『ナイアガラ』 1953年
監:ヘンリー・ハサウェイ  主演:マリリン・モンロー、ジョゼフ・コットン
★★★☆☆

カナダとアメリカの国境線に位置する
ナイアガラの瀑布で起こった殺人事件のお話。

その名の通り
ずばり『ナイアガラの滝』を思う存分に堪能できる
1953年らしい観光サスペンスムービーだね。
世界的な絶景と周囲のスポットを
洗練された陽の映像美で彩りつつも
作品全体を支配する雰囲気は、
不倫女マリリン・モンローの妖艶さで満ちている不思議な一品。

コンセプトは今時のテレビ2時間枠で毎週放送される
「ご当地殺人ドラマ」程度の代物なのだが
それをこうまで格調高く仕上げられあるのは、
まさに映画全盛期のプロフェッショナルの仕事だろう。

まだテレビも無い時代に
これほどの観光映像を世界に発信できた
映画素材の凄まじさを思い知る一本。
見る際は現行で最も綺麗なバージョンを用意すべし。





『ナイト&デイ』 2010年
監:ジェームズ・マンゴールド  主演:トム・クルーズ、キャメロン・ディアス
★★★☆☆

組織に追われる謎の二枚目スパイと
偶然に出会った女性が辿る恋の物語。

お馬鹿な作品だね。
「どこまで頭の悪い事をやれるか選手権」エントリー映画。
これが成立するのは、何を置いてもトム・クルーズの力でしょう。
理想の父親No.1キャラクターを地で行くような
どこまでも清潔で優しく、やや子供っぽさも残しつつの
あまりにも男前な優等生系の中年男。
彼のとぼけた言動にはキャメロン・ディアスならずとも
ついつい見とれてしまうのも仕方が無い
まさにオンリーワンなヒーロー像。
そこにヒロインの馬鹿女っぷりが華を添える。
穴の多いと言うよりもう穴だけで構成されたようなトンデモ脚本すらも
この二人が騒ぎつづける楽しさの前には
全てが認められるわけですよ。
無駄に爽やかな雰囲気も実に良し。

一芸で突き抜けるお馬鹿映画ながら
最後まで勢いを失わないパワーは中々に見事で
大作感溢れる豪華な画の数々が既にギャグとして成立していて
とりあえず120分間頭を空っぽに楽しみたい時はお勧めな一品。




『ナイト・ウォッチ』 2004年
監:ティムール・ベクマンベトフ  主演:コンスタンチン・ハベンスキー
★★★☆☆

全く内容が理解できない。
とりあえず、光と闇に分かれた異能者たちが争う
現代ロシアのファンタジー映画……でいいのかな。

ただ、その程度の認識でも十分に楽しめる一品で
誰も見た事がないような演出に拘った
一芸作品として素晴らしい完成度を誇っている。
次から次へと、よくも考え付くもんだという
無茶苦茶な能力バトルの映像に最後まで驚かされっぱなし。
圧巻の美しさです。

二勢力の間には、厳格な社会ルールがあるようで
その中で足掻いていくしかない能力者の悲哀が
退廃的な雰囲気を生み出させ
より一層、幻想的な世界観を楽しませてくれる。
日本人に馴染みが無いというのは偶然だが
ロシア語が醸し出す異世界感もそれを十分に助けているね。

色々とハリウッド常識が通じないので
怖いもの見たさで覗くのも悪くない映画。
衝撃は保証できます。




『NINE』 2009年
監: ロブ・マーシャル   主演:ダニエル・デイ=ルイス
★★★★☆

スケジュールが迫る中、新作の構想に完全に行き詰まり
最早、自分で自分の事が制御できなくなっていく
かつての名映画監督の内面を描くお話。

アイディアが全く浮かばずに追い詰められていく監督の
一瞬、頭をよぎったイメージや過去の断片的な記憶が
その都度、歌い手を変えミュージカルとして映像で表現される。
虚構の世界が終わるたび、舞台は現実の世界へと戻され
そしてまた取りとめもない怠惰を繰り返す。
何の盛り上がりも何の解決もなく、人間関係も上手くいかず
自分でも何が悪いかすらわからなくっている
監督の気だるい世界に魅了される作品。

元は著名なフェリーニ監督の自伝映画で、
その虚構パートをミュージカルに載せた舞台作品が元。
この手があったかと叫びたくなる発想の勝利映画だね。
元のフェリーニ作品は芸術性が強く難解すぎる感があるが
今作はワンシーンに一度の割合でミュージカルパートを挟む事で
誰もがわかりやすいメリハリが生み出し
自分などでも楽しめるエンタメ作品に見事に変わっている。
ラスト、監督の人生に関わってきた人々が
総登場するシーンでは感動の一言。

ミュージカル部分のクオリティは高めで名曲揃い。
シネマ! イタリアーノ〜〜♪





『ナヴァロンの要塞』 1961年
監:J・リー・トンプソン  主演:グレゴリー・ペック、デヴィッド・ニーヴン、アンソニー・クイン
★★★☆☆

第二次大戦中に行われた
イギリス軍のナヴァロン要塞潜入作戦を描くお話。

戦争を舞台にしつつも
描かれるのは各エキスパート達が活躍する冒険活劇。
「砲台爆破」という最終目的が冒頭から提示されているため
次から次へと立ち塞がるハードルを
如何に彼らが超えていくかを順序よく楽しめる。
圧倒的な映像規模もそれに彩りを添え
男臭い名優達は画の中に存在するだけで既に格好良い。

しかし若干入る人間ドラマ、戦争ヒューマン要素は空回りかな。
次から次へと「障害」として人間味無くドイツ兵を殺していく彼らに
ヒューマンを語らせるのは可哀想だろう。
いくら敵リーダーとの友情絡みを見せられても
将校同士は人間扱いしてもらえてお得だねとしか言えず
始めから彼らの立場においてこのテーマは成立しない。
特にメインでもないパートで矛盾が目立つ事により
お互いが足を引っ張っている構成はやや残念で、
これならば最後まで活劇に徹した方が良かったのではないか。

あくまで部隊内の友情を味わいつつ
勢いで楽しむ作品。




『奈緒子』 2008年
監:古厩智之  主演:三浦春馬、上野樹里
★★★☆☆

若き天才ランナーを中心に繰り広げられる
高校駅伝青春物語。

見事な薄味ストーリー。
父親の死を原因とする主人公とヒロインの確執や
天才を目の前にしたチームメイトの人間的成長など
人物設定はどれも面白いのだが
どこにスポットを当てても絶妙な不足っぷりで
それっぽいだけのシーンが淡々と流れ過ぎていく。

他全般、海難事故にせよ、駅伝シーンにせよ
突っ込み待ちと言わんばかりの
雑演出が目に付くのもいただけず
不満点のみを挙げれば駄作で終わる一本。

しかし、若い俳優達の熱演はソレに勝る。
スポーツに身を捧げた馬鹿連中の
何とストイックで無邪気な事か。
あくまで主役は子供達なんだよね。
駅伝に向けて必死に立ち向かう彼らの姿だけは本物で
ドラマも演出もそっちのけ
「それっぽい」だけで十分な満足感が得られてしまうから不思議。
そこに舞台となる孤島の純朴な風景や、
レース本番における長崎市街の美しさが加われば
これ程の爽やかさがあろうか。

スポーツで汗をかく若者が見たい。
ただただその一点。
最後まで雰囲気だけで押し切る力技の一品。




『渚にて』 1959年
監:スタンリー・クレイマー  主演:グレゴリー・ペック
★★★★☆

米ソの核報復戦で文明が滅亡した後、
地理上の関係から、死滅まで僅かな猶予がもらえた
オーストラリアに生きる人々のお話。

1959年上映作品であり
劇中の時代は「5年未来」の1964年。
時代を反映しているのか
全編が終末思想に満ちた寂しい仕上りになっている。

当時の世界情勢を鑑みるに
北半球国家が即全滅なのに対して
南半球だけに僅かな猶予期間が与えられたという設定は上手い。
仮に僅か数ヶ月の猶予をもらったトコロで
当時の南の国々に超濃度の放射能対策の何ができようか。

絶対に避けられない放射能汚染を前に
最後の時を淡々と迎える社会の空気は
むしろ優しくすらあるんだな。
未来も何もない、全てが諦めムードの中でも
人間同士はやる事はやるし
最後まで何かを愛する事はやめないんだよ。
恋愛であり、家族であり、趣味であり、プライドであり、夢でありね……

人類絶滅という強烈な舞台設定とは裏腹に
劇中は様々な愛の形に溢れた物語になっている。
無論、文明崩壊後のif世界としては
より陰惨な社会もより過激な社会も描けたはずだ。
しかし、これこそが強烈なテーマなのだろう。
ただただ人間の優しさと愛情を描く事により
それが崩壊する「勿体無さ」が自然と身に染みてしまうんだね。

喧しい主張も、直接的な表現も使わず
ラスト数秒のワンカットにそのメッセージ性の全てが込められた
反戦映画の大傑作。

"There Is Still Time  Brother." 
全ての時代、全ての情勢に共通する名言。



『凪待ち』 2019年
監:白石和彌  主演:香取慎吾
★★★★☆

ギャンブル依存症のダメ男が
籍を入れていない母子と漁師町へ越して
とことん堕ちていくいくお話。

社会の厳しい部分だけを詰め合わせたような設定や
登場人物のオンパレードなんだけど
不幸自慢や同情を求めるような空気感が全くないのが良いね。
皆がが皆、別に現実を普通に生きてるだけの中
淡々と主人公がその人間性のまま不幸な結果を迎えるだけさ。
とにかくこの男が本当に駄目。
彼の姿を通じて人生の何かを見つめる映画だろう。

しかし、徹底的に周囲と噛み合わないながらも
彼が最後まで見捨てられないのが凄い。
物語序盤からある一個の嘘のない愛情一つによって
本当にギリギリの線が一本だけ何とか繋がっている緊迫感がたまらんね。

田舎街の嫌な部分と良い部分が両面で見えて
都会ならこうはならないだろうという不条理と
逆に都会ならもっと早く打つ手無しになっているはずの緩さが
上手い具合に共存しているのがとってもリアル。

あまりにもキツイ展開が繰り返されるのだが
あくまで不快感を与える事を目的とはしていない作りが
熱すぎず冷めすぎずに世界に入りこめる見事なバランスを保っている。
一筋縄でいかないながら、結局は再生の映画、生きていく映画だろう。

しかし、主演の香取慎吾が凄いね。
こういう闇を抱えているクソ男が実はとっても似合う。
キレやすく、暴力的で、いざという場面で我慢が効かない……
ただそれをテンプレートな嫌な奴、近寄りたくない奴で終わらせず
絶妙な愛嬌があって周囲に人がいなくならい感じが逆にリアルよね。
未婚の奥さんが惚れたという最初の一点の説得力が
ちゃんと存在するのが絶妙だ。



『何がジェーンに起ったか?』 1962年
監:ロバート・アルドリッチ  主演:ベティ・デイヴィス、ジョーン・クロフォード
★★★★☆

気のふれた妹が、閉じられた家庭内で
下半身不随の姉を延々と虐待するお話。

まずハリウッド女優姉妹の成れの果てという
舞台設定が見事な退廃感を醸しだす
見事なサイコスリラーだね。
陰影のメリハリが効いたモノクロ映像を
研ぎ澄まされた恐怖演出に乗せ
何度も、何度も、いつクライマックスでもおかしくない緊張感が
最後まで楽しめる実に豪華な一本。

それにしても、室内劇は怖いね。
一般生活を匂わせている範囲においては
家族という枠には結局は誰も入り込めないんだよ。
致命的な瞬間においても
周囲が気付けない事に説得力がある。

それを差し引いても
登場人物全てがあまりに能無し揃いなのが面白い。
絶妙に一歩足りない行動を繰り返す様が素晴らしく
最後の最後まで歯がゆい思いをさせらる事は必至。

幼い頃からコンプレックスに壊されている
妹の狂いっぷりは言うに及ばずだが
姉は姉で何かを抱え込んだ不安感が見え隠れする。
若干、動機の面で単調にも思える長尺のお話を
きっちりラストで落してくれる職人芸に拍手。

まず少女の頃より放置されてきた
本来あるべき姿、成すべき一歩を踏み出せなかった事が
双方にとっての悲劇の始まりであろうし
これは、前に進む勇気を示すべきという教訓の裏返しの物語。

ジェーン役、ベティ・デイヴィスの怪演は一度見たら忘れらない。





『名もなく貧しく美しく』 1961年
監:松山善三  主演:高峰秀子、小林桂樹
★★★☆☆

二次大戦終戦後の日本を舞台に
耳に障害を持つ夫婦が激動の戦後を生き抜くお話。

何と言う斬新な映像だろうか。
手話をメインに行われる無言の会話劇が凄まじい。
人は一つ一つの会話を大事にすれば
これほど、落ち着いて丁寧なコミュニケーションが取れるんだなと
あらためて気付かされる良演出の目白押し。
手話だからこそ成立できる独特のシーンの数々が
何とも不思議に美しい。

あとは二人の人間性が全てでしょう。
タイトルの通りです。
どんな事も最終的に受け入れる真摯な覚悟にノックアウト。
今では、放送禁止(自粛?)用語のオンパレードなので
子供の道徳の時間に流せないのが惜しいクオリティ。
結局は、健常者も障害者もその生き様次第なんだよな。
もちろん、通常よりも苦労は多く
辛い事ばかりの人生にしか見えないが
その価値を決めるのは本人達だけの権利。

一度、人道に冷めた人が見直すのに良い映画かな。
とにかく丁寧。
ただ、最後の展開はどうなんだろう。
彼女の人生訓の帰結としてあるなら
あまりにテーマが表に出すぎな気もするが。

しかし、高峰秀子という女優は凄いね。
『二十四の瞳』を演じて『浮雲』を演じて
そこからの今作とは
本当にキャラクターに底が見えないお方です。




『楢山節考』 1958年
監:木下惠介  主演:田中絹代
★★★★★

日本に伝わる姥捨山伝承の物語。

究極の芸術大作。
この言葉がぴったりだね。
まるで舞台がそのまま立体化したような
不思議な演出とセットで進む独特の切り口が凄まじい。
セットである事を最大限に工夫、利用した
度肝を抜くような舞台の切り替わりや
三味線一本で奏でられる重厚な世界観
虚構の映像として完成されきったライティングの数々
その全てがハイセンス。
どこを切り取っても技術の塊で
こんなクオリティの高い映像は
ちょっと、他では見られない一風変わった本格派。

そして、それらを彩るのが圧巻の姥捨てストーリー。
泣ける映画と言うよりは
むしろ、泣く余裕すら与えてくれない圧迫感に満ちており
真面目なお話を嫌う隙すら見せはしない。
舞台を意識した虚構の映像作りでありながら
その中身は、山村の残酷さ、生きるための必死さを
一切ごまかさないド直球展開。
慣習、伝統として意識の底に根付かされたこの手法は
残酷な行為から、自らの心を守るための貧村なりの処世術なのか。
思わず、目を背けたくもなりつつも
一切視線を逸らす事などは許されない重苦しさが、
心の節々にのしかかる一級品。

田中絹代恐るべし、木下惠介恐るべし。
そして何より、邦画恐るべし。
見る側に決して忘れ得ないインパクトを残す大傑作。




『南極物語』 1983年
監:蔵原惟繕  主演:高倉健
★★★☆☆

南極の調査隊が、止むを得ない状況判断により
十数匹の犬を現地に置き去りにしてしまうお話。

前半は南極大陸が見せる自然の厳しさと未知世界へのロマン
あるいは人間の業の物語かと思わせながらも
後半に入ると犬が走り回るだけの映像を
延々、1時間以上も見せられる恐ろしい作品。

有名な実話がベースになっており
その周知にも落ち度はないのだが
仮に何の情報も無しに見た人が居れば
完全にカルト映画の範疇だろう。

それでも北極と南極で敢行されたという
大規模ロケによる雄大な自然情景は素晴らしく
そこを生き抜く犬達の姿からは
自然の逞しさがテーマとして十分に伝わってくる。

ただ、これだけの予算がつぎ込まれた超大作が
動物感動の姿のみに終始する様相は
やはり何とも不思議なもんだね。
途中、物言わぬ高倉健の贖罪の旅が挿入されるのだが
健さんに雰囲気がありすぎて
むしろ浮いてしまっているのが面白い。




『二十四の瞳』 1954年
監:木下惠介  主演:高峰秀子 
★★★☆☆

昭和初期の時代、小豆島に赴任した新人女性教師と
そこで成長する子供達のお話。

主人公、大石先生のキャラクターが全ての映画だね。
別にドラマチックな活躍が用意されれるわけでもなく
彼女は時代の移り変わりの中、教え子達の抱える現実の中
ただただ、目の前でやれる事を続けるだけ。
そんな人間の真っ直ぐさを追い続ける物語だろう。
何を激しく主張するわけでもなく
全ては素直に感じる心のままの行動なのだが
その姿が実に丁寧で良い。

時代や風土の問題もあり
子供達に直に感情移入できるという事はないが
彼らを取り巻く姿勢と心は誰にとっても不変だろう。
気付けば引き込まれている良作。





『虹を掴む男』 1947年
監:ノーマン・Z・マクロード  主演:ダニー・ケイ
★★★☆☆

周囲のプレッシャーに抑圧されながらも
平凡な人生を送っていた出版社勤務の男が
謎の女の登場から、殺人事件に巻き込まれていくお話。

冒険小説誌の編集者である主人公による
妄想シーンが続く仕掛けが実に楽しい。
ある時は大航海時代の船長
ある時は、難病に挑む外科医
ある時は、空軍のエリートパイロット……
シンプルなサスペンス仕立ての物語が
彼の軽快な空想シーンが挟まる事で
自然と退屈せずに追っていける仕掛けだね。

誰だって、夢物語を心の中で抱いて
現実の溜飲を下げる経験はあるだろう。
それをポジティブな雰囲気を保ちながら
映像化できているのが素晴らしい。

1947年作品でありながら
実に色合いの美しいカラー作品である点も注目。





『肉弾』 1968年
監:岡本喜八  主演:寺田農
★★★☆☆

終戦間近、特攻任務を与えれた若い候補生の
最後の日日を描いた物語。

そんな状況からは想像もできないような
コメディ青春映画の体がアリアリなのが面白い。
何のことはない普通の若者に訪れる体験と葛藤が
諦観の中で淡々と描かれるお話だ。

主人公はどこか世の中を引いてみている
インテリ気質の若者なのだが
それでも事あるごとに本気の想いが見え隠れする。
このキャラクターが実に愛らしい。

彼は現実が狂っていることへの諦めからか
自身も狂う事を否定はしないままに淡々と終焉を迎えるんだな。
乾いているかと思えば湿っぽくもなる不思議な構成の繰り返しで
とってもテンポよく見やすく楽しい作りだが
突然、シュールとナンセンスに狂いだすのが面白い。

社会に作られた既成の価値観とは対照的に
最後に彼が体験した人々との出会いにこそ本当の価値があるか。
実に可笑しい人間達の物語であるだけに
裏を返せば、人間であろうとすることに価値を認めない
現実への圧倒的な怒りが詰まった一品。
少なくとも、生きたいと願う人間は生きられるのが良い世界だろう。

主人公が辿る運命からラストの叫びにに至るまで
一筋縄ではいかない若者の複雑な想いが全て入っているよ。
お涙のない見事な特攻映画。




『2001年宇宙の旅』 1968年
監:スタンリー・キューブリック  主演:キア・デュリア 
★★★★☆

未来の世界、新境地を開拓するために
地球外へと渡ったある船内を描いたお話。

金字塔。
これほどこの言葉が似合う映画も珍しい。
映画が如何に自由な物かを実感できる傑作。
何が無くては駄目という事は一つもないんだな。

ストーリーは大筋においては非常にシンプル。
そして、解釈や理解においては果てしなく謎。
フィルム映像の美しさ、特撮技術の凄まじさは
数十年を経てから見ても全く衰えず
そのどれもが、息を飲む緻密な映像美の連続。
何よりも素晴らしいのは
静の演出の極地とも言える無音の冴えっぷり。
これ程に恐ろしい映像があろうか
ホラーとしても究極の域だよ。

シナリオも、映像も、演出も、全てが問題作中の問題作だが
一秒足りとも、画面から目を離す事はできないだろう。
人類の歴史にまで踏み込んだ本格派ながらも
2001年を軽く過去にした段階で見るならば
あらゆる作品の元ネタを探すだけでも
十分に楽しめるかな。





『日蓮と蒙古大襲来』 1958年
監:渡辺邦男  主演:長谷川一夫
★★☆☆☆

末法の時代、日本の国難を説き続けた日蓮の生き様と
それと呼応するかのように訪れた蒙古襲来の様を描くお話。

コレほどの超大作映画でありながら
こんな脚本でいいのかな。
映像だけは、同時期のハリウッドの大史劇映画と比べても
何ら見劣りしないクオリティで
さすが大映といった邦画スペクタクルが楽しめる。

対して、長谷川一夫が演じる日蓮の姿はどうにも半端。
幕府に対しても、既存の仏教組織に対しても
一歩も引かない峻烈な姿こそ拝めるものの
その描かれ方はあまりに独善的で
理想や主張、説法の見事さと言うよりかは
信じる者は救われて信じない者には天罰が下るという
あまりにステレオタイプな展開の繰り返しに終始している。
釈迦やキリストの時代を描くファンタジー作品ならともかく
13世紀にもなって、これだけでは見ている方が醒めるだろう。
冒頭からして、最低限の義理を通せない人物だなという印象が強く
これだけの支持を集めた宗派の開祖を描いたにしては
どうもその人間的魅力を伝えるまでには至っていない。
他人を罵倒し漠然としたお題目を唱えるばかりで
彼が具体的に何を欲していたのかが謎のままで良いのだろうか。

また冒頭から「創作」である点を強調した割に、
期待した蒙古大襲来と日蓮との絡みもほぼ存在せず
何故、わざわざ混ぜる必要があったのか疑問が残るよね。

「ナンミョーホーレンゲキョ〜 ナンミョーホーレンゲキョ〜♪」の
テーマ曲は中々に強烈。
超予算、超キャストでお送りする大作でありながら
どちらかと言うとカルト作品として楽しむ一品かな。





『日蓮』 1979年
監:中村登  主演:萬屋錦之介
★★☆☆☆

生涯をかけて法華経を説いた日蓮の生き様を描く作品。

製作は同じ大映社長の永田雅一氏で
ほぼ、上記の『日蓮と蒙古大襲来』のリメイクと思ってよいが
蒙古襲来のスペクタクル映像に拘ったりはせず
あくまで、日蓮一人の生き様を淡々と描くスタイルなので
前作よりは遥かに筋が通った仕上がりとなっている。

つまりは、お釈迦様の教えは本来一つであり
世のあらゆる経典を読み切った限りでは
それにもっとも忠実なのは法華経だったので
仏教は、余計な装飾、格式を全て捨てて
全てが法華経で統一されるべき。
彼の主義はこういう認識で良いのだろうか。
EDに「協力:日蓮宗」とのクレジットがあるが
今作を見る限りではそう取れるがよろしいか。

比べれば日蓮の人柄、人生観はより険しくなり
他宗への攻撃も、自身に厳しい徹底した生き様も
全てがストイックに描かれている。
これはこれで人物像としては成立しており
ブレの無い生き様という点では実に見事なお方。
また、萬屋錦之介の一人舞台が凄まじく
彼の多彩な演技の幅を楽しむだけでも
ある程度の元は取れるだろう。

ただ例によって、理屈や教えに踏み込む事はせずに
都合の良い表面だけを描き続ける脚本では
映画としては退屈と言わざるを得ない一品かな。





『ニノチカ』 1939年
監:エルンスト・ルビッチ  主演:グレタ・ガルボ、メルヴィン・ダグラス
★★★☆☆

二次大戦直前のフランスを舞台に
ソビエトからやってきた鉄のような女と
洒脱な色男とのロマンスを描くお話。

公開は1939年。
対ファシズムという一点において
共産圏とも一定の譲歩が可能になっていた
まさに時代の象徴だね。
恋愛は障害がある程に熱い理論を地で進む
ロマンチックなコメディ映画。

笑う事すら否定する相手を丁寧に口説き続ける
男の献身ぷりも可笑しいが
ガチガチの主義一辺倒のヒロインが
自由恋愛の素晴らしさを知る過程も美しい。

フランスでの夢のような一時を経て
彼女達は何を思ったか。
立ちはだかる国家・主義という現実の壁から
実にロマンに溢れたエンディングに至るまで
ノンストップに駆け抜けられる完成度の高い一作。






『日本侠客伝』 1964年
監:マキノ雅弘  主演:高倉健
★★★★☆

材木問屋と労働者との間に入る口入れ稼業の老舗一家と
新興勢力とが繰り広げる抗争話。

人情めいた木場のほのぼのした男女関係や
稼業連中の日常姿をメインに描きつつも
シリアスシーンではドライに突き放す作風だろうか。
ヤクザ者は両陣営一人も残ってはいけないと言わんばかりの
強烈な殺し合いが続くあたり、むしろ時代の終焉を描いているよね。

ジョークのような悪役が登場することも
御大層な挿入歌が入るような討ち入りもなく
笑っていいか迷うレベルの熱い任侠演出もない。
後の任侠映画な雛型とは少し違う印象を受ける普通の映画。

実質、3人の役者がメインになっている作品で
まずゲスト的に登場する中村錦之助が面白い。
一人、股旅時代劇かと思うレベルの貫禄芝居を見せ
彼が義理のために命を捨て家族と別れるシーンは確かに泣ける。
次に長門裕之が見せる丁々発止の男女のやりとりが楽しい。
コメディリリーフとして現代的なモテ男をきっちり演じて
ここに一つの世代差が垣間見える。
そして、主演である若き高倉健が持つ不思議な空気が凄まじい。
愛嬌に満ちて人好きしそうな人柄ながらも
どこか内に怖さを秘めていることも伺える。
彼の芝居がかっていない雰囲気は
確かに新しい時代を直感で伝えてくるものがあるね。

この存在感が違う三人が作品を一つの方向に固執させないことで
贅沢で満足感の高い映画になっているのかな。

繰り返すが、とにかく高倉健がカッコいいんだよ。
それだけでも十分な価値がある一本。
この後、任侠スターになるのは当然だろう。






『日本沈没』 1973年
監:森谷司郎、中野昭慶  主演:藤岡弘
★★★★☆

活断層の地盤変化により
日本全土が沈没してしまうif設定のお話。

題材だけ聞けばパニック映画か、アクション映画
あるいは世界観ありきのSF作品に思われるが
今作は徹底したリアル路線。
あくまで当時における日本の立場、日本の社会情勢に対し
淡々と沈没までのカウントが進む様が描かれる一品で
その分かえって事の重大さが伝わってくる。
あくまで主役は「日本」自体だろう。

主役を三者が分担している構成が上手く
一個人、人間としての藤岡弘
社会、公共の象徴としての丹波哲郎
自然科学の立場から現実の代表としての小林桂樹が
各々の立場で事態を迎えていく事により
日本という国家が抱えている本質的な何かが
薄っすら透けて見えてくる。

誰かに故郷を奪われる過激な作品ではなく
物理的に大地のみが消失するという点こそが妙で
これに何を言っても仕方がないのだ。
さて本国が沈没した日本人を一体誰が受け容れるのか。
移民、難民意識の極端に薄い日本人自身が成らざるを得ない
流浪の民とは如何なるものなのか。

名台詞「何もせんほうがええ」の共感度の高さに震えるね。
絶対に違うし正しくはないのだが
それが日本というものか……

劇中では直接語られない日本人の後の情勢に対してまで
その哀愁を肌で感じられる重厚さが染みる傑作。





『日本のいちばん長い日』 1967年
監:岡本喜八  主演:三船敏郎 他
★★★★☆

ポツダム宣言の受諾決定から玉音放送に至るまでの経緯を
軍部のクーデター計画と並行して描いたお話。

淡々とした語りで進む密度重視の前半戦と
思う存分の狂気と情熱が奮われる後半戦との温度差が凄まじく
常に穏やかなナレーションで時系列を整理しつつ
人物像に対しては徹底的に役者側の力で主張をする
相対する緩急が素晴らしい。

クーデターに加担している若い陸軍将校の暴走と
時間に追われた戦後処理を実行する実務部隊の忙しさが
まるで別世界を描いているかのような格差がある。
これは、全てにおける隔絶を描いた物語だろうか。

クーデターにおいては、自身が軍の命令に反していながら
その実行に軍の命令系統を使う矛盾があり
彼ら自身はその不実に気付いていない。
まさに矛盾と崩壊の姿を描いたお話だね。
ココに「未練」という言葉が大きく響く。
戦争終結に至るまでの責任と心の両面において
日本軍人としての潔さを全ての是としている連中が
自身のクーデター計画の達成には延々固執する。
この自己矛盾に気付かされる場面の密度たるや凄まじい物がある。

次から次へとテンポよく切り替わる場面転換演出が
雰囲気の重々しさの割に見やすいテンポを保っていて
直接的な思想や語りではなく
舞台を描くだけで魅了できる演出のクオリティが実に高い。

どんな歴史も一筋縄ではいかず
その裏には様々な想いや事件が詰まっているわけだね。
敗戦を認めてから宣言するまでの過程だけでも
これだけの歯車がかみ合う事が求められる。
ドキュメントタッチな反戦映画でありながら
その実は概念の話まで進んでいるのではなかろうか。

自らの世代が生み出した若者達との板ばさみの中
責任という言葉を一人受け止め
武人として敗戦の任に当たった阿南陸軍大臣 - 三船敏郎も良いが
一筋縄でいかない大人物としての鈴木総理 - 笠智衆も実に良い。
戦後の大スターを思う存分楽しめる作品。

戦後、22年後の映画だが
スタッフの中には実際の戦地経験者が多数含まれているだろう。
今後、第二次大戦を描く上でいくらクオリティを上げても
空気感という一点においては、この当時の作品には適わないのかな。




『日本のいちばん長い日』 2015年
監:原田眞人  主演:役所広司 他
★★★★☆

ポツダム宣言受諾〜玉音放送に至るまでの
紆余曲折会議の様と陸軍将校のクーデターを描いたお話。
1967年のリメイク作品
あるいは同原作による別映画化という形か。

冒頭から終幕まで一定の緊迫感に包まれきった
2015年作品とは思えない程に重厚な映画になっているね。
各々の立場や想い、異なる正義を抱えつつ
如何なる形で敗戦を迎えるかという一点において
奮闘したお偉いさんたちの姿を描いた一品。

1967年版と比べれば
全体の流れが掴みやすいように
少し時代を戻した前日譚から丁寧に説明して
物語全体が俯瞰で描かれている。
表題にはやや嘘ありということになるか。

製作者のほぼ全員が実際の経験者だろうという
終戦20年後に撮らられた1967年版と比べれば
どうしても、8月15日に対しての温度の差があるかな。
情念めいた何かを淡々とテンポよく流し続けた旧作と比べれば
今作は解釈論や資料ありきや、そうあって欲しいという希望が前面に出ていて
映画としては綺麗ではあるが作り物感も相応に強くなっている。
全体的に皆が皆カッコ良すぎるね。
ただ、昭和天皇がはっきりと物を言い
ストーリーに関わってくるのは平成版ならではの面白さか。

全ての人物に対して同情の余地が強いのだろうか。
家族の話が多いのも彼らが一人の人間たる存在を描いていると思われるが
それ故に言い訳めいた空気感が出てしまう効果もあるね。
この作品は根本的に登場人物がカッコを付けるための話ではないだろう。

役者もみな芸達者で不満はないのだが
ド定番が揃いぶみで、どうにも雛形すぎて物足りない。
中でも、もはや名作リメイク請負人となっている
役所広司は一人で背負い込みすぎではなかろうか。
『十三人の刺客』で『片岡知恵蔵』をやり
『一命』(切腹)では『三国連太郎』をやり
今作では、『三船敏郎』をやるわけだが
それで本人の個性を出すには無理がありすぎる。

唯一、クーデターの主犯格である松坂桃李は素晴らしい。
あまりにも純真で狂気性が高い役回りで
1967年版に引っ張られた感が全く無いのに脅かされる。
あの美貌と瞳が逆に怖くてしょうがないね。
結局、彼が8月14日を不要に掻き回すだけのストーリーなのだが
この若者を憎むのは難しいだろう。
元を正せば、その純粋すぎる若者を一体誰が作り出したかという話よ。
まさに1967年版はその点、老兵が責任を取り合うテーマだったのが
今作はクーデターに走る若手将校に対し
大人を見せる面々という構図になっているだろう。
内閣の面子に少し狂気が薄いのが気になるか。

そこが終戦からわずか20年の映画と
戦争を1ミリも体験していない2015年世代との
埋めきれない体感の違いという事なのかもね。
ただ、それを差し引いても
2015年に撮られたこと自体が素晴らしい一本かな。




『ニュー・シネマ・パラダイス』 1989年
監:ジュゼッペ・トルナトーレ  主演:フィリップ・ノワレ、サルヴァトーレ・カシオ
★★★★☆

映画こそが町の共通娯楽であった時代への郷愁と
自身の子供の頃の思い出、青春時代をオーバーラップさせる
何とも優しい雰囲気のノスタルジー映画。

まずは映画館を文化の中心とした街中における
住民達の楽しそうな様子が素晴らしい。
子供の頃の思い出とは誰だってこういう物さ。
本当の顔は皆が色々と持っていたのだろうが
遠い過去とは一番良い個所だけが見事にピックアップされるもんだよね。
思い出は万国共通ではないが、そのノスタルジー感は共通なのさ。
そんな心が見事に掘り起こされる
完成度の高い優しいお話。

親父代わりの技師も、夢中になった恋人も、厳しい母親も
常に何かに浮かれていたように見えた大衆も
それらが彼にとってどれだけ大切だったかが素直に伝わってgood。
男が抱える幼い部分、あるいはロマンとも言えるのかな。

全編通して徹底した「映画愛」が心地良く
何に対してでも愛の感じられる作品は見ていて楽しいね。







『ニューヨークの王様』 1957年
監:チャールズ・チャップリン  主演:チャールズ・チャップリン
★★☆☆☆

側近の裏切りにより
アメリカ社会に一人放り出された能天気な小国の王様が
頭デッカチな理論尽くしの少年と心を通わせていくお話。

当時の赤狩りを中心に据え
アメリカの時事問題を徹底的に洗い出した
チャップリンらしい強烈な皮肉作品なのだが
過去の名作群と比べれば
少々、主張が前面に出すぎている上に
国家や時代を超える普遍性が薄いかな。

現実世界における彼自身の立場を含めて考えれば
渾身のメッセージ映画ではあろうが
どうにも作風が重過ぎて
時折言い訳のように挿入される
コメディ調のシーンも何処か空回り
チャップリン映画の最大の利点を捨てているのが勿体無い。

決して悪すぎる映画ではないが
グっと堪えて、内にテーマを秘めた一本の方が心には残るだろう。
その点、今作はやや無粋な印象が強い。





『人間の條件 第一部 純愛篇/第二部 激怒篇』 1959年
監:小林正樹  主演:仲代達矢
★★★★☆

第二次大戦も末期という頃に
満州の鉱山に労務の仕事で赴任した主人公が
捕虜労働者の監督、現場との軋轢にと奔走するお話。

個人と組織と言うのかな。
数々の肩書きと言ってもよいね。
所詮は中国人だからと頭から否定しても
逆に、所詮は日本人の言う事だからと否定しても
個人そのものを見たとは言い難いわけだよ。
立場と所属と、個人の心や尊厳は別であると
口にするのは簡単だがそうはいかない現実が見事に伝わってくる。

まず、日本人であり国営企業のエリート社員であり
それでいて人道家である主人公に果たして未来はあるのか。
……あるわけがなかろう。
目の前の現状解決、プライド、人間としての尊厳にと
全てを手に入れたい欲張りな主人公の気持ちは痛い程にわかるが
やはり彼は強くはなれなかったな。

そもそも冒頭にカメオの佐田啓二が呟いた
この時代「戦地に行くか、終身刑」かの二択という言葉があるが
そこまで開き直れる程に自身は強くないと
主人公は既に述べているんだよね。
わかっていながら現実を前にしてみれば
強くあろうとせずにはいられない姿の悲しさか。

しかし、この時代の満州は複雑怪奇だね。
賃金で雇われた現地人の通常労働者、捕虜として働かされる強制労働者
好きでやっているわけじゃないと言いつつ
職業人な慰安婦集団、日本人に協力的な満州生まれの中国人。
登場はしないが、もちろん抗日活動を続ける中国人。
両方から相手にされないと自嘲するヤクザな朝鮮人。
もちろん普通の民間人としての日本人、企業。
そんで恐怖の憲兵隊のみなさま。
本当にどうなっているんだろか。

そんな舞台で、圧倒的な密度でお送りする一大ヒューマニズム巨編。
「ヒューマニズム≠甘い」だよ。
全くの逆、ヒューマニズム作品とは
甘さの欠片も無いドギツイ映画の事だったのさ。

結局は、肩書きに捕らわれた人間達の物語。
終盤、中国人連中の性根の汚さが実に心に響く。
力なき側と言ってもよいが
殺してみろと言うなら、憲兵に直接悪態をつけば良いものを
あくまで現場の責任者で無害だった主人公にだけ
責任を押し付けるような虚構なんだ。
これは誰もが心に留めておく教訓だよね。
登場人物全てが隣の芝生は何とやらで
最後まで相手の立場と心境を分かり合えなかったクソ連中の集合体。

だが、こんな底辺の鉱山からすらも
排出されてしまうのが今作の主人公なんだ。
一体今後どうなってしまうのかと
次回作への期待をせずにはいられない完璧な序章。




『人間の條件 第三部 望郷篇/第四部 戦雲篇』 1959年
監:小林正樹  主演:仲代達矢
★★★★☆

軍隊編ですね。
ここもまた、あちらを立てればこちらが立たずの
複雑な組織の世界です。

階級という制度はもちろんありつつ
初年兵、二年兵、三年兵、そして四年目以降の古兵と呼ばれる
古参の度合いによる絶妙な集団の格差がある。
加えて少尉さんですらどこ上りの将校なのか
その経歴等によって、侮られ方がまた違ってくるアナログ感。
軍隊式の礼儀や作法などは
所詮は「ごっこ遊び」の域を出ず
同階級、同期だけの集団になった瞬間に
一斉に本音が飛び交う虚構の世界。
そこには、強制される形式通りの尊敬なんて物は一粒も存在しない。
また、補充兵、徴兵という制度がもたらす
過度の年齢差による弊害も凄まじい。
相手が将校だと言うならいざしらず
真っ当に人生を噛みしめてきた40歳過ぎての初年兵が
ただ数年先に徴兵されただけの社会に出たこともないクソガキ古兵達の虐めに
どこまで耐えられるものか?

この末期関東軍の組織としてのシステムが
如何に根元において腐りきっているか。
そこを圧倒的な密度で示してくれるさすがの一品。
ちなみに、現在も日本社会に慣習として残っている物が
たくさん見つかるあたり実に面白いもんです。

さて、そこに飛び込むのが
南満の鉱山にて労務管理として大立ち回りを演じた
あの我らが主人公様なわけですよ。
そのプロットだけで既に混ぜるな危険の緊迫感が響くね。

憲兵と揉めた過去から、赤疑惑の報告を上げられつつも
所詮は何の証拠もなければ、致命的なミスも犯さない。
基本、彼は誰よりも優秀です。
軍隊内においてもとんとん拍子に出世するのだが
上に行けば行く程、下に組織を抱えれば抱える程に
無駄な苦労を背負い込むのは彼の性分なんでしょうな。

駄目同期を庇い、私的制裁に終始する上官を告発し
上等兵となってからは初年兵を不当な暴力から守り
そして部下の古兵に睨まれる……
そんな暴力と人間としての尊厳の間で
延々と板挟みを繰り返す姿は一章、二章の見事なオーバーラップ。

結局、組織の効率と人間集団って物の愚かさは
民間だろうが軍隊だろうが
何も変わりゃしないというわけさ。
とことんテーマの徹底した傑作映画です。

次から次へと登場する主人公を取り巻く個性の連続に
気付けば取り込まれている圧倒的な密度。
一体いつ、主人公がキレて全てが台無しになるのか。
その緊迫感だけで何時間でも持ってしまうね。

最後には大スペクタクルシーンを迎え
さらに今後の展開はどうなるのかと
より見事に期待も繋ぐ、中盤戦。




『人間の條件 第五部 死の脱出篇/第六部 曠野の彷徨篇』 1961年
監:小林正樹  主演:仲代達矢
★★★★☆

ソ連との国境戦で全滅した部隊の生き残りが
漠然と終戦しただろうという情報の中で行う
大脱出行のお話。

組織、組織でがんじがらめだった主人公が
暴れに暴れまくる前半戦。
部隊の生き残りなり、途中で拾った避難民なり、別部隊との合流なり
様々な人間が集団同士で絡み合う中でも
彼は当たり前の如くリーダーなんだよね。

ただ、その過程は確実に主人公が壊れる過程でもあるわけで
戦争でもなければ、作戦でもなく、上官も居ない中
自らが生き残るために起こす行動の数々の凄まじさよ。
僅か道路を50M渡るための殺人
その夜の食料を手に入れるための殺人……
状況として誰も責められはしないのだが
この主人公が自身を傷つけざるを得ない事は
もはや皆が承知であろう。

誰と行軍しようがやはり揉めて頼り頼られ
あるいは傷を舐め合ってね……
それでも、このシンプルに「生きる」ための闘いは
今までで最も人間臭いかもしれないね。
過去一番悲惨な状況下で一番救われるとは皮肉にも程がある。

後半はより救いが無い。
満州の鉱山組織から始まった物語は
次に軍隊生活に舞台を移して
最後はソ連の捕虜抑留とどんどん最悪の環境になるのだが
結局は同じ事の繰り返しなんだよな。
民間で駄目で、軍隊で駄目で、共産圏労働で駄目で
一体どうしろと言うのか。
満人の逆襲に怯え、社会主義への漠然とした期待も裏切られ
日本人も相変わらずクソだしね。
全てにおける出口の無い姿は圧巻。

ただ、それでも主人公は到達したんじゃないかな。
全てから脱出した上で妄想の中で宣言した通り
彼の心は妻の元に帰ったのではないだろか。
そうでなければこの一大叙事詩が成立しないではないか。

この結末以外はちょっと成立しないだろうと納得できる完結編。
10時間近い巨編だが一見の価値はある大傑作。





『忍者武芸帳 百地三太夫』 1980年
監:鈴木則文  主演:真田広之
★★☆☆☆

甲賀忍びの裏切りにより一族壊滅の憂き目を味わった百地家の若様が
仲間と共に復讐を遂げるお話。

主役の若々しさが全ての映画だね。
特に時代劇界の大御所を迎える事もない中
主人公を真田広之、敵役を千葉真一という
ある種、自作自演に近い雰囲気すら漂うアクション作品。
東映系の超大作に脇役で登場し続けた真田広之がついに主役をGet。
その肉体美、運動美を見つめるだけで
相応に納得してしまう詐欺のような小粒映画かな。
もちろん、悪ノリ全開のとんでもシーンも多彩で
全編、大笑いしながら楽しめる一品だろう。
ストーリーも音楽も、安っぽさを逆手にとったような
C級を狙ったお馬鹿映画として成立している。

下手に本気で作って空回りしている作品よりは
遥かに見ていられるトンデモ忍者大戦。
JAC絡みのこの作品は『激突!』が完成形だと思うが
そこに至る布石と思えば感慨深い。





『人情紙風船』 1937年
監:山中貞雄  主演:中村翫右衛門、河原崎長十郎
★★★★★ ★

舞台は江戸時代、
何の事はない貧乏長屋の物語。

一体「祭りの後」に残る寂しさとは何なのだろうか。
人間がある騒動において、あれだけ盛り上がり
楽しげに賑やかに過ごせるのは
その後にくる日常の虚しさを知っているからだろうか。
祭りが覆い隠している現実を本当は噛み締めているからだろうか。

江戸の貧乏庶民達が見せる圧巻の楽観力と
意地を貫く男のみせる行動力によって
とても痛快な気分にさせておきながら
最後には何とも言えない虚無と絶望感を残してくる。
幸せの奥を見透かされるような不思議な作品。

何気ない話、何気ない展開でありながら
確実に心を捉えてくる絶妙なセンスが
映像演出を含めた作品全体に散りばめられており
まさに、日本人による日本人のための呼吸と温度。
邦画冥利に尽きる大傑作。
これはもう最高峰かもしれないね。




『濡れ髪三度笠』 1959年
監:田中徳三  主演:市川雷蔵、本郷功次郎
★★★☆☆

世間知らずな将軍家の若様と
粋で陽気な渡世人との友情物語。

威勢がよく愛嬌十分の渡世人を市川雷蔵。
代表作では暗い役が多い気がするが
実はべらんめぇ口調のヤクザ物も似合う。
世間知らずな馬鹿若殿には本郷功次郎。

若様暗殺を目論む一団との
スリリングな対決展開が続くストーリーながらも
基本はコントのようなノリが続くコメディ映画だね。
底抜けに明るい、雷蔵・功次郎コンビが楽しめるだけで十分。
他作品におけるこの大映コンビを知っていれば
より顔を綻ばせて楽しめる事間違いなし。
公開順序は逆になってしまうが『大菩薩峠』を見た後だと特に良しだ。

ムード歌謡全開の挿入歌もアクセントとして賑やかで
とってもライトに遊べる股旅人情時代劇。






『ネットワーク』 1976年
監:シドニー・ルメット  主演:ウィリアム・ホールデン、他
★★★★☆

アメリカのTV戦争が直面する視聴率合戦に巻き込まれた
初老キャスターの物語。

完璧なる虚構の映画だよ。
一見して、大真面目な社会批判かと思わせながら
劇中の内容はドンドン過激で大仰になっていく。
目を疑うばかりのオーバー演技も全ては計算で
全ての出来事は脚本であり見世物である。
現世にエンターテイメントを重ね合わせている我々は
既に大いなる虚構の世界に生きているという
大掛かりな皮肉が何ともキツイ。

真面目に見ていた社会派作品だったはずが
いつの間にやら、ギャグ映画に変わっており
一体、劇中の何処までが本物か本気だったのかを
全く見極められなくなっていた自分自身に恐怖するね。
1976年の作品でありながら
既に21世紀の世相までをも予言している傑作。

結局の問題は
視聴者が何処まで割り切って見ているかという話だが
全てが虚構のテレビを
虚構と思った上で楽しんで見ている時点で
既にその人達の人生もまた
虚構に取り込まれているのではないか。

いちいちバラエティ番組を見て
これは本物かどうかと騒ぐ事自体が
幼稚にすぎる話だと思うのだが
視点を変えれば、むしろそれで怒れる純粋さの方が
真っ当な人生を歩んでいる気にさせられる。

虚構を追及すれば、エンタメは今作のラストまで到達せざるを得ないし
仮に到達したとしても、それすらもまたすぐに飽きられる事だろう。

ある種、トンデモ映画の範疇でありながら
最終的な展開やオチは
完全にブラックジョークとして成立している。
これだけの仕掛けとテーマ性を
軽快なテンポの元に一本の映画に内包しているとは恐れ入る。





『ネバーエンディングストーリー』 1984年
監:ウォルフガング・ペーターゼン  主演:バレット・オリバー
★★★☆☆

本の中に広がるファンタジー世界へと取り込まれる
少年の物語。

この手の架空ファンタジー世界は
如何に独創的で、夢、もしくは毒があるのかが全てでしょう。
その点、隙無しの良作です。
適度に子供向けで、適度に荒々しく、適度に毒があり、適度に心を打つ。
やりすぎると、見ている側が付いていけなくなるのがファンタジーながら
絶妙なバランス取りが成功している。

何より、異世界の存在感を裏付ける圧倒的な美術のお仕事
本の世界という設定の妙、ビジュアルで伝わる図書館の怖さ
そして、本当に正しいのかと焦らされる主人公の心情がお見事。

100分足らずの映画一本で
ここまでじっくりと異世界物を作れるものかと驚かされる。





『ネバーエンディングストーリー 第二章』 1990年
監:ジョージ・ミラー  主演:ジョナサン・ブランディス、ケニー・モリソン
★★☆☆☆

前作でお馴染みのファンタジー世界に
今度は「読み手」であった主人公自身が入ってしまうお話。

読み手と異世界の壁みたいなものが
あっさりと取っ払われる事に違和感を憶える二作目。
どこか影のある際どい少年だった主人公が
割と普通な男の子としてしか活躍しないのが残念。
この程度の調子の乗り方は少年ならば普通だよね。

世界観の魅力はそのままなんだけど
キャラクターもストーリーも
そして作品を包んでいた不思議な雰囲気も
わかりやすい悪役の存在も
何か普通になってしまった映画かな。




『眠狂四郎無頼控』 1956年
監:日高繁明  主演:鶴田浩二
★★★☆☆

厭世的なヒーロー眠狂四郎が陰謀を砕く物語。
東宝版、鶴田浩二主演。

出生に少し影のある主人公像ではあるけど
後のシリーズ程の怪しさは薄目だね。
余裕のある貫禄ヒーローとしての狂四郎が見られる一本。
この方が本来は原作に近いのかもしれないな。

物語上の狂四郎はとっても健全で
女は犯すが普通に頼れる皮肉屋のお兄さん。
お話全体にユーモアが散りばめられており
時代相応、普通に楽しい娯楽作品だね。

若き鶴田浩二は二枚目スターらしく
映画内容からもそれは伺えるのだが
それでも彼の絵は十分に渋いよね。
後のどの狂四郎よりも落ち着いて見える。




『眠狂四郎 殺法帖』 1963年
監:田中徳三  主演:市川雷蔵
★★★★☆

大映、市川雷蔵版の眠狂四郎
第一弾。
加賀100万石の存亡をかけた争いに巻き込まれるお話。

大映美術の素晴らしさ。
まずは、ココを堪能する一本だろう。
ロケかスタジオセットかを問わず
劇中の何処を切り取っても
まさに映画と言える細かい画が拝める
時代劇作りの安心感はさすが。

お話はシンプルながらも
欲張り過ぎない完璧な構成が光る82分で
どの陣営に対しても、適当にちょっかいを出し
引っ掻き回すだけ回して
結局、何を解決するつもりもないという
そんな狂四郎の迷惑さが思う存分に堪能できる。

あとは、市川雷蔵の魅力さえ堪能していれば満足。
何処かしら狂気を孕みつつも
小粋な余裕に満ちたキャラ造形は素晴らしく
どちらかと言えば、明るい眠狂四郎だろうか。
通常であれば、到底受け容れられないような
キザで痛々しい台詞の数々が
サラリと流れていく不思議な感覚は
今シリーズならではな至高の雰囲気芸。





『眠狂四郎 勝負』 1964年
監:三隅研次  主演:市川雷蔵
★★★★☆

雷蔵版、第二弾。
偶然出会った勘定奉行を陰謀から守るお話。

明るい狂四郎はそのまんま。
若干の影を見え隠れさせつつも
基本、飄々とした小粋な兄ちゃんで一貫しているのは前作譲り。
頑固爺である加藤嘉の人柄に惚れ込み
延々と愉快な掛け合いに終始する姿は
もはや正統時代劇ヒーローそのものだろう。
このお爺ちゃんが、あまりにヒロインに過ぎるため
藤村志保が可哀想になるくらい。

今作は特に映像演出がキレッキレ。
一々な構図のカッコ良さに
ワンカット切り替わる度に唸らされしまう。
常に、何か一工夫せねば気が済まないと言わんばかりの痛快映像で
ストーリー上では、乱暴とすら言えるシーンの継ぎ接ぎも
それに拠る緊張感抜群のハイテンポの前では文句も出ない。

所謂、儚さ、ニヒル、怪しさ方面は控えめなれど
シンプルな二枚目っぷりで言えば、最高峰の雷蔵が拝める一本。





『眠狂四郎 炎情剣』 1965年
監:三隅研次  主演:市川雷蔵
★★★☆☆

雷蔵版狂四郎の第五弾。
偶然立ち合った敵討ちへの肩入れから
陰謀に巻き込まれるお話。

軽蔑すべき存在と、尊敬すべき存在。
この二つの線引きがあまりに激しすぎる
狂四郎らしいエゴが存分に出ている作風。
特に軽蔑側である中村玉緒への扱いが
あまりに素晴らしい冷酷さで
彼のゴミで見るような目が怖い怖い。
このぞくぞくするSっ気こそが狂四郎の本領発揮だろうね。

逆に終盤に吐く、可憐な少女を形容する台詞は
あまりの気取りっぷりに抱腹絶倒なのだが
これが恥ずかしげもなく言えてしまうのもまた
雷蔵狂四郎の魅力。
この二面性が自然と許せてしまうという
特殊なヒーロー像に拘ったシンプルな一作。





『眠狂四郎 無頼剣』 1966年
監:三隅研次  主演:市川雷蔵
★★★★☆

雷蔵版狂四郎の第八弾。

今回の狂四郎は、特に大人しい。
江戸の町を火の海にしようとの企みを砕くため
悪党どもと対決する正義の味方。
あまりにも多くの人が不幸になるような事態では
大衆のために戦ってくれる男なんだね。

この映画を現す言葉はただ一つ。
「綺麗」
シリーズ独特の毒々しさや、怪しい色の臭いが極端に薄く
本当に市川雷蔵の圧倒的な美貌にだけ集中していられる短編傑作。
若い頃と違い、この頃の雷蔵は最早、人とは思えない神々しさがある。
ラスト、天知茂との対決シーンの映えも良く
遠景からの映画ならではのショット一つ取っても
やはり三隅研次監督が頭一つ抜けている事を再認識させられる。

本来の狂四郎らしさは薄いが
「雷蔵版 狂四郎」を楽しむ上では『勝負』と並んでベストな一本。





『眠狂四郎 女地獄』 1968年
監:田中徳三  主演:市川雷蔵
★★★★☆

雷蔵狂四郎、第十弾。

行きずりの出会いから
権力争いに巻き込まれる構図はいつも通り。
その場の思いつきで行動する
狂四郎の迷惑さが極まった一本。

落下地点に危険な罠を用意すればする程に
ギリギリの綱渡りとは映えるものなのか……
とにかく破綻寸前のカルトっぷりが楽しめる作品。

次から次へと、登場しては消えて行く
小粒な女性キャラクター達
その都度、発せられる紙一重なキザ台詞の数々
細かく細かく区切られた断絶シーンの繰り返し
そして、もはやコントと区別が付かないとまで言える
くだらなすぎる仕掛の数々……
全体通しての突っ込み所をカウントすれば
10や20では到底足りない一作だろう。

だが、そんな荒唐無稽な世界観を
至高の雰囲気芸で罷り通してしまう事こそが
このブランドの魅力であるならば
その点では今作が間違いなくシリーズ最高傑作。
圧倒的なくだらさと、圧倒的な美しさが交互に挿入される
ペテンのような作風が最後まで飽きさせない。

田村高廣、伊藤雄之助の両名による
記号化の極地とも言えるライバル像が素晴らしい。





『眠狂四郎 卍斬り』 1969年
監:池広一夫  主演:松方弘樹
★★★★☆

ある女性の暗殺を依頼された事により
藩同士の抗争に巻き込まれた狂四郎が
延々と人を斬っていくお話。

市川雷蔵作品の狂四郎を男前すぎると思えば
この松方狂四郎は実に脂っこくて妖艶な怪作。
松方弘樹のクドサが、きっちり前シリーズの印象を断ち切ってくれる。
据え膳は喰わねば気が済まない。
これが基本でしょう。
女を抱いて抱いて抱きまくって
人を斬って、斬って、斬りまくる。
狂四郎はこうでなくては。

映像的にも面白い仕掛けが多く
数ある眠狂四郎の中でもカルトな一作として楽しめる。
彼がハーフにだけは見えないのが難点で
その設定で言えば、敵役の田村正和の方だけが見事すぎて
ストーリー上にある似た者イメージは何処からも出てこない。





『眠れる森の美女』 1959年
監:クライド・ジェロニミ  主演: メアリー・コスタ
★★★★☆

魔法使いの罠で眠ってしまった美女を
男前のヒーローがキスで目覚めさせるお話。

美しい。
一枚の固定背景の中、キャラクター達が縦横無尽に動き回る手法が面白い。
どのシーンも非常に密度が高いバックのため
どこで静止しても、絵としての完成度が圧倒的で
間違いなく、そのままパズル化して壁に飾れるクオリティだろう。
細かいエフェクトも"CG全開"でとても綺麗……
……なんて勘違いをしても良い程に、そのアニメーション技術は細かく
一体、どうやったらこの演出が動くのだろうと
常に頭の中でクエスチョンの繰り返し。
アニメーションとして、技術もセンスも究極だと思われる一品で
75分間、画面に釘付け間違い無し。

お話も良いよ。
映画的にアレンジされたシンプルな御伽噺は普通に良い。





『ノーカントリー』 2007年
監:コーエン兄弟  主演:ハビエル・バルデム 他
★★☆☆☆

偶然に遭遇した麻薬取引の現場から大金を持ち逃げした男が
気の触れた殺人鬼に追われるお話。

どうでもいい人間達と、どうでもいい展開が延々と垂れ流され
映像だけが辛うじて映画のソレとして成立してる作品。

殺人鬼役のハビエル・バルデムが素晴らしい存在感だと言われるべきだろうが
白ける脚本は役者の好演すらを殺す。
人は人と触れ合い社会との関わりを繰り返して
その積み重ねでどんどん個性を増していく物だから
物言わぬサイコパスとその被害者に一体何の価値を見出せばよいのか。

つまり、この殺人鬼は視覚の上では人間っぽく見えるが
実際は何かの象徴として配置された天災なのだろう。
しかし、そういった回りくどい事をやるなら
狙われる側から余程の人間味が滲み出てこなければ
ただ冗長なホラー演出を見るだけの映画になってしまう。
今作にとてもこの映像を耐え続けるだけのお話があったとは思えない。

恐怖の対象が人間である価値は何所にあるのか。
間違いなく彼は「人ならではの恐ろしさ」とは無縁の存在。
ゾンビのような特別な世界設定を工夫する手間すら惜しみ
ギャングの親玉までも本拠地に一人で乗り込んで殺せてしまう
その無味乾燥な無敵さは何なのだろうか。

『羊たちの沈黙』のように、映画として魅力的な描き方もあるのだろうが
これはただ一人を配置して終わらせた作品に思える。
オスカー作品の全視聴を目標にしているなら
最後の一本だなこれは。





『ノー・マンズ・ランド』 2001年
監:ダニス・タノヴィッチ  主演:ブランコ・ジュリッチ
★★★★☆

ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を舞台に
中立の無人地帯へ取り残されてしまった
セルビア兵士とボスニア兵士の姿を描くお話。

とにかく脚本勝ちの傑作。
両軍勢力の境界線に成り行きで取り残される二人の兵士
彼らが動けない理由になる一人の負傷兵。
そこに、立場上介入できない国連保護軍と
話題性のある事件に群がる国際メディアと
多種多様な人間達が、自身の立場と正義で織り成す
絶妙に不自由な言動が一筋縄ではいかない状況を
見事に際立たせてくれる。

ただし、重苦しい話でありながらも
その描き方は実に軽妙で
テーマだけが独り善がりに先行した形ではなく
あくまで、映画の見せ方を知っている職人技が楽しめる。
入り口はすっきり、中身はしっかり。
一見、どうにかなるかと思わせる
同じ人間としての触れ合いがまた切ない結果を生む
グッダグダの紛争地域。
決して着地点を読ませない緊張感もお見事。

戦争のエグサを描きたければ
やはりこのあたりの紛争が群を抜いているだろう。




『のぼうの城』 2012年
監:犬童一心、樋口真嗣   主演:野村萬斎
★★★☆☆

1590年、豊臣秀吉の小田原攻めの最中
2万の軍勢を500で耐えたと言われる
小さな支城の戦を描いたお話。

石田三成の大失態で有名な物語だね。
大掛かりな水攻めを使ってまで落としきれなかった
忍城内部の物語が描かれる。

この時代には珍しい
エンターテイメント満載の大作時代劇で
その点では十分に楽しめる。
ただし、結論ありきで綺麗に話が纏まりすぎていて
ドラマ性は薄い作品かな。
そもそも「でくのぼう」こと「のぼう様」と領民に親しまれる
主人公、成田長親の魅力が伝わらない。
彼の人間性こそがドラマの核であるのに
過程を全て省いて「慕われている」という面だけを
強調されても困るだけだろう。
他の人物も先に作品のバランスを考えた上で作り出された
少年漫画かのような突飛なキャラクターの立たせ方が多く
この篭城戦の重さと比べて、都合が良すぎて冷めてしまう。

題材は素晴らしく、映像面でも見所はあるが
一本の映画としてはハッタリの説得力弱い
良くも悪くも原作通りの一作。





『野良犬』 1949年
監:黒澤明   主演:三船敏郎、志村喬
★★★★☆

拳銃をスられてしまった若い刑事が
僅かな手がかりを手繰り寄せながら
犯人を追い求めていくお話。

なんという戦後リアリティ。
それも当たり前、1949年公開の映画にリアルもクソもなく
ただの現実だったわけだよね。
終戦数年の街中は貧しく厳しい物ながらも
実に生き生きとしており、逞しさに感じ入ってしまう。
立て続けに現れる証言者達を眺めているだけでも十分に楽しい。

お話は、若い三船敏郎の真っ直ぐな存在感と
老刑事、志村喬の包容力が素敵だね
若者が世の中を嘆き、責任に押しつぶされ、犯人にも同情し
もし自分であったらと鋭い感性を張り巡らせるのに対し
老人側は現実を見つめた厳しい言動に終始するわけだ。
道を外した者とそうでない者の差は歴然。
ヌルイお涙頂戴は決して許さない
とっても厳しくも正当な映画だよ。

そんな一貫したテーマを柱に据えながらも
純粋な捕り物の緊迫感にも酔いしれられる
テンポ抜群、語りも抜群な贅沢エンターテイメント作品。






『ノルウェイの森』 2010年
監:トラン・アン・ユン   主演:松山ケンイチ
★★★☆☆

何をするでもない生活を送る大学生の主人公が
幼馴染の自殺に心を捕われてしまった女性への愛を貫きつつ
様々な人間関係を経験するお話。

これは純愛なのかな。
まずインテリ共が知的な会話を行いつつ
その中に平然と性をそのまま象徴する話題を
混ぜ合う姿に呆然とさせられる一品。
間違いなくこの作品が醸し出す独自の持ち味だろうね。
彼らは乱れに乱れた生活を行っているわけだが
その心は行為に似合わず何処までも高尚で
はっきりと言えば、美しいと感じてしまう事は否定できない。
こんな精神世界が高尚だとは認めたくないけどね。

優しげな言葉の中、常に乱れずに自分を抑えながらも
決して自らの意思を曲げない主人公の姿は
例えその過程にどんな奔放な性行為を経ても
やはり純愛そのものではないのか
本気の愛であった事は、彼の表情その他を見ればわかるだろう。

死んだ人間に心を捕われる愚かさを感じつつ
死を前に忘れられたくないと呟く彼女も見れば
その思いも複雑な物へと変わってしまう。

非常にクセのある世界観ながら
ちょっと忘れられない映画にはなるかな。
あまりに美しすぎる映像も考え物と感じる
原作小説とはまた全然違った一品。




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