『櫂』 1985年
監:五社英雄 主演:緒形拳、十朱幸代
★★★★☆
大正時代、高知で女衒の生業を持つ一家の親分と
彼に振り回される女達が織りなす大河ドラマ。
女を売り物にする商売を営む我儘な家長と
散々な目にあいながらも人生を紡ぐ何人もの女とくれば
ほとんど世界観は『鬼龍院花子の生涯』と一緒よね。
宮尾登美子原作、五社英雄の監督映画としては第三弾にあたるが
原作小説はこの『櫂』こそが一連の映画化作品の中で最も古いとのこと。
高知土佐の大正時代に思いを馳せる圧巻の情景映像を見るに
ほとんどスタッフも一緒な気がする。
ただ、キャラクターが絶妙に違うんだ。
今作の主役は親分でも、その養女でもなく
十朱幸代が演じる本妻に尽きるだろう。
彼女は感情を抑えられず体も弱く
幾つにになっても情けない姿を見せ続ける。
しかし現実に打ちのめされながらも
次第に夫への未練を断ち切っていくように映る。
これは、シリーズ(?)中で最も脆い女に見えながらも
その実は最も自己を確立した人間ではなかろうか。
体から臭い立つレベルの薄幸さが
良いスパイスで効きに効いている。
旦那役の緒形拳もイイ。
こちらは少し狭量で野心の強すぎる男なのだが
男性として放つ色気が桁違いっぷりに驚かされる。
彼が女を抱いて抱いて捨てて捨てる物語としての納得感があるからこそ
女側の感情が活きるのだろう。
しかし、彼も不思議な男だよね。
口うるさく男を立ててくれない妻を疎みつつも
かと言って、都合の良い妾に満足できるわけでもない。
女を売り物にして生計を立てている一家においては
全員が全員、そもそもの女性論に矛盾を持っているのだろうが
昔気質の強い男を売りにしている彼こそが
結局、女性や子供に最も影響されている人間ではないか。
足早に年代が進む展開はやや唐突にも映るが
何より今作は登場する人間が如何に魅力的であり
その情念を垣間見られるかが全ての映画だろう。
20年間、30年間のスパンで見る男女、家族の愛憎劇に
年代を積み上げた思いを馳せる重厚感が肝。
この酷い男が一人暴れるだけのストーリーに
現実めいた世界観の説得力が乗っているのは
原作が持っている高尚さによるのだろう。
対して、その文芸感に極めて映画的な断絶した名シーンが
何篇も繋がれていく独特のコンビネーションがテンポよく
安っぽくはないが、決して退屈でもないとう
不思議なバランスが楽しめる一作になっているね。
特にラストの石原真理子演じる養女が放つ
「女をわやにすな!」が最高よ。
『海外特派員』 1940年
監:アルフレッド・ヒッチコック 主演:ジョエル・マクリー
★★★☆☆
第二次大戦を目前に控えた緊迫の欧州へ派遣された記者が
国家的陰謀に巻き込まれるお話。
後々までヒッチコックが撮り続ける
巻き込まれ型サスペンスの雛型だろう。
主人公がまるで狐につままれたような感覚に陥り
次々と訪れる疑問と戦っていく物語だね。
基本、謎の組織に狙われている割には
緩い扱いを受け続けるという不思議な世界観も面白い。
お話はのんびりと進むのだが
何を置いても映像面がキレッキレで
まずは目で見て楽しめる作品なのが良いね。
エンターテイメントとして、サスペンスとして
手に汗握る展開が次から次へと訪れ
最後のシーンは1940年公開作品とは思えない
大スペクタクル映像が実現されている。
その上でお堅い登場人物が語るに語り
ヒロインとのラブロマンスもあって
ラストには現実世界をも見据えた大演説がぶちかまされる
実に豪華絢爛な一本。
なるほど、この作品でドイツとイギリスが開戦して
1942年公開『逃走迷路』でアメリカも戦時中のお話になるわけだね。
ヒッチコック作品を追う上でも絶対に外せない作品だろう。
『会議は踊る』 1931年
監:エリック・シャレル 主演:ヴィリー・フリッチ
★★★☆☆
「会議は踊る、されど進まず」のウィーン会議を舞台にした
ミュージカル映画。
終戦会議にもかかわらず妙に明るく
そして最後には妙にしんみりする。
歴史の狭間に稀に生まれる奇跡のような一時代を描く事が
こんなにも楽しいとは。
それだけに崩れゆく切なさが上手く出ていて
ちょっとした淡い恋が混ざり合う寂寥感は一級品。
一応はミュージカル映画なのだが
さすがに映像や演出は古め。
見る前に時代相応の軽い割り切りが必要だが
とっても綺麗な世界は覗ける名作。
『海軍特別年少兵』 1972年
監:今井正 主演:地井武男
★★★★☆
太平洋戦争の末期
14〜15歳前後の少年たちから構成された
海軍の特別志願兵の成長を描くお話。
子供に対する厳しい軍事訓練はともかくとして
それが、たった1年強の歳月で本物の戦地へ送られ
15歳の頃にはばんばん戦死するシステムともなれば
これはやはり、国の制度としては狂ってるとしか言えないだろう。
まして彼らの大半が田舎の貧しい家から募られているあたりに
根本的な嘘がある事は間違いあるまい。
しかし、この映画が見せる仕掛けの妙は
肝心の少年たち自身がそれを全く疑問に思っていない部分にあろう。
厳しい集団訓練に耐え、海軍兵としての自覚を育んでいく
この年代の男子が見せる無邪気さと純粋さは
どの時代、どのシチュエーションに合わせても
あまりにも美しすぎて困ってしまう。
彼らが見せる素朴な少年としての葛藤の様は
今作が全寮制のスポーツ部活映画だと言われても
全く違和感がないノリを見せてくれる。
この題材にして、これを撮るのかというのが
さすがの今井正監督と唸らされる。
だが、その男の子達が追い求めた先にある物は
甲子園というわけにはいかんのよね…
その姿に嘘はなくとも、それを作る環境側には嘘がある。
もう一つの主役は、たびたび挿入される複雑な家庭事情。
各々が持つ家族や教官たちの姿を見るに
誰一人として、正しい思想の元に、正しく教育が行われ
正しい行為がなされているという大前提を崩しはしない。
名誉ある海軍軍人として子供を戦地へ送る行為は常に正しいのだ。
しかし、そんな社会性に抑え込まれた中からも
何処かしら、個人としての本音が少しづつ見え隠れする。
少年たちが完璧な仕上がりになっていく裏側で
それを望んで育ていったはずの大人たちの側が
逆に彼らの純真さとの歪に耐えられなくなっていく姿が実に良い。
基本、悪人が一人も登場しない美しいはずの映画なのに
何故にこうも居心地が悪いのか。
一見、少年たちの青春を素直に感じる事もできそうな中に
彼らの尊厳が傷つかない方向の虚構が見事に混ざり合う
絶妙な空気感が光る社会派とエンタメのバランスが天下一品。
教官の地井武男が最後に発する
「もう遅い」は響くね。
土壇場になって安い人情やヒューマニズムを見せられても
そんな物は少年側が拒否しちゃうわけだよね。
10年単位の歳月をかけた結果はそんな逃げを許さない。
本当の大人としての責任ある行動はそうじゃなかった重みが凄いわ。
『カイジ 人生逆転ゲーム』 2009年
監:佐藤東弥 主演:藤原竜也
★★★☆☆
自堕落な生き様から知人の借金を背負う事となった
自他共に認める負け犬青年の主人公が
一発逆転を狙い怪しげな賭博会へと参加するお話。
既に冒頭展開でダメすぎる人間性が素敵な一品。
この原作漫画には
如何に人間同士の心理戦の緊張感を追求するかという
創作ギャンブルとしての面白さと
ギャンブルに没入するような最下層人間に対して
如何に説教哲学を説くかという面白さがあるのだが
今作は後者に的を絞り切った作りになっている。
その分、前者の面白さが生きないのは残念だね。
後者は限定された人間像と状況が状況だけに
原作からしてだだスベリしている事も多いのだが
この作品でも綺麗に響くような舞台を用意できたとは言い難い。
実に重たいお言葉の数々ではあるのだが
そのあまりに突飛とも言える内容なだけに
早々ピースがはまるシーンは作れないだろう。
それでも主演の藤原竜也やライバル役の香川照之などによる
過剰なまでの熱演が合わされば映画としては十分に面白い。
元々、難しく考えるつもりもないエンタメ作なのだろう。
漫画原作である事を理解した上であれば
十分に勢いで突っ走れる一品。
『怪談』 1964年
監:小林正樹 主演:三國連太郎、仲代達矢、中村嘉葎雄、中村翫右衛門
★★★★☆
小泉八雲原作、
『和解』『雪女』『耳無抱一』『茶碗の中』の4作品を
芸術性たっぷりに描く一大映像絵巻。
40分、40分、70分、30分の計180分という短編集なので
全体では長い映画でありながら
どのお話もメリハリがあり気軽に入り込める。
4作ともにセット撮影である事は一目瞭然ながら
逆にそこを逆手にとった
作り物感こそが最大級の見せ場だろう。
このあまりに非現実性に満ちた美術のお仕事は
映画と言うよりは絵画、写真作品とも言えるだろうか。
しかしその創作世界観の中を生きた俳優が
表情たっぷりに動き回る不思議さはまさに映画で
紛う事なき変態オンリーワン作品だね。
『黒髪』では、まず廃屋セットの見事さ。
この空虚な怪しさ全開っぷりが
真っ先現実世界と境界を曖昧にさせてしまう。
三國連太郎の演じる主人公の駄目さ加減が素晴らしく
彼が思う様に夢に身をまかせ、怯えおののく姿でノックアウト。
時間は不可逆、後悔先に立たず。
そんな業のお話。
全体からすれば軽いジャブかな。
『雪女』は冒頭からあまりに謎な背景にくぎ付け間違いなし。
あれは「目」だよね。
雪女のストーキングを表現しているのだろうか。
その他あらゆる面において、
どこを切り取っても絵になる芸術性抜群な短編。
特に雪女が正体を表すシーンが素晴らしい。
今までの家屋内から世界が暗転した瞬間、
全ての調度品が雪仕様に変わっているあたり
あまりの芸の細かさに感服。
日常の慣れ、油断、なぁなぁに足元を救われるお話。
『耳無し芳一』は超大作。
平家亡霊の根幹である壇ノ浦の戦いから始まるのだが
これを源平合戦の実写化ではなく
「源平合戦の絵巻物」の実写化で描くという発想に
まず度肝を抜かれる。
そもそも、芳一の映像化は難しいよね。
めくらの視点からすれば
あくまで自身の芸を認めてくれる気の良い客なのだが
途中、構図を入れ替えて外部の人間が目にした瞬間から
既存の認識とは全く異なる恐ろしい現実があったという
小説ならでは仕掛けが効いたお話だ。
これを平家亡霊側の描写に拘って映像化。
芳一がイメージしている舞台なのかな。
少し怪しいと思いつつの不安感と
高貴なお方であるという安心感の共存。
認めてもらっているという満足感もあるだろうか。
その揺れ動きなのか、館の描写、または琵琶を聴く平家一門の姿が
場面場面で気付けば別物になり、何種類もの姿が入れ替わていく。
幻想的かつ退廃的な空気感に包まれた
ここの贅沢な絢爛さは必見だろう。
琵琶の音がこれほどに心まで響くとは驚きです。
なお、耳だけ経文を書きそびれる名場面は
何とも滑稽でここも映像化の難しさか。
博識な僧が二人も居て
「書き残しはないか」と確認しあっているのに
誰がどうみても耳だけ浮いているという構図の馬鹿っぽさには
不覚にもニヤ付きがとまらない。
全身経文が醸し出す人間の異質さには息を呑まされるが。
『茶碗の中』はオマケのような尺でありながら
実は一番面白いんじゃないだろうか。
雰囲気では一番怖い。
お話が途中で終わる作品なのだが
そこを映画的にどう仕上げてくるかの先を読ませず
小気味良いテンポが素敵な一本。
その中で所々で漏れる不協和音が良い空気を作っている。
そんな4篇。
決して怖いホラーではなく楽しい傑作でもなく
圧倒的に魅せる映画ですね。
退屈な芸術作品と言えばそれまでながら
不思議な和の極地に見入ってしまった一本かな。
『カウボーイ & エイリアン 』 2011年
監:ジョン・ファヴロー 主演:ダニエル・クレイグ
★★☆☆☆
西部開拓時代のアメリカを舞台に
主人公達がエイリアンと決戦するお話。
話が安い。
この一言に尽きる一本。
記憶喪失の謎の男と、その男に迫る謎の女。
そんなサスペンス調の設定を用意しながら
種の明かし方があまりに呆気ない。
せっかく用意したエイリアンの性質や正体も退屈で
白人集団とインディアンという異物同士のドンパチ競演も
何処かちぐはぐでこれと言った意味はないようで
大きな見せ場は見当たらず。
西部劇然とした世界観と
侵略エイリアンの科学技術とが交じり合う
不思議な映像二重奏が楽しみかと思えば
最後まで視覚で盛り上げる気もないようだ。
主演のダニエル・グレイグは素晴らしいが
さすがに彼の渋みだけで一本の映画は難しいだろう。
主人公と対立する保守勢力の首領として
ハリソン・フォードが競演しているのだが、
前述の通りドラマが無いのだから仕方が無い。
無駄遣いにも程がある。
21世紀のSF技術を駆使して描かれた
西部劇世界という一点を楽しむ作品だろうか。
『カエル少年失踪殺人事件』 2011年
監:イ・ギュマン 主演:パク・ヨンウ
★★★☆☆
激動の1990年前後における韓国の片田舎で
少年五人が同時に失踪する事件が起こるお話。
最早、韓国映画界のお家芸と化した
大真面目なド緊迫サスペンス。
田舎社会の気持ち悪い雰囲気が
本当に良く似合うんだよ。
少年達の神隠し事件という舞台設定の妙や
それに対する警察捜査や、メディア、世論の有り方などなど
全てにおいて居心地の悪さが一級品で
被害者の家族すら何処か信用できない雰囲気に包まれている。
全編、鳥肌が立つ程の不気味さが堪能できる。
ただ、序盤〜一時間の凄まじい密度からすれば
物語はやや拍子抜けな方向へ進み
果たして恐怖サスペンスがやりたいのか
探偵ヒーロー主人公物がやりたいのか
実録を意識した被害者遺族の心模様を獲りたいのか。
どうも映画全体としてアンバランスさが目立っていく。
結果、現実味との整合性が取れなくなる分だけ
研ぎ澄まされた恐怖もまた薄れていくのが勿体無い。
ただこれはノンフィクション題材なだけに
「犯人が見つかって欲しい」との製作者側の願いや
被害者への気遣いがそうさせたのかもしれないね。
現実への救いとして具体的な犯人像が欲しかったのか。
似たテーマの韓国映画としては『殺人の追憶』が有名だが
あそこまでの完成度は無いかな。
『鍵』 1959年
監:市川崑 主演:中村鴈治郎、京マチ子、仲代達矢
★★★★☆
地元名士である古美術の老先生が
妻と娘の婚約者との不貞を望むお話。
設定からして展開からして
あまりに怪しすぎる一品。
物は言い様、描き様だよね。
言ってしまえば、変態しか出てこない映画なのに
まるで人間の深みを見せられている気にもなってくる
詐欺のような名作映画だ。
なんせ、主人公の目的が凄いんだ。
高血圧で脳の血管が怪しい老先生は
興奮こそが一番の毒だと知りながらも
貞淑で面白味のない妻を敢えて女として愛するために
若い男と燃えさせようとしてるわけだよね。
妻を自身の所有物かのように扱う中で
不倫が成立する様を覗き見ながら喜んでみせて
最後には妻の裸を前に満足して死ぬ男。
あまりにもアホすぎるのだが
その道具に娘の婚約者を使うあたりが終わってるよ。
妻は妻で、夫に早く死んで欲しい心持ちになっている。
既に家の財政状況が逼迫している事を知らずに
夫の死後に娘と婚約者の結婚を成立させ
娘婿と同居する未来を夢見ている怪しさがある。
女は無知で夫に従順であればよいという方針の元に生きてきた
被害者と言えば被害者かもしれないが…
娘は、父が母を性的に辱めている事を知りつつ
何なら母が父を興奮させて殺そうとしているのも気付きながら
それでも婚約者との恋の鞘当てゲームに
うつつを抜かすだけの子供だ。
若い婚約者は特に最悪で
状況に身を任せて相当に女の愛情を楽しみながら
メリットが無いとわかればすぐに逃げようとしていたクズ野郎。
巻き込まれた不幸と言えば不幸な男。
しかし、これだけの濃いキャラクターと
ドロッドロの男女関係を提示してみせながらも
映画自体は実に淡々と進むのがまた面白い。
お話だけ聞けば、大きな見せ場や過剰演出を期待しそうなものだが
今作は逆にテンポ良く乾いた空気が常に漂うせいか
設定から感じる程には気持ち悪くはない。
何ならコメディタッチとすら言える仕上がりで
両者に絶妙なバランスが保たれている。
歪んだ愛情の行きつく先を見た気もするが
結局は愚かな男と女の物語で終わりじゃないかな。
最後の結末など笑うしかあるまいよ。
いっそ、色狂いが全員天罰を受けるお話として
単純に片付けて許されるような懐の深さも楽しい作品。
『鍵泥棒のメソッド』 2012年
監:内田けんじ 主演:堺雅人、香川照之、広末涼子
★★★★☆
人生に絶望する駄目男の主人公が
偶然出会った記憶喪失の男と
名前ごと生活を取り替えてしまうお話。
荒唐無稽でメチャクチャでありながらも
ギリギリで破綻しない緻密さが見事な一作。
まさに脚本の勝利。
そんな無茶な、そんな馬鹿なと思いつつも
展開される物語があまりに面白すぎて
つい納得して先に進んでしまうパワーに溢れている。
それでいて、二転、三転の末
最後には相応の体裁を整えてしまうのだから
贅沢な完成度が楽しめる映画だね。
やや、ハードに思われる世界観ながらも
どこか人間の良い部分が見え隠れする
一環して底にある優しさが心地良く
キャラクターの個性的な言動を追うだけで
十分に楽しめる爽快感溢れるコメディ傑作。
『隠し剣 鬼の爪』 2004年
監:山田洋次 主演:永瀬正敏
★★☆☆☆
武士としての体裁と、許されない愛で揺れ動く
質実な男の姿を描くお話。
やはり、この三部作は退屈だなと確信する二作目。
藤沢周平の原作は地味さが良いのだが
半端な映像化となるとあまり意味を感じない。
あの情緒風情を描ききれなければ
こんなに退屈な話だったっけ? と思われる事が多い。
お約束の対決シーンがきても
最後の最後にスカっとするわけでもない。
尺が長い、方言等の演出がくどい、悪人のキャラ造形が安い……
全てにおいて多弁すぎるか。
台詞だけでなく、演出も表情も感情もとにかく全てが野暮。
見せたい物を全て見せようと必死に足掻く様が
どうにも滑稽に映る。
前作は組み合わせの珍しさから楽しめたが
この空気でシリーズ化は厳しい。
『隠し砦の三悪人』 1958年
監:黒澤明 主演:三船敏郎
★★★★☆
忠義者の侍大将と黄金に目が眩んだ二人の百姓が
亡国のお姫様を守りながら旅をするお話。
絶景かな、絶景かな。
この映画は何を置いても映像の美しさに尽きる。
日本式の山の尾根がああも壮大で美しいとは驚かされる。
世界中のどんな大スケールの自然風景とも一味違う
柔らかな新緑の世界は素晴らしいね。
超大作であることを誇示するかのような
目を見張る雄大なショットの連続は圧巻。
そして、その風景を彩るのが
サムライとして世界一有名な三船敏郎。
彼の「豪胆なサムライ像」を決定付けた作品ではなかろうか。
所作の全てが徹底して美しく
特に中盤、疾走する馬の背で背筋をピンと真っ直ぐに伸ばし
両手で刀を構え駆け抜ていくシーンのはインパクト絶大。
ただ登場するだけで、こうも画面が引き締まる人は中々居ないだろう。
作品自体は狂言回しの百姓二人が
むしろ主役とも言える長尺を取る不思議な構成なのだが
彼らの絶妙な掛け合いの愉快さが
ミフネの真面目すぎる存在感とも綺麗にハマリ
黒澤映画には珍しく最初から最後まで徹底して
エンターテイメントのみに徹する痛快作品になっている。
こんなに短い140分があろうかね。
何のメッセージも、何の厚かましさも使わない
最もシンプルな日本賛歌だなこれは。
本当にただただ楽しく美しい。
『影の軍団 服部半蔵』 1980年
監:工藤栄一 主演:渡瀬恒彦
★★★☆☆
江戸時代初期、松平信綱と保科正之の権力争いに巻き込まれた
伊賀と甲賀の忍びの争いを描くお話。
えぇと……アメフト忍者大戦かな。
活劇シーンのあまりの馬鹿馬鹿しさに
思わず水準以下である事を許したくなる
カルト系の一品でしょう。
こういう頭の悪い映像は嫌いではない。
ただ、それだけだね。
「上の半蔵、下の半蔵」と伊賀の頭領が
二人に分かれているせっかくの設定も
上の半蔵こと西郷輝彦のあまりの置いてけぼりに
全く機能していたとは言い難い。
彼は何のために存在したのだろうか。
敵役甲賀の頭領である緒形拳も
特にコレと言った特徴のない悪役扱いで
せっかくの名優たちがどうももったいない大作だよね。
終わり方の強引さも含めて
やはりツッコミ待ちで作られた一品なのかな。
工藤栄一監督だからと言って、
乱戦、抗争を期待すると肩透かし食らうので注意。
なおタイトルが似ているが
千葉真一のTVシリーズとは全く関係はないようです。
『カサブランカ』 1943年
監:マイケル・カーティス 主演:ハンフリー・ボガート
★★★★★
ドイツ降伏中のフランス領カサブンカで描かれる
男の意地と純愛の物語。
本当にキザな映画。
あらゆる言動がカッコいい。
それでいて無味無臭というわけでは決してなく
主人公は嫉妬もするし誤解もする。
生の感情を剥き出しにして
なおキザというのだから本物の色男。
自然に音楽と絡み合う展開の美しさも完璧で
ヒロイン、イングリッド・バーグマンの美貌だけでも
十二分に元は取れる完成度の高い一品。
戦時中の軽いプロパガンダも含めた映画が
こんなレベルで嫌味のない仕上がりであるなら
戦争も勝てるわけもないというもの。
本来なら辟易するような作為の連続も
限界まで極めれば美しいという奇跡の一作。
『かしこいメンドリ』 1934年
監:ウィルフレッド・ジャクソン 主演:
★★★☆☆
畑の種まきを手伝ってほしいと
隣家に仕事を頼みにいくのだが
腹痛を理由に断られるお話。
一つの楽曲に乗せて
全編歌唱のミュージカル短編なのだが
収穫時にまた同じ理由で断れられ
三段階目にて楽しいオチがつくという
しっかり教訓めいた小噺が盛り込まれている良作。
お伽噺チックな一本で
ミッキー作品のようなドタバタ劇ではないが
これはこれでアニメーションとの融合が楽しい。
なお、ドナルドダッグの初登場作品らしく
1934年で既にカラー作品であることも
中々に目に新しい一品。
『カジノ』 1995年
監:マーティン・スコセッシ 主演:ロバート・デ・ニーロ、ジョー・ペシ
★★★☆☆
マフィア全盛の70年代のラスベガスを駆け抜けた
二人の男の怒涛の人生を追体験するお話。
一人は合理的なカジノ運営に人生を捧げた男。
もう一人は非合法で暴力的なヤクザ稼業を貫いた男。
この二人が互いに状況をナレーションで説明し続ける
ドキュメント構成で綴られる180分大作。
一般の人間が知る由もない世界を
非常に緻密にそしてコミカルに曝け出す
この手法はとっても面白い。
マフィアと言ってもその組織の根幹は多種多様。
現場の顔役から地元に居座る親分衆。
昔ながらの土地の名士たちや
下っ端警察も居ればチンピラも居る。
カジノの従業員は従業員でカタギのようで微妙に違う。
自分達の安全と小遣いのためなら何でも手を出す連中だ。
あくまでベガスは合法カジノなので
あからさまな暴力団組織は
厳密にはそのカジノ組織とはまた別にあるわけだ。
もっと言えば連邦制であるアメリカにとっては
「お上」というもの自体すら、
地元州の政治家勢力とFBIの走査網は全く別口なわけだ。
何とも複雑だがこの忙しさは素直に心地良い。
お話は二人の幼馴染の対立を主軸に進む。
どちらの言い分も理解はできるもので
元が合理性の極地を追求する事で名を馳せた賭博屋であるならば
カジノを任された際に真っ当な運営に尽力する姿は当然だろう。
しかし、もう一方の狂気の代名詞のような男に言わせれば
一皮向けば所詮はヤクザが何を気取っているのだと
そう追求したくなる理屈ももちろん正しい。
時代や権力の並に飲まれていく二人の哀愁の話だろうか。
スコセッシ監督お得意のアメリカ裏社会史物として
古きベガスのギラギラした空気を楽しむだけでも
割とこの長い尺がもってしまう良作。
シャロン・ストーンが演じるヒロイン役だけは
やや頭がプッツンしすぎて
雰囲気芸で作りこむ世界からは浮いてしまってるかな。
『火車 HELPLESS』 2012年
監:ピョン・ヨンジュ 主演:イ・ソンギュン
★★★☆☆
両親への結婚挨拶を目前に控えた時期に
突如、姿をくらましてしまった婚約者。
調べれば彼女の人生は嘘で全てが塗り固められていた……
まるで、韓国映画のために存在するかのようなド直球題材。
元は宮部みゆき原作のサスペンスだが
テーマも中身も別仕上がり。
純情主人公が調査を進めれば進める程に
彼女が不気味な存在へと変わっていく過程が見事。
「明らかにヤバイ」
誰でも理解できる
このシンプルな直感が画面全体から溢れ出し
独特の重苦しさで埋め尽くされる。
生理的な気持ち悪さを扱わせたら
韓国サスペンスの右に出る者は居まい。
全体の大筋は月並みなのだが
とにかく雰囲気芸で最後まで押し切ってくれる一本。
『華氏451』 1966年
監:フランソワ・トリュフォー 主演:オスカー・ウェルナー
★★★☆☆
書籍の所持が違法とされるSF世界を舞台に
焚書組織に属する主人公が辿る変遷のお話。
世界観に対する具体性が無いのが
逆に怖いもんだね。
まるで感情を持つ事自体が
一種の悪徳であるかのような世相の元
淡々と監視密告社会における
ピンポイントな職務を描くあたりが
実に不気味で洒落ている。
音楽も未来造形の数々も何処か不安で落ち着かない。
そんな中、登場人物が織り成す
書籍に対する皮肉たっぷりの台詞回しの数々は
実に強烈な実社会へのアンチテーゼだろう。
ただ、警鐘物としては素晴らしいのだが
主人公が無知賛歌とも言える体制に疑問を持ち
愛する人の元で本の虫になっていく過程が
イマイチ綺麗に伝わらないのが残念かな。
これだけ大仕掛けの舞台を用意しながら
結局は、ただの不倫ドラマに成り下がっていないだろうか。
妻との不仲や倦怠期然とした関係性までもが
焚書社会のせいとは少々責任を投げすぎだろう。
無論、妻が魅力的な人物に映らない事は
堕落推奨型社会に拠るものだとしても
そこで卑怯な摩り替えを感じてしまっては
物語の説得力も台無しだよね。
歴史にヒントを得ているだろう
「本の人」のアイディアは面白いが
このシステムではどうしたって
アタリとハズレを意識せざるを得ない気がするぞ。
『ガス燈』 1944年
監:ジョージ・キューカー 主演:イングリッド・バーグマン、シャルル・ボワイエ
★★★★☆
育ての親である叔母を自宅で絞殺されたという
重い過去を背負う主人公が
結婚後に現場となった自宅に戻り住み
次第に精神を追い詰められていくお話。
一級サスペンスだね。
ここまで精密に精神を破壊する様を描いて良いものか。
夫のクソ野郎っぷりに憤慨しつつも
そのあまりに異常な行動と追い詰められる主人公の姿から
一秒たりとも目が離せない。
陰影を用いた緊張感漂う映像演出や
タイトルにもなっているガス燈のゆらぎなど
小道具のメリハリで見せる絶妙な不安が凄まじい。
社会から隔絶された不可侵領域が可能にする
夫と妻による「家」の中という閉じた空間は
完全に一つのジャンルだと思う。
誰にも止められないんだよね。
動機こそ多少拍子抜けするところもあるが
この夫のキャラクターは凄いね。
何ら暴力を奮うわけでもなくあれだけの凶暴性を見せられるものか。
究極のドSと言えるだろうね。
果たして彼に愛はあったのか。
追い詰める夫も、追い詰められる妻も
刻一刻変化する彼らの表情にも大注目。
名演とはこういう事かと恐れ入る大傑作。
『化石』 1975年
監:小林正樹 主演:佐分利信
★★★★☆
死病に犯された男が想う人生への問いかけを
死神との会話に乗せて描いたお話。
大会社の社長が欧州旅行の最中に病に出会い
フランスの景色や教会文化と連動するかのように
死生観を映し出していくスタイルで
何よりもインテリジェンスに溢れた世界観が美しいね。
映画としては、主人公が直面する状況と心模様の全てを
独白ナレーションが淡々と説明してしまうという
退屈な演出が続く作風ではあるかな。
ただ、このパリ旅行の思い出こそが
彼の人生最良の瞬間であることが理解できていくにつれ
その死生観に自然と共感できていく流れは実に上手い。
気付けば言葉を待っている自分がいるから不思議なもんだ。
表面上は成功者の贅沢体験を見せられるだけのお話ながら
その本質は誰もが一度は思い馳せる大人のテーマではなかろうか。
どんな立場に差し替えてもこの想いは一緒で
つまりは自身の死と人生振り返り、僅かな寿命を如何に過ごすかだ。
ここをただ死を前にしての感傷だけで終わらせずに
終焉を覚悟し受け入れた男だからこそ到達できる
一瞬の煌めきがあるはずだというメッセージに
見事な浪漫や切なさが詰まっている。
3時間半にも及ぼうかという長尺だが
元は45分x8回によるドラマ作品らしく
これでも余分な説明パートは削ぎ落されているのかな。
1975年公開作品で4:3サイズなのもそのせいか。
結果、心象風景や叙情的な描写のみにスポットがあたることで
実に野暮のない上質な世界観が際立っている。
これが民放の地上波ゴールデンに流れていたこと自体が
本編以上に最も知的な部分というオチであろうか。
『風と共に去りぬ』 1939年
監:ヴィクター・フレミング 主演:ヴィヴィアン・リー、クラーク・ゲーブル
★★★★★
アメリカ南部の上流階級に生まれた一人の女性が
激動の時代をたくましく生き抜くお話。
圧巻。
これが1939年という時代に作られた事にまず畏敬の念を持つ。
洗練されたテンポ、映像美、目を見張る豪華絢爛な美術。
全てが時代の規格外。
激動の南北戦争時代を描いた超大作でありながら
あくまで描かれるのは4人の人生物語。
生き様、恋愛に話が終始するのが実にシンプル。
それだけに徹底した分の重みがあるね。
あれだけ我の強い連中の中で
真に強いのはやはりメラニーだろうか。
本当に強い人とはどういう人なのか
騒がず、目立たず、心に一つ秘め続ける姿に心打たれる。
「結局は大地に帰る」というお話は大好物。
冒頭からのテーマー帰結する構成の美しさはさすがで
全てにおいて完璧な完成度を誇る金字塔。
『風とライオン』 1975年
監:ジョン・ミリアス 主演:ショーン・コネリー
★★★☆☆
1904年の激動のアラブを舞台に
欧州列強への政治要求を目的として
米国人の母子が誘拐されるお話。
ただただショーン・コネリーが格好良い映画。
アラブの人間として、一族の長として、そして一人の男として……
自称ライオンこと、ライズリーの筋の通った立ち居振舞いに
見惚れているだけで過ぎ去る120分。
滅び行く古き男の姿は美しいもんだ。
その他要素は全て飾り。
当時のアラブを取り巻く国際情勢の駆け引きや
まだ見ぬセオドア・ルーズベルトとの間に生まれる不思議な友情関係
あるいは次第に誘拐犯の男気に惹かれ始める未亡人の心境
彼に父親を映してしまう少年の姿などなど。
ドラマ自体は多岐に用意されているのだが
主題と言うにはどれも薄味で嫌味も無いアクセント。
全編に渡る雄大なアラブの絶景と並び
あくまで主人公の魅力を引き締めるための味付けだろう。
何処を切り取っても
大作史劇としての充足感を満たしてはくれるが
それ以上は敢えて踏み込もうともしなかった
実に優等生な一本かな。
愛すべき「馬」映画としてなら満点。
『風の谷のナウシカ』 1984年
監:宮崎駿 主演:島本須美
★★★★☆
過去の戦争により崩壊した世界で
国家間の争いや自然と人類の共存を舞台に
一人の少女が駆け巡るお話。
伝説のアニメ映画。
まず丁寧に構築されたファンタジーの世界勝ち。
腐海と呼ばれる荒れ果てた大地や
様々なオリジナリティ溢れる機械デザインの数々。
近未来における画面からの説得力に目を見張る。
それだけの説得力を踏まえた上で
展開されるは科学進歩の話、自然と人類の生き方のお話。
そして主人公ナウシカが持つ狂おしいまでの少女性。
続々と登場する見所は最後まで飽きさせない。
人物像のクセは強めだが間違いなく傑作。
ただ、世界や主人公の印象が強すぎるせいか
他の登場人物の存在が少々弱めかな。
ナウシカ自身を追う以外の見方ができないのが勿体無い。
敵も味方もただ彼女のため存在に落ちぶれていて
まさに姫様映画だね。
『家族ゲーム』 1983年
監:森田芳光 主演:松田優作
★★★★☆
ごく普通の一般家庭のマンションに
息子の高校受験を前に家庭教師が出入りするお話。
日常生活において意識してはいけない
不快な騒音を徹底的に表面化した演出作。
特に食事が素晴らしい。
食事の様子を見れば、家族の関係性がわかると言わんばかりの
圧巻の寒々しさは一度見たら忘れられない。
日本における一般家庭。
一見して上手く回ってそうで、同時に何処か外れている。
そんな当たり前な家族4人の問題点が
家庭教師という外部による冷めた目線から
見事に浮き彫りになっていく家族ドラマ。
その役に敢えて一般人離れした
松田優作の存在感が合わさる面白さだね。
あんな怖い家庭教師を殴り返した次男の勇気に拍手。
シンプルなテーマながらも
言葉少なく含みを持たせた描かれ方が素敵で
とってもシュールな演出が冴え渡る傑作。
『ガタカ』 1997年
監:アンドリュー・ニコル 主演:イーサン・ホーク
★★★★☆
完全なる管理社会が展開されるSF世界観。
身体的なハンデを背負っている主人公が
あらゆる手を尽くして
制度上は許されない職業に付こうと努力するお話。
社会の障壁など本質的な困難には成りえないと
どこまでも足掻く主人公のバイタリティに惚れる。
とっても前向きな気持ちになれる一作。
逆に全てを手に入れながらも
事故により世を捨てざるを得ない男との友情関係が
テーマ性に綺麗な華を添える。
『火宅の人』 1986年
監:深作欣二 主演:緒形拳
★★★★☆
無頼派と言われた檀一雄の自伝小説。
彼の激動にまみれた情愛の物語。
私小説のパワーだよね。
何の事はない浮気の話なんだよ。
妻と愛人と実生活と夢のお話。
それが感想を求められば
一言「カッコイイ」と言わざるを得ない。
人の人生に文句など付けられるわけもなく
劇中でも「浮気小説」と自嘲する
現在進行形の自身の生活を赤裸々に語るという
その感覚にただただ感じ入る。
これが実に面白い。
結局は主人公の人柄なんだろうね。
どうしようもない駄目男ながら
その優しさと情念には降参。
心のままに動く割にとても理知的な不思議な人物像。
正直すぎるよ、このお方は。
そんな奥深い主人公を演じきった緒形拳がまた見事。
情緒たっぷりに人生模様を描く丁寧な一品で
あらゆる舞台が雰囲気を壊さずに練り込まれている
全く飽きさせない映像作品でもある。
そこに哀愁漂う大仰な音楽も合わさり
汚いはずのお話が不思議と綺麗に映る傑作邦画。
こんな人生をおくりたいような、おくたくないような。
『学校の怪談』 1995年
監:平山秀幸 主演:野村宏伸
★★★☆☆
夏休みの廃校に閉じ込められた子供達が
怪物たちに怯えながら冒険するお話。
一夏の不思議な体験を経て
ちょっとだけ成長する子供達という
王道中の王道が楽しめる極めて健全な作品だね。
地味ながらも手間のかかった廃校セットで
しっかりとした撮影が行われているのが素晴らしい。
子供達の間で伝わる怪談ネタを豊富に取り入れ
小学生らしい男女の関係性や、夏休みの空気感も大切にしており
彼らが抱えている悩みも重すぎず軽すぎずにgood。
ただホラー演出のレベルが高すぎる気はするかな。
あまりに事前の怖がらせ方が上手いので
実際に出てくる怪物のビジュアルが可愛すぎて
いざというシーンのたびに少々拍子抜けしてしまう。
可愛い奴、怖い奴、グロテスクな奴……と
モンスターの世界観が統一されてないのは何故なのだろうか。
どうしても1990年代半ばのVFXはちと惜しいんだよね。
21世紀の作品ならばもう少し自然だったろうが
そこまで時代が進むと、もうこんな堅実な映画は撮れないか。
子供達の自然な演技も実に丁寧で良い映画です。
野村宏伸の駄目兄ちゃんっぷりも楽しめる素敵な一本。
『カッコーの巣の上で』 1975年
監:ミロシュ・フォアマン 主演:ジャック・ニコルソン
★★★☆☆
刑務所での生活に嫌気がさした主人公が
精神の患いを装って精神病院へと移動して
そこで一波乱起こすお話。
何かが違うな。
精神を病んだ患者はもちろんだが
彼らを看ている職員や医者、看護婦たちも
どこか世間とはずれてしまっている。
主人公も暴力的な犯罪衝動の常習者で、
決してまともな社会生活を営めない病人ではあるのだが
彼はれっきとした人間の視点を持つ男。
そんな病まない状態の視点から映し出される
病棟の虚構が見事に出ているね。
病棟が何を目的として存在しているのか。
そこが全く見えてこないのが恐ろしい。
一体、医者や社会は患者にどうなって欲しいのか。
少なくとも自立という事ではあるまいね。
チャレンジする、自信を持つ、外に出る。
これらはキーワードとして何度も登場するが
彼らにとって何が正しいのかは難しい。
ただ、終盤にビリーが口にする「言う程の事ではない」は
至極真っ当な意識であり完全に健常者の感覚だろう。
それを母親に報告する男など全世界で0.01%も居ないはず。
そんな世間並の感情行為が許されないのならば
最初から患者には何も期待すらしてはいまい。
不当に場違いな男に掻き回された病棟ではあるのだが
ここまでの事件と、ここまで活力のある男が現れないと
意識のズレに気付けないというのは哀しいな。
『喝采』 1954年
監:ジョージ・シートン 主演:ビング・クロスビー、グレイス・ケリー、ウィリアム・ホールデン、
★★★★☆
落ちぶれた舞台役者の哀愁と
献身的な妻のお話。
人生の多種多様な物語が凝縮されて詰まった一本だね。
夫婦ならではの複雑な距離感や、世間との妥協の仕方
あるいは老いる事への恐怖でもあり
落ちぶれた者が持つ卑屈さでもある。
避けられない不幸や、忘れたい過去、新しい刺激への戸惑い………などなど
とにかく一筋縄ではいかない人間臭い要素に満ち満ちている。
ショウビズの厳しい世界を舞台にしながら
これら全てを飲み込んだ上で
きっちり人生の賛歌として歌い上げる
古きよき完璧な作品。
見方を変えればウィリアムホールデンとグレースケリーの
ロマンス映画としても取れるが
何よりも主人公として燦然と輝いているのは
弱き人間として足掻き続ける老役者で間違いない。
これはビング・クロスビーの映画だ。
『火天の城』 2009年
監:田中光敏 主演:西田敏行
★★☆☆☆
安土城建設に命をかけた宮大工達の物語。
題材は素晴らしい。
世界の何処にも存在しない城を作れとの命に
職人のプライドと責任が刺激される。
時代劇を舞台にしたモノ作り浪漫の映画。
熱いに決まっているさ。
しかし、作品としては伝わらない映画だった。
せっかくの登場人物のドラマが平凡で退屈。
何処にもない新しい城を作る連中のはずが
その内容が何処にでもある物連続ではナンセンスに過ぎる。
そして何より、安土城建設の規模が伝わらないのが致命的。
この建築作品で工程の膨大さが画面から見えてこないのであれば
映像化の意味とは一体なんだ。
原作は良い小説だが情景のスケールが違いすぎる。
『カプリコン・1』 1977年
監:ピーター・ハイアムズ 主演:エリオット・グールド 他
★★★☆☆
人類を火星へと送る有人宇宙飛行計画の頓挫を
偽装映像により隠蔽するお話。
アポロの月面着陸に纏わる都市伝説ネタを
そのまま映画化する発想はとても面白いのだが
社会派と呼ぶには一歩足りない構成かな。
突如、計画を知らされた飛行士達の危うい立場と
淡々と国家レベルで進行される茶番劇を描く
中盤までの程良い緊張感は素敵に見える。
しかし、若干目立つ粗の多い展開と
中盤以降のアクション映画かの様な活劇路線へのシフト変更が
やや興ざめに映ってしまう。
理想を曲げられた飛行士達の心模様を描くにしろ
残された家族の悲しみを描くにしろ
国家の威光を求めた欺瞞を描くにしろ
真実を追って孤軍奮闘する記者の活躍を描くにしろ
とにかく主軸の定まらない淡白さが惜しい。
壮大なBGMが重厚サスペンスを演出してくるのも
若干、作風とのミスマッチが響く。
『蒲田行進曲』 1982年
監:深作欣二 主演:平田満
★★★☆☆
京都の映画撮影所を舞台に
時代劇スターに付く大部屋俳優が
一人の女性と紡ぐ物語。
映画業界の滅茶苦茶っぷりを
大いに誇張しながらコメディタッチで描きつつも
その大筋は下っ端人生を送る男が見せた
実にまっとうな意地のお話。
とは言え、女や子供を何だと思っているんだという
古き世界はキツク映るよね。
もっとも、そんな時代への郷愁もあっての一本なのかな。
途中、あまりに勝手で酷い展開に心が痛むのだが
よくよく考えれば最初から酷い裏話を
罷り通してしまった連中の行く末なのだから
結局は、こうなっていくのも自業自得かね。
大階段から転げ落ちるシーンはあまりに有名。
ただここが視覚的な見せ場だけにとどまらず
お話の核としてしっかりメインに
「階段落ち」が座っている構成はお見事。
見ている側もそのつもりになって、固唾を呑んで待っていられる。
コメディというには重すぎるし
重さを見るにはふざけすぎる。
普通の映画と思ってみていれば
唐突に芝居がかった世界観にチェンジもする…
元々、映画の中の映画を見る舞台でもあるし
どこか煙に巻かれているような不思議な感覚が味わえる一品。
『神弓-KAMIYUMI-』 2011年
監:キム・ハンミン 主演:パク・ヘイル
★★☆☆☆
弓の達人である主人公が清王朝の刺客と戦うお話。
アクション映画としては、
似たような構図、展開の繰り返しで
やや、散漫な印象が残るかな。
序盤こそ面白い映像が拝めるのだが
そのあまりのしつこさに、
最早、弓の存在自体に途中で飽きてしまう本末転倒ぷり。
また、追われる者の緊迫感を出すためか
最後まで一貫して手ぶれカメラの映像演出が多用されているが
これに120分は耐えられないだろう。
ドキュメンタリーなどでは良いかもしれないが
アクションメインの作品ではさすがに疲れてしまう。
清朝に侵略される17世紀前半の朝鮮半島という舞台は新鮮で面白いが
肝心のアクション部分が上記のデキで
ドラマ部分も薄味仕立てとくれば
どうしても見所は薄い一本かな。
韓国映画が得意とする
やり過ぎくらいな大真面目さも見られず
どちっち付かずで終わった映画だろう。
『カムイ外伝』 2009年
監:崔洋一 主演:松山ケンイチ
★☆☆☆☆
抜け忍として永遠に命を狙われ続ける主人公が
行く先々にて……というお話。
出来ない事をやろうとしてはいけない。
これは絶対だと思う。
肝心要のアクションシーンが本当に安い。
CGや特殊効果によって作られた映像は
狙われたC級モンスターパニック物と何ら変わらないクオリティで
この仕上がりでどうしてCG前提のシーンを多用しようと思ったのか謎。
また物語も、設定やカムイのキャラクター性に頼りすぎており
どんなに心を寄せても、寄せる側、寄せられた側共に
絶対に不幸になるという不文律ありきでは
過程の妙や悲壮感が全く見えてこない。
むしろ、自業自得な感じすら受けてしまう駄目っぷり。
尺も長めでこの作りでは持たないだろう。
主演の松山ケンイチだけが過度に頑張っているのが切ない一作。
『花様年華』 2000年
監:ウォン・カーウァイ 主演:トニー・レオン、マギー・チャン
★★★☆☆
隣同士の貸家に同時に越してきた
二組の夫婦が紡ぐ不倫のお話。
劇中の全てが男女二人のためのみに存在し
余計な装飾は何も無い。
基本、情報は徹底的に絞られ
主題である男女の関係性すら断片的な映像から想像するしかなく
様々な妄想を掻き立てられる構成が何とも楽しい。
先に不倫関係を持っていたはずの
互いのパートナーに至っては顔も映らないのだから
ストイックに過ぎる一品だろう。
一見、退屈な芸術映画のような印象を与えつつ
全ての色彩や音楽、間の取り方までもが
素人目で見ても素直に美しいだから見事だね。
欧州映画の気だるい雰囲気を多分に含みながらも
しっかりとアジアンな美しさも同居されているのは見事。
こんな経験は誰にも無いだろうが
美化された過去という存在そのものは
皆、このレベルで美しい代物ではなかろうか。
彼らが見せる刹那の情愛を足がかりに
自己の人生を懐かしむための映画かな。
『からみ合い』 1962年
監:小林正樹 主演:岸惠子
★★★★★
末期癌により死期が迫った資産家の遺言をめぐり
三人の隠し子を各々で立て合う醜き争いの様を描くお話。
当節風に言うならば、これは「昼ドラ」だよね。
そこまでやるかと叫びたくなる
魑魅魍魎が住みつく実にドロドロした世界観が素敵。
しかしそこは松竹、小林正樹監督。
この題材においても一つの滑稽さもおふざけも用いない
真面目も真面目の大ノワールに仕上がった奇跡の一品。
研ぎ澄まされた演出と展開の数々は
観客に一分たりともツッコム隙を与えない。
よくもまあ100分強の時間の中に
これだけ多彩なキャラクターを紹介しきって
しかも全員が悪人で、全員が何らかの陰謀を企て
そして各々が破滅するまでを描き切れるもんだよ。
ただただ、自己の欲望のために忙しなく動き回る
彼らの行動力に圧倒されるのみ。
加えて画面狭しと醸し出されている
時代を映すハイセンスな情緒が素晴らしい。
冒頭、街中を闊歩する岸惠子の立ち居振舞いから
要所要所を盛り上げるジャジーなBGMも含め
その全てが絶妙にお洒落。
こんな腐ったお話でありながら
視聴後に良い映画だったと納得できしまうのは
細部にまで拘りぬかれた気品だろうか。
役者の妙ってのもあるだろうか。
どんなジャンルであろうとも
その頂点を見た気にさせてくれる映画は
傑作に決まっているさ。
『借りぐらしのアリエッティ』 2010年
監:米林宏昌 主演:志田未来、神木隆之介
★★★☆☆
古い人家に代々隠れ住んできた小人種族と
病気療養で田舎を訪れた男の子との交流のお話。
まず目に付くのは映像の美しさでしょう。
旧家の庭や調度品の数々を描いた情緒ある背景は、
どこを切り取ったとしても
全てが一つのアート作品として成立するような見事な描き込みっぷり。
そこに小人目線で展開される不思議な視点と縮尺が加われば
ただの田舎景色が完全にファンタジーの世界に早替わり。
理屈抜きにアニメーションの見事さを堪能できる一本。
お話は綺麗だね。
死を間近に控えた少年だからこそ口にできる
滅びゆく種族への複雑な感傷。
そしてそんなおせっかいを振り払い
強く誇り高く生きてゆく小人の少女。
もちろん二人の運命は今後の人生で交錯する事はなく
ひと時の思い出と共に訪れる別れへと繋がる。
まさに王道中の王道。
その模様はただただ美しくそして淡い。
小粒な作品ながらとっても丁寧なお仕事が楽しめる
ジブリらしい一本ではないだろうか。
座敷童子的な物語なのかな。
人家に住み着く不思議な存在という点では
むしろ日本には馴染みの深いテーマだよね。
消え行く哀愁も含めてね。
『狩人の夜』 1955年
監:チャールズ・ロートン 主演: ロバート・ミッチャム
★★★☆☆
殺人鬼の魔の手から健気な子供達が逃げ続けるお話。
未亡人の母の元に再婚相手として
見知らぬ男が入り込む恐怖というのは
子供主観の作品においては最高のテーマだね。
ましてそれが、亡き父の隠し財産を目的として近付いた殺人鬼となれば
舞台は完璧すぎる程に整っている。
敵側のキャラクター像で勝ち確の一本だろう。
恐怖の対象は淡々と世間を騙し続けるポエマー殺人伝道師。
繰り返される聖書の引用や、権威や表層に踊らされる人々の愚かさが
白黒ならではの陰影全開の映像表現とあいまって
一々、彼の言動全てに不気味さを助けている。
繰り広げられる素晴らしきも胡散臭い説教の数々も必見。
自分の言葉には誰も耳を傾けず
相手の言動だけが信用され取り上げられる…
いつの世もこの立場に置かれた側は怖いよね。
まして自身は子供、相手は聖職者。
この力関係の差がそのままサスペンスホラーの力になっている。
基本的には殺人鬼側が主役の映画だが
それでも父との誓いを守り、ただただ耐え忍び戦い続ける男の子の姿は
健気を通り越して凛々しいね。
『ガルシアの首』 1974年
監:サム・ペキンパー 主演: ウォーレン・オーツ
★★★★☆
権力者の娘と関係を持った間男の首に
100万ドルの賞金が懸けられる。
その賞金に自身の人生の転機を賭けた男の物語。
大筋だけを聞けば、高額賞金首をめぐって繰り広げられる
アクション映画かとも思うのだが
この作品はあくまで大金によって人生をやり直そうとする
一人の男を映し続けるロードムービー。
道中は圧倒的な気だるさに包まれ
ひたすら情緒たっぷりの男女愛を確かめる旅の姿が映し出される。
しかし、賞金首によって心機一転を図るなとどいう
刹那的な目標が簡単に成就するくわけもなく
結果、男は人生で一番大事な物を見失ってしまう。
まさにこの一点、その後の男が醸し出す哀愁こそが
今作の肝。
全く同情こそできないながらも
その虚しさに思わず心を掴まれてしまう。
サム・ペキンパーならではの銃撃シーンも登場して
メキシコ無法暴力シリーズとしての側面もありつつも
やはりメインは前述の彼が辿る人生の顛末だろう。
途中、何か一つ異なる価値観に気付ければ
また別の幸せも手に入っただろうにね。
切ないな。
首をめぐる映像の泥臭さも必見。
『カルメン故郷に帰る』 1951年
監:木下惠介 主演:高峰秀子
★★★★☆
東京で踊り子として成功した家出娘が
浅間山ふもとの古めかしい田舎村に
里帰りして巻き起こす一騒動。
1951年公開の作品で
長編のメジャー映画としては
日本初のフルカラー作品と言われる一本らしい。
それを嫌という程に意識しだたろう絵作りがまず美しいね。
田舎の原風景これでもかと見せつける
雄大なカットの連続と対比させるかのような
踊り子たちが身に着ける衣装のド派手なことよ。
赤、黄色、緑といった原色チックな人工的な色合いがまた美しい。
時代時代の最高のリマスター版でで見るべき一本だろう。
これがテレビ放送すら開始する前の1951年の映像かと驚かされる。
作品自体は、全編が緩いタッチで描かれた
とっても楽しくふざけた空気のコメディ映画で
ほぼほぼ深刻な展開もないんだけど
どこか、田舎村の良識的なオジサン達のふるまいと
東京ナイズされた若い娘との意識の間には
絶望的な噛み合わなさが存在する事を見せてくる。
最後まで劇的な展開はなく、娘と親、都会と田舎の溝は
何一つ埋まる事なく物語は終わっていくんだけど
結局、各々が自分なりの解釈を勝手に持ち合う事で
確かに、皆が少しだけ幸せにはなっているという現実は
どこか素敵な気持ちにもさせてくれるね。
なるほど、それで構わないのかもしれないなと素直に思わせる力がある。
それを直接的に価値観が対立するようなシーンを全く用いず
平和なコメディに徹した空気で描き切ってるのがだから
凄いバランスの作品だね。
なお、この時代にして保守的でインテリチックなお爺ちゃんとしての笠智衆の姿は
もう存在自体がギャグとして扱われているんだね。
出るだけで笑えてくるかズルいよ。
『華麗なる賭け』 1968年
監:ノーマン・ジュイソン 主演:スティーブ・マックウィーン
★★★☆☆
綿密に計画された銀行強盗により
200万ドル以上の大金を華麗に強奪した男と
その犯人を追う保険会社の女性調査員とのお話。
舐めとんのか。
なんだこの映画は。
最初から最後まで延々とカッコよすぎる
スティーブ・マックイーンを見せられるだけだよ。
「僕が考えた世界一カッコいい男」妄想を全くブレずに
本気で映像化したような恐ろしい作品です。
でも普通に面白いんだよな。
しかしこの保険調査員のやり口はエグイね。
どちらが犯罪者だかわからない。
しかしそんな彼女と真っ向から
男として勝負する主人公の態度がよりエグイ。
どういう展開だよと思わず突っ込みが入る
謎の方向へと話は進む。
何を芸術映画っぽい雰囲気出そうとしてるんだと
視聴者からの総ツッコミ間違い無しの
オシャレ一筋のエンターテイメント。
『華麗なるギャツビー 』 2013年
監:バズ・ラーマン 主演:レオナルド・ディカプリオ、トビー・マグワイア
★★★☆☆
アメリカウォール街が狂乱に酔った1920年代を舞台に
ある大金持ちの悲劇を描いたのお話。
あらゆるカットがややファンタジー寄りに
現実とは思えない質感で作られているのが面白いね。
とにかく雑多で、豪華で、カラフルで…
ある種、妄想の世界すら思わせる不思議な映像美は
大富豪達が織り成す次元の違う馬鹿騒ぎにはピッタリだ。
このセンスだけで画面が古臭ささから解放され
まず目から楽しめる一品に仕上がっている。
ただ、物語は全く逆の方向へと進むんだね。
結局はエゴ全開の傲慢な上流階級が
如何に醜悪な姿を見せるかというお話だろう。
その権力も、資産も、血筋も、紳士然とした教育も
彼らを良き人間に導く効果を見せているとは思えない。
皆がそうである。
その点は誰もが同じなのだが、
ただ一人、ピュアに過ぎたが故の変人であった
ギャツビーだけは汚い男ではなかった。
傲慢な変人ではあるが、決して世俗に塗れた男ではなかったな。
真実を知りながら沈黙を選んだ主人公が後に病んでしまうのも
彼だけが別人種であった事を深く認識していたからだろう。
華やかさの裏側をスマートに描いた
実にスピーディーな一品で
内容からすれば驚く程ライトに楽しめる構成が見事。
それにしてもレオ様は一体どれだけ精神を病めば
気が済むのだろうか。
『華麗なる激情』 1965年
監:キャロル・リード 主演:チャールトン・ヘストン、レックス・ハリソン
★★★☆☆
天才ミケランジェロが挑んだ
伝説的な天井画製作の物語。
まるで大作史劇映画を見ているかのような
手の込んだ映像世界が素晴らしい。
一人の芸術家が思い悩むだけの閉じたお話なのだが
まるで16世紀の上流社会に紛れ込んだかのような
贅沢な気分に浸れる説得力に満ちている。
序盤の戦闘シーンが見事な先制パンチだね。
冒頭、10分近いミケランジェロ作品の解説パートはさすがに退屈だが
1960年代にこのクオリティのフィルム映像で
彫刻の数々を紹介する事はそれだけで一つの価値があったのだろう。
本筋が始まってしまえば実に明快な展開で
全ては権力者である教皇ユリウス2世と
芸術家、彫刻家であろうとするミケランジェロの
意地っぱり二人が延々と喧嘩するだけのお馬鹿映画。
荘厳なヨーロッパの空気に浸りながら
彼らの情念に感じ入るも良し。
『華麗なる相続人』 1979年
監:テレンス・ヤング 主演:オードリー・ヘップバーン
★★★☆☆
一族で経営を占める大手製薬会社総帥の
不可解な死亡事件をきっかけに
後継者の娘に訪れる様々な困難を描いたお話。
謎が謎呼ぶというよりは
登場人物が多すぎて掴みきれない映画だろうか。
創業者の娘は一人だけ。
ただし、彼は創業当初より弟達を使っていたため
今の重役は従兄弟だらけという不思議な状況。
彼らの紹介が少し急展開に過ぎるのかな。
癖はあるが個性は薄めで把握しにくいのが難点。
基本はそんな強硬な連中に囲まれた主人公の
気丈な姿に惚れる一品だろうね。
娘と言っても相応なオバさんなんだけど
そこがまた可愛いのだからオードリー・ヘップバーンは凄い。
最初から父親の死が事故ではないという確信がある作りのため
一体、誰が犯人なのかという一点で
引っ張れるだけ引っ張れる一品です。
周囲全員が脛に傷持つクソ野郎だけに
もう誰でも有り得るわけだよね。
ただ一人、主人公に理解を示してくれる男である
一族外の経営プロとしての重役が特異だが
主人公が恋に落ちる彼すらも謎と言えば謎の存在。
主人公が何をするでもなく誰かが明確に動くでもなく
あくまで受身だけが続く展開は少し退屈かな。
どこにも落ち着きどころなく
不気味なままに淡々と物語が進むサスペンス作品。
『眼下の敵』 1957年
監:ディック・パウエル 主演:ロバート・ミッチャム、クルト・ユルゲンス
★★★★☆
第二次大戦期の大西洋を舞台に
駆逐艦vs潜水艦の戦いを描いたお話。
一艦vs一艦。
全編通してコレ一本勝負の映画。
相手の目的もわからず、細かい任務も知らない中
ただ敵同士であるという認識だけの元に
追う者、追われる者の立場で延々戦うんだよ。
顔すら知らない二人の艦長が育む友情に近い
知恵と勇気の戦いが異常な緊張感の元で続いていく一品。
専門用語や細かい艦内の描写も冴えに冴え
100分程度の尺を密度いっぱいに詰め込んで
それで映画が持ってしまうんだから凄い。
アメリカ側もドイツ側も艦長がカッコ良すぎるね。
厭戦感を出しながらも任務を淡々とこなす頼れる姿は
戦争を肯定的に捉える際の典型的な良軍人のイメージ。
艦内においても人間ドラマを多用せずに
両艦共にプロフェッショナル達による
徹底したお仕事の様が拘られている。
別に憎しみ合って戦うわけではない。
こんな戦いの先にも何かが残るはずという
最大限の希望をもった楽観的な世界観が
一つの開き直りとして成立はしているね。
しかし、鉄の棺桶とはよくいったもんで
潜水艦の中ってのは嫌なもんだね。
特撮や大掛かりな撮影だけでも十分楽しめる
1957年公開のカラー映画。
『ガンジー』 1982年
監:リチャード・アッテンボロー 主演:ベン・キングズレー
★★★☆☆
「非暴力、非服従」を唱えインド独立運動を展開した
ガンジーの生涯を描くお話。
これ程に強烈な主義があろうか。
抵抗という物の極地だよね。
虐殺する敵に対し「手に入るのは死体だけ」と言い放つその姿。
それを全員に本気で言われれば確かに奪える物は何も無い。
非服従の過激さに拘る傍らで
イギリス製品の不買運動であったり
塩の独占製造権への干渉であったりと
運動内容そのものの裏は実に堅実。
ヒンズーとイスラムの共存するインドという理想も含め
彼の野望はしたたかなのです。
映像で見せられる非暴力、非服従に基づく運動は
理屈から想像する以上に大胆な行動なんだよね。
そこを淡々と真摯に描いていく地味さが
かえって贅沢な雰囲気を醸し出している良作。
何より素晴らしいのが主演のベン・キングズレー。
もはや完全にガンジー本人でしょう。
このキャラクター抜きに成立する映画ではなく
彼の不思議な憎めなさこそが物語の本質か。
『ガントレット』 1977年
監:クリント・イーストウッド 主演:クリント・イーストウッド
★★☆☆☆
重要裁判の証人護送任務を受けたハネっかえり刑事が
上司に裏切られ殺されそうになるお話。
最初から最後まで男と女の二人旅の映画だね。
バイクチェイスもヘリコプターチェイスも
ド派手な空撮も大規模銃撃シーンも思う存分てんこもり。
大サービスアクション映画。
基本的には雑にすぎるシナリオと
突っ込みどころ満載の展開の連続からなる
アクション映像重視の典型的な作風ながら
今作が1977年公開作品であることを考えれば
後の世にアホほど増えるアクション映画ジャンルの空気が
既にココにあるわけだよね。
典型と言うよりは典型を作った映画の中の一本ではなかろうか。
それでも、今で言うイーストウッド節が
この内容の作品にも所々に感じられるのは不思議な感じ。
信じてきた正義に裏切られて
価値観が揺らぎボロボロになる主人公像も良いが
男の汚さを知りつくしている売春女が
社会全てが敵かのような状況から逃げる過程で
女性に傲慢な態度を取る暴力刑事と互いにリスペクトを高めあっていく
男女哀愁たっぷりの姿も良い。
最後には命より大事な尊厳への意地を張るという
まさに後の大監督「イーストウッド」映画そのものが見られる。
70年代B級アクション映画の中にも
その片鱗が十分に見えているのは中々楽しい
監督として、役者としてのイーストウッドが全開。
彼程にカッコよさと苦味が似あうスター俳優も居ない。
『カンナさん大成功です!』 2006年
監:キム・ヨンファ 主演:キム・アジュン
★★★★☆
醜い容姿のために恋も歌手への道も閉ざされたと思い込んだ主人公が
命がけの整形手術で全く別人としての人生を歩み直すお話。
完璧な映画。
一見するとコメディ調のノリや設定に見えながら
その実、まるで薄氷の上を歩いているかのような
不安感と緊張感に終始支配される本格派。
誰よりも純粋という魅力に溢れていた主人公が
全てを嘘で塗り固めたスターへの道を歩む姿は辛いだろう。
憧れだったプロデューサーとの恋愛とて
そんな物は最後まで上手くいくわけが無いんだよ。
しかし、やった以上は元には戻れないのだから
一体どう落としどころを付けるのだろうか。
多いに笑わせてもらえるスマートなエンタメ作品ながら
どうしても誰もが幸せになるハッピーエンドが想像できないという
絶望的な不透明感が常に心に引っかかる。
この二点が綺麗に共存できているのには恐れ入る。
整形は往年のハリウッド女優でも当たり前だったと言われているし
芸能界とは切っても切れない要素だろう。
劇中、特徴的な台詞に
「男は整形を肯定するが、自分の恋人には絶対に許さない」と言うのがある。
人工的に弄った女性を軽蔑しながらも
異性に整った容姿を求めているのも事実。
ならば主人公はどうすれ良かったと言うのか。
この難しいテーマを正面からきっちり取り上げて
最後に相応に前向きな人生観を提示できるのは凄いね。
どれだけ反則級の良作なのだろうか。
『カンニングモンキー天中拳』 1978年
監:チェン・チーホワ 主演:ジャッキー・チェン
★★★☆☆
口ばかりで腕はからっきしというお調子者の主人公が
いつのまにやら悪党達の争いに巻き込まれるお話。
やりたい放題の一作だね。
もはやカルトの域。
冒頭のスローペース、主人公の繰り広げる悪ノリの数々で
即ギブアップという方も多いだろう作品だが
中盤以降におけるカンフーアクションの多彩さは見事。
この殺陣を考えた人は間違いなく天才だよ。
動きの一つ一つはシャレ以外の何者でもないながらも
それを実現しているのは紛れも無い究極の運動美。
この不思議な融合がノンストップな楽しさを醸し出す。
アクションは殺陣であり、型であり、踊りでもあるんだよね。
これを創作したというのは凄まじい。
しっかりカンフー自体を主役に作ってるよね。
穴だらけのストーリー、唐突なキャラクター
主人公のアクションに対する説得力の弱さ
とりあえず出してみましたといった具合の武侠風の設定。
いくらでも突っ込みドコロはありながら
基本、パロディ映画である事は冒頭から説明済み。
序盤を除けば一芸で突っ走れる素直な一品。
『カンフー・カルト・マスター 魔教教主』 1993年
監:バリー・ウォン 主演:ジェット・リー
★★★☆☆
金庸の傑作武侠小説
『倚天屠龍記』の映画化作品。
武侠=「武道+任侠」と思って問題なし。
半ばコントのような突っ込みドコロ満載の
香港テンション作品ではあるのだが
原作の大筋や世界観が魅力的にすぎるため
そんな作りでも先が気になって仕方が無いのは見事の一言。
優柔不断な主人公による
ハーレム物の元祖と言っても良い作風で
個性に溢れた多彩な創作人物と
実際の歴史が微妙に絡み合う瞬間に起こる高揚感は
大河歴史小説の特権、天下一品だろう。
ただあまりに超スピード展開で進むダイジェスト仕立であるため
結局は原作を読んだ上で顔を綻ばせながら楽しむか
この作品から原作に興味を持ってもらうか
どちらかの選択肢しか与えられないは残念だね。
テンポ良く繋ぐアクションシーンは上々だが
後に世界的なスタイリッシュCGアクションの
全盛時代が来る事を思えば、
少々、時代は早すぎたのかもしれない。
堅実で高度な技術によるカンフー映像が楽しめる一本。
あと2〜3作は続くような終わり方をするが
続編は作られずこれ一作をもって打ち切り終了らしい。
実に惜しい。
『キー・ラーゴ』 1948年
監:ジョン・ヒューストン 主演:ハンフリー・ボガート
★★★☆☆
戦友の遺族を訪ねフロリダを訪れた主人公が
ホテルでギャングの取引に巻き込まれるお話。
密室物だね。
そういう現場において自身は何ができるのか
そして何をすべきなのか。
いつももう一歩踏み込めないという主人公も
周囲と自身のあり方にイライラしているギャングの親玉も
どちらも人間味があって素敵。
極端な行動を取らせて注目を集めるような手法とは無縁な
しっかりとした人間の緊迫関係が最後まで続く良作。
画面はボギー一人が目立ちすぎな気もするけど
これも映画だよね。
『飢餓海峡』 1965年
監:内田吐夢 主演:三國連太郎、左幸子
★★★★☆
北海道で引き起こされた殺人強盗事件の一端と
捜査過程を描いたお話。
女の情念が持つ恐ろしさに震える一本だね。
愛して愛して、想って想って
結果的に男女共々身を滅ぼすわけだから
何と恐ろしい事か。
序盤こそ馬鹿な女と思いながらも、
実はこの女だけが主人公の本性を見抜いていたのかもしれないね。
出会った際の直感こそが事件の真相そのものだろう。
男も女も汚い金で身を起こしてきた事は一緒で
ある意味で共通の人生なんだよね。
しかし女は想いを貫き通し、男は過去を捨てようとしたわけだ。
ヒロイン左幸子の怪演に酔いしれるべし。
飢餓海峡の名の通り
極貧社会に対する怨念めいた物が感じられる作風で
全編に漂う不気味さと虚無感を雄大な撮影で実現した超大作映画。
一度味わった安寧を人は捨てられまい。
終始、緊迫感に満ちた情念サスペンスが楽しめる
内田吐夢監督による見事な一品。
『紀元前一億年前』 2008年
監:グリフ・ファースト 主演:マイケル・グロス
★☆☆☆☆
超低予算で、何処までアクション超大作"風"の物が作れるか
ひとつの挑戦。
パロディ映画というわけではない。
製作陣のレベルが割と高めで
バカB級で笑いたいと期待すると逆に肩透かし。
どんな映画かの展開を読ませないのは見事。
ただ、大作風のSFアクションが見たければ
素直に金かかった大作見ればよいわけで
それで映画としての満足度が上がるわけではない。
やや企画が謎な一本ではあろうか。
『危険な遊び』 1993年
監:ジョセフ・ルーベン 主演:イライジャ・ウッド、マコーレー・カルキン
★★★☆☆
母親を亡くした主人公が
引っ越した先で一人の少年と出会う。
二人は友達になるがその少年は……
少年物はこれだからやめられない。
妄想とその具現化という一つの側面を押し出した映画。
たとえ反社会的な行為であろうと、
それに凝りだすと止まらなくなる男の子というのが良い。
マコーレー・カルキンは可愛いだけの子役ではない。
少しづつ、少しづつ、その笑顔が恐ろしくなっていく様が本当にお見事。
彼無しでは成立しない作品だろう。
他人なのだから、得体の知れない所があるのは当たり前。
でもそれをどの程度許容していけるかは
少年にとっては面白いお話だよね。
線引きの映画だろうか。
『奇跡の人』 1962年
監:アーサー・ペン 主演:アン・バンクロフト
★★★★★
誰もが知っている三重苦の障害を持った
ヘラン・ケラーの少女時代を描いたお話。
サリバン先生が家庭教師に来てから
ヘレンが言葉を理解し学ぶ楽しさに気付くまでの物語だね。
題名の「奇跡の人」というのは
もちろんサリバン先生の側を指します。
重くなりがちな舞台設定にもかかわらず
とってもシンプルな対立構造が見やすくて良いね。
あくまで可哀想な娘として何不自由なく暮らせれば良い両親と
一人の人間としての自立までを考えるサリバン先生の対立だね。
しかし、ことはヘレン自身の問題なのだから
そう主義や主張の話として上手くいくはずもなく……
本当に芯の強い人とはこういう事かと唸らせられる執念の一作。
圧巻の緊張感が楽しいね。
特に食堂にて10分近くも一切の言葉無しで
ヘレンと意地を張り合うシーンは素晴らしく
思わず息を呑む緊張感が全編に渡って楽しめる傑作。
『ギターを持った渡り鳥』 1959年
監:齋藤武市 主演:小林旭
★★★☆☆
ギター一本を手に流れ流れる若者が
行き着いた街にて大活躍をするお話。
馬鹿な映画だねー
これほどに中身のない映画は早々見られた物ではない。
ところが不思議と心地良いんだよ。
ただただ、小林旭の二枚目っぷりを楽しんでいれば
80分という短い時間など一瞬だろう。
真面目に見れば5分に一回は苦笑いは避けられない。
ところがあまりに執拗に繰り返される
非現実的な見栄の切り方や展開の数々に
気付けば次の仕掛けや台詞は何だろうかと
期待してしまっている自分が見つかる。
そんな詐欺みたいな偶像ヒーロー映画かな。
ある意味ではマカロニウェスタンの先取りとも言えようか。
この作品への感想はただ一言あればOK。
はい、カッコいいです。
『北国の帝王』 1973年
監:ロバート・アルドリッチ 主演:リー・マーヴィン、アーネスト・ボーグナイン
★★★★☆
世界恐慌後のアメリカにて
列車の無賃乗車によって大陸中を渡り歩く
独特の価値観を持った失業浮浪者。
そんな「ホーボー」と呼ばれる連中が居たらしい。
その中で帝王とまで呼ばれたNo.1エースの主人公と
タダ乗りだけは絶対に許さないという拘りを持つ
究極の暴力車掌の飽くなき戦いのお話。
なんと言うくだらなさか。
もはや意地と意地とのぶつかり合い。
ホーボーを突き落とす事だけが生きがいかのような車掌と
そんな車掌だからこそ、タダ乗りを挑んでくる主人公による
完全にプライドに命を賭けた戦いだね。
合理的な目的も何もあったもんじゃない。
その手段が実に多彩で面白い。
二人とも、そこまでやるかと叫びたくなる呆れたクズ行為の繰り返しで
思わず感心させられるアイディアの宝庫。
本来、単調なはずの展開に全く退屈する事がないから見事だね。
物質的に価値の無い事に本気になれる連中の姿には
確かな輝きはあるだろう。
一芸を見事に描ききったアクション傑作。
『キッド』 1921年
監:チャーリー・チャップリン 主演:チャーリー・チャップリン
★★★☆☆
捨て子を拾い育てる事になった男のお話。
貧しくも毎日を生き抜く男と可愛い子供との珍生活が
実におもしろ可笑しく描かれる良作。
チャップリン独特のコント展開は
どれもテンポが良くスマートな仕上がりで
それでいて物語をもその中に内包させる
観客を飽きさせない完璧な作り。
ただし、具体的なドラマ性は薄めかな。
貧しさ故に子供を捨てた女性が
数年後、成功の末に我が子と再会する展開があるのだが
ココで今まで親子関係を築いてきた
主人公の心情を期待すると肩透かし。
この作品はそこまで表現として踏み込んではくれない。
後の作品を見た感覚では
子供の将来を案じて切なくも自ら身を引くチャップリンの姿が
容易に想像できるのだが、
ここはテーマだけを伝えて、
シンプルすぎる程にシンプルな映像で締め。
50分程度の短編と思えばこれも上々だろうか。
『狐の呉れた赤ん坊』 1945年
監:丸根賛太郎 主演:阪東妻三郎
★★★★☆
荒くれ者の河越人足である主人公が
見ず知らずの捨て子を育てるお話。
ザ・人情劇。
喧嘩ばかり、酒酔いばかりのヤクザな男が
ついつい子供に情愛を移してく様が
実に小気味良く描かれている。
人情役者としてのバンツマが実に良い。
男が持つ仕様もない不器用さを
見事に体言したキャラクター性で
大きな事件が起こるわけでもない中で
気付けば主人公に夢中になっているのは
彼が如何に愚直な男かが
画面を通して直球で伝わってくるからだろう。
子供の幸せを願う心は不変の題材ながら
ココに一切のクドさを感じさせない見事な一本。
『機動戦士ガンダム』 1981年
監:富野喜幸 主演:古谷徹 他
★★★☆☆
宇宙への移民政策が進む近未来。
そのあまりの過酷さに、ついに一部宇宙コロニー郡からの
独立戦争が始まってしまうというお話。
気付けば設定が怪物のようになっている世界観だが
初代劇場版は普通に一本のエンターテイメント映画として
完璧に成立しているのがお見事。
描く範囲が一戦線における主人公御一行に限定されているため
無理がなくしっかりと丁寧に話を理解できる。
家族への反発であり、現実を前にしての挫折であり、大人への成長であり
恋愛にも程遠い淡い恋心であり……
中身は典型的な王道少年物。
それを無駄の無い綺麗なテンポで
見所の有るド派手な展開に乗せて見せてくれる。
気付けば終幕と言う密度の高さ。
ただあまりに普通な作りのために、
アニメにしては頑張ったという印象も拭えない。
これは後の監督の作品が
「アニメ以外では表現できない」域に達しているからだろうか。
ガンダムを見たいと言う人が居た時は
必ずこの三部作から薦めている程には完成度が高い。
『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』 1981年
監:富野喜幸 主演:古谷徹 他
★★★★☆
前作よりも世界全体の事が描かれ始めるが
エピソードの多くは、より各キャラクターの物語へと集中されていくため
一気に若者群像劇の様が強くなる。
戦争の非日常性の中で個性豊かな少年少女が、
その様々な体験を元に前に前にと進んでいく姿が
実に丁寧で素晴らしい。
目の前に起こっている現実との直面、心の対決こそが
少年映画として必要な全てだろうか。
間の一本という事で、全体のストーリーから言えば
やや盛り上がりに欠ける感があるが
その分、じっくりと一つ一つのエピソードごとの
キャラクターの心情を描けた良作。
『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』 1982年
監:富野喜幸 主演:古谷徹 他
★★★☆☆
完結編。
前作より雰囲気は一変し、描かれるのは世界の話、戦争の行方
そして主人公であるアムロ中心の物語へとエピソードの比重が傾いていく。
各キャラにも見せ場はあり、ロマンチックなシーン、劇的な展開は多くなるが
それに反比例して人の心を描いている暇はなくなっていく忙しさ。
宇宙に出た事による人間の革新、あり方までもがテーマとして登場し
贅沢にガンダムの世界観を広げていく。
ただ話は面白いが、それが一本の映画として綺麗に噛み合っているわけではなく
全体から見ると散漫な感じも受ける三作目。
直接関係はないが
「エンタメ → 人物描写 → 人類、観念の話」と言う流れは
三部作のスターウォーズそのもの。
この最終作は先取りとすら言えるかもしれないね。
最後に主人公達が到達した立場は無理なく纏まっていて
かつ、適度に謎と余韻を残しつつの幕引きが
後の作品への世界観にも深みを持たせている。
元々、主人公御一行様を中心とした話であったのだから
この終わり方こそが最良。
ロボット、アニメと毛嫌いせずに見て欲しい良い作品。
『機動戦士Ζガンダム-星を継ぐ者-』 2005年
監:富野由悠季 主演:池田秀一、飛田展男
★★★☆☆
前作から7年後の世界を描くお話。
地球連邦軍は、徹底した地球型支配を目指す保守派と
宇宙開拓民との共存を探る急進派に割れていた。
前作と同じくTV版の総編集映画。
ただし、打ち切りではなく完璧な形で終了した作品のため
再編集にあたり無理のない構成で綺麗に三部作として配分されている。
むしろTV版は毎回の同じ展開の繰り返しや
過度に強調されたロボット面での宣伝が多いため
今作くらいの無駄を省いたハイテンポの方が
人物やストーリーに集中できるかもしれないね。
この続編は甘くはない。
前作のような美しさは全く存在せず
もちろん、そのままの展開を踏襲するようなファンサービス作品でもない。
一作品の世界観を掘り返すとはこういう事だろう。
見る側に徹底した現実を見せ付けてくる本格派で
特に新主人公であるカミーユは強烈そのもの。
彼の身勝手さ、未熟さ、傲慢さ、そして素直さ、その全てが見事に刺さる。
しかしそんな人間を作るその鬱積した環境こそが
腐った世界に対する全ての答えか。
展開の仕掛けの面白さで十分に見られるが
何より主人公の人となりを追うだけでも楽しめるだろう。
前作の3作目が既にそうであったように
ガンダムは人と世界の観念の話でもあるんだな。
初作は初代からの登場人物が一旦集合し
アムロとシャアが出会うという最高の状態で次回に繋がり
少し丁寧すぎる世界観の説明も含めお披露目としては完璧。
旧作カットと新作カットの混合は慣れかな……
と言うより気にかけている暇が無い程にスピーディーな作品だ。
『機動戦士ΖガンダムII-恋人たち-』 2005年
監:富野由悠季 主演:池田秀一、飛田展男
★★★☆☆
第二段。
どんな状況の中でも、人間は生きている限り
相応しい関わり合いをするもんだ。
様々な人物、様々な形でそれが繰り広げられ
あるケースは微笑ましく、またあるケースは果てしなく痛々しい。
まさにタイトルの通りの一本。
決して視聴者が期待するような型通りにはいかないのは
彼らが確かに生きている人間だからだ。
展開は変わらずに早めだが
説明的な台詞が程よく挿入されるため
しっかり見ていれば十分に理解はできる程度かな。
むしろ目まぐるしく現れては消える登場人物達の
刹那の輝きこそを堪能する映画だろうか。
これだけ複雑、かつ広大な世界においては
一概に把握しきれない程の多種多様さがあって当たり前。
魅力を一瞬に凝縮するそのダイジェスト感が逆に心地よい。
特にライバルというわけでもない立場で
一方的に主人公カミーユの影を追い求めるジェリドというキャラクターが素敵。
彼の固定概念にがんじがらめで一歩も前に進めない様は圧巻。
主人公の成長する課程が王道な少年者とは一線を画すのが飽きさせない。
彼は正しいんだよ、どんな時もね。
正しい事が正しくないのが、他人とのコミュニケーションか。
物語を彩る全ての登場人物が出揃い
最後は新たな勢力との接触で緊張のまま終了。
完結編への期待十分。
『機動戦士ΖガンダムIII-星の鼓動は愛-』 2006年
監:富野由悠季 主演:池田秀一、飛田展男
★★★★☆
完結編。
主人公の達する境地が全てだろう。
人が人と出会って、会話して、求め合って、喧嘩して…
そういう毎日の積み重ねこそが彼の力。
強烈な周囲のエゴを見続ける事によって
自らを成長させるという荒業がお見事で
一つの側面に寄りすぎた人間と対照的に映る様が素晴らしい。
カミーユの心境の変化と共に、物語としての実際の主役は
自身の求める物だけを見続けたレコアやカツに移っていく。
本当に覆われた人間ばかりだ。
賢くありすぎたシロッコにしろ
愚かでありすぎたジェリドにしろね。
誰一人抜いてもこの結末は成立はしない密度。
結局はこれだけの舞台を用意しての
人間同士の関わり合いと成長の大切さのお話だろう。
初代ガンダムの三作目から登場した観念に
TVシリーズとは違った一つの結論が出ていると思う。
強いて問題を挙げるなら、登場するモビルスーツが多すぎて、
ただでさえ忙しい雰囲気に無意味な拍車をかけてるのだけが残念かな。
これはちょっと一映画作品としてはもったいない。
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』 1988年
監:富野由悠季 主演:古谷徹、池田秀一
★★☆☆☆
Zガンダムから数年後の宇宙を舞台に
アムロとシャアの対立する姿を描くお話。
圧倒的なアニメーションとしての映像美と
洗練されたメカニカルデザイン。
この2点にどこまで価値を見出せるか。
そういう作品に収まってしまうかな。
特にMSアクション部分の構図や仕掛けは最高級だが
既にこの宇宙世紀世界において、
一個のキャラクターや物語を正面から描く事を
止めてしまったとしか思えないね。
やや、全体の構成や脚本に投げやりな感じすら漂う一作で
一本の完成された映画としては
上記以外の見所を探すのは難しいかもしれない。
「初代→Z」の劇場編集版は
全くの事前知識も、思い入れも無い観客が一から見ても
十分に傑作と言える熱量とテーマ性があることを思えば
アムロとシャアの関係性に開き直った
この作品の志はやはり低すぎるのではなかろうか。
ファンのための完結編でありすぎるし
ファンに向けてのテーマ性が強すぎる一本。
『機動戦士ガンダム F91』 1991年
監:富野由悠季 主演:辻谷耕史 他
★★☆☆☆
前作にあたる『逆襲のシャア』から
さらに後の世界を描いたお話。
舞台やキャラクターを一新して新生シリーズとして立ち上げるが
あまりに膨大な設定郡を作ってしまったが故に
単体で一本の映画としては成立していないだろう。
やっとファンムービーから脱却するチャンスだったと思えるだけに勿体ない。
細かいパーツごとには考えさせられる台詞や関係性も見えるが
もはや手段と目的の位置関係が変になっている。
魅力ある点は前作とほぼ同じ。
描きこまれたシャープさが楽しみたければ前作で
柔らかなデザインを愛するなら本作かな。
映像面は素晴らしくキャラクターの生き生きとした表情は良いね。
全体の脚本はどうしょうもないのだが
劇中に生きた人間が見つかるのだけが救いかな。
ガンダムブランドである故に欲張らざるを得ない事情が
作品としては悪い方向へと働いてしまった一本。
『機動戦士ガンダム0083 ジオンの残光』 1992年
監督:今西隆志 主演:堀川亮、大塚明夫
★★☆☆☆
初代『機動戦士ガンダム』と、続編『機動戦士Zガンダム』の間を繋ぐ物語。
「ガンダム」という多様な魅力溢れるブランドから、
メカニカルなカッコ良さ、若きエリートパイロットの成長物語のみを
徹底的に抽出したような作品。
つまりは『トップ・ガン』式ガンダムだな。
あの映画のカッコ良さと、空々しさを想像してもらって問題ない。
最初から人間味をどこかに忘れたような
型通りのキャラクターが繰り広げる直球勝負の数々だが
確かに熱いには熱い。
男の子向けに拘り抜かれた展開と作画の数々は見事だろう。
これだけ多方面に渡って展開されたシリーズならば
一芸としては十分にありな一作だと思われる。
ファッションで見るガンダムとしては中々に優秀。
ただOVAからの総集編映画としてはどうだろうか。
元々、10話を超えるような長尺の割には
ドラマもテーマ性も薄めだったのはあるが
だらかと言ってストーリーやキャラクターを
把握できないレベルまでに切り貼りしては駄目だろう。
あくまで、0083という企画に課せられたファッション面を重視すれば
ドラマパートになど力を入れる尺が無い取捨選択ということか。
アニメでよくある薄味総集編映画の一つ。
『機動戦士ガンダム 第08MS小隊 ミラーズ・リポート』 1998年
監督:加瀬充子 主演:檜山修之、高島雅羅
★★★☆☆
初代『機動戦士ガンダム』を舞台に
ジャングル戦線に展開された一部隊の姿を描く
外伝的なミリタリー系作品。
当然、誰しもが考え付く設定だよね。
「一年戦争」と呼ばれる大戦争の中における
ほんの一戦線、一舞台に絞った人間ドラマ。
ただ企画は面白いんだけど
キャラクターや展開と世界観が噛み合ってないかな。
細かいシーンでは雰囲気が出る描写やお話もあるけど、
こんな地味な舞台でキャラクターを無理にアニメ的に立たせようとしたり
劇的に過ぎるドラマを作ろうとすれば全体では浮くだけだよね。
どっち付かずでふらふらした一品。
この映画もOVAからの総集編だが
あくまで、既存のストーリーを振り返りで
OVAの終盤へと繋ぐ事のみを目的にした構成が
きっちり筋が通っていて珍しく見やすい仕上がり。
ファン向けの開き直り企画ではなく
この作品をスタートに本編ファンになってもらおうとう真摯さがある。
『機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』 2010年
監:水島精二 主演:宮野真守 他
★★★☆☆
TVエピソードの後日譚を語る劇場版。
「来たるべき対話」への解答編だね。
2ndシーズンにおいて、嫌という程に登場し
全ての原因とされてきたキーワード。
直接の描写はなくいくらかの余白を観客に与えたエンディングだったが
今作は誰もが思い描いたその可能性の一パターンだろう。
つまり「外宇宙からの生命体編」を直接に描く一本。
元々、世界観、美術設定のお仕事からも
古典SFオマージュに満ち溢れた作品であっただけに
最後にこの展開となったのは必然であり自然だろう。
薄味引き伸ばしのまま終わった2ndシーズンの面目躍如。
ここまでやるならば、あの馬鹿共の行動にも多少の道理はあった。
彼らは一般に想像される「宇宙人」ですらない。
所詮は人間と同じ体型、両手を使った道具文明の発展
または喉を震わせる事でミュニケーションを取り合っているような
宇宙人像ではあまりに地球の常識に捕らわれすぎである。
今作で登場するは、本格SFらしく「金属生命体」。
意思も不明、形も不明、目的も不明
しかし、確実に地球人類に害を及ぼしている現実はある。
そんな絶望的とも言える関係性から
果たして「対話」などという発想が生まれ得るものか。
それこそが00のテーマを最も先鋭化させた物だろう。
同じ人間同士ですら、分かりえ合えない世界で
主人公によって提示された人類への究極のメッセージ。
仮にこの絶望的な対話すら可能であったのならば
人間同士など「できるに決まってる」わけだよね。
この明確な提示として示された宇宙の花。
実に希望ある爽やかな締めだろう。
Peace cannot be kept by force. It can only be achieved by understanding.
考えられる劇場版スタイルの全てを捨てて、
テーマ一本のみを追求したシナリオには素直に拍手。
間違いなく劇場版クオリティだったしね。
ただ、もう少しハナから真面目な作品だと良かったかな。
シリーズ後半で、この内容まで盛り込んでくれていたら
TV作品として十分な評価になるのだけど。
『機動戦士ガンダムNT』 2018年
監:吉沢俊一 主演:榎木淳弥
★★☆☆☆
『逆襲のシャア』の後日譚を描いたOVA作品
『ガンダムUC』のさらなるオマケ映画。
せっかくの劇場版がこんなに狭いお話でいいのかな。
暴走モビルスーツの捕獲作戦を舞台にしつつ
基本、回想シーンがメインの昔話。
凄惨な境遇を共有してきた2人の幼馴染が
過去にケリを付けるために足掻くストーリーなんだけど
全編、彼らの独り言による唐突な思い出映像での
一方的な物語開示が多すぎではないかな。
今、目の前で起こっている作戦や部隊とのお付き合いが
主人公の人間成長と何も繋がらない様は退屈。
現実を生きているキャラクターたちが誰一人として
彼と世界を共有できた空気がないんだな。
エンディングの爽やかさは素晴らしいけどね。
ただ、そんな過去にしか生きられない主人公が
やっと本当の人間としての一歩を踏み出せる救いのお話ならば
それこそ、もう少し過去の関係性や妄想だけで自己完結しない
周囲とのドラマの積み上げが過程に欲しかった。
キャラ付け、設定付けも野暮な台詞による被せ補填が多く
少々、作劇面の開き直りがすぎる一品。
より顕著なのが敵役。
彼は人類が制御しきれない技術の象徴、罪の象徴として
最初から暴走するためだけの存在として描かれるが
この男に至っては、劇中で主人公サイドとの絡みが一切なく
敵陣営の中ですら真っ当な関係を誰とも成立させていない。
ところが、そんな完全孤立した立場の彼が
作品のテーマやメッセージ性に触れるような核心的な台詞を
バンバン独り言で勝手に喋り倒すのだからホントに不思議。
本来、そういう内容は劇中で起こったドラマの結果として
観客が感じ取る物として見せるのが筋だろう。
このインスタントな自意識が当節風なのか
これだけキャラクター同士が顔も合わせないで
"キュピーン"だけで心の確認をしあう物語展開に
違和感を覚えないと言うならば
既にSNS世代はニュータイプなのかもしれないぞ…
明らかに若者感性に焦点を絞った人物展開でありながら
結局、過去のガンダム作品における特定のシーンに対して
一種の解釈を延々と語るだけのアンバランスな構成も目に付くね。
貴重な尺を割いてまでオジサン世代も欲しがる綱渡りは欲張りすぎ。
『ガンダムUC』自体もガンダムマニア向けの作品だが
あれは目の前の体験によって若者が人生観を増していくお話として
単体で成立はしていたと思われるが、今作は一線を越えていると感じてしまった。
良くも悪くもファンアイテムな一本。
『奇跡』 2011年
監督:是枝裕和 主演:前田航基、前田旺志郎
★★★★☆
両親の離婚で離ればなれになった兄弟が
秘密の旅行を計画するお話。
旅は良いね。
まず浮かぶ感想はこれに尽きる。
今すぐにでも、無いお金を集めて計画を練りたくなる一本。
旅行を計画するワクワク感は格別なもので
まして、幼き日々における秘密の旅となれば
筆舌には尽くしがたい経験だろう。
両親の離婚に対し、再び家族全員で暮らせればと願う兄と
兄に口調を合わせながらも、実は離婚後の現状が気に言っている弟との
絶妙に距離のある関係性が何とも楽しい。
「家族」という存在に特別な夢を見る兄にとって
この願掛け旅は神聖なの物なのだが
弟の方は平然とそこに新しい友達を連れてくる。
そのあたりの空気感はリアリティ抜群で
さすがの是枝監督作品。
もちろん、本当に奇跡が起こるわけではないのだが
小旅行が様々な偶然や人の優しさと想いによって
実現されてきたことを考えれば
この体験自体が一つの奇跡だったということだろうかね。
幼き彼らはこの行動によって確か実感を得たはず。
とても爽やかな気持ちにさせられる
スマート仕上げのヒューマンドラマ。
是枝作品を重そうだからと敬遠している人は
まずこの映画から始めてもいいかもね。
『騎兵隊』 1959年
監督:ジョン・フォード 主演:ジョン・ウェイン
★★★☆☆
南北戦争における一つの作戦を描く戦争物。
西部劇と言うより、手法は完全に戦争映画のそれ。
この作戦における北軍大佐の指揮官を演じる
ジョン・ウェインの頑固親父っぷりが
とにかく心地よく出ている作品。
古い人間で、傲慢で、軍人で、圧倒的な存在感を出しつつ
それでいて存外に情には脆い。
その一行に刺激を添えるのが
非常に進歩的な存在である軍医役のウィリアム・ホールデン。
大佐とは常に何処か合わない雰囲気を出しつつ
ギリギリ、付かず離れずの距離感がお見事。
人間関係は誇張しすぎない説得力もある。
トコトン分かり合えないと気が済まないなどは
お互いを尊重しあう事とは全く別の話。
淡々と作戦の過程を描くだけの戦争映画式なので
ストーリーとしても、映画全体としても見所は特になく
あくまで、部隊内に散りばめられた細かいキャラクターの言動を
地道に楽しんでいく作品だろうか。
『君に届け』 2011年
監督:熊澤尚人 主演:多部未華子、三浦春馬
★★★☆☆
クラスに馴染めない暗い女子高生と
人気者の爽やか男子とが繰り広げる高校生活のお話。
まさにタイトルの通りの映画。
お互いが一目惚れであるにもかかわらず
その想いが届くまでに
どれだけの紆余曲折を経るのだろうという作品。
女主人公に襲いかかる苦難は
イジメや悪質な噂話、人間関係の悪い部分
思春期ならではの思い込みなどなど
重めのテーマばかりだが雰囲気はあくまで爽やかで
全般、軽い気持ちで楽しめる。
これは、主役二人がとにかく「イイ奴x2」で構成されている点と
控えめ登場ながらも、その都度で人生を雄弁に語ってくれる
便利な先生の存在が大きいね。
確かな友達付き合いを望むならば、外見や雰囲気を超えた部分にも
人間の評価はあるという心地よい良い正論を
甘甘な作風に載せながら、しっかりと主張してくる良作青春映画。
特に男主人公の理想像っぷりは
思わず苦笑交じりでニヤケテしまう事必至。
あれには男でも惚れるわな……
ああいう野郎は現実にも一人くらいは居るけどね。
『君の名前で僕を呼んで』 2017年
監督:ルカ・グァダニーノ 主演:ティモシー・シャラメ
★★★★☆
1980年代の初頭、北イタリアの避暑地を舞台に
17歳の美少年と一夏の居候青年が繰り広げる恋のお話。
美しい。
インターネットも携帯電話もない時代に
欧州イタリアならではの避暑地が映し出す
太陽光と緑の世界があまりにも魅力的すぎる。
紛うことなきゲイ行為の映画なんだけど
あまりに美麗なファンタジーが徹底されすぎていて
全く気にもならないね。
青年の仕事が考古学というインテリっぷりも
生活観の欠片をも感じさせない徹底した空気に輪をかけ
あくまで少年視点だけの物語に拘られている。
アイデンティティについての悩みはもちろん
自身が正常かどうかのお話や、性への強い欲求っぷり
他人の視線を不安に思う感性などなど
主人公の少年が見せるのティーン全開の姿が
何を置いても圧倒的に儚く尊い。
この感性が全ての映画でしょう。
ほぼ、青年と主人公が二人きりで延々惚気合うだけの展開が続き
何なら気候の都合から、半分以上のシーンでは二人揃って半裸だよ。
こんな姿を誰が見ても溜息しか漏れない耽美方面で
しっかり描き切れているのだから凄いよね。
終盤にお父さんが少年にかける言葉がまた素晴らしく
これだけの夢のようなファンタジー世界を描きながら
人間が年を重ねることで絶対に失ってしまう
若さの尊さという残酷な話を堂々行うんだ。
確かに主人公が今しか持ちえない美しさがあるのは事実なんだ。
この事実を避ける方が、余程現実から逃げている。
若かりし多感な時期に得た体験とは全てが大切な物であって
その良し悪しはまた二の次なんだよ。
それを良い物にするかは本人次第さ。
そして、物語はひと夏の経験できっちり終わる。
ここが寓話的にまた素晴らしい。
いい年をした兄ちゃんが、17歳の美少年の性的欲求を利用して
散々セックスして去っていく映画と聞けば
あまりに駄目すぎるのだが
それを徹底した映像美と思春期の尊さに乗せることで
誰でも見られる魔法をかけた傑作。
『君の名は。』 2016年
監督:新海誠 主演:神木隆之介、上白石萌音
★★★☆☆
田舎暮らしの伝統に縛られた女子高生と
実に都会的な男の子が運命の出会いをするお話。
どちらの主人公もイメージをそのまま絵に描いたような
記号的な生活描写が続くために
全編を通して生命感は薄い作風だろうか。
それ自体が物語の一つの仕掛けには繋がっているのだが
あくまでアート映像ありきの作品な印象は強いかな。
神秘的かつ閉鎖的な田舎世界と
逆に都会の非生物的な日常世界の模写。
自然情景の数々に至るまで描写の隅々までが美しく
とっても綺麗な気分になれる
設定は複雑に、ストーリーはシンプルに。
何よりも大前提のハードル作りが良いね。
「会いたいけど会えない」
黄金設定ですよ。
強引ながらもド直球な男女関係が実にドラマチック。
自分には運命的な何かがあるはず…
僕は何かを忘れているはず、私は何かを探しているはずという
絶対的な思春期テーマを想いの篭った楽曲に乗せて
正面からアニメ作風で描ききった一品。
『君よ憤怒の河を渉れ』 1976年
監督:佐藤純彌 主演:高倉健
★★★☆☆
突如、身に覚がない強盗容疑をかけられた主人公が
日本中を逃亡しながら真実を追うお話。
これはインパクトの映画だね。
日本の東半分を高倉健が大横断をするという絶景が肝。
基本、物語としては呆れてしまうレベルの雑さではあるのだが
あまりに突拍子の無いエンターテイメント全開な見せ場の入り方が
もはや雑を通り越して、事前予測不可能なサプライズに到達しているのは見事だね。
そりゃ、突然訪れるのだから衝撃度は高いだろうさ。
一にも二にも観客を驚かせて何ぼというエンタメ精神は素晴らしい。
例えば、新宿の中心で完全包囲され絶対絶命の主人公が
唐突に道路を疾走してきた「馬」集団に飛び乗って危機を脱する展開なぞ
一体誰が予想できるものか。
それを痛快気分で見せられる力技が凄いんだ。
加えて高倉健と原田芳雄が見せる名人芸に終始頼りきっている
雰囲気映画としての側面もあるのかな。
これもまた呆れてしまう力技ではありつつ
意思の塊のような男二人の姿がカッコ良いのも事実なんだ。
本当に困ったもんだよ。
トンデモ映画の範疇は間違いないんだが
それでも、終始一貫して主人公が置かれる理不尽で不当な立場と
オチの投げっぱなしによる爽快感に至るまでの
根底を流れる権力や抑圧への人間としての怒りが
基礎テーマとして十分に伝わってくる一品ではある。
中国で大ヒットしたという有名な逸話も納得度高し。
『キャスト・アウェイ』 2000年
監督:ロバート・ゼメキス 主演:トム・ハンクス
★★★☆☆
航空事故に巻き込まれて
一人無人島での生活を強いられた男の
サバイバルの様を描くお話。
さすがはロバート・ゼメキス。
こんな題材でしっかりエンターテイメントをやれる驚きがある。
まず主人公が生きるための知恵を付け
次第に島の生活に慣れていく様が素直に面白い。
そして精神を保つためにバレーボールに顔を描き名前を付け
話し相手に選ぶ姿の微笑ましさが良いね。
観客共々、彼(ボール)に情を移して行くだけの過程が
実に綺麗なテンポで描かれていき
一人舞台なのに人情劇という離れ業を成立させている。
まるで、ロールプレイングゲームを遊んでいるかのような
約束された一人の男の成長物語が楽しめる。
そして、物語は彼が人生を悟る展開を程ほどにして
一大脱出劇へとシフトしていくのがとってもエンターテイメント。
あくまでこの作品は人生観を語る映画ではなく
主人公が体験する怒涛の体験を経て観客が楽しむための物であると
宣言するかのようだね。
トム・ハンクスならではの延々一人喋りの安定感も素晴らしく
2時間楽しむ分には全く隙がない完成された一本。
『キャタピラー』 2010年
監督:若松孝二 主演:寺島しのぶ
★★★☆☆
日中戦争も末期に差し掛かってきた時期
負傷兵として郷里へ帰還した夫は、
四肢を全て切断され、耳、そして声までをも失っていた。
二人きりの介護生活を迎え、その中で次第に変遷していく妻のお話。
割とスッキリと見られる一品だね。
もっと人間の持つ狂気をジメジメとした空気で
見せ付けられるかと思ってはいたのだが
テーマはソコではないんだね。
これは二人が取るどちらの行動も、
心の奥ではキッチリと納得できてしまうからだろう。
全ての生命維持活動を妻に押し付け
ひたすらに、喰う、寝る、喰う、寝るを延々と繰り返す。
そんな何の生産性も無い存在である夫だが
それでも夜のSEXだけは求め続ける。
まさに生物としての権化のような姿…
また醜くも勲功ある夫を散歩と称して外に連れ出す事で
周囲から「貞淑な妻の鑑」としての評価を得て
日頃の鬱憤を晴らし顔を綻ばす妻の姿…
だが一体、誰が責められようかというお話だ。
そして、何よりも過度な気持ち悪さを取り払っているのは、
ちょうど観客がこの関係性に限界を感じたあたりで
妻はきっちりと、泣き喚いてキレてくれて
夫もまた表情態度で、明確な不満を示してくれる点だろう。
このあたりが実に見事なテンポ。
そこで内面に問題を抱え込み続けないあたりが
この夫婦の最悪ではない所なんだろうね。
物語は一線を越えるのかとも思わせながらも
中盤以降で次第に夫婦の愛憎劇から離れて
戦争の愚かさ、そして夫が戦地で負ったトラウマへと舞台を移していく。
淡々と戦況の悪さ、末期の銃後の姿を描きつつ
終戦と同時に驚く程にあっさりと終わってしまう。
一瞬呆然としつつも、すぐに強烈なEDテーマが耳に入り
色々な物が頭の中を駆け巡る。
そんな一品だね。
テーマは戦争をも含めた人間の業そのものだろう。
その完成度こそ別のお話だが
終始、画面に惹き付けられる事だけは保証できる90分弱のシンプル映画。
『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』 2002年
監督:スティーヴン・スピルバーグ 主演:レオナルド・ディカプリオ
★★☆☆☆
若干10代にしてあらゆる職業を偽り歩き
世界を騙しまくった天才詐欺師のお話。
映像が安いのが悪いのかな。
あるいはディカプリオの童顔が悪い方向に動いたか
医者にしろ、弁護士にしろ、機長にしろ
どうにも皆が騙されるだけの説得力が薄く
まるでコントにしか見えない。
一応、実在人物をモチーフにした映画で
年齢設定は正しいらしいので詐欺とはそういう物かもしれないが
それが映画として楽しめるかはまた別の話。
本当に手口も映像も騙される側も安っぽい。
もっと派手で痛快な映画かと思って見ていると
シンプルで退屈なお話の連続で面食らう。
追い続ける刑事と少年という図式もあるが
二人の関係性は最後まで薄く更正物としても半端かな。
最後は成功者としてのオチが付くのもアメリカ臭全開で
見せ方が下手では冷めるだけ。
まだまだ幼いディカプリオのご尊顔を堪能する以外に
見所が見つからない映画だろうか。
『キャノンボール』 1981年
監督:ハル・ニーダム 主演:バート・レイノルズ
★★★★☆
アメリカ大陸を東西横断する日数を競う
非合法の自動車レースを描くお話。
馬鹿な映画だよ。
個性的なキャラクター達が様々な車に乗って
お互いを出し抜きながらの旅を続ける。
その軽快なタッチが何とも雑多でステキ。
何日もかかる大レースだからね。
主人公チームの洒脱さはもちろん
偽牧師だのアジア人だの美女コンビだのアラブの大富豪だの
本当に頭の悪いキャラクター設定が光るB級傑作。
そんな連中が絡み合って東西横断を競うイベントなんて
楽しいに決まっている。
車映画でもレース映画でもなく、
純度100%のコメディ映画。
『キャバレー』 1972年
監督:ボブ・フォッシー 主演:ライザ・ミネリ
★★★★☆
1930年代初頭のドイツを舞台に
女優を夢見るキャバレーダンサーと
イギリスから来た学生との恋のお話。
これは青春映画だね。
パワフルで活気に満ちていて、
時代の空気も十分でそれでいて大人な青春映画。
まず主人公のキャラクターが強烈。
人一倍明るく常にお喋りで、夢のためならすぐに寝る。
それでいて誰よりも傷つきやすい。
お相手は学生と言っても傍らで英語を教える仕事をしつつ
博士号を目指しているお方。
インテリでスマートでもちろん貧乏で…それでも情は深い。
みんな生き生きとしています。
他にも魅力的な人物が色々。
彼らが恋して、泣いて、悩んで、怒って、笑って……
決して綺麗だけではない生き様が素晴らしい。
なのに視聴感はとても爽やか。
この後に訪れる時代の暗さを暗示させる演出が
見事に限れた時の淡さを醸し出している。
特にお気に入りの登場人物は大金持ちの遊び人。
朝、シャンパンとグラスを"3つ"持って遊びにいくとか最高です。
不思議な三人の関係に軽く感動。
キャバレーの舞台で挿入されるミュージカルパートも良い。
その都度、ドラマの状況を現した曲がメリハリを出して
エムシーの素敵なキャラクターが華を添えてくれる。
『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』 2011年
監督:ジョー・ジョンストン 主演:クリス・エヴァンス
★★☆☆☆
第二次大戦中の強化兵士として生み出された
国家的ヒーロー誕生を描くお話。
一体、誰に向けた映画なのか。
その名の通り『アベンジャー』という作品を撮る際に
キャプテンアメリカ単体での映画化作品が事前に必要だろうという
逆算から生まれたような一本。
冒頭から過去のエピソードとしての形式で描かれるためか
どうにも全編を通しての雰囲気が寓話的。
伝説のヒーロー誕生の瞬間から、第二次大戦における空気感や
超人バトルの数々全てにおいて、とにかくライブ感が薄い。
まるで一つフィルターを掛けた映像を見せられているかのよう。
また、おそらく狙われた物とは言え
あまりに安っぽい予定調和のストーリーと
敵対勢力の存在感が終始作品を冷めさせてくれる。
対ドイツ戦争という側面を極限まで殺ぎ落とした構成からでは
何のロマンも想いも戦争への悲劇も感じられず
せっかくの時代を超えた舞台も
キャプテンアメリカという国家を象徴するキャラクターも
仕掛けとして空回り。
ラストに本編への繋ぎで期待感だけを煽る仕組みからは
もちろん単体の作品として成立させる気もゼロ。
そんな一本。
アメコミ映画のお約束、現代センスでリファインされた
コスチュームのデザインだけはアリかな。
『キャプテンハーロック -SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK-』 2013年
監督:荒牧伸志 主演:小栗旬
★★★☆☆
遠い未来の世界
宇宙海賊キャプテンハーロックの活躍を描いたお話。
プレイステーション以降のTVゲーム世代に向けた
CGアニメーションの映画かな。
現実さながらのリアリティを取り入れつつ
敢えてCGの嘘臭さも残されている。
アニメと実写の合いの子と言った不思議な完成度は
ゲーム『ファイナルファンタジー』が
何度も揶揄されてきた
「もう映画でいいだろ」に対して一種の回答を示している。
この世界観が出せるならば確かに映画で良いかもしれないね。
ストーリーの二転三転が安すぎて
真面目に見るに値しないのはご愛嬌。
CGゲーム世代にソレは求められてもいまい。
壮大なSF世界の中に妙にアナログな行動が生きるのは
確かに松本零士の世界であり
全編を包む語りたがりの雰囲気も
見事に松本零士であろう。
ハーロックの繊細すぎるキャラクター像には疑問が残り
全く男らしくなく、格好良くなく、憧れもしないのだが
そんな主人公像もまた世代向けなのかな。
軽い気持ちで映像エンターテイメントを楽しむには良い一品。
『ギャング・オブ・ニューヨーク』 2002年
監督:マーティン・スコセッシ 主演:レオナルド・ディカプリオ
★★★★☆
1860年代のニューヨークを舞台に
アメリカが抱えてきたあらゆる問題点と対立構造が
浮き彫りなる一大ギャング映画。
主人公は父親の復讐を心に誓った青年でありながら
その対象は町の顔役として自身を庇護してくれる
ある意味で父親的な存在なんだよね。
そんな人間の心模様を描く映画でありながらも
あくまでより重きを置いて描かれるのは
民族であり、組織であり、格差であり、国家でありと
個人同士の触れ合いをあざ笑うかのような社会構造なんだよね。
基本は18世紀に既にアメリカに入っていたイングランド系の末裔
つまり、生まれた時に既にアメリカン人だった層と
劇中の時代に入植を続けるアイルランド系移民の対立物語。
あるいは、プロテスタントとカトリックとの抗争でもあるだろう。
そして時代は黒人解放問題、南北戦争に関る徴兵制の発布へと繋がっていく。
「金持ちは戦場で死ね」という言葉に込められた
愛国を盾に一方的な徴兵を強いる金持ち達への不満を根底に
ギャングの対立をよそに、NYにおける市民大暴動へと
舞台が爆発する様は見事の一言。
そもそも、ネイティブズを自認する彼らとて
愛国のために何をやっているのかと言えば
ただのギャング集団、要は非生産活動に終始するゴロツキ以外の
何者でもないわけだしね。
人種のるつぼとして、一つのアメリカ人という愛国心を強調しつつ
その裏の歴史を紐解けば、誰よりも民族、人種間のアイデンティティ
対立に終始してきた国家でもあるわけだ。
この国の不思議さ、面白さが思う存分に味わえる密度満点の傑作。
主人公の体験する淡い恋愛関係すら
そんな非個人の理屈の前には霞んでしまうわけだよ。
悲しいな……
悲しいがエンディングで移り行くNYの街並みを見れば
そういった対立や悲惨な事件を全て乗り越えてきた上に
今のアメリカがあると思い知らされる。
何とも重苦しい一作だ。
しかしこの映画の規模は凄いよね。
どういう判断を下せば、こんな街並みが再現できるのだろうか。
あまりの映像スケールの大きさ、本物志向の数々に
まず度肝を抜かれる超大作だろう。
『吸血鬼ノスフェラトゥ 交響曲』 1922年
監督:F・W・ムルナウ 主演:マックス・シュレック
★★★☆☆
吸血鬼の暗躍によって広まる
伝染病の恐怖を描くお話。
雰囲気たっぷりのサイレント映画。
全編通してBGMに重厚なオーケストラ楽曲が流れており
むしろそちらの方が主役だろうか。
元々、交響曲などという物には
きっちりと想定されえたストーリーがあり
シーンごとに明確な情景があるものだ。
これは上映当時に演奏されていた楽曲なのだろうか。
圧倒的に豪華な紙芝居と言えばよいのか。
小説のような状況説明、最低限に絞られた字幕台詞
そして主題とも言える変化に富んだオーケストラ
それらを美しくも怪しい映像が華を添える。
「トーキーなんて下品な物は流行らない」といった類の台詞があったのは
『雨に唄えば』だったかな。
もちろん音声付きの映画を下品と思った事はないが
確かにサイレント映画は格調高い代物だと納得できる。
決してトーキーでは出せない独特な神秘性があるね。
これは特にホラー映画としては貴重な空気だろう。
伝染病かのように死者が増える様も不気味で
そこも含めての「ネズミ」なのかな。
時折挿入されるメリハリのあるネズミ描写が怖い怖い。
お話は目に見えない脅威に対する恐ろしさをベースに
男と女の純愛の様、そして自己犠牲の美しさなど
とってもスマートで綺麗な一品。
映画は30年代のトーキーからと思っていたが
少し考えが変わる名作だろう。
ふと思ったのだが古いテレビゲーム世代にとっては
サイレント映画はあまり違和感が無いのではなかろうか。
途中、何所かで似たようなノリを知ってるなと感じたのだが
音声だけが無いテキストベースの映像物語には慣れていたんだね。
『キューブ』 1997年
監督:ヴィンチェンゾ・ナタリ 主演:モーリス・ディーン・ウィント
★★☆☆☆
目が覚めると謎の空間に閉じ込められていた男女数人が
自由を求めて脱出を試みていくお話。
愛すべき一発芸。
最初から最後まで色彩以外は全く変化のない
同一形状の立方体部屋のみを舞台にする思い切りは見事。
この四方、上下の6方向に扉が存在するのみの
単調な部屋でありながら視覚的インパクトが素晴らしく
映像からは中々に飽きさせない。
ただ、それだけの映画だね。
まさに究極の密室空間を用意しながらも
繰り広げられる人間模様はあまり真面目とは言えない。
このような状況においては決して犯してはいけない禁忌を
いともあっさりと破る男が居るために
中盤に差し掛かる前にはオチがバレバレになってしまう。
途中で関係性の底が知れてしまう人物劇程に退屈な物はない。
そして、禁忌を軽んじて対処を怠る連中の底の浅さも
あまりに現実味が薄く興冷め。
そうなるに決まっているとツッコミ待ちか。
一発ネタだけで映画は十分に持つものだが
他部分のクオリティの低さに引っ張られて
水準を保ちきれなかった残念作の範疇かな。
『今日、恋をはじめます』 2012年
監督:古澤健 主演:武井咲、松坂桃李
★★★☆☆
とっても地味な女子高生と
オレ様イケメン男子高校生との
恋愛模様を描くお話。
テンプレート100%映画。
全ての生活感をゼロにして「それっぽい」体験だけを元に
一組の男女関係に終始する作品。
完全に頭に何かが沸いている
脳天気な願望世界が見事に具現化された作風は
一周してもはや芸術だろうか。
インパクト重視、雰囲気重視だけが目的の挿入歌は
ゆうに10曲は超えるのではなかろうか。
ま〜た感動ソングタイムかと
息を付く暇すら無い慌しさは新鮮。
ここまでライトなお気楽展開だけで
作品が成立しているのも凄いお話だが
これを若き武井咲、松坂桃李の両名が熱演すれば
きっちり相応のキャラクター性が生まれるのだから
少女漫画の力は大したもんだよね。
『恐怖の報酬』 1953年
監督:アンリ=ジョルジュ・クルーゾー 主演:イヴ・モンタン
★★★★☆
ベネズエラの油田地帯で働く労働者4人が
大金を求めてニトログリセリンを運ぶ危険な仕事を請け負うお話。
僅か4人の登場人物が
淡々と2台のトラックを運転し続けるだけの映画なのだが
全編が一級の緊迫感に満ちた演出の元
とってもドギツイ世界が楽しめる。
道を阻む困難の数々から
人間的な弱さ、強さ、そして傲慢さが
綺麗に炙り出されてくる様は圧巻。
人間は環境や状況次第において
彼ら4人の中の誰にでもなれるだろう。
皆が皆、どう判断し、どう選択をするか。
全ては個々人が自らどういう人間でありたいかを選ぶ
自己責任なのだ。
劇中の主人公もまた背負った業の代価として
相応の物を支払ったわけだ。
この結末以外にはちょっと有りえないだろう
物語としての完成度高さも心地良い傑作。
『恐怖の報酬【オリジナル完全版】』 1977年
監督:ウィリアム・フリードキン 主演:ロイ・シャイダー
★★★☆☆
様々な事情から南米へ流れ着いた4人が
爆発寸前の火薬をトラックで運ぶという
命がけの仕事に挑むお話。
上記作品のリメイク。
何よりも画の力が圧倒的な一本だね。
流れついた国がとにかく切羽詰まった
地獄のような環境である事が丹念に描かれ
主人公達の追い詰められた臭いが十分に感じ取れる。
メインのトラック運送を阻む数々のシーンも
全てが神秘的かつ実に禍々しい空気に満ちており
全編を通し息を呑むような緊迫感が味わえる圧巻の映像美作品。
対して、上記作品ではメインとも言えた
運送面子の掛け合いや人間的なドラマは薄味仕立て。
結局は、因果応報に帰結する物語はそうだけれど
序盤にキャラ設定だけを見せて、あとはご自由にという作風かな。
この振り幅の差が1953年公開のオリジナルとの一番の違い。
元がサイコスリラー的なサスペンスとすれば
こちらは緊迫感に溢れたアクションアート大作といったところで
全くの別ジャンルとして割り切って楽しめる作り。
人間の内側から起こる「人災」の側面がより強いのが原作で
外からの「天災」方向の困難に苦しめられるのが今作だろうか。
どちらにしろ見事な足掻きの映画で
ちゃんと新作としての別の作家性が前面に押し出されている
リメイク冥利につきる一品。
『清須会議』 2013年
監督:三谷幸喜 主演:役所広司、大泉洋
★★★☆☆
山崎合戦の後にひらかれた
織田家の家督争い評定を描いたお話。
とっても軽く触りやすいタッチで
スラスラとお話が進むので
マニアックな一幕を切り取った物語にしては
見やすいのが良いね。
徹底して各武将の個性を前面に押し出していて
登場キャラクターの言動さえ楽しめれば
映画自体が楽しめる仕掛けになっている。
特に、大泉洋が演じる秀吉の存在感は見事。
野心家で激しい性格を隠そうともしないながらも
どこか憎めない人懐っこさを常に漂わせるという
典型的な秀吉が縦横無尽の活躍をしてくれる。
彼だけで最後まで見ていられるだろう。
対するは、役所広司が演じる柴田勝家なのだが
こちらはややキャラ設定が厳しいかな。
気が効く秀吉に反して、実直な野暮人間という立ち位置だが
ショーアップがやや過剰にすぎて
もはや頭が足りない男にしか見えてこない。
ただ今作は人間そのものまでを求める必要はないのかな。
一貫して全員が役割を真っ当しているのが大事か。
コメディタッチの早い会話展開の間に
真面目すぎる空気感が一々テンポを崩してしまうのが
三谷監督作品の普段のお約束だが
今作はこのバランスも上々で
最初から最後まで何の引っ掛かりなく
心地良く120分オーバーを付き合える。
『巨星ジーグフェルド』 1936年
監督:ロバート・Z・レナード 主演:ウィリアム・パウエル
★★★☆☆
伝説的なブロードウェイ界の大物の半生を
豪華絢爛な舞台の模様を交えてロマンたっぷりに描く物語。
まず舞台のスケールに度肝を抜かれる。
想像の遥か上、桁違いの規模と華やかさ。
この時代のアメリカにおけるエンターテイメント界が
如何に別格だったかが画面から一目瞭然。
それを彩る主人公の人柄も素敵だね。
中々のプレイボーイながら
決して紳士である事を忘れない色男。
順風満帆というわけではなく
常に赤字と破産と豪遊と成功と共存しているような
まさに彼自身の人生がエンターテイメント。
商売における抜け目のなさ、人生における余裕
そして恋愛における優しさ……
これはとっても痛快な男という事になるよね。
そんな彼の半生を楽しみつつ
圧倒的クオリティの舞台ミュージカルに浸れるという
シンプルながら実に贅沢な映画でしょう。
『巨象の道』 1954年
監督:ウィリアム・ディターレ 主演:エリザベス・テイラー
★★★☆☆
スリランカの茶園経営者の元へと嫁いだ主人公が
未だ亡き父親が支配する一家の姿に戸惑い
自らの生き方を模索していくお話。
『レベッカ』かと思ったよ。
使用人も、夫の交友関係も、肝心の夫すらもが
総督であった父親の信奉者のような中で
どうして自分の幸せを見つけられようか。
わざわざ「象の通り道」に家を建てたという曰くつきの地。
何十年経っても、しつこく現れ続ける巨象たちの存在と
目には見えない亡き総督の執念とが
上手い具合に程よい緊張感を保ってくれる。
ただし、サスペンスやミステリーという程ではなく、
あくまで夫と妻、そして妻に惚れる進歩的な男性との関係を描く
ロマンス物だろうか。
巨象の概念とスリランカという舞台は面白いが
ベースはよくある結婚ドラマかな。
なお、カラー映像の美しさは特筆もの。
色彩の精細さがとても1954年の質感とは思えず
その点だけでも一見の価値はあり。
『キラーコンドーム』 1996年
監督:マルティン・ヴァルツ 主演:ウド・ザメール
★★★☆☆
NYの娼館において
男性が性器を食い千切られるという事件が多発する。
事件解決のために主人公の刑事が操作に乗り出すが
その正体は恐怖の怪物コンドームだったというお話。
ふざけた映画だよ。
延々と日常会話に繰り返される「コンドーム」という単語はもちろん
その他「チンポが14本も被害にあった」などなど
とにかく全ての会話の持つアホ臭さに頭が痛くなってくる一品。
ハードボイルドを気取る主人公の存在感自体が一つのギャグで
突然、始める一人語りの数々は総突っ込み間違いなし。
しかも、あらゆる名作の雰囲気を上手く取り込んだ
オマージュ技術作でもあるから何とも不思議な映画なんだよね。
日常に潜む物体が意思を持って襲い掛かる。
そんな80年代以降のホラー映画の定番を突き詰めていけば
一体、何が一番怖いのか。
これはホラー映画の究極のパロディでありながら
ある種の最後の回答を見つけた作品ではなかろうか。
しかし、そんな無茶な展開からは想像もつかない程に
テーマは真剣そのものなんだよね。
これはゲイの映画なんですよ。
保守派のキリスト教のお話が絡んでくるのです。
娼婦であり、ゲイでありね。
彼らが性器を食い千切られる事、舞台がNYである事、
全編爆笑の中にひっそりと多分に散りばめられた
強烈なメッセージ性の数々は大した代物。
どう楽しんでも答えてくれる良い映画ですよ。
『嫌われ松子の一生』 2006年
監督:中島哲也 主演:中谷美紀、瑛太
★★★★☆
多忙な父親に代わり、叔母の死の後始末を依頼された若者が
その過程を通じて彼女の人生を追体験していくお話。
こんなに汚くて綺麗なお話があろうか。
死ぬまでその存在すら知らなかった叔母の人生に
自堕落な若者が惹かれていく様がとってもステキ。
まさに波乱万丈。
何を成したという事もなく、誰かを幸せにしたという事もなく
無論、自身が幸せになったという事もない。
徹底した墜落人生、男遍歴。
しかし間違いなく世の中を生き抜いたお話ではあるんだな。
これほどに駄目な人生が関わってきた他人の口を借りれば
きっちり人情話として成立する。
ただ相変わらず、わけのわからん軽いキャスティングや
冗談にしか思えないような演出や展開が織り交ざるが
これは真面目すぎるお話への照れ隠しの一種なのだろうか。
掴みとしては功罪半々で
これが苦手で逆に逃げる人も居るんじゃなかろうかね。
対して半ミュージカルな楽曲の数々は良い。
空回りとは無縁な控えめな挿入で、
クドくなりすぎないようテンポを保ってくれる。
ふざけた冒頭からは考えられない程の傑作だね。
『桐島、部活やめるってよ』 2012年
監督:吉田大八 主演:神木隆之介
★★★★☆
ある人気者がバレー部を辞めた事から湧き起こる
高校生達の葛藤を描くお話。
主役は様々な立場の高校生。
運動部も居れば、文化部も居る。
イケてる連中もいれば、そうでない連中もいるだろう。
部活が全て、恋愛が全て、楽しむ事が全て……
だがどのカテゴリに属していようが
皆、真っ直ぐに毎日を生きている。
オムニバス仕立てに作られた今作は
そんな彼らの普遍性を見事に浮き出たせる。
台詞は少なめ、脚本も薄め、展開も控えめで
敢えてドラマを作らない作風となっているが
それが、かえって主役達の些細な表情や言動に
不思議なリアリティを持たせている。
特に、部活の成果で飯を喰っているような
強豪私立高校では、今作のような感覚が強いのかもしれない。
痛々しい若さを適確な温度で体感できる一本。
学校にヒエラルキーはあるだろう。
確かにそれは存在する。
だが内実は、何処に属していても変わりはしない。
誰もが問題の種は抱えており、
如何に充実した高校生活者であろうと
僅かな綻びがあれば、簡単に不協和音が鳴り始める。
運動部に熱心な生徒は、
熱心に過ぎて価値観が凝り固まりやすい。
「桐島」というキャプテンの退部は
彼らにとってあまりに衝撃的な事件である。
しかし、誰がどの部活を辞めたかなどは
外から見れば、どうでも良い話である事は間違いない。
事件の重大さが誰にでも通用すると立ち振る舞う姿は
やはり傲慢で見苦しい。
また、熱愛中のカップルであれば
相手にとって自分がさほど大切な存在でなかったと知れば
それはこの世の終わりにも思える事態だろう。
だがもちろん、これも無関係な側からはどうでも良い。
部活などに所属せずに
充実した高校生活を満喫するイケてる遊び人達は
それはそれで何処か空虚な感覚を持ち続けてしまうようだ。
毎日、楽しそうに笑いあう中で
ふとした瞬間に僅かな虚しい表情が見え隠れする。
映画作りに没頭するオタク集団も
自身の好きな事に全力であるはずなのに
常に華やかなカテゴリーに対しての
引け目や既成価値へのコンプレックスに捕らわれてしまう。
一皮向けば、余裕など誰にもない。
余裕を失えば今まで協定を結んでいたかのような
不可侵カテゴリーの境界線は破棄され
誰もが自分の都合、価値観だけをぶつけ合ってしまう未熟な若者だ。
この姿が実に痛々しく映る、地味を貫いた青春群像劇。
『鬼龍院花子の生涯』 1982年
監督:五社英雄 主演:仲代達矢、夏目雅子
★★★★☆
大正時代から昭和初期にかけて生きた
高知のヤクザ親分の半生を軸にしながら
彼と家族になった女達の姿を描いたお話。
主人公は時代遅れの象徴のような傲慢で不遜で
家中において暴君のように振舞う男だ。
一見すれば、妻も娘も彼の理不尽に振り回され続ける
ただ酷いお話が続くだけの映画なのだが
この仲代達矢が演じる親分キャラクターが
圧倒的に人間らしく愛らしいのだから面白い。
そんな彼の元で強く生きねばならない女の不幸と
馬鹿男の可愛さとが見事に共存している
非常に不思議で楽しい世界観が堪能できる一品。
設定や展開だけを考えれば
ある種、文学的な香りがする物語ではあるのだが
実際は、それでも生き抜いた女達の愛憎と情念を描いた映画かな。
観客も結局は人間愛、家族愛に希望を求めているのだろう。
剥き出しな人間像を軸にギラギラな映像演出が冴えに冴え、
下手な映画であれば過剰に野暮ったくも見えるはずの音楽や演出すらもが
このド直球な世界観では、見事な相乗効果でごく自然と受け入れられてしまう。
お話の大筋は特別な仕掛けやシナリオで繋がっているわけではないが
彼と周囲の人生譚が淡々と語り終えられていく中での
シーン一つ一つはどれも突出して素晴らしく印象的。
思い起こす程に名場面のオンパレードになっている。
この一家の終焉こそが
一つの時代の終わりの合図なのだろうか。
養女として家に入り散々な目にあい続けた松恵と
実の娘で何の苦労も教養もなく育てられた花子の二人が
最後の最後に、政五郎に見せた想いの違いは格別。
今後も新しい時代を生き続けたであろう松恵の「生涯」では
この鬼政物語の表題の中には収まるまい。
『麒麟の翼』 2012年
監督:土井裕泰 主演:阿部寛
★★★☆☆
ある夜に日本橋で刺殺された中年男を巡り
主人公の刑事と関係者が繰り広げる事件のお話。
中身はTHE 東野圭吾。
加害者も、被害者も、犯罪者も、冤罪者(?)も
全ての登場人物に自業自得な面と、同情すべき点が同居していて
観客を複雑な気分にさせてくれるいつものパターン。
誰に感情移入すべきかは見る人の環境次第。
一見して、ちょっと豪華な2時間刑事ドラマと思わせながらも
最後までにはきっちりと心をエグってくれる。
途中までは過剰演出が鼻に付くのだが
気付けば終盤にはしっかりと盛り上げられている
詐欺のような丁寧構成。
怒涛のクライマックだけで十分に我慢の価値あり。
加えて感動仕立てを前面に出しながらも
裏ではちゃんとオチ当てゲームが成立しているのは
サスペンス、推理物としても芸が細かく
拘る人ならばしっかりと犯人と動機を途中で想像できるはず。
そこにちょっとした社会ネタまでも入れ込む手法は
ホントに器用だよね。
クオリティの高いTV式サスペンス求めるなら
十分に傑作と言える出来の一本かな。
大人役は芸達者で若者役はとことん若々しいという
考えられきった役者陣も中々です。
TVドラマ延長映画である以上、雰囲気の安さは仕方が無いとしても
その範囲での完成度は上々かな。
『斬る』 1962年
監督:三隅研次 主演:市川雷蔵
★★★☆☆
数奇な運命の元に生まれ育った剣の達人が
剣と共に生きて死ぬお話。
これは徹底した美の映画だね。
拘り抜かれた構図の数々に目を奪われるは当たり前として
主演の市川雷蔵の醸しだす厭世的な空気感や
独特な緊張感を生み出す大胆な間の取り方など
画以外の映画を構成する要素全てが一本の目的に帰結している。
主人公が刀を構えて、敵との顔のアップが交互に繋がれるだけで
世界が異常な緊迫感に包まれてしまう様は圧巻。
ストーリー自体は大きな起伏があるでもなく
台詞に至ってはやや過剰ですらあるかな。
主人公が実の子ではないだの、不幸な事件で家族を失うだの
説明テンプレートの連続で決して面白みはないだろう。
彼が剣を学ぶ姿も具体的には語られることなく
どのような経緯から達人の境地に達したかも謎のまま。
ただそれでも、一芸を貫く映画は間違いなく面白い。
70分という超コンパクトサイズに収まっているのは
敢えて無駄を省いた証拠だろうか。
『ギルバート・グレイプ』 1993年
監督:ラッセ・ハルストレム 主演:ジョニーデップ
★★★☆☆
アメリカの片田舎でくすぶっている青年の
淡くて苦い青春物語。
過食症の母親、知的障害の弟、反抗期の妹など
家族一人一人の存在が
若き主人公にとって大いなる重荷になっているのだが
彼らの憎めない人間像が素晴らしいね。
これはあくまで愛情ありきの物語であり
家族の存在にシンプルな怒りが向いては全く映画が成立しない。
このギリギリのバランスが何とも淡い。
主人公にはいくらでも旅立つ機会は有ったはずだ。
その気になればいつでも解放されていたはずだ。
だが彼は様々な決断をした上でこの地に留まってきた。
だが、劇的な変化を選択せずとも
人生には必ず変わらねばならぬ時はやってくる。
真摯に自身の環境を正面から捉え
自然とその時を迎えた事による
圧倒的な爽やかさが最大の魅力だろう。
閉じた世界への恐怖に焦り、人生の浪費に悶々とする
青春の全てが詰まっている良作。
悩める若者を演じた主演ジョニー・デップの初々しさ
憎みきれない知的障害者を演じた少年ディカプリオ等
どれも素晴らしく後年のスター俳優好きは抑えるべき一本。
『キル・ビル Vol.1』 2003年
監督:クエンティン・タランティーノ 主演:ユマ・サーマン
★★★★☆
結婚式当日に、愛する夫やお腹の子供までもを惨殺された
女暗殺者が繰り広げる過激な復讐物語。
タランティーノ監督作品は見終わった後の達成感が違うね。
話は前編で終わってしまうのだが
まるで何かを成し遂げたかのような満足感すら残る。
特にこの究極のパロディ映画は
時代劇やカンフー物が好きな方々に対して一つのプレゼントだろう。
直接の引用元には拘らずジャンル自体への愛が深いほどに
確実に笑いが大きくなる楽しさがある偉大な一芸映像作品。
冒頭「深作欣二監督に捧げる」と出るが、
どちらかと言うと、三隅研次作品の印象が強いかな。
(もっともこれは、監督が共同制作の途中で亡くなったからだとか)
まさか、21世紀にもなって『子連れ狼』(若山富三郎版)を彷彿とさせる
スプラッター剣戟映画が見られるとは思わなかったよ。
他にも本人が登場する千葉真一作品へのパロディはもちろんの事
EDテーマにまさかの梶芽衣子とは恐れ入る。
要所要所にはマカロニウェスタンすら入ってるお馬鹿さだね。
ただ、アクションシーンにおいて
より色濃いのはカンフー映画の方かな。
そのせいか、料亭(?)でのvs多数シーンだけは
時代劇を期待すると少し冗長でくどめ。
仮にパロディ的な楽しみを抜いたとしても
拘り抜かれたカットの数々には単体で十分な魅力がある。
初っ端の殺し合いからして
過激な暴力描写に馬鹿馬鹿しさを感じると同時に
そのあまりの構図やタイミングの美しさに見とれてしまう。
下品な上品さという絶妙な矛盾が監督の持ち味だろうか。
印象的なテーマ曲がもたらすケレン味も合わさり
120分間ただただ画面に食い入るだけで楽しめる
傑作悪ノリ映画だろう。
『キル・ビル Vol.2』 2004年
監督:クエンティン・タランティーノ 主演:ユマ・サーマン
★★☆☆☆
ストーリー後半戦。
痛快アクション傑作として作られたVo.1と比べ
今作はとっても地味な人情劇。
復讐の行方、主人公と宿敵の関係性という以外は
特に見る点はないかな。
例によって非常に丁寧に練り込まれた映像で
要所要所で目を見張るシーンはあるのだけど
わざわざ一本の映画でやる事かなという物足りなさが拭えない。
前作ラストの振りの割には
お話に大したボリュームが無いのよね。
今回、中国の師匠系カンフー映画のパロディが有るのだが
これもあまりに元ジャンルをなぞり過ぎていて
キルビルならではの独自世界観のアレンジが奮わず
やはり何かかが足りない。
要は退屈なのかな、全般。
実に普通の完成度なんだけど
普通の映画をこのタイトルに求める人はいないだろう。
ラストは良いけどね。
お話としては納得のいく完結編で映像も冴えてます。
前作をメインに据えて
あくまでそのオマケとして気軽にどうぞという映画。
『疑惑の影』 1943年
監督:アルフレッド・ヒッチコック 主演:テレサ・ライト、ジョゼフ・コットン
★★★☆☆
尊敬する叔父が家にやってくる。
叔父と同じ名を持つ姪のチャーリーは喜ぶが
しばらくすると叔父にある疑惑がちらつく。
映像が凄い。
こういう演出をメリハリと言うんだね。
日頃、気軽に使ってる言葉が恥ずかしくなるくらいの代物。
カメラワークと陰影の妙だろうか
強調されるべき物が見事に浮き立つために
一つ一つのシーンがとってもスリリング。
おかげでジョゼフ・コットンの存在感が
少しづつ少しづつ不気味に変わっていくのは緊張感抜群。
結果、対照としてテレサライトの気丈さも素敵に映ってくるわけだ
ただ、シナリオ自体はいまいちかな。
他作品でもそんな凝った話を撮る人ではないんだけど
この映画は純度100%のサスペンスなので、
途中の煽りで下手に期待するとシンプルすぎて肩透かし。
推理小説好きで架空の殺し合いを毎日している
叔父さんと仕事仲間がGood。
こういう味は本当に上手い。
『キングダム・オブ・ヘブン』 2005年
監督:リドリー・スコット 主演:オーランド・ブルーム
★★★☆☆
田舎鍛冶屋で生計を立てていた主人公が
突然の父親の誘いにより十字軍遠征に参加するお話。
『グラディエイター』のヒットを受けて何本か作られた
リドリー・スコットの史劇シリーズ。
相も変わらず史劇映像の重厚感と
その重さの中に融合する現代センスは見事。
大作合戦シーンを描かせればやはりピカ一だろう。
しかしドラマは単調。
唐突に名乗り出た父親と称する男との関係性や
自殺した妻の存在による宗教への背徳感など
主人公の葛藤テーマは腐る程ありつつも
そのどれもが軽く流れてしまっている。
十字軍内での醜い権力闘争や
逆に敵であるサラディンの気高さなど
世界観を通してのアクセントなどもありつつ
やはりこちらも劇的とはいい難い。
結局は終盤に延々と続く大作映像を楽しむ作品なのかな。
その点で相応の満足感は約束された一本だが。
『銀座の恋の物語』 1962年
監督:蔵原惟繕 主演:石原裕次郎
★★★☆☆
東京銀座に根を張って夢を抱いている
若き芸術家の純情恋物語。
まだ世に出られないインテリな絵描きや音楽家が
一流の街である銀座を舞台に感性を磨き
男と女と芸術家としての真の魂を求めて足掻く
とっても気取った世界観の映画。
大ヒット流行歌『銀座の恋の物語』をモチーフにした
同名の日活映画だけに構成はシンプルな物なのだが
肝心の主題歌の使い方が実に巧いね。
若き絵描きとしての主人公の立場も綺麗にハマっていて
絵画もストーリー上で重要なギミックになっている。
実に小粋で綺麗な脚本が素敵。
生活の香りもないハイセンスすぎる街での
出来すぎた話と言えばそれまでだが
何より石原裕次郎はそんな高潔な若者がよく似合う。
彼がはにかんだ笑顔と真っすぐな純情さで真実の愛を語れば
それで全てが許せてしまう力を確かに感じてしまうんだ。
この手のキャラクターを演じていた時期では
かなり後期の映画作品になるだろうが
まだまだ力強くスターかくあるべしの一作。
やや一本調子で退屈さはあるかもしれないが
最後まで見れば中々に良い気分なれることは請け合い。
つい主題化のフレーズを口ずさんしまう時点で
大成功な一本なのだろう。
『禁じられた遊び』 1952年
監督:ルネ・クレマン 主演:ブリジット・フォッセー、ジョルジュ・プージュリー
★★★★☆
第二次大戦中のフランスを舞台に
爆撃で両親を失った女の子が
偶然出会った男の子と共に「死」と向き合うお話。
「死とは何か?」
こんな質問に一体誰が正解を出せると言うのか。
だが、誰しもが大人になる過程では
そこにある程度の妥協や理解を作っていくもんだよね。
今作は少年少女が死を分かろうとするあまり
二人だけの秘密の墓遊び、十字架遊びという
ある種の禁忌を犯し続けていく物語なのだが
この危うい雰囲気が実に良い。
全編通して流れる表題の名曲が情緒たっぷりに
彼らの無垢さを彩ってくれる。
最後まで一環した世界観を作れている一品だね。
周囲から英才とすら思われていた少年が
女に惚れて落ちていく構図も中々です。
『キンダガートン・コップ』 1990年
監督:アイヴァン・ライトマン 主演:アーノルド・シュワルツェネッガー
★★★☆☆
麻薬組織を追い続けるアグレッシブな刑事が
ふとした事から幼稚園に先生として潜入捜査するお話。
アーノルド・シュワルツェネッガーという俳優の凄さだと思う。
「シュワちゃんが○○をやる」というだけで
既に映画一本分のネタとして成立してしまう。
ここまでのスター性、キャラクターとしての存在感を持った俳優は
早々お目にはかかれない。
「あのシュワちゃんが幼稚園の先生」
本当にそれだけの映画なのだが
犯罪組織を追い詰めるためなら手段を選ばない荒くれ刑事が
無邪気な園児達に手を焼いて絆を深めていくという
この本当にシンプルなお話は十分に滑稽で面白い。
大体のお笑いポイントや展開は
見ながら想像できる範囲なのにもかかわらずね。
これは凄い事だよね。
この図式はお気楽エンタメ映画の一つの到達点かね。
『きんぴら』 1990年
監督:一倉治雄 主演:大竹しのぶ 仲村トオル
★★★☆☆
普段、CMを流せない業界の宣伝を請け負う
TV電波ジャック集団の痛快なお話。
葬儀屋やサラ金がCMを流せないって?
時代は変わったね〜
それはともかく、毎週金曜、1分間だけ流れる海賊TV放送。
実に面白い設定勝ちですな。
この集団に巻き込まれる口うるさい男と
それを率いる強い女の物語。
もちろんそれを取り締まる公的機関との馬鹿し合いも有り
中々に飽きさせないエンタメやってます。
意外とシナリオがしっかりしてて
進み方も終わり方も中々気持ちよい。
大いなる馬鹿映画でありながら
丁寧に丁寧に作られたB級傑作。
若さ溢れる仲村トオルも良いが大竹しのぶがより良いね。
『Queen Victoria 至上の恋』 1997年
監督:ジョン・マッデン 主演:ジュディ・デンチ
★★☆☆☆
19世紀半ば、夫の死により喪に服し続けるヴィクトリア女王と
彼女が偏愛したとされるジョン・ブラウンとの物語。
イギリスのヴィクトリア女王と言えば
この時代、ヨーロッパの均衡の象徴ともされる偉大な女王。
彼女の喪失によって20世紀の大戦が起こったとさえ言われるお方。
そしてイギリスの王制を如何にして守り抜いたかという点でも有名な人物。
この50年前にフランスでは王様が首を切られ
50年後にはロシアで皇帝が銃殺されている。
その危うい時代に立憲君主制を保ち、国民から賢母として人気を博したのは
並大抵のバランス感覚ではないだろう。
そんな彼女を描くにしてはあまりにも陳腐ではないだろうか。
喪に服し続けたい女王も、ただ女王を守りたいと願うブラウンも
最初からほぼ最後まで、自身の我侭だけを延々と撒き散らす人物となっていて
一体どこを見たら良いのかが謎の作品。
一言で現すなら二人とも頭が弱い。
結局、女王のとしての意思も、二人の純愛も、時の王宮の難しさも
決してテーマとして描かれているわけではなく
淡々と周囲に気を配れない鈍感な人物を見せられるだけの一品。
題材からすると拍子抜け。
時代と舞台は良いのだけどね。
『グーニーズ』 1985年
監督:リチャード・ドナー 主演:ショーン・アスティン、コリー・フェルドマン 他
★★★☆☆
首の回らなくなった家族の借金を返すため
一発逆転、地元海賊の財宝を探しだす子供達の冒険譚。
何と言う素晴らしい子供騙し。
難しいお話も、もっともらしい整合性も
活劇には必要ないんだよ。
離れ離れになりたくない子供達が
みんなで勇気を出して前に進んでいけばもうそれでよし。
多彩なアトラクションを攻略していく姿は爽快。
子供を上手く使いこなした映画は
本当に元気になれるよね。
彼らの生き生きとした姿を見るだけで楽しめる事請け合い。
お馬鹿要素満載で、笑い転げて、スカっとして
そして子供時代との別れにちょっとしんみりすればよし。
『グエムル-漢江の怪物-』 2006年
監督:ポン・ジュノ 主演:ソン・ガンホ
★★★☆☆
毒物の違法な廃棄処理によって変異した怪物が
漢江を根城に人々を襲い出すお話。
大真面目なホラーパニック物を作るだけの
予算も技術も十分に持っている事を暗に匂わせつつも
敢えて要所要所で絶妙にツボを外してくる
ナンセンス映画だろうか。
そもそもこの手の作品では
一番の肝となるはずの怪物描写が余りにスピーディ。
一体何が悪いのかと言わんばかりに
上映開始から15分も経たない内に
軽々と全体像を曝け出してくるサービスっぷりに
早くも観客は苦笑を引き出されてしまうわけだね。
その後、駄目駄目な兄妹3人と、妙にカッコいいお爺ちゃんが
中学生の愛娘を助け出すため
怪物相手に奮闘する展開が続くのだが
ここも一々、クオリティの高い演出が混る割りには
彼らの言動自体は突っ込みドコロ満載なんだよ。
やはりコメディ寄りの映画かと納得しかけた所で
いやいや、真っ当な作品なのかとも惑わされてしまう
何とも歯痒い仕上がりになっている。
あらゆるジャンルの要素を詰められるだけ詰め込んだ
サービス過剰のごった煮料理感はまさしく韓国映画そのもの。
加えてその「やりすぎ」を逆手に取った
パロディすらも同時に成立させているのだから
見事な技術作品なんだろうね。
無茶な構成でありながら
作品全体は相応に纏まっている何とも不思議な一品です。
『クォ・ヴァディス』 1951年
監督:マーヴィン・ルロイ 主演:ロバート・テイラー
★★★★★
ローマの将軍とクリスチャン女性の恋を軸に
暴君として名高い皇帝ネロ、衰退を予感させるローマ
そして弾圧されるキリスト教のお話を描く。
超大作史劇物。
アメリカの1950年代を席巻したジャンルの火付け役らしい。
その地位に相応しく拘り抜かれたお仕事の数々が光る。
美術の壮大さ、エキストラを多用した圧倒的な画。
何処を切り取っても一目でそのスケールの違いがわかる。
そして何より良いのは話や演技が重い事。
これだけの舞台を用意しての薄味なんてクソ食らえ。
キリスト教の超メジャーエピソードを絡めての
視聴者の精神にまで突っ込んでくるテーマ性。
支えるのは重厚な演技とそれを堪能できる静的な演出。
中でも中盤以降、異常者としてのネロの一人語りと
ぺトロニウスとの掛け合いは
身震いする程の緊張感に包まれる。
序盤こそやや重めの入り方をするが
気付けばあまりの密度の高さに一瞬で終幕。
名シーン、見せ場の多さも特徴。
1950年代の超大作路線が今作で幕開き
1959年の『ベン・ハー』で一つの完成を見ると思えば
まさに金字塔だろう。
『沓掛時次郎』 1961年
監督:池広一夫 主演:市川雷蔵
★★★☆☆
死に行く男との約束から
子連れの未亡人を守る事になった
渡世人の姿を描く股旅人情物。
きっちり86分。
無駄のないお話、無駄のない映像の元
一切の欲をかかない完璧なテンプレート作品。
ただただ、カッコいい主人公が
悪徳親分の脅威から奥さんを守りに守り
その過程で子供にも慕われるも
最後には立ち去る哀愁物語だね。
橋幸夫が歌うベッタベタの挿入曲まで含めて
お約束の一本。
ただ、主人公の市川雷蔵は少々物足りない。
取り立てて悪くはないのだが
愛嬌溢れた渡世人を演じるにしては
気品や貫禄が残りすぎている気がするのは、
他作品での印象を引きずっている観客側の問題か。
子供が下手すぎなのはご愛嬌。
この時代の大映作品が持つ特徴なのだが
喧嘩描写を頑張りすぎているのはやや疑問。
このお話ならもう少し様式美に徹した映像でもよかっただろう。
『グッド・バッド・ウィアード』 2008年
監督:キム・ジウン 主演:チョン・ウソン、イ・ビョンホン、ソン・ガンホ
★★★☆☆
清朝末期、日本軍が隠した秘密財宝を巡り
悪党一人と敵とも味方とも言えない二人組が
入り乱れて争っていくお話。
題名や人物構成、プロットは
もちろんマカロニウェスタン『続 夕陽のガンマン』によるのだが
(The Good, the Bad and the Ugly - 善玉、悪玉、卑劣漢)
その中身はとんでもない代物だね。
セルジオ・レオーネ御大の情緒もクソもない
「やりすぎ」という言葉こそが韓国映画の真骨頂。
漫画のような極端なキャラクターも、徹底して省かれたストーリーも
圧倒的な大作アクション路線も、明らかに撃ちすぎなガンシーンも
無限に広がる大荒野の表現も、適度に挿入される残虐描写すらも
こんなセンスは他には何処にも無く正真正銘のオリジナルウェスタン。
本来、コレだけの規模でロケ撮影ができるのは
1960年代までのアメリカ映画くらいではなかろうか。
カッコを付ける事しか考えていないマカロニ論法も実に韓国チックで
今作の触れれば消えてしまうかのような空虚な存在感は
渋さとも二枚枚目とも違う独特の切り口。
韓流スターの「スター」であり続けている点が見事に光る。
一芸にこだわりぬいた大エンターテイメントで実に面白い。
また『続 夕陽のガンマン』やマカロニに収まらず、
ありとあらゆる西部劇のオマージュに満ち溢れたシーンの連続は
ファンであればそれだけで楽しい。
舞台は満州、演じるは、韓国人、中国人、日本人。
各国の言葉がしっかりと入り乱れる雑多感は独特で
アジアで無頼をやるならこの地しかないだろう。
ロシア人も混じっていたらもっと楽しかったかもね。
『グッドフェローズ』 1990年
監:マーティン・スコセッシ 主演:レイ・リオッタ
★★★☆☆
ギャング人生を送った男達のそれぞれの物語。
これは男の子が幼い頃に抱く憧れを題材にしたお話だね。
全編を通して描かれるのは
ただ一言「因果応報」だろう。
皆が皆、自身のアウトロー人生において
踏み台にしてきた犠牲者の数だけ
結果、責任を取らされるわけだ。
野心と支配欲に満ちた男共の
馬鹿馬鹿しさが綺麗に出ている世界観を
何処か寂しげな絵作りの元で淡々と描く一品。
大きな仕掛けがあるわけではないが
誰にも何処か共感できる箇所がある。
心地良さと心地悪さが同居する
不思議な感覚を残してくれる良作。
『蜘蛛巣城』 1957年
監:黒澤明 主演:三船敏郎
★★★★☆
戦国時代、物の怪の予言と妻の甘言に従い
主君を裏切り城主まで上り詰めた男が
次第に破滅していくお話。
シェイクスピア『マクベス』の戦国時代翻訳映画。
見事な因果応報の物語だね。
しかし戦国の侍たるもの一国一城の主を夢見て何が悪い。
悲劇と自業自得感のバランスが実に切ない名芝居。
まずこの映画は不穏な世界観を楽しむ作品ではないか。
物の怪の語りも怖いし、迷いの森の空気感も怖い。
野心に満ちた奥方様の言動も怖すぎるし
何より、確実に自滅の未来が待っているだろう
死相に取りつかれた三船敏郎の存在感が怖い。
理不尽にキレ始める三船敏郎のキャラクターは怖いんだよね。
頼れるオジサン浪人キャラを根付かせる前の
ギッラギラの存在感が素敵すぎる。
野心と破滅による人間の業のようなテーマ性をきっちり示した上で
「森」だ「霧」だ「獣」だ「闇」だの……要素満点。
至高の雰囲気芸で引き込まれてしまう。
もはやホラー映画に近いかもしれないね。
過剰とも言える絵作りと演技でシンプルな物語を彩った贅沢な一品。
名シーンに次ぐ名シーンの目白押しで
黒澤映画全体の中でもここまで芝居がかった演出は珍しいんじゃないかな。
一つ一つが語り草になるのも頷ける。
『クラウド アトラス』 2012年
監:ウォシャウスキー姉弟、トム・ティクヴァ 主演:トム・ハンクス 他
★★★★☆
過去と未来の世界が平行して描かれる
6つの社会の物語。
つまり
1850年代、奴隷売買に携わる弁護士の物語
1930年代、若き同性愛作曲家の物語
1970年代、原子力発電に絡む陰謀の物語
2010年代、暴力老人ホームの物語
2100年代、クローン奴隷の物語
不明、文明崩壊後の村落の物語
この6つの時代、6つの物語が
目まぐるしく入れ替わる複雑な構成だが
そのどれもが、小粒ながらも単体の映画で成立する程に
しっかりとしたお話になっている。
今作のポイントは
一見すれば何の共通項もない異世界の数々から
気づけば一貫したテーマが浮かび上がる点だろう。
場合によってそれは、肌の色であり、性別であり
遠い未来ではクローンと人間の立場でもあろう。
誰もが自己を取り巻く閉鎖性にぶち当たり
最後にそれを乗り越えていく姿が描かれていく。
結局これは、贅沢な趣向を凝らして描かれた
普遍の人間賛歌なんだな。
道中、無茶な表現の数々に戸惑わされつつも
終劇にこの爽やかさが手に入るのは格別だね。
これだけの物語を3時間弱によく纏めたもんで
圧巻の技術作品だろう。
なお、同一の俳優が別時代において
必ず異なる役柄を演じているのだが
これが特に意味を持たず
役者探しのお遊びに留まっている点だけは
やや残念かな。
『クラッシュ』 2005年
監:ポール・ハギス 主演:ドン・チードル
★★★★☆
人種差別溢れるアメリカロサンゼルスを舞台に
一つの交通事故を軸として様々な人生を描くオムニバス映画。
「人種のるつぼ」とはよく言ったもんで
黒人、白人に限らず、繰り広げられる差別の物語が実に多彩。
これが誇張なのか真に迫っているのかは
もちろん判断はつきかねるがそれにしても酷い国。
ただ、キャラクターがどいつも駄目人間ばかりで
このアメリカナイズされた自己主張の激しさだけは人種問わず共通。
なるほど等しくアメリカ人だなと思える不思議。
果たして他国から見たこの視点には製作者は気付いているのかな。
落ち着いた雰囲気の中にちょっとした可笑しさも混ざる
とっても上質な人情ドラマ。
多種多様な人物が実は少しづつ関わっているという
構成の緻密さに唸らされる職人芸映画。
『グラディエーター』 2000年
監:リドリー・スコット 主演:ラッセル・クロウ
★★★★☆
皇子の陰謀により、奴隷へと身を落とされたローマの将軍が
復讐を誓い剣闘士として凱旋するお話。
題名から期待される欲求を完全に満たしてくれる一芸作品。
見るからに男臭いラッセル・クロウが
様々な敵を相手に一歩も引かずに奮闘する
大迫力の映像を存分に堪能できる。
長い尺をシンプルなストーリーで描いてはいるが
映像や展開には常に一工夫ありテンポを殺がず飽きさせない。
是非、音響環境も整えた上で見るべき映画。
人としての誇り、ローマの取るべき道……
色々なエッセンスが盛り込まれてはいるが
基本的には見て楽しむエンターテイメント大作。
2000年代に超大作史劇映画を復権させた意義は大きいね。
時代相応の映像と音響技術で一度このジャンルの新作を見たいという
当然とも言える望みに完璧に応えている。
『グランド・ホテル』 1932年
監:エドマンド・グールディング 主演:ジョン・バリモア 他
★★★★☆
ベルリンの超一流グランドホテルのロビーに
偶然に居合わせた人々が織り成す僅か二日だけの物語。
乗り合わせ物と言うのだろうか。
所謂、全く無関係だった人間同士が
ふとした共通項から触れ合っていき
それぞれがストーリーを展開していくお話。
映画ではこの作品を古典として「グランドホテル式」と言うらしい。
僅かな余命を自由に生きてやろうと高級ホテルに乗り込む男
スランプとストレスに悩む名バレリーナ
謎は多いが、気さくで洒脱な好紳士
合併話の是非に全てかける倒産寸前の大企業経営者
タイピングの仕事で呼ばれた現実的な女性
物語の語り部でもある人生に達観した医学博士……
そんな多彩な連中が自由に紡ぎ出す
友情と恋と喧嘩のお話となれば
面白くないわけがあろうか。
それぞれの人生観が実に際立っており
見事に人物が回りきっている傑作。
男爵の紳士っぷりに酔いしれるのもよし
最後の男が得た人生観に唸るのものよし
大女優の悲劇に情を移すのもよし
何を楽しむかは観客次第。
なんと贅沢な作品だろか。
『グラン・トリノ』 2008年
監:クリント・イーストウッド 主演:クリント・イーストウッド
★★★★☆
デトロイトに暮らす偏屈爺さんが中華系の隣人との異文化交流を軸に
自身の人生観を見つめるお話。
THE アメリカ爺だね。
かつての従軍経験を持ち、除隊後は自動車工として飯を喰い
こよなく銃を愛し、日本車を憎み、アジア人種に対して差別的な発言を繰り返し
隣人との反りも合わず、家族とも疎遠となり、舐めた若者には一歩も引かない。
もちろん白人である。
この保守の権化みたいな男が人生の終焉に何を思うのか。
ストーリー自体は
隣人の少年一家との異文化、世代間交流を交えて
次第に心を開いていくヒューマンドラマなのだが
これは主人公ウォルト自身の物語だろう。
彼の心に残る物はあくまで戦争経験のトラウマと
古き良きアメリカ精神への想いなんだろうね。
決して怒らせてはいけない男の中の男の象徴として「銃」が出てくるのは
ウォルトが抱く正義の象徴なのか
はたまたイーストウッド自身の物語なのか。
男のあるべき姿として復讐の何たるか
暴力の何たるかを延々と重ね合わせてきた作品群の中で
彼が取った最後のアクションの訴えは重いね。
あれは贖罪なのか、悟りなのか。
移民少年へ受け継がれたアメリカの未来への希望なのだろうか。
枯れに枯れた演者イーストウッドの一挙手一投足を眺めるだけで
あっと言う間の終劇を保証する緊迫感満点の一本。
単体でも十分に傑作ではあるが
一通りのイーストウッド作品を見た後ならばより感慨深い一本。
『グラン・ブルー』 1988年
監:リュック・ベッソン 主演:ロザンナ・アークエット
★★★☆☆
海へ潜るという行為に取り付かれた
二人の幼馴染の生き様を描くお話。
要は海底への憧憬で心が繋がり過ぎて
二人して心中する話だよね。
そもそも素潜り競技などという物に熱中する時点で
真っ当な社会的感性からはズレてはいるのだろうが
この二人は良くも悪くもガキのままでありすぎた。
冒頭のモノクロシーンで描かれる少年時代の
まさにそのままの人生さ。
海底へのロマンという一点を除いて
どうにも掴みにくい人物像だけで2時間50分。
正直、自身の心だけを追い求める彼らに対し
ヒロインへの同情しか浮かばないお話なのだが
それででもこの映画に一種の神秘性を持てるのは
何よりも「海」が綺麗だからなんだろうね。
やはり、地中海は凄いな。
この描写への拘りと美しさは芸術性抜群。
朝の景色でも、夕方の景色でも、夜の景色でも……
地上から見た海面だろうが、水中からみた海面だろうが
とにかくどのカットを切り取っても
その全てが最大限魅力的に映る海洋の数々はお見事。
日本の海とはずいぶん違うもんだな。
象徴として度々登場するイルカがその最たる物。
日本人に言わせれば「海豚」なんだけどね。
決して物語の主題ではなく
シーンにしてもそう長い物ではないのだが
所々で挟まるそうした描写達により
確実に全体が高尚な雰囲気で引き締められていく。
全く面白みのないお話や人物像でありながら
視聴後は不思議と満足感を得られてしまう。
ある種、詐欺みたいな一品だね
『グリース』 1978年
監:ランダル・クレイザー 主演:ジョン・トラボルタ、オリヴィア・ニュートン・ジョン
★★★★☆
ちょっとワイルドな高校生達の青春物語ミュージカル。
若さの素晴らしさ。
冒頭、主人公達の登場シーンからして
何故彼らはこれほどテンションが高いのだろうかと
早くも溜息が漏れるパワーショットの連続。
何の中身もない映画だからこそ出せる
圧倒的なエンターテイメント傑作。
全てが美しく、全てがカッコいい。
時代を映す若者ファッションとしても完璧な一本。
ミュージカル面では、技術を超えた勢いにノックアウト。
彼らのメチャクチャな青春を見て自然に漏れる
楽しそうという感想が全てに勝る映画。
『グリーン・デスティニー』 2000年
監:アン・リー 主演:チョウ・ユンファ
★★★☆☆
武林を引退した主人公の下
「宝剣」の行方を中心に巻き起こる
切なき恩讐の物語。
とかく安っぽくなりがちな
武侠世界の実写化において、
ここまで美麗な映像を作り上げた事が
何よりも素晴らしい一品。
2時間に渡り全編が見応えしかない
雄大で繊細な映像美学に満ちている。
だが、せっかくの大予算で武侠映画を作れる機会に
エンターテイメントより芸術方向に舵をきった事は
ややもったいないかもしれないね。
コレはコレで傑作でありながら
世界を相手にハリウッド押しをするならば
より万人が楽しめる方向性もあっただろう。
もはや伝統芸能と言ってもよい
ワイヤーアクションの様式美もあいまって
音楽、映像、退廃的なストーリー構成と
全てにおいて、武侠情緒に満ち溢れた
完璧な芸術が味わえる贅沢作品。
『グリーンブック』 2018年
監:ピーター・ファレリー 主演:マハーシャラ・アリ、ヴィゴ・モーテンセン
★★★☆☆
公民権運動が巻き起こる1960年代。
イタリア系の荒々しいヤクザな男が
天才ピアニスト黒人の南部興行に付き添うお話。
徹底して異質な二人の関係性を描き続ける
オーソドックスな異文化交流ヒューマン。
狭い車中で紡がれる二人きりの会話劇というものは
何やら不思議な夢が詰まっているものだね。
黒人側主人公が持つインテリジェンスに満ち溢れた
神々しいまでの崇高な人物像が中々に面白い。
彼は何と正しく立派な人間なのか……
しかし、自身はその圧巻の育ちと教養から
アメリカの大多数を占めた下層社会の黒人連中とは
立場的にも文化的には相容れない存在である。
何せ、アレサ・フランクリンすら知らない黒人だ。
しかし、あくまで南部の上流階級連中は
最先端の教養として、彼の演奏会を聴きに来るだけであり
そこは社会とは隔離された別世界。
一歩、外の現実に目を向ければ社会が強いる
被差別階級そのものの扱いから逃れられるわけではない。
恵まれた教養層の黒人という存在が
それはそれで難しく複雑なアイデンティティになるという
一捻り効いた目の付け所が素晴らしい。
白人にも相手にされず、黒人の世界にも共感はなく
そんな何者でもない誇り高き人物の悩みと
「馬鹿で荒っぽいけど根はイイ奴」を地でいく白人主人公による
車中の二人旅となればイイ映画に決まっているさ。
それでもピアニストは胸に一つの覚悟を決めて
敢えて危険かつ、コスパの悪い南部の演奏会を行うんだね。
彼が見せる毅然とした強さに胸をうたれつつ
時折覗く人間的な部分を馬鹿主人公が補完するわけだ。
結果、お互いが影響されあって良い影響が出る…
特別すぎることは何一つ起こらない作品ながら
そんなイイ映画の全てを兼ね備えたような佳作。
1962年設定ならではの音楽演出も良き。
『グリーン・ランタン』 2011年
監:マーティン・キャンベル 主演:ライアン・レイノルズ
★★★☆☆
人生で肝心な所をいつも逃げがちだったお調子者の主人公が
運命のリングに選ばれる事で全銀河の平和を守る
宇宙的な大組織の一員となるアメコミ話。
まず、話のスケールの大きさに驚かされる。
全銀河で最も古く文明を手にした不死身の種族たち。
彼らの技術によって作られた銀河の平和維持組織。
それが『グリーンランタン』部隊なわけだ。
その数、何と数千人。
銀河を同じく数千のセクターに分け、
それぞれの区域を担当をしているという大風呂敷な上
この大文明を誇る彼らの母星の危機と言うのだから
規模の大きさがわかろうというもの。
そんじょそこらのヒーロー物とは毛色が違った楽しさがある。
また、この設定が生み出す世界観が実に面白い。
宇宙の決定権を握る数人の超種族による会議であり
人間の「意志」や「恐怖」の力をパワーにするという
漠然とした哲学的な教えでもあり
何百人ものグリーンランタンが揃うシーンでは
銀河中の多彩な種族の造形が楽しめたりと
元作品の時系列は逆になるのだが
ちょっとした『スターウォーズ』気分。
やはりSF物はこうでなくてはと言う満足感。
しかし、展開されるお話は
あくまで主人公個人の人間模様なんだよね。
21世紀アメコミ映画全開な軽いノリの中で
彼女と人生観をぶつけあいつつよろしくやって
自らの内面に立ち向かい「意志」の力を磨いていく物語。
メインは地球を舞台にしたコチラなんだ。
上記の世界観は大風呂敷の片鱗を伺えると程度なのが残念。
この軽さと大スケール設定の二面性を
同時に楽しむ一品なのだろうか。
もっと重厚で密度あるお話にもできただろうが
この程度で済ませるのが21世紀流のアメコミ映画かな。
冒頭、あまりに強引で特急な展開に面食らうのは
詰めるべき要素が多すぎる事へのご愛嬌。
また、自身の「想像力」により、
どんな形をも作り出せるというリングパワーは
CGとの相性抜群で、映像的にとっても丁寧な一品。
アメコミ映画全般に言える事だが
お世辞にもスタイリッシュとは言えない元デザインのコスチュームを、
きっちりと今風にリファインするセンスには脱帽だね。
『クリフハンガー』 1993年
監:レニー・ハーリン 主演:シルヴェスター・スタローン
★★★☆☆
極寒の大雪山を舞台に
山岳救助隊と武装強盗団が対決するお話。
良くも悪くも頭の悪いスタローンらしいアクション傑作。
この手の作品は如何にして舞台に制約をかけるかが
緊張感を誘う肝だと思うが
この外部と断絶した雪山は見事だね。
他の要素は全て捨て去り
敢えてここ一本の映像インパクトで勝負している一品。
逆境故に主人公の力強さが生きるんだよね。
とりあえず、彼の肉体美と行動力に惚れていれば
最後まで楽しめるシンプル作。
『グレイテスト・ショーマン』 2017年
監:グレイテスト・ショーマン 主演:ヒュー・ジャックマン
★★★☆☆
大規模サーカスの礎を気付いたとされる
アメリカの伝説の興行主PTバーナムの人生を描いたお話。
圧巻のスケールで繰り広げられる
豪華絢爛のミュージカルシーンが楽しい
テンポの良い100分映画。
当時、奇形とされた人々を集めて行ったフリークショーを扱う
非常にテーマ性の深い題材でありながらも
実に軽いエンタメ作品として仕上がっている。
彼ら抱えるの葛藤や主張は描くには描くが
主役はまず何より見た目の楽しさに徹しているわけだね。
ここから辛気臭い社会問題やらヒューマンドラマが始まってしまえば
むしろ人々を楽しませるサーカス興行に身を置いた彼らの顔が立つまい。
敢て過剰なまでに健全で前向き、お気楽なショー映画として開き直ることで
一つテーマをしっかり貫いている仕掛けが綺麗な一品。
『クレージーモンキー 笑拳』 1979年
監:ジャッキー・チェン 主演:ジャッキー・チェン
★★★☆☆
過去の因縁により命を狙われた老人の孫が
復讐を誓って修行するお話。
コミカルなジャッキーカンフー特有のノリと
昔ながらの復讐物の重さを両立させた映画。
前半、お調子者の主人公が見せるアイディア満載
小道具満載のアクションシーンは
そのどれもが完璧な完成度。
こういったシーンは笑うと言うより
もはや唸らせられる事の方が多いよね。
祖父が命を落としてから物語は一変。
新たな師匠の下、大真面目に修行を積む主人公
そして、最大のクライマックス、対決シーンへと繋がる。
ただしタイトルにもあるように
この作品のテーマは「笑拳」なんだよ。
厳密には「喜怒哀楽 拳」と言ったところか。
状況ごとにジャッキーの表情と、拳法の特性そのものが
目まぐるしく移り変わる様は圧巻なのだが
この重苦しいストーリーを前にして
その都度、大笑いしたり大泣きしたりしながら
ボスと拳を交える姿は何ともシュール。
物凄い技術作だと肌で感じられながらも
映像からはとってもカルトな雰囲気に包まれる困った一品で
実にクレイジー。
素直にカンフーセンスのクオリティの高さに酔いしれるべし。
『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』 2015年
監:オリヴィエ・ダアン 主演:ニコール・キッドマン
★★★☆☆
ハリウッドの大スターの座を捨て
人気絶頂のままモナコ公国の王子との結婚を踏み切った
女優グレースケリーの物語。
あくまで一人の人間としてのグレースケリーを描いたお話だね。
女優への未練、夫への信頼、母親としての愛情、皇妃としての責務
果てはアメリカへの郷愁、自信が下した選択へのプライド…
等身大のまま思う存分に悩む彼女の姿が
フランスによるモナ公国への圧力を舞台に絡み合い
見事に浮き彫りになっていく。
女優も演者であるならば、女王もまた一つの演者ではなかろうか。
彼女の大スター表現者としての意思の強さに打たれる作品だね。
お話はシンプルながらストレートな物語を素直に美しいと思える丁寧さが光る。
あのグレース・ケリーを演じるという離れ業を買って出た
ニコール・キッドマンの勇気に拍手。
『クレイマー、クレイマー』 1979年
監:ロバート・ベントン 主演:ダスティン・ホフマン、メリル・ストリープ
★★★☆☆
仕事一筋に過ぎて妻に逃げられた夫が
残された息子と二人の生活を始めるお話。
当時の社会派なのかな。
子供の養育権を巡って裁判で争うという姿が
滑稽と言えば何とも滑稽だね。
題は「クレイマー(姓)さん vs クレイマーさん」という意味。
この三人はそういう段階にすら至ってないと思うが
もっと話す機会はもてなかったのだろうか。
日本人にはおそらく今でも違和感が強い展開か。
とにかくこの主人公の夫がスーパーマンぶりが凄い。
子供が大好きで、仕事もこなせて、全ての行動が活力に溢れていて
あまりに理想の男性過ぎて
とても一般人の裁判情景には見えてこないのがどーだろか。
かつ別れた奥さんも、即時に夫と同収入の仕事を見つけられ
自分探しに成功する程のスーパーウーマン。
争いに子供の意思の介在が全く無いのは
それ自体がテーマなんだろうけど
こんなに子供を愛している二親に囲まれてると
例え片親でも、幸せな子供だなという感想が先に来てしまう。
もちろん自分の人生を優先させた親達という点では
本質的に幸せな家庭ではないのだろうけどね。
丁寧な作風でしっかりと楽しめるけど
裁判情景もお互いが良い人すぎて控えめの展開が多く
それ以上の物は見えてこない映画かな。
『クレオパトラ』 1963年
監:ジョーゼフ・マンキウィッツ 主演:エリザベス・テイラー
★★★★☆
共和制から帝政へと移行するローマを軸に
隣国エジプトの女王、クレオパトラ7世の後半生を描くお話。
最後の超大作史劇映画と言われる一品。
あまりの制作費故に、当時のフォックスを潰しかけたとか何とか……
だが実際に見てみれば、
決して悪い映画ではなくむしろ史劇映画としては
欠点が一つも見当たらないレベルの完成度を誇る傑作。
クレオパトラを主役として
彼女の視点が多いに絡む物語ではあるが
基本はカエサルの晩年からスタート
オクタヴィアヌスとアントニウスの争いの終結までを描く
つまり、最も熱い時期のローマ帝国を主題とした作品。
圧倒的な美術のお仕事を織り交ぜた上で
この題材を丁寧に描く作品が面白くない訳があろうか。
ただ、史劇創作物が好きな身としては
十分に劇的で魅力的な展開に満ちてはいるが
より多くの方の目に触れる一本の映画となると
確かにもう少し刺激的な仕掛けがなければ
退屈という感想が出ても不思議ではないのかな。
それこそ当時に比べられた作品が
『ベン・ハー』や『アラビアのロレンス』あたりだったとすれば
映画としての拘りではこれらの作品には及ばないだろう。
何所がクライマックスか何所が見せ場だったかと問われても
いまいち答えには困る実直な構成の上
完全版が、250分を超える長丁場となれば
一応の評価に納得はできる。
何と言っても
愚かな女と愚かな男の救いようが無いお話。
まさに魔性の女だよ。
誰よりも素直に感情を表し、時には怒り、時には泣き
いつだってプライドは高く、神々しさを忘れない。
そして、心から人を愛する事を知っている女性。
人間として何より魅力的だからこそ
カエサルもアントニウスも歪んだ惹かれ方をしていくわけだね。
狡猾なだけのクソ女などではとても到達しえない
これこそが真の悪女ですよ。
人間臭い面々の生き様に酔いしれるべし。
しかし、この作品を目にして
「損をした」という感想は有り得るのだろうか。
これ程の映像を作り上げた映画は
史上、後にも先にもコレ一本と言える次元であれば
例えお話が好みではなかったとしても、
確実に一見の価値はあったと満足できる一品だろう。
最高潮はクレオパトラがローマに乗り込むシーンかな。
もうアレは笑うしかあるまいよ。
製作のスケールに思いを馳せるだけで
映画って凄いなと素直に感心する一作。
『紅の豚』 1992年
監:宮崎駿 主演:森山周一郎
★★★★☆
世界恐慌時代のイタリアを舞台にした飛行機乗り達の物語。
究極の雰囲気芸。
映画は一芸で十分面白いという極地。
劇中からは具体的な設定や物語は
よくわからない部類に入るが
ぼかしたままで突っ走るからこそ生まれる魅力もある。
何を意味するかは自由な想像を育ていこう。
まず、異常なまでに拘り抜かれた航空機の描写など
描かれる舞台のクオリティだけで全てが許せてしまうパワーがある。
男の誇りとロマンの話であったり、女性とのお話であったり
全てのシーンが、とにかく情緒よく彩られていて
視聴者を幸せな気分にさせてくれる。
主人公は誰が見てもカッコいいね。
ヒロイン役の加藤登紀子が自身で歌う挿入歌が
その最高潮だろか。
作りたくて作られた物が存在する事は
幸せだなと納得できる名作。
『黒い河』 1957年
監:小林正樹 主演:有馬稲子、渡辺文雄、仲代達矢
★★★★☆
まだまだ、戦後の喧騒が残る時代に
アパートの立ち退き騒動を交えて描かれる
個性豊かな住人達と男と女の物語。
ハイセンス。
この一言に集約される映画だね。
強烈なテーマ曲の多用と
どこか退廃的で暴力的な映像のドン暗さ。
そして一切の隙を見せないギラついた演出の数々。
大した事件が起こるわけでもなく
男と女の生々しい関係に終始するお話が
どうしてこうも緊迫感に溢れていられるのか。
職人芸の塊のような一本。
一体、この作品の主役は誰なのか。
恥じる事のない道を邁進する主人公か、自身を見失ってしまうヒロインか
最も人間味に溢れている若きヤクザ男か、
生活に手一杯で情けない姿を晒し続ける世捨て住人達か
あるいは決して汚い部分には触れようとしない
大家や役人も十分にその資格ありだろう。
誰一人としてお近付きにはなりたくない連中なのだが
皆が、確かに生きている説得力に満ちた見事な群像劇。
時代と人間、そのどちらに思いを馳せても良いわけだね。
しかし、仲代達矢は素晴らしい。
後の主演作の数々を知っている時代から見れば
こんな美味しい役を初手から貰ってしまう
小林正樹監督との相思相愛っぷりに思わず笑ってしまう。
インテリ風の穏やかさを保ちつつも
時折見せる狂犬のような粗暴さ。
自身の欲望には正直だが愛にかけてはやや不器用。
主人公との対決も内面に荒々しさを抱えつつも
表向きは紳士然としてどこまでも小粋。
とんでもない悪役っぷりです。
映画としては彼の一人勝ち。
若き彼に出会うためだけでも一見の価値はある作品だね。
『黒い十人の女』 1961年
監:市川崑 主演:山本富士子、岸恵子、他
★★★★☆
何股もかけて平然としている色男に
女たちが復讐をしてやろうというお話。
病的なまでの現代感が画面全体から伝わってくる。
色恋に端を発している物語のはずが
極度に人間味が薄く淡々とした運びで
何よりも復讐の定義が怖いね。
全編通してのハイテンポさに
白黒映像のメリハリが実にスタイリッシュ。
二転三転する展開も飽きさせず
シュールで滑稽な様すらも何処かカッコよく映るから不思議。
そして、復讐対象の男が最高の人間像だね。
優しすぎるクソ野郎ってのは居るもんで
自分に対する殺人計画を受けて口に出すセリフが
「僕が死ぬのはいいけど君が刑務所に入るのはどうか?
僕にそんな価値はないよ」的なニュアンスなのは深すぎるだろう。
誰にでも優しいは、つまりは誰にも優しくない。
男女間の関係に限れば確かにそれはあるのだろう。
なお本妻の山本富士子が主役に見えるが
お話としてのメインは岸恵子。
最高に病的で根深い女です、あぁ怖い。
『黒い罠』 1958年
監:オーソン・ウェルズ 主演:チャールトン・ヘストン、オーソン・ウェルズ
★★★☆☆
アメリカとメキシコ国境街を舞台とした
主人公と悪徳警官による殺人事件解明のお話。
お話はシンプルな代物だね。
オーソン・ウェルズ演じるアメリカ側の警官が
とにかく強引。
証拠は捏造するし犯罪者と悪巧みはするし
主人公夫妻に冤罪までなすりつけるしでやりたい放題。
対するメキシコ側の要人である
チャールトン・ヘストン演じる主人公は実に真摯。
哀れな容疑者を挟んで行われる二人のぶつかりあいが
この作品のストーリーの全て。
二人どちらの個性に見入るかは観客次第。
しかし、映画の一番の魅力はそこではないでしょう。
オーソン・ウェルズ作品のご多分に漏れず
何よりも圧倒的な映像ハイセンスですよ。
特に冒頭の数分にも及ぶ長回しは有名だが
知識抜きで見ても一体いつまで続くのか
どこまでカメラは移動できるのか
この舞台は用意されているのかと
ドキドキしてしまう事間違い無し。
水準並かそれ以下のストーリーでありながらも
絶妙な視覚的な密度と、カメラワーク、アイディアの豊富さから
最後まで飽きさせないのはさすがの一言。
このドス暗く暴力的な映像の数々に
どれだけ不思議な世界観を感じられるかという一品。
安定と言えば安定だが
過去作を見た上でまだ見るような作品かと言うと疑問。
新しい事をやってはいるがあくまで驚きの方向性は一緒。
チャールトン・ヘストンの器用な演技には
多少、イメージの違いからびっくりできるかな。
『クローズZERO』 2007年
監:三池崇史 主演:小栗旬
★★★☆☆
鈴蘭男子高校のテッペンを目指して
様々な勢力が入り乱れるお話。
ヤンキー物と思うと痛い目を見る。
決して一部高校生の文化を描くような映画ではなく
どちらかと言うとヤクザなノリが強い。
むしろ、完全なる乱闘専門映画として
若さ溢れるパワーに満ちていて素晴らしい。
何より小栗旬とライバル役の山田孝之の男臭さが良く
所謂、二枚目とは全く違う男前っぷりで
素晴らしい熱演です。
乱闘、乱闘、乱闘。
これでもかと言う程に勢いとテンポだけで突っ走る様は
爽快の一言。
難しい事を考えちゃ駄目ね。
原作の1年前の話という設定で
一部の原作キャラが下級生として軽い顔出し。
あとは主役とライバル以外の個性が
ほとんど存在しないのは物足りないか。
『クローズEXPLODE』 2014年
監:豊田利晃 主演:東出昌大
★★★☆☆
鈴蘭男子高校のテッペンを巡る
ヤンキー映画の第三段。
物語は仕切り直しになるのだが、
原作が持っているテイストを存分に活かした
甘ったれの寂しがり屋達が見せる
友達探しの物語は安定感抜群。
本来のクローズ世界観に一番近い映画化ではなかろうか。
この能天気さを守ってさえもらえれば、
後は、雰囲気だけで十分に楽しめるのが
この世界の良いトコロだろう。
1980年代風の学ランとタバコが基本の世界観ながら
髪型や細かいファッションセンスは
十分に2014年相応になっているという
何とも不思議なファンタジー感が心地良し。
画面から若さが感じられなければヤンキー物は嘘だろう。
特別に大筋の物語があるわけではなく
学校やチーム同士の抗争がメインの話でもなく
あくまで個々人のぶつかり合いに終始した
シンプルな構成となっているのだが
全体的にキャラクター性も弱めかな。
何より東出昌大が演じるが主人公が綺麗に過ぎる。
あんなスマートな色男が
クローズの主人公足りうるかだけは疑問。
『黒く濁る村』 2010年
監:カン・ウソク 主演:パク・ヘイル、チョン・ジェヨン
★★★☆☆
長らく父親と疎遠だった主人公は
その父の死を契機にある田舎村へと赴くのだが
そこでの村人の態度、また雰囲気から何らかの不審を感じ取り
独自に調査を開始するお話。
田舎村恐怖物としての側面を持ちつつ
人間同士が抱くジリジリとした緊張感を描き
さらにはサスペンスとしても成立しているという
中々の力作、職人映画。
「この村の連中は何かを隠してる」
この雰囲気の楽しさは東西問わず往年の名作によって証明済み。
しかし、21世紀の韓国映画が持つ生真面目さは
本当にサスペンスにマッチするね。
何であろうと一定のコメディ的な緩い雰囲気や
社会問題に直球で繋げねば済まないような昨今の邦画からは
決して出せない緊迫感がしっかりと残っている。
それでいて作品として手馴れているのが心地良い。
160分近い長編を飽きずに見せられるのはさすが。
この作品の見所は人間関係だろうか。
故人である父親の人物像が実に強烈。
牧師であり、理想主義者であり、究極の人たらし。
だが時として暴力的な一面をも除かせる不思議な人間。
そんな彼に惹かれた悪党達が作った村なんだよね。
悪事を続けつつも過去の罪は浄化されたと信じたい面々だが
この牧師を前にした際にはどうしても拭えない罪悪感が残る。
いつまでもプレッシャーとして君臨する事は罪なのだろうか。
このあたりの生臭さは見事。
田舎村をその息子が嗅ぎ回る事への苛立ちも
おかげでリアリティ抜群。
最後まで明確に語られる事のないある事件の謎も含め
全編を良質に仕上げた丁寧な一本。
『クロコダイル・ダンディー』 1986年
監:ピーター・フェイマン 主演:ポール・ホーガン
★★★☆☆
オーストラリアの奥地で密林ガイドを営む主人公と
彼を取材するNY育ちの女性記者との不思議な恋物語。
主人公の強烈な野性味が全てでしょう。
彼を現す言葉はダンディしか有り得ない。
しかもどんなダンディかと問われれば
まさにクロコダイルなダンディと思わず納得。
男だね。
物語はほとんど存在すらしません。
映画らしい劇的な展開があるかと思って見ていると
あまりのスッキリっぷりに
自分は何か勘違いしたのかなと悩んでしまう程。
とにかく彼のワイルドさを楽しむ一品だろう。
前半は女性が密林をガイドされ
後半は男性がNYに招待される。
交換体験をした後、気付くとお互いに惚れあっていた。
その間に特に大きなイベントは無し。
都会ッ子の密林でのズレを楽しみ
田舎物の都会でのズレを楽しむ。
本当にそれだけなのだが、不思議と退屈さは感じられない。
80年代臭全開で進む良作雰囲気ムービーかな。
軽さが命みたいな好感度作。
『黒蜥蜴』 1968年
監: 深作欣二 主演:美輪明宏
★★★☆☆
黒蜥蜴と呼ばれる稀代の怪盗と
名探偵、明智小五郎の対決話。
インテリでスマートな明智小五郎を木村功。
妖艶な異常者に美輪明宏。
この対比だけで勝ったも同然のインパクト作品。
江戸川乱歩の原作として納得できる
少々、病んだ世界観を舞台にしながらも
三島由紀夫が絡んでいるらしい
あまりに気取ったやりすぎポエム台詞の連発が
なんともアンバランスでこそばゆい。
独特の美的感覚に満ちたダークな映画だね。
少々、展開自体は退屈に思える箇所もあるが
美輪明宏の中性的な魅力をベースに敷いて
世界観を構築しきった発想勝ちだね。
やりたい事だけを見事にやりきった満足感が
80分程度の時間から綺麗に伝わってくる。
『クロユリ団地』 2013年
監:中田秀夫 主演:前田敦子、成宮寛貴
★☆☆☆☆
いわく付きの団地に越してきた
若い女の子が体験する恐怖のお話。
まず、ホラー映画として作られていない事が衝撃だね。
霊的な物こそ登場はするものの
基本はトラウマ持ちで精神を病んだ女が
最初から最後まで狂っているだけの作品。
そもそも、恐怖の団地と化した事件自体が
不幸ではあるが割と何処にでもあるエピソードで
インパクト極貧。
その程度で呪われてたまるかとツッコミ必至だろう。
結果、せっかく提示した「団地」という閉鎖空間が持つ
不安感が全く生かせず
彼女の人生との関連性も薄いまま
強引に巻き込まれる雑展開が続いていく。
全般、雰囲気芸で攻めている中で
唐突に作品が変わったかのような
安っぽい恐怖映像が挿入されるのも謎。
せっかくの主演作品で本人は相応に気合の入った演技をしているが
映画そのもの作り方が
追い詰められ、泣き喚く前田敦子の姿を延々と垂れ流す事を
一つの目的にしているとるするなら
少々、彼女が不憫というものだろう。
悪い意味でアイドル映画で終わってしまっている。
もっとも彼女への同情までをも計算して
作られているなら見事なもんだがね。
ホラー映画としては成立せず
ドラマとしても成立せず
何とも目的不明な一品。
『軍旗はためく下に』 1972年
監:深作欣二 主演:左幸子、丹波哲郎
★★★★☆
戦後の復興も進み、戦没者年金の制度もできた時代に
かつて、夫を戦死ではなく「死亡」と通知された妻が
終戦間近の南方で起きた事件の真相を求め
関係者に話を聞いて回るお話。
圧巻の完成度。
全編通して、ホントの話は何処にあるのかという
一つの謎がどっしりと軸にあるために
様々な証言者から飛び出る凄惨なエピソードに
ついつい真剣に耳を傾けてしまう仕掛けが実に良い。
その思い出話の一つ一つが
どれも戦場の限界を伝える体験談としては珠玉であり
鬼気迫る真実味を持っているのだが
どうも肝心な事件については、皆が何かを隠している雰囲気もあるんだな。
これが作品全体に絶妙な緊張感を与え続け
下手な説教映画とは無縁なエンタメバランスを見せてくる。
実際、後の証言者による話の連鎖によって
最初の証言者のウソが発覚していくなど
謎が謎を呼ぶ展開なのだから面白いに決まっている。
皆、自身の罪の意識が強すぎて
全ての事実を白状はできないんだけど
そこで受けた体感の部分までをも
作り話で開き直る事はできていない…
彼らの人間的な弱さが実に響くのよ。
時代問わず、誰もが等しく逃げられない類の世界だからね。
終戦から四半世紀を経た時代において
忘れられない人間と、忘れようとしている人間の
闘いにすら思えてくる。
現代日本パートと、末期南方戦線の証言VTRのメリハリも見事で
カラーと白黒との対比はもちろんとして
映像以外にも様々な仕掛けが張り巡らされている。
特に、証言内にしか登場しない夫の丹波哲郎が
抑えたトーンで何パターンもの人物像を演じていて
常時、冷静で虚無すら見える諦観を出しているのに対し
夫の死を解明したい現代の左幸子は
同じ絶望でも実に感情豊かで情緒があるよね。
隔絶された世界を何とか繋ぎたいという足掻きにも見える。
ラスト「花をもらえない」という
奥さんの台詞に至るまでがもう完璧なテーマ性。
戦争そのものと同時に、何よりその戦争を誤魔化そうとしている世界への
終始、静かな怒りに満ちたギラッギラの一作だろう。
『刑事ジョン・ブック 目撃者』 1985年
監:ピーター・ウィアー 主演:ハリソン・フォード
★★★★☆
刑事殺しの現場を目撃してしまった都会暮らしの未亡人母子が
主人公刑事の護衛の元、田舎に引き篭るお話。
これはハリソン・フォードの演技派作品だね。
アーミッシュと呼ばれる異文化の村落で暮らし
未知の文化との邂逅に心を開きながら
また、未亡人との禁断の恋にも惹かれ合う様が何とも渋い。
素直に結ばれるな恋愛物も良いのだが
互いを尊重するが故に一線を越えないまま別れる男女の物語も良いもんだね。
アーミッシュ文化の話と二重構造になっているだろう
この帰結は実に爽やか。
村落の生活風景が徹底して美しく描かれており
絵作りの一つ一つも見所満載。
殺人事件に纏わるサスペンス調の物語展開ではあるが
本質は人生に疲れた都会刑事の一時の休息物語だろう。
『刑事物語』 1982年
監:渡邊祐介 主演:武田鉄矢
★★★☆☆
博多から静岡に飛ばされた冴えない刑事が
現地で連続ソープ嬢殺人事件を追うお話。
武田鉄矢のキャラクターが素晴らしいね。
絶妙なダサさとカッコ良さが共存している。
適度に三枚目で、適度に純情で優しく、適度に逞しく
それでいて、いざ怒らせると怖いという姿は
間違いなく馬鹿な男性諸君が好きな「オトコ主人公」像ですよ。
基本はありがちな刑事アクション映画なんだけど
ソープ(当時の言い方ではトルコ)が舞台の暴力団事件だけあって
バンバン女の裸が出てくる泥臭い映像の目白押し。
加えてヒロインが聾唖者の元ソープ嬢という
中々に取り扱いの難しそうな題材を混ぜ込んだ上で
謎の「蟷螂拳」をフィーチャーしたB級カンフーとしても展開。
かつそれをキッチリ泣かせの物語として成立させるのだから
見事な離れ技が効いてる一品。
ギャグのようでギャグじゃないってのが肝だろうかね。
しかも小道具的な仕掛けが実に巧い。
友情出演の範疇であろうワンシーンだけの高倉健を
主人公の情けなさを際立たせるジョークとして見事に使い切っているし
全編通して無口で不気味な田中邦衛の存在感も
ストーリーに綺麗なオチを付けてくれる。
何より、エンディングで流れる吉田拓郎の傑作曲
『唇をかみしめて』の醸し出す空気感はもう最高だね。
これまた映画舞台とは全く関係ない謎の広島弁ソングというご愛敬だが
この曲がエンディングで流れた瞬間にこそ
武田鉄矢の哀愁漂う振られ純情キャラがMAXで完成するわけだ。
メインストーリーがあまりにあっさりしすぎて雑な印象ば残るんだけど
全部乗せのコッテリ風味に妙な満足感が得られる一品。
『刑事物語2 りんごの詩』 1983年
監:杉村六郎 主演:武田鉄矢
★★★☆☆
武田鉄矢が演じる片山刑事が左遷先の地方で殺人事件を解決する
アクションシリーズ第二段。
泥臭い俗っぽさに満ちていた前作と比べれば
ずいぶん、ほのぼのした空気に満ちた作風に変わったね。
もちろん、殺人事件に関わるお話なので
相応に暴力的な映画ではあるのだが
誰が見ても安心できる作品に仕上がっている。
これが人気シリーズ化するという事か。
現場に残された「リンゴの種」をキーアイテムに話は進むが
その展開は前回を遥かに上回る雑っぷりで
事件物として見ていると耐えるのが辛いレベルかもしれないな。
ただ、シーン毎の見せ場は中々に多く
武田鉄矢が見せる唯一無二の暑苦しい名場面を繋げば
さぞ傑作映画に見える事間違いないなし。
主人公片山刑事のドジで愛嬌ありつつも
いざという時に男を見せる前作から続くキャラクター性を
思う存分に堪能するための一本だろう。
決して細すぎず太すぎずのリアリティで仕上げた
マッチョな肉体も見事。
男! 武田鉄矢の象徴とも言える映画。
『ケイン号の叛乱』 1954年
監:エドワード・ドミトリク 主演:ハンフリー・ボガート
★★★★☆
戦時中の無謀とも思える艦長命令に逆らった
乗組員達が軍事裁判にかけられるお話
軍隊における狂った行動に対する正解とは何だろうか。
艦長が本当に精神的に狂人と化していたならば
副官が任務を引き継いぐという規定はあるそうだ。
だが、後の裁判で極限とも言える現場の状況が
本当に再現され理解される保証は何処にもない。
クーデターとして扱われれば後の軍事法廷で命を落とす事になるだろう。
だが、命令に従えばその場で無駄に命を落とす事にもなる。
何が正しいか、軍隊という公の組織においてすら
やはり個としての決断が迫られる瞬間は存在する。
永遠の命題を扱った一本だね。
まして、時代は1944年の大戦も激化した終盤の時代。
人手不足の激しい時勢で一体誰が厳格で正確な基準の元に
艦長の精神的な健全性を保証し得ようか。
この映画は、艦長役のハンフリー=ボガードの演技が素晴らしい。
常に感情が不安定で傲慢でいながらも何処か怯えていて
偏執症状を見せながら常に強権ではあると……
閉鎖された艦内という空間であれば
誰もが精神に異常があると疑っても仕方がない
何とも怪しい存在感を出している。
これは彼の好演を大前提とした作品だよね。
そして、そんな極限状況であれば、
狂っているのは乗組員側の集団真理かもしれないんだよね。
前半は艦内の艦長気狂い説の緊迫感
後半は軍事法廷の行方の緊迫感と
特別派手なシーンがあるわけでもない中で
2時間を越える映画に気付けば目が釘付けになっている傑作。
『ゲームの規則』 1939年
監:ジャン・ルノワール 主演:マルセル・ダリオ、ジャン・ルノワール
★★★★☆
フランス貴族達が一夜のパーティで見せた
これ以上ないレベルの大狂乱コメディ話。
多彩な登場人物が一気に入り混じるのだが
人物整理を自身の頭で行っている内に
気付けばその魅力的な言動や人物像に引き込まれている。
繰り広げられるは
人間の本能と社会的な立場が入り混じった一大浮気大会。
徹底してモラルと生産性のない展開の連続で
最初から最後までクズしか登場しないのだが
そのクズっぷりが実に人間臭いから不思議だね。
貴族と同時に使用人達も入り乱れたドラマが展開されるが
そのクズさにおいては階層は関係ないようで
「上」も「下」も一皮剥けば結局は同じ事をやってるわけですよ。
等しくクズである事をベースにする事で
逆説的な人間賛歌が確かに感じられるから面白い。
貴族達の冷め切った会話だからこそ
その根底に結局は残ってる愛情が見える嬉しい作品だろうね。
メチャクチャなコミュニケーションを写しながらも
皆が皆、壁を超えられない存在なのは一緒なんだ。
徹底した悪ふざけの奥に何か人間の本質みたいな物が見えてくる
不思議な傑作映画。
『劇場版 空の境界 第一章 俯瞰風景』 2007年
監: あおきえい 主演:坂本真綾
★★★☆☆
女子高生の連続飛び降り自殺事件に
ある理由から介入する不思議な少女のお話。
何だろう。
幽霊とか人間の不思議な怨念とか
そういう物の力を肯定した上での
ちょっとした怪奇物なのかな。
写実的な風景描写の中を
いかにもなアニメキャラクターが動き回るお約束の作風で
落ち着いた演出を大切にすれば雰囲気は出るよね。
そこで淡々とした語り口調が素敵な一品。
ただし、一見して謎物かとすら思わせる前半戦の密度の高さからすれば、
後半、張本人が全ての顛末を語り出すと言うのは野暮にすぎる。
ひたすら説明過多に気を使っていた情緒は何所へ行ったのか。
クライマックスから途端に作品として安っぽくなるのが何とも残念。
単語の一語、一語のインパクトを大切にする
独特の言語センスは面白いね。
キャラクターは有って無いような物で、
世界観や雰囲気作りのために置かれてるような存在かな。
連作前提らしいので重みは続編で生まれると期待。
まずは雰囲気芸を楽しむ45分短編映画。
『劇場版 空の境界 第二章 殺人考察(前)』 2007年
監: 野中卓也 主演:坂本真綾
★★★☆☆
前作登場人物の高校生の頃を描く
彼らの出会いのお話。
一章の超常的な怪奇世界観から一転して
実に甘い思春期なお話。
連続殺人事件の行方というサスペンスは絡ませつつも
真っ直ぐには生きられない主人公の姿と
それを献身的に愛する素直な少年の物語。
前作で出会った彼らの存在を十分に理解できる一品。
実際には絶妙に謎を残しつつも
少年の心だけはきっちりケリが付く爽やかさ。
病的でありつつも、愛とはそういう物かなとも思えるよね。
前作が「自殺」、今作が「殺人」。
この作品のテーマは死と自我なのだろうか。
いくつもの設定を作りつつ、次作への興味をそそる
意外な作風で驚かされる二作目。
『劇場版 空の境界 第三章 痛覚残留』 2008年
監: 小船井充 主演:坂本真綾
★★☆☆☆
連続殺人事件をに関る事となる
主人公たちの物語。
今作は普通の安いアニメになってるね。
長編シリーズの一本としては日常パートも良いのだろうか。
語りに語った前二作から比べ、淡々と安いヒロイズムだけで進む
嘘臭い悲劇の物語は全く作品としての特徴が見えてこない。
敵のキャラクター設定だけで逃げた一作かな。
それでドラマを納得してもらえると思ったら大間違いだろう。
一作目から既に見えていた
謎明かしの下手さも繰り返しだね。
話が進めば進む程に、観客として冷める浅さには
どう対処したらよいものか。
何の仕掛けもなくどうでも良い話を唐突に語られて
一体、何を受け取るべきか。
例によって主要人物の言動は面白いので
あくまで彼らの繰り広げる物語としては楽しめる一品。
短編に救われたかな。
本当にアニメはこの手の同情だけで一本作った長編が多すぎる。
このくらいの尺が合う話ですよ。
『劇場版 空の境界 第四章 伽藍の洞』 2008年
監:滝口禎一 主演:坂本真綾
★★★☆☆
第二章の続き。
少女と少年のその後の再開を描くお話。
二章の時点で、十分に想像力で補完をさせて
結論は観客に伝わる内容だったため
直接描くのは少し野暮かなと思いつつも
直接見れたら見れたで嬉しいいものだから不思議。
過去の主人公から現在の主人公へと
その心が移り行く様と
もう一人の主要人物とのファーストコンタクト。
あくまで想像の範囲は出ないお話な上
独特のインパクト重視の語り口調も薄めだが
それでも綺麗にまとまった最も短い映画かな。
40分程度で間を繋いだ一作だろう。
『劇場版 空の境界 第五章 矛盾螺旋』 2008年
監:平尾隆之 主演:坂本真綾
★★★★☆
初の120分長編。
これが集大成だね。
延々と繰り返される同一シーン、同一時間軸の使い回し
どれが現在でどれが過去か、何が本当で何が嘘なのか。
副題「矛盾螺旋」とはよくいったもので
圧倒的に緻密な構成に舌を巻く一品。
ちょっとした描写に隠された正解へのヒントもあり
この無駄に頭を使わせる満足感故に
話が一本に繋がった時の快感は格別。
都会の中の「マンション」という題材も
その構造や生活スタイルの虚構
日常への矛盾と螺旋の象徴として完璧なハマリ具合。
目の付け所が実に見事。
引越し直後、あるいは友達の家を訪ねた際など、
あの同一構造の連続空間に違和感を覚えない人があろうか。
カッコツケな小難しい単語のインパクトという
独自の世界観もキレにキレており、
前四作で撒いたストーリーへの種を全て刈り取る完結編だろう。
各キャラクターへの謎設定の解明も
要所要所できっちりと見せ場として使い切る無駄の無さで
大方のストーリーやキャラクターが
この五章で判明する事となり大満足。
敵キャラの安っぽさだけは少々いただけないが
この世界観から導き出される悪役では
あの程度の人間性が限界なのだろうかね。
生きた人間像が逆に似合わない魅力というのもあるだろう。
そんな雰囲気芸で見事に突っ走ったクオリティ満点の一作。
『劇場版 空の境界 第六章 忘却録音』 2008年
監:三浦貴博 主演:坂本真綾
★★☆☆☆
生徒が妖精に記憶を奪われるという事件が多発する
ある学園の謎に迫るお話。
これ以上、何を描く事があるのだろうかと思ったが
やはりコレと言った題材は無い一作。
今まで何の出番もなかった脇役が
唐突に主役扱いで登場して、
延々と寒いノリで喋り倒すだけのお話。
これだけの世界観を作ったブランドの続編が
オリジナリティがゼロの作風は駄目でしょう。
どこにでもあるノリで、どこにでもある退屈な展開を見る
観客層の程度の低さを表す一品。
これを認めしてまうのが弱みだよ。
主役の少女の空回りも相当だが
本当に退屈なのは敵キャラクターの方かな。
この手のコミュニケーションを育てない
自己陶酔型の迷惑な人間を使う事によって
一体、何のテーマを見せたいのか。
そこが全く作劇から見えてこない映画。
『劇場版 空の境界 第七章 殺人考察(後)』 2009年
監:瀧沢進介 主演:坂本真綾
★☆☆☆☆
第二章で起こった殺人事件を補完するお話。
何故か長編なんだね。
120分は勘弁してください。
ここまで映画とは薄められる物なのだろうか。
どう考えても30分で終わるような話を
ダラダラと似たような喋りと展開と映像を繰り返して
強引に120分に引き伸ばした一品。
そもそも、第二章とその他の描写によって
これは十分にケリがついているお話なのだよ。
観客が自身で納得できている中で
これを具体的に手取り足取り説明し続けるというなら
ただの介護アニメだよね。
作品そのものはもちろんだがこれが必要だと思う事自体
どうにも志が低すぎる。
中身も既存のキャラクターを全て壊すような
そんな野暮ったい言動を繰り返すだけで
恒例の自己陶酔型で、独り言がツマラナイ敵キャラをのさばらせるだけ。
本来、言葉や単語のハイセンスが独等なブランドで
一体、2時間もこの会話に付き合わせて何を感じさせたいのか。
40分程度の第四章ですら少々くどく映った身からすれば
到底、耐えられる代物ではない。
コレ程に見事な蛇足はちょっと他では見られない
完全に方向性を間違っていると感じてしまったシリーズ第二の長編作。
『劇場版 空の境界 終章/空の境界』 2010年
監:近藤光 主演:坂本真綾
★★☆☆☆
主役コンビがかつて二人が初めて出会った場所で
延々と語り続けるだけのお話。
本当に30分間、一人が演説を続けるだけと言う
異色の構成なんだけど、
前作を見る限りでは下手な展開に載せるくらいならば、
いっそこれで良い気もする。
ただ、根本的に面白い語りではないんだよね。
部分部分では納得できる個所もありつつ
ホントに語りだけとなれば、30分ですら少し冗長なのかな。
そうなると、世の短歌や詩が如何に優れているかと言う事が
実感できる意義ある30分だろうか。
そんなオマケのような映画。
前7作全てに付き合ったのであれば見ておいても損はないが
別に無くとも問題ない一作にも映った。
そんな位置付けだろう。
『劇場版 HUNTER×HUNTER 緋色の幻影』 2013年
監:佐藤雄三 主演:潘めぐみ、伊瀬茉莉也
★★☆☆☆
お馴染みの一行が終結して
事件に巻き込まれる原作付きの外伝映画。
原作ファンしか状況やキャラクターを理解できない
延長線上の作りをしている割には
あまりに人物の言動や、行動理念、世界観のノリが原作とかけ離れており
全編通して違和感が強い一本。
『ハンター×ハンター』の世界観を出すならば
もう少し展開はコンパクトにすべきで
言い回しから展開から色々とクドすぎて
せっかくキャラクターが持っていたはずの
狂気の面が台無しになっている。
ドラマもストーリーも野暮ったい構造で
原作チックなそれっぽい台詞を繋ぎ合わせただけで
主役達が到達する結論も疑問の山。
短い尺で強烈なインパクトを残すメリハリが魅力の原作なだけに
野暮ったさを感じさせたら終わりだよ。
つくづく映像化の難しいブランドだと実感する作品だね。
『激動の昭和史 沖縄決戦』 1971年
監:岡本喜八 主演:小林桂樹 他
★★★★☆
太平洋戦争末期
激戦地となる沖縄の1年間に渡る状況を
様々な視点から描いたお話。
まさに地獄のような映画。
序盤は沖縄が置かれた立場を俯瞰で冷徹に示し
次第に現実としての悲劇が増えていきつつ
最後には自決に次ぐ自決という凄まじい展開が
ほぼ感傷などなく淡々と描かれていく。
特定人物に大きなドラマを作るでもなく
テンポ良く様々な事例や人物に舞台が切り替わるために
内容に反して非常に見やすいのが特徴。
何より、このテーマを扱う大規模の作品を
可笑しみさえも含めて仕上げているのが凄い。
だからこそ、心地の悪さがかえって際立つのだろうね。
軍司令部から島民の一人一人に至るまで
誰が悪いでもなく全員がどこかズレている姿が怖い。
それを良いとも悪いとも言わない作風なだけに
根本的な発想が既に狂ってしまっている事が自然と浮かび上がるんだ。
本来「心意気」や「根性」「真面目さ」という美徳になるはずのものが
最初から最後まで非建設的な方針にだけ向いている姿は地獄。
誰か本当の意味で責任ある判断ができた人間は居ないのかという
恐怖の世界が見事にできあがっている。
実際、登場人物はみな見事。
温厚ながらも貫禄ある人格者として小林正樹が演じる牛島中将は描かれる。
切符の良い竹を割ったような長参謀長に丹波哲郎。
常に理知的で冷静な八原参謀は仲代達矢。
全員が全員、人間としてはカッコいいんだけど
その根底には「いや違うだろ!」と突っ込みもまた必至。
特に最後、まだ島民や生き残り部隊がそこら中で活動していて
落しどころの道筋も付けていない段階で
責任者が勝手に自決して「解散!」の流れは目が点になるよね。
そもそも、この沖縄戦に至った時点で
既に本土視点からは沖縄は終わってるんだよな……
この惨状が具体的に何を目的として
どの程度の意義がある地獄絵図なのかを
敢えて考えない事が大人で正義かのような
法や理性を抑え込む空気感は本当に嫌だね。
一本の映画ドラマしてではなく
様々ななメジャーエピソードを詰め込んだ
散文による叙事詩的なオムニバス一大絵巻。
しかし、いつの時代も「そこは沖縄で」なんだよなー
『激突!』 1971年
監:スティーヴン・スピルバーグ 主演:デニス・ウィーバー
★★★☆☆
アメリカの田舎道で延々とトレイラーに追い回される男の物語。
ホントに馬鹿な一品だ。
90分という尺ならば何をやっても許されるという
映画という物の面白さが見事に浮き彫りになる良作。
一つのアイディアにここまで拘れる物かという見事な一芸映画。
鬼気迫る緊迫感と、思わず苦笑するくだらなさ。
この絶妙な雰囲気が素敵。
アメリカって自力救済の国だよね。
そう思わせる程、主人公が一人で解決したがる様はご愛嬌。
劇中、最低でも三回は事態を好転させるチャンスがあったろうにという
突込みドコロはあるが
それではこの素晴らしいアイディア作品が成立しない。
何も考えずに演出とアイディアに唸って
苦笑しながらもドキドキするエンタメな一品。
厳密にはTV長編ドラマで映画ではない。
『月世界旅行』 1902年
監:ジョルジュ・メリエス 主演:ジョルジュ・メリエス
★★★☆☆
天文学権威の老人たちが
前人未到の月世界にロケットで旅立つも
月世界人に襲われからくも地球に逃げ帰るお話。
20分程度の短編映画。
お話と言える程のお話はなく
あくまで映像のロマンを追い求めた作品。
映画の父、奇術師ジョルジュ・メリエスの本領発揮か
見事なまでのフィルム遊びを見せてくれる
正真正銘の100年以上昔の特撮映画だろう。
何とカラー!
フィルムを全編を直接に手作業で塗っているらしく
当時の製作意欲に恐れ入る。
如何に映画界が新しいアイディアに満ち溢れ
皆が皆、製作情熱に燃えていたかが
この映画を通して100年以上経った今に見事に伝わる一本。
一見の価値はあり。
『ゲッタウェイ』 1972年
監:サム・ペキンパー 主演:スティーブ・マックイーン
★★★☆☆
刑務所からの出所を条件に
有力者の銀行強盗計画に参加する事となった
主人公夫婦が繰り広げる逃亡絵巻。
結局、愛を確かめ合う旅なんだよね。
どうしょうもないクズ夫婦でありながら
この極限状況で逆に絆を再確認できるってのは
シンプルにイイ話だよ。
普通はここまで最下層な逃避行を強いられれば崩れるもんだ。
社会から弾かれた二人の悲哀の旅との側面もあるが
敵も明確、目的も明確な旅の中
次々と迫り来る困難を二人で乗り越えていく姿こそが
緊張感抜群で素敵な一品。
描写は暴力的と言うよりは
メリハリがあると言うのではなかろうか。
決して意味もなく乱発しているわけではなく
要所要所でだらけないように空気を締めてくれる
考え抜かれたバイオレンス。
主人公の自己ルールも徹底してるしね。
それでいてどこか牧歌的なんだよね。
これがアメリカの広さなのかな。
ラストに指名手配よりも、不可解な逃亡よりも
まず若者の性の乱れを口にした上で主人公達の人間性に重きを置く
トラックオジサンのキャラクターが爽やかな印象。
これまでのテーマを綺麗になぞってくれる。
特に驚くような仕掛けこそ無いが
とっても完成度の高い犯罪良作。
『決断の3時10分』 1957年
監:デルマー・デイヴィス 主演:グレン・フォード、ヴァン・ヘフリン
★★★★☆
駅馬車強盗を目撃した主人公が
主犯格の護送仕事を請け負うお話。
犯人と主人公が淡々と緊張感を抱えたまま会話しあう姿が
異常にカッコいい一品だな。
地に足が付いた大人な主人公像も良いのだが
誘惑と堕落の象徴として君臨して
堂々たる人生観を語る犯人像もまたカッコいい。
男として、親父として、人間として……
人生には拘らねばならぬ時があるのだと感じ入ってしまうよ。
もちろん、素朴に生きた方が良いに決まっているし
その拘りが本当は人生を殺すのだという見方もできる。
逆の立場を感動的に描く作品もありうるだろう。
しかし、今作はそれでも一人の男が見せた妥協なき意地の姿に
スカっとできること間違いなし。
展開は骨太な渋さが続く作品ではあるが
割と演出面は雄大でオシャレ風味なんだよね。
シンプルな会話劇が重すぎず退屈もせずの
綺麗なバランスで描かれているのも見事。
受け身の展開が多くやきもきもするのだが
最後の爽快感が全てを許す傑作。
『ゲット・アウト』 2017年
監:ジョーダン・ピール 主演:ダニエル・カルーヤ
★★★☆☆
黒人の男が恋人である白人女性の実家へ挨拶に訪れ
恐怖体験をするお話。
基本的な筋立てだけを追っていけば
とってもチープなオチな三文スリラーホラーなのだが
空気感が絶妙だね。
特に近所のパーティで温厚そうな老人夫婦たちに囲まれた際の
居心地の悪さが凄まじい。
彼らが見せる頼まれてもいないのに
私はオバマを支持しているだのタイガーウッズが好きだの
黒人へ理解ある人間として話題を振る舞ってくる姿に
差別してない差別という逆体験が潜んでいるのが上手い。
よそよそしい過剰な気遣いを始めることは
つまるところは気にしている証明だろう。
物語自体はどうにもならん突飛な方向に進んでいくけど
その裏には保守系白人が心の中では黒人に嫉妬して憧れているという
タブーに触れてしまっている意味合いがあるのかな。
そして、黒人側は黒人側で白人社会の表面的でリベラルな迎合により
逆に本来の自身のカルチャーを奪われているということか。
これを100分程度の気軽さでホラー映画テイストの演出に乗せ
最後は悪趣味バイオレンス映像の目白押しという
実に2017年ライクなエンタメ作品に放り込んでいるのは楽しいね。
明らかに自身が浮いているアウェイの中に
一人残される瞬間は誰だって怖いもんだよ。
その雰囲気があまりに嫌すぎて
ホラー作品として過剰に安い映像や展開が挟まることが
かえって気晴らしになっているニクイ一品。
『ゲド戦記』 2006年
監:宮崎吾朗 主演:岡田准一
★★☆☆☆
衝動的に父親を殺してしまった少年が
高名な魔法使いと出会い共に世界を歩くファンタジー話。
色々と足りない映画かな。
まずファンタジー世界のルールがわからない。
全てを懇切丁寧に解説する必要などはないのだが
最低限はお話を楽しむのに必要な分は義務だろう。
どうも一方的に置いていかれている感が強い。
所々で展開される異世界な背景絵は
圧倒的な美しさなんだけどね。
これだけのジブリ大作でありながら
お話で楽しめないのは残念。
台詞も野暮。
そんなにクドイ言い回しでどーするのだろうか。
味と言うには、世界観とも噛み合ってもおらず
一々、そこで意識がひっかかってしまう。
荘厳な音楽や美術のお仕事で
異世界に入り込ませようとはしてくれるけど
同時に雑なキャラクターや展開がそれを阻むと言う
何とも無粋な一本。
生死に関するテーマ自体は好みなんだけど
描き方があまりに一人歩き。
『幻影師アイゼンハイム』 2006年
監:ニール・バーガー 主演:エドワード・ノートン
★★★★☆
稀代の天才奇術師と
野心溢れる皇太子の間で繰り広げられた
女を巡る争いのお話。
幻影師という神秘性のある要素が綺麗に活かされた一本。
全編が幻想的な映像質感で統一され
演出も展開も、決して一定のテンションは越えない。
道中で全く動機が見えてこない主人公の言動も重なり
終始、作品は不気味な雰囲気を保ち続ける。
着地点の見えない復讐劇ほど、
観客を不安にさせる物はないだろう。
ある決意への確信だけは持ちつつも
のらりくらりとした態度を続け
淡々と謎の舞台をこなしていくアイゼンハイムの姿からは、
何ら具体性は見えてこない。
このヤキモキ感が全てだね。
観客の呼吸までをも把握する完璧なコントロール。
最終的な脚本の纏まりまで含め
練りに練られたとても美しい作品。
『剣鬼』 1965年
監:三隅研次 主演:市川雷蔵
★★★★☆
悲運な運命の元に生まれ落ち
世間から犬の子供と蔑まれた育った下級武士が
人を斬ることで生を感じていくお話。
監督、主演、スタッフ等との関係性からして
1962年作品『斬る』の亜流だろうか。
あちらが徹底した演出重視の作風だったのに対して
今作はより主人公の人間味が伴う物語性の高い作品。
花を育てることが上手い、韋駄天のごとく足が速い……等
何か一つ他人よりも秀でた能力を見出すことで
世間を見返そうとしてきた懸命な男なのだが
彼が最終的に到達したのは剣の道。
それも、精神性を担保とした武士道の剣ではなく
上司に命じられるままの暗殺剣ですよ。
男は決して暴力的な男ではない。
花が好きで女の子に淡い恋もしての至って普通の若者だ。
それが自らに自信が持てず、不当な運命と戦いたいがあまりに
「役に立つ自分」「人を斬れる自分」に安心していくという姿は
中々に怖いね。
曰く付きの「刀」そのものに物質以上の価値を見出し
剣と心中するかのような死生観に染まっていくわけだ。
こんな弱さと同居した狂気みたいな物を描き出すと
市川雷蔵は本当に巧い。
主人公が他人より勝る能力で出世を掴みかけたことで
かえって周囲の扱いがより悪くなるという流れも実にキツイ。
今まで自身の下に見ていて人間に追い越された時に
人はより粗暴になるわけですわ。
仮に今の世でも、怪しげな日本刀を抜き身で持てたとしたら
誰しもがゾクゾクする快感的な恐怖を感じることだろう。
こんな悲しいお話を妖艶な「刀」の世界観でエンタメに描いてみせた
時代劇ならではのキレッキレな良作映画。
『県警対組織暴力』 1975年
監:深作欣二 主演:菅原文太、松方弘樹
★★★★☆
昭和30年代の山陽地方を舞台に
血みどろの抗争を繰り返す暴力団組織と
腐敗しきった地元警察の姿を描くお話。
まず何を差し置いても世界観が素晴らしい。
菅原文太と松方弘樹のW主役が
荒々しい広島弁を駆使して延々がなりたて合う
実録系のヤクザ映画となれば
もはや上質なファンタジー世界に迷い込んだのと一緒。
実に楽しい異世界情緒に浸りきれる。
つまりは『仁義なき戦い』そのままなのはご愛嬌ながら
初代と比べても全く見劣りしない程の完成度に驚かされるね。
泥水すすりまくって生き抜いている悪徳刑事に菅原文太
野心溢れるヤクザもんに松方弘樹。
二人とも確かに悪党には違いないのだが
必死に足掻いた彼らがより大きな組織や不正に潰されていく構図も
まさに『仁義なき戦い』の亜流だろう。
むしろ、ヤクザ同士の抗争から一歩踏み込んで
警察とヤクザの関係性で物語が生まれている分
より社会的には際どく、人間的にはドラマチックかもしれない。
理屈で割り切れない生々しさ、やるせなさ、カタルシスの高さも上々。
3億円の土地が3000万円で手に入ってしまうという夢のようなお話。
現代の目で見れば、陳腐な映画の陳腐な設定……と言えればどれ程嬉しいか。
残念ながら今作は21世紀も最先端の映画であり続けているようです。
暴力団員が街のど真ん中で銃撃される事件も無くなる気配は全くない。
人間、所詮は裏と表の紙一重。
誰もが大なり小なりの泥を被って生きているわけだよ。
菅原文太が哀愁たっぷりにイイ台詞を吐きますわ。
100分程度の短めの尺でありながら
超一流のキャラクター性や独特の世界観をアトラクション風に乗せて
エンタメ社会派作品として仕上げきっているのが見事。
痛快さと不条理、胸糞悪さを同時に堪能できる完成度の高い一品。
『源氏物語 千年の謎』 2011年
監:鶴橋康夫 主演:生田斗真、中谷美紀、東山紀之
★★★☆☆
平安時代の恋絵巻。
紫式部を主人公とする平安物語と並行して
彼女が描く『源氏物語』の劇中劇が絡み合う
やや複雑な展開を見せる一本。
実質的な主役は、東山紀之が演じる藤原道長。
彼の強烈な野望と個性が全ての発端で
彼への愛憎入り乱れた紫式部が
著作『源氏物語』の登場人物である光源氏を用いて導き出す結論とは何か。
そんなサスペンス調の作りを見せつつ
映画自体は二つの世界の垣根が取り払われる際に見せる
幻想的な映像による芸術志向。
エロティックな面も見せつつの
美術のお仕事、センスを楽しむ作品かな。
視覚と雰囲気芸で十分に面白い良作。
『拳銃王』 1950年
監:ヘンリー・キング 主演:グレゴリー・ペック
★★★★☆
西部一のガンマンと言われた男が
故郷に戻り一騒動に巻き込まれるお話。
徹底して綺麗な映画だね。
衝動に駆られるるままに暴力の名声を求め極めた男が
中年となって見た世界とは何なのか。
若かりし頃に見た夢と迫りくる現実の
因果応報の物語。
グレゴリー・ペック演じる主人公像が
あまりにも紳士にすぎるのだが
彼が一線を越えた人間である事実だけは
劇中で何があろうと終始揺るがないのが凄まじいね。
何一つ派手な展開に頼らない中にこそ
人生の酸いが詰まっている納得感が心地良い。
制限時間を区切ったサスペンス仕掛けも上々で
穏やかな空気にも常に一定の緊張感が保たれている職人技。
一つの人生のあり方として
あまりにも哀しいお話ではあるのだが
良い物を見た気分は約束されるオッサンに染みる一品。
『現金に体を張れ』 1956年
監:スタンリー・キューブリック 主演:スターリング・ヘイドン
★★★☆☆
刑務所帰りの主人公が
仲間を集い周到な現金強奪計画を立てるのだが
現実は思わぬ方向へと進むお話。
まず、襲撃までの緻密な構成に驚かされる。
複数の視点から時間単位で管理された競馬場の現金強奪計画は、
それだけで一つの職人芸の賜物。
そこに個性的な仲間の役割や、それ故の崩壊のフラグも見え隠れして
圧倒的な密度と緊張感が続く様はまさに良質犯罪映画。
ただし、この道中があまりに緻密で小気味良いばかりに
オチの凡庸さの方は気になってしまうかな。
悪い訳ではないが誰もが想像してしまう範囲の結末で
この時点での気持ちの高ぶりを考えればむしろ肩透かしに近い。
下手にレベルが高いために最後にもう一衝撃を期待してしまう一品。
実にコミカルなキューブリック監督の初期作品。
『恋におちたシェイクスピア』 1998年
監:ジョン・マッデン 主演:ジョセフ・ファインズ
★★★★☆
悲劇『ロミオとジュリエット』誕生にまつわる
シィエイクスピア自身の切ない恋のお話。
自身こそが適わぬ恋に燃え上がりながら
『ロミオとジュリエット』を作り上げるという
このプロットだけで勝ったも同然。
語り口を見つけた後は、如何に大胆に、そしてロマンチックに彩れれるか
歴史題材の教科書のようなオリジナル映画。
脚本の完成度の高さにびっくり。
中身は甘い甘い。
題材が題材だけに、芝居がかった台詞の数々を濃厚で情熱的な
ラブシーンの連続で重ねる姿は、苦手な人は即ギブかもしれないが
芝居の完成と、二人の恋の行方。
この一点のリンクだけで疾走する姿はお見事。
シェイクスピアと言いつつ、実は切なくも爽やかな映画。
何が残るという事ではないが、シンプルにクオリティの高い物が見たければお勧め。
『恋の手ほどき』 1958年
監:ヴィンセント・ミネリ 主演:レスリー・キャロン
★★★★☆
1900年のパリ社交界を舞台に
世間を賑わす色男と屈託の無い少女ジジとの成長のお話。
華麗だね。
舞台の一個一個がどれも綺麗。
何て余裕のある連中なんだろうか。
貴族の贅沢生活自体には全く憧れはしないが
あれ程に、世間を楽しめるその姿勢は素晴らしい。
本音と世間体の見え隠れと、そのあまりの勝手さに、
所々で大爆笑してしまう。
一応、ミュージカルという形式だけど
歌を前面に出す感じではなく
気付けば台詞が程よくリズムに乗っている程度の控えめ演出。
とってもシンプルなお話を
密度の高いな映像とキャラクターの面白さ、
そして何とも軽やかな雰囲気で駆け抜ける良作。
『恋のページェント』 1934年
監:ジョセフ・フォン・スタンバーグ 主演:マレーネ・ディートリッヒ
★★★★☆
18世紀のロシア宮廷を舞台に
オーストリアから輿入れした可憐な少女が
女帝として君臨していくお話。
名前で損をしている映画だね。
一見して恋愛映画かのように思えてしまうが
その中身は、圧巻の歴史美術大作。
シーンが切り替わるたびに
必ず宮廷内の装飾物の映像から入るという
一風、変わった繋ぎ方が面白く
豪華絢爛なロシア造形の数々に即ノックアウト。
その虚飾とも取れるあまりの仰々しさから
ただの食事シーン一つすら既に面白いのだから
もはや全てが反則だろう。
あとは夫をクーデターで幽閉するまでに成長した
女帝エカテリーナ二世としての
マレーネ・ディードリッヒの神々しさに震えていれば
間違いなく最後まで楽しめる一品。
1930年代ハリウッドの底力を拝める贅沢作。
『河内山宗俊』 1936年
監:山中貞雄 主演:河原崎長十郎、中村翫右衛門
★★★★☆
主人公の河内山宗俊や、剣客 金子市之丞は無頼の徒だが
甘酒屋で働く少女のあまりの可愛さに
ついつい人情の深入りをしてしまう。
この暖かさは良い。
山中貞雄監督は三作しか現存しないようだが、
どの作品も人々が生き生きとしていて本当に良い。
これは恋話ではなくて、
オジサンたちがついつい可憐な少女を守りたくなる父性のお話。
本当に不幸な少女なのさ。
そしてその原因を作っている
クソ野郎な弟がまた群を抜いて素晴らしい。
思わず納得できる説得力がある。
何と言う事のない王道展開にこれだけ入り込めるのは、
やはり主人公二人、そしてヒロインの躍動感だろう。
映像も一工夫があり画からも飽きさせない傑作。
『荒野の1ドル銀貨』 1965年
監:カルヴィン・J・パジェット 主演:ジュリアーノ・ジェンマ
★★☆☆☆
南北戦争直後のアメリカ西部の町を舞台に
弟を殺された男が復讐を遂げるお話。
主人公の行動が非常に大雑把で雑。
パワフルなキャラクターならば
荒唐無稽な勢いを楽しむ方面にも伸びるが
彼はただただ行動の甘さからピンチに陥り
作品に窮屈な雰囲気を出し続けるだけ。
一々、観客に盛り下がる突っ込みを入れさせて、
どうしようと言うのか。
音楽、演出、キャラクター性……
ここらで突っ走りきれないマカロニは
ただ雑なだけの小規模西部劇になってしまうね。
あくまでジュリアーノ・ジェンマ自身を楽しむ映画。
意味もなく受身に回る姿も彼ならば魅力の一つかと。
ラストシーンだけはケレン味有り。
『荒野の決闘』 1946年
監:ジョン・フォード 主演:ヘンリー・フォンダ
★★★★☆
牛追いの途中、トゥームストンへと流れ着いたワイアット・アープ達と
街の顔役であるドク・ホリデイとの友情。
クラントン一家との対立、そして淡いロマンスのお話。
いわゆる「OK牧場の決闘」物なのだが
とにかく実直な西部映像が見たければこの作品だね。
野暮な派手さが極力まで抑えられている代わりに
じっくり落ち着いたトゥームストンの雰囲気が堪能できる。
全カットが病的なまでの美意識に彩られた雄大な西部の光景の元
ドク・ホリデイとヒロインの切ない関係性に酔い知れ
その中で育まれる男の友情に感じ入り
決して恋とはまでは言えないロマンスに震える。
とっても綺麗なドラマ仕立ての西部劇。
これと言ったことはないストーリーでありつつ
同時に悔しい程に無駄もない完璧すぎる運びに圧倒されるね。
男も女もキャラクターが完璧な役割をこなしている。
特にヘンリー・フォンダ扮する主人公は
その一挙手一投足までがオシャレにすぎて最高だろう。
基本、活劇に拠った構成ではないものの
締める所はきっちり締める絶景に次ぐ絶景もあり
決闘シーンをクライマックスに据えながら
ラストシーンは情緒たっぷり締めてくる。
教科書中の教科書と言える見て楽しむ映画。
『荒野の七人』 1960年
監:ジョン・スタージェス 主演:ユル・ブリンナー
★★★★☆
無法な強盗集団から村を守るために
村人達が用事棒のガンマンを雇うお話。
一方向における完成系。
如何に個性のあるキャラクターを縦横無尽に活躍させるか。
そんな方向を突きつめるとココまで来る。
7人全員のカッコよさが極まりすぎ。
ストーリーはシンプルで
ベースになった日本映画程の尺もなく
テーマとして描く気も始めからないだろう。
ただその分、集中して所作の一つ一つまで食い入る事ができるのは
綺麗な割り切りだね。
全員が全員、台詞の無い場面で
少しでも目立とうとしているかとすら思える
キャラクター小芝居を入れているあたりが
それを許す作風も含め可笑しくてたまらない。
スターを大量に生み出すお手本のような映画。
ただし一番は、既存スターのユル・ブリンナーかな。
彼は目の力が違うね。
『荒野のストレンジャー』 1973年
監:クリント・イーストウッド 主演:クリント・イーストウッド
★★★☆☆
かつて追放した犯罪者の復讐に怯える小村に
流れ者のガンマンが現れ用心棒を依頼されるお話。
古くはレオーネ監督の『荒野の用心棒』から続く
クリント・イーストウッドを代表するキャラクター像なのだが
今作は一つの壁を越えた感じがあるね。
とにかく主人公の暴力性が異常に高い。
ちょっと絡まれただけで相手を撃ち殺す。
若い女と見ればすぐにレイプする。
村の弱みに付け込んで無理難題を突き付ける……等々
その絶対的な存在感はもはや人ではなく
さながら死神の代行者、地獄の使者といった具合。
明らかにやりすぎなレベルに到達しているのだが
どうも、主人公が倫理観のない暴虐を尽くす程に
同時に村の側からも隠された歪みや本性が
連動するかのように見えてくるんだ。
つまりこれは、悪事を隠し、他者を陥れ、自らの手を汚さず
汚い暴力措置だけを主人公へ頼ろうとする人々への
一つの審判なのかと気付いたあたりで
少々見え方が変わってくるわけだね。
悪事そのものはシンプルな仕掛けで
全編通して取り立ててのストーリーはないのだが
あくまでキーとなるのはその姿勢なのだろう。
悪とは何ぞや、暴力とはなんぞやにまで
踏み込まんばかりのテーマ性満載の一本。
無国籍で人間の香りすらしないような
既存のスーパーヒーロー像を逆手に取った
中々に皮肉の効いた一作となっている。
かつて村を追放した犯罪者たちが復讐に戻ってくるも
村人が誰一人戦おうとはしないあたりは
『真昼の決闘』のようであり
外から用心棒を雇って防衛の代行をやらせるも
次第にその用心棒自身が支配の象徴として君臨していくあたりは
『ワーロック』のようでもある。
往年の名作への隠しきれない西部劇愛に
狂おしいまでのイーストウッド臭を加味した
とっても過激で楽しい作品。
『荒野の用心棒』 1964年
監:セルジオ・レオーネ 主演:クリント・イーストウッド
★★★☆☆
敵対する二大勢力が凌ぎを削りあう町で
流れ者のガンマンが両陣営を往復しつつ
痛快に立ち回っていくお話。
要するに『用心棒』のプロットなのだが
魅力となる点は全くの別物。
究極の無国籍映画である事は一緒でも
一体、ココは何処なんだろうという
謎地域における乾ききった西部世界観がオリジナル。
「カッコイイ」
これ以外の言葉が必要だろうか。
斬新すぎる音楽も演技も演出も
全てはその世界を構築するための要素。
クリント・イーストウッドが演じる流浪のガンマンが見せる
拘りの一挙手一投足があまりにも美しい。
ほぼほぼ、完璧な完成度の作品なのだが
『用心棒』の仲代達矢にあたるような
明確なライバル不在なのがちょっと物足りないかな。
『GOEMON』 2009年
監:紀里谷和明 主演:江口洋介
★★☆☆☆
本能寺の変にまつわる秘密と
それに巻き込まれた忍の生き方のお話。
出鱈目ファンタジー自体は大好物。
ただし、そのデザインにオリジナルな魅力があればの話。
これだけ手間隙かけて作っておきながら
どれも何処かで見たようなデザインの継ぎ接ぎで
あらゆるカットで興が乗らないのが致命的。
アニメと実写を掛け合わせた映画というのは昔からあるが
CGと実写で敢えて整合性を取らずに作ったような映像はその延長か。
最後まで、安っぽさが上回って
せっかくのアクションシーンも画面からカッコ良さを求めるのは無理。
ストーリーは濃い雰囲気だけを押し出した薄味だが
世界観メインの作風ならばこれはよし。
どちらかと言うと特撮作品のようなつもりで見るものか。
ただそうなるとデザインやアクション面の悪い特撮作品はやはり駄目だよね。
そんな映画。
『ゴースト/ニューヨークの幻』 1990年
監:ジェリー・ザッカー 主演:パトリック・スウェイジ、デミ・ムーア
★★★☆☆
大都会ニューヨークを舞台に
強盗に巻き込まれて殺された男が
幽霊となっても恋人を守るお話。
サスペンスでありながら、ロマンスでもあり
十分なヒューマンコメディでもある。
死後も愛する人が見守ってくれるという
究極の恋愛ロマンをベースにしつつ
繰り広げられる内容はやや軽めのエンターテイメント。
霊媒師役のウーピー・ゴールドバーグの存在感が素晴らしい。
少し手を広げすぎな感はある作品だが
散漫と言うよりは贅沢な構成だと思えるのは、
どの話にも彼女が絡んで綺麗に画を締めてくれるからだろう。
1990年時点でのNYオシャレムービーとしても
十分楽しめる懐の広さが良いね。
『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊 』 1995年
監:押井守 主演:大塚明夫、田中敦子
★★★☆☆
脳の電子化が可能になったという世界において
「電脳化」や「義体」などの単語のセンスが光る
サイバーパンクな世界観映画。
設定自体は古くからあるのだろうけど
ビジュアルのインパクトが大きい。
電脳化した人間のプラグを差し込む姿や
仮の体がいくら傷ついても気にしない姿など
一発で日常世界との感覚のズレが分かるのが素晴らしい。
どれも何処か気持ち悪いながらも
スタイリッシュで未来物にありがちな胡散臭さを感じない。
お話はシンプルに
電脳を弄る犯罪者を追う特殊部隊の物語。
ただしその捜査の進め方、決戦シーンの描き方
どれもが独特の切り口で世界観を十分に楽しめる良作。
映画のCG全盛期が来る少し前
アニメーション以外では表現できない映像世界が確実にあったのさ。
『ゴーストバスターズ』 1984年
監:アイヴァン・ライトマン 主演:ビル・マーレイ
★★★★☆
超常現象を専門に研究を行っていた博士達が
大学から一転、幽霊退治の会社を立ち上げるお話。
お馬鹿だね。
1980年代臭全開にエンターテイメントに徹した傑作。
どのシーンを見てもこれと言った中身はないんだけど
何故か自然と楽しくなってしまう。
音楽も、映像も、美術セットも、役者の演技も
どれもこれもがスカっとする。
意外と重い話になるのかと思いつつ
結局はホラーコメディというのが面白い。
キャラクターが軽快なのが全てかな。
彼らの笑って沈んで、また笑う姿で
元気いっぱいになれる映画。
『ゴーストバスターズ2』 1989年
監:アイヴァン・ライトマン 主演:ビル・マーレイ
★★★☆☆
前作の空気がきっちり継承されているエンタメ作。
街の被害の賠償責任を市から請求されて
会社が破産してしまったというのが世知辛くて良い。
馬鹿馬鹿しさはこうでなくては。
登場人物の魅力も健在。
ただ、少しホラー寄りかな。
怖がらせてやろうという演出が前回より多く
敵も無駄に恐ろしく強大な感じがあってクドめ。
一作目程には軽快にノリ切れないんじゃないだろか。
『ゴーストライダー』 2007年
監:マーク・スティーヴン・ジョンソン 主演:ニコラス・ケイジ
★★★☆☆
悪魔と契約を交した骸骨頭のダークヒーロー映画。
他のマーヴェル作品と比べてしまうと
いまいち騒がれてはいない映画化だが
決して地雷ではない。
むしろ上手く纏まっていてとっても見やすい作品。
悪魔と契約したダークヒーローが織り成す
暴力的な活劇はどれも魅力的だろう。
特にビジュアル面でのクオリティは群を抜いており
異色の造形が楽しめる。
ただ、敵のキャラクター性が弱いのが気にかかるか。
次々と倒されていく感じが名前負けで
後半の急ぎ気味のダイジェスト展開がもったいない。
『ゴーストライダー2』 2012年
監:マーク・ネヴェルダイン、ブライアン・テイラー 主演:ニコラス・ケイジ
★★☆☆☆
悪魔と契約を交した骸骨頭の
ダークヒーロー映画二作目。
初作から駆け足気味の作品ではあったが
今回はより合理化が徹底された
続編製作のための続編だね。
無駄なく進むアクションヒーロー物ではありつつ
登場人物の誰一人にもノリ切れない
実に薄味仕立ての90分間一本勝負。
前作にはまだ主人公をベースに人間ドラマがあったし
炎を纏った骸骨ライダーの姿を
如何に実写CGで再現してくれるかの楽しみがあったが
今度はそれすらも空回り。
敵役のスケールダウン感も相まってか
基本、安っぽい印象を受け続ける構成。
若干そこを開き直った感じにも受け取れる
イカレタ演出や映像描写は楽しいのだが
それも散漫な挿入のオマケ程度で
作品全体に影響を与える程に絡まないのが残念。
悪過ぎはしないが取り立てて見る箇所もない。
そんな一本で終わっている。
『木枯し紋次郎』 1972年
監:中島貞夫 主演:菅原文太
★★★☆☆
TV作品第1シリーズと同年に公開されている
『木枯し紋次郎』の東映劇場版。
とにかくこのシリーズは市川崑と中村敦夫のTV版が有名で
乾ききった世捨て作風の印象が強いのだが今作はその真逆。
全編が徹底して湿っぽく、かつ泥臭い世界観に満ちている。
むしろ、あまりに純情ボーイすぎる紋次郎が
義理だの人情を信じて酷い目にあうお話だろう。
この過程を経てパブリックな印象の紋次郎像が誕生するという筋書きなのかな。
冒頭で島流しにあう展開なのだが
まずその描かれ方が悲惨の一言。
流人に対する人間とは思えない扱いを延々見せられ
作品の前半分はもはや「流人残酷物語」とでも言う様相で中々にキツイ。
その上で登場人物は皆が皆、それすらも止む無しとすら思えてくる
ヤバさ剥きだしの人間らしいギラつき欲望全力疾走。
徹底した非道を重ね自業自得でバタバタ死んでいく様は圧巻。
手振れ全開の荒々しいカメラによるアクションシーンも多彩で
なるほど1972年東映映画という作風だね。
ストーリーはシンプルながら過度には安くなく
何より主演の菅原文太が素晴らしい。
序盤における高倉健の任侠映画のような朴訥とした主役像から
次第に何かを悟って諦観に染まっていくという
お話に合わせた変化が実に繊細で渋い渋い。
スター映画としても十分に楽しめる一本。
ただ既存の股旅物、あるいは任侠映画のような空気も強く
「紋次郎」という名前から喰いつくとやや退屈な面もあるかな。
『木枯し紋次郎 関わりござんせん』 1972年
監:中島貞夫 主演:菅原文太
★★★☆☆
東映紋次郎の第二段。
幼い頃に生き別れた姉さんを巡る
紋次郎の悲しいお話。
中島貞夫監督の路線そのままに
やはりウェット感全開の映画に仕上がっている。
今作も紋次郎が徹底的に虐められるんだけど
特に命の恩人であるお姉さんが強烈なキャラクターだね。
欲得の化身みたいな酷い人物像ではあるんだけど
同時に厳しすぎる人生を歩んできた女が故の
生々しい人間臭さも一緒に伝わるのが良い。
どれほど裏切られても、まぁそうだろうなと思わず納得できる
市原悦子が見せる狂おしい程の愚かさが素敵。
やはりこのシリーズにおける紋次郎とは
耐えに耐える悲劇のヒーローなんだね。
それでも前作よりは落ち着いた空気の中
股旅物、渡世人物としての舞台装置も強めになっていて
やや見やすい作品に仕上がっているかな。
東映作品だけに立ち回りも大いに拘ってはいるが
決して最後にスカっとするだけの作風としては作られていない。
感情をぐっと押し殺す菅原文太がやはり良く
任侠物などよりは遥かにビターな展開と人物像が楽しめる。
十分に面白い作品だとは思うけど
残念ながら東映紋次郎はこの二作で終わりらしい。
大映TV版は上條恒彦と小室等による主題歌の印象もあってか
どこか空虚な世に自分探しを求める若者感もあるが
このシリーズにはそんな甘さは微塵もないね。
『コクーン』 1985年
監:ロン・ハワード 主演:ドン・アメチー 他
★★★☆☆
身近に迫る老いと死を意識する主人公達が
老人施設の隣にある不思議なプールで遊ぶ内に
若い頃の活力を取り戻していくお話。
これはもはや『E・T』だよね。
ただし老人版ね。
ひたすらに友好的な宇宙人との出会いが生み出す奇跡。
一味違うのは主人公達が年輪を重ねている分
宇宙人側も無垢なだけの存在ではなく
非常に理知的で明確な目的を持って存在している点。
そして主人公達の悩みが決して甘くはない点だろう。
それだけに貰える元気も一つ上質な物だけどね。
ガキの遊びとは違うんだよ。
ただ、あまりに主人公側が中心に描かれすぎていて
せっかくの宇宙人のキャラクターが弱めだろか。
老人の死を目の当たりにした際に
永遠の生命体である彼らから出る
「死の悲しみ方がわからない」という対照的な台詞など
とっても切り口としては面白いんだけど
どーもメインには据えてはもらえない。
主人公以外の老人達も存在自体が唐突な感じがして
最後に繋がる展開からすれば、淡白な進行が印象が残る作りかな。
舞台や仕掛けは完璧ながら
いまいち勿体無い佳作だろか。
『告白』 2010年
監:中島哲也 主演:松たか子
★★★★☆
「自分の娘は、このクラスの生徒に殺された」
担任教師から放たれた衝撃の一言から始まる
中学生達の心のお話。
原作は読者に「人の心」を推理させるという
不思議な形式が冴える推理小説。
章立てされた各人の独白で、
読者の勝手な感傷がどんどん裏切られていく傑作。
映画版は心の推理を抑え目にして
淡々と教師や子供達が引き起こす出来事だけで魅了してくる。
突飛で極端な人物配置や言動を繰り返す事で
何かを訴えるような作品は好みではないのだが
この作品は悪くはないね。
誇張はあれども前半の中学生の教室に
リアリティを感じるからだろうか。
特に腫れ物扱いされ、誰も触れない子供を
最初に堂々と皆の前で虐めの対象に選べた子供。
彼にある種の勇気があるかような雰囲気が恐ろしいね。
愚かな人間の愚かな行動の繰り返し。
展開の裏切りに次ぐ裏切り。
思わず苦笑するしかないやりすぎな言葉に
一流のギャグとわかりつつも本気では笑えない自身が
少し気持ち悪くなる。
次々と切り替わる映像的な演出も冴えに冴え
恥ずかしいくらいの過剰さが逆に客観的な本気の視点を呼び込む。
そんな傑作映画だろうか。
メイン子役の演技が普通すぎるのも
敢えて役柄の少年達の程度を現しているのだろね。
所詮その程度のもんさとね。
『獄門島』 1977年
監:市川崑 主演:石坂浩二
★★★☆☆
市川崑監督・石坂浩二主演
金田一耕助シリーズの3作品目。
孤立した島で起こる連続殺人の謎を追うお話。
いつもの通り
何に置いても閉鎖社会がもたらす
実に心地の悪い不快感で掴み勝ちの作品。
一族、血縁、慣習、愛憎、過去、復讐……
複雑に絡み合った人物像や家系図が
全てが一本綺麗に繋がった時の納得感が実に良い。
石坂浩二の飄々としながらも
何処か怒りや哀しみを称えた雰囲気や
監督のテンポの良い場面転換を眺めながら
最後に振りが十分に効いたオチが楽しめる
安定クオリティの一本。
大原麗子の美しさを堪能できる点はあるが
過去二作から続けばややマンネリ感はあるか。
『地上より永遠に』 1953年
監:フレッド・ジンネマン 主演:バート・ランカスター、モンゴメリー・クリフト
★★★☆☆
1941年、ハワイの米軍基地を舞台に
軍隊生活の内部を描くお話。
原題、"From Here to Eternity"
「地上より永遠に=ここよりとわに」と読みます。
登場時より「開拓時代なら通用する」と言わしめる
とても頑固で子供っぽい若者
上官の奥さんとの不倫関係に酔いしれる誰からも人気な軍曹。
部隊ごとに行われる拳闘大会に浮かれ
非協力者への虐めを助長する大尉とその取り巻き。
休暇ごとにアロハシャツを着て
町のクラブで女の子と遊び酒場で飲み倒す隊員達…
彼らの姿こそが全てだろう。
主人公の一人が受ける理不尽な虐めや
営倉での暴力軍曹の存在は強烈ながら
むしろ感じ入るのは常時における非生産性と
そこらの学校と全く変わらぬ隊員たちの精神年齢の低さ
開戦前における軍隊の遊びのような姿だろうか。
1941年当時でココまで気楽な立場だった部隊は、
世界でアメリカだけだろう。
そんな腐った姿を延々と描いておいて
否応なしに本来の仕事である戦争へと突入する様は
圧巻の一言。
パールハーバーは彼らに自浄を問うまでもなかったわけだな。
時代の節目を綺麗に意識させられる。
しかしバート・ランカスターは凄いね。
ただのダンディ俳優を通り越した肉体美。
見事。
『乞食大将』 1952年
監:松田定次 主演:市川右太衛門
★★★☆☆
戦国時代を駆け抜けた名侍
後藤又兵衛を描いたお話。
まさに竹を割ったような豪快な人間味が楽しめる作りで
黒田長政の元を出奔してから
大阪夏の陣に至るまでの彼の生き様が
爽やかに描かれる一品。
60分程度の中編映画であるため
特筆すべき大仕掛けこそ無いのだが
今作で描かれる後藤又兵衛の像と
主演、市川右太衛門とのフィット感が見事の一言で
何とも魅力的な馬鹿正直な男の姿が楽しめる
安心の人情映画だね。
『ゴジラ』 1954年
監:本多猪四郎、円谷英二 主演:宝田明
★★★★☆
海中より突如現れた巨大生物に
日本中が翻弄されるお話。
伝統ブランド「ゴジラ」の一作目。
後のイメージからなる怪獣映画という枠では到底収まらない
格調高い本格派の一本だね。
彼は、何故現代社会へと現れたのか。
人類への警鐘として敏感に世相を反映したテーマ性が
映像的なインパクトによる神々しさと見事にマッチしており
物言わず淡々と破壊を繰り返すだけの彼から
悲哀までをも感じ取れるのだから凄まじい。
科学技術によって引き起こった災厄を制するため
また新たな危険な技術を投入する愚かさを主軸に
あらゆる箇所に二重三重に張り巡らされた社会への皮肉の数々が心地よい。
悲しいかないつの時代でも通用するテーマ性だろう。
特撮面での見所も多く、炎上する東京を背にゴジラがたたずむ姿は圧巻。
あらゆる技術が目を見張る代物で何十年経過した世においても
間違いなく一見の価値有り。
やや安めのイメージからスタートこそする作品だが
お話が進めば進む程に惹きこまれていく
完成度の高い傑作邦画。
『GODZILLA ゴジラ』 2014年
監:ギャレス・エドワーズ 主演:アーロン・テイラー=ジョンソン
★★★☆☆
2014年に公開されたハリウッドゴジラ。
第二次世界大戦の頃から謎とされてきた神秘の生命体のお話。
序盤はサスペンスとして溜めに溜め
後半に一気に全貌を解き放つ手法は初代へのオマージュだろうか。
全編、ゴジラに対する神秘的な雰囲気作りが素敵で
暗い暗い画面の中、僅かな映像情報を元にゴジラの存在を
少しづつ示唆される展開は密度たっぷり。
小さい小さい家族の愛情を注視するのは
自然に対する人類社会の象徴だろうか
今作が、日本の原発事故を契機にしているのは明らかで
作品の方向性は全く違いつつ
アメリカの水爆実験を敏感に捉えた設定作りからは
初代のスピリッツを正面から受け継いでいる事が十分に伝わってくる。
ただ、サスペンスにアクションにテーマ性にと
実に豪華なゴジラ要素を散りばめた映画ではあるのだが
怪獣対決要素を入れたり、活劇シーンのテンポが少々悪いなど
ややこの一作に詰め込みすぎた感もあるか。
全般、ゴジラ自体が地球の活動の一環として組み込まれており
人間はその中で生きているという話に見えたが
どうにもその解釈は優しい世界にすぎる気がする。
今の人類はもっと危険な事をやっているんじゃないかな。
『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』 2019年
監:マイケル・ドハティ 主演:カイル・チャンドラー
★★☆☆☆
前作で復活したゴジラに呼応するように
世界中で巨大モンスター達が発見されるお話。
これはまた雑な映画だね。
眠れる怪獣を抹殺しようとする公的組織と
彼らを目覚めさせ人類の世を浄化すべきという
環境テロ組織との闘いがベースになっているのだが
この前作譲りのテーマ性がいつまで経っても上手く伝わってこない。
基本は、たった一家族の揉め事が延々と
地球規模の事態と並行して描かれるストーリーなんだけど
それがテーマ性に対しても怪獣エンタメに対しても
いまいち綺麗にはまらず映画全体と噛み合わない。
破滅的な災害の中での家族愛の話は良いし
ゴジラ達を位置づける自然系のテーマも良いのだが
一々挟まる人間アクションパートの描写が
あまりに唐突、あまりに滑稽かつ都合が良すぎて
お互いが邪魔をし合っているようにしか見えないのが残念。
また、怪獣方向での映像一つとっても
前作が溜めに溜めた演出によって
ゴジラを人類の及ばない超越者として描けていたのに対し
今作は巨大モンスターと人間側の描写における
スケール感がいまいち判りにくく
彼らの神々しさがすっかり薄れてしまったね。
怪獣全員、メインキャラクター達が好きすぎだろう。
一個の人間に反応し固執してる空気があまりもチープ。
それがテーマ性による敢えてなのか
天然でやってしまっているのかが
どうにも判りにくい。
ただこれは本家でも同じで
単品の存在感で勝負していた初作オリジナルから
怪獣同士のバトル作品へと移行すると
ややキャラクターが身近で小さく思えてくるのと一緒かな。
前作における「ゴジラの出番が少なすぎる」事への反動だとすれば
逆に悪い方向に動いた気がするよ。
もちろん、ハリウッド大作CG映画の作り込みによる
圧倒的な見せ場はいくつもあるため
相応のカタルシスは得られるのだが
これだけの予算をかけて作られているにしては
少々、一本の映画作品としての方針がちぐはぐなのがもったいない。
それにしてもモスラの美味しい役どころに対する
ラドンの扱いよ……
『ゴスフォード・パーク』 2001年
監:ロバート・アルトマン 主演:ケリー・マクドナルド 他
★★★★☆
1932年、イギリス郊外。
貴族たちのハウスパーティで起る殺人事件のお話。
これは凄い。
イギリス以外では絶対に取れない映画だね。
一見、ミステリーかと思わせ
実は当時の階層社会の面白さが主題。
執事や貴族、メイドなどの生活に夢見る方々を
一発で叩き潰してくれる本物の一品。
「階上」の住人達である貴族のやり取りも凄いのだが
「階下」の十人である執事達のやり取りは
それに輪をかけて泥臭い。
各招待客と付き人達が交わす会話で行われる情報交換。
「上」で飛び交ったゴシップが即座に「下」に回り
「下」で飛び交った話も即座に「上」に回る。
この独特な二重構造の姿が実に面白い。
下は下同士で素晴らしい仲間意識もあるのだが
上下は上下で仲が悪いわけでもない不思議。
面白いね。
自分一人では何もできないゴミのような貴族達の生活を支える彼らこそが
この映画の真の主役だろう。
とにかく登場人物の数が多いのも特徴か。
観客側も整理するのが大変なくらいだが
その誰しもが見事なキャラクターとなっており
決してそれが苦にはならず退屈はさせない。
ミステリーと言うよりは、
コメディでありヒューマンドラマでもあり
そして何よりイギリス社会を描く雰囲気芸で満点な一品。
自分は階上も階下もご免だね。
『ゴッドファーザー』 1972年
監:フランシス・フォード・コッポラ 主演:マーロン・ブランド
★★★★★
アメリカのマフィア一家を描いたお話。
普段、歴史物に触れていると違和感なく受け入れられるね。
展開されるのはほぼ史劇のそれだろう。
つまり、家族の話、他家との抗争の話、裏切りの話
後継者の話、女の話……などなど。
この映画を構成する要素を挙げていけば
どう聞いても大河ドラマだよ。
大組織の長の苦悩はいつの時代も同じ。
それだけマフィアの世界が
前時代的な代物という事になろうが
そういった中でこそ人の魅力が輝くのもまた事実。
マーロン・ブランドの父としての強さと
本当は関わるべきでなかったアルパチーノの
背負わなければならない業による
前後半の二重構造がどちらも素敵。
音楽、演技、雰囲気、演出、全てが一級品。
ゴッドファーザーが如何に偉大だったかは
話が進めば進む程に重く重く圧し掛かる。
人生は思うようには進まないもんですよ。
映画史に残る大傑作の一つ。
『ゴッドファーザーPart II』 1974年
監:フランシス・フォード・コッポラ 主演:アル・パチーノ
★★★★★
前作の続きとしてのマイケルをアルパチーノ
回想として若き日のビトーをロバートデニーロ。
この全く絡む事もない二人のシーンが交互に展開され
事実上の演技合戦をしてるかのような贅沢さが味わえる。
もちろん意図としても
この二つの時代の対比が目的だと思われる。
過去のビトーもロクでもない世界に暮らして
相当に酷い事をやっているわけだ。
それにしても、どことなく雰囲気は明るいんだね。
対するマイケルは明らかに報いを受けている。
ビトーとマイケルの差
これは圧倒的に家族に対する愛が違う。
マフィアが時代に取り残される恐怖も絡ませ
マイケルの無茶が痛い程よくわかる。
裁判の決め手に使われた
「兄弟を人質にとって」の脅し。
あの兄弟愛が決定的にマイケルに有利に働いた事は
何とも恐ろしい皮肉。
PartIIにおいてマイケルの行く末には結論は出ている。
お話やテーマ性はもちろんだが
映像演出一つとっても全てが見どころになっている
全てが水準以上の名作映画。
『ゴッドファーザーPart III』 1990年
監:フランシス・フォード・コッポラ 主演:アル・パチーノ
★★☆☆☆
ローマの協会絡みの案件をベースに
マイケルの晩年を描くお話。
IIIは既に視聴者にすればわかりきった事を
実際に丁寧に描いてみせただけで
蛇足と言えば蛇足な一本になっている。
おそらくマイケルの将来はこうであろうという像を
実際のアルパチーの演技で見せてもらえる喜びはあるが
IIで描かれた枠から抜けたテーマは一つもなく
作品としては悪くなくとも
わざわざゴッドファーザーのナンバリングを進めた価値は疑問。
単体の作品としては十分なクオリティがあり
常に不当な評価を受けている作品だとは思うが
それでも物足りないのは事実なんだ。
『コットンクラブ』 1984年
監:フランシス・フォード・コッポラ 主演:リチャード・ギア
★★★★☆
禁酒法時代のNYを舞台に
毎夜、顔役が集う酒場コットンクラブで繰り広げられる
華やかなショービジネスとギャング抗争のお話。
堂々としてるよね。
芸能の世界とヤクザの世界が表裏一体と言うのは
誰が言うまでもなく当たり前のお話だけど
ここまで見事な融合を果たしている世界観は他に類を見ない。
こんなに実在の人物の名前を出して良いものだろうか。
繰り広げられるのは、醜い抗争劇でありながらも
全編が歌って踊れる一級の芸術ショーに彩られている。
むしろ主役は舞台そのものではなかろうか。
テンポも見せ方ももちろんマフィアの方々のキャラクターにも
全てにおいて気が利いており素直に美しい。
監督、さすがの映像美。
ある意味、衝撃展開であるラストも加わり
暗いながらも明るさを忘れない。
こういう作風も撮れるという見事な証明の一作。
こんな差別と暴力で満ちた街はご免と思いつつ
軽く憧憬を抱かぬでもない活力の時代という事になろうか。
『子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる』 1972年
監:三隅研次 主演:若山富三郎
★★★★☆
柳生一門の罠に嵌められ
名誉も、公儀の職も、妻の命をも奪われた主人公が
残された子供を連れ復讐の旅を続けるお話。
一言。
スプラッター映画。
見る人が見たら卒倒するんじゃないかという
イカレタ表現のオンパレード。
それを演じる若山富三郎の殺陣が
速過ぎ豪快すぎでこれまた凄まじい。
この画面から来る説得力は圧倒的。
誰が一番極悪って主人子の拝一刀に決まっている。
劇中の言葉「冥府魔道」に相応しい。
原作のイメージを一切考慮しない
この親父臭く男臭いキャラクター性で勝ったも同然。
それを再現するアイディアの宝庫でもあり
これまた驚かされる。
劇画調作品における時代劇の金字塔ではないだろうか。
ストーリはいたってシンプルで
罠に嵌めようとする柳生側と
それを撃退する主人公の繰り返し。
85分という割り切った尺で思う様に暴れ放題の娯楽傑作。
『子連れ狼 三途の川の乳母車』 1972年
監:三隅研次 主演:若山富三郎
★★★★☆
シリーズ二作目。
執拗な柳生の刺客に命を狙われつつも、
こちらも別件で刺客として誰かの命を狙ったり…
そんな「冥府魔道」を生きる父子のお話。
参った。
前作の段階で十分にスプラッターでありつつも
不思議と画面からは美しさが滲み出るという傑作映画だったが
今作でさらに突き抜けた一品。
やはり、出鱈目ファンタジーの完成度が素晴らしい。
こんなに頭の悪い連中は見た事がない。
「エログロ」という言葉があるが
その究極の芸術性は1972年のここにある。
腕は飛ぶ、足は飛ぶ、首は飛ぶ………
そんな泥臭いイカレタ世界でありながら
その映画としての映像は、紛う事なくスタイリッシュ。
何だこれは。
徹底してエロイしね。
それぞれの立場やその殺しの手法を際立たせる事で
短い尺の中でも敵キャラクターの個性も十分。
最後は砂丘を舞台にした大立ち回り。
特にラスボスの死に際の美しさは忘れられない物になるね。
その演出の斬新さと冷静に考えた時の馬鹿馬鹿しさ。
全てを兼ね備えた娯楽大作。
90分弱、唸り続ける事もできるし
逆に一度も絶えない爆笑の連続で見る事もできる。
カルト世界をここまで作り上げた職人のお仕事を堪能しましょう。
『孤独な場所で』 1950年
監:ニコラス・レイ 主演:ハンフリー・ボガート
★★★★☆
日頃から荒々しい性格が目立つ脚本家が
殺人事件の疑惑をかけられる物語。
アリバイ証言をきっかけに彼と交際を始めた女性は
愛を確かめ合う中で、そのあまりに激しい一面から
本当に彼が犯人ではないかと怯え始める。
ボギーの好演が光る傑作スリラーだね。
とにかく傲慢で、手が早くて、怒ると我を忘れ
それでいてプライドと独占欲だけは異常に高い。
もうDV男の見本のような狂気のキャラクターを
完璧なまでに演じきっている。
どことなく実はボギーはこういう人間ではなかろうかと
様々な主演作を見て大衆が下種に勘ぐっているような人間が
まさにそこに存在する面白さ。
その鬼気迫る演技と監督の研ぎ澄まされた畳み掛けに
息をするのも忘れて見入ってしまう。
ただし、この主人公は天才脚本家なんだよね。
そして友情にも厚く、決して嫌な奴ではないんだよ。
そんな彼の長所も短所も全て飲み込んだ上で
20年来の付き合い持つ男が実に良い説教をかましてくれる。
清濁あって当たり前と言うのは
人間付き合いのある意味では本質だろう。
しかし、出会ってまだ日の浅い女性が
そんなプッツン男と、結婚の判断を下せるかと言うのは
それはまた別のお話さ。
さらには殺人事件の謎まで合わさっているのでは
このヒロインが思い、悩み、泣き叫び、怯えるのも当然で
その姿には誰もが心を入れ込んでしまうはず。
悲哀でありながらもラストシーンに残る情緒は
この男女間における関係性を劇中展開で嫌という程に
納得させられた後だからではなかろうか。
ある意味ではとても美しい。
絶妙な暗さと暴力性、そして不安と不快に包まれきったギスギスした世界観。
オフザケ無しの真っ向勝負。
完璧なまでに洗練されたサイコスリラーだね。
『コナン・ザ・グレート』 1982年
監:ジョン・ミリアス 主演:アーノルド・シュワルツェネッガー
★★★☆☆
シュワルツネッガー演じる筋骨隆々の主人公が
蛇の王を倒すために旅立つファンタジー映画。
映像の力強さが味わえる一作だね。
よくわからない古代世界を表現するための
舞台装置の数々が素晴らしい。
展開は後のコンピューターゲームを嗜んだ身からすれば
あまりにテンプレートに過ぎて面白い。
新たに登場したキャラクターが喋る
「オレは盗賊だ、弓が得意なんだ」という台詞の
何と事務的で人間性の薄い事よ。
それが許されるのも渾身の美術のお仕事と
圧巻の肉体美を誇るシュワちゃんの存在感。
基本、敵を殺す事と恋人とSEXする事だけで構成される
お馬鹿映画でありながら
不思議な力強さを貰えるアクション大作。
『五人の軍隊』 1969年
監:ドン・テイラー 主演:ピーター・グレイブス
★★★☆☆
内戦が続くメキシコを舞台に
50万ドルの金塊を積んだ列車強盗に挑む
5人の荒くれ者のお話。
冷静沈着なリーダー
爆破のプロフェッショナル爺
大食漢でちょっとアホな力自慢
軽業が得意で生意気な若者
ナイフと刀の達人の無口な東洋人
そんなコッテコテにキャラクターが乗っかった面子が
相応の予算の元でド派手な映像と共に
淡々と任務をこなす汗握る作品。
これが楽しめないわけがないよね。
脂の乗った良いマカロニウェスタン。
メキシコの乾いた大地の魅力を
馬、馬、馬の大ロケーションで伝えて
かつ最後は、数両編成の汽車を丸々使った
縦横無尽な仕掛けが待っている。
人間ドラマはかなりの薄味仕立てだが
元々、敵軍の兵士を障害物として殺していく作品なので
アクション映画として開き直って見られるよう
敢えて感情を乗せさせない割切りなのだろう。
そして、今作の特徴は
何と言っても「サムライ=丹波哲郎」。
無口な侍という設定で台詞はほとんどないのだが
表情や挙動だけでも存在感が抜群で
かえって、外国映画の中で滑稽にならずに良い立ち位置を保っている。
喋らない役だけにラストーシーンの笑い声が実に爽快。
ジャパニーズスターの海外進出シリーズとしても
外せない一本だろう。
『この首一万石』 1963年
監:伊藤大輔 主演:大川橋蔵
★★★☆☆
武士に憧れる日雇い仕事の町人が
大名行列の中元勤めの最中に悲運に巻き込まれるお話。
序盤、大川橋蔵と江利チエミが繰り広げる
野暮ったい掛け合いが延々続く空気はややきつめかな。
90分程度の尺すら長く感じられてしまった。
ただ途中、大名家同士の体面を巻き込んだ
くだらない意地の張り合い、化かし合いが始まるあたりから
物語が一気に加速して楽しくなっていくね。
特に終盤への流れは圧巻で
組織社会の愚かしさや人間の弱さを滑稽に描く
楽しいブラックコメディ作品として
平和に終わらせることもできたであろう中で
弱者へ犠牲を強いることに対しての
敢えての怒り展開には凄まじい物を感じる。
ただ、クライマックスの大立ち回りは少々派手過ぎる。
大作であることを誇るかのような大ロケーションも含めて
どうも精巧すぎる脚本と映画全体との整合性が取れず
まるで別作品が組み合わさっているような違和感を受けてしまった。
細かいパーツやプロットは最高だけど
作品としてはやや雑な印象か。
『五福星』 1983年
監:サモ・ハン・キンポー 主演:サモ・ハン・キンポー
★★★★☆
刑務所にて意気投合をした子悪党5人組が
出所後、マフィアの事件に巻き込まれつつ
おおいに馬鹿騒ぎをするコメディ映画。
本当に馬鹿だよ。
この5人組の掛け合いは見事の一言。
日常のちょっとした事から、女を絡めた事まで
とにかく徹底して屑野郎でありつつも
どこかで一線を超えない確かな友情が面白い。
イケメンプレイボーイから、どこか精神がいっちゃってる人まで
ギリギリのラインで構成される面子は
実に素晴らしい個性です。
冒頭こそくどめに映る彼らの行動も
その徹底して繰り返される愛らしい屑っぷりには、
気付けば声を挙げて大笑い。
みなさん本当に芸達者。
1970年代に大ブレイクした大真面目なカンフー映画を
ある種で、自ら馬鹿にするようなパロディも満載で
香港流の究極の悪ノリ作品だろうか。
その割にアクションは本格派というのだから
不思議な構成だよね。
そしてドラマに全く絡まないゲスト的な役どころながら
何故かしつこく登場するジャッキー・チェンの勇姿。
そのあたり、素人目に見てもバランス悪すぎだろうとのツッコミも含めて
とにかく勢いだけは楽しめる傑作コメディ。
こんなノリはまず他では見られないという
オンリーワンの世界が楽しみたければ是非。
『コマンドー』 1985年
監:マーク・L・レスター 主演:アーノルド・シュワルツェネッガー
★★★☆☆
元アメリカ軍特殊部隊の隊長が
誘拐された娘の救出のために暴れまわるお話。
描きたい事にぶれが無い作品は好きですよ。
これはジョーク映画という事で良いんだよね。
そんな馬鹿なと観客からの総ツッコミ待ちの
何ともお馬鹿なドンパチ映画。
1980年代以降に登場する頭を空っぽにして楽しめる
エンタメ武装アクションの最高傑作の一つだろう。
完全武装で真面目に仁王立ちする姿が
何故かその時点でギャグになるという
アーノルド・シュワルツェネッガーの稀有なスター性抜きには
最初から成立しない反則な一品。
全編通しての展開からしての粗さも助け
若かりし頃の野暮ったい演技が全く苦にならない。
洗練されていない動きをすればする程に
逆に面白さが際立つのだから、本当に不思議なキャラクター。
しかし、シュワルツェネッガーが主人公の時点で
どう頑張っても、敵役側が必要以上に貧弱に見えてしまうかな。
画面からはむしろテロリスト側に同情を禁じえない。
彼以上に極悪な敵役が用意できないあたりが
彼のヒーロー映画全般が、B級から脱せない理由だろうか。
如何に『ターミネーター』の逆転設定が
素晴らしいアイディアだったかがわかる。
『コララインとボタンの魔女』 2009年
監:ヘンリー・セリック 主演:ダコタ・ファニング
★★★☆☆
一見の価値あり。
現在の技術でコマ撮り
いわゆるストップモーションを本気でやったらどうなるか。
果てしない手間をかけて作られた人形群を駆使した
執念の映像が賞賛に値する企画作品。
結果、流行のCGアニメに全く見劣りしない映像作品に仕上がっている。
ただこれは誉め言葉とは言えないだろう。
ここまで、模型、ドール、ジオラマ系の一級技術者が集まって
映画としてはそういう結論にならざるを得ないのが辛い
何故、敢えてパペットアニメでなければならいかは見えてこない。
さすがに、現実に存在しているミニチュアの写真なので
質感では分があるがその分キャラクター表情の幅が弱くなるよね。
またどうしても均一な雰囲気が続くため
映像の美しさに途中で慣れてしまうのも弱点か。
作品は子供に軽いトラウマを与えるタイプの
ちょっと怖い絵本の雰囲気が上手く出ていて中々に美しい。
ただそれも途中までで、後半はよくある盛り上がりをみせる
普通の映画の雰囲気に変わってしまうのが残念。
尺が長ければ長い程に膨大な手間がかかる製作手法なのだから
無理に100分も使う必要があったのかな。
『殺しのドレス』 1980年
監:ブライアン・デ・パルマ 主演:キース・ゴードン
★★★★☆
母親を殺されたオタクの男の子が
年上の目撃者女性と二人で犯人を捜すお話。
まるで欧州映画かと思う程の
情緒溢れるエロティックな不倫描写からの
ドンデン返しに参ってしまう一品で
これは清く正しい良質B級だね。
ストーリー展開も面白いが
何と言っても恐怖演出の見事さが映える。
光や鏡を使った映像マジックの数々や
音響の妙など、独特の切り口が素晴らしく
ただ殺人鬼一人が暗躍するだけの
古典的な『サイコ』シチュエーションが
今更ここまで楽しくなるものだろうか。
最後のオチ一つとっても
観客の呼吸までをも想像して演出を楽しむ監督の姿が
自然と画面から伝わってくる。
芸術面を押し出すでもなく
こんなに作り手の個性が出る映像が成立しるものなんだね。
それがエンターテイメントの中で実現している凄さです。
敢えて王道を外す事に快感を覚えているかのような
悪ノリがとっても良い方向に働いた不思議な傑作。
『コンドル』 1939年
監:ハワード・ホークス 主演:ケーリー・グラント
★★★★★
南米の港町で航空便業を営む男どもの中へ
一人の勝気な女性が迷い込むお話。
荒っぽいね連中だよ。
時代なんだろうけど、飛行機を操縦する仕事において
こんなに無茶をやっていいものかとまず驚かされる。
一見してスマートでカッコイイ彼らの中に
実に猛々しい男の世界が隠れている。
みんなが不器用で自分を表現できない性格ながらも
実はあるラインでは通じ合っているという情の熱さが
ヒロイン女性という異質な視点が入ることで
綺麗に浮き彫りになる姿はとっても素敵。
所々に散りばめられた洒落た台詞や小道具も冴えに冴え
正真正銘のアメリカンエンタメが既に完璧な形で確立されている。
何よりも素晴らしいのが飛行機の緊迫感。
特撮であり、実際に撮られた映像であり
岸壁スレスレを飛ぶ航空機の姿
崖の落差を使った急降下発進の様……
当時の感覚だからこそ許されたであろう
操縦士たちトンデモないやり方にドキドキしっぱなし。
迫力映像が、上記の熱い舞台に見事に花を添える。
120分の中に映画に必要な全てが詰まっている傑作中の傑作。
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