にシフトした作品。

男の子が憧れる鉄板要素に最も完璧な形で応えてくれる一品。
少年主人公であるジョン=コナーによる父親コンプレックスと
母親甘えの二大要素が作品の空気を支配ているわけで
まさに男の子の男の子による 男の子のための映画でしょう。 

シュワちゃんの一挙手一投足は前作にも増して冴えまくりで
サングラス一つかけるだけ、ショットガンの弾一つ入れるだけで既にカッコイイ。
一連の台詞、動作、全てがこの映画に欠かせないパーツ。 

そして、リンダ・ハミルトンの存在が2を別格にする。
初代のエンディングで見せた姿が見事に昇華している。
シュワちゃんと向こうを張って見劣りしない強烈なキャラクターで
一人で世界の運命を背負ってしまっている悲哀も含めて
戦う女、戦うお母ちゃんが本当にステキ。 

人類歴史の愚かさにまで踏み込む仕掛けの壮大さも綺麗にはまり
堂々の完結を迎える完璧な一作。





『ターミネーター3』 2003年
監督:ジョナサン・モストウ  主演:アーノルド・シュワルツェネッガー
★★☆☆☆

未来からの刺客として新型ターミネーターが現れ
シュワちゃん演じるT800系が味方としてジョン達を守るお話。

どう見ても2のプロットそのまんま。
ただし、映像はT2程に洗練もされていなければ
一つ一つのアクションにケレン味も感じられない。
漠然と予算を注ぎ込んで、ただ大掛かりなシーンさえ作れば良いとでも
言いたげな散漫な継ぎ接ぎが目立って慌しいのが見ていて辛い。
特に終盤は何か一つシーンを入れ忘れたかと疑うレベルの強引さに
思わず苦笑い。

基本的に2の時点で未来は切り開かれ
変えられたという解釈が成立できるので
スカイネットの設定を現代風のネットワークに乗せて
不滅としてしまうのはそれだけで冒険にすぎる。
新しい解釈が前作までの結論に勝る程の魅力がないなら
興冷めもいいところ。

2のコピーもできず、2からの脱却もできず
どちらにも転べなかった半端物かな。




『ターミネーター4』 2009年
監:McG  主演:クリスチャン・ベール、サム・ワーシントン
★★★☆☆

2018年。
既に審判の日を終えた後の世界を舞台にして
スカイネットと人間との戦いを描いた話。

まず、"Terminator Salvation"が正式タイトルで
4は邦題である点が重要。
"4"と思えば満足できないが
既に3で未来が固まってしまった以上は
その長い戦いの中の一エピソードを描いた外伝と思えばそれなりか。

そろそろ、未来戦争そのものを描いても
そこまで安い雰囲気を作らずに表現できる時代になったかなという作品。
テーマ性が前面に出ないドンパチメインの作風で
過去のターミネーター作品の持つ世界観である
現実に未来から干渉がある恐怖と
そこから自らの未来を切り開いていくというテーマは薄い。

色々突っ込みトコロも多いのだが
特に残念なのは、最重要人物の一人であるカイル・リースが
せっかく10代後半の役で出てきているのに
ほとんどスポットがあたらず
マーカスという新キャラの影に終始隠れてしまう点。
ジョン=コナーとの絡みもほぼ描かれず
わざわざ、何のために作ったのかと疑いたくなる。

あのターミネーターの正当ナンバーと思わず
気軽に楽しむのがベスト。





『∀ガンダムI 地球光』 2002年
監: 富野由悠季   主演:朴?美 
★★☆☆☆

20世紀初頭のヨーロッパを思わせる地球文明と
高度に進んだ文明を持つ月の民との接触の物語。

元は、素晴らしい作品です。
科学の粋を極め、争い自体を敬遠する段階にまで進み
少し賢すぎるくらいの月の民と
産業革命〜人類の制空権獲得の頃を思わせる
とにかく生きる事、前に進む事で元気一杯の地球の民の活力。
牧歌的な雰囲気に包まれる世界で
鮮明に映し出されるこの二つの姿が本当に素晴らしい。
もちろん、月の民と地球の民は過去に繋がっており
その歴史に隠された物は…という筋立て。

月の民でありならがら
モニタとして幼い頃から地球で育った主人公を始め
双方のキャラクター達の輝きが本当に良い。
誰一人、退屈な奴はいない。
お互いに自身の常識に従って行動するしなかい様が
痛い程によくわかる。
これは、互いの長所をどれだけ吸収して譲り合って
そして分かり合えるのかという
かつての『伝説巨神イデオン』のリベンジのような作品だよ。

ただし、これはTV版のお話。
こういう企画が通る理由は何なんだろうね。
再編集の映画版など、元の密度が薄い作品でやる事であって
この作品で総集編などやればスカスカの舌足らずは当たり前。
誰が編集してもこうなると思う。

とりあえず、世界観や雰囲気だけでも
元作品の傑作っぽい空気だけは味わえる一作。




『∀ガンダムII 月光蝶』 2002年
監: 富野由悠季   主演:朴?美 
★★☆☆☆

上記作の後半戦。
描くべきエピソードやキャラクターが多すぎて
何処を切り取っても足りないのは前編と一緒。

しかも、丁寧に仕掛けられた複線の回収や
キャラクターの揺れ動いた心情の帰結。
作品全体を通しての仕掛けられた大設定などなど
前半以上に描くべき事が多く慌しい点がより状況を悪くしている。

後半もやはり一本の映画としてはほぼ成立しておらず
前半で世界観や雰囲気が気に入れば
素直にTVシリーズで視聴に移行すべきだろう。





『大怪獣ガメラ』 1965年
監:湯浅憲明   主演:船越英二
★★★☆☆

大映の怪獣映画。
放射能の爆発によって太古の眠りにより蘇った
巨大生物が暴れまわるお話。

あまりにも『ゴジラ』な設定に笑ってしまうが
当時、子供向けの怪獣ジャンルというものが
大ヒットしていた中で生まれたことは納得だろう。
内容も80分弱の短い尺の中で
暴れまわる怪獣、対策に走り回る政府や学者
ガメラに関わりたがる民間人の三要素の黄金パターンで
シンプルに手堅く仕上がっている。

ただ、対象とされた年齢層を考えてもなお
突っ込みどころ全開のシーンが続く点は目を瞑るとしても
基本的な展開やテーマ性の薄さはどうしても目に付いてしまう。
一本の映画としては退屈な瞬間が多く
さすがに初代ゴジラに及ぶような作品ではないだろう。

それでも、空飛ぶ巨大亀という発想の面白さと
怪獣自体の造形の妙、気合の入った特撮映像の連続は一見の価値はあるかな。
既に過渡期をすぎたくらいの1965年らしい特撮映画。





『第九軍団のワシ』 2011年
監:ケヴィン・マクドナルド   主演:チャニング・テイタム、ジェイミー・ベル
★★★☆☆

時は、AD,2世紀。
異民族との戦いに敗れた父親の名誉を取り戻すため
主人公が失われたローマ軍の象徴である
ワシの彫像を探し求める旅物語。

絶景に次ぐ絶景。
空想とも言える北の異民族大地は
まるで『ロードオブザリング』かと見紛うばかりの雄大さで
まずは、目で楽しませてくれる安心大作。
そんなファンタジー満載の世界を
延々、奇縁で結ばれた異民族の奴隷と二人で渡り歩く
男の誇りと友情を描いたロードムービーだね。
一度は敗れ去った人間達の生き様が
どれも、心地良く響く一品。




『第9地区』 2009年
監: ニール・ブロムカンプ   主演:シャールト・コプリー
★★☆☆☆

突如、現れたエイリアンの居住区と化してしまった
閉鎖区域で繰り広げられる軍隊のお話。

宣伝も含むイントロダクションと中盤以降の内容が
全く合っていない映画だね。
あの売り方や序盤の見せ方では
隔離プロジェクトと絡めたシニカルな笑いを提供してくれる
ブラックな作品だと思われて当たり前だろう。

ところが、唐突に風向きが変わったかと思えば
その後、何の見所もないアクション展開が最後まで続いてびっくりだね。
無茶な引き伸ばしの典型みたいな例。
中身の無いアクション映画はその気で見るから楽しめるのであって
半端な空気でテーマもなく続けられても戸惑うだけだ。

クリーチャーや美術の造形だけを楽しむ作品かな。





『大空港』 1970年 
監:ジョージ・シートン  主演:バート・ランカスター
★★★★☆

大雪で混乱する大空港を舞台に起こる
緊迫のハプニング映画。

航空機内への爆破物持込事件をベースに敷きながら
実に、前半1時間以上の尺を
空港で働く様々な人間の群像劇に割く
切符の良さが素晴らしいね。

全編を通して、無駄な部分が一箇所もなく
皆が各々のドラマを内包する事によって
自然と彼ら一人一人の言動に納得ができしまうのが良い。
もちろん、手に汗握る熱い熱いパニック映画でありながら
同時に誇り高き空港職員を描く一級の群像劇でもある。
この贅沢な構成が見事に映えている
これぞ映画、豪華絢爛な一大エンターテイメント作。

全ては観客を楽しませるために。
作品スケールの大きさ自体を一つの魅力にした
大型作品の王道を地で進む完成度の高い一品。




『大砂塵』 1954年 
監:ニコラス・レイ  主演:ジョーン・クロフォード
★★★★☆

西部開拓時代、街に鉄道を引き込む計画を立てる
嫌われ者の酒場オーナー女が
住民から不当な迫害を受けるお話。

メロドラマのような空気感を出しながらも
人間の醜さを体現するかのような展開が実に辛い一本。
一方的な物言い、一方的な迫害の理屈を見るに
人間は欲しい現実だけを求めるわけだよ。
しかも、どうせ思いのままの結果を求めるならば
ハナから開き直って勝手に暴虐を尽くせばいいのに
くだらない自尊心のために、その行為にすら嘘の正義を作ろうとする。

しかも、それが男女の愛情の歪みに端を発しているのだから
実におどろおどろしい作品だ。
敵役女が見せる悪意の凄まじさは間違いなく見どころの一つ。

それだけに対照的な主人公像の美しさが映えに映える。
女オーナーは決して運命を呪うだけのか弱いヒロインなどではない。
彼女は人の悪意に徹底して乗らないんだ。
全てを受け入れ、人間の愚かさを見つめながら
達観した立場で現実を捉え続ける。
この到底現実に存在するとも思えない
善意と正義の象徴のような存在感が実に凛としていて神々しい。
登場時点ではさほど感じられない
強面女、ジョーン・クロフォードの魅力が
話が進むたびにどんどん増していく説得力が良いね。

結局、あれだけの仕打ちを町の人々にされながら
彼女は最終対決での女敵役以外は誰一人撃っていないんだよ。
元恋人である銃の達人も、仲間を裏切った凶悪な強盗犯を除いて
驚く事に誰一人殺していないんだ。
殺しが癖になっている西部のアウトローにすら
自身の姿を通じてそれをさせてしまう……
こんなに優しい話があるだろうか。

それにしても、今作における男連中の情けないことよ。
女の凄さに圧倒されるだけの雑魚っぷりがとっても楽しい。
これだけのテーマ性を乗せた作品ながら
カラー映像による自然豊かな迫力映像も満載で
ギターだ、テーマ曲だ、早撃ちだのと
しっかりエンターテイメントしているのもさすがだね。
1954年にこんな尖った西部劇があったかと驚かされる傑作。





『第三の男』 1949年 
監:キャロル・リード  主演:ジョゼフ・コットン
★★★★☆

終戦直後、混乱のウィーン市街を舞台に
突然知らされた友人の死を探る男の物語。

芸術的な完成度だね。
冒頭、自身を呼びよせたはずの友人の
突然の死亡報告で一気に心を掴まれてしまう。
中盤まではそうくるかという連続で
謎が謎を呼ぶスピーディ展開は息を付く暇すらなし。
そして、後半戦はサスペンスから一変。
女性の切なき恋心、さらには人間としての尊厳までへも
物語は一気に昇華されていく。
コレほどに劇的な100分間があろうか。

また、モノクロの陰影を使った描写の数々には
何とも言えない怪しげな暗さがあり
戦後の混乱、そして殺人事件という題材を完璧に彩る。
独特の憂鬱さに包まれた映像は見事の一言。
加えて、この全編にわたる暗澹たる描写があればこそ
ラストカットの美しさが映えるんだよね。
最後の最後にきて、あの映像は反則でしょう。
ヒロインと主人公の物言わぬ情緒。
多くを語らなくとも、全てが語られるシーンは美しい。
下水道の活劇シーンはさすがに冗長かなと思いつつも
このラスト映像への対比と思って振り返れば
間違いなく必要だったと再認識。

そんな傑作映画でしょうか。





『第十七捕虜収容所』 1953年 
監:ビリー・ワイルダー  主演:ウィリアム・ホールデン
★★★★☆

第二次世界大戦の最中に
ドイツの捕虜収容所で繰り広げられた
逞しいアメリカ人兵士の生活物語。

「誰かがドイツのスパイである」
サスペンス要素がストーリーの主軸にはなっているが
この作品の見所は、個性溢れる登場人物の壊れっぷりが先。
厳しい捕虜生活の中でやりたい放題。
環境の限界を求めるかのように
縦横無尽に立ち回る彼らの可笑しさが素晴らしい。
ビリー・ワイルダーならではの
小気味の良い、気の効いた悪ふざけの連発は
この作品が戦争捕虜映画である事を
時折、見事に忘れさせてくれる痛快さ。

また、コメディタッチに隠れながらも
作品全体のテーマ性は強めで
若干、主人公に自業自得な感はあれども
集団の思い込み、先入観、そして私刑の馬鹿馬鹿しさを
存分に訴えてくれる力強い作品としても楽しめる。




『大脱出』 1970年 
監:ジョセフ・L・マンキウィッツ  主演:カーク・ダグラス
★★★☆☆

50万ドル強盗の末に刑務所に入った主人公が
監獄内で仲間を作って脱出計画を立てるお話。

決して平和な物語ではないのだが
全般がライトな空気感で装飾されていて
気軽に見られる作りが良いね。

主人公は実に知的でパワフルで
リーダ的な素質を持つ理想の人間。
彼にならばと受刑者達からも信頼される反抗の象徴を
カーク・ダグラスが二面性たっぷりに好演。

対する秩序と更生を求める体制側の刑務所所長には
ヘンリー・フォンダ。
この二人の不思議な関係性も実に楽しい。
所長が求める秩序に収まる事を拒絶する物語でもあるわけだね。
アウトローの理屈や気概も楽しめる。

道中、人生観を語れる良い物語にも思わせつつ
突如、酷い展開に一転するというインパクトも見事。
何のことはない、結局は悪いことをやった人はみんな罰を受けていく
健全な映画ではなかろうか。

それでいいのか! というオチの脱力感まで含めた
価値観の逆転に狐につままれたような気持ちのまま
最後まで勢いを保って見られる良作。




『大脱出』 2013年 
監:ミカエル・ハフストローム  主演:シルヴェスター・スタローン、アーノルド・シュワルツェネッガー
★★☆☆☆

脱獄の実践調査を専門とする主人公が
政府の機密ハイテク刑務所に挑むお話。

いつ、お馬鹿映画である事に気付けるかが肝だな。
舞台として、最先端のテクノロジーを演出しているせいか
お粗末でアナログな部分ばかりが目に付いてしまう。
キャラクターも、一見して知的な雰囲気が漂う割には
脱出計画は腕力に物を言わせた力技ばかり。
世界観と展開が噛み合わず、最後までノリ切れないのが残念。

終盤のなし崩し的なお馬鹿要素に呆れるだけでは
往年の傑作アクション映画には及ばない。

シンプルにスターローンとシュワルツネッガーのW主演に喜ぶ映画だろう。
この実現だけで凄いには凄いが
せっかくの企画でもったいない感情が先に来てしまうね。





『大脱走』 1963年 
監:ジョン・スタージェス  主演:スティーブ・マックイーン
★★★★☆

実話を元にした映画らしい。
第二次大戦中、ドイツの捕虜収容所から、
全員脱走!の大計画を立てるアメリカ人兵士達の物語。 

余計な要素を一切絡ませない割り切りが見事。 
ヒューマンもなければ、ラブストーリーもない。 
その分、終始計画を突き進めて行く緊迫感に包まれ
各々の役割を担ったスペシャリストたちが見せる
仕事っぷりにドキドキしっぱなし。 
2時間半もの尺を全くダレさせず
優れた構成とはこういう事かと唸らされる。

穴だらけの警備体制も
どちらの陣営も人員不足の時代であれば仕方あるまい。
全てのシーン、全てのキャラクターが語り草になり得る
名作中の名作映画だろう。




『タイタニック』 1997年
監:ジェームズ・キャメロン  主演:レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ウィンスレット
★★★★★

1912年に沈没した豪華客船タイタニック号事件を舞台に
様々な人々の姿を描くラブロマンス映画。

見事。
ここまで、純度100%の甘いラブロマンスでありながら
安っぽさが全く感じられない。
全てはそれを彩る、美術、撮影、演出、脚本等のスケールの大きさに拠るもの。
徹底した大作として練り込まれた仕事の数々に
隙など生まれようはずもなく、190分の長尺を決して飽きさせない。

基本、画面から溢れ出るタイタニック号の豪華絢爛ぶりだけで
十分に楽しめる娯楽大作であり
そこにまだ少年とすら言えるディカプリオの初々しさが加わる。
思わず顔を覆いたくなるような恥ずかしいシーンの連続も
このレベルで洗練されていれば芸術的。
素直に降参、美しい。

そして、後半のパニック映画としての拘りが素晴らしい。
それだけで一本の映画としても成り立つレベルで
どの面から見てもこの作品は一級なのです。
ここでスポットライトがあたる様々な人物像が
実に良い味を出している。
ラブロマンスの裏では、実は誇り高き人々の晴れ舞台。
お気に入りは、誰も聴いていないと自嘲しつつ
最後まで演奏をまっとうする楽団でしょうか。
もしくは、ギリギリのタイミングで一度は見捨てるも
鍵を開けようとしてくれる船員も素敵だ。

作品通して大筋での仕掛けも上手く嵌り
仮にタイタニック号におけるロマンスでは泣けずとも
彼女の100年に渡る人生の鮮烈な一ページとしての
想い出には哀愁を感じないわけがあろうか。

単純なストーリーではあるのだが
他に類を見ない完成度で押し切った大傑作。





『タイタニックの最期』 1953年
監:ジーン・ネグレスコ  主演:クリフトン・ウェッブ
★★★★☆

1912年に沈没した豪華客船タイタニック号の最後を描くお話。

人間賛歌だね。
前半戦で上流階級の駄目な部分をきっちり描いて
後半戦で巻き返す。
主人公は社交界以外では暮らせない男。
妻との価値観の不和に明け暮れ
自身を愛してくる子供よりもその出生が気にかかる。
温和なナイスガイだがその生き様はあくまで傲慢。
その他、悠然とした立ち回りをしつつも
おそらく最速航海記録を密かに意識している過信に満ちた船長や
一日中、賭けブリッジに明け暮れる非生産的な貴族達。
どこかしら駄目な部分が目につく連中だ。

しかしこの映画は、彼らの紳士としての意地の物語だろう。
怠惰と同時に存在するのは、上流階級である事への誇り。
つまり、非常時において如何に冷静沈着に振舞えるか
紳士として見苦しい真似をしないかに尽きる。
あれ程に駄目に映った方々の姿が
同じ視点からこうも綺麗に裏返る物かと驚かされる。
普段「女子供」などという括りを好んで使う以上は
究極の場面においてさえ、きっちり彼女達の生命を優先できるのかだ。
その姿は何とも美しい。

人間達の中に共存する裏と表の姿が綺麗に決まる二重奏。
マイナスの後、非常時にプラスが見える物語と
プラスの後、非常時にマイナスが見える物語では
どうあっても前者が心地よいだろう。

しかし、沈没シーンは見事だね。
あれはどうやって撮られているのだろうか。
丁寧で落ち着きのある映像面だけでも
十分に楽しめる100分傑作。




『タイタンの戦い』 1981年
監:デズモンド・デイヴィス  主演:ハリー・ハムリン
★★★☆☆

ゼウスの息子である主人公ペルセルスが、
理不尽な神々がもたらす試練と戦うお話。

まさかのストップモーション映画。
全てクリーチャーがこれでもかと言わんばかりに
愛嬌たっぷりに動く姿に痺れます。
特撮面としては、年代を考えれば過去作と比較して
そこまで目を見張る物はないのだが
この独特な世界観だけで十分楽しい一作。
CG作品の迫力とは比べる事はできないが
少なくともダラダラと退屈という事はないんだな。

そして、何よりも神様達の傍若無人っぷりが良い。
虚栄と傲慢に満ちた言動の数々は
紛う事なきギリシア神話映画。
この説得力無しには世界が成り立たないよね。
あまりの我侭さに怒り沸騰なのだが
それを受け入れる主人公達の自然な態度に
そういう物かと受け入れざるを得ない流れはお見事。

孤独な主人公が友と出会い、愛する人と出会い
繰り広げる冒険の旅、立ちはだかるモンスターの数々。
完璧な構成でしっかりと楽しめる120分映画。





『タイタンの戦い』 2010年
監:ルイ・レテリエ  主演:サム・ワーシントン
★★☆☆☆

人間として育てられたゼウスの息子が
育ての親の復讐を神に挑む中で
次第に神々同士の戦いに巻き込まれていくお話。

超大作風の地味映画。
この世の物とは思えない絶景のロケ地に
クオリティの高いCGをあれだけ駆使して
何故、こんなに盛り下がるのか。

物語やキャラクターは有って無いような影の印象の薄さで
「戦い」という題名でありながら
その割り振りや構成がとにかくアンバランス。
通しで数戦が展開される戦いは
何故か終盤に行くほどに展開も尺も地味になっていってしまう。
序盤〜中盤にある名も無き蠍との戦いが一番とはどういう事か。

全般、CG全開で何でも描けるようになったばかりに
ついつい、欲張ってクドクドと大仰で冗長なシーンばかりを
作ってしまうお約束映画かな。





『タイタンの逆襲』 2012年
監:ジョナサン・リーベスマン  主演:サム・ワーシントン
★★☆☆☆

続編。
ゼウスの息子である半神ペルセウスが
クロノスの復活を阻止するお話。

変わらない映画だね。
90分というテンポの良い尺でありながら
何故こうも単調になり得るのか。

絶景のロケーションに、大掛かりなCG映像を加えても
やはり盛り上がりは今一つ。
まだメジャーなモンスターの造形や登場にワクワクできた
前作の方が救いがあっただろうか。
今回は神様同士の地味な謎の殴り合いに終始する作風で
アクション超大作至高の映画としても
これでは何処にカタルシスを得れば良いのか。

主演のサム・ワーシントンの地味さも加え
ジャンルからすれば、致命的に華の無い一本かな。




『大統領の陰謀』 1976年
監:アラン・J・パクラ  主演:ダスティン・ホフマン
★★★☆☆

大統領選に絡む大スキャンダルをすっぱ抜くため
あらゆる妨害を残り超える新聞記者を描く良作サスペンス。

社会の正義と言うより
何よりも、職業に対する誇りや
さも当然の事という努力、使命感がカッコイイ。
ただし、その取材手法や隠蔽方法に
時代を感じてしまうのがこの手の社会派の弱点かな。
固定電話絡みのネタの多いこと多いこと。

それでも、丁寧に丁寧に描かれているので
どう結論付くかわからん結末に手に汗握るし
今作が見せるテーマ性は残念ながらいつの時代も不変だろう。





『ダイ・ハード』 1988年
監:ジョン・マクティアナン  主演:ブルース・ウィリス
★★★★☆

テロリストの商社占拠の現場に巻き込まれた刑事が
高層ビルを舞台に、孤軍奮闘で立ち回っていくお話。

本当に設定と展開が良く出来ているね。
ビルの数階分だけを舞台に主人公は一人。
敵対するのもテロリストグループのみという
ただただシンプルな作りで、何故ここまで面白いのか。

やはり丁寧さでしょうね。
ビルの構造、テロリスト達の個々のキャラクター
明確な目的、そしてメリハリのある小道具の数々。
観客に対して何らブラックボックスを作らず
一番大事な所をごまかしたりはしない。
決して無敵ではない小柄な主人公が
限られた条件の中で知恵を絞って戦う一体感が全てだろう。
肌で感じられる距離感が違う。
それでいて、荒唐無稽なハチャメチャさも忘れず
小粋な演出が何ともスカッとする一品。

密室型の緊迫感と超大作としての爽快感を
どちらも殺さずに両立した奇跡のような一品。
加えてちょっとしたイイ話も忘れないという贅沢さ。

地味と言えば地味、派手と言えば派手。
全キャラクターを真摯に作り込んだ事が上手く転んだ
何とも不思議な傑作映画。




『ダイ・ハード2』 1990年
監:レニー・ハーリン  主演:ブルース・ウィリス
★★☆☆☆

続編。
例によって舞台はクリスマスの一日。
閉じた空港を舞台にした大規模テロに巻き込まれるお話。

いや、巻き込まれてはいないんだよね。
基本的には主人公が自ら乗り出していくお話。
ここがイマイチ仕掛けに繋がらない二作目。
ただ馬鹿騒ぎ、大暴れさえしていれば満足という1980年代アクションから
ある種の脱却に成功した作品こそが
前作の『ダイ・ハード』の魅力だとすれば
どうしても単調で単発的な作りが目についてしまう。

結局は主人公はワンマンだから
今作、周囲の真面目にお仕事をしている方々との
不協和音ばかりが目立つ展開はどうなんだろうか。
知恵を絞るでもなく、ただただ流れるまま銃器を奮う主人公に
どのあたりに面白みを感じるかだね。

アクション作品として悪くはないが
前作のような多彩でジリジリした魅力からは
遠く離れてしまった一品だろう。
派手さは二倍、ただし散漫さも二倍。
そんな仕上がり。





『ダイ・ハード3』 1995年
監:ジョン・マクティアナン  主演:ブルース・ウィリス
★★★☆☆

NY市街地で引き起こされた爆弾テロ。
その犯人から、名指しで取引役をやらされる事となる
ジョン・マクレーン三度目の大活劇。

巻き込まれ男の本領発揮だね。
少し、自業自得感が強かった前作から一転
今回は正真正銘の不幸な男です。
何も悪くない。

犯行グループの無茶な要求に応え続け
延々と敵方にペースを握られるような物語展開は
基本、退屈で窮屈な物になりがちなのだが
そこはさすがのダイ・ハード。
そんな理屈を正面から跳ね除けるパワーが思う存分に楽しめてしまう。
何故、受け身にならざるを得ない側を見ていて
こうまで痛快な気分になれるのか。
ここだけは一作目から続く本題だよね。

NY全土をまたにかけた大スケール活劇のため
前作までにあった、閉じた空間を如何に攻略していくかという
知的でスリリングな側面は薄くなるのだが
その分、サミュエル・L・ジャクソンをパートナーに加えた
二面、三面展開による大作戦の爽快さは
それを補って余りあるかな。

ただ、ジョン・マクレーンのキャラクター造形として
絶対に必要だとと思っていた奥さんや子供との関係性が
今回は薄めなのは残念。
何故でしょうか。
活劇シーンにおける非常識男からは想像もつかないような
この哀愁漂う姿との共存が好きだったんだけどね。
マッチョヒーローが無軌道に暴れるだけの映画ではないから
ダイ・ハードは特別だったわけだよ。




『ダイ・ハード4.0』 2007年
監:レン・ワイズマン  主演:ブルース・ウィリス
★★★☆☆

アメリカ全土を混乱に叩き落すサイバーテロのお話。

12年ぶりの復活新作なのだが
主人公、ジョン・マクレーンのキャラクターが
とっても上手い年輪の重ね方をしているね。
禿げ上がったブルース・ウィリスの頭すらも逆手に取った
駄目親父の愛嬌が楽しすぎる一作。
シリーズ通しての「ぼやき」とのフィット感は
過去最高ではないだろうか。

パートナーはいかにも21世紀らしく
まだ子供にすら見える情けないハッカー青年。
彼の現代っ子っぷりとジョンの古臭い男性観が
事あるごとに綺麗に絡みあって
何とも素敵に親父キャラを引き立ててくれる。
ある意味、この青年の「男」としての
成長物語でもあるんだよね。
舞台や展開こそ最早手の付けられない程の
荒唐無稽になってしまっているが
その割に人物像は妙に暖かくて素敵な一品だろう。

なお、娘の出番も過去最高。
傍から見れば全然カッコよかった前作までから突き抜け
あぁ、本当にオヤジになってしまったと切なさ全開なのだが
その分、娘とのあらためての触れ合いは感慨深い。

誰もが年齢を重ね、時代も変わったのであれば
それを踏まえた上でさらなるキャラクター性を持たせ
しっかり楽しませてくれるお手本のような復活続編。




『ダイ・ハード/ラスト・デイ』 2007年
監:ジョン・ムーア  主演:ブルース・ウィリス
★★☆☆☆

シリーズ主人公、ジョン=マクレーンが
モスクワで拘留中のドラ息子保護のため
ロシアに乗り込むお話。

見事な復活を果たした前作から一転。
どうしてしまったのか。
限定されたシチュエーションアクションという
シリーズの魅力が全く存在しない一品。
練り込まれた舞台ギミックもゼロで
もちろんドラマらしいドラマもない。
これではお馬鹿映画として笑う事すらできないよ。

時間配分もバランスも考えずに
ただただカーアクションと銃撃戦さえ
永久に連続で垂れ流してれば満足だろうという
観客を馬鹿にしたような作りが何とも悲しい。

シリーズ通して成長した息子と繰り広げる
親子の掛け合いという最強の題材をもってコレでは
まさに、最後にして正解だね。




『大菩薩峠』 1957年
監:内田吐夢  主演:片岡千恵蔵
★★★☆☆

辻斬り癖のある名門道場の若様が
ある立ち合いを機に堕ちていくお話。

主人公、机龍之介はあらゆる悪事に手を染める屑野郎。
面白いのはそれが特に非難されるでもなく
彼が何処へ向かおうとしているのかに
つい興味を惹かれ見入ってしまう見せ方だろう。
何度も小さな幸せをつかむキッカケに出会いながらも
それには見向きもせずに修羅の世界へ突き進む世界観は独特。

原作の龍之介にはもう少し若いイメージがあったが
異様な貫録を見せる片岡千恵蔵も良いね。
目に見える妖艶さという点では後の作品に譲るが
この龍之介には誰も口を挟む余地がないような奥の怖さがある。
御大の独特の語り口調に乗せて眺めていれば
彼が地獄の世界へと邁進するに至る説得力は十分だ。

作風こそ平和寄りでマイルドな仕上がりながらも
時折見せるダイナミックな画と
おどろおどろしい幻想的な空気感が
この作品の持つ底知れない恐怖を垣間見せる。

そして何より、主人公と対照的な存在として描かれる
宇津木兵馬を演じる中村錦之助の鮮やかさは見事だね。
仇の龍之介側にどの作品よりも強い圧迫感が宿る分
彼の初々しい魅力は相乗効果で最も映えるだろう。
二人のパート毎に全く違う作品を見ているような楽しさがある。

三部作の一作目にして実に120分もの尺があり
普通に楽しませるだけの工夫も多彩。
途中から作品が変わったかのようなエンタメ感も増し
続編への引きも十分。
シンプルに映画としてはこの東映版が一番面白いかもしれないね。



『大菩薩峠 第二部』 1958年
監:内田吐夢  主演:片岡千恵蔵
★★★☆☆

前作のラストで視力を失った龍之介が
流されるままに転々と旅するお話。

この主人公は何故か女性に好かれるんだよね。
関われば不幸になるに決まっているのだが
様々な人が彼に愛情を持ち続け
かつ、それが淡々と受け流されれるたび本質がわからなくなる。
山奥で静かに暮らしたいと口から出た言葉も本気だろうが
突如、狂気染みた行動に出る姿も本気だろう。

龍之介の達観したか、或いは虚無とも取れる言動は
ますますの磨きがかかっているが
劇的な展開が続いた一作目と比べてやや動きは少ない二作目。
映画全体では退屈と言えば退屈かな。
それでも広々とした空間を横に追い続けるような
ダイナミックな画は健在で
突如、狂気的な恐ろしさ見せる龍之介の爆発と共に
時折、このゆったりとした空気感に刺激を与えてくれる。

何にせよ片岡千恵蔵のセリフ回しが余りに恐ろしすぎて
他映画による若い役者では出せないだろう
独自の龍之介像が誕生している事は間違いない。

しかし、不思議な作品だよね。
極悪非道な悪人が何ら罰を受けるでもなく
善良であればある程に不幸が約束される世界観ながら
それに対しても、別段悲劇性やお涙頂戴の様子は全く見受けられない。
ただただ受け入れるだけの物語が妙に面白い。



『大菩薩峠 完結篇』 1959年
監:内田吐夢  主演:片岡千恵蔵
★★★☆☆

人斬り机龍之介を見届けるお話。

どんどん観念的なお話が強まってきて
最早、龍之介のやりたい事がさっぱりわからない。
未だ辻斬り癖の抜けない最悪の男だが
既に善悪を超えた超越的な立ち位置にすら見えてくる。
そして、相も変わらず彼はモテるね。
一人女が死ねば、また業の深そうな女が寄ってくる不思議。
結局は愛情の男なんだろうな。
あれだけ平然と人を殺し続けた男が
その罪に苛まれて自ら報いを受けるかのような姿は
何とも不思議な感じがする。

ただ、そんな主人公はほとんど映らない。
主役は半ば仇討ちを狙う兵馬の側に移り
彼の旅と周囲を彩る人間模様を見る映画へ。
最後に兵馬が悟ったように口にした如く
結局全ては一つの世界の中にあるものか。

ラストシーンは投げっぱなしのようにも感じるし
テーマを象徴した比喩描写で完結したようにも見える。

何にせよ、超大作間違いなしです。
1950年代の東映時代劇が持つスローテンポはやや辛い部分もあるけど
全三作を通して要所要所で見せるアーティスティックで
かつ神秘的な演出の数々は
やはり、一つ別格な作品の印象は受ける。
1957年、1958年、1959年と年に一本ペースの全三部作とは
当時としても何とも贅沢な作りだろう。




『大菩薩峠』 1960年
監:三隅研次  主演:市川雷蔵
★★★★☆

魔性の剣法に憑りつかれた辻斬り青年が辿る
虚無で破滅な物語。

大映、市川雷蔵版の映画化。
いわゆる「ニヒリズム」の極地だね。
後の代表作、眠シリーズよりもよっぽど尖っているよ。
違いはベースとなる物語の大きさとキャラクターの個性。
ただのお坊ちゃま辻斬りだった机竜之介が
話が続くにつれどんどん荒んでいき
観客の感性からは手に負えない世界までへと
旅立っていく姿を見守る怪しげな快感がたまらない。

クソのような男の暴力衝動、欲求衝動を見るだけの物語なのだが
どうにも彼の姿に色気があるんだよね。
1957年〜の東映版とお話の流れはほぼ一緒なのだが
主人公の妖艶な怖さを堪能したければこの大映版が良いだろう。

完全なる連作なので見るならば三本纏めをお勧めする。




『大菩薩峠 竜神の巻』 1961年
監:三隅研次  主演:市川雷蔵
★★★★☆

二作目。
初作では肩透かしで終わった
仇討ち側にスポットが当たる作品。

やや地味な一本かな。
主人公を仇と狙い続ける若侍の明るさと
自業自得ながらどんどん不幸になっていく主人公の姿は
綺麗な対比となっていて面白い。
主人公が何をしたいのかもはや謎としか言いようが無いレベルで
明らかな不快感が張り詰めているのだが
これが不思議と面白い詐欺のような世界観が楽しめる。

なお、この時代の大映時代劇における美術の気合の入り方は異常だね。
スタジオ撮りである事は画面から一発でわかるが
それならこれを全部作ったのかと別の意味で感嘆できる
何とも贅沢なシーンが目白押しの映画。





『大菩薩峠 完結篇』 1961年
監:森一生  主演:市川雷蔵
★★★★☆

三本目、最終作。

前作終盤からの事情で一見落ち着いたに見える主人公だが
所詮は抜けられない業の道だろうね。
この男は本当に屑。
あらゆる作品の中でも郡を抜いて駄目だろう。
もはや、少し視聴者の理解を超えすぎている気もするが
ここまで付き合ったからにはこのレベルが相応しい。

こんな主人公を中心に据えた難解なテーマ性ながら
スター映画として三本連作の大作として撮れるあたり
この時代何でもありだったんだなと贅沢さに感じ入るのも一興。





『大菩薩峠』 1966年
監:岡本喜八  主演:仲代達矢
★★★★☆

魔性の剣法に憑りつかれた辻斬り青年が辿る
虚無で破滅な物語。
東宝、仲代達矢版。

剣の腕一つを心の支えに据え
人を斬れる喜びを見出す狂気という点で
仲代達矢の存在感が圧巻だね。
とにかく救いようがない酷い男なんだけど
彼の持つ暴力的なニヒルさには思わず惚れ込んでしまう。
これは片岡千恵蔵や市川雷蔵では出なかった魅力かな。

対して男女の機微や肉欲の面では
やや控え目な大菩薩峠となっているだろうか。
男性的であることのもう一つの狂気性として
SEXの怪しさは薄めの机龍之介。
全てのことの発端である「女の操云々」と
唐突に人妻に申し出る流れも
少々、サドっ気にのみ寄りすぎていて
不自然にすら見えるかもしれないね。

映画全般は何を置いても画がスタイリッシュで美しい。
殺陣のスピード感とダイナミックさが圧倒的で
他の映画化ではどうしても残る時代劇の古臭さが
全く感じられないテンポ抜群の見事な現代性。
脚本も納得度を優先する形で綺麗に映画用に整理されており
無駄無く一度もダレずに緊張感に張り付いていられる
実に完成度の高い一本。

初期エピソードの映画化なので
もちろん未完の作品ではあるんだけど
あまりに脚本が片付いているので
一切の原作予備知識がなければ
彼がラストシーンで妄想に取りつかれ朽ち果てる運命だったとも見てとれる。
仇討ちが実現されるまでもない現実の不条理と捉えれば
死生観を語る作品として成立しているよ。

ちなみに、三船敏郎が余りにも象徴的な役で登場するのだが
仲代達矢演じる主人公との対比が見事に過ぎて
彼が三船の剣を見て自身の心を砕かれてしまう流れが
一発で役者から納得できてしまう構造は少々ズルいか。




『大魔神』 1966年
監:安田公義  主演:高田美和、青山良彦
★★★★☆

戦国の世、下克上にて領主に収まった暴君が
何者をも恐れぬ蛮行で、ついに山の神様を怒らせるお話。

1時間程、耐えてください。
この映画は溜めに溜めた分だけ後半が面白い。
民を蔑ろにする殿様の暴れっぷりも中々だが
大魔神の激昂はその遥かに上をいく。
本当に、ありえないくらいに暴れ尽くしてくれます。
話が地味なだけにこれ程にスカっとする映画があろうか。

そして、大映の恐ろしさだね。
大映映画と言えば、クオリティの高い美術セットでしょう。
この特撮を交えた壊しっぷりはその極限だと思う。
如何に特撮が映えるシーンのために
手間と金をつぎ込めるかという一つの答え。
これだけの迫力と爽快さを生み出す贅沢映像は
他所ではそう見られる物ではない。
特撮映画の金字塔だろう。

顔面を切り替えるシーンなど
有名な映画の割に、意外と見ている人が少ない気がする。
映像特撮面からの傑作だよ。




『タイムコップ』 1994年
監:ピーター・ハイアムズ  主演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム
★★★☆☆

タイムマシンが開発された未来において
過去に戻り悪事を働く犯罪者を取り締まる
時空捜査官のお話。

アクション映画だね。
時間を絡めた設定や仕掛けが割と綺麗で
期待させてくれるんだけど
SFではなくオチがどーにもアクション映画。

未来世界のデザインは独特で気合十分。
ただ、下手に期待をさせる作りが
見ている側にジャンルを勘違いさせてしまう。

あくまで若い頃のキレにキレてたヴァンダムの肉体美を楽しむ映画。





『ダイヤルMを廻せ!』 1954年
監:アルフレッド・ヒッチコック  主演:グレース・ケリー
★★★★☆

ある男が企てた妻殺し未遂事件の顛末を描く
サスペンスミステリー。

ヒッチコック作品には珍しく
ミステリー寄りの作風になっている。
二転三転を繰り返す緊迫のサスペンス仕立ての末に
十分に唸るだけのオチが用意されるのは幸せだね。
狭い舞台で少ない登場人物だからこそ際立つ構成密度の高さに
冴えに冴えた白黒映像演出は一本で二度おいしい。

徹底して無駄が省かれたスッキリとした傑作。
ヒッチコック作品の中でも完璧な完成度を誇る一本だろう。





『太陽がいっぱい』 1960年
監:ルネ・クレマン  主演:アラン・ドロン
★★★★☆

自身の貧しい生い立ちにコンプレックスを抱いた主人公が
金銭目当ての行き当たりばったりな犯罪を重ねていくお話。

アラン・ドロンの存在感が際立つ一本。
お話としては、本当に何の計画性もない犯罪の連続で
何処に着地するかわからないという一点を除いて
それほど練られた物ではないのだが
主人公の若さ、鬱屈した精神、そして刹那の隙に見せる僅かな開放感……
彼の複雑な表情を見ていると、つい悲しさで胸が苦しくなってくる。

本当に悪い男だよ。
悪い男なのだが、彼には同情を誘うだけの何かがある。
そんな存在感を見事にネクラ俳優としてのアラン・ドロンが
全てを使って体言しきっている。
そこに、フランス舞台の独特な情緒も合わさる事で
乱暴な犯罪計画にもかかわらず、何とも言えない優雅さが全編に漂う。

特にラスト。
主人公が海辺で見せる満たされきった表情は決して忘れられないだろう。
あれ程に沈んだ人間が見せたあの顔……一体、彼は何を見たのか。





『太陽の季節』 1956年
監:古川卓己  主演:長門裕之 
★★★★☆

良家の子女達が繰り広げる若者の生き様を描いたお話。

これは凄いね。
馬鹿高校だと自虐をするシーンはあるが
これは、インテリ層の若者話だよね。
少なくとも良家だよ。
贅沢な不自由の無い人生を送っているはずの
主人公のキャラクターが凄まじい。
ここまで刹那的と言うか、人間同士の距離において
人はドライになれるものだろうか。
その実、十分に心は惹かれているんだけど
それに対して取られる行動があまりに斬新。
一見、早熟なように見えて、よくよく見ていけば十二分にガキだよな。
ある種、後のアメリカンニューシネマを彷彿とさせる。

特に見所は多い映画ではないのだけど
主人公とその恋人、そして周囲の言動を追っていくだけで
あっという間に終幕という見事な一芸作品。
あまりにも飛びすぎていて
当時の若者が憧れたという理由もわかるが
ちょっと気軽に真似ができる代物ではない気がするね。
人生観抜きに表面だけ真似たら、そりゃ問題だ。

ちなみに長門裕之の映画ですよ。
石原裕次郎はほんの端役なので勘違いしないように。




『太陽の帝国』 1987年
監:スティーヴン・スピルバーグ  主演:クリスチャン・ベール
★★★★☆

1941年、上海の租界で暮らす裕福なイギリス人少年が
日本軍の侵攻に巻き込まれ、怒涛の現実に直面するお話。

少年が大人への階段を登る境界線。
太平洋戦争の時代を舞台に、その淡い一時を見事に切り抜いた
少年物の王道映画。

当初は何不自由なく良家で育った高慢な少年が
日本軍の捕虜収容所へと送られ、戦争の荒波に揉まれる事で
大人へと成長していくシンプルな物語かと思ったのだが
良い意味で期待を裏切ってくれる一本。

この主人公は、成長しそうでしない。
大人へなったかと思えば、また少年へと戻る。
確かに捕虜生活の数年で逞しくはなるのだが
それは裕福の中で育てられた高慢な少年から
あくまで状況に適応し、要領の良い小賢しい少年へと
少年の範疇で変貌しているに過ぎない。

一つは道中で出会った不良アメリカ人に魅了され
兄貴分として子犬のように慕い続ける姿。
また一つは「戦闘機」という存在そのものへの
漠然とした子供の憧憬の心を持ち続ける姿に
それは見て取れる。

零戦や、日本軍人の神秘的な儀式、精神に触れて
心から歌い、敬礼を行ったかと思えば
直後、その日本人の命を奪う事となる米軍の爆撃を目にすれば
凄い! 空のキャデラックだと、はしゃぎ、絶叫する。
この少年らしい姿はあまりにもリアル。

そんな道中の主人公からは
自らがドン底の生活にまで叩き落とされながらも
結局は戦争を現実としては捉えきれていない事が
ありありと伺える。
言ってしまえば、彼は狂おしいまでに社会に対して中立な存在だ。
これこそが少年の特権であり未熟さなのだろう。

しかし、現実はさらに歩を進め
ついには彼が少年のままでいる事を拒絶する。
この怒涛の終盤戦は見事の一言。

人間の魂が昇る神秘の姿に思えた空の光は
実は長崎に落ちた人命を奪う兵器だった事
友達になれたはずの日本人少年兵が
日本人というだけで目の前で殺される事。
否応なく彼の中で戦争は現実として昇華する。

ついには憧れの不良アメリカ人からの卒業。
彼の存在がどうにも小さく映り
少年は最後の大人への階段を登る。
この場面、一言も喋らずに
ただただ、哀れむような眼光で彼を見つめる姿
表情のみで全てが語られる様は必見。
20年後の大スター、クリスチャン=ベールはやはり天才だったか。

これらの王道少年物語を
圧倒的な映像美と、美しい音楽が一分のスキもなく彩る大作。
戦争物、反戦物として見れば、間違いなく癖は強いのだが
視聴後、誰もが神秘的な気持ちになれる傑作。





『太陽は光り輝く』 1953年
監:ジョン・フォード  主演:チャールズ・ウィニンガー
★★★★☆

南北戦争の敗戦後、部隊に誇りを持ち続ける
亡霊のような南部老人達がみせる人情物語。

これはもう保守の権化だね
アメリカ南部の保守層が望むような
理想の世界を完璧に描いた傑作。

人情味溢れるインテリ判事が主人公で
暴力的ながらも誇り高き威勢の良い白人の老人達がいて
もちろん召使である黒人との関係は良好そのものの主従関係で
そこには間違いなく愛情があって……
そして皆、ご婦人がたにはどうも弱い。

主人公の判事が醸しだす
全世界共通の好人物としての意地のお話
世間の扇情的な流れと戦い続ける敗北者の意地だね。
負けるとわかっていても付いてきてくれる仲間の素晴らしさ
アメリカの古典的な世界観を敢えて徹底的に貫き通す人間味に
確かな感触がある傑作。

時代の中で過去の存在となりつつある
元南軍の老人達がみせる粋でいなせなアメリカ下町物語とでも言うのかな。
われわれが漠然と思い浮かべる
保守的なアメリカ人の姿が完璧な形でそこにある。
カラっとした切り口で陽気に正面から開き直って描いた一本。

南部をアメリカの暗部として描く傑作映画はとても多いのだが
たまにこういう作品があっても良いのではなかろうか。




『太陽を盗んだ男』 1979年
監:長谷川和彦  主演:沢田研二
★★★☆☆

原子爆弾は個人で製作可能という欲求にかられた
中学校の理科教師がプルトニウムを盗み政府を脅迫するお話。

全編に漂う本気度の不明っぷりが凄まじい映画だね。
冒頭、1時間近くかけて原爆の製造を大真面目に描いているんだけど
それをやっている兄ちゃんの陽気で楽しそうな様子が
独特の退廃感をガンガンに醸し出してくる。
この後の作品で嫌というほどに流行したであろう
いわゆる目的のない愉快犯なのだが
沢田研二の持っている子供のようにはしゃぐイメージと
どこか影のある美男子のイメージが綺麗に融合していて
何とも掴みどこのない不思議な犯人像が生まれている。
井上堯之によるトリッキーなBGMも大いに一役買っているね。

何せ原爆を盾にした政府への最初の要求が
テレビのナイター野球中継を試合終了まで放送しろというのだから
これはもう筋金入りの変態さ。

そこにド直球な剛腕刑事キャラクターで対応する
菅原文太の暑苦しい存在感が見事な対比になっていて
これまた馬鹿にされた気になってしまうんだ。
終盤に彼が指摘したように
結局、犯人は自分を殺したいだけなのかな。
自分と世の中が嫌というだけの動機に同調する
プッツン女との謎のロマンスまで始まるカオスっぷりには
実に1970年代ならではの狂った作風が味わえる。

全てがド派手で無茶苦茶な作りの作品なんだけど
そこが甘え切った主人公の無軌道な言動と重なるのかね。





『大列車強盗』 1972年
監:バート・ケネディ  主演:	ジョン・ウェイン
★★★☆☆

10年前に隠された曰くつきの金塊を目指して
主人公一向が旅をするお話。

美しき西部の大荒野と
そこを駆け抜ける馬、馬、馬。
そんな情緒溢れる映像をワイド画面で撮りまくる。
古きよき映画ならではの雄大な画に
ただただ、酔いしれる90分。

ただし、ストーリーは至ってシンプル。
キャラクターも主役サイドに7人もの人物が配置されながら
いつまで待っても目立ったドラマは現れない。
あくまで、ジョン・ウェインの醸し出す頑固親父の姿を追い続けるだけの
退屈と言えば退屈な作風。
一応、最後のオチだけが爽快感を保証してくれるのが救いかな。

往年のオールロケな西部劇を撮りたいという一発ネタと思えば
パワー不足はともかく構成自体は完璧なので
この尺で綺麗に治まった佳作と言える一本かな。





『誰が為に鐘は鳴る』 1943年
監:サム・ウッド  主演:ゲーリー・クーパー
★★★☆☆

ファシズムと共和国との内戦で荒れるスペインを舞台に
重要な作戦上の爆破任務を受けた主人公が
現地ゲリラとの協力の中で、ある女性と出会い恋に落ちるお話。

ヘミングウェイ原作。
時代を感じさせない美しきカラー映像がお送りする
スケール感満点の大作ドラマ。

ただ、決してメロドラマには終始せず
作戦の行方であったり、山岳ゲリラの中での絶妙な立場であったりと
サスペンス的な見所も多彩で飽きさせない。
特にゲリラの頭領であった男のキャラクターは実に良い。
臆病で夢見がちで、残忍で、かつ誇り高く弱々しい。
一体、どういう人生観の持ち主なのかと
彼の一挙手一投足が気になって仕方がない名脇役。
作戦遂行上からも、人間性の面からも
とっとと始末されて然るべき彼が、何故か延々と生き延びて
主人公たちの行動に影響を与え続ける様は
間違いなく隠れた見所だろう。

舞台こそ山岳に限定されており手狭だが
展開の多様さと、超大作然とした仕掛けの数々に
思わず手に汗握る良作。




『Taxi2』 2000年
監:ジェラール・クラヴジック  主演:サミー・ナセリ
★★★☆☆

無茶な客の要求をかなえてくれる
とんでもタクシーの物語。

フランス映画を誤解していた。
ナンセンスは間違いない、妙なテンポや悪ふざけも間違いない。
ただの馬鹿映画なのも当然だろう。
しかしただ一点
「こんなにサービス良いの?」これに尽きる。
何故か純粋に面白く
どこにでもあるようなお馬鹿な題材を
どこにも無いフランスなノリで見るという
不思議な感覚が楽しいね。







『タクシードライバー』 1976年
監:マーティン・スコセッシ  主演:ロバート・デ・ニーロ
★★★☆☆

何の目的も生きる実感もないまま
腐りきったNYの夜を走るタクシードライバーのお話。

いわゆるアメリカンニューシネマですね。
この時代で、まだこんなコテコテのがあると言うのが驚き。
ここまでやらないと、生きている実感が得られないと言うのは
どう考えても病気。
傍から見れば十分に真っ当に暮らしてるんだがね。
何をもって人生を重ねられるかというのは人それぞれ。

この手の映画の訴える閉塞感とは何だろね。
とにかく前に進みたくて、何かを見つけたくて
それで、やらかすわけなんだが
結局、何が変わったかと言えば世界は何も変わってない。
要は自分だけの話よ。
やはり、自身の心次第じゃないか。
幸いにも一切実感は湧かない。
趣味や遊びで楽しみ方を知ってる人間は得をしているのか。

しかし、音楽、演出、俳優の演技。
こういう作品は何故か一級品が多い。
ロバートデニーロの僅かな仕種、表情の一つ一つにまで思わず釘付け。
最後のシーンのカメラも凄いのだよ。
一本の映画として十分面白く見る事ができる。





『黄昏』 1952年
監:ウィリアム・ワイラー  主演: ジェニファー・ジョーンズ、ローレンス・オリヴィエ
★★★☆☆

田舎からシカゴへと働きに出てきた主人公が
そこで、運命的な恋と出会うお話。

一見した印象とは裏腹に、全く甘くないお話だね。
まず、主人公に言い寄る男二人が駄目すぎる。
片方は窮地に付け込んだ手法で主人公に近づき
のらりくらりと結婚を伸ばす。
片方はプライドだけは高く紳士然としながら
全てにおいて自己に甘く中途半端。
そんな相手を好きになる主人公もまた、
若さ溢れる未熟な女性。
上手くいくビジョンが何所にも見えない。

下層社会での生活経験が無い、妻子もちの紳士という時点で
恋の行方に対する観客の不安は止まる所を知らない。
大方の予想通りに展開する姿には溜息しか漏れまい
そんな現実を見せられるのは野暮とは思いつつ
それが、十分に納得できるだけの人生観は
大体の観客が持っているんじゃないだろうか。

秘密主義で、カッコツケの男と言う物が
如何に実態を伴わなくなった際に
メンドクサイ存在に変化するかと言う典型みたいな
そんな切ないながらも少しだけニヤつける一品かな。
そこにローレンス・オリヴィエという配役がまた完璧すぎるね。




『黄昏』 1981年
監:マーク・ライデル  主演:キャサリン・ヘプバーン、ヘンリー・フォンダ
★★★★★

湖畔で暮らす年老いた老夫婦の死生観
また、どこか距離のある娘との関係や
その再婚相手の連れ子との心温まる交流を描くお話。

こんな老生活は良いな。
ここまで綺麗な偏屈爺さん像は見た事がない。
もう半分ボケてるんだけど、口の悪さとプライドの高さは現役。
そんな彼を愛してやまない元気な奥さんの姿。
80歳に到達して、この夫婦関係の境地かと恐れ入る。

一見して取っ付きにくい彼の心は
本当は誰よりも優しいはずなんだよね。
そこに、娘の再婚ハネムーンのために
一ヶ月預かる事になった13歳の少年が加わり
男同士の友情がその真の人物像を浮き彫りにしていく。
何の嫌味もはやる気持ちも無いこの丁寧な描写が
本当に美しい。
そうなんだよ、男は対等な関係に憧れるもんだ。

しかし、本当のテーマは娘との和解。
彼女のケースは年月の重みが逆に働く分
そう子供のように単純にはいかないのだが
それも人生の黄昏にさしかかり、いつ寿命を迎えるとも限らない
彼の年齢が始めて可能にする特別な一歩がある。
いや、あって欲しい。
そうでなければあまりに悲しくないだろうか。

情緒溢れる湖畔の情景も含め
誰もが抱く人生のあらゆる憧れが詰まった物語だろうか。

キャサリン・ヘプバーン、ヘンリー・フォンダ。
技術の次元が違いますね。
既存の役柄が全く頭にも浮かばない。
本当にこの作品だけのオリジナルな存在感。
この二人でなければ、ここまでの雰囲気が出ただろうか。





『たそがれ清兵衛』 2002年
監:山田洋次  主演:真田広之
★★★☆☆

田舎で慎ましく暮らしている侍一家に訪れる
理不尽な武家社会の様を描いたお話。

淡々とナレーションで状況を説明しながら
展開される話はとっても退屈だが
実直で密度が高い絵作りの説得力は
屋内屋外問わずどこを切り取っても素晴らしい。
何よりも作品全体を通したクオリティが高く
ある意味では丁寧な展開を安心して見ていられる。

但し、下級武士の人情物としての悲哀を描いた作品にしては
登場人物が綺麗に過ぎてあまり面白みはないかな。
この筋立てで120分はやや長尺に思える。
あくまで雰囲気と映像の融合を楽しむ作品だろう。
21世紀にもなってこれだけの時代劇を撮ろうと思ったのは凄い話だね。





『たそがれ酒場』 1955年
監:内田吐夢  主演:小杉勇 
★★★☆☆

一夜の大衆酒場に集まる人々が僅かに覗かせる
百人百様の人生譚。

綺麗な群像劇映画だね。
作品全体を通して主軸になる程のストーリーは無く
あくまで淡々と過ぎ行く人生感を垣間見る一品かな。

大衆酒場だけあって
様々なタイプの人間がこれでもかと出入りを繰り返し
小粒な悲喜こもごもを見るだけで元気になれる。
皆が皆、各々で生き方は全く違うわけだから
そこまで感情を移入することはないのだが
その他人として一定の距離がある関係性こそが
かえって自然な哀愁を醸し出すんじゃないかな。

人間、必ずしも劇的、感動的に交わることもないし
他人の人生を理解もできないだろうさ。
それでも、皆が皆、自身の都合を噛み締めながら
しっかりと覚悟の上で生きていることだけは
外からの視点でも認めることはできるわけだよ。
このバランス感は見事。

何かが成り立つと、何かが成り立たなくなるのは自然の摂理。
さほど明るい話ではないのだが
人間と人間が直接絡む大衆酒場の姿の良さを
当時の大衆風俗の活気を交えつつ
これでもかと詰め込んでいる良作。





『戦う幌馬車』 1967年
監:バート・ケネディ  主演:ジョン・ウェイン、カーク・ダグラス
★★★☆☆

復讐に燃える老ガンマンが仲間を集めて
輸送砂金の強盗計画を進めるお話。

落ち着いた老ガンマンにジョン・ウェイン
若き野心家にカーク・ダグラスと
やや『ヴェラクルス』を彷彿とさせる
ライバル配役の妙が楽しい作品。

中身はシンプルなチーム作戦物で
西部劇ならではのド派手な活劇シーンに加えて
雄大な景色と豪快な馬アクションまで合わて楽しめる良作だが
いまいち今作ならではの個性は薄めかな。
悪くはないが今更感の強い一品ではある。

見所はターゲットとなる装甲馬車のインパクトと
カーク・ダグラスがシーンごとに見せてくれる
一風変わったオシャレな馬への飛び乗り方。
それだけでも一見の価値のあるカッコよさ。
スターは良いね。






『脱出』 1944年
監:ハワード・ホークス  主演:ハンフリー・ボガート
★★★★☆

親独政権支配下のフランス植民島において
アメリカ人船長がレジスタンスの夫婦を助けるお話。

えぇと、どう見ても『カサブランカ』だな。
主人公のボギーはやはりキザ。
ヒロインとのやりとりは徹底的に洗練されていて
そのあまりの完成度には思わず苦笑が漏れる程。
ローレン・バコール演じるヒロインは少し悪い女なので
余計に男女の会話が生き生きとしている。
常に勝たないと気が済まないボギーの姿が素敵。
とにかく主役達の一挙手一投足に酔いしれる映画だろう。
途中、お互いの部屋を往復するシーンは見事。
時代の象徴みたいなロマンス作品。

それでいながら、サスペンスの緊張感も抜群で
最後まで飽きさせないのだから大したエンターテイメントだ。





『他人の顔』 1966年
監:勅使河原宏  主演:仲代達矢
★★★★☆

事故により顔に大火傷を負った男が
他人になりきれる精巧なマスクを被る事で
人間の何たるかを見つめる物語。

顔ですよ、顔。
凄まじい題材を扱った映画だね。
人間、容姿は容姿、中身は中身と
完璧に割り切れる物なのかというお話は
いつの時代までも続く不変のテーマではなかろうか。

真っ当な顔を失った男は他人との関係性までをも失い
今までの自己であり続ける事はできないのか。
結局、人間の心は視覚を通してしか成立しないのではないか…

劇中に女の化粧が云々という台詞が出てくるのだが
現代においては、もはや容姿への拘りに性別の差はないだろう。
もし、誰もが好きな面相を自由に手に入れる事ができれば
人間は個人を認識できなくなり
信頼も疑念も何もなくなるのではとの問いかけは
本当に正しいのかな。

そんなドン詰まりの答えが見えそうもない題材を
キレッキレの気持ちく悪くシュールで高尚な空気感で
インテリジェンス全開に語るに語る不思議な映画。

画面全体を覆う異常なまでの美的センスの高さの中に
幼稚性と知性が共存するこの感覚は
まさに誰もが思い描く1960年代芸術そのものの一本。
ただし、最後の最後は相応に前向きなお話で
映画自体は締まっている気もするね。
別に、直接的な顔面の是非を問うまでもなく
誰もが仮面自体は被って生きているのはその通りだろう。
必ずしも主人公だけが特別ではあるまい。

時代と共にメイクの技術も整形技術も上がり続け
さらにはインターネットの爆発的普及により
より顔を合わせないコミュニケーションが
社会的にもどんどん正しい物と認められていく…
そんな未来の21世紀世界に思いを馳せれば
当時の直接のテーマとは違うかもしれないが
1966年にしてこの先見性は凄まじいね。
とすれば、この劇中の登場人物が示してみせた通り
男より女の方が遥か先の世界を生きていた事になるのかな。

あまりに完成されたカルトな世界観に騙されそうになるが
題材は素直で永遠の一本。
何とも言えない心地の悪さを感じたければお勧め。




『旅立ちの時』 1988年
監:シドニー・ルメット  主演:リヴァー・フェニックス
★★★★☆

元活動家としてFBIから逃げ続ける両親を持った
17歳の少年の青春劇。

全編が象徴的な少年性に満ちた甘酸っぱさに満ちており
リバー・フェニックスのスター性が存分に発揮された一本だね。
男の子はいつか自分の人生を歩む時が来るという事なのだよ。

不幸な家庭環境にありながら
それ故にか少年の言動全てが切実に美しい。
誰しもが憧れた17歳の儚い青春が
その表情、一挙手一投足に完璧なまでに込められている。
ただイケメンであるという枠を遥かに超えた
何か不思議な美しさがあると思わざるを得ないね。

やや都合の良い展開が続くシンプル構成ながらも
完璧な完成度を誇る一本。





『Wの悲劇』 1984年
監:澤井信一郎  主演:薬師丸ひろ子、三田佳子
★★★★☆

劇団所属のぱっとしない新人研究生が
トップ女優の栄冠を掴みにいくお話。

とってもテクニカルな作品だね。
劇の中で劇をやるという伝統の劇中劇展開をベースに
ちょっとしたサスペンス要素と、淡い青春ロマンス
そして女優人生のおどろおどろしい世界観が綺麗にマッチしている。

何よりキャストの妙に驚かされる。
まず、劇中の舞台演技で主人公に対して凄みを示せなければ
そもそものキャラクター性が成立しないという
設定としての「大女優」を演じた三田佳子が凄い。
舞台上の大女優と、楽屋裏の大女優の姿、
両方の説得力が必要な離れ業を見事にこなしている。
また主役は主役で、新人女優のフレッシュっぷりと
若さ故のやや大根っぷりとが両立するのだが
その絶妙なスター性を若き薬師丸ひろ子が好演。
二人のハマリっぷりが大前提の映画だろう。

また、所々で映画本編のストーリーが
細切れに描かれる舞台シーンをバックに進むのだが
劇中劇を繰り返す内に平行してこの舞台劇の脚本もはっきりしていき
最後、本編がクライマックスを迎えると同時に
劇側の裏ストーリーも理解できるという
実に職人気質なギミックも綺麗だね。
とにかく全編通してクオリティの高い一本。

ただし、終わり方はやや素直。
女優という真っ当でない人生を選んだ女のバトル物として
そのまま圧巻の世界観も出しきれただろうが
今作はあくまでアイドル映画として作られている。
爽やかな気分で締めてもらえる贅沢さは理解しつつも
少し惜しいと取れるかもしれない。




『007 ドクター・ノオ』 1962年
監:テレンス・ヤング  主演:ショーン・コネリー
★★★☆☆

イギリス諜報員ジェームス・ボンドの活躍を描く
スパイシリーズシリーズの第一作。

冷戦時代を背景にした陰謀論を世界観に据えつつ
あくまで、ショーン・コネリーの見事な洒脱っぷりを見る作品だろうね。
今や、時代の象徴としか言えない悠然としたイギリス紳士像が楽しめる。
時に優しく、時に軽やか、時に独善的、時にはドライで冷酷
男のくだらない虚栄心の全てが詰まっている最高であり最低のキャラクターだろう。

敵サイドのキャラクターも絶妙な突っ込み所を残した造形で
話の重さにしては、何処と無く全体を包む空気に安っぽさが映り込む。
しかし、今作がカリブ海を舞台にした大活劇作品である事は間違いなく
この両面のアンバランスさこそが007シリーズの味だろうか。

テンプレートの構築は続編以降に譲る形になるが
ファッションも装飾も全てがお洒落で、十二分なダンディさを楽しめる一品。




『007 ロシアより愛をこめて』 1963年
監:テレンス・ヤング  主演:ショーン・コネリー
★★★★☆

英国情報局の諜報員、007ことジェームズボンドを主人公に
犯罪組織スペクターの陰謀との戦いを描くシリーズ第二段。
今作は、東側のスパイ組織を巻き込んだ暗号解読機の争奪戦。

本当に馬鹿な作品だよ。
終始、ノンストップなテンポが素晴らしい。
無茶な展開に笑うか、小道具のアホさ加減に笑うか
はたまたボンドのウィットに富んだキャラクターに笑うか。
設定含めてあまりの安っぽさの連続ながら
その挿入テンポの見事さに、見ている側が慣らされてしまう。
気付けば、これが独自のB級世界感なんだと
きっちり納得できているから不思議な代物。

今作はお馬鹿系大作アクションの原点だろうね。
これ程、爽快に笑い倒せるのは見事。
どう見ても突っ込み待ちなのだが
逆にそのナンセンスが心地良い一品に仕上がっている。

それでいてショーン・コネリー演じるボンドは
純粋にダンディでカッコイイんだよ。
何故この空気が両立できるのか。
007が傑作ブランドたる所以だろうか。




『007は二度死ぬ』 1967年
監:ルイス・ギルバート  主演:ショーン・コネリー
★★★☆☆

ソ連とアメリカの衛星が互いに消息不明となり
世界に緊張が走るお話。

当時の冷戦構造をベースに
闇の組織の陰謀を解き明かす007という黄金図式だが
今作の見所は何といっても舞台が日本であること。
相撲だ、お風呂だ、忍者だと
日本人が故に感じることができるナンセンスさが役得な一本。

大規模撮影、大規模ロケーション、大規模特撮技術……等
全てがてんこもりの超大作なのだが
ありとあらゆる話の筋や小道具全てが見事にくだらなく
大人の悪ふざけが全て詰まったような
実に贅沢な"B級"超大作だね。
エンタメアクション映画は未だ007シリーズが流行らせた
この空気に支配されていると言ってもいいかもしれないな。

最後の出演となったショーン・コネリーのセクシーさも極まっているが
ゲスト役の日本人、丹波哲郎の存在感も中々で
決して存在感では負けていないのが素晴らしい。
ボンドガール二人も日本的な美しさが際立っている。
シンプルな007作風ではあるのだが
東洋的な異色作品として必見の一本かな。





『007 死ぬのは奴らだ』 1973年
監:ガイ・ハミルトン  主演:ロジャー・ムーア
★★★☆☆

007シリーズ第8作目にして
ロジャー・ムーア版ボンドの初登場作品。

とっても豪華なB級アクション。
このコンセプトはそのままに
よりダンディなボンドへとシフトしたロジャー・ムーア版。
小粋な紳士が、いつでも余裕たっぷりに
ジョーク片手に事件を乗り切っていく姿が特徴。
おそらく、等身大に怒ったり悩んだりといった
人間的な味は、決して見せないだろうキャラクター性が面白く
あくまでボンドのスター性に特化した作りの映画。

ショーン・コネリーと比べるならば
ややワイルドさが削がれて
代わりにフェロモン増量といったところか。

アクション大作として、ほぼあらゆる要素が詰まっていながらも
敢えて脚本は穴だらけ、あくまで観客の突っ込み待ちを徹底して貫く
独自のナンセンスさを楽しめる実に007らしい一本。





『007 カジノ・ロワイヤル』 2006年
監:マーティン・キャンベル  主演:ダニエル・クレイグ
★★★☆☆

ダニエル・クレイグを主演に迎えた復活の007シリーズ。

このシリーズから、敢えて007ブランドが残していたはずの
伝統のB級臭は控えめになり
超大作映像、大掛かりなアクション方向に舵が切られる事となる。

しかし、そこは007。
そうは言っても、決してハリウッド型のテンプレートに収まるわけではなく
抑える所は抑え情緒のメリハリは忘れていない。
世界各国を股にかける情景の一つ一つを取ってすら
その画からは自然と格調高い雰囲気が滲み出てしまう。
あくまでも上品な大作アクション映画という
何とも不思議なジャンルに仕上がっている。

そして、ダニエル・クレイグが扮する若かりし頃のボンドが実に良い。
とっても暴力的で、ワイルドで、常に傲慢とも言える自信に溢れ
敵にも女性にも一歩も引かない攻めの姿勢を向け続ける。
かつてこんなボンドが居ただろうか。

そんな彼だからこそ、繰り広げられるロマンスは純粋なんだね。
普段見慣れた小粋なボンドは何処にも存在せず
最後まで哀愁漂う男臭さが楽しめる。

このボンドならば、今後は、どんなドラマを見せてくれるのか。
視聴後にそちらの方向へ期待が及ぶ良作。
21世紀らしいお馬鹿アクション大作の側面を与えられつつ
きっちり貫かれた芯の部分はとても綺麗な映画で
新生007シリーズ一作目として十分な一本。




『007 慰めの報酬』 2008年
監:マーク・フォースター  主演:	ダニエル・クレイグ
★★★☆☆

前作『カジノロワイヤル』において失われたツケを
ジェームズ・ボンドが払う一本。

まさに、恋人の敵討ちだけの映画。
組織の意向も、国家の利益も、半ば程度に置いといて
私怨のみで動きまくるボンドの姿は
前作をも遥かに超えて新鮮。
ダニエル・クレイグ演じる若き日のワイルドボンドの決定版。

しかし、作品としては地味の一言。
前作がまだエンターテイメントとして成立していたのに対し
今作はドラマらしいドラマは存在しない。
恒例のB級アイテムも登場せず
ヒロイン枠の所謂「ボンドガール」すらも事実上不在のままである。
ヤンチャな部下を庇う上司Mの愛情も
前作程には上手く回らず最後までボンドの暴走は止まらない。

基本は、敵側の主導で話が進むため
常に翻弄される主人公の構図からは
無論、爽快感を感じる事もできはしない。

尺も前作から一転して、綺麗に100分程に凝縮され。
邪魔な要素は全て不要と言わんばかりの
一芸を突き抜ける点はここまで来れば見事だろう。

面白い映画かと言われれば疑問は残るが
せっかく作った新生ジェームズ・ボンド像を研ぎ澄ましたいという
気概だけは十分に感じられるギラギラな一本。





『007 スカイフォール』 2012年
監:サム・メンデス  主演:ダニエル・クレイグ
★★★☆☆

ダニエル・グレイグ主演のワイルドボンド
第三段。

Mとの立場が逆転する一本。
過去二作では、思いのままに暴走するボンドと
厳しい態度を取りつつ、どこか駄目息子に愛情を注ぐ母親のように
庇い続けるMの姿を描かれていたが
今作ではそんなMを救うために奔走するボンドの姿が楽しい。

時代相応のド派手エンタメを取りつつも
どこか品のあるアクションシーンや
野性味溢れるボンドとMのキャラクター性の素晴らしさは
相変わらずの一級品。

ただ、敵役はいまいちだろうか。
Mへの復讐に燃える大ボスは
確かに気が触れている事だけは伝わるが、
そこから人間的な恐ろしさや、深みは全く感じられない。
ハビエル・バルデムのいつもの演技と言ったところ。
あくまで記号としてのホラー映画のモンスターなんだね。
結果、全体の脚本もテーマが伝わりにくく
良質アクション映画である事は間違いなく
高級芸術映画としての舵取りも行くトコまで極まっているが
Mとボンドの絆の物語や、サム・メンデス監督の名前から期待されるような毒を
期待してして見ればやや肩透かしな作品だろうか。





『誰かがあなたを愛してる』 1987年
監:メイベル・チャン  主演:チョウ・ユンファ、チェリー・チェン
★★★☆☆

ボストンのチャイナタウンを舞台に繰り広げられる
オシャレすぎるメロドラマ。

お互いに意識はしつつも
あと一歩を踏み込めない男女の
悶々とした生活を描く香港映画。

独特の感覚が良いね。
アメリカを舞台にしつつも中身はイタリア映画と見紛うばかりの
哀愁たっぷりの失恋作品。
そこに、当然の香港情緒も加わるのだから
何とも不思議な雰囲気に満ちた切なさ全開の一品。

チョウ・ユンファの笑顔を楽しむ分には
最高級の作品です。





『誰も知らない』 2004年
監:是枝裕和  主演:柳楽優弥
★★★★★

無責任なシングルマザーの下で生まれ
学校にも行けず、世間に存在すら隠されながらも
それでも、生きている4人の子供の生活を描くお話。

果たして、これは映画か現実か。
とても演技とは思えないリアリティ溢れる日常生活。
淡々としたこの人物描写こそが是枝監督の名人芸。
相も変わらず一級品。
そんな作品群の中で、もっとも鮮烈な印象を残す一本がこの映画。

誰が悪いのか。
これは言うまでもなく母親及び父親である。
役所に届けもせずに子供を育て
果ては彼らを放棄し十分に金銭も残さず数ヶ月に渡り失踪する。
論外な存在だ。

だが、映画タイトルにもあるように
本当に彼らが「誰も知らない」状態だったかと言えば
それはダウト。
劇中、親切な人物は何人も登場するのだ。
間違いなく彼らは人の優しさを示している。
本来であれば孤児とも言える子供達への救いである。
だがそのどれもが、最後までただの人の良さで終わっている。
あくまで小さな親切で留まってしまったのも現実だ。
明らかに子供達の正常ではない状況を薄々感じていながら
誰もが気付けない、気付かない振りをしていたのではないか。
この決定的な虚しさに打ちのめされる一本だろう。
悪人などの登場を待つまでもなく、社会の無力は既にココにある。

母親とて子供に愛情が無いわけではない。
和気藹々と食卓を囲んでいた姿をみれば
理想的な家族像にすら映るだろう。
何より子供達も母親が大好きだった。
成長と共に自身の置かれた立場の異常さを肌で感じつつも
5人で暮らせていれば、少なくとも彼らの日常は幸せだったはずだ。
それで何故、こんな悲劇が起こるのか。
一つの境界線を越えてしまった過程を描ききった見事な社会派作品。

特に主人公演じる柳楽優弥の存在感は見事。
献身的で家族思いだった少年は、少しづつ大人への階段を上る。
同年代の友達との付き合いに憧れる様
初めて抱いたであろう淡い恋心が裏切られる様
幼い兄弟の存在が少しだけ煩く感じられる様
他人と交わるたび、彼の心境は着実に変化をしていく。
この表現がひたすらに丁寧。
どんな状況に対しても、まっすぐに現実を見つめ続ける
彼の視線には一発ノックアウト間違いなし。





『ダレン・シャン』 2009年
監:ポール・ワイツ  主演:クリス・マッソグリア
☆☆☆☆

イギリスを舞台にごく普通の生活を送ってきた少年が巻き込まれる
吸血鬼と闇の世界の冒険譚。

俺たちの戦いはこれからだ!
こういう構成の映画。

原作のエピソードを何の主張もなく
適当に映像化して、適当に切り貼りして 
とりあえず作りましたって一品。
全てのシーンの魅力がことごとく描かれず
どれも淡白で浅い。
特にスティーブは、もっとキレた奴でないと駄目。 
元々、毒が全ての作品「フリークショー」なのに
とっても綺麗な作風に仕上がっている。

これでは原作ファンから怒られ
未読者からは意味不明という感想が頂けるだろう。





『タワーリング・インフェルノ』 1974年
監:ジョン・ギラーミン  主演:スティーブ・マックイーン、ポール・ニューマン 
★★★★☆

建設上の手抜きを原因として
138階建の超高層ビルで引き起こされる火災。
その時、135階では落成記念パーティが行われていた。

パニック映画の金字塔だね。
圧倒的な緊迫感と、大迫力映像の連続。
そこで繰り広げられる人間模様。
さらには、高層ビルを競うかのような建設ラッシュに対し
その防災意識のあまりの低さへの警鐘も含め
大都会の虚構すらも描き切る。
様々な要素が見事な密度で散りばめられ
一瞬たりとも目を離す隙のない贅沢な一品。

大予算と特殊撮影の妙を堪能するだけですら
決して飽きさせない。

それでいて、登場人物の文明人っぷりが心地よい。
危険を顧みない消防士たちの勇気はもちろん
紳士淑女たらんと自身のパニックを極限まで抑え込む
上流階級のパーティ参加者。
そして、可能な限りその責任に応えようと奮闘するビルの関係者。
悲惨な状況を描きつつも、決して人間としての救いを忘れない
そんなエンターテイメント傑作。





『断崖』 1941年
監:アルフレッド・ヒッチコック  主演:ジョーン・フォンテイン
★★★★☆

軽薄なプレイボーイに恋をしてしまった女性が
結婚後、彼の言動と周囲の出来事に対し
ある疑いを深めていくお話。

見事な疑心暗鬼。
疑いつつも結論が出せないのは、妻と共に観客も一緒なんだよ。
果たして彼は一線を超えているか、いないのか。
あくまでどちらでも成立するというギリギリのライン。
明確な答えを与えない事に拘り抜かれた曖昧演技と
その上で不安感だけを煽り切る演出の数々は驚きの一言。
まさにサスペンスとは、観客の心を狙いにくる物だね。
見事。

彼が徹底した駄目人間である事は、誰の目から見ても明らかにせよ
それとこれとは、全く話が別なんだな。
事実、結末などはどちらでも構わないわけで、
どう転んでも作品の素晴らしさは変わらない仕掛けになっている。
馬鹿な夫婦だ、どのみち苦労するだろうとと苦笑しつつも
過程の緊張感と密度の高さに酔いしれる一品だろう。




『丹下左膳余話 百萬両の壺』 1935年
監:山中貞雄  主演:大河内傳次郎
★★★★☆

百万両の謎が隠された壷を巡り
主人公丹下左膳と、柳生一門とが争うお話。

そうは言っても、これはコミカルな時代劇。
「片目片腕の化け物だ」と自ら豪語する割に
丹下左膳は、とても愛嬌のある良い大人。
孤児の少年との心温まるエピソードも有り
柳生一門も妙な悲壮感は薄く
その実は江戸市中人情物。

とにかく、その雰囲気作りが素晴らしい。
ちょっとした言葉や動作、画の撮り方から
堅苦しさが取れ、江戸情緒の良い側が伝わってきて
その世界に浸るだけで、幸せな気分にさせてくれる傑作。

弱点は映画としての音声技術の古さもあるが
まず主人公の方言? 独特な喋り方の問題から
余程に気合を入れて視聴しないと
何を言ってるかわからない場面が多々ある点だろか。
まぁそれもまた、この左膳のキャラクターなんだけどね。

「シェイは丹下、名はシャゼン!」は余りにも有名。




『丹下左膳』 1952年
監:松田定次  主演:阪東妻三郎
★★★☆☆

「こけざるの壷」を巡っての左膳と柳生の攻防
そして、チョビ安を交えたお藤との擬似家庭。
35年の大河内傳次郎版と大筋は一緒。

ただし、左膳と女房、そして孤児のチョビ安という
この何とも切なくも微笑ましい擬似親子関係は
今作では主題ではない。
その情緒の描写という点では全く及ばないだろう。

では何が面白いか。
これは、晩年における阪東妻三郎の
狂おしいまでの大見栄のカッコ良さ。
そして、柳生だの江戸城からの横槍勢力だのと繰り広げられる
大殺陣の大迫力だろう。
こういう丹下左膳があっても良いだろうね。

ただ、チョビ安に限らず、柳生の若様とその奥方までもが
唐突で置いてけぼりなストーリー展開は
どうしたって、取って付けたような印象を受けてしまう。
良くも悪くも丹下左膳というキャラクター
そして阪東妻三郎という役者、
その一人に頼りきった作品だろうか。

あと、右手はもう少し上手に隠して欲しいかな。
一番大切なキャラクター造形でしょうに。




『丹下左膳』 1963年
監:内川清一郎  主演:丹波哲郎
★★★☆☆

日光東照宮の修繕を命じられた柳生家が
費用捻出のため先祖代々の秘宝を追い求めるお話。

「丹下左膳」というブランドが持つイメージは多岐に渡るが
今作は江戸の風情や人情を感じるというよりは
熱量のまま押し切るアクション映画寄りの一本かな。

見どころは何を差し置いても
隅から隅まで丹波哲郎の魅力で成り立っている作品である点。
60〜70年代の日本映画史に残る傑作群に
あれだけの頻度で参加していながらも
専属スターでないが故、自身が一枚看板とまで言える
主演映画が思った程多くはない丹波が
ここで時代劇最大ヒーローの一人である
丹下左膳を演じているだけで既に嬉しい。

展開があまりに行き当たりばったりな駆け足で進むので
とても真っ当に楽しめる物語ではないのだけれど
熱く吼える丹波作善の迫力を見ていれば
割とどうでもよくなってしまうかな。
彼が一人二役で別キャラクターを演じてるのも
設定や仕掛けの面白さというよりは
結局、丹波哲郎を同時に画面に出したかったからとしか
思えない程だね。

一方は柳生御曹司の堅物で強面としての存在感。
片や、口の荒いべらんめぇキャラクター。
二人とも見事に丹波哲郎が映える人物像で
殺陣も型にはまらない荒々しく豪快な左膳と
堂々の一刃をふるう正当派の柳生が見事な対比。
クライマックシーンでは
この二つほぼ同時に味わえてしまう贅沢さ。
右を向いても丹波、左を向いても丹波は完全にギャグなのだが
カッコ良すぎて最高としか言えない。

雑にすぎる物語は参ってしまうが
見どころは十分にある一本だろうか。





『丹下左膳 飛燕居合斬り』 1966年
監:五社英雄  主演:中村錦之助
★★★★☆

日光東照宮の改修を命じられた柳生家が
費用を壺に隠された先祖代々の埋蔵金に頼ろうとするお話。
五社英雄監督、中村錦之助主演の丹下左膳。

冒頭に片眼片腕を失ったエピソードが映像込みで入る珍しい構成で
まずハードな世界観をきっちり伝えてくるね。
回想後もすぐに大掛かりな斬り合いシーンが挟まり
ラグビーさながらに壺を奪い合って大人数が駆け抜ける
実にダイナミックで近代的な絵が続き
最後に錦之助によるとっても怖い左膳登場で場が締まるという
もうOPシーン一つ取っても完璧な運びが楽しめる一作。

常に血なまぐさく緊迫感が漂う世界観の下で
錦之助の熱演による独特の左膳キャラクターと
対決メイン、恨み節メインのテンポの良いギラついた展開が
最後までエンタメ剣劇アクションとして振り切ってくれる。
全ての画がとにかくかっこいいのが素敵。

一般的な左膳から想像される人情話とは一歩距離を置き
どこかカタワ者の悲しさまで感じられる荒々しい作品。





『丹下左膳 百万両の壷』 2004年
監:津田豊滋  主演:豊川悦司
★★★☆☆

1935年版のリメイクと言える映画かな。
但しストーリーは近いが、キャラクターは別物。
豊川悦司が演じる丹下左膳は
少し突っ張った感じが強いが実は優しいという男。
愛嬌は十分にあるのだが、元よりはずっと若いイメージで
矢場の女主人との掛け合いも男女の若さが見え隠れで
また別の微笑ましさが生まれている。
まさにイイ男だよ。
子供の話が強めで孤児の少年と左膳、それに女主人を絡めた
擬似親子の関係は何とも切なく実に良い。

ただ、現代的でスタイリッシュな絵作りに
少し淡白な印象を受けてしまうのは
やはり、オリジナルの山中貞雄監督の世界が上手すぎるのか。
70年間も違う作品を比べても仕方がないのだが
真正面から勝負した勇気は良いね。





『ダンケルク』 2017年
監:クリストファー・ノーラン  主演:フィン・ホワイトヘッド 他
★★★☆☆

第二次世界大戦。
ドイツ軍に押し出される形でフランスの北海岸に取り残された40万人もの英兵が
如何にしてイギリス本土へ救出されるかというお話。

映画的な主役と言える程の登場人物や
大きな一本のストーリもないまま
ただただ脱出に足掻く兵士達の姿を
極めて局地的、かつ複数視点でで描くことで
作戦の惨憺たる状況を一発で見せてくる力技映画。
とてつもなく大掛かりな映像を真摯に撮っている豪華さに反し
一本の作品としては果てしなく地味という点が
逆に贅沢な一品だろう。

ダンケルにおける作戦や、戦争の勇ましさや悲惨さは描かれず
派手なBGMもかからない中
もう永遠に逃げられないかと錯覚させるだけの
絶望に次ぐ絶望の連続展開によって
かえって本物感が伝わるのだろうね。
考えるより感じる映画かな。
100分程度の尺で収めたのも超大作にしては素朴で素敵。

しかし、その短尺の中に異常なまでの航空戦シーンが
長く挟まっているのは何故だろうか。
制空権の大事さを説いたか、はたまた監督の趣味なのか…





『ダンス・ウィズ・ウルブズ』 1990年
監:ケビン・コスナー  主演:ケビン・コスナー
★★★★☆

南北戦争期の西部フロンティアを舞台に
一人、前線砦に居座る事となった中尉が
隣人である先住民の一部族と友好を深めていくお話。

圧倒的な映像スケール。
何故、こうもアメリカ大陸の雄大な景色は美しいのか。
映画として完成されきった画の数々に
それだけでノックアウト。
こんな大地で先住民と心を通わせられたならば
主人公でなくとも汚い都会になど帰りたくなくなるさ。
理屈抜きに心を掴まれる拘り抜かれた描写勝ち。

そして、インディアンなどという部族は存在しないのが面白い。
彼らは本当に多種多様で、様々な生活スタイルが存在している複数の異民族。
本格的な土地の囲い込みが始まる以前には
白人と交流をもった部族などいくらでも居たわけでして
こんな話も有っても良いと思えるだけのロマンがあるよね。
主人公が親交を深めたのは一部族。
別に大層な大義を抱いていたわけでも、志を持っていたわけでもなく
あくまで一個の人間として、彼らとの友情を紡いでいったにすぎない。
人間同士なら友情も愛情も成立するというね。
そこに一つの虚構であるが故の夢がある。

暗い展開は仕方が無いとして
歴史の中のifとしてはステキなお話ではないだろうか。




『探偵はBARにいる』 2011年
監:橋本一  主演:大泉洋
★★★☆☆

舞台は札幌すすきの。
行きつけのBARを根城にするしがない探偵稼業の元に
謎の女性から電話口の依頼が舞い込むお話。

古きよき探偵ドラマだね。
その昔、TVの世界で一世を風靡をしたような
基本、ハードボイルド世界観でありながら
愛嬌のある愉快な主人公を楽しめる。
このあたり強引な展開やら軽くスベルようなノリ
どーしようもない下品な敵役の面々など
ある種の安っぽさまで含めてワンセットなんだろうね。
このノリを2011年に劇場版スケールで楽しめる贅沢が味か。

主演の大泉洋のキャラクターから
独特の捲し立てるような威勢の良さが溢れ出ていて
役者のスター性あってこそ作品が成立するという作りも
実に古きよきスタイルな一品。
「相棒」と聞いていた松田龍平の存在は少し地味めかな。

そして、何よりその舞台が素晴らしく
「サッポロ」を愛する全ての人に送りたい一品。
すすきのという街に対する拘りなんだろね。
泥臭いお馴染みの町並みにおける
洗練されないカットの数々にノックアウト。
ゲスト的に登場するその他の名所もあり
札幌人にとっては存在自体が一つのサービスみたいな映画で
まさかの現役市長まで出てくるのだ。

最後、主役とも言えるのがエンディングテロップ。
夜の街並みを空から撮った映像が
カルメン・マキの情緒溢れる主題歌に彩られ
同じ街のはずが泥臭い劇中の舞台から一転する。
ホントに札幌という街は
日本中を捜してもオンリーワンの魅力に満ちていると
一発で実感できる美麗で整然とした光のライン。
やはりこの街を「わかっている」と嬉しくなる良作だろう。





『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』 2013年
監:橋本一  主演:大泉洋
★★☆☆☆

大泉洋が主演をつとめる
札幌探偵シリーズ第二段。

前作で確立されたテンプレートを綺麗になぞり
シーンそのものは派手になっている割に
若干、作品の面白さはパワーダウンかな。
二作目にして、既に展開消化待ちの退屈さが出ているのが残念。

ブツ切り場面のエンタメ力は上がった反面
キャラクター性もストーリーも薄味となり
悪い意味での安っぽい要素だけが
突出した印象を残してしまう。
下手に世相を反映した数々の筋立ても
本来、その安さで笑えるはずのB級作風とは
徹底的にマッチせずに空回りだね。

室蘭や羊蹄山、中山峠にまで手を伸ばした
札幌近郊観光ムービーは、地元民としては目に楽しいが
これでは「街」としての札幌の魅力も伝わるまい。
前作の美麗なEDムービーを思えば
どうしてもココは物足りない。

明らかに三の線である大泉洋が
ふと、本気でかっこよく見える瞬間が確実に訪れる。
そんな主人公像は変わらず楽しいのだが
あくまで続編のための続編で終わってしまっている一本。

しかし、本当に市長は出たがりだな。






『探偵物語』 1951年
監:ウィリアム・ワイラー  主演:カーク・ダグラス
★★★☆☆

ニューヨークの警察分署を舞台に
そこで繰り広げられる様々な人間模様と
彼らに対する一人の暴力刑事の姿を描くお話。

この主人公は酷い。
よく、カーク・ダグラスがこれをやるもんだ。
人間として徹底した屑で
自らを正義の使途と思い込んでいる
ただの狂犬刑事なのだが
彼が振り撒く悪意のパワーが凄まじく
あらゆる層を巻き込み自身すらも不幸にしていく様は圧巻。

あきらかに法を犯しているので
実際は彼自身も十分に犯罪者なのだが
そんな彼のキャラクターが居ればこそ
NYの分署における慌しさが見事に伝わるんだな。
雑多の中にも確かな勢いはあるんだよ。
ほぼ全編が署内だけで作られた室内劇ながら
これはこれでNYとは凄い街なんだなと実感できる不思議さ。
パワーのある作品です。

全編、不快な中にも
この主人公は一体どういう社会的な制裁を受けるのかという
その一点から結末が気になって、つい見続けてしまう良作。




『ダンボ』 1941年
監:ベン・シャープスティーン  主演:エド・ブロフィ
★★★☆☆

大サーカスで暮らすメス像の元に
異常に耳の大きな赤ん坊が生まれるお話。

奇形で授かった子供に対する母親が見せる無償の愛。
そして、差別と偏見に対する苦難の物語りなのだが
題材が素晴らしいだけに、少々喰い足りないかな。
描かれるのは赤ん坊としてのダンボの可愛さだけで留まり
彼自身の人間性が楽しめるまで、作品が続かないんだよね。
偏見の元である特徴を誇れる特技に変えての
ハッピーエンド展開が、やや急すぎる印象。
もう少し、丹念なドラマがあっても良いお話だよね。

アニメーションとしては安定の高クオリティな一本。
通常シーンも素晴らしいが
この時代のディズニー作品にありがちな
唐突に頭のネジが外れたかのように始まる
幻想的なミュージカルシーンが群を抜いて凄い。





『チート』 1915年
監:セシル・B・デミル  主演:ファニー・ウォード、早川雪洲
★★★★☆

舞台はアメリカの上流階級。
浪費家の妻が自身の無謀な投資で失ったお金を補填するため
怪しげな日本人資産家から男女の関係性を条件に
1万ドルを借り入れることで始まる悲劇のお話。

1915年のサイレント映画とは思えない程に
見所もストーリーも完璧な一本だね。
夫の持つ人の良さと愛情、妻の持つ根本的な弱さ。
日本人投資家の持つ人間としての欲と狂気性。
綺麗分かれた三人の人間味が
二個の衝撃的なシーンを軸に綺麗に構成されている。
サイレントならではの身振り手振りを交えた
大仰な表情演技もこの展開では見応え十分。

わずか50分程度の短編映画ながら
事件となるシーンの震えるような過剰展開と終盤のオチは見事の一言。
"浪費"も"嘘"も"不貞"もマズイに決まっているさ。
教訓めいた愛情の話って事にもなるのかな。

何よりも独りよがりな所有欲を満たすために
人妻に焼き鏝を押すという発想がさすがにイカれてるよね。
まして、その対象がアメリカ上流階級の白人奥さんで
彼女を汚すのが成金日本人という展開のエキゾチックっぷりは
今現代の目で見てもそこそこ珍しい感覚に襲われるのに
これを1915年にやってのけたのは本当に凄まじい。

史上最大のハリウッド日本人スターである
早川雪舟の大出世作となったのも頷ける。
彼の持つ怪しい狂気性無しには決して成立しない一本。
第一次映画黄金期のド真ん中、かのセシルBデミルと組んで大ブレイク
1920年代のハリウッドを席巻した日本人……
もっと語り継がれていて良い人物な気がするが。





『チェ 28歳の革命』 2008年
監:スティーブン・ソダーバーグ  主演:ベニチオ・デル・トロ
★★★☆☆

キューバにおける革命屋としてのゲバラを描くお話。
この淡々とした作風も悪くない。
ゲリラ戦に次ぐ、ゲリラ戦。

何一つ気取らずに喜ぶ物は喜び、怒る物には怒る。
ゲバラにとっての意思とは何だったのか
映画は何も示してはくれない。
それでも満足できる。
題材は十分に与えられているからね。




『チェ 39歳 別れの手紙』 2008年
監:スティーブン・ソダーバーグ  主演:ベニチオ・デル・トロ
★★★☆☆

キューバ革命の後、舞台をボリビアに移して
前編と同じような作風が淡々と続くお話。

ただ一つ違うのは
「キューバーのように上手くいかない」という一点のみ。
この大事な大事な対比が、徹底して前半と同じ手法で描かれることで
見事なまでに浮き彫りになる。
体制も人種も歴史も違う中、そうそう上手くいく物ではなかろう。
結局は現地の人々の心意気が全てという結論だろうか。

「戦わなければ手に入らない」
その崇高な思想が届かない切なさが痛い程に感じられる後半戦だね。
革命屋など所詮は無理な仕事。

少し間伸びした印象が強い作品ではあるが
4時間一本の映画と割り切って通しで見るのがお勧め。




『チェイサー』 1978年
監:ジョルジュ・ロートネル  主演:アラン・ドロン
★★★★☆

政界のあらゆる不正が記されたという
危険なノートを手に入れた主人公が
自らの身の振り方を求めて危険の中を歩むお話。

これは斬新なヒーロー像だよね。
何も語らない中、その背中は全てを語っている。
結局は殺された友人政治家に対する意地でしょ。
彼が拘ったのは、最初から最後までその一点のみ。
友人とて政治家しては小悪党の殺人犯ですよ。
しかし、それとこれとでは話が別なのさ。

ありとあらゆる政界の大物やもちろん警察も
そして殺し屋の連中までが跋扈する中で
決して声を荒げたりせず感情を表に出さず、
猛々しく自らの主張を口にする事もなく
もちろん、過度な悲しみを見せるでもなく
淡々と現状の中を渡り歩く姿は素晴らしい。
そんな彼の姿と比べれば、大物連中の何と浅ましい事か。
社会に対する静かなる皮肉に満ちた傑作ノワールだろう。

しかし、アラン・ドロンは凄いね。
影のある役をやらせれば天下一品。
どこか軽快ながらも哀愁のある楽曲も含め
他では絶対に見られない雰囲気芸に酔いしれる
フランス映画全開の贅沢なサスペンス作品。




『地下室のメロディー』 1963年
監:アンリ・ヴェルヌイユ  主演:ジャン・ギャバン、アラン・ドロン
★★★☆☆

働きたくない駄目男二人が企む
現金強奪計画を情緒たっぷりに描いたお話。

ジャン・ギャバン、アラン・ドロンという
世代を跨ぐ二人の仏映画スターが
思う存分に存在感を出しまくるだけのクライム映画だが
異常なまでの緊張感に満ちた老若二人の掛け合いは
全編を通して見応えばっちり。

やたら杜撰な計画と穴だらけの実行シーンに加え
とにかく犯罪の成功で大金を手にしたいという
本当に駄目な動機一本で話が進むのが凄い。
劇中にドラマらしいドラマも特にはないのだが
洗練されたモノクロ絵や、彼らの立ち居振る舞いが持つ華やかさ
繰り返されるお洒落なBGMなどの相乗効果で
雰囲気だけは文句無しの満点だね。

ラストシーンもオチとしては困ったものだが
彼らが見せ合う無言の圧力を前に全てが許せてしまう
まさにフランス映画冥利に尽きる詐欺のような満足感の一本。





『チキ・チキ・バン・バン』 1968年
監:ケン・ヒューズ  主演:ディック・ヴァン・ダイク
★★★☆☆

変人発明家のシングルファザーと
愛らしい子供二人が奏でるミュージカル物語。

劇中を彩る舞台装置がどれも秀逸だね。
こんな楽しい発想があろうかと舌を巻く
美術の作り込みが素晴らしい。
序盤に登場する全自動朝食機の馬鹿馬鹿しさだけでも
この世界の魅力に一発で取り付かれてしまう。

終始、くだらない妄想を再現することに大真面目な映画で
童話のような世界観のをベースに作られた
プロフェッショナルなお仕事が何より素敵。
子供向けだからこそ完璧な完成度が必要なんだね。
一度世界に入り込めば、最後まできっちり浸らせてくれる
安心のファンタジー映画。

しかし何故邦題は「チキチキ」になったのだろうか。
「チリチリ」で良くはないだろうか。




『チキンリトル』 1943年
監:クライド・ジェロニミ  主演:
★★★☆☆

高い塀で囲まれた鶏たちの平和な農場を
狡賢い狐が狙うお話。

人間社会を擬人化したような様々な立場の鶏たちが
これまた人間らしい愚かしさから
狐の罠にはまり自ら破滅していくという
とっても皮肉の効いた一本。

アニメーションでこういうお話をやるのは
後に定番中の定番になっていくけど
僅か10分にも満たない尺で
テンポよくこれだけ詰め込めるのは凄いもんだね。

1943年という時代もあるのかもしれないが
ディズニーキャラクターらしい愛らしいアニメーションに乗せての
こんなお話はより教訓感が色濃く出るかもしれないね。
いつの時代にも通じるいいお話。




『地球の静止する日』 1951年
監:ロバート・ワイズ  主演: マイケル・レニー
★★★☆☆

突如、ワシントンD.Cに宇宙人が来訪し
人類に対し未来への警告を持ち出すお話。

人を不安がらせるのに大声なんて要らないんだよね。
彼の存在は淡々としており
その手法は優しく、口調も穏やかなのだが
その絶対的な存在感による世界の緊迫だけが永久に続く作品。

核開発時代の諦めムードに包まれた終末思想と
彼の持ち出す妥協に満ちた人類への提案や
最終的な脅迫染みた警告が何とも切ないね。
これは、引き返せない一歩を踏み出すかどうかの物語。

SFとしての人類への警告としても面白いし
映像としても面白い。

また、執行力の象徴となる宇宙ロボットが
とっても無機質でシンプルデザインなのが逆に恐ろしく
圧倒的な科学力を持っているはずの宇宙人が何処か人間的にヌケている点も
人類の不完全性を示す暗示だろうか。
彼のキャラクターが生き生きとしているので
見ていて飽きないんだよね。

シンプルな警告テーマを正面から貫きつつ
徹底して丁寧な映画として造りこまれた古典SF傑作。





『血と砂』 1965年
監:岡本喜八  主演:三船敏郎
★★★★☆

戦争末期の大陸を舞台に
跳ねっかえりの曹長が少年ばかりの軍楽隊を率いて
八路軍から重要拠点を奪還するお話。

直接のシリーズではないが
岡本喜八監督の『独立愚連隊』に連なる作品だろう。
つまりは、ただただ悲惨な戦争体験映画とは一線を画して
一大エンターテイメントとして成立させた上に
大いに想いを語る手法の一作品だね。

まず何より、10代後半ばかりの戦闘経験もない軍楽隊を押し付けられて
無謀な作戦に駆り出される不条理が末期感バリバリで嫌だな。
そんな馬鹿な部隊を編成している時点で
ほぼタイミング的に価値を失っている作戦だろうさ…

ところが、そんな絶望的な設定の中で描かれるお話なのに
少年達が信頼感100点の三船敏郎や佐藤充の指揮の元で
初めての殺人から、女性との初体験まで世話してもらえる
ある種の青春映画に見えてくるのだから凄いもんだ。
ド派手な爆撃や銃撃シーンも多彩で
まるでアメリカ映画かと錯覚する程の戦争アクションが楽しめ
かつ、作戦の成否そのものへの緊迫感や
ちょっとした謎の解明などの要素も大いに盛り上げてくれる。

キャラクターが立っているのは芸達者な大人たちで
子供達には特別な物語性は一つも与えられていないが
それも無個性である事自体が
彼らの未熟さや、まだ人間的にこれからという
将来性の象徴なんだろうね。
彼らの若さや青春空気に想いを乗せる程に
地獄の終盤戦への気分が滅入っていく展開は見事。
この感情は、悲しいではなく虚しいが適切だろう。
捕虜との僅かな友情すらをも認めない
怒濤のエンディングは圧巻。

既に仕事や家庭をもった良い年のオジサンや
この戦争の無謀さを知っているインテリ達の徴兵とは
また一つ違った子供ならではの軍隊経験は確かにあったのだろうが
それをも決して美談では終わらせないあたりに
岡本監督の意地が見える。

何なら『隠し砦の三悪人』のキャラクターそのままの
清濁合わせもった豪快オジサン三船の格好良さはもちろん
冷酷な指揮官でありながら、内に人間味を見せる仲代達矢も実に良く
これだけのテーマ性を抱えながら
スター映画の様相でワクワクしながらも見ていられる
何とも贅沢で珍しい不思議な戦争映画。




『チャーリーズ・エンジェル』 2000年
監:マックG  主演:キャメロン・ディアス、ドリュー・バリモア、ルーシー・リュー
★★★☆☆

危険任務も厭わない秘密エージェントとして働く
3人のスーパーウーマンの活躍を描くお話。

もはや、清清しい程にお馬鹿な一本。
タイプの違う美女3人が繰り広げる
お気楽エンタメスパイ映画。
中身はほぼ無し、ただしストレスもまたフリー。
恋愛ありアクションありの贅沢三昧。
最終的にはこの三人から愛される
司令官のチャーリーが羨ましくて仕様がなくなる作品だろう。

パツ金美人のキャメロン・ディアスも良いが
アジア系のルーシー・リューの存在感も捨てがたい。
決して、CGめいた作り物の美女ではなく
生きた女性としての美人三人が集まっているのが
作品を楽しくさせる秘訣だろうか。




『チャイナガール』 1942年
監:ヘンリー・ハサウェイ  主演:ジョージ・モンゴメリー
★★☆☆☆

1941年、激動の中国を舞台に
アメリカ人記者と中国人女性とで繰り広げられる
切ない戦争の悲劇を描くお話。

淡々と惰性だけで動く見所の無い映画。
とにかく主人公の言動に魅力が無い。
一見すれば紳士のようでもあり、プレイボーイのようでもある。
どこかで見たような雛型を寄せ集め
とりあえずヒロインと恋愛させるためだけの存在。

終始、テーマが一貫せず
男女間のメロドラマを見せたいのか
記者としての勝負仕事を見せたいのか
戦争の悲劇を見せたいのか。
果ては日本軍の悪辣さをみせたいのか。
ころころと手短に展開だけが移り変わる。
多方面に節操なく手を伸ばしきった上で
最後、全てのプロットを投げ捨てて終わる様は
ある意味で圧巻。

『カサブランカ』のような期待を抱けば
間違いなく痛い目を見る一作。
映像が凝っている点だけが救いかな。
話には呆れても映像面は素直で綺麗な一本です。




『チャイナ・シンドローム』 1979年
監:ジェームズ・ブリッジス  主演:ジェーン・フォンダ、ジャック・レモン
★★★★☆

発電所の取材中、偶然に原発事故を目の当たりにしたキャスターが
そのネタが社会から隠蔽されていく様に疑問を抱くお話。

圧倒的な社会派映画だね。
検査にかかるコスト、運用しなかった場合の損害額
そして次なる原発建設への認可の遅れ。
この具体的な金額の数字と
究極の現実を突きつけられれば
危険の「可能性」のような曖昧な物は霞むしかない。

十分、現実と妥協できるリアリストである
主人公の女性キャスターが
ついつい、問題に入れ込んでいく説得力は見事。
それを助けるのが、誰よりも原発を愛している男
ジャック・レモン演じる操作主任の存在感だろう。
原発の恩恵、安全、将来、そして何より黎明期から
その仕事を担ってきた誇りからすれば
明確な危険の可能性こそが許せるわけはないのだ。
彼の言動における迫真の様は決して目を逸らさせない。
さすがの大御所、見事な好演です。

素晴らしいのは、
この作品が、単体で十分にのめり込めるサスペンス映画である点。
ちゃんと完成度の高いエンターテイメンをやった上で
その節々に潜む強烈な警鐘という
社会派映画のお手本のような代物です。

行き過ぎた感のあるジャック・レモンの行動すらも
「ところで、テロ占拠の危険性の試算はどうなってるの?」という
隠れた声にすら聞こえてくるのだから見事。
わざわざ、終幕間際のコマーシャルシーンに
電子レンジの宣伝を入れるくらいの芸の細かさがある本作では
その程度は当然とすら言えるだろうか。

そして、序盤の事故描写や、劇中で直面する問題点などに
あまりに詳しくなっている自分に苦笑だね。
2011年以降、ニュースで散々見た構造、知識がそのまま当てはまる
描写の細かさにまず言葉を失う一本ですよ。
おかしいな、この映画は人類に警鐘をならす
「SF」作品だったはずなのだが。
1979年製作。
公開の数週間後にスリーマイル、7年後にチェルノブイリ
そして22年後に福島。
あまりの先見性と先鋭性に度肝を抜かれる一本。
SF作品らしく時代を経た視聴の際は
古臭いなという感想を抱きたい物だが
残念ながらまだまだ最新の衝撃を与えてくれる社会派映画だろう。






『チャイナタウン』 1974年
監:ロマン・ポランスキー  主演:ジャック・ニコルソン
★★★☆☆

1930年代、西海岸カリフォルニアを舞台に
ダム建設の不正に起因する殺人事件に関ってしまった
一人の私立探偵の物語。

緊迫感抜群だね。
最後の最後まで展開を読ませない工夫も冴え
そこに至る主人公の足取りの一つ一つは
実に説得力あり見応え抜群。
あらゆる要素、あらゆる土地柄を徹底的に調べ尽くす
まさに足で稼ぐ泥臭い探偵仕事は
ジャック・ニコルソンの好演とも相まって
実に男らしく素敵。
彼の醸し出す余裕と言うか、どんな状況においても
決して取り乱さない姿はハードボイルドの真骨頂。
どこか退廃的な感覚に包まれた
不思議な生活観の薄さが独特だろうか。
真相が誰にも見えない中で繰り広げられる
謎多きヒロインとの関係性も情緒たっぷりで
とにかく、作品の持つ雰囲気、世界観に浸っていれば
それで十分に楽しめてしまう職人映画。

過度な演出、派手なだけで冗長な展開などを極力避けた
狙われた平坦さってのは、かえって美しいもんだよね。
完成度の高さに酔いしれる一品。





『チャイルド・プレイ』 1988年
監:トム・ホランド  主演:キャサリン・ヒックス
★★★☆☆

凶悪殺人犯の魂が乗り移った
曰く付きのキャラクター人形を購入した
母子の身に起きた恐怖のお話。

中盤くらいまでが異常に恐ろしい映画だね。
母親も6歳の息子も、母親の友達も
みんな善良で、何所にでも居る普通の人。
ただ、彼女たちは日常生活を営んでいるだけなのさ。
その日常の中に入り込んでくる異物だけに怖い怖い。
殺人人形が使う手段も、包丁であったり、金槌であったり
あるいはガス栓であったりと
実に身近ながら、確実に効果の出るものばかり。
自身の立場に置き換えれば、誰だって恐れおののきますよ。

そして、悪霊が乗り移っている事を隠し通す人形の狡猾な二面性が素晴らしい。
母親が感じる「どうも、息子が人形と会話している」という不安感だよね。
それも、実際に事件が起これば不安では済まないわけですよ。
全てを知っている観客が見ていてすら
この子供は架空の別人格を人形として作り出していると
納得できてしまう状況なんだ。
彼女達の生活が肌で感じられる温度だからこそ
それが壊される怖さは格別で
ホラーと言うより、サスペンス的な作りだよね。

ただ中盤までかな。
人形が本性を現していく内に
そのやり口は突飛で人間離れしてきて
かつ粗暴で、何の神秘性もない下品な妖怪へと化してしまう。
人形が悪鬼になる程にその異物としての恐怖は薄れていくという
ちょっと残念な後半戦。
もっとも、85分の短い作品なので
それを退屈に感じる暇も無い程にはスパっと終わってくれる良作です。





『チャップリンの独裁者』 1940年
監:チャールズ・チャップリン  主演:チャールズ・チャップリン
★★★★★

ある架空の独裁者の壊れた姿と
彼の政策に翻弄されるユダヤ人の床屋の物語。

笑いの中にこそ、メッセージ性を込める。
パロディ、ブラックユーモアの頂点は
既にココにあるんだね。

冒頭数分こそ、少し古めのコントセンスに不安になるが
気付けば敢えて緊迫したシーンに挿入される
細かい可笑しさの連続、テンポの良さに引き込まれる。
特に独裁者ヒンケルの一挙手一投足からなる
コンプレックス溢れるコメディ描写の連続には
終始、苦笑いが尽きない。
例の人物に対する目の付け所が本当に繊細で
油断をすれば、どの時代の誰にでも当てはまってしまう
汎用性のある滑稽な言動がそこに見て取れる。

そして、エンターテイメントとして、映画として
十分に楽しめる内容で魅了しておきながら迎える
圧巻の最終演説。
アメリカがまだ大戦参戦する前
1940年公開の映画にこれほどのテーマが含まれている奇跡。
彼は劇中の床屋なのか、チャップリン自身なのか
これは映画なのか、現実なのか。
数あるエンタメジャンルの中で
映画が別格とされる所以の一端が見てとれる。

もちろん、我々はその後の歴史を知っている。
あらゆる戦争テーマをもった戦前映画の悲しさはここにあるよね。

過度に構えて見る必要はない。
十分にセンスだけで楽しませてもらった後で
あらためて大いに思いに耽られる傑作。

そして、昨今のお笑い鉄板ネタの元祖が多い事、多い事……
チャップリンは偉大だね。





『血槍富士』 1955年
監:内田吐夢  主演:片岡千恵蔵
★★★☆☆

東海道を旅する侍と槍持ち下郎の周りに集まった
行きずりの人々が織り成す物語。

一応、槍持ち下郎が主人公ではあるのだが
メインに描かれるのは旅人達。
皆が皆、何らかの人生を抱えて生きているわけだよ。
どれもこれも小粒なエピソードなんだけど
ちょっと面白く、ちょっと悲しく、ちょっと感動的。
この地に足着いた手の届く感じがイイのかな。

対して、槍持ちの人生観は全く描かれず
主君の侍に至っては、厭世的で何処か達観をさえしている。
お話はちょっとイイ人情エピソードから
ドンと重い武士展開へと変わっていくのだけれど
この武士側との対比が、かえって市井の人々の立派さ真面目さを
際立たせているのかもしれないね。
侍の意地喧嘩、何とくだらない。

クライマックスに訪れる槍持ちの大立ち回りは迫力十分。
とっても泥臭い生々しさを描きながらも
不思議と画はダイナミックという
中々の職人芸も堪能できる贅沢な一品。




『ちゃんばらグラフィティー 斬る!』 1981年
監:浦谷年良  主演:
★★★☆☆

戦後の東映時代劇を中心に
全95作品もの映画を切り貼りして作られた
時代劇映画の魅力を凝縮した総集編。

表題の通り。痛快娯楽時代劇に徹底して拘り抜いた編集は
ただ眺めているだけでも十分に楽しい
スター俳優と名キャラクターに特化した
実に華のある「ちゃんばら」作品に仕上がっている。
もしそこに、視聴済みの作品が登場すれば
その名シーンに感動が甦るし
逆に未見であれば、まだ知らぬ名作の存在に
期待を募らせられるという両対応は見事。
果ては
「桜のシーン」「舞台のシーン」「走るシーン」「啖呵シーン」等々
様々な作品の似た絵だけを繋ぎ合わせてみせたりと
とにかく差し込みがスピーディーで遊び心が満載。
BGMが宇崎竜童、こどもバンドによるロックで統一されているのも
堅苦しい空気を少しでも和らげて
現代っ子が楽しめるように作られた配慮だろう。

何にせよ、1981年公開というのが良い時期だ。
まだインタビュアーとして
片岡千恵蔵や市川右太衛門がご存命で登場するのだから豪華だよ。
それによって、かの萬屋錦之介ですら
まだバリバリの現役という立ち位置に映るために
今作が、古き良き時代を懐かしむだけでなく
これからも彼に名作を作り続けて欲しいという
将来の希望も込めたテーマを持っている事が
最後にしっかりと伝わるわけだね。

編集のマニアックさに感嘆する以上に
まずその時代劇愛に感じ入る一品だろう。




『忠臣蔵』 1958年
監:渡辺邦男  主演:長谷川一夫 他
★★★☆☆

大映版のオールスター赤穂浪士。

3時間弱という短めの尺もあってか
ややダイジェスト風味に物語は進むが
定番の要所はきっちりと見せてくれる安心感が楽しめる。

もちろん、目を見張るばかりの大スターの数々で
オールスター企画には間違いないのだが
皆が皆、ややスマートな存在感が強すぎて
片岡知恵蔵などが如何にもな雰囲気を放ち続けた
東映版などと比べると、やや大御所的な楽しみは薄味かな。
看板スターに格を付けるつもりはないが
これは作風と個性との相性話だね。

それでも今作が大映映画である事は完璧に伝わり
オールカラーで色彩豊かに実に艶やかな仕上がりになっているのはさすが。
徹底してベタな浪花節をスローペースで演じ
見たい物を見せてくれる娯楽作としては完璧な舵取り。

映画全体の豪華絢爛さで言えば
この大映版に軍配を上げても良し。




『忠臣蔵 櫻花の巻・菊花の巻』 1959年
監:松田定次  主演:片岡千恵蔵 他
★★★★☆

1959年版の東映オールスター。

1956年版が、あくまでスターの見せ場を前提とした
開き直った作りだった事に対し
こちらは、誰もが知っている『忠臣蔵』のお話を
3時間以上の尺でじっくり描いたスタンダード仕様になっている。
全てのシーンにおいて、一々映像の規模が大きく
あの名場面の数々を正面から堂々と楽しませてくれる
まさに大作の貫禄に満ちた一品だろう。

キャストは1956年版のオールスターを
ほぼ全員違う役どころで使う遊び心に加え
時代が進んだ分、次世代のスターも端役ながら登場している。
大川橋蔵はもちろん、里見浩太朗や、北大路欣也、美空ひばり……など
彼らの後世における活躍を知る身とすれば
リアルタイムより豪華な映画として写るかもしれないね。
戦前、戦後の大スターが入り混じっている点で
これ以上は無い絶妙な時代に撮られた
まさに決定版と言える華やかさが堪能できる。

古典的な感動寄りの忠臣蔵映画は
コレ一本あれば十分と言えるほどの密度と
完成度をもった大傑作。





『忠臣蔵外伝 四谷怪談』 1994年
監:深作欣二  主演:佐藤浩市
★★★☆☆

伊右衛門とお岩さんの怪談話を忠臣蔵に組み込む
『東海道四谷怪談』をベースにした物語。
今作はもはや忠臣蔵ストーリーを描く中に
オカルトを混ぜたレベルの構成だね。

「赤穂四十七義士」とはよく言ったもんだが
長きに渡る討ち入りまでの過程においては
多くの藩士がふるい落とされていったはずで
彼らが見せた葛藤や弱さ、人間臭さの方にも
やはり同じだけのドラマがあったのだろうさ。
今作はそんな脱落組の映画だ。

特に、この伊右衛門というのが酷い奴なんだ。
金のために辻斬りはするは、女は犯すは、浮気はするは
立身のためにとんでもない悪事に加担するは
果てには赤穂の面々に裏切りまで噛ましてしまう。
死ぬ忠義より、生きる人間を選んだ男だ。
しかし、自由に人生を謳歌するための決断を下したはずの彼が
最後まで心に残し、認めきれなかった望みとは
結局は、赤穂の一員として死にきる事にあったんじゃないかな。

本当に許されざる悪の象徴みたいな存在が
赤穂浪士側の忠義物語が強く見える程に
逆に愛おしくなってくる作りは見事だね。
これは、彼の人生における決断への不安感に
観客が自身を見つける物語なのだろうか。
主人公側が最後に罰を受ける四谷怪談としてのオチに
赤穂47人の側に居られなかった寂寥感をもってくるくらいだ。
彼は彼で一つの人生を終えた話だよ。

しかし、オカルト部分の表現や演出があまりにも派手にすぎて
半ばジョークと紙一重のような
笑える映画に見えるのは大丈夫なのかな。
敢えてのエンターテイメントだとは思うのだが
1994年相応の映像表現も相まって
かなり微妙なラインにも感じられてしまう一本。





『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』 1984年
監:石黒昇  主演:飯島真理 他
★★★☆☆

雰囲気だけで楽しめる一品。
世界観やテーマの面白さ、奥深さは
TV版の方が圧倒的に密度が高いが
この作品は始めからマクロス世界の中における
史劇を描いた劇中映画とも言われているので
シンプルで綺麗に越したことはない。
そう開き直るなら実に美しい映画。
全く生活感を感じさせない娯楽の街としてのマクロスの嘘臭さすら、
立派な一つの様式美。

アニメーションのクオリティの高さ
無駄を省いたテンポの良さ
リンミンメイやその歌に与えられた意義の壮大さ。
劇場作品として最大限まで洗練された一作。
ただ見て楽しめるだけの何が悪いという傑作。





『追憶』 1973年
監:シドニー・ポラック  主演:バーブラ・ストライサンド、 ロバート・レッドフォード
★★★☆☆

理想を追い続ける女性活動家と
斜に構えた自由人な男とが繰り広げる
若々しいメロドラマ。

男女の関係性に酔いしれる作品だね。
この二人は絶対に合わないんだ。
それは、同棲してすぐに理解できている事だし
作品の半分は、馬鹿な喧嘩シーンで埋め尽くされている。

しかし、理屈では十分にわかっていながらも
愛情はまた別なんだよね。
自分の生活圏においては妥協を求めつつも
一度喧嘩をすれば相手の生き様に一定の尊敬を
置いている事を互いに再確認してしまう。
結果、中々に別れられない馬鹿カップル。

「私以上に、あなたを愛している女性はいないのよ?」
「わかってる!」
本気で揉めながら、こんな事を言い合う不思議な男女なわけですよ。

EDテーマの歌詞にもあるように
過去の思い出は美しく
そこに浪漫を求める限りは
中々、一歩を踏み出す事は難しいのかもしれないね。

こんな左翼女は冗談じゃないと思いつつも
ここまで深い愛憎劇を見せられれば
何処か恐い物見たさで憧れもある男女関係ではないだろうか。

画は美しく、音楽も情緒たっぷり
延々と二人の姿だけを追い続ける贅沢を堪能できる
哀愁漂うメロドラマ。




『追想』 1956年
監:アナトール・リトヴァク  主演:ユル・ブリンナー イングリッド・バーグマン
★★★★☆

偽のアナスタシア皇女を仕立て上げる事で
彼女の生存を認めさせロマノフの遺産を手に入れようと企む男の物語。

儚く美しい恋物語。
ダンディさに拘った作品だね。
目的のため道具として連れてきた女と恋に落ちるなど
有り得る話ではないはずが、惹かれている自分は別に否定もしない。
将軍の独特な立ち居振舞いがステキで
なんとも言えない淡い気分になれる。
綺麗な映画、この一言に尽きようか。

最後はこうでなくちゃね。





『ツインズ』 1988年
監:アイヴァン・ライトマン  主演:アーノルド・シュワルツェネッガー
★★★☆☆

全てにおいて優秀な遺伝子を持つ兄(?)と
まるで、兄に全てを奪われたかのような駄目駄目な弟(?)との
二卵性の双子がお送りする珍道中映画。

この年代で既に
アーノルド・シュワルツェネッガーの存在自体を楽しむという
扱いが成立してるんだね。
一言も喋るでもなく、何ら展開を待つでもなく
ただ彼を目にするだけで、その肉体的な優秀さが伝わってしまう。
恐ろしいまでの説得力、彼のスター性が成し得る独特の雰囲気だね。
だって普通に考えればとんでもない出オチですよ。

基本、心優しい優秀な兄と
やさぐれているがどこか憎めない弟との
痛快な掛け合いに終始しているので
変な邪魔が入らずにとっても見やすい映画。
素直に題材だけを楽しめる良作人情コメディだろか。





『ツーリスト』 2010年
監:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク 主演:ジョニー・デップ、アンジェリーナ・ジョリー
★★★☆☆

しがない旅行者である主人公が
列車内にて、危険な絶世の美女と関係を持つ事から始まる
サスペンスアクション。

ふざけた映画だよね。
上流階級の優雅な世界を延々と描く事に終始し
美しい欧州の街並みの魅力で画を彩り
ジョニー・デップ、アンジェリーナ・ジョリーが繰り広げるロマンスの説得力で
ひたすら話を前に進める。
そして視聴者が「もしかして」と思うオチを
敢えて選んで何の捻りもなく真っ正直にぶち込んでくる。

本当ににそれだけなのだが
圧倒的な映像美とテンポの良さにかかれば、
この退屈こそが心地よい瞬間へと変わってしまう。
実は職人芸であろう詐欺のような良作。





『椿三十郎』 1962年
監:黒澤明  主演:三船敏郎、仲代達矢
★★★★☆

藩を改革する使命感に燃え、血気にはやる若侍衆を
流れ者の浪人が手助けをしていくお話。

これはもう演出美としか言い様がない映画。
思わず唸らせられる構図や演出の連続で
そのノンストップっぷりが素晴らしい。
96分の短い尺が可能にする一芸作品。

テンポは最高、話は爽快、タッチは軽快。
何処に楽しめない要素があろうか。
台詞も一々カッコよくて、印象の強いシーンが多い。
一言一言が、語り草になるタイプの作品。
お気に入りは「あなたの刀は〜」のくだりかな。
優しさの中にある真の強さは憧れる。
ド直球のヒューマニズムが基本である黒澤映画の中で
今作はもっともライトに見られる一本かもしれないね。

伝説の三船敏郎vs仲代達矢のシーンは
もう高度すぎて笑うしかないでしょう。
気取って一言添えるなら、間が素晴らしい。



『椿三十郎』 2007年
監:森田芳光  主演:織田裕二、豊川悦司
★★★★☆

2007年に織田裕二を主演に据えて撮られた
黒澤映画のリメイク。

脚本を当時の作品から細かい台詞に至るまで
ほぼそのまま使用するという不思議な手法が用いられているが
やはり『椿三十郎』は面白い映画だと再認識できる一本。

コミカルな演出の中にちょっとした深みもある
一大エンターテイメント作品として
気付けばしっかりと引き込まれている。
今風の演出を加えてテンポを調整しただけなのだが
それで自然に見ていられるのは職人芸だね。
結果、同じ内容ながら「90分→120分弱」へと尺は伸びているが
それがさほど気にならないのは凄い事だよ。

1962年当時の三船敏郎の立ち位置を考えれば
時代劇の大スターを用いるよりは
平成の大スターとしての織田裕二は
まさにハマリ役ではなかろうか。

決して元作品の楽しさやニュアンスを損ない範囲で
台詞を聞きやすく、ゆっくりと、ややわかりやすい演出で
現代でも多くの人に拒否反応なく見てもらえるバランスは上手い。
傑作映画を再解釈してやろうという野心は少なめな企画だが
普通に楽しい一本。




『つばさ』 1927年
監:ウィリアム・A・ウェルマン  主演:チャールズ・ロジャース、リチャード・アーレン、クララ・ボウ
★★★☆☆

第一次世界大戦を部隊に
戦闘機乗りへのロマンを抱く若者達が目にする
青春と現実の物語。

戦闘機乗りへの夢を抱く若者達
厳しい訓練と実践、故郷への郷愁、愛、友との別れ……
当時のロマン要素が溢れた作品。
戦争の辛い部分も描きつつも、反戦物ではなく
あくまで、基本は若者の溢れ出るパワーをメインに据えた作風。
男の友情、悲劇、哀愁は水準以上の完成度。
題材の割に不思議な明るさがあるのは、
当時のアメリカならではだろうか。

サイレント映画だが、台詞が非常に多く
暗転字幕の時間がやや尺の長さに繋がっている。
その分、一般的な映画とそう変わらない感覚で楽しめるが
少々映像で遊びすぎている部分もあり、
今の目ではくどいテンポに映るのはご愛嬌。

ドラマよりは圧倒的な航空映像が見所。
この映像を本当に撮ったと思うと頭が下がる。
ドラマの中にもエンターテイメントを忘れない
まさに超大作。




『翼よ! あれが巴里の灯だ』 1957年
監:ビリー・ワイルダー  主演:ジェームズ・ステュアート
★★★☆☆

1927年、大西洋の単独飛行を成し遂げた
飛行家リンドバーグのお話。

ただ大西洋横断の様を描くだけには留まらず
スポンサー集めから、飛行機の設計に至るまで
彼が偉業を実現するため成してきた
その執念の姿に感じ入る一品。

仮に、いつの時代であろうとも
どんな対象であろうとも
前人未到へのロマンは不滅であろう。
人間がこうと決めた夢を
徹底してやりきる勇気がもらえる映画だね。

題材上、どうしても展開が単調な部分もあるが
当時の航空に対する荒々しい扱いや
未開拓への希望に満ちた社会風情は実に楽しい。
1957年作品である事を意識して
航空映像の美しさを合わせて楽しむ作品だろう。

眠気こそが最大の敵。
人類不変の法則だね。





『ツリーオブライフ』 2011年
監:テレンス・マリック  主演:ブラッド・ピット、ショーン・ペン
★★★☆☆

中年に差し掛かった男が
幼き日々の家族の思い出と父親との確執に思い耽るお話。

非常に癖の強い一本。
基本は古典的なアメリカの一家
及び、キリスト教に基づく死生観をテーマにした作品なのだが
まず、冒頭から飛ばしに飛ばした芸術映像の数々。
ストーリーも登場人物もそっちのけで
地球から生命の誕生までをも描いてしまう
壮大な映像美を受け入れられるかが全てでしょう。
誰しも面喰らう事間違い無し。
しかし、音楽、映像、全てにおいては確かな一級品。
映画は何でもアリと実感するには良いだろうか。

中盤は、古き良きアメリカ家庭の姿。
厳しく独善的な父親、優しい母親、そして仲の良い兄弟の幼き日々。
父親との確執をも交えて
田舎少年ならではの心境を丹念に描いていく姿は
冒頭の飛ばしっぷりが嘘のようなとっても丁寧な展開へ。

しかし、終盤は、再び独特の世界観に満ち溢れた
抽象的な映像の数々へと回帰。
弟の死、確執のあった父親との共通項、人が世代を繋ぐ事への意味。
何とも宗教的なテーマ性の連続。

実に不思議な作品ですが
綺麗な物が嫌いでさえなければ見られるだろうか。
思い出には残る類の映画かな。





『ディア・ハンター』 1978年
監:マイケル・チミノ  主演:ロバート・デ・ニーロ
★★☆☆☆

ヴェトナム戦争の最中
戦地で心に傷を負った若者達の物語。

これは困るな。
まず、徴兵される前の主人公達の言動自体に
何一つマトモな物が見えてこないのが困る。
無軌道で下品で既に十分イカレてるように映る。
社会状況や戦争で傷を負うのは勝手だけど
他人に迷惑をかけるのは彼らの元々の性質である印象が強く感じられ
素直にテーマを探すのが難しい。
さすがにもっと行儀良く振舞う事は可能なのだが
彼らの存在がこの戦争のアメリカそのものを現すエゴなのか?

そして、映画全体の時間の振り方が物凄い無軌道。
出兵前夜の本当に何でもない姿を丸々一時間かけて描くなど
この独特の粗さがポイントか。
展開が過激な割には全編が淡々とした映画で
一見して前面に出てくる物は何一つない。

尺が問題かとも思うけど、短ければもっと無価値だよね。
この独特の荒々しさに長さは絶対に必要。
いわゆる、アメリカンニューシネマともヴェトナム戦争映画とも
微妙に違う不思議な長編、180分。





『抵抗 死刑囚の手記より』 1956年
監:ロベール・ブレッソン  主演:フランソワ・ルテリエ
★★★★☆

ナチス支配のビジー政権時代のフランスを舞台に
ある死刑囚の脱獄までの道筋を淡々と語るお話。

息が詰まるとはこの事だろう。
この監督の作品は、普段の日常を描いてすら
圧迫感で潰されそうになるのに
まさかの本物の閉鎖空間が舞台ですよ。

受刑者同士の連絡方法や
脱獄準備における材料の調達、加工方法
さらには、身内に紛れ込んだスパイを疑う神経描写など
描かれる内容多彩ながらも、展開は徹底してストイック。
本当にただただ脱獄までの軌跡を辿るだけの一本。
癖のある登場人物こそ現れるのだが
劇的なドラマ展開は用意されず
あくまで、諦めない心、希望を失わない心
その他諸々は全て刑務所内の日常から
ジリジリと個々人の顔に滲み出てくるのみ。
その密度の高さからは、目など離せようはずもない。

監督の作品の恒例
やはり、彼らが大声で笑いあう姿など
想像すらできないスーパー根クラ。
普段はそこに切なさを感じてしまうのだが
この作品は舞台が舞台だけに
その空気が実に綺麗にはまる。





『帝都物語』 1088年
監:実相寺昭雄  主演:嶋田久作、石田純一
★★☆☆☆

平将門の怨念による東京破壊をもくろむ男と
街を守る者たちの対決物語。

明治、大正、昭和初期にかけてのレトロな東京舞台と
陰陽師のおどろおどろしい世界観の融合が楽しい作品。

1988年当時の最先端トリックを駆使した
見応えのある映像作品であるのが第一かな。
特に敵役である加藤泰成のインパクトが絶大。
彼一人の存在感でもう十分に見所のある映画になっていて
冒頭10分に与える圧倒的な恐怖感だけで勝ったも同然。

ただその分、ストーリーらしいストーリは存在せず
明確な主人公も存在しない時系列の羅列は退屈。
登場人物が目まぐるしく交錯する中で
群像劇という程の見せ場もドラマも無いのが残念だね。
妙に尺が長いのもダレる要因なのだろうが
何より、世界観を一番の魅力にしている作品の割に
独自の魔術的なルール説明が不足している点が気になるか。

豪華俳優陣を揃えてはいるが
あくまでゲスト的な断絶した登場シーンが多く
皆が空回りで見所までにはなっていない。

とってもおバカな秘術世界と現実描写との絡み合う姿を見る
空気感で楽しむ映画だろう。






『ディパーテッド』 2006年
監:マーティン・スコセッシ  主演:レオナルド・ディカプリオ、マット・デイモン
★★★★★

マフィアと警察の交互に入り込んだスパイ二人が繰り広げる
緊迫感抜群のサスペンス話。

香港映画『インファナルアフェア』のリブート作品。
密度たっぷりの展開をハイテンポに詰め込んだ贅沢構成で
1秒足りとも画面から目を離したくなくなる 
ドキドキのしっぱなしが素晴らしい。
150分もの間、全くダレずに緊張感保てるのは凄いことだよ。
鑑賞後に振り返れば、突込みどころも多々ありますが
そんな事を考える隙を劇中に一切与えないのがそもそも見事。
ここまで緻密に計算できるかと感心する職人作品。 

ディカプリオ、マット・デイモン ジャックニコルソンのトリプル主演も
劇中人物の個性と見事にマッチする配役で
彼らから受ける人物像から物語に入り込めるあたりが
終始複雑で忙しいストーリーを苦もなく追える仕掛けの一つだろう。

オリジナル作品も最高だが
あちらは初作の後に続編扱いで過去設定が足される形のため
やや複雑な構成になっている。
今作はその中からアメリカ映画として成立し得る
オイシイ要素だけをきっちり選択して拾い上げ
単体作品として見事に纏め上げているのも素晴らしいね。






『ティファニーで朝食を』 1961年
監:ブレイク・エドワーズ  主演:オードリー・ヘップバーン、ジョージ・ペパード
★★★☆☆

NYを舞台に繰り広げられる
お洒落な都会っ子による恋の物語。

そんな映画だろう。
冒頭、主人公がドーナッツを咥えるNYの早朝。
この街並みの洗練度は、今現在の目で見ても十二分にお洒落。

明らかにブラックな香りに満ちていながらも
何を悪びれるでもなく、あっけらかんとマフィア絡みの仕事をこなす
オードリー・ヘップバーンの無責任さ。
性的な香りを含む中年パトロンに食わせてもらいながら
自身の誇りだけは高いつもりなジョージ・ペパードの傲慢さ。
人情の香りがしない街、都会of都会、NYが生んだ
空虚な二人のキャラクターが秀逸。

言ってしまえば、馬鹿女と馬鹿男の恋の物語。
それを彩る最先端の大都市生活スタイルは
表題にもあるティファニー宝石店も含め
全てが実像を伴わない淡い世界感に満ちている。

しかし、そんな現実味の薄い世界であればこそ
自堕落な生き様から変遷していく
二人の人間としての愛が冴えるのかな。
都会への漠然とした憧れを描くと同時に
そこで育まれた感性の虚しさをも体感できる。
とっても贅沢で綺麗に纏まった一本。




『テキサス魂』 1970年
監:ジーン・ケリー  主演:ジェームズ・スチュアート、ヘンリー・フォンダ
★★★☆☆

テキサスで牛追いをやってきた男が
亡き弟から娼館の経営を引き継ぐ西部劇。

二大スターのW主演作品だが
1970年公開と言うのだから
忘れ去られゆく西部劇に捧げる
愛情に溢れた一作だよね。

堅物で真面目な主役の男に
キャラクター性の塊であるジェームズ・スチュアート
大らかで気さくな相棒役として
変幻自在のヘンリー・フォンダを配置。
全編が牧歌的なコメディタッチの作りで
あくまで、スター自体を堪能する構成だろう。
この二人に
「お互いに銃は苦手だ、俺達は早撃ちなんか出来ないぞ」などと言われれば
誰だって苦笑いせざるを得まい。
そういう映画。

せっかくの共演企画で、
シンプル過ぎる作りは拍子抜けもあるが
ここは素直に喜べば良いのだろう。

何故か、ジーン・ケリーが監督をしているが
もちろんミュージカルではない。
あくまで、カウボーイ賛歌を描く一品で
若干のパロディを混ぜつつ
ライトなノリでテキサス魂が楽しめる佳作。





『テキサスの五人の仲間』 1966年
監:フィルダー・クック  主演:ヘンリー・フォンダ
★★★★☆

地元の名士達によって開かれる
年に一度のプライベート大ポーカー大会。
そこに、偶然訪れた家族連れの男が紛れ込むお話。

痛快なポーカー狂達のお話だね。
皆、悪い人間ではないのだろうけど
ポーカーに取り付かれた言動の数々は強烈。
どう切り抜けるのか、どういう展開が成立し得るのか…
それらが主人公の駄目人間っぷりと
延々ともったいぶらされる一つのハンドの謎と見事に絡み合い
常時、緊迫感抜群に楽しめる一品。

それでいて、個性ある登場人物による
人情物としても十分に面白いのだから贅沢なお話。
みんなある意味では幸せになったんじゃないかな。
もちろん、オチはオチで相応の物が用意され
疑い続けた人物像にある種の答えも貰えて
最後まできっちりと唸らせてくれる。

閉じた空間、繰り広げられる駆け引き……
そして、数多くのオチを勝手に観客に想像させるという
緊張感の醍醐味を楽しめるギャンブル物の傑作映画。




『デジモンアドベンチャー』 1999年
監:細田守  主演:藤田淑子
★★★☆☆

TV版『デジモンアドベンチャー』の前日譚。
公開もTVシリーズの初期に行われいてる。
その内容は、TV版に過去の話としてしっかりと登場する。

とくにかく風景の描写が丁寧。
マンションの室内における家具一つとっても
登場人物との丈合わせが完璧。
実在の「光が丘」を舞台にした外観も緻密で
明日にでも訪ねられるようなリアリティが感じられる。
そして、そこを映画の魅力として活かせるのがデジモン流なんだな。
何故ならデジモンとは大怪獣としての怖さがあってこそで
その巨大さがリアルな風景描写から直感的に肌で感じられるわけだ。
大迫力の決戦を堪能する30分短編。

『デジモン』がちょっと別格なアニメである事が
上手く伝わる良作。




『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム』 2000年
監:細田守  主演:藤田淑子
★★★★☆

インターネットサーバー上に現れた凶悪なデジモンと
主人公二人が回線を通して戦っていくお話。

「特定分野 内輪ネタ全開」の悪ノリ映画。 
一部層にしか向かない分、それがピタリとはまった人にとっては快感この上なし。
何かと言うと2000年当時のPCネタ。 
ウィルスやIP、サーバーパンク等の要素はもちろん 
ISDNやBIGLOBE、VALUE STARなどの実在名称から
メール返信が来ない時の不安感や
ついついお茶を飲みすぎてネット中に近くなるトイレ 
「フリーズ→再起動→入室→あれ? 状況が一変」なチャットルーム等 
ネットあるあるネタを豊富に取り揃える。
まだまだITが市民権を得きっていない時期にこんな事をやられては
当時のヲタクは一発ノックアウト間違いなし。

また、それが僅か「45分」という尺に収まる密度に驚かされる。 
細田守の演出技術のオンパレードに酔いしれるのも可。 




『デジモンアドベンチャー02 前編・デジモンハリケーン上陸!!/後編・超絶進化!! 黄金のデジメンタル』 2000年
監:山内重保  主演:木内レイコ 
★★★☆☆

昔ながらのアメリカの片田舎を旅する
カントリー感が全開のお話。
そして、どこか寂しく不気味な雰囲気が素晴らしい
神隠し的なホラー作品。

02は元々、そういった世界を持っている作品だよね。
誰が敵なのか、主人公達は何処へ向かえば良いのかもわからない。
だが、決して過去は戻らない。
そこに漠然としたまま進む姿には哀愁すら感じる。

ただし、そういう割り切った世界観なので
せっかくの長編が少し退屈な感じも受けるかな。
シンプルな話をじっくり堪能するタイプです。
バトル面も過度にカッコつけない形で
そういう方向からしても、スカっとはできない一作。

デジモンの映画は異色作だらけだ。




『デジモンアドベンチャー02 ディアボロモンの逆襲』 2001年
監:今村隆寛   主演:木内レイコ 
★★★★☆

デジモン流の電脳世界を見事に描いた
前作『ぼくらのウォーゲーム』の番外編のような作品。

インターネット世界に現れた凶悪なデジモンを倒すスタイルは一緒。
しかし、展開や描かれ方は全てが真逆。
前作が「友達2人」だけで行われた密室戦に対して
今度は組織。
元々、02は先輩/後輩の部活動のノリなのだ。
「選ばれし子供」が大集合して作戦を敷いていく。
また舞台も、前作がマンションの一室のみに対し
こちらは東京大縦断。
リアリティある東京描写は、初代からのブランドの魅力。
そこを走る走る。
サッカー部の若い主役二人が都会を疾走する開放感。
子供達も携帯電話から情報を得て
現地に直接集まるアクティブさ。

これはこれで見事な現代っ子描写。

名作の続編という重苦しい使命を綺麗にかわして
きっちり真逆の02流を見せてくれるのが素敵。




『デジモンテイマーズ 暴走デジモン特急』 2002年
監:中村哲治  主演:津村まこと、山口眞弓、折笠富美子
★★☆☆☆

デジモンの裏魅力である東京市街のリアル描写が
極限まで高まったのがテイマーズ。
その映画化という事での期待は満たしてくれる。
舞台は東京中を張り巡らされた線路。

ただ、それだけかな。
テイマーズ本来の領分においては物足りない。
三者三様のキャラクターや冷めた世界観が全く生きていない。

アドベンチャーを死ぬまで付き合う腐れ縁とすれば
テイマーズの仲間は、物語から1年経ったら
もう疎遠になっていそうな感じが逆に魅力。
もちろん、劇中でどんどん絆が深まっていくのだが
「一生、友達だね」というクドイ雰囲気を感じさせない。
その分の差かな。





『手錠のまゝの脱獄』 1958年
監:スタンリー・クレイマー  主演:トニー・カーティス、シドニー・ポワチエ
★★★☆☆

移送中の車両事故により脱獄の機会を得た
人種の異なる(白人・黒人)二人の囚人が
互いに手枷で繋がれたままの逃避行を行うお話。

互いを警戒し、差別的な視点で傷つけ合い
過去の生い立ちや素性を探り合いつつ
道中、喧嘩もすれば助け合いもする。
気付けば二人の間には友情が芽生えており
物理的な手枷から開放された後も
しっかり二人の絆は繋がれていた…という完璧な運びが光る一本。

これは設定が絶妙だね。
そもそも、白人が黒人よりも偉いなんてのは
国家や社会における風習や文化、歴史制度が作りあげた代物であり
脱獄犯である二人の立場では、社会制度そのものが敵なわけだ。
全てを失い身一つを信じねば生き残れない状況下においては
所詮は一人の人間同士以外の何者でもいられまい。
実は周囲の白人同士の方が余程ギスギスしているように見えてくるから不思議なもんだ。
人間の善意として、綺麗すぎるテーマ性の勝利。

ただ、後の視点で作品を見てしまうと
どうしてもドラマ部分は喰いたりないかな。
これだけ精密な舞台設定を用意しながら
あくまでバディ物、友情物としての逃亡サスペンスの感が強く
人種による確執や人間ドラマが薄味に感じてしまう。

当時の設定として革新的だったことは理解できるものの
この二人は非常に知的で理解度が高く
劇中、人の良さが最初から最後まで滲み出ているため
どーにも、やりとりの緊張感は控えめ。
むしろ、行く先々で出会う人間達の側からこそドラマが生まれるのだが
短い尺で追跡チーム側のお話も平行する作りも含めて
少々散漫で欲張りすぎだろうか。

冒頭、追跡側の刑事が言い放った
「どうせ勝手に殺し合うから追跡も要らんだろ」的な台詞が
今後の物語への期待感を煽るのだが
実際は何とも綺麗なお話で纏った良作です。





『デス・プルーフ in グラインドハウス』 2007年
監:クエンティン・タランティーノ  主演:ヴァネッサ・フェルリト 他
★★★☆☆

改造自動車による殺人や傷害に性的興奮を覚える変態男が
遊び人の若い女に手にかけるお話。

とんでもない映画だね。
葉っぱ吸って、大酒呑んで、セックスの話題ばかりが頭にある
半端に芸能界に片足を入れている女の子集団が
延々とBARでドンチャン騒ぎをするだけの映像を
実に50分間かけて見せられ続けるんだ。
そしてやっとキャラクターの顔と名前を覚えて何か始まると思ったら
全員死亡!
唐突にまた別の女の子集団に舞台が移って繰り返しという
あまりにも狂いすぎている一品。
呆気にとられます。

1970年代に流行ったB級映画のパロディとの事で
性的なシーン、荒々しすぎる言葉遣い、スプラッター描写も実にキレッキレ。
そして、何のストーリーの展開もないまま
狂乱の女子集団がその魅力のままに意味ない会話を続け
最後の最後には許しがたい変態殺人鬼を
逆にやりすぎな程に酷い目にあわせるという
ラストのアホすぎる爽快感が全てを許す映画だ。

まさに純度100%のタランティーノなんだけど
ここまで他要素をかなぐり捨ててのピーキーさは
突き抜けているのではなかろうか。
撮りたいシーンだけを撮りましたという実に潔い一本。




『デスペラード』 1995年
監:ロバート・ロドリゲス  主演:アントニオ・バンデラス
★★★★☆

メキシコを舞台に繰り広げられる
恋人を奪われた主人公の過激な復讐銃撃物語。

非常にシンプルなストーリーでありながら
メキシコ情緒に溢れた演出の数々は
他ではあり得ない独特の味がある。
ギターBGMをメインに据えた
麻薬取引が常態化した退廃的な街並みと
軽くネジの外れたガンアクションの魅力。
このメキシカン主人公が醸し出す暴力は
ジョン・ウー作品あたりとはまた一味違うんだよね。
ほぼ、マカロニ・ウェスタンの流れをそのまま踏襲した
至上命題としての格好の付け方は
メキシコの持つ渇いた空気にも綺麗に嵌る。
白人金髪では絶対に出せない妖艶さに溢れる
黒髪ヒロインも素敵。

大味と言うなかれ。
この荒唐無稽な雑さこそが勢いなんだよね。
まさか、100分映画で90分弱が経過してから
そこで新キャラが2人も登場する作品など
他のどこで見られると言うのだろうか。
しかも「デスペラード撃ち」と伝説に残る
ギターバズーカの構えは
ある意味でこの作品における最大のインパクト。

斬れ味MAXの演出芸を極めれば
馬鹿映画もここまで行けるというお手本のような一品。
ガンアクション好きなら外せない一本。




『デス・レース2000年』 1975年
監:ポール・バーテル  主演:デヴィッド・キャラダイン
★★★☆☆

独裁国家と化した近未来のアメリカを舞台に
大衆娯楽として圧倒的支持を受ける
大陸横断殺人レースを描くお話。

ザ・悪趣味。
東海岸から西海岸までの順位を競うと共に
道中、人を轢き殺せば殺す程、追加ポイントが貰えるという
素晴らしい発想のルールで行われる見世物モーターレース。
見ている側がこれは許されるのかと心配になる中
子供と老人は特に高ポイントだよと、わざわざ注釈が入る阿吽の呼吸。
このテンポ良いクズの徹底っぷりは見事。

劇中、画面狭しと繰り広げられるは
攻撃的なデザインのお馬鹿車体と
頭のネジが飛んだレーサー達の言動。
次々と轢かれる一般人の残酷ショー。
加えて、妥当デスレースを掲げ暗躍する
反政府地下組織の絶妙なお間抜けっぷりや
主役達のラブロマンスまでもが絡み合うのだから
何とも豪華サービス、ごった煮感はB級カルトの極地へ。

最後には暴力と殺戮は人類やアメリカの歴史なんだと
皮肉たっぷりに訴え始めるテーマ性も現れ
この作品の贅沢さは留まる所を知らない。
いや、当て付けにしてもコレはやりすぎだろうと
観客も苦笑いのまま美味しく終焉。

僅か83分、全てが収まりきった
愛すべきお馬鹿映画のお手本と言える一作。





『TEKKEN -鉄拳-』 2010年
監:ドワイト・リトル  主演:ジョン・フー
★★☆☆☆

複数の企業が世界を支配する時代。
母親を殺されたスラム暮らしの主人公が
各企業の名誉を賭けた格闘大会へ復讐のため殴り込むお話。

素晴らしきB級世界。
このくらい怪しくて強引な展開こそがタイトルに相応しい。
もはや、わざとだとしか思えない謎日本語や
勘違い全開の美術セットの数々は本当に素晴らしい。

ただ、肝心のバトルシーンにそれらしさは無いかな。
『バーチャファイター』でもなく『ストリートファイター』でもなく
間違いなく『鉄拳』であると見分けられ所以は
あの火花演出に代表される重量感、メリハリなんだけど
それがどーにも軽い表現で没個性。
このタイトルから、平凡なカンフーアクションが見たいわけではない。

あと、下手にストーリーやドラマを作るよりも
あくまでキャラクターの個性で押し切ってくれた方が
雰囲気が出るんじゃないだろうか。
色々な意味で少し軟派な作りかもしれない。





『テッド』 2012年
監:セス・マクファーレン   主演:マーク・ウォールバーグ
★★★☆☆

苛められっ子の少年が唯一の友達とする
可愛いクマのぬいぐるみに魂が宿るという
クリスマスの奇跡を描いたお話………
から、27年未来の姿の物語。

若気の至りから
当時「永遠の友達」を誓ったは良いが
本当に27年も男同士が腐れ縁を続ければ
一体、何処まで駄目駄目な関係になれるのか。
そんなブラック設定を使った
毒舌と過激ジョークを売りにした作品だね。

ただ、売りとしている作風とは裏腹に
映画としては至って普通の作りで
こんな甘ったるいヒューマンラブロマンスで良いのだろうか。
結婚を控えた子供っぽい独身男が
人生にケジメを付けるだけの平坦なストーリーで
あまり相方がぬいぐるみである必要性が見えてこない。

細かい笑いは間違いなく楽しいが
基本、王道展開が続くのみなので本当の毒はない。
あくまで、可愛いクマちゃんが毒舌を吐きまくる様に
愛嬌を感じられるかが全てかな。





『鉄道員』 1956年
監:ピエトロ・ジェルミ   主演:ピエトロ・ジェルミ
★★★★☆

イタリアを舞台に繰り広げられる
ごくごく一般的な家族の物語。

頑固一徹、すぐに怒り出す父親が居て
優しくはあるがあくまで無力な母親が居て
そんな父親を恐れ反発する娘が居て
どうにも情けない道楽息子が居て……
最後に幼き弟が居る。

何処にでも居そうな普通の家庭だ。
彼らは確かに少しづつ問題を孕んではいるが
そんな物はどの世界だって共通だろう。

それが壊れるお話。
一歩づつ、本当に僅かながら歯車が狂い始め
一家の運命は確実に壊れていく。
正面から見るには、あまりにも辛い展開だ。

ところが、そんな現実を淡々と見せ付けられながらも
この映画は希望に満ちている。
何故ならば視点が違う。
この映画の主観はあくまで幼き末弟の物であり
物怖じせず、機知に富み、誰に対しても気が利く彼の手にかかれば
大人達の不幸は最大の不幸ではなくなるのだ。

彼にとって淡々と起こる辛い現実は
あくまで自分からは干渉できない事後結果に過ぎない。
大人達の人生なのだ。
何故、そうなるかこそ疑問に思いながらも
彼自身の人生はしっかりと存在する。
その立位置は幼さ故の強さと将来性に満ちている。

人生、悪い事もあれば、良い事もある。
そうやって人はいつか寿命が尽きていくわけです。
となれば、どんな問題に直面したとしても
子供を育てて……家族ってのは良いものだよね。

そんな当たり前をイタリア情緒いっぱいの中
しみじみと感じられる。
とっても丁寧で綺麗な一本かな。





『鉄砲伝来記』 1968年
監:森一生   主演:リック・ジェイソン、若尾文子、東野英治郎 
★★★☆☆

1543年、種子島に漂流した商船によりもたらされた鉄砲。
その国内製造に携わる鍛冶職人の奮闘と
異国の船長と恋にちる娘の悲しい物語。

まず、職人物としての美しさだよね。
突然に鉄砲を渡され、これと同じ物を作ってみろという
命令も無茶ながら、大真面目にやってみますと頷く職人もまた凄い。
未知の物への探求とプライドの物語が面白くないわけがない。
そして世の流れの中で
自身が確立したはずの「鉄砲」という製造技術は
職人個人の手には届かない物へと移っていく。
その切なさを見事に演じる頑固親父
東野英治郎のハマリっぷりが素晴らしい。

その過程と平行して進むのが、異国男女の恋物語なのだが
こちらの落とし方はイマイチかな。
もう、初っ端から悲劇エンドの香り全開すぎて
思わずにやけてしまうレベルなのだが、その割に結末はやや拍子抜け。
振り返れば中盤に下される女側の選択の愚かさだろうかね。
良い結果になろうはずがない。
相応に悲恋の美しさは楽しめつつも
この時点からある程度の底が見えてしまうのが残念かな。

それでも、二本のテーマを上手く同時に行き来して
飽きさせず手堅く纏まった良作だろうか。




『テラビシアにかかる橋』 2007年
監:ガボア・クスポ  主演:ジョシュ・ハッチャーソン
★★★★☆

どこか周囲から孤立した少年少女が森で見せる
二人だけの妄想世界のお話。

淡い。
人を選ぶ映画だと思うけど
心当たりのある人には傑作でしょう。
少年が抱くファンタジー世界だよ。
妄想と知りつつ、止まらない、止める気もなく
少女と突っ走る切ない恋愛。
「森」が持つ神秘性を十二分に発揮した演出がgood。
男の子も、ある時点で大人にならなくちゃ駄目だよね。





『デルス・ウザーラ』 1975年
監:黒澤明  主演:ユーリー・ソローミン 、マクシム・ムンズク 
★★★☆☆

政府から未開の森林地域の探索依頼を受けた主人公が
そこで、自然の中で生きる一人の猟師と出会うお話。

良いね。
いわゆるロシア式の森林(タイガ)の映像は
それだけで独特の美しさがある。
川あり、湖あり、雪あり風あり、そして森あり。
この幅の広さは他では味わえない雄大さだろう。
そして、独自のルールに基づくデルス・ウザーラの個性だね。
猟師として常に森と共に生きてきた彼の人柄は強烈で
決して人と交わらない未開の人間というわけではなく
森を愛し自然を愛した生き様からは
都会暮らしの虚構と言うか
目の前にある生の本来の程度という物がよくわかる。
この後、開拓の波に襲われるわけだ。

人懐っこくて、悠然としていて
それでいて自身の生き方には厳しい。
140分、そんな彼一人を眺めているだけで
既に十分な面白さがあるという反則のような一品。





『テルマ&ルイーズ』 1991年
監:リドリー・スコット  主演:スーザン・サランドン、ジーナ・デイヴィス
★★★★☆

退屈な日常を送っていた二人の女性が送る
あて無き逃亡劇のお話。

気軽なハメ外し旅行のつもりが
その最中、ちょっとした揉め事から
レイプ未遂野郎を撃ち殺してしまうんだね。
最初は罪に問われるか否かギリギリのラインだったはずが
そこから逃れるための泥沼行動により
より、状況は後に引けない物と変わっていく。
罪から逃れるためより重い犯罪に手を染めてしまう……
世の中、こんな悲しい事はないはずなのだが
その都度、不思議と彼女達の心は明るくなっていく。

筋立てからはアメリカンニューシネマの香りも漂うが
彼女達の視点からすれば
辛気臭いテーマなど一蹴してシンプルなものだろう。
女性視点ならではの男絡みの閉塞感と
そこから逸脱した際の開放感との相性は抜群で
ストーリーとは裏腹に全編が抜けるような爽やかさに満ちた
見事なロードームービーに仕上がっている。

退屈な日常から解放される事が
誰にとっても旅行本来の目的とするならば
これこそが究極の旅物語と言えよう。
どこまでも自由でありたい。
そんなシンプルすぎる程にシンプルな人間の本能を
痛々しく偶像的に描ききった痛快作。

何故、こうも二人旅はロマンが溢れるのか
欲望に忠実な馬鹿女二人が
好き勝手に逃げ続けるだけの物語が
何故こうも面白いのか。
彼女達の掛け合いも、実にサバサバしたもので
本来、こんなものが痛快であってはいけないのだが
誰しも心捕らわれるのは仕方無し。

リドリースコットならではの
絵作りの美しさも大きい病的な大傑作。





『テルマエ・ロマエ』 2012年
監:武内英樹  主演:阿部寛
★★☆☆☆

ローマ時代、新アイディアに行き詰まった浴場設計士が
偶然に現代日本にタイムスリップしお風呂発想に驚くお話。

圧倒的なローマ編の映像密度。
ここまで豪華な絵作りをする邦画に
早々出会う事はできずこれだけで一見の価値あり。
そのくせ、現代編の舞台となるのは
本当にただの公衆浴場、あるいは小さな家庭風呂で
このあまりの陳腐さにまず一杯食わされる。
あまりに馬鹿馬鹿しい対比がお見事。

さらには古代ローマ人と言い貼りながら
主演は堂々の阿部寛。
コメディ作品としての本気の馬鹿が楽しめる。

しかし、この完璧なアイディアがどうにも最後まで持たない。
中盤以降はお話に少々クドさが増し
設定だけで勝っていたはずのコメディ映画が
何故かヒューマンドラマへと移行する。
このテンポが非常に悪い。
はたして、前半の掴みを叩き潰してまでやる事なのか。

古代ローマと現代日本。
お風呂で繋がる仲にこそ生まれるような
小さな発見、心温まる話こそ欲しかった。

この大型ストーリーは一体誰が求めているというのか。
大作邦画の悪い癖が見事に出ている一本。





『天空の城ラピュタ』 1986年
監:宮崎駿  主演:田中真弓
★★★★★

炭鉱でせっせと働く快活少年の元に
空から謎の少女が降って来るお話。

あのナウシカを描いた人が
ここまでエンターテイメントに徹するのかと驚かされる
一方向に突き抜けた作品。

ボーイミーツガールと言うのだろうか。
男の子は、好きな女の子のためにさえ全力でいれば良い。
あとは、親父の意志を継いでの自分の夢とね。
それだけなのだが、それがまた良い。
そこで単調になりがちな主人公とヒロイン像を補うのが
悪役のムスカや、師匠役としてのドーラなどの
強烈な個性というのがまた見事。
展開のバランスも完璧で、最後のEDテーマ曲に到るまで
全く視聴者に退屈がる隙を与えない。

どの時代にも通じる究極の少年向けアニメーション傑作。





『天国と地獄』 1963年
監:黒澤明 主演:三船敏郎
★★★☆☆

誘拐犯と警察の身代金をめぐる攻防を描くお話。

前半は息を呑むような緊迫感が続くが
後半は犯人パートはややテンポが変わるのが特徴。
まるで、前後で別の映画を見ているのような印象を受ける。

自身の息子と間違われて誘拐された運転手の息子を助けるため
破産覚悟で身代金を用意する社長のヒューマニズムや
警察チームの粘り強さ、頼もしさ
そして、何より姿の見えない犯人の神秘性など
エンターテイメントとして魅力的なパーツは
全て前半で出尽くしてしまう感がある。

後半は、身代金が渡った後の物語で
犯人の足跡を追っていく捜査パートに入るのだが
次第に見せる映画からは逸脱し
犯人の持つ思想や、人間性、環境の描写に終始していく。
ここが少々、芸術的に過ぎると言うか
前半の興奮に慣らされてから見るわけだから
どうしても冗長に感じられてしまうかな。

エンディングに至る主人公と犯人との対比など
テーマ自体は実に見事なのだが、
これは、見せ方のお話なんだろうね。





『天国の門』 1980年
監:マイケル・チミノ 主演:クリス・クリストファーソン
★★★☆☆

19世紀末、アメリカ移民問題を扱った
時代を写した物語。

まさに超大作。
画面から、埃や湿度までをも映し出す
圧巻の映像への拘り、
全編を包み込む格調高い空気感がたまらない。
当時のアメリカを再現する並々ならぬ拘りに
思わず息を呑む、実直な大作映画であろう。

ただ、この壮大なテーマ性を持ちながら
物語のメインを成す男二人と娼婦が織り成す
メロドロマとのバランス取りは
どうにも理解に苦しむ。
ここまで別格の雰囲気を作られれば
素直に見入ってしまう物であはるが
テーマ性もエンターテイメント性も
その徹底された映像の完成度からすれば、
半端に移り、見所の難しい映画という印象だろうか。

厚みのある映像を見せる事自体が
主目的と思えるシーンがやや多かったのも気になり
序盤かに感じる震えるような大作の予感からすれば
やや拍子抜けの一品。




『天使にラブソングを…』 1992年
監:エミール・アルドリーノ 主演:ウーピー・ゴールドバーグ
★★★★☆

ギャングのボスの決定的な犯罪の証拠を掴んでしまった
黒人女性が、身を守るために潜んだ修道院にて
トラヴルを巻き起こしていくお話。

厳格な組織に、破天荒な音楽好きが迷い込んで
少しづつ心を開かせていくというプロットは
いわゆる、サウンドオブミュージック式なのだが
この映画が違うのは主人公の破天荒な度合い。
ウーピー・ゴールドバーグの有り得ないパワフルさに、
登場人物全て、観客すらも巻き込まれていく様は爽快の一言。
ミュージカルという訳ではないが
やはり視聴後に音楽いいなと思える良作。




『天使にラブソングを2』 1993年
監:ビル・デューク 主演:ウーピー・ゴールドバーグ
★★★☆☆

前作と同じプロットを今度は学校を舞台に行う映画。

但し、マフィアに命を狙われるなどという物騒な展開はなく
あくまで普通な学園物。
荒んだ子供達の心を破天荒な教師が音楽の力で開いていくなどという話は
基本的に面白くないわけがない。
ただし、期待した通りのノリで、期待した通りの展開が進む様は
映画としては退屈な面も多い。
よく出来た作品だが修道院という舞台が生きていた前作からすれば
主人公の破天荒さも控えめでイマイチ。
あくまで今作の彼女は普通の大人です。

そして何よりも子供達の存在感がイマイチなのが勿体無い。
楽曲も前作が厳粛な教会音楽という対照的な仕掛けがあったに対し
今作は子供達が好きな音楽を好きにやらせているだけなのが
どうにも小道具不足で物足りない。

面白い映画である内にシリーズを終わらせた判断が見事な2作目だろうか。




『天井桟敷の人々』 1945年
監:マルセル・カルネ  主演:ジャン=ルイ・バロー
★★★★☆

パリの雑多な芸術通りを舞台にした
無言劇芸人とヒロインとの切なき恋物語。

こうも一級品という言葉が似合う作品は珍しい。
芸術方向における題材が、どのシーンにおいても完璧に昇華され
とにかく映像が心地よく美しい。
主人公の実直なキャラクターはもちろんだが、
何よりも、恋敵、芸敵となる親友フレデリックや
悪役を担う事になるモントレー伯爵が使う
言葉のセンスには一発ノックアウト。
気取った言い回しと言えばそれまでではあるが
こんなに洒落た言葉遣いがあるのかと
常時、感心の連続。

お話は切ないね。
ヒロインは、3人の男から恋焦がれる女性なのだが
誰に焦点を当てても男の身勝手なプライドの結果
彼女の心身を共に手に入れるまでは届かない。

主人公は綺麗でありたい願望が強すぎ
フレデリックは野心に忠実すぎ
伯爵は社会的な価値感に囚われすぎている。
芸人としてのプライド、男としてのプライド、立場としてのプライド
結局は凝り固まった彼らの姿からは
誰も幸せを手に入れる未来は見えてこない。

だからこそ、人生とはままならない物であると
謳っているのかもしれないね。

人情ドラマと芸術志向には、
こんな融合もあるのだと思わず納得させられる
まさにフランス映画でしか味わえない傑作中の傑作。
よくこれだけの作品を二次大戦中に作れた物もんだ。




『伝説巨神イデオン 接触篇 / 発動編』 1982年
監:富野喜幸  主演:塩屋翼 他
★★★★☆

未知の遺跡が持つ大いなる謎と力に
外宇宙を挟んだ二つの種族が翻弄されていくお話。

TV版が打ち切りとなり、劇場にて総集編及び真のEDという流れは
前年の機動戦士ガンダムと同じ。
ただ不幸なのは、ガンダムが2時間強の3部作なのに対し
こちらは前後半合わせて3時間しか尺が無い点。
その割には元作品の密度があまりに高すぎる。
描くべき登場人物の多さ、省きようもないエピソードの豊富さ
さらには作品を締めるために必要となる新規シーンが多く
二本目を丸々完結編として使わねばならない。
つまりはそのしわ寄せの全てが
接触編という前半パートに集約されてしまっている。
展開の急さ、主要人物以外のキャラクターの薄さ
あらゆる要素、方向における描写不足。
TV版の魅力の全て逆をいくような出来になっている。

完結編パート。

争う事に夢中な二つの人類は遺跡からの警告を聞き逃す……
この設定だけで勝ったも同然の大傑作。
あと一歩、本当にあと一歩という段階で
ギリギリ歩み寄れない宇宙人同士というのが本当に切ない。
個々のキャラクター間ではとっくに解決しているはずの事が
人類としては伝わらないもどかしさよ。

追いつめられた状況においては
ここまでエゴを前面に出せるものかという驚き。
どのような結末をも覚悟せねばならない緊迫感に包まれた展開は見事。
この骨太なドラマを十分に支えられる
湖川友謙のデザイン、すぎやまこういちの音楽もまた素晴らしい。

残念なのは、前述の通りの変則的な視聴形式。
この前半総集編からでは、完結編のエピソードまで重みを失ってしまう。
完全な形で触れるためには
1本20分のTVシリーズの形態から2時間の長編映画へと移るという
非常にバランスの悪い形を強いるのが映画としては失格。
全てを通せばオール満点の大傑作。





『天地創造』 1966年
監:ジョン・ヒューストン   主演:ジョージ・C・スコット 他
★★★☆☆

原題『The Bible: in the Beginning』

聖書に繋がる物語であるとか
聖書になぞらえた展開とかではなく
本当に何の捻りも比喩もないままに
ただただ、聖書を映像化してしまったナイス企画。

冒頭の天地創造にかかる10分を見ているだけで
早速、睡魔に襲われてしまうような
超絶スローペース演出には面食らうのだが
現実世界とは思えない不思議な神々しさと
映像的な豪華さだけでも一見の価値ある超大作映画。
とても1966年公開とは思えない規模。

特に「ノアの箱舟編」などは
ただ、主人公一家が動物達と戯れるだけの映像を
30分近い尺で延々と見せられるという
もはや拷問のような展開で笑うしかないだろうよ。
それでも、あらゆる哺乳類を正面から撮り切った実直さと
豪華セット、特殊撮影、合成技術等を駆使した
箱舟や大洪水の一大ビジュアルは凄まじく
次の「バベルの塔編」に至っては
1950〜60年初頭の往年の大作史劇かと見紛うばかりの
スーパー映像まで拝めてしまう。

そもそも、監督にジョン・ヒューストン。
主演にジョージ・C・スコットの時点で
無駄に豪華すぎるんだよね。
結果、細かいディティールに迫力がありすぎて
苦笑いしながらで良いのか、本気で見た方が良いのか
絶妙に困ってしまうクオリティなのがポイントか。

「つまらないけど、悪くはない」
何とも変な視聴感が残る映画だね。

全編が非キリスト教系の日本人にとっても
何処かで一度は耳にした事はあるだろう
メジャーエピソードの連続から構成されているので
難しく構えすぎずに楽しめるのは上々。
なお、宗教感覚無しに一本の映画として見ると
どうも「神」がシンプルに酷いヤツにしか映らないのはご愛敬。
あの人(?)アカンでしょ。




『天と地と』 1990年
監:角川春樹   主演:榎木孝明、津川雅彦
★★★☆☆

上杉謙信と武田信玄による
いわゆる「川中島の戦い」を描く超大作映画。

バブリーな一品だね。
人海戦術満載の大合戦。
一体、何を考えて作ったのかな。

中盤までのキャラクター紹介パートからして
一々、スケールの大きさに驚かされる。
桜の下で繰り広げられる男女の会話一つとっても
実に豪快でとても美しい。
特に山城の何たるかを視覚から一発で示してくれる
大掛かりな急斜面の攻防は見事としか言い様がなく
概ねスケールに比例した満足感は得られるだろう。

ただしそこまで。
ラスト30分に行われる大合戦という
今作の主役パートで大ゴケしてしまうのはいただけない。
果たしてこの映像は面白いのか。
なんともチープな合戦模様にしか感じられないのは
一体どういう理由だろうか。
本来であれば、演出や雰囲気作りよって迫力を醸し出すべきシーンを
人海戦術の力を過信し堂々と真正面から描きすぎたせいか。
それをやるにはまだ人数が足りなかったという事か。

特に「武田軍を赤」「上杉軍を黒」と完全に色分けがなされた混戦模様は
史上類を見ないレベルの大スケールを実現しながらも
子供が運動会で遊んでいるようにしか映らない。
やはり、感想としては滑稽に尽きるだろう。

ドラマ部分を省いたシナリオの割には
前半戦パートも長すぎるかな。
この構成のアンバランスさも引っかかる原因か。
いっそより開き直って、合戦の中身だけで2時間見せてくれた方が
まだ記憶に残る映画にはなっただろうか。

撮影規模の豪華さに酔いしれるため
語り草として一見の価値だけはある一品。





『トイ・ストーリー』 1995年
監:ジョン・ラセター   主演:トム・ハンクス
★★★☆☆

意思を持ったオモチャたちが
主人の部屋と近所を舞台に繰り広げる
小さくも感動の物語。

まずは映像の魅力でしょう。
時は1995年。
これだけのフルCGアニメを当時に作り出した
技術と覚悟にノックアウト。

そして、少年の部屋に多数生息する数々のキャラクターの妙。
自身が所持していたかは別として
こんな玩具あるよねという
共通の記憶が可能にするノスタルジーに満ちている。

そして、主人公ウッディの人間臭さだね。
皆を纏めるリーダー気取りでありながら
自身がNo.1の寵愛を受けている事が
唯一にして絶対の心の拠り所という狭量さ。
そこに、巻き起こされる新玩具キャラクターの新風。
メインを徹底的に二人に絞ったが故の成長の物語なのかな。
彼らが行う冒険の旅も
実に玩具らしく小粒な舞台ながら迫力満点。

ただ「トイ」である意味に言及した個所が
終盤、バズ・ライトイヤーへのウッディの語りだけでは
少しもったいないと言うか、
展開上、散々に引っ張った内容だけに拍子抜けはあるだろか。
「寵愛第一主義」を貫いてきたウッディならではの
語りなのかと言えばそれはちょっと物足りない。

テーマ性を抑え目にする事で
とにかく、玩具箱をひっくり返した世界を
純粋に楽しんで欲しいというスタイルかな。
そう割り切れば近所の悪ガキの暴君っぷりが素敵すぎます。
男として実に「心当たりのある」キャラクターなんだよね。
見事。




『トイ・ストーリー2』 1999年
監:ジョン・ラセター   主演:トム・ハンクス
★★★☆☆

前作でお馴染みの愉快な仲間達が
姿を消した主人公を求めて大暴れするお話。

実に愉快。
この作品はキャラクター立ちが見事だよ。
ウッディは相変わらず俗っぽいし
バズ・ライト・イヤーは、天然ながらも実に男前でカッコいい。
彼らの言動全てがあらゆる方向で世界を賑わせてくれる。
玩具達の活躍に浸っているだけで十分楽しい一品。

しかし、今作は誰に向けて作ったのだろうか。
まず眼に付くのは、子供が出てこない点だろう。
前作でメインだったご主人様のアンディ君や
近所の玩具キラーとして名を馳せる悪ガキに出番は無し。
日常生活の中で意思を持つ玩具達というワクワクする舞台からは離れ
ただただ活劇メインのストーリー。

そして、テーマとして強烈に残る
「玩具なら、マニアの手で飾られるより、子供に遊ばれろ」
大事に大事に扱われ、博物館で永遠の命を得るか
時期が来れば確実に不要になり
ゴミとして捨てられる子供の家を選ぶか。
どちらも魅力に見える中、揺れ動くウッディの様は
少々、悲痛にすら感じられる。
そんなトイである事への拘りで綴られるストーリーは
前作を遥かに上回るのだが
前述のように、登場人物が本当に玩具達しか居ないので
その自己完結ぷりは少々不思議だった。

玩具の王道をアンディ側とするならば
今作で対立すべきは玩具マニアの存在なのだが
あくまでも劇中に登場するのは
マニア向けに玩具を卸す「取引相手」だけ。
間違いなくある意味で玩具を愛してはいるはずの買い手本人は登場せず
またアンディすらも出番が無いのでは、
物足りないと言えば物足りない。
そこを半端にすれば残るのは活劇部分だけなのよね。

十分に楽しいアクション映画ではありながらも
子供に向けても、大人に向けても
少々、表現を絞りすぎな二作目だろうね。




『トイ・ストーリー3』 2010年
監:リー・アンクリッチ  主演:トム・ハンクス
★★★★☆

続編。
10年分のCG技術の進化に酔いしれる一品。
もう描きたい映像を描いてるだけだろと
思わず突っ込みを入れたくなる
あまりに豪華絢爛な超技術の数々に
10年という歳月の流れを感じ入るのも一興だね。
何より彼らの手にかかれば
ただの保育園であったり、ゴミ焼却場であったりと
何の事はないはずの現実世界の施設が
すぐにも、一大エンターテイメント場へと早代わり。
玩具視点ならではのアイディアの豊富さに驚かされるばかり。

お話は前作のツケを払う形で
「玩具は子供に遊ばれて何ぼ」を選んだ代償として
17歳に成長したアンディ君との別れを描く物。
このお話をやるのであれば
やはり、二作目において彼が脇へ追いやられていた事が惜しい。
もう少し彼自身に元々のキャラクターやドラマがあれば
10年という成長の月日はより重さを増しただろうにね。
ただ、それを差し引いても
このテーマは実に素晴らしい。
近い将来の可能性という形で提示され続けた
玩具としての悲哀をまさかそのまま直球で描いてしまう潔さは
完結編にふさわしい本格派。
ラスト展開も含めてあくまでシリーズ一貫した姿勢は
見事としか言えないよね。

玩具、かくあるべし。
完璧な一本。




『トゥームレイダー』 2001年
監:サイモン・ウェスト   主演:アンジェリーナ・ジョリー
★★★★☆

「遺跡+オカルト」
世界を潰す程の謎パワー。
そこを駆け抜ける美しきアクション派ヒロイン。
完璧なエンターテイメントだね。
インディジョーンズのような世界を
ひたすらスタイリッシュに突き進む良作。

何も考えずに彼女のパワフルさに惚れて入ればいいのさ。
そういう映画。




『トゥームレイダー2』 2003年
監:ヤン・デ・ボン   主演:アンジェリーナ・ジョリー
★★★☆☆

続編。

豪華絢爛なロケーションの数々と
やはり、見事に暴れまくってくれる
アンジェリーナ・ジョリーを楽しむ一品かな。

ただ今回は遺跡要素の度合いが低くなり
あくまで敵勢力との追いかけっこに終始するあたりは
言うなれば平凡なスパイ映画だろうかね。
前作程に世界観だけで突っ走れる勢いは無く
そこに典型的な選民思想のサイコという敵役の平凡さも加わり
ややダレル感もある二作目だろうか。

続編で戦闘パートばかりが増えていくというのは
ある意味、原作ゲームの通りなんだけどね。

頭を空っぽにして彼女だけを見続ける。
そんな意味でならば決して裏切らない作品。





『東京オリンピック』 1965年
監:市川崑  主演:
★★★☆☆

1964年、東京オリンピックの模様を記録した
半ドキュメント映画。

よく映画として撮っていた
フィルムクオリティで残していた。
まず、この一点に感動できる作品だろう。

近代オリンピックの歴史、戦争の歴史を振り返り
戦後日本において、五輪が開催される事が
如何に大きな意味を持っていたかを
見事にオープニングから体言している。

記録映画と言うよりは、芸術性が高い作品なのかな。
オリンピック映画と言えば
ナチス時代のベルリン五輪を記録した作品が
あまりに有名だが
やはり、人間の限界に挑まんとする選手達が持つ
神々しさは格別なのだろうね。
演出込みで記録したくなる気持ちが
映像から痛い程に伝わってくるとても美しい仕上がり。

ただし、長すぎだろう。
あまりに構造が単調で長すぎる。
ドキュメントとしては作られておらず、
かと言って一映画作品としては見れば冗長。
やや、どっちつかずな印象も受けてしまった一本。






『東京家族』 2013年
監:山田洋次  主演:橋爪功、吉行和子
★★★★☆

1953年公開『東京物語』のリメイク作品。
若干の設定変更がなされつつも
プロットはそのまんま。

2013年風のアレンジは素晴らしいが
淡々とした描写の中に、小粋にテーマを内包していた
小津版と比べれば、ややクドめの作風へ。
登場人物が親切すぎるほど感情を表に出し
全ては、後半の感動路線に収束していく。
明らかに重たすぎると感じる構成だが
この直球表現までを含めての2013年版なのかな。

それでも、映画としては本当に面白い品です。

彼らは良く出来た子供達に囲まれた恵まれた老夫婦である。
客観的に見ればこの点に間違いはない。
だが親子とはそんな単純な物ではないよね。
結局、どの時代、どの社会に置き換えても
「相応」の基準が違うだけで
親が子に心底満足する事などはないのだろう。
既に自らの家庭を構えた子供側から見た
親の存在もまた然り。
そんな万国共通とも言える世代の様が
可笑しさと哀愁を交えて描かれる傑作ヒューマン。

オリジナル作では、戦死した息子の若き未亡人が
老母の心を理解する拠り所として登場するが
今作では、定職に就かない独身の息子と
その恋人コンビが同じ役目を負う。
共通するのは、どちらも成熟した家族を持たない点。
これが未完成な身であるからこそ
まだ老夫婦に心を寄せられるとするならば
本当に切ないお話だね。




『東京ゴッドファーザーズ』 2003年
監:今敏  主演:江守徹
★★★☆☆

大都会、東京を舞台に
赤子を拾ったホームレス三人組が
親探しに奔走するお話。

東京の街並みが完璧な再現度で
アニメーションに落とし込まれている
とってもハイセンスな映像作品。
雪降るクリスマス〜年明けにかけての
何処か寂しげな大都会の情景が
ホームレスならではの視点で描かれ
人を突き放すかのような無機質な街並みと
人間味たっぷりな三人組のバランスが
実に対照的に魅力的な世界観を作っている。

しかし、お話はやや開き直りが見られるかな。
あまりに駄目な人間達による小粒人情劇の集合体なんだけど
大筋の繋ぎ合わせ方が雑に過ぎて、一本の映画としては冷め所も多い。
エンディングまで一貫したノリが続くあたり
あくまでジョークも含めた手法なのだろうが
ここまで徹底した都市映像を提示しておきながら
このチープさは少々もったいない気がしてしまった。





『東京裁判』1983年
監:小林正樹  主演:佐藤慶
★★★★☆

1970年代になって一般に公開された
アメリカ国防総省によるフィルム映像をベースに
東京裁判をドキュメンタリータッチに描くお話。

記録目的の映像を編集して作られているにもかかわらず
まるで再現ドラマかと見紛うばかりの
映像作品としてのテンポが保たれているのが素晴らしい。

また、裁判で争点となる歴代の事件や世相については
世界各国から集めた様々な映像を出典を添えて交え
丁寧に回想編として解説を行うスタイルなので
誰が見てもある程度の流れが掴める構成が保たれている。
もし教科書知識で既に知っていた話であっても
映像と音声に乗せられる説得力は格別。

その過程で、被告の中から特に重要な数人が
何度も登場して役割や言動を紹介されるために
次第に実際の裁判映像における彼らの言動の中からも
個人個人をある程度認識できるようになっていく作りが実に上手い。
本人達の肉声や映像がそのまま使われる箇所と
要約を佐藤慶の見事なナレーションで代弁させる箇所が
上手く緩急をもって使い分けられており
ただの記録映像集にはならず、映画にもなりすぎない
絶妙なバランスが最後まで退屈させないのも良し。

最終的な判決自体は茶番性を大いに含む裁判だろうが
少なくとも、その過程における徹底した資料や証人集め
弁護人、検察のやり込みは本気も本気に映るし
失われていた可能性がある稀少な資料をこの裁判は残してくれている。
実に2年間にも渡る大規模な証拠集めと論争の場は
その存在自体に文明の香り十分。

全体では何とも感想の難しい一品なのだが
少なくとも、記録映像を繋いだだけで
「4時間37分」という常軌を逸した尺の映画が
飽きもせずに気付けば見終わっている時点で
とても面白い映像作品なんだろうね。
おそらく、素人目にわからなくとも
小林正樹の映画監督としての技術の粋が
細部にまで詰まっているのではなかろうか。

何せ、国防総省が公開した記録フィルムは合計170時間分らしい。
それを僅か4時間半の映画に再編集する作業など
常軌を逸した手間暇だろう。
直接的に何かを言う作風ではないのだが
その芯には間違いなく一本の怒りが通っているはず。

東京裁判を描いた作品としては
山崎豊子の『二つの祖国』が傑作だが
奇しくもこの小説も1983年刊行。
やはり、アメリカ側の資料公開に端を発しているのかな。
当時の機密が時を経て、その特別性の消失が認められ
しっかり公開される世界は……良いね。





『トウキョウソナタ』 2008年
監:黒沢清  主演:香川照之、小泉今日子
☆☆☆☆

会社をリストラされた中年男性と
その奥さん、二人の息子を絡めた家族のお話。

突飛だね。
極端な個性を出そう出そうとする程に
こういうジャンルは空回りするのよね。
キャラ付けで人間が面白くなるわけではないでしょう。
碌なドラマや人間の言動も作らずに型だけ用意して
やりたい事、言いたい事ばかり前面に出しても
見ている側を説得できるわけではない。
何処かで聞いたようなテンプレートは馬鹿にしてるよね。

とにかく生きた人間の気配が全く無いのが不思議。
そもそも一切のまともな会話を放棄しつつ
それでいてあそこまで互いに期待を持ち続けられるとか
そんな家族があるのだろうか。
わざわざ壊さなくても
あんな人間ならハナからもっと自然に壊れとります。
悲しいかなもっと現実はドライではないかな。

後半のノリを一貫してくれたなら
まだ楽しめる余地はあるけど半端もん。
役者だけが素晴らしいという
いつものパターンかな。




『東京物語』 1953年
監:小津安二郎  主演:笠智衆、東山千栄子
★★★★★

尾道に住む老夫婦が、初めて東京の子供達を訪ねてくる。
そこで紡がれる親子と家族のお話。

参った。
本当に人の心を捕える作品には
何ら派手な展開も、敢えて訴えるようなシーンも要らないんだね。
全てが淡々としています。
まず、役者ののんびりとした台詞回しに驚かされ
ほとんど動かない固定のカメラワークに驚かされ
しかし、気付けばそんな事は全く意識しなくなり……
笠智衆の話す一言一句が魔法のように心に響く。
こんなもんかねぇ、人間は。
いや、登場人物はみんな良い人なんだよ。
ただもう一歩行けないもんだろかと思うと何とも切ない。
優しい映画なんだけどね。

この世に生まれたからには、誰にだって親は居る。
育ったからには、世話になった人は居る。
生きているからには自分の生活がある。
ならば、この作品のテーマは何十年経とうが不変です。
永遠の大傑作。




『逃走迷路』 1942年
監:アルフレッド・ヒッチコック   主演:ロバート・カミングス
★★★★☆

戦闘機工場の爆破工作事件の犯人とされた主人公が
自身の無実を明らかにするために逃亡し
自ら犯行組織に辿りついていくお話。

サスペンスの教科書ですね。
目まぐるしく移り変わる場面、次から次へと迫り来る新たな事態。
個性溢れる登場人物、ノンストップな疾走感。
そして、少しづつ明らかになる真相と
手に汗握る犯人たちと主人公の駆け引き。
完璧。
110分間、本当に無駄がなく
こんな僅かな時間でこれだけの要素が入るものか。

加えて、何よりも絵が綺麗。
光と影の演出を多用する映像は凄く好みです。
どの場面も絶妙な緊張感を保ってくれる。
全シーン、アイディアのオンパレード。
映画館のシーンなど技術作に過ぎるわ。

そして、何よりも良い人が多い。
これが物語の適度な刺激なんだろな。
語る語る。
敵も味方もみんな紳士だね。

最初から最後まで、展開と映像で熱中できる傑作。




『逃亡者』 1993年
監:アンドリュー・デイヴィス  主演:ハリソン・フォード
★★☆☆☆

妻殺しの冤罪で追われる医師が
逃げ続けながらも、真犯人を追っていくお話。

追われながらも、自身も犯人を追い続けるという
二重構造なサスペンスの教科書映画。
題材はシンプルだが不変な代物で
これで面白くならないわけがないのだが
いまいち展開が派手すぎることで逆に冷めてしまうね。
『インディ・ジョーンズ』ではあるまいに
それほど劇的なスペクタクルシーンが必要だろうか。
サスペンスは地味に、ただし丁寧にが鉄則な気がする。

その割にはあっさり風味のラストが肩透かしで
いまいち、ちぐはぐな印象も残る。
お話自体は完成されているが
妙なバランスが物足りなさを残す一品だろうか。




『トゥルーライズ』 1994年
監:ジェームズ・キャメロン  主演:アーノルド・シュワルツェネッガー
★★☆☆☆

妻にすら身分を隠しながら
国家的なスパイ任務に付いている主人公が
家族やテロリストを巻き込んで大騒動を起こすお話。

制作費1億ドルオーバーでプロモーションした映画だね。
当時としては破格だが
それならそれで、もっと楽しませてくれも良いんじゃないだろうか。
目でわかる別格感、大作感が無く、地味なんだよね。
冷静に考えれば、如何にお金がかかる映像かは理解はできるが
そこに直感で伝わってくる凄さは何もない。
お金の使い方が自己満足かな。
お気楽エンターテイメト以外の何者でもない割に
イマイチ、爽快感の薄さが続いて退屈になる一品。

加えて、シュワルツェネッガーの神通力もまた
イマイチ不発なのも気にかかる。
もっと、キャラ立ちさせないと、この人は満足できないよ。
相応のスター俳優なら誰でも成立するような主人公像は拍子抜け。




『時をかける少女』 1983年
監:大林宣彦  主演:原田知世
★★★☆☆

自身に起こる不思議な現象に悩む少女が
その中で、幼馴染達との交流を交えて
毎日を過ごしていくお話。

綺麗に仕上がった映画だよ。
悩める少女の姿が主題ながら、
それに添えられる描写が究極的に美しい。
田舎すぎず、都会すぎず……
絶妙な自然の残る町の姿が可能にする繊細な世界観に
まずノックアウト。

オチの明かされ方の唐突っぷりには
誰もがズッコケるだろうが、
同時にそこでの若き男女の純粋な想いには
思わず顔を綻ばせてしまうだろう。
決して上手いとは言えない原田知世の主題歌すら
この世界観においては狙われた未熟さとして
完璧に成立してしまう見事さ。

少年と少女の切ない恋物語であり
十分なSF設定作品でもありながら
描かれる世界は究極的にアナログな情緒満載。
何とも不思議な融合が魅力の甘い一品だろうか。





『時をかける少女』 2006年
監:細田守  主演:仲里依紗
★★★☆☆

時間を飛び越えるという謎の力に目覚めた女子高生と
彼女の周囲に居る男友達とのちょっと不思議な青春物語。

実に爽やかに仕上がった一品。
日常におけるささやかなな幸せのために
無駄にタイムリープを繰り返すという
何の害も無い女子高生像が特徴だろうか。
一見、健全でボーイッシュな姿にも見えるが
あまりにもスッキリとしすぎていて
むしろ、生きた人間とも思えなくなるのは
アニメらしいと言えばらしいのか。
ある意味ではこれも完成された魅力か。

彼女を取り囲む男子高校生も
タイプこそ違え二人共にとっても男前で
実に幸せな日常に見えるだろう。
その幸せさに気付かぬは、彼女自身だけというのもお約束。

唐突すぎる展開は、80年代映画版へのオマージュだと思うが
少し舞台が綺麗に用意されすぎな気はするかな。
あまりに完璧な状況では、それが壊れる切なさの描写までも
同じく空虚な物になってしまうのではないだろか。

それよりも、独特のアニメーションを楽しむ一品か。
徹底したリアリティと淡白さをもって描かれた世界観は
間違いなくオリジナルの魅力が備わっている。
この落ち着いた世界とアニメな特急展開やキャラクター。
不思議な融合の魅力だけで十分に楽しめる100分間だね。





『ドクトル・ジバゴ』 1965年
監:ドクトル・ジバゴ  主演:オマー・シャリフ
★★★★☆

ロシア革命の時代に翻弄された
一人の医者の人生を取り巻く大河メロドラマ。

THE映画。
大スクリーンでの上映を前提として
広く広く絵使い切った画の美しさに説得力がありすぎる。
こんな映像が存在し得るのかと
場面が映り変わるたび、一々その華麗さに度肝を抜かれる。

ゆったりと流れる美麗なカットの数々が
激動の人類史の慌しさとの対比になっており
風景の美しさが映像自慢の域に留まらず
作品自体のテーマーにきっちりと昇華されている職人技が凄まじいね。

ソビエト連邦誕生の歴史に呑みこまれた
一般市民の悲劇と哀愁を全体として捉えつつも
あくまで主役は一人の男にフォーカスされる。
何を成したでもない名も無き医者の大河不倫ドラマが
この時代背景をベースに敷く事で人間の尊厳をかけた純愛劇に早代わり。

かつての作品であるアラビア半島も素晴らしかったが
彼の撮るロシアの大地もまた素晴らしい。
あらためてデビットリーンの名を後世に刻んだ完璧な芸術作品。




『独立愚連隊』 1959年
監:岡本喜八  主演:佐藤允
★★★☆☆

戦争末期の北支那最前線を舞台に
新聞記者を名乗る謎の男が暗躍するお話。

大陸の激戦地を舞台にした戦争映画ながらも
一つの謎に迫るサスペンス映画であり
ヒーロー活劇を見る西部劇のようでもあり
前線の死生観を見る悲惨な話でもある。
実に豪華な全方位エンターテイメントとして仕上がっている。

特に主人公のキャラクター像が素晴らしい。
どんな時も余裕と愛嬌を忘れないナイスガイなのだが
いざとなったらヤル男である怖さが一発で伝わる説得力もあり
彼が飄々と立ち回る姿を眺めているだけでも十分に楽しい。

それでいて、戦地の登場人物は皆ふてぶてしく
悲しとか嬉しさとか、大よそ人間的な感情からは
既に一つ隔絶してしまったかのような
不自然な楽観が見え隠れするんだな。
主人公も、愚連隊の隊長も隊員たちも
心の底では腹を立てているんだろうけど
敢えて気取っているとも取れるギリギリな空気感が逆に怖い。
この舞台設定で明るいエンタメが成立しているのは見事だが
その事自体がある意味では狂っているのだろう。

戦争の馬鹿馬鹿しさをこっそり下地に敷きながらも
最後に至るまで、ド派手なアクションを忘れず
ワクワク爽快を貫いた職人芸の一品。
画面の端々までを使い切る壮大な景色からも
かつての日本人が憧れたのであろう
大陸の雄大さみたいなものが伝わってくるよね。

なお、全編を通して主演の佐藤充が一人で活躍する話だが
1959年公開の東宝作品ということもあってか
三船敏郎と鶴田浩二という豪華W面子が
妙なゲスト出演をこなしているのも面白い。
三船は気が狂って笑われる大隊長役で数シーンのみ。
鶴田浩二は美味しい貫禄ある役どころなのに
延々とカタコトの怪しい日本語を喋り続ける満州人のため
得意の情緒が最大限には出せていないという……

他では類を見ないタイプの戦争映画である事も含め
内容以上に豪華な体感があるね。





『時計じかけのオレンジ』 1972年
監:スタンリー・キューブリック  主演:マルコム・マクダウェル
★★★☆☆

若き衝動が抑えきれずに
毎夜、重犯罪に明け暮れる少年が
医学的に矯正される社会を描いたSF話。

基本、徹底してクズな少年が
徹底して不幸になっていくお話なのだが
全編を通しての雰囲気が絶妙に不快。
ここまで映像音楽の力で
人の不安を煽れる物だろうか。

日進月歩の科学技術や社会に対する
一種のifであるる事は間違いなく
暴力衝動や性的衝動を
そもそもの段階で抑制してしまおうという
発想の危うさを描いてはいるのだが
反面、いくら懲罰を受けても
何ら本質が変わらないクズ少年の姿も描かれる。

劇中のギミックを見事に使いきり
観客に皮肉たっぷりに問い掛ける姿は
やはり、自身で判断する価値のお話なのだろう。

良くも悪くも、気持ちの悪い作品ながらも
近未来を想定した美術や色彩、トリッキーな演出の数々
独特の言い回し、言葉遣いのセンスだけでも
十分に楽しめる力強い一本。




『突撃』 1957年
監:スタンリー・キューブリック  主演:カーク・ダグラス
★★★☆☆

第一次世界大戦を舞台に
フランス軍で起こったある戦闘における
事後処理をめぐるお話。

強烈。
これは反戦映画という枠では収まらないだろう。
軍隊、あるいは戦争行為の圧倒的な暴力を描いた作品。

指揮官が立てた作戦上では
突撃を行えば、半分以上の兵隊が死んでも
残った兵隊で柵は越えられるはずだった。
しかし、現実は突撃舞台は逃げ崩れてしまう。

100%、大量の兵隊が死ぬ事が前提で
初めて作戦、戦闘行為が成立する怪。
机上では誰でも理解できる事だが
果たして、現場における主観視点はこれに耐えられるか。

誰が扇動したでもなく
崩壊は自然と起こった物ではあるが
指揮官は強い軍隊であるために
見せしめの死を求める。

敵前逃亡の罪を問われるのは
様々な理由を元に選出された三人。
ここに恣意的な要素が微塵も入らないなど有り得るのか。
銃殺刑ありきの見せかけ裁判は延々と進む。

「前に進む事は不可能でした」
「本当に不可能であったなら、お前らはココに居ない」
前に進んで死ぬか、後に引いて死ぬかの違い。
このやりとりの明快でありながら、無情にすぎる非人間性。

自らの国を守るために兵隊になった人間が
地獄のような現場からたった一つの命を拾ったのに
結局、その国の手で殺される謎。
ならば彼らは何のために生きてきたのか。

非常に短く、シンプルな映画でありながら
ギラギラした絵作りとテンポは一切の妥協を許さない。
人間社会の本質までを抉るキューブリック初期の衝撃作。






『突撃隊』 1962年
監:ドン・シーゲル  主演:スティーヴ・マックイーン
★★★☆☆

二次大戦も佳境にさしかかった頃合いのフランスで
敵陣を前にした塹壕で一夜の居残りを命じられた6人の小隊が
ただただ前線の戦争をやるお話。

まるで白黒映画の限界に挑んだかのような
終始、どん暗く状況がはっきりしない画面の中で
延々地味な任務に付くだけなのだが
地味と言っても、その全てに命がかかっているからたまらない。
この状況の馬鹿馬鹿しさは凄いもんだね。

命令を守れば座して死ぬだけだろうが
無視した行動を取ってもどうせ死ぬだろう。
そうなると、何が正しいかはわからんよ…
何もせずに死ぬことが任務であり正しさと言うなら
その正しさもホントのホントは嘘っぱちだろうさ。

最初から最後まで劇的な展開や悪などはなく
普通に状況が不条理なだけの映画だよ。
そういう場であれば、シンプルに命を落とことが自然って話さ。
何も語らず、何も鳴らず、何も起こらず、感動もなければ、別に説教もない。
素晴らしい虚しさが残る一本。

それにしても、戦争という言葉は何かを語るには大きすぎるね。
使えば何について話しているかが全く絞れなくなってしまう。
少なくとも、最前線の現実だけを注視したこの心の動きに対して
今この場でそれ以上の理屈や装飾が必要だろうかね……
感じたことを素直に感じれば良い。
そんな映画か。





『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』 2010年
監:ジョー・カーナハン  主演:リーアム・ニーソン
★★★★☆

イラク戦争の最中、ドル紙幣の原版争奪の陰謀に嵌められた
アメリカ陸軍の特殊部隊4人組みが
自身の名誉と無実を勝ち取るために大暴れするお話。

完璧な完成度を誇る一品。
とにかく頭を空っぽにして2時間突っ走りたいという欲求を
100%の形で満たしてくれる事間違いなし。
お馬鹿コマンドアクションの系譜として一切の隙無し。
この手の作品は何よりもテンポだろう。
まるでペースを落としたら死ぬとでも
脅迫されているのかのようなハイテンションノンストップ劇は見事。

もう一つはキャラクター。
如何に多彩な方向性から主役達の個性を打ち出せるか
そしてどれだけ敵勢力が狡猾で強大で魅力的か。
ウィットに富んだ掛け合いは終始心地良く
全てにおいて綺麗にピースがはまった良作アクションだね。

必要以上の驚きこそ何もないが
視聴前に求める物の全て得られるだろう傑作。




『トップガン』 1986年
監:トニー・スコット  主演:トム・クルーズ
★★★☆☆

アメリカの戦闘機パイロット養成機関で過ごす
若者達の青春ムービー。

1980年代の代名詞と言ってもよい映画。
さすがの映画も、ココまで世相を反映するのも珍しいだろう。
1960年代末〜70年代に撮られた作品を考えれば
こんな物が成立している事に驚かされる。
正真正銘の「軍隊映画」だぞこれは。
それが、ただひたすらにカッコイイとは恐れ入る。

あらゆる物がスタイリッシュで
どこにも生活感の無いエリートな若者達の祭典であり
ヒロインとの優雅な恋愛ももちろん
登場するアイテムの一つ一つすら
どれも目新しく泥臭さを感じさせない。

敵国との戦闘すら、どこか現実味を帯びさせない
偶像的な楽しさを追求するそんな映画。
これはこれで一つの傑作の形だと思う。

このトム・クルーズの登場が、
スター俳優の定義を変えた気がするね。
間違いなく21世紀まで続くイケメン基準はこのあたりから。




『となりのトトロ』 1988年
監:宮崎駿  主演:日高のり子
★★★☆☆

田舎へと引っ越した幼い姉妹が出会う
神秘の森と動物のお話。

不思議な映画。
特に何があるという事もないのだが
淡々とした雰囲気で描かれる舞台こそが主役。

いつかはわからないが、ややノスタルジー溢れる日本
そして、優しさという方向性での自然溢れる田舎。
そこに息づく不思議で可愛らしい生物たち。
小学生の姉妹を主役にして
延々とこの誰しもが何処か憧れる舞台を見せてくれる。
子供時代への郷愁なのか。

本当にそれだけの作品。
でも、それが不思議と心地よくなるのが
発想と美術の丁寧さの職人芸なんだろね。




『飛べ!フェニックス』 1965年
監:ロバート・アルドリッチ  主演:ジェームズ・ステュアート 
★★★★☆

中東の砂漠に不時着した飛行機を舞台に
乗客達の生還をかけた苦節の物語。

無人島物と言うのかな。
即席集団による紆余曲折のサバイバル映画。
多様な登場人物による様々な対立と協力。
次々と立ちはだかる困難、容赦の無い展開。
そして、皆が一つの目標に進むロマン。
全てにおいて圧倒的な完成度を誇る傑作。
このジャンル自体を代表して良いレベル。

あくまで、プライドの高さ故に自身を責め続ける機長も良いが
冷徹さを一身に受け持つインテリがまた良いのだよ。
彼のあまりの正しさに人間は何所まで耐えられるか。
原則、みんな紳士だけど何所かガキっぽいのが素敵。
決して突飛なキャラクターで奇をてらわない
真正面からの作り込みが見事。

いつ、誰が、どういう結末を迎えるか
そして、最終的な結果はちゃんと迎えられるのか。
もし上手く行ったら絶対に拍手してやろうと
ついつい応援したくなる爽やかな展開がgood。
緊張感たっぷりに最後まで楽しめる一品です。




『トム・ジョーンズの華麗な冒険』 1963年
監:トニー・リチャードソン  主演:アルバート・フィニー
★★★★☆

田舎貴族の放蕩息子が繰り広げる
ドタバタコメディとしか言い様が無い。
ただ、これが面白い。
大爆笑や何か唸らせるような仕掛けがあるわけではないが
とにかく最初から最後までノンストップで
一定の規模の笑いを保証する職人映画。
これだけやって、全く空回りにならないのは素晴らしいと思う。
一切のブレがなくて、テンポも良くて、登場人物全てに面白みがあって。
どれだけ丁寧に作ってあるのだと驚かされる。

主人公の駄目人間な愛らしさが全てだろうか。
まぁ、出会った先からヤリまくりの旅が面白いのは不変ですな。




『トム・ホーン』 1979年
監:ウィリアム・ウィヤード   主演:スティーヴ・マックィーン 
★★☆☆☆

かつて、西部で伝説とまで言われた名声を手にした主人公が
時代の流れの中、自身の居場所を見失っていくお話。

これは、余程の西部劇好きでなければ評価の仕様が無い作りかな。
終わりゆく無法の西部時代と、他の生き方を知らない男を重ねた郷愁に
過度にしんみりできる下地が必要。
本当にそれだけでストーリーは存在しない。
程度の低い法制度と裁判の不備を表面だけ見せられても困る。
そこには中身などない。

もしくは、役者であるスティーブ・マックィーン自身と
主人公を重ね併せるしかないが
どちらにしろ、単体で成立はしていない映画。





『友よ静かに死ね』 1976年
監:ジャック・ドレー  主演:アラン・ドロン
★★★☆☆

終戦直後のフランスを舞台に
華麗な銀行強盗を繰り返す一味の物語。

主人公のキャラクターだろうね。
盗む事しか頭にない上に、衝動を抑えられずキレやすい。
とっても駄目な男なんだが
あの爽やかで、悪戯っ子かのような笑顔が反則。
思わず全てを許せてしまう。
刹那的な人生観が成し得る余裕なのだろうか。
彼の魅力で最後まで見られる一品。

そもそも、終戦の混乱期を利用して
今だけ、稼ぎまくろうという発想がそもそも刹那的すぎる。
そこに集った面子には独特の魅力がある。
それほど個性やエピソードが出ているわけではないが
強盗や外見の割にみなさんとっても紳士的。
仲間や家族の絆が実は凄い豊かで
ある意味で人間的なのかもしれないね。

円熟のアラン・ドロンだけが可能にする
独特のキャラクター性がお見事な映画。





『T.R.Y.』 2003年
監:大森一樹  主演:織田裕二
★★★☆☆

20世紀初頭の上海で、怪しげな仕事で生計を経てる
詐欺師の主人公が、現地の民衆の力に共感し
日本の陸軍を相手に武器弾薬を奪う一手を仕掛けるお話。

エンターテイメントしてますね。
アウトローで心を閉ざした主人公が
特に思想という事ではなく
人々が底に持つ目に見えない力に圧倒されていく様は見事。

東京と上海の二都市を股にかける
騙し騙されのスリリングな展開もあり
大作感溢れる大規模な映像もありで退屈させない。

結集する韓国人の詐欺仲間のキャラクターや
中国人たちが混ざる雑多感が心地良く
このアジアな国際感溢れる世界は
もっと映画の舞台になって良いと思う。
独特の魅力があるのだが日本では難しいか。





『ドライビング Miss デイジー』 1989年
監:ブルース・ベレスフォード  主演:ジェシカ・タンディ、モーガン・フリーマン
★★★★★

気難しいユダヤ人のお婆さんと
運転手として雇われた黒人のお爺さんのお話。

いつまでも、その人生を追いかけてたいのは
ヒューマンドラマとして傑作の証だよね。
お互いにアメリカという社会において
何か一つ違う物を感じてる同士
決して馴れ合うわけでもなく、傷を舐めあうわけでもなく
長い年月をかけて少しづつ育まれる友情。

こんな綺麗に映画ってのは作れるものかね。
メインで登場するのは、本当にその二人だけ。
重すぎる話は不要、軽すぎる話も不要。
100分弱の尺でさじ加減が絶妙すぎる職人芸。

しかし、車の中って良いよね。
あの空間での会話は凄い好きです。
何気ない会話で別に何も残らないはずなのに
独特の素晴らしい密度がある。





『ドラえもん のび太の恐竜』 1980年
監:福富博   主演:大山のぶ代 
1★★★☆☆

いつものスネ夫の嫌味自慢に
「恐竜の化石」を丸ごと見つけると豪語したのび太だったが
発見したのは、卵の化石だった……というお話

本来なら犬や猫、せいぜい狐や熊でやるような話を
恐竜でやってしまうのが夢があってよいよね。
子供の妄想をきっちりと映像で見せてくれるのが
これ以降も含め、映画ドラえもんの良いところ。

ただ、のび太以外のキャラクターに
あまり見せ場や、役割が与えられてないのが
ちょっと物足りない感じはあるかな。
本当にのび太一人の成長話というのも贅沢ではあるか。

子供が友達とだけで旅行する楽しさは
1億年前の世界の冒険物として十分に生きているけど
ちょっと淡白で短すぎるよね。
気苦労ばかり多く保護者すぎるドラえもんの立位置も
劇場版のお約束だろうか。
これはストーリー上で仕方が無いのかな。




『ドラゴン危機一発』 1971年
監:ロー・ウェイ  主演:ブルース・リー
★★★☆☆

親戚のつてで、製氷工場に職を見つけた主人公が
悪質な麻薬取引に巻き込まれていくお話。

映像から音楽からシナリオから
全てが荒々しい一作。
しかし、その全てをブルース・リーの強烈なキャラクター性が押さえ込む
スター映画のお手本のような一品。

愛嬌抜群でちょっとした仕種が
実に子供っぽく可愛らしい主人公ながら
確実にこの男はキレたらヤバイという空気が
序盤から溢れ出ている点が素晴らしい。
間違いなく達人のはずの主人公が
いつ爆発するかいつ爆発するかと楽しみでならない。

そして、解放された主人公の姿は言うまでもなく最高。
一体、このキャラクターはどういう発想から生まれるんだろう。
所作から表情の一つ一つまで
有り得ないオリジナリティとインパクト。
そして、極めつけが怪鳥音と呼ばれる叫び声。
(初期版は入っていないそうな)
これ程に映画映えする存在感は見た事がない。
何よりもスターなんだよな。

そして、華麗なまでに残酷よね。
全編、ナイフ(小刀?)術の描写がステキなのだ。
日本は武道と言えば素手格闘技を考えがちだけど
武術は何より武器術なのですよ。

一点の魅力で全てを押し切ってくれる素敵な一品。




『ドラゴン怒りの鉄拳』 1972年
監:ロー・ウェイ 主演:ブルース・リー
★★★☆☆

ブルー・スリー演じる主人公が
愛する師匠の仇を討つために
日本人道場と対立するお話。

一応、暴力の連鎖を描いた映画なのかな。
登場する日本人連中は
度を超えたクズばかりではあるのだが
いくら仇とは言え安易に人を殺したり
くだらない挑発に乗っていけば
事態は、どんどん収拾が付かなくなっていく。
このあたりの虚しさはカンフー映画が描く永遠のテーマだね。

ただ、そうは言っても
今作の魅力は何を置いてもアクションシーンに尽きる。
ブルース・リーと聞いて想像できる
あらゆる個性的なパフォーマンスは
全てがこの作品で完成している。
代表的な怪鳥声はもちろん
何気ないステップ一つ、肉体の震え方一つを取っても
一度見たら絶対に忘れられないインパクト。
おそらく後の世に登場する
どんなパロディ作品も、物真似タレントも
本人より高いテンションを見せる事は不可能だろう。

劇中の話をするならば
敵方はよくあんな恐ろしい男を相手に
喧嘩を売れるもんだと思うよね。
あの目の動き一つで、普通なら縮み上がってしまうもんだ。

ブルース・リーのキレ芸を思う存分堪能できる痛快作品。




『ドラゴンへの道』 1972年
監:ブルース・リー  主演:ブルース・リー
★★★☆☆

ローマのチャイニーズレストランを舞台に
用心棒として呼ばれた主人公が
店を狙うマフィア相手に大立ち回りを演じるお話。

美しい。
最早、一級のミュージカル映画と何ら変わらないよね。
ストーリーの合間ごとに、彼のキレにキレた演舞が楽しめる。
一芸で楽しませる映画の何が悪い。

拳法と言うよりも、武術なんだよな。
『ドラゴン危機一発』から既にそうなのだが
彼の演舞の半分は武器による物だったりします。
まさに総合芸術。
今回はお手製の木製投げ矢、棒術
そして、何よりヌンチャクだろうね。
人と人が殴り合うだけの映像のはずが
実に多彩なアプローチで全く飽きる事がない。

今作では、彼の肉体そのものを前面に押し出した映像が多いのだが
これがまた美しい。
筋肉の付き方が独特で太くもなければ細くもない。
彼でしか見られない絶妙な体型を作り出しいて
まさに圧倒的な個性こそがスターの必須条件だという事が
画面から一発で理解できる。

なお、この作品の主人公は優しいのです。
基本、敵役を痛めつけるだけで済ませてくれる。
そのあたりも、純粋なカンフー映画なのかな。
主人公のキャラクター性か、敵役のせいか
他と比べれば、やや「怖さ」が足りないかも。





『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』 2019年
監:山崎貴  主演:佐藤健
★★★☆☆

1992年に大ヒットしたスーパーファミコン用RPG
『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』をCG映画化した作品。

まず、CG屋さんとしての山崎貴の信頼感が抜群だね。
ドラクエ世界観の立体化の魅力はもちろん
邦画でこれだけのCGアニメが見られる幸せはある。

ただ、それ以外では空回りの方が強い一本かな。
元々『ドラクエV』が持つシナリオの魅力自体が
主人公の人生へ想いたっぷりに入れ込む事で成立する
大河ドラマ風の仕掛けだろうしね。
ゲーム本編における面倒くさいレベルアップも
辛いダンジョンも、苦労したボスキャラも全て込みで
その数十時間の詰み重ねがあればこそ活きる
名展開や名台詞の数々であると考えれば
ダイジェスト風味の映画で再現するのは無理がある。

結果、100分弱の映画の中で纏めるためか
主人公も含めた登場人物の存在感が
あまりに軽く、あまりにお手軽で、あまりにご都合主義で
しかもメタ的な表現が多数見られて
道中で志の低さが見え隠れしてしまう。

それを踏まえて、この作品の最大の肝は
「そんなんで構わない!」と開き直る観客に逆らう部分だろう。
そんな企画に一オチ入れたくなる心境は共感できる。

最高のBGMと無味無臭のCG集の垂れ流しで満足して
ただ子供の頃の想い出をなぞるだけの現実逃避を映画に求めるのは
幼稚にすぎるし健全ではないと思うのは当然な話。
しかし、それを皮肉として描くだけはでなく
皆の思い出自体を否定するテーマになってないあたりは
中々に良心的ではなかろうか。

昔から使い古されたネタではあるのだが
これはもう、長年に渡ってあらゆる「無茶なCG映画化」を担ってきた
山崎貴監督ならではのテーマ性だろうね。
『SPACE BATTLESHIP ヤマト』の山崎貴であり
『STAND BY ME ドラえもん』の山崎貴なわけだよ。
延々とヒットが続くノスタルジー商売の企画に
良い大人が何を許しているのかという怒りにも見える。
望まれた企画や製作の意図を超えて
作家性が滲み出てコレじゃない方向に進む作品自体は
大好きなので好意的。

原作ファンに怒られてこその映画か、忠実に映像化するのが映画かというのは
100年前から争われてきた賛否の歴史だろう。

とは言っても、肝心の見せ方や物言いが
あまりに唐突で野暮なんだよね。
山崎監督は今作で脚本も担当をしているが
やはり、映像しか作れない人なのかとも思ってしまうね。
大人に向けた映画として作りたいのであれば
それこそ、もう少し練り込んだ大人の表現が必要なのではなかろうか。

なお、フローラが魅力的に映っている点は良し。
さすがにメインルートは無理だろうという中で
最高の妥協ポイントではなかろうか。
…なんて話しをしたがる時点で、俺も負けだよ負け。





『ドラゴンボール 神龍の伝説』 1986年
監:西尾大介  主演:野沢雅子
★★★☆☆

7つ集めればどんな願いも適うと言われる
伝説のドラゴンボールを探す冒険アニメ。

原作の第一話をベースに物語をスタートさせ
オリジナル展開でエピソードを再構築した映画。

2巻までの原作エピソードが豊富に入っているのだから
面白いに決まっているね。
圧倒的な展開のゆるさと次から次へと登場する
馬鹿馬鹿しいキャラクター。
そして、エピソード全般から溢れ出るエロ要素と
やりすぎな変態性。
初期のドラゴンボールならではの完璧な娯楽作品だね。

多少強引な構成ながらも上手く纏まった一作。




『ドラゴンボール 最強への道』 1996年
監:山内重保  主演:野沢雅子
★★☆☆☆

原作終了時期にあらためてリメイクされた
初期ドラゴンボールを描く映画。

原作のエピソードを切り貼りして
ifの物語を再構築する手法は劇場版一作目と同じだが
こちらは、やや乱暴な仕上がりになっている。

取り上げられるキャラクターやお話が
あまりに唐突、且つぶつ切りの連続で
何を見て良いのか戸惑ってしまう。
お馬鹿な展開で笑わせたいのか
お涙な展開で感動させたいのか
バトルシーンで興奮させたいのか。
どの方向で期待しても半端物の100分長編。

初期作品への回帰でありながら
原作ノリが感じられない点が致命傷かな。




『ドラゴンボールZ 神と神』 2013年
監:細田雅弘  主演:野沢雅子
★★★☆☆

お馴染みの面子の前に
宇宙最強の破壊神が現れるお話。

原作の後日譚として舞台が作られているが
あの時点でドラゴンボール世界は完成されきっており
ほぼ弄る箇所などは残っていないだろう。

今作もストーリーなり、キャラクターなりで
何か新しい仕掛けを作る気はなく
あくまで、ほのぼのとした空気の中で
ちょっとしたお祭りを楽しむ
ファンサービス映画になっている。

かつての人気キャラクター達が
久々に劇中で喋ってくれるだけでも
世代としては十分に楽しめるのだが
現役の男児を熱中させる野心は全く見当たらない一品で
あのドラゴンボールを
こうも懐古作品と割り切って作られるのも
少々寂しい物があるね。

懐かしのバトル演出を舞台に
20年分の技術進歩を楽しむには良いかも。





『DRAGONBALL EVOLUTION』 2009年
監:ジェームズ・ウォン  主演:ジャスティン・チャットウィン
☆☆☆☆

淡々と現れ、淡々と修行し、淡々と戦うだけのお話。
展開だけを語るなら、確かにドラゴンボールはそうなのだが
超人的なバトルという面でしか
そこからの魅力を捉えてくれなかった映画。

どこか憎めない豊かなキャラクター達の言動こそが
この原作の最も楽しい部分ではないだろうか。
もちろん、設定は一から自由に作って良いのだが
映画から生まれたキャラクターは退屈の一言。
どこか漫画が持つ雰囲気と繋がっているような
キャラクターの面白みが出せていないのが残念。

せめてこういう作りであるならば
ブルマや亀仙人を描く必要のない
サイヤ人編からのスタートにすべきだったと思う。




『ドラゴンロード』 1982年
監:ジャッキー・チェン  主演:ジャッキー・チェン
★★☆☆☆

清朝が滅んだ頃の中国田舎村における
良家の馬鹿息子たちの青春ストーリー。

メインは地元の名士を父に持つ親友二人が繰り広げる
ナンセンスコメディなんだろね。
ただし、突き抜けはイマイチ。
その傍ら国宝の密輸出を企む強盗団が登場するのだが
どうも彼らとのバトルが邪魔にすぎる。
どっち付かずで終わったブレまくりな一品かな。
全体的に見所の薄い仕上がりだろうか。

アクションシーンに限れば
既存のコミカルカンフーという枠からさらに一歩進んで
ありとあらゆるセットや小道具を駆使する
後の「スタントアクション」とも呼べる
ジャッキー映画の片鱗が既に伺える作品となってるね。

特にラストに展開されるラグビーもどきの競技。
何十人ものカンフーアクション俳優を投入しての
この出鱈目っぷりは一見の価値あり。
泥臭い田舎祭り全開の中、びっくり人間ショー。
べらぼうに長いシーンだけどね。
途中、サッカーのような競技も入るのだが
こちらもまた異常な尺という構成。
そのあたりの無茶苦茶な荒々しさも含めて楽しむ作品かな。




『トラ・トラ・トラ!』 1970年
監:リチャード・フライシャー、舛田利雄、深作欣二  主演:山村聰 他
★★★★☆

1941年の真珠湾攻撃に至るまでの
日米間における紆余曲折を描くお話。

余計なドラマパートが全く存在しないという
実直な作りにノックアウト。
アメリカ内部における構造の複雑さ故のグダグダなやりとり
そして、日本側における緊迫感の薄さ。
その全てが密度たっぷりに描かれている前半戦。
世の中、上手くは回らないものだと
思わず開戦に至るプロセスに溜息が出る両国の姿が面白い。

そして、後半戦のスーパー映像。
これ程の航空機映像が他にあろうか。
飛行機周りの技術はもちろん
攻撃される真珠湾基地の撮影スケールの大きさには
ただただ感嘆するばかり。
このシーンだけでも十分に一見の価値あり。
やはり、航空機は本物を飛ばして何ぼだね。

描写からもテーマからも安さが感じられない傑作。
これ程に素直に見られる戦争映画は無いだろう




『トラフィック』 2000年
監:スティーブン・ソダーバーグ  主演:マイケル・ダグラス
★★★★☆

現代アメリカを舞台に繰り広げられる
麻薬戦争のお話。

麻薬撲滅を掲げる対策本部のお偉方。
激動のメキシコで戦う現場の下っ端警察官。
そして、ドラッグにハマるアメリカの若者達。
三者三様の姿を同時進行で描ききるドキュメント調の傑作映画。

描かれる舞台が複雑に入れ替わる中
あくまでその根っ子は一つへと繋がっていく。
それぞれが遠い世界のようでありながらも
「麻薬」という存在に関わった方々は
皆、蚊帳の外ではいられないよようだね。
免罪符を求め出せば誰も責める事はできくなるし
厳密に追求すれば誰もが責任を取らねばならない。
社会問題とはそういう事だろう。
あまりの根の深さに恐れ入る。

視覚的にどの舞台かがすぐ理解できるよう
それぞれで質感が変わる映像面の工夫など
細部に至るまで丁寧に仕上げきった職人作。




『ドランクモンキー 酔拳』 1978年
監:ユエン・ウーピン  主演:ジャッキー・チェン
★★★★☆

ドラ息子の主人公が親父から老師への弟子入りを強要され
生き方と拳法を学ぶお話。

完璧なジャッキー・チェン映画。
何よりも、構成のスマートさだろね。
泥臭い復讐物の香りも、過度にふざけた悪乗りの香りも
全く感じさせないスッキリとした爽やかコミカルカンフー作品。
事実上の前作にあたる『蛇拳』よりも
さらに一歩、既存の作りからは脱却した形になろうか。
それでいて老師と主人公の師弟愛など
良い部分は綺麗に残す選別の様は実に見事。
完成度高し。

そして、何よりも最大の魅力は
タイトルにあるとおりの酔拳の所作。
他のカンフー者とは一線を画すこの特徴的な運動美の数々は
それだけで一見の価値あり。
ただ見ているだけで面白いというのは
この手のジャンルにとって最上の証拠だろう。

愛嬌ある老師や、馬鹿揃いの雑魚ども
そして一人だけ大真面目で可哀想にすら思える
男臭いライバル役の殺し屋。
特徴的な面々を眺めるだけでも
十分に楽しめる傑作カンフー映画。




『トランスフォーマー』 2007年
監:マイケル・ベイ  主演:シャイア・ラブーフ
★★★★☆

太古の昔に地球へと落下したキューブと呼ばれるパワーの源を巡り
地球上に潜むエイリアン達が争うお話。

大よそ、アメリカンと呼ばれる要素が
全て詰まったエンターテイメント傑作。
戦闘機と戦車とスーパーカーが入り乱れる
市街地戦とか一体何なんだろうか。
あるいは、カーチェイス映画の範疇だね。
最初から最後まで、これ程にアメ車が活躍する作品があろうか。
主人公は定番中の定番、冴えない高校生だし、
家族との掛け合いも、我々が漠然とイメージする
アメリカの中産階級のそのまんま。
どれもが、程よいバランスで贅沢に詰め込まれており
軽い気分でスカっとできる良作アクション。

見せ所、CGを駆使したトランスフォームの様は圧巻。
造形も見事で車と人型の変形という古いアイディアに
一切、安っぽさを感じさせない現代風アレンジ。
とにかく大規模な撮影シーンと合わせて、
ここまで細かく作りこめる物かと溜息物の映像が楽しめる。

強いて挙げるならば
あまりにも全包囲で贅沢な配置をしすぎたためか
個々に割かれるエピソードは無く印象は薄めだよね。
エイリアンの面々も、主人公と彼女との物語も
軍隊内のカッコイイ方々も、もちろん敵役もね。
敢えてサラっと、記号で楽しむのが21世紀のハリウッド流か。
140分という尺を全くストレスフリーで楽しめるバランスは
ちょいと凄いよね。




『トランスフォーマー・リベンジ』 2009年
監:マイケル・ベイ  主演:シャイア・ラブーフ
★★★☆☆

正統続編。
全面戦争の様を描くお話。

相変わらずCG技術の見せ方は素晴らしいが
多少、楽しめる要素が減ってしまった作品だろうか。
エイリアン達の存在が、ほぼ公認となった状況で
彼らが日常生活に潜む面白さは影をひそめてしまう。
大学へと進学した主人公の一般人としての描き方も
取って付けたようなシーンのみで雑の一言。
その上で主人公が謎を解明していく様も
唐突で薄味な展開の繋ぎ合わせで進行して
派手な映像の割にはどうしても退屈。

アメ車映画としてのお馬鹿な側面も弱まり
ただ、ロボット達が混ざった映像で
ドンパチやるだけの作品になってしまったかな。
日常パートとの絡み合いという可笑しさが薄れ
その代わりが見つからない一品。

但し、クライマックスシーンの映像だけはガチ。
エジプト、砂漠、ピラミッドの古風な造形と
究極に機械的な未来デザインロボットとが
一つの画面で縦横矛盾に混ざり合う姿は
何とも言えない不思議な魅力。

現代式のコメディ作品から、
より洗練された映像一本へとシフトした続編かな。




『トランスフォーマー/ ダークサイド・ムーン』 2011年
監:マイケル・ベイ  主演:シャイア・ラブーフ
★★★☆☆

三部作完結編。

高校生→大学生と続いた主人公の充実生活は
今作では、卒業後の新入社員にまで至るのだから
実に感慨深い。
しかし前作に引き続きあくまでそれは別パート。
ファッション、ポーズだよね。
日常生活の中に地球外生命体が絡み合う話ではなく
一般人パートを見せておいてから
物語は断絶した別本筋へ一直線。

映像の完成度はさすがの一言だが
三作も見てきた身ではすぐにお腹いっぱいに。
特に新機軸が無いのだから。
リアル大都会が徹底的に崩壊するカタルシス一本で引っ張るには
少々尺が長すぎるのではなかろうか。

「歴史の裏にオートボット有り」の面白さを
せめて、もう少し本筋に絡めてくれればと思うのが残念。
リベンジ好きならば、安心して楽しめるドンパチ映画だが
それだけの完結編かな。





『トランスポーター』 2002年
監:ルイ・レテリエ、コリー・ユン  主演:ジェイソン・ステイサム
★★★★☆

冷徹な裏の運び屋として人生を送ってきた男が
積荷として預かった少女を原因に
トラブルに巻き込まれるお話。

突っ込み所満載の
荒唐無稽なお馬鹿アクション映画ながら
ハリウッド作品とは根本的に何かが違う
妙な洗練度のある一品。
まず、圧倒的に絵作りが美しく
スタイリッシュに格好を付ける場面すら
何処か本気ではやっていない感覚に陥ってしまう。
直球一本の展開とは裏腹に
何処か小洒落た雰囲気を保ち続けているため
まるで二本の映画が同時に存在してるような
不思議な感覚に襲われる。

狙われた安さを芸術的に演出しきった僅か90分の一級品。
こんな題材ですら、やはりフランス映画は一味違うなと
妙に納得できてしまう。





『鳥』 1963年
監:アルフレッド・ヒッチコック  主演:ティッピ・ヘドレン
★★★★☆

アメリカの田舎町が凶暴化した鳥に襲われるお話。

目の付け所が素晴らしい。
最近では、野良犬はもちろん、野良猫ですら
目にする機会が減ってきているが
"野良鳥"だけは依然として都会に君臨している。
公開から何十年を経てもなお不変の身近さ…
それが鳥なんだね。
現実離れした異形の者からは決して出ない
手が届く圧倒的な不気味さが素敵。

理由は不明、目的も不明。
直接に訴えるテーマも無ければ
練り込まれたストーリーも無し。
全てを漠然としたまま
ただただ、映像ギミックと、演出力だけで勝負してくる
力強いパニックサスペンスホラー。
それがむしろ怖いんだもの。
映像監督、ヒッチコックの本領だろうか。

邦画、洋画問わず、
1960年代のアイディア勝負の特撮作品は良いね。
そんな感想が自ずから漏れる一本。




『ドリームガールズ』 2006年
監:ビル・コンドン  主演:ビヨンセ・ノウルズ、ジェニファー・ハドソン、アニカ・ノニ・ローズ
★★★★☆

1960年代の音楽業界を駆け抜けた伝説の三人娘グループ。
彼女達の軌跡を描くお話。

夢を適えた者もいれば、夢破れた者もいる。
当たり前だがこれが現実だろう。
圧倒的な歌唱力を持ちながら
グループ方針との軋轢でスターへの階段を踏み外す者。
国民的スターにまで到達しながらも
その人生において何かを失っていく者。
中にはダーティーに過ぎる敏腕音楽プロデューサーも居れば
あるいは、理想と現実のギャップに苦しむかつてのスターも居るだろう。

そんな誰もが妄想する
一筋縄ではいかないショウビズ界の魔力を
余すところなく描いてくれるストレートな一作。
圧倒的な音楽シーンが彩る千差万別の人生観、愛情の数々。

職人芸に裏打ちされた
ケチの付けようもない題材における傑作王道ミュージカル。




『トレジャー・プラネット』 2002年
監:ロン・クレメンツ  主演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット
★★★★☆

心に傷を負っている落ちこぼれ少年と
幻の宝を狙って暗躍する極悪海賊とが
一つの船の中で友情を深めていくディズニー映画。

少年賛歌。
父親が居ない少年と、思わず親父ごっこをやってしまう海賊。
海賊に捕まり奴隷のような立場であるはずの少年に
ついつい情が移ってしまう船長がステキ。
結局は自身も少年だった時代がある以上は
男の子の真っ直ぐな行動はオジサンには響くのよね。
この王道中の王道のストーリーが面白くないわけがない。

それを圧倒的迫力のアニメーションで描き切るのだから
全く隙のない良作に決まってますね。
時代がさらに進むと、完全CG作品という事になってしまうが
このあたりのディズニーアニメーションは
CGとの混ぜ合わせ、何でもありの技術の集大成感がステキ。




『トレマーズ』 1989年
監:ロン・アンダーウッド  主演:ケヴィン・ベーコン
★★★☆☆

とある田舎村の住人達が
地中を這う謎の怪物に襲われるお話。

この映画は凄いと思う。
今で言う「木曜洋画劇場」的なB級パニックの全てを備えている。
絶妙に外界と接触を絶たれた田舎町
半端に男前な主人公、実は頼りになる変人
クソ生意気な少年、なるべしくてなる犠牲役……
B級の全要素が確認できるのだが
それらの全ての完成度は、他のどの同類よりもA級。
これをB級と言えるのだろうか。




『トロール・ハンター』 2010年
監:アンドレ・ウーヴレダル  主演:オットー・イェスパーセン
★★★☆☆

大学生の取材チームが、ノルウェーの田舎を舞台に
「トロール」の謎に迫るドキュメンタリー映画。

実在しない作り物題材のドラマを
あたかも、ノンフィクションのドキュメント風に描く
所謂、モックアップドキュメンタリー。

怪物「トロール」の設定が丁寧で良いね。
ちゃんと生物としてのルールが作られ
政府公認のトロールハンターを介して語られる世界は
十分に現実世界との整合性が取れている。
実際に、居ても不思議ではないが
政府が秘匿したくなるギリギリの怪物性という
絶妙なライン引きがお見事。

モキュメンタリー仕立てなだけに
主人公一行にドラマ性は薄いのだが
未知の生物に対する緊張感の連続だけで
十分に時間を忘れて楽しめる良作。




『トロイ』 2004年
監:ウォルフガング・ペーターゼン  主演:ブラッド・ピット
★★☆☆☆

一応、トロイア戦争をベースにした戦記物だろか。
豪華な映像で楽しむ映画だね。
CG全盛期を迎えて、戦記物は新しいベクトルを発見したか。
さすがに大軍勢にかけては見事な映像。
大掛かりな美術のお仕事も贅沢。

ただ、それだけの映画かな。
人物が面白く描けない戦記物は見ていて眠くなる。
どちらの陣営の人物も半端もんばかりで
画面に映る時間ばかりが長く人間が全く見えてこない。
特に主人公であるアキレスの像が一番見えてこない不思議。
戦争の英雄を描きたいのか、人間の愛を描きたいのか
史劇としてのリアルな演出を描きたいのか。
どれもこれも唐突で一貫性なく戸惑いっぱなし。
1vs1シーンが何度も何度もダラダラと。
見せ場として期待していた「木馬」も
あまりに突然で仕方なく挿入したかのような扱い。

戦記物はまともな脚本も抜きに派手な映像を長々と描くだけでは駄目だと
ハリウッドは、1950〜60年代で気付いたはずなのだが
どうしたのだろうか。



『泥棒成金』 1955年
監:アルフレッド・ヒッチコック  主演:ケイリー・グラント
★★★☆☆

戦前、大泥棒として名を馳せた主人公が
引退後に自身の手口を真似る犯人の登場で窮地に追い込まれるお話。

ヒッチコック監督作品だが、サスペンスというよりは
お気楽観光ムービーに近いかな。
遠景ショットに次ぐ、遠景ショット。
とにかくフランスの景色が素晴らしく
冒頭、主人公の隠れ家からしてその建築、内装はお洒落にも程がある。
拘り抜かれたカットの数々にまず眼で楽しめる一本だろう。

ストーリーはシンプルに纏まっていて
警察やかつての仲間に対し、自身への疑いを晴らすため
真犯人を自ら探していくだけの代物。
その過程で勝気なヒロインとのラブロマンスあり
協力者との友情に近い関係性あり
緊張感溢れるスペクタクル演出ありと
題材の範囲で詰め込める物は、全て入れたという豪華な映画。
とってもスピーディーで退屈の無い良作。

主演のケーリー・グラント、ヒロインのグレース・ケリー
共にイメージの範囲内で楽しめる安心作。





『どろろ』 2007年
監:塩田明彦  主演:妻夫木聡、柴咲コウ
★★☆☆☆

日本の室町末期を思わせる世界観を舞台に
幼き頃に、その体を四十八匹の妖怪に奪われたという百鬼丸と
こそ泥のどろろが繰り広げる妖怪退治物語。

残念ながら、安すぎはしないだろか。
このお話の主役は、あくまで妖怪であり
そこから浮き彫りになる人間の醜さなわけだが
扱われ方があまりに野暮ったくて白けてしまう。
妖怪の美術面からも、アクションシーンの整合性の無さからも
もちろん、表層だけを覆ったような薄い脚本からも
どろろ世界ならではの特色が見えてこない。
異世界ファンタジーだと言うなら
他では決して見られない異世界ならではの重さが欲しい。

綺麗に綺麗に、話も絵も作りたがる21世紀の風潮で
泥臭さが魅力のどろろを映画化という事自体が
どだい無理な話だったのかもしれないね。
途中、展開が忙しい割には最終決戦だけ無駄に尺をとって、
冗長な終盤になる駄目パターンのお約束も踏んでいるお粗末さ。

妻夫木聡、柴咲コウのW主演が素晴らしいだけに
色々と残念な一作かな。
特に百鬼丸は彼のお馬鹿な一面までが再現された熱演。





『翔んだカップル(オリジナル版)』 1980年(1983年)
監:相米慎二  主演:鶴見辰吾、薬師丸ひろ子
★★★☆☆

一人暮らしの男子高校生の家に
間借り人としてクラスメイトの女の子が現れ
一つ屋根の下で暮らすお話。

どう考えてもジョークにしか思えない
ふざけた設定で始まる物語だが
映画の内容も中々に飛んでるね。
全編にわたる唐突な展開、言葉の端々に宿る若者センス
ふらふらして何処にも辿り着かない関係性…
全てが現実離れしていて掴みどころがなく
この時代特有であったろう数々の文化が垣間見える。

生活臭の欠片もないファンタジー映画ながら
どうも、設定されている立場やストーリー程には
都合の良い空気が流れてこないんだ。
主人公とヒロインも恋仲にはなるのだけど
ココも素直な恋愛や青春映画とは到底思えない独自っぷり。

主人公は熱いには熱いスポーツマンだが
別段、大きな悩みや期待を抱えて生きてはいまい。
絶妙に荒々しいが、絶妙にナイーブで、マセながらも実に子供っぽく
1980年公開作品の妙と言えるような平和さが節々に見える。
70年代のテーマ性全開のアナーキーさとは全く違う不思議ちゃんなのさ。
途中までアホで退屈な映画と感じていたはずが
気付けば、全編を支配する淡さや甘さに彩られた
多感な若者の限りある煌めきに取り込まれている一品。

それにしても、薬師丸ひろ子の存在感は凄い。
彼女の素人めいた電波っぷり抜きには、決して成立しない企画だろうね。
そして、地味ながら鶴見辰吾も良い味が出ている。
彼を主役に映画が撮れるあたりにも当時の凄さがあるだろう。
あの憎たらしい面構えとリアルな男子高校生っぷりは見事で
より古い映画全盛の時代であれば
これだけの作品の主演はスター役者の特権だし
より後ならば、もっとスマートなイケメン俳優以外に
映画主役のポジションが無い時代が来るだろうさ。

なんかイイ。
これに尽きる。




『トンマッコルへようこそ』 2005年
監:パク・クァンヒョン  主演:チョン・ジェヨン、シン・ハギュン
★★★★☆

朝鮮戦争の真っ只中。
南北の兵士がそれぞれに遭難し
戦時中である事すら知られていない
純朴な田舎村に迷い込むお話。

まさに、桃源郷さながら。
この村が綺麗であればある程
繰り広げられる関係が人情味に溢れていればいる程に
現実との剥離にただただ虚しくなってしまう
ギミック勝ちの一本。

敢えて甘い夢物語を開き直って描ききる事で
裏返しとして戦争の現実が痛い程に伝わってくる。
まさに韓国映画の本領発揮といえる作品だろう。

ファンタジーかと見紛う過剰な映像演出も
あまりに美しすぎる色使いも、
全ては意図された軍隊パートとの対比なんだよね。

悲惨さやリアリティを追求した作品が多い中で
やや変化球で攻めてきた戦争、中立地帯物の傑作。




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