『サイコ』 1960年
監:アルフレッド・ヒッチコック  主演:アンソニー・パーキンス
★★★★☆

あらすじ無用。
どんなお話かを語る時点で既にネタバレ。
最初から最後までどう転ぶかわからない展開こそが肝の作品。

完璧な映画とはこんな作品を指すのだろうね。
何よりも音楽の妙が素晴らしく
後の『ジョーズ』のように
曲が鳴ると怖くなる音楽先行の逆転効果が見事で
単調なリズムの繰り返しにもかかわらず
テーマ曲がかかれば何度繰り返されようが
何が起こるのかと心が躍ってしまう。
そして展開だよね。
いったい何度、裏切られた事か。
最後のオチこそ途中で気付くように作られてはいるが
そこまでの紆余曲折、フラグの折りっぷりが凄まじい。
画面に対して幾度ふざけるなと叫びそうになったか。

ヒッチコック監督は白黒映像の最高峰。
陰影のメリハリが怖い怖い。
追い詰められる人物の心理描写も秀逸ながら
加えてわざと恐怖心を芽生えさせる隙を作るかのような間。
その間、観客に勝手に想像させて勝手に怖がってもらうかのような
芸術的な演出術の数々は全く衰えていない。

ここまで無駄がないサスペンスは
他ではそうは見られないだろう。
ヒッチコック後期の作品だが完成度高し。






『最強のふたり』 2011年
監:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ   主演:フランソワ・クリュゼ、オマール・シー
★★★★☆

半身不随の大富豪と
介護で雇われた貧困層出身の黒人男性とが
繰り広げる友情の物語。

これもまたフランス映画なんだよね。
破天荒な若い黒人のパワーに、心を閉ざした富豪が飲み込まれていくという
題材的にはとってもハリウッドライクなお話なのだが
十分に欧州映画の雰囲気が残っているのが良い。
演出、展開、台詞回し全てにおいて
決してやりすぎない奥ゆかしさが堪能できる。

堅苦しいクラシック楽団を前に
アース・ウィンド・アンド・ファイアーで踊り狂う姿や
二人でマリファナを吸いまくる姿などなど
物語としては実に下品な姿を描きつつも
作品全体はとっても格調高く仕上がっているという
不思議な二重奏感覚が楽しめる。
映像、音楽、全てにおいて綺麗なんだ。

彼ら二人の生活がひとときの夢の世界として
きっちり終わりを迎えるのがまた良く、
これは、貧困差を提起する作品でもなければ
アメリカンドリームな成功物語でもないんだ。
あくまで人間が出会う素晴らしさのお話。

感動よりも清涼感が得られる一本かな。





『最高の人生の見つけ方』 2007年
監:ロブ・ライナー   主演:ジャック・ニコルソン、モーガン・フリーマン
★★☆☆☆

病棟で出会った重病患者の老人二人が
死ぬまでに「人生でやっておきたい事リスト」を製作し
順番に実現していくヒューマン映画。

とってもシンプルなお話。
テーマもストーリーの帰結も凄いシンプル。
本来、当たり前のように気付くべき事を
たまたま仲良くなった相手が大金持だったが故に
ド派手な方法で気付かせてくれるだけのお話だ。

老人二人の豪華世界旅行は爽快ではあるが
本来のテーマからすると、特に意味は無い行為なのがちょっとチグハグ。
夢のあるステキな展開だだけど、
そこを売りにして宣伝するのはちょっと不思議。

秘書役の存在感と、ジャック・ニコルソン、モーガン・フリーマンの
W好演だけでも相応に楽しめるが
それだけで終わってしまっている点は残念な一品。





『沈黙 SILENCE』 1971年
監:篠田正浩  主演:デイビッド・ランプソン
★★★★☆

キリシタン禁制政策下の九州で
一人の宣教師が教えを捨てるまでのお話。

隠れキリシタン村の末期的な世相の元で
淡々と主人公が追い詰められるだけの地味と言えば地味な展開ながら
いくつかの象徴的なシーンが忘れられない一本。
テーマは信仰の話から、人間としての心のお話から
果ては日本が抱える風土的なお話と盛りだくさん。

特に奉行所が行うキリシタン対策が印象深い。
有名なのは踏絵だが
ココで何度も繰り返される台詞である
「形だけのもの」との誘惑が逆に怖いね。
誰しもが一度は考える事だろうが
絵は所詮絵だし、その場の行動も所詮は表面的で消えゆくもので
本人が気にしなければ真の意味はないと言えるよね。
しかし、これは絵を踏む事自体に価値があるわけではなく
一度「踏まない」と自らに課した心が軸ではないか。
つまり、人間が一度決めた気持ちを折るという部分がキーになっている。

様々な拷問シーンも一緒で
人間の肉体的、生物的な痛覚を元にして
言葉だけ、行動だけ、形だけの物を引き出す事に
何の意味もないだろうと、誰しもが割り切ってしまえるならば
拷問など単なる徒労だろう。
しかし、その言葉や態度に価値があると両者が思ってしまうからこそ
行う側も執拗で残酷な行為に興じられるのではないか。

より良き天国への道筋を求める宗教は厳しくも映るが
人間は不老不死ではなく、どうせいつかは誰もが死ぬわけだ。
しかも、寿命は人それぞれに全く平等ではなく
運要素が強い中で、1秒でも長く生きた方が偉いというのもおかしな話。
ならば「どう生き抜いたか=どう死んだか」にこそ価値が生まれる発想にも
嘘はないように思えてしまう。
果たして「形だけ」を拒否する事に意味は有るか無いか。

また、劇中で多用される「この国は根付かない沼地」という表現も良いね。
これは現代社会でも同じ話な気がするね。
例えば、メジャーシーンとは異なる文化を愛する身で
今まで、散々に普及の努力をしてきた人たちが居て
十分な成果による歴史を積み上げてきたはずが
一度、何かの契機で風向きが変わってしまった時に
振り返れば真にこの国には根が張ってはいなかったと気付かされる…
どの業界にもありそうなテーマではないか。

前半の美しい風景の数々も実に日本的で
西欧の宣教師が主人公ではありながら
この映画はあくまで日本側の物語なのだろう。
百姓が信じる宗教は別にキリスト教でなくともよく
結局は、虐げられている人生への憩いを求めただけにも見える。

それにしても、素人の百姓が信仰を曲げずに死んでいってるのに
スペシャリストである宣教師が転ぶ展開は凄まじいね。
その時点で体制側の心を折る行為に加担しており
殺すことより「転ばせること」への価値に正当性が見えてしまう。
西洋人が日本で野生に戻る話か、日本が野生に戻らせる話か。

退屈な映画かと思って見ているうちに
気付けば過剰に入り込んでいる中々の一品。




『ザ・ウォーカー』 2010年
監:アルバート・ヒューズ  主演:デンゼル・ワシントン
★★★☆☆

近未来戦争で崩壊した荒野の世界を
ひたすらに西へ西へと歩き進むお話。

いわゆる世紀末物。
世界観は『マッドマックス2』の流れで
無限の荒廃した大地にオアシスとしての自治都市が点在する形。
当然の無法地帯の中、主人公の圧倒的な暴力が心地よい。
それでいて彼はその本質においては求道者。
この手の題材を絡めたお話は何故こうもオチが綺麗に繋がるのかと
どんな映画でも驚かされる。

何と言っても、世紀末物は美術のお仕事が全てでしょう。
乾いた砂の世界が緻密で美しく
やや泥臭ささが薄過ぎるとは感じるものの
2010年の技術で作ればこうもなるのかと思えば素直に感心。
本当に空虚で実の無い異世界が素敵です。

特に驚くような作品ではないが
適度な映像で適度なバイオレンスを
適度なストーリーできっちり2時間満足させてくれる一本。






『サウンド・オブ・ミュージック』 1965年
監:ロバート・ワイズ  主演:ジュリー・アンドリュース
★★★★★

厳格なオーストリア軍人の一家に
子供たちの家庭教師として派遣された主人公が
音楽の楽しさを通じて閉ざされた家庭事情を少しづつ開いていくお話。

綺麗です。
話も映像も、もちろん音楽も、全てが嫌味がなくスマートで
良くも悪くも何のクセもなく延々に美しい。
徹底した映画映像としての職人芸の数々に
ただ見るだけで十分に幸せな時間に浸れる映画。
そういう名作があっても良いだろう。

雄大なオーストリアの大地を舞台に、
「ドレミの歌」や「エーデルワイス」など、あの名曲の数々を
最大限に魅力を引き出す形で絶え間なく提供してくれる。
自身の子供時代への郷愁も少なからず引き出され
視聴後は思わず何か口ずさんしまう事間違いなし。
ジャンルの好みを超越して
不思議と「音楽」が好きになれる一品。

ジュリー・アンドリュースの歌唱はもちろん素晴らしいが
一人のスタープレイヤーが神がかった技を披露するスタイルからは
完全に脱却している新世代ミュージカル映画だね。
作風は違うが同監督の『ウエストサイド物語』に並ぶ傑作。






『ザ・エージェント』 1996年
監:キャメロン・クロウ  主演:トム・クルーズ
★★★☆☆

高額ギャラが渦巻くアメリカスポーツ界における
一人の交渉人「エージェント」の姿を追うお話。

とってもスマートなラブストーリー。
効率重視に過ぎる会社に不満をもって独立する主人公と
だた一人残ったクライアントである破天荒な黒人NFL選手。
そして、主人公に共感して新会社に移ったシングルマザーのヒロイン。
さぁ、好きに楽しんで下さいと言わんばかりの
王道な仕掛けの数々に終始ニヤニヤと顔が崩れる映画。
トム・クルーズのヤンチャさが十分に味わえて
黒人スター選手との嘘のない友情物語を堪能できて
近づいては離れるを繰り返し、少しづつ距離が縮む恋愛物語を楽しむ。
全くそつが無い完成されきったエンターテイメントで
不満など何所にもない一品。

しかし、一攫千金の世界だね。
3年で170万ドル契約を「舐めている」と一蹴する世界です。
2人だけの小規模会社にトップ選手1人のクライアントでも
一発、美味しい契約が取れれば成り立ってしまう浪漫。
主人公が会社を辞める際に本心をぶちまけた
「メモ」にも十分に納得があるわけだ。





『サタデー・ナイト・フィーバー』 1977年
監:ジョン・バダム   主演:ジョン・トラボルタ
★★★☆☆

ダンスに魅了された不良少年の青春話。

全編にイカした楽曲とダンスが散りばめられた
ご機嫌な作品の雰囲気を出しながらも
既存のミュージカル映画とは一線を画す作り良い。
一流演者のテクニックを目と耳で楽しむ作風ではなく
観客が自分達でも真似られるかもと考える程度の
身近で文化的な憧れのある見事な距離感になっているね。

ただし、ストーリー自体は焼き直し程度の定番物。
居心地の悪い家庭環境に囲まれ、堅実ながらも退屈な仕事に追われ
土曜の夜に女と遊びディスコで仲間と踊り狂う時だけが
本当の自分かのように思えてしまう退屈な人生。
狂乱に身を委ねる心と、そんな自分で良いのかと苦悩する若者のあり方が
時代の空気感を醸しつつ古典的に描かれている。
半ば群像劇の様相も感じられるかな。

ディスコカルチャーの面では70年代後半ならではの映画だが
基本は無軌道な若者の大人への階段を描くごく一般的な反骨青春作品。
今作がダンス映画としてのみ名を売っているるのは
ダンスシーンや楽曲のインパクトが強すぎるからだろうか。




『殺人狂時代』 1947年
監:チャールズ・チャップリン   主演:チャールズ・チャップリン
★★★★☆

大恐慌の時代、家族を養うために
仕事として日常的に殺人を繰り返す男のお話。

恐いね。
結婚詐欺、恋愛詐欺……
どちらにしろ女性を口説いて
現金を引き出した後に殺してしまう男なんだ。
これをチャップリンがややコメディタッチも見せつつ
淡々と行う演出が実に恐い。

騙される女達の姿も、滑稽な形で笑いにはなっているんだけど
自然と主人公への愛情が漏れ出てくるのが
とっても見ていて切ないわけですよ。
男の側には何の愛情も無いんだからね。

一級の雰囲気芸を持つサスペンス仕立ての作品でありつつ
騙される女性の人情が垣間見え、笑いのテンポも忘れない。
それでいて痛烈な社会皮肉をも内包するという
チャップリンスタイルが作り出す贅沢傑作。

彼が繰り返しビジネスと主張する殺人行為の目的はただ一つ。
自らと家族の生命を守るため、
あるいは他者から支配される屈辱的な立場に陥る事を防ぐため。
ただ、それだけなんだよ。
しかし「それだけ」と言いつつ
古今東西の歴史でそれ以上の理由で始まった戦争なんて無いんだよね。
全てはそのために始めてるわけでしょ。
ならば、人間にとって許されない行為とは何なのか。
そんなフットワーク抜群の1947年公開作品。



『殺人狂時代』 1967年
監:岡本喜八   主演:	仲代達矢
★★★☆☆

どこか掴みどころない不思議な主人公が
ある日、殺し屋に襲われ陰謀に巻き込まれるお話。

「ナンセンス」
この言葉に尽きるんじゃないかな。
どこまでジョークでどこまで本気かが
全くわからないふざけた映像と展開が
怒涛のハイテンポで続く映画だね。

無理にジャンルをつけるならば
スパイ系のアクション映画という事になるのだろうが
観客はただただ仲代達矢の何物にも動じないすっとぼけた空気に
延々耐え続けるしかない拷問のような一品。

それでいて後半の怒涛の畳みかけは実にカッコ良く
オチも上々で何やら後の特撮ヒーロー物みたいだね
『暗黒街の〜』でも感じられる岡本喜八監督の狂い気味のセンスを
仲代達矢ただ一人のために全て捧げたような作品。



『殺人の追憶』 2003年
監:ポン・ジュノ   主演:ソン・ガンホ、キム・サンギョン
★★★★☆

民主化デモで揺れる1980年代の韓国を舞台に
若い女性ばかりが狙われた強姦殺人事件を追う刑事達の物語。

実在の事件をベースにしている映画で
まず冒頭に「未解決で終わった」という断り書きが入る。
この未解決というネタバレとも言える筋書きを
見事にドラマに使い切る脚本の緻密さに舌を巻く一本。

強引な捜査を進める田舎刑事と
ソウルから派遣されたエリート刑事。
まさに、サスペンスの王道とも言える人物配置なのだが
この田舎刑事側の荒っぽさが尋常ではない。
容疑者を一方的に拘束してボッコボコに殴る蹴るはあたり前。
自白は強要するし、証拠まで捏造するしで
本当にやりたい放題。
これではマトモに犯人になんて辿りつく訳が無いと
誰もが苛立つ事だろう。

しかし、この作品にかけられた魔法は、
1980年代の韓国における田舎捜査であれば
そのくらいは、現実に有るんじゃないだろうかと
思わず納得させるだけの説得力に満ちている点。
あらゆる世界観描写が、徹底して貧乏で、徹底して汚くて
とにかく社会の全てが泥臭い後進国の様が見えて取れる。
日本人が見ても実感できるくらいなのだから
そのリアル寄りな演出は半端ではないだろう。
ここへの拘りは真摯かつ、丁寧の一言。

新たな犯行を防げたかもしれない状況においてさえ
警察内部では、デモへの対応で機動隊が忙しいと
協力要請を一蹴される始末。

ついつい、見栄を張りたがるノスタルジー作品において
ここまで堂々とした逃げの無い姿勢は見事だね。
時代の無情こそが、一貫したテーマだったのだと気付けば
この帰結は納得のいく物ではなかろうか。

ソン・ガンホの熱演も上々で
登場人物のアクの強さも魅力の一つの良作サスペンス。





『座頭市物語』 1962年
監:三隅研次   主演:勝新太郎
★★★★☆

めくら按摩の流れ者ヤクザ
座頭市の活躍を描く時代劇。

晩年しか知らない身からすれば
勝新太郎が、驚く程に精悍でかつ落ち着いている事に驚かされる。
ギラギラした勝新は良いね。
穏やかな座頭市のキャラクターの中に
鬼気迫る目開きへの執念みたいな物が所狭しと伝わってくる。

物語の構成も真摯に積上げられており
刀を「抜かない重み」と言う物もあるわけだよ。
やたらめったらに抜かないからこそ
いざ、抜いた時の爽快さが格別の物になる職人作品。
作りの丁寧さ、渋さ、情緒、人情…
全てが一級でじっくりと腰を据えて見られる第一作。

冒頭の賭場シーンのカッコ良さは異常で
あの主人公の置かれた立場やキャラクター性を
一発でアピールしきった仕掛でもう勝ったも同然の映画です。
その後に用意される豊富なめくらアイディアの数々にも脱帽。





『続・座頭市物語』 1962年
監:森一生   主演:勝新太郎
★★★☆☆

シリーズ二作目。
過去に纏わる因縁と渡世稼業の業とも言える
終わる事なき復讐の因果のお話。

一作目に反して今作は抜きますね。
やや、エンタメ寄りかな。
頻繁に派手な立ち回りを楽しめる反面
市自体の情緒による重さは薄めだろうか。
盲目故の仕掛けも前作程には働かず
冒頭のイカサマ賭場や、闇夜の提灯のように
これは凄いと思える説得力あるアイディアからは
残念ながら遠ざかってしまった。

ただし、ストーリーは独特。
大名家の傲慢で命を狙われたり
前作の一家から仇として命と狙われたり
自身の過去の因縁から命を狙われたり……
その全てが同時に進行して
かつ、どれもが明確な主筋にはならない。
終わり際もあっさり風味という不思議な構成なのだが
だからこそ、何よりも市の置かれる切ない立場が
綺麗に出てるのかな。
次から次へと巻き込まれる彼の生き様にしんみりしましょうか。
最後の恨み節は圧巻ですよ。




『新・座頭市物語』 1963年
監:田中徳三  主演:勝新太郎
★★★★☆

シリーズ三作目。
幼馴染の女性、剣の師匠など
市のルーツに纏わる故郷を舞台にしたお話。

めくら坊主としての切なさが溢れ出ている。
この純情なキャラクターが座頭市だよ。
謙虚で、馬鹿丁寧で、社会から蔑まれていながら
それでも、優しさに触れる喜びを知っている。
そしてやっと一線を越えた途端に襲い掛かる
「かたわ者」としての現実の立場…
完璧な構成だね。
暴力人生に行き着く説得力と言うか
不可抗力っぷりが肌で感じられる素敵な一品。

適度な人情を楽しみつつ
様々なクズ野郎に憤慨して
最後に座頭市の持つ業の深さに震えて悲しくなる。

なお、この三作めからカラー作品。
後世からの勝手な無茶振りとしては
もう数作はモノクロの風情を楽しみたかったシリーズだね。





『座頭市兇状旅』 1963年
監:田中徳三  主演:勝新太郎
★★★☆☆

シリーズ四作目。
例によって、渡世の復讐連鎖によって命を狙われる市と
宿場の気弱な若親分との物語。

この作品から座頭市個人が持つ毒は薄くなる。
「目開き」に対する怨念めいた反骨の気が薄くなり
より幼い人物を保護するかのような立場の物語へとシフトしていく。
今回は若親分と、惚れ合う娘さん。
家を背負った敵対勢力同士という悲劇の立場
それを取り巻く意固地な連中も含め
実にヤクザ展開な物語で構成されている。

一作目から登場するヒロインとの決別も含めて
今後の一つの新展開を予感させる
軽めの人情物語だろうか。

このシリーズは敵役がイマイチなんだよね。
初代の天知茂演じる平手造酒の完成度が高すぎるためか
大御所ゲストか冴えず、余程に強烈なキャラクターでない限り
ただ、役割として存在する悪役の域を出てくれない。
今作もラストの死に際の狂気はともかく
とりあえず剣の達人浪人という退屈な人物像なんですよ。

もちろん、短い尺の映画なので、
座頭市一人のキャラクターの完成度高さを見るだけで
十分に楽しめる良作。





『座頭市喧嘩旅』 1963年
監:安田公義  主演:勝新太郎
★★★☆☆

シリーズ五作目。
ヤクザ同士の抗争助っ人に担がれた市と
江戸への道中で困る可憐な少女との旅物語。

市っあんも、有名になったもんだね。
座頭市さえ味方に付けていれば
100%、出入りには勝てるだろうとでも言わんばかりの
厚遇っぷりにやや違和感を感じるかな。
しかし、それが現実なんだよね。
何十人も斬り殺せる無敵のヒーローとして
既に彼が記号化してる事が伺える作品。

そして、決して結ばれないヒロインとの関係性という点でも
ある意味で安心できるよね。
可憐な少女と裏街道を突き進む座頭市では
どんなに淡い恋心を抱いたとしても
彼はそれを口にする事すらできはしまい。
商売女こそ買うが、その心において彼程に純情な男はいない。
後の『男はつらいよ』かと思わせる程の
そのお約束っぷりを楽しめる分には良作だろうか。

例によって敵役が弱いかな。
ただ、性根が腐ってるだけの二つの一家と
小物臭全開の女性策謀家。
一本の映画としては少し物足りない。





『座頭市千両首』 1964年
監:池広一夫  主演:勝新太郎
★★★☆☆

シリーズ六作目。
過去、本意ではなく斬り殺してしまったという
ある男の故郷へ墓参りに立ち寄った市が
村々が集めた上納金の強盗事件に巻き込まれるお話。

ヤクザ人情物が少し入ってますな。
前々作でも、軽い顔出しがあった国定忠治が
赤城山にて堂々と登場して
子分と市を相手に熱弁を振るう一作。

それが、どんなに汚く、醜く映ろうとも
決して弱い者には当たらないとう
市の心根が綺麗に味わえるのは素敵だね。
この場合、市に不当な冤罪と逆恨みを繰り返すだけの
腐った村々の衆という事になるのだが
堅気とそれ以外との境界は海よりも深く
節度は曲げないのが市流なわけですよ。

しかし、今回もお話はツマラナイ。
特に後世のテンプレTV時代劇かと思わせるような
どうしょうもないお代官様と、どうしょうもない農民の三文芝居を
座頭市の映画で見せられるとは興醒めにも程がある。

城健三朗こと若山富三郎センセイが、
ライバル剣客として登場はしますが
存在感とアクションシーン、殺陣の素晴らしさを別にすれば
やはりキャラクターは没個性な悪役の一人。

本当にこれは、市一人を見守る作品になっているなと
あらためて実感する一品だろうか。
隙は薄いが面白みも薄い佳作かな。





『座頭市あばれ凧』 1964年
監:池広一夫   主演:勝新太郎
★★★☆☆

シリーズ七作目。
川の渡し権を巡る二つの一家の抗争に
偶然立ち寄った市が巻き込まれるお話。

これはシンプルな一本だね。
お話は本当にそれ一つで、
良い親分と、悪い親分が居りまして
最初に良い側に草鞋を脱いだ市が、
最終的に悪い側をぶった斬るだけ。

しかし、それが綺麗なんだ。
シンプル故に極限まで無駄が無い。
周囲に辛くあたられた際に
何よりも先に「めくら」である事に原因を求めてしまう市の
ちょっとした悲哀も感じられて
シリーズ本来の哀愁もある一本。

最後は夜の闇における陰影を上手く使った
とっても美しい大立ち回りも拝め、
めくらである事を最大限に利用した舞台において
迫り来る市っあんの華麗なる恐怖をご堪能下さい。





『座頭市血笑旅』 1964年
監:三隅研次   主演:勝新太郎
★★★☆☆

シリーズ八作目。
母親と死に別れた赤ん坊を連れ歩く事となる
市の擬似親子道中のお話。

気付くと彼の人生観は諦めが入っているね。
何作か前から、既にそうではあるのだが
初代にあったような「目開き」への怨念めいた物は消えている。
めくらヤクザに赤ん坊は育てられないという説教を
子供の幸せのためにと、素直に受け入れる彼の姿からは
かつての社会に対する足掻きは感じられない。

しかし、母親になりたがったスリ女には
きっちり目を覚ませと言いながらも
和尚に怒られるまで自身ではそれが可能だと思っていたあたりが
彼の純真さの面白さだろうか。
これこそが市のキャラクター性だろう。

全体としては、赤ん坊に癒される市と女スリという一本の描写を
延々と垂れ流すだけの作品なのでちょっと冗長かな。
ただ、初代以来の監督なる三隅研次による絵作りは
何所を切り取っても端整で美しく
旅物としても最後の立ち回りを見ても
完成度は高い一本。





『座頭市関所破り』 1964年
監:安田公義   主演:勝新太郎
★★★☆☆

シリーズ九作目。
父親を探す女とヤクザな兄に頼られる女。
ふとした縁から彼女たちの抱えるいざこざに巻き込まれるお話。

これは困る。
ここまでお話が無くてよいものだろうか。
市が何かを成すではなく
だからと言って彼の周りに面白い事が起るでもない。
ヤクザとお上による被害者に同情して、
淡々と手を貸すだけのお話で終わっている。

そろそろ「親分」の劣化が目に付き始めてきたかな。
どの作品にも「一家の親分」が登場するのだが、
これがあまりにも退屈な人物像であくびが出てしまう。
テンプレートな悪役が存在すれば
製作する側はもちろん楽ではあろうが
見ている方としては別に楽をしたいわけではない。
悪者には悪者で、キャラクターの魅力がなければ
たかだか、90分弱のエンタメ映画と言えども
眠くなるのも仕方がないだろう。

平幹二朗が演じる狂気の浪人役のお陰で
多少、引き締まった緊張感もあるにはあるのだが
彼を軸にしたお話が存在するでもなく
彼もまた配置されただけの「浪人枠」からは出てくれない。

もちろん、座頭市一人の言動を追うだけで
ある程度は楽しめるのがシリーズの魅力なのだが
プラスアルファのアイディアが欲しい一品かな。





『座頭市二段斬り』 1965年
監:井上昭  主演:勝新太郎
★★★☆☆

シリーズ十作目。
十年ぶりに按摩の師匠の下を訪ねた市であったが
半月前、師匠は人の手にかかり殺されていたというお話。

剣の師匠は、初期の作品で既に登場していたが
今度は按摩としての故郷話が楽しめるのかと
一瞬、そう期待させておいて
やっている事が前作と何ら変わりがない一作。
これだけの舞台を用意して、なおストーリーが無いのであれば
市個人を掘り下げるような作品は今後も無いのだろうね。

悪代官と程度の低い親分コンビが悪事を働く中に
被害者となる無力なヒロインが生まれ
一人の雇われ用心棒が対決用に配置される。
そんなテンプレートを消化するだけの映画。

最後の立ち回りで相手にする人数も
派手に、派手にと突き進んだ結果
今作では数十人単位にまで膨れ上がっている。
座頭市の繰り広げる居合の見事さは変わらずだが
もはや何のアイディアもギミックも無いその映像を
一体どう受け止めればよいのかね。





『座頭市逆手斬り』 1965年
監:森一生   主演:勝新太郎
★★★☆☆

シリーズ十一作目。
御牢の中で出会った死罪を前にした男から
無実を証明する使いを頼まれるお話。

ここにきて、男臭いお話がきましたね。
基本は、劇中でも市自身が語っているように
下手な頼まれ事を引き受けたせいで
自身が命を狙われるというお約束展開。
しかし、旅仲間となる藤山寛美演じるお調子者が良いアクセントになり
彼のふてぶてしさに振り回される市を楽しみつつ
命を取りに来る連中を相手に立ち回る雄姿も楽しめる。
小悪党は小悪党らしくこの程度の言動で収まっていれば
シンプルさが上手く活きた嫌味の無いストーリーとなるわけだ。

彼との最後のシーンも良いね。
市っあんは馴れ合いだけで
旅の道連れを作るようなキャラクターではないのだよ。

ラストの殺陣における決め動作が
そのままタイトルとなるのは前作の二段斬りから継続。
二刀流で華麗に立ち回る姿は素直に美しく
とっても見やすい一品。





『座頭市地獄旅』 1965年
監:三隅研次   主演:勝新太郎
★★★★☆

シリーズ十二作目。
船上で出会った浪人との不思議な関係や
連れ合いとなった女性との恋慕を描くお話。

仕切り直しの一作が来ましたよ。
監督はシリーズ三本目となる三隅研次。
大筋は市と浪人との不思議な共棲生活という
初代を髣髴とさせる粋な代物。
例のイカサマ賭博シーンも一癖加えて復活です。

確実に最後は斬り合う関係性にありながらも
その瞬間まで延々と将棋を打ち続けるという
二人の絶妙な距離感が渋さ満点の一品。
いつか刀を抜くだろうと誰もが肌で直に感じられる
成田三樹夫の醸し出す狂気と
溜めに溜めた対決シーンは華麗の一言。
何より全てを一瞬に凝縮させる心意気が素晴らしい。
ダラダラやらない、この重みが欲しかったのだよ。

また、久々に「目が見えない」事を多分に盛り込んだ
市の不自由な生活の描写も冴えわたり
金を稼ぐために奔走する姿が素敵に仕上がっている。
ここまでの作品で、何十両も自由に使える立場という物が
如何に市っあんの行動から面白みを奪っていたかが
よくわかる本格派の回帰作。

ヒロインとの関係性も美しさ一辺倒ではいかない
実に座頭市らしい業のお話で、
既存の展開を退屈に感じていた人には是非お勧めしたい一作。





『座頭市の歌が聞こえる』 1966年
監:田中徳三  主演:勝新太郎
★★★☆☆

シリーズ十三作目。
旅の途中に説法好きな琵琶法師と出会い
人生観を見つめ直すお話。

基本はゴミ親分の被害にあう宿場町の物語。
この構図は変わらずだが、
市っあんが暴力についての是非を考え込んでしまう事が新鮮で
子供にカッコイイ座頭市を見せてしまえば
彼らは確実に道を踏み外すという法師のお言葉が響くね。
確かにあんな鮮やかで華麗な人殺しを
子供に見せてはいけないね。

しかし、いくら考えても市は市。
不当な暴力に対してはやはり暴力でしか立ち向かえないのが
この人の悲しい所でもあり、変えられない生き方でもあろう。
説法に感じ入り仕込み杖を封印してみたりと
色々と足掻くのだが、所詮は抜けられない連鎖に組み込まれた悲哀だな。

映像的には映画である事を強調するかのような
雄大な引きショットや、陰影を使った美しさが特徴だが
中身は重いお話という不思議なバランスの一作。

ただ、浪人役に天知茂は使って欲しくなかったな。
身内のスターという事で使いやすいのはわかるが
まだ初代から4年程度しか経っていない中
このシリーズで別格の重みを持っているはずの
「平手御酒」の役者さんを別役で使うのは如何な物でしょうかね。





『座頭市海を渡る』 1966年
監:池広一夫   主演:勝新太郎
☆☆☆☆

シリーズ十四作目。
ふとしたきっかけから
山賊に脅かされる山村に逗留する事となった市が
騒動の中心になっていくお話。

戦国時代さながらの山賊の登場にびっくりな一品。
確か水戸の天狗党がどうのと言っていた時代のはずだが
そのビジュアルからの違和感に笑ってしまう。

だが、この一本が駄作中の駄作なのは
大筋のシナリオに原因があるだろう。
座頭市というキャラクターが絶対に越えなかった一線を
楽々と踏み越えているのはいただけない。
このシリーズが雑ながら一定の魅力を保っていられたのは
市の言動さえ見ていれば楽しめたからに尽きる。

つまりは「カタギさん」には一切迷惑をかけない
どんなに理不尽でも彼らを裏街道の喧嘩に巻き込まない
これだけは絶対だろう。

例えば、ヒロインの馬鹿女が百姓衆を相手に
「何もしないで幸せになろうとしてる」などと言うが
これはとんでもない罰当たり。
彼らは、この世で何よりも尊い仕事を担っているわけだよ。
畑の権利ばかりを口にするが
そもそもこの女は作物が自動で出てくるとでも思っているのだろうか。
日々身を粉にして働いている人間無しに畑もクソもあるまい。

彼らは誰に恥じる事もない生き方をしている。
そこに比べれば「何もしてない」とはまさに市そのものだ。
人を殺すだけで無駄飯ばかり消費する
自ら好んで裏街道しか歩けないヤクザなど下の下。
ちょっと目開きに馬鹿にされたくらいで、
すぐにブチ切れて暴力に訴える単細胞でしかない。
そんな彼と一切の争いを避ける事を信条とする百姓では
そもそも人間としての格が違う。

「カタギさん」の見本みたいな方々を
ヤクザや山賊の殺し合いの場へ引きずりだそうなど
決してあってはならない行為ではないか。
その一線を踏み越えた瞬間に
市はただの社会不適合者に早変わりしてしまう。
「カタギさん」に対しては、究極なまでに謙虚だからこそ
裏街道同士、踏み外した物同士の争いで怒り狂うからこそ
彼はカッコイイ人間であるのだ。
そこを忘れた脚本は、座頭市というブランドを殺す気だろうか。

そもそもこのヒロインは騒ぎ立てる暇があるなら
何よりもまず自ら率先して戦場へ赴いて
市を助けるべきだったろう。
彼女こそが「死んで生きる」役を示すのが筋である。

マンネリからの脱却と言う事なのかもしれないが
こんな脚本が飛び出すようでは
そろそろこのシリーズも末期なのかな。





『座頭市鉄火旅』 1967年
監:安田公義    主演:勝新太郎
★★★☆☆

シリーズ十五作目。
旅先で出会った老刀鍛冶に
愛用の仕込刀の寿命を知らされるお話。

所謂「足洗おうかな」展開の一作。
もはや、何度目かと呆れ気味にすらなるが
今回は仕込刀をギミックにしているのが面白い。
市にとって唯一命を預けられる相棒だからね。
後一回、斬り合いを行えば
そこで刀が折れて死ぬだろうとの予言めいた振りが
彼の行動を縛っていく姿は中々に緊張感がある。
老鍛冶屋を演じる東野英治郎はハマリ役だね。

もちろん市の短気は今更触れる必要もないレベルなので
今回も大して悩みもせず、特筆すべきドラマもなく
理不尽に直面すればその刀をすぐに振い出すわけだがね。
逃れられない業のなすままです。

他、藤田まことや、春川ますみなど
70年代のTV時代劇ブームの中心人物が
続々と脇役で登場してくるのが今見ると中々に豪華に映る一本。






『座頭市牢破り』 1967年
監:山本薩夫   主演:勝新太郎
★★★★☆

シリーズ十六作目。
男ぶりの良いある親分に惚れた市が
対立する一家との出入りに割って入るのだが
1年後に土地を訪れてみると……というお話。

ここから「勝プロダクション」製作という事になります。
製作は変わらず大映なのだが
監督に山本薩夫というのが珍しい一品。
記念の一作とあってか
座頭市エンターテイメントの集合作品になっている。
任侠物、渡世の義理をメインに据えたお話から
不幸の連鎖で裏街道へと堕ちていく少女の変遷。
そして、何人もの意地汚い「めくら」達による
この作品ならではの独特の盲目コントを混ぜつつ
最後は、居合の大立ち回りで締める。
久しぶりに舞台が幕末であった事を思い出させるネタもあり
まさに完璧だね。
なお勝新太郎自身が歌う挿入歌が入るのもこの作品から。

お話自体も、不思議な多重構造になっており中々です。
いつもの悪親分一家は、物語中盤で早々と斬り殺され
百姓たちの先生役となり、農作物の効率よい作り方や
博打を控える人生観などを説く謎の浪人も
実はキーマンではない。
結局、ラスボスは壱が惚れた良親分という事なのだが
彼を演じる三國連太郎が実に素晴らしく
清々しい程に汚らしい小物なんだよね。
最後、彼の怯えて逃げ惑う姿は見事の一言。
斬られる側にここまで鬼気迫る恐怖があればこそ
キレた市っあんの姿が映えるわけですよ。
さすがの名優です。





『座頭市血煙り街道』 1967年
監:三隅研次   主演:勝新太郎
★★★☆☆

シリーズ十七作目。
旅先の相部屋で息を引き取った女の連れ子を
父親に巡り合わせるため道中を共にするお話。

これも恒例の展開。
さすがにお腹一杯の「子供と一緒」物だね。
ただし久々の三隅研次監督作品で
映像テンポには一切の無駄はございません。
脚本だけはやや冗長に感じながらも
映像から相応には楽しめる一作。

そして、何よりも特筆すべきは、
今作のゲスト近衛十四郎の存在感。
謎の浪人と言う触れ込みで進む割には
大したオチも絡みももらえないのは
やはり根本的なストーリーが物足りないせいなのだが
彼との対決シーンだけは別格で
この一点だけでも見る価値がある作品だろうか。

雪降る対決の美しさよ。
あまりに唐突な天候変化でありながら
突っ込みを入れる隙すら与えてくれない
圧倒的な映像美。
何か凄い物が始まったぞという緊張感だけで
こうも画面に見入ってしまう物かね。
そしてこの情緒溢れる演出に見事に応えるのが
近衛十四郎による殺陣の凄まじさで
どっしりと腰の座った彼の本物を前にすれば、
あの勝新太郎ですら少々アクロバティックに頼った
軽めの動作に見えてしまうのだから
いや恐れ入った。

勝プロになってからより大物ゲスト路線になったのかな。
マンネリ作品にとって見所が増える事は悪い話ではないのです。





『座頭市果し状』 1968年
監:安田公義   主演:勝新太郎
★★★☆☆

シリーズ十八作目。
残忍極まりない凶状持ち集団と
なし崩し的に彼らと運命を共にする悪親分一家
そこに紛れ込む座頭市のお話。

一応、最大のゲストは
老医師の志村喬という事になるのかな。
その割にあまりに良い役ではないよね。
ヤクザ嫌いで市に「足を洗ったらどうか」と勧める
いつものテンプレート存在で、
その人の良さや意思の強さは滲み出てくるものの
決して市の本質にまで触れさせてもらえないお方だね。
特にその人柄に感じ入るでもなく
市はいつも通りに刀を振るいます。
敵の主犯格に勘当したドラ息子が居たりもするのだが
これも設定だけでドラマらしいドラマは用意されず
本当に軽めの立位置がもったいない。

今回、殺陣の尺が長めですね。
回を重ねるごとに、そのスピードを増してい
大立ち回りの完成度は今更のお話なのだが
意味もなく斬られる人を増やすだけでは
どーなんだろうか。
そして対決の直後にまた対決という構成で
ラスト2分にギリギリ詰め込むのもいただけない。

この作品は余程に下手を打たない限り
市というキャラクターの完成度だけで楽しめるのだが
それを差し引いても、特色のない一本だろうか。

勝新太郎が歌うテーマ曲が
冒頭、中盤、終盤に三度も流れるのには、
さすがに少し笑ってしまった。




『座頭市喧嘩太鼓』 1968年
監:三隅研次   主演:勝新太郎
★★★☆☆

シリーズ十九作目。
一宿一飯の義理からある男を斬った市だったが
自身を仇と思うその姉との道中で
許されざる恋に落ちてしまうお話。

これも恒例ですね。
市流に言うと
「また、斬っちゃあならねぇ人を斬っちまった」話。
理性ではヤクザな弟が悪い、弟を利用した悪徳親分が悪い。
こう思ってはいても直接手を下した当人を前にしては
真っ白な人間とは割り切れないもどかしさ。
そんな複雑なヒロインを三田佳子が好演。

障害者を見つけると悪戯したくなる心ってのは何だろね。
普段、斬ったはったの世界に身を置くような
怖面の兄ちゃん達でさえ市を前にしてのこの幼児性である。
ついつい、漏れ出してしまう男の子供っぽさとして
ここを市側の悲哀と共にある種のユーモアで描ききれるのが
このシリーズの本当に凄いトコロでしょうか。

オープニングイベントとも言える
冒頭数分のスタイリッシュぷりは異常。
如何にカッコイイ座頭市のキャラクターを見せるかという点で
やはり、三隅研次監督以上は居ないんだろね。
市が抱え込む暴力の連鎖による悲哀も出ているし
座頭市映画として優等生的な象徴のような一本だろうか。

ただし、これも恒例な「市の命を付け狙う浪人」が
今作ではいつも以上に空振り気味。
彼自身も独立したエピソードを持っているようではあるが、
本編にはほとんど絡ませてもらえず、
ただお約束から配置されただけの無個性な凄腕浪人役では、
せっかくの三隅作品でも退屈に過ぎるだろう。

視聴中は水準以上に満足しながらも
後に内容を思い出そうとすると、
あまり印象も残ってない作品かもしれないね。





『座頭市と用心棒』 1970年
監:岡本喜八   主演:勝新太郎、三船敏郎、若尾文子
★★★★☆

シリーズ二十作目。
「隠し金」の存在を巡って対立する二つの勢力の間を
雇われ助っ人二人が、自由気ままに行き来するお話。

その名の通り『用心棒』アレンジですね。
数あるゲストシリーズの中でも、
この作品が別格なのは、明確に「主役二人」構成で作られているため。
三船敏郎が演じる素浪人は、ほぼ『用心棒』の主人公そのままのキャラクターで
様々な作品に出張しているお得意の展開。
監督にも東宝から岡本喜八を呼び、
89年の復活版を除けば、シリーズ唯一の120分作品という事からも
位置付けの違う一本である事が伺える。

豪胆でユーモア溢れる三船敏郎と、
今でのシリーズで活躍してきた座頭市が
友情とも恋敵とも言える間柄で繰り広げる
絶妙な掛け合いに終始する一品となれば
そりゃ面白くないはずがない。

市本人のギラギラした魅力はやや控えめになっており
これが『座頭市』かと問われると言葉に詰まるが
製作された目的は完璧に果たしたプロの仕事による一本。
とっても豪華な舞台で自由人すぎる二人が二つの勢力を手玉に取る痛快さと
最後に対決に辿り付かざるを得ない緊迫感。
どこにも隙なんぞ無いですよ。





『座頭市あばれ火祭り』 1970年
監:三隅研次   主演:勝新太郎
★★★☆☆

シリーズ二十一作目。
関八州を裏で取り仕切るという
ヤクザの黒幕、大親分に命を狙われる市のお話。

座頭市シリーズ最後の三隅研次監督作品だが
こんなんでいいのかな。
個々の演出、雰囲気はどれも渋めでステキなのだが、
基本的なシナリオや登場人物の扱い方が粗過ぎだろう。

まず鳴り物入りで登場した「闇公方」の小物っぷりね。
せっかく森雅之をゲストに迎えたにしては、
彼の市に対する漠然とした怨念が全然伝わってこない。
各親分衆に、恐れられている事だけが強調されるのだが
劇中からは彼のカリスマが感じられず
どうも設定ありきに縛られた滑稽な姿しか見えないな。

そしてライバル役に仲代達矢なのだが、
彼も狂気の凄腕浪人という事だけが強調されて
そこには人間味が感じられない。
ある事件で妻を寝取られ、その後、堕落していく妻の足跡を追いながら
彼女と寝た男を延々と斬り続けていくという偏愛野郎。
設定だけはステキなんだけど
実際に感じられるのが一方通行な狂気だけなんだよね。

ヒロインの大原麗子も、
ただただ市にベタ惚れするだけの存在で
いくら彼女に別格の可愛さがあるからと言って
あの声に甘えては駄目だろう。

自分好みの監督キャストが勢揃いした期待作だった割には
肩透かしを喰らった一本かな。
場面場面に見所こそ見つかるのだが
ちょっとシナリオが特殊にすぎて
水準並みという言葉も難しいか。





『新座頭市・破れ!唐人剣』 1971年
監:安田公義   主演:勝新太郎、ジミー・ウォング
★★★☆☆

シリーズ二十二作目。
無差別殺人の極悪人との誤解を受けた市が
同じお尋ね物の唐人と対決するお話。

不思議な切り口できましたね。
幕末日本に紛れ込む真面目な中国人武芸者という
謎の取り合わせが光る異色の一本。
お話としては、誤解に次ぐ誤解の展開で
ヤクザ物としての市、めくらとしての市
そして言葉が通じないという悲劇と
様々な人間同士が繰り広げる愚かな無理解が
斬り合う必要などなかった二人を対決へと導いていく。
お馬鹿な取り合わせで奇をてらったにしては
切なくも空しいストーリーは面白い。

この中国人役は、武侠映画の大スターなのだが
直後にちょうどブルー・スリーが大ブレイクする事を考えれば
やや、派手さに欠ける殺陣は物足りないかな。
実直な片腕剣士も十分に魅力的な渋さがあるが
座頭市と斬り合うには、渋さよりも絢爛さが欲しい。





『座頭市御用旅』 1972年
監:森一生  主演:勝新太郎
★★★☆☆☆

シリーズ二十三作目。
旅の女性を惨殺し金二十両を奪ったとの
冤罪を受けた市が騒動に巻き込まれるお話。

マンネリに次ぐマンネリだね。
馬鹿すぎる冤罪展開もお腹一杯だし
唐突に外野から殺しを罵られて
人が斬れなくなる展開もお腹一杯。
さらには、赤ん坊との道連れ旅まであるのだから
あまりに酷いネタの繰り返しの極地だろう。

そのどれもが真面目にドラマをやる気がなく
ただ設定、展開として存在するだけなのもいつもの通り。

初めてのこの作品を見るのであれば、
やはり市の独特のキャラクター性で楽しめるだろうし
決して水準以下という事はないのだが、
このブランドも、終わるべくして終わるんだなと
そろそろ明確に思い知らされる一本だろうか。

全ての展開を終えた後
最後の最後、残り数十秒における浪人との対決は渋いのだが
この短時間に凝縮され余韻を残す決闘演出ですら
シリーズ初ではないのが玉に瑕。






『新座頭市物語・折れた杖』 1972年
監:勝新太郎   主演:勝新太郎
★★★☆☆

シリーズ二十四作目。
旅の中、自身との会話に気をとられ
崖へと転落してしまった婆さんに負い目を感じ
彼女の娘を尋ねていくお話。

この段階に来て、まさかの勝新太郎監督。
その効果は画面から如実に現れ
お行儀の良い職人によるマンネリ映画作品から
一気に荒々しい雰囲気へと変わっている。

まず、一本の通ったストーリーが存在しない。
何を目的とするでもない複数の人間が、
各々でふらふらと自身の人生観に拠った言動を繰り返す。
市が土地に留まった訳も、彼女を見受けした後の見通しも
全くが不明のまま、周囲に流されていく様は圧巻。
絵作りも一気に泥臭い演出が多くなり
その都度、驚きと、謎の引っかかりに捕らわれるという
何ともアナーキーな作品。
普通であれば、粗いだけの残念映画となって終わるのだろうが
これが不思議と座頭市というキャラクターには
決して合わなくもないんだよね。
本来の市が持つ暗さや暴力性が、
この出鱈目な世界観を動き回る事を許してしまう。

決して完成度の高い作品ではないが
確かに、マンネリは打破できている。
ただ、脚本自体はいつも通りに退屈な事と
これ程に独自の空気に包まれるのであれば
もう少し早い段階の作品で見せて欲しかった事が
どうにも残念な異色の一本。




『新座頭市物語 笠間の血祭り』 1973年
監:安田公義   主演:勝新太郎
★★☆☆☆

シリーズ二十五作目にして最終作。
市の生まれ故郷で繰り広げる騒動のお話。

製作段階で最後とわかっていたのか
舞台は市の生まれ故郷へ。
だかと言って何も無いんだけどね。
そこまで用意して深く掘り下げたお話にならないのはいつもの通り。
悪人側が幼友達であったり
殺される側が恩人の関係者であったりと
設定だけは相応な物が付け加えられているが
そこにも特別なドラマがあるわけではなく
あくまでテンプレートの消化。

いや、少し皆が善人に寄り過ぎないだろうか。
悪徳商人は悪徳と言うには理知的に過ぎ、
ただ手段を選ばない野心家という程度。
土地の親分も確かに悪い奴ではあるのだが
話は通じる愛嬌もある小悪党。
正直なところ、一番の無法者は座頭市本人と言う
彼の駄目っぷりが目立つ一品。
短気で狭量で博打ではサマをやって
すぐに暴力を振るうヤクザ者の本領発揮だろうか。

憂愁の美を飾ると言うよりは
これなら終わるのも頷ける系の
スケールダウン側の最終作というのが残念かな。

ただしアクション、立ち回りの面においては
このシリーズは一度も進化を止めてはいない。
極限まで極まったアイディアと技術の集大成は素晴らしく
斬れる者は全部斬る、ハイスピード居合の技を
感慨深く見守る一作だろう。

もっともこの後、全100話、4シーズンにも及ぶTVシリーズが始まるので
全然最後じゃないんだけどね。





『座頭市』 1989年
監:勝新太郎   主演:勝新太郎
★★★☆☆

八州廻りと大親分との癒着で荒れる
関八州を市が旅するお話。

十数年ぶりの復活座頭市。
初代をモチーフにしたシーンも散りばめなばらも
その中身は初代とは間逆。
やりたい映像をやるだけという事にこだわった
バイオレンススプラッター映画。
『新座頭市物語・折れた杖』で垣間見たアナーキーさを
極限まで突き詰めたような究極暴力が楽しめる。
ストーリーらしいストーリーはなく
ただただ、過去作品をモチーフにした場面の繋ぎ合わせを
独自の雰囲気で進めていく一品。

しかし勝新太郎の熟練の神業を
10分に一回は堪能できる贅沢さは格別で
あまりの内容の薄さと品の無さに辟易としつつも
最後のロングシーンの構成の緻密さと
アイディアの豊富さには思わず舌を巻く大演出作。
これだけ突き抜けられたらもう降参。
これはこれで傑作だ。





『座頭市』 2003年
監:北野武  主演:ビートたけし
★★★☆☆

流れ者の市が、ヤクザが牛耳る村へと辿り着き
彼らが抱える抗争に巻き込まれるというお話。

映像美だね。
座頭市はエンターテイメンであるという事を考えれば
これはこれで独特の世界観が面白い。
次から次へと飛び出す演出で楽しむ作品だろか。
映像の方向性は全く違うが
ある意味コンセプトは89年の勝新太郎最終作に近いと思う。

何が面白いという事はないんだけど
次から次へと様々な面から感心の連続が襲ってくる。
良くできてるなと妙に観客の批評家気取りを誘う一品。
謎な殺陣と謎な世界観が不思議と楽しいアイディアアート作品。





『座頭市 THE LAST』 2010年
監:阪本順治   主演:香取慎吾
★★☆☆☆

ロシアとの密貿易を画策する新興一家の
強引なやり口に苦しむ漁村に、
心に傷を負った座頭市が流れ着くお話。

この座頭市のキャラクターは良いね。
謙虚で、優しくて、耐えに耐えて
それでいてどこか空虚。
刀を振るってしまえばそこには後悔しか残らない。
香取慎吾の醸し出す弱々しい雰囲気は見事にオリジナルで
彼のやるせなさにはとても惹かれる。

ただ、それ以外はイマイチかな。
エンターテイメント要素を排除した座頭市というのに
どうも違和感が抜けず
特に殺陣に見所が無い座頭市というのはキツイ。
かと言って芸術志向の映像でもなく、
座頭市や彼を取り巻く心の物語以外の大半は
ほとんどが散漫で冗長。
つまりはずっと退屈なんだな。
キャラクターも無駄に多く詰め込みすぎな映画だろか。







『里見八犬伝』 1983年
監:深作欣二   主演:薬師丸ひろ子
★★★☆☆

運命に選ばれた8人の若者が姫を助けて悪と戦うという
日本が誇る王道中の王道ファンタジー
『南総里見八犬伝』をベースとして作られた1980年台の角川映画。

ストーリーらしいものはほぼ存在せず
圧倒的に無個性で、かつ無能すぎる八犬士を眺めているいだけで
気付けば終幕の密度の高い映画だな。
皮肉でも何でもなく、全てをかなぐり捨てて作られた
この超特急ファンタジーが妙に楽しいのだから不思議。
パワーで押しきった邦画の代表格だろう。

素晴らしい職人ギミックの数々が連続する
一大アトラクションエンターテイメント時代劇を
80年代臭全開の英語ロックをバックに展開されるのだから
もはや突っ込む気力すら奪われてしまうね。

全てがおかしい映画なのだが、
例えば、クライマックスシーンににおいて
自らの命を犠牲に仲間を先に進ませる男が居り
その死を悲しみ名を叫び泣いている男の子が居る。
しかし、彼と子供はおそらくそのシーンが劇中での初会話……
もはや物語やキャラクターを作る気など
ハナから放棄しているのが何とも潔い。

結局、真田広之と薬師丸ひろ子が一生ちちくりあってる映画と言ってもよし。
薬師丸ひろ子の裸が拝める展開かと思ったら
代わりに夏木マリのヌードが出てくる
とんでもない一品だね。





『真田幸村の謀略』 1979年
監:中島貞夫   主演:松方弘樹
★★☆☆☆

大阪夏の陣を目前に控えた頃合、
家康の首を狙い暗躍する真田幸村一党のお話。

『柳生一族の陰謀』『赤穂城断絶』に続く
東映復活時代劇シリーズなのだが、
既に三作目にて迷走の極みにあるね。

まず平凡な主人公勢のキャラクターが退屈だろう。
義に厚く、人望があり、知略に満ち
目的のためには恐ろしいまでの執念を見せるという人物像は
もちろん十分な時代劇ヒーローなのだが、
それがこのシリーズとなると平凡なんだよね。
まして、脇役でゲスト的に出演している萬屋錦之介や、丹波哲郎の存在感が
主役達を助けるどころか、逆に彼らの物足りなさを演出しているのでは
少し松方弘樹が可哀想か。

お話も謀略と言う程の謀略も見られず
どうも荒唐無稽な痛快さと言える一線から
一歩はみ出てしまった嘘臭い演出が強く
子供向けかと思う安っぽさだけが残ってしまう一品。

謀略場面を覗けば、
ただ誰もが知っている通りの大阪の陣を
追うだけのストーリーでは退屈だし、
尺が長い割に密度の低さが残念な薄味仕様で終わっている。

ただしクライマックスシーンだけは見事。
この映画が大作であった事を思い出させてくれる幸せがあるね。






『錆びたナイフ』 1958年
監:舛田利雄    主演:石原裕次郎
★★★☆☆

殺人の前科を背負ったアウトローな主人公が
街の悪事に絡む5年前の事件を追うお話。

小さな閉じた町、街を牛耳るギャング、知的でアクティブなヒロインを舞台に
どこか屈折したイケメン主人公が縦横無尽に活躍するという
いかにも1950年代後半の日活なテンプレート作品。

この手の映画はとってもチープなストーリーな上に
荒唐無稽で地味なアクションシーンも多く
時代を超えて見られる作品にはなりにくいのだが
そこは何と言っても石原裕次郎。
彼の見せる主人公像に秘められた魅力には
少しくらいのズレは飲み込む力があるね。

過去に縛られつつ現実をシニカルに捉えながらも
何処か本当の自分を探しているような夢見る若者像が
これほどに魅力的に映るのは面白い。
不思議なヒーロー像一本が映画を成立させている。
彼の人生観はとっても過激だ。

実にシンプルな構成の映画ながら
黒幕の裏にはさらなる黒幕がという
無間の闇を抱える社会構造のオチに加え
結局は何もできずに終わる主人公という無力感も手伝い
中々に虚無な気分に襲われる一本。






『サブウェイ 』 1985年
監:リュック・ベッソン   主演:クリストファー・ランバート、イザベル・アジャーニ
★★★☆☆

広大な地下鉄設備を根城とする
ハグレ者達が織り成す人間ドラマ。

男の子の秘密基地とまでは言わないが
実に憧憬を抱く舞台だね。
何処か社会と距離を置いている変わり者が
逆に、大都会の象徴とも言える地下設備に寄生している姿からは
何とも滑稽な空気が滲み出る。

男女共に多くは語らず、淡々と愛憎は表現する様は
さすがのフランス映画と言ったところで
それでも心は伝わるから不思議なもんだ。
ストーリーも世界観も、とっても荒々しいはずなのに
雰囲気だけは一級の繊細さに包まれる
ペテンのような哀愁溢れた一品。





『サマーウォーズ』 2009年
監:細田守    主演:神木隆之介 
★★★☆☆

夏休みに憧れの女先輩の実家に招待された男子高校生が
今まで感じた事のない大家族の絆を味わうお話。

インターネット上で巻き起こる事件の様と
そのネット世界の描写が
まんま『ぼくらのウォーゲーム』なのはご愛嬌としても
デジモンが居る世界でもないのに
変にアクション描写ばかりが目立つのは何故だろか。
おかげでお婆ちゃんの電話掛けシーンを最高潮に
あとは冗長な展開が続くだけだよね。
田舎ならではの「家」の強さを描くという
絶対に本筋であるテーマを投げ出して
一体、何をやっているのだろうと思ってしまう。

キーパーソンと思われていた腫れ物息子の活躍も
あまりの設定の強引さと腰砕けな展開に閉口で
そんなテーマで本当に良いのかと問いたくなる。
かつ、彼の「家」というシステムとの和解描写も
無駄な活劇パートに一気に置いていかれた感が強い。

細部の描写は本当に丁寧で素晴らしいのだけど
それ故に、長編としては一本の筋が通らない
妙な構成が気になって仕方がない。
どうも、傑作になり損ねた残念さが先に出る一作。




『サムライ』 1967年
監:ジャン=ピエール・メルヴィル    主演:アラン・ドロン
★★★☆☆

警察と依頼主の両方から狙われる
寡黙な殺し屋の姿を描いたお話。

最高のネクラ俳優、アラン・ドロンの静かな立ち居振る舞い全てが
溜息が出る程に美しいね。
無駄な会話は一切なし、ただそこに居るだけで圧倒的な存在感。
もしや、開幕から最初の台詞が発せられるまでに
10分近くは経っていたのではなかろうか。

特に何という仕掛けも人間ドラマもないお話ながら
このTHE・ノワールな世界観の徹底された美しさに参ってしまう。

街全体が張り詰めた空気感に包まれ
この世界には、友達と無邪気に笑ってみたり
心からの叫び声を上げるような人間など
ただの一人も存在しないと言わんばかりな
やりすぎ殺伐感が素晴らしい。

全てにおいて研ぎ澄まされた演出の元
あまりにも野暮解説を嫌う傾向が強いため
ストーリーもキャラクターも若干理解が難しいという
寡黙作品あるあるもご愛敬。
でも空気が安っぽくなるくらいならそれで良いのです。

やはり、アラン・ドロンの魅力が大前提の一品。
割とおどけたキャラクターを演じる事も多い彼だが
人間がああまで冷たいオーラが出せるものかね。
警察に呼ばれた証人たちが口にする
「よく顔を覚えていない」は最早ジョークの範疇。
あんなヤバそうな二枚目を見かけて忘れるわけあらず。





『猿の惑星』 1968年
監:フランクリン・J・シャフナー    主演:チャールトン・ヘストン
★★★★☆

新惑星探索の任を受け地球を飛び立った宇宙船が
不慮の事故により着陸した先は
猿が人を支配する不思議な星だった。

人類普遍の歴史や習性を
大いなるトリックをもって描ききった完璧なSF作品だね。
見事な茶番舞台、茶番設定を堂々としたメッセージの元に
最後まで演じきっているのが素晴らしい。

全て台詞、設定、展開が
何らかへのブラックなジョークになっており
見る側の心当たり次第でどう捕らえる事もできるのが
最後まで楽しいね。
不安を煽る音楽、演出も冴えに冴え
常に何処か喉に引っかかる不気味な世界観は
ラストのオチへと見事に繋がっていく。
テーマともども映画としての構成も完璧で
ビジュアル面でも一級品が楽しめる贅沢作。





『三国志』 2008年
監:ダニエル・リー    主演:アンディ・ラウ、サモ・ハン・キンポー
★★☆☆☆

中国が魏呉蜀に別れた三国時代を舞台に
蜀の常勝将軍と言われた趙子龍の生き様を描いたお話。

いや、生き様というよりは死に様だね。
若い頃をサクっと終わらせ、メインは北伐の一戦になり
年老いた趙雲が敗戦の中で自身の人生を思い出す物語が展開される。
壮年のアンディ・ラウとサモ・ハン・キンポーの好演はさすがに渋い。

ただ、そういう見せ方の映画じゃないのよね。
映画の半分が乱戦シーンで構成されているためか
このせっかくのお話が色々と物足りない。
それも、今となっては中国映画だけに許された
如何にも超大作という大スケールの美術と撮影ながら
イマイチ、迫力が伝わりにくい演出の連続が拍子抜け。
せっかくなら堂々と描けば良いのに非常に見難いのです。

カンフー風味のアクションも無くせとは言わないが
あまりに、スロー演出ばかり使った見せ方と
似たような演出の繰り返しではさすがに退屈だろう。
何回、同じ物を見せられるのかと軽く閉口。

大作史劇映画としてのエンタメ要素は空回りして
その尺のせいで肝心のドラマ部分も薄味になって
どこを見たらよいかわからなくなる悪循環映画かな。





『3時10分、決断のとき』 2007年
監:ジェームズ・マンゴールド   主演:ラッセル・クロウ、クリスチャン・ベール
★★★☆☆

金銭的な問題からも、家族からの信頼の面からも
追い詰められた立場にある主人公が
自ら、大物賞金首を護送する役目を負う事で
一歩前に進もうとするお話。

自分の信じる正義を貫きたくて、
でも、弱い自分が嫌でたまらなくて、
14歳の息子からの視線が気になって仕方がなくて……
どこにでも居る中年男性像が素晴らしいよね。
そんな彼と絡むのが
飄々とした知的な風貌でとても悪漢には見えないが
時折凶暴な面も覗かせるという不思議な男。

そんな異色の二人による
様々な困難の中で繰り広げられる会話劇は
ある種、互いの人生哲学の探り合いとも言え
とっても重たい雰囲気を作り出していく。
最終的にこれは友情と言って良い関係ではなかろうか。
全く違う生き様を選んだ二人ながら
心のどこかで、間違いなく彼らは触れ合ったとのだと思う。
そこまで、意地になる事はないだろうと叫びたくなる
主人公の不器用さが何とも切なく映る。

オリジナル映画の立場はそのままに
2007年相応の人間味を咀嚼した感じだろうか。

ただ、本格派のテーマを扱っている割には
少し展開は強引で派手すぎる面があり
構成自体は粗めの一作かな。
護送する側の行動も、逆に奪還を企てる強盗団の作戦も
ツッコミどころ満載で、チグハグなイベントの連続。
撃ち合いや馬車などを使った描写なども
なるほど2007年の映画だなと、
ついつい頷いてしまうような豪華な空回りが続いてしまう。

名優二人の熱演、会話劇を楽しむ映画として
素直にそこだけに集中する一品だろうか。





『サン・ジャックへの道』 2007年
監:コリーヌ・セロー   主演: コリーヌ・セロー、アルチュス・ド・パンゲルン
★★★★☆

母親の遺産を相続する条件として
聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラへの
巡礼の旅を強要されたお互いを忌み嫌う三人の兄弟と
旅の道連れ6人の物語。

旅物は良いね。
どこか悩みや問題を抱えている者同士が
旅の途中、お互いに一定の距離を置きつつも
少しづつ親しくなり成長を遂げるお話。
こんなに綺麗なストーリーがあろうか。

本来は宗教の旅でありながら
その構成員は無神論者であったり、
何故か、アラブ系のライトなイスラム教徒であったりと
シニカルでウィットに富んだ道中がひたすらに面白い。
各々が重い人生を抱えていつつも、基本は他人だからね。
だからこそ触れ合える隙間ってのはあるでしょう。
9者9様のキャラクターが素晴らしく
彼らの言動を追うだけで全く飽きのこない傑作。
特に携帯電話の描写が現代的でとっても素敵。
21世紀のコメディフランス映画はテンポが良いね。

そして地味に映像が美しい。
色彩に拘った軽い芸術志向の映像なんだけど
コメディパートが基本なので重苦しさもなく素直に楽しめる。
一挙両得、とっても贅沢な作風が味わえる。




『三銃士』 1993年
監:スティーブン・ヘレク   主演:クリス・オドネル
★★☆☆☆

17世紀のフランスを舞台に、枢機卿と国王との争いの中で
野心と希望に満ちて村を出たダルタニャンが
出会った友と冒険活劇を繰り広げるお話。

まず『三銃士』はこんな話ではないだろう。
向こう見ずな若者の勢いや熱意と
名誉のためなら命を賭ける騎士道精神の融合が魅力の原作で
何故にこんな淡々とした運びになるか。
デュマの魅力はまずスーパーエンタテイメントだろう。

ダルタニャンはもっと激しく
アトスはもっと冷徹で
アラミスはもっと悩んでいて
ポルトスはもっとクズ野郎。
彼らの無茶苦茶な勢いが見られないとは寂しい限り。

映画ならではのオリジナルな魅力があるかと言うと
そもそも、キャラクターを楽しむ程の描写自体が無い。
映画一本には長すぎるお話なのだが
大筋を再現するために詰め込みすぎて、
ダイジェストを見ているのような印象が残念だね。





『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』 2011年
監:ポール・W・S・アンダーソン   主演:ローガン・ラーマン
★★★☆☆

A・デュマの超大作『三銃士』をベースに、
ストーリーに『王妃の首飾り』の一部要素も含めたお話。

題名にもあるように
17世紀、三銃士の時代を舞台にしながら
レオナルド・ダヴィンチが設計したしたとされる
飛行船が縦横無尽に大活躍するという時点で
かなりのお馬鹿映画である事は明々白々。

スタイリッシュお馬鹿アクションを前面に押し出した
アトス、アラミス、ポルトス、そしてミレディと続くキャラクター紹介から始まり
この冒頭の掴みこそ、相当なワクワク感なのだが
そこで、全てが終わってしまった感じはあるかな。
「三銃士」を銘打っておきながら
個性の場が与えられているのはダルタニャンとアトスのみ。
見終わってから何故に4人も居たんだろうかと
他二人が空気だった事に気付くのは少々寂しい作りではなかろうか。

ミラジョボ・ビッチが大胆に演じる
荒唐無稽な妖婦ミレディも、個性という点では素晴らしいが
肝心のアトスとの絡みは物足りないよね。
今まで、散々にお馬鹿路線で売っておきながら
終盤に急に真面目なドラマをやりだされても見る方が困ってしまう。
それならそうと、最初から大切に扱ってもらわねば
そんなキャラクターだっただろうかと
クライマックスシーンが綺麗に浮くだけ。

その他、リシュリー枢機卿の存在感であったり
銃士達とルイ13世との絆であったり
重要人物のはずのバッキンガム候であったり
全て、サラリとドラマも無く流されて
お話を描く気がゼロなのは間違いないのだが
その割には、最後までお馬鹿路線だけでは
突き抜けてはくれなかった印象。

もちろん、スタイリッシュアクションの数々や
想像の産物である飛行船の造形などは見事な出来で
まさかの大砲を打ち合う一大空戦まで楽しめてしまう。
このあたりの雰囲気や比重の置き方に
ちょっと『パイレーツオブカリビアン』を狙ったような
欲が見え隠れする作りだね。
オーランド・ブルームも出ておりますし。

しかし、和平のためにとイギリスまで出向いたのに
そこで候の飛行船を強奪した挙句
宮殿に一方的な大艦砲射撃を行う連中の行動力は素晴らしい。
お前ら一体何をしに行ったんだと。
そりゃ戦争にもなるっての。
小粒ながら完成された一品ではあり、
割り切って楽しめば十分に満足度はある作品。






『三十四丁目の奇蹟』 1947年
監:ジョージ・シートン  主演:モーリン・オハラ
★★★★☆

クリスマスシーズンのNYに突如現れた
自称サンタのお爺さんを取り巻く心温まる物語。

何でも商売、何でも裁判、何でも保険、何でも現実、何でも精神病……
このアメリカの病的とも言える社会性を
クリスマスヒューマンドラマの中に乗せたアイディアが素晴らしい。

「サンタは存在するか」
この問いかけを最高裁で争うおうと言うのだから
もう茶番も茶番である。
作品全てが茶番、卑怯な仕掛けの映画ではある。

だがサンタを法的に証明してみせると息巻く若手弁護士は、
何も本気で主人公の老人をサンタだと言っているわけではない。
彼が戦っている相手とは、自称サンタを妄想狂のボケ老人として精神病院に送ろうとする
アメリカ社会の病的なまでのドライさだろう。

わざわざ「神など居ない」と幼い子供に説く親は
世界一般の常識からすれば少数派だろう。
だが多くの人間が真の意味で神の存在を信じているかと言えば
それはそれで無いはずである。
確かに無いのだが敢えてそれを口にはしない、
その一点において、ある意味で人間の中に神は居るわけだよね。

論理で証明はできずに形にも存在しなくとも
無い物を信じる事ができるのが心であり
その正体とは人間の思いやりや優しさであるという
ナンセンスさを恥ずかしがらずに
堂々と正面から描いた実にエライ作品。

それでいて決して重い作品としては作られていないのが職人技だね。
この映画の凄まじさは
それだけのテーマを幼き子供と心優しい老人の交流を軸にした
老若男女が楽しめるヒューマンドラマとして成立させていることにある。




『山椒大夫』 1954年
監:溝口健二  主演:田中絹代
★★★☆☆

荒みきった平安末期の奴隷売買を舞台に
生き別れた家族の愛情や、虐げられる者たちの悲劇を
徹底的なヒロイックさで描いたお話。

古くからある説話であることはオープニングで説明済み
有名な森鴎外の小説から物語を踏襲していると思われるが
今作は何よりも日本の画面が美しい。
白黒映像を知り尽くしたかのような陰影の妙や
カメラワーク、間の置き方、BGMの挿入テクニックなど
あまりに自然というか完璧にすぎて
むしろ、初見では全く絵作りに意識がいかないレベル。
よくよく見ると一々カットが芸術的という
王道のお手本のような一本。

ただし、脚本や演技からのエンターテイメントとしての個性は
意図的に突出した癖が抑えられているためか
トータルでそこまで面白味のある映画と言い難いのは残念。
あくまで古典的な悲劇物語の虚しさに酔いしれるだけで
十分な満足感を得るべき作品だろう。
完成度を堪能すべし。




『サンセット大通り』 1950年
監:ビリー・ワイルダー  主演:グロリア・スワンソン
★★★★☆

サイレント映画が過去の物となったハリウッド世界で
時代に取り残されたかつての大女優と
彼女の元でジゴロ生活を行うことになる若い脚本家が織り成す愛憎話。

これ程に評価に困る映画も無いだろうね。
まずジャンルが決められない。
一見、コメディのようでありながら、強烈なサスペンスでもあり、
それでいてサイコホラーの様相も忘れない。
さらには男女間における愛憎の妙を表現した作品でもあるという
とんでもない密度の一本。

何より主演であるグロリア・スワンソンの怪演が夢に出る。
とっくに忘れられた人間でありながら、その事実を一切認めないプッツン大女優、
たった一人の忠実な執事と暮らし、普段の付き合いは昔の友達だけ。
ハリウッドに復帰できると、本気で信じて邁進する姿はあまりに痛々しい。
往年の大女優だけあって、事実、その努力の程は半端ではないんだよ。
加えて、好きな男の気を引くために
まるで少女のように、様々なアイディアを駆使し
時に愛嬌たっぷりに振舞う姿には、
普段のプッツンぷりも年齢も忘れさせる可愛さが見え隠れして
何とも複雑な激情型の主人公像が生まれている。

しかし、それが全て一人相撲、空回りである事は
彼女以外の全員が知っている虚構の世界。
復帰などできないし、ジゴロの男に本気の愛情などはない。
それを知っていても口にできない
決して、出してはいけない圧迫されるような空気感がたまらない。
周囲を彩る人物の思惑は各人それぞれで、
ジゴロにとっては打算であり、セシル監督にとっては純粋な愛情であり
執事にとっては偏愛という表現になるだろうか…
あぁ怖い。

いつか破裂する事がわかりきった仕掛けの中
時限爆弾を抱えながら生活するようなもんですよ。

とにかく皆が皆、芸達者だね。。
真面目なお話でありながらも真面目一辺倒の監督には決して作れない
何とも言えないスカし具合が見事に決まった怪作。






『三人の妻への手紙』 1949年
監:ジョセフ・L・マンキーウィッツ  主演:ジーン・クレイン、リンダ・ダーネル、アン・サザーン
★★★★☆

恵まれた結婚生活を送る三人の妻たちに
誰か一人の夫が駆け落ちをする旨の一通の手紙が届く。
実は家庭内ではそれぞれが問題を抱えていたというお話。

プロット勝ちの一品。
同姓異性問わず誰もが認める魅力的な女性であり
6人の共通の友人でもあるアディ・ロスさんから
「本日、三人の誰かの夫と駆け落ちします」の手紙。
冗談と笑いつつも、お互いで交わされるちょっとした牽制が実に巧妙。
個々人の回想から明らかになる夫婦だけが知る事情の数々……
こんなストーリーを用意されて面白くないわけがないよね。

例え、愛し合っていたとしても
共同生活とは全てが上手くいくわけではないだろう。
当然、小さな問題はいくらでも積み重なるだろう。
一たび「もしかして」と疑心に駆られれば
どうしても夫への疑いを心からは拭えなくなる三人の姿は痛々しい。

しかし、それを契機に自身の中でマイナス部分を洗い直す事で
かえって夫婦の絆の大切さを再確認するという
実はちょっとイイお話でもあるんだね。

この綺麗なプロットを密度たっぷりに味わえる
本格派の娯楽良作。
6人の個性が実に上手で最後まで飽きの来ない一本。





『桑港』 1936年
監:W・S・ヴァン・ダイク  主演:クラーク・ゲーブル、ジャネット・マクドナルド
★★★☆☆

成功を夢見て上京した女性歌手と
彼女に魅了された街の有力者との恋愛を描くお話。

馬鹿なお話だよ。
男はどうしてこうも女を所有したがるのか。
彼女の本当の望みは違うと知りつつも
自分とさえ居れば満足するのではないかとも考えるお馬鹿さ。
後の『風とともに去りぬ』を想像させる
クラーク・ゲーブルならではの
実に狭量だが男ならどこか分かってしまう
真っ直ぐ愚かな紳士の姿にノックアウト。

相談訳の幼馴染神父として登場する
スペンサー・トレイシーの好演がまた良く。
30年代映画を地で行く落ち着いた雰囲気が楽しめる一本。

後半は展開が一変して、
サンフランシスコ大地震へと繋がるのだが
この映像は必見。
映画黄金期ならではの見事な一大映像マジックが楽しめる。

未曾有の災害を通じ人間は真の愛に気付く。
前半の目を逸らしたくなるようなグダグダ恋愛があればこそ
この素直なテーマもまた、真っ直ぐに心に響く。





『秋刀魚の味』 1962年
監:小津安二郎  主演:笠智衆、岩下志麻
★★★★☆

婚期を迎えた娘を持つ初老の男が抱える
なんとも切なくも美しい人生の一ページ。

この作品が小津安二郎の遺作なんだね。
この人は化け物。
最後の最後まで全くブレずに完璧です。
いつもの面子における、いつものテンポ、いつものカメラ、いつものカット。
それが極限まで心に染みるのだから
この情緒に文句など付けようもない。

これ程に現実味の薄い演出でありながら、
温和な笠智衆が淡々と喋る深みのある言動の数々に
観客が感じ入る空気は何よりもリアル。
何作見ても不思議な作風だよね。

しかし、その時代ならではの世相を切り取る
今作の同期三人組のカッコ良さはどうした事か。
皆、55歳前後という事になろうか。
相応の社会的地位にあり、お金や生活に困る事はなく
皆、人生において子供を育てきっている。
それでいて、温和で余裕のある精神性の中
ちょとしたジョークの掛け合いも粋にすぎる。
あんな地味なオジサン三人でありながら
彼らに一種の憧れを抱かない男が居るだろうか。
まさに時代の怪物。

現在は、多様な人生観があると言いながらも、
結局、本質はこの時代から変わってないんじゃないかな。
彼らが悩み、危惧する将来像ってのは
実は、どの時代も普遍なのではなかろうか。
一つの見本として登場する先生父娘の姿は実に苦い。
少々、テンプレートに過ぎはするが
そこが写しだす部分に疑問の余地は無し。
人情物の皮をかぶったドライな映画です。





『幸福の黄色いハンカチ』 1977年
監:山田洋次  主演:高倉健、武田鉄矢、桃井かおり
★★★★☆

刑期を終えて網走刑務所から出所したばかりの男が
偶然出会った旅行者二人と連れ合って車旅をする人情物語。

旅は良いね。
心に傷を負い北海道へと流れてきた武田鉄矢と桃井かおり。
この刹那の慰めを求める駄目駄目な若者二人の間に
何故か渋すぎるオジサンである高倉健が
異物として仲介に入っている姿という
三人旅の可笑しさが全てではないだろうか。

見ず知らずの三人が人との触れ合いを欲して
あくまで他人同士の距離を取りつつも
結局は道連れを続けていく姿は実に良い。
こういうひと時こそを人生の洗濯というのだろうか
こんな旅行に憧れる人も多かろう。

そして、次第に明かされる前科者健さんの過去という刺激が綺麗にはまる。
近寄りがたい強面のオジサンを地でいきながら
その実、ついつい応援したくなる不器用さと愛嬌があるんだよ。
最近の若者を地で行くような奔放な二人ですら
気付けば彼のしがらみ人生にどっぷり入れ込んでいる姿は何とも暖かい。

人と人とが出会う楽しさや
各々が人生に抱えていくだろう重たさを
とっても爽やかに堪能できてしまう傑作。






『幸せのちから』 2006年
監:ガブリエレ・ムッチーノ  主演:ウィル・スミス
☆☆☆☆

幼い子供を抱えながら
定職すらも失った離婚駄目男が
人生を見つめなおすお話。

最後まで「幸せのちから」は見えなかった映画だね。
彼にとっての幸せとは何だったのだろうか。
リスクの高い買取営業に手を出した時も
一流証券会社に勤めようと思った時も
常に一発狙いの大博打ばかりで
成功したら嬉しいが失敗すれば終わりの発想が全て。
本当に主人公の人生観は成長したのだろうか。

彼はそもそも自分の人生において
問題が何処にあったのかにすら
気付いていないのではないか。

金持ちになってハッピーエンドは無理があろう。
果たして彼にとって証券も本当にやりたい仕事なのか。
その過程で、結局は子供を片親にしてしまい
一体、何が許されるのだろうか。
主人公が社会的に成功する物語と、子供が抱いていただろう幸せの話が
最後の最後まで噛み合った節が感じられない。
序盤のフリだけは凄いが心に残る部分が少なすぎる作品かな。






『シーサイドモーテル』 2010年
監:守屋健太郎  主演:生田斗真
★★★★☆

様々な理由から山間の寂れたモーテルに集まった住人達の
一夜限りの人生物語。
所謂、純度100%のグランドホテル物。
部屋ごとにそれぞれのストーリーが展開し
皆が少しだけ絡み合うオムニバスドラマだね。

特に、生田斗真 x 麻生久美子が繰り広げる
本音を漏らした物負けな男女合戦バトルと
山田孝之 x 玉山鉄二がやりあう血生臭いサスペンスが
絶妙なバランスで成り立っている二重奏が素敵な構成になっている。
結果、互いの人生観を見つめ直す事になる
少し切なくも淡いお話で感じ入りながら
その裏で、痛快な大仕掛けも楽しめるという
とっても贅沢な一品。
どちらもその中身は骨太です。
悲しいお話ながらある種の清涼感が残る不思議な世界観が楽しめる。

他の部屋との掛け合いも緻密で実に程よいテンポで
最初から最後までが、一つのアイディアで綺麗に紡がれた
密度高めの100分映画だね。
この手の作品で息切れせずに楽しめるのは大事。

所々に入るパロディ描写の雑さは気なるが
この手の演出は一種の照れ隠しなのかな。
何故か21世紀の邦画に多い気がする。





『シェイプ・オブ・ウォーター』 2017年
監:ギレルモ・デル・トロ  主演:サリー・ホーキンス
★★★★☆

1960年代(?)、冷戦時代のアメリカを舞台に
宇宙開発施設で働く口の利けない掃除婦が
捕らわれの異形生物と心を通わすお話。

全編、ため息が漏れる程に幻想的で美しい。
もはや一種の寓話か童話というレベル。
それでいて登場人物は皆どこか世相からは弾かれている曲者揃いで
不自由過ぎずとも、何か足りない物を抱えて生きているような
あくまで切なく不安さが伝わる現実の物語。
この相反する物を常に同時に見せられているような世界観が素晴らしく
寓話は寓話でも、大人のためのビターなファンタジーなんだろうね。

特に中盤、主人公と怪物による象徴的なシーンが
圧巻とも言える破壊力なんだよね。
常識で考えれば、そうは思えなくとも不思議ではない展開なのだが
まず画の力で素直に「これは美しい」と捻じ伏せられるあたりが
今作の真骨頂、映像作家ギレルモ・デル・トロの本領発揮だろうか。
そう感じてしまった自分を前にすれば、後付けで理屈の否定はできなくなるね。
脚本だけでは、とてもこの説得力は出るまいよ。

2017年という時代を敏感に切り取った風刺作ながらも
それを御伽噺のようなパッケージングに見事に包み
ラブロマンスエンターテイメントに仕上げてみせた
実に完成度の高い一品。




『シェーン』 1953年
監:ジョージ・スティーヴンス  主演:アラン・ラッド
★★★★☆

過去に疲れたかのように流れ着いた主人公が
開拓地の一家に逗留する事になる西部劇。

やはり、オープニングからの西部の雄大な映像だよ。
あの正統派の自然の美しさは他ではちょっと見られない。
お話は決して派手ではないのだけれど
西部劇の魅力の一つを見事に描ききっている。

腕利きのガンマンであるはずの主人公が
開拓民として耐えに耐える姿は、
とっても情緒溢れていて素敵。
それでも、子供の前ではついつい格好を付けてしまうあたり
聖人君子などではなくきっちり人間なんだよね。
最後の墓場シーンは捉え方が多彩だろうけど
所詮は主人公自身が敵役に述べたように
共に時代から取り残され、消え行く人間だという事だよね。
去り行く開拓時代への哀愁と暴力の虚しさを現す以上ではあるまい。

銃撃戦こそ最後の最後のお楽しみながら
途中、殴り合いの多いこと多いこと。
これこそ西部の荒くれ者の精神かと
悪役とも友人とも殴りまくり。
ドラマ仕立ての地味なお話ではありつつ、
その他全てにおいて間違いなく西部劇的な魅力に溢れる
ジャンルの代表作だろう。






『J・エドガー』 2011年
監:クリント・イーストウッド  主演:レオナルド・ディカプリオ
★★★☆☆

アメリカ国家に強固なFBI組織を作り上げた
実在の人物、エドガー・フーヴァーの人生を描くお話。

ドラマ性は薄めに、ドキュメント、自伝仕立てに進む渋めの作品。
愛国、反共を全ての行動理念に突き進んできた男が
年老いて時代のズレに飲み込まれる悲哀だな。
彼の計り知れない功績を描きつつも
年老いた後、時代遅れなアウトローの保守男として
世間で浮いてしまう現実も忘れない。

その非道徳的な手法の数々に辟易としつつも
ただただ、強いアメリカに拘った純粋な頑固爺の理念には
相応のカタルシスがあるわけですよ。
しかし性的嗜好も含めた彼の私生活の壊れっぷりは
到底、古き良きアメリカ人からは程遠いんだよね。

これは、想と現実の共存を軸に描かれた
過去社会への郷愁の映画なのか
それとも一人の人間が内包する矛盾の映画なのか。
アメリカ人によるアメリカ人のための作品だろう。





『シェナンドー河』 1965年
監:アンドリュー・V・マクラグレン  主演:ジェームズ・ステュアート
★★★☆☆

ヴァージニア州で大地に根を張って暮らしてきた一家が
否応なしに南北戦争の混乱に巻き込まれるお話。

ジェームズ・ステュアート演じる
家長の頑固親父が素晴らしい存在感だね。
彼は常に厳格で正しくて
徹底して奴隷論や戦争と距離を置きながら
自分たちが築いてきた一家に誇りを持っている。

家族にとって必要な行動があれば厭わない男であり
頑固であったが故に避けられた事態もあれば
その行動力が招いた悲劇もある。
自己責任、自力救済の時代と精神の元で
逃れられない現実に打ちのめされながらも
結局は、子を成し、育て、また孫へと繋がっていくとう
世代が紡がれる意義を噛みしめて
腐らない姿には確かな真実が見える。

そこまで派手な展開はないのだが
全編に流れる意思の強さをゆっくりと感じられる
戦争と暮らし、世相と個人の対比の映画。
現実と良心の作品だろう。




『シェルブールの雨傘』 1964年
監:ジャック・ドゥミ  主演:カトリーヌ・ドヌーヴ
★★★☆☆

切ない若き男女のすれ違いを描いた
全編ミュージカル仕立てのメロドラマ。

自身に2年間の兵役が迫っている事を知りつつ
17歳の女を無責任に妊娠させる男。
好きな男の子供を妊娠しながらも
僅か2年を待ちきれずにあっさりと他の男に乗り換える女。

このクズっぷり、何と言う若さ。
どちらもイーブンだろうと受け容れられる設定がナイスな一本。

見所は彼らのお互いを思いやる心だろうね。
男女の間柄としては覚めてしまっても
決して嫌いあってしまったわけではない切なさよ。
別々の人生を歩む中の出会いで
まるでかつての戦友かのように
互いに気遣い言葉をかけあう姿は素直に美しい。

そして何度も何度も繰り返されるテーマ曲の妙。
あの圧倒的情緒をここまで聴かされれば
その常軌を逸した一点突破力に
嫌でも世界観は固まってしまうでしょう。

しょーもないメロドラマを
美麗な街並みや、脇役達の人間味
一本のメロディだけで押し切り通した雰囲気芸の
全編歌唱なオぺラ式映画の一級品。






『シカゴ』 2002年
監:ロブ・マーシャル  主演:レネー・ゼルウィガー
★★★★★

舞台は1920年代のシカゴ。
美人女性犯の殺人事件公判に
ショービジネスかのように夢中になる民衆の姿を
滑稽に描くコメディミュージカル。

何よりスターを夢見るアバズレ女の主人公が良いね。
対になる元スターも、やはりステキなアバズレ女で
そこにまるで演出家かのような敏腕弁護士が絡み
公判までのやり取りが皮肉と笑いたっぷりに描かれる。

それだけでも爽快のなのに
この表の事件や状況、裁判の経過などを、
その都度、圧倒的クオリティのミュージカルシーンで
真実の姿としてお祭り騒ぎとして再現していく手法が見事。
どれもが、ウィットに富んだ素敵な挿入方法で、
日頃から、ちょっとしたリズムや音楽を耳にするだけで
歌いたくなるような「ミュージカル病」にはたまらない一品。
現実と世界とミュージカル世界とのリンクが心地良く
全シーンで、拘りぬかれたプロの技を堪能できる傑作。
現代的なスピード演出に浸りつつ
こんなに質の高いステージが拝める幸せを堪能する一品。




『4月の君、スピカ。』 2019年
監:大谷健太郎  主演:福原遥、佐藤大樹、鈴木仁
★★☆☆☆

美しい星が見える田舎高校に転校した女の子が
天文部の男子二人に運命的に出会い挟まれるお話。

親友同士の間に女の子が入り込んで一波乱という筋は面白いんだけど
冒頭10分の出会いパートがあまりに急展開すぎて
何故、彼らが互いに好きになったのかが全く置いてけぼり。
そのせいで途中にどれほど綺麗なシーンを描こうと
生きた人間を見ている気になれない。
少女漫画のテンプレート消化にしか見えないのが何とも残念。

主人公たちの名前が太陽、月、星に関連していて
決め台詞の全てを天文関連の話に例える世界観は楽しいね。
結果、恋愛物語としては一番の見せ場になるシーンの数々が
巧いのか滑ってるのか判断に迷う中々の気恥ずかしさを見せる。
若手俳優の初々しい演技っぷり含めてとにかく恥ずかしい。

それでも、最後の最後まで展開が薄めかつ唐突にすぎて
真面目な気持ちでは入り込めなかった一本だね。
この手の映画にしては過剰すぎる演出は控えめで
個別シーンの雰囲気もイケてるんだけど
展開を進める事を優先しているかのような言動が先走りしすぎる事で
皆が皆あまりのクソ野郎ばかりに映ってしまう。
突っ込み処満載なのはいっそ清々しいのか。
一番は「……何で水泳?」
大丈夫かお前らと思いながら見ていてまぁ楽しい100分。



『資金源強奪』 1975年
監:深作欣二  主演:北大路欣也
★★★★☆

組のために殺人を犯したヤクザが
出所後に自分の組を相手に大金の強奪を企むお話。

アクション要素たっぷりの
見事な痛快娯楽クライム映画だね。
主人公も含め登場するのは悪党ばっかりで
誰もがお金に目が眩んで誰かを蹴落としている。
死体がバンバン積みあがっていく展開ながらも
対象はそんな自業自得のヤクザもんオンリーで
カタギの方々は誰一人傷つかないという
最高のルールが敷かれている世界観は安心安全。

若かりし北大路欣也が演じる主人公の
野心にギラついた魅力も素晴らしいが
ライバル役の梅宮辰夫が見せる
飄々とした不良刑事像がまた良いね。

奪われた現金をめぐって二転三転する
スピーディな展開が心地よく
もはやコメディタッチとまで言える
裏切って裏切られての掛け合いも実に楽しげ。
ただただ、イカしたBGMに乗せて
お馬鹿連中の辿り着く行く末を見守っていれば
間違いのない一品。

何より、野暮ったい時間が全くなく
安っぽさや荒唐無稽が不快には繋がらないという
邦画では中々に見られない
絶妙な空気を持つエンタメ良作。





『死刑執行人もまた死す』 1943年
監:フリッツ・ラング  主演:ブライアン・ドンレヴィ
★★★★☆


ナチス占領下のチェコスロバキアにおいて
副総督暗殺の犯人が炙り出される物語。

ユダヤ系の名監督フリッツラングによる
実在の事件をモチーフとした1943年公開の反ナチス映画。

まずは息をつく暇も無い怒涛のサスペンスと
メリハリの利いた鋭い絵作りに惚れてしまう。
キャラクターの立たせ方も見事で
無駄なキャストは誰一人存在せず
全編、全ての仕掛けが物語の核心へと誘う
一級のエンターテイメント作品。

物語は単純なゲシュタポとの対立構図ではなく
あくまで、狙撃犯である活動家の主人公と
一般市民側との関係性がメインであろう。
生命の危機を担保とされた
密告と脅迫による社会構造の心地悪さが
節々に現れている。

そして、そんな社会構造からは
決して誰も真実には到達し得ないだろうと言う
見事に楽観的でありかつ皮肉に満ちた
希望と勇気と誇りの映画だね。
明確なプロパガンダ映画でありながら
仮にいつの時代、どの舞台に置き換えても
完璧に成立する芯の通ったテーマ性が素晴らしい。

無論、現実は遥かに悲惨で深刻であったろうが
後の時代にいくらリアリティを検証した作品を撮っても
1943年当時のこの空気は出せまい。
最後の一文字がいつまでも心に残る傑作。





『死刑台のエレベーター』 1958年
監:ルイ・マル  主演:モーリス・ロネ
★★★★☆

自らが勤める企業の社長婦人と不倫の末、
ついには、夫の殺害を決心する主人公が辿る
犯罪過程を描くお話。

サスペンス映画に必要なのは
一に緊張感、二に情緒であろう。
この事を見事に再認識させてくれる傑作映画。
頭でっかちなミステリーと違い
狙われているのはあくまで観客の心の機微なんだな。

大筋としては実にお間抜けな主人公。
結果、十分に追い詰められた状況に立たされながら
何の根拠もなく余裕綽々な彼の態度には
思わず何か次の展開を期待してしまう。

また劇中において主人公と一度も邂逅しない
ヒロインの言動が実に切なく美しい。
ちょっとしたすれ違い、ミス、誤解の末に
あるいは有り得たかもしれない二人の幸福な将来は変遷する。
裏切られたと思いつつも、その愛にすがり続ける彼女の情念が
僅か一晩の物語に全て込められている。

マヌケ男と馬鹿女の結末と、ストーリーを片付けるのは簡単だが
映画は、その過程こそにある価値を描いても良いわけだ。
そんな良作。





『地獄でなぜ悪い』 2013年
監:園子温  主演:長谷川博己、他
★★★☆☆

映画作り青春を捧げてきた三十路手前の若者達と
抗争に明け暮れるヤクザ連中が繰り広げる
ドタバタなナンセンスコメディ。

全編、ツッコミ所満載のしょもない作りなのだが
決してだだスベリでもなく、テンポが悪いわけでもなく
むしろ130分の長尺を物ともしない疾走感に溢れている。

往年の様々な映画ジャンルが入り乱れる
製作者側の楽屋落ちノリが全編を支配し
悪ふざけで入れていたようなシーンばかり目に付くが
その全てが綺麗に物語に収束していくのだから立派。
脚本の完成度の高さが美しい。
むしろ、欲張りでサービス満点の一本だろう。

過激バイオレンス描写も相まって
笑わせながらもどこか毒に満ちている
あらゆる意味でちょっと痛い映画愛に満ちた一本。
レーティングがPG12で抑えられていることからも
あくまで笑って見られる健全な過激作品だな。





『地獄の黙示録』 1979年
監:フランシス・フォード・コッポラ  主演:マーロン・ブランド、マーティン・シーン
★★★★☆

ある人物の暗殺指令を受けた部隊を主人公とする
ヴェトナム戦争映画。

映画には、大作であること自体への喜びというのは
間違いなく存在するよね。
そんな期待を120%満たしてくれる超ボリューム作。
有名な『ワルキューレの騎行』をバックに武装ヘリが暴れまわるシーンなどなど
決して忘れられない圧巻シーンが多数存在し
一体、どれだけの手間で撮られたのかと
思わず溜息が漏れる贅沢演出、芸術演出が目白押しの一本。

しかし、この作品をより強く記憶に残すのは、
物語がそういった映像の美学を遥か超えた世界へと
一方的に歩を進めていく点だろう。
基本はヴェトナム戦争に対する懐疑的な立場を
主張する映画ではあるはずなのだが、
その表現方法が、あまりにも多岐にわたり
また複雑怪奇であるために
視聴者は全くもって取り残されてしまう。
あくまで狂気の映画として作られた作品であるのだが
しかし、それを製作側の独り善がりとして切り捨てられないのは、
前述の大作性、芸術性に、先に魅了されてしまった弱みだろう。
少なくとも視聴中は誰もが引き込まれてしまう。

特に暗殺目標である大佐のキャラクターは強烈で
彼が何を言っているのか、何をしたいのか
何故、こうなってしまったのか……
その真意を理解するのは至難の業。
狂人である事は間違いないながらも
あるいは、彼を理解できないのは
自分の側が愚かだからではなかろうかと
思わず考えてしまう不思議なパワーがある。

映像で楽しむだけでも十分に満足できるし
内容に思いを馳せれば底はない。
一度はご覧いだきたい怪大作映画。






『地獄変』 1969年
監:豊田四郎   主演:中村錦之助、仲代達矢
★★★★★

傲慢な雇い主に追い詰められていく一人の絵師が
「地獄変」を描く屏風の真の姿を求めるため
最後には……という有名なお話。

傑作邦画の定番スタイルとも言える
ほぼ室内における二人の姿を丁寧に丁寧に描ききるタイプ。
このタイプの傑作は、脚本と演出と演技の全てが一級品で
初めて成り立つだけに贅沢の極地とも言える作品だろう。
追い詰める大殿に萬屋錦之介、追い詰められる絵師に仲代達矢。
名優二人の鬼気迫るやりとりに要注目。

邦画名作には必ず仲代達矢が居る……
この人はもっと伝説として扱われてしかるべき。





『地獄門』 1953年
監:衣笠貞之助  主演:長谷川一夫、京マチ子
★★★☆☆

平安末期、人妻に横恋慕した駄目すぎる男が
押して押して押し通す悲劇のお話。

綺麗だな。
うん、綺麗だ。
1953年にこの映像を残したというその一点だけでも
十分な価値のある映画です。
圧倒的な美術大作で、元気のある映画界は良いと素直に思える。

カラー映画であるという事に徹底した拘られた
色への拘りは溜息が出る程に美しい。
美しいと言っても、淡い色ではないのだよ。
この時代の毒々しいまでの派手さと
本当に多彩な色を惜しげも無く使い切る思い切りに拍手。
リマスターされた映像ならば、一見の価値有り。

ただし、あとは酷い話だけが印象に残る映画かな。
役者の熱演も手伝ってジャスト90分なら一芸も可だろうが。





『シザーハンズ』 1990年
監:ティム・バートン  主演:ウィノナ・ライダー、ジョニー・デップ
★★★☆☆

町外れのお城に一人で住み着いていた
両腕がハサミという不思議な男。
彼はあるきっかけで町へと降りてきて
一旦、町の人気物となるのだが……というお話。

「ハサミ男」というインパクトと
その設定から派生する仕掛けの面白さで
十分に駆け抜けられる良作。
ティム・バートンらしいどこか非現実的な世界観も素敵で
ダークな造形物や、ホラー気味の演出、荘厳な音楽との掛け合いなど、
見所の多い映像作品。

ただ、お話はシンプルな代物で
ヒューマン映画の中では一大ジャンルとも言える
「知的障害」物の範疇だろか。
もしくは童話として見れば良いのかな。
人里外れた山から人間ではない何か
それも極めて純真な何かを連れ出したとしても
結局、それは世俗の中では生きられずに山へ帰ってしまう…
そんなお話だが、どちらにせよ真っ向から取り組んだ物ではなく
期待をすれば確実に物足りない。
記号にすぎる町の住人達で冷めてしまうね。

やはり主人公のキャラクター像自体と
美しい映像演出の数々を楽しむ方が主題の映画かな。






『史上最大の作戦』 1962年
監:ケン・アナキン、ベルンハルト・ヴィッキ、アンドリュー・マートンル  主演:ジョン・ウェイン 他
★★★★☆

1944年6月6日。
いわゆるノルマンディ上陸作戦の開始日
この僅か1日だけの姿を3時間の尺で余すトコロなく描くお話。

アメリカ軍あり、イギリス軍あり、自由フランス軍あり
現地のレジスタンスあり、もちろんドイツ陣営もありと
この描き方だけで実に豪華。
オマハだけが当日の作戦ではないのだと言わんばかりに
様々な立場、様々な任務を負った部隊の姿が
贅沢に取り上げられているのが長い尺を決して飽きさせない。
陣営ごとに撮影も監督も違うのだもんね。

原題"The Longest Day"の名が現す通り
本当に長い一日の始まり。
反抗作戦はいつになるのか、一体ドコを渡るのか、天候はどうなのか…
この各部隊、各陣営の視点から見た緊張感が素晴らしく
ただドンパチだけの映画ではないメリハリに溢れている。

そして、衝撃の映像である後半パート。
本当に凄い物は、ただそれだけで凄いと納得できる
その実直な撮り方こそがスケールの大きさを肌で感じさせてくれる。
余計な技術やカッコヨサを省いた映像はやはり力強く
特に終盤のワンカットの凄さは筆舌に尽くし難い。
一体、いつまで続くんだろうと言う程に長く
そして幅広く雄大なロケ地の映像の数々
『史上最大の作戦』と邦題をつけたくなる気持ちも納得。

決して、何かを前面に出した映画ではなく
ただただこの史上最大の上陸作戦の初日を描くだけ。
だからこそ綺麗に腑に落ちる作品。
大作としての使命の元に生み出された記念碑的映画。





『史上最大のショウ』 1952年
監:セシル・B・デミル  主演:チャールトン・ヘストン
★★★☆☆

大規模サーカス活動の実態を描きつつ
空中ブランコの花形スターや、悩める団のボスを交えた
人間ドラマのお話。

尺の5割がサーカスショー映像で占められ
残り半分をサーカス裏側のドキュメントと
団員達の人間ドラマで分け合う不思議な構成の映画。
しかし、その僅かな時間の中ですら
誇り高き登場人物達は十分にカッコよく
余裕でエンタメができているのが素晴らしい。

空中ブランコの花形を争う男女に
サーカス団のボスを交えての軽妙な三角関係は楽しく
謎の道化師役が仕掛けるアクセントも上々の働きを見せる。
あるいはボス役のチャールトン・ヘストンの渋みを味わうだけでも
十分に楽しめる作品だろう。

そしてこの映画が超大作たる所以である
サーカスシーンの映像は見事の一言で
豪華絢爛、圧倒的なその規模をよくぞ撮ったもんだと
文句のつけようがない大スペクタクルで
与えられた使命の全てを満たした良作です。





『静かなる男』 1952年
監:ジョン・フォード  主演:ジョン・ウェイン
★★★★☆

アメリカで心に傷を負い
故郷であるアイルランドへ帰郷した男を取り巻く
田舎ならではの人情物語。

古臭い慣習には
当然、良い部分もあれば悪い部分もあるよね。
アイルランド気質の何と頑固な事か。
既に惚れ合っている男女の結婚一成立させるのに
ここまでの紆余曲折があって良いものか。
見ているだけで疲れ果ててしまう内容で
男も女も強すぎだろう。

しかし、堅苦しいだけが全てではなく
噂話が大好きで、賭け事にも目はなく、何よりも喧嘩っ早い。
誇りや名誉を大事にする彼らならではの大狂乱も
確かに存在するのだ。

男気溢れるジョン・ウェインの振る舞いと
アイルランド気質との融合の連続。
そして全てが吐き出されるような痛快な終盤戦。
笑いに笑って、最後はスカっとして……
視聴後の気分の良さは保証できる傑作。




『静かなる決闘』 1949年
監:黒澤明  主演:三船敏郎
★★★☆☆

戦時中、患者から梅毒に感染した軍医が
終戦後に人生を悩むお話。

何という高潔な映画だろうか。
主人公と許嫁のあまりに純粋な魂に参ってしまうわ。
人生に絶望して病院に流れ着く女性が隠れ主役で
二人の人間像にほだされて救われる物語かな。
この千石規子なる女優の存在が素晴らしいね。
志村喬が脇役に回った三船敏郎の単独主演映画だが
彼のインテリ高青年っぷりだけでは少しパンチが弱い中
彼女が見事なアクセントになっている。

他人を思いやり、その行為により自分の心も救う。
素晴らしい人間の優しさと尊厳が垣間見える作品ながら
俗っぽさから完全に隔離された世界観が馴染むかは
それぞれだろうか。
100分足らずの尺の中に文学世界の香りもする一本で
この後に制作される
大長編『白痴』に続く流れかもしれないね。

1949年公開。
これはもうシンプルに「梅毒 危ないよ」という
性教育啓蒙映画でよろしいでしょうか。





『沈まぬ太陽』 2009年
監:若松節朗  主演:渡辺謙
★★☆☆☆

未曾有の旅客機事故の後処理を行う事になった
エリートサラリーマンが辿る人生のお話。

尺が長い割には
描く場所が散漫でいまいちテーマが見えてこない。
原作が良すぎる作品の映像化は難しく
特に山崎豊子物は、連続ドラマ以外にほぼ当たりがないのは
大元の密度が高すぎるからだろう。
もちろん、尺自体は長い方が良いのだが
半端な尺で欲張ったとしても
さわりしか描けないという良い例となっている。
ダイジェストにもなっていないよ。

古い原作だが、21世紀にはJRの大事故があったりと
このテーマが不変である事を確信した矢先に
こんな映画化ではもったいない。
あと、労組絡みが社内でじゃれ合ってるようにしか見えないのは
時代の象徴だろうね。






『七人の侍』 1954年
監:黒澤明  主演:志村喬、三船敏郎 他
★★★★★

野党に狙われ続ける貧しい村落に雇われた侍達が
百姓達との対立と協力を繰り返しながらも
堂々と立ち向かっていくお話。

207分の超大作。
七人の圧倒的な個性、手に汗握る作戦の連続や
大迫力のアクションシーンの数々
加えて、相容れぬ百姓と侍とが繰り広げる重い展開と
3時間27分、一秒足りとも無駄にした尺は無し。
争いの勝敗はどうなるのか、誰が生き残り、誰が死ぬのか
どんな場面からも最後まで拭えない緊迫感に満ち
これほどの密度で詰め込める物かという
全く隙のない大傑作。

兵農分離が進む前の室町末期における
江戸とは違う百姓の生き様は、今ではメジャーなお話だが
この映画こそがまず広めたのかもしれないね。
偽りではなく誰かに作られたでもない
納得できる日本観が素晴らしい。
美術面からの説得力が如何に大事かも実感できる。

黒澤明がこれまで丹念に育ててきたヒューマンドラマ映画と
この後に連発する一大エンターテイメント映画の要素とが
みごとに両立している紛う事なき記念碑作品。





『七人の無頼漢』 1956年
監:バッド・ベティカー  主演:ランドルフ・スコット
★★★☆☆

何かを心に秘めた主人公が南へと旅する
道連れ道中の西部劇。

訳アリの空気を出した個性ある面々が出会い
少しづつ目的が明らかになっていく
ミステリー仕立てが楽しめる作品でありながらも
僅か80分弱の短い尺の中に
全編、雄大な西部の乾いた景色が拝めて
馬あり、景色あり、ロマンスあり、撃ち合いありの
きっちりとした楽しみ方ができる贅沢な一品。

主演の中年保安官の渋さもあり
ヒロインの神々しい美しさあり
若手ライバルの不遜なカッコよさもある。

西部劇ならではの魅力を堪能しつつも
要所要所で緊迫のある演出もしっかりと味わえる良作。




『七年目の浮気』 1955年
監:ビリー・ワイルダー  主演:マリリン・モンロー
★★★☆☆

当時のアメリカ社会、特にハイソサエティを舞台にした
お気楽恋愛コメディ映画。
こんな仕掛の作品においてさえ
完璧な仕事をするからビリー・ワイルダー監督は侮れない。

結婚7年目、真面目一辺倒の夫が迎えた数日間の一人暮らしに
突如、自由奔放の美女がご近所さんとして現れる。
それだけで十分に舞台としては面白いのだが
セックスシンボルとして極まったマリリン・モンローの存在感が加わることで
実にくだらないコメディ作品が、一度見たら忘れられない衝撃作に早変わり。

直接な表現は何一つ存在しない健全な映像の中で
どうして、あれほどに彼女は性の対象に成り得るのだろうか。
動作の一つ、表情の一つ、気だるい言葉遣い一つ一つが
どれも実直な夫が浮気へと堕落する対象として完璧。
確かに既存のハリウッド女優とは根本的にタイプが違う。
彼女の漠然としたイメージ映像で有名なスカートが捲れるシーンも
元ネタはこの映画なわけだしね。

主人公が幸せになったかどうか、
家族としてのテーマがどうなのか
そんな事は一切に知った事ではなく
ただただ、唐突な美女に翻弄される様に酔いしれる一本。





『七福星』 1985年
監:サモ・ハン・キンポー  主演:サモ・ハン・キンポー
★★☆☆☆

『五福星』、『香港発活劇エクスプレス 大福星』に続くシリーズ第三段。
例によって悪ノリ五人組がマフィアと戦うお話。

悪ノリと空回りの一線を超えてしまった三作目かな。
肝心の掛け合いが、どーにも単調で面白くない。
以前に使ったネタの繰り返しや
明らかにテンポの悪い間の取り方が
冗長な感覚を助けているのだろうか。

最大の問題は二枚目ナンパ男である
チャールス・チンの事実上の欠席にあると思う。
彼が居なければこの五人組の掛け合いは回らないという事が
痛い程にわかってしまう。
純情なサモ・ハンが騒いで、お馬鹿なサイコ連中が盛り上げて
ダンディな彼が場を締めてなんぼだね。

加えてより事態を悪化させてるのは、
構成がグダグダになってきた点。
このシリーズの主役はあくまでサモ・ハンであり
「お馬鹿5人組」のナンセンス友情物なんだよ。
ところが、今回、ゲスト的に毎度登場している
ジャッキー・チェンと、ユウ・ピョウが出張りすぎて
もはや刑事者と区別が付かなくなってるのね。
無茶な構成も勢いの内として楽しめた前二作と比べ
これは明らかに欲張りすぎて失敗した結果。

どっちにも突き抜けられなかった
ナンセンスコメディ程、可哀想な物はないよね。
そんな三作目。
一応、さらなる続編もあるようだが
日本語版の話を全く聞かないのも納得だろうか。






『十戒』 1954年
監:セシル・B・デミル  主演:チャールトン・ヘストン
★★★☆☆

旧約聖書として有名に過ぎる程に有名な
モーセ一行のエジプト脱出を描いたお話。

いわゆる大予算、大人海戦術、大美術セットの超大作系。
どれだけ古くとも本物は本物と
素直にそう感じられる本格派の一大史劇作品。
時代の怪物みたいな作品だよ。
セシル・B・デミルへの功労賞みたいな作品なのかね。

ただ当時としては全てが満点だったのだろうが
特撮シーンにかんしては今見ると違和感大で
時代と技術の勉強にしかならないのが残念。
古い低予算の作品ならそれも受け入れられるが
この映画は現代では再現不能なレベルの超大作に仕上がっているため
そこだけが異常にチープに見えて気が抜けてしまう。

本当に拘って作られているので一見の価値はあり。
3時間45分、心して見るべし。
ストーリーの感想は旧約聖書に詳しくないので止めときましょう。
映画に対する脚本の粗に文句を言ったつもりが
それ「原作」通りだと言われると対応に困る。






『自転車泥棒』 1948年
監:ヴィットリオ・デ・シーカ 主演:ランベルト・マジョラーニ
★★★★☆

再就職の条件として必要だった自転車を
不手際で盗まれてしまった主人公が
息子と二人で必死の街中の捜索を始めるお話。

こんなに悲しい映画があろうか。
人の悪意に揉まれた人間は
結果、道を踏み外す。
この帰結ではあまりにも辛かろう。

圧倒的なリアリティ演出の中
丹念に自転車を探して苦心する親子の姿を
淡々と描きつづける作品で
物語は誰もが目を覆いたくなる悲劇を生む。

貧しさ、荒々しさに包まれた街で起こった
たった一つの窃盗事件が
こうも人生、家族関係を狂わせる物か。
それを招いたのは住人の誰もが少しづつ持っていた
人間の悪意なんだよな。
誰もが自分の周囲と生活が大事なのだ。
主人公は貧しくとも日々の僅かな団欒こそが
十分に幸せな事なのだと気付いていたはずだ。
気付いていてなおそれは起こる。
悲しいという言葉を通り越して虚しさに満ちた作品だね。

独特の情緒と緻密な演出に溢れた
ザ・ヨーロッパ映画。





『忍びの者』 1962年
監:山本薩夫  主演:市川雷蔵
★★★☆☆

戦国時代に活躍した忍びの里の勃興を描いたお話。

展開は意外性が多く描写も悪くはない。
実に上々な時代劇として成立はしているのだが
全般、映像表現ががヌルめかな。
忍者映画として記念碑的な作品なのだろうが
以降の作品に触れた身からすれば
「忍び物」としての満足度は満たしてくれるには
さらに重くて泥臭い世界観が欲しくなる。

セットや野外シーンの迫力は素晴らしいのだが
大映らしい大作映画をやればやるほど
「忍びの者」とのイメージとはかけ離れ
浮いてしまっているのが残念。

狂四郎や机竜之介とは全く違う
ニヒルさの欠片もない明るい市川雷蔵は良いね。
唐突な空気のエンディングに違和感大だがご愛敬。






『続 忍びの者』 1963年
監:山本薩夫  主演:市川雷蔵
★★★☆☆

前作で忍びの里を潰された主人公が
信長、そして秀吉を仇として狙っていくお話。

今作は骨太。
忍の技や里の仕組みを説明する事がメインだった前作と変わり
戦国の裏を駆け抜ける一本通ったお話が面白い。
特に光秀と信長の溝を広げるために暗躍する姿が素敵で
忍者による諜報活動の妙が丁寧に味わえる。

そして、主人公は自ら望み、最もやりたい事を行い
心の底から半蔵の情報に助けられてはいるものの
結果としては、全ては家康陣営の手の内という筋立てが凄まじい。
相手に不利益を与えるような騙し方は本物とは言えず
相手の望みを本当に適えつつ、それを自身の利益とする。
それが本当の策略なんだろうか。
いや恐ろしいね。

今回は、テーマが戦国時代ならではの舞台に移っているため
本能寺や合戦のシーンも違和感なくはまっている。
特に信長の最後のシーンは見物で
大作感満点で楽しめるようになった良作。




『Gのレコンギスタ I 行け!コア・ファイター』 2019年
監:富野由悠季  主演:石井マーク
★★☆☆☆

宇宙と地球がエレベーターで行き交うSF世界を舞台に
運命と立ち向かう少年の冒険物語。

所謂、ガンダムシリーズに連なる作品だが
単体の映画として楽しめる連作1作目。

聞き覚えのない単語や小難しい設定が飛び交う
文化と科学技術に溢れた世界に唐突に放り込まれる構成ながらも
まずはキャラクターの魅力が全てを許してくれる。
飄々としながらも時折、等身大の少年性を見せる主人公も良いが
高慢で理不尽、当たりの強いヒロイン像が特に見もの。
明らかに「嫌な女」であるはずの彼女が
道中、ふと好きになってしまう瞬間が確実あるんだね。
嫌な因縁を持ってしまう主人公の少年と共に
予測もしない数々の事態に向き合う事を強いられ
その過程でしっかり生の感情を抱きながら人間的に揺れ動く姿が実に良い。
彼らの言動を楽しんでいるうちに
気付けば難しかった世界観にも自然と引き込まれている作りは見事。

時折、状況を整理するためか
過剰な前置を含むセリフが入るのはご愛敬。
一個一個のエピソードが懇切丁寧に作られた完璧な映画というわけではないが
ジェットコースター的に話が進むテンポも
その忙しなさが彼らの置かれた立場とリンクする仕掛けとして上手く働いている。
決して、超越者が牛耳って語る頭ごなしのお話ではなさそうで
かつ、拘りのメカニックやSF的な要素を押し付けてくるでもなく
あくまで一個の人間しての主人公たちの運命をメインに据え
緩く緩く追いかけられる空気感が心地よい。

細かい映像描写の面白さも相まって
気付けば100分弱が過ぎ去る密度の高さ。
不思議と続編に期待できる一品。




『Gのレコンギスタ II ベルリ 撃進』 2020年
監:富野由悠季  主演:石井マーク
★★★☆☆

ガンダムシリーズながらも独立した世界を持つ
全5本からなる連作映画第2段。

魅力的な主役キャラクター達の言動を
ただただ追うだけで楽しめる作りは踏襲しつつも
少々戦闘描写の尺が長く、前作よりは物語性が薄く感じてしまうかな。
それでも、自分たちの選択とは何の関係もなく
嫌が応にも目の前に迫りくる現実に直面する事での
葛藤や成長を描いていく共感ぶりは楽しい。

複雑に散りばめられた世界観も
少しづつピースが埋まり全体像が見えてくるが
むしろこの世界は誰が敵で誰が味方かという
シンプル二元論で誰も説明をつけられない部分こそが
主題なのではなかろうか。

シーンごとにハッとさせられるセリフ回しや
楽しいシーンも多いには多いが
どうにも繋ぎの一本の印象が強いかな。




『死亡遊戯』 1978年
監:ロバート・クローズ  主演:ブルース・リー
★★☆☆☆

マフィアとの契約を迫られた映画スターが
自由と誇りのために戦い抜くお話。

これはカルトムービーの域だろう。
ブルース・リーの死後に、残された断片的なフィルムを繋ぎ合わせて
作られたという曰くつきの一品。
基本はソックリさん、合成、過去作品の使いまわしの三本柱で
常に主人公がサングラス姿だったり
大怪我によって顔の形が変わってしまったり
正体を隠すために、付け髭などで変装していたりと
本人抜きを成立させる無茶展開の連続。

待ちに待った終盤でこそ
本物による格の違う演舞が楽しめるのだが、
既存のストーリーと、あまりに異なった舞台には思わず苦笑。
「各階一人の達人と対決する○重の塔」という
突然の武術系の世界観の登場に
一体、映画スターとマフィアの抗争話は何所へ行ったと大慌て。
こんなにも整合性が取れない映像が残っているなら
何故この脚本になったのか疑問すぎる。

ただし、この決戦シーンに限っては
お蔵入りさせるのは勿体無いという気持ちはわかる。
少しコミカルな雰囲気もありつつ、メリハリを忘れない
短時間の決戦シーンの連続で
ブルース・リーアクションの一つの完成形だろうね。
かの有名な黄色いファッションもこの作品で
完成しなかったのが実に惜しい。

映画と言うよりはファンフィルムとして
軽い気持ちで見る作品かな。





『シマロン』 1931年
監:ウェズリー・ラッグルズ  主演:リチャード・ディックス、アイリーン・ダン
★★★☆☆

移り行くオクラホマの発展を舞台に
西部開拓者の数十年にわたる生き様を描く物語。

超大作映画ですね。
冒頭、インディアンの土地を早い者勝ちで
入植可能にすると言うレースのようなシーンの
あまりの大スケールにまず度肝を抜かれる一品。
そして、時代、時代のオクラホマの町が
全く同じ道路を基準に、どんどん発展していく様も見事で
この時代に一体どれだけの手間を掛けて撮られた映画なのかと恐れ入る。

物語は冒険心溢れる西部のアメリカ男を描きつつ
その裏では実直に家族を育み続ける女性の姿も大切にする物で
理想的なアメリカの姿は素直に美しい。
実に保守的な腐れ縁の数々も雰囲気抜群。

西部劇という枠に止まらず
西部開拓の様から、現代(1930年)までをしっかり繋ぐ
そのスケールの大きさが魅力だろうか。
インディアンへの市民権なり、女性の政界進出なり
アメリカ全体の時系列をも絡ませるテーマは多彩で
ほんの30〜40年前から、現在までの社会を振り返るという意味で
これは1930年当時のノスタルジー映画なんだろうと納得できる。

その点からしても、往年の名画を見る浪漫に思いを馳せられる
丁寧で感慨深い良作です。





『シマロン』 1960年
監:アンソニー・マン  主演:グレン・フォード、マリア・シェル
★★☆☆☆

上記作品のリメイク。
圧倒的な大スケールはそのままに
オクラホマの歴史を追うお話。

しかし、描かれる大筋こそ同一なのだが
今作ではアメリカという国家が発展する様を
人々の内面から描きだすような一大叙事詩からは
一歩遠ざかっている気がする。
何故あれほど多彩だった群像劇を捨ててしまったのだろう。
特に先住民問題一つにマイナス要因の全てを負わせるスタイルは
どうしてもスケールダウンという印象が残る。

では、主題は一体どこに移ったのか。
これが見つからないんだよね。
主人公の古き良きアメリカ人たる男前っぷりもやや空回りで
これではただの空気の読めない人だろう。
何故、新年が明けた瞬間を狙って最悪の話を切り出すか
何故、わざわざ土産を送って手紙の一つも入れないか……
下手に期待させてからのガッカリ行為の数々が
もはや、嫌がらせの域にしか見えないのはどうなのか。
奥さんが怒るのも人生観の相違などではなく
ただそのせいなのではないかと思えてならないレベル。
せっかくの新聞社も記号にすぎないしね。

社会の重苦しさをとっぱらい、人生譚もとっぱらい
開拓精神の尊さもとっぱらい
ただただ、淡々と運ばれるストーリーを豪華家像で彩る薄味仕上げ。
悪すぎるという事はないのだが
下手に冒頭の驚愕映像で盛り上げくれるもんで
この気持ちの落とし所に困る一品かな。





『市民ケーン』 1941年
監:オーソン・ウェルズ  主演:オーソン・ウェルズ
★★★☆☆

1930年代のアメリカを舞台に
新聞王と呼ばれたある大富豪の人生を
彼の死を契機に、残された人間の視点から迫るお話。

主人公が既に死んだ状態から物語が始まり
彼と関係の深かった人間が続々と登場して
各々の思い出を語り、回想していく形で
一人の人物像を構築されていくというプロット。
この面白さの時点で勝ちだよね。

ただ、回想シーン自体に寄り過ぎかな。
せっかく他者の口を借りていながらも
本人が登場する回想シーンが長々と続き
結局はそのまま彼を主人公にして人生譚を描いた映画と
そう変わらないイメージが残ってしまう。
中身も、大富豪だけが持つ負の精神の部分が
多分に強調される奇人変人タイプの物語で
時代を考慮しても、取り立てて珍しいわけではない。
このアイディアならもう少し先鋭化してくれても良いものだが。

だがそれよりも、この作品の魅力は映像だろう。
どのカットを切り取っても構図の一つが既に面白い。
特に陰影のメリハリが素晴らしく
暗い個所は見えずとも構わないと言わんばかりの大胆な色の深さが
作品の停滞した雰囲気と繋がって
実に独特な荒々しさが楽しめる傑作映像集。

良く作り込まれているという月並みな言葉が
これ程によく似合う作品も珍しいのではなかろうか。
その点では世間に衝撃を与えたと言う立ち位置は
今見ても十二分に伺える。






『下妻物語』 2004年
監:中島哲也  主演:深田恭子、土屋アンナ
★★★☆☆

自分以外、世の中に全く興味が無いと言い張る
ロリータファッションの冷めた女の子が
お馬鹿な熱血ヤンキーの女の子と付き合っている内に
少しだけ自身を見つめ直していくお話。

まず淡々としたナレーションを中心にした
とってもお馬鹿で、悪乗りな再現映像に面喰らう。
メジャーどころだと
『トム・ジョーンズの華麗な冒険』に近いノリと言おうか。

どう考えても空回りした寒々しい演出の数々なのだが
繰り返す内に自然と受け入れられているペテンのような作品で、
まして、キャラクターを楽しむコメディのはずが
いつの間にやら中身が人情劇になっているという不思議。
純然たる少女の成長物語だぞこれは…

ふざけた映像演出を垂れ流して
ギャグでしかない人物像を楽しませつつも
その中に、ピンポイントに本気を匂わせてくる。
この際立ったメリハリが飽きさせない
進めば進む程にテンポの上がる見やすい映画です。
冒頭やイメージで感じるより、遥かに良作ですよね。

あと、深田恭子、土屋アンナの両名は稀有の才能ではないだろか。
演技の良し悪しを超越するタイプのスター個性。





『シャーロック・ホームズ』 2009年
監:ガイ・リッチー  主演:ロバート・ダウニー・Jr、ジュード・ロウ
★★☆☆☆

みんながお馴染みのお話を
一風変わった暴力的で荒々しいホームズが送り届ける作品。

飛び抜けたホームズとワトソンのキャラクターが全て。
ただし、派手なシーンばかりに対して
ベースとなるお話はずっと地味なので
この二つの要素が噛み合わない雰囲気が続くのがやや辛い。
落ち着いてじっくり描けば映えるお話と
テンポよく進めれば映えるド派手シーンが
個別では悪くない中で各々断絶しているのがもったいない。

肝心のキャラクターも、最初こそ面白いけど
この程度ならば"映画においては"何処にでもいる普通の人でしょうか。





『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』 2011年
監:ガイ・リッチー  主演:ロバート・ダウニー・Jr、ジュード・ロウ
★★★☆☆

暴力ホームズを描いた第二段。
前作と同じ設定を引き継ぎながらも
作風はよりアクション寄りに。

基本的な感想は前作を踏襲するが
若干、テンポが小慣れているために見やすくなった一本。
やはり変人ホームズのキャラクターに
魅力を感じる事が出来ない事が全てだろうが
あれでは何処にでも居るアクションスターでしかない。
何のためのイギリスか、何のためのホームズか。

また相棒のワトソンの存在がおざなりで
これではただの用心棒か何か。
ホームズから彼への愛情が一方的に過ぎて、
あれに応える様は人付き合いの良さでは少々説明が付かない次元へ。

もはや、ホームズである事自体が一つの弱点になっている
ただ映像の雰囲気が良い佳作アクション映画。





『ジャイアンツ』 1956年
監:ジョージ・スティーヴンス  主演:エリザベス・テイラー、ロック・ハドソン
★★★★☆

アメリカは東部の名門家から
テキサスの大牧場主へと嫁いだ主人公の
何十年にも渡る家族の生き様を描くお話。

まずは大スケールに驚く作品でしょう。
奇をてらわず素直に撮られた雄大な映像の数々は
それだけでアメリカが如何に広大な国か
そして、テキサスの大地とはどういう物なのかを見事に伝えてくれる。
まさにスケールが違う。

扱われるテーマも多彩で
一つ家庭の姿から丁寧に映し出される
テキサス流が実に心地よく面白い。
東部のインテリ妻とぶつかる価値観の差異や
女性やメキシコ系への根強い差別意識からは
彼らの駄目すぎる側面を見て取れつつも
その実で描かれているのは
このアメリカン保守の最たるテキサス男達へ捧げられた
ある種の哀愁なのではないだろうか。
プライドが高く、我が強く、差別全開で
僅かなきっかけからすぐに殴りあう馬鹿連中。
しかし彼らのその姿と、アメリカ人のアメリカ人たる所以は
ある意味で表裏一体なのではなかろうか。
そのくらいに彼らの姿には愛嬌があり
微笑ましい側面も否定できないのだ。
ここが素直に感じられる演出は見事の一言。

本来なら悪者になるようなキャラクターですら
そのあまりの痛快さに功罪半々という感覚は何とも不思議。

しかし当時、まだ20代でありながら
若者から老齢までの変化を完璧に演じきった
エリザベス・テイラーと、ジェームス・ディーンは素晴らしいね。
200分を超える大作であり、あらゆる点でレベルの高い一本です。





『シャイニング』 1980年
監:スタンリー・キューブリック  主演:ジャック・ニコルソン
★★★★☆

曰くつきのホテルに、管理人として家族と住み始めた
小説家の主人公が次第に精神を病んでいくお話。

これは怖い。
ミステリーでもなければ、サウペンスでもない。
謎は不要、ドラマも不要。
ただただ作り出される映像だけが恐ろしい。
画面から生まれる圧倒的な緊張感の連続が
視聴者に一切の余裕を与えず、とにかく見ていて息苦しい。
こんなにも映像に入り込めるものだろうか。
映画『2001年宇宙の旅』を見た際に
SFとしての世界観や物語よりも
何よりその圧迫感に参ってしまった人は多かろうが
その空気感をホラーでやってしまった問題作。

ただの荒唐無稽な精神世界を描くだけの映画ではなく
その全てがエンターテイメントとして成立してるのが恐ろしい
キューブリック演出の集大成だろうね。
わけのわからん映画であることを逆手に取って
その全てを利用した大傑作。





『釈迦』 1961年
監:三隅研次  主演:本郷功次郎、勝新太郎
★★☆☆☆

大映オールキャストでお送りする
夢のような超大作映画。
古代インドを舞台に釈迦の一生を追うお話。

相変わらず大映の美術は凄まじい。
どういう判断を持ってすれば
このような大掛かりなセットを何十も製作できるのだろうか。
しかも70mmフィルム作品というオマケ付き。
ただし、映画としては淡白かな。
全体を通して面白い話があるわけでもなく
ダイジェストのようにスターが各々の出番を淡々とこなす感じが
どうしても最後まで抜けなかった。
大作である事に捕らわれ過ぎて退屈になる典型作品の一つだろか。

ある意味では『十戒』の仏教版か。
アメリカ人俳優が英語を喋りながら「古代エジプト」と言い張るのはOKでも
日本人俳優が日本語を喋りながら「古代インド」と言い張ると
途端に滑稽になるのはご愛嬌ね。
元々、きっちりとした記録の残っている時代でもなく
捉え方も多種多様な仏教物で、エピソード自体を語るのは野暮。
お釈迦様の神々しさを堪能できればそれで良しだね。

一エピソードで出演しているだけの市川雷蔵が
本郷功次郎、勝新太郎を抑えてトップクレジットなあたり
大映カースト恐るべし。




『ジャッカルの日』 1973年
監:フレッド・ジンネマン  主演:エドワード・フォックス
★★★★☆

フランスで起こるド・ゴール大統領暗殺計画の様子を
淡々と描き続ける実録風のお話。

指令を受けた暗殺のプロフェッショナルと
計画に気付き、犯人を探し始めた政府側が見せる
二面同時中継の面白さが光る。
両者を最後の最後に至るまで
一切、交わらせない覚悟が見事な一品で
緊迫の150分間の末に訪れる終幕シーンが
これまたシンプルで美しい。
ド派手なアクション捕り物シーンや、銃撃戦などなくとも
これだけの密度があれば、
観客は手に汗握り、画面に釘付けになれるもんだよ。

何より主人公のキャラクターが良い。
一見すれば実に好感を持てるイギリス紳士なのだが
作戦においては徹底して冷酷な姿へと変貌する
彼の人間味の無さが本当に恐ろしく映る。
真のハードボイルドとはこんな映画を言うのだろう。







『ジャッキー・チェンの醒拳』 1983年
監:チェン・ツァン  主演:ジャッキー・チェン 
☆☆☆☆

流派抗争の敗北によって身を隠しながら生き続けた
二組の親子に襲いかかる執拗な刺客との戦いを描くお話。

よくこんな作品を恥ずかしげもなく公開したもんだ。
ストーリーはいつものローウェイ系の復讐作で、
別段、悪いという事はないのだけど、
もちろん取り立てて良い点もみつからない。
前半おふざけ、後半大マジという構成は『笑拳』そのまんま。

問題はこの作品が、
そっくりさんと過去作品の使い回しで構成されている点。
つまり『死亡遊戯』式なんだね。
あの作品は終盤の名カンフーシーンがありますので
確かにあれをお蔵入りさせるのは
あらゆる意味で惜しいという気持ちはわかります。

こちらは特に見せたいシーンも存在しない中で
ただ公開するためだけに作った出鱈目映画。
理由もくだらなく契約問題で喧嘩別れしたから。

クライマックスシーンが
不自然に顔の映らない遠景アクションと
突然、背景が別の場所に変わるアップシーンの連続構成では
もう乾いて笑うしかないだろう。
古き良き香港は魔窟だなと思える無茶なカルト作。





『ジャッキー・チェンの秘龍拳/少林門』 1974年
監:ジョン・ウー  主演:タン・トゥリャン
★★★★☆

清朝より迫害を受ける少林寺を舞台に
裏切り者の暗殺を師匠より託された主人公が
仲間と共に強大な敵に立ち向かうお話。

まずこの邦題をつけた人が凄い。
今作においては、ジャッキー・チェンは脇役で
共通の仇で結ばれた武術三人仲間の内の一人でしかありません。

まず、彼らの醸し出す独特のハッタリがたまらない。
こんな世界観があるのだろうか
日本のサムライ映画とも、イタリアのウェスタン映画とも
また一味違うカッコイイ男達の物語で
キャラクター先行、ハッタリ演出先行
繰り返し多用される泥臭いテーマ曲と
やっている事は確かに上記ジャンルと一緒なのだが
これを中華武術の世界をあてはめられれば
こうも、オンリーワンの世界観が出るものかと驚かされる。
多くを語らず、ただただ目的のために命を賭して戦う
彼らの清廉な姿は格別でしょう。
ストーリーもドラマも全てが不要、
極限まで高まった一芸に魅了されるトンデモ武術映画。

何より、拳法の達人、剣の達人、槍の達人
そして、敵側が使用する謎武術、謎武器の数々
このアクションが徹底的にスタイリッシュなんだよね。
既存の殴り合いカンフーとは全く違う次世代の香りに満ちている。
これは武術指導のサモ・ハンの功績か、監督のジョン・ウーの功績か。
とにかくあらゆるシーンにおいて、
カッコイイ!! こうシンプルに叫べる傑作武術作。





『ジャッキー・ブラウン』 1997年
監:クエンティン・タランティーノ  主演:	パム・グリア
★★★★☆

メキシコから運ばれる50万ドルをめぐる
犯罪者連中と警察の攻防を描いたお話。

したたかな黒人女性主人公を主軸に
悪党から、助っ人から、馬鹿女から
もちろん警官までが入り乱れての大狂乱映画だね。
誰が心の底で何を企んでいるかまでは見せずに
最後までオチへの期待を楽しませてくれる
とってもスリリングな一品。

オールディーズなブラックミュージックをバックに
これまた何処かで見たような映画演出が
次から次へとごった煮でテンポよく連発される様が
物語を小気味良く盛り上げてくれて飽きさせない。
展開や人物像はやや入り組んで複雑な面もあるけど
このノリによるカッコ良さが問答無用に先に立つのが見事。

キャラクターもみんな怖くて過激ながらも
何処かお馬鹿な愛嬌を持っているのが楽しいね。
最大の魅力は何を置いても主演のパム・グリアだろう。
公開当時で既に40代も後半のはずだが
今作が彼女のための映画である事が誰の目にもわかる程に
美しく哀愁あり力強く、どこかセクシーな役柄になっている。

タランティーノ作品にしては過激な映像が極端に少なく
誰でも楽しめるエンターテイメント性に満ちた
良作クライムサスペンス。





『ジャックと天空の巨人』 2013年
監:ブライアン・シンガー  主演:ニコラス・ホルト
★★★☆☆

『ジャックと豆の木』のストーリーをベースにした
映像エンターテイメント作品

この手のアクションCG映画に突っ込むのも野暮とは思うが
あまりのご都合主義に閉口してしまう。
物語の全てが先に進む事だけを目標としており
主人公とヒロインの関係一つとっても
まるで二人が恋仲になる事から逆算したかのような
周囲の態度や偶然の繰り返しばかりで
生きた人間像やドラマが全く見えてこない。

巨人の里である天空の地も、果たして広いのか狭いのか
巨人自身も強いのか弱いのか……
とにかく作品を構成するパーツ全てが
曖昧な立ち位置のままで放置され
誰もが予想した結果だけが淡々と残っていく。

時代相応のSF映像には十分に納得しつつも
基本は拍子抜けの連続だな。

ただ、完結まで見た後で振り返るならば
作品としてはそれで成立はしているのだろう。
あくまでこれは、『ジャックと豆の木』という童話なのだからね。
割り切って見るならば
100分程度で綺麗に纏まって見やすい一本。





『シャッター アイランド』 2010年
監:マーティン・スコセッシ  主演:レオナルド・ディカプリオ
★★☆☆☆

精神を病んだ囚人だけを収容した孤島の施設へ
脱走者の捜査に乗り込む刑事のお話。

よく出来てはいる。
きっちりと緻密に作ってはいる。
ただ、それがどうしたのかという作品だろか。
どうも近現代の皆様はキチガイに興味を持ちすぎな気がする。

幻覚も見ず、トラウマに悩まされず、暴力にも犯罪に手を染めず
しっかりと世の中を生き抜いて天寿をまっとうする。
世の中、そんな真面目な人間の方がほとんどなわけで
それに対して、この人間像の一体何を理解して
何に心を入れ込めばよいかがどうにもわからない映画かな。

一つの描写としては構わないのだが
何かそれが崇高な物や大切な物かのように
精神世界描写を多様するだけではただただ苦痛で
それが要のネタではとても作品がオチはしないだろう。

また、それをもって敢えて話を理解させにくくして
さも謎解きミステリーかのような展開をとられても困る。
見直せば納得できるという仕掛け面の工夫に捕らわれすぎて
肝心の映画の見せ方を工夫しなかった作品だろうか。
その仕掛けを一芸と言うなら一芸映画。





『写楽』 1995年
監:篠田正浩  主演:真田広之
★★★☆☆

寛政年間の初期、華麗に花開いた町人文化を舞台に
僅か一年足らずの活動で姿を消したとされる
幻の絵師、東洲斎写楽の誕生を描くお話。

写楽の映画でありながら
その実は、多種多様な江戸文化の楽しさを描き出す一品。
まずはフランキー堺が演じる蔦屋重三郎が素晴らしい。
彼のアクの強さこそが全ての起点となり
そこに集まる喜多川歌麿であり、葛飾北斎であり
十返舎一九であり、もちろん写楽でありの
本当に人間くさい変人達の夢舞台は
彼らの力強さを楽しむだけで十分に面白い。

何よりも浮世絵などに全く理解のない人間が見ても
ここまで筋立てて登場人物や物語と連動されれば
確かに写楽の絵が「素人くさい」事がわかってしまう。
比べれば歌麿の技術は高いと、ちゃんと納得できてしまう。
だからこそ、写楽の絵が出す独特の可笑しさが伝わるわけだ。
その域にまで観客を高めて、正面から「絵」そのものテーマを描き切る。
なんと素敵な芸術作品だろうか。

写楽に伝わる不思議エピソードも
本当に丁寧に、一つ一つに理由を与えて
腑に落ちるような一本のストーリーを作っており
映画としても綺麗な仕上がりが楽しめる。
肝心の写楽自身は、さして面白い人間像では無いのだけどね。
創作活動に本当の一生を捧げた他のスター面子からすれば
パワーで負けるのは仕方が無いか。





『シャレード』 1963年
監:スタンリー・ドーネン  主演:ケーリー・グラント、オードリー・ヘプバーン
★★★★☆

殺された夫が残した曰くつきの25万ドルの財産の謎に
未亡人が巻き込まれるお話。

謎が謎呼ぶサスペンス。
何処に着地しても話が成立するため
最後まで緊張感が抜けない。
大掛かりではないが魅力的な仕掛けに満ちていて
話の帰結で楽しめる良作。

あとは、ケーリー・グラントとオードリー・ヘプバーンの掛け合いがメインかな。
何故、男はここまでカッコ良くなれるのか。
これが女性との過程を楽しむ気概だろか。
難しい状況にありながら決して余裕を忘れない
その堂々とした姿にノックアウト。
『ローマの休日』から10年経っているが、
それでもオードリー・ヘプバーンは、
シャレっ気のある男に翻弄される女性が似合う。
何と言う愛らしさだうろか。
この疑って惚れて、疑って惚れての繰り返しは
永遠に見ていても飽きないかもしれないな。

殺人事件を題材にはしているが
落ち着いてゆっくりと楽しめる古きよき映画。





『ジャンゴ 繋がれざる者』 2012年
監:クエンティン・タランティーノ  主演:ジェイミー・フォックス
★★★★☆

元奴隷黒人が引き裂かれた妻を取り戻すため
賞金稼ぎガンマンとして戦うお話。

西部劇でありながらも
主人公は、まさかの黒人ガンマン
大筋は大規模農園における奴隷話と
まるで掟破り自体を目的にしたかのような
革新的でありふざけた作品でもあるのだが
それでいて、完璧なマカロニカタルシスが有るんだよね。
何とも小粋なエンタメ大作。

ユーモラスな残虐描写という
やや矛盾した表現が極まった監督のお家芸や
過去作品から流用されたマカロニ哀愁音楽と
2012年らしい黒人色の強い最新音楽が
交互に入り混じる絶妙な世界観など
ただのノスタルジーな憧憬では満足せずに
自身の最新映画である事は主張しながらも
マカロニ西部劇への敬愛が自然と溢れ出てくる
素敵な一本に仕上がっている。

全てがいちいちカッコイイ。
本当にカッコイイ。
何を置いてもこの感想に尽きるだろう。
物語が進むにつれ、どんどん男前になっていく
新生黒人ジャンゴに震えるべし。





『シャンハイ』 2010年
監:ミカエル・ハフストローム  主演:ジョン・キューザック
★★★★☆

日米開戦直前の1941年上海を舞台に
アメリカ、日本、中国人が複雑に絡み合う
サスペンスラブストーリー。

魔都上海とはよく言ったもので、
大よそ19世紀半〜20世紀半までの100年間に渡る
中国程に混沌とした世界はあるまい。
列強各国の文化が色付く華やかさもありながら
被支配者側の持つ厭世的とも言える退廃さも兼ね備える。
ましてこの舞台は1941年。
世界大戦も後はアメリカの参戦を待つばかりといった様相。

終始、霞がかったような画から得られる暗澹とした雰囲気は
そんな時代と上海を形容するに実に見事な演出になっている。

登場人物も個性派揃いで
友の死の真相を究明するアメリカ人スパイを主人公に
日本側の諜報活動責任者に渡辺謙
日本軍に協力する現地マフィア組織の長にチョウ・ユンファ
その妻でありながら、影ながら対日本レジスタンス活動を行うヒロインにコン・リーと
顔ぶれだけで既に秩序の無いごった煮国際感抜群。

しかし、そんな無国籍世界でありながらも
物語はあくまで一つの謎に集約される物で
100分程度の尺の中で各人物の見せ場、密度は十分な没入感が得られてしまう。
愛の行方を巡るとっても綺麗な仕掛けです。
何より各人が持つ心の高潔さが心地良く
各々の立場における仕事内容については
無論、時代が時代、場所が場所、決して誉められた物ではないのだが
一歩そこから離れれば、その誰もがただの人間としては
情愛に満ちた一般人にすぎないんだな。

一見、ただのメロドロマで終わるようなお話を
時代と舞台を選び抜く事で緊張感抜群のサスペンスに仕立てた見事な一本です。
最後の最後、中間管理職のような立場のチョウ・ユンファが
ついにブチ切れてショットガンをぶっ放してしまうのは
まぁご愛嬌。





『上海特急』 1932年
監:ジョセフ・フォン・スタンバーグ  主演:マレーネ・ディートリッヒ、クライヴ・ブルック
★★★★☆

1931年、内戦で揺れる激動の中国を舞台に
北京-上海特急列車で繰り広げられる
人質事件とメロドラマを描くお話。

感想:マレーネ=ディードリッヒがカッコいい
話はシンプル、これに尽きる映画。
男を渡り歩く悪女との評判で登場する
冒頭シーンからして既に貫禄が違う。

酸いも甘いも噛み分けた歴戦の女性でありながら
その内面は主人公を愛し続ける純愛に満ちている。
そんな妖艶さと可愛さを兼ね備えた
男の仕様もない理想を具現化した見事な存在感だろう。

襲い掛かる困難に対し
ヒーローさながら確かな行動力と意志の力を示しつつ
何処か細かい表情から漏れる憂いと弱々しさも兼ね備える。
もう完璧。
現在で言う美人とは少々方向が違うが
独特のオーラを放つ彼女の全てに圧倒される一本。

細かい登場人物も個性抜群で、
80分という短い尺に綺麗に纏まった良作。






『シャンハイ・ヌーン』 2000年
監:トム・ダイ  主演:ジャッキー・チェン、オーウェン・ウィルソン
★★★☆☆

19世紀末の西部時代アメリカを舞台に
王女捜索のために渡米した中国人と、
若いガンマンのコンビが繰り広げるドタバタ劇。

題材は面白いよね。
若くて情けなくて、いきがるだけのゴロツキガンマンと
とにかく生真面目で任務優先のどこか抜けた中国人。
もちろん拳法の達人ね。
この凸凹コンビが面白くない訳がない。

ただ、西部劇としてもカンフーアクションとしても
どっち付かずのヌルイ雰囲気が続いて
特別に見るところもなく終わってしまう映画かな。
あまりにお約束な展開しか起こらないので、
一定の楽しさより上の域にはどうしても入らない。

普通にバディ物としてハリウッドが楽しめて
そこそこのジャッキーアクションが楽しめて
毒でも薬でもないが、つまらなくはない。
そういう映画。




『1/11』 2014年
監:片岡翔  主演:池岡亮介
★★☆☆☆

高校でサッカー部を新しく立ち上げた男子が
仲間を集めてサッカーに向き合うお話。

高校生の青春スポーツ映画ではあるんだけど
過剰なキラキラ感もなければ泥臭さもなく
とっても丁寧なエピソード集で
皆が皆、10代半ばに正しく現実に出会い、正しく挫折して
それでも正しく人生を再び見つめ直すという正しい映画。
全く無駄がない見事な構成なんだけど
あまりにも丁寧で綺麗すぎるかな。

結果、設定や人物像がテンプレートにハマりすぎていて
個別キャラクターの人間的な魅力までは見えてこない。
確かにリアルだが群像劇というにはどれも小粒で
誰がやっても成立しそうな展開が連続するだけ。
高校生の身につまされる納得性は高いが常に退屈とも感じる一本。

唯一、病的までに前向きな主人公だけが
前半の印象と後半の答え合わせのような回想編で
見事に人間味の面で裏切ってくれるんだけど
そこを挟んで11人が集まった時点でスッパリと映画は終幕。
本当にテーマを一本描く事だけがストレートに伝わり
嫌味がない事自体が目的かとすら思える80分きっちり作品。




『15時17分、パリ行き』 2018年
監:クリント・イーストウッド  主演:スペンサー・ストーン、アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス
★★★★☆

列車内で発生した銃撃事件の現場で
見事、犯人を取り押えた一般乗客の実話映画。

不思議な構成の映画だね。
英雄的な行為を成しとげた男三人組の友情を
彼らの人生を追う形で淡々と振り返るんだけど
それが驚く程にシンプルなんだよ。
出会いを描いた少年時代はともかく
中盤以降などは、本当にただの素人旅行動画を
youtubeで見せられているかのような錯覚に陥るレベル。
クライマックスかと思われる銃撃犯の取り押えすらも
至ってシンプル簡潔に終わってしまう。

ところが、そのシンプルさを最後に化けさせるのだから巧いよ。
今まで自分が一体何を見せられていたのか
その意味がはっきりと理解できてしまうんだ。
つまりは、彼らが歩んできた人生経験
何なら欧州旅行の工程一つを取り上げても
その全ては運命的に何かに繋がっているという文脈なんだ。

人間は決して望んだままの人生を過ごせるわけではないさ。
その意味なんて当時は判らなくて当たり前だし
死ぬまで気付かないことすら普通だろう。
それでも、行動する意思の元に進んだ人生の積み上げには
決して無駄なことは無いという一つの象徴として
この実話にテーマ性を見出しているのが強烈。
人生にはそういう解釈が成立するという
究極の善意を謳っている作品ですよ。

犯人に撃たれた最初の一発が不発だったというシーンは
本当の話らしいからね。
もちろん、それは単なる偶然なんだけど
人間側が勝手に意味があると想うことは自由だろうさ。

物語性の低い単なる男友達の思い出話を
素人に過ぎる空気感で描けば描くほどに
ラスト5分で伝わるテーマ性に
より確かな普遍性が約束されるという魔法のような一品。
主役3人を演じているのは
何とテロ事件で英雄的な行動をとった本人らしい。
役者でもない彼が違和感なく再現VTRを成立させている
そのテクニックも含めて実に見事な映画だね。




『十一人の侍』 1967年
監:工藤栄一  主演:夏八木勲
★★★★☆

馬鹿殿暗殺任務のお話。

まるで『十三人の刺客』の弟分のような映画。
監督は同じ工藤栄一、馬鹿殿役も同じく菅貫太郎で
十一人の中には、西村晃と、里見浩太郎の二人が混ざる。
やはり暴君を暗殺するお話だね。

ただし、延々と暗殺をつき進めていく職人映画ではなく
今作は紆余曲折の多いドラマ寄りの作風かな。
少し忠臣蔵の空気も入っているだろうか。
世を忍んでこらえるお話や武士社会の虚しさを描くお話
色々な要素がわずか100分の尺に綺麗に収まっており
中々に見応えがある。
ただその分、特に目新しさもなく
あくまで一定以上のクオリティを素直に楽しむ良作。

変わらず工藤栄一監督の乱戦シーンは汚くて良いね。
混戦に次ぐ混戦でありながら、それでも締める時だけは見事に見栄を張る
このメリハリは素敵です。
しかし、ここまで寄せたタイトルはどうなのか。






『13日の金曜日』 1980年
監:ショーン・S・カニンガム  主演:エイドリアン・キング
★★☆☆☆

過去の殺人事件により半閉鎖されていた湖畔のキャンプ場が舞台。
その再開を契機に再び惨殺事件の幕が開くお話。

こんな映画で良いのかい。
ストーリーはゼロ、キャラクターもゼロ。
映像的な仕掛けにもそこまでの面白みも無し。
本当に何の工夫もなく、淡々と姿の見えない一人の殺人犯が
キャンプ協力員(夏期バイト)の若者達を一人、また一人と惨殺していくだけのお話。

閉じた湖畔のキャンプ場という絶好の仕掛けでありながら
一切、サスペンス要素もない開き直りは逆に見事か。
これだけで映画一本を撮ろうとした発想は確かに凄い。
とりあえず殺人鬼が迫る際に必ず鳴る
緊迫感を煽るシンプルな繰り返し効果音だけが秀逸な一品かな。
ただそれすら『サイコ』や『ジョーズ』あたりの焼き直し発想だしね。

悪趣味を楽しむグロテスクな特撮表現も
既に時代を考えればいまいち半端でやる気があるのか無いのか。
シーンごとにテンションが違いすぎて思わず苦笑。
本来、B級映画ってこういう物だよねとの確認になる一作。





『十三人の刺客』 1963年
監:工藤栄一  主演:片岡千恵蔵
★★★★☆

大儀のために集められた十三人が
如何にして暴君を暗殺するかというお話。

時代劇最長と言われる最後の乱戦シーンが有名だが
まず前段階における緊張感溢れるやりとりが楽しい映画だね。
重すぎる程に重い演出の数々からは名場面、名台詞、名演技の目白押し。
押して罷り通る!
全く同情する余地のない馬鹿殿すら
あそこまで傲慢ならばカッコ良くすら映るから凄まじい。
ただし、ある場所では相手の意地が上回り
結果通してはもらえない展開も良いね。
これこそがキャラクターの魅力だろう。

BGMを極力排して、言葉遣いにも拘り
人間ドラマも見せずに淡々と各人の人生観だけを披露。
そして、繰り返される武士とは何ぞやの問答…
そんな格調高い時代劇世界で魅了しておきながら
後半決戦で全てがひっくり返るのだから面白いよ。

まさに究極のグッダグダ。
誰が何処に居て、何が起きているかも把握しきれぬまま
美しさの欠片もない雑で冗長なシーンが永久かのように続く。
あれだけ台詞回しのカッコ良かった武士達が集合して
全員が全員、数十分間「うぉー、うわー」しか叫ばない野暮ったさよ。
自分が先程まで何を見ていて、今何を見ているのかすら
理解できなくなる程のシュールさ。
とにかく、強気で叫んで斬り付けた側が強いだけなんだ。
元々「誰も人など斬った事のない世」という大前提を
冒頭から強調しているのだから
このケレン味の無さは狙われた仕様であり
完全なる前半戦とのテーマも含めた対比だよね。

西村晃が演じる凄腕浪人が勝利確定の後
突如、糸が切れたかのように弱気に逃げ惑う姿も素晴らしい。
なるほど彼らが闘っていた世界とはそういう場か。

最後、片岡千恵像が目標を斬り殺す際の台詞だけは
有り得ない程に真に迫っていて怖いけどね。
これが往年の大スター、何という存在感かと唸るもよし。





『十三人の刺客』 2010年
監:三池崇史  主演:役所広司
★★★☆☆

上記作品のリメイクで
同じくで馬鹿殿を暗殺するお話。

テンポも、雰囲気も、役者の演技も
あらゆる面で、十分に現代的にはなりつつも
前半戦で繰り広げられる独特の重さは健在。
元々、決戦前の駆け引きこそが楽しい映画なのだが
この部分を完璧に近い形で見せてもらえるのは
実に幸せ。

ただ、いくら前半戦が面白いとは言っても
主役は主役。
後半の大乱戦を抜きに語れる映画ではない。
ここでしくじっては、せっかくの振りも台無しだよね。
まず気になるのはCGの安さ。
何故、邦画大作は出来ない事をやろうとするのだろうか。
初っ端にコレを用いられると、その後の全ての興が冷めてしまう。
これ程の豪華セットが泣いてるよ。

加えて「誰も人など斬った事のない世」という面を
元作品と同じく世界観として強調していた割には
その解答である決戦シーンがまるで超人の見本市。
リメイクらしく世界観ごと変えるでもなく
情けない連中の乱戦シーンを描くでもなく
結局、どっち付かずな半端物で終わっている。
カット割りの多さも退屈な一因だろうか。
おかげで、映像も演出も作り物っぽさが酷く
如何に工藤栄一監督の抗争シーンが
職人的な素人感だったかを再認識させられる。

役者は如何にも現代的な雰囲気が
今作ならではの魅力を作っていてむしろ上々。
馬鹿殿役の稲垣吾郎すら魅力の一つだろう。

もう一歩。
ドラマは作れても、エンタメは作れないという
21世紀の邦画パターンを踏襲した一品だね。





『就職戦線異状なし』 1991年
監:金子修介  主演:織田裕二
★★★☆☆

大学生二人が織り成す就職活動の様を
コミカルかつシニカルに描く青春映画。

氷河期と呼ばれる時代に大学を卒業した身からすれば
卒倒しそうになる内容だよね。
但しあくまで彼らは「一流大学」の学生である事はお忘れなく。

今後、対照的な二人のどちらが
充実した人生を送れるかはわかりません。
だがどちらにせよ、就職など一つの起点にすぎないという
人生を通した爽やかさは残る作品だね。
一流企業の世界は知らないが、
基本、見つけるより続ける方が大変だとわかれば一人前か。

最後に流れる『どんなときも』のインパクトが凄まじく
苦い内容ながら時代の象徴のようなトレンディな空気も溢れる一作。





『集団奉行所破り』 1964年
監:長谷川安人  主演:金子信雄
★★★☆☆

江戸時代中頃の大阪を舞台に
個性溢れる元海賊の集団が
悪徳奉行所襲撃の計画を進めるお話。

登場人物は個性溢れて魅力的なのだが
肝心の作戦が行き当たりばったりで
とにかく雑で酷い。
その割には半端な人情劇が至る所に挿入され
展開からスピード感を削いでくるという
どっち付かずの印象が残ってしまう一本。

ダイナミックかつ、大掛かりな映像で
全編が埋め尽くされる贅沢映画ではあるのだが
それだけで満足しているのが残念だね。






『十二人の怒れる男』 1957年
監:シドニー・ルメット  主演:ヘンリー・フォンダ
★★★★★ ★

殺人事件の陪審のために集められた
12人の男が織り成す物語。

室内劇の大傑作。 
最初から最後まで、舞台はわずか一部屋
登場人物は椅子に座った12人のみ。
陪審員たる彼らが、"Guilty" or "not Guilty"を巡り 
各々に発言を繰返すだけの作品がべらぼうに面白い。 

この作品はあくまで人間の物語だと思う。 
「被告が、実際には罪を犯したか、犯していないか」 
実はそんな事は誰にもわからないのが妙であり
事実、主人公が間違ってる可能性は十分にあるのです。 
しかし"疑わしきは罰せず"が正義であるならば
それは貫かれるべき。 

子供の頃に見れば
正義を貫くヘンリー=フォンダが、ただひたすらカッコよく見えるはず。
しかし、実際の社会生活を経ていきますと
誰しも声高い連中を冷ややかに冷静な目で見てるつもりの立場が 
逆に優れていると思える時期を迎えてしまう。 
しかし本当にそーなのか? 
いやいや、やはり正義は一回りする物であって欲しく
自身の意見を公言する事が如何にリスキーかという事を思い知った後にこそ
この主人公の本当のカッコよさが際立つわけですね。

自身の状況が変わる度、見れば感想の変わる真の傑作映画。





『十二人の優しい日本人』 1991年
監:中原俊  主演:相島一之 他
★★★★★

題名からもわかるように、上記作品のパロディ。 
「スラム育ちの黒人の悪ガキなら人くらい殺すだろう」という偏見に対し
「こんな優しそうな女性が人なんか殺すわけない」の偏見。 
もし陪審員が全員日本人だったらのifの設定が光る。 

頭が回る笑いが好きなタイプには最適。
頭を"使う"ではなく、勝手に回るのがポイント。
事前に存在している情報と無意識に結びついた瞬間の快感。
要するにお笑いのジャンルとしては 風刺とパロディにあたる映画だね。

直感的な瞬間笑いが好きな人には向かないかもしれないが
全編通した脚本のクオリティが異常に高く
会話の掛け合いのセンスが冴えている。 
ノンストップなハイテンポが実に心地良く
三谷幸喜作品の紛う事なき最高傑作。 





『シューテムアップ』 2007年
監:マイケル・デイヴィス   主演:クライヴ・オーウェン
★★★★☆

偶然出会った妊婦と赤ん坊を助けた事で
主人公がマフィアに追われ続けるお話。

「ガンアクション物」
それ以外の形容は不要。
87分(ED込)という尺であれば、
本当に一発ネタだけでも映画は持つという 
お手本のようなB級映画。 
アクション自体は何の新しさも提示してるわけではないが
「その発想はなかったw」シーンのオンパレードで 
一切退屈させずワンアイディアを突き詰めて
最後まで笑い転がしてくれる良作に仕上がっている。

主演が異常に渋くてカッコよいのが
逆にナンセンスで素敵な雰囲気だね。





『10人の泥棒たち』 2012年
監:チェ・ドンフン  主演:キム・ユンソク
★★★★☆

プロフェッショナルな窃盗集団が
マカオの大ホテルで大仕掛けを企むお話。

オーシャンズ11かと思う程の
スタイリッシュな泥棒活劇でありながらも
韓国映画らしさは忘れず
各登場人物に複雑で大真面目な愛憎の様が
きっちりと練り込まれている実力派作品。

香港面子と韓国面子が入り混じる合同作戦は
実にアジアらしい雑多な世界観を作り出しており
言語一つとっても、状況に応じて中国語、韓国語、日本語が混ざり合う姿は
仕掛けとして面白く何よりオシャレで飽きさせない。

何処を切り取っても、大作として楽しめるスケール感が
画面から自然と漏れ出てくるあたり
もはやアクション映画はお手の物か。
世界配給を見据えてか
「韓国人は嘘付きだ」「美人だね 整形してる?」等々
自虐ネタをもサラリと流すウィットっぷりも
作品の軽快なフットワークに拍車をかける。

各人物の愛憎ドラマは譲らずも
終わり方はスッキリ爽快で
この両立が楽しいエンタメ感抜群の一本。
ハリウッドでも香港でも作れない独自の世界が楽しめる。






『シュガーマン 奇跡に愛された男』 2012年
監:マリク・ベンジェルール  主演:ロドリゲス
★★★☆☆

アメリカの音楽市場で機会を逸した男が
地球の裏側で、密かにカリスマになっていたという
奇跡のような物語を追ったドキュメント映画。

厳密な理由は不明
明確な時期も不明
だが、アメリカの売れない一アーティストの曲が
口コミから広まり海賊版が爆発的に流通し
激動の南アフリカで100万枚ものセールスを叩き出す。
そんな事が本当にあるのだろうか。

反体制色に満ちた音楽がヒーローとなる姿は
日本においてすら、見受けられる物である。
それが70〜80年代の南アフリカとなれば
閉鎖社会への鬱屈した想いが
禁止音楽に託されるのは必然か。

それ自体が一つの奇跡ではあるのだが
この作品はその事象の紹介だけに留まらず
南アフリカの愛好家達が生んだ
人間に手よるもう一つの奇跡へと舵を切っていく。

闇に消えた金の動き、流通の詳細を調べる内に
現地では死んだ物とされてきたアーティスト本人が
実はアメリカで生きていたという事実に辿りつく。
何と彼らの熱意は、本人を迎えた現地コーンサートにまで漕ぎ着く。
20年の時を超え亡き英雄が蘇る興奮とは
いかばかりの物だろうか。

何と言ってもアメリカで音楽業界を追われた
当人の営みも実に面白く人柄が良い。
地球の裏側で自分の音楽が認めらていた事実を
年老いて知らされる幸せもまた想像を絶するだろう。
まさに究極のファン心理が生んだ執念の物語。

インタビュー形式と彼の楽曲で構成された
シンプルな作りの映画だが
僅か90分弱でコンパクトに纏まる中に
夢と希望と世の中の不思議が詰まっている良作ドキュメント。





『主人公は僕だった』 2006年
監:マーク・フォースター  主演:ウィル・フェレル
★★★☆☆

毎日規則正しい生活を送るだけの国税局主人公の脳裏に
突如、自身の行動を小説風に解説する声が聞こえるようになる。
この謎の解明と共に自らの人生を見直していくお話。

緻密だね。
延々と貫かれるナレーション演出に
声の主は何なのかという謎。
そして解明行動と自然に絡み合う人間同士の出会い、
全てが綺麗に繋がって、一本のヒューマンドラマが成立する。
ラストまで考え抜かれた見事な構成の一品。
コメディ映画としての軽妙さの中にも、
決してくどくならない形で人生訓が沢山散りばめられている。

ただし、展開そのものが非常にシンプルな割には
少々、多方面に手を出しすぎており
どちらを見てみも薄味な仕上がりで終わっているかな。
主人公の得た教訓で何か強烈な印象が残る物があったかと言われれば疑問。
他に特徴があるわけでもなく、
見所自体は少なめのやや冗長な一品。




『ジュディ 虹の彼方に』 2019年
監:ルパート・グールド  主演:レネー・ゼルウィガー
★★★☆☆

1939年映画『オズの魔法使い』のドロシー役で有名な
ジュディ・ガーランドの晩年を描いたお話。

まず何より、人気子役、人気女優であるために
映画会社が彼女に課した幼い頃の生活が強烈だ。
あんなの間違いなく児童虐待だよね。
劇中で描かれる晩年の彼女の姿は
精神的に病んでいて、情緒はいつも不安定で
周囲に感謝と激昂を繰り返すようなとても付き合えない女なのだが
冒頭で先にその悲しさを見せられているために
真っ当な人間に育てなかった事への納得感があるんだよね。

何より、彼女がどれだけ大スターだったかは
映画という財産、記録が残っている限りは
100年近い時を経た世界にも十分に伝わっている。
『イースタパレード(1948)』もあれば『スター誕生(1954)』もあるぞ。
中年女のプッツンぷりを延々と見せられるだけの映画であろうとも
大前提として大スターの彼女を愛しているが故に
不快というよりは悲しくなるんだよね。

47歳という若さで世を去る彼女のボロボロの晩年を眺めつつ
それでも彼女が作ってきた作品の中には何かが残ったかもしれない、
何かを掴みながら生き抜いた人生だったかもしれないという
希望を見たい物語になっている。
ゴールを目指す事だけではなく
その過程にこそ大きなものがあるという台詞と
ラスト、観客のほとんどが
事実「オーバーザレインボー」を歌う事ができたという
あのワンシーン、あの瞬間に一つの確信があった気はしてくるね。
切なくも力強い物語。



『ジュラシックパーク』 1993年
監:スティーヴン・スピルバーグ  主演:サム・ニール
★★★★☆

現代に蘇ってしまった恐竜と繰り広げる
生き残りをかけた逃走劇。

CGを自在に使えるような時代になれば
これは、誰だって映画化してみたい題材でしょう。
コンピューターによって蘇る映像の衝撃として
恐竜程のインパクトがあろうか。
最早、いつやるか、誰がやるかだけが問題だった映画。

中身は考えなくて良いです。
一般的なモンスターパニックにしかなりようがないし
下手に凝って、このお祭り騒ぎに水を差す必要も何処にも無い。
エンタターテイメントに徹したスピルバーグの本領発揮
恐竜の再現は見事の一言。

サービス満点の映像仕掛の数々に
思う存分に騒ぎましょう。





『上意討ち 拝領妻始末』 1967年
監:小林正樹   主演:三船敏郎
★★★☆☆

お殿様から下げ渡しで側室を妻へと押し付けられた
ある武家一家が見せる意地の物語。

原作、滝口康彦、監督、小林正樹、脚本、橋本忍。
描くは武家社会の虚構と悲劇。
違う映画を比べるのは誉められた事ではないとは言え
こうまで条件が揃っているのであれば
どうしたって『切腹』は意識してしまう。

比べるとやや脚本や大筋が甘い作りかな。
中盤までの緊張感は半端ではないのだが
そこで既に顛末が見えてしまうのが惜しい。
個人としての人間賛歌や
それを飲み込む社会組織の非情さを描く
ギラギラとした世界観は打ち止めとなり
あとは、既に心も進退も決まった親子の結末を消化するだけで
物語が1時間程度も残ってしまう。
あまりに組織側の法に基づいた無法も
そのやり口、展開が、杓子定規に過ぎれば
作品としての面白みには欠けるだろうか。

周囲全てを敵対勢力で取り囲んだ中
YesかNoかをはっきり答えろと個人に押し迫る
親族会議のシーンなどは震える程の圧迫感なんだけどね。
やはりそのあたりがピーク。

もちろん小林作品、映像としては完璧で
ただの一カットも無駄なシーンなどは見つからない。
観客の気を休ませる事を完全に失念したかのような
畳み掛けるような緊張の連続と
圧倒的な絵作りへの拘りはさすがの一言。
ここまで真面目を貫き通すのは
並大抵の覚悟ではないでしょう。

映像、演出は完璧、お話や構成も水準並。
ただし事前に期待値を上げすぎるとやや物足りない。
そんな一品だろうか。




『女王蜂』 1978年
監:市川崑   主演:	石坂浩二
★★★☆☆

田舎の名家で起こった19年前の殺人に端を発する
新たな事件の謎を追うお話。

市川崑監督、石坂浩二主演、角川映画による
金田一耕助シリーズ第4作。

過去3作品と比べれば
閉鎖的な田舎村の持つ心地悪さは薄味な一品。
特に風土や伝承に関するような不気味な仕掛けは一つもなく
ただただ人間の情念部分だけがフィーチャーされた物語となっている。
原作通りではあるのだろうが
シリーズとして見ても、純粋なミステリー映画として見ても
やや物足りなさはあるかな。
特に現代パートで起こる殺人事件の動機やら仕掛けやらが弱すぎて
掴みどころないシナリオに思えてしまう。

ただ、それを補う役者たちの熱演が
全てを許してしまっている魅力はあるだろうか。
歴代のオールキャスト女優が登場する豪華な一作で
特に、怪しげな存在感がたまらん仲代達矢と
上品な怨念を語らせれば天下一品の岸恵子が
冷静に考えれば物足りないストーリー展開を
見事なまでの愛憎劇に昇華させている。
中年のオジサン、オバサンだからこその魅力が
完璧に引き出されているから凄いもんだ。

そこにシリーズ特有のキレッキレのピーキー演出術が合わされば
最後まで楽しく見られる作品にはなるよね。
なお、いつも影の薄い金田一耕助はいつにも増して空気です。





『蒸気船ウィリー』 1928年
監:ウォルト・ディズニー   主演:
★★★☆☆

世界初の長編アニメ映画と言われる
1937年公開の『白雪姫』より前に
ディズニーが製作していた短編映画の一本。

ミッキーマウスの初出と言われている作品だね。

特別なストーリーがあるわけではないのだが
蒸気船で働くわんぱくな悪戯ネズミが
愛嬌よく立ち回る姿がシンプルに楽しい。
後のディズニーの代名詞である
動物を擬人化したデフォルメ演出が
今作で既に全開になっているアイディアの宝庫だね。

終盤、様々な動物の体を使った
一人オーケストラ演奏シーンも見事で
王道中の王道であるエンタメと音楽との一体感があって
ハイクオリティっぷりが伺える。

後のディズニー映画に受け継がれる要素が
たっぷり詰まった10分弱の短編映画。





『将軍家光の乱心 激突』 1989年
監:降旗康男   主演:緒形拳
★★★★☆

将軍職 継嗣問題。
家光の子の暗殺計画を巡って、
守る側、攻める側の大バトルが勃発。

小学生が家族連れで見るなら大傑作。
そういうコンセプトで良いのではないだろうか。
馬、馬、馬。
馬映画と思ってOK。
あれでも撮影で死んだ馬は居ないらしいから
寝覚めも悪くないね。
本当かな。

中身なんかなくてもいいから、
全編アクション満載なド派手なエンターテイメントを作ろう。
邦画のハードルを越えるコンセプトなら満点。

日本式のハリウッド大作の頂点ではないだろうか。
時代劇と思っちゃいけない、邦画だと思ってもいけない。
頭をからっぽにお馬鹿さを楽しもう。
大金のかかったお馬鹿作品は面白い。
これは事実として認めるべきお話で
複数人で笑いながら見るのがお勧め。





『情婦』 1958年
監:ビリー・ワイルダー  主演:マレーネ・ディートリッヒ、チャールズ・ロートン
★★★★★

情婦殺しの嫌疑をかけられた男と
彼を救わんとする弁護士達が繰り広げる
緊迫の裁判物語。

キャラクターを作らせれば天下一品。
この監督に適う人は誰も居ないだろう。

裁判物である以上は
対象となる被告、彼を守る弁護士、攻め立てる検事
被告に不利な証言者、あるいは有利な証言者など
ある程度は登場人物が記号にならざるを得ないはずなのだが
ビリー・ワイルダーにかかれば、そんな事はお構いなし。
画面狭しと暴れまわるウィットに富んだ個性の連発に
ただただノックアウト。
彼らの言動ならばいつまでも眺めていたい。

そして、冒頭の展開から最後のオチに至るまで
ストーリーの抜群な面白さが光る。
EDテロップの一文も思わず納得。
観客の期待に応える裏切りに次ぐ裏切りの緊迫感
テンポ良く挿入される小粋な演出の数々……
重すぎず、軽すぎず、ユーモアを忘れない。
娯楽映画に必要な物が全て詰まって一分の隙もなし。

理屈抜きに楽しめる完璧な映画とはまさにこの作品の事。






『ショウほど素敵な商売はない』 1954年
監:ウォルター・ラング  主演:ドナルド・オコナー、エセル・マーマン
★★★☆☆

映画が天下を取る前の時代に
ボードビル、つまり舞台ショーの世界に生きた一家のお話。

カッコいい。
こんなに軽快で技術が高く、気軽に楽しめ
それでいて大掛かりな世界があるものか。
舞台シーンが入るたびに見入ってしまう。
題名の通りのテーマ曲があるのだが
思わず頷いてしまうだけのパワーがある。
何よりも音楽やショーの楽しさが
あらゆるシーンからにじみ出ているのが素敵。
一家の物語は薄味で主題というわけではなく
あくまで古き良きボードビル賛歌という映画で良いのではないだろか。





『少林寺木人拳』 1976年
監:ロー・ウェイ   主演:ジャッキー・チェン
★★★☆☆

殺された父の復讐を胸に秘めた唖の男が
少林寺の門下で下積みの日々を送る中で
運命の師匠と出会うお話。

この泥臭さは良いね。
男前とは決して言えない若かりし頃のジャッキーが
劇中、一言も口を開かないという
純朴な男を見事に演じ切っている。
少林寺と師匠、二つの教義を持った主人公の
悩める姿はとっても実直で重みがある。
復讐の相手とは誰なのかという
ややミステリー調の展開も楽しいが
何よりも衝撃的な大見栄をきる夢オチオープニングや
恐怖の木人路に代表されるような
「少林寺」という創作の題材を最大限に利用した
神秘な世界観が素敵な一品。

例によってカンフーシーンは長すぎると思うが、
主人公が劇中で身に付けたどの武術を使っているのかという
ストーリーに連動した殺陣のメリハリが
しっかりと感じられる構成だね。





『昭和枯れすすき』 1975年
監:野村芳太郎   主演:高橋英樹、秋吉久美子
★★☆☆☆

幼い頃に両親を失い二人で生きてきた兄妹が
東京を舞台に心を離していくお話。

映像の楽しさは別として、
これを真面目に見るのは無理だろう。
あまりに依存しきってる兄と妹の関係性に
まず理解を求められるのが難しい。
刑事で単純思考の兄、とことん悪い無職の妹。
妹が悪さばかりして駄目な男に惚れて
兄がその尻拭いを行い妹に説教して
そして、また妹が悪い事をしての繰り返し。

このノリと雰囲気自体の様式美というのはあるが
ストーリーがどうにも大雑把でただ雑な映画に見えてしまう。
そこで魅了してくれれば突っ込む隙もないだろうが
どうにも兄妹の絡み方のあまりのクドサに
ついつい笑いながらになってしまうのが残念。
これは笑っては台無しな映画だろうね。





『ショーシャンクの空に』 1994年
監:フランク・ダラボン 主演:ティム・ロビンス
★★★★☆

妻殺しの冤罪で終身刑を科せられたた主人公が
様々な困難を乗り越え刑務所内を逞しく生きていくお話。

これは人生賛歌だろうね。
劇中にもキーワードとして登場する「希望」がテーマで間違いない。
中でも繰り返されるスタイルは
「僅か○○年」という年月を短く表す言葉。

人生の内、実に50年間を刑務所内ですごす事により
もはや世間から差別されるまでもなく
自己の精神内において社会生活が望めなくなってしまう者も居れば
どんな状況でも限られた時間を無駄にせず
ひたすらに歩み続けられる者も居る。
常人であれば腐るだけに足る期間であっても、
主人公にとっては何か物事を成し遂げるに必要だった僅かな期間なのだ。
彼の生き様は強いね。

無論、主人公のように振舞える人間など現実には存在しない。
夢物語のヒーローでしかない。
あくまで強者の理屈で進む物語である。
しかし、そんなヒーローの活躍を見せ付けられる事で
その精神を少しだけならば、分けてもらう事はできるかもしれない。
これこそが強き人間、ヒーローを描く作品の味であろう。
そんな映画の良さを再認識させてくれるヒューマン傑作。

より陰惨でよりドン底の世界を描く事もできただろう。
より社会問題としての提起を強くする事もできただろう。
しかし、徹底して無駄を省き、表現や展開をマイルドに抑え
ラストシーンを抜けるような爽やかさで締める事で
誰もが楽しめ誰もが他人に勧められる安全な作品であり続ける。
結果、誰もがこの人生賛歌に触れられる機会を得る。
欲張らずに尖らせない勇気がお見事。





『ジョーズ』 1975年
監:スティーヴン・スピルバーグ 主演:ロイ・シャイダー
★★★★☆

平和な海岸に突如現れた人喰いザメと
シャークハンターとの戦い。

素晴らしき設定傑作。
一見、パニック映画にみせかけて
その実は十分なドキュメント傑作だよ。
前半は自然の脅威に翻弄される愚かな人間を
家族や地元への愛情から皮肉たっぷりに描きつつ
後半は徹底して舞台を船上に限定した対決物へとシフトする。

巨大サメが迫る際に必ず鳴り出す
あの有名なテーマ曲と映像演出のマッチが素晴らしく
劇中で何度恐怖の体験として繰り返されても
その都度、心を揺さぶられてしまう見事さ。

そして、タイプの違うサメ馬鹿二人と
それに巻き込まれる形の一般人一人という
三人のトリオが織り成す男臭い人間模様が良い。
あくまで主役は巨大サメでありながら
その幕間に彼らの泥臭いカッコ良さが見え隠れする。

もちろん、巨大サメを説得力たっぷりに描ききった
映像部分は素晴らしいが決してその一芸ではなく
決してB級では終わらない多ジャンル一級映画。






『少林寺』 1982年
監:ヂャン・シンイェン 主演:リー・リンチェイ(ジェット・リー)
★★★★☆

少林寺で修行に明け暮れる若者の青春劇。

時代劇が日本のファンタジーであるように
武術映画ファンタジーとしての中国が完璧な形でそこにある。
至高の雰囲気芸に酔いしれる映画。

70年代の香港カンフー映画とはベクトルの違う
現代的で素早い運動美が素晴らしい。
アクロバティクな動作の数々に魅入られる
彼らの技術は何処を切り取っても見所しかない

まだ少年とも言える見た目のリー・リンチェイの青春物でありつつ
カンフーお約束の復讐物でもあり、圧巻の演舞技術作品でありながらも
映画としてはカンフーに拘り過ぎない贅沢なエタンメ構成が素晴らしい。
中国の古典的な香りもプラスに働いているね。

それにしても皆、破戒僧にすぎるよな
どーかしているわ





『昭和残侠伝 死んで貰います』 1970年
監:マキノ雅弘 主演:高倉健
★★★★☆

刑務所返りのヤクザ者が
理不尽な仕打ちに耐えに耐えた後で
悪徳ヤクザにケジメを付けにいくお話。

見事な様式美で構成された傑作シリーズ。
シニカルな気分で任侠映画を捉えて見ても
気付けば目頭が熱くなっているのだから凄まじいね。

これは一種の芸術映画だろう。
高倉健個人のスター性より何より
その世界観や台詞回し、細かい所作に至るまでが
ファンタジーとしての美しさの象徴と化している。
主題歌の入り方、音楽の入りから完璧に過ぎて
口をつく言葉は全てが名台詞。
任侠映画の是非を問うまでもない映画としての完成度で、
ブームも終盤と言える頃にこのクオリティを保っているのは恐るべし。

大正〜昭和初期が舞台のため
もはやこれは時代劇として見ると良いだろう。

あるいは一度ヤクザな道に足を踏み入れた人間は
結局、最後まで抜け出せないという教訓だよね。
任侠への憧れよりはむしろ虚しさや
悲しさが先に来る映画ではなかろうか。





『自来也 忍術三妖傳』 1937年
監:マキノ正博 主演:片岡千恵蔵
★★★☆☆

妖術使いの忍者として育てられた亡国の若様が
仇を相手に復讐を行うお話。

荒唐無稽が素晴らしい何とも楽しい忍術映画だね。
姿が消えるのは当たり前、瞬間移動も有れば念動力も有り。
果ては自来也の名の通りに大蝦蟇までもが登場したりと
徹底して面白映像仕掛けがいっぱいの
技術とエンターテイメントに満ちた60分。

片岡千恵蔵の浮世離れした雰囲気が
妖術使いである主人公の何とも言えない怪しさを助けており
まだまだ若き二枚目でありながらも
同時に圧倒的な語りの渋さも兼ね備えている様が
スター感満載な一品に仕上げている。
ヒロインとの余裕ある掛け合いも
顔を綻ばせながら安心して見ていられるね。

基本は子供向けの作品だとは思うが
所々の映像には、大作感ある拘りも満載で、
素直に見入れる1937年作品。





『不知火検校』 1960年
監:森一生 主演:勝新太郎
★★★★☆

出世欲に憑りつかれた一人の按摩の物語。

これは勝新太郎、一世一代の大芝居。
めくら按摩の一挙手一投足への拘りが実に細かく
本物志向というよりは単純に雰囲気が楽しいんだよね。
江戸時代の按摩になど、一度もお目にかかった経験もないのに
つい納得を感じてしまうのだから凄いもんだ。

主人公のキャラクターが本当に見事で
言動や表情一つとっても十分に面白いのに
彼の人命をなんとも思っていない悪党っぷりが凄まじい。
何が何でも上へ行こうとする剛腕な出世欲や
他人を利用し道具としか見なさい利己性
そして、人間臭く肉欲を求める生々しい気持ちの悪さ…
その全てが同居している特異さは他でも見られないね。
世間に見せる顔の可愛らしい愛嬌っぷりの中に潜む
目開きへのコンプレックスも見え隠れ。

幼き頃に体験しためくら差別への環境が
強烈な社会秩序への反骨を生んできたわけだろうが
とても同情はできないよね。

結局、彼の思うままがに
権威とお金で全てが罷り通ってしまう世相も悲しいが
これだけの大悪党が個人的に仕組んだ浅知恵で
墓穴を掘ることになる展開も虚しくて良いね。
結局は悪党は悪党なりの仁義を欠いた結果という構図だよ。
これは悲しい。

勝新太郎の名人芸を堪能してるだけで楽しいが
中々に身につまされるお話も味わえる
満足度の高い悪行エンターテイメントな一品。




『白雪姫』 1937年
監:デイヴィッド・ハンド 主演:アドリアナ・カセロッティ
★★★★☆

継母の妬みから森の奥へと追いやられた白雪姫と
森の動物や小人たちとの触れ合い物語。

次元の違う傑作だね。
1937年公開、世界初の長編カラーアニメーション。
世界初でありながら今現在をもっても世界最高峰だろう。
圧倒的に練りこまれたデフォルメ表現の数々は
いくら見ていても飽きる事がない。
特に冒頭、白雪姫が動物達と共に小人の家で掃除
洗濯と奔走する場面の可笑しさは格別。
どういうアイディアを持ってすれば
ゼロからあんな愉快な表現が思いつけるのだろうか。
アニメーションの基礎発想と技術は
既にここで完成しきっているわけだね。

常軌を逸したセル枚数が可能にするノンストップな充実感。
そして、それが崩壊しない管理の丁寧さ。
何よりも全てがフルカラーという点に恐れ入る。
1937年時点の「カラー映画」という括りで見ても
ここまでの大作は世界初だろう。

絵本にすればほんの2〜30ページで終わるような物語を
ここまで映像一本で押し切ろうという
気概に圧倒される傑作。





『シリアル・ママ』 1994年
監:ジョン・ウォーターズ 主演:キャスリーン・ターナー
★★★☆☆

生活マナーを逸脱する隣人達を衝動的に殺していく
模範家庭の権家である恐怖のお母さんのお話。

作中には命を奪われる程の罪を犯した人物は一人も出てこない。
だが同時に一般的な社会生活を送る上において
「死んでくれないかな?」と誰もが一度は心の中で呟くような人物しか出てこない。
この妙が上手いね。
彼女は間違いなくサイコパスな殺人鬼ではあるのだが
誰しも自己の生活圏内においては、そんな遠い世界のスキャンダルスターよりも
ゴミの分別や、駐車の割り込み……
果てはレンタルビデオを巻き戻さずに店員に逆ギレする近隣住民の方が
遥かに罪が深いというわけだ。

そんな人間の証言は信用されないし
殺されても同情は集めない
コメディタッチの殺人シーンを映すだけに終わらず、
実に馬鹿馬鹿しい裁判風景にまで尺を割く贅沢さが良いね。

ナンセンス全開なブラックユーモア溢れるサイコサスペンス。
ホラー映画と思ってみればグロテスクな表現は控えめだが
代わりに社会ジョークとして楽しめる一品。

みなさんルールだけでなく、マナーも守りましょう。
怖い怖い。




『知りすぎていた男』 1956年
監:アルフレッド・ヒッチコック 主演:ジェームズ・ステュアート
★★☆☆☆

旅先のモロッコにてある陰謀の情報を得てしまった男が
自身の家族を守るために奮闘するお話。

粗過ぎないだろうか。
元々、ヒッチコック映画は、過程を楽しむサスペンスなので
精巧な脚本やオチの楽しさに期待はしていないのだが
それにしても突っ込み所があまりに満載すぎるだろう。
肝心な情報が観客に伝わり難く
何故そこに到達したか、何故そういう行動に至るのか。
このあたりを納得するのがどうにも至難の技。

かつてのモンクロ作品のように
陰影マジックの映像技術にドキドキさせられる事も少なく
『ロープ』や『裏窓』のように実験的な仕掛けも無い。
淡々と進む水準並の一品かな。

無論、クライマックスのオーケストラシーンの壮大さと
楽曲「ケセラ・セラ」は用い方も含めて素晴らしいが
それだけで丸々120分の映画というの長さも辛め。
異国情緒溢れる前半戦の舞台と言い
無駄に豪華な映画ではあるよね。





『死霊のはらわた』 1981年
監:サム・ライミ 主演:ブルース・キャンベル
★★☆☆☆

人里離れた山中の別荘を訪ねた5人の男女が
そこで地中に眠る悪霊の恐怖に取り憑かれるお話。

感性を疑う映画だよね。
素晴らしい開き直り。
しかしこの手の作品において、
登場人物がほとんどキャラクター性を持たせてもらえないのは
彼らに感情移入しすぎると肝心のスプラッター表現の際に
素直に楽しむ事ができなくなるからだろか。
人間、あまりに唐突で度を越えたスプラッターには
思わず笑ってしまうという事を見事に理解した一芸作品。

この荒々しさは凄いよね。
アイディアを実現させる以外は何も作る気がない。
細かい恐怖の演出アイディアに酔いしれると同時に、
次から次へと悪趣味な表現へ苦笑のオンパレード。
そもそも「四肢切断すれば退治できる」という設定からして頭がおかしい。
狂おしいまでに下品だが映像へのパワーがもらえる不思議な映画。
これがサム・ライミ監督のデビュー作だと思うと胸熱。

ただ、まともな作りの映画でない事はともかく
ホラーとして怖がらせる仕掛けすらをも放棄したストーリー展開は
さすがにちょっと退屈かな。




『シルバラード』 1985年
監:ローレンス・カスダン 主演:ケヴィン・クライン 他
★★☆☆☆

過去に何かしらの傷を持った4人のガンマンが
悪徳保安官相手に大立ち回りを演じるお話。

大スケールなロケーションを豊富に使い
雄大な大地を人馬が疾走さえすれば
それで西部劇は面白くなるのか。
それは……なるだろうね。
確かに一定の満足感は得られるでしょう。
徹底的に拘ったスクリーンならではの
広々とした映像の連続が楽しめる超予算作品。
それが第一の映画かな。

ただ、せっかく1985年という年代に
これだけの規模で西部劇を復活させたのであれば
もう少しお話やキャラクターにも、
遊びが欲しかったという感想が先に来てしまう一品。

一体、四人を結び付けていた関係性とは何だったのだろうか。
彼らの生き様、人生哲学とはどういう物だったのか。
このあたりが全く表に出てきてくれず、
どうも誰一人として感情が入らない。
淡々とした運びで没個性な敵方の面々と
延々、撃ち合いと活劇シーンを繰り返すだけで
130分はさすがに冗長だろう。

水準未満ではないのだが冒頭から期待される作品規模からすれば
どうしてもがっかりせざるを得ない一作。





『新幹線大爆破』 1975年
監:佐藤純弥 主演:高倉健
★★★★☆

新幹線に爆弾を仕掛け、
政府に身代金を要求するテロリスト一味のお話。

邦画離れした熱中度を持つパニック映画の傑作。
時速80キロ以下で爆発するというスピード感溢れるアイディアが秀逸で
これに在来線とは全く別のシステムを持つ新幹線の
特殊な最先端ギミックが絡みあう事で
一層の緊迫感が加わっている。
いつになろうと日本人にとって「新幹線」は特別なんだよね。
新幹線が持つオーバーテクノロジー感が
人知を超えた物を扱う危うさを自然と醸し出し
テーマ性の高さも楽しめる贅沢な仕上がりになっている。

警察の操作方法や犯人側の計画には
突っ込み所も多々あれども、
アイディアと映像の完成度の高さで
十分に勢いで突き抜けられる大サスペンス映画だろう。

加えて、高倉健の起用が大当たり。
犯人側が犯行に及んだ事情が
くどくど多くは語らないながらも
健さんの醸しだす哀愁一つによって
見事にドラマとしての深みが増している。
同情させる気しかないあたりが憎いね。





『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz 特別篇』 1998年
監:青木康直 主演:緑川光 他
★★★★☆

30分x3本のOVAを再編集の上で新作カットを加えた劇場版。
尺が映画化する上で都合がよく、全く無理のない一本として成立している。

綺麗なEDを迎えてしまった人気作品の後日譚としては
適度に元のイメージを崩さず
かつ、適度に本編の設定に迫るような仕掛けも持たせて
上手くバランスを取っている。
元々、キャラクターがスター性の塊のような作風なのだが
この短い尺で全てのスターに見せ場を作っているのはお見事。

またOVAの時点でメカニカルデザイン一新するなど
サービスも大掛かりで
まさにファンのために作られたお手本のような一作。





『仁義なき戦い』 1973年
監:深作欣二  主演:菅原文太
★★★★☆

戦後の膨張から収拾が付かなくなっていく
ヤクザ内部の抗争を描くお話。

「狙われる者より狙う者が強い」との劇中の台詞が
まさにそのまま当てはまる不毛な殺し合い。
延々と対立者を闇討ちし続けるだけの作品ではあるが
不思議と目が離せない密度も備えている。
敢えて綺麗に纏まった作品としての行儀を崩す事で
見事な説得力が出ている実録シリーズ第一弾。

映像の荒々しさ、ストーリーの開き直りっぷり
よくここまでの面子を集めたと思える恐持て俳優達の好演。
そんな世界観だからこそ活きる広島弁名台詞の数々。
他では絶対に見られない
まさに至高の雰囲気芸を楽しむ傑作だろう。

既存ジャンルとしての任侠映画とは一線を画す
勢いに押されっぱなしのギラギラした100分間。
悪党がより大きな悪に潰される様は哀愁抜群。




『仁義なき戦い 広島死闘篇』 1973年
監:深作欣二  主演:千葉真一・北大路欣也
★★☆☆☆

世界観を継承して作られた第二段。

不毛な暴力報復に明け暮れる構図や
ダイナミックな演出面の魅力はそのままなのだが
物語の主役が二人の若者の姿へと移っている。
結果、明確なドラマや悲劇が見られるようになり
良くも悪くも普通の映画らしくなってしまった一本だろうか。

裏切りと色恋に翻弄されて人生が狂う若者などは
確かに魅力的な題材ではあるのだが
わざわざ、こんな舞台で光る代物かは疑問。
腐ったヤクザ世界と恋に狂う若者。
二つのフィット感はイマイチに見えた。
メイン二人の好演は特筆ものだが
前作程のオリジナリティが得られないのが退屈かな。




『仁義なき戦い 代理戦争』 1973年
監:深作欣二  主演:菅原文太
★★★☆☆

第二段からは打って変わり
ヤクザ抗争メインの第三作。

ドキュメント色の強い緊張感溢れる展開はノンストップ一直線。
最後まで観客にダレる隙すら作らない。
菅原文太がメインとなる一作目の雰囲気に戻ってはいるのだが
年代が進んだ分、戦後混乱期ならではの独特な暴力感は減り
少々、彼らの存在自体が時代遅れな感覚に包まれるのが残念。
ただこれは時代とヤクザの関連性を示す上で
テーマとしては狙い通りなのだろう。
劇中における警察の台詞にも見事に現れている。

仁義だの何だのと建前ばかりを気にしながら
その実、皆保身ばかりで殺ったもん勝ちの無法世界。
死ぬのはいつも若者ばかり。
そんなヤクザの駄目っぷりも含めて十分に楽しめる娯楽作。





『仁義なき戦い 頂上作戦』 1974年
監:深作欣二  主演:菅原文太
★★★☆☆

三作目から続く後半戦。

引っ張るだけ引っ張り
最高の盛り上がりを見せた前作EDからすれば
何とも締まらない完結編。
しかし、実録と銘打たれたこの作品においては
このカタルシスの薄さこそが肝なのだろう。
暴れるだけ暴れ、ロクな解決もみないまま
ただただ事態は流れていくばかり。
視聴後に残る感想は虚しさだけ。
だがそれこそが唯一の真実、正解。

不思議な満足感が約束される一本。
この後も同タイトルの映画は何作が出ますが
基本的にはここで完結です。






『真剣勝負』 1971年
監:内田吐夢  主演:萬屋錦之介
★★★☆☆

内田吐夢+萬屋錦之介タッグでお送りする
東映武蔵の外伝のような作品。
宍戸梅軒との闘いをピンポイントに描くお話。

出会いから最後に至るまで
双方の大真面目な独白が入り乱れる緊迫感溢れる作風が特徴で
人間の業にまで言及する哲学的な物言いが
何とも面白い雰囲気を出している。
これをかつての本編よりさらに貫禄の付いた
三國連太郎との二人で演じるのだから
息を呑む緊迫感だろう。

アクション面での演出も切れ味抜群な鋭さが冴えに冴え
シンプルイズベストに作り上げた粋な対決物。





『シン・ゴジラ』 2016年
監:庵野秀明、庵野秀明  主演:長谷川博己
★★★☆☆

東京都心にゴジラが上陸したif世界における
日本社会の対応を描いたお話。

怪獣ゴジラ自体が主役というより
その中で社会はどう動くかという趣旨がメインで
やや『日本沈没』や『コンタクト』などに近い空気の映画だろうか。
もう少しライトで軽いノリではあるけどね。

徹底して全編通して喋り倒すという
マシンガントーク系の演出になっているのだが
ほぼストーリー上は意味がない専門用語の羅列で
会話劇自体の密度を高めているわけではない。
あくまで独特の世界観を醸しだす目的の喋りで
ここはまさに『エヴァンゲリオン』が培った空気そのまんまだね。
カットも細かく細かく割られており
喋りも演技も異常なハイテンポなので
結果、120分尺もの作品でありながら
最後まで退屈しなくて済む工夫は実に良い。

お話は圧倒的な駆け足で状況が進む上に
登場人物も多く、基本、国内も国外も全員が全員
理想的な人物像しか出てこないために
取り立てた人間ドラマは起こらない。
政府内の調整や各国とのやりとりも
「交渉している」というシーンは映るが
その駆け引きの内容や攻防を見せ場にしているわけではなく
「やりとりがあった」という事実を報告する形に終始して
テーマをポンポンと描くだけの流れが続くので
どうも空虚な感じが続く作風だろうか。

これを現実を冷淡に表現しているとするには
今度は人間側の空気が熱すぎるかな。
実在の情勢をモチーフに舞台を作っておきながら
中身は観客に心地良い幻想を見せることだけに終始しているのでは
かえって心地悪いかもしれないね。

CG映像はTHE邦画。
普段、垣根なくCGアクション映画を見ている中で
全ての映画を同じ土俵にあげてしまうと
低予算の邦画が一種のジョーク映像にすら感じられてしまうのは
この時代においてはもはや仕方が無いのだろうか。
元々『ゴジラ』という1954年公開の映画は
テーマ性のみならず撮影面からも世界を驚かせた最先端映像に
端を発しているブランドであることを思えば
どうしても「仕方が無い」と割り切っては楽しめない。

製作側のゴジラ愛、特撮愛はあるのだが
ところどころ出る特撮系作品ならではの胡散臭さが
基本となっているドキュメンタリータッチの作風とは整合性が取れず
特撮やアニメが好きなら喜んでくれるはずの熱い要素と
真面目な映画としては浮いてしまう要素が重なり
子供向けとも言えないが、大人向けとも言えない不均衡が気になってしまった。
色々な切り口を混ぜて豪華にしていることが
一本の映画としてはやや歪になっているのかな。




『新婚道中記』 1937年
監:レオ・マッケリー  主演:アイリーン・ダン、ケーリー・グラント
★★★☆☆

大都会ニューヨークを舞台に
くだらない喧嘩別れをしたセレブ夫婦が
離婚成立までの期間に繰り広げるコメディ物語。

言ってしまえば
ツンデレ惚気を延々と見せられるだけのお話なのだが
男女共に心地の良い丁々発止の嫌がらせの連続で
そのあまりのハイテンポっぷりに
ついつい、そこまでやるかと笑ってしまう。
その他のキャラクターなどは
もはや登場した瞬間には当て馬と判ってしまう徹底ぷり。

全く地に足が着かない雲の上の二人の姿だけに
ただただ楽しく眺めていればOKと嫌でも理解できる
実にノー天気かつテクニカルに作られた一本。

1937年公開という時代を考えれば
実に進歩的な夫婦の関係性と社会性にも見えるが
同時に現実感の無さに一つの理想・幻想みたいな物が抱けるのかな。
この後も、20年は続く人気ジャンルの雛形だろうか。




『秦・始皇帝』 1962年
監:田中重雄  主演:勝新太郎
★★★★☆

秦の始皇帝が中国を統一してから最後までを
彼の暴政の数々に乗せて描くお話。

大映映画と言うと
どんな無茶なロケーションであっても
力技で美術セットを組み上げてしまうイメージがあるが
この作品は大スケールでのロケ撮影。
同時代のハリウッド大作に全く負けていない規模は大した物。

しかし、日本人俳優でも中国映画は作れるもんだね。
滑稽な雰囲気なく素直に歴史大作として見られるのが驚き。
始皇帝にまつわるメジャーエピソードを
時代設定にかかわらず豪華に混ぜ合わせ
ノンストップな骨太映画として楽しめる良作。
よくある退屈さを心配する必要はない。

とにかく、勝新太郎の暴君っぷりが素敵すぎる一品だろうか。
彼の想いや理想の世の中は痛い程にわかりつつも
その手法や現実がどんどん独り善がりになっていく様はお見事。
彼の評価はどうあれ、数百年続いたはずの秦という国家が
中国統一の僅か15年後には滅亡しているわけなので
少なくとも治世の人でなかった事は間違いないだろう。
ただ難しい事よりも
シンプルに映画としてのスケールで見る作品かね。

なお、市川雷蔵と勝新太郎の絡みあり。
同じ作品に出演する事自体はそうでもないが
1960年以降、一度のカメラの枠内に二人が映っている作品は少ないね。




『紳士協定』 1947年
監:エリア・カザン  主演:グレゴリー・ペック
★★★★★

ニューヨークへと移住してきた敏腕ライターの主人公が
「反ユダヤ主義」記事の仕事を引き受け
悩んだ末に自らの一家をユダヤ人と偽る事により
差別を肌で体感するという取材方法を思いつくお話。

主人公の泥沼がヤバイね。
もちろん、彼は差別主義者ではないのだが
あらためて中立を意識してしまっているが故に
普通の台詞が口に出来なくなっていく。

学校で虐められた自身の子供を前にして
「お前は本当はユダヤ人では"ないから"大丈夫」とは言えまい。
再婚話が上手くいかない状態を解消するため
「僕は本当はユダヤじゃ"ないから"大丈夫です」とは言えまい。
それを言えば、自身の正義は嘘になる。
結局は安全圏から見下している事になろう。
それでは、当面に起こり得る不幸な現実と
自身の正義は一体どこで折り合いを付ければ良いのか。

この映画は差別の実態や、悲惨な状況を
被害者の立場になって訴えるようなヌルイ作品ではない。
極一部の過激派を描く事も、悲惨なユダヤ人を描く事もしない。
人の心が本当に揺れる瞬間と言うのは
あくまで、自分自身の側に問題を提起された時だろう。
一人のリベラルな一般人の立場として
感情ではなく冷酷なまでに理屈で語る作品だね。

差別を支えているのは「善い人」だと言う。
彼らは口を濁して遠まわしな言葉を用いて、悪い事だと考えつつも
あくまで現状は追認し、今の社会と立場は守りたがる。
本気で考え込めば、主人公のような泥沼に落ちるわけだから
差別主義者を馬鹿にしながら、誰も本気では踏み込まない
それがつまりは「紳士協定」なんだな。
センスありすぎのタイトル勝ち。

つまりテーマは万国共通。
悲しいかなどの時代に誰が見ても楽しめる一作だろう。
ラスト、お母さんが語り出すシーンは少々唐突だが
1947年公開作品であると考えれば、ごく自然な話題であるとも伺える。
21世紀を生きる我々は「ごめんなさい」を言うしかあるまいね。




『シンシナティ・キッド』 1965年
監:ノーマン・ジュイソン  主演:スティーヴ・マックイーン
★★★★☆

主人公がギャンブラーとしての名誉を賭け
一度だけのポーカー対決を行う映画。
本当にそれだけだよ。

だがこれが抜群に面白い。
もはや生き様、哲学の域だね。
年老いて何時その座を追われるかと怯えるポーカーマスター。
ギラギラした野心で攻める若い主人公。
もちろん世紀の対決を前にして
どちらも精神的には限界まで追い詰められる。
役者の好演もありその姿は純粋に美しい。

金は哲学を現すための手段ね。
面白い表現だよね。
例えるならある目的地へ辿りつくためには
歩こうが、車に乗ろうが、地下鉄に乗ろうが
いくらでも選択肢はあるだろうけど
最低、何か一つその手段が無い限りは
絶対に辿り付く事はできないよね。
手段とは100%必要な物ではあるが
それでも「目的」と同一ではない。
素敵。

緊張感抜群な演出の数々と最後まで予想不可能な展開。
シンプルすぎるお話ながらとても良い映画。

レイズ、コール、ドロップ、チェックというシステムが冴える
ギャンブルとして完成されたポーカー。
面白さ自体は多少知ってるつもりだけど
特にスタッドポーカーは面白そうね。
間違いなくより派手な賭け方を誘うルールだ。





『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』 1997年
監:庵野秀明  主演:緒方恵美
★★☆☆☆

アニメではお約束の総集編を前編
真の最終回を後編とする二分割劇場作品。

大抵、この手の前編は真っ当な作りにはならないが
特に酷いのがこの一本だろうか。
初見の観客に作品を説明する気が一切ない構成なのだが
ファンにとっても今更見る必要もないシーンの切り貼りで
編集の意図がとにかく掴みにくい。

オリジナルは傑作TVアニメ。
思春期少年向けの鉄板とも言える要素を
独特のリアリティに基づいて描くロボット物で
とにかく主人公の少年視点という一点を貫き通すのが強烈だった一作。
「謎物ブーム」を起こした記念碑的作品でもあり
敵が何者かはわからない、何が起こっているかもわからない
しかし全てを知っている超越的な人物は最初から存在する。
その現実に主人公は何も知らないまま立ち向かわなくてはならない。
視聴者にも何も知らせない。
そして、適度な情報を状況や超越者の口から少しづつ漏らしていく…
これが一世を風靡した謎物の王道です。
『ツインピークス』の流れとも言えるかな。
難しい手法だけど上手く嵌れば、見てる側は釘付けだね。

映画作品としては最後に僅かな新作パートが入るが
これは完全にオマケ。
インパクトを重視しただけの作りで話の中身が全く見えない。
数ヶ月後に公開される完全版へと繋ぐための映像集でしかなく
本当に困った劇場版。




『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』 1997年
監:庵野秀明  主演:緒方恵美
★★☆☆☆

上記作品のエンディング版。
TVシリーズのラスト2話に相当するエピソードが描かれる。

これは、引っ張りすぎた事が敗因だろうか。
「謎物」は謎である状態を上手く管理、操作してくれるから楽しめるのであって
大したオチも用意せずに種明かしを行うはめになったら駄目なんだな。
悪いとは言わないが、その一点のみで勢いを保ったにしては
驚きもなく普通と言わざるを得ない。
そんな独り善がり自体もテーマなのだろうが
あれだけキャラクターの心情を描いてティーンの共感を呼んだ作品が
こんなオチと諭し方で良いのだろうか。

表現や演出面では、如何に不快な物を見せるかがキーワード。
要は終わる事自体が目的になってしまった映画だね。
確かに感慨深くはあるが面白みはなく
いつまでも甘えてくるんじゃないと
視聴者に三行半を突きつけた勇気には価値があり
その点では良い説教を食らったとも言えるだろうか。

最初に特定の人物が喋りさえすれば全て解決という設定は
所詮は一人の人間の内面だけで完結するお話だよね。
例えば、大いなる謎は謎として存在しつつも
登場人物全員が足掻いて、翻弄されて
それでも必死に進もうとする作品とでは決定的に重みが違うという
「謎物」の限界を早くも見せられてしまった。
これを目の当たりにしたにもかかわらず
この後、アニメ界でフォロワーが続出したことは不思議で仕方がない。





『人生劇場 飛車角』 1963年
監:沢島忠  主演:鶴田浩二
★★★★☆☆

ヤクザ抗争による殺人で服役をした主人公が
出所後に出会う人生の切なさの物語。

様式美としか言いようが無い。
愛する女と泣く泣く別れながらも捕まった主人公だが
出所してみればその女は別の男とデキている。
人生の師とも言える老人と出会いながらも
その故郷に付いていけば、結局は醜いヤクザ抗争に巻き込まれる。
全編通してありえないくらいの苦労性分。
しかしこの背中で泣く哀愁が完璧に様になるのが鶴田浩二なんだね。

今で言うVシネ系のヤクザ任侠物と枠を作るのは簡単だが
このクオリティと完成度の高さは侮れない。
あまりの無駄の無さに、終幕まで一瞬だろう。

男の悲しさを一身に背負う主人公に鶴田浩二。
猪突猛進型でアニキ分の女とは知らずに
愛し合ってしまう若造に高倉健。
二人の男を愛してしまった罪深きヒロインに佐久間良子。
そして大正社会、最後の侠客とも言える
渋すぎる爺さん役には月形龍之介。
最後、劇中流れるベッタベタのテーマ曲を歌うのは
村田英雄と言うのだから本当に隙無しの一本。
彼らのハマリにハマッタ姿を楽しむ映画でしょう。

お話自体は本当にくだらないんだけど
それが面白いのだから仕方が無い。
地元で悪さをするヤクザ連中を見た月形龍之介の一言
「あれじゃ、暴力団じゃねーか」
この台詞が全ての世界観を語ってる映画かな。

この作品は面白いがヒットを受けて任侠シリーズ乱発。
21世紀になって東映に未だ安っぽいイメージが残るのも
全てはこの作品からの功罪だろか。





『新選組』 1958年
監:佐々木康  主演:片岡千恵蔵
★★★☆☆

近藤勇を主人公に
池田屋事件に至る新選組の活躍を描くお話。

一見すると真面目な映画なのだが
何故か幕末を描いた別作品から
ゲストキャラクターとして、
月形半平太や鞍馬天狗が登場する
とってもオールスターな一本。

片岡千恵蔵を主役に
脇を月形龍之介、大友柳太朗、東千代之介と
確かにキャストもオールスターなのだが、
だからと言って劇中人物まで混ぜる必要はないだろう。
それでいて作品自体は特におふざけもなく
近藤勇が語りに語る熱血物語が進行するのだから
少々面を食らってしまう。
何とも半端。

しかし、片岡千恵蔵の名人芸に酔いしれてさえいれば
気付けば終幕の堅実な作品ではあるね。
まさに圧巻の台詞回しで
貫禄とはこういう事を言うのだろう。





『新選組始末記』 1963年
監:三隅研次  主演:市川雷蔵
★★★☆☆

幕末の京都を騒がせた新選組を舞台に
芹沢鴨との内部抗争あたりから
池田屋事件までを描くお話。

主人公は市川雷蔵が演じる山崎烝。
脇には近藤勇に若山富三郎、土方歳三に天知茂と
実に豪華なキャストが楽しめる。

作風は淡々と進行する重厚路線。
誰よりも純粋に武士であろうとする山崎烝の視点からは
新選組が抱える士道の潔白さと危うさが自然と滲み出る。
武家出身ではない人間達の集まりだからこそ
余計、彼らは武士に憧れるのだろうか。
理想と現実との狭間で思い悩む
市川雷蔵の苦悩がとっても痛ましい。

池田屋にて大いなる功績を挙げた直後
大団円での終劇であるにも関わらず
映像には何処か彼らの行く末を予感させる儚さが漂っている。

そんな三隅研次らしい格調高い絵作りの中
おそらく、原作者の子母澤寛に端を発するであろう
大よそ新選組と聞いて想像できる雛型が
僅か100分弱に綺麗に詰まっている堅実な一品。






『シンデレラ』 1950年
監:ウィルフレッド・ジャクソン  主演:アイリーン・ウッズ
★★★★☆

日々、継母に虐められる生活を送るシンデレラが
一晩だけの夢の舞踏会に参加するお話。

約75分。
完璧ですね。
アニメーションとしての丁寧さをベースに
ディズニー作風の完成度に拘って
一本の長編映画として楽しめるよう
綺麗に積み重ねられたオリジナルシーンが良い。

ただ映像を追い続けるだけで楽しい。
ミュージカル仕立てという程の曲数ではないのだが
登場する楽曲もどれも自然な挿入で素晴らしく
見所の多さが飽きさせない。

お話はみんなが知っているという点では驚きはないが
とってもシンプルに纏まっていて
実にロマン溢れる代物。
オマケこそあるが基本は一晩だけの夢物語だよ。
主人公に対してそんなんじゃ駄目だろうと
説教を考える事すら野暮。

可能な限りリマスターされたHD版を用意して
当時のアニメ製作のスケールに思いを馳せるのがお勧め。





『シンドラーのリスト』 1993年
監:スティーヴン・スピルバーグ  主演:リーアム・ニーソン
★★★★☆

ドイツ軍のポーランド占領時、ユダヤ人の迫害政策に対して
格安の労働力として目をつけたドイツ人投資家が
終戦に至るまで自身の権利と人の命を守るお話。

大人だね〜
この映画における主人公、オスカー・シンドラーの
大人の魅力が全てでしょう。
彼は何も言わない、極度に無謀な事もしない。
自身の可能な範囲において、あらゆる妥協を繰り返す。
ただやれる事が目の前にある、だからやる。
これはカッコイイ。
元々、冷徹でストイックな彼であるからこそ
熱狂的な迫害空気や後の虐殺も無益な事と距離を置ける説得力がある。
熱病にかかっていなければ
本来の人間は人情的に出来ています。

歴史上、本当にヒドイ状況と言うのは
外部からではなく、いつだって内部から発生する物だろうね。
くすぶった一点の不当性の否定に、その一点以上の権利があると思い込むと
まぁ止まらないね。
何の事はない、人と人とのお付き合いと根っこは一緒。
劇中に登場する「自制心こそがパワーだ」という言葉が
この映画の真のメッセージでしょう。

徹底してシンドラーとその周りに描写を絞っているのが見やすいね。
映画は怠け者のための簡易教科書でも、歴史検証映像でもないのだよ。
知識は興味を持った各々がきっちり調べれば良い話。

ただ、白黒手法はどーなんだろうか。
幻想的なイメージが強くなる気がする。
純度の高い情報や理屈ではなくデフォルメの力をもって
視聴者に世界を追体験させるのが映画であるならば
これはカラーで生々しくとも良かった気もするかな。
色の出るシーンやラストシーンへと繋ぐ演出のためか。





『新・平家物語』 1955年
監:溝口健二  主演:市川雷蔵
★★★★☆

若き日の平清盛を描いたお話。
出生の秘密や、母との確執をベースに
既存の公家社会への反骨を養う日々を経て
最後、叡山の神輿に矢を射掛けるシーンをクライマックスに終了。

贅沢の使い方を熟知している映画だね。
文庫サイズで全16巻という大長編を原作にしながら
下手に手を広げず、描く対象を1巻目の僅か半分程度に割り切っている。
あのシーンもこのシーンもと欲張らず、ただただ真摯に密度高く描く。
きっちり描ければ、それだけで十分な魅力がこの原作にはある。

また全シーンが桁違いのスケールで撮られていながら
それを前面には押し出すようなことはせずに
あくまで自然な展開と映像の中に滲ませている。
途中からさもそれが当たり前であるかのように
錯覚させられるマジックが素晴らしい。
本当の大予算作品とはこういうことを言うのだろう。
こんな映画が日本にもあったのだと感じ入る
1955年の総天然色作品。





『新ポリス・ストーリー』 1993年
監:カーク・ウォン  主演:ジャッキー・チェン
★★★☆☆

香港を代表する大富豪を狙う誘拐組織と
重犯罪課の刑事達との戦いのお話。

『ポリスストーリー』とは全く関係ない邦題マジック。
一転してシリアスな展開で
実在の犯罪をモチーフにしたという刑事ドラマ。

お話そのものは特に捻りがないのだが
東南アジアをまたにかける誘拐犯達の極悪さと
対抗する警察の暴力度の高さが見事に味わえて
異世界情緒たっぷり。
他の地域で撮られるとこうはいかないだろう。
もちろんジャッキー映画ならではの荒唐無稽さを持ちながら
EDで開示される富豪誘拐事件の多さと
警官の殉職率の高さに妙な納得をしてしまう一品。

驚かしてやろうというアイディアはないが
素直なアクション満載でスピーディーに楽しめる良作。
EDでは詳細な捜査描写は警察からNGが出たとの断りもあり
展開でのリアリティがそこまで出せないならば
いっそアクション寄りというのは、良い思い切りでないだろうか。




『深夜の告白』 1944年
監:ビリー・ワイルダー  主演:フレッド・マクマレイ
★★★☆☆

ある男による罪の告白から始まる
保険金詐欺殺人のお話。

一人の男が色香に迷って落ちていく退廃感が
白黒映像ならではの情緒とマッチした
実に落ち着いた一作。
計画の成否による緊迫感で引っ張りつつも
あくまでメインは悪女と駄目男の絡み合い。

彼が滅び行く身である事は冒頭展開から確定事項ながら
如何にして話が綺麗に繋がるか。
そこにドキドキできるのは職人映画である証拠だね。





『SUPER8』 2011年
監:J・J・エイブラムス  主演:ジョエル・コートニー
★★★★☆

地球外生命体に関わる軍の秘密研究に
映画マニアの子供達が巻き込まれるお話。

子供達の元気な冒険譚であり
家族の絆を描くヒューマンでもあり
謎を追うサスペンスでもあり
ドンパチ描写もありつつ
エイリアンとの触れ合いも描いてしまう。

一見すればあらゆる要素を適度に詰め込み
平均点を狙う事だけが目的の映画。
しかしこの作品の目指すトコロは
そもそもが「オマージュ」遊び心の楽しさだろう。

言ってしまえば
『グーニーズ』+『未知との遭遇』+『エイリアン』のような作品。
それでいて物語を運ぶキーアイテムは、
子供達が夢中になる自作「ゾンビ映画」。
一つの時代への憧憬があまりにハッキリと映り込み
ここまでくればいっそ清清しい。

序盤、明らかに過剰すぎる列車事故シーンがあるのだが
走行列車をバックに撮影できた事に喜ぶ映画マニアの子供達に対し
「俺はこんな大掛かりな映像を作れるんだぞ!」と
まるで監督が本気で自慢しているかのようにすら映る。

こういう作品の是非は議論の余地があるだろうが
つい製作側の映画愛に免じて許してしまう
詐欺のようなSFファンタジー。





『スーパーの女』 1996年
監:伊丹十三  主演:宮本信子
★★☆☆☆

スーパーマーケットマニアの主人公が
経営不振に苦しむ幼馴染のスーパーを立ち直らせるお話。

題材はぐっと身近になっているが
映画としてはパワー不足だと思う。
スーパーの裏側を描くという切り口は
身近になった分、中身は知り合いのパートさんから聞ける程度のお話で
エンターテイメントとしては弱い。

それ以上に、普通の主婦を強調するためか
キャラクターの地味さが圧倒的に退屈で辛い。
ドラマとしてのテーマ性も薄く、映画的な見所も薄い作り。
その割に終盤はあまりに極端な展開で
アンバランスさに見ている側が冷めきってしまう。
コメディとリアル描写の天秤が釣り合っておらず
食の安全を描くという使命感に捕らわれすぎたのだろか。

公開の数年後に食品偽装が大社会問題になって
社会派としての先見性だけは証明してみせたが
あくまでそれだけの映画。






『スーパーマン』 1978年
監:リチャード・ドナー 主演:クリストファー・リーヴ
★★★☆☆


クリプトンと言われる母星が消滅する最中
ただ一人地球へと避難させられた赤ん坊が
成長を遂げヒーローとして活躍するお話。

スーパーマンとは一体何者なのかというただ一点に
焦点が絞られたアメコミ映画。
もはや日本における日常会話において
「完全無欠の何でもできる人」という意味で
故事成語すらも凌ぐ頻度で使われる
「スーパーマン」という言葉。
まさにその意味でのスーパーマンを十二分に堪能できる一品。
地球社会に紛れた異質の存在としてのテーマ性は極力抑え
誰にとっても完璧なヒーローを演じてくれる。
直球の美しさという物はあるよね。

若かりしクラーク・ケントが過ごした片田舎は
アメリカの郷愁の全てを凝縮したかのような美しさ。
かたや、新聞記者として活躍する大都会の現在の姿も素晴らしく
一分の隙もないアメリカン世界の映画だろう。

次から次へとジェットーコースターのように移り変わる
完成度の高い特撮技術の数々も見事の一言。
どうやって撮影したんだろうか。
これはミニチュアだろうか、セットだろうか
ロケーションだろうか、合成だろうか。
そんな事を頭の片隅に思い浮かべるだけでも
十分に楽しめてしまう贅沢な120分。




『スーパーマン II 冒険篇』 1981年
監:リチャード・ドナー 主演:クリストファー・リーヴ
★★☆☆☆

続編。
かつて惑星クリプトンを追放された
スーパーマンと同郷の犯罪者達が地球に漂着するお話。

前作から仕込みがあったお話とは言え
異性人vs異性人という構造が実は退屈なんだね。
特に人類や地球に対して何の興味を持とうともしない
能面のような敵役3人の存在価値の無さが酷く
それではドラマもキャラクターも生まれようがないだろう。
延々と、大した理由もなく殴り合ってるだけの絵面が120分では
一体、何を見れば良いと言うのか。
人間の愚かさを代表したルーサー様はどこへ行ってしまったのか。

二作目という事で映像の規模は確実に増してはいるのに
展開の平坦さ故に逆に地味に感じてしまう典型かな。
どーにももったいない一品。

ヒロインとの真剣交際を前にして
異性人である事に悩めるクラーク・ケントの姿も
さらりと流されてしまうだけでは
もう目を向ける場所が無い一品だね。




『スーパーマン III 電子の要塞』 1983年
監:リチャード・レスター 主演:クリストファー・リーヴ
★★☆☆☆

世界に広がるコンピューター管理のシステムを突く
犯罪者とスーパーマンとの戦い。

時代だね。
1983年という事で
何でもできる装置としてのコンピューターの描写が実に不思議。
主題はそちらでスーパーマンの存在は
そこにちょっとした刺激を加える存在になっている一品。

コメディタッチの映像センスが、とっても上手く纏まっていて
冒頭から職人芸を楽しませてはくれるが
如何せん基本となるストーリーや
スーパーマンのキャラクターが退屈な映画かな。
その軽快なテンポが続かないんだよね。
コンピューターによる管理社会の危険性や
もし彼の心が「普通の人間だったら」というifは面白いが
その行き過ぎな態度や、強引すぎる解決方法には
期待させられた分、かえって興醒めも甚だしい。

結局、この映画シリーズは、
最後までスーパーマン自身を描く気は無いという事なのかな。
特に終盤の展開は渾身の美術のお仕事をよそに
思わず目を覆いたくなる程の三文芝居っぷり。
誰に向けて何を描きたい作品なのか
どうにも理解しがたい三作目。




『スーパーマン IV 最強の敵』 1987年
監:シドニー・J・フューリー 主演:クリストファー・リーヴ
★★☆☆☆

レックス・ルーサーが復活。
ニュー・クリアマンなるライバル登場で
さらに仕様もない方向へと進んだ四作目。

人類の歴史自体には干渉しないというのが、
スーパーマンが自己に課したマイルール。
しかし核兵器廃絶を願う子供心にどう応えるのか。
このあたり、愛だの恋だのを除いて
初めて登場したクリプトン人としての葛藤なのだけど
やはり軽めに流すんだね。
少なくとも前作よりは楽しめるけどね。

ただしそれだけ。
ニュークリアマンの存在理由が全く理解できない。
スーパーマンと似たような能力、似たようなライバルという点では
既に二作目にてクリプトン人そのものが登場している。
しかも例によってこの図式での対決描写は
とにかく退屈なんだよね。
全く言葉も喋らないような没個性な敵役を長々と見せられて
何が面白いのかやはり全く理解できない。

今作は低予算故に、特撮や美術のお仕事では楽しめなくなったが
冗長120分オーバーが当たり前のスーパーマンにおいて
90分程度に短く纏まっている点は良し。
特にテーマを追求しない映画なら全作この程度でよいね。




『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』 2007年
監:三池崇史 主演:伊藤英明
★★★☆☆

平家と源氏、二つの勢力に分かれて抗争を続ける村へ
流離いの主人公が辿り付くお話。

「ジャンゴ」と言いながら
メインの舞台は『荒野の用心棒』。
その他、ありとあらゆるマカロニウェスタンへの
愛溢れるオマージュに満ちた作りは
ファンならばそれだけの楽しい一品。
西部風の町並に全ての登場人物を日本人に置き換え
その上で、全編は逆に英語台詞というお馬鹿さ。
しかも、聞いてて恥ずかしくなる程の日本人発音の連発。
このナンセンスさが醸し出す雰囲気は実に素敵。

ただ、一本の映画を見た気にはならないな。
あらゆるネタが豊富に盛り込まれている代わりに
そのシーンや人物は全てが点でしか存在しない。
繋ぎ合わせのジェットコースター作品をどう見るかだ。
しかも、これだけ詰め込めば
どうしたって全てが面白いわけではなく
特にテンポの悪い箇所が続いたり
だだスベリしているギャグを長々と見せられると
せっかくの笑いも冷めてしまうよね。

本来、傑作と呼ばれるマカロニ映画が持っているような
無駄のない構成の緻密さからは程遠い一品かな。
今風の見た目の派手さに拘った作りからは、
もちろん哀愁やケレン味も感じられないしね。

それでもサービスだけは満点。
最後の最後、北島三郎が歌うジャンゴのテーマ(演歌アレンジ)には素直に降参。
あまりの頭の悪さに不満も吹っ飛んでしまう。
エンディングまで気の抜けない良作だろうか。




『醜聞 スキャンダル』 1950年
監:黒澤明 主演:三船敏郎、志村喬
★★★★☆

若手画家と著名な声楽家のツーショット写真を
熱愛報道として世に出した週刊誌のガセ記事をめぐる裁判のお話。

現代社会に置き換えても100%通用する題材の先進性や
その切り口の軽妙洒脱さももさることながら
やはり黒澤映画。
展開が一筋縄ではいかないのが何よりも面白い。

主人公の三船敏郎はともすれば世間知らずとも言える
社会正義を求めた強い男として鮮烈に登場するのだが
何故か物語の主役は彼の訴訟を担当する弁護士側へと
次第に移り変わってしまう。

この志村喬が演じるキャラクターが圧巻なんだよね。
彼が持つ人間としての弱さ、ずるさ、虚しさ…
思わず観客が自己を投影せざるを得ない
狂おしいまでの痛々しさの描き方が凄まじい。
誰だって本音は真っ当な人間でいたいと願うもんだ。
明日こそ真面目になろうと思うもんだ。
しかし、そうはいかないのが現実だろうか。

社会風刺というキャッチーな下地を抱えつつ
かつ、裁判モノという大舞台を用意しながらも本筋はそこにはなく
序盤から中盤の肩透かし感を経て
ボディブローのようにじわじわ効いてくる映画。
最終的には、畳み掛けるような直球ヒューマニズムを喰らって
文句なしのKOです。

台詞、展開の全てが伏線になっていて
100分程度の尺に全く無駄がないのも素晴らしい。
結局は全てが腑に落ちるという傑作。




『スケアクロウ』 1973年
監:ジェリー・シャッツバーグ 主演:ジーン・ハックマン、アル・パチーノ
★★★☆☆

偶然に出会った二人の男が
お互いに傷を舐めつつ旅するロードムービー。

まず人間同士の出会い
あるいは男の友情に対するロマンだよね。
決して性格が合っているわけではなく
何かを共に乗り越えたわけでもない。
そんな二人が心の底までをも触れ合える事など
果たして有り得るのだろうか。
ココに有って欲しいと願う観客の心が
綺麗に嵌る一本。

気さくで良い奴だが、やや主体性の薄いアル・パチーノ。
暴力的で傲慢だが、人を引っ張る行動力はあるジーン・ハックマン。
この二人の化学反応は抜群で
アテの有るような無いような
そんな二人旅の姿は見ているだけで心が温まる。
決して上手くはいかないだろう
もう少し真面目な人生プランは無いのかと感じつつも
ついついその軌跡を眺めていたくなるのは
誰もが心の底には彼らのような関係性や
自由な立ち居振る舞いに憧れがあるからだろうね。
やや遅れて登場したアメリカン・ニューシネマの傑作。

映画としての荒々しさとは対照的に
主演二人の熱演が作品にどこまでも勢いを付ける。




『助太刀屋助六』 2002年
監:岡本喜八 主演:真田広之
★★★☆☆

自身を助太刀屋と称して
数々の仇討ちの手助けをしてきた若いヤクザが
故郷に顔を出した際、ある仇討ち騒動に巻き込まれるお話。

岡本喜八監督の遺作となる作品だが
相も変わらずテンポが最高。
エンドロールまで含めてきっちり88分間。
すっきりとしたストーリー展開の中に
何度もコメディタッチが入り込む作りにもかかわらず
全編通して冗長に感じるシーンがほぼないのが凄い。
苦笑いも感動も全てが流れてゆくサラっとした感覚は
この時期の映画では中々味わえない爽快さだね。

基本、真っ直ぐな主人公像の魅力が全ての映画かな。
お話に特別なドラマが見られるわけではないが
彼の刹那的な人生観が見せる痛快な言動が楽しく
最後まで自身を曲げないところに面白さがある。
そこにジャズ調の軽快なBGMと細かい映像的な工夫も合わさり
ノンストップで心地良く楽しめる一品。

なお、メインキャストの仲代達矢や小林桂樹はもちろん
カメオレベルだが天本英世や佐藤充までが一応は出演しているんだね。
岡本喜八監督の数年ぶりの映画でありながら
そのまま遺作となった作品であると思えば
これは泣けるね……




『スターウォーズ EP IV』 1977年
監:ジョージ・ルーカス 主演:マーク・ハミル
★★★★☆

銀河レベルのスケールを舞台に繰り広げられる
大帝国の支配とレジスタンスの物語。

この映画は一体何なのか。
「特撮映画」というのが一番しっくりくるね。
SFと言うと何か一つ相応の仕掛けが欲しくなるが
今作は張り巡らされた設定の山は劇中では目立たず
まず異世界、妄想ファンタジーとしてのデザインセンスの素晴らしさに心を惹かれ
その仕事の膨大さに圧倒される作風だろう。
R2-D2、C-3PO、チューバッカ、ダースベイダー
ファルコン号、デス・スター、惑星オルデラン……魅力的な創造物の数々
全てが徹底して作りこまれた異世界を
縦横無尽に駆け巡る主人公たちの姿こそが
何よりも楽しい一作目ではないだろうか。

ジェダイの持つ世界観、思想は少なくともEPIVからは
雰囲気作り「何となく」という理解で楽しい。
何か凄い世界を提示されたなという
ワクワク感だけで十分に満足できる超大作。





『スターウォーズ EP V 帝国の逆襲』 1980年
監:アーヴィン・カーシュナー 主演:マーク・ハミル
★★★★☆

前作で提示された異世界を舞台に
キャラクターの魅力が冴えに冴える二作目。
既存の人物はより鮮明に像が描かれていき
ジャバ・ザハットやボバ・フェット
そして何よりヨーダの登場がさらなる異国情緒に華を添える。

ジェダイという物のありようもぼんやりと見え
そして最後に待つ強烈な展開へ。
前作からの魅力をより大きく広げ
次回への繋ぎも完璧な形で提示するという連作のお手本のような作品。
特撮の技術も明らかに向上して
ノンストップで楽しめるエンタメ傑作。




『スターウォーズ EP VI ジェダイの復讐』 1983年
監:リチャード・マーカンド 主演:マーク・ハミル
★★★★☆

完結編。
ジェダイが構築する独特の世界観や
ルークの父親や母親にまつわる話が強くなり
やや趣の違う三作目。

特撮技術も独自の世界観も
もはや限界まで極まっていて、
思う存分に広げた世界をある程度は締めてくれるが
そういった情報が増えて忙しくなる中
映画としてのエンターテイメント性は若干薄くなるかな。

ただラストシーンの締め方はGood。
やはりこうでなければならないだろう。
このEDが無ければ
いくら過去の話を掘り下げたところで無意味だよね。
完結のための完結編となってしまっているが
間違いなく期待相応のスケール感は楽しめる一本。






『スターウォーズ EP I ファントム・メナス』 1999年
監:ジョージ・ルーカス  主演:リーアム・ニーソン、ユアン・マクレガー 他
★★★★☆

SF世界の表現手法が全く新しくなった時期に
こういう企画が生まれるのはスターウォーズならば必然。
当時の特撮最高峰がEPIV〜VIであるなら
やはり新三部作もCG技術黎明期の最高峰。

このブランドの魅力は、
如何に素晴らしい異世界を構築できるか
そして、その中を主人公に駆け巡らせられるかに尽きる。
幼き日のアナキン、若き日のオビワン達の縦横無尽の活躍が楽しめ
剣戟アクションとしての側面も加わり
一級エンターテイメントの幕開けに相応しい疾走感は満点。

物語の最終的な結末がわかっている弱点はあるが
その分は逆に旧作に精通している程に楽しめるオマケ仕掛けとして
随所に盛り込まれるサービスを堪能するべし。




『スターウォーズ EP II クローンの攻撃』 2002年
監:ジョージ・ルーカス  主演:ヘイデン・クリステンセン、ユアン・マクレガー 他
★★★★☆

主人公とヒロインとの
恋愛メインに舵を切った二作目。

ファンが望む、知っているはずの展開を
どういった形で再現していくか。
その点で、最も密度が高いのがこの二作目。
描きすぎる事はなく突き放しすぎる事もなく
常に絶妙のバランスで今後に繋がる話を続々と紡ぎだす。
ほぼ仕掛けは出揃い、最終作へ向けた期待をMAXにしたまま終わる。
唯一、主人公とヒロインとの物語だけが
くどめの描かれ方で比べればテンポの悪い面もあるかもね。
しかし、この二人はシリーズ通しての重要人物であり
彼らの関係性抜きに物語が紡げないのも事実だろう。

特にスターウォーズ最大の魅力である
映像面での楽しさが極まっているのも新規三部作ではこの作品かな。




『スターウォーズ EP III シスの復讐』 2005年
監:ジョージ・ルーカス  主演:ヘイデン・クリステンセン、ユアン・マクレガー 他
★★★★☆

ここまでくると、存在しているだけで既に一つの価値のある作品なので
単体でどうこう言うのも無粋。
詰め込むべき内容があまりに膨大になってしまっているため
締めを負わされた責任で割を食った最終作だろうか。
もちろん、ファンが長年思い描いていた決定的なシーンの数々を
映像化してくれる嬉しさはあるが
前作までにストーリーのお膳立てが出揃いすぎていて
今作ならではの新しい驚きや楽しさは薄めてで
淡々と課題を消化していく感じはどうしても強い。
6作目ともなると見る側が賢くなりすぎるか。

ただ、元々が、難しい事を期待して見るシリーズではなかったはずので
期待通りの圧倒的クオリティで紡がれた
EPIVへの道を追えるだけで幸せな一本。





『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』 2015年
監:J・J・エイブラムス  主演:デイジー・リドリー
★★★★☆

監督も配給会社も変わりつつ、
10年ぶりの復活を遂げた新章スターウォーズの一本目。
終わらぬ光と闇の戦いを描くep6後のお話。

一大ブランドとして名を馳せている作品だが
難しい理屈を抜きに楽しめる映画だね。
時代、時代の最先端技術で撮られる超大作特撮エンターテイメントでさえあれば
もうそれは紛う事なきスターウォーズ。

もはや大作である事が自然すぎて
素晴らしき手間暇をかけたアートの数々を
見る方も当たり前のような感覚でサラリと流せてしまう空気が
何よりも贅沢な一品。

単品映画としてのストーリー面の弱さや強引さは
もはや伝統芸能として流すとして
恒例のイントロから、エンドクレジットに至るまで
息をつく暇もない程に詰まりきったファンサービスの満点っぷりは
監督が敢えてのファン視点に拘った結果だろう。

とにもかくにも、30年ぶりにスターウォーズの劇中に
ハリソン・フォード、マーク・ハミル、 キャリー・フィッシャーが
揃いぶみするインパクトが全てに勝り
誰の目にも決定的な見せ場となるシーンが
何度も何度も、たて続けに約束される仕掛けは
多少の疑問を吹き飛ばす興奮が約束されている。

結果、新主人公や新敵役のインパクトは弱めになり
ep7ならではの要素が割を喰ってはいるのだが
まずは三部作のお祭りとしての掴みは完璧だろう。
何度も使える手法ではない分
かえって続編への期待が持てる一作目。

必ずep4-6→ep1-3をご視聴の上でご覧下さい。
そういう映画です。




『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』 2017年
監:ライアン・ジョンソン  主演:デイジー・リドリー
★★★☆☆

前作から続くEP6の数十年後を舞台に
反乱軍の戦いを描くお話。

同窓会としてのエンターテイメントに徹した
EP7の代償を払う映画になっているのかな。
新しい時代への架け橋をテーマに据えているのだが
基本的な作品構造や、盛り上げ方は
あくまで前時代的な王道を踏襲しているために
かえってちぐはぐな印象が強く残ってしまう。
今作はハン・ソロこそ退場したものの
代わりにルーク・スカイウォーカーがメインに登場。
やはりレジェンド勢に存在感がありすぎるがためか
新キャラクターの魅力不足という欠点がそのまま残っているね。

特に前作から登場したカイロ・レンが主役として据えられ
作品全体の筋が彼の物語になっているのだが
描かれるのは最初から最後まで人間の心に住む闇のお話。
悪くはないが、伝統に過ぎて見飽きているかな。
いつまで同じことを繰り返すのかと思ってしまうし
何よりもノスタルジー感情は前作で満足してしまった感が強い。

あくまで最終策へ向けた繋ぎの一本だろうか。
決してクオリティや満足度の低い作品ではないのだが
超大作としてのエンターテイメント、
シリーズファンへのサービス精神、
そして世代を跨ぐ意味としての新機軸。
全てを同時に求められてやや損をしている新二作目。

前作に引き続き
旧キャストが健在のうちにコレを撮れたという一点だけで
十分に感謝の一品ではあるね。





『スタートレックII カーンの逆襲』 1982年
監:ニコラス・メイヤー  主演:ウィリアム・シャトナー
★★★☆☆

全宇宙に破滅と再生をもたらす装置をめぐり
カーク船長が戦うお話。
TVシリーズの人気敵キャラであるカーンが登場する一本で
彼の復讐計画と対決がメインストーリー。

1982年公開ということもあり
実に芸の細かい高クオリティな美術造形が楽しめるね。
SF特撮技術の脂の乗りきった時期だけあって
とっても真面目に作りこまれた豪華な映像作品。

ただ、その分かは判らないが
作品全体がエンターテイメントに寄りすぎている感はあるのかな。
スタートレックというブランドが持つイメージだと
もう少しSF的な小難しい仕掛けや
皮肉に富んだインテリジェンス漂う仕掛けを
期待してしまうと少し肩透かし。

登場人物が自身の観念を語るシーンや
判断の是非を問うような展開も楽しめるが
同時に派手なだけで退屈なシーンも少なくはない印象。
この時期だと宇宙空間での撃ち合いなどは
既に他作品で間に合っていると感じてしまった。

また、今作単体でキャラクターの魅力を感じるのは
やや難しい作りになっているだろろうね。
劇中の展開と温度差は中々に大きい。
あくまでTVシリーズからのファン向けと思える一本だが
そこを納得しているなら上々の完成度。




『スター・トレック』 2009年
監:J・J・エイブラムス  主演:ザカリー・クイント
★★☆☆☆

壮大な宇宙航行ドラマである
スタートレックシリーズの新生映画版。
メインキャラクター達の若き日の出会いを描くエピソードゼロ話。

この際、キャストのイメージやキャラクターの違いは置いておこう。
それを差し引いてもなお何がスタートレックなのか迷う一品。
実に現代チックなハリウッド活劇アクション映画を
このブランドで撮る意味を問いたい。
スタートレックにそこまでの思い入れは無いのだが
それでもこんなにも暴力的で、短絡的な作風で良いのだろうかと
元作品の記憶を思えば違和感は拭えない。
何らお話に訴えかけるテーマが存在しない。

では、開き直って活劇映画として面白いかと言うと
これもテンプレートを追うだけで特に目立った個所はなく
2009年相応のCG映像で再現された造形と活劇だけが見所の映画だろうか。
120分の時間潰しは可能だが、どちらかと言えばお馬鹿SFアクションかな。





『スタンド・バイ・ミー』 1986年
監:ロブ・ライナー  主演:ウィル・ウィトン、リバー・フェニックス 他
★★★★☆

日常に問題を抱えている4人の男の子が
漠然とした噂を聞きつけて死体探しの冒険に出るお話。

生涯、彼ら以上の友達はいなかったというのは
言葉の綾なんだな。
実際には後にも素晴らしい人々と出会ってはいるだろう。
ただ少年時代の大切な記憶という物は
男の子にとって一生逃げられる物ではないんだな。
この3人が人生で最も仲が良かった相手とも
人間的に素晴らしかった連中とも言ってはいない。
それでもなお、この旅に出た仲間は最良なのだ。

彼らは死体を捜しに言ったというよりは
見えない何かを求めて線路を歩いたわけだよね。
辿り付けば何かが開放されると思ってね。

こんなにも正面から堂々と描かれたら
見ているこっちが逃げられないでしょう。
いつまでも少年であり続けるという男の馬鹿な幼さが
痛い程に刺激される傑作。

思い出そのものは人それぞれながら、
この映画から掘り起こされる心は一緒。
全く無駄のないシンプルで見事な完成度。




『スティング』 1973年
監:ジョージ・ロイ・ヒル  主演:ポール・ニューマン
★★★★★

小規模ペテンを繰り返していた小悪党の主人公が
殺された相棒の復讐のため、信頼できる同業者の力を借りて
大物ギャングを相手に一手仕掛けるお話。

一言で言うなら
「イカサマ映画」ですね。
本当に美しく見事。

一応、ここの感想を読んだ後に映画を初めて見るケースで
せっかくの作品の魅力を損なうような事は一切書きたくはない。
ただそうなると書ける事は何もなくなる。
そんな映画。

とにかく圧倒的な構成の緻密さが全て。
ここまで徹底的に作りこまれた作品には早々は出会える物ではない。
細かく章立てされた展開や
劇中に何度も流れるコミカルなテーマ曲も合わさり
サスペンス的な緊迫感の中でも
オシャレで固すぎない雰囲気で見られる工夫にも満ちた大傑作。




『ステキな金縛り』2011年 2011年
監:三谷幸喜  主演:三谷幸喜
★★☆☆☆

ある殺人事件を担当する弁護士が
唯一、アリバイを証明できる落ち武者の幽霊を
法廷に立たせようというファンタジーコメディ作品。

細かい笑いとネタの連続だね。
大筋のストーリーや仕掛は十分に面白いのだが
どうにも断続したシーンばかりを見せられて
作品全体の流れに乗り切れない。

豪華と言えば豪華なのだが
初期の三谷舞台原作の映画に見られたような
唸らされるようなセンスは欠片も残っておらず
感動するにしろ、笑うにしろ
挿入のされ方がシュールに過ぎて扱いに困る。
例えるなら落語や漫才が見られる物と期待して見に行ったら
一発ギャグ芸人ばかりが出てくる舞台だろうか。

また、中井貴一、阿部寛、西田敏行など
「○○がやるから面白い」という
俳優としての先行イメージ依存の笑いも
サービス精神でやっているのだろうが
わざわざ映画で見たい物ではないよね。

そんなシーンばかりを積み重ねての142分は少々盛りすぎ。
せめて100分くらいならと思う冗長な一本。





『ストリート・オブ・ファイヤー』 1984年
監: ウォルター・ヒル  主演:マイケル・パレ
★★★★☆

暴走族にさらわれた元カノを助けるため
因縁の街へと舞い戻ってきたヒーローのお話。

粗筋を語るだけでビンビンに伝わる様式美映画の傑作。
何たって昔の女を助けるために
ぶらりと故郷へ帰ってくるアウトローが主人公で
お互いに両想いを確認しながらも
最後には女のために自ら身を引き街を去るからね。
とてもじゃないが最初から真っ当なドラマを作る気はない
完璧に狙い済まされた一品。

僅か90分尺の映画にも関わらず
冒頭クレジットで監督が現れるまでにかかる時間は実に15分。
その間、80年代臭全開のアップテンポナンバーから始まり
最後に出てくる文字は
>A Rock and Roll Fable
>Another Time, Another Place
(>ロックンローグの寓話)
(>ある時 ある場所で…)

この昔話である事の提示はオシャレすぎる。
何処かも知らんし、いつかも知らんし
漠然と荒れた街を凶悪な暴走族が牛耳ってるだけの舞台。

言ってしまえばマカロニウェスタン系映画のパロディで
レオーネの『ウエスタン』かと思う程の気取ったカットの連続でありながらも
今作品が持つ雰囲気は
全くもって格調高くもなければ芸術性も感じないんだよ。
程よく品がなく、程よく激しく、程よく荒い。
この気取らなさが80年代風に拘った最高の咀嚼なんだろうね。

最後の最後もゴキゲンすぎるハイテンションステージで締めてくれる
本当カッコいいだけが正義な一品。





『ストリートファイター 』 1994年
監:スティーヴン・デ・スーザ  主演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム
★★☆☆☆

某国家の独裁者バイソン将軍による
国連医療団拉致、身代金事件をガイル大佐が追うお話。

どーにも、ストリートファイターの映画化は無理がある。
他の格闘ゲームならいざ知らず
あまりにキャラクターのデザインが人間離れしていて
かつドット絵として成立しすぎている。

開き直って独立したキャラクターを作るでもなく
半端に再現しようとしているためにこの映画は何とも安っぽい。
そんな中、主役のガイル大佐だけは
普段のヴァンダムそのままのカッコヨサなので
逆に浮きまくりでとっても不自然。

その上で話を徹底してシンプルにして、
続々と登場するキャラクターだけで魅了する手法が
どうしたって無茶。
一人出てくるたびに笑っていく楽しみ方かな。





『ストリートファイターII MOVIE』 1994年
監:杉井ギサブロー  主演:清水宏次朗
★★★☆☆

1990年代に大ヒットした格闘ゲーム
『ストリートファイターII』を題材にしたアニメーション映画。

ストーリーもキャラクターも有って無いようなダイジェスト映画だが
そもそも16名ものプレイアブルキャラクターを
ストーリーに盛り込むの不可能だろう。

まして格闘ゲームは、プレイヤー一人一人が「使用キャラ」として
任意の一名を選択して徹底的に使い込むジャンル。
人口比率の差こそあれ、皆が皆、平等に愛されているのだから
どのキャラクターを冷遇しても不満は出よう。
しかもその全員に格闘シーンが盛り込まれなければ
ファンは納得しないとなれば
もはや真っ当な映画としては成立のしようがない。

ダイジェスト気味に活躍シーンが連続するだけの映像作品になるのは
最大公約数を狙ってしまった必然だろう。
格闘ゲームバブルに沸いていた当時の空気感を楽しむ映画かな。





『砂の器』 1974年
監:野村芳太郎  主演:丹波哲郎、加藤剛
★★★★☆

殺人事件を追う刑事と犯人のお話。

あの淡々とした原作がこうもドラマチックになるものか。
テンポを極限まで詰めて人間ドラマに昇華しているのが味だね。

その分、ハンセン病に象徴されるテーマ性や
日本の地方文化に関わる要素なども
ややドラマチックな主張が前面に出すぎて
原作の淡白さ故の警鐘という魅力はない。
それどころか、物語のオチとなる回想シーンでは
ピアニストに設定された主役の壮大な演奏シーンの元
映像演出だけで延々語りかけるという開き直りを見せてくる。
刑事役の丹波哲郎も良いが、回想シーンの父親役に加藤嘉というのも
そのつもりならば必然のキャスティングだろうね。
こうまでお膳立てされれば押し付けられてもさすがに泣ける。
このクオリティのクドさはいっそ清々しい。

70年代邦画の名作。
ただし[壮大なBGM、美しい風景、熱い語り、泣き演技、はい感動]という
邦画のチープさを象徴するような粗悪フォロアーを大量に生んだ
問題の一本かもしれないな。
今作は特例ですよ、特例。




『スネーキーモンキー 蛇拳』 1978年
監:ユエン・ウーピン  主演:ジャッキー・チェン
★★★☆☆

馬鹿にされてばかりの生活を送る主人公の下へ
偶然、拳法の達人が舞い降りてくるお話。

完璧なジャッキー・カンフー映画です。
パっとしない生活を送る若者。
(ただし、愛嬌は有り)
謎の拳法を使う老人の登場。
彼に付いての修行の日々。
師匠への因縁を持った敵勢力の台頭。
そして、最後のクライマックス対決。
もはや古典芸術だね。

割と真面目な流派の争いや復讐ストーリーを追いながらも
主人公自身はそことは何一つ関係ない人間という点が
面白い一品でしょう。
そりゃ画面の端々にコミカルなノリも醸し出せますよ。

何より劇中で素敵なのは
動物の動きを真似た拳法のわかりやすさだね。
主人公サイドが使う蛇拳は、手首と指を蛇の頭に見立てた拳法。
敵サイドが使う鷹爪拳は、文字通り、指を鷹の爪のように見立て
急所を掴みに掛かる拳法。
これがどちらも画面映えが素晴らしく
思わず視聴後、あるいは視聴中に
自身でも真似てみたくなること間違いなし。
雰囲気だけなら真似るのは簡単なんだよね。
見事に男の子の心をくすぐってくれます。

彼らの技術をもってすれば
もっと職人的で高度な映像も可能ではあったろうに
敢えて一つの魅力的な動作だけを際立たせる。
そのあたりこそがカンフー映画真骨頂ではなかろうか。






『スノーピアサー』 2013年
監:ポン・ジュノ  主演:クリス・エヴァンス、ソン・ガンホ
★★★★☆

地球を覆った大氷河期を乗り切るため
全ての生活プラント列車に積み込み走り続ける世界を舞台に
主人公達が車両内のカースト制度を乗り越えていくお話。

農場から浄水場、果てはサウナやカウンターの寿司屋まで、
大よそ全ての生活ステージが
列車車両仕様にデザインされているのが目で楽しく
「食堂車」よろしく、もしこの機能が車両用に積み込まれたならば
こういうデザインだろうとのifアイディアの面白さがある。
隔離された異常世界として
作り物感全開の雰囲気が良い味を出しているね。
整合性など二の次なやりすぎ演出もナイスな力技だろう。

ストーリーは乱暴なアクションシーンの連続で
ただ一つの目的は、奴隷が詰まれた最後尾車両から
エリートが暮らす前方車両まで到達する事。
テーマもシンプル、主人公達が行動で示す通り
前へ、前へ、前へ!
そして最後には外へ飛び立つ物語。
お話の凄惨さ、映像のトリッキーさとは裏腹に
実に爽やかな締めが味わえる良作。






『スパイダーマン』 2002年
監:サム・ライミ  主演:トビー・マグワイア
★★★★☆

教授の実験室で、遺伝子改良された蜘蛛に噛まれた事で
特殊な能力を身に付けてしまった高校生のお話。

高校生だよ、高校生。
まさか青春路線で来るとは思わなかった映画版。
冴えない主人公と快活なヒロインのメリー・ジェーン、
そして三人仲間として、親友のハリー・オズボーン。
独特の若さと軽さが綺麗にはまった新解釈の良映画化。

何よりCG全盛期への突入により実現した
ビルとビルを飛び回るスパイダーマンの映像だけで
今作は十分に見る価値がある。
このスピード感が見たかったという夢が見事に再現されている。
一つの完成形だろうね。

主人公の淡いアメリカンな青春路線を楽しみつつも
ヒーロー誕生の業を正面からきっちり描き
迫力映像とアメコミ的なケレン味も楽しめる
贅沢なエンタメ傑作。




『スパイダーマン2』 2004年
監:サム・ライミ  主演:トビー・マグワイア
★★★★☆

三部作、二作目。

高校を卒業した主人公を取り巻く環境は
前作程に夢に満ちた物ではなくなっている。
大学に金策に、ヒーロー活動にと
三足の草鞋をも履けば
当然の如く、ピーター・パーカー個人としての
人並みの生活は壊れてしまう。
その上で徹底してヒーローの何たるかを
語りに語ったヒューマン傑作映画。

「ヒーローは自己犠牲」
語るは簡単、しかし実践はどーなるか。

この若さならば、自身の人生への欲もあろう。
そんな生々しい苦悩の様子と一級のアメコミエンタメが
無理なく共存しているのだから凄い作品だよ。

唯一、敵役博士の存在が
物語の本筋から独立しすぎていたのが勿体無いかな。
ただただ主人公の人生観を育てる
きっかけ作りの装置にしか見えなかった。




『スパイダーマン3』 2007年
監:サム・ライミ  主演:トビー・マグワイア
★★★★☆

三作目。

これは頑張りすぎの映画だね。
ヴェノムとみせかけて、メインに登場するのはサンドマン。
エイリアンコスチュームも当然メインの話だし
グリーン・ゴブリンから残る遺恨に決着も付けねばならない。
ちょっと詰め込みすぎだろう。

当時におけるハリウッド超大作の雛型としては完璧な映画。
ジャンルはもはや不明。
あらゆる映画の要素が贅沢に入りすぎており
これを節操がなく散漫と捉えるか
大作のサービスと捉えるかで評価は割れるかもしれない。
だがそのどれもが成立はしているのだからお見事。
多種多様な方向に手を出して成功する例は珍しい。

初代から続くピーター・パーカーの人生譚にも
一つの区切りが出た作品だろう。





『スパイダーマン: スパイダーバース』 2018年
監:ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン  主演:シャメイク・ムーア
★★★☆☆

現代のNYに別世界のスパイダーマン達が集結して
悪の野望を砕くCG作品。

前半はよくありそうなティーンエイジャー的なアニメノリに
やや退屈を覚えるかもしれないが
オリジナルスパイダーマンと出会うあたりから
一気にアニメーションの魅力が冴えてくる。

高校生(?)の黒人主人公が
2018年相応の現代チックな人物像でイイ味を出しているね。
彼が若さに悩んで苦しんで挫折して
大切な人を失ってヒーローとしての自分を確立していくストーリーは
まさにスパイダーマン本編そのもの。

まずは映像的な楽しさに酔う作品だろう。
途中から6人のスパイダーマンが一堂に会するのだが
元の作品そのままと思われるタッチが各々に再現されていて
全く世界観の異なるキャラクター達が
同時に一本の映画に存在しているという
実に不思議でテクニカルな表現は圧巻の一言。
マニア的に見ればより仕掛けが楽しめる作品なのだろうが
この視覚からのエンターテイメントだけで
元ネタを知らずとも十分に豪華な気分を味わえるのは嬉しいね。

ただ、6人のスパイダーマン全員に見せ場があるわけではなく
あくまでそこに居るという事で満足する役割かな。
本当にドラマがあるのは半数で
残り3人はさすがに一発ネタのための添え物感は否めない作り。
アクションシーンを見せ場にする作風だけに
終盤のバトルシーンも少々やりすぎて、冗長な感じもあるだろうか。

それでも、テーマ性もしっかり、映像音楽センスもばっちり。
前向きで爽やかな成長気分が味わえる良い少年アニメです。
エンドロールの最後に至るまで
小ネタ満載でサービス精神いっぱいの力作。




『素晴らしき哉、人生!』 1946年
監:フランク・キャプラ  主演:ジェームズ・ステュアート
★★★★★

生涯を通し真摯な金融業を営み続けてきた主人公が
ある事情からクリスマスの晩に自殺を試みる。
そんな「自分など生まれてこなければよかった」と絶望する彼の前に
天使が舞い降り人生の素晴らしさを思い出させてくれるお話。

素晴らしい人間賛歌。
何より主人公の人生が良いね。
誰だって若い頃に思い描いた通りの人生など送れるわけがないんだよ。
迫り繰る現実と妥協して妥協して
しかし、それでも積み重ねてきた価値という物があって
お互いに影響を与え合ってきた人達の存在があって
そうやって社会ができていくわけですよ。
この哀愁が実に素晴らしい。
気付けば彼の人となりに惚れている。

もし自分が生まれていなければ、世界はどうなっていたか。
もとい、周囲の人間はどうなっていたか。
人生における禁断の問い掛けに対しての答え。
究極の善意の物語だよこれは。
こうあって欲しい、こうあるべきだ。
いやこういう側面は人生に絶対にある!
誰もがそう強く願いたくなる素敵な素敵な130分を楽しめる傑作。

人間には悪い部分もあるわけだが
もちろん良い部分だってあるわけだ。
そこに嘘がない以上、後者に焦点をあてて
思いを馳せる映画があっても良いじゃないか。

人と人との営みは美しい。
素直にそんな事を考えさせられる一本。
人生で一度は見たい映画でしょう。





『スパルタカス』 1960年
監:スタンリー・キューブリック  主演:カーク・ダグラス
★★★☆☆

ローマ帝国に反逆の狼煙を上げる
奴隷上がりの主人公の活躍描くお話。

いわゆる超大作スペクタクル映画。 
昔ながらの金と手間のかかった丁寧な作品が見たければお勧め。
 
ただし、その贅沢区分の中で比較すれば佳作。
ド派手な割に中身はとても地味かな。
ローマ側の人物像がまだ面白いのに対して、 
スパルタカス側の陣営がなにも特筆すべき点もなく平坦。 
悪い点は少ないが良い点も見つからない一品。 
それでも「命よりも誇りを貫くカッコヨサ」ジャンルとしては
(ブレイブハートであったり、わが命尽きるともであったり)
十二分な完成度が楽しめる。

カーク・ダグラスの問答無用のカッコよさだけで見る価値はあるが
監督のキューブリック分は求めてはいけないね。
普通の映画です。





『スパルタンX』 1984年
監:サモ・ハン・キンポー  主演:ジャッキー・チェン、ユン・ピョウ、サモ・ハン・キンポー
★★★★☆

ジャッキー・チェン、ユン・ピョウ
サモ・ハン・キンポーによるトリプル主演コメディ。
ノンストップとはこういう事を言うのか
三者三様の軽快な掛け合いが芸術的。

ナンセンスでとにかく頭の悪いノリが延々と続き
半ばカルトムービーに近い雰囲気すら出るが
それでもひたすらに明るく楽しげなのは
三人から滲み出てくる若さ故だろうか。
アクションシーンも小気味良いアイディア満載で
重苦しいカンフームービーの香りは一切感じられず
全体のスピード感を損なわない。

とにかく完成度が高いという言葉しか出てこない。
既にコメディカンフーアクションの完成形。
三人とも才能の塊。




『スピード』 1994年
監:ヤン・デ・ボン  主演:キアヌ・リーブス
★★★☆☆

80km/h以下の速度になると爆発してしまうという仕掛けの
旅客バスに乗り込んだ主人公がテロリストと対決するお話。

何よりも「80km/h」という数字が良い。
この現実的な速度と一般バスという舞台が
実際の道路状況や自身のケースに置き換えて
非常に身近な状況として追体験できる。
これは元ネタ映画にはない魅力。

あとは詰まりに詰まった密室パニックアクション。
設定と背景の見せ方でスピード感、ノンストップ感は約束されている。
これだけの狭い舞台で大作風味を出せるのは素晴らしい。

ただし、前半の密度が高い分
後半戦のテンポの遅さが気になってしまうかな。
映画全般に思うが、この手の展開は有ってもいいけど
本当に必要なんだろうか。




『スプリガン』 1998年
監督:川崎博嗣   主演:森久保祥太郎 
★★☆☆☆

失われた古代文明の技術悪用を防ぐため組織された
アーカム財団のエージェントのお話。

半端な作りかな。
大友克洋が監修という事で期待されるような
映像的なマジックはかなり控え目。
もちろんシーンごとには存在するが
どれも孤立しててその場限り。

原作が持っている古代文明の謎単語目白押しな
独特の怪しい世界観も抑え目。
ならば何があるのかと言うと見当たらない。
この作品がアクションメインの漫画だと思って
映像化しているのだろうか。
大作気取りの終盤が仰々しすぎるのも退屈な原因だろか。





『スペース・カウボーイ』 2000年
監督:クリント・イーストウッド  主演:クリント・イーストウッド
★★★☆☆

過去、あと一歩の所で宇宙への夢を奪われた主人公が
ある事件をきっかけに還暦をすぎてから宇宙へ返り咲くお話。

ここまで純粋な老人賛歌は珍しいよね。
イーストウッド監督の作品となれば
一方の軸に勢いに溢れる若者を登場させて
互いに足りない人生観を補完し合う切ない話が多いが
この映画はただひたすらに老人チームがカッコイイ。

衰えた体を奮い立たせ、過去に奪われたチャンスを
掴み直す姿には素直に惚れるし、
それでいて年齢相応の余裕もあれば愛嬌もあるし
人生常に訓練に恋にと大忙し。
若者に対してだって一歩もプライドを譲らない。
こんな魅力的な爺さん達が居て良いものか。
まず彼らのキャラクターの魅力に降参してしまう。

後半、展開にやや活劇を求めすぎた感じはあるが
それすら彼らの死生観の様だろう。
どこか自らの幕引きを悟っているような
老人独特の洒脱さに繋がっていくのだから
最初から最後までこれはそういう映画だ。

ただ作品のテーマや展開の説得力の面で
ついついピントがぼやけ気味になるのは
いつものイーストウッド作品かな。
仕掛け自体は詰め込むだけ詰め込むのだが
どうも、全てが淡白な雰囲気で流れて
底までは見せてもらえないのが残念。
逆にそのあたりも含めての安心して見られるイーストウッド良作か。





『SPACE BATTLESHIP ヤマト』 2010年
監督:山崎貴  主演:木村拓哉
★★★☆☆

外宇宙から送り込まれる謎の隕石攻撃による放射能汚染。
崩壊寸前の地球を救う未知の技術を求め
遠き惑星へと旅立つ宇宙戦艦のお話。

まず邦画とは思えないスケールの大きさに驚かされる。
これ程のCG大作は他では見た事がなく
立派にエンターテイメントをやれている稀有な一品。

お話は原作の魅力を外さず
言ってしまえば、死にたがり男の見本市。
つまり死に様の美学だね。
異常なまでに暑苦しいカッコヨサと
故郷のためにとの散り際の美しさ。
この二点を考えれば間違いなくこれはヤマトをやっている。

設定こそ簡易な物に変わっているが
僅か135分の尺で綺麗にお話が一から成立するように
一本の映画としてきっちり計算されきった構成でしょう。

亡き兄貴の夢、艦長としての責任、託された希望
犠牲を抑えるための犠牲の是非
自身の愚かなる過去への清算。
そして、反目しあうヒロインへ示す男らしさ。
共通の目的を達成するための自己犠牲……
これほどシンプルながら
完璧なエンターテイメント要素があろうか。
全て詰まった完成度高い一品。

突っ込みドコロは多々あれど
それもまた原作アニメから継承された世界観。
元々、矛盾を勢いで塗り潰すのがヤマト流だろう。

若干、目的惑星に着いてからの白兵戦の描写が
安っぽく仕上がってしまっている事と
そこも含めて、要所要所のクライマックスシーンが冗長にすぎるのが難点か。
せっかく用意した重要場面なのだから
可能な限り引っ張らないと「もったいない」などという精神が見え隠れ。
そんな尺があったならば航海における重さがもう少し欲しい。
割とあっさりと到着した感は否めないかな。

しかし木村拓哉はホントに凄いね。
この舞台程にお膳立てができあがっていて
世界観の固まり切った状況は無いだろう。
どこにも役者一人が自由に弄れる隙など見つからない中
それでも彼が喋れば、全てが彼の空気に包まれるという怪。
まさに演技を超越したスターだ。




『スポットライト 世紀のスクープ』 2015年
監督: トム・マッカーシー  主演:マーク・ラファロ
★★★★☆

神父の児童性的虐待を追った記者達のお話で
隠蔽体質な教会組織への告発がメインになっている。

特にドラマもない唐突な導入から物語が始まり
その後も、淡々と静かな音楽の元に記者達の奮闘が描かれる作品。
特別な事件はなく、特別な妨害もなく
本当にただただ地道な仕事で焦点が定まっていく。
しかし、シンプルな構成ながら密度は高く、
シンプルであるが故にくどい押し付けがない。
社会正義を描いた作品である事が自然に受け入れられ、
静かな怒りと強い心を刺激される見事なバランスだろう。

これでもかという程にインテリ連中しか登場しない作品だが
これは彼らのインテリである事の責任なんだろうね。
町の中心には必ず教会が存在する
アメリカ社会におけるシステム論がメインながら
テーマは一本強く通っている。

2015年という時代だらこそ、
真摯なメディアのストレートな強さを
直球で訴えている事自体に大きな魅力があるだろう。
出るべくして出た作品。




『スマグラー おまえの未来を運べ』 2011年
監督:石井克人  主演:妻夫木聡
☆☆☆☆

自堕落な人生を続けてきたフリーターの若者が
くだらない詐欺から300万円の借金を作ってしまい
裏の運び屋の仕事を紹介されるお話。

一体誰が主人公なのか、何を描きたいお話なのか
どこで楽しめば良いのだろうか。
そんな謎に包まれたまま無為に120分が過ぎ行く一品。

結局、主人公はこの仕事を経て何を得たのか
得たとして劇中でどういう契機があったのか。
その全てが描写不足。
唐突という事を通り抜けて
そもそも彼の心境がどうなったのかすらわからない。
肝心な仕事の話もほとんど無いわけだしね。
主人公含めて三人しか居ない仕事仲間とすら
ほぼドラマも絡みも与えられないのはどうした事か。

では、長々と何を描いていたかと言えば
寒々しいキャラクター達の言動に終始する映画だね。
とても本気で登場しているとは思えない
漫画チックで突飛な連中ばかり。
かと言って、その非現実的な存在感を活かすでもなく
一体どういう世界観を作りたいのだろう。
彼らが口にする言葉は、テーマ性を込もっているようだが
お話としての流れにも乗らずドラマに載せられたわけでもなく
その全てが降って沸いたような唐突さ。
これは退屈どころか恥ずかしいとすら言えるだろう。

そして何よりも長いのが主人公の拷問シーン。
これも拷問として成立するアクションは極端に少なく
映像的にインパクトがあるわけでもない。
ただただ、変態キャラクターによる
不快な映像が目的もなく散漫で冗長に続くだけ。
ストーリーもキャラクターも捨てての
この尺の割き方にはさすがに閉口。
執拗に体を責められる妻夫木聡の姿を楽しむだけとすれば
少しコア層向けにすぎる一品だよね。

また、W主演の永瀬正敏も含めて
この二人だけが突出して芸達者なのも違和感。
ふざけた周囲が浮いているのか、むしろ本気すぎるこの二人が浮いているのか。
それすらわからなくなるアンバランス。

あらゆる方向性から、総ツッコミ
全てが投げっぱなしで構成された120分。
もちろん長々と続く暴力描写が故に
お馬鹿映画としても成立はしない。
ここまで本格的に擁護が見つからない一品も珍しいぞ。





『スミス都へ行く』 1939年
監督:フランク・キャプラ  主演:ジェームズ・ステュアート
★★★★☆

純朴な田舎青年が、唐突に上院議員として指名され
激動のワシントンで一波乱起こすお話。

この主人公は凄いよ。
あまりに正義感が強く純粋にすぎる。
もはや、映画のヒーロー像という枠を越えて
誰が見ても、行き過ぎた空気の読めない男。
当然、魑魅魍魎が渦巻く政治の世界で
ボッコボコにされるわけだ。

しかし、彼の幼い言動が世の中で通用しない事を
誰が一番わかっていたかと言えば
それは観客なんだよね。
見ている側が青臭いヒューマンドラマに冷めているなどは
この作品は最初からお見通し。

だからこそ、主人公は正しすぎる演説を続ける。
誰も聞いていない事などお構い無しに痛々しいまでに語り続ける。
その姿が道化であればある程、今度は社会を知る観客自身が
現実世界こそが情けなくて、悲しくて、泣けてくる。
彼の何が悪いのかとね。
現世が複雑で妥協に満ちた世界である限りは
この作品の魅力もまた、年月で色あせる事は決してないだろう。
あまりも強烈なポジティブ楽観映画…
この逆転マジックはお見事。

直接的な説教など用いずとも
結局、大義は一周すべきではないかと
素直に自身の心を探せる傑作ヒューマン。





『スモーク』 1995年
監督:ウェイン・ワン  主演:ハーヴェイ・カイテル
★★★★☆

ニューヨーク街角の小さな煙草屋で繰り広げられる
ちょっと小粋な人間模様のお話。

劇的な事は何も起こらず、特別な人間も出てこない。
何気ない出会い、何気ない距離感ながら
少しだけ皆の人生が豊かになる様が心地良いセンス抜群の一品。
カッコを付けきれないタバコ屋の親父、トラウマから筆を折った小説家
やや複雑な家庭事情を持つ黒人の家出少年……
まさに人種のるつぼを体言するニューヨーカーの人情物語だね。

「タバコの煙には重さがある」
このくだりから始まる彼らの物語は
目には見えず、重量もなく、おそらく記録にも残らない物だろう。
しかし人生のスパイスとしての妙を切り取ったそのやりとりこそ
作品の言う「魂の価値」との表現が綺麗にハマるわけだ。

動きの少ない映像が逆に世界観のメリハリになっているのか
タバコの煙を意識せざるを得ない霞がかった映像演出も雰囲気抜群。






『スラムドッグ$ミリオネア』 2008年
監督:ダニー・ボイル  主演:デーヴ・パテール
★★★☆☆

一攫千金のクイズ番組に出演した主人公が
不正疑惑から警察の取り調べを受け
自身の半生を振り返っていくお話。

本物のインド映画かと思わせるハイセンスが良い。
特に音楽の使い方ね。
「スラムドッグ」が何所のスラムかと言うと
まさにインドなんだな。
何と言ってもこの国の最下層は強烈。
ここで繰り広げられる少年達の足掻きは
それだけで十分なドラマ。
過去の思い出とクイズの答えがリンクしていく様は
都合が良いというより素直に綺麗。

加えて、元番組が如何に完成されているかだね。
あの緊張感の何とドラマチックな事か。
映画のクライマックスとして
そのまま通用する程のクイズ番組演出とは恐れ入る。

手堅く纏まった一作かな。





『スリ』 1959年
監督:ロベール・ブレッソン  主演:マルタン・ラサール
★★★☆☆

世の中への漠然とした不満、自己の確立
そして退屈な人生へのスリルを求め
スリ行為にはまってしまう青年のお話。

何だこの映画は。
このオチは何なんだ。
確かに冒頭から答えは出ているんだけどね。
初めから二つの魂が出会う物語だと言っている。
さすがはフランス映画の巨匠と言った
ロベール・ブレッソンのリアリティ芸術。
一度見たら忘れれられない事は間違い無し。

しかし、この主人公は駄目だね。
こういう人間がスリ技術に何らかの価値を見出していく様は
ちょっとしたホラーだよ。
世の中を斜から見下したような連中による
華麗にて芸術的な連携プレイの数々。
確かにそこに魅入られる姿への説得力は上々。
だがこういった行為の上で塗り固められた主人公の虚像で
果たしてまともな人間関係が構築できるのか
まともな尊厳ある精神性を保てるのかと言うと
やはり、これはノーではないかな。

そのあたりが僅か75分という短編の中で、
綺麗に詰まっている良作でしょう。
スリ行為の芸術的側面があるからこそ
駄目人間たる主人公の細やかな内面描写をゾクゾクしながら楽しめる一品。
どちらが欠けてもこの世界観は作れないんだろうね。





『300』 2007年
監督:ザック・スナイダー  主演:ジェラルド・バトラー
★★★★☆

ペルシアからの大侵略を僅か300人で迎え撃った
ギリシア、スパルタ戦士のお話。

「スパルタ戦士」という男臭いコンテンツを
真っ向からの映像直球勝負で描きつつも
その実は最高に詩的な語り映画。

何よりビジュアルセンスが素晴らしく
コミックアートの世界そのままに
トリッキーな構図も展開をも
ファンタジックな質感が全て飲み込んでくれる。
馬鹿馬鹿しい程に単調な作風に対し
最後まで徹底して映像は格調高く
ただ眺めているだけで十分に楽しめる。

特別なドラマは無いが
描かれる世界観が完璧な一品で
映像傑作として一切の無駄は無し。






『300 〜帝国の進撃〜』 2014年
監督:ノーム・ムーロ  主演:サリバン・ステイプルトン
★★★☆☆

前作の戦いの裏側を描いた外伝作品。

劇中の7〜8割がマッチョ男の半裸で構成される
お馬鹿な世界観はそのままだが
少々、詩的な面は減少しているかな。
確実に予算は増えており海戦という舞台も含めて
よりド派手な映像は作られているのだが
作品を覆う格調高さで前作に及ばずだろう。

ドラマも人物も、徹底してコンパクトに纏まっており
とにかく映像に尺を割こうとする
グラフィック偏重なコンセプトも共通ながら
基本の筋に、さほどのカタルシスはなく
ノリだけの薄味映画とも取れてしまう。

あくまで前作を愛する人へ向けたファンサービス映画かな。
さほど効果のある使い方はないので
3D版に拘る必要は無し。





『スリー・ビルボード』 2017年
監督:マーティン・マクドナー  主演:フランシス・マクドーマンド
★★★★☆

保守的な空気が残るアメリカ南部が舞台。
レイプ犯に娘を殺された母親が
道端の看板に警察捜査を糾弾する広告を
掲載することで始まる物語。

何よりもキャラクターが圧倒的。
復讐の鬼となって周り全てを傷つけていく母親像が凄まじい。
本来、同情されてしかるべき存在でありながら
その空気だけでは良しとしない実行動の鬼は
逆に街全体からどんどん浮いていくんだね。

もう一人の主人公として据えられるのが
無知で粗暴でマザコンという南部の若手警官。
彼の持つ憎しみや蔑み、自己肯定、他者への無理解が
彼女の狂気と相まり、より危うい空気が彩られていく。
周囲が小さな優しさに溢れているのに彼らは気付けない。
徹底的に戦う強さの世界と、それ以外を考慮できない弱さの世界が
綺麗に共存している二人は表裏一体なのかもしれないな。

そんなギラついた生の感情をぶつけ合あう物語が
次第に哀愁たっぷりの人間賛歌へと行き着くというのだから
これはもう究極のテーマ性だろうね。
人間は互いに影響し合うことでしか生きられないわけだ。

公開当時のリアル世相を多分に取り入れ、
常に想像を一歩裏切っていく怒涛のエンタメ展開の元
厳しい現実と人間の虚しさを描き、最後には愛の力で唸らせる…
あまりに贅沢な完成度の一品。





『西部開拓史』 1962年
監督:ヘンリー・ハサウェイ 他  主演:デビー・レイノルズ、ジョージ・ペパード 他
★★★★☆

西部開拓に夢をみた一家の親子何代にも渡る物語を
叙事詩的に描く作品。

いつまでも見守っていたい。
映画が終わってもその子供のさらに子供の成長まで
ずっと浸らせて欲しくなる丁寧な世界が楽しい。
俳優も多彩でこれでもかというくらいの個性が画面を埋め尽くし
目まぐるしく変わる年代が長い尺を決して飽きさせない。

超大作として作られた映像は何処を切り抜いても壮大で美しく
シネラマと呼ばれる3台のカメラ/フィルムとそして映写機を使うらしい
2.89:1(!)というスーパーワイド映像が表現の幅において
他の映像作品を一切寄せ付けないオンリーワン。

この大作映像が衰退していく西部劇に対する最後の回答だったと考えると
切なくもありまた嬉しくもなる。




『西部戦線異状なし 』 1930年
監:ルイス・マイルストン  主演:リュー・エアーズ
★★★★☆

第一次世界大戦の最中
祖国のためと戦線に志願した学生達が出会う
様々な苦難と現実のお話。

この時代の映画は全般マイルドな表現が多いのだが
今作に限っては本当に容赦がない。
戦争描写の激しさもそうだが
様々な形で死に行く若者たちの姿や
生き残りつつも次第にすさんでいく心の様が
見事までに表現されきっている。

一体、何が戦争を引き起こすのか
悲惨な体験を経た主人公が直面する
故郷の人々の姿が本当に切ない。
圧倒的な完成度を誇る反戦映画大作。

しかし、当時に製作された反戦映画は見るのが辛いね。
これだけのクオリティを誇る作品が存在しつつ
結局は二度目の世界大戦に突入する事実を
我々は知っているからね。
当時はどう捉えられていたのだろうか。
実際に大戦を繰り返して初めて反戦の重みを知るというのでは
あまりに悲しかろうが。





『西部の人』 1958年
監:アンソニー・マン  主演:ゲーリー・クーパー
★★☆☆☆

主人公が、過去に組していた悪党達と再会し
強盗計画に加わる事を強要される西部劇。

ただただ、悪役の我侭に翻弄される構図が続く作品。
最初に提示されたルールから
一歩も状況は進まず最後まで劇的な展開もなし。
地味の極地のような映画。
しかし受身に回る主人公の苛立ちと苦悩が
画面から痛い程伝わってくるのは確かで
主演のゲーリー・クーパーのイメージとしては、
この「耐え忍ぶ男」が見事なはまり役。
爽快感の欠片もない作風ながらも
スターの魅力を最大限に堪能する目的には良し。




『西部悪人伝』 1970年
監:フランク・クレイマー  主演:リー・ヴァン・クリーフ
★★★☆☆

流れ者のガンマン主人公が
銀行強盗に端を発する陰謀を砕くマカロニウェスタン。

リー・ヴァン・クリーフがカッコイイ。
マカロニにおいて、それ以上の感想は必要だろうか。
荒々しいストーリー構成と人物配置は
間違いなく作品全体の雰囲気をぼやけさせてはいるのだが
やりたい事だけはダイレクトに伝わるド直球。
キャッチーなBGMと、キザな映像演出の中
ただただ、主人公が繰り広げる気取った言動や
お馬鹿な銃ギミックを楽しんでいれば
あっと言う間の100分間。





『成龍拳』 1977年
監:ロー・ウェイ  主演:ジャッキー・チェン、シュー・フォン
★★★☆☆

一家を盗賊に襲われ父親を亡くした主人公が
その仇、恋人、親友などと複雑な感情を
絡み合わせていく事となるお話。

真面目な武侠世界だね。
大体にして武侠物というのは
ストーリーも人間の関係性も複雑になりがちで
脚本の精密さが必要になる代物なのだが
この映画は説明が不足気味じゃないかな。
そんな武侠世界の魅力を使おうとしつつも
殺陣シーンに尺を割き過ぎたせいか
せっかくのキャラクターを底までは描いてもらえない。
展開は唐突の一言、敵対勢力も登場するだけで数が多すぎるよね。

主人公の荒んだ心を癒すはずの義兄弟も
複雑な立場と感情を絡ませるはずの元親友も
女の悲しさや愚かさを代弁するはずの恋人も
全てが「はず」という期待で終わってしまう。

ただ、互いに仇でありながらも
主人公を影ながら愛してしまう盗賊の女頭目だけは見事。
そのしおらしさと同時にもはや執念とも言うべき
主人公と自身への無茶な枷のかけかたの数々。
この恐ろしさ、華麗さ、背筋が凍る美しさこそが
武侠キャラクターの真骨頂だろう。
あぁ、怖い、怖い。

武侠物としてはあまりにも薄味にすぎて
カンフー物としては少し説得力に欠ける。
十分に面白いがどっちつかずな印象をは受ける一品だろか。




『聖闘士星矢 神々の熱き戦い』 1988年
監:山内重保  主演:古谷徹
★★★☆☆

人気漫画『聖闘士星矢』の中編劇場版。

我らの女神アテナが窮地に陥る。
五人の少年主人公が各地で敵キャラと対決する。
最後は全員が終結して大ボス戦を迎える。

この原作が持っている構図の全てを
僅か45分という尺の中に綺麗に落としこんだ作品。
アニメーション、音楽などの完成度の高さも心地良く
映画全般を通して徹底した職人芸が楽しめる。

ギリシア神話と北欧神話が見事に融合した世界観も
原作に地続きでありつつオリジナリティに溢れ素晴らしく
元作品におけるキャラクターの特徴も再現度十分な良作。




『聖闘士星矢 真紅の少年伝説』 1988年
監:山内重保  主演:古谷徹
★★★★☆

太陽神アベルに自らの神であるアテナを奪われた主人公達が
己の正義を信じて戦いに赴くお話。

この『聖闘士星矢』という作品は
少年向けのバトルアクション漫画でありながら
ギリシャ神話をモチーフとした世界観や
聖衣と呼ばれるアイテムのビジュアルが非常に美しい。

特に人気を集めたのは
黄金、白銀、青銅と登場人物を階級分けした点で
このシンプルな設定が実際のキャラクターの魅力と連動されている要素だろう。
黄金は星座に従い12人のみでその力は全員互角。
ここに最も多彩で魅力的な人物を配置して
生まれ月という視聴者自身の絶対不変の階級を絡ませることで
大いに子供達の話題を浚ったものだ。
キャラクター作品を作る上で主役を喰う事を全く恐れない
人物造形の勇気とセンスに脱帽だね。

今作はその黄金聖闘士と呼ばれる連中を見事に再登場させ
圧倒体なアニメーション技法の美しさに乗せ
ファンが望む要素を全て再現してみせている。
スケールの大きさと、さほど無理のない展開と設定。
決して背伸びはせずに元が人気作品であるケースの外伝映画における
お手本のような作りが楽しめる一作だろう。






『聖闘士星矢 最終聖戦の戦士たち』 1989年
監:明比正行  主演:古谷徹
★★☆☆☆

突如現れた堕天使ルシファーの野望を打ち砕くお話。
劇場版4作目。
リアルタイムで製作された最後の映画だね。

テンプレートオブテンプレートで作られた作品で
決して悪すぎるということはないのだが
黄金聖闘士の魅力をあらためて描いてみせた
前作『真紅の少年伝説』を公開した後にこれは厳しいのではないか。

聖闘士星矢の大きな肝である
世界観やキャラクターの魅力が全く見えてこず
二作目の『神々の熱き戦い』の完全な焼き直しでありながら
アスガルドを舞台にした神秘性にはとても及ばないないだろう。
まんが祭り枠の45分で真っ当な映画になるとは期待していないが
あまりに開き直りがすぎるように見える。
かく生きるべしという原作風の熱い語りも
もちろんアニメベースの作品では薄味となるしね。

原作が既存設定の集大成ともいうべき
ハーデス編に突入していた中で
こんな映画が公開されても困ってしまうね。
企画製作のタイミングから仕方がないとは言え
特に黄金聖闘士やアテナの安売りが気になるかな。
細かい部分での遊び心はあるのだが
この時期にこれ以上の続編は必要ないと思わせるだけに十分な
マンネリ枠の4作目だろう。





『聖闘士星矢 天界編 序奏〜overture〜』 2004年
監:山内重保  主演:古谷徹
★★☆☆☆

唐突に神様が現れ地上とアテナに難癖をつける
懐かしの流れが楽しめる原作後日譚。

冥王ハーデス編のOVA化成功を経て
オリジナル続編として製作された長編映画なのだが
ハーデス編は原作の集大成的な章でありながら
当時、TVアニメで描かれなかったという特殊な事情があった。
対してやや欲を出しすぎた映画化なのかな。

『聖闘士星矢』の持つ魅力は多彩で
アニメ版がブレイクしたヒーロー物としての側面。
原作が常に抱いた車田正美による男語りの哲学。
大きなお姉さんによる圧倒的なキャラクター人気。
21世紀になったが故のレジェンドブランド化……
そのどれもが半端に取り込まれているためか
どうも一本の映画としては半端な感じが強くなっている。

アテナと星矢の生きた人間としての側面を描いているが
大人になった世代にテーマを示したいのであれば
もう少し深めの物語やドラマが必要になるだろうし
懐古の心を満たす目的の映画であれば
今度は雑音が多すぎてキャラクターの言動や展開に
十分な納得はできないだろう。

未完としか思えないストーリー展開も含めて
すっきりしない作品で終わってしまっているね。
ハーデス編OVA化直後ということもあって
あらためて原作のもっていたカタルシスの偉大さを
噛みしめることになった一本。






『聖闘士星矢 Legend of Sanctuary』 2014年
監:さとうけいいち  主演:石川界人
★★★☆☆

女神アテナに選ばれた5人の若者が
巨大な敵に立ち向かうファンタジーバトルCGアニメ。

100分弱に原作の一番人気のエピソードを突っ込んだ
弾丸超特急映画だね。
次から次へと登場するキャラクター数が多すぎて
一本の映画としては真っ当な物語は存在し得ない作風なのだが
今作はフルCG描写と聖衣の融和性の高さを発見するだけで十分に楽しめる。
日本のアニメに「鎧物」と言うジャンルがあるなら
このCGデザインは見事だね。
原作に捉われすぎない新解釈アイディアの数々がとってもオシャレ。

キャラクターも2014年相応の性格や言動になっているので
ストレスなく楽しめるただただ映像を眺めていればOKの一品。
21世紀になっても、魚座がどうの、蟹座がどうのと
誰がどんな扱いになっているのかを笑い合う
志は低いが定番のファンアイテムとしてもアリだろう。



『関ヶ原』 2017年
監:原田眞人  主演:岡田准一
★★★★☆

天下分け目の関ケ原合戦を描いた大作映画。

かの有名な関ケ原合戦に至るまでの経緯を
ハイテンポ、ハイテンションの熱演をダイジェスト風味で見せていく作風だね。
とにかく人物像がハイテンションのオンパレードで
決して歴史を事細かく解説するわけではないが
この合戦が何故起きたのかという事を
理屈ではなく個性豊かな人間が放つ生の方向から
しっかりと伝えてくれる。
この淡白さは作品としてはギリギリの線だろうが
緊迫感が勝っているのではなかろうか。

岡田准一の無骨な演技も上々。
役所広司が演じる家康の狸っぷりと人間味が共存する姿も見事だが
何より皮肉と称賛の両方の意味が同時に成立しうる
"正義の人"石田三成を存分に味わえる嬉しさがあるね。

全編通しての大きな仕掛けやドラマはない作風だが
全シーンがよくぞ撮れたと感動する重厚な画の連続で
眺めているだけで150分が一瞬で過ぎるのはお見事。
とにかく、大作を味わいたい欲求には十分に応えてくれて
2015年によくこんな企画が通ったという感動とともに
歴史映画ファンなら見たい物が見られる作品ではないだろうか。



『関の弥太ッぺ』 1963年
監:山下耕作  主演:中村錦之助
★★★★☆

股旅物。
つまり旅ガラス人情物だね。
もしくは任侠映画の元ネタと見ても良いか。

圧倒的な美しさを誇る完璧な映画。
最初からジャンルが固定されているため
その枠組みを超える衝撃はないが
今作は人情物における限界まで極まっていると思う。
構成から何から全てが本当に綺麗。
特にワンシーンごとの映像が素晴らしく
役者もカメラワークも全てが一級品。

別段、衝撃を盛り込みようのない脚本でも
その緻密さと構成の見事さで
ここまでの名作が完成するという驚きが味わえる。
映画ならではの名シーンの連続で
特にラストシーンの哀愁の見事さは語り草になること請け合い。

しかし、こう見ると萬屋錦之介は芸達者だね。
この時代に、あの若々しい頃の快活な若者像をも
全く衰えずにこなせるとは驚きだ。
彼の二つの時代を股にかけたスターキャラが両立して
始めて成立する仕掛けの作品だろう。
これだけ聖人のような人物像を演じてみせて
全く嫌味を感じさせない説得力はさすがです。
ただただカッコイイ。





『セッション』 2014年
監:デミアン・チャゼル  主演:マイルズ・テラー、J・K・シモンズ
★★★★☆

名門音楽院を舞台にした鬼教師とドラマー生徒のお話。

全編通してノリノリのBGMと細切れの映像テンポが実に心地良い。
ストーリー自体はやや強引で
安っぽい演出や展開も目には付くのだが
とにかくやりたい放題の熱血教師と
全てを犠牲にしても構わないという生徒が
互いに繰り広げる一流世界の緊張感が素晴らしい。

何とも言えない暴力教授だが
結局は主人公に構い続けている時点で
その将来性は認めているわけだからね。

これは教育論の映画ではなく
音楽を舞台にした闘いの映画であると
途中で観客に気付かせる手法が見事。
目を覆うような暴力教師とキ○ガイ生徒の物語ながら
最後には上下関係を超えて
お互いの一人の人間の独立と自尊心の対決へと消化するのだから
決して後味は悪くない

単純に導入される楽曲描写が素晴らしく
かつ、ビッグバンドの豪華演奏が長時間を占めるため
シンプルに見ても楽しめる映画であるのが良い一本。





『切腹』 1962年
監:小林正樹  主演:仲代達矢
★★★★★

とある大名屋敷の軒先に
庭で切腹をしたいという謎の男が現れる。
流行の強請かと思い話を聞いていると……

ある程度の回想シーンはありながらも基本は屋内劇。
しかも延々と続く1vs1の語り合戦。
謎に満ちた最高の導入から勢いを殺さぬまま
段階的に状況が明かされていく緊迫感が素晴らしい。

演じるは、仲代達矢vs 三國連太郎。
その"圧"たるや筆舌には尽くしがたく
完全なまでに無駄が省かれた世界観は
1秒たりとも目を背ける暇もない。
この二人のキャラクターが見事に過ぎるね。

退屈とは程遠い見事なエンターテイメントを実現しつつ
その中に人間の誇りと良心、集団心理と組織の怖さを混ぜ込む本格派。

時代劇映画の中では異色の作りながらも傑作中の傑作だろう。
これを見ずして何を見る。
視聴後の気分は保証しないけどね。





『セブン・イヤーズ・イン・チベット』 1997年
監:ジャン=ジャック・アノー   主演:ブラッド・ピット
★★★☆☆

第二次世界大戦中、イギリス領からチベットへと逃亡した登山家が
第二の人生を歩み若きダライ=ラマと友情を深めるお話。

舞台としては重厚な物語なんだけど
どうも薄味だよね。
主人公がチベットに惹かれていく様も
祖国オーストリアと距離を置く姿も
肝心のダライ=ラマとの交流にしてもね。

世界の屋根とまで言われる山脈の見事さと
チベット独自の文化による一級の異世界情緒に
見事に飲み込まれてしまう様は圧巻ながら
道中で実は大した話も無いまま
雰囲気だけで進んでる事に気付いてしまうのが残念。

とりあえず、本物の香り漂うダライ=ラマの人柄と
チベットにおけるジェノサイド(断言してよい)の様に
存分に思いを馳せる一品だろうか。




『セルピコ』 1973年
監:シドニー・ルメット   主演:アル・パチーノ
★★★☆☆

腐敗が蔓延するニューヨーク市警において
賄賂を受け取らない主人公青年が
どんどん追い詰めらていくお話。

アル・パチーノが演じる若手警官は
何も最初から正義の使徒といった具合ではない。
警察という仕事や社会正義に対して
少々、無垢な憧れを持っていた純粋な若者だろう。
特定の誰かを憎んで告発しようというわけではなく
ただ一個人としての信念で汚い金を不要だと考え
その仕組みそのものに疑問を抱いただけの男だ。

それが、何とかなると夢見て行動を起こすも
あらゆる上司、あらゆる部署、あらゆる手段を
たらい回しにあいながら
気付けば引くに引けない立場へと陥っていく様は
見ていて本当に辛いね。
組織というものは悪意のない個人の自由すら認めないか。

殺人事件が日常茶飯事で起こるNYにおいて
周囲全てが敵の状況で警察官をやることは
既に直接、命にかかわるお話なんだな。
駄目人間の様相を多分に含む主人公ではあるが
だからと言って、それで信念と生命の両天秤はあまりに残酷だろう。

特別な悪人はあまり登場しないのだが
誰しもが現状と妥協しながら各々の立場で
生活をしている人間達であり
みなどうも頼りなく信用できない。
不正を是正する立場としてのチームすら
結局は皆が主人公一人の犠牲もって
落とし所を探っているようにしか映らないんだな。

しかし、そんな絶望的な状況の元でも
彼は一定の成果を成し遂げてみせる。
辞職して何処か遠くの街へ逃げてしまえば良い物を
ギリギリのラインで踏みとどまって逃げないんだよ。
腐敗した現実に放り込まれた若者が
その人間性を保ちながら生きられるのかという決死の物語だ。
一種のヒーロー映画ですらある。

実話ベースというのも凄いお話だが
今作は一組織の告発劇を超えたところにある
人間の勇気の物語ではなかろうか。





『ゼロ・グラビティ』 2013年
監:アルフォンソ・キュアロン   主演:サンドラ・ブロック
★★★★☆

宇宙ステーションで漂流した主人公が
様々な苦難を乗り越え地球に戻るお話。

映像一発勝負の映画。
骨子は極限状態のサバイバルを描いた
緊迫感溢れるサスペンスだが
ストーリー自体は別に宇宙でなくとも可能な代物であり
主役はやはりその舞台と映像自身。

最先端技術の全てを投入して作られた立体映像が
本当にリアルかどうかは知る由もないが
少なくとも宇宙空間における圧倒的なままならない雰囲気が
見事に肌から伝わってくる。
この怖さを見て宇宙に行きたいと願う人など誰一人居ないだろう。

宇宙空間と空気のある空間とを分けた
メリハリある演出も冴えに冴え
無機質な世界に対する恐怖を徹底して描ききったからこそ
ラストは地球の大地と生命を噛み締める感動が映えるわけだ。

単なる立体映像集に収まらず
その空気感までをも見事に描き分けた手腕と
感動の一大ストーリーを捨ててでも
僅か80分に全てを纏めきった判断に拍手。





『ゼロ・ダーク・サーティ』 2012年
監:キャスリン・ビグロー   主演:ジェシカ・チャステイン
★★★★☆

2001年の911以降、10年間にも渡り続けられていた
アメリカCIAのビンラディン暗殺作戦を追うお話。

淡々と進む空気感が何とも怖いね。
事件直後のアフガニスタンを攻撃していた頃はともかく
その後、アメリカはイラク戦争へと向かうのはご存知の通り。
911テロへの直接な報復活動だったはずが
むしろ世間の関心は傍流へと移ってしまう。
予算も世相も次第に逆風になっていくわけだ。

そんな中、この案件に全てを賭けている女性CIAが
上司も呆れる執念で延々と線を追っていく。
その姿をただただ見つめる映画。
人生も友達も失っていった彼女の意地だよね。

ビンラディンが2011年に殺害されたことは
規定事実として存在するので
場面が移り変わるたびに日付が刻まれる演出によって
確実にXデーへと一歩づつ近づいていく緊張感は抜群。

CIAも決して自由自在な諜報が保証されていない
パキスタンという国での活動
かつ、中東〜南アジア全域に渡る操作網を敷き
たった一人の隠された人間を探し出すという
まさに雲をつかむような話を実現しようとする
この怨念は凄まじいわ。

イラク駐留軍の姿を描いた監督の過去作
『ハートロッカー』にはまだエンターテイメント的な
見せ場があった作風だったが
今作はより淡泊さが徹底されており
その地味さがさらなる恐さを醸し出す。
一人の人間の意思があれだけの人間を殺し
逆にその一人の人間に復讐するためだけに
これだけのコストをかける世界というのは
一体何なんだろうな。

Xデーとなる強襲作戦を描いた後
映画は驚く程にあっさりとエンディングを迎える。
結局、今更それで何が変わるかというお話なんだよ。
その虚しさとケジメの両立が見事に心に残る。

決して派手な作品ではないが
2012年公開の作品でこのフットワークの軽さに
アメリカ映画の見事さが現れている傑作。




『戦艦バウンティ号の叛乱』 1935年
監:フランク・ロイド   主演:クラーク・ゲーブル、チャールズ・ロートン
★★★★☆

18世紀末、貿易のためにタヒチまで繰り出した
あるイギリス戦艦で起こった叛乱の経緯を描くお話。

超大作じゃないか。
船乗り、海洋物。
大海原の魅力に満ちた1935年の骨太作品。
それでいて2年間にも及ぶ航海における船内という
閉じた空間が作り出すドラマも魅力的。
昔気質で非人道的とも言える船長と
船乗り側にとっても優しい副船長との溝が
どんどん深まっていく様は緊迫感抜群。
夢のようなタヒチの滞在期間を挟んだが故に
それが過酷な復路とのギャップで爆発する様は見事。
確実のこの作品の船長は一線を超えたよね。
各々の行く末が気になり最後まで決して気が抜けない傑作。

それにしても海に浮かぶ船の雄大な事よ。
実際は小さな戦艦にもかかわらず
まともに映像を見せられるとパワーが違いますな。





『戦国魔神ゴーショーグン 時の異邦人』 1985年
監:湯山邦彦   主演:小山茉美 他
★★★☆☆

TVシリーズの戦いから数十年後
年老いた主人公達のその後を描く後日譚。

酷い作品だよ。
何がしたいかって、
ただ映像と音楽と雰囲気で魅了したいだけ。
それほどに、中身を伴わないインパクトのある一作です。
幻想的で不可思議で
もちろんゴーショングンである以上
どこかキザで……

ロボットなんか一度も出てこない。
大きいお兄さん向けの作りで
世界観とキャラクターで人気が出た作品の後日譚としては
OVAなり劇場版なりでこのタイプは王道かな。

虚構と現実が入り乱れる中
相応のアクションシーンもありで
ファンが望んだキャラクター同士の軽妙さが楽しめる。
とにかくアニメというジャンルの勢いが伺える一作品だろか。




『戦場にかける橋』 1957年
監:デヴィッド・リーン  主演:ウィリアム・ホールデン、アレック・ギネス 他
★★★★☆

日本軍の捕虜となった数百人のイギリス軍兵士たちが
様々な対立を経てビルマの戦場に立派な橋を架けるお話。

一体、戦場において何が大事なのか。
というより人生において何が大事なのか。
その日、その日を賢明に目標を据えて生きる事
もちろんその素晴らしさは尊いものであろうが
必ずしもそれで何かが残せるとは限らないのが現実か。
くどくど言われるまでもなく、自然と漏れ伝わる虚しさが凄まじいね。
ニコルソン大佐の人生を振り返るシーンが染みる。

このプロットを日本軍とイギリス軍による二つの価値観や
文化圏の対立と和解というヒューマンドラマに仕上げないのが実にビターな一品。
徹底的にイギリス謹製に拘り続けるニコルソン大佐も狂気だし
一連の流れを恥として自決する覚悟を持っていたであろう斉藤大佐も狂気。
最後の最後まで分かり合えないのは本当に辛いね。
その上で、あれだけの手間隙と日々の積み重ねで完成させた橋が
同じイギリス軍の手で破壊されるというのも当然の狂気。
一人、両者の間を奔走し続けた軍医が最後に呟く
マッドネス……が全てを物語る。

加えて、画面の節々から伝わる超大作への拘りがすばらしく
コレだけのテーマ性とキャラクター性を内包しながらも
しっかりエンターテイメントとして成立させているのはさすがの一言。
続々と導入される圧巻の映像表現に酔いしれるだけでも大満足でしょう。

しかし日本人が日本人が登場する古いハリウッド映画を見ると損するね。
早川雪舟は別としても、その他モブ日本軍の発音でずっこけですよ。
これだけ骨太作りの超大作にB級臭が出ちゃいかん。





『戦場のピアニスト』 2002年
監:ロマン・ポランスキー  主演:エイドリアン・ブロディ
★★★☆☆

ナチスドイツのポーランド侵攻によって
激動の中に放り込まれたユダヤ人ピアニストの生き様を描くお話。

淡々と進む映画だね。
このピアノ弾きの主人公は
本当に荒事が苦手なんだよね。
だからこそ流されるままの姿に虚がない。
ユダヤ人迫害における狂気が
時代を追うごとに高まっていく様を
実に丁寧に追っていける一品。

ただし、街並みの作りこみであったり
時代の空気であったり
あくまでそういう方向を楽しむ映画かな。
特に作り込まれたストーリーが用意されるわけでも
前面に押し出されるようなテーマ性があるわけでもない。
題から期待されるピアニスト分は薄いかな。
あくまで人物の象徴としての設定にすぎない。

しかし、この淡々とした世界観にこそ
観客が各々で考えてくださいという割り切りなのだろう。
ある意味でとっても丁寧な作品。





『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』 1992年
監:マーティン・ブレスト  主演:アル・パチーノ、クリス・オドネル
★★★★☆

目が見えない元軍人の堅物男と
人生に悩む高校生男子が繰り広げる
ヒューマンドラマ。

メインの登場人物は二人だけで
淡々とした掛け合いの中からも
人生で一番大切な事が真っ直ぐに伝わってくる
シンプルイズベストを地で行く完璧な作品。

人間は僅か3日の出会いの中で
こうも心を動かされるものか。

人生に絶望して生きる気力を失った老人と
目の前の選択に悩み続ける若者ではありながら
彼らは決して傷を舐め合うではなく
互いに説教をしあっていける関係なんだよ。
必要以上に関わらない事を口にしながらも、
ついついその裏で相方を気遣ってしまう二人なんだ。
自身こそ大きな問題を抱えている中で
それを棚上げにしてでも目の前の人間を見つめ
結果、良い影響を与え合う。
まさにコミュニケーションの憧れが詰まっているよね。

加えて、アル・パチーノが演じる誇り高き全盲軍人は
それ自体が一つの見所となっており
あざといまでの完璧演技が楽しめる。
素直に降参、カッコイイね。




『千年女優』 2002年
監:今敏  主演:荘司美代子 他
★★★☆☆

往年の名女優がインタビュー形式で語る
自らの人生譚を描くお話。

何よりも映画の世界が美しく感じられる一本。
彼女が出演する劇中劇の映像と
自らの人生における思い出映像
果ては現実のインタビュアーまでもが交錯し
めまぐるしく舞台が移り変わる世界観は
ただ眺めているだけで十分に楽しい。

しかし、ギミックが噛み合っているかは別だね。
エンターテイメントに満ちた映像とは対照的に
お話はシンプルに過ぎる程にシンプルで
主人公が残す最後の台詞が全てを示しているだろう。
古き良き映画界への賛歌を遥かに超えた位置に
神聖なる「少女性」への信仰が置かれる構成は
やや観客の感性を選り好みしすぎな気がする。
あくまで一個人の想いの話としてはそれも良しか。

映像が文句無しに楽しいだけに
一本の映画作品としては
逆に物足りない印象の方が強く残る作品だろうか。





『善魔』 1951年
監:木下惠介  主演:森雅之、三國連太郎
★★★★☆

対照的な新聞記者二人が体験する
切ない恋のお話。

高潔にすぎる若き新人記者と
人間社会を諦めきった中年上司
そんな二人がいくつかの男女の姿を
理屈たっぷりに延々と語ってくれる一本。

三國連太郎演じる若者が見せ続ける
崇高な精神はあまりに痛々しいが
森雅之による不良中年オヤジが見せる
世渡りに慣れきった姿もやはり痛い。
一見、こんな包容力溢れた理想的な上司を
どうして女関係一つで嫌えるのかと思うのだが
これを堕落として唾棄できない時点で
その心は既に純潔ではないのだろうな。

だが、そんな人間が果たして現実に居るだろうか。
むしろ居るべきなのだろうか。
そう考え込んでしまう一品だね。





『戦略大作戦』 1970年
監:ブライアン・G・ハットン  主演:クリント・イーストウッド
★★★★☆

ノルマンディ上陸作戦以降のフランス。
ドイツ軍による秘密裏の金塊輸送計画を聞きつけた主人公が
現状に不満のたまっていた仲間達と、一攫千金部隊を編成して
勝手に強奪作戦へと乗り出してしまうお話。

個性的な面々が何より素敵な一品。
あくまで、非人間的な戦争状態を部隊にしていながらも
この作戦に限っては彼らは自らの意思なんだよね。
明らかに命を投げ出すような無謀な作戦でありながら
金のためと割り切って人生の覚悟を決めた彼らの
その姿は実に生き生きとしている。
アウトローの代表格のような主人公、前線には出た事がない会計役
纏め役の荒くれ軍曹、そして陽気で狂気な戦車部隊……
一つ目的のために集まった様々な個性が
死とスレスレの作戦をこなしていく姿は爽快。
捻ったお話なんて要らないんだね。

また、敵役として用意されるのが
「タイガー三台」というのも面白い。
人物ではなく冒頭から強調されるのはあくまでも戦車。
当然、市街地戦で彼らをどう攻略するかという
直接的な描写は作戦への面白みへと繋がり
約束されたクライマックスの緊張感は上々。
その最後のオチも素敵だよ。

人間の人間である部分をコミカルにテンポよく描いた展開。
その他、立ちはだかるのは「橋のない川」であり「地雷原」であり
あくまで作戦そのものへの困難が主題。
140分を超える作品ながらこのメリハリある進行は実に軽快。

真面目な超大作戦争映画を丸々一本撮れるかのような
大規模、大迫力の映像を惜しみもなく投入して
やっている事はアウトロー達の金塊強奪作戦というのだから
何とも贅沢な傑作映画だよ。





『ソイレント・グリーン』 1973年
監:リチャード・フライシャー  主演:チャールトン・ヘストン
★★★★☆

環境汚染が極まった2022年アメリカ都市部
一つの殺人事件を軸に社会の秘密に迫るお話。

製作年度から約50年後の舞台設定になるのだが
明らかに現状よりも文化が衰退していることが
画面の端々から如実に伝わってくる。
やりすぎた人類が作り出した未来の世界観に
如何に心地の悪さを醸し出せるかという
SFらしい拘りが随所に光る一品。

所謂、近未来警鐘物ではあるのだが
あくまでチャールトン・ヘストン刑事を主人公とした
殺人事件を追うサスペンス映画として描かれており
とっても見やすい作りなのが良い。

事件のカラクリや暴かれる陰謀
題名となっているソレイントグリーンの秘密については
おそらく観客の想像の枠内ではあろうが
結論に至るまでの社会情勢の見せ方が絶妙だね。
地球上が遥かに豊かで華やかあった頃を知るインテリ老人と
現実しか知らない主人公の対比や友情が綺麗にハマり
失われた世界の尊さや未来世界の虚しさ
味の無さが自然と浮き彫りになってくる。

インテリ老人達を「本」と呼び、女を「家具」と呼ぶような
明らかに人間性が失われている様が痛々しく
何よりもまず魅力的な世界観の想像を主題に据えた作風が光る。

現在の感覚で見ると、少しピントがずれていると思えるのだが
それは今作が古いと言うよりは
このif世界の提唱する憂いを肌感覚で得られない程に
「怪しい物」と共存することに慣れてしまったとも思える
現実、現在の方が狂っているんじゃないかな。

言う程、当時と世界が直面している状況は変わっていないはずだが
何故、それを恐れる実感を失ってしまたのだろうか。
本当の2022年の世相で今作を見れば
オチに対しても
「そのくらいがどうした?」としたり顔で認めてしまうのかもしれないね。




『ソウ』 2004年
監:ジェームズ・ワン  主演:ケイリー・エルウィス、リー・ワネル
★★☆☆☆

猟奇的な殺人鬼によって、ある部屋に監禁された
二人の男が繰り広げる密室脱出劇。

設定は見事だが
密室舞台があまり活かされないのは辛いね。
主人公達の立場こそ密室に縛られていながらも
実際の描写は犯人や人質の家族
また刑事達をも描く二点、三点の同時中継が多く
せっかくの閉塞感や圧迫感は薄めになってしまう。

ひたすらに、外部で展開されるストーリーは
サスペンス調で中々に先が気になるのだが
密室空間の仕掛けがあまりに空回りではないだろうか。
唐突に「思い出した」などと言い出し
今まで無かった情報を喋りだしたり
「18:00まで」という時限ルールを冒頭に提示しておきながら
(この際の時計は10時台)
何ら時間を使った仕掛けも焦りのドラマも無いまま
後半にふと時計を眺めたら既に「17:40」であったりと
とにかく描写が粗い。
主人公二人の掛け合いもどーにも薄味で
本当に密室ドラマをやる気があったのか
何よりアイディアの少なさに驚かされる。

ラスト衝撃のためだけの作品なのかな。
最初に設定とオチを考えただけで
全て使い果たしてしまったような2時間映画。
衝撃度はあっても映画は基本退屈ですよ。





『装甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ 劇場版』 2009年
監:高橋良輔  主演:郷田ほづみ 
★★★☆☆

ボトムズTV版へと繋がるお話。
特に意味はないストーリーなんだよね。
大筋は既存シリーズで完成している中に
敢えて具体的な一エピソードを挿入する形の補完作品。
その分、中身は徹底してファンが喜ぶ要素で満ちて溢れている一品かな。

メインは、お約束の「キリコ観察日記」。
そこに、異能者絡みのオカルト世界観有り
全銀河を舞台にした圧倒的な規模有り
逆に最前線の一部隊を追跡する泥臭さ有り
もちろん口数少ないキリコの男前な活躍有り……
およそ「ボトムズ」というブランドが持つ
多様性を全て内包したような贅沢なコンセプト。
かつてボトムズの何所に魅力を感じた人でも
何かしら琴線に触れる楽しさはあるんじゃないかな。

OVAからの総集編映画という事で
どうしてもジェットコースター感は強いが
時代を間違えたかのような泥臭い挿入歌が
キリコ御一行様の苦難の旅路を感じさせてくれる。
色々あったんだなと素直に納得させるパワーは大した物。
何の容赦も無い荒くれ者集団は良いね。
これぞボトムズ特有のロボット戦争。

最後は謎の「TETSU」がまさかの新録で歌う
『炎のさだめ』で締めというのだから
まさにファンのために作り続けた完璧な作品だろう。





『捜索者』 1956年
監:ジョン・フォード  主演:ジョン・ウェイン
★★★☆☆

先住民の襲撃により家族を殺され姪を攫われた主人公が
雄大なテキサスの大地を舞台に
数年に及ぶ執念の捜索を続けるお話。

「ジョン・フォード + ジョン・ウエィン」コンビの最高峰だね。
問答無用、圧巻の超大作っぷりにまず心を奪われてしまう。

何を置いても、溜息が漏れる程に美麗な絶景シーンの連続が素晴らしく
これは1956年時点で完璧なカラー映画の一本だろう。
映画スクリーン前提の豪快な構図の見事さは
もはや主役が大地か人かを迷うレベル。
大量の馬、馬、馬で構成された正統派な贅沢もあり
牛の群れあり、インディアンあり、騎兵隊あり、銃撃戦あり…
漠然と抱いてしまう西部劇映画から浮かぶ情景
その全てが今作には詰まっている。

ここにジョン・ウェインが得意とする
独善的な頑固オヤジの像が綺麗にハマリ
どこか納得ができない古臭い情緒が生まれる。
決して軽い題材を扱った作品ではないのだが
人生観や社会問題を描くと言うよりは
やはり「THE・映画」そのものをまず先に楽しむ一品かな。




『早春』 1956年
監:小津安二郎  主演:池部良、淡島千景
★★★★☆

東京で暮らす若きサラリーマンが見せる
ちょっとした夫婦喧嘩の物語。

いつ見ても小津安二郎は格別だね。
今作も会社勤めが見せる寂寥感に
軽い浮気話と夫婦喧嘩が加わるだけの
地味にすぎる展開なのだが
本当はその「だけ」が一番の大ごとなんだよね。
登場人物の人生観を眺めるだけで楽しいんだ。

皆がどこか達観していて一目置きたくなる連中ばかり。
人生を楽観はしていないが、悲観するだけでもないといった
絶妙なバランスが淡々とした会話劇の中に見事に保たれている。
ちょっとしたシーンから出る言葉の一つ一つに
なるほどと思うだけの教訓めいた深みが詰まっているわけだ。
驚くべき程にドライな連中の人柄だからこそ
人間同士が付き合っていく事自体の良さや有難さが
逆に滲み出てくる感覚はオンリーワン。
結局、本当の事は目の前にしかないのかもしれないね。

劇的なヒューマニズム映画ではなく
どちらかと言えばダークな一本だろうが
自身もここまで人生という物を堪能したいものだと
ついつい、鑑賞後に不幸を願ってしまう魔法がかかった傑作。

笠智衆や山村聡などのいつもの面子も登場はするが
主役は若き池辺良と淡島千景のダウナー夫婦コンビ。
そして小悪魔女としてさらに若い岸恵子も素晴らしく
この既存の価値観に縛られないヤベェ女への扱いが実に象徴的。
小津作品にしては珍しい配役も新鮮で良し。
『晩春』や『東京物語』のような王道中の王道を
何本か見た後だと尚良い一本ではかろうか。




『ソーシャル・ネットワーク』 2010年
監:デヴィッド・フィンチャー  主演:ジェシー・アイゼンバーグ
★★★★☆

5億人のユーザーを持つという世界最大のSNS
フェイスブックを創作した男達の愛憎入り混じった物語。

実にアメリカ的、そしてIT色にまみれた名作。
まず、この主人公のクソっぷりが魅力たっぷり。
ブログに元カノに対する罵詈雑言を書き殴る登場シーンで
既に掴みは完璧。
正真正銘の変人です。

そして、冒頭に訴訟シーンから映画が始まり
過去を振り返っていくという構成の凄まじさね。
だってそこで登場する大学時代の友人や関係者とは
既に億単位の額を争う仲になっている事は確定事項なのだから
それはお話も真っ黒だよね。

IT事業の不透明さ、アメリカンドリームの恐ろしさ
そして人間関係と経済的成功との関係性の際どさ。
全てがスピーティに展開され
この世界のパワーに圧倒されている内に
気づけばどっぷりハマっている傑作でしょう。
明確な解答もなければ、特別な立場によるメッセージ性も無い。
ただただ、IT事業な世界を見せてもらえるだけで抜群に面白い。

それでいて伝統ある名門大学における
学生たちの感覚はどこか古臭く感じるんだよね。
この不思議な共存も面白い。

しかし、物語に決定的な刺激を与えてくれるのは
これまた実在の人物をモデルとした
ショーン・パーカーだろう。
彼は20歳でナップスターを立ち上げて
音楽業界を破壊しつくした男。
20代で数え切れない訴訟を抱え込んだ末に敗訴
見事に自己破産までを体験する。
しかし彼の生活は常に豪華でド派手であり
全く懲りた様子はない。
それどころかフェイスブックの可能性にいち早く気づき
一口噛みにくるわけだ。
そんな、一世代上のITバブルの達人が入り込む事で
純真な学生であった友人同士が
最先端の業種に飲み込まれていく様は圧巻の一言。
夢があると同時に、実に恐ろしくもある。

エンターテイメントとして成立させながらも
色々と現在社会のスピード感について
考えさせられる傑作だね。

古臭い日本人としては
そもそも、大学生と社会人なんて垣根が
全く存在しない社会感覚が新鮮だろうか。
見事な異国情緒。
彼らを見ていたら億万長者なんて簡単な物に見えてくるよね。






『続・激突! カージャック』 1974年
監:スティーヴン・スピルバーグ  主演:ゴールディ・ホーン 他
★★★☆☆

子供の親権を取り返すため
刑務所を脱獄した夫婦が織り成す
一人の警官を巻き込んだ逃亡劇。

刑務所から脱獄した挙句に
警官を人質にしてパトカーをジャックする。
聞けばとんでもない極悪犯なのだが
その実は心温まる珍道中なんだよね。
この二人の犯人がまた良い人なんだ。

事を荒立てたくない警部の思惑も絡み合い
ゆったりと後ろを追い続けるパトカーの行列
TV局の取材や彼らを応援する支持者までが街に溢れる
本当にお祭り騒ぎ。
このギャップが上手いよね。

彼らの取った行動は許される物ではないし
到底、同情の余地はないのだが
それでも幸せな結末を迎えて欲しいと
彼らの道中を眺めている内に
ついつい無理を承知で願ってしまう見せ方は見事。

スピルバーグ最初期の良作だね。





『続・荒野の1ドル銀貨』 1965年
監:ドゥッチョ・テッサリ  主演:ジュリアーノ・ジェンマ
★★☆☆☆

土地も女房も、父親の命すら奪われていた
南北戦争帰りのガンマンが悪漢勢力に復讐に挑むお話。

邦題上の前作とは特に関係のない
ジュリアーノ・ジェンマの
マカロニウェスタンシリーズ。

特別に綺麗なわけでもなく、特別に泥臭いわけでもない。
むしろ、やや締まりのないアクションシーンが
冗長に感じられてしまう一品かな。

雰囲気抜群の哀愁テーマ曲を多様する手法や
インパクト重視の演出はマカロニ感満載だが
映画全体が悪い方向に安っぽいのが難点で
何よりシナリオに問題があろう。
基本、ピンチへの陥り方が主人公の自業自得にすぎて
せっかくのお話が冷めてしまうのが残念だね。

主演の存在感は中々だがどこか軟派で柔い映画。
良くも悪くもジュリアーノ・ジェンマ主演作と言った作品か。





『続・荒野の用心棒』 1966年
監:セルジオ・コルブッチ  主演:フランコ・ネロ
★★★★☆

アメリカとメキシコの国境を舞台に
流れ者のガンマンが二勢力に対して大暴れするお話。

邦題にあるように
確かにプロットは『荒野の用心棒』と似ているのだが
比べれば遥かに泥臭く荒々しい作りだね。
全編がアクションシーンでありながら
西部劇然とした撃ち合いなどは一つもなく
ほとんどが一方的な虐殺シーンというのだから
その暴力性は凄まじい。

まずは、謎めいた存在感を放ち続ける髭ヅラ渋主人公の
キャラクター勝ちの映画でしょう。
行動全てがエグすぎる極悪男でありながら
その全てに何処か哀愁が纏われているのは見事の一言。
初っ端に流れるオープニング曲のメロディラインと
延々と引きずられる棺桶の映像的な面白さ
心一発、鷲掴み間違いなし。
その後は復讐譚に乗せた彼の喪失と再生の物語を
ただただ上質な雰囲気芸と共に楽しめば良し。

既存の西部劇とは明らかに一線を画す銃撃描写への拘りや
リアルなバイオレンス描写に
一筋縄ではいかない意表を付いた展開の連続も
まさにマカロニ冥利に尽きる一品だ。
一見、勢いで押し切るタイプに見せつつ
実は設定から小道具からテーマ性から
その全てがきっちり一本に繋がっていく
脚本の丁寧さとのギャップも面白い。

紛うことなきジャンルを代表する一作。





『続 夕陽のガンマン』 1966年
監:セルジオ・レオーネ  主演:クリント・イーストウッド
★★☆☆☆

南北戦争期、南軍が隠した財宝を巡り
悪党一人と敵とも味方とも言えない二人組が
入り乱れて争っていくお話。

個々の美しい演出は極限にまで迫ってきているが
全体でみれば統一性の無い場面の継ぎ接ぎの連続で
さすがに冗長になってしまっている連作の三作目。

テーマ性も芸術性も、多分に盛り込まれているのだが
この題材でやるには重すぎるかな。
178分(完全版)という長さもあり、途中で瞼が重くなる事請け合い。
演出の重さに対してカタルシスが薄いのが問題だろうか。
最終決闘シーンの完成度は映画史に残る程に素晴らしい出来なのだが
それまでの前科により、また退屈な場面か? と
疑いから入ってしまうのも残念。

原題は『善玉、悪玉、卑劣漢』というのが直訳らしく
その「卑劣漢」役こそが真の主役で
せっかくの善玉や悪玉の人物像や存在感はやや退屈。

セルジオ・レオーネの作るマカロニ西部劇ではあるが
ただただカッコ良さに酔いしれられた『夕陽のガンマン』と
本格派映画として圧巻の完成度を持つ『ウエスタン』との間に生また
転換期として割を食った卒業異色作ではないだろうか。






『卒業』 1967年
監:マイク・ニコルズ  主演:ダスティン・ホフマン
★★★☆☆

ボンボンのインテリ大学生が
好いた女性と添い遂げたいと願うお話。

日本人的には"この支配からの卒業"と言えば
映画の内容がわかると思う。
どーしょうもないクソ野郎ばかりで
これがアメリカの若者の悩みというなら
アメリカ腐りすぎだろという感想の方が強く残る。
時代の象徴か。
ただ役者は完璧で、映像としても素晴らしく
サイモン&ガーファンクルによる挿入歌の数々はあまりに美しい。
クオリテは間違いなく一級品という困った一作。 
主演のダスティン・ホフマンも凄いが
大人の妖艶さ漂うアン・バンクロフトが見られる点に大満足。 

一度見たら決して忘れれない
全てが印象に残る映画なのだが
これを傑作と言うには無理がある。






『卒業白書』 1983年
監:ポール・ブリックマン  主演:トム・クルーズ
★★★☆☆

良いトコのボンボン高校生が繰り広げる
アメリカンな青春物語。

将来への不安に、性への憧れに、現状の問題にと
悩める高校生の若者を主人公にしながらも
"the 80'"と言わんばかりの何処か軽い映画だね。

男子高校生が、両親の旅行の間にハメを外す中
勝手に美女が訪れてくるという
夢のような妄想が恥ずかしげもなく展開される。
社会と人生を舐めきったような彼らの行動も含めて
18歳役のトム・クルーズの初々し込みで
1980年代の空気を丸ごと楽しむ映画だね。
怠惰でありながら不思議と爽やかな一品かな。





『卒業旅行 ニホンから来ました』 1993年
監:金子修介  主演:織田裕二
★★☆☆☆

東南アジアの架空の小国を訪れた大学生が
怪しげなプロデューサーに騙され
アイドルとして過剰労働するお話。

懐かしのアイドル曲満載の世界観で
人の良いちょっとヌケてる織田祐二自身を楽しむ映画。
でもそれだけかな。
一応、アイドル不在時代の悲しみを現した作品だろうか。
偶像が不要とされる事の切なさが随所に感じられるが
どうも全体的に悪い意味で安っぽくて良くない。
雰囲気作品の域は出ていない。






『ソナチネ』 1993年
監:北野武   主演:	ビートたけし
★★★☆☆

ヤクザ抗争の助っ人として
沖縄に派遣された小組織の親分一行が
海岸で不思議な時間を過ごすお話。

まずはバイオレンス映画だね。
登場人物全員が常にどこか壊れた感覚を曝け出しているせいで
どんなシーンにおいても緊張感が解かれる事がない。
気付けば暴力の要素が漏れている。
直接的な描写ではなくとも
この日常の会話に割り込んでくる暴力性はインパクト大。

しかし、実は気のいい兄ちゃん達なんだよね。
幼児性と言うか、子供っぽさ、ある意味では男臭さ。
最低の暴力団連中でありながらも
ふと、そういう場から離れてみれば
実に愛嬌のある馬鹿共ではなかろうかと
不思議な二面性が楽しめてしまう。
沖縄という舞台も一見すれば平和そのものだけど
彼らの抱える物騒さとは紙一重なんだろうね。

連中の死生観と言いますか
自暴自棄で退廃的な生き様が
何とも心苦しくなる映画かな。
芸術志向は強めだけど
映像も素直に美しく見ていて飽きはこない一本。






『その男ゾルバ』 1964年
監:マイケル・カコヤニス   主演:アンソニー・クイン
★★★☆☆

父の炭鉱を再開しようとクレタ島に渡った若者と
その途中に偶然出会った年寄りとのお話。

重いよ。
若い内に実りある生き方をしなきゃ駄目ね。
決して年は取りたくないもんだが
言うまでもなくそれは誰にも避けられる物ではない。
醜いがそれ自体は仕方が無い。
どのみち人は老いて死ぬんだな。

破天荒なゾルバの生き様と哲学を見ていると
何かこう知らぬ間に自身が閉じた若さを
やっているんじゃないかと不安になってしまう。
過剰にゴミのような行動を取る村人達を見て
観客は何を感じればよいのか。

もっと広く学び、見聞を広めたい、進歩的でいたい。
そしてもっと楽しみたい。
ゾルバの最後の台詞が染みる。




『ゾラの生涯』 1937年
監:ウィリアム・ディターレ  主演:ポール・ムニ
★★★☆☆

フランスの文豪エミール・ゾラを主人公に
冤罪事件の弾劾を描くお話。

ドレフュス事件は有名だよね。
軍部の右派の陰謀で
一人の将校がスパイ容疑者に仕立て上げられるお話。
この作品はそこに首を突っ込むゾラの勇気だろうか。
既に十二分の名誉と知名度と蓄えを持っていたゾラが
被害者の奥さんからの依頼い心を動かされ
フランスの真の誇りを賭けて戦うお話。
どうしたって物語は熱い。
実際の事件における要素がいくつか抜けているとは言え
筋立てはとっても丁寧で実に見応えがある。
良質なサスペンスでありながら演説人情物でもある。

結局、この手の不正と言うのは後の世に響くのだろうね。
もし自身の国の名前を出すだけで
世界中で小さな子供からすら嘲笑の対象となるならば
そんな国家に誇りがあるのかというお話だよ。
刹那の強さや自尊心、不満の解消を求めるあまり
不当なエゴを罷り通せば後の世は決して容赦をしない。
ナショナリズムで心地良い行動を取りがちな当事者に
そこまでの本質的な覚悟があるかはいつも疑問。

大衆の愚かさや、自浄作用も含めて
良くも悪くもフランスのパワーを感じられる良作。




『空の大怪獣ラドン』 1956年
監:本多猪四郎、円谷英二  主演:佐原健二
★★★☆☆

九州の炭鉱で起きた殺人事件に端を発する
巨大生物復活に纏わるお話。

前半に地味な阿蘇炭鉱の日常を延々と見せることで
生身の人間のスケール感を体に馴染せてくるのが巧いね。
その結果、中盤から登場する古代生物たちの
人間の常識に縛られない途方もない神秘性が
自然と肌で感じられてしまう。

少しづつ謎が明らかになるミステリー仕立ても
古代生物の存在が二段仕掛けになっているのも
全ては大怪獣ラドンの格を上げるためだろうか。
未知の生態系が何をやるか分からない怖さが
終始漂っているのが素敵。

ただ、1954年『ゴジラ』に続く作品を期待するならば
ややストーリーやテーマ性は控えめかな。
初代ゴジラでは、戦後10年弱でやっと復興して栄えた東京を
水爆実験で蘇った生物が再び焼け野原にするという絵面が
あまりにも象徴的だったのだが
今作ではそこまで過激な印象は受けなかった。
より高水準な街並みの破壊っぷりは素晴らしいが
あくまで映像を見せて何ぼの特撮技術作品だろうか。
特に空中周りの映像工夫の数々には驚かされる。

特撮パート以外の撮影規模も相当な大作感があり
あくまで見ているだけで楽しいエンタメ作品にシフトしているか。
1956年の東宝カラー作品というだけで力の入れ様が伺えるだろう。

それでも、ラドンの登場から退場に至るまで
人間は自然には勝てないというコンセプトが一貫した
素敵な物語になっているように思えるね。





『ソルト』 2010年
監:フィリップ・ノイス  主演:アンジェリーナ・ジョリー
★★☆☆☆

ソ連諜報部の亡霊が仕掛けるXデー計画に
アメリカが大混乱に陥るアクション映画。

2010年にもなって
こんなお話が見られるとは思わなかった。
まず根本的な題材が魅力に欠ける。
崩壊から20年経った時代ならではの冷戦物を見せてくれるかと言うと
そんな事は全くなくとって付けた垂れ流しストーリー。
加えて大味で粗すぎる設定、唐突なご都合主義、細かい個所の整合性の甘さが
最後まで目について仕方がない一品。

アンジェリーナ・ジョリーのスタイリッシュアクションも
尺ばかりが長い割には、見せ方が単調ですぐに飽きる。
そもそも、こんな出来合いのB級スパイ物より
ずっと自然に受け入れられる題材として
『トゥームレイダー』あたりで間に合っているよね。
こういう魅力を見せたいのであれば。





『それでも夜は明ける』 2013年
監:スティーヴ・マックイーン  主演:キウェテル・イジョフォー
★★★☆☆

19世紀半ばのアメリカを舞台に
不当に誘拐された黒人の自由市民が
激動の奴隷生活を生き抜くお話。

この主人公はとっても優秀。
優秀な人間はどんな立場でどこへ行っても
結局は優秀なのだよ。
人間と人間が絡む以上はそれは当たり前だが
優秀が故に人一倍の苦労を背負い込むという
典型的な人物像が中々に見ていて心苦しい。

彼にとっては生きることが戦いであり
生き残る事を最大の目的に据えることによって
粘り勝ちを手にする前向きなお話は確かに心地良い。

しかし、今作は勇気の映画であると同時に
人間の愛や嫉妬の話でもあるのだろうね。
劇中で起こる悲惨で目を覆いたくなるような展開には
白人が黒人に嫉妬する姿に端を発する物が多くなっている。

「白人は黒人より優秀な存在である」という
個々人の人間としてのパワーを無視した線引きを
価値判断の基準に据えている事によって
現実問題、随所に奴隷に劣る自分の姿が現れてしまう。
そこでアイデンティティとの整合性が取れなくなっていく
支配者の孤独な姿が描かれている。

例えば夫が黒人奴隷を愛する姿を見て
奥方は奴隷に嫉妬するわけだ。
しかし、それが嫉妬である事などは認められるはずもない。
この不確かで不正確な矛盾が農園世界に狂いを生じさせる。

いくら人間を人間として扱わない意識があっても
所詮、コミュニケーションの本質から逃れられない部分がいいんだろうね。
これが支配者側の人間味によって勝手に暴かれるテーマ性は
19世紀の黒人奴隷を題材にしながらも
どの時代、世界に通じる普遍の映画として仕上がっている。

主人公による劇的な行動があるわけでもなく
脱出活劇があるわけでもない地味な作品ながら
その力強さは本物。






『ゾンビランド』 2010年
監:ルーベン・フライシャー  主演:ジェシー・アイゼンバーグ
★★★☆☆

謎の感染体によりアメリカ全土がゾンビ化した世界で
ゲーマーの引篭り少年が、自らに生き残りルールを課す事で
立ち回っていくお話。

ルール
「車に乗る時は後部座席を必ず確認する」
「ゾンビは必ず二度撃ちで留めを刺す」など
全編、ゾンビパロディだけで突っ走る作品かと思いきや
「ゾンビ」分はエッセンスとして軽く散りばめられるだけで
その実は道連れ4人によるナンセンス青春ロードムービー。

ありもしない架空の楽園を探してるような淡い感じが素敵。
どの方向から見ても何かが少しだけ足りなく
終始、悪乗りオンパレードながら
それでも引きこもり主人公の最後に出した結論に
スカっとできる良作。
描写がグロイ割にキャラクターには嫌らしさが無いのが良いのかな。






『孫文の義士団』 2009年
監:テディ・チャン  主演:ワン・シュエチー 他
★★★★☆

時は1906年。
日本から香港へと帰還する革命家、孫文を狙う清朝の暗殺部隊と
それを守らんとする憂国の志士達のお話。

前半90分間の全てを登場人物の人情ドラマにあて
各々のキャラクターへの思い入れを十分に引き出した後
怒涛の後半戦で次から次へと殺しまくる。
そんな思い切りの良い構成が光るアクション超大作。

息をつく暇もない程のテンポで押し寄せる
泣かせの演技、展開の連続は
普通であれば大仰でくどめに映ってしまうものだが
この舞台には見事なマッチ。
そもそもが度を越えた話なのだ。

徹底的に神聖化されきった孫文という題材を
ド直球で崇め奉られれば
ついつい視聴者側も「革命」への熱意に当てられてしまう。
そもそも19世紀〜20世紀にかけての
100年以上に渡る中国の悲惨な状況は誰もが知るところである。
そこに
「孫先生を守るため、中国の明日のために」と
少年漫画なノリで情緒たっぷりに叫ばれれば
少しくどいくらいが丁度良い。

決して深みがあるでもなく
取って付けたようなキャラクター達でありながらも
そのテンプレートっぷりが許せてしまう空気感はお見事。

「ここは俺に任せて、先に行け!!」
1980年台のジャンプ漫画を見ているかのような
死にたがりの見本市の世界において
この直球感動エンターテイメントはむしろ自然なのだ。

無論、それだけの説得力をもたせるのは
密度たっぷりに再現された当時の香港情景であり
大作然とした街並みの数々とそこで生きる人々の鼓動だ。
豪華な画に一級のアクションシーンも交え
全く隙のないエンターテイメント作品として仕上がっている。

どんなに悲惨な展開で話を締めても
最後、1911年の辛亥革命にさえ繋げれば
人情物語にオチは付くだろうという開き直り作風に
かえって好感触が付く一本かな。




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