『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』 2012年
監:フィリダ・ロイド 主演:メリル・ストリープ
★★★★☆
政界を引退してから長い年月が経ち
認知症に悩まされる老婦人サッチャーが
様々な回想を交えながら自身の人生を見つめ直していくお話。
構成が良いね。
あくまで亡き夫の幻影に惑わされる病人でありながらも
自身の功績をしっかりと再認識していく
彼女の人生再生の物語なんだ。
もちろん、病気自体は直る物ではないが
それと彼女の人生観は別のお話だ。
本人の回想録という体である以上
そこに描かれるのは、必ずしも政治家サッチャーの姿だけではない。
一人の女性、妻、母、そして人間としての姿もが
分け隔てなく混ぜ合わされる。
偉大なる英国初の女性首相として
様々な世の中の問題に立ち向かっていく姿の逞しさと
それ故に得られなかった物、あるいは得られた物が見事にオーバーラップ。
無論、本人の気持ちなど誰にもわからないが
視聴後にそれでも彼女は幸せだったのだろうと
思わず納得したくなる自分と巡り合える。
激動の中を生きるとはこういうい事か。
ヒューマンドラマはこうでなくてはね。
落ち着いた絵作りとテンポの中にも
ユーモアやエンタメを忘れない密度の高さが良く
何より、メリル・ストリープの好演が素晴らしい傑作。
『麻雀放浪記』 1984年
監:和田誠 主演:真田広之
★★★★☆
戦後の混乱期を一介の博打打ちとして
駆け抜けた男たちの物語。
余計な装飾を限界まで削ぎ落した
実にカッコいい映画。
敢えてのモノクロ映像で淡々と話が進み
決して映画的に凝りすぎた演出も行わず
戦後の世相を強調するような泥臭さへの拘りもない。
しかし、全編に異常な緊張感が走る
ギラついた魅力にだけは満ちた一品。
これは麻雀に憑りつかれたクズ野郎達が
人生哲学を背中で語る作品だからだろうね。
彼らが行う様々な詐欺紛いの行為は眺めているだけでも楽しいが
その行為に生きる実感までをも重ねて探すような
狂気の人間味が加わる事で
つい、その一挙手一投足にまで見入ってしまう。
この手の「人生、太く短く」論は根強いよね。
自身ができない分、どうしたって心に響く要素はあるもんだ。
ある意味では、ギャンブル防止映画だろう。
中毒者の悲惨な実態を描くような野暮な説教ではなく
むしろ、登場人物があまりにもストイックで美しく
一本気に狂いすぎているために
逆にそこまでの覚悟が無ければ無理である事を悟らせてくれる一品。
この頭のおかしい連中を見て
普通は「俺には無理!」となるところを
「カッコいい! 俺もこうなりたい!」と感じるような
ホントの狂人が居たならば、その人は信じる道を進めば良いさ。
若々しい真田広之の未熟っぷりが
劇中の人物像と見事にリンクしているのも良いね。
人の好い好青年のような空気を出しながらも
彼もまたその道へ踏み込んだド変態で間違いなかろう。
『マーティ』 1955年
監:デルバート・マン 主演:アーネスト・ボーグナイン
★★★☆☆
そろそろ、35歳を迎えようかと言う
冴えない独身男の肉屋マーティが
母親や友達、そして女性との出会いを通じて
人生観を見つめていくお話。
申し訳無いが
まずは、アーネスト・ボーグナインに驚かされるのが全て。
この純真で愛嬌ある青年の姿は何事だ。
普段、恐怖の象徴のような俳優さんなのだが
この演技の幅は実に見事。
しかし、人間が抱える悩みと言うのは世界共通だね。
お互いに視線を意識しあう嫁と姑
両方に義理立てして、どちらにも不機嫌になる夫。
双方が同時に落ち着く暇も無いと言い出す滑稽さ。
恋愛から結婚への段階に水を挿す障害。
そして一方で、女性関係をステータスかのように
容姿や職業で計り続ける独身プレイボーイ連中の存在。
どの国を舞台にしても、このあたりをテーマに
シンプルに纏め上げられたお話は面白い物だろう。
とっても丁寧に仕上がっている良作で
誰よりも優しいマーティの人柄に触れられるだけで幸せかな。
ただし、ここまで生活自体をメインに据えた映画の場合
日本人が見る限りは邦画の独壇場なんだよね。
肌で感じられる距離感が違ってしまう。
特に、1950〜60年代に作られたその手の邦画は洗練されすぎている。
何か一つ特別な仕掛けがないと
自分がアメリカ人でないことがネックとなり
どうしたって一つ物足りないのはもったいない。
『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』 2009年
監:ケニー・オルテガ 主演:マイケル・ジャクソン
★★★☆☆
まともな映画ではないね。
半ライブ、半ドキュメント映像集かな。
2009年に行われる予定だったツアーを仮体験できるのが全て。
何よりも、エンターテイナーとしてのマイケル・ジャクソンが
全く衰えていない事を確認できるだけで幸せを感じる人向け。
常にアイディアを出し続け、常に新しいスタイルに拘り続け
常に自分に正直に生きてきたマイケルの姿は
間違いなく、それだけで一本の映像作品として成立するだろう。
ムーンウォーカーの時に感じた出鱈目なパワーを
再び噛み締められる映画。
彼がもういない、永遠に実現しないリハーサル映像だという事に
心の準備ができてからどうぞ。
『マイティ・ソー』 2011年
監:ケネス・ブラナー 主演:クリス・ヘムズワース
★★☆☆☆
度重なる暴れん坊が過ぎて
若様が父親(王)に神としての力を奪われる事になる
北欧チックなファンタジー話。
古典的なアメコミヒーローの世界と
スタイリッシュな現代社会との共存という
不思議な二重奏スタイルこそが
昨今のアメコミ映画の特徴とすれば
この作品は半端物だろうね。
完璧なプロットを持っているだけに実に惜しい。
そもそも、暴君として天界に君臨していた神が、
人間社会に落とされる事で、様々な出会いを体験するお話だ。
彼はそこで何を学び、何を得たかのか。
その心をもって天界に復帰する事で、最終的に悪の陰謀を砕く。
大筋を追えば何と王道で楽しげなストーリーだろう。
ところが薄いんだ。
その過程における、ドラマと言うドラマの全てが薄い。
果たして何のための人間社会パートであったのか
ヒロインの存在意義は何だったのか。
本当に主人公は下界で何かを得たのか、
結果、家族との関係性はどう変わったのか。
そんな大事な部分が曖昧なままで
物語はジェットコースター式に悪役との対峙を迫ってしまう。
120分弱もの尺がある作品の割にドラマ部分が非常に忙しない。
対して活劇パートが異様に長いんだ。
元の天界における人間(神様)関係も、下界におけるドラマも
急ぎに急ぎ、飛ばしきった後に
何故か始まる冗長なファンタジー界のエンタメアクション映像。
これではせっかくの二重奏が空回り。
お馬鹿キャラとして愛嬌たっぷりな
ガキ大将主人公は決して退屈ではないのだが
それを取り巻く環境が最後まで物足りない。
あくまで後に『アベンジャーズ』を製作するための
踏み台作品だったのかと穿った見方をせざるを得ない一本。
『マイ・フェア・レディ』 1964年
監:ジョージ・キューカー 主演:オードリー・ヘプバーン、レックス・ハリソン
★★★★☆
言葉遣いの粗野な花売り娘と出会った言語学教授が
彼女を一級のレディに仕立て上げようと奮闘するお話。
男も女も負けてない関係というのは面白いね。
彼らの関係はどっちもどっちという言葉が良く似合う。
喧嘩は絶えないが腐れ縁を想像させる素敵な男女。
それを丁寧なミュージカルに載せて
豪華絢爛な舞台で見事に魅了してくれる。
終始、彼らのウィットに富んだ言動に
笑わせてもらえるコメディ映画だろか。
不遜で傲慢な教授も、感情のままに動く主人公も、暖かく見守る大佐も
そして一級の人生観の持ち主である父親も
全ての人物が楽しめてあっという間。
きっちり、120分に相当する人物とストーリーが楽しめ
ミュージカルパートも味わえる贅沢な170分映画。
歌はどれも自然な挿入で歌詞とストーリーのリンクが美しい。
とっても素敵な世界観。
『マインド・ゲーム』 2004年
監:湯浅政明 主演:今田耕司
★★★★☆
何処か人生で逃げを打ってきた青年が
自身の死を契機に体験する不思議な世界で
人生観を見つめ直すお話。
圧巻の映像作品。
頭のネジが、軽く二、三本は吹っ飛んでいる
トリップ感抜群の抽象表現に満ちた
清く正しい『ファンタジア』系譜のアニメだね。
一端開き直ってマトモな精神は脇に置き去り
ただただ職人の魔法に没入すべし。
間違いなく"飛べ"ます。
しかしながら、作品の底に流れているのは
堂々の人間賛歌。
エキセントリックな作風で魅了しつつも
その裏で誰もが人生で持ち得る可能性を
淡々と説き続ける真摯な顔も持ち合わせる
何とも贅沢な一品です。
それを彩るのが圧巻の大阪芸。
実際に立ち寄ると苦手な街ではあるのだが
何故、様々な作品で描かれる大阪とは
こうも魅力的な活気に満ち溢れているのか。
敢えてアクターに吉本芸人を採用する事で生まれる
生々しい大阪力が憎いね。
『魔界転生』 1981年
監:深作欣二 主演:千葉真一、沢田研二
★★★☆☆
怨念により死の世界より蘇った
天草四郎や、宮本武蔵、細川ガラシャ、柳生宗矩らが
柳生十兵衛と対決するお話。
いや、本当にそういうお話なんですよ。
初っ端、島原の凄まじい地獄絵図でまず心を掴まれる
圧倒的な怪しさを持つ荒唐無稽な傑作。
全編が無茶苦茶な構成で進み
そのジェットコースターっぷりは息をつく暇すらない。
どれもが一筋縄で撮れない執念の映像の数々。
グロくて、エロくて、それでいて豪華絢爛で見応えたっぷり。
この時代、JAC系の時代劇は数あれど
今作の千葉真一こそが最強の剣豪だろう。
それに華を添えるのが親父役の若山富三郎センセ。
一人だけ、次元の違う殺陣を披露するお姿は
全盛期と何ら変わり無し。
最終決戦の迫力は舞台の映像美も含めて必見。
ジュリーも怪しげで綺麗、良いこと尽くしの一品。
『マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋』 2007年
監:ザック・ヘルム 主演:ダスティン・ホフマン
★★☆☆☆
幻想的なおもちゃ屋の映像に酔いしれる作品。
よくぞ、ここまでの部屋を作ったという程に鮮やかで美しい。
但しそれだけ。
ストーリーはあってないような物で
引退を決意した不思議な店長のお爺さんと
それに不服な命を持った玩具たち
そこに、人性に悩む若き女性、オジサン、男の子などが絡むのだが
キーとなるはずの物語が
何となく雰囲気だけ用意された薄味ヒューマンドラマかな。
これだけの映像を前にして、何を追えばよいのか戸惑ってしまう。
いくら芸術的でも玩具屋は玩具屋。
静的な空間なので映像のみ2時間は辛い。
もう少し短く纏めてほしかった。
ダスティン・ホフマン主演と聞くと思わず見る前に身構えてしまうが
この作品は気軽に楽しめば良く心配は不要。
『マジックアワー』 2008年
監:三谷幸喜 主演:佐藤浩市
★★☆☆☆
三谷幸喜の映画は舞台が広くなればなる程
どんどん密度が下がってる気がする。
一言で現すなら、退屈。
見ている側に余裕がありすぎて困るかな。
笑う場所も事前に教えてくれる親切さで
唐突にボケられた際の驚きもなく
馬鹿にされている感じすら受けてしまう。
綺麗な方向、綺麗な方向へと話が進んでいき
もう決定的にコメディタッチと求める方向とズレている。
笑いの中にほんのりイイ話があるからこそ素敵なのだが
この作りはあまりにクドだろう。
キャラクターは相変わらず面白いんだけど
台詞自体も少なくどーにもスッカスカな印象が残る一本。
『魔女の宅急便』 1988年
監:宮崎駿 主演:高山みなみ
★★★☆☆
13歳の誕生日を迎えるにあたって
一度、外の街で生活しなければならないという掟に従い
見習魔女の少女が新たな土地で奮闘するお話。
これは少年少女賛歌です。
新たな環境で希望と不安に溢れる少女の初々しさが
これでもかという程に味わえる。
特に大きな何かが起こるという事ではなく
様々な人々と出会い、働き、生活していく様子が
ただただ美しい。
ホウキに乗る魔女という設定が、これほど淡く描かれるものだろか。
そして、夢を追いかける男の子の出会いが
大きな成長のきっかけになっていく……
まぁ、完璧です。
そこに、荒井由実による主題歌が反則級に優しい一作。
『魔人ドラキュラ』 1931年
監:トッド・ブラウニング、カール・フロイント 主演:ベラ・ルゴシ
★★★☆☆
トランシルヴァニアの古城より
現代ロンドン市街へと居を移した
吸血鬼ドラキュラ伯爵の暗躍を描くお話。
全編を通したスローテンポのメリハリ演出が素晴らしい一品。
霧に包まれた怪しげなロンドンの闇夜において
ドラキュラ伯爵は目に見えて特別な力を見せるわけではなく
ただただ、時折姿を見せるだけなのだが
伯爵が画面に映り込むたびに訪れる
ゾクリとする一瞬の緊迫感には問答無用の説得力がある。
一々、クローズアップで顔のどアップが映るだけで
これだけの神々しさが出るのだから、
如何に、丁寧なキャラクター像を作っているかが伺えるね。
対するヴァン・ヘルシング教授も、淡々と知識を語るだけの存在ながら
彼が伯爵と対峙した際に生まれる空気の重さは圧巻で
こちらもまた安売りしないだけの存在感が生まれている。
ストーリーやオチはいたってシンプルで
厳密には伯爵が一体何を目的にロンドンを訪れたかすらハッキリはしないのだが
それが気にならない程に雰囲気芸満点の75分。
まさにゴシックホラーの金字塔でしょう。
十字架に慄く伯爵の姿が特にお勧めのシーン。
『マスカレード・ホテル』 2019年
監:鈴木雅之 主演:木村拓哉、長澤まさみ
★★☆☆☆
殺人事件の犯行予告を受けた一流ホテルに
敏腕刑事が潜入捜査するお話。
一流のホテルマンである高慢な長澤まさみの元で
客商売の香り皆無の荒々しい木村拓哉が
慣れない接客修行をやらされるコメディ設定。
そんな凸凹コンビが様々な人生観の対立を経て
お互いに理解を深めていく物語は
もはや安心すら覚える往年のTVドラマ仕立てだね。
"キムタクのドラマ"が見たいという欲求には
ほぼ100点で答えてくれる一本。
ただ、単体映画として公開していることで
無駄にハードルを上げているのは惜しいかな。
どうも、第1〜2話と最終話だけを見せられる
連続ドラマといった構成が強すぎる印象。
ご丁寧に40分区切りで一エピソードが終わり
それなりの締めと感動を見せた後に
また次の展開が始まるというブツ切り脚本は
130分尺の映画とは少々相性が悪い。
事件とは一切絡まないエピソードも多い中で
本筋はあっさり、かつ強引に解決してしまうのも拍子抜け。
連続ドラマとしては短く物足りなく
1本の長編映画としては密度が低すぎるジレンマがある。
映像はさすがの豪華さはあるが
音楽が誘導型のテンプレートに寄りすぎなのも
意図的にか安いTVドラマ感を強めているのが悲しい。
決して楽しめない映画ではなく
とにもかくにも、キムタクの持つ主演スター性が
全てを許してしまう作品ではあるね。
『股旅三人やくざ』 1965年
監:沢島忠 主演:中村錦之助、仲代達矢、松方弘樹、志村喬
★★★☆☆
渡世人の悲哀を描いた3本立てのオムニバス映画。
仲代達矢、松方弘樹(+志村喬)、中村錦之助の3人が
それぞれ40分程度の尺を受け持つ。
1本目は湿った話。
田舎女郎の悲しさや業を徹底して描きつつ
それに寄り添う凶状持ちの根暗な渡世人を仲代達矢が好演。
このテーマ、このキャストが明るくなろうはずもなく
もはや死生観が狂ってしまった男女が醸し出す緊迫感が
延々と全編を支配する困った物語。
彼は死に場所探しするしか無い身の上で
どうせなら、何か善行の一つでもという心情に至るのは
綺麗ごとではなくとも感覚で理解はできるだろう。
2本目は一度足を踏み入れたらば
最後まで真っ当な暮らしには戻れない悲しさを描く。
老齢となり弱気に捉われた賭博師を志村喬が
18歳の血気盛んな若ヤクザを松方弘樹が演じる。
甘いお話なら良い師弟関係にもなれそうな良キャラクターだが
今作は志村喬を徹底して弱々しい存在に見せ続ける事で
結局、渡世人なんて碌なもんじゃないという物語が成立している。
今日まで生き延びてこられた時点で
実際、老人は十分な人生経験を積んできたやり手のはずだが
それをこれだけ哀れに演じられるのはさすが。
3本目はやや毛色の違う寓話めいたコメディタッチ。
村人が道行く渡世人を歓待して
自分達の手を汚さずに代官を殺させようというお話。
演じるは陽のオーラを全開に出す中村錦之助。
この人は本当に惚れ惚れする上手さだね。
仮に錦之助であれば1作目でも2作目でも相応にやれるだろうが
その逆となると難しいんじゃないかな。
それ程に情緒豊かで、ちょっと情けなくて、愛嬌があって
それでいて泣かせ芝居の巧さが群を抜いてお見事。
テーマ自体はいくらでも陰鬱で暗くできる物語を
サラッと調子の良い渡世人の姿を提示する事で
全編を通して清涼剤のような最終作が成立している。
ただやはり、渡世人なんてなるもんじゃないって話さ。
どれも楽しめる短編で演出も申し分なく丁寧なのだが
1本の映画としてはどうも話が小粒すぎるかな。
満足度はそこまで高くならなかった一品。
『またまたあぶない刑事』 1988年
監:村川透 主演:舘ひろし、柴田恭兵
★★★★☆
あぶ刑事の劇場版二作目。
前作からの軽快な魅力はそのままに
よりハードボイルドアクション寄りへとシフト。
早くも劇場版としてのお約束が生まれ、
わかりきった展開が来た瞬間は思わず笑ってしまう。
TV版では最重要キャラクターであった
課長役である中条静夫の役目が
ハードボイルド寄りとお約束の展開によって、
劇場版でも十分に機能するようになったのが素晴らしい。
彼がタカ&ユウジを叱って、それでも心の中では理解してて
最後には見事に渋い役を演じて映画を引き締める。
これがあってより二人が生き生きとするわけだ。
舎弟臭全開の仲村トオルも素敵なアクセント。
後の世では渋い役のイメージが強いが
舘ひろし柴田恭兵に顎で使われるお馬鹿なキャラは永遠だろう。
相変わらずストーリーはあってないようなもの。
意図的に不要なのだから仕様が無いね。
ただし、雰囲気芸に必要な物でさえあれば
全く遠慮せずに取り入れる職人技には感服。
『間違えられた男』 1956年
監:アルフレッド・ヒッチコック 主演:ヘンリー・フォンダ
★★★☆☆
殺人事件の冤罪が生まれる過程を
淡々と描くお話。
劇的な仕掛けは何も存在しないリアル志向の作品ながら
それだけに実に恐ろしい一本。
日常生活の最中、唐突に拘束される恐怖
悪意なき目撃者の思い込みの恐怖
全ての物事が不利な方向へと傾いていく焦り。
悪意や犯罪者が作り出す不幸とは全く異質に
公共社会が自ら産み落とす最大のサスペンスこそが冤罪なんだろね。
この映画に悪者なんて居ないんだよ。
厳格で理知的な警察官の姿こそが
逆に主人公を追い詰める恐ろしい逆転現象が光る。
ヘンリー・フォンダならではの純情な主人公像が
見事な説得力を加えている。
徹底して過剰さを排した実直な一本。
『街の灯』 1931年
監:チャールズ・チャップリン 主演:チャールズ・チャップリン
★★★★☆
浮浪者の主人公が
街角の花売りで生計を立てる盲目の少女に恋をするお話。
こんなにも綺麗な映画があるものか。
サイレント特有の格調の高さが
見事にプラス方向にハマっている傑作。
チャップリンの映画の恒例として
基本はコント集としての構図はそのままなのだが
テーマが社会風刺よりも完全に人情話に注がれている点が
異色の一本だろうか。
コントの完成度とストーリのテンポも上々で
90分弱という短編とは言えないサイレント作品でありながら
見所の多彩さに驚かされる。
何が一番素晴らしいか。
これは、主人公像だろうね。
他作品と比べれば主人公は珍しくアホの子ではない。
確かに何処か抜けたトコロはあるのだが
他人に迷惑をかけるタイプではなく
ただただ、人情に厚い粋な男なのだ。
彼に助けられた人は数知れず。
しかし、盲目の少女を前にしては
紳士として振舞ってしまう気概とプライドがある。
そしてその裏に見え隠れするコンプレックス…
この一点において、主人公像は万人の共感を得られるだろう。
誰だってそうなのだよ人間は。
言葉少ないサイレント作品だからこそ
彼の少女に対する複雑な感情が実直に伝わり
また少女の優しさも感じられる。
喋る映画が下品などと言うつもりは毛頭ないが
サイレントは格調高いなと素直に思える傑作人情劇。
『待ち伏せ』 1970年
監:稲垣浩 主演:三船敏郎、石原裕次郎、勝新太郎、中村錦之助
★★★☆☆
怪しげな仕事の依頼で一軒の峠茶屋へと立ち寄った素浪人の主人公。
何かが起ると言われた場に集まってきた面々とは一体。
実に豪華だね。
ストーリーに一つの謎を含んだままに
次から次へと現れる大スターの連発。
カメオでもゲストでもない
この面子、四人全員が主演という構成の映画だ。
一体誰がどういう役回りなのか、誰と誰がどう絡み合うのか
その過程だけでワクワクしながら楽しめる事は間違いない。
キャラクターは
三船敏郎が、どこか達観した所のある薄汚れた素浪人。
石原裕次郎が、ややお調子物の男前の渡世人。
勝新太郎が、飲んだくれの荒くれ医者。
中村錦之助が、偏狭な言動が目立つ如何にも小物な役人。
それぞれが自らが得意とする雰囲気を最大限に持ち出しての夢の大競演。
特に美味しい役どころを得ているのは錦之助かな。
一人だけ、カッコ悪い役を演じているが故に目立つ目立つ。
散々小物をアピールしたが故に、最後には良い人間味が出る。
このコンセプト映画にして、この役柄をこなす彼の懐の深さが見える。
ただどーも、それだけの映画かな。
四人が密接に絡み合う事でストーリーが進むのかというと
そこが弱めなのが惜しいよね。
大筋は大筋で別に存在していて
あくまで彼らはそこに相応の立場で居座り
手と口を出してくるだけの存在でしかない。
せっかくの謎掛けとスター達が本線とは空回り。
石原裕次郎など、結局、何のために居たのやら……
閉鎖空間におけるミステリー展開を下手に期待させる作りだっただけに
オチの薄さも消化不良感が否めない。
全員が全員を活躍させるという事がそもそも無茶だったか。
一本の映画としては悪くはないのだが、
せっかくの二度とあり得ない夢舞台なのだから
もう少し練られた作品が欲しかったというのが素直な感想。
ともあれこの困難な企画、そしておそらく無茶な現場の状況から
少なくとも完成した作品を撮りあげた巨匠、稲垣浩監督に拍手。
『マッキー』 2012年
監:S・S・ラージャマウリ 主演:ナーニ
★★★☆☆
恋人を残し無残に殺された男が
一匹の蝿として生まれ変わり仇を追い詰める
コメディ復讐劇。
インド映画らしいミュージカル仕立ての
甘い甘い恋愛ロマンス劇から始まる作品だが
冒頭30分頃から様相が一変
唐突にトリッキーな題材のCGアニメへと
華麗に転身を行う不思議な一品。
筋だけを聞けば、B級カルト映画かのように思えるのだが
その実は圧巻のクオリティを約束された
一流のエンターテイメントに仕上がっている。
「インドでは、ティーに蝿がたかっていても気にしない」と
未だ残る世界的なイメージを堂々と逆手にとったかのような
余裕に満ち溢れた見事なアイディア芸だろう。
小さな蝿の身のまま、愛する彼女と二人三脚で
復讐計画を練る姿の可笑しさは
そのまま、ディズニー映画にでもなれるかのような
暖かい雰囲気を醸しだすのだが
そこはさすがのインド映画。
計画の中身は徹底して悪質な代物で
あまりの過激さからむしろ主人公側の行動にドン引き必至。
全てを奪われた若者と恋人の人殺し男への復讐劇でありながら
道中、彼への同情すら浮かぶのだから素晴らしい。
もはや、ある種のホラー映画だね。
十分に予算のかかった大舞台を用意しながら
一方でここまでの悪ふざけができる
まさにインド映画の楽しさが覗ける良作。
『M★A★S★H マッシュ』 1970年
監:ロバート・アルトマン 主演:ドナルド・サザーランド
★★★☆☆
朝鮮戦争の最前線で繰り広げられる
軍医達の退廃的な軍隊生活。
全てを馬鹿にした映画だな。
彼らにかかれば、厳粛な軍隊も崇高な戦争も
その全ては台無しに。
実に自由奔放で楽しそうにすら見える生活だが、
実際はああやって馬鹿騒ぎでもしていないと
狂ってしまうというのが正解かな。
劇中において何ら直接のメッセージを描く事なく
陽気な軍医連中の狂乱を楽しませておきながらも
その実は最高の皮肉に満ちた一本。
次から次へと戻ってくる死体一歩手前を相手に
最悪な環境で無駄な手術を繰り返す毎日などは
我々には想像を遥かに超えた代物だろう。
そこを真面目に考えれば、本来コレは有り得ないお話なのだ。
有り得ないからこそ際立つテーマ性。
見事に舐めた作品だね。
『マッドマックス』 1979年
監:ジョージ・ミラー 主演:メル・ギブソン
★★★☆☆
不思議な無法世界を舞台に
警察官と暴力連中との闘いを描くお話。
まさにマッドな世界観が十分に味わえる一品。
警官と言えども、一人で道路を走るだけで
もうタダでは済まない。
女性なんて存在してるだけで問題外。
ココは何処なんだ? という
荒れすぎな治安に笑うしかない。
頭の悪すぎる車世界も良いね
そんなマッドな馬鹿ども相手に
主人公マックスが活躍して、不幸になって
そして狂った復讐を遂げる。
痛快な一品。
『マッドマックス2』 1981年
監:ジョージ・ミラー 主演:メル・ギブソン
★★★★☆
前作とコンセプトは同じなのだが、
新たに「核戦争後の世界」という設定を加えて
前作の、何処かわからない治安の悪い街から
もう完全に架空のマッド世界へと突き抜けた名作。
これはもう究極の世界観映画。
鉄仮面に、モヒカンに、謎毛皮や皮ジャン、
ブーメラン、装甲バイク、貴重な水やガソリン……
大よそ考えられ得る世紀末感を全て構築して
映像化したのは偉大の一言。
後のほとんどの作品はこの映画の影響下ではなかろうか。
中身?
そんな物は無くても映画は楽しめます。
立ち向かう勇気の物語だよ。
『マッドマックス サンダードーム』 1985年
監:ジョージ・ミラー 主演:メル・ギブソン
★★☆☆☆
同一主人公によるシリーズ第三段。
メタンガスを原料とする燃料サイクルが完成して
特にガソリンを必要としなくなっている時点で
前作の世界観を継承する事はできいないよね。
ほとんど車両が出てこないのが一番の不満かな。
それにも関わらず、こじんまりと半端なノリを引き継いで
良くわからない救世主伝説に長い尺をとって
とにかく地味で一貫性のない映画になっている。
テーマはともかくこの手の世界観映画で
一貫性が無いは究極の致命傷。
円熟味を増したメル・ギブソンはもちろん、
アバズレなティナ・ターナーなど役者だけはステキ。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 2015年
監:ジョージ・ミラー 主演:トム・ハーディ
★★★★☆
核戦争により文明が崩壊した世界を描いた暴力物語
20年ぶりの新作第四弾。
ガソリンを大量浪費しながら人様のガソリンを奪いに攻め寄せる
あの一世を風靡したお馬鹿すぎる世紀末世界観が
そのまま2015年クオリティで甦った一品。
贅沢映画だね。
シリーズ初期を意識したか
メインディッシュは、カーチェイスに拘った圧巻の"クルマ"の大連発で
その奇抜な演出アイディア、美術、造形に目を奪われる事は当然なのだが
今作は同時に、荒廃世界の描写自体が大きな見所になっている。
本来、希望の欠片も無い設定が提示されているはずなのに
直感的には、それでも地球は美しいと感じてしまう視覚効果が素晴らしい。
幻想的な絵作りから醸し出される何とも不思議な重厚作風は
何故かマッドマックス式のお馬鹿世界との相性が抜群。
加えて、主人公の到達する人生観が
力強いテーマ性として一本筋が通っているのだから
一体どれだけ欲張りな作品なのだろうか。
アイディアに笑って、映像美に唸って、物語に心打たれるという
奇跡のバランスを保ちながら全方向を攻めきった傑作ファンタジーアクション。
『マディソン郡の橋』 1995年
監督:クリント・イーストウッド 主演:クリント・イーストウッド、メリル・ストリープ
★★★☆☆
母の遺品から明らかになる
僅か4日だけで綴られた美しき不倫の物語。
何よりも最愛の母の死の直後に
わざわざ生々しい不倫の話を聞かされる息子達という構図が
あまりに面白すぎる一品だろう。
その状況を自身に当てはめてみた時の滑稽さ
馬鹿馬鹿しさに思わず苦笑い。
しかし、死に行く身として
本当の自分を子供達に知ってもらいたいと願う
母親の気持ちは理解に足る代物。
ここで大切なのは、あくまでこの不倫に対し
墓場まで持っていくような秘話ではなく
何ら恥じるような物ではなかったという
強烈な意思を本人が持っていた事だよね。
堂々と来るならば話は変わるだろう。
劇中のお話は、実に迂闊な人妻と、プレイボーイな写真家との
甘ったるい恋愛描写を延々と繰り返すだけ。
互いの愛を確かめあいながらも
現実的な人生観をぶつけ合う姿が何とも切ないね。
しかし、これが何故に美しいのかと言えば
僅か「4日」だけの体験などというものを
人間はどれだけ大事にできるのか
その限られた時間の中で
どこまで一生物の思い出を得られるのか。
この一点を追求している点だろう。
これは紛う事なき人生への賛歌だよ。
過去あるいは、将来においての可能性として
たった4日の美談が作れるならば
人は幸せに死ねるんだという提示は
人生にとっての何よりの希望だろうさ。
「4日」で良いなら最後まで遅すぎるなど有り得ないはずだ。
もう一つは、彼女が家庭を壊さなかった事。
最後の最後まで、罪なき家族への愛を貫いた点だろう。
これを心で裏切り続けた女と取るのは少し違う。
死後、遺品の整理に至る段階まで
子供達にとって彼女が良妻賢母であった事は
全く動かしがたい現実、事実なんだよ。
その積み重ね、人生の長さ、叩き出した結果の重さを前にすれば
現在、自身の家庭崩壊を目前に控えているような
娘や息子達には何も文句など言えまいよ。
死ぬまで思い出として心に秘め続けたればこそ
自分は家族に身を捧げる事ができたと理屈付けられればこそで
これはもう十分な美談だろう。
そんな映画。
クリント・イーストウッド監督らしく
とっても美しくはかない世界観が
スマートに嫌味なく伝わってくる良作だろか。
テーマとしては割と衝撃作だと思うんだけどね。
『マトリックス』 1999年
監督:ウォシャウスキー兄弟 主演:キアヌ・リーブス
★★★★☆
コンピューターに人類が支配された
電脳管理社会の偽りに気づくお話。
時代が生んだ大傑作。
世界を取り巻くあらゆる環境の変化を
敏感にキャッチし尽くしていた作品。
若者の間では、ある程度の市民権を得始めていた
公式HPすら持たない企業も、まだまだ数多く存在した…
そんな1999年、インターネットの黎明期においてのバーチャル世界は
既存のSF作品の発想とは、手に触れられる温度が違う。
また当時、架空の絶景や大スペクタクルシーンにおいてのみ使われていた
大掛かりなCG技術をアクションだけに使い切れば一体どんな表現ができるのか。
そこに至った発想の勝利も見事。
本格的なCGカンフーアクションであることも見逃せないね。
全てが既存アイディアの流用でありながら
その全てをベストな瞬間、ベストな形で作り上げ
時代に提供してみせる。
これも一つの高度な職人芸。
家庭用DVDとの親和性、5.1chサラウンドとの親和性など
時代の寵児であった要因を挙げれば切りがない。
これらを追い風だったというのはおかしく
それすら最初から計算に入った企画だったのだと思う。
『マトリックス リローデッド』 2003年
監督:ウォシャウスキー兄弟 主演:キアヌ・リーブス
★★☆☆☆
電脳世界として広げた大風呂敷を
無理にたたみにいってしまうお話。
こういう事は止めましょう。
仕掛けに対する驚きは、前作で使い果たしているので
ストーリーやキャラクターで見るしかない。
しかし、あれだけ大掛かりな世界設定を作った以上
安っぽさを出さずに、世界の根幹に触れる物語は作れない。
まして、視聴者に謎解きをさせるような
哲学的な仕掛けはそれに見合った質が無ければ無謀。
現実を見据えて前に進め! というような
人生観を提示することもできた作品だろうが
その方向性にはいけなかったのが残念。
企画からして無茶な続編だったが
まだまだアクション演出としては冴えた部分もあったかな。
そんな二作目。
『マトリックス レボリューションズ』 2003年
監督:ウォシャウスキー兄弟 主演:キアヌ・リーブス
★★☆☆☆
全ての要素に魅力を感じなくなる
シリーズ完結編。
一作目で8割、2作目で残り2割も使い切った。
最後には何も残っていなかった。
話の終わり方だけが気になってとりあえずは見た。
そういう映画だろう。
空中格闘アクションという舞台があるが
このシーンでのCG世界は空回り。
アクション部分のパワーダウンも駄目な理由かな。
『招かれざる客』 1967年
監:スタンリー・クレイマー 主演:スペンサー・トレイシー、シドニー・ポワチエ、キャサリン・ヘプバーン
★★★★☆
資産家のインテリ白人一家に
一人娘が婚約者として黒人男性を連れてくるお話。
ストーリーからも、テーマからも
社会派作品である事は明白ながら
物語としてはたった一夜の人情会話劇に終始しているのが
実に素敵な一本。
名優の競演と最高の掛け合いを楽しんでさえいれば
訴えるべき問題など自然と各人が咀嚼できてしまうだろう
映画としての懐の深さが伺える。
今作は、登場人物が徹底して理知的で優しく
良い人の集合体なのが肝だろうね。
お相手の黒人も、白人社会が絵に描いたような
理想的なエリート男性である。
互いの両親は社会の現状を知り尽くし
娘、息子の将来を想像する能力が有り
自らをリベラリストと思っている方々だからこそ
この結婚には一言あるわけだよ。
表面的な差別問題など
とっくに結論を出しているつもりだった人間が
いざ自分の目の前で事態に直面することで
自己の内面を見つめ直すお話なのだ。
そんな連中だからこそ
最後に導き出す結論を考えれば
何とも夢に溢れた物語だね。
彼らは社会から逃げても居なければ、
思考を放棄もしていないんだ。
当時のアメリカ世相をピンポイントに映した内容だが
結局は何処の時代、何処の国でも
根本に抱えている問題は一緒だろう。
社会に差別と偏見と対立が消えない限り
残念ながら決して魅力は損なわれない大傑作。
『真昼の暗黒』 1956年
監:今井正 主演:草薙幸二郎、左幸子
★★★★★
老夫婦一家への強盗殺害事件を巡る
現場、逮捕、公判の過程を描くお話。
冒頭
「この映画は現実の事件そのまゝの再現ではない」との
断り書きが入るのだが
どう見ても「そのまゝ」を信じて作られた一本だろう。
1956年公開作品という先鋭的なセンスも含めて
これはノンフィクション型メッセージ映画の最高傑作かもしれんね。
まず映画として圧倒的に面白い。
これに尽きるでしょう。
現実の事件を題材に、徹底的にその争点を炙り出すような
説明調の内容が取られているはずなのに
展開重視、見せ場重視のエンターテイメント作品としても
完全な形で成立しているのだから大したもんですよ。
犯行現場の回想シーン一つとっても
ギラッギラの映像演出に画面が異常なまでの圧迫感に包まれ
息もできないような緊張が味わえるのだから贅沢だ。
そして、冤罪事件の真相を論じる以前の教訓として
まずは、大切な人間が不当な境遇に置かれた際
如何に動ける者、残された立場の者が
気合を入れて立ち向かえるかの大切さという
普遍の応援性が胸に染み入るんだね。
この不幸な題材が、親や恋人の物語として
地に足ついた人間ドラマに昇華されているのも実に良い。
そんな映画そのものと言える魅力を全方面に発揮しながら
気付けば、観客に一連の事件過程の説明が済んでいる。
よくこんな両天秤が成立し得うるもんだ。
そうして十分に作品性を楽しませた最後に
この世界が現実である事をあらためて突きつける冷酷さよ。
………呆然だ。
題材の事件が発生したのは1951年らしく
戦後、僅か6年の世が見せる荒々しい空気には
絶妙な生々しさが感じられる。
特に、取り調べ中の自白や供述が重視されるスタイルは
半世紀は経った社会でも、そう変わってはいないだろう。
リアルかは知らんが「コレはありそう」という
受け手の感覚を引き出すバランスが何より素晴らしい一品。
しかし、リアルタイムに公判中の事件に対して
一つの立場を貫いてこうまで明確なメッセージを出す
製作側の覚悟には凄まじいパワーがあるな。
是非を語る以前に、まずその命掛けっぷりに脱帽だろうよ。
『真昼の決闘』 1952年
監:フレッド・ジンネマン 主演:ゲイリー・クーパー
★★★★☆
結婚を期に引退を決意した保安官の元に
かつて街のために捕えらた殺人犯が
復讐に舞い戻ってくるお話。
哀しいね。
映画によって描かれるカッコイイ「男」の姿ってのは
数限りない方向性があるのだけれど
この作品が示す主人公は本当に哀しい。
民衆に尽くし、危険を顧みずに勤めてきた中で
いざ、こういう事態に陥ってしまえば
誰からも協力は得られず、婚約者からすら理解を得られない。
皆が勧めるように二人で街から逃げてくれと思いつつも
それでも信念を貫いて立ち向かってしまう彼の姿に
一体、男の憧れを抱かずに何を思うか。
しかしこの男に憧れると言える境地にすら
人は簡単には立てないんじゃないかな。
誰一人、明確な敵意を持って主人公と敵対するわけではないんだ。
あくまで現実の立場との妥協を模索する彼らの方にこそ
自身の共感を得る部分は遥かに多いだろう。
人生はそう無邪気ではいられない。
むしろ主人公こそ我侭な空気の読めない男にも見えてしまう。
彼は落ち込み、悩み、逃げたい心にも捕らわれるわけだよ。
それでも周囲の人間を前にしては
淡々と弱い自身を隠し冷静に接し続ける。
不当に傍観を決め込む面々に対しても
怒鳴る事もなく、非難する事もなく、取り乱す事もない。
何が彼をそこまで強くそして同時に不自由にするのか。
一度は裏を通るからこそ正義は一周して欲しく
良い物は良いと言える姿に本当の理想を見たいもんですわ。
リミットのある劇中の時間設定も見事で
90分弱の短い尺がピタリと主人公の焦りとリンクして
全編が絶妙な緊迫感に支配されている
異色の西部劇傑作。
『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st』 2010年
監:草川啓造 主演:田村ゆかり、水樹奈々
★☆☆☆☆
評判が良い作品だけに
TV本編を先に見ておくべきだったかなと後悔した総集編映画。
少なくともこの映画単体からは、
あらゆるキャラクターに面白みがほとんど感じられない。
劇中でのストーリーは無いに等しいしね。
相手の事情や心情が気遣えない。
知ればわかると、何でも知りたがるのは傲慢ではあるが
それが悪い訳ではなくその真っ直ぐさ故の魅力というのもあるはず。
主人公にその説得力を感じられないのが致命傷かな。
何かに心を寄り掛からせ続けないと生きていけない駄目女も
(一般的な作品では、それが"男"である事が多いが)
突き詰めていけば圧倒的な存在感を発揮できるわけだが
この事実上の主人公からも特にそれだけの狂気や情念が見えてこない。
その上、無駄に長い尺をとって
切り口がチグハグなバランスのおかしい130分間。
ファンにしか見て欲しくない作風ならば
何故、新たな作品性もなく再編集物を劇場で公開しようなどと思うのか。
今作に限らず業界の疑問。
『魔法使いの弟子』 2010年
監:ジョン・タートルトーブ 主演:ジェイ・バルチェル、ニコラス・ケイジ
★★★★☆
現代、NYを舞台に物理オタクの冴えない大学生が
運命に導かれ高名な魔法使いの弟子となり
地上を破滅させる魔女と戦うお話。
何という軽さ。
でも、誰だって頭を空っぽにして100分間
ご都合主義で突っ走りたい時ってあるよね。
そんな期待には、確実に応えてくれる大作です。
しかしこんなに簡単に強くなって良いのかい。
何のハードルもなく運命の彼女をゲットできて良いのかい。
思わずそう呟きたくなる程
彼の魔法使いとしての人生は順風満帆。
全く苦労も危機も見えないんだよね。
基本は、愛に生きるか、世界のために戦うかの悩みなのだが
どちらへの明確な解答もなく、相応なドラマも無いままに
流されるまま気付けば両方を手にしている主人公。
どんだけ充実人生なんだというツッコミが素敵すぎる一品。
師匠も敵役もその動機があまりに不純と言うか
シンプルにすぎていて、まぁココはそういう世界なのかと
気付けば納得できている不思議な軽快さ。
この軽さが逆に魅力なのだろうか。
主人公は間違いなく愛されキャラクターだしね。
常に顔をヒクヒクと動かしている特異なな表情は
決して二枚目にはなりきれない彼の姿を見事に現している。
我儘で、びびりで、お調子者だけど
根は良い奴なんだと誰しもが感じ入るお得な人物だよ。
師匠は渋くて優しくて……あぁなんて恵まれた野郎なんだ。
そんな羨ましい男の子ストーリーを
CG全開による豪華絢爛なファンタジー映像と
小気味良く挿入される現代的なコメディ描写
気の利いたパロディなどに載せて
ノンストップで提供する100分映画となれば
そりゃ、相応には楽しいだろうさ。
どこかに既視感があるなと思って見ていたが、
この充実っぷりは『ベストキッド(1984年版)』なのか。
とっても隙だらけな作品なんだけど
その突っ込む行為すらも含めて楽しませてくれる
割り切りが見事な爽快な一品。
中身なんか要らなかったのさ。
『真夜中のカーボーイ』 1969年
監:ジョン・シュレシンジャー 主演:ジョン・ヴォイト、ダスティン・ホフマン
★★★☆☆
色々あって、田舎からNYに出てきた主人公と
既に都会で疲れ果てている相棒との
何とも言えない貧しく退廃的で明日の見えない日々。
あらゆる都会病と言うか、時代病と言うか
間違いなく1960年代後半のアメリカ映画の一角。
いわゆるアメリカンニューシネマの傑作かな。
この手の作風は、映画として楽しめない事はないのだが
どうしても、肌で直に感じる事ができないのがもどかしい。
劇中、ゲーリー・クーパーや、ジョン・ウェインの名前が出てくるのだが
それが一つの価値観の終焉を現している事は理解できても
決して生の感情が呼び起こされるわけではない。
何の答えも人性のやり直しもあるわけもない中
最後、それでも漠然とフロリダに行きたがる
長距離バスの車内の様子が見ていて本当に辛い。
常時、ダスティン・ホフマンが画面全体に
見事な落ち着きを与えてくれる。
『マルサの女』 1987年
監督:伊丹十三 主演:宮本信子
★★★★★
国税局査察官と、脱税を行う経営者との対決のお話。
コメディタッチとリアルタッチのバランスで
最後まで続く緊張感が素晴らしい。
馴染みのない職業、馴染みのない戦いを描く割に
地味と感じる事は全くなく
逆に、脱税の手法や、捜査方法について
その珍しさから、それ自体を面白く描く事が
一つのエンターテイメントになっている。
基本、社会派と言われるような作風ではなく
そのスピード感と、図太いキャラクター達が魅力だろう。
仕事の鬼の主人公と、息子で悩む敵役との
友情にすら近い関係が実に情緒がある。
『○○の女』シリーズはこれが既に完成形。
『マルタイの女』 1997年
監督:伊丹十三 主演:宮本信子
★★☆☆☆
警察の護衛対象者が「マルタイ」らしい。
殺人現場を目撃した女主人公が
警察に守られながら証言の日までを過ごすお話。
イマイチすっきりしない。
「マルタイ」という珍しい題材は見事だけど
それで何か起こせるかというと、何も無いのが辛い。
もちろん現実には事件が起こる可能性は十分あるが
その行為では面白いドラマにならないよね。
「だけ」と言えば失礼だが、本当に勝手に襲われるだけだからね。
結局は護衛に付いた警察との揉めて理解しての
題材と関係のない人情話に終始してしまうのが
何とも言えず退屈で地味。
導入部分の元ネタや、当時の世相から
てっきり「カルト宗教」自体を題材にした社会派かと思いきや
マルタイという題材が浮いていて、全然噛み合わないのが残念。
『マルタの鷹』 1941年
監督:ジョン・ヒューストン 主演:ハンフリー・ボガート
★★★★☆
サンフランシスコに居を構える私立探偵を主人公に
殺人事件や様々な人物の思惑が絡む、謎が謎を呼ぶ物語。
ボギー式ハードボイルドとしてはNo.1ではないだろうか。
女性との関係において常に主導権争いに明け暮れるのは
どの作品でも同じだがここまで徹底的に隙を見せないのは珍しい。
幻の鷹の彫像を巡って、全人物が少しづつ秘密を保持していて
どこにも超越者が居ないのが緊張感抜群だね。
もちろん主人公も含め誰も最後を予想できない。
基本的には淡々とした進行で
決して弱気にならない主人公を追い続けるキャラクター映画かな。
全編、ハードボイルドな空気に満ち溢れている
雰囲気作りの傑作。
『マルドゥック・スクランブル 圧縮』 2010年
監督:工藤進 主演:林原めぐみ
★☆☆☆☆
殺人事件の被害者になりかけた少女が
擬似の体を手に入れ犯人一派の陰謀を追うSF話。
折角作った設定がチグハグに見えてしまう。
果たしてこの社会の命は軽いのか重いのか。
生命維持云々の設定で世界観を掴みにきた割には
主人公を除けばあまりにも乱暴に人が死ぬ展開。
物語が自身の心の都合だけを延々と垂れ流す
主人公少女の我侭がメインである事も助け
世界全てが彼女一人を成立させるため
後から過保護に設定を付け足されたような
作り物臭さに溢れてしまっている。
この気持ち悪さが常に付きまとう点で
テーマを心に響かせるのは難しいだろう。
また、エンタメとは到底言えない心地が悪い作りの割には
本気で少女の心を描く気もないようで
あまりに都合よく軽すぎるノリも残念。
その上、何のストーリー展開も無い中で
作品がブツ切りで終了してしまう点が救えない。
長尺すぎて分割されるならまだしも
この構成の60分間で一本分の映画扱いとは
あまりにも業界の歪んだ都合が見えてくる一品。
『マルドゥック・スクランブル 燃焼』 2011年
監督:工藤進 主演:林原めぐみ
★★☆☆☆
続編、第二段。
主人公の少女一人の下へ世界の方が勝手に擦り寄ってくる
身も蓋もない物語構造は変わらずだが
それが一番の苦痛となる世界観の導入部分は
前作にて終えているために
まだ楽しめる余地が残る二作目。
基本、語りたがり連中の口にする内容が
哲学的で重すぎる事が問題なのだろう。
せっかくのテーマ性ではあるが
作品としての具体的な表現事例が伴っていないため
どうも、空々しく浮いてしまうんだね。
先鋭化された記号のようなキャラクターが
ただ、各々に都合の良い事を語りたがるという
開き直った姿が続くだけでは、
一本の映画作品としてはどうなのだろう。
ただ、劇中の舞台となるカジノ描写からは
本格的なギャンブル好きの熱意が伝わり
ここがストーリーと密接に絡む分で
辛うじてエンターテイメントが成立しているかな。
三作目を残して
一本分の映画としてまるで成立してはいない問題点は
今更語るまでもなし。
『マン・オブ・スティール』 2013年
監督:ザック・スナイダー 主演:ヘンリー・カヴィル
★★★☆☆
みんな大好き『スーパーマン』を
始まりの物語から再解釈した映画。
今作はクラーク・ケントの人間としての物語だね。
彼がどういう環境で、どういう人間関係の下
どう育つ事で理想の男性像として成立していくのかを
フラッシュバック方式で丹念に描き続けていく。
アメリカの片田舎で両親から注がれた無償の愛情を見守る構図は
もはや半ばカントリー映画であろう。
だが、クリストファー・ノーランのプロデュースの下で
ザック・スナイダーが監督となれば
『バットマン』三部作や、『ウォッチメン』の流れを汲む
DC系映画の集大成を期待してしまう面もあり
その点では、やや物足りなさも残る作りだろうか。
人類とは異質な存在としての自分を
アメリカ社会に置いてどのように観念付けるかは
スーパーマンにとって大きなテーマではあろうが
今作はそこへの踏み込みは控えめで
アクションエンタメ方向に尺を取った印象を受ける。
スーパーマン始まりの物語としてはまず上々な完成度。
ヒューマンドラマとしての堅実さが光り
彼自身の人となりを理解するのに
無難ながらも素晴らしいスタートを切った一本だろう。
なお、ゾッド将軍のつまらなさは健在。
あくまで人間クラーク・ケントと相反する
象徴としての敵役であるが故に
何の人間性もなく、結果個性も無い。
原作や旧映画から再び割をくった形だね。
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』 2016年
監督:ケネス・ロナーガン 主演:ケイシー・アフレック
★★★☆☆
不幸な事件によって心を壊した中年男が
家族ぐるみの付き合いがあった兄の死をきっかけに
その後始末の中で何かを見つけるお話。
何も起らない淡々とした空気が良い。
16歳の甥っ子とのお話がメインになるのだが
基本的に登場人物全員が一緒だね。
互いに気を使い合っている繊細な関係性ながらも
決して自分を抑えきれない生活の中で
少しづつ壊れてきた過去を持つ間柄が切ないわ。
確かにこれは地元には居られんよ。
当然、劇中で描かれた数か月を通しても
彼の心は劇的な回復をみることはないわけだ。
それでも、互いに毒づきながら
どこか心配で寄り添っている人間同士の姿の中には
何かがあるはずだと観客も思いたいのかな。
ダメ人間が多く登場する割に視聴感は決して悪くない。
夏に船で遊び、冬には雪降るマンチェスター・バイ・ザ・シー。
この田舎町の四季風景が見せる情緒の素晴らしさに
ごく狭い人間関係が投影されるマジックだろうか。
描かれる物語とは逆に不思議とほのぼのしてしまう一本。
『マンハント』 2017年
監督:ジョン・ウー 主演:チャン・ハンユー、福山雅治
★★☆☆☆
無実の罪を着せられた中国人弁護士が
逃亡を続けながら事件の真相を追うお話。
『君よ憤怒の河を渡れ』のジョン・ウー監督によるリメイク。
徹底的に荒削りで変な映画なのだが
まるで、情緒と情感だけで生き抜いているような
シーンごとの演出の妙には目を見張る物がある。
意味深で不思議なアップやスローモーションによる拘りが目白押し。
こんな表現をする人は、やはり他には居ないと再確認できる一品。
世界中がパクリまくった懐かしのガンアクションも大量で
この時代のジョン・ウー作品にしてはサービス満点だね。
また、舞台が日本人以外の目から見た大都市大阪という
ある種『ブラックレイン』的な楽しみ方をしても上々。
大規模アクション満載な大作映画の舞台が
現代日本で行われているのは中々目に楽しい。
ただそれだけかな。
元々、オリジナルからしてトンデモ脚本の映画ではあるけど
今作は輪をかけて安っぽい雰囲気になっているのが残念。
細かいパーツが素晴らしいだけに
もう少し、真面目かつ重厚に作って欲しかったね。
ストーリーもテーマもキャラクターも理解こそできるのだが
理解できるだけで感情が全く入ってこない。
日本語、中国語、英語が飛び交う異文化交流も世界観としては面白いが
どれもとってつけたような印象で
主題になっていないのが惜しい。
ラスト、互いの言語をでたどたどしく挨拶を交わすシーンなど
それなりの伏線があれば名エンディングだったろうにね。
ジョン・ウー作品は映像演出はいつも楽しいのだが
やはり、香港特有のロマンみたいなものを抜くと
この手のジャンルでは物足りないかもしれない。
『万引き家族』 2018年
監督:是枝裕和 主演:リリー・フランキー、安藤サクラ、他
★★★★☆
年金や日雇い労働による僅かな収入と
日々の万引き行為を糧にしながら
街の隅でひっそりと暮らす一家のお話。
近年、身近な距離感の作品を続けていた是枝監督が
久々に『誰も知らない』を彷彿とさせるような
真っ当な社会から弾かれた人々を描いた作品。
一見して実に繊細で「良いシーン」の連続ながらも
何とも悲しい疑似家族の物語だね。
微笑ましい風景を見れば見る程に
間違いなく健全な関係ではないであろう
内に抱えているはずの歪みが怖くなってくる一品。
それでも、心の内で皆が依存し合っている歪な関係性は
彼らにとっては大切な物だったんじゃないかな。
皆、品行方正な人生を送ってきた人間ではないし
むしろとっても危ない連中なんだけど
あの時間に見せ合った愛情や優しさ全てまでが嘘にはなるまいよ。
所詮は自分の都合による欲望の捌け口とも言えるのだけど
その二面性は共存が許される物ではなかろうか。
一つの否定が全ての要素を覆うべしという理屈は
どこか人間として空虚ではないのか。
実際、彼らは相応の落とし前を付けさせられるのだが
その反社会性を元に人間としての全てが否定されるならば
本来あるべき世界から外れてしまった人々は
もはや二度と本物でないことを理由に
偽物を求めることすら許されないのか…
既存作品のような淡々とした描写からは少し遠ざかり
コメディタッチとまで言えるエンタメ寄りの空気感の中
理想的な家族の愛情を描きながら
一本、筋の通ったテーマをしっかり堪能させてくれる。
『ミーン・ストリート』 1973年
監督:マーティン・スコセッシ 主演:ハーヴェイ・カイテル、ロバート・デ・ニーロ
★★★☆☆
舞台はニューヨーク、イタリア移民街。
マフィアの下っ端のような生活をする
若者たちが繰り広げる場末の日常物語。
日常なのかな。
厳密に、日常をぶち壊す男の物語だね。
薄汚いヤクザ生活の中でも
間違いなく彼らの華々しい青春には見えるんだけどね。
この主人公はそれで満足はできないんだね。
自らの生活や態度、人生を責め続け
叔父やその他の大人への存在に怯え
贖罪として厄介な友人に振り回され続ける。
彼こそが主人公が描く理想の姿なのは間違いないが
それが破滅への一歩なのもまた間違い無し。
ジョニーボーイは退廃的だが正直者だ。
最後まで主人公は自身を捉えきれない物語だろうか。
120分間、無駄なシーンしかないような
ナンセンスでカルトな雰囲気に
常に包まれきった不思議な映画。
監督も役者も世界観に浸ってノリノリ
ろくな展開の無いままやりすぎだろって一品。
『ミクロの決死圏』 1966年
監督:リチャード・フライシャー 主演:スティーヴン・ボイド
★★★★☆
近未来の発達したミクロ化技術を駆使する事で
重病患者の治療を人体内部から行うSFアドベンチャー。
「ミクロ化」という大嘘を最初に挙げる以外は
全てにおいて徹底した拘りを見せるという
SFの教科書のような映画。
まずは、圧倒的な特撮アイディアと
入念な美術の仕事に驚かされる。
誰もが考えつく古典的なアイディアでありながら
本当に人体内部を活劇の舞台として
真正面から映像化してしまう熱意はさすがに規格外。
次から次へと襲い掛かる不測の事態をどう切り抜けるか。
そんな冒険エンタメ志向の活劇作品でありながも
極々自然に人体の神秘に思いを馳せてしまう
クオリティの高さはお見事。
劇中の台詞にもあるように
まさに宇宙と思わず納得せざるを得ない奇跡の空間であろう。
幻想的な人体内部の描写は一見の価値あり。
小さな小さな舞台装置でありながら
未知の惑星を探索するSF超大作にも匹敵する
何とも贅沢な100分間。
『ミシシッピー・バーニング』 1988年
監督:アラン・パーカー 主演:ジーン・ハックマン
★★★☆☆
アメリカ南部のミシシッピ州で起こった
黒人失踪事件の闇を暴くお話。
個人に罪を求める作品ではないね。
今作は社会全体への罪を求めているのだろう。
街ぐるみ国家ぐるみの犯罪を告発しているのだ。
それは100年来の南部と北部の確執にまで及ぶ話であり
伝統文化や、教義に対する郷土への偏愛であり
時代の変化を受け入れられない人間の業であり
強烈な制裁村社会の恐ろしさでもある。
主人公のFBI捜査官の姿を通じて見える
街の情景だけを武器に
現状の問題点、集団の醜さを浮き彫りにするのが見事で
淡々とした運びからは
野暮で直接的なな主義主張などは排除されている。
映画単体としても一級のサスペンス仕立てであり
緊迫感と共に楽しめるのだが
そこにアメリカ黒歴史シリーズとして
自然と心に何かが残る一本。
君はそれを当然とする風土の歪みに気付けるか
そう問いかける良作だろう。
『見知らぬ乗客』 1951年
監督:アルフレッド・ヒッチコック 主演:ファーリー・グレンジャー
★★★★☆
列車内で偶然に出会った男によって
主人公が殺人事件に巻き込まれるお話。
これは怖い。
全ては「ブルーノ・アントニー」の存在感。
映画史上でも屈指の悪役だろう。
面識もない男に勝手な計画を持ちかけ
一方的に契約成立を思い込む。
妄想に突き動かされて事件を起し
代償を求めて不気味に現れ続ける。
こんな男に絡まれたなら、一体、人はどうすれば良いのか。
何と言っても理屈が通じないのだからね。
白黒映像ならではのメリハリの利いたヒッチコック演出がこれまた怖く
全編が不気味さと圧迫感の塊。
サスペンスの極地とも言えるヒッチコックの傑作映画。
『ミスター・ノーボディ』 1973年
監督:トニーノ・ヴァレリ 主演:ヘンリー・フォンダ
★★★☆☆
伝説の老ガンマンと彼に憧れる若者が繰り広げる
世代交代を描くマカロニウェスタンコメディ。
監督は『怒りの荒野』のトニーノ・ヴァレリだが
原案・製作総指揮はセルジオ・レオーネらしく
音楽もエンニオ・モリコーネ本人
主演にヘンリー・フォンダという豪華すぎる一本。
あくまでコメディ映画として作られており
馬鹿馬鹿しいギャグシーンが小刻みに登場はするのだが
それを彩る映像スケールがあまりに壮大過ぎ
かつ演出もハイレベルに過ぎるため
一体どこまで真面目に受け取るべきなのかと
観客が困ってしまう不思議な世界観の作品。
またフォンダ縁の名作西部劇映画や
レオーネ映画のパロディ描写も目白押しで
明らかに本人の手による演出か、意識されて作られた物だろう。
音楽もモリコーネが新規に作曲したと言うよりは
もはや過去作品のアレンジの領域。
冒頭、主人公が襲撃者を返り討ちにする
イントロシーンだけで実に12分。
ここの空気などまさに『ウエスタン』そのものだね。
西部劇映画への惜別もヘンリー・フォンダへの幕引きも
既に『ウエスタン』で終わっているはずなのに
何故それをコメディ映画でセルフパロディするのか
何とも不思議な悪ふざけが楽しくはある。
劇中に「自ら歴史に幕を閉じろ」という言葉が出てくるように
西部劇の終焉をコメディ映画で撮ろうという
ヘンリー・フォンダへの贈り物みたいな作品なのかな
マカロニ愛へのオマケのような贅沢が味わえる一本。
ある程度の作品を見尽くした後に楽しむのがお勧め。
『ミスティック・リバー』 2003年
監督:クリント・イーストウッド 主演:ショーン・ペン、ティム・ロビンス、ケビン・ベーコン
★★★☆☆
アメリカの小さな街で起こった
少女殺人事件を巡るお話。
少年時代を共にすごした三人の男を中心に
少しづつ、真相が明らかになる展開なのだが
全編を覆う不気味な雰囲気が素晴らしい一本。
皆が皆、本音を隠しながら全てに向き合っている様と
何か一つ喉に引っかかる不確かな言動の数々が
最後まで緊迫感を逃がさない。
ただ、終わってみれば
犯人逮捕への道と個人的な復讐劇の道とが
全く関係ない時系列で進んでいた事になり
密接な絡みを期待をすれば肩透かしかな。
結局は、自分の力を過信しすぎた男が
勝手に暴走しただけのお話になっている。
彼が何もしなければ事件は淡々と解決しただろうにね。
そうとは言え、劇中にもあるように
自身の夫を殺人犯と疑い、果てはそれを他人に漏らす妻など
自業自得に過ぎるし
妻にそうさせた夫もまた同罪か。
他人を信用できず、自身すらも信用しない者達の結果として
この後味の悪さは必然なのかもしれないね。
圧巻の密度で描かれた渾身の不条理映画。
あと少年性犯罪ダメ、絶対ダメ。
『乱れる』 1964年
監督:成瀬巳喜男 主演:高峰秀子
★★★★☆
スーパーマーケットの躍進に寂れゆく商店街を舞台に
戦争で夫を亡くしてからも家につくしてきた未亡人と
遊び人の義弟とが奏でる物語。
この関係性は悲しいな。
あれだけ夫が残したお店に人生を捧げてきたはずが
終戦から18年も経ち、ふと気づいてみれば
家族の誰一人として、自分のことを身内と見てくれていないではないか…
感謝はされているし、功績も認められている。
もちろん嫌われているわけでもないのに
結局はそうなっていくあたりがリアリティ抜群。
これは「嫁」とは何ぞやだね。
特に子供を産むことができなかった女の話で
個人とは何ぞや、家とは何ぞやでもよい。
1964年公開時と現在では大いに状況は異なるはずだが
どうも、日本における根っこの感情は成長していない気がするよ。
個人商店の時代が終わろうとしている時代背景は
彼女が大切にしてきた昔ながらの価値観が取り残さていく情景との
綺麗なオーバーラップを見せる。
また、加山雄三の浮世離れした朴訥な雰囲気と
感情豊かな高峰秀子の存在感も抜群の噛み合いで
この人間味が薄い弟の軽さと、姉さんが語る人生訓の重さが
実に良いコントラストとなっている。
このお姉さんはとっても気丈で美しいんだけど
どこか人間としては重くて苦手だな。
人は何を幸せと感じれば良いものかね…
今作は、そんな大仰なテーマになりそうなお話を
義姉と弟の不義理な恋愛というメロドラマ風味の味付けで
きっちりエンタメに落とし込んでくれる。
さすがの職人芸、これでいて非常に見やすい映画なのです。
最後の展開は何を意味しているのだろうかね。
ただの一瞬でも女であろうとしたことへの罰か
それとも逆に本心を殺しすぎたことが罪か。
一寸先はどうなるかわからない人生の真理か。
はたまた嫁ぎ先で過ごした18年間の清算の象徴なのか。
『道』 1954年
監督:フェデリコ・フェリーニ 主演:アンソニー・クイン、ジュリエッタ・マシーナ
★★★☆☆
大道芸で身を立てる一人の男と
彼に助手として買われた少女との旅道中。
二人の間に存在する絶妙な距離感を描く物語。
関係性が全てだろうね。
お前ら好き合ってるんじゃないのかと言えば
あまりに短絡的なお話になろうが
広義の意味では、間違いなくその通り。
ただ、個々人によってそれに伴う言動は複雑怪奇であると。
こういう暴力男は居るよね。
短絡的で、思慮が足りず、癇癪持ちでね……
ただし、接し方を知らないだけで、確実に優しさは持っている。
こう書くと女性が引っかかる駄目男の典型なんだけどね。
そんな男からどうしても離れられない少女にすれば
相応の魅力を受けてしまったという事になろうか。
人間が必要とされたいと願う心は不変でしょうね。
人と人が出会って相応に感情を持ち合って
世の中の色んな部分を見られてさ。
最終的に裏切られた形にはなっているけども、
そこに至る道中にまで、彼女に幸せがなかったとは
ちょっと言いたくないんだよね。
そんなお話。
映像的な芸術性と言うよりは、
あくまで人間の心を見続ける一品だろうか。
自身の状況や重ねた人生に応じて、
何度見ても感想が変わるタイプの作品かな。
『未知との遭遇』 1977年
監督:スティーヴン・スピルバーグ 主演:リチャード・ドレイファス
★★★☆☆
地球外と思われる未知の物体と遭遇してしまった人々が
望む望まないに関わらず巻き込まれていくお話。
地球外生命体に対するロマンだね。
常にその手の事を考えているならば、これほどワクワクする話はない。
あっても不思議じゃないと思える絶妙な導入が良い。
映画としては、後半まではサスペンスのノリで
その無謀とも思える暴走の着地点を予想するだけで気が抜けない。
ラスト30分は、特撮としての映像美が素晴らしく
また展開上、いつEDロールに突入してもおかしくないという点で
不思議な緊張感に包まれる。
一体、何処まで続くのか、何処までやってしまうのか
全く油断ができない。
視聴中はやや冗長に感じる展開だが
いざ終わってしまえば、全てのシーンが印象に残っている事に気付く。
どちらかと言えば問題作、語り草になるタイプの映画。
『ミッキーの子沢山』 1931年
監:ライリー・トムソン 主演:
★★★☆☆
当時、既に数十本も製作されていた
ミッキー短編の中の一本。
ミッキーがクリスマスの夜に玄関に捨てられた
たくさんの猫の子供を預かるお話。
猫たちが家の中をハチャメチャにして
暴虐の限りを尽くすお話で
ちょっと破壊的にすぎて逆に笑える一本。
BGMリズムと猫たちの悪戯行為のアニメーションが
完璧なタイミングでリンクしていく
一種のミュージカル映画として楽しめる。
テンポ満点でとっても心地良い10分間に
定番のクリスマス曲も聞ける贅沢さ。
『ミッキーの誕生日』 1942年
監:ライリー・トムソン 主演:
★★★☆☆
ドナルドダッグやグーフィーも登場して
ミッキーの誕生日を祝う
オールスターな全編カラー映画。
とってもモダンな音楽に乗せて
ミッキーがタップダンスまで見せてくれるという
1942年らしいさすがに時代が進んだ一本。
音楽に合わせて仲間たちが延々と踊っている映像的な楽しさに加えて
隣の部屋では別の話として
何度やっても誕生日ケーキを焼き損なってしまう
グーフィーのおバカな姿が繰り返されるという
笑えるアイディアが並行されて描かれる。
10分程度の短編は変わらずなのだが
映画作品としての密度はもう初期とは比べ物にならないね。
『ミッション:インポッシブル』 1996年
監:ブライアン・デ・パルマ 主演:トム・クルーズ
★★★☆☆
何者かにハメられ裏切者の嫌疑をかけられた
CIAスパイが自らの汚名を晴らすため戦うお話。
王道すぎるストーリーの割には
意外とトリッキーな映像で楽しめる一本。
不思議な構図、カット割、そして大作然とした大掛かりな映像など
視覚からは決して飽きさせない。
特にオリジナル作品の雰囲気を残しつつの
荒唐無稽な未来式の小道具や美術セットが見事で
そこに現代アクションのスタイリッシュさが
綺麗に混ざる世界観の不思議さが心地良い。
中でも「CIA本部」と言い張る
白塗りの館のインパクトはとっても面白いね。
そんな馬鹿な。
基本はトム・クルーズの二枚目優等生っぷりを追うだけでも
十分楽しめる普通の映画です。
ラスト対決シーンはギャグですよ、ギャグ。
「列車の上」というスパイ映画お約束シーンへの
現代的なパロディと見たけがどうだろうね。
『ミッション:インポッシブル2』 2000年
監:ジョン・ウー 主演:トム・クルーズ
★★★☆☆
生物兵器に絡む闇取引を阻止する作戦にて
イーサン・ハントチームが活躍するお話。
スパイ物として、十分な満足度が得られる一本。
主人公が挑む様々な作戦や、変装、お馬鹿アイテムの楽しさ
明確なチームメンバーの活躍、そしてヒロインによる二重スパイの緊張感。
前作に続き、そのイメージはあくまで現代的でスタイリッシュ。
スマート体系なトム・クルーズによる肉体派アクション作品だよ。
今回、元作品へのオマージュは控えめながらも
まさかのジョン・ウー監督起用。
おかげでバイクの乗り方から、銃の撃ち方までが
一々、ケレン味たっぷりにカッコいい。
演出から画面に引き込ませる力は天下一品。
もちろん鳩も登場するサービスっぷり。
さすがに本来の持ち味である哀愁世界は感じられないが
そこはMI。
ブランドの持つ本来の魅力と、綺麗に折半といったトコロだろう。
平均的な楽しさを提供する理想的なコラボレーションになっている。
前作とは全く違う方向性に冒険をしつつも
エンターテイメントにだけは拘った見事な続編。
『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』 2011年
監:ブラッド・バード 主演:トム・クルーズ
★★★☆☆
イーサン・ハントが活躍するスパイアクションシリーズ第四段。
初作品から15年以上を経てなお勢いを失わない稀有なシリーズ。
荒唐無稽なお馬鹿展開、お馬鹿アクションの連続に反して
映し出される映像は徹底的にスタイリッシュ。
この不思議な融合に、体を張ったトムクルーズの存在感が加わるだけで
全てが許されてしまう
約束された大作として完全に昇華されたブランドだろうね。
例によって、ストーリーは古臭い核戦争勃発陰謀という実に退屈な代物。
ところがこの古き良きノリに
如何にテンポとアイディアで現代チックに装飾できるかの追求で
何とも心地よいエンタメ映画になるのだから大した物。
特にドバイの超高層ビルや、ムンバイの最新立体駐車場など
一般人からすれば、既にSFの世界ではなかろうかと思える
アクション舞台への目の付けどころは見事の一言。
むしろ最先端な仕掛けを際立たせるため
敢えてのクラシックストーリー仕掛けなのだろう。
『ミッション: 8ミニッツ』 2011年
監:ダンカン・ジョーンズ 主演: ジェイク・ジレンホール
★★★☆☆
車内で目が覚めてから列車が爆発するまでの8分間を
延々と繰り返させられる謎の男の運命を追うお話。
主人公が劇中においても
何度も何度もパラレルワールドの8分間をやり直す事で
ifの道筋で爆弾犯人を探し出すというアイディア勝負の映画。
しかし、思った程に仕掛けの多い作品ではなく
どちらかと言えばドラマ重視の作風だろうか。
その分、設定から世界観、物語の導入は強引の一言で
頭を捻らす作品を期待して見るならば
やや肩透かしを喰らうだろう。
しかしこの映画は大型作品でもなければ
ミステリー映画でもない。
あくまで小粒なサスペンス映画なのだと早めに気付ければ
話自体は綺麗に纏まっており100分弱という短い尺もプラスに働く。
ドラマ重視と割り切る事で
主人公とヒロインの行動にも飽きは来ないはず。
希望が持てるオチも良いし、SF作品としても問題はなく
とにかく軽い気分で楽しめる佳作だろうか。
『三つ数えろ』 1946年
監:ハワード・ホークス 主演:ハンフリー・ボガート
★★★☆☆
人探しの調査以来を受けた私立探偵が
殺人事件に巻き込まれるお話。
全編が霞がかったような怪しげな空気の中
謎が謎を呼ぶジェットコースター展開が
延々と連続していく不思議な一品。
まず登場人物が多すぎ入れ替わりすぎで
皆が皆、腹に一物で正直に物を言わないのだから
話が混乱するのは当たり前で
観客としても全く落ち着く暇もない。
そんな中に強い女性像とさらに強い男性像による
危険なラブロマンスまで盛り込まれては
もはや雰囲気に酔って楽しむ以外に
観客にどんな道が残されていようか。
感情に訴えるような人情展開も皆無に
淡々と物語が進む様は、まさに構造自体がハードボイルドであろう。
それが不思議とカッコイイのだから
最早、何を突っ込むのも野暮である。
一級の雰囲気芸、ボギー流ハードボイルドの代表作。
『ミッドナイト・イン・パリ』 2011年
監:ウディ・アレン 主演:オーウェン・ウィルソン
★★★★☆
小説家を目指す三文脚本家が
憧れのパリで、魅惑の1920年代に迷い込み
人生を見つめ直すお話。
美しい。
ただただ、この一言に集約される映画。
主人公が迷い込む1920年代パリは当然としても
現代、2010年代の街並みも十分に見事だろう。
やはり芸術の都は何かが違う。
一発でこの街への憧れを沸き立たせられる
圧倒的な映像、音楽センスに満ちた一本。
登場する歴史的な芸術家たちの言動は
どれも楽しさ満点で、
ちょっと不思議で、ちょっと小粋で、そしてちょっとだけほろ苦い。
そんな人生訓までをもライトに楽しめる。
全てが高レベルに纏まった小粒な傑作映画。
『緑の館』 1959年
監:メル・ファーラー 主演:オードリー・ヘプバーン
★★★☆☆
革命運動に燃え、一時的に南米の奥地へと身を隠しにきた青年が
原住民から魔女と恐れらる美女と恋に落ちるお話。
銀幕の妖精が、本物の妖精役なのか。
森の奥地で祖父と二人、ひっそりと隠れ住む神秘的な女性。
ある意味ではハマリ役だろうね。
ただ二人の恋愛を描く作品と言うよりは
これはギアナ密林観光映画ではないだろうか。
熱帯植物に包まれ、周囲は不思議な生物で満ち溢れ
空前絶後の大滝の映像に息を飲まされ
そして原住民の信仰や、野蛮(?)な慣習に驚かされる。
大量の蜂を胸に押さえつけて
一番長く耐えられた男が勇者ってね。
そんな密林描写を楽しむ作品としては完璧ながら
基本ストーリーはいまいち掴み所がない。
そもそも、何故この妖精さんが青年に惚れたのか。
彼女はどういう人間なのか。
全てが唐突で、行き当たりばったり。
祖父の抱える過去の重みに、多少の心は打たれながらも
あまりに彼女の神秘性に全てを託しすぎた単調な展開
そして原住民サイドで展開されるドラマの浅さに
どーも退屈な印象の方が強くなる一品かな。
『みなさん、さようなら』 2003年
監:ドゥニ・アルカン 主演: レミー・ジラール
★★★★☆
死を間近に迎えた破天荒な父親が
確執のあった息子に最高の舞台を用意され
緩やかに見送られるお話。
死は誰にも平等に訪れる物。
ならばそれをどんな形で迎えられるかは
ある意味で人生の証なのかもね。
自身が世の中に残してきた爪跡に比例して
何かが起こって欲しいと願う心は
人間として永遠のロマンだろうか。
主人公は人生を迷惑のかけ通しで
好き勝手に進んできた駄目老人だが
いざ死を迎えるにあたっては
立派に育った息子に助けられ
愛し合った妻や愛人と語らい
共に時代を生きた友達に囲まれる事になる。
果ては旅立ちの道中で、
一人の麻薬中毒者をも救えたかもしれない。
これだけの人間が集められる時点で
既に答えは出ているのだろう。
恵まれすぎた男の臨終活動を見せられるだけと言えば
それまでの作品なのだが
フランス系映画ならではの理屈っぽさが心地良く
何度も繰り返される暗転による場面転換では
一瞬の闇の度、ふと人生を考えさせられてしまう。
終焉を見ていたはずが
気づけば少しだけ元気を貰えてている。
そんな不思議な一本。
『ミニヴァー夫人』 1942年
監:ウィリアム・ワイラー 主演:グリア・ガースン
★★★☆☆
二次大戦に突入したイギリスを舞台に
戦時中のある中産階級一家の姿を描いたお話。
つまりこれが最も理想的とされる
イギリスの中産階級の姿という事なのだろうね。
家族を愛し、国を愛し、隣人を愛し、自由を愛し、抵抗を惜しまない。
紛う事なきプロパガンダ映画の範疇なのだが
仮に何十年経ってから見ても
十分なヒューマンドラマとして成立しているのだから見事。
むしろ古き良きイギリス中産階級に憧れすら抱ける代物。
この時代の米英映画は品が違うんだよね。
プロパガンダだからと言って
大衆の読解力を馬鹿にしたような程度の低さが無い。
体制の外から見ても、決して滑稽にならないあたりに
映画製作側の能力の高さを見せ付けられる。
お話はそこまで面白い物ではないのだが
テーマがはっきりしている分、完璧に近い一品。
『壬生義士伝』 2003年
監:滝田洋二郎 主演:中井貴一
★★★☆☆
年老いた斎藤一が苦々しく振り返る
ある新撰組隊士のお話。
主人公のキャラ造形が素晴らしい。
使命に燃えて、若さにも溢れ、何より狂気に満ちた斎藤一と
あまりに対照的な金に汚い田舎侍の主人公。
のらりくらりとした圧倒的な存在感に一発KO。
幕末京都の浮き足立った描写が
逆に彼の存在によって際立ち、思う存分に堪能できる。
反発の連続の中にいつしか生まれる男の友情。
丁寧でキャラクターが面白ければ、こういう掛け合いは大好物。
彼の生き様に人生のあり方を見るのも良いだろう。
ただ、終盤がくどすぎるのが残念だね。
せっかくのクライマックスと言える場面に対し
飽きれる長尺割きと壮大なBGMの多用によって
ここまで盛り上げよう、盛り上げようと努力されると
逆にテンポの悪さだけが目立って冷めてしまう。
このあたりは、滝田洋二郎監督の得意技なのでやむなしか。
『耳をすませば』 1995年
監:近藤喜文 主演:本名陽子
★★★★☆
中学卒業後の進路と毎日の生活に悩む
少女が体験する出会いのストーリー。
ジブリのマイベストはコイツ。
淡い青春物、爽やかストーリー。
夢見がちな妄想女の子を主人公にして
オットコマエな恋愛候補男子と、自分を好いてる逆方向男子を完備。
そこに、当面の進路、将来の夢、現実生活のストレス
全ての中学生における淡い要素が爽やかに詰まっている。
夢の自転車二人乗り(坂上り)シーンもあるぜぃ。
客観的に見れば、何も変わっちゃいないんだけど、
本人にとっては大切な大きな一歩を踏み出したんだな〜という
日本人における思春期映画の傑作ではなかろか。
『宮本武蔵』 1961年
監:内田吐夢 主演:中村錦之助
★★★☆☆
東映が中村錦之助主演で送る
剣豪、宮本武蔵の生き様を描く連作映画。
吉川英治の原作をベースに作られた序章で
今作は主に武蔵と沢庵和尚との問答が中心となる。
当然、作品全般としては地味な展開なのだが
中村錦之助の特徴ある甲高い声と
三國連太郎の存在感との相性は抜群で
結果、武蔵の若さが強調される演出が見事に完成している。
名優の掛け合いはそれだけ幸せになれるね。
ただこの説教シーンの見事さとは裏腹に
結果、武蔵が学問に目覚めるまでの描写は薄く
脚本自体はいまいち弱めの作品だろうか。
またヒロインとの恋愛模様も
あまりに、古臭く形式ばっていて
無味無臭の掛け合いに魅力は感じられない。
悪い意味で典型的な時代劇にすぎる。
剣戟シーンは冒頭に少々挟まるのみだが
ここは屋内でありながら妙に広々とした印象を受ける
独自の撮影が光り中々に爽快。
この点、次作への期待をもたせる分には
十分な役目を果たす一作目。
『宮本武蔵 般若坂の決斗』 1962年
監:内田吐夢 主演:中村錦之助
★★☆☆☆
東映武蔵の二作目。
吉岡清十郎との出会いから
宝蔵院との闘いまでを描くお話。
前作から感じた、脚本の弱さが如実に出てしまった一本だろうか。
とにかく武蔵自身を始めたとした
キャラクターの個性が掴みにくい。
ただ劇中に登場するために登場するような人間に
どうして胸を躍らせられようか。
吉岡清十郎はもちろん、宝蔵院胤舜や、本位田又八
ヒロインのお通さんですら無味乾燥で
途中で眠くなってくる。
果たして、武蔵は一作目から何を悟ったのか
また現在は何を目指しているのか。
人間的に成長しているのか、いないのか。
ココが曖昧なまま、宝蔵院にて日観和尚に説教をされた所で
観客は彼から何を得ればよいのか。
和尚の語る哲学が作品の締めとなる作りだが
いまいち画面の外までは響かない。
剣戟シーンは終盤の般若坂での大乱闘。
明らかにクライマックスはココだとわかる構成だが
こちらも一作目に感じたセンスは薄めで
爽快感はありつつも浮いている感じがする。
時代の最先端であろうスプラッター美術も
凄いには凄いがやや空回りな印象を受けてしまう。
少々、先行きに不安を感じた第二段だろうか。
『宮本武蔵 二刀流開眼』 1963年
監:内田吐夢 主演:中村錦之助
★★★☆☆
東映武蔵の第三作。
柳生の里のエピソードから
京での吉岡清十郎との決闘を描くお話。
没個性に終わった前作から一転
キャラクターの魅力がノリに乗ってきた三作目。
勝利へのギラついた野心に満ちた武蔵を始め
名門の子に生まれついた尊厳と悲哀
人間的な弱さを隠さない吉岡清十郎の存在感。
そして、圧倒的な自信に包まれたイケメン佐々木小次郎の登場と
タイプの違う剣豪達が暴れまわる物語の密度は
一気にクライマックスへ。
争う必要など本来は何処にもないだろうに
それでも意地とプライド、果ては人生の意義までをも賭け
自ずから対立してしまう彼らの男臭さが
画面狭しと伝わってくる緊迫感。
果たして彼らの行き着く心の境地とは。
思う存分に時代劇が堪能できる中盤要の一作品。
お通さんだけは相変わらず……
『宮本武蔵 一乗寺の決斗』 1964年
監:内田吐夢 主演:中村錦之助
★★★★☆
シリーズ四作目。
吉岡一門との最終決戦を描く。
様々な出会いと説教を経て
なお、武蔵の修羅が極まっていくお話。
頭首を討ち、その後継者をも討ち
勝利を掴むたび、むしろ敵の恨みは増えていく。
届いた果たし状の先にあるのは、そこに端を発するもう一枚の果たし状。
まさに、無限地獄と言えようか。
だが一たび剣の道を志したからには
その地獄を突き進むしかないわけだよね。
それが嫌ならば敵に命をくれてやるしかないわけだ。
命のやりとりを至上の価値としているのは結局はお互い様。
剣をもって名を成し、栄達を成し、人生訓としてきた者達に
どうして今更、武蔵を非難できようか。
尺も128分と長めに取られており
アクションも、ドラマも、哲学もと欲張った一品。
映像面すらも広々と自由自在。
幻想的で不思議な美術から、あまりにも泥臭い決戦の大舞台まで
その世界観は幅広く4作目にして最も観客を飽きさせない
特にサービスに満ちた良作。
『宮本武蔵 巌流島の決斗』 1965年
監:内田吐夢 主演:中村錦之助
★★★☆☆
シリーズ完結編。
佐々木小次郎との決闘を描くお話。
前作のラストを経て
やや、修羅の道に辟易としていた武蔵ではあるが
長年の宿怨を持つ小次郎からの果たし状とあれば
そこは立たざるを得ない。
平穏な暮らしを捨て去り
再び剣で殺し合う世界へと舞い戻る。
武蔵の心境はやや難解。
お通さんに、武士の道は捨てられないと訴える姿もあれど
本心では小次郎との殺し合いなど
もはや望んではいなかったのではなかろうか。
あれ程、勝利への執着、剣へ価値に執着を見せていた彼が
決闘後「剣はただの武器か!」と投げやり気味に呟く様は
シリーズ5作を通して見てきた身には感慨深い。
全体通しては、やや展開を詰め込みすぎな小走り感もあれど
初作から続く恒例のお婆旅すらもゴールを迎え
全ての物語に相応のエンディングが用意される。
空前の大作シリーズの終焉として
きっちり締めきった安定の完結編が楽しめる。
『ミリオンダラー・ベイビー』 2004年
監:クリント・イーストウッド 主演:クリント・イーストウッド、ヒラリー・スワンク
★★★★☆
どこか影のある老いたボクシングコーチと
ボクシングだけが人生の楽しみだという
30歳すぎでデビューする女性ボクサーとのお話。
イーストウッド監督作品は時が経つのが早い。
先へ先へと展開が気になり、気付くと終盤まで進んでいる。
まずこの密度が凄さだろうか。
人生に深みのある爺さんが登場して
弱さも強さも合わさったその哀愁を少しづつ漏らしていく。
対する若者は、爺さんに育てられるだけではなく
逆に爺さんの足りない物を明確に示してしまう。
この描写の説得力に参ってしまう。
結局、過去に犯した後悔は消えないのだが
決してそれが未来を奪うわけでもないのだ。
そして、精一杯に充実した人生を送る事の素晴らしさ。
こういうテーマ性の非常に強い作品は好み。
車田正美の「リンかけ」かと思ったよ。
幸せとかそういう安い言葉では語れない
それぞれの人生の力強さを感じられる名作。
『ミルドレッド・ピアース』 1945年
監:マイケル・カーティス 主演:ジョーン・クロフォード
★★★★☆
娘のためにすべてを捧げた女の
殺人に纏わる悲しお話。
一見すれば、専業主婦から一人で娘を育てるために
ウェイトレスとして働きに出て
次第にやり手経営者として頭角を現し
社会的な成功を収めきった女の単なる思い出話だよ。
しかしその実、彼女自身が全く幸せになれていないのが切ないね。
理想の娘を育てることに躍起になったせいで
育った娘に全てを狂わされる。
成功者になればなる程、その娘からの視線は悪くなる。
その過程で知り合った男に巻き込まれて
最悪の結末を迎える後味の悪さは凄まじい。
とにかく娘が最悪の人間なんだけど
結局、その娘を生み育てたのが自分であるという負い目と
無償にすぎる愛情とが母親の抱える弱みなのかね。
ジョン・クロフォードがあまりに強く
同時にあまりにも弱い女を完璧に体現している。
彼女の愚かしくも凛々しい姿だけでノックアウト必至の一本。
また1945年公開作品の世界で
このオシャレっぷりは度肝を抜かれるね。
ハイソな女達のファッションセンスはもちろん
歩き方、何ならタバコの吸い方一つとっても
実に堂々としたものでカッコいい。
アメリカは凄いわ。
これだけのテーマ性と世界観が描かれる中で
ちょっとしたミステリーも楽しめてしまう
とっても豪華な傑作映画。
『魅惑の巴里』 1957年
監:ジョージ・キューカー 主演:ジーン・ケリー
★★★★☆
巴里で活躍する女性ダンサー三人が語る
自殺未遂事件の真実を巡るお話。
所謂、映画『羅生門』式の構成で作られた
女性達の恋の駆け引きの物語。
舞台はパリ、しかもショウビズ世界
中心人物はジーン・ケリーのMGMミュージカルと来れば
法廷証言劇とは名ばかりの
とってもオシャレで、ウィットに富んだ一級コメディに決まっている。
女性達から語れる恋模様はどれもハードな物ながら
その空気はどこかお気楽で品が感じられる。
三者三様の証言による食い違いストーリーも
掴みとして置いてはあるが
あくまで主役は俳優、演劇、エンタメなのだと
開き直って主張してくる軽快に楽しめる一作。
『ミンボーの女』 1992年
監:伊丹十三 主演:宮本信子
★★★★☆
ヤクザの「民事介入暴力」略してミンボー。
この専門家の女弁護士を主人公にして
カモにされているホテルが一丸となって立ち向かうお話。
これは爽快な一品。
恐ろしい物、わからない物に対する恐怖は当たり前。
しかし、それを惰性と妥協で成立させてしまう事の駄目さ。
弱い心と覚悟の薄さこそが全ての悪であり
要するに気張れというテーマ。
女主人公のアドバイスや、その専門的な対策法を軸に
ホテル従業員の立ち向っていく心に癒される。
コメディタッチの作風は変わらずに
描写云々ではなく、あくまで不条理に対して
文明と勇気で挑むスタイルがドラマとして大傑作。
作品の完成度は前作が上かもしれないが
宮本信子の格好良さはマルサを上回るね。
『ムーランルージュ』 2001年
監:バズ・ラーマン 主演:ユアン・マクレガー
★★★★☆
男と女の恋愛物語。
現代映画のミュージカルだ。
舞台は舞台でミュージカル文化は永遠だが
いまさら、映画で一般に売り出すには
このくらいは必要という洗練された映像作品。
楽曲は現代的な物ばかりでCGも使いまくり。
ストーリーも十分にあって
悪乗りセンスも適度に下品で抜群。
それでいて映像は大掛かりで豪華絢爛。
美しさよりは派手さが重視のインパクト作品だろう。
マニア評価だけでは決して留まろうとしない
とっても意欲的な切り口を見せてくれた2001年のミュージカル映画。
『ムーンウォーカー』 1988年
監:ジェリー・クレイマー 主演:マイケル・ジャクソン
★★★☆☆
普通の映画ではないよ。
マイケル・ジャクソン(アルバム:BAD)のPVであり
それ以上でもそれ以下でもない。
いや、MJ風に"ロング"フィルムと言うべきなのかな。
つまりは、劇場で音楽映像を流すだけで
それが既にエンターテイメントとして成立してたという点で
マイケルの凄さが際立つ作品でもあるね。
彼がノリにノっていた時期の圧倒的な存在感に酔いしれるべし。
長らくスムーズクリミナルのフルバージョンは
この映画のソフトでしかみる事ができなかったのさ。
『ムーンライト』 2016年
監:バリー・ジェンキンス 主演:アレックス・ヒバート、アシュトン・サンダース、トレヴァンテ・ローズ
★★★☆☆
一人のアメリカ少年の成長を追うお話。
黒人で、スラム街で、片親で、母親は薬中で
身体に軽いコンプレックスがあって
その上でゲイでもあるという
ハネ満確定、時代の象徴要素を全て乗せきった
やりすぎ設定で繰り広げられる人生物語。
当たり前のように、いじめられた少年時代をすごすわけだ。
但し、今作の展開はさほどクドくはない。
ココまでの主人公像を作っておきながら
これみよがしなシーンは出てこない。
具体的な「悪」が叩かれるでもない中で
ただただ淡々と何かを訴えかけている世界観に
静かな熱が通っている事だけが伝わってくる。
道中、下手をすれば友情物語に見える瞬間もあり
人間の逞しさを描く流れかにも思えてくるのだが
どうもそこまでは甘い作品でもないようだ。
一体、どんな着地をするテーマなかと訝しむ中、
そのままラストのワンカットを残し物語は終焉を迎える。
小さなガキの頃の決定的なイメージは
いつまで経っても人間の心に残り続ける。
良いか悪いかは関係なく人生を支配する事を
自身の記憶と共に思い出さざるを得ないだろう。
人生は本人の物だが、幼少期の環境を与える側の責任はあるだろう。
許されるならば良い思い出を残したいものだね。
『無限の住人』 2017年
監:三池崇史 主演:木村拓哉
★★☆☆☆
両親の仇討ちを志す少女の願いを不死の侍が助力する
アクションファンタジー時代劇。
とっても有名なアクション漫画を原作にした実写化映画だが
エンタメ邦画の悪い部分が全て凝縮されたような一品だね。
何よりも、台詞回しやキャラクターの味付けがあまりに安く
見ているだけで気恥ずかしくなってしまうのがマズイ。
多くの登場人物は映画に登場することだけが目的で
まるで学芸会の台詞を割り振られた子供かのように
次から次へと出番だけ貰っては意味もなく画面から消えていくだけ。
一切、真っ当なドラマも人間性も描かれずに
ストーリーだけが進む映画は辛いに決まっている。
そんな作品のクオリティや志に反して
謎に豪華な出演陣がかえって空回りの雰囲気に拍車をかけている。
監督ツテなのだろうかこの役者の上手さが一周して
ジョーク演出に映ってしまう始末の悪さがあるね。
元々、人間よりはアクションの描写に優れた原作ではあるが
この点でも単調でカタルシスの無い演出が続き
本来の魅力に一つも届いていないのが処置無しだろう。
期待ゼロの作品ならば相応に派手なシーンも存在するのだが
この原作にして、木村拓哉の主演作品というコンテンツにしては
ややハードルを超えたとは言い難いと思われる。
潤沢な予算は無いのだろうが、半端な予算はあるという
不思議な一点豪華主義が所々に混ざるのがまたアンバランス。
唯一の見所は、キムタクの存在感。
このコスプレ風味全開の世界観で
なぜか違和感無く画面に存在できているのは見事の一言。
不死の隻眼侍、主人公の万次のキャラクターという
非現実めいたスター感をいともたやすく出せるのは
平成時代のスター俳優では彼だけだろう。
恐れを知らずにどんな仕事も請け続けるる三池崇監督の
悪い部分だけが出た形の良くある映画。
『息子の青春』 1952年
監:小林正樹 主演:北龍二
★★★☆☆
高校生の息子二人が送る青春模様を
両親の視点から描くお話。
厳格な父親、優しい母親、甘えたがりの息子二人。
兄貴は二枚目で色気づき、弟は質実剛健で喧嘩っ早い。
二人とも両親が大好きで、両親も二人の息子を愛している。
放任主義の父親に、干渉型の母親という方針の違いもありつつ
夫婦仲はもちろん超良好。
あまりにも立派で平和な家族像を見せられて
笑ってしまうしかなくなる一本だね。
そこで繰り広げられる会話も
髪を伸ばす是非がどうの、ポマードがどうだの
ガールフレンドがどうの、誕生会がどうの
デートに背広を仕立てるのがどうの、銀座の高級レストランがどうの……
果てしなくどうでもいい初々しい思春期エピソードが続くだけ。
この幼稚さと素直さで18歳と16歳は嘘だろうよ。
一家は上流階級という程では全くないのだが
庶民としては実に裕福な良家子女の姿がそこにある。
何せ、誕生会ホームパーティに招待されたガールフレンドが
彼氏への御礼で両親から預かった物が歌舞伎座チケットですよ。
一体全体、世のどこにそんな善意だけの世界が存在したと言うのか。
一々、言葉使いにもインテリジェンスが見え隠れ。
挙句の果てには友達の親父として笠智衆が登場して
父親とはかくあるべきとのご高説を垂れるわけだ。
全てが甘っちょろすぎて目を覆うレベルだろう。
しかし、これだけ幸せな家庭を築けるのであれば
そりゃ結婚して頑張って働こうという気にもさせられるよ。
一つの目指すべき社会理想像を見せつけるという意味で
1952年公開の今作が見せる敢えてのテーマ性があるのだろうか。
ある意味で凄まじく尖った映画にも思えてくるから不思議。
これが小林正樹監督のデビュー作とは衝撃だけど
こういうジャンルとして割り切るなら
確かに無駄の欠片もない完璧と完成度の一本です。
何せこれだけのお話の映画が十分に面白いからね。
あと『人間の條件』『切腹』ではさほど気付かなかったが
(兄貴役の)石浜朗はイケメン俳優だったんですね。
『無法松の一生』 1943年
監:稲垣浩 主演:阪東妻三郎
★★★☆☆
下記作品のオリジナル版。
当方、こちら側を後に見ました。
終盤までのストーリーは完全に同一。
ほぼ、同じシーン、同じ構成で進む物語ながら
主演の阪東妻三郎が素晴らしいね。
如何に松五郎が、その名の通りに無法で
かつ真っ直ぐで情に熱いか。
この生々しい人間臭さは圧倒的に今作が上。
1958年版も素晴らしいが、比べれば三船敏郎はカッコよすぎるのか。
尺は短めながら
どのシーンも非常に綺麗な映像でテンポよく引き締まって
とっても情緒溢れる世界が直に楽しめる。
時間の経過を車輪で現す演出も、ラストの過去を振り返る映像も
とにかく自然な流れの中に挟まるのが粋なのです。
押し付けがましさが無いのが良いのだろう。
ただし、ラストに繋がるお話は
あまりにも急ではないだろうか。
無法松の心も、奥様の心も、あれでは何の契機も見られないよ。
お祭りで太鼓を叩く段階で
既に奥様と会っているシーンはないわけで、
いつ、自身を戒めたのかという事が全くわからない。
直接的に描かない情緒もあろうがこれは少し違うよね。
事情によりカットされたという話も聞きますし
作品としては素直に1958年版が完全版で良いと思います。
『無法松の一生』 1958年
監:稲垣浩 主演:三船敏郎
★★★★☆
明治末期〜大正初期。
誰よりも喧嘩っ早い人情家
小倉の荒くれ車曳き無法松を主人公に
ある大尉さんの未亡人と息子の成長を見守るお話。
何よりも無法松のキャラクターが良い。
彼の純粋さ、淡すぎる恋心が素敵だよ。
心の底から子供の事が大好きで、
奥様の家に通う事が楽しみで
そんな彼の秘めた思いを一体誰が責められようか。
それが、少しでも抑えきれなくなった時点
奥様を前にして平静が僅かでも装えなかった時点で
彼の中ではもう終わるべき事なんだな。
身分の差はもちろんなんだけど
本質はそうではないはず。
旦那さんの写真の前で謝るのが無法松でしょう。
この綺麗すぎる恋心を圧倒的な情緒でお送りする一品。
当時の小倉の生活文化はもちろん
人力車の車輪で進む演出が美しすぎる。
江戸っ子というわけではなないのだが
それでも、あらゆる物が粋だよね。
『メイフィールドの怪人たち』 1989年
監:ジョー・ダンテ 主演:トム・ハンクス
★★★☆☆
アメリカ郊外の住宅地を舞台に
近所に越して来た謎の一家に興味津々な
住人達が引き起こす珍騒動。
近所付き合いを一切行わず
何やら夜な夜な怪しい行動を繰り返す。
確かに気にはなるけどね。
だらかと言って、彼らの行動力はちょっと規格外。
お馬鹿な連中によるお馬鹿な関係を楽しませつつ
きっちりどっちが悪いか選手権を観客に提示してくるのが面白い。
あまりに怪しい彼らも悪いし
過剰に干渉したがる主人公たちも悪い。
最終的なオチも含めて
割とドキドキしながら楽しめる。
良作コメディサスペンスではないだろか。
幼い頃の面影もないコリー・フェルドマンが演じる
近所のクソガキ傍観者達の立位置こそが
真の皮肉なんだろかね。
『めぐり逢い』 1957年
監:レオ・マッケリー 主演:ケーリー・グラント、デボラ・カー
★★★★☆
欧州からNYへの豪華客船で出会う男と女。
男は婚約のために、女は彼氏に勧められた旅行の道中。
しかし、出会ってしまった物は仕方がない。
そんなロマンスのお話。
ケーリー・グラント演じるプレイボーイが良いね。
こんなに紳士で、女性の扱いに長けていて
かつ堂々と自分を見せる実直さも兼ね備える。
あんなステキな祖母に合わせてもらえれば
そりゃ惚れるでしょう。
愛し合うが故に、みんなが優しいんだよね。
基本的には悲劇なんだけど
情緒たっぷりに楽しめる密度ある2時間。
既に相手の居るはずの二人が
自身としてはまさかの求愛に至る過程が
観客からはバレバレの展開の中で
実に嫌味の無いキャラクター性に裏打ちされており美しい。
ブレない映画は良いよね。
最初から最後まで綺麗に繋がる小道具も満載で
とっても技術の冴える傑作映画だと思います。
要所要所で挿入される楽曲までが良いというのだから
本当に隙無しだ。
『めし』 1951年
監:成瀬巳喜男 主演:原節子、上原謙
★★★★☆
公開された1951年頃の大阪を舞台にした
倦怠期を迎えている夫婦の心のお話。
勘弁してください。
何故に映画を見てこんな思いをせねばならないのか。
人の心を不快にさせるのに、クドクドした言い回しや
大仰な展開や人物なんて要らないのだね。
何処にでも居る人間の何処にでもある不満こそが重い。
まさにあの空間の『めし』が息苦しい。
タイトルでもう勝ってます。
もちろん、時代が違いすぎるために
登場人物の言動には直接の共感はもてないが、
結局は、時代が変わろうが、異性・同姓だろうが
人間関係の贅沢な依存の本質は変わらないかな。
どんな生活もどんな関係も続ければ不満になるのだよ。
穏やかなやりとりの中で極限まで剥き出しになる感情が
本当にキツイ。
どうだろ、彼女は理知的な人だから
ああ結論を付けられれば幸せになったのかな。
そんな映画。
『目には目、歯には歯』 2008年
監:カク・キョンテク、アン・グォンテ 主演:ハン・ソッキュ
★★★☆☆
白昼に起こった現金輸送車強奪事件の犯人と
彼に名前を騙られた退職間近の一流刑事との追跡物語。
スッキリとした素晴らしいテンポの一品。
事件解決のためならば、汚い捜査も平気で行うベテラン刑事の個性も良いし
知的で二枚目、人情にも熱いという強盗団ボスの
スマートな作戦の数々も楽しげ。
そこに事件の被害者であるヤクザな悪徳銀行経営者の一味も加わり
三者三様が複雑に絡み合う忙しさは実に心地良い。
何より強盗犯のボスが抱えていた動機は
かつて自身の父親を破滅へと追いやった
そのヤクザへの復讐だったという
いかにもな、安っぽい舞台を用意されながら
全くヒロイズムに走らず、重苦しい演出も展開も使わず
あくまでキャラクター個性の一つとして
さらりと言外の渋みだけで、人情を訴えるという潔さ。
僅か95分間にこれだけのお話を詰め込んだのかと、
限界まで贅肉を殺ぎ落とす職人芸に惚れる一本だろうか。
『めまい』 1958年
監:アルフレッド・ヒッチコック 主演:ジェームズ・ステュアート
★★★☆☆
故人の霊に取り付かれ、不安定な行動を繰り返す女と
夫よりその調査、監視を依頼された主人公のお話。
雄大な風景の中で繰り広げられる
わけあり男とわけあり女の情緒溢れる物語。
実に大作然とした一風変わったメロドラマだよね。
さてそんなサスペンス作品が見たいのか。
これは、ノーじゃないかな。
もちろん、常に釈然としない謎は付き纏ってはいるのだが
尺の大半が男女間のやるせない恋愛模様が描かれ
心情を中心にした映画である事に間違いはない。
ロケ地の美しさや遠景を重視した壮大でトリッキーなカットの数々も
この雰囲気を大事にした物だろう。
それ以上となるとオチが全てかな。
しかし、このオチや展開の仕掛けを予想できなかった自分は
少し超常的な世界観に慣らされすぎているな。
確かに安定のクオリティだが、どーも期待とは違う。
映像技術を楽しむ作品としては素晴らしいのだが
オンリーワンな世界観が弱い一品だろうか。
『メメント』 2000年
監:クリストファー・ノーラン 主演:ガイ・ピアース
★★★★☆
妻を殺された際に受けたトラウマにより
10分間の記憶しか持てなくなった男の
執念の復讐を描くお話。
圧倒的な構成センスが光る一本。
まず復讐を遂げた殺人現場から物語が始まり
以降、男が記憶してきたであろう短いシーンが
延々と断片的に過去へと遡っていく。
彼は何故こんな行動を取ったのか
この人物は誰だったのか
行動は本当に正しかったのか、
あるいは騙されてはいるのではないか。
情景が過去へ過去へと戻る事で
観客に真実の姿が明らかになるという
記憶喪失の設定を活かしきった逆転発想サスペンス。
緻密な職人芸には舌を巻くばかり。
加えて自身の行動の記憶すら保てない主人公の姿を通し
人間とは一体何ぞや、人生とは何ぞやと
見ている側に真理までを問い掛けるテーマ性をも内包する
実に贅沢なエンターテイメント傑作。
『MEMORIES』 1995年
監:大友克洋 主演:磯部勉 他
★★★★☆
3本の短編が収録された映画。
何と贅沢な120分だろうか。
TVアニメに毛の生えた程度の尺でありながら
そのどれもが紛う事なき劇場版クオリティ。
一つのコンセプトを突き詰めるには程良い長さだろう。
『彼女の想いで』は圧倒的な映像美。
オペラ歌手の歌声の中で描かれる幻影の数々に
ただ見とれている内に終わってしまう一品。
『最臭兵器』は笑いましょう。
シニカルで皮肉めいた設定の中
そんな馬鹿なと思わず突っ込みたくなる主人公の行動力とノー天気さ。
そして最後に来るわかりきったオチ。
素敵な短編です。
『大砲の街』は究極の映像実験。
こんな事を映画でやっても良いのだろうかと
思わず考えさせられてしまうが、間違いなく一見の価値はある。
ちゃんと見ていればすぐに気付く、ある仕掛けが施されています。
そういう面からの評価は貰えるだろうと
見る側のオタクのパワーをあてにした反則な一作だろか。
こういう短編集が劇場予算のクオリティで作れたのは
それだけアニメーションという表現が
高等な物だと評価をされてきた証拠だろう。
これが「ジャパニメーション」の正体。
時代が生んだ怪物映画でしょね。
『メリー・ポピンズ』 1964年
監:ロバート・スティーブンソン、ハミルトン・S・ラスク 主演:ジュリー・アンドリュース
★★☆☆☆
厳格なイギリス人家庭へ子守りの仕事に現れた
不思議な魔法使いメリー・ポピンズが繰り広げる
幻想的なミュージカル。
ちょっと長くはないだろうか。
子供向けのディズニー作品なんだが
せいぜい本家の長編アニメは80分程度、長くても100分だよ。
この作りで140分映画はダレるだろう。
念願の映画化だったと聞くが気合の空回りか。
ミュージカルパートは、どのシーンもアイディア満載で
確かに楽曲も演技も素晴らしいのだけれど
それ以外の面が何とも言えず謎な内容。
アニメと実写の融合であったり、ストップモーションであったり
その他、特撮、合成技術のオンパレードであったり
映像面での壮大な実験場は楽しいと言えば楽しいが
音楽も無しにそれだけで長々とワンシーンを作られても困ってしまう。
実はミュージカル以外の尺の方が長い作品なんだよね。
せっかくのジュリー・アンドリュースの出番が少ないのも不思議。
お話もこれが夢のある話とは到底思えない。
子供達の存在も、不思議な出来事たちも
テーマ性も無駄に押し付けがましくないだろうか。
大人が先に頭から考え出したような説教は空虚だよ。
何ともスッキリしない気分が続く。
退屈な間を我慢したご褒美に
その都度、数分間の一級ミュージカルが貰えるような構成の映画。
『猛獣大脱走』 1983年
監:フランコ・E・プロスペリ 主演:ジョン・アルドリッチ
★★☆☆☆
動物園から脱走した猛獣たちが
街中で人間を襲い暴れ回るお話。
この動物映画というジャンルは
感動物よりはパニック物が似合う気がするな。
人間の目からの動物は怖い存在に映る方が
より生き生きしていると感られないだろうか。
冒頭、カーセックス中の若いカップルが
何百匹ものネズミに襲われて
悪趣味に食い殺されるシーンでもう大満足。
他、よく撮れたもんだと思うばかりの
ゾウにトラにライオンにチーターにクマにと
荒々しい動物を使ったド派手シーンの連続が
この映画唯一にして最大の見どころ。
後の世であればこんな撮影したら確実に怒られるね。
とってもリアル描写な一本です。
何故なら本物を撮影しているからね。
大胆に街中を走り回る彼らの姿を見られるだけで
幸せになる動物映画でしょう。
もちろん、シナリオやら登場人物やらは全てオマケ。
動物が暴走した理由の薄さに加えて
最後に謎の社会派メッセージを残しだすまで込み込みで
狂おしいまでのB級パニック映画。
『燃えよドラゴン』 1973年
監:ロバート・クローズ 主演:ブルース・リー
★★★☆☆
相次ぐ若き女性の失踪事件を探るため
主人公ブルー・スリーが孤島で開かれる
怪しげな武術大会へ出場するお話。
マンネリ防止なのか
今までの作品とは一風変わったストーリー仕立てへ。
007を彷彿とさせながらも、ブルース・リーならではの
独特のスパイアクションが楽しめる。
結果、主人公以外の登場人物にもスポットが当たり
お話を作ろうと頑張ってはいるのだが
かえって、メインのアクションシーン数が控え目になっているあたり
むしろ残念な方向転換かな。
良くも悪くも映画っぽくなっている。
かの有名な“Don't think Feel”や
鏡張り部屋における鉄爪ラスボス戦など
象徴的なシーンは多数拝めるのだが
全体で見ればやや散漫になってしまった一本。
ハリウッド映画として製作された作品だが
作品の規模が上がるのも考え物だね。
『モータルコンバット』 2021年
監:サイモン・マッコイド 主演:ルイス・タン
★★★☆☆
大人気格闘ゲームの映画化作品。
魔界と人間界の運命を賭け
選ばれし戦士たちが殺し合うお話。
シンプルな構成だね。
物語はインスタントに次ぐインスタント。
何のドラマ性も生きた人間性も描かれないまま
必要なシーンに繋ぐためだけの細切れ展開が淡々と消化され
ほぼ真っ当に入り込める箇所はない映画なんだけど
全編通しての満足度は妙に高いという詐欺のような一品。
良くも悪くもキャラクター映画としての割り切りが綺麗。
原作ファンに寄せたサービスシーンが多いのもあるし
そもそも、登場人物のビジュアル造形が素直にハイレベル。
サブゼロもライデンもスコーピオンも
やはり登場するだけでもうカッコいいのです。
30年間も続く人気ブランドのキャラクターとはそういう物だろうさ。
真田広之の"Get over the here"が堪能できて一体何の不満があろうか…
全く初見の人でも、あぁココが見せ場なんだろうなと
一発で理解できるシンプルさが冴えている。
そして「FATALITY」
バトルの締めではモータルコンバットの代名詞と言える
スプラッターなフィニッシュ演出が炸裂して
ストーリー上で溜めたストレス全てを吹っ飛ばしてしまう。
やはり再現度が高く、導入や見せ方が見事に浮いていて
何だかんだコレこそが一番のキメなのだと誰でも理解できる作りが上手い。
映倫基準でR15に指定されているが
あくまで、真の痛さを伴わないタイプの過剰なスプラッター表現で
映画ファンはホラーなどで普段から存在に慣れており
むしろゲーマーよりずっと自然な感覚で受け入れられるかもしれないね。
シーン毎の風景も謎のアジアン情緒や多国籍感が楽しく
頭空っぽに100分強で遊ぶファンタジーカンフー映画かな。
なお、1990年代半ばに一度映画化されているブランドが
2021年にもなって復活できた理由は
シンプルに新作ゲームが馬鹿売れしているから。
具体的には、2010年頃の「モーコン(9)」〜2020年頃の「11」が
新生モータルコンバットと言えて人気を再燃させた経緯がある。
初期ブームから四半世紀経って歴代最高の売り上げを出しているのは中々に凄い。
ワーナー自身のパブリッシングで格闘ゲーム分野での作りの豪華さは世界一だと思う。
しかし、映画であればR15でもお釣りがくる程度の映像が
日本のゲーム業界では18禁での発売すら適わない現実は何なのか…
(2000年以降の全作品が日本未発売)
ゲームと映画では長年かけて積み上げてきた表現としての正当性や
文化として業界全体で支えようという歴史や意識のレベルが違うか。
『モダン・タイムス』 1936年
監:チャールズ・チャップリン 主演:チャールズ・チャップリン
★★★☆☆
大不況、大量生産の時代
機械的な工場作業に従事していた主人公が
あるきっかけから人生を見つめ直すお話。
チャップリン映画のパターンに漏れず
基本はあくまでコント集。
いつも通り、実に豪華な作りな完成されたコントが楽しめるのだが
もう一つの味である社会風刺の点では
やや、描写が弱めに映る一本かな。
冒頭テロップから序盤の工場シーンにかけて
期待が高まりすぎるのが原因だろうか。
人間性が失われるような生産消費社会に対しての強烈な皮肉は
この21世紀においては警鐘を軽く通り越した
リアルそのものであり全く笑えないレベルに素晴らしい。
しかし、この鋭い切り込みは中盤以降は息を潜めていき
あくまで作品は少女との出会いを経た人間ドラマへと移行する。
幸せとは何か、豊かな人生とは何かを問う方向になるのが早すぎて
やや肩透かしを食らう。
無論、これはこれでテーマとしては見事なのだが、
どうにも、やっている事が『街の灯』と被るのも
いまいち乗り切れなかった理由だろうか。
人情としては『街の灯』に及ばず
社会風刺としては、『独裁者』に及ばず
無論、水準は保ちつつも……そんな一本かな。
『もっともあぶない刑事』 1989年
監:村川透 主演:舘ひろし、柴田恭兵
★★★★☆
あぶ刑事劇場版の最終作。
3年も続ければ、さすがにやる事がなくなってくる。
悪乗りが極限まで極まっていて
話もお馬鹿さも、どんどんエスカレート。
その都度で爆笑しつつ
心の中で、もうこれ以上は無いだろうと納得できる三作目。
最早、横浜の市街地を舞台に暴力団や犯罪と戦う
怪しくもカッコイイ オッサン刑事達という本来のイメージは
全く残ってもいない大作っぷり。
キャラクター性だけが飛び抜けたアクション映画だろか。
全キャラクターに素晴らしい見せ場がある。
最終作らしい大団円のB級傑作。
『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』 2011年
監:スティーブン・ダルドリー 主演:トーマス・ホーン
★★★★☆
2001年9月11日、アメリカ同時多発テロにおいて
最愛の父親を亡くしてしまった少年。
彼は父の遺品の中から一本の鍵を見つけ
それが自身へのメッセージではないかと考えて
無謀とも言える鍵穴探しの計画を立てる。
父親役のトム・ハンクスが反則的だね。
これほど息子を暖かく見守り
様々な課題を与え、成長を促し、そして自らも楽しむという
理想の父親像は他にはあるまい。
だが逆に言えば、彼の与えた「調査探検」という手法や
数限りない含蓄に裏付けられた背中の大きさが
自身の亡き後に息子を必要以上に偏屈にし
苦しめてしまったのも事実。
偉大すぎるが故に、父親との思い出に浸り
母親を軽視し、現実、現状からは逃げ続ける。
そんな子供の姿はあまりに痛々しい。
一歩も前に進めない理屈尽くめの主人公が
どう踏み越えるのかそんな物語。
描かれるのは一つの哀しみや同情を
社会全体が共有できる事への賛歌。
そこには普段、世界が思い描くNYの街とは
真逆の顔が写し出されている。
一人の子供が
「9・11で父親を亡くしたのだけれど…」と前置きを入れる事で
人種、性別、階層問わず、NY中のアメリカ人が
暖かく話を聞いてくれ親身になって応援してくれる。
そこに社会の懐の深さを感じ入る一本だろう。
これは優しさの映画なんだね。
全体通しての要素は豊富で、
一本の鍵と、街の何処かに存在する鍵穴の謎
唯一のヒントであるNY中の「ブラックさん」達の小粒な物語。
そして何かが狂ってしまった身勝手な少年主人公と
真っ直ぐに現実を突き通す母親との
傷口を叩き合うような切ないやり取り。
祖母宅において謎の間借り人を自称する唖の老人の存在。
彼らが繰り広げるドラマの数々は
どれもやりすぎくらいのテンションなのだが
むしろこの作品には調度良く
クドさを感じるまでもない直球仕立ての大作感。
数限りなく広げられた膨大な要素が
どれも綺麗に結論付いていく終盤のテンポも心地良く
王道少年物の傑作と言える一本。
『もののけ姫』 1997年
監:宮崎駿 主演:松田洋治、石田ゆり子
★★★☆☆
自然の中で生きてきた獣たちと
生きるためにそれを切り開く人間のお話。
世界観が最高。
多分、室町の中期以降だよね。
戦国時代がスター大名で華やかになるよりは少し前と見た。
あの時代独特の村単位の独立した生活圏が実に良い。
そして「たたら」という言葉が作り出す
綺麗なだけでは終わらない文明と生活臭も素敵。。
人が生きていく様がなくてはテーマが死んでしまう。
山の神様と共に獣として生きる少女と
人間である事は否定出来ない少年との切なく悲しいお話。
あの結末以外はちょっと考えられない重み。
この徹底した文化描写とテーマ性は名作だよ。
ただ終盤、これまでのテンポが一気に殺がれて
凄まじく冗長に感じてしまうのは何故だろうか。
ファンタジー映像が長すぎる。
映像に拘りすぎた結果か、スペクタクルを重視しすぎた結果か。
アニメーション表現への自信が裏目に働いているとすれば残念。
『モホークの太鼓』 1939年
監:ジョン・フォード 主演:ヘンリー・フォンダ
★★★★☆
18世紀のアメリカを舞台に
辺境の開拓民として旅立った新婚夫婦の物語。
独立戦争が如何に多大な犠牲の元に成立したのかを描いた
クラシカルなザ・アメリカそのもの映画だね。
半農半兵とも言える開拓民の誇り高き意思
純朴な青年と逞しく生き抜く妻との美しい家族の絆
生活の中心として教会が存在するコミュニティの強さ
そんなコテコテの古き良き世界観を嫌と言う程に見せられるのだが
決して嫌味にならない絶妙なバランスが素晴らしい。
主人公の周囲を彩る雛形とも言えるキャラクター達の個性や
暗転演出の繰り返しによるテンポの良い時代変遷描写など
ストレスを感じさせない丁寧さが光る。
加えて、終盤にヘンリー・フォンダが野原を駆け抜けるシーンは
カラー作品である事を贅沢の象徴と捉えたであろう
印象的な絵作りの数々は目を見張る美しさで、
クライマックスの見所すらもきっちり用意されている。
映画を構成する全ての要素が素直に仕上がった一本。
1939年公開映画とは思えない完成度。
『モロッコ』 1930年
監:ジョセフ・フォン・スタンバーグ 主演:ゲイリー・クーパー、マレーネ・ディートリッヒ
★★★☆☆
モロッコを舞台にした
異国情緒溢れる男と女のメロドラマ。
綺麗な映画でしょう。
女たらしの男役にゲイリー・クーパー。
ヒロインの歌手役にマレーネ・ディートリッヒ。
スターを揃えて異国を舞台に二転三転の男女の関係を描く。
憎まれ口を叩きながらも実は惚れている男女。
女の幸せを願い身を引く男。
真実の愛に気付く男を追いかける女。
実に素直。
間違いなく素直にすぎるのだが、
時代を超越した完成度に驚かされる一本。
往年のスター映画、独特の格調を楽しめる作品だろうね。
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