『ハーヴェイ』 1950年
監督:ヘンリー・コスター  主演:	ジェームズ・ステュアート
★★★★☆

架空の巨大ウサギを友達として話しかけ続ける
精神障害者の男が織り成す人間ドラマ。

主人公の純朴な性質を追っていく事で
逆説的に、慌しい健常者達の闇が見えてくる作品。
一応、コメディヒューマンなのだろうが
主人公の存在感がガチ過ぎて困ってしまうね。
確かにこんな人間が側に居れば
人並みの生活はままならないだろう。

とっても良いお話として作られていながらも
この作品に一切の嫌味はない。
主演のジェームズ・ステュアートの存在感が
下手を打てば喧しくなりがちなテーマ作品を
見事に格調高いヒューマンドラマに押し上げている。
彼の優しさ、紳士っぷりに、嘘が無いのが見事。
架空の巨大ウサギ、ハーヴェイに振り回される面々をよそに
淡々と自分を語り続ける姿が素直に染みる。

クラシック映画冥利に尽きる貫禄の一本。




『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』 2010年
監督:クリス・コロンバス  主演:ローガン・ラーマン
★★★★☆

ポセイドンの息子である運命の高校生が
神々から受けた誤解を解くために仲間と旅をするお話。

何という軽さ。
結局はハイスクール3人組みの思い出旅行だろう。
男二人と女一人。
ファンタジーどっぷりではなく
あくまで現実に紛れ込む異世界情緒を楽しむ作風。
2010年のアメリカハイスクール文化そのままに
ギリシャ神話とリンクする世界観がとっても軽いノリで素敵。
ちょっとしたアイテムや、軽口の数々が笑わせくれる。
ある意味でギリシャ神話パロディだね。

特にどうといういう事はないお話だけど、
自分が特別な力を持っているだの、母親を捨てた父親の存在だの
基本的に男の子が楽しめる要素満載なエンタメ映画ではないだろか。
最初から最後までノンストップで大笑いしながら楽しめる傑作エンタメ。




『ハードボイルド 新・男たちの挽歌』 1992年
監督:ジョン・ウー  主演:チョウ・ユンファ、トニー・レオン
★★★☆☆

香港を舞台にした闇ルートの武器取引を追い続ける
執念の刑事物語。

歴代のジョン・ウー香港作品の中でも群を抜いてド派手。
大規模予算で組まれた圧倒的な映像規模が楽しめる。

独特なセンスで繰り広げられる銃撃戦や
大爆発シーンのクオリティに限れば
この作品が間違いなく歴代でNo.1.
延々と続く暴力シーンに圧倒されるのみ。

しかし、その反動なのか
男同士の哀愁や香港ノワールとしての味付けは
比較的に薄めに仕上がっており
せっかくのチョウ・ユンファ、トニー・レオンの競演も
取り立てる程の化学反応は起こせていない。

言ってしまえば、映像だけの映画とも取れる作風で
ジョン・ウー監督の香港マフィア作品に
何を求めるかで評価が変わる一本だろう。




『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』 2014年
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ  主演:マイケル・キートン
★★★★☆

往年のヒーロー映画の大スターが
舞台俳優としての評価に拘り意地になっていくお話。

『ロープ』式のワンカット風の演出が
この時代に再現されている作品。
一見して、長尺では退屈になりそうな試みなのだが
むしろ場面の転換やカメラワーク等において
最先端の技術だからこそ実現できている
ワンカット「風」の見せ方が常に目を楽しませてくれる。
個性ある登場人物達が小気味の良いテンポで延々と語り倒す姿が
この映像に綺麗にハマる事で
退屈とは程遠い忙しい仕上がりになるのが面白い。

実在の映画関係者の名前がバンバン登場し
ヒーロー映画全盛時代の映画界を風刺する向きもあるのだが、
そこでヒーロー映画で一世を風靡した主人公を
マイケル・キートンが演じているあたりは
最初から一つの仕掛けとして組み込まれているのだろう。
元々、舞台の話を映画の中で描く描写が多く
劇中シーンと作品自体のシーンが重なる演出はもちろん
主人公が精神的にまいって幻聴が聞こえてくる描写も相まり
もはやどれが劇で、どれ妄想で、どれが現実なのか…
この線引きが曖昧なまま
二重構造の映画を徹底して遊ばせてくれる。

よくある精神病の妄想映画の枠には収まらず
決して不快ではなく、驚かせる事だけを目的としているでもなく
最後まで気が抜けない圧巻の技術作品に仕上げているのが素晴らしいね。




『ハート・ロッカー』 2008年
監督:キャスリン・ビグロー  主演:ジェレミー・レナー
★★★☆☆

終戦後にも現地で治安任務にあたる
イラク駐留部隊のリアルを描いたお話。

この作品がリアルかそうでないかは不明だけどね。
そもそも、そんな事は全く問題にはならないだろう。
常時、どのような結果になるかわからない緊張感。
誰が敵で、誰が民間人か、どこが戦場で、どこが日常かの線引きが不能になる
独特なイラク市街地における不透明感と不安感。
徹底されたこの二点の強調だけで
映画としては、目が離せない十分な魅力がある。
そこに「爆発物処理班」という視点が綺麗にはまる。

昔のベトナム戦争映画のように
もっと戦地における兵士のけだるさが出るかと思いきや
これは、紛う事なき21世紀作風の戦争映画だね。
キャラクターの個性は強く、ただし描写は淡々と。
くどすぎず、しかもテンポも遅すぎず。
良いバランスで纏まったフットワーク抜群の社会派良作。




『パーフェクトワールド』 1993年 
★★★★☆
監:クリント・イーストウッド  主演:ケヴィン・コスナー

現実が嫌でたまらない少年が、
ひょんな事から強盗犯と非日常の逃亡の旅に出るお話。

60年代アメリカを舞台に、田舎道を車でひた走る。 
際限なく続くかに思われるアメリカンカントリーの世界が素晴らしいね。
父親を求める少年と、父親になりたかった男、
しかしそんな夢の旅に終わりが無いわけもなく… 

実にシンプルながら心の機微を捉えた
サービス満点なイーストウッド作品。
少年が求める理想のパーフェクトワールドとは何だろね。 
男の子映画だね〜 




『パール・ハーバー』 2001年
監:マイケル・ベイ  主演:ベン・アフレック、ジョシュ・ハートネット
★★☆☆☆

アメリカの空軍パイロット二人が繰り広げる恋物語を主軸に
太平洋戦争開戦の真珠湾攻撃を描くお話。

古今東西、どこでも見かける事のできる
間の抜けた三角関係話だね。
遅すぎても困るが早すぎても困るという典型。
もっとも恋は生き物なので、速度なんて無いわけだがね。

むしろ、第二次世界大戦の真っ只中にありながらの
アメリカ人のお気楽さが際立つ一品だろうか。
一人で旧時代を楽しんでいるかのような雰囲気に満ちていて
この印象が一番強い映画かな。
ただ、そこから一歩踏み込んでくれなのが物足りない。
形だけのモンロー主義の是非を描くようなテーマでもなく
日本軍の参戦そのものにも特に理由付けは与えられず。

襲撃シーンの迫力は中々だが
主役二人は、そこでもまだお気楽だと思う。
その割に恋話自体は後味が悪く
エンターテイメントとしても成立しそこねた半端もん。




『バイオハザード』 2002年
監:ポール・W・S・アンダーソン  主演:ミラ・ジョヴォヴィッチ
★★★☆☆

細菌兵器開発の事故で死の世界となった研究所を
記憶喪失の謎の女主人公が闊歩するお話。

暗いし、グロイし、エグイし
いまいち、楽しさが無い世界観だよね。
あくまで、アクションメインのグロ映画だろか。
「バイオハザード」の名前から想像される
どこかおバカな可笑しみのある雰囲気は忘れてよし。

話も黒幕の陰謀に常に支配されていて
窮屈で不条理で、結局、何所にも辿り付かない感じが
消化不良感の強い映画。
話が完結しないという以上に
目的もなく作られた気持ち悪さが消化不良かな。

アクション映画としては成立してるけど
それで楽しむにはあまりに他要素が重苦しい。




『バイオハザードII アポカリプス』 2004年
監:アレクサンダー・ウィット  主演:ミラ・ジョヴォヴィッチ
★★☆☆☆

細菌兵器から漏れたウイルスによって
ゾンビタウンと化し、隔離された街からの脱出物語。

前作以上に窮屈な雰囲気に潰されそうな映画だね。
どこにも出口が無いのだよ。
映像は暗いし、登場人物は常に絶望に包まれてるし
もちろん良い結果など起こりえないしね。

ドンパチ映画として楽しむには、
やはり、理不尽な陰謀に支配された
気持ち悪い感覚が邪魔をする。
どっち付かずな映画なのかな。

脱出劇として面白いわけでもなく
謎だけを視聴者に押し付けるストーリーに魅力があるわけもなく
ゾンビ映画としてのテーマも感じられない。
グロ映像そのものを楽しめないとキツイ映画かな。




『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』 2003年
監:ゴア・ヴァービンスキー  主演:ジョニー・デップ
★★★☆☆

海賊たちの大活劇映画。
そう思って見始めると、意外に地味なお話で面食らう。
主人公視点では、極めて個人的な復讐劇でしかないし
何か世界が小さいのさ。
世間は狭いよね〜と思わず言いたくなる知り合い同士ばかりだし
そもそも舞台は、島が2個所、大陸が1個所だけ。
まして、大海原という感覚が全く味わえず
瞬間移動でもしているかのようなあっさりした切り替わりの連続。
もう少し世界観のハッタリが欲しいよね。

映像が圧倒的に爽やかで美しいのと
欲しい時間に欲しい映像を提供してくれる
お気楽大作としての外さない安定感。
それと主人公ジャックスパロウの飄々としたキャラクターかな。
楽しめるのはその程度。

水準以下という事は決してないのだけど
「海賊」的な楽しみにはあまり応えてくれないのが物足りない一品。




『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』 2006年
監:ゴア・ヴァービンスキー  主演:ジョニー・デップ
★★☆☆☆

前作から数年後。
過去に交わした契約により、異形の物に追い詰められた主人公が
生き残る道を探り足掻いていくお話。

今作はより地味だね。
映像は派手なんだけど
根本的なキャラクターの立位置やお話がとっても窮屈で
どんな視覚効果で装飾しても爽快感が得られない。

前作では、飄々としながらもその実は復讐に燃えていて
決める所では決めるカッコイイ主人公像が
今作はいまいち発揮されない。
常にどこか弱気で、悩んだ末に考えを改めるような
そんなジャック・スパロウの人情話が魅力的なのだろうか。
全体の展開としても心の問題としても
常に敵側やヒロインのペースに付き合わされるお話だね。
コメディ描写や爽快なはずのスペクタクル映像が
逆にチグハグで盛り上がり様がない。

そして相変わらず世界が狭いのね。
何故、大海原を舞台にしていながら
こうも距離感が薄く局地的で、身内同士の閉じた祭りになるのかな。

加えてぶつ切り映画なんだよね。
続編前提の連作が悪いとは言わないが
最低限は一本の映画としての結論や盛り上がり要るだろう。
この終わり方でどうして次作へ引っ張れると思うのか。
お気楽エンターテイメントして完全に舵を切り損ねた二作目。




『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』 2007年
監:ゴア・ヴァービンスキー  主演:ジョニー・デップ
★★★☆☆

『デッドマンズ・チェスト』の後編。
それ以上でも、それ以下でもない映画かな。

キャラクターがどんどん先鋭化されていくため
彼ら個々人の言動を見ているだけである程度は楽しめる。
皆、目的に縛られて身動きも取れないくせに
何とも過程においては好き勝手な連中だ。
開き直って敵味方全て合わせて
じめじめした部分を堪能するくらいが丁度良い。

ただ「9人の海賊長」に代表されるように
前作よりは広大な世界観のはったりも効いていて
多少の爽快感を助けてくる。
映像もさらに群を抜いてド派手だしね。

一作目のようなエンターテイメント路線へは戻りようも無いが
前作で溜めたフラストレーションを解消する程には
ただ見て楽しめる一品だろか。




『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』 2011年
監:ロブ・マーシャル  主演:ジョニー・デップ
★★★☆☆

永遠の命が得られるという伝説の秘境「生命の泉」を目指し
イギリス船、スペイン船、そしして主人公が乗る海賊船が競い合うお話。

原点回帰かな。
ストーリーは至って単純で
一作目に感じられたシンプルエンタメが戻ってきた復活作。
何より120分超の尺で物語が綺麗に治まっているのが良し。

如何なるシーンにおいてもウィット感を忘れず
あくまで、見せ場に次ぐ見せ場の連続に拘り抜いたド派手品。
キャラクターは、例によって
飄々とした船長ジャック・スパロウ一人の魅力に集約され
恒例のライバルキャラである船長バルボッサを除けば
あの海賊黒髭ですら飾り配置。
ただし、下手にオーランド・ブルームを主役級の扱いにしたせいで
展開とお話に収集が突かなくなった前二作からすれば
この方向で十分正解な気がする。
退屈させないシンプル映画でさえあれば良いだろう。

今回「アン女王の復讐号 」という新しい海賊船が登場した事も
マンネリ回避に役立っていて眼を飽きさせない。
海賊船の豪華なファタジー造形を楽しむ事もこの映画の本筋だよね。




『ハウルの動く城』 2004年
監:宮崎駿  主演:木村拓哉、倍賞千恵子
★★☆☆☆

魔女の呪いにより、老婆の姿へと変えられてしまった少女と
若き魔法使いとの恋物語。

もう少しお話の見せ方はなかったものか。
確かに、スタジオジブリ特有の世界観、映像、音楽の仕掛けは
どれも一級品で局地的には目を見張る物ばかりなのだが
どうにも豪華なびっくり箱を作る事にだけ夢中で
肝心な設置する順番、開けさせるまでの道筋を忘れてしまっている気がする。
一流のアート部分に対して物語の方は掴み所がなく退屈で
一本の映画としては切ない作品。

特に主人公の少女に与えられた老婆という設定は
一体、彼女にどう影響しているのだろうか。
最初から最後まで彼女は彼女でしかなく、
相手役のハウルがそこに心動かされる過程も含め
どうにも舞台設定からドラマへの繋がりが見えてこない。

臆病な魔法使いハウルの人間味とは一体何だったのか。
カルシファーとの関係性はどう培われ、どう昇華されたのか。
彼の社会や戦争への関わり方は、どう結論付いたのか。
繊細な表現から観客に直接感じて欲しい作りと言うよりは
ただの描写不足にしか思えないのが残念。

何処を切り抜いてもアーティスティックな
音楽、造形、世界観は本当に素晴らしいがあくまで切り抜き専用。
もはや、ジブリである事だけが目的になっている一本。




『蝿の王』 1990年
監:ハリー・フック
★★★☆☆

元は1954年の小説。
飛行機事故におより無人島で生活する事となる子供たちのお話。

怖いね。
理性vs本能 というと、急に陳腐な感じを受けるが
子供が集団で盛り上がってしまった時における
あの理屈の無さ、無軌道さ。
集団で催眠にでもかかっているのかと思う程の非理性。
各々が一人一人では絶対に起こるはずのない事が
何かをきっかけに、集団ではいとも簡単にやれてしまう。

少しづつ、少しづつ何かがズレいく様が本当に恐ろしい。
無理に大人のルールを通す事が、この際は本当に正しかったのか。
誰にもわからない。
本来、ガキ大将格であるはずの主人公だが
集団と対立した際の孤立感、弱さの前にはなす術がないんだね。

原作があまりに完成されているため
映画として特別に何かをしたという事はないが
映像化すればこうなるかという評価だけでも面白い一本かな。





『墓石と決闘』 1967年
監:ジョン・スタージェス  主演:ジェームズ・ガーナー、ジェイソン・ロバーズ
★★★☆☆

ジョン・スタージェス監督本人による
OK牧場のその後を描く物語。

前作の一大エンターテイメント映画に対し
今作は、徹底した人間の物語。
法の厳格な運用を心情とする正義の彼と
卑劣な手段で兄弟を失った復讐者としての彼。
アープの揺れ動く心の様を見事に捉えた本格派。

その物語に、華を添えるのは
社会の酸いも甘いも知り尽くした
アウトローの代名詞、ドク・ホリデイ。
手を汚す事に慣れきったドクだからこそ
友人としてアープに対するもどかしさが止まらない。
この動きが画面狭しと痛い程に伝わってくる。

全般、映像や展開の面からは地味な作品ながら
彼らが繰り広げる正義と復讐の物語となれば
面白くないわけがない一本。




『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』 1964年
監:スタンリー・キューブリック  主演:ピーター・セラーズ
★★★★☆

冷戦時代、ある一人の将軍の暴走から
核戦争に突入してしまう米ソのお話。

人間の作る物に完璧などはない。
そう言わんばかりのストーリー展開が強烈。
「もし、○○が××だったら」
まるでコントのテーマかのように
わずかな可能性を突かれ、偶然が起こり続ける。
結果、物事は悪い方、悪い方へと流れていく。

首脳同士のホットラインを引いて満足しているが
もし「その日」
たまたま大統領が深酒で酔っ払っていたら?

人間ならではの愛嬌部分が随所に散りばめられ
そんな馬鹿なと笑わせるコメディタッチで話は進む。
だが扱われる事態は、決して笑い事では済まないわけだ。
日常生活なら、後々、語り草になる程に運の悪い一日だったというだけで
酒の肴にもなろうかという不幸自慢だが
冷戦においてはその一日の不幸が取り返しがつかないかもしれない。
この対比こそ、パロディ、ブラックユーモアの極地だろう。

笑いのスピーディさ、対する事態の深刻さ
やりすぎに次ぐ、やりすぎ演出と展開。
何処まで突っ走るのかという馬鹿馬鹿しさ、ハイテンション。
全てが高密度の中に繰り広げられ
劇中では想いに耽る隙すら与えてくれない。
しかし視聴後には、その裏に感じられる監督の強烈なメッセージ性に
打ちのめされる事必至の超大作。
何より映画、エンタメとしての野暮さが無い。

冷戦物、SF警鐘物の金字塔だろうね。
圧巻です。





『白鯨』 1956年
監:ジョン・ヒューストン  主演:グレゴリー・ペック
★★★★☆

伝説の白鯨に片足と心までをも奪われた
エイハブ船長による執念の復讐劇

1956年公開の大スペクタル映画。
19世紀の港社会における泥臭い男共の生活観や
原始的な捕鯨風景の様を丹念に映像化しつつ
船長による圧巻の劇語りが素晴らしい一品。

一見、あっけら感とした
爽やかな海の男達の群像劇にも思えながらも
エイハブ船長から漏れる詩的な言い回しの数々によって
物語は次第に不吉な雰囲気に満ちていく。

復讐とは何か、狩猟とは何か、自然とは何か、集団とは何か
大いに宗教色を感じさせる人間の有り様にまで迫りつつ
その都度、大迫力の特撮映像でシンプルにも魅了してくれる。
実に贅沢な文芸作品。
有名すぎる結末は、もちろん誰もが知りつつも
その緊迫感にドキドキしてつい最後まで見入ってしまう。

好青年や、良心を持った中年役が多い
グレゴリー・ペックの異色作として見ても面白い。





『爆走兄弟レッツ&ゴー!!WGP 暴走ミニ四駆大追跡!』 1997年
監:アミノテツロー  主演:池澤春菜
★★★☆☆

表題通り、レッツ&ゴーWGPの主人公達が
謎の暴走ミニ四駆を追跡するお話。

真面目なアニメとして作られている本編に対して
唐突に巨大スケールな荒唐無稽の活劇展開という
よくある劇場アニメ化のテンプレートが素直に楽しめる一本。
あの個性豊かな愛らしいキャラクター達が
もしエンタメ世界に入ればこのくらいの活躍はするだろうさ。

元々、玩具販促の児童アニメとして
ミニ四駆の面白さを伝えていた初期作と比べて
二作目WPGは本格的なチームレース作品として作られているからね。
キャラクターの本格的な成長部分にまで踏み込んだ作風は面白いが
少々、肩ひじを張りすぎている感もあった中
この玩具感は楽しいんじゃないかな。

そんな馬鹿なと突っ込みながらも
登場人物が皆、自身ならではの見せ場を作って
ファンに歓声をもらえるキャラクター映画として
見事な開き直りが冴えるとっても豪華な息抜き作品。

「ミニ四駆がカッコ良く走る」この一点だけ取っても
さすがの劇場版クオリティだろう。
気取らない作風が綺麗に噛み合った一本。






『白痴』 1951年
監:黒澤明  主演:森雅之
★★★★★

終戦後の札幌へと舞台を移したドストエフスキーの『白痴』。
知能に軽度な障害のある善良なる男が
二人の女性と一人の男性を巻き込み引き起こす悲劇の恋愛譚。

何を置いても緊迫感の素晴らしさだろうね。
画面からも登場人物の迫力からも
一体この先、どうなってしまうのかという
物語の力に圧倒されっぱなし。

メリハリの付いた白黒映像の陰影演出と
雪国ならではの泥臭さの薄い情景の数々。
そして、そんな舞台に似つかわしくもない
あまりにも、劇的で癖の強い登場人物の言動。
言ってしまえば、ただの三角関係の縺れ話なのだが
それが白痴の男を主人公に据える事によって
急に人間の業にまで迫る重苦しいお話に早変わり。
彼のような人間を鏡とすれば
実に人間の本質がよく映るものだ。

もう少し普通に生きられないのかなと
心配になってしまう親心。
彼を愛しそして彼から愛された二人の女性が
周囲を物ともせずに巻き起こす負の連鎖は格別。

主要四人を除けば、実に一般的な人間の集まりであり
実に情緒溢れる良キャラクターばかりなのも良いね。
彼らの弱々しくも人間的な魅力があればこそ
突飛な四人の魅力も際立つのでしょうか。
口の悪すぎるお母さんはステキすぎます。

3時間弱の尺を全く感じさせない
見所満載の傑作映像。





『博奕打ち 総長賭博』 1968年
監:山下耕作  主演:鶴田浩二
★★★★☆

鶴田浩二主演の仁侠映画。
急逝した総長の跡目をめぐる骨肉の争いを描いたお話。

登場人物が皆「義理」と「筋目」の話しか口にしない割に
誰一人自分の都合は曲げないクソ野郎ばかり。
全編、泣かせ雰囲気の連発ながらも
全員の言動があまりに理不尽にすぎて笑うしかないだろう。
結果、ただ一人真っ当である主人公だけが
ボロボロになる筋書きというベッタベタな様式美の世界だね。

これはスター映画の限界に挑んだ作品ではなかろうか。
今作の魅力はただ一点。
中間管理職よろしく
自身が信奉する任侠道に雁字搦めになって
全方位からの突き上げに耐えて耐えて耐えて耐えまくる
鶴田浩二のキャラクター性の見事さに尽きる。
渋さと哀愁とカッコ良さの最高峰。
スター数いれどコレ以上の男があるだろうか。
全ての登場人物が、ほぼほぼ主人公に嫌がらせをするためだけの
舞台装置と化している徹底っぷりなので
本当の意味でのドラマは無いのだが
その分の人間味が主人公一人に集約される贅沢が味わえる。

筋書き自体にドラマがあるわけではないのだが
彼が信じる物に裏切られていく転落の姿に共感した人は多いんじゃないかな
鶴田浩二、圧巻の存在感だけで全てに満足がいく
詐欺のような一本。
ある意味では無駄を省ききった芸術的な一品かもね。




『幕末青春グラフィティ Ronin 坂本竜馬』 1986年
監:河合義隆  主演:武田鉄矢
★★★☆☆

幕末長州を舞台に坂本龍馬を主役に据えた
若者達の青春ドラマ。

土佐の脱藩浪人が「何か」を成し遂げたくて足掻く映画だね。
特別な展開があるわけではないのだが
おそらく制作も務める主演武田鉄矢による
坂本龍馬像が徹底していて
全編に渡って雑草根性が詰まっている。

高杉晋作や桂小五郎がメインキャストで登場はするが
どちらかと言えば後に志士と呼ばれた連中よりも
名もなき百姓である騎兵隊との絡みに味があるだろう。
最初から最後までとにかく絶叫で騒ぎ続ける泥臭い映画で
表題に嘘偽り無しと言ったところ。

基本、武田鉄矢の一人芝居、一人語り、一人泣きという
期待通りの作風がメインになっている中
例外として、アフロヘアーで高杉晋作と称する
ド素人吉田拓郎のインパクトが絶大だね。
こんな破滅的で怖い人がいるものか。
彼の一人浮いた大根演技が世界感とマッチしていて
不思議な混沌の味になっている。
唯一、武田鉄矢が醸し出す空気に染まってないのが面白い。
彼が居ない方がお行儀は良くなるだろうが
その分、今作の無軌道な魅力も半減かな。

もちろん、本来のお仕事であったろう挿入歌は珠玉の一品。
未来を探す若者のパワーの象徴したような拓郎ソングは
今作が求めた暑苦しさと相乗効果抜群。
別の挿入歌には加藤和彦、オフコース、井上陽水らの名もあり
これはもうプロデューサー武田鉄矢の肝入りで間違いなく
彼自身の青春映画としか言えないね。

決して上手く纏まってはいない作品ながらも
一人の人間が生み出し得る力強さに圧倒されることで
妙に納得度は高い一作。




『幕末太陽傳』 1959年
監:川島雄三  主演:フランキー堺
★★★★★

豪遊で宿代が払えなくなったお調子者の男が
居残りバイトで手際よくお客さんを捌いていくお話。

落語をベースとしたお話が続く人情物。
とにかくフランキー堺演じる主人公による
要領の良さ、抜け目のなさ、憎めなさが何とも言えずに粋で暖かい。
それでいて、今まで無理に騒いでいたかのような
祭りの後の虚無感が適度に醸しだされて
紙一重、表裏一体の複雑な感情をも捉えてくる。
何せあの人あたりの良さをして
彼は人を信じずに揉め事に本気で関わろうとしない男だからね。
この自然な按配が素晴らしいんだな。
押し付けがましくないのがおもてなしでしょう。
日本人である限りこの情緒は日本映画でなければ味わえない。
そこが何よりの邦画の素晴らしさ。

主人公を取り巻く周囲の群像劇も実に良い。
皆が皆、過度にヒロイックにならずに生き生きとしている。
特に石原裕次郎が演じる高杉晋作は演技と呼べないレベルなのだが
その幼稚ながらも真っすぐで若々しい彼の存在感すら
酸いも甘いも知り尽くして世を渡り歩くフランキー堺との
完璧な対比として使いきっている。
お見事、職人芸。






『薄桜記』 1959年
監:森一生  主演:市川雷蔵
★★★★☆

赤穂浪士の討ち入り時代を背景とした
男と女の悲しき恋物語。

順風満帆で進むはずだった武家夫婦に訪れる
不幸に次ぐ不幸のお話ではあるのだが
これは主人公が貫き通した武士としての体面や
男としての意地、愚直なプライドが引き起こした
ツケと言えばそれまでの事ではないだろうか。
カッコツケ人生も考え物なのだ。

ただそれを単なる馬鹿の話として終わらせないのが
市川雷蔵の浮世離れした偶像感。
それどころか理屈では愚かな男だと思いつつ
心の底ではやや憧憬の念を持たされてしまうのは
彼の堂々とした立居振る舞いによるマジックだろう。
愚かなのも事実だが、美しいのもまた事実。

全編通して哀愁に溢れる実に綺麗な一本。

準主役として登場する赤穂浪士に、
まだまだワイルド美男子だった頃の勝新太郎。
彼のやや現実と妥協していく立ち位置が
主人公との比較で程良いスパイスとなっていて良し。




『パコと魔法の絵本』 2008年
監:中島哲也  主演:役所広司、アヤカ・ウィルソン
☆☆☆☆

他人の価値を一切認めないという最悪な頑固爺さんが
一日しか記憶を保てない病気の少女と出会い
次第に心を開いていくお話。
その他諸々、病院内における入院患者同士の掛け合い話だね。

この監督の映画に必ず見られる
悪ノリ、空回り上等の寒い演出が
全て悪い方向にだけ集まった一作だろうか。
前二作は、奇跡のバランスを保っていたが
さすがにこれは独り善がりにすぎるかと思ってしまう。
まず、作品全体を包む謎美術感に耐えられるかがが
最初に立ちはだかる大きなハードル。

加えて、大筋のストーリーがシンプルすぎるのも問題かな。
どうとでもなるお話を、何もせずに淡々と垂れ流しただけで
展開も、キャラクターも、特に見所が無い中
一方的な笑いのツボを強要されても
一体、何を見ればよいのか戸惑ってしまう。
21世紀以降の三谷幸喜作品をさらに酷くした物を
想像してもらえれば良いだろか。

映像はド派手で毒々しいだけで
観客を意識した素振りが全く感じられず
あのサービス精神はドコへいったのだろうか。





『パシフィック・リム』 2013年
監:ギレルモ・デル・トロ  主演:チャーリー・ハナム
★★★☆☆

突如、海の底から現れた"KAIJU"と人類との
存続をかけた対決を描くお話。

人間が乗り込む人型巨大兵器 = ロボット
恐竜のような外見を持つ巨大モンスター =怪獣 が
21世紀ハリウッドの最高予算CG技術で
プロレス乱闘をやり始める夢のような映画。
企画だけで既に楽しいね。

ドラマはテンプレート的に用意された人物関係を
ただ消化していくだけの退屈な進行なのだが
映像における芸術性は全てを許してくれる。
画面を覆う色彩から、細かい火花のエフェクト一つに至るまで
全てが幻想的で、まるで夢を見ているかような美しさは
無駄に予算をかけただけのハリウッド大作とは
比べ物にならない拘りの世界観。
酔いしれるとはまさにこの事か。
さすがのデルトロ監督。

こんなお馬鹿な企画が
この予算、この監督の下で本当に映画化されている事に
まず素直に喜ぶべき一本。





『馬上の二人』 1961年
監:ジョン・フォード  主演:ジェームズ・スチュアート リチャード・ウィドマーク
★★★★☆

遥か昔にコマンチ族に攫われた白人を求め
保安官が引き取り交渉に赴くお話。

ドギツイ作品だね。
不当に連れ去られれたとは言いつつも
長年、コマンチ族の中で暮らしてきた女子供は、
一体、社会においてどういう扱いの人間なのか。

ある女性は、現状の自分を恥じて決して戻ろうとはしない。
ある子供は、完全にコマンチの一員として育ったが故に
無理に戻され悲劇を引き起こす。
どちらにせよ待っているのは自称文明人達の蔑みの目である。

ジェームズ・スチュアートがヒーローとして活躍しつつ
相応のロマンスもあるラブストーリーながらも
この作品の芯は、社会を問うお話だろう。
ネイティブを未開の原住民と馬鹿にする連中は
果たして本当に誇れるだけの先進性を持っているのか。
ラスト、主人公の説教が染みるね。





『バスケットボール・ダイアリーズ』 1995年
監:スコット・カルヴァート  主演:レオナルド・ディカプリオ
★★★★☆

バスケ部エースの超イケメン高校生が
クスリに溺れて堕落していくお話。

強烈な反ドラッグ物語。
元々、主人公は度の過ぎた悪ガキである。
だが本当に彼はここまで落ちる必要があったのか。

この映画には、特に注力されたドラマは見られない。
決して裕福ではない片親家庭という相応の舞台はあれども
何ら家庭の話が掘り下げられる事はない。
高校生4人組の思春期物語の感もあるのだが
こちらもサラリと本筋からは逸れてしまう。
あくまで、彼のヘロインによる堕落の過程だけが
淡々と映像によって描写されていく作品である。

そこに若干の不満はある。
しかし、ごく普通の思春期精神があるだけで
子供は簡単にドラッグにハマれるのだ。
そこに至る過程に劇的なドラマなど必要ないのだと
その構成をもって暗に断言しているのだとすれば
何とも強烈なテーマを持たせた一本でしょう。
衝撃なのは劇中に登場するおクスリ価格の安さだよね。
自業自得は当然なれども
環境部分の責任は大人の責任。

また本来、同情の余地が無いクソガキに
思わず観客が背徳感たっぷりに魅入ってしまえるのは
若きレオナルド・ディカプリオが持つ魅力故。
圧巻の美貌の中、愛嬌ある少年味たっぷりに
バスケ部のエースとして周囲に期待され
いとも簡単に童貞からも卒業できるリア充っぷり。
そんな誰もが羨む輝かしい高校生活に
ごく自然な説得力が出せるからこそ
その全てがヘロイン中毒で台無しになり
取り返しがつかなくなっていく寂しさが栄える。

周囲からボロクソに扱われる美少年という後半戦の一芸に
ストレートな訴求力の全てを詰め込んだ傑作。




『バス停留所』 1956年
監:ジョシュア・ローガン  主演:マリリン・モンロー、ドン・マレー
★★★☆☆

生まれて初めて都会へと足を踏み入れたカウボーイの若者が
そこで運命的な女性と出会い、押して押して押しまくるお話。

何という馬鹿映画。
これがアメリカのカウボーイ気質と言われたら信じちゃうよ。
一本気という言葉で済まされる範疇を遥かに越えた主人公が
ほとんど押しかけ、誘拐同然にマリリン・モンローを口説くだけの映画。
本当に強引で酷い男である。
酷い男であるのだが、これがコメディとして成立できるのは、
マリリン・モンローの側もまた
とってもお馬鹿で可愛い女の子として完璧だからだろうね。
経験豊富な「ふしだら女」と自嘲する割に
この純真な愛らしさは何なんだ。
こんな酷い展開がついつい許せてしまう
ノンストップな陽気さに包まれた一品。

男女間で驚く程に何の駆け引きもない中で
詐欺のように成立している恋愛映画。




『ハスラー』 1962年
監:ロバート・ロッセン  主演:ポール・ニューマン
★★★☆☆

賭けビリヤードで生計を立てる若者が
挫折を繰り返し、ハスラーとしての生き方を見つめるお話。

「ハスラー=ビリヤード プレイヤー」
この誤解を生んだ映画だとか。
そこを理解しておかないと、劇中でも全く意味がわからなくなる。
「ハスラー= 相手を引っ掛けるギャンブラー(詐欺師)」だね。
自身の実力を低く提示して、相手に賭け金を吊り上げさせてから
一気に本気を出して奪い尽くすとか、そういう事をやる方々。

そんな汚い世界に身を投じた主人公が
様々な立場の人物と出会い、人生観を揺らされる姿が
ジリジリとした緊張感に包まれてステキ。
裏世界の権化のようなやり手の仲介屋であったり
勝負とは全く縁の無い場所に幸せを求める女性だったりね。
一体、主人公は何になりたいのか。

決して爽快な映画でも、格好の良い映画でもなくて
様々な意味で駄目すぎる人間達が織り成す
暗めの生き様の映画。

その割に、映像はスタイリッシュで美しく
特に、玉を突いているシーンに限れば
ただ眺めているだけでも面白い。
このギャップがマイナスに働く事はなく
別々の角度からどちらも楽しめる一品かな。




『ハスラー2』 1986年
監:マーティン・スコセッシ  主演:ポール・ニューマン、トム・クルーズ
★★★☆☆

既に一線を退いていた伝説の老ハスラーが
才能溢れる若者と出会う事で、勝負の世界を取り戻していくお話。

一本気で、すぐに勝負に熱くなり
ハスラーとして駆け引きができない若者が
どんどん、搦め手での稼ぎ方を覚えていく一方で
それを教えた張本人のはずの老人は
純粋だった彼の勝負者としての熱に当てられ
真っ向からの対決を望むようになる。
お互いに足りない物を激しくぶつけあう王道中の王道。
途中に印象的なシーンもはさまり
この擦れ違っていく二人がとっても切ない。

しかし、この終幕の爽やかさはどーだろうか。
増長したトム・クルーズの姿をも
実力を認めるべき本物の相手と許容した上での
ポール・ニューマンの飽くなき挑戦心。
若さと才能への敬意を忘れない
老人と若者のこの対等の関係が理想でなくて何なのか。

その上で全編に散りばめられた、80年代チックな音楽や
スタイリッシュで多彩なナインボールの描写の数々。
この洗練された空気だけでも十分に楽しめる良作。
一応主人公は25年前の前作と同一人物設定らしい。




『果し合い』 2015年
監:杉田成道  主演:仲代達矢
★★☆☆☆

田舎の下級武家に訪れた縁談のもつれによる一悶着を
部屋済みの大叔父が引き受けるお話。

あまりに淡々とお話が繋がっていく一本。
何が悪いという事はないのだが
野暮な展開と台詞が次から次へと消化され
大仰なBGMや演出で全編が彩られた世界は
まるで人間というより記号を見せられているようで
退屈さと気恥ずかしさに参ってしまうね。

基本、老人が劇中での仕掛けと絡むでもなく
自身の記憶をフラッシュバックするだけの運びで
一人完結していく作りもいまいち乗り切れない。
これで100分近い尺は辛いだろう。

大筋は、この世に未練がない老境の人物が見い出せる
孤独の人生物語という事になるのだろうが
劇中からテーマが中々に見えてこず
とにもかくにも、80代の仲代達矢を見たいという欲求以外に
見どころを探すのは難しい一品かな。

エンターテイメント性も低いのだが
玄人が好むような洗練っぷりもない印象を受ける。
自然や風景が美しいのと
「果し合い」シーンが簡潔に纏まっているのだけが救い。




『バタフライ・エフェクト』 2004年
監:エリック・ブレス、J・マッキー・グラバー  主演:アシュトン・カッチャー
★★★★☆

少年の頃より人生においての要所要所で
必ず記憶喪失を繰り返してきた主人公が
自身に欠落した事実と可能性を求め続けるお話。

緻密だね。
一見してアメリカ映画が大好きな
くだらない妄想狂のお話かと思わせておいて
その実、極限まで練り込まれた展開がお見事。
見せ方一つでこうも面白くなるものか。

複数のifが複雑に絡み合い
何が現実で何が本当かが誰にも追えなくなる中
いざ蓋を開ければ、その全ては本当で
十分に有り得る現実だっんだな。
そして、仮にどれが事実でであろうとも
そのキャラクターの結論に十分に納得できるだけの
if世界への細かい拘り描写が素敵な一作。
嘘も真もなくどの世界へも手抜きの無いシナリオは上々。

誰かが幸せになれば誰かが不幸になる。
これが均衡と言うのならば、哀しすぎる世の中だけどね。
何度繰り返しても上手くいかない現実に
主人公は一体どこで落とし所を付けるのか。
果たして望むべき真実とは何所にあるのか。
この終幕への期待と緊張感だけで十分に楽しめる傑作。

そもそも、極端な幸せと不幸を求めすぎなのかな。
もっと平凡でツマラナイ人生も良いだろうに
彼らのやりすぎな帰結は、どうにも哀しくて見てられないよ。




『八十日間世界一周』 1956年
監:マイケル・アンダーソン  主演:デヴィッド・ニーヴン
★★★★☆

19世紀後半、80日で世界を一周してみせると豪語して
全財産を賭けたイギリス紳士と執事の世界旅行。

旅行ムービーとして楽しめるのは当たり前として
シンプルながら意外とお話が面白い。
80日以内の世界一周の可否で打たれた博打の結果や
主人公に付きまとう一つの謎を
美麗でな世界映像の中にも常に一つ心に止めさせてくれる。
何より英国紳士とお調子者執事のキャラクターが対照的で楽しい。

それにしても、世界の文化の素晴らしい事よ。
訪れるは
ロンドン→マドリード→カイロ→ボンベイ→
→カルカッタ→香港→横浜→サンフランシスコ→NY→…
3時間の尺でこれだけの都市を回るとなると、
さすがに全ての都市でエピソードを入れるわけにはいかないのだが
映像面だけでも十分に文化圏の違いを楽しめる。
それにしても、当時の英国の顔が効く都市の範囲の広さには驚かされる。

毎日のように旅行、ドキュメント番組が流されている現在ですら
この美しいカラーフィルムには見入られると言うのに
1956年当時、これを映し出した価値は計り知れないだろう。
今みても傑作。
もし当時見ていたら間違いなく満点。




『8 1/2』 1963年
監:フェデリコ・フェリーニ  主演:マルチェロ・マストロヤンニ
★★★☆☆

極度のスランプに陥った名映画監督が
次回作への外堀だけがどんどん埋められていく中
全く撮影に入れずに焦っていく姿を描くお話。

とにかく抽象的な映画だね。
現実のシーンや人物の中に
監督の妄想や過去の思い出が唐突に入り混じり
関係性の察しも大よそ付くだろう程度の情報のままで
全体像を把握しきれぬ中、時間だけがドンドン進んでいく。
映画製作や監督を取り巻く環境が何も前に進まない様が
延々かつ淡々と気だるく描かれていくだけ。

「気だるい不倫クソ野郎」
この監督像一本で進むシンプルなお話ながら
いつの映像かもハッキリとはわからない印象的なシーンの連続に
何とも言えない圧迫感を受けてしまう謎の映画。

しかし最後に救われた気になれるパワーはあるね。
この監督はクソ野郎なんだけど
どこか自身の中に同調できる部分が見つかるのだろうか。
彼が全てを捨てたとは思わないが
抜けるような爽快感が確かにあるから困ったもんだ。
何がいいのか、何が問題だったのかも理解はできないが
それでいいんだ! とだけは
思わず叫んでしまう不思議な力がある一本。





『バック・トゥ・ザ・フューチャー』 1985年
監:ロバート・ゼメキス  主演:マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイド
★★★★★

典型的なアメリカの中産階級な住宅街を舞台に
若者が不思議なタイムスリップ装置に巻き込まれて
過去の世界で大暴れするお話。

1980年代の明るい雰囲気を完璧に堪能できる傑作。
これさえ見れば、いつでもあの日に戻れる。
この映画こそまさにタイムマシンだ! と気取りたくなるほど
見事に時代の楽しさを現している。
全編にわたって脚本構成がとっても緻密なのがgood。
全てが腑に落ちる納得の展開はいつだって誰だって快感さ。

主要なキャラクター造形も申し分ないし
展開もスピーディで、ウィットにも飛んでいる。
一部の無駄もない脚本、これ以上の娯楽大作があろうか。





『バック・トゥ・ザ・フューチャー PartII』 1989年
監:ロバート・ゼメキス  主演:マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイド
★★★★★

二作目。
一作目ラストの無限ループオチに対して
本当に続編を作ってしまった形なのだが
全く焼き直しになっていないのが凄い。

前作を凌ぐほどの
お気楽エンターテイメントでありながら
これ程に「時間旅行」というギミックを
上手く使い切れるものだろうか。
未来に過去に現在にと、大忙しで時間を飛び回る中で
その全てが密接に絡み合う圧巻の脚本が楽しめる。
一作目の劇中ストーリーすらをも取り込む
ギミックの豊富さに舌を巻くばかり。

「終わらない物語」である事をジョークと捉えれば
今作単体で十分に完結できるオチになっているのも素晴らしいね。




『バック・トゥ・ザ・フューチャー PartIII』 1990年
監:ロバート・ゼメキス  主演:マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイド
★★★★☆

前作ラストからの流れを受け
お騒がせタイムマシンコンビが、
今度は西部劇の時代へと旅行するお話。

あらためて見ると、そつの無い楽しい映画なのだが
1→2という大傑作を経てからでは仕掛けが地味に過ぎ
エンタメ良作の枠を超えるまでの感想には至らせない。
何よりも時代をまたにかけるようなギミックや脚本が薄いのが残念。

狂おしいくらいのマカロニウェスタン愛も含めて
とっても楽しいコンビがお送りする
十分に完成された拘りの一品なので
PartIIの外伝と考えれば上々な一本。




『八甲田山』 1977年
監:森谷司郎  主演:高倉健、北大路欣也、他
★★★☆☆

日露戦争を想定して行われた
冬の八甲田山訓練の悲劇を描くお話。

ただただ純粋に冬山の恐ろしい映像を追求した一本。
芥川也寸志の手による重苦しいテーマ曲から始まる
この重厚大作感は本当に素晴らしい。

しかしドキュメント仕立ての作風であるために
登場人物に特別なドラマが与えられることはなく
本来、劇的なシーンになり得るだろうエピソードが
淡々と消化されていく展開は少し勿体ない。
昭和後半の日本映画界を代表するような名優達が
次から次へと綺羅星のように登場する楽しさがあるために
同時に物足りなさも感じてしまう。
ここが映画として散漫に見える悪循環を生んでしまうのかな。

このお話はもっと深いテーマや事件を
掘り下げる形でも良かった気もする。

映像メインで3時間弱という尺も少々長めだろうか。
多彩な登場人物の言葉遣い一つとっても
堅苦しい台詞回しが続くため
引き伸ばされている感を少々受けてしまう。
空前絶後の大作なだけに、何も捨てたくない「もったいない」精神が
一本の映画としては裏目に出ているか。

とにかく映像への執念は間違いなく
撮影状況を思えば気が狂っているとしか思えないレベル。
本当に凄まじい絵を撮っている。
そこだけでも一見の価値はある超大作。




『パッチギ!』 2005年
監:井筒和幸 主演:塩谷瞬
★★★★☆

1960年代末の京都を舞台に
在日朝鮮人の女の子に一目惚れした
冴えない日本人高校生が繰り広げる淡い青春ロマンス。

行き場の無い思春期の多感さを前面に出しつつ
ヤンキー物の側面をも抱えた映画。

元々、この手の若者感情を支えるベースとは
既存社会に対する不信感や、閉塞感、反骨
そして、迫りくる現実への抵抗などにあるだろう。
となれば、その一点の究極系とも言える姿は、
実は彼らにあるのではなかろうか。
安保闘争で沸く日本の若者達を尻目に
朝鮮高校に通うヤンキー集団が抱える独自の鬱屈っぷりは
やはり一つ群を抜いている。

物語のキーは
そんな日本社会からのはみ出し物であることを
自他共に認めている朝鮮人集団が
純朴な日本人青年を受け容れられるか否かにある。
人は立場を超えて通じ合えるという人間賛歌と
それを許さない社会、現実の壁。
この映画が描く世界はどちらにも嘘はないだろう。

この作品はそんな重苦しいテーマを
やや悪乗り作風の元に一気に駆け抜けてくれる。
クソ重いテーマ性だけが先行するでもなく
軽いヤンキー映画としてだけでも終わらない。
何とも爽やかな青春活劇として
きっちり仕上げてくれた素敵な一本。





『バットマン』 1989年
監:ティム・バートン  主演:マイケル・キートン
★★★☆☆

大都市を暗躍する犯罪に立ち向かう
蝙蝠男、バットマンの活躍を描いたお話。

この映画は、ゴッサムシティの世界観と
美術含めた架空都市の構築が全てでしょう。 
「バットマン=暗い」のイメージで進むなら正義だよ。 
1980年代にバットマンを映像化するならコレしかないほど見事。
ただ、1本の映画でバットマンという存在自体を
全て説明する必要があるためか
話もギミックもやや詰め込みすぎな感じはあるかな。
割と忙しい映画だね。

道化師ジョーカーも、ジョーカーらしくて良いのですが
ジャック・ニコルソンが特に何かをしたという訳ではなく
彼は「いつも通りに」素敵なだけです。 





『バットマン リターンズ』 1992年
監:ティム・バートン  主演:マイケル・キートン
★★★★☆

正統続編。
前作に続き、ゴッサムシティの美術で魅了する一品。
全編通して陰鬱な街の雰囲気はそのままに
映像的には実にスタイリッシュ。
渋めの中にこそ存在するカッコヨサは格別。
観客が求める世界観を再現した説得力が全て。

加えて、ストーリーも前作のように
何でもかんでも詰め込もうとせず
あくまで悪役側のキャラクターに焦点を絞り
とっても筋が通っております。
幼き頃、異形の姿ゆえに両親に捨てられたという
トラウマ役をダニー・デヴィートが見事に演じる。
彼の狂気の存在感に圧倒されっぱなし。
前作でやり足りなかった部分を完全にやりきった変態作。
キャットウーマンという社会から放り出された
一筋縄ではいかないヒロインもインパクト十分。

ゴッサムシティの愚かさ、ちょっとした社会へのアンチテーゼもあり
もちろん、ブルース・ウェイン自身が抱える矛盾にも踏み込む。
まさに完璧な形でのバットマンと言える映画。





『バットマン フォーエヴァー』 1995年
監:ジョエル・シュマッカー  主演:ヴァル・キルマー 
★★☆☆☆

二重人格気味の元検事、強盗トゥーフェイスと
サイコな謎々野郎であるリドラーがお送りする第三段。
一応、ティム・バートンが製作としてはクレジットにあり
執事のアルフレッド役だけはマイケル・ガフと共通ではあるが
前二作とは完全に別物と思ってよし。

何より、あらゆる点で映像がダサイ。
ここまでゴッサムシティの描写をおざなりにされては
どうやって、世界観に魅力を感じればよいのか。
この街の荒れ狂った汚さを抜いてしまうと
バットマン自体の存在価値が見えなくなってしまう。
そういうキャラクターだよね。

敵役二人の空回り気味の過剰な演技も合わさり
何とも軽い雰囲気の一品です。
特に脚本で魅了するつもりもないようで
悪役の魅力がどの方向からも見えてこない。
最後まで何も示されないまま、悪い人だったねというだけで終わり。

一体、何を見せたい映画なのだろうか。
重苦しい雰囲気から脱却したいという事と
脚本や映像の洗練度を取り除く事は違うと思うだがね。

90年代半ば頃に乱発されていた毒にも薬にもならないタイプの
アクション映画の一つかな。




『バットマン & ロビン Mr.フリーズの逆襲』 1997年
監:ジョエル・シュマッカー  主演:ジョージ・クルーニー、アーノルド・シュワルツェネッガー
★★☆☆☆

前作の流れを汲む二作目。
誰か止める人はいなかったのだろうか。
看板であるアーノルド・シュワルツェネッガーの空回りが酷すぎる。
もちろん本人が悪いというよりは、没個性すぎる敵役像に問題がある。
何の特徴もなくただ悪い台詞を吐くだけのキャラクターなど
誰がやっても退屈だろう。

例によって、映像その他の演出全てが
とっても緩慢でカッコ良さの欠片もない。
前作から登場するロビンに加え、バッドガールまで登場して
一大エンターテイメント路線へと舵を切ったつもりなのだろうが
こんな平坦な展開と映像の垂れ流しでは爽快感からも程遠い。
台詞回しがくどすぎるのも退屈な一因かな。

前作で閉口させられたクオリティの
さらにその上をいくとは驚きの一品。

同じ製作会社で、公開は僅か2年後。
ストーリーも繋がっていながら
何故か主人公のブルース・ウェイン役が既に変わっているなど
何かあらゆる面からグダグダな感じが伝わるね。




『バットマン ビギンズ』 2005年
監:クリストファー・ノーラン  主演:クリスチャン・ベール
★★★★☆

時代を遡り、バットマン誕生の瞬間を描く
新生シリーズ第一弾。

今回は徹底したリアル路線だね。
あくまで現実世界の中にバットマンが登場するとしたら。
このifを前提としたストーリー作りになっている。

この流れには理由があるだろう。
既に、どこか可笑しみのある世界観を忘れない
王道アメコミとしてのバットマンの再現は
ティム・バートン監督の初期二作
特に『バットマン リターンズ』にて完成されている。
そしてエンタメ路線に舵をきったつもりの
フォーエバー、Mr.フリーズを経てきた以上は
21世紀にあらためて新生シリーズを立ち上げるならば
このくらいの思い切りは必然に思える。

本当に細かい個所まで手が行き届いており
荒唐無稽なはずの展開や台詞や
その他の映像に突っ込む隙を与えないのは見事だね。
素晴らしい密度で、ヒーロー物以前に映画として一級品。
決して甘くもなければ可笑しくもない。
人の業は無限でありいつ終わるとも知れない。
そんなバットマンの長き戦いの始まりと
覚悟の様を堂々と描いた心の物語になっている。
初手から何という重いシリーズだろうか。

ラスト、ゴードン警部補の口から漏れる
「競走になる」という言葉が
その後のゴッサムシティの苦悩を見事に暗示する。
果たしてバットマンが抱く正義の是非とは……
見事な始まりの物語。




『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』 2016年
監:ザック・スナイダー  主演:ベン・アフレック、ヘンリー・カヴィル
★★★☆☆

前作スーパーマン『マン・オブ・スティール』の世界観に
バットマンが登場して一悶着起こるお話。

絵作りは見事でDC世界観にマッチする
重厚な雰囲気を十分に描き出してはているが
話の筋とキャラクターが余りに安っぽいが故に
逆にアンバランスな印象を強くしている。
どちらかに振り切れているならともかく
どうにも整合性の低さが目に付く作品。

ストーリーは象徴としてのスーパーマンをどう捉えるかという物だが
スーパーマン本人が退屈を絵に描いたキャラクターである以上
周りが補填しなければどうにもならない。
それも及ばず全体通して退屈の一言に尽きる。

夢、妄想、思い出、精神世界のコマぎりはテンポが悪く
敵キャラクターの一人語りの時間も無駄に長い。
そもそも、作品の世界観からすれば
エンタメアクション自体が浮いていて冗長だね。
シーン毎の見せ方はクオリティ高い箇所もあるが
やはり全体ではぼやけている。

ワンダーウーマンの登場シーンと
ジャスティスリーグへの前フリに期待感を持つだけの一本。
最低限度の話に筋が通っていた『マンオブスティール』とは
もはや別物になっているね。




『パットン大戦車軍団』 1970年
監:フランクリン・J・シャフナー  主演:ジョージ・C・スコット
★★★★☆

第二次大戦中、一際異彩を放っていたアメリカの将軍
ジョージ・パットンの姿を描くお話。

戦争映画と思って見る必要はないです。
これは人間の話、つまり人物のアクを描く映画だね。
この「16世紀に属する男」と言わしめた
稀代の将軍、パットンの面白さが全てでしょう。
本人も何度も口にする通り、生まれる時代を間違った人。
近代国民国家においては、軍隊は個人の所有できる財産ではないからね。
どうしたって権利が無い。
それを差し引いても、二次大戦という舞台は
彼が輝けるギリギリの世界ではあったのだろうか。

口汚く、自身に正直で、他者にも厳しくそれを求め
近代戦争行為にも歴史的なロマンのみを求める。
こういう一途な人間は魅力的なんだよ。
ただし、お互いに責任を負い合わない関係であればね。
そこが戦争という状況の哀しさか。
当たり前だが最もそれからは遠い環境だよね。

軍事的な優秀さも含め
延々と彼を眺めているだけで楽しめる傑作映画だろう。
もちろん圧倒的な映像スケールも大きな魅力で
超予算で丁寧に丁寧に撮られた各シーンは
どこを切り取っても一級品。
こんな映像はもう撮れないのではなかろうか。






『果しなき欲望』 1958年
監:今村昌平  主演:長門裕之、他
★★★☆☆

戦中に横領した大量のモルヒネを回収するため
約束の10年後に犯人が集まるお話。

地中のお宝を回収するため
地下トンネルを掘り続けるだけのストーリーだが
シンプルに纏まっていて実に良い。

基本、コメディタッチの会話劇がベースなのだが
登場キャラクターは腹に一物を抱えた人物像ばかりで
皆、異常なまでに荒々しい。
彼らの関係が絶対に破綻していくだろう事は
最早、ある種のお約束として常に伝わり
それが最後まで緊迫感を残してくれる。

舞台となった大阪地域における
意地汚さと活気溢れた逞しさが
同時に楽しめる世界観が何とも素敵で
どう仕様もないクズ連中の姿が
何処か可笑しく写ってしまうのが楽しいね。

また、ゲスト的に登場するボンボン青年が
そんなクズ連中をお構いなしに
一人ほのぼのとした恋愛劇を展開していくのが
何とも微笑ましくサービスも良い一本。





『波止場』 1954年
監:エリア・カザン  主演:マーロン・ブランド
★★★☆☆

荷揚げを生業とする日雇い労働者の主人公が
悪質な殺人事件や、外部の人々との出会いから
波止場を仕切るマフィアに疑問を持ち
対決の姿勢を取る事になるお話。

船主と荷揚げ労働者の間に入り仕事を割り振り
かつ、組合という形で労働者の給料からもアガリを取る。
そんな環境はマフィアに頭が上がらないのは当たり前だ。
波止場で働く2000人もの人間が
一つの共同体かのような空気を有しているわけだね。
この絶対に声など挙げられないという圧迫感と
最初から最後まで一切の外界など存在しないかのような
閉じた波止場の世界観が凄まじいね。

「何も見ない、何も聞かない」
この二つこそが波止場を生き抜くキーワードと信じ
マフィアを悪者、自身を被害者としつつも
決して自らのリスクまでは支払わない連中と
逆にどんどん追い詰められる主人公の立場が
見事なまでに浮き彫りになる。

積極的に問題を立ち上げているのは、
過激な正義の司祭や、実態を知らないインテリ女性なのだが
主人公はあくまで、マフィアのボスに拾われた恩もあれば
港湾労働の実態も知り尽くした普通の労働者なんだね。
半ば成り行きとも言える巻き込まれ展開であるからこそ
彼がそこで到達した境地にリアリティと希望ある勇気を感じる一品。




『バトルクリーク・ブロー』 1980年
監:ロバート・クローズ  主演:ジャッキー・チェン
★★☆☆☆

賭け格闘試合に没頭する
シカゴのマフィアに目を付けられた主人公が
兄嫁や父親の店を人質に大会への参加を強要されるお話。

丁寧に作ってはあるんだけど
香港におけるジャッキー・カンフームービーから
新しい要素が何も無いんだよね。
それでいて中国チックなカンフー映画独特の
ケレン味だけは綺麗に抜き去った一本。
ただアメリカを舞台に移して
極度な拳法要素や、師匠、弟子関係を省いてしまえば
それは薄味になって当たり前だろう。

『プロジェクトA』以降に見られる
独特の大スタント路線でもなく
『蛇拳』や『酔拳』に見られる
拳法の視覚的魅力を貫く路線でもない。
その上、あっさりめの登場人物ばかりで
これと言ったストーリーが存在しない点だけは
香港映画を持ち込んでは駄目だろう。
これではハリウッド進出の手ごたえが無かったのも頷ける。
相応なジャッキーの若々しい運動美だけを楽しむ映画かな。





『バトル・ロワイヤル2【鎮魂歌】』 2003年
監:深作健太  主演:忍成修吾 他
☆☆☆☆

一発ネタとしての究極の出オチ作品に
何故続編が必要か。
こういう作品は視聴者が設定に戸惑っている内に
テーマ性だけを力技で見せ切ってしまうから成立するはず。
どう考えても二作目は要らないよね。

そもそも、この映画は何かがおかしい。
映像のテキトーさ、テンポのテキトーさ、展開のテキトーさ
全ての台詞における白けっぷり。
何をどうしたらこれで一本の映画になると思ったのか。
テーマや個性が強すぎるが故にという理由以外で
ここまで意味がわからない作品も珍しいね。

こんな形で陽の目を見る事になった
深作健太監督は幸か不幸か……





『花のあと』 2010年
監:中西健二    主演:北川景子
★★★★☆

結婚前を剣の修行に明け暮れた女主人公の
成長と思い出の物語。

綺麗だね。
藤沢周平の世界をこんなにも丁寧に映像化できるものだろうか。
江戸時代、お役目のある家に生まれた女性として
限界に近いまでの生き方が美しい。
たった一度、剣を合わせてくれたという若侍。
何があったわけでもない中、その思い出を大切にする姿が
実に洗練されていて可憐の一言。
大人への階段であり、良き夫との出会いであり
若者の限られた時期を見事に描いている。

女剣士物というのは、江戸時代小説の一大ジャンルだが
本当に美しいものは稀。
徹底した描写の積み重ねが可能にする落ち着いた説得力が
彼女を際立たせるのだろか。
地味に徹する事こそ美しいのだ。
北川景子のはまり役だろう。

あとこの手のお話は敵役こそを魅力的に描かないと駄目ね。
この鉄則が守られているのが何より素敵。




『花嫁の父』 1950年
監:ヴィンセント・ミネリ   主演:スペンサー・トレイシー、エリザベス・テイラー
★★★☆☆

弁護士を務める健全な家庭の父親が
娘の結婚式準備に右往左往する様を描くお話。

中産階級も大変だ。
彼らは比較的裕福な生活は送れているものの
決して湯水のようにお金が使えるわけでもないのだ。
それにも関わらず、
下層ではない故に強いられる分不相応に豪華な式典の不条理。
これが実に馬鹿馬鹿しい。
結局、人間はどの立場にあろうとも
そこでの相応の苦労はあるわけだね。

嫌味に過ぎず、悲惨に過ぎず
完璧なバランスでドタバタコメディに仕上げつつ
父親の娘に対する普遍の愛情もほのかに感じ取れる。
実に上手く纏まった作品。

スペンサー・トレイシーの理想のお父さん像と
若きエリザベス・テイラーの美しさに酔いしれるだけで
十分楽しめる一本です。





『花よりもなほ』 2006年
監:是枝裕和   主演:岡田准一
★★★☆☆

仇討のために江戸暮らしを続ける主人公を取り巻く
長屋住人の人情劇。

住人の程良い底辺っぷりが素敵なバランス作。
貧しいながらも、実にお馬鹿な脳天気連中。
比較的、恵まれた立場のネクラ主人公が
そんな長屋の活力に魅了されていく過程が
とっても丁寧に描かれているヒューマンドラマ。
武士や仇討ちが悪いとは言わないが
必ずしもそれが人間の全てではないよね。

是枝監督作品ではあるのだが
普段の日常表現は抑え目でやや作り物感が強め。
最後には一大仕掛も用意されるという
悪く言えば普通な痛快爽快のサービス満点お江戸長屋物語。





『バニー・レークは行方不明』 1965年
監:オットー・プレミンジャー   主演:キャロル・リンレー、
★★★★☆

「保育園から娘が消えた」
この一点からスタートするサスペンス物語。

未婚の母とその兄が警察の捜査と並行しつつ
ひたすらに捜索を続けるというシンプルなお話なのだが、
そもそも、肝心の娘の姿は一度もスクリーンに映っておらず
劇中人物も観客すらも実際に彼女を見たものは
誰一人も居ないという仕掛けが光る。

誰が何のために誘拐したのか、娘は何処に居るのか
そもそも、本当に娘は居るのか居ないのか……
どうとでも話が転べる不安定な状態を維持したまま
スリリングな掛け合いが最後まで継続する作品で
ただ一つ、何かが隠されていることだけは間違ないという
実に気持ちの悪い緊迫感が見事に演出されている。

決して特別な謎解きがあるわけではなく
種明かしを楽しむミステリー系のジャンルではないのだが
誰がどういう方向に事態を向けようとしていたかを
後々思い返せば割と楽しい仕掛けにはなっている。

オチ一本を武器に最後の最後まで引っ張る方式なので
どうしても期待度が高まりすぎることで
やや物足りない感覚に陥るのは仕方ないのかな。
それでも、道中の練りに練られた展開と
劇中全体を覆うゾクゾクする不気味さだけで
十二分に楽しめる手堅い一品。




『パニッシャー』 2004年
監:ジョナサン・ヘンズリー   主演:トム・ジェーン
★★☆☆☆

家族をマフィアに虐殺された男が
死の淵から蘇り復讐をとげるお話。

これは粗いね。
コミック原作物には粗さの中からこそ生まれる勢いという物もあるが
今作はシンプルに散漫なタイプかな。
キャラクター像としては、本来パニッシャー程に面白い存在はないのだが
彼の矛盾を抱え込んだ哀愁を描く気は全く無いように見える。
と言うより、何らかのテーマ自体が無いんだね。
敵も味方も人間であることをメインにはせず
アクション映画寄りに収まっているのだが
それならばもう少し動きでの魅力が欲しい。
エグイのか、エグくないのかわからない描写もフラフラして半端で
友情物にも愛情物にも寄り道だけして
結局、どこにも本気では入り込めない困った構成だろう。

気取った演出には楽しい部分もあるのだが
これをパニッシャー誕生へ繋がる締めとして
物語として納得するのは無理だろう。
圧倒的な大スターキャラなのに勿体無いね。
アメコミ映画大ブレイク時代の後に企画されればまた違っただろうか。




『パパになったミッキー』 1934年
監:バート・ジレット  主演:
★★★☆☆

当時、既に数十本も製作されていた
ミッキー短編の中の一本。

ミッキーと犬のプルートが
捨て子の赤ちゃんの機嫌を取ろうと
家で大騒ぎするお話。

この年代にもなると
現代に通じる完全なミッキーマウスのキャラクターが
確立しているんだね。
後のディズニー映画の代名詞とも言える
1コマ1枚のアニメーションもほぼ完璧にできあがっている。
愛らしいキャラクター達が体全体を使った
異常に細かいお芝居が楽しめる良作。

ちょっと間の抜けた二人が演じる
赤ん坊をあやすためのドタバタコメディは
まさにサイレント時代の喜劇映画の作りを
アニメーションで再現している楽しさだね。
家の中にある小物だけであんなに騒げるなんて
さぞ楽しいだろうさ。

10分程度の短編だが見所十分。




『パピヨン』 1973年
監:フランクリン・J・シャフナー  主演:スティーブ・マックイーン、ダスティン・ホフマン
★★★★☆

1930年代、終身刑としてギアナの強制労働へ送られた男が
生涯を通して脱獄の夢を追い続けるお話。

何と長い映画だろうか。
実際の尺自体はほんの150分程度なのだが
あまりに骨太な一大絵巻に、大長編かのような錯覚に陥る。

本当に過酷な環境に置かれながら
行動して挫折して、行動して挫折して……
どれだけ打ちのめされても、いつまでも自由を求め続ける姿勢が凄まじい。
明るい要素など一つもないのに何だろうかこの爽快さは。
気付けば展開ではなく、主人公の生き様に心を打たれている。
真摯な友情物語であるのも良いね。

演技派としても名高いスティーブ・マックイーンの
真骨頂ではなかろか。
色々と衝撃的なシーンの連続ですよ。
中々にエグイ映像と展開が多いのだけど
この映画は逃げないね。
堂々と描ききってしまうのはさすがの70年代か。

少し展開が慌ただしいところもあるが
何が派手という事もなく素直に引き込まれる傑作。




『パプリカ』 2006年
監:今敏  主演:林原めぐみ
★★★☆☆

他人の夢に干渉できるという
極秘の装置を巡る事件を軸に
夢と現実の世界が交錯していくお話。

凄まじいまでの映像特化作品だね。
最初から最後までトリップ全開。
ただ、最初のSF設定だけで満足した感が強く
人物や物語はあまりに薄味。
アニメーション作品特有の現象とは言わないが
この手の陰謀を企てる犯人像の人間としての浅さには
いつもいつも驚かされてしまう。
これで一本の映画としての脚本は無理があろうだろう。

それでも画と音楽は本当に良い。
古きディズニー映画を彷彿とさせる
少々頭のネジが外れた妄想世界を映像化したような
無茶で不思議な高揚感が得られる。
色彩からも、デザインからも、全てがアニメーションならではの
仕掛に満ちた実に楽しい映像集として楽しめる。。
この監督の作品はいつも同じ魅力と同じ欠点が残っているのだが
今作はどちらも極まっているね。

少々、アニメ好きに寄せ過ぎたのかな。
アート部分とキャラクター性のバランスがチグハグで
表現に感動した直後、物語側の安さで覚めさせられる場面を
何度も繰り返してしまうのがやはり残念。
劇中に溢れる古き映画への愛も心地は良いが
あくまでオマケだよね。





『パブリック・エネミーズ』 2009年
監:マイケル・マン  主演:ジョニー・デップ
★★☆☆☆

1933年のアメリカを舞台に
大規模な銀行強盗を繰り返した実在の犯罪者
ジョン・デリンジャーの生き様を描くお話。

淡々した映画だね。
世界恐慌時代、1933年という舞台なんだけど
その世界観すらもイマイチ伝わりにくい淡白さは
意識された演出なんだろうか。
別にどの時代だと言われても成立してしまうような
空々しさがどうにも寂しい。
ただ延々と撃ち合いを繰り返すだけの一品だよ。

「銀行強盗」という手法が時代に取り残されていく様
FBIの成立によってアメリカの犯罪社会が一変する様
警察と犯罪シンジゲートの癒着の様……
一応、細かい要素も散りばめられているのだけれど
どれも唐突でオマケのように顔を出すだけで
期待するだけ肩透かしを喰らい続けてしまう。
哀愁と言うのには弱い。

また、デリンジャーの犯罪仲間仲間はもちろん
彼を追う捜査官側の面子にしても
どうもコレと言った個性も無いまま話が進むため
何を見て良いか迷ってしまうのも残念。
ノンフィクション題材のお約束として
終了後に「この後、○○はxxxx年に□□して〜」という後日譚が入るのだが
その紹介が割とどうでもいいレベル。

140分の長尺を埋めるには
少し見所が少なすぎるのではないだろうか。
珍しくノーメイクなジョニー・デップの熱演と
当時らしいド派手な重火器の数々による打ち合いだけでは
一本の映画としては寂しすぎるだろう。




『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』 1999年
監:スティーブン・ソマーズ  主演:ブレンダン・フレイザー
★★★☆☆

古代エジプトにおける悲劇に端を発する
超常的な遺跡の存在に魅了された連中が
触れてはならない物に手を出してしまうお話。

砂漠物は良いね。
それだけで映像の美しさ、スケールが違う。
冒頭の超大作感が半端ではなく
見ているだけで心を掴まれてしまう。

ただ、前半のスケールやテンポが素晴らしい分
超常現象が日常茶飯事になった後半パートからが
どうしても冗長に感じてしまう。
ストーリーやキャラクター性は有って無いようなものだし
展開も映像も代わり映えがしないとなれば、
撮影の手間の割に地味な印象しか残らないのは仕方が無い。

結局は探検物でもなく、砂漠物でもなく
古代のける悲劇のロマンス人情でもなく
没個性な化け物に延々と追い詰められるだけの話。
悪い意味で驚いてしまった。

お馬鹿アクション映画としては水準以下ではないのだが
冒頭の振りが素晴らしい分、残念な印象の方が強く残る一品かな。






『ハムレット』 1948年
監:ローレンス・オリヴィエ  主演:ローレンス・オリヴィエ
★★★★★

デンマークの王室を舞台に
父親の亡霊から復讐を託される主人公の苦悩のお話。

2時間半で収められる物なんだね。
狂人としてのハムレットの台詞や出番が大幅に抜かれてるのかな。
他にも、イギリス送りの話とか、ノルウェー国のフォーティンブラス公とか
短くできるエピソードには思い切って手を入れ
映画としての完成度、スピード感に拘った見事な構成で
映像面の演出も飽きさせずに多彩。
間違いなくこのハムレットは映画としての傑作。

しかし、見れば見る程にハムレットは良いね。
シンプルでありながら要所要所での盛り上がりを忘れず
起承転結のお手本のような展開だ。
台詞回しはウィットに富んだ装飾でどれも面白く
物語として全く無駄が無いよね。

ハムレットと言えば独白に次ぐ独白。
普通は冷めてしまうはずの勝手に心情を吐露する独白シーンが
これ程の緊張感と密度になるもんかね。
もちろん、ローレンス・オリヴィエの迫真の演技が大前提。
これで役者まで完璧なのだから楽しめないわけがない。
紛う事なき不朽の名作。




『パラレルライフ』 2010年
監:クォン・ホヨン  主演:チ・ジニ
★★★★☆

厳格な法の運用を信条としてきた若きエリート判事が
怨恨による脅迫、殺人事件へと巻き込まれるお話。

上記のストーリーと同時に進むのが
平行理論と呼ばれる物。
生きた時代も場所も違う二人の人間が
調べれば全く同じ人生を歩んでいる事があるという
オカルトめいたお話だね。
このオカルトに半ば支配されながらの
緊迫の犯人探しが実に面白い。
30年前に死んだある判事の人生との驚きの一致率。
現在進行形の犯罪と、30年前の事件に隠された真実の発見。
この二層構造が見事で非常に密度の高い傑作。

全く止まる事のない謎、謎、謎。
テンポよく解明されていく新事実と
それにより新たに生まれてしまう矛盾の数々。
また「平行理論」がどこまでオカルトなのか
あるいは、犯人が意図してなぞっているだけなのか。
もし平行理論が真であるならば
主人公の運命はある方向で終わらなければならいのだが……
次から次へと観客の頭に浮かんでくる
状況整理の数々が決して飽きさせない。

若干、都合が良すぎる、ピースが嵌りすぎる所があり
作り物感が少し残ってしまってるかな。
それでも客の想像の一歩を上をいく事を信条とした
緻密な脚本による先を読ませない展開の連続は見事の一言。
21世紀の韓国映画らしい大真面目な一品。





『ハリー・ポッターと賢者の石』 2001年
監:クリス・コロンバス  主演:ダニエル・ラドクリフ
★★★☆☆

赤ん坊の頃、不思議な経緯から親戚の家に預けられた主人公ハリーは
11歳の誕生日を期に、彼の本来の世界である魔法学校へ入学する。
そこで出会う友人、教師、そして自らの運命を描いた一大巨編。

何と言う丁寧なお仕事だ。
ロケーションであり、大掛かりかつ細かい美術の数々であり
もちろん工夫に工夫を重ねたハイクオリティCGであり
この魔法世界の持つ神秘性、楽しいファンタジー観が
画面から所狭しと伝わってくる。
小道具の一つ一つまでがきっちり拘り抜かれた
圧倒的なオリジナリティは決して途中で夢から醒めさせない。
作品の世界に入り込めるとはこの事だろう。
練り込まれた授業、魔法のホウキにスティック、トロールやユニーコーン……
欧州ファンタジーの定番、神秘の森まであるサービスっぷりは見事。

主演格の三人の個性も中々で
何においてもソコソコやれる真の優等生のハリーを筆頭に
成績も要領も悪いがお調子者で愛嬌のあるロン
そして、ガリベン優等生型で人付き合いも苦手ながら
実は優しい紅一点のハーマイオニーと
彼らの掛け合いを微笑ましく見守るだけで
十分に楽しめる大作だろう。
EDに到達した時点で、もう二作目での彼らの活躍が待ち遠しくなってしまう。

ただ、ストーリーは至ってシンプルに作られてるね。
やっていけない事、行ってはいけない場所、会ってはいけない人……
その他諸々、たたただ三人が学校の規則を破りを続けるだけのお話。
しかも学園物として楽しむには、その他の生徒や教師あたりとの
大した絡みもドラマも与えらるわけではない。
では、アクション物、ファンタジー物としてはどうかと言うと
これも場面場面の繋ぎ合わせが続くだけで
淡々とした進行が半端と言えば半端かな。

もっともこれは、先に描くべき優先事項が多すぎたせいだろう。
あくまで「ハリーポッター」におけるルールを徹底的に描き切る事で
まず創作世界自体を提示してくれる一作目だろうか。

しかし、この学園の描写は物珍しいね。
日本ともアメリカとも違う、これがイギリス流だろうか。
堅苦しい教師の物言い、季節ごとに移り変わる制服の数々
4箇所に所属を分けられ、互いに競い合わされる間柄の全寮制度。
そして全生徒の誇りに成り得る荒々しい伝統スポーツ。
全てが実に新鮮に映って面白い。
イングランドの上流学校における日常に対して
「魔法学校」ならというifを描いているだけなのだろうが
こちらにすれば、それが既に魅力的なファンタジーなんだよね。




『ハリー・ポッターと秘密の部屋』 2002年
監:クリス・コロンバス  主演:ダニエル・ラドクリフ
★★★☆☆

続編。
ホグワーツ魔法魔術学校に伝わる秘密の部屋の謎を軸に
次々と襲われる生徒達というミステリー調で彩った二作目。

学校の授業を紹介する形で進む前半戦と
校則違反を繰り返す事で謎に迫る三人組。
このあたりは前作からの流れだが
今回はきっちりとしたストーリーが存在する。
まずは、血筋や家格といった要素が多分に登場して
益々イギリス流のノリを楽しませてくれる。
魔法使いとしての純潔、混血における差別問題とはやってくれる。
体制側からの冤罪に次ぐ冤罪という展開も含め
少し窮屈な魔法世界の雰囲気なのだが
それがこの作品の味なんだろうね。
そこに「本当の敵が誰なのか」という前作からの手法も合わさり
精神的に悩まされるハリー達の姿が痛々しい。
ちょっとだけ大人になった三人が繰り広げる
心のお話も楽しめる深みの出てきた一品。

それでも基本となるのは、
あくまで不思議なアイテムの数々に彩られた
ファンタジー世界だけどね。
相変わらずの完成度で、綺麗に異世界へと入りこませてくれる良作。




『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』 2004年
監:アルフォンソ・キュアロン  主演:ダニエル・ラドクリフ
★★★★☆

続編。
ハリー達の学園生活も3年目。
ハリーの命を狙いにくる脱獄犯が迫る恐怖を描くお話。

これは思い切ったね。
学園物としての展開や、びっくり箱な楽しさは捨てさられ
あくまでハリー個人の内面に迫り続ける
本格派ドラマを少しダークな雰囲気でお送りする三作目。

少々、ハリーの性格がアクティブに変わるのだが
これはキレやすくなったというよりは
成長して男らしくなったが正解だろう。
まるで思春期だよ。
もう劇中でも3年が経つわけだからね。
ハリーも両親の死に纏わるお話を正面から描ける年齢になったと思えば
実に感慨深い。
ただ、ハリーが一人で悩み大人たちとの関わりの中で
自らを成長させていくという姿は
三人一緒が当たり前だった前二作からすれば
ロンやハーマイオニーの添え物感が強く寂しくもある。
ただそれも、人が成長する過程では納得できる描き方かな。
二人ですらそうなのだから
マルフォイ君などが端役にまで落ちぶれしまうのも納得。

謎が謎を呼ぶ緊迫の展開でありながら
あらためて思えば、序盤から全ての伏線は貼ってあるという
職人的な脚本の緻密さは健在。
「誰が敵がわからない」
これは作品全体を通したテーマなのかな。

お話の重たさに比例して
映像はとってもシャープで薄暗い。
この一貫して拘り抜かれた密度ある雰囲気作りは見事の一言。
霧とか夜とか、そういう題材がキーワードか。

役者自体の成長も合わせて
ハリーも大人への一歩を上り始めてるなと
素直に感心できる三作目。




『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』 2005年
監:マイク・ニューウェル  主演:ダニエル・ラドクリフ
★★★☆☆

続編。
代表者一人が名誉をかけて競い合うという
魔法学校同士の対抗戦の模様を軸に
ヴォルデモード卿復活の陰謀が暗躍するお話。

今作は戻ったね。
学園青春ストーリー。
前作では影の薄かった学校を主題にしたイベントと
ロンやハーマイオニーとの友情物語。
むしろ、歴代で最もその傾向が強い作品かもしれない。
このシリーズの何が素晴らしいかと言えば
役者が成長して、容姿や雰囲気が大人びてくるに合わせ
劇中の登場人物もきっちり一緒に成長していく事。
そのバランス感覚がとっても素敵。
劇中で彼ら三人の繰り広げる関係性は、
紛う事なき14歳の人生そのものだろう。
いつまでも三人一緒で常に騒いでいられるわけもない。
ロンは男友達であり、ハーマイオニーは女友達なわけだ。
お互いがお互いの生活を保ちつつの
この腐れ縁っぷりは素敵。
彼らの育つ姿をいつまでも追っていける事は
何よりの幸せだろう。

しかし、学校対抗戦、ダンスパーティと続く
そんな淡い青春模様と平行して繰り広げられる
シリーズ通しての本筋の方は今回はかなり暗め。
と言うよりも、あまりにその世界観の剥離が酷いためか
学園話とヴォルデモード話とがほぼ絡む事がなく
まるで別の章立てがあるかのような構成になっている。
これは映画としてはどうなんだろうか。
二つが絶妙な仕掛けで共存できていた
過去作品の職人的な脚本からすると
その点でやや物足りないかな。
ここも含めて劇中での「変わっていく」という台詞なのだろうか。

圧倒的なクオリティで作り込まれた
青春ストーリーとして十分に楽しみつつも
少しその方向性に寂しさも残る四作目。




『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』 2007年
監:デヴィッド・イェーツ  主演:ダニエル・ラドクリフ
★★☆☆☆

続編。
ヴォルデモード復活の真偽による争いから
魔法省の圧力により自治を奪われた学園と
反発する生徒との戦いを描いたお話。

決定的に繋がらなくなった5作目だね。
元々、魔法世界というifの設定に当てはめた
学校描写の不思議さ自体が楽しい作品ではあったが
今作では離れる所まで離れてしまった。
ヴォルデモードの暗躍と、ハリーの運命という話の軸が
前に進めば進んでいく程に
学園ゴッコ側が物語としての正当性を失っていく。
こんな状況で一体お前らは何を遊んでいるんだという
停滞感が強く感じられてしまう空気だが
あくまで尺が割かれるのは平和な学園側のお話。
タイトルにある「不死鳥の騎士団」という組織自体が
対ヴォルデモード用に組まれた物なのだが
それすらメインに関らせても貰えないのであれば
もはやこの二つの共存は無理ではなかろうか。

そもそも、現時点で直接的にヴォルデモードの脅威を受けているのが
ハリーを含めてただの数人という状況では
どうして学園全体を巻き込む雰囲気が作れようか。
生徒達の空虚でお遊びの域を出ない大衆感に対し
ハリー陣営には、恋人を殺されたばかりの女生徒や
かつて両親を拷問の末に殺されたというルームメイトなどが居ては
どうしたって整合性の取れないアンバランスな雰囲気は出るよね。
この剥離した感じが何とも気持ち悪い運びな一品。

冤罪に次ぐ冤罪という物語展開も
5作目ともなればさすがに単調さを感じてしまうしね。
何故、わざわざの魔法世界において
リアルな人間世界より遥かに劣るようなシステムを拝まねばならないか。
せめて同レベルまでだろう。

今回、髪を短くカットして、グっと精悍さを増したハリーだが
そんな15歳の男の子としての物語は薄味だね。
あるにはあるがどーも半端に雰囲気だけという一作かな。




『ハリー・ポッターと謎のプリンス』 2009年
監:デヴィッド・イェーツ  主演:ダニエル・ラドクリフ
★★★☆☆

続編。
ハリーも6年目だね。

今回、ヴォルデモード側との争いは小康状態で
向こうは向こうで何かの陰謀を進行中。
こちらはこちらでヴォルデモードの弱点探し。
それも魔法学校時代のヴォルデモードの過去を探るというお題目があるのだから
何ら不自然な二層構造を使わずとも
学校内一本を舞台にした物語が楽しめる。

もはや、ハリーはほぼダンブルド校長の相方だね。
ロンやハーマイオニーは、例によってヴォルデモード話においては
決して中心人物にはなれないながら
結局はハリーが最後に心を落ち着ける事ができるのは
彼らの存在なんだなと感じられる自然な帰結が素敵な一作だろうか。
劇中で彼らは16歳かな。
二作前の青春劇からはもう一歩進んだ形で
別の誰かと付き合っているのは当たり前。
その上でなお彼らの関係はどうなるのかという
おそらくシリーズ最後になる学園イベントを
丁寧に堪能させてもらえるサービス作。
多感な時期を6年間も付き合い続けた腐れ縁は良いね。

ほぼ、魔法世界のびっくり箱を開ける形の描写はなくなり
ストーリーはクライマックスに向けて一直線。
劇的な終盤の展開も含め次作への期待を高める繋ぎの良作。




『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』 2010年
監:デヴィッド・イェーツ  主演:ダニエル・ラドクリフ
★★★☆☆

ヴォルデモードの完全復活を受け
彼との対決に向かうハリー最後の物語。

ついに、学園から完全に決別した完結編で
「ヴォルデモード側」のお話だけを淡々と描く一本。
元々、不協和音の方が目立っていた二層構造だっただけに
魔法学校の喪失は寂しくはあるが
作品としては引き締まった感が強いかな。
賛否両論だろうが、あれだけシリアスな物語を振った以上は
最後はこうならざるを得ないだろう。

さて、学園からは遠ざかったはずが
物語自体は何と『秘密の部屋』以来だろうか
逆に、ハリー、ロン、ハーマイオニーが
綺麗に三人主役で共に行動し続けるお話になっている。
しかし彼らは既に17歳。
まして、ロンとハーマイオニーは恋愛関係。
昔のようにただの仲良し三人組とはいかないよね。
三人だけでの行動において起る諸問題のリアリティは
野暮というよりは、それだけ三人が大人の階段を上った証明。
だが無邪気に全てを曝け出せなくとも
友達であり続ける関係性はあるのだよ。
その絆の様は実に感慨深い。

しかしここまで暗い雰囲気かつ
リアル路線の映像である事を考えれば
どーにも展開は粗いよね。
結局、彼ら三人の魔法使いは強いのか、弱いのか。
魔法を使ったり、使わなかったり、強気だったり、弱気だったり……
このあたりの描写がヌルくて辛めかな。
今まで許せていたお馬鹿な説得力の弱さが
シリアスに振り切った分どうしても目立ってしまう一品だろか。

そのあたりは後半へ期待という
完全なる前編映画。




『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』 2011年
監:デヴィッド・イェーツ  主演:ダニエル・ラドクリフ
★★★☆☆

一作目から公開ベースで10年続いた
ハリーとヴォルデモート卿との長き因縁の決着。

やるべき人間ドラマは前作までに完結済み。
あくまで物語を完結するためだけに
全てを注ぎ込めた贅沢な一本。
大きな驚きは無いものの
懐かしのアイテムや、仕掛け、登場人物も勢揃いで
最終作としてのサービスは満点。

彼らの成長物語として楽しんできた身からすれば
無難に終わってくれる事がむしろ嬉しいブランドだろうか。
さすがに感慨深いもので
その喜びが全ての最終作かな。





『バリー・リンドン』 1975年
監:スタンリー・キューブリック  主演:ライアン・オニール
★★★☆☆

18世紀末のヨーロッパを舞台に
野望を抱えた一人の貴族が駆け抜けた
欺瞞に満ちた栄枯盛衰の一大絵巻。

究極の大真面。
淡々と描かれ続ける人生の物語だが
あまりの密度に押し潰されそうになる超大作。
当時の世俗、貴族社会を再現しきった映像美の数々と
「本格派」という言葉が何よりも似合う重苦しさ。
全てが一級品で固められたド直球大河ドラマだね。

途中から面白いか否かは問題ですらなくなり
逆にこういう作品を楽しめる人間にこそなりたいと
本末転倒な感覚に支配されてしまう詐欺のような仕上がり。
飽きる間もなく180分間が過ぎてしまう。

圧倒的な格調高き密度の追求があれば
ド派手なドラマなどなくしても映画はココまでいける。
そんな一本だろうか。




『張込み』 1958年
監:野村芳太郎   主演:宮口精二、大木実
★★★☆☆

老刑事と若手刑事のコンビが
逃亡中の殺人犯を探し出すため
女の家を張り込み続けるお話。

完璧だね。
1957年当時の風俗を楽しんだり
真夏のけだるい暑さを肌で感じる以外に特に見せ場もなく
主人公二人の掛け合いだけが淡々と進行する映画。

張り込まれる女の家も、特別に何かが起こるわけでもなし
ごくごく普通の家庭女に劇的なドラマがあるわけでもない。
まして、宿からは全く同じ張り込み対象の構図が
延々と日を跨いで続くだけの本当に退屈な映画なんだけど
その退屈自体が一つの仕掛けというか
しっかりテーマとオチに繋がっているのだから
本当にお見事としか言いようがない。

人間の本質的な部分に絶妙な距離感で踏み込む凄さだよ。
何日、外から俯瞰で覗き見を決めこんんだところで
本当の人間というものは理解できんのだね。
チラリと覗いて判ったた気などはクソ食らえ。
とっても実直で切ない物語です。





『パリで一緒に』 1964年
監:リチャード・クワイン  主演:オードリー・ヘプバーン、ウィリアム・ホールデン
★★★☆☆

締切を二日後に控えたグータラ映画脚本家と
タイピングの仕事で彼の家に派遣された主人公とが
脚本の妄想を繰り広げながらの恋話。

不思議な映画だね。
彼らが妄想する無茶な映画脚本がイメージ映像として挿入され
実際の部屋での二人のやりとりと絶妙な形でリンクする。
最後までその繰り返し。

ナンセンスで、軽快で…
かつ、あまりにくだらない展開と会話劇に
つい笑ってしまう詐欺のような一品。
主役二人の過剰な演技も素敵にハマり
部屋から一歩も出ないくせに
展開される映像はバラエティに富んでいる。
それでいて、一貫するのは恋のお話だというのだから
どういう仕掛けなんだ、この映画は。
全ては二人を暖かく見守る楽しさになるのかな。





『巴里のアメリカ人』 1951年
監:ヴィンセント・ミネリ  主演:ジーン・ケリー
★★★★★

芸術の都パリへと集った
若きアーティスト達が見せる野望と恋の物語。

芸術的なミュージカル映画だが、
それ以上踏み込まれると、こちらの理解を超えるぞという 
ギリギリのラインでは踏み止まってくれる。
全曲がガーシュウィンの物である意味PVだろう。

後年に大ブレイクした
若さや勢いで見せる『ウェストサイド物語』とは違い
子供やヒューマンで見せる『オリバー』や『サンドオブミュージック』とも違う。 
これは全編がその道の熟練者だけで構成された 
正真正銘の職人スター頼みの真っ向ミュージカル。 

舞台で表現できない手法が映画の特権ならば
今作は間違いなく映画だね。
理屈抜きに画面に引き込まれる圧倒的な完成度と
全ての異常なクオリティに酔いしれる幸せな一本。




『パリの恋人』 1957年
監:スタンリー・ドーネン   主演:オードリー・ヘプバーン、フレッド・アステア
★★★☆☆

オードリー・ヘプバーンとフレッド・アステアによる
大人のミュージカル映画。

芸術の都パリで大規模な撮影を敢行する
ファッション雑誌モデルという設定が
そのままヘップバーンの魅力を映し出しているね。
既存の美女とは違う新時代個性としての劇中における扱いが
見事に女優としての彼女とリンクする。
コメディタッチの入りからは想像もできない程に
優雅で幻想的なシーンが目白押し。
狂おしいまでのおフランス、パリですよ。

しかし、1957年公開作品で
お相手がアステアというのが彼女らしい。
完璧なまでのオジサンキラー。
『麗しのサブリナ』のボギーに続き
もはやオジサンというよりお爺さんの風貌だが
アステア最高の武器である品の良さが
今作の雰囲気に見事にはまってるね。
往年のような激しい動きは控えめだが
それでも彼の踊る姿は誰よりも美しく
未熟な女性が惚れられるだけの空気を携えている。

映画として云々という作品ではないのだが
パーツパーツでの美しさに最高の夢がある一本。




『バルカン超特急』 1938年
監:アルフレッド・ヒッチコック   主演:マーガレット・ロックウッド
★★★☆☆

列車内から消えた老婦人の謎を追うサスペンス。

1938年公開のイギリス映画ながら
既に完璧な陰謀巻き込まれ型のヒッチコック作品だね。

冒頭のホテルでは見事なまでに個性付けされた登場人物を
魅力的に紹介してみせ
列車内ではミステリー風味の強烈なシチュエーションを提示し
そのアイディアの楽しさに唸らせる。
要所要所でまさにここが見せ場と誰もが理解できる
大見えを切ったような演出が挟まり
最後はミステリーでもサスペンスでもない
総合エンターテイメント満載の展開へと発展する…
見事なまでの大作映画。

実に1938年公開作品らしい
二次大戦前夜のキナ臭い欧州の空気感もよく
お得意の国家陰謀展開に対する説得力も上々。
その上で軽いコメディタッチな感性との絶妙なバランスも忘れない
とっても贅沢な王道が味わえる良作。





『バルタザールどこへ行く』 1966年
監:ロベール・ブレッソン  主演:アンヌ・ヴィアゼムスキー 他
★★★☆☆

ある田舎で巻き起こる人間達の生々しい物語。
それを見つめ続けた物言わぬ一頭のロバを
画の中心に据えた独特な物語。

まさにフランス映画という一品だが
耐性の無い人は寝落ち確実だろうか。

一人の少女が主役格であり、それを取り巻く不良連中という
ある種、若者の物語が中心なんだけど
どう贔屓目に見ても全てが説明不足。
誰が誰でどういう立場の人間で、一体何が起っているのか。
言葉少なく進む物語の中で、その軸を掴むのは至難の業。
しかし、この映画に事細かな説明が入ってしまえば
それはそれで大事な物が失われてしまう事もまた
誰が見ても明らかなんだよね。

人間の駄目な部分、不器用な部分ばかりが突出する
断片的なシーンの連続構成。
彼らにしてももっと幸せな時間もあっただろうにね。
何故、そこばかりを描かねばならないのか。
それを黙って見つめるロバのバルタザールという姿は
確かに何とも言えない達観した雰囲気がある。
音楽、映像、全てが、のらりくらりと
一定のクオリティを保ち続ける不思議な一品。

芸術系の作品はあまり得意ではないが
あくまで、90分前後の映画であるならばそれも可。
誰でも作れるようなテンプレート通りの作品を
無駄に垂れ流して時間を費やすのであれば
例え全てを理解しがたい映像であっても
ココにしか存在しない強烈なオンリーワン個性を見せ付けられる時間の方が
幸せという考え方もあるだろう。




『春との旅』 2010年
監:小林政広  主演:仲代達矢、徳永えり
★★★★☆

北海道でニシン漁の夢を追い続けた老人が
二人暮しの孫娘の将来ために
自身の面倒を見てもらえないかと
二人で兄弟の家を訪ね歩くお話。

哀愁だね。
昔から自分勝手で、夢を追い続けて
何者にも頭を下げない人生を送ってきた老人の
希望もない苦痛の旅だ。
とんでもない糞爺なんだよ。

しかし、そんな暗いお話を必要以上にはクドクさせないのが
続々と登場する兄弟達の個性。
大滝秀治、淡島千景、柄本明………
人生を散々に噛み締めてきた老人達による
アクの強い突き放した言動は実に痛快。
しかし十分に距離を置いて、喧嘩もして、険悪な雰囲気を醸し出しつつも
どこか親類、家族なんだなと感じられる絶妙な関係性がある。
一言で現すならば「甘えるな」の連続に尽きる説教映画だが
その態度の影にうっすらと愛が感じられるのが素晴らしい。
老人の将来に絶望しながらも
この一点で何か気持ちが救われるのは
騙されているのだろうか。

おかげで終盤、この旅を共に歩んできた孫娘が
幼い頃に家を出た父親と会いたくなるという流れは
とってもスマート。
対面したからどうと言う事はなく
むしろ、気まずい空気を味わうだけだろうと
理屈では誰もがわかっていながらも
ここを会うべきなんだと自然に思えてくるのは
この作品が厳しい現実と、肉親の距離感を描きながらも
結局は、家族への賛歌を示しているからではないだろうか。
ここで登場する香川照之の一筋縄ではいかない味がまた良い。

ラストは映画らしくシンプルに。
現実としてはここからこそが地獄なのだが、
ある意味では幸せなエンディングと言えようかね。

大俳優、仲代達矢がまだまだ枯れていない事を
思い知らせてくれるだけでも十分に価値のある傑作。
仲代達矢が死を迎える老人役でありながら
その彼を説教できる兄や姉という構図に説得力が出る役者が
ギリギリ存命だった奇跡の時代な一本。
淡島千景のカッコ良さには惚れますね






『パルプフィクション』 1994年
監:クエンティン・タランティーノ  主演:ジョン・トラボルタ 他
★★★★★

杜撰な強盗を計画する男女やら
お馬鹿なマフィアのやりとりやら
唐突な拉致監禁事件のお話やらで
忙しなく舞台が入れ替わるオムニバス映画。

これほど品の良い下品にはお目にかかった事がない。
度を越して頭が悪くブラックジョーク満載でありながら
構成だけは異常に緻密なのが、むしろ笑いを増大させる。
オムニバスドラマだからこそ許される
軽快なテンポと、目まぐるしい状況変化に
観客はついていくだけで精一杯。
100回以上は確実に登場する
「ファンキン○○」という言い回しの語呂の良さや
○○に入る言葉の多彩さ、センスの可笑しさ…
そんな言葉遊びだけ捉えても既に楽しく
とにかくハイセンスでナンセンスな見所の多さに疲れ果ててしまう。

それでいて難解という事は全くなく
視聴後はある種の達成感にすら近い物を感じる
詐欺のような傑作。




『パレード』 2010年
監:行定勲    主演:藤原竜也、貫地谷しほり、小出恵介 他
★★★★☆

一つのアパート部屋で馴れ合いながらの共同生活を営む
5人の若者たちのお話。

とっても人を選ぶ映画。
オチの衝撃度が全てなのだが適性の薄い人が見ると
オチである事にすら気付けないのではなかろうか。

あの空間、あの関係性にどれだけ憧れられるかが勝負。
ああいった互いの生活に責任を負い合わない出入り自由空間には
人生において心当たりが無いわけではない。
むしろ大好きだった空間。
当然、郷愁も感じるし憧憬も抱く。
そこに楽しい生活を求めている程に
一定の境界線を越えた瞬間の不気味さ
気持ち悪さへの変化が素晴らしく映る。

この作品が日常系のほのぼの少女漫画でもあれば
5人は10巻でも20巻でも続けられる人気住人になれるだろうに
それを許さないエグサが素敵な一品。
序盤から終盤まで、彼らを如何に魅力的に映せるか
そしてその姿を変えないまま、どれだけ視聴者の心だけを変えられるか。
素晴らしい構成で原作の魅力を見事に再現した傑作。





『反逆児』 1961年
監:伊藤大輔    主演:中村錦之助
★★★★☆

若くして切腹に追い込まれる家康の長男
三郎信康を主人公にした彼の晩年を描くお話。

小説であれば短編、もしくは2時間程度の舞台や映画に相応しい題材は
歴史上にはいくらでもあるもんだね。
見事な着眼点、構成と密度に感心する。

岡崎城という閉じられた空間において
"今川"の血縁を延々と打ち出す母親
"織田"の権威を延々と打ち出す妻
そして、"徳川"の嫡男たる信康の立場。
この三者の相容れない圧迫感が凄まじい。
しかし、好漢たる信康は母を愛し、妻をも愛している。
それでいて自身は自由奔放に生きようと
誰にも媚びずに貫くわけだから
どのみち無理がこないはずがない。

もっと、やりようがあったのではないか
別の未来もあったのではないか。
過剰なまでの演技と演出の中で
その後悔に塗れた怒涛の結末は目が離せない。

若々しい萬屋錦之介の存在感が
そのまま三郎信康のパワーに繋がる快作。
ただ結局は信長を除けば、この主人公が一番悪いと思うわけだが。




『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』 2009年
監:トッド・フィリップス   主演:ブラッドリー・クーパー
★★★★☆

男4人がハメを外す目的でベガスに旅行に行ったところ
あまりにハメ外しすぎて一晩明けたら誰も記憶がなく
あまりの惨状にドン引きするお話。

純度100%コメディで気持ちが良いくらいの馬鹿映画。
まぁとにかく会話から展開からが全て下品。 
こいつらなんてクズなんだろうと思いつつも
男どもならではの下種な悪ノリ、痛快な掛け合いに 
憧憬に近い魅力を感じてしまう。

張るだけ張った複線を全て回収するという
実はとってもレベルの高い脚本が逆に笑えてしまう。
100分の短い尺でノンストップ、悪乗りオンパレードが楽しめる傑作。 





『ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える』 2011年
監:トッド・フィリップス   主演:ブラッドリー・クーパー
★★★☆☆

お馴染みの面子が再び登場。
今度はタイで暴れ捲くるお話。

お話のラインが、前作から何一つ変わっていない。
ここまで一緒とは完全なる確信犯。

前作からの馬鹿馬鹿しさは残しつつ
少し話が飛びすぎているかなとは思う二作目。
中でもメンバーにおけるキチガイ担当一人に
責任と展開を委ねすぎている感が強く
彼らならではの友情物、特に男の馬鹿な部分を曝け出す要素が薄い。
この映画においては、誰もが被害者であってはならないだろう。
同時に自身が自己責任の加害者側でもある事で
始めて成立する物語だと思うのだが
今回に限ればトラブルメーカー一人を除き
メンバー全員がやや気の毒。

少し、ヒット作の続編で気負いすぎたか
脚本の緻密さも薄れ気味で
派手な要素だけを繋ぎ合わせてしまった一本だろうか。

ただしEDの写真、種明かし編の爽快感は前作に並び抜群。
このシリーズ、本編はスタッフロールにあると言っても過言ではない。
特に婚約者の弟クンのはっちゃけっぷりは良いね。
そんな軽くていいのか? 指は大切だぞ………
新キャラで唯一の当たり役。




『晩春』 1949年
監:小津安二郎  主演:笠智衆、原節子
★★★★☆

行き遅れた一人娘が嫁ぐまでの
父娘の短い姿を描いたお話。

固定されたローアングルカメラに
呆れる程のスローテンポ会話。
所謂、安心の小津スタイルそのままに
全編から溢れ出る余韻の妙が楽しめる一品。
一つの映画作品を視聴しながらにもかかわらず
自然と頭の中は、自身の立場に置き換えた
物語とは関係ないif世界への想像力でフル回転へ。
家族がテーマである限りこのオーバーラップは
いつの時代の観客でも不変だろう。

主人公があまりに良く出来た娘であり
展開の運びが綺麗に過ぎるため
やや、他作品と比べればリアリティの面では疑問が残るが
間違いなく誰しも心の中には存在するお話。
突込みどころ満載の世界観ながらも
そんな馬鹿なと呆れるよりは
美しさへの憧憬が勝るのではないかな。
父と娘でどちらの立場を見ても成立する情緒が素晴らしい。

昨今の晩婚化を改善するのに必要な物は
「やたら、縁談をまとめたがる親戚のオバちゃん」
うん、間違いないな。






『パンズ・ラビリンス』 2006年
監:ギレルモ・デル・トロ  主演:イバナ・バケーロ
★★★☆☆

二次大戦末期、スペイン内戦終結間際の戦地を舞台に
政権側の大尉へと嫁いだ母の下で
連れ子の少女が体験する夢と現実のお話。

世界は血生臭く理不尽、身重の母は病弱、大尉は怖く独裁的…
とにかく目の前から逃げ出したい絵本好きの少女が
自身の妄想世界を独自に繰り広げるという
ファンタジー映画の構図は素直に入ってくる。

徹底してグロテスクで痛々しい描写が多用されるのが特徴だろうか。
現実世界、ファンタジー世界共にシックな色使いで統一され
非常に美しい完成度を誇った映像美ではありながら
全編が毒々しいダークな世界観に包まれている。

ストーリーも戦闘や拷問描写がメインであり
目を覆いたくなるような血塗れの現実に
少女が淡々と巻き込まれていく展開が延々と続く。
結局、妄想と現実の区別を付けきれないまま
少女の側にこれと言った成長の契機も無く
周囲の環境だけが容赦なく進んでいく様は圧巻。

結果、あまりに辛い現実を受け入れられず
少女はなし崩し的に少女のままでいたようにも映るが
最後に妖精に言われるがままの約束を拒否したことは
そうではない証拠にも映る。
何とも捉えにくいお話だね。

子供が見るにしてはあまりにも人体損傷が多すぎるが
厳しい現実と妄想世界の狭間を行き来する
少年少女性を前面に出した物語なのは間違いなく
ややターゲット層が不思議なデルトロ作品。




『半世界』 2019年
監:阪本順治  主演:稲垣吾郎
★★★☆☆

40歳を目前にした男たちが見せる
人生の折り返しの話。

田舎で炭焼きの仕事に没頭する稲垣吾郎を主人公に
地元の中古車業一家に暮らす愛嬌の良い幼馴染と
中卒から自衛隊に入るも心に何か傷を負って
地元に戻ってきている友達の3人が舞台を彩る。

主人公は奥さんも居れば、中学生の息子も居るのだが
イマイチ子供にも興味を持ててはいない。
彼らは皆、それなりの人生を積んできた大人達なのだが
昔馴染み同士で見せるやりとりや
田舎特有の閉じられた人間関係も手伝ってか
言動を追っていくに、何処か幼く何処か純真なんだよね。
その昔、誰もが漠然と抱いた大人の姿には到底足りていない気もしてくるんだ。

決して商売も人生も上手くはいっていない中で
淡々と進む世界観は実に身に染みる。
タイトルの「半世界」とはよく言ったもので
40歳という人生における節目年齢を指すようにも見えるし
結局、各々が自分側の世界しか見ていない状態を指すようにも映る。
この年代にして一つ新しく現実を認める事が成長なのか…

途中、テーマを急ぎすぎな展開もあるが
全ての登場人物が綺麗にお話に繋がっていて
現実を感じつつもスマートさも味わえるビターな一本。





『バンテージ・ポイント』 2008年
監:ピート・トラヴィス  主演:デニス・クエイド
★★★★☆

アメリカ大統領を狙った狙撃事件の真相を
残された映像を何度も何度も巻き戻して解明してくお話。

小粒ながら脚本勝ちの映画だね。
多彩で複雑な登場人物と、スピーディーで緊迫のある展開によって
一見すると難しい映画に感じられるのだが
事件そのものはとてもシンプルであり
僅か30分程度での出来事を丹念に何度何度も繰り返し描く構成のために
気付けば誰もが理解できるストーリーとして成立しているのが見事。
順を追って映像を追うだけで
まるで難解な謎解きを自身が成し遂げたかのような
満足感が得られるのだから素晴らしい。
種明かしへの情報の絞り方が完璧で
視聴後これが90分弱の映画だとは信じられない密度がある。

何よりどの人物のどのパートを見ても
実は全てのキーマンがちゃんと映像として映り込んでいるのが面白い。
圧巻の緻密系技術作品だね。





『バンド・ワゴン』 1953年
監:ヴィンセント・ミネリ  主演:フレッド・アステア
★★★★☆

往年の大スターが
若い女と自身のキャリアを変える最高の仕事作り上げ
ついでに恋物語もやってしまう王道仕立ての物語。

ストーリーはシンプルだが
細切れの完成された舞台をいくつも連続で見られる贅沢な一品。
全編通して、一体いくつの芸術装置を作り込んでいるのだろうか。

見所はもちろん歌と踊り。
大スター、フレッド・アステアの踊りは
バレリーナの物と対比されればどこか可笑しげで
確かに、美しさとは違う面白さや楽しさが存在し得るのだと
劇中から自然と伝わってくる説得力が見事。

SHOWは良い物だなと素直に思えるのだから
それだけで良い作品の証拠だね。





『P.S.アイラブユー』 2007年
監:リチャード・ラグラヴェネーズ  主演:ヒラリー・スワンク
★★★★☆

恋人に先立たれ自暴自棄になっていた女の元に
死んだはずの彼から手紙が届く。
謎に思うままその指示に従っていくが……というお話。

あらすじだけではミステリーっぽく見えますが
純度100%のヒューマンドラマです。

全てがカッコいい。
こんな男が居るだろうか。
まず大前提として
「オレが死んでも確実にこの人はオレを愛し続けるから
何とかしてあげないとな」
この確信抜きに一切成立しない行動というのが惚れる。

一歩間違えれば究極の空回り野郎ながら
観客にそんな考えを抱く隙は与えない。
テンポもよく見せ方も多彩で、単純な話なのに飽きる要素はなく
一つの長所を徹底して駆け抜けられるA級作品です。





『ピーナッツ』  2006年
監:内村光良  主演:内村光良、他
★★★☆☆

スランプに陥った中年スポーツライターが
自身の原点となる地元の草野球チームで再生するお話。

「内村プロデュース」というTVバラエティ番組の
延長線企画として成立している作品で
レギュラーの人気芸人がそのまま出演しているのが特徴。
コント映画ではないのだが、大真面目な映画とも言い切れず
皆が皆、半分役者、半分芸人キャラそのままの
個性を残した曖昧さが醸し出す空気が楽しいかな。

そんな人気芸人達が文句の付けようがないくらいの
ド直球なやりすぎ甘すぎイイお話を展開する姿は微笑ましく
あくまで番組ありき、芸人の姿を見るありきで鑑賞するならば
彼らが必死に活躍する姿を見ているだけで元気がもらえるだろう。
誰も不幸にならない田舎中年達の青春物語を堪能できる。

企画物が故にサービス的に登場するゲストキャラが
少々忙しすぎて目には悪いかな。




『ビー・バップ・ハイスクール』  1985年
監:那須博之  主演:仲村トオル、清水宏次朗
★★★☆☆

1980年代のヤンキーブーム漫画を映画化した
対照的な性格の不良コンビがお送りする喧嘩物語。

とっても寒々しい雰囲気はありながらも
実に楽しく笑える作品にはなっているね。
一つの文化をデフォルメして描くのが
ある種の映画の面白さとすればこの映画は良作だよ。
80年代ヤンキーはファッションでやってる面が多々あるので
決してキチガイの集まりではないのだよ。

原作漫画のエピソードをなぞりつつ
中山美穂のためのアイドル映画としての側面もあるので
ヤンキー生活のふざけた楽しさを押し出しながら
ちょっとしたヤサグレ青春映画にもなっている。
その上で、度が過ぎた気合の入ったアクション映画でもある。

人は自身が生まれ育った環境それぞれにおいて
その中で個性を出して、足掻いて、必死になってという物だからね。
人間としての面白さを描く上で
ドラマとなる舞台自体には何の優劣もないわけなのさ。
所謂「不良物」は良い個性の溜まり場。
組織と個性の良いバランスがある。
人間の個性のあるところに良作物語アリ。

本来、冷静で強面のはずのトオル役が、仲村トオルで
明るい馬鹿のはずのヒロシ役が清水宏次朗。
今見ればどう考えても逆で何か間違ってないかと思う面もあるが
これはこれで見事に凸凹コンビが成立してる。

笑って、泣いて、恋して、暴れて、仲間と騒いで……
これが気持ちよければ、一級のエンターテイメントですね。




『ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌』  1986年
監:那須博之  主演:仲村トオル、清水宏次朗
★★★☆☆

トオルとヒロシのツッパリ映画第二段。
完全に同じ製作体制で何本もの作品があると
どれがどれやら混じってしまう。
とりあえず、2作目は「ボンタン狩り」のやつとして覚えておこう。

相変わらず良いね。
本当に独特の文化圏でして
他に類を見ないオンリーワン映画。
ココでしか見られないという意味では、
今回の敵役はキャラクターが凄い。
こんな喋り方、こんな歩き方アリか? と思う傑作。

ただ、やりすぎなんだろうかね。。
彼らは自分達のルールに従うが故にアウトローなのであって
法を犯すこと自体が目的ではないと思う。
この目的と手段の順序は重要で
相手を殺す事が目的なわけでも拷問を楽しむわけでもない。
あくまで自身なりの誇りを守るために必要な事は行うわけで
そのあたり本当のキチガイが出てくると少し空気感が変わるね。
どっちがより相手を殺すまで近づけるかの
チキンレースが見えてしまっているかな。

そんな感じの二作目。
あくまで、デフォルメ作品であって
映画としてはこれまたお馬鹿で面白い。




『ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎行進曲』  1987年
監:那須博之  主演:仲村トオル、清水宏次朗
★★★☆☆

第三段。
ヒロインの中山美穂が退場してしまうのが寂しいが
綺麗な恋愛が遠のいた代わり、ヤンキー物としての色が強くなっている。
ヒロシ&トオルと友好関係にある他高校の番長格が
非常に良いキャラクターとして活きてくる。
特に一作目から登場はしている
北高の前川は知的で女にもてて、下に対する思いやりがあり
他高との友好関係を大事にして、それでいて尊厳は守る。
何だこの理想の上司はという良キャラ。

ここから女との泥臭いヤンキーな付き合いが多くなり
より独自のお馬鹿な人間味が色濃くなる。
敵役が地味な分、主人公寄りの登場人物が面白い三作目。





『ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎狂騒曲』  1987年
監:那須博之  主演:仲村トオル、清水宏次朗
★★★☆☆

第四段。
原作エピソードが豊富で面白いため
何段続けても、全くネタがつきないのが凄い。
前作のノリをさらに強めた良作。

ほとんどメインになっているのは女の話だね。
本当にこいつらは愛すべき馬鹿だな〜と楽しめる。
お互い自身に正直でやりたい放題。
悪意のない気持ちよいクズ連中です。
ちょっとした見栄、悪ふざけ、本気の心配、真の友情。

悪党のインパクトで勝負するわけではなく、
ヒロシ&トオル自身の魅力が最大限に出ている一作ではないだろうか。




『ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎音頭』  1988年
監:那須博之  主演:仲村トオル
★★★☆☆

第五段。
まさかの清水宏次朗が欠席。
主役二人の個性で持っている作品だけにこれは痛い。

得をしたのは立花商業の菊永淳一こと、高橋秀治。
原作でヒロシが担当しているエピソードを綺麗に代役で頂いている。
ただ、脇役も非常に良いキャラクターとして育っているので
これはこれでアリかなという気分になるのは見事。

そして、さらに目立っているのが、
同じ、番長仲間である北高の前川。
この作品は彼の話と言っても良い。
彼とトオルの仲は良いのだが、自分の下の面子を潰されて
組織の長としては対立せざるを得なくなってしまう。
このあたり、個人としての強さと、組織としての面子の
絶妙なバランスがヤンキー物の本領。
この二面性が、ここまで面白く機能する舞台はそうはない。
その実は、下級生からの下克上の陰謀なのがまた素敵。

本当に魅力的なキャラクターの宝庫だろう。





『ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎完結篇』  1988年
監:那須博之  主演:仲村トオル、清水宏次朗
★★★☆☆

完結編。
勢いは落ちていないが
あくまで時代の空気と連動して作る事にパワーが乗るシリーズ。
平成の世になってまでやる事ではなく、良い引き時だろう。
役者もそろそろ高校生というのは無理が出る時期。

お話は最終作に相応しく
ヒロシとトオルの対立という盛り上がらざるを得ない展開。
前作は北高が頑張ったが今回は立花商業が意地を見せて、
主役たちと対立する関係に。

お約束の荒唐無稽な大乱闘バトルも
かつてない程の大規模になり華を添える。
十分にエンターテイメントしてます。
こういう活力に満ちた楽しい空気は大事だよね。
何で、こいつらこんなに元気なんだろうと
微笑ましくなれるシリーズ。





『緋色の街/スカーレット・ストリート』  1945年
監:フリッツ・ラング  主演:エドワード・G・ロビンソン
★★★★☆

絵描きを夢見る平凡な中年サラリーマンが
美女の色香に狂って堕落するお話。

最初は女に溺れた中年男性が壊れる様を描くだけの
退屈な作品にも見えるのだが
途中から物語は二転三転。
結果、間違いを犯した登場人物全員が
確実に不幸を約束されていく
何とも恐ろしい作品に仕上がっている。

皆、何処かで引き返す事はできたはずなのだが
一度その気になってしまった人間とは
こうも冷静な判断が付かない物だろうか。
元々、善良な中年男性を騙す事に乗り気ではなかった女すら
彼が自身に入れ込む姿の気持ち悪さを見る内に
何の遠慮もなくなっていく様は圧巻だね。
女は怖いが男も怖い。

絵の才能については、
少々、都合よく作られ過ぎな感もあるのだが
これこそ真面目にコツコツ生きていれば、
やがて表街道で陽の目を浴びられたかもしれないという
主人公に対する最大の皮肉なのだろう。

メリハリの効いた絵作りと演出が
終始、展開に対する不安を煽ってくれる
良質サスペンスでありながら
何処か人生訓として心に残る物もある。
とっても手広い傑作映画。





『東のエデン 劇場版I The King of Eden』  2009年
監:神山健治  主演:木村良平 
☆☆☆☆

「どんな願いも適う魔法の携帯電話」の存在を軸に
日本を救うため、それを手渡された12人の男女が
各々の信じる道を進んでいくお話。

色々な要素が混じってるね。
ただ、基本的には『卒業』作品かな。
用意された舞台や単語、小道具こそ現代的だが
要は閉塞感、社会の壁、唾棄すべき大人達の存在に憤る若者の古典図式。
あるいは記憶喪失の主人公や、謎の組織やアイテムを用意して
少しづつ情報開示していくという謎物アニメとしての側面だろうか。
どれもが上手く回っていたとは到底言えないが
少女漫画チックなキャラクター達は素敵で
その回、その回ごとの勢いだけは楽しめたTV版だった。

さて今回の劇場版。
真のEDとも、後日譚とも言える位置付けで
まず根本の作風が違うんだね。
キャラクターの言動から面白みが消えてしまって
描くべき対象が既に消失しているのに
強引に話を付け足している単調な映画になっている。
仕掛け切れだろうか。
場当たり的な行動も、稚拙な主義主張も
それが未熟な若者の青春劇だからこそ成立するわけなのだが
その要素を取っ払った中で、大したオチも用意されないまま
同じノリで延々と進まれても困ってしまう。

前編では色々と舞台だけが用意されるのだが
本当にそれだけで違和感に慣れる間もなく終わる90分。




『東のエデン 劇場版II Paradise Lost』  2010年
監:神山健治  主演:木村良平
☆☆☆☆

完結編。
TV版から続く謎には答えてくれるが
果たして無理に答える必要はあったのか。
前編で感じたキャラクターの喪失はそのまま続く。
一応は魅力的だったはずの主人公が
何故、こんなにも平凡な男にならねばいけないのか。
奥を覗けば覗く程に張りぼてが露になる残念な作品。
せっかく作ったキャラクターが全部消えてるよ。

唸るだけの仕掛けを用意してもくれず
ただただ、表面だけ繕った社会問題を垂れ流す。
一体、何が面白いのだろう。
このあたりは興味があるなら学べとしか言い様がない。
結局は毎日毎日の努力だよ。
きっちり文章を読んで実際に体験した知識と擦り合わせて
自己の主張を毎日固める地味な一生の繰り返し。
それ以外の答えなどは無いさ。

作品として見せ方の順序を間違ってしまったんだね。
興味を惹くだけの要素すら用意せずにどうしろと言うのか。
そんな劇場版。





『光の旅人 K-PAX』  2001年
監:イアン・ソフトリー   主演:ケヴィン・スペイシー
★★★★☆

ある日、唐突に駅に現れた人物は
自らをK-PAXという太陽系外の惑星からの旅行者だと主張する。
彼は精神病の患者として収容されるが……

彼は本当に宇宙人だったのか
はたまた少し特異な患者だったのか。
見る側のルールによってどちらとも捉える事ができるという
粋な構成が光る一品。

ある意味で度量が試される映画なのだが
実際、そんな事はどちらでも良いんだろうね。
彼が提示したのはあくまで豊かなる発想のお話。
知らず知らずの内に常識に縛られ
小さく纏まってしまっている我々の価値観に対し
とっても控え目にささやかな一石を投じてくれる。

間違いなく彼の存在は
周囲全てを少しだけ幸せにしてくれたのだ。

落ち着いた画作りから、設定、全体のトーンに至るまで
作品を構成する要素全てが彼のキャラクター性一本に集約される。
結果生まれる誰もが自然と耳を傾けられる嫌味のない説教屋。
何とも見事な傑作ヒューマンドラマだろう。





『彼岸島』  2010年
監:キム・テギュン   主演:石黒英雄 
☆☆☆☆

吸血鬼が蔓延る孤島へと、足を踏み入れてしまった高校生集団が
自らの生き残りを賭けて足掻くお話。

明らかにそういう話になると思われたのだが
主人公以外の没個性っぷりに驚かされる。
冒頭からして相当に強引な渡島であったが
やはり、そんな入り方では本編でも大したドラマは貰えない。
兄弟以外は世界に不要である展開に閉口。
一貫性の無い世界観や唐突な終幕も手伝い
最後まで掴み所の無い映画。

そして、この吸血鬼の造形は根本的に間違っている気がする。
恐怖もなければ、神秘性もなく、醜さとも違う
ただ滑稽なだけの白塗りデザインに
一体、どういう意図を感じれば良いのか。
敵の首魁は変態的なカリスマ性という事なのだろうが
これではあまりに安っぽいよね。

せいぜい、お兄ちゃんのジャパニーズニンジャっぷりを
楽しむだけの一品だろか。
もしくは主人公の現代的なファッションに
腰に一本下げる姿が妙にカッコいい日本刀映画かな。





『引き裂かれたカーテン』  1966年
監:アルフレッド・ヒッチコック   主演:ポール・ニューマン、ジュリー・アンドリュース
★★★☆☆

ミサイル技術に関わる情報を奪取するために
東ドイツに亡命した科学者のお話。

ヒッチコック監督が得意とする殺人事件によるサスペンスや
唐突に巻き込まれた謎を追い求める作品群とも違う
純度100%のスパイ脱出映画だね。

冷戦期の絶妙な空気感は伝わるものの
ドラマ自体の筋立てに特別の意外性はなく
主人公とヒロインのキャラクターも少々テンプレート寄り。
肝心のお宝情報への話の振り方も薄めで
割とあっさりと特別な妨害もなく
短い尺で手に入ってしまうのも拍子抜けかな。

ただ、今作の本番は後半に訪れる国外脱出編だろう。
往年のヒッチコック作品で見られるような
素人目でもわかるようなド派手な映像術こそないのだが
それでも、ジェットコースターのように次から次へと訪れる
ピンチの連続はどれも圧倒的な緊迫感を受ける。
やや淡泊な映画かと思っていて見ていたはずが
気付けばドキドキして手に汗握っているのだからさすがだね。
ただただ、シンプルに質が高いのだろうと感心をしてしまう一品。

なお、ポール・ニューマンとジュディ・アンドリュースのW主演は
当時の大スターを起用してみた以上の意味はなさそう。
全体の完成度がキッチリしすぎているタイプのため
おそらく誰が演じていても楽しめたはずの
仕掛けがメインの映画だろう。





『美女と野獣』  1946年
監:ジャン・コクトー   主演:ジャン・マレー
★★★☆☆

罪を犯した父親を助けるために
人間ならざる野獣の館へと赴いた娘のお話。

後にディズニー映画でも有名になるが
この1946年版の完成度の高さには驚かされるね。

まず、意地の悪い姉たちに虐げられる心優しき末娘という
如何にもなお伽噺や寓話の空気感が心地良い。
そこに特殊効果や撮影を駆使したギミック満載の仕掛けによる
格調高い重厚な演出が合わさる事で
見た目だけでも十分に楽しめる芸術度マックスな一本。

謎の館を取り巻くワンシーンワンシーンが一々美しく
「野獣」登場までの息をのむような
ホラーチックな緊迫感も見事ながら
いざ現れた際の衝撃度も完璧。
ちょっと怖いが心優しそうにも見える彼の存在感は抜群。

お話は本当に身をつまされる寓話。
見た目の醜さと心の問題、他人を信用する事もろもろを
完璧なトータルパッケージで見せてくれる一品。




『左きゝの拳銃』  1958年
監:アーサー・ペン  主演:ポール・ニューマン
★★★☆☆

所謂「ビリー・ザ・キッド」物。
無法の限りを尽くした若きガンマンの生涯を描くお話。

閉塞感が全てだね。
社会から距離を置かれ続けた男が
人間の優しさに触れた瞬間。
そして唯一の優しさを奪われたが故に
歯止めが利かなくなる瞬間。
抑えきれない若さの暴走だろうか。

あまりに荒々しい主人公の人生観に驚かされつつも
どこか画面には切なさが残る丁寧な一本。
彼はもっと優しくなれたはずだよね。





『ビッグ・ガン』  1973年
監:ドゥッチオ・テッサリ  主演:アラン・ドロン
★★★☆☆

マフィアの殺し屋から足を洗おうとした主人公が
組織に妻子を殺され、復讐に駆り立てられるお話。

多彩だけど普通。
水準並のシナリオに、水準並のアクションに
水準並のカーチェイス、水準並のキャラクター。
悪いという事は全くないのだけれど
大筋のストーリーがはっきりした段階から
特に一つも気にかかる所がない。
一人一人ターゲットを追い詰める主人公を眺めるだけだね。
ノワールと言うよりマカロニ西部劇のそれだね。

イタリア/フランス製作の映画という事で
明らかにハリウッドとは違う欧州空気も堪能はできるが
それも飛び抜ける程のインパクトではなく
稀に独特の味やスタイリッシュな演出が楽しめる程度。

せっかくのアラン・ドランに期待するにしろ
この平凡なキャラクターでは
一定以上のスターなら誰がやっても同じではないだろうか。

ラストの展開も含め、退屈はしないが驚きもない安定映画。
アラン・ドロンのファンは満足させられても
アラン・ドロンのファンを新たに生み出す作品ではないと思う。





『ビッグフィッシュ』  2003年
監:ティム・バートン  主演:ユアン・マクレガー
★★★☆☆

幼き頃に聞いた父親の語りを
ふとしたきっかけで思い出すお話。

父親の人生巡りというのは
息子にとっての永遠の課題なのかな。
家では法螺ばかりのどうしようもない父親だったが
果たして家庭外の父親を自分は見た事があるのだろうか。
父親が語っていたファンタジー世界の根っこには
大人になった後では人生の重みを見い出すだろう。
人間の言葉は誰もが自身の体験に基づいているのではかろうか。
完全に男の子向けだね。

ティム・バートンの世界はこの程度で抑えるべきでしょう。
特有のファンタジー映像が脚本の中に綺麗に取り込まれていて
一挙両得な納得度は高い一本。





『必殺仕掛人 梅安蟻地獄』 1973年
監:渡邉祐介   主演:緒形拳
★★☆☆☆

江戸時代に暗躍した密かに悪人を葬りさる
殺し屋組織のお話。

TVシリーズの要素を適当に放り込んだ映画版。
ドラマ版はTV時代劇の大傑作だが
そのノリで尺を倍にしただけの作品では明らかに物足りない。
それどころか、わずか90分程度の映画が長く感じられる。

元が悪い題材ではないので楽しめるが
このキャスト、このスタッフで
何故この程度なのかが残念な一品。
TV版を全話見てまだ食い足りなければどうぞという感じ。





『羊たちの沈黙』 1991年
監:ジョナサン・デミ  主演:アンソニー・ホプキンス、ジョディ・フォスター
★★★★☆

若い女性を殺し、その皮を剥ぐという異常殺事件を追う
FBI訓練生の女主人公と、彼女を通じて捜査協力を求められる
やはり服役中のサイコ殺人犯との奇妙な関係を描くお話。

強烈。
サイコな連続殺人犯を追う主人公の活躍も
緊迫感たっぷりで見応えがあるが
何より何故か彼女を気に入ってしまう
天才型の教授のインパクトが凄まじい。
食人殺人犯という強烈な個性の彼の暴れっぷりが
それに環をかけて見事。
檻に繋がれていながらのあの圧迫感は凄いよね。
言葉巧みに状況を操りいざという時の圧倒的な行動力。

どうもサイコパスを登場させるだけで
観客が勝手に満足すると勘違いしている映画が多い中
これだけエグイ表現を多用しつつも
サスペンスとしてきっちりエンタメを成立させているのは素晴らしい。

常に何かが起こるという期待を強いられる120分。
追い詰められてるのは主人公でも殺人犯でもなく
まず我々です。
何たって彼が怖いのだよ。
あのEDの状況に恐怖するわけだから
気付けばこの世界観にどっぷり嵌っているわけだ。





『ヒッチコック/トリュフォー』 2015年
監:ケント・ジョーンズ    主演:オムニバス
★★★☆☆

映画製作の教科書と呼ばれたインタビュー本
『映画術 ヒッチコック・トリュフォー』の製作話をベースに
実際のインタビュー音声を交えながら
ヒッチコックの偉大さが語られるドキュメンタリー。

現在の名監督が如何に影響を受けたかを興奮気味に語り
実際の映画作品の映像をバンバン取り混ぜつつ
演出方法や映像の芸術性が描かれるのだから
とっても贅沢な解説映画だね。
やはり、実物の映像と連動するだけで納得度が違います。
それ以上は無いんだけど
それだけで十分楽しいコンセプト勝ちの一作。

特に長尺が割かれているのは『めまい』と『サイコ』。
ハリウッド以前の作品の紹介も多いが
基本は『レベッカ』以降の作品だけ知っていれば楽しめる作りになっている。

ヒッチコックの魅力は、数々の映画作品が面白いのはもちろんだが
彼を題材にしたドキュメンタリーや映画作品が
どの時代でも尽きる事がない時点で語るまでもないんだろうな。




『人斬り』 1969年
監:五社英雄   主演:勝新太郎
★★★☆☆

幕末京都、武市半平太に命ぜられるままに京で人を斬った
岡田以蔵の人生を描くお話。

全体を通してのストーリーらしいストーリーは無いのだが
人斬り男の生き様を描いたお話としては
このブツ切りが良いのだろう。
目の前に迫る世界だけを必死に足掻いた男の世界として
十分に納得ができる。

やはり主人公を演じる勝新太郎の存在感が見事。
学も地位もない男の真の自由への渇望が
キャラクター性と自然とリンクして切なく描かれており、
理屈で生きていない岡田以蔵の姿を見事に演じている。

悲哀の物語ではあるのだが
あくまでセンチメンタルな作風ではなく
カッコよさに魅入られる絵作りが延々と続く豪快な作品。
品がよいとは言えない工夫に満ちた演出の数々も
生き様や舞台と自然とマッチしている。

映画会社の枠を超えた豪華キャストもあり
以蔵の流されるままの人生観を描くシンプルな話の割に
退屈を感じる事のないエンタメ作りの一本。





『ひとごろし』 1976年
監:大洲斉   主演:松田優作、丹波哲郎
★★☆☆☆

ある武芸者の上意討ちを命じられた主人公が
腕では適わぬと見て搦め手で追い詰めていくお話。

何とエポックメイキングな主人公像か。
非常に姑息なやり口で、格上の相手を精神的に攻略していく様は
腕っぷしの無い者の逆転の反撃として
ある種、爽快ですらある。
しかし松田優作の存在感が何かと無粋かな。
真面目で腕っぷしの強い武芸者側を
丹波哲郎があまりに完璧に演じているのだが
対比になる主人公もどうも弱者の側には見えてこない。
主人公側の性格、言動がふらふらしていて最後まで落ち着かず
決め台詞である「ひとごろし」と叫ぶシーンのたびに
腰砕けになるのがいただけないかな。

武士道の何たるかを真っ向から否定するような
逃げの許しを見せる作風ではあるのだが
それをどういう人間のつもりで描いてたのだろうか。
大きな体格、強そうな見た目をした人間は
強くなければならないという固定観念すらをも
人間の本質として否定してくれているならば
優しすぎる映画だね。

ただ何かと納得できない冗長な展開な上
不条理物としても成立しない半端さがイマイチかな。




『ヒドラ』 2009年
監:アンドリュー・プレンダーガスト   主演:ジョージ・スタルツ
☆☆☆☆

湖畔に現れたモンスターに襲われるお話。

安パニック物を集団で笑い飛ばす目的で見たはずが
想像のさらに上をいかれて、思わず内輪の伝説になっちゃう駄目映画。
一見すれば意外と気合が入った作りなだけに
何処までが狙い通りで、どこからがマジメに作ろうとして足りてないかの
線引きが非常に難しいのがミソ。

カットが変わると明らかに持っているはずの小道具が違っているあたり
編集の雑さに触れてしまうのだが、
その雑さは本当か? と唸らせられる。
映画としての楽しみは無理だね。





『陽のあたる場所』 1951年
監:ジョージ・スティーヴンス  主演:モンゴメリー・クリフト、エリザベス・テイラー
★★★★☆

二人の女性と同時に関係を持ち
立身の側を選んだ男が破滅してくお話。

もし限りなく黒に近いグレーが居たとすれば
それは白くはないことを理由に罪を背負わされることが多いだろう。
そういう社会問題を抱えている作品ではあるね。

ただ、基本は不誠実な事をやってきた人間が
巡り巡って運命からも社会からも神様からも
不誠実に扱われるという因果応報の物語かな。

しかし馬鹿すぎる男の軽率な行動を追う犯罪劇でありながら
気付けば彼のキャラクターに相応に入れ込んでいるから見事なもんだ。
観客誰しも陽のあたらない場所から抜け出したい野心は判るだろうし
彼の心に愛が無かったわけでないことも十分に判ってしまう。
その点で彼の存在には全く嘘は無い。

構成としては最初の女に人間的に入れ込む余地が無い時系列が巧いね。
それによって、長く見守る主人公側の悩みや表情の変遷に
ついつい同情と共感を持ってしまうのが味噌だろう。

いつ終わっても三流サスペンスで締まるはずの物語を
最後まで徹底してやりきった事によって、
ちょっとクオリティの違った一本に仕上がっているのが素晴らしい。





『緋牡丹博徒』 1968年
監:山下耕作  主演:藤純子
★★★☆☆

父親の仇を追いヤクザな世界に身をやつした
女渡世人の物語。

富司純子が扮する女主人公のキャラクターが全てだね。
開始10分でとんとん拍子に登場人物が揃い
主人公の不幸な生い立ちトークまで全て飛び出す超特急映画。

あとは、ベッタベタの良シーンの連発に手を叩くわけだが
任侠映画で目にするお馴染みの面子が
ほとんど総出で主人公を助けてくれる感じが
何とも微笑ましい一本かな。
特に、かつて中村錦之助がやったように
今度は高倉健が新たなスターが誕生するシリーズ一作目の立ち上げに
華を添えているのが素晴らしい。

敢えて品質を上げすぎない狙われた娯楽任侠作で
ほぼ、山下耕作監督のセルフパロディのような映画だが
女主人公でスター任侠映画をやるというアイディアが秀逸で
全ての突っ込みどころが
緋牡丹お竜の美しさで帳消しになってしまう一本。




『ひまわり』 1970年
監:ヴィットリオ・デ・シーカ  主演:マルチェロ・マストロヤンニ、ソフィア・ローレン
★★★☆☆

戦争によって引き裂かれた夫婦が辿った後日譚。
悲恋の物語。

情緒溢れるとはこの事だろうかね。
まず、冒頭の画面一杯に溢れんばかりの
ひまわり畑の映像にノックアウト。
こんな画があって良いのかね。
そして前半戦、二人のラブラブっぷりの数々と
ご馳走様としか言えないシチュエーションの連続には
甘すぎて吐き気が出る人続出だろう。

しかし、物語は甘いままでは進めない。
必死に足掻も空しく引き裂かれ
一度は死を覚悟した夫と、既に過去には戻れないことを覚悟した妻。
二人の愛は不変だったかもしれないが
時間、そして現実までもが
それに合わせて止まってくれるわけもなし。

とにかく、哀愁溢れるBGMを筆頭にした情緒の一本だろう。
悲恋も戦争も全てが物悲しく
何を考えるでもなく先に心を持っていかれてしまう。
メロドラマと言えばそれまでながら
見事な芸術魅力に満ちた一品。




『ヒミズ』 2012年
監:園子温  主演:染谷将太、二階堂ふみ
★★★☆☆

両親からの愛情を全く受けずに育った
ドン底環境の少年が自らの存在価値を探すお話。

テーマを先行させたいがあまり
映画としての密度や説得力に拘る事を忘れた作品は
どうしても空回りな退屈物になるのが常であろうが
この映画はその領域に片足まで突っ込んでいながらも
気付けば画面に最後まで引き込まれているパワーがある。
"先行"と言う枠を貼るかに超えて、
もはやテーマ以外は一切描く気はないと開き直った姿勢が
直接伝わってくるからだろうか。

展開は間違いなく粗く安く
キャラクターも突飛な不幸自慢しか居ないように見える。
しかし、主人公二人の熱演はその全てを許す。
現実に迫る最悪環境から逃げるかのように
ひたすら内面へと意識を拡大させていく中学生の姿の
何と辛くまた滑稽なことか。
一般社会から隔絶したと思い込む主人公が
逆に「社会のため」に拘り続け暴走する不思議さと
「痛い」という言葉が持つあらゆる意味を
地で表現し続ける男女二人の圧倒的存在感は見事。

しかし、最低な環境を作る物は
あくまで人間自身である事も忘れたくはないよね。
必ずしも、環境が環境を作るだけではあるまい。
バックボーンに2011年の震災を絡めた意味も
いまいちド直球のテーマと比べればちぐはぐ感が残る。
「存在したい!」という強烈な意思は伝わるものの
傑作にはなり損ねた一本かな。




『白夜行』 2011年
監:深川栄洋  主演:堀北真希、高良健吾、船越英一郎 
★★★★☆

幼き頃にある事件を共有した二人の男女と
自らの人生をかけ、その事件を追い続ける一人の刑事の物語。

2時間で綺麗に纏まったもんだね。
1980年代のノスタルジー要素を多分に混ぜ
二人の成長と犯罪人生を歴史大河的に追い続けたのが原作。
あくまで二人の切なくも悲しい関係性を
男女としての病的なまでに強い絆で描き続けたのがドラマ版。
対して、この映画版が描く世界はとにかく不気味。
少女が作る嘘だらけの生活によって醸し出される、
常時、何かが胸につっかえているような不快感が素敵だね。
そんな犯罪者達の存在に如何にして到達するか
世間が気付いてあげられるか。
あくまで刑事側を主人公として展開するサスペンス映画だろう。

しかし、この男女が作り上げた世界は見事に完結しているね。
結局、劇中から伺い得る限りでは
二人は一度たりとも直接は会ってすらいないよね。
どれほど周囲に愛されようと、世間が手を伸ばそうと
もはや彼らにとっては手遅れというわけか。
何人であろうとも決して入り込めない二人だけの閉じた人生。
あまりと言えば、あまりではないか。
悲しいを通り越え苦しくすらなってくる。
本当に君はそれで良いのか、亮二クンよ。

自身の充足を満たすためだけに
数多人間を不幸のどん底に陥れた彼らには
一片の同情すら持つ気はないが
だからと言って、彼らに一体どんな説教ができようか。
そのもどかしさが全てだね。
船越英一郎が演じる刑事さんの存在感こそ
まさに観客の体言だったのだろう。

しっかし、レイプ万能主義には困ったもんだなー
そんな傑作映画。




『ヒューゴの不思議な発明』 2011年
監:マーティン・スコセッシ  主演:ベン・キングズレー、エイサ・バターフィールド
★★★☆☆

1930年代のフランスを舞台に
機械作りに亡き父親との絆を求め続ける少年が
SF映画の祖と言われたジョルジュ・メリエスと出会うお話。

映像映画。
圧倒的な映像美。
ファンタジー感溢れるパリの街並み
駅構内の設計、時計塔の造形、機械装置の数々…
ややダークな世界観で際立つ、これらの遊び心が素晴らしい。

少年と父親の絆も、少女と少年の愛情も
メリエスが抱えていた悲劇も
一通りのドラマとして完成度は高く
決して退屈はしないのだが
あくまで主題にはなりきれていないだろう。

何と言っても「映画」という存在自体への敬意
ジョルジュ・メリエスの情熱とアイディア
在りし日への憧憬、オマージュ心に溢れた作品。
物作りの楽しさこそが主題で間違い無し。

自身が芸術的な映像作品であるからこそ伝わる
説得力に満ちた映像愛に満ちた一本。





『ビューティフル・マインド』 2001年
監:ロン・ハワード  主演:ラッセル・クロウ
★★☆☆☆

人付き合いが苦手な天才数学者が
実社会への不満から次第に精神を病んでいくお話。

どうしようもない馬鹿だな。
天才なんだけど、馬鹿。
つまりは数学よりも人間の精神の方がより難解で格上か。
当然なんだがね。

映画としての仕掛けが何もないお話。
例によって、精神を病んだ人間が大好きな方々向けの
よくある映画ではないだろうか。
夢だの幻だの個人の内側を延々と見せられて
人間同士が作り出す心の面白い部分が全く出てこない。
あくまで周囲の側が、その理由や、彼らの精神世界がどうなっているのか
知識欲の面から気になって仕方が無いわけだよね。
それもまた人間の業だろうかね。
ただ彼らは別に見世物ではないのだから
映画にして面白いわけがないのだよ。

何故、キチガイがメインになる作品には
練り込まれたシナリオの物がないのだろうか。
不思議。
冒頭、敬意の証としてペンを受け取る教授を目撃するシーンと
彼自身がその対象になる最後への繋がりが
果たして何かあっただろうか。
彼はその間、何をしたのか、何が変わったのか、どう成長したのか。
何度考えても薄い映画になってしまう。






『病院坂の首縊りの家』 1979年
監:市川崑  主演:石坂浩二
★★★☆☆

名家に縁のある廃屋で引き起こされた
生首事件を金田一耕助が解決するお話。

角川映画、市川崑監督シリーズの第五弾にして最終作。

これは難しい原作をもってきたね。
次第に明かされていく登場人物の関係性が
あまりにも入り組んでいて
あの家系図を一度に理解しきるのは不可能だろうさ。
劇中に思わず「わかりました?」という台詞が出てくるのもご愛敬。
よくぞココまで練り込んだと思えるドロドロの血縁関係は見事だけど
映像化はチャレンジングに過ぎる。

映画としてもやや淡々とした時間が長く
前作までにあった死亡演出による衝撃を狙う作品でもないよね。
むしろ、肝は人間が持つ愛情による罪深さか。

複雑怪奇なストーリー展開なだけに
終盤の種明かし編のカタルシスは上々。
怨念めいた生い立ちによって引き起こされた
不幸で偶発性までをも含めた絡み合いが
圧巻の語りと回想シーンで見事に纏め上げられる。
前半100分のダレを全て帳消しにする
哀愁たっぷりの怒涛のエンディングに乞うご期待。

都会が舞台のJAZZ音楽をベースにした世界観からも
既存の映画化シリーズとは一線を画す作りで
『犬神家』の流れを期待して見る作品ではないが
敢えてマンネリを外した最終作と思えば綺麗な良作。





『評決』 1982年
監:シドニー・ルメット  主演:ポール・ニューマン
★★★★☆

落ちぶれたアル中の弁護士が
再び正義に挑む様を描く裁判物。

ヒーロー物である事は間違いないのだが
何とも厳しい映画だね。
社会において正しい事を成そうとすれば
誰であろうとその分のコストは払う事になるだろう。

今作における登場人物は皆
ある程度、妥協の選択肢を持っている。
決して極端な立場に立たされているわけではない。
それ故に、良しとする自分、しなければならないと考える自分と
本当に望む理想の姿で葛藤する様にリアリティがある。

主人公の弁護士、依頼人、ヒロイン女、証言者……
皆、豊かで安全な人生を望む権利を持ち
たった一つの事に蓋をすれば確実に良い日常が手に入る。
この現実を嫌と言う程に見せられるからこそ
最終的な判断に血の通った重さがある。

失う物の重さまでを十分に量りにかけた
絵空事でない正しい行動に人間の勇気を見出す賛歌だね。
綺麗な話で纏まる作品ではあるが
これはそうあって欲しいと願う善意の一本だろう。





『昼下りの決斗』 1962年
監:サム・ペキンパー  主演:ジョエル・マクリー、ランドルフ・スコット
★★★☆☆

金山からの輸送護衛を依頼された元保安官の老人が
かつての仲間、助手の若者、道中で道連れとなる女性らと
山間を往復する旅の話。

不思議な雰囲気だよね。
金の護衛を依頼された割には
別に大掛かりな襲撃があるわけでもなし。
全ての問題は自分達の中から引き起こされるという
一風変わった展開が面白い。

自身の人生を問い続ける対照的な二人の老人の姿であり
若さに溢れた純粋な青年であり、恋に恋する少女とも言える女性であり
そんな彼らが必死に足掻いた結果なのだから
これは誰の立場も受け入れざるを得ないだろうね。
誰が悪いと言えば、全員が悪い事は明白で
もっと上手くやれただろうと思わず叫びたくなりつつも
それが人間らしさかなとも、ついつい思ってしまう職人技。

あくまで地味な事を承知で楽しむ
落ち着いた一品だろうか。





『昼下りの情事』 1957年
監:ビリー・ワイルダー  主演:ゲーリー・クーパー、オードリー・ヘプバーン
★★★★★

稀代のプレイボーイとして名を馳せるアメリカ人実業家と
彼の調査を請け負った探偵の一人娘とが繰り広げる
何とも優雅なラブストーリー。

オシャレだね。
こういう女性に小悪魔なんて言葉を使ったりするのだろうか。
主に不倫調査という父親の仕事を盗み見てきた
少女が繰り広げるエピソードに富んだ男性遍歴詐称に
いい年した歴戦の勇者が振り回される姿は実に素敵。

これは大人で知的で冷静であろうとする
人間の行動への賛歌だよね。
どんなに惚れていてもあくまで相手本位。
相手の都合と事情を尊重し合う余裕と自己犠牲。
話だけを聞けば、二人ともとんだ最低野郎でしかないはずが
実際に触れ合う姿を見れば何と微笑ましい事か。
恋愛において人はこんなに優しくなれるのか。

相手の全てを知りすぎているが故に
極限まで謙遜した求愛行動にしか映れない女性。
相手の正体を知らなすぎるが故に
嫉妬と猜疑に包まれるも決して感情的な態度を表に出さない男性。
そして娘の幸せを強く願いつつも
彼女が惚れた男への礼儀を忘れない父親の真摯さだよね。
どうしようもないメロドラマでありながら、彼らの振る舞いはあまりに美しい。

それを彩るのはあくまで小粋な職人芸。
脇役でありちょっとした小道具であり
コメディタッチの描写の連続であり
上記のような恋愛模様を軸にしながらも
その描き方は実に軽妙。
画面の端々にまで行き渡った贅沢なサービスの数々に
時間を忘れて笑い転げられる大傑作。

しかし原題の『Love in the Afternoon』を
『昼下がりの情事』と訳すハイセンスには脱帽だね。
劇中、中身を見ればこれ以外は無い。
芸術的な日本語回しと言えようか。





『ヒンデンブルグ』 1975年
監:ロバート・ワイズ  主演:ジョージ・C・スコット
★★★☆☆

1937年にアメリカで発生した歴史的な飛行船火災を
反ナチ勢力による爆破工作が原因であるとの設定で描くお話。

飛行船時代に終わりを告げたとまで言われる
ドイツのヒンデンブルク号事件だね。
これを圧巻の特撮技術と豪華セット(?)で再現してみせた
スケール抜群の超大作。

大西洋航行自体の安全を脅かす空の自然脅威と
内部で進む爆破テロ計画の犯罪脅威が綺麗な二重奏になっており
目にも心にも適度な緊張感をもたらしてくれる良作なのだが
あくまで、淡々とした重厚な作風かな。

多彩で魅力的な人物が登場しながらも
取り立てて絡み合うドラマが用意されるわけではなく
サスペンスとしては消化不良。
各人の個性を追おうと整理している内には
もう物語自体が終わってしまうだろう。

かの有名な火災事故がテロであったという
大胆な大嘘とも言える仮説を持ち込んでいる割には
エンターテイメント要素があまりにも希薄な気がする。
ドキュメンタリーでもあるまいに実直すぎはしないだろうか。

どちらかと言えば、テロ調査を任じられたドイツ空軍大佐や
飛行船旅行を行うようなハイソサエティ住人達による
当時のナチス政権との微妙な距離感がポイントなのかな。
二次大戦のぎりぎり手前、アメリカとドイツの間で
飛行船での一般旅客の行き来がまだ成立していた時代の
絶妙なキナ臭い空気の方を楽しむ作品だろうか。
ただこれも雰囲気作りとしては良いのだが
やはり地味さは拭えない。

それでも、爆発事故が起こることは誰もが知っているため
いざその瞬間を最大のクライマックスとして待ち焦がれるという
タイタニック的なカタルシスだけは約束されているよね。

これは1937年事故であるが故に、実際の火災映像が残っているんだ。
21世紀以降の超大作映画であれば
精巧なCGで現実を映画に再現する方向になるのだろうが
1975年公開の今作では発想がまるで違う。

まず爆発と同時に、優雅な飛行船の舞台が突如地獄と化した様を
突然の映像のモノクロ化と低解像度化によって表現する。
この人間味が一瞬で消失したかのような荒々しさは見事なもので
明らかに世界が変わったことが目で理解できてしまうんだね。

ここで映画側が古い映像になったことを利用して
今度は本物の火災事故映像をそのまま編集して差し込んで
まるで映画として撮ったフィルムかのように
普通にストーリーを進めてしまうというウルトラCですよ。
このテクニカルさは中々に面白く
当たり前の大迫力の元に、この事件の悲惨さを間違いなく伝えてくれる。

色々と巧い。
一定の保証はある良作、佳作という言葉がぴったりの一品。





『ファーゴ』 1996年
監:ジョエル・コーエン(コーエン兄弟)  主演:ウィリアム・H・メイシー
★★☆☆☆

義父の財産を簒奪するために
自らの妻を狂言誘拐にかけようと企んだ男と
それに巻き込まれた面々の最低の物語。

本当に救いようが無い程に駄目な連中だね。
事を企んだ主人公の浅ましさもあるが
何より目につくのは、誘拐を依頼された実行犯二人組の
無軌道な暴力衝動だろうか。
そして、その行動のあまりの迂闊さ。
一般人はこういった犯罪を実行する時になれば
自分なりに細心の注意を払うものだが
彼らはあまりにも無頓着で、破滅するのは自業自得。
しかし破滅するならするで
誰も巻き込まずに死ねば良いだろうに、
実際には何人もの罪もない犠牲者を出してしまう。
ただただ不幸に落ちるだけの映画なんだよ。

仕掛けられたストーリーは存在せず
狂言誘拐に何らかのオチがつくでもなく
彼らが、どういった人物像だったさえ
結局、明確に把握する事もできないだろう。
ある意味では洗練された映像演出の元で
淡々とクソ人間が繰り広げる理性の欠片もない行動の結果を
見守るだけという不思議な一品。

ただ、そんな連中でも所詮は「人間」ではあるんだよね。
ミスもすれば死ぬ時もあっさりしたもんだし
確かに生きた存在ではあると認めざるを得ないのがポイントかな。
終盤にの女署長が口にする説教。
「人の命はそこそこ重いんだけどなー」という
5歳の子供に聞かせるような何の捻りもない一言が
逆に極限まで無駄を殺ぎ落した一本のテーマかのように綺麗に染みる。

退屈な映画である事は間違いないながら
探せば見られる場所も見つかるだろう作品だろうか。






『ファイ 悪魔に育てられた少年 』 2013年
監:チャン・ジュヌァン  主演:ヨ・ジング
★★★☆☆

幼き頃に誘拐され、凶悪犯罪者集団に育てられた
高校生(位の)少年が抱える苦悩のお話。

少年性の塊のような映画だね。
犯罪エリートとして育てられたイケメン高校生という
妄想設定から凄まじいが
その中身は母性に餓えながら父親を乗り越えていく王道中の王道話。
加えて、彼が繰り広げるアクションは
ピッキングに、スナイパーライフルに、ナイフ術に、カーチェイスにと
子供心をくすぐる要素てんこもりで
恥ずかしくないのかと問いたくなるレベルの
スーパーエンターテイメント映画に仕上がっている。

また、父親代わりの犯罪者面子の個性も素晴らしく
特に彼らのボスが見せるサドっぷりが最高だね。
ここまでやらせるかと溜息をつきたくなる程の
イケメン少年に対する追い込みが堪能できる。
キム・ユンソクの名人芸に惚れてしまう。

双方共に愛情はあったのだろうが
少年側が主人公である限りは
悲しいかな父子は対立はせざるを得ないわけだよ。

結果、少年の手は汚れてしまうのだが
その心までが悪魔になったかは判らない。
あくまで抽象的なまま終劇を迎え
ヒーロー映画としてはこのボカシが味になるのだろう。

韓国映画お得意のサスペンスのようであり
少年向けのファッション映画でもあり
大作アクションエタンターテイメントでもある。
シンプルながらも、実に贅沢な作りに拍手で
この題材、この展開でありながら
チープになりすぎない点はさすがの一言。





『ファイナル・デスティネーション』 2000年
監:ジェームズ・ウォン  主演:デヴォン・サワ
★★★☆☆

僅かな偶然によって飛行機事故から逃れた6人の若者が
その代償と言わんばかりに命を落としていくサスペンス。

全編、突っ込みドコロ満載な展開と
登場人物の安っぽい言動なのだが
そこまで気持ちが萎えないのは
テンポの良さと映像演出の面白さかだろうか。

風が吹けば桶屋が儲かるシステムで
一見して何の関連性もない事象が重なり
次々と仕掛けが起動して事故死に至る過程が
映像的に実に馬鹿馬鹿しくて素晴らしい。
単調なストーリーを垂れ流しつつも、
この一点において、一々次の展開にワクワクさせられるのは
まさに発想アイディアの勝利。
本来、避けられる死なら避けたいと願うのは観客も一緒なのだが
彼らに申し訳ないと思いつつも、気付けば次の死に方を期待してしまう。

何処かで見た事があると思ったら
これはピタゴラスイッチだね。
まさに、悪趣味ピタゴラスイッチ。

登場人物が全員ティーンエイジャーなのも良いね。
約束された死の運命論などという物を
思わず本気で信じてしまう若い危うさが
世界観にきっちり投影されている。

90分超の尺でシンプルに仕上げた一品。
さほど映像としてのグロテスクな表現はないが
発想の時点で十分に悪趣味なのが技ありなB級ホラー映画。






『ファイナルファンタジー』 2001年
監:坂口博信  主演:アル・ライナー
★★☆☆☆

ファイナルファンタジーという題名に特に意味はない作品。

SF風味の異惑星におけるモンスターアクション映画で
何か盛り上がりがあるわけでもなく淡々と話は進む。
キャラクターも見終わって一日経てば
もう忘れているだろうという程度の何処にでもある薄味。
良いも悪いも印象に残らないと言うのが全て。

唯一の見所は、全編CG製作という点で
確かに表情の豊かさや、人間らしい動きにここまで拘った作品は
当時としては珍しい部類に入るのだが
それで描き出せた映像もアクション映画としては稚拙すぎて
退屈なカットとテンポの繰り返しで見ていて辛い。

ノウハウの無いSFジャンルで勝負しようとせず
もう少しファイナルファンタジーらしい
コンセプトで作られていればと思う大作CG映画。





『ファニー・ガール』 1968年
監:ウィリアム・ワイラー  主演:バーブラ・ストライサンド
★★★☆☆

ブロードウェイの人気喜劇女優を主人公に
彼女のサクセスと、恋愛、結婚生活を追うお話。

女優としての話がメインかと思わせて
実は男との関係性を描く映画になるのは面白い。
この二人が本当に良い人なのだよ。
互いが相手の事を尊重しすぎるが故に
過大評価で擦れ違いが起きるというウルトラC。
プレイボーイのギャンブラー男は
彼女にとって、出会いがあまりにも大人の男性にすぎた。
彼は自分で何でもできる、余裕のある人間だと思い込んでいる。
逆に男から見た主人公は、ブロードウェイのトップスターで
彼女の影に隠れる自分が貧弱すぎる事に悩む。
誇り高い男なのさ。
互いに自分の方が悪い、自分の方が悪いと、
一人で問題を抱え込んで噛み合わない姿は切ない。

それ以外は、本当に普通のお話だね。
ただの成功を約束された女優の人生話。
ミュージカル風なシーンがいくつかあるが
それも良くも悪くも印象に残らない添え物で
150分オーバーと長めの割には特徴は薄い一品。
あらゆる方面で水準並は保証されたプロによる佳作だろか。





『ファンタジア』 1940年
監:ベン・シャープスティーン  主演:ディームズ・テーラー
★★★★☆

ディズニーによる謎映画。

これは、今で言う「PV」だよね。
あくまで主題はオーケストラ楽曲であり
そこに名曲の数々に想像力を掻き立てられた
ディズニーの変態的なアニメーションが載せられる。
映像の方向性は楽曲により多種多様で
決して現在考えられるような「アニメ」の範疇にはとどまらない
自由自在な表現手法に酔いしれる一品。
120分の映画一つで、何種もの独自の世界観が提示され
そのどれもが突き詰めれば一本の映画になり得るような
見事なファンタジー世界と言うだから贅沢だろう。

ただ、あくまで楽曲自体が持つ以上のストーリーは
アニメーションによっても語られないため
誰しもが退屈という感想は抱く映画でもあるかな。
淡々とアートを見せ付けられるだけだからね。
それでも同時に自分は凄い物を見ているなという満足感も
不思議と得られてしまうまさに反則的な芸術作品。

どれだけの手間とお金、そしてイマジネーションをつぎ込めば
こんな作品ができるのかと唸らされる事だけは間違い無し。





『フィールド・オブ・ドリームス』 1989年
監:フィル・アルデン・ロビンソン  主演:ケヴィン・コスナー
★★★★☆

農場経営を始めたばかりの若い男が
ある日、自身の中に啓示とも言える声を聞く。
彼は手始めに農場に中に野球場を作り出し
次々と周囲の理解の得られない行動を取り続ける。

不思議な映画だよね。
途中まで全くテーマもわからないままに
現実か空想かも定かではない世界観に振り回される。
ところが最後の最後には綺麗に一本の線で全てが紡がれる。
不思議だが見事。

しかし、これ程にアメリカンな夢のあるお話はないだろう。
野球、野球、野球。
娘と嫁さんが居る身でありながら
「若い内に納得できる行動を取りたい」と言い出す姿も中々だが
それを認めて後押しする嫁さんも中々。
発展するのは古き良き親父世代の野球世界であり
自身の抱える1960年代への郷愁であり
時代を超えた人生の夢であり
もちろん父と子の物語であり
家族への愛でもある。

馬鹿馬鹿しいお話と思いつつも
その純粋な美しさには文化を超えて
思わず感じ入ってしまう良作。




『フィラデルフィア物語』 1940年
監:ジョージ・キューカー  主演:キャサリン・ヘプバーン、ケイリー・グラント、ジェームズ・スチュワート
★★★★☆

二度目の結婚式を翌日に控えた上流階級の我儘娘の前に
別れた夫とゴシップ誌の記者が揃って乗り込み
喧嘩に、説教に、ロマンスにと大暴れするお話。

酷いな。
こんなお話が許されるのかい。
勝手にあらゆる映画を凌駕する
「ビッチ女大賞」作品の称号を捧げさせてもらおう。

自身を女神かのように思っている傲慢女だと
結婚式直前になって、前の夫から、実の父親から
挙句の果てには、見ず知らずの他人からと
ありとあらゆる男から総攻撃を喰らう姿は圧巻。
最初こそこれには同情の念も浮かびもするが
要はこの結婚は上手くないんだなと
観客が感じ始めたあたりから風向きが変わる。

新郎役の男から感じられる小物臭が
彼女の言動の裏付けなのだろうか。
結局、あれだけ酔っ払って
一晩だけの錯覚の恋が始まってしまうあたり
彼女も心の底では本気ではない事の証明だろう。
男も女も呆れ果てて物も言えないけどね。
一晩明けての彼女の言動がまた凄い。
悔やんだり怒ったり、呆れたり
二転三転、最後には酷い言いがかりだよ。

しかし、それが面白いんだから不思議だね。
延々とハイテンポな攻撃の応酬に終始する作品ながら
この掛け合いが実に小気味良い。
キャサリン・ヘプバーン、ケイリー・グラント、ジェームズ・スチュワート。
若かりし頃の彼らの生き生きとした動き。
本当に馬鹿で最低な連中だなと
呆れ果てながらもついつい引き込まれているのは
あらゆる見せ方の上手さなんだろね。
作り手の職人芸を思い知る良作かな。

ただし、思い出すだけでも酷ぇ話。
冷静に彼女の変遷を整理していくとやはり凄まじい。
これは保証しておく。





『風雲児 織田信長』 1959年
監:河野寿一  主演:中村錦之助
★★★☆☆

父信秀の葬儀から桶狭間の戦いまでの
若き信長の姿を描いた映画。

山岡荘八の原作をベースに
どこかで聞いた事があるエピソードが
そのまんま再現されている信長物。
ただし、省く箇所は省きつつ
あくまでダイナミックな勢いを失わないよう
豪華な絵作りが優先された映画らしい一品かな。

後年、あまりに多作品で描かれすぎているままのエピソードや
典型的な信長像のため
退屈に過ぎる作品ではあろうが
視点を変えれば、この作品を最初に見たならば
同様のエピソードを描く媒体は全て不要と言える程の完成度。

山岡荘八が創作した若き信長像を
時代劇全盛の東映がシンプルに纏めきった良作。





『風林火山』 1969年
監:稲垣浩  主演:三船敏郎
★★★★☆

軍師として自らを売り込む山本勘助と
その主君となる武田晴信とのお話。

まさに日本の超大作史劇。
これを求めていたんだよ。
1950年代アメリカにおける史劇映画のスケールを見るに
何故、邦画はこれができないのかという問いへの答え。
条件が噛み合えば可能だったようです。
これだけお金と手間をかけてくれた映像は見ないと損。

中身は、無骨で猛々しい勘助役の三船敏郎と
若さと才気溢れる晴信役の萬屋錦之介という
異色のコンビの魅力で勝ったも同然。
大スケールの美術も、セットもロケも、大人数による撮影も
物語に芯が通ってないと意味がない。
元々が面白い原作のお話を
この二人の熱演が格調高く引っ張ってくれて
最後まで全く緊張感が解かれる事がない。
綺麗に噛み合った超大作程、見ていて爽快な物はないね。

あと石原裕次郎がオイシイ。
一応、カメオ出演の範疇なんだろうけど
説得力のある登場で重みが凄いね。
スター共演映画としての格を一個上げる良いサポートだ。






『Fate/stay night Unlimited Blade Works』 2010年
監:山口祐司  主演:杉山紀彰
★★★☆☆

手にした者の願いを適えると言われる
強大な聖杯の力を巡って巻き起こる
ファンタジー対戦映画。

こんな世界観でよいのか。
展開のジェットコースター観こそ
映画として間違ってはいないだろうが、
せっかくの「聖杯戦争」という舞台があまりにも薄い。
関係者は知り合いばかり、参加者は唐突なきっかけばかり。
流れるかのように用意される都合の良すぎる舞台では
まるで、子供の内輪遊びで終わっているかのように映ってしまう。
安っぽさに直結するここを省いたら駄目じゃないのかな。

主人公の目指す世界、心のお話としては
とっても若々しくかつ美しい物なのだが
一人の心の成長と、未来への確信で済ませるにしては
無駄に舞台が大きすぎて、相対的にはイマイチな位置付け。
一夏の高校時代の思い出として作られたならば
さぞかし、爽やかな青春映画の印象を与えてくれただろうが
どうも世界観としてはそーでもない。
独り善がりな自己完結な人物像だけでは
決して人間味を楽しむという域には至れまい。

ただし、アニメ的には完璧。
テンポ、ケレン味、戦闘描写、啖呵の爽快さ。
また参加者と契約するサーヴァントと呼ばれる個々のパートナーは
皆が皆、デザイン面からも、戦闘スタイルからも
その生い立ち、設定からしても見事なまでに個性的。
彼らの自由気ままな振る舞いは
マスター側とは対照的に世界に華を与えてくれる。

あくまで半端で終わっている装飾部分には目をつむり
100分程度でさらっと楽しめる。
エンターテイメントアニメ映画かな。




『47RONIN』 2013年
監:カール・リンシュ   主演:キアヌ・リーブス
★★★☆☆

赤穂浪士の物語をモチーフにした
ファンタジーアクション映画。

日本だか中国だかわからない
西洋人が思うアジアの雑多な妄想世界観を
一々、ハリウッド大作ならではの
高クオリティで再現してくるのが何とも贅沢で笑える一品。
キアヌー・リーヴスが見せる謎の浪人姿だけで
十分に最後まで持つのではないか。

却って、そんなオリエンタル映像作品だからこそ
赤穂浪士が舞台や時代を選ばない不変の物語である事を
際立たせているのだから面白いね。
皆が主君の仇を討つために苦難を耐え忍び
死を恐れず一つの目的を果たす。
このストーリーテーリングはそれだけで十分に熱い。

邦画で言えば、角川の『里見八犬伝』に近く
真田広之が主演級である点もその空気に拍車をかけている。

100分程度でシンプルに纏めた判断は良いが
『47RONIN』と言いつつ、実質、5人程度で回している物語では
さすがに物足りないかな。
もう少し主人公以外にスポットライトが当たっても良いはず。





『フォレスト・ガンプ/一期一会』 1994年
監:ロバート・ゼメキス  主演:トム・ハンクス
★★★☆☆

軽度の知的障害を持つ主人公が
バスの待合ベンチで相席者に延々と一人語り続ける
激動の半生のお話。

淡々としていながらも実に軽妙。
重い人生の割には微笑ましい可笑しさがある不思議な世界観。
全ては主人公のキャラクターに拠るものだろう。
彼の憎めない語り口調と、何者をも恨まない人生観が可能にする一級芸なのだが
言われるがままに時代に流されてきた無知のアメリカ人像が
軍隊においても経営者としても大いに成功する様には
何とも心地の悪い違和感も見え隠れするね。

これは時代時代のアメリカ風俗小ネタを多彩に織り交ぜていく
ノスタルジーを刺激する映画なのかな。
過去を美化もしなければ嫌いもしないという
主人公の真摯な姿勢にかかれば
どんなハードな思い出すらも淡々と受け入れられる気分になっていく。
ある種、理想のアメリカとして捉えられてきた世界を
恥じらいもなく体現した作品だろうか。

それにしても大統領が撃たれ過ぎだよこの国は。




『福沢諭吉』 1991年
監:澤井信一郎  主演:柴田恭兵
★★☆☆☆

福沢諭吉の幼少時代から戊辰戦争期までの
前半生を伝記的に綴ったお話。

淡々としすぎているのかな。
子供向けの偉人本を読み聞かされているような退屈さが気になる。
福沢諭吉の面白さは
あの時代、あそこまでの進歩的な考えに至るだけの際どさ
突き抜けた激しさこそではないだろうか。
圧倒的な人類に対する厳しさがあればこそ。
それあっての学問賛歌。
そのあたりが描かれていないのが寂しい。

描かれる年代が維新までなので、
人格形成にかかわる部分に終始しているのがもったいない。
これではただの英語の先生だよ。
もちろん、あの時代に英語を学び教える事自体も
人生の凄まじさを現しているのだが
もっともっと描くべき個所の多い人物だろう。

柴田恭兵は良い。





『武士道残酷物語』 1963年
監:今井正  主演:中村錦之助
★★★★☆

武士道という犠牲精神に翻弄された一族が送る
400年に渡る悲劇を描いたオムニバス話。

関ケ原の直後からスタートして
最後には現代サラリーマン社会まで。
先祖代々が繰り返してきた歪みの様を
7人のエピソードを介して紹介してくれる。

まず面白いのは構成。
自発的な切腹による美談を少し斜めに見るという
スロースターターな展開から幕を開き
次に殉死という江戸初期の一般的な文化を経て
割と武士の花形と言えるエピソードを描いてくるのだが
それが時代が進むにつれ次第に狂気性を帯びていくんだね。

その後、変質的なお殿様に端を発する
よくこんな話を思いつくと感心するばかりの
やりすぎエピソードの連続に思わず苦笑いが加速。
暗君前提の展開には少々退屈な感もありつつ
これは所詮は生きた人間一人への依存度が高すぎる
主君制度の問題点を突いているかな。

そして、最後の現代編こそが肝だろう。
物語は至極シンプル。
会社の悪だくみに婚約者を犠牲にするエピソードで
単体で見れば取り立てるお話でもないのだが
それが今までの歴史を踏まえた上で目にすることによって
なるほど、現代のそれも結局は武家社会を支えてきた
封建思想の連続性だということが見事に浮彫りになってくるんだね。
時代劇パート全てがここのフリになっているわけだよ。
あれだけ過剰な演出展開を連続していたのに
締めの現代編を最もあっさり風味な現実感の中に収めてくるあたりは
さすが完璧なまでの職人芸。

それにしても、萬屋錦之介の凄まじさよ。
美童と見染められる小姓役から
槍一本を持って仕官を成した老兵役
果ては現代のサラリーマンに至るまで
7パターンにも及ぶ変幻自在な名演を見せてくる。
彼の一人舞台を眺めているだけで十分楽しめるのもポイント高し。

ここまでテーマ性を前面に出している作品においても
「中村錦之助 七変化」という笑えるエンタメ的な取っ掛かかりを
きっちり差し込んでいるバランス感覚こそに
社会派、今井正監督の手腕が見える傑作だろう。





『武士の一分』 2006年
監:山田洋次  主演:木村拓哉
★★☆☆☆

藩主お毒見としての務めを果たす上で視力を失った下級武士が
自身を取り巻く環境にケジメを付けるお話。

木村拓也が主演の時代劇だが決して演技は悪くはない。
当たり前だが時代劇スター然としない弱々しい存在感が
生きた人間としての貧相さや性格の素朴さを上手く醸し出している。

ただ、山田洋次の藤沢周平三部作は
そもそも何がが間違っている。
武家の綺麗と醜さを両天秤で描くような展開と手法が
どうにも退屈で冗長なんだよね。
徹底したテーマの尖り方もしなければ
時代劇エンターテイメントに振っているわけでもない。
格式ばった美しさとも違うのだが
逆に市井が持つ本当の泥臭までは描かない。

前作『隠し剣 鬼の爪』の欠点がそのまま残っている。
若干、主演や設定で映画的に楽しいポイントは増えているが
どうにも映像化した故の楽しさが見えてこない。
初作『たそがれ清兵衛』一本で十分だった気もする。




『普通の人々』 1980年
監:ロバート・レッドフォード   主演:ドナルド・サザーランド、ティモシー・ハットン
★★★☆☆

兄の事故死をきっかけに自殺未遂を犯した息子と
その両親の関係を中心に家族の復興を描くお話。

一家に起こった事態は、普通の人々と言うには少し劇的だが
そこに存在する父親、母親、息子のやり取り、心境の擦れ違いなどは
まさに誰にでも経験のある代物だろう。
そもそも、思春期の少年特有の心境だけを前面に出して
映画一本を丸々使いきって良いものだろうか。
その潔さに思わず苦笑いする良作。
程度の差こそあれ、彼の抱く不満や閉塞感
周囲や自分に対する憤りの姿は紛う事なき本物。

誰が悪いという事は全くないお話。
こうなる家庭とならない家庭の差と言うのは
強いて言うならば僅かなボタンの掛け違いなんだろうね。
普遍的なテーマだけにちょっとしんみりできる一品かな。
主人公を演じるティモシー・ハットンの
あまりの普通っぽさが中々に凄い。
何よりも彼の存在感が成立させた映画ではないだろうか。






『復活の日』 1980年
監:深作欣二   主演:草刈正雄
★★★★☆

細菌兵器の扱いを誤った事で
地球上全ての人類が死滅へと進むお話。

驕りなんだよね。
人間は何でもできる、全てを制御できると思い込んだ
科学競争、軍事競争の驕りが招く最悪のif映画。

テロリストの存在は国家の常識ルールを超えるし
先進国によるオーバーテクノロジーの存在は
テロリストの常識を超えている。
人類全てがリスクを共有できない以上は
必ずどこかで無知が混ざり合う事は避けられまい。

科学的、技術的には、幾らでも現実として起こり得ようが
あとは良心の問題というのが恐ろしいよね。
舞台こそ冷戦時代の物であるが
社会に対する絶対的な警鐘として
時代を超えて完璧に機能している一品。

舞台の壮大さ、ギミックの面白さ
映像の品質、テーマの高尚さ、ワールドワイド感。
全てにおいて邦画離れしており
過去の代表的な核戦争終末映画と並べても
何ら遜色がない大傑作。

滅びへの悲哀と後悔を存分に感じつつも
表題の通り『復活の日』である事は
救いと言えば救いなのかな。




『プテラノドン』 2005年
監:マーク・L・レスター   主演:クーリオ
☆☆☆☆

確実にB級モンスターパニック市場というものが
世の中に存在する事がわかるね。
低予算なりに下手な冒険を行わない
一分の隙もない手堅い作品。 

主人公の一貫した屑っぷりが面白い。
研究欲/名声のために、学生が死んでも「いや、俺は行くよ」 と言い切り
自分の恋人(候補)が攫われた瞬間に
「お前の友達が死んでるんだぞ!!」と説教。
最後は自分達以外は全員が助かってない中で
「やったね、DNA入手できたね」と
幸せそうに帰っていくバカップルの姿が見られます。 

適度にどーでもよくて、適度に恋愛要素で、適度にグロくて
そのつもりで見れば実に普通の一品。 






『舟を編む』 2013年
監:石井裕也  主演:松田龍平
★★★★☆

出版社内の異動により
主人公が慣れない辞書製作プロジェクトに携わるお話。

あらためて「辞書」を丸々一冊作る事の
壮大さに驚く映画だね。
10年単位の大仕事である事を思えば
誰もが当たり前のように利用してきた書籍一つに
実は何人もの知識人の人生そのものが詰まっているわけだよね。
地味な舞台、地味な絵作りの下で
圧巻のロマンが楽しめる。

「右という言葉を説明せよ」のキャッチフレーズの通り
言葉の楽しさ、面白さを再認識できる
実に知識への優しさに満ちた一品で
辞書に限らずあらゆる地道な作業を完成させる
全ての人間に拍手を送りたくなる傑作。

終始、柔らかい雰囲気を出しつつも
その実、強固な意思を貫き
見事、辞書の完成を持って大団円として幕を閉じる様は
誰が見ても爽快の一言だね。

ただ、途中に挟まるドラマパートは如何なものか。
主題における病的な丹念さからすれば
この出会いから恋までは、あまりにインスタントに過ぎて
結論ありきの予定調和として浮きすぎている。
テーマと間逆を行くこの軽さには大いに疑問で
挿入する作品を間違えているのではないだろうか。





『不毛地帯』 1976年
監:山本薩夫  主演:仲代達矢 
★★★★☆

終戦後、シベリアに11年間抑留されていたという元大本営参謀の主人公が
帰国後に一流商社に入社する事で政財界へと関わっていくお話。

長い長い歴史の中から考えれば
本当にくだらない一事業にすぎない事でも
直面している当人達にすれば、それが世界で最も大事かのように映る。
そんな世界に主人公は自ら身を投じていくわけだね。
映画の舞台は次期戦闘機の受注戦争。
各商社の濁り切ったアピール合戦から、アメリカ側の航空会社との確執
もちろんドロドロの政界や防衛庁の勢力争いも加わり
180分間があっという間に過ぎ去ってしまう。
彼女の作品は歴史小説の切り口だよね。
現実の舞台の中に小説としての創作性を混ぜる事で
逆に見事なテーマを浮き彫りにする。
素晴らしい緊迫感が味わえる。

今作はエピソードを映画一本で描ける範囲に限定する事で
ギリギリで話が成立する密度を保っております。
それでも薄味のジェットコースター感は残るが
相応に描けてさえいれば山崎豊子作品は面白いのだよ。
長編映画では珍しく成功している良作。

何よりも仲代達矢が素晴らしい。
本当に一見しては掴めない男。
見る角度によって熱い熱い理想家にも見えるし
やり手の策謀家にも人を使い捨てる冷酷な男にも見える。
各方面から見た主人公像がコロコロ変わる様が
見事に現れている大好演。




『冬のライオン』 1968年
監:アンソニー・ハーヴェイ  主演:ピーター・オトゥール、キャサリン・ヘプバーン
★★★★☆

12世紀のイングランドを舞台に
王族内の醜い権力争いを描いたお話。

超大作史劇の姿を借りた濃厚な舞台劇。
メインで登場するのは、僅か1組の夫婦と息子の3人だけ。
彼らの濃密な会話劇を堪能する一本。

次期王座を巡る確執から
もはやお互いの事を全く信頼できなくなっている
クソ連中が繰り広げる陰謀に次ぐ陰謀の物語なのだが
そんな親子の不思議な関係性は実に面白い。
一見すれば何の愛情もない冷めた他人にも映るが
その言動からはどこか心の底では家族としての
信頼を求めて足掻いてる様も透けてくる。

この絶妙な機微が重厚感たっぷりに描かれた
密度たっぷりの130分傑作。
特に芸達者な主演陣には要注目で
キャサリン・ヘップバーンとピーター・オトゥールの
夫婦関係は見事の一言。
どれほど憎み合おうが対立をしていようが
それでも切れない関係性は存在し得るという事が
画面狭しと伝わってくる。
今作が最終的には家族の絆こそを描いた物である事は
彼らによって証明されているわけだね。




『無頼漢』 1970年
監:篠田正浩  主演:仲代達矢
★★★☆☆

江戸時代の末期。
規制規制の締め付け厳しい世の中に
一泡吹かせる無頼漢たちのお話。

明らかに一線を越えてしまったような
悪人たちが見せる意地の物語だね。
同情の欠片もない駄目人間ではあるのだが
その心根に潜む物には何かしら共感もあるだろう。

全編が映画と舞台の中間のような不思議な様式美で
色使い一つとっても独特の美しさが楽しめる世界観が面白い。
いわゆる天保六花撰のお話なので
コンセプトは歌舞伎の映像化なのかな。

テーマ性は実に過激。
時代の閉塞感に対する下層からメッセージで
どの時代、どの世界においても
不変的な怒りが詰まっている。
特に社会に直接寄与しているとみなされにくい
「立派ではない」商売の人間たちが
理想を抱いた権力者の方針に優先的に犠牲になっていく流れは
これはもう永久に不滅だろう。
特に終盤、老中が明らかに目に入り存在している物をして
「見えない!」と断言するシーンは凄まじいな。

今作の空気感を青臭い古臭いと切り捨てられる時代は
おそらく全然マシであって
公開から半世紀も経つと、どうも時代の方が一周して
この映画のケツに追いついてしまった感があるのではないか。

誰が主役という事はない物語だが
トップクレジットの仲代達矢が狂言回しの役かな。
本筋には関わらないが、実に粋で艶のあるヤクザ者を好演。
一応、最大に見せ場がある役は
終盤に大見栄を切る河内山宗俊。
これは丹波哲朗ファンなら必見。
彼はどの名作邦画でも最高の存在感を出しているが
メインと言えるまでの作品は意外と少ない。

強烈なテーマをアーティスティック映像に乗せる
まさに篠田正浩な監督作品。




『無頼の群』 1958年
監:ヘンリー・キング  主演:グレゴリー・ペック
★★★☆☆

妻を殺された男が復讐のため
4人の無頼漢を追いつめるお話。

地味だね。
ストーリーはそのまんま。
特に見せ場もなく淡々と進行して相応のオチで淡々と終わる。
しかし割と面白く楽しめるのは
グレゴリー・ペックの熱演だろうか。
あの存在感と悩める表情一つで
単調な復讐劇が一気にテーマ性のある重い映像に変わるのはさすが。
本来の自身を押し殺して無理している様が見ていて辛い。

97分という尺が可能にする一芸映画。
淡々と終わる所にこそそのテーマの答えがあったと納得できる良作。





『プライベート・ライアン』1998年
監:スティーヴン・スピルバーグ  主演:トム・ハンクス 他
★★★☆☆

第二次世界大戦の末期、いわゆるノルマンディ上陸作戦を舞台に
たった一人の兵士のために展開された救出作戦を描くお話。

まず、冒頭の強烈な映像が全てだよね。
もちろんノルマンディ上陸作戦を描く作品としては
既に『史上最大の作戦』があるのだけど
時代の最先端技術を駆使した映像は
それとはまた別の興奮を生み出す。

ストーリーはほぼ皆無。
キャラクターも、真面目に映画として成立するほどの掘り下げはなく
無茶なプロパガンダ作戦に狩り出された部隊が
任務遂行のために足掻く様を淡々と描いた
見事なまでの映像一本勝負。
それで180分弱という尺は、思い切ったもんだよね。
間違いなくミリタリー好き以外は
途中で退屈と言えば退屈になるんだけど
それでも不思議と画面から目を離せる程に
緊張感が途切れる事はないんだな。
ここまで手間をかけて積み上げられた映像は
それだけで十分に勝負できる魅力。

理屈ではなく描写から戦争のアホ臭さを肌で感じさせる
敢えて大作である事自体を楽しむ映画。




『ブラジルから来た少年』 1978年
監:フランクリン・J・シャフナー  主演:グレゴリー・ペック、ローレンス・オリヴィエ
★★★★☆

元ナチスの秘密結社が企てる極秘計画を
著名なナチハンターである偏屈老人が追うお話。

ジャンルはSFということになるのだろうが
べースは超一級のサスペンス映画だね。
何よりもまず1978年公開の先見性の高さに驚かされる。
今作で登場するある科学の進歩は
公開から20年程たった頃に世界で一度深めの議論がなされ
さらに20年経てば、さほど問題視すらされなくなっている気がする。

1960〜70年代には人類への警鐘をテーマとしたSF傑作が数多く製作されたが
作り手が一種の情熱的な使命感を持って掲げてきた部分もあれば
観客もそれを見て衝撃を受けられたということでもあるだろう。
人間がまだ正しい感覚を持てていた時代とでも言うのか。
もはや「怪しい物」を危ないと知りつつ妥協、共存するズルさに
21世紀の世は慣れきってしまった感がある。

科学技術面だけではなく
ナチス問題も21世紀に入っても絶賛継続中。
今作では逃亡中の元ナチ党員の戦犯連中や
実際に収容所を生き延びた執念のユダヤ人ナチハンターが主役になっているが
今では実体験に基づかない思想ばかりの世代になった分
下手をすればこちらもより性質が悪くなった感すらあるだろう。

映画全体では、割と突拍子もない展開もあり
現代に作れば完全にジョークの域の映画なのだが
これを社会警鐘系の大監督、シャフナーが撮っているのだから
1978年公開当時の本気も本気に違いない。

グレゴリー・ペックである必要性が全く無いマッドサイエンティストと
芸達者、ローレンス・オリヴィエのとぼけた老人。
二人の主役が存在感を遺憾なく発揮していることで
ただの社会派映画には寄りすぎず
退屈な瞬間のないサスペンスエンタメに仕上がっているのが見事。
ほど良く気持ち悪く、ほど良くく心地よく、ほど良い希望と絶望を味わえる
ほど良い一本です。





『プラチナデータ』 2013年
監:大友啓史  主演:二宮和也、豊川悦司
★★★☆☆

DNAの解析が進みすぎた
近未来の管理社会で起こった殺人事件のお話。

まず、映像密度の素晴らしさで楽しめる映画だね。
全編が渋めの質感で統一された説得力がナイスで
小道具の隅々にまで拘りきったSF舞台は
見ているだけで、世界観に引き込まれてしまう。
物語のキー装置となるDNA解析装置のディスプレイ一つ取っても
最先端のCGアニメーション技術が冴え渡り
観客を夢の世界から覚めさせない工夫に満ちている。
早くも確立された大友監督のお家芸と言った所か。

ただ、映像面が素晴らしすぎるが故に
脚本の安さが目立ってしまうかな。
社会派なのか、サスペンスなのか、ヒューマンドラマなのか……
いつまで経っても方向が定まらず
ダイジェスト展開が延々続くだけでは
せっかく作った映像マジックが勿体無いだろう。
科学技術に偏重しすぎたSF世界も
現実世界への警鐘として機能する程のテーマは与えられず
あくまで設定を示しただけの出オチになっているのが残念。
謎の正体や、黒幕の主張も含め
基本、後半に進む程にがっかりする一本。

二宮和也は相変わらず天才肌で素敵だが
役柄からすれば雰囲気が若すぎる。
もうそろそろ、年齢相応のハマリ役が一つ欲しいところ。





『ブラック・ダイヤモンド』 2003年
監:アンジェイ・バートコウィアク  主演:ジェット・リー、DMX
★★★☆☆

謎を秘めたブラックダイヤを巡り
様々な勢力が絡み合い暴れまくるお話。

愉快な黒人ダイヤ強盗団と
台湾から渡米した捜査官のジェットリーが主人公。
最初から最後まで敵も味方も、黒人と中国人しか出てこないという
何とも独特なノリが素敵。
『ラッシュアワー』あたりが開拓したバディ物だろか。
意外にも、馬鹿アクション映画において
この愛称は抜群なんだよね。

とにかく、黒人強盗団の愛すべき勢いと
ジェット・リーの渋さで楽しむ作品だろうか。
展開も敵勢力も全てが荒っぽく
ここまで何も残らない100分間は逆に見事。
アクション映像は洗練されているし
十分に大作と言って差し支えないド派手なシーンも堪能できる。
その上で安っぽい雰囲気をお約束として
きっちり求める物は返してくれる良作かな。





『ブラックパンサー』 2018年
監:ライアン・クーグラー  主演:チャドウィック・ボーズマン
★★★★☆

宇宙より飛来した特殊資源の力で超文明を築き上げ
代々、その存在を世界から隠し続けてきたアフリカ大陸の小国に纏わるお話。

所謂、マーベル・シネマティック・ユニバースの一環だが
「エンタメ アメコミ映画」という枠を遥かに超えた
世相を見据えた本格派だろう。

もしアフリカに歴史的なブレイクスルーとなる技術国家があったならば
世界は現在の西洋文明とは全く違った文化様式になっていたという
ifの世界観が丁寧に構築されているのが最大の見所。
衣装一つ、建築デザイン一つ、音楽一つとっても
その堂々とした正面からの力技に恐れ入ってしまう。
アメコミブーム大作であるその地位をもってして
何よりも世界観への説得力に予算を注ぎ込んだ判断は素晴らしく
頭の上から爪の先まで、とっても"BLACK"が楽しめる一品。

自国を守るためのシールドを国境に張り巡らせ
世界と上辺以上の交流を断ち、本当の存在すら視覚的に隠しながら
壁の中だけの大繁栄を続けてきた超大国という設定が
あまりにも完璧なタイミングで世に出た感はあるよね。
本来、アメコミ映画の観客が求めるだろう
CG映像全開によるド派手な殴り合いや銃撃戦にも長尺を割き
エンターテイメント娯楽として十分に楽しめる完成度を誇りつつも
その立場からこれだけ象徴的なメッセージ性を
同時に込められるものかと驚かされてしまった。

ストーリーはシンプルで、持てる主人公と持たざる落伍者の対立話。
生い立ちを異にする王族同士の王位継承権争いが主軸ながら
実際に彼らの中で争われている論点というのは
つまりは、自国に篭るべきか世界を助けるべきかの闘いなんだよね。
大国の恩恵を受けられなかった側による逆襲の話でもあるんだ。

アフリカ大陸という地域帯における現実の立場からして
この逆転世界が描くカタルシスはあまりに秀逸。
文化や伝統までをも巻き込んだ末の
壁を除くんだ!! というエンディングの痛快さは
何とも希望的だろう。

シリーズ作品でありながら
一本の独立した映画として視聴できるのも良い。





『ブラック・レイン』 1989年
監:リドリー・スコット  主演:マイケル・ダグラス
★★★★☆

ジャパニーズヤクザの護送をしくじったアメリカの刑事が
異国大阪にて逃亡犯を追い続ける映画。

TEH・スタイリッシュ大阪。
往年の『ブレードランナー』をも彷彿とさせる
リドリー・スコット絵作りの極地が
まさかの日本を舞台に楽しめるという
贅沢に過ぎる映像密度作品。

間違いなく日本でありながらも
何処か幻想的で地に足着かずの浮ついた雰囲気が残る
誰も見た事のない大阪街は一見の価値あり。
「カッコイイ」という直球過ぎる感想が
何よりも似合う映画だろう。

犯人役の松田優作に視線が集まりがちだが
むしろ、アメリカ流を突き進むマイケル・ダグラスのパワーと
融通の利かない堅物、高倉健による渋みによる
対立する日米の文化の調和こそが見事。
お話として男同士が互いを理解し尊重する姿は美しい。

ココに海外視点による[ヤクザ]の神秘性加わる事で
他に類を見ない不思議な芸術作品に仕上がっている。
勘違い日本作品ならぬ、
勘違いしてくれてありがとう日本作品。





『フラッシュダンス』 1983年
監:エイドリアン・ライン  主演:ジェニファー・ビールス
★★★☆☆

プロのバレエダンサーを夢見る少女が
勇気の一歩を踏み出す青春映画。

何といっても1980年代初頭における最新ダンスが全て。
ミュージックビデオ感覚で楽しめる
スタイリッシュな映像に酔いしれる一本だね。

お話はあまりにも楽観的で汚い物は見ないで済む映画かな。
さすがの1980年代臭で満ち溢れた
目が眩むほどの青春映画として作られている。
夢見る臆病な少女に王子様が現れ、恋に活力をもらいながら
日々の努力を糧に勇気を出して現実と戦えば
最後にご褒美が得られるというテンプレート。
これを徹底的にシンプルに描いているのだから綺麗よね。

クライマックスダンスシーンのクオリティはもちろん
全編通した演出全てがキレッキレ。
それ以上は無くともそれだけで十分に楽しめる一品。

バレエ世界を夢見ていながらも
そのダンスは最先端の若者流行文化そのもの。
これが1983年は驚きの早さだね。
既存のミュージカル映画とは一線を画する
ダンスミュージックムービー。




『ブラッド・ダイヤモンド』 2006年
監:エドワード・ズウィック  主演:レオナルド・ディカプリオ
★★★★☆

内戦で荒れ果てるアフリカ国家を舞台にした
ダイヤ争奪の物語。

見事なバランスだね。
アフリカの実情はこんなレベルではないはずだが
それでも、ブラッドダイヤ(紛争国輸出ダイヤ)に焦点を絞った
中々に悲惨なダイヤ産出国の悲劇を描いている。
腐りきった政府、反政府の過激武装組織、虐殺、誘拐、少年兵問題。
資源があるが故にかえって殺し合いが起きる皮肉と
それを助長する先進国の裏の輸入体制。
紛争国家内の黒人社会の問題を捕えつつも
ストーリー自体の軸となっているのは
あくまで幻の大粒ダイヤを探せという活劇であり
スーパーマンとヒロインの大活躍というのがお見事。

これ大事ね。
エンターテイメントとして十分に成立する映像でありつつ
その裏で少しだけ世界の問題点に気付かせてくれるという
この絶妙さが映画の醍醐味。
視聴者を引っ張れる力がまず大事。

緊張感溢れる展開の連続にあわせて
次第に周囲の人間に情を移していく主人公の人となりが素敵。
荒みキャラとしてのディカプリオの新境地だろか。
特に幼さが残る音域でありながらも、かすれた声が良いんだよね。
独特な荒っぽさが素晴らしい個性です。





『プラトーン』 1986年
監:オリヴァー・ストーン  主演:チャーリー・シーン
★★★☆☆

一人の志願兵の視点から見た
ヴェトナムにおける一戦線のお話。

本当に、一つの部隊、一つの戦線のみに拘り
現地映像だけが2時間続くという究極の一芸作品。
この戦争の退廃感は異常。
何でもアリだね。

もちろん凄惨な状況というだけならば
世界にはいくらでも上が存在するのだが
これが、天下のアメリカ様の仕事であるという点において
やはりヴェトナムは少し違うんだよね。
アメリカ兵の姿と言うだけで面白いのは
何だかんだと言いながらこの国が世界から尊敬されている証拠。
劇中「自分達との戦い」とは正に見事な表現だろう。

その程度の事はあるだろうなと
誰しも想像だけはついている事項を
ここまで直球で描いてくれる素晴らしさ。
徹底して何のロマンも無い最前線が素敵です。

ただし、一芸に拘った作品だけに
これと言った映画的な波は存在せず、
題材そのものを真摯に受け止める以外は
何が面白いと言われても困る一品ではあるかな。





『ブリット』 1968年
監:ピーター・イェーツ  主演:スティーブ・マックイーン
★★★☆☆

ある証人を証言の日まで護衛しろとの依頼を受けた主人公の刑事が
事件に隠された謎に迫っていくお話。

現在の視点から見ると素直な刑事物だね。
上から突付かれる暴走捜査刑事というキャラクターがお見事。
色々な面で一歩先行くスマートなサスペンス。
特に刑事物でお約束になるカーチェイスの出来が素晴らしい。
坂の街、サンフランシスコを舞台にしたカーアクションは
衝撃の一言。
カーチェイスは何処でやるかが大事だね。
正直に撮られた映像だけに、シンプルに凄さが伝わります。

基本は大作感溢れる刑事物として普通に楽しめる良作。




『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』 2010年
監:マイク・ニューウェル  主演:ジェイク・ジレンホール
★★★☆☆

遠い昔、ペルシャの街並みを舞台に繰り広げられる
恋とアクションのファンタジー。

カッコイイ主人公が居て、 小生意気なヒロインが居て、わかりやすい悪玉も居て
アクション満載でロマンスもキスシーンもあって
もちろんハッピーエンドで……
大衆映画として完璧な完成度。

大掛かりなロケシーンの連続に
元ゲームのプレイヤーなら思わずニヤリとする個所も 
一つや二つではなく隙無しです。 
このタイトルから求められる要求だけは 
完璧に満たしてくれる良作。 

……ごめん嘘ついた。 
ゲーム好きなら忘れられない王子の「ボヤキ」要素だけはないんだな。





『プリンセスと魔法のキス』 2010年
監督:ジョン・マスカー  主演:アニカ・ノニ・ローズ
★★★☆☆

CGアニメーション全盛期に作られた
2Dディズニーアニメ映画。

2010年にもなって、ミュージカル仕立てのプリンセス物
しかも、2Dアニメのディズニー作品が見られるという
この価値にまずは一票だろう。
加えて往年のディズニー映画を構成した演出が
ふんだんに盛り込まれているため
ただ眺めているだけで楽しく全く隙が無い。
プリンセスと言いつつ主役の個性は強い女と弱い男。
そんな逆転現象もとっても現代チックでシャレが効いているね。

ただ、それ以上の冒険も無いため
特筆すべき程の目新しい点もなく
昔の作品が好きな程、淡々と進む同人作品のような印象も拭えない。
これだけの手間とクオリティなのに
薄味で心に残らないのはもったいないかな。

楽曲はニューオリンズが舞台という事で
軽快なジャズ調、R&B調で占められているのは素敵だが
コレという構成に残る代表曲は見つからずだね。
何か一曲あるだけでミュージカルは一つ違うのだが
歴史に残る傑作まではいけなった一品。





『ブルースブラザーズ』 1980年
監:ジョン・ランディス  主演:ジョン・ベルーシ、 ダン・エイクロイド
★★★★☆

ヤクザな二人兄弟が
出身孤児院の経営危機を救うために繰り広げる
ハチャメチャ道中物語。

これこそが大作コメディ映画。
お金の賭け方が実に爽快。
何の意味もない部分に、何の脈絡もなくつぎ込まれた大金にこそ
思わず映画としての笑いがあるわけだね。

かつてのバンド仲間を再結成して
お金を稼ごうというストーリーなのだが
その啓示として登場する牧師が
まさかのジェームス・ブラウンであったり
たまたま寄った楽器店の店主が
何故かレイ・チャールズであったりと
その他、豪華ミュージシャン多数登場で
作品全般を通して披露される楽曲は多数。
規模の壮大さに全く意味がわからなくなる。

アクションシーンも実に豪華なのだが
本当にその映像が必要であったのかと
思わず総ツッコミ必至の一本。

バンドメンバーも、ネジの外れた連中ばかりで
とにかく2時間ぶっ続けで楽しめる
サービス精神旺盛な傑作ナンセンスコメディ。
大作映画である事自体が、既に一つのネタなんだよね。





『フルメタルジャケット』 1987年
監:スタンリー・キューブリック  主演:マシュー・モディーン 他
★★★★☆

ヴェトナム戦争期、アメリカにおける海兵隊の訓練の模様と
現実の戦地の模様を二部構成で描くお話。

何を置いても、海兵隊訓練描写の強烈さだろう。
ここで登場するハートマン軍曹の小気味良い口汚さは
戦争映画史上に残る個性。
その訓練模様の是非は不明だが
前半パートのエンディングに至る過程には
確かな重みがある。
この集団において起こる事象として必然と言えば必然。

それでも、まだ理想や使命感に彩られる前半戦だが
後半の現地における退廃さは異常。
このギャップが見事な一品。
映画の半分を費やして描いたあの訓練は何だったのだろうと思う程の
出口の見えない巻き込まれ型の戦闘描写は圧巻。

もちろん、キューブリック監督ならではの
映像演出はキレにキレていて
最後まで緊張感を解かせてはくれない。
ただし、特に一本のお話があるわけでもなく
後半戦は映画としては単調と言えば単調かな。
淡々と描写すること自体がテーマの映画だよね。





『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』 1999年
監:ダニエル・マイリック、エドゥアルド・サンチェス  主演:へザー・ドナヒュー
★★★☆☆

大学の映研三人組が、魔女伝説を追った映画製作のため
神秘の森へと入り込み出会う恐怖の物語。

見事な「謎物」だね。
あらゆる物質、あらゆる展開、あらゆる題材
その全てに意味があると思わせる演出の数々。
極端に情報を制限して、ただただ振り回される主人公達を描く。
完璧な手法です。
もちろんこの手の作品は
種を明かせばロクな答えはな〜んも考えてませんでした。
このパターンが非常に多く
その場、その場だけの密度先行が過ぎて
納得の答え合わせが迎えられるケースはほぼ存在しない。
日本のファンからすれば
「エヴァ物」と言えば通りが良いのだろうか。
もちろんこの作品も、謎を謎としたまま
ブラックボックスを残して終わってしまう。

しかしこの映画で特筆すべき点は
何よりも製作スケールの小ささだろう。
「映研の自主制作ドキュメント」という題材を最大限に利用して
全ての作りが本当に安い。
ハンディカム級の映像が延々と手ぶれを繰り返して
ただただ、漠然と森の中を動き回る。
一瞬、本当のドキュメンとかと錯覚さえさせられる。
森の中に作り上げられた、あまりにチープな呪いの仕掛け。
劇的な事が起こるでもなく、特に大きなドラマがあるわけでもなく
「あれ? ココ、マジにヤバクね?」
この若い学生集団ならではの一線を超えた絶妙な意識差だけで
こうも密度の高い映画になるものかね。

完全なるアイディア一本勝負、ヤリ逃げ映画ながら、
この一本に限れば、劇中で熱中してしまった自分は否定できない。
そんなある意味での技術大作だろうか。




『プレイス・イン・ザ・ハート』 1984年
監:ロバート・ベントン  主演:サリー・フィールド
★★★★☆

1930年代、恐慌吹き荒れるアメリカテキサスを舞台に
突然の事故で夫を亡くした田舎女が
家のローンも、生活の糧も、幼い子供と難題を抱えながら
何とか切り盛りしていく姿を描いた話。

生活全般を夫の存在に頼りきっていた
世間を何も知らないテキサス女が
奇跡とも言える様々な出会いや周囲の手助けを元に
幼子に対しては父親の代わりまで勤め
厳しい時代と大地を強く生き抜いていくお話となれば
それだけでもう圧巻の美しさがあるよね。

ストーリー自体が成功譚に寄りすぎている部分と
綿花栽培の成否というドラマチックなメイン仕掛けがあるため
やや過剰とも言える綺麗な構造になっており
特別に衝撃を受けることはないのだが
それでも良い物は良いと言える地力のある良作。
元気をもらえること間違いなし。

中でも1930年代のテキサスを舞台にしていながら
この一夏の物語を形成するのが
「女、子供、盲人、黒人」の擬似家族というのが徹底している。
この同居は優しさとの同居だろう。
女性である事への舐められっぷりや
黒人への如何ともしがたい社会の風当たり…
生きた人間同士の好き嫌いを超えてしまう
文化風習への反骨ややるせなさが
ごく自然にクドさの無い範囲で見事に散りばめるられているね。

力強く生き抜く人生を描きながらも
終始、切実な人間愛を訴えていた映画ですよ。
一本、筋の通った良い映画という感想に尽きる。




『ブレイブストーリー』 2006年
監:千明孝一  主演:松たか子
★★★☆☆

次々と起こった不幸な現実から
自身の運命を変える願いを叶えるため
少年が幻想の世界を旅するお話。

テーマが良いね。
少年の大人への一歩だろうか。
現実は現実であるし
どんなに大きな痛みであっても
所詮は自分の中で解決するしかない。
それをもって、他の何かを無視する事は許されない。
当たり前の事ながら、少年の目線で綺麗に描かれるとやはり素敵。
良作。

ただし、1話と最終話だけが素晴らしいアニメを見た感じかな。
中身自体はスッカスカです。
キャラクターはただ居るだけで
世界も出来事もとりあえず有るだけ。
そういう雰囲気ですと納得を迫られてる気がする。
限られた尺でスポットを主役に絞るのは悪くないけど、
そのおかげで主人公が結論に到達するだけの過程もあっさり気味。
せっかくの異世界に全く生きてる感じがしないのが残念。

テーマ先行で全ての展開が唐突で説明不足な映画だろうかね。
RPGブームの時に26話くらいのTVアニメで見られたら
もっと幸せだったろう一作。




『ブレイブハート』 1995年
監:メル・ギブソン  主演:メル・ギブソン
★★★☆☆

13世紀のスコットランドとイングランドとの戦争を描いたお話。
この時代には珍しくなっていた人海戦術満載の大作歴史ロマン。

合戦シーンや演説シーンなどド派手な見所は多いが
ドラマが部分は薄めの味付け。
この手の作品の伝統と言えば伝統。
どうしても主役側の勢力と相手側の勢力に接点が無いため
各々の陣営を個別に描いていかざるを得ないのが弱点だろうか。
180分の尺の割には薄味かな。

しかしその分、主役の個性は抜群で
どんな死に方を強要されても決して詫びを入れない誇りには
胸が熱くなるのは当然。
「命よりも誇り」シリーズは映画界の一大ジャンルです。





『ブレードランナー』 1982年
監:リドリー・スコット  主演:ハリソン・フォード
★★★★☆

感情を抱き人類に敵対するに至った人造人間達を狩る
「ブレードランナー」と呼ばれる捜査官を主人公とした
近未来ハードボイルド映画。

素晴らしい芸術作品だね。
これ程に作り込まれた近未来都市があろうか。
常に暗い空に覆われ尽くされた
西洋も東洋も全ての文化を汚く混ぜ合わせたような
ごった煮の怪しさ全開の過密都市。
圧倒的な説得力で満ちた執念の映像の数々に即降参。
後に与えた影響力という点においては
「マッドマクス2」かこの作品かと言うくらいに偉大な一品。

ストーリーはいたってシンプル。
ただ、街に逃げ潜んだ「レプリカント」と呼ばれる人造人間を
主人公が狩るだけのお話。
しかし、この架空世界で魅了するハードボイルドは格別。
感情を持つに至ったレプリカント達の悲哀が
痛い程に重苦しく伝わってくる。
ロボットなどではなく彼らは立派な生物なんだよな。
主人公とて自らを「人殺し」と言い切るわけだ。
当たり前、ブレードランナーの仕事の対象がそもそも
全て感情に芽生えたレプリカントだからね。
4年間という組み込まれた寿命に対し
彼らの芽生えた感情は一体どう応えれば良いというのか。

世界観を優先した演出重視の展開は
ともすれば地味な印象も受けるのだが
実際に画面から出てくる映像のあまりの密度に
決して目は離せないだろう大傑作。





『プレステージ』 2006年
監:クリストファー・ノーラン  主演:クリスチャン・ベール、ヒュー・ジャックマン
★★★★☆

舞台事故をきっかけに憎み合う事となった
奇術師二人の生き様を描いたお話。

やっている事と言えば
いい年した男二人による嫌がらせに次ぐ嫌がらせ
ステージの邪魔の仕合、ネタの盗み合い等など
あまりに低俗な行動郡ではあるのだが
これが不思議と幻想的で美しい世界に仕上がっている。
薄暗く寂しげな映像観の元での
怪しげな奇術舞台をも絡ませた復讐劇の数々は
ある意味ではとても美しい。
何か一つ喉に引っかかる様な
仕掛けの匂わせ方に絶妙な職人技が垣間見られる一品。

結果、密かにばら撒かれていた伏線の数々と
その完璧な回収の様だけで
十分に一つのエンターテイメントとして成立している。
最後の最後で確実に評価を一段階上げてくる作品は、
無条件で幸せだよね。

マジック作品として構えて見ると
やや、素直に受け取れない仕掛けもあるが
あくまで今作は人間の業を描いた作品だろう。
駄目人間に対する哀愁の映画なんだよ。





『プレデター』 1987年
監:ジョン・マクティアナン  主演:アーノルド・シュワルツェネッガー
★★★☆☆

人質救出作戦のためにジャングルの奥地へと潜入した
特殊部隊が謎のモンスターに狙われるお話。

何らかの目的で到来していた地球外生命体が
たまたまそのジャングルに居て
偶然、本当にただの偶然に主人公達が襲われるという
一つもストーリーが存在しないままに話が進む
実に男らしい一品。
やや謎めいた救出作戦の全貌や登場人物のフリが
結局、本筋と全く結びつかないのはあまりに凄い。

いつ現れるのか、いつ襲われるか、最初に誰が死ぬか…
この緊張感を延々と煽る演出を楽しむのがポイント。
これはシュワルツネッガーを筆頭とした筋肉馬鹿が挑む
見事な格調低き肉体派『エイリアン』だろう。

せっかくの個性派部隊が特にドラマも人間像もないままあっさり全滅し
ラスト30分もの尺を残した段階で
重火器かなぐり捨てたシュワルツネッガーとモンスターとの
一騎打ちを延々見せられる何とも恐ろしい映画ですよ。

ただし「プレデター」自体は抜群に良いね。
機械と生物が融合したようなデザインが秀逸で
高度な文明使いながらも原始的で野蛮な習慣をあわせもつという
魅力的なの二面性がとっても素敵。
プレデターを愛でる作品だね。




『フレンジー』 1972年
監:アルフレッド・ヒッチコック  主演:ジョン・フィンチ 
★★★★☆

ロンドンで発生した連続絞殺事件において
状況証拠から犯人にされてしまった男の逃亡と真相解明のお話。

サスペンスは完成していたんだな。
如何に視聴者の裏をかくか、裏切ってやるかの
アイディア前提の作品ならば今後も無限かもしれないが
本当にシンプルな冤罪事件のストーリーを
ここまで丁寧に描き切られると参ってしまうね。
これ以上どうしろというレベルに仕上がっている。
もちろん、御大独特の映像的な工夫も冴えに冴えており
紛う事なき傑作サスペンス。

とにかく少ない登場人物が密接に絡み合って
シンプルにできているのが素晴らしい。
視聴者を騙すような真似はせずに
全てを公開した上でのこのドキドキ感は見事。
そして、正解を知っているが故に展開にイライラもさせられる。
心の中で叫びながらも2時間あっという間。
本当に隙無しの一品。




『フレンチ・コネクション』 1971年
監:ウィリアム・フリードキン  主演:ジーン・ハックマン 
★★★☆☆

NYの麻薬取締課の刑事2人が
フランスからの大型取引の臭いを嗅ぎ付け
その実態を突き止め追っていくお話。

普通だね。
1971年作品という事を考えれば
圧倒的に洗練された斬新な構造という事になろうか。
良くも悪くもとっても現代的です。
主人公たちの強烈な人間像も含めて
後の雛型を作っているという意味では偉大だが
一作品としてはどうしてもそれだけです。

映像面では終盤のカーチェイスシーンが素晴らしいが
お話としてはあまりに唐突な展開で逆に驚かされる。
これもよくぞ撮ったという以上は無いかな。

悪い点は何もない良作だが
今、あらためて見て特筆すべき点も薄いかな。
『ダーティーハリー』も同じ1971年という事で
刑事作品の新時代幕開けを予感させる当たり年だった模様。
あちらは圧倒的なキャラクター性や
社会的なテーマ性の面で拘った作品だが
こちらは純粋なドキュメント仕立て。




『ブロードウェイ・メロディー』 1929年
監:ハリー・ボーモント  主演:ベッシー・ラヴ、アニタ・ペイジ 
★★★☆☆

華やかなNY、ブロードウェイ界を舞台に繰り広げられる
姉妹芸人の恋と人生の物語。

どこにでもあるようで
これこそが綺麗な関係なのかな。
姉妹で想い合い譲り合う姿は
少し切なくもありつつ素直に美しいよね。

それを一級のセンスに富んだ掛け合いと
情緒溢れる楽曲パートでテンポ良く彩るのだから
隙など生まれ様はずもない。
強いて言うなら映像や展開がやや単調かもね。
実に、水準並の普通の映画なんだけど
これがトーキー作品の最初期と言うのだから恐れ入る。
十分に完成されきっている良作です。





『ブロークバック・マウンテン』 2005年
監:アン・リー  主演:ヒース・レジャー、ジェイク・ジレンホール
★★★★☆

一夏の山ごもりで結ばれた
カウボーイ同士の友情恋愛物語。

ゲイ映画と一蹴する事もできるが
このテーマは誰にでも普遍じゃないかな。
例えゲイは行き過ぎにしても
妻や子供を持った後も
自分の趣味や、男友達との遊びに熱狂する男は
世の中には腐る程存在している。
あるいは過去の美しい思い出を
いつまでも心の中で追い続けて生きる男も居るだろう。

理解したくはないがついつい分かってしまう
男が持つロマン、悪く言えば後ろ向きな幼児性。
それを究極の形で表現するならば
こんな雄大な大自然と男同士が選ばれるのか。

家族からすれば最低の男同士の物語である事
そしてゲイ映画である事すらも忘れ
普遍の美しさに見入ってしまう綺麗な一本だね。




『プロジェクト・イーグル』 1991年
監:ジャッキー・チェン  主演:ジャッキー・チェン
★★★☆☆

アジアの鷹と呼ばれるエージェントが
アフリカの砂漠に眠るというナチス財宝の探索を
国連より依頼されて始まる冒険活劇。

これはインディージョーンズ。
あの映画にジャッキー流を付け加えると
高テンポのアクションコメディ早変わり。
世界をまたにかけたロケ地と展開で
中盤まではゴールデンハーベストの製作にしては
ずいぶんと垢抜けたワールドワイドな作りだなと思えるのだけど
終盤はいつもの通り。
単一ネタを繰り返すくどさに、ややスピード感が崩される一品。
ホント途中まで完璧なんだけどね。

それでも「ジャッキー+素人 女性」
このコンビが織り成すドタバタ感は完全に保証された面白さ。
キャストもノリも、完全に香港製作でありながら
大砂漠を舞台に繰り広げられる開放感が何とも新鮮な良作映画。




『プロジェクトA』 1983年
監:ジャッキー・チェン  主演:ジャッキー・チェン、サモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウ
★★★★★

香港を守る陸上警察と水上警察が
反目しあいながらも共に悪党と立ち向かうお話。

既存の重苦しいカンフームービーとはスケールが違う。
笑って、笑って、ちょっと悩んで
ひたすら爽快になれるエンターテイメントのお手本。
次世代カンフーアクションの雛型として
お馬鹿アクション映画に必要な要素が全て詰まっている。

アクションシーンのド派手さ、カンフーアイディアの豊富さ
そしてジャッキー、ユンピョウ、サモ・ハン・キンポーの三人が可能にする
若さ溢れる次元の違う運動美。
天才的なスターがココまで揃う恐ろしさ。
こんな映像は何処のスタジオだって撮れはしないオンリーワン。
映画は何をやっても成立するという力強さを感じる。

同時期、同キャストの『スパルタンX』がカルト的なコメディなのに対して
こちらは非常に見やすいのもGood。
ジャッキー・チェンのコメディカンフー映画では
こいつがNo.1傑作かな。




『プロジェクトA2 史上最大の標的』 1987年
監:ジャッキー・チェン  主演:ジャッキー・チェン
★★★★☆

前作の活躍を買われ、
主人公は一地区の警察署長に任命される。
しかし、そこは腐敗の温床だったというお話。

少々、お話は薄いのかな。
前作で美味しかった要素だけを
散漫に続編の義務として繋いだシーンがやや蛇足。
例えば、堕落した警察官が主人公の勇敢な姿に触発され
考えを改める展開など、きっちり作れば相応に熱い展開になろうが
そのつもりが無い程度ならば必要なのだろうかね。

他、清朝末期が舞台なのだが
孫文の提唱した教えに燃える革命勢力あり、
彼らを摘発しに香港まで乗り込んだ清朝の秘密警察あり
腐敗の象徴かのような前署長の勢力あり
主人公の理解者としての上司もあり
さらには地元のギャング達の存在もあり
挙句の果てには前作で壊滅した海賊の残り勢力まであり。
こんなに慌しくては、
100分程度に十分なお話などは詰め込めないのも当たり前。
もっともこの雑多さこそが当時の香港の魅力だと言われれば、
納得せざるを得ないのだがね。

アクションシーン、コメディシーンのアイディア、テンポは保証済み。
一発芸という点では前作や『ポリスストーリー』には一歩譲るが
全体を通しては最も洗練されている完全版のような作品。
アクションとコメディが同時に展開される
このスタンスこそがジャッキー・チェンの真骨頂。
観客が求める物には、間違いなく応えてくれる傑作。




『プロテクター』 1985年
監:ジェームズ・グリッケンハウス  主演:	ジャッキー・チェン
★★★☆☆

二大都市で暗躍する犯罪シンジケートに絡む
ある誘拐事件を解決するため
NY刑事のコンビが香港に乗り込むお話。

所謂、やりすぎ無法地帯物だね。
冒頭のマッドマックスかと見紛うばかりの暴漢に襲われた
トラック運転手に対して発せられる一言。
「NYへようこそ!」で
まず総ツッコミ間違い無し。
そして、そんな危険地帯であるNYの刑事コンビが
香港の地を踏んで口にする台詞こそが
「なんて、物騒な街だ」ときたもんだ。
世界観だけで完璧なやり逃げ映画。

展開や脚本のぶっ飛びっぷりこそ魅力の内としても
アクション要素が地味なのは残念。
同時期の『プロジェクトA』や『ポリスストーリー』と比べると
あまりに遊び心が薄すぎる。
スタントシーンの危険度は相当なものなのだが
どうにも全てが真面目すぎて、
ジャッキー映画としての魅力は伝わらない。

10分に一回はツッコミが入るだろう
お馬鹿展開の数々は笑えるには笑えるんだけど
あくまで、暴力ガンアクション以上では無いかな。
水準並を楽しむ佳作と言ったところだろか。





『フロム・ダスク・ティル・ドーン』 1996年
監:ロバート・ロドリゲス  主演:ジョージ・クルーニー 
★★★★☆

脱獄、銀行強盗の末、何人もの犠牲者を出しながら逃亡を続ける極悪兄弟と
人質となってしまった家族が織り成す道中絵巻。

こんな話のはずなんだけどね。
どうやら製作者は頭がおかしいらしい。
この映画は観客側が苦笑いを出した時点で負け。
飽いた口が塞がらず憤りを覚える程に彼らの思う壺であり
ハナから計算されたクソ展開だと思い知らされる。

しかし本当に製作者は頭がおかしいのか。
無論、そんな事はない。
何故ならば大筋においてこそ、とんでもない投げっぷりを見せつつも
この作品、劇中を彩る演出はキレッキレなのだ。
むしろ職人芸の塊と言ってもよい。

まず冷静派を気取りながら、ガラの悪すぎるイケメン兄ちゃん。
ジョージ・クルーニーの渋みある一挙手一投足が素晴らしく
過剰なまでのカッコツケ、所作、全てが美しい。
ただただ、彼に酔いしれるだけで100分間、余裕の一本である。
加えてコンビを組むのは妄想癖で頭が逝っているとしか思えない弟クン。
あまりに殺人への手が早すぎる狂気の役者は
脚本も務めたクエンティ・タランティーノ自身が担当。

彼ら二人が作り出す空気が緊迫感抜群で
その暴力衝動は、あまりに乱暴であり、軽率であり、唐突。
理不尽なタイミングでの発砲が多すぎるため
かえって、口火が切られたシーンの衝撃度が強く残り
一発、一発の弾丸に重みまで生まれてしまう始末。
リボルバー一丁でココまでのスタイリッシュが追求できるとは驚きの一言。
こんな離れ業ができるのも
『デスペラード』のロバート・ロドリゲス監督ならではか。

この拘りカットの数々に
タランティーノ脚本の緻密な下品とも言える台詞回しが加わるのだから
クライムムービーとして一味違った娯楽作になるのは必然だろう。
どう見たって途中までは、一流映画の体を成しているのだ。

必然………なのだが
冒頭にも書いた通りに、結果としてこの映画はクソである。
ただし、他人にも勧められるという特徴を兼ね備える
数少ないクソ映画の一本だろう。
難しく考えず、爆笑しながらも
ジョージ・クルーニーさえ惚れていればよし。





『プロメテウス』 2012年
監:リドリー・スコット  主演:	ノオミ・ラパス
★★☆☆☆

惑星開拓の任務を負った乗組員達が
未知の世界で目にしたものとは……
伝統の設定でお送りするSF作品。

B級ならばB級であると最初に言って欲しい。
人類の起源にまで踏み込む壮大な物語を期待させてから
この展開はずっこける。
リドリー・スコット監督による映像センスは
相変わらず素晴らしいのだが
この重厚さがかえって作品のアンバランスさを際立たせ
期待すればする程に裏切りの大きな作りだろう。

大いなる謎と期待を抱えた序盤の空気から一転
道中、登場人物の言動や降りかかる展開の数々は
尺が進む程に行き当たりばったりへ。
ただただ、人員整理、展開整理へと突き進む
フラグの乱暴な回収の連続には目を疑うばかり。
結果は単なる安っぽいパニック『エイリアン』。

狙われたモンスター映画として見れば
失笑だけが漏れるB級以下。
一体この大規模作品において何処で構成を間違ったのか。
そんな一本。




『フロント・ページ』 1974年
監:ビリー・ワイルダー  主演:ジャック・レモン
★★★★★

1920年代末アメリカを舞台に
結婚を期に転職をしたいと願い出た敏腕記者と
彼を当てにして手放したくない編集長とが
ある絞首刑の報道を軸に繰り広げるドタバタ劇。

テンポだね。
こんなにサービス満点に詰め込めるものかね。
開始10秒から、ラストカットの5秒前まで
いやいや、EDテロップに至るまでだな。
全てのシーンに無駄なくネタを仕込んでくる慌しさ。
笑わずに済む時間は全く無いという程のノンストップ喜劇。
古きアメリカ男性陣の紳士さと、そこに同時に存在する柄の悪さ。
最低野郎でありながらどことなく醸し出される人の良さ。
この二面性に綺麗に全編が彩られていて
彼らの言動の数々が決して飽きさせない傑作。
あまりに無茶苦茶な展開の数々に
そうくるか、やりすぎだろうと、唸らされる事必至。

そして、コメディシーンの中にこそ
一つ秘められた社会的テーマ。
あくまで笑い続ける中、観客が勝手に感じ入るという
そのバランス取りは見事。
コメディ劇はそこに押し付けがましさを感じたら終わりだよね。
まるで観客の呼吸を完璧に操っているかのような
感覚の鋭さに恐れ入る一品。
ビリー・ワイルダー、晩年にしてさすがの職人芸だろうか。




『ヘアスプレー』 2007年
監:アダム・シャンクマン  主演:ニッキー・ブロンスキー
★★★☆☆

黒人問題で揺れる60年代初頭を舞台に
歌って踊れるTVスターを夢見る少女が奮闘するお話。

軽さが素敵。
何という気軽さ。
こういうノリで描ける時代になったという事だろね。
黒人も白人もとにかく終始歌いまくって楽しもう。
全編がノリノリの音楽と踊りだけで構成される
こだわりの一品。
EDクレジットだけでも4曲とか何を考えているのやら。

ただただ、まっすぐな主人公が
難しい状況を全て頭悪く吹っ飛ばして、
新しい時代に突っ込んでいこうという軽快ミュージカル。
頭を空っぽにして見て聞いて楽しむ120分。





『ペイルライダー』 1985年
監:クリント・イーストウッド  主演:クリント・イーストウッド
★★★☆☆

悪徳地主の脅迫により
土地から追われようとしている金鉱堀り達の元に
流れ者の神父が現れるお話。

これはイーストウッドが挑んだ
最後のスーパーヒーローかもしれないね。
自身の持つ圧倒的な存在感の下に
皆を勇気付け、誇りを取り戻させ
世の理不尽と戦う活力を生んでおきながらも
最後は誰も撃ち合いには参加させず
自らが一人で銃をブっ放して去っていく。

もちろん、去り際には若干の哀愁を醸し出す。
こんな完璧な偶像ヒーローが有ってよい物か。

彼が何故プリーチャーを名乗っていたのか
どんな過去を持った男なのか
また保安官との因縁とは何だったのか…
観客に匂わせるだけ匂わせながらも
その一切を明かさずに堂々と締め切るエンディングは
溜息が漏れる程にカッコイイ。

ストーリーメインのお話と思って見れば
やや半端な展開や主人公の言動において
肩透かしを食らうトコロもあるが
誰もが惚れる男として、完璧なまでに確立された
流れ者ヒーロー像への浪漫は見事。

映像、テンポのメリハリも満点で
イマイチ乗り切れない作品の多い
1980年代の西部劇としては珠玉の出来だろう。

以降のイーストウッド作品は
主人公すらもより人間の弱さが押し出される作風へと
よりテーマが先鋭化されていくね。





『北京の55日』 1963年
監:ニコラス・レイ  主演:チャールトン・ヘストン
★★★☆☆

舞台は1900年の中国。
「義和団」が占拠した北京に取り残された
列強各国の外交官と少数部隊の奮闘を描くお話。

この時代の中国程に面白い舞台はないだろうね。
帝国主義の列強各国がしのぎを削る搾取の場である事が
結果的に世界最大の国際都市を作っている。
こんな街は他に類を見ない。
依然、清王朝の存在は国内において強力でありながらも
諸外国への排斥運動、そして反清の空気は
常に発火寸前の爆弾として存在し続けている。

そんなごった煮世界における大事件を
予算たっぷり、豪華絢爛に描くお話が面白くないわけがあろうか。
史劇物として十分に楽しめる長編大作。

ただ、同時代の史劇物と比べれば構成は甘めかな。
テーマ不在と言うか、色々な方向に手を出しすぎて
どれも薄味の仕上がりなのが少々退屈。
特に不倫女と主人公の悲劇のロマンスなど
メロドラマ中心の展開はどうだろうか。
単体では文句はないが、舞台と上手く噛み合わないお話が
延々と尺を取る姿は、どうしてもクドめに映る。
また、普段は中国の利益を巡って争い合う列強国が
この篭城戦にあたって、一致団結、協力する姿も
一見、テーマ風に臭わせておきながらも
実際の展開からは大した成果は見えてこない。
せっかくの西太后の灰汁の強さもまた同じで
彼女を一方の主人公に据えておきながら、
結局、半端な扱いで終劇を迎えてしまう。

映像密度で満足はできるが、一流の史劇映画を求めると
少々もったいない感想が先にくる佳作だろうか。




『BEST GUY』 1990年
監:村川透  主演:織田裕二
★★☆☆☆

日本版の『トップガン』。
これ以上の感想は出ない作品。

空自の千歳基地を舞台に
若さ溢れるエリート達の青春が楽しめる娯楽作。
初々しい織田裕二はまさに適役だろう。
しかし、元がアメリカ軍の作品で日本の自衛隊を舞台にしても
なおこれだけカッコいいイメージを保てるのだから
本当に戦闘機乗りへ抱くエリート感ってのは凄いのだね。
圧倒的にスタイリッシュです。

元作品と比べると
どうしても見せ場となる戦闘機のシーンの出来がイマイチかな。




『ベスト・キッド』 1984年
監:ジョン・G・アヴィルドセン   主演:ラルフ・マッチオ
★★★☆☆

母親の都合で引っ越した土地にて
早々と天敵を作ってしまった主人公が
空手の達人に弟子入りする事で
様々な生活の壁を乗り越えていくお話。

1980年代の憧れの全てがココにあるね。
軽ノリ少年主人公物の決定版と言ってもよし。

冒頭、虐められっ子が空手を習う話なのかと思ったがとんでもない。
元々、この主人公はバイタリティ抜群。
勝ち負けは別として誰にも侮辱は許さないし
きっちりと復讐する気概もある元気一杯少年。
母親との関係も、カッコつけた生活も
もちろん恋に対しても常に充実した理想像。
そんな彼が金持ちで空手の達人という日系老人に弟子入りするのだから
少年的な憧れが加速するのは当たり前。

根本的にイケメン少年な上
劇中で運転免許は取るし、高級車は手に入れるし、彼女とはラブラブになるし
もちろん空手を身に付け暴力に屈する事も避けられるしで
とにかくあらゆる方向でプラスに成長する姿は痛快。
老人のミヤギとの心温まる関係も良いしね。
父親の居ない少年と子供を持てなかった老人なわけだよ。
こんな所にも理想の出会いがあると言う素敵な一作。
軽さを楽しむくらいの気楽な映画かな。




『ベスト・キッド2』 1986年
監:ジョン・G・アヴィルドセン   主演:ラルフ・マッチオ
★★★☆☆

師匠であるミヤギの過去。
故郷、沖縄を舞台に繰り広げられる
日本情緒溢れる物語。

面白いが
『ベスト・キッド』(原題:"The Karate Kid") としてはどーかな。
既にこのタイトルである意義は失った作りだよね。
お話は若かりし師匠が故郷に残した禍根を巡って
復讐や名誉が生み出す暴力連鎖の虚しさを説くと言う
哲学や生き様がメインになったもの。
そこに主人公がウロチョロと付いていって
師匠の人生観を学ぶお話だね。
申し訳程度の決闘シーンがあるくらいで
前作のようなノリを期待すると肩透かし。

ただ日本情緒、沖縄描写の面が割と頑張っていて
確実に美しいと感じられるオリエントを生み出している。
無論、実際の物とは大きなズレはあるが
これはこれで素直に綺麗と言うしかない。
テーマ性がメインの作風を見事に彩った世界観。
勘違い日本でお馬鹿さを楽しんだ前作とは
また違った趣が楽しめ、一つ階段を上った二作目かな。

主人公の充実っぷりは前作から一緒。
何だかんだと師匠の生き様を犯すような事は自身もしない
とっても人の良い弟子ですよ。
相変わらずの行動力でモテモテだしね。




『ベスト・キッド3/最後の挑戦』 1989年
監:ジョン・G・アヴィルドセン   主演:ラルフ・マッチオ
★★★☆☆

外伝的だった前作から一転して
初代のプロットに戻った一作。

そうは言っても、高校を卒業した主人公は
師匠のミヤギと盆栽ショップの経営に乗り出す始末。
もはや彼らの友情と人生譚を普通に追う物語だよね。
敵の罠によって師匠との絆を失いかける様など
純情な彼の揺れる心はとってもスリリング。
元々、半端じゃないくらいの善人だからね。
そんな彼が追い詰められ悩む姿は痛々しいのだが
それでもポジティブな行動力に救われる一作。
敵のキャラクターも上々ですよ。
それだけの事にここまで必死になるのかと言う
見事な勢いに満ちたなナイスなクソキャラです。

最後は大会で締めるのも初代に倣い
もうこれで描ける話は無いだろうと、
素直に納得できる完成度の一品。

例によって主人公の恋愛対象はまた変わります。
本当にパワーある男の子だこと。




『ベスト・キッド4』 1994年
監:クリストファー・ケイン    主演:ヒラリー・スワンク
★★★☆☆

シリーズ通しての師匠ミヤギが
今度は悩める少女を導くお話。

前作から舞台を一新だが
この作品はミヤギのキャラクター性で持っていたのだと
改めて感じられる一品かな。
片親の悩める思春期少女が主人公だが
彼の優しさはどんな人間に対してでもハマる。
いつ誰がいかなる状況でも
彼はきっと救えるだろうというのも凄いお話だ。

前三作のダニエルさんをついつい思い出して
やっぱ男の子の方が単純だなとニヤニヤできる良作。
中身は実に爽快かつ痛快。
シリーズ通して培ってきた独特のオリエント世界も健在で
絶妙な和の情緒を楽しみつつ、少女の成長を見守れる
そんな微笑ましく楽しめる一品。

もう年齢としてはオジサンではあるのだが
世界観がそのまま繋がっているだけでに
カメオでよいから、ラルフ・マッチオの出演があると嬉しかったな。




『ベスト・キッド』 2010年
監:ハラルド・ズワルト     主演:ジェイデン・スミス
★★★☆☆

母親の仕事で北京に移り住む事になった少年が
カンフーを介して新たな環境で成長していくお話。

今度こそ間違いなく
イジメられっ子が武術を学ぶ事で
困難を乗り越えていくお話だね。
基本的には元作品のプロットを完全に継承しているのだが
主人子の年齢設定が12歳とあって
実に応援したくなる愛らしさがある。

元作品は、80年代の少年の憧れの全てが詰まった
充実青春ストーリーだったの対して
このリメイクは感動ドラマ仕立て。
ジャッキー・チェンが演じる師匠すらも、直接的な弱さを見せ出し
少年の純粋さによって救われるお話。
決して仙人的なヒーローではないんだな。
これも時代でしょう。

舞台を中国とカンフーに移した事により
独特のオリエント世界観や、禅の心といった要素は無くなるが
その分、エンターテイメントに徹していて見やすい一品。
代わりにツッコミどころ満載の謎中国感には満ちているので
やはり独特の創作による雄大さは楽しめる。

元が良いプロットはどう見たって面白い。
そんな確かな良作。




『BECK』 2010年
監:堤幸彦  主演:佐藤健
★★★☆☆

最強のバンドを目指す若者たちが繰り広げる
サクセス青春ストーリー。

イケメン祭り。
これだけのキャストが勢揃いで繰り広げる
夢に向かって突き進む若者たちの
ちょっとほろ苦くて、爽快な青春話となれば
そりゃ免疫があれば十分に面白いだろう。

佐藤健が醸し出す受身の姿勢は問答無用に可愛くて
水嶋ヒロから発せられる自己中全開なオーラは
独特なカリスマに満ちている。
その他メンバーは、桐谷健太、向井理 、中村蒼と完璧な布陣。
こちらは彼らが騒ぎ、そして足掻く姿を
ただただ見守っていれば良いのだよ。

イジメられっ子が
「バンドをやれば人生変わる」という
この目もあてられないようなお約束展開は
間違いなく都市伝説としては深く根付いた代物。
馬鹿にしつつも何よりもキャッチーだろう。
かの筒美京平も、某番組内のインタビューにおいて
ヒット曲が生まれるには
「良い曲、良い詞、良い"声"」だと断言している。
商業音楽にとって何よりも求められるのは、
技術を超越した声というのは実に納得できるお話。
その声が聞けない演出は賛否両論と言うか
映画としては否しかないと思うがどうだろう。
あまりにも浮世離れした魅力ならば
もはや各観客の脳内でしか再現できないとでも言いたいのか。

あまりにジェットコースター的に
とんとん拍子に成功していく様も目にはつくが
結局、終着駅は確定しているのであれば、
2時間の映画で何を回り道する暇があろうか。
もっとも大筋となるお話については
あまりの自業自得っぷりに苦笑しか漏れないのだが…

とにかく求める物は完璧に出してくる娯楽大作。
無論、音楽映画と思うと痛い目みるけどね。
これは役者と役柄をも同一化して楽しむ
彼らの"今"しか作り出せない見事な青春映画だよ。




『ベルセルク 黄金時代篇I 覇王の卵』 2012年
監:窪岡俊之  主演:岩永洋昭、櫻井孝宏
★★★☆☆

中世ヨーロッパ風の世界を舞台に
若き傭兵団が台頭する様を描く
ファンタジー青春映画。

エンドロールを除けば、僅か70分程度に詰め込まれた
ダイジェスト気味の第一作。
短い尺の中でトントン拍子で進むサクセスストーリーには
特に大きな山場は見当たらない。

唯一の見せ場は、捻くれきった不器用な主人公と
誰もが慕うカリスマ団長とが繰り広げる
危うく切ない友情関係になるのだが
これも、何故、主人公がこうも拗ねた人生観を持つに至ったかが
バッサリ抜けているために消化不良な感が強い。
彼の人となりが見えてこないが故に
傭兵団や団長に精神的に依存していく説得力も薄め。

アニメーション面での演出は、どれも過激で面白いのだが
舞台や物語、音楽面での重厚さからすれば
少々絵柄が綺麗すぎるかな。
この作品において泥臭さが全く感じられない淡い色使いでは
ただただ映像だけが浮いてしまう。

今後に期待の三部作。




『ベルセルク 黄金時代篇II ドルドレイ攻略』 2012年
監:窪岡俊之  主演:岩永洋昭、櫻井孝宏
★★★☆☆

ダークファンタジー第二弾。

良い点も悪い点も共に前作のままなのだが
世紀の一大合戦を中心に描かれる回のため
エンターテイメント性が高く
やや見やすくなっている中盤戦。
一作目から馴染みの人物だけでお話が進むのも
ダイジェスト感への抵抗が緩和されて良いね。

結局はお互いがお互いに求めている物が
全く理解できない馬鹿男二人の悲劇だろうか。
プライドが高すぎるが故の擦れ違いなんだけど
この若さは素敵な代物。
展開を急ぎすぎた故に
言動が衝動的に過ぎる感じはあるが
クライマックスに向けた盛り上がりは満点。

あとは綺麗に過ぎる絵柄が
より激しさを増す今後の展開と噛み合うかどうか。





『ベルセルク 黄金時代篇III 降臨』 2013年
監:窪岡俊之  主演:岩永洋昭、櫻井孝宏
★★★☆☆

傭兵団の壊滅を描く完結編。

一度スレ違ってしまった人間というのは
中々元の鞘には収まれないもんですよ。
そんなお話かな。
幾らでもifの世界はあっただろうと
感傷たっぷりに主人公達を見つめる破滅作。

今作のクライマックスは
「触」と呼ばれる悪魔的な描写に集約されるのだが
この表現が実にアーティスティックで
原作が持つ骨太さとはまた違った
幻想的なアニメーションが楽しめる。
不安だった絵柄についてはここで面目躍如だろう。
さすがに三作目ともなれば、
個々の人物に思い入れも生まれているわけで
彼らに対する理不尽な虐殺ショーとなれば
どうしたって観客側も退廃的な背徳感に満ちていく作品だね。

三作纏めて言えば
原作ファンへのサービス映画。
一作目から人物描写の不足が目立つ作りだったが
その姿勢は最後まで変わらずに
やや志は低い映画化企画だろう。





『ヘルボーイ』 2004年
監:ギレルモ・デル・トロ  主演:ロン・パールマン
★★★☆☆

現世との境界線から生まれ落ちた異形の悪魔の子が
人間社会を守るために悪魔狩りを行うお話。

日本の特撮ヒーロー物かのような映画だね。
手の付けられない荒らくれ者だが
何処か不器用な純朴さも兼ね備えたダークヒーロー。
男の憧れを象徴するかのような主人公像が活躍する
とってもシンプルな物語。

これは映像作品として楽しむのが王道かな。
何処か退廃的な質感で統一された落ち着いた絵作りの中
ハイセンスな画面構成が次から次へと続く。
ワンシーン、ワンシーンがとにかくカッコイイ作品。

取り立てて派手な展開はない作品だが
テンポも良く視覚面で決して飽きさせない。





『ペンギン・ハイウェイ』 2018年
監:石田祐康  主演:北香那
★★★☆☆

郊外の住宅地に大量のペンギンが現れる不思議現象を
知的好奇心に溢れた男の子が研究するお話。

ノスタルジー映画だね。
ちょっとオマセな男の子たちの一夏の冒険譚。
全編、優しいながらも何処か空虚な感じに満ちているのは
これが、男の子を経験した全ての人間にお送りする
郷愁と思い出を全部載せトッピングした
やりすぎアニメだからだろうか。

何たってガキの冒険は楽しいんだ。
自身の生活圏をほんの少しだけ超えた探検と
そこで見つかる未知の遊び場のワクワク感は
誰にとっても良い記憶としてあるんじゃないかな。
その時、誰と出会って、何を見て、何を考えていたかは
もはや遠すぎてわからない当時だけの宝物。

どこにでもいそうなテンプレートな人間関係と
理解のありすぎる親に見守られての
生活に困る気配もない現代っ子の物語。
舞台も絵作りも全てが綺麗すぎてとても現実ではないんだけど
これは納得の開き直りとして成立しているね。
徹底して街の外には出してくれない強固な設定も
子供ならではの箱庭空気をしっかりと投影している。

特にメイン題材の「お姉さん」は強烈。
それこそ、過去を思い出せば誰もが大小あれども
憧れた大人の女性はいるもんだろうさ。
ただ、そんな女性と小学生の男の子というのは
同じ空気を吸ってはいても、本質的に同じ世界線には居ないもんだ。
何があっても後の人生に交わることはない幻なわけだよね。
そこがファンタジーな舞台で象徴として見事に落とし込まれている。
いかに過度に性的であざとい描写が多くとも
それがギリギリで不健全に思えないのは
この大前提が最初から境界線として提示されているからだろう。
小学生視点ならばむしろ健全さ。

どの年齢層に向けたアニメなのかはやや疑問な箇所もあるけど
今作が描く世界観は、例えば吉田拓郎の半世紀も前の名曲
『夏休み』(1971年)あたりと何一つ変わらないよね。
まさに「姉さん先生もういない、きれいな先生もういない〜 それでも待ってる夏休み♪」だよ。
2018年らしいアニメ風味な空気に乗ってはいても
全世代が味わえる感覚勝負の一品なのかな。




『ペントハウス』 2011年
監:ブレット・ラトナー  主演:ベン・スティラー
★★★☆☆

NYの超高級マンションで働く従業員たちが
年金を騙し取った最上階の億万長者相手に
復讐の窃盗計画を企てるお話。

自らの労働の結晶を、資本家の雑な投資に悪用されたという
このプロットは面白いよね。
良かれと思って運用を頼んでしまったのが主人公。
住人からの信頼も厚い優秀なマネージャーという
彼の覚悟、変容、キレっぷりが何よりステキな一本。

そして計画を立て始めた瞬間から、
作品は一気に痛快お馬鹿話へ。
素人達の展開する無茶苦茶な窃盗計画に
一々、突っ込みを入れながら楽しむのが正解だろう。
上流社会側から従業員側へと視線を移し変えた
主人公の人情話を主軸に進むのかと思いきや
物語は黒人泥棒、エディ・マーフィー登場時点から
吹っ切った男達の馬鹿騒ぎ映画へと早変わり。
悲惨な状況、犯罪へ手を染める泥沼展開にも関わらず
彼らの表情は実に生き生きとしていく。

荒々しい雑展開をも含めて勢いで十分に楽しめる
100分弱で手堅く纏まったコメディ作かな。




『ベン・ハー』 1925年
監:フレッド・ニブロ  主演:ラモン・ノヴァロ
★★★☆☆

キリスト誕生時代のローマを舞台に
あるユダヤ人の復讐と愛を描いた物語。

1959年版があまりにも有名な『ベンハー』だが
こちらは1925年に公開されたサイレント版。
しかし撮影規模のスケール一つとっても
後世のバージョンに負けていないどころか
上回っている点も数多く存在する超大作。

落ち着いた演出と確かな映像クオリティ
そしてほぼピアノ一本で統一された
ドラマティックなメロディラインが美しい
(元々存在したスコアなのだろか?)
サイレントならではの実に格調高い一本。

ただし、尺が150分程度で纏まっているため
1959年版に比べれば少々脚本は弱いのだろうか。
(↑225分)
元々、復讐に囚われきった彼の人生世観が
象徴的なキリストの生涯と交わる事で
如何に救われるかというテーマがメインの作品だけに
ここが薄い点は構成のバージョンを先に見た目では
やや勿体無く映ってしまう。

エンターテイメントとしては完璧ながらも、
期待の大きさ故に総合力ではもう一声欲しくなる。
そんな一本。





『ベン・ハー』 1959年
監:ウィリアム・ワイラー  主演:チャールトン・ヘストン
★★★★★ ★

キリスト誕生時代のローマを舞台に
あるユダヤ人の復讐と愛を描いた物語。

この作品こそが映画史上最強ではないだろか。
生まれながら超大作として運命付けられた一作ながら
決してそこに胡座をかかない本格派。
大掛かりなロケや、人海戦術の宝庫、徹底して練りこまれた美術やセット…
そんな事は当たり前として、サラリと流してしまう風格が恐ろしい。

数ある気負った「超大作」と決定的に違うのは
何よりもストーリーの緻密さだろう。
主人公が辿る憎悪に満ちた苦難の数々から
人間としての本質にまで迫る堂々のキリスト絵巻で
試されているのは業の話なんだよね。
映像もシナリオも直球の迫力が違う。

歴史物の醍醐味として
作品のオリジナルシナリオと既存の有名な物語とが繋がる瞬間があるが
今作こそがアメリカ人のアメリカ人によるアメリカ人のための映画の決定版だろう。
そこを思えば完全な形で腑に落ちる快感を得られない点
何故、自分はアメリカ人ではないのだろうかと
つい馬鹿な愚痴を言いたくなる程の見事さ。

語り始めれば幾らでも名シーンを思い出せるのだが
一つ感想を求められれば何よりも先に
「映画ってのはスゲェんだな…」の一言に落ち着いてしまうあたりが
まさに王者たる所以だろう。

画面に噛り付けるだけの要素が3時間45分もの間
一分の隙もなく完璧に詰め込まれている大傑作。




『ベン・ハー』 2016年
監:ティムール・ベクマンベトフ  主演:ジャック・ヒューストン、トビー・ケベル
★★★★☆

ローマに全てを奪われた男が辿る
復讐と赦しの物語。
約115分の尺であの『ベン・ハー』を再映画化するという
脅威のプロジェクトを達成した2016年版。

裕福な家庭で育った苦労知らずのユダヤ人ジュダと
コンプレックスの元にローマ兵として身を立てる道を選んだメッサラという
二人の青年が織り成す友情と愛憎のお話として
完全に割り切ったシンプル構成が素敵な一本。

何せ、ハー家が罪を背負う展開が訪れるまでに
全体の1/3を超える40分以上が費やされるのだから凄い。
それも、エルサレムにおけるローマ軍行進の治安対策を巡り
行動主義で強権的な政策を取る責任者メッサラと
事なかれな理想主義を貫く地元有力者ジュダが
どちらも納得でき、どちらも問題がある
イコールな立ち位置で対立した結果として描かれている。

その後、ジュダに訪れる困難は全て駆け足で消化。
大作史劇の側面も、宗教的な本題もソコソコにすっ飛ばし
あくまで、憎悪が色濃く残る空気のままに
二人の関係が行くとこまで行ってしまった結果として
例の競技場決闘に辿り着く流れは
実にスマートでわかりやすい。
完全に競技場レースを映画全体のクライマックスに据えているね。

そして、最悪の憎しみを見せ合った後に
キリストが示した行動がジュダを赦しに至らせるわけだが
散々にオマケのような扱いをしていながらも
コレはお話としてはやはり素晴らしい流れだよ。
如何に現代人でも見やすい作品として再構築するかを狙い澄ました
納得の115分化、2016年の映画化だろう。

3時間45分は無理だって……

なお、駆け足で進む有名シーンの数々は
敢えて臭わせるだけ臭わせておいて
全てが微妙に異なる展開で進んでいくんだよね。
このあたり、古い映画が好きな観客への遊び心も抜群で
「それで終わりかよ!」のツッコミを待つ余裕すら見え隠れ。

さらには、競技シーンをクライマックスに据える方針も
果たして最新の映像技術をもってすれば
1925年版や1959年版の映像に勝てるのかという
一つの実験や挑戦にも見えてくるね。
今作に限らず、往年の大撮影シーンとCG混りの最新映像では
果たして、初見の観客はどちらが楽しいと感じるものか……
これは永遠の命題ではなかろうか。

そんな要素だけでも十分に面白い
肩ひじ張らないリメイク作品として楽しめる一品。





『砲艦サンパブロ』 1966年
監:ロバート・ワイズ   主演:スティーブ・マックイーン
★★★☆☆

1920年代、国民党と共産党の争い。
そして、列強の圧迫に高まる排外運動で揺れる中国を舞台に
そこに駐留するアメリカ軍砲艦サンパブロの乗組員達のお話。

非常に切なく哀しいお話なのだが
誰が悪いとは、とてもではないが言葉にできない複雑な舞台。
大元、大元へと話を遡っていけば
最後は帝国主義そのものまで責任がいくわけだから、
どうしようもない。

キャラクターと物語がとても多彩。
イマイチ、周囲と上手くいかない主人公を始めとして
合衆国の誇りにこだわりすぎる艦長あり
夢想家にも近く現地にこだわる牧師あり
中国人女性との適わぬ恋に溺れる乗組員あり
何故かサンパブロに住み着いて働く中国人の一派あり
アクションもロマンスもありで
180分の尺に相応しいとても豪華な映画。
それは駄目だろうと思いつつも
人間としてはみんなの心境が痛い程によくわかる。

ただし、淡々としすぎている面もあるかな。
お話を消化していく雰囲気が少し退屈。





『冒険王』 1997年
監:チン・シウトン   主演:ジェット・リー
★★★☆☆

1930年代、考古学者の冒険家主人公が
中国政府より伝説の経文を探すように依頼されて
日本軍と争いながら探索を進めるお話。

えぇと、つまりはレイダース、インディジョーンズだね。
舞台をアジアに変えただけのようなストーリーは
もはやパロディに近いのかな。
ただ、主人公とその相棒の魅力は全く別で
非常に理知的で落ち着いた紳士でありながら
実は拳法の達人という教授が実に面白い。
ジェット・リーの力をもってすれば
それだけでも十分に一つの魅力として成立する。

教授に振り回される子分のヤサ男が金城武。
この二人のコミカルな雰囲気が実に香港チックで楽しげ。
大筋のストーリーや舞台からして十分に胡散臭いが
輪をかけて馬鹿馬鹿しいその軽快さがステキな一品。




『冒険者たち』 1967年
監:ロベール・アンリコ   主演:アラン・ドロン、リノ・ヴァンチュラ、ジョアンナ・シムカス
★★★☆☆

夢を追う若き男女三人が繰り広げる
甘い共同生活のお話。

偶然出会った男二人と女一人なのだが
芸術や大金に夢見る彼らの言動は
どこか刹那的で実に危なっかしい。
それでいて何よりも楽しそうなんだね。

彼らの関係は海洋への冒険に出て
悲しい結末を迎える事になるのだが
その後の物語における哀愁が実に情緒たっぷり。
過去を振り返る身となってしまえば
人生の中で、ああいった一時は誰にでも
あって良いものなんだろう。
もっとも思い出の中にあんな男女関係があれば
振り返るたび苦しくなる事は必至なのだが
それも含め、観客皆が憧れる代物なんだね。

誰もが憧れるフランス映画の世界。
そんな往年のフランス映画の立位置を見事に確認させられる
夢とロマンと退廃、そして憧れに満ちた一本。
ネクラ俳優ことアロン・ドロンの底力も素晴らしいね。




『ボーダー』 2008年
監:ジョン・アヴネット   主演:ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ
★★★☆☆

法の目をかいくぐる悪人ばかりが狙われる
連続殺人事件を捜査する刑事達のお話。

正義の基準が崩れた瞬間と言う事で
警察官の犯行である事は冒頭から確定事項。
厳密には、犯人もほぼ確定しており
一度、過去に遡る描写でその経緯を見せてくれる。

全体の不思議な構成や
刑事としての正義、または独特の友情観など
テーマ性からの見所もあるのだが
やはり、どうしても先に目がいくのは
ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノによるW主演。
相棒刑事、バディ物という贅沢さだろう。
既に老年とも言える頃の二人だが
さすがの技巧派、完璧な立ち回りが楽しめる。

ただ、前述のように
構成が少し不思議な作りな上
コレと言った盛り上がりもないまま進む
淡々としたサスペンスである点が
どうもこの贅沢さからの期待とは違うのだと思う。
仕掛けの弱さ、尺の短さ、オチの不発っぷりが目立つ。
そこまで水準以下ではないとは思うのだが
配役が先行しすぎて観客が勝手にハードルを上げているのかな。
あくまでサクっと見て一芸に唸る佳作でしょう。




『ボーン・アイデンティティー』 2002年
監:ダグ・リーマン  主演:マット・デイモン
★★★☆☆

ある夜、嵐の海を漂流していた謎の男。
彼は全ての記憶を失っていたのだが、
どうやら何らかの組織と関係がありそうだというお話。

マット・デイモンのスマートさを楽しむ映画かな。
この優等生な二枚目っぷりは
ちょっと他の役者では見られない魅力だよね。
視聴後に強烈な印象を残さない代わりに
視聴中には一切の引っかかりも生み出さない。
ある意味では稀有な存在感。

お話は出オチが酷いですね。
正体も記憶も不明な謎の男と言う振りから始まる割に
二面同時で描かれるCIA側の描写によって
開始30分もたたない内にほぼ全ての種が明かされ
ミステリー風の期待はあっさりと崩壊。
突っ込み所満載のCIA側の言動に
如何に早い段階でお馬鹿映画なんだと気づけるかが勝負だろか。

残るは男女二人の切なき逃避行なのだが
ここに前述の主人公のスマートさが加わるのだから
何とも薄味になる事よ。
そりゃ惚れるさ。
これだけカッコイイ男は世界中捜してもそうは居ない。
だからこそ、お話としてはドラマも何もないんだよね。
惚れる事が当たり前すぎて困ってしまう。

残る要素は二人の運命の帰結なのだが
実はそれで十分なんだな。
そこだけで退屈せずに最後まで噛り付けるのだから立派。
プラスが無い代わりに、マイナスも無しという
クセの無さをとことんまで貫いたスマートアクション映画。





『ポカホンタス』 1995年
監:マイク・ガブリエル   主演:アイリーン・ベダード、メル・ギブソン
★★★☆☆

アメリカ大陸に進出したイギリス船団の中の男と
先住民の娘との悲劇の恋物語。
ディズニーアニメ。

アメリカ社会に伝わる伝説的な講談を舞台に
対立する二つの組織とその板ばさみに合う男女の恋愛を描く。
王道中の王道です。
世界中、様々な物語で使われる典型で
これほどに綺麗な展開が他にあろうか。

それを非常に素直なミュージカル作品として
とっても大作志向で仕上げています。
EDクレジットを除いた時間は76分。
一切の無駄なくスピーディに楽しめる良作。
それ以上でもそれ以下でもない安定感。

男側の主人公がアメリカ映画を絵に描いたような完璧超人で、
それを微笑みながら楽しむだけでも価値ありかな。




『北斎漫画』 1981年
監:新藤兼人  主演:緒形拳
★★☆☆☆

葛飾北斎の人生を破天荒たっぷりに描くお話。
しかし自由だ。
ここまで無茶苦茶な映画にはそう出会える物ではない。
これが北斎の人生そのもの言われれば
確かに納得できるだけの勢いだけはある。
特に緒形拳のやり放題に魅了され続ける作品。

中身はと言うと、裸に次ぐ裸、エロに次ぐエロ。
世界広しと言えども、大蛸の触手に犯されて悶える樋口可南子とか
一体、何処で見られるというのだ?
北斎曰く、女が蛸に犯される絵ではなく蛸を弄ぶ女の絵らしい。
まぁそういう映画だな。
破天荒な江戸っ子達の何でもアリ絵巻と思っても良いのだろか。

ただ、田中裕子の存在が何とも勿体無い。
若い頃はひたすらに邪魔な演技で場を掻き乱し
年寄り時は一人でコントのような印象で浮きまくり。
本人が悪いのではなく設定が無茶なのだよ。




『ぼくのエリ 200歳の少女』 2008年
監:トーマス・アルフレッドソン  主演:カーレ・ヘーデブラント
★★★☆☆

毎日、いじめられる生活を送る男の子が
夜な夜な鬱屈した狂気を一人発散させる中
不思議な魅力を持つ少女と出会うお話。

この淡々とした生活は良いね。
舞台はストックホルムという事らしいが
厳しい冬の雪景色がもたらす神々しいまでの怪しさは格別。
どこか空虚な二人の触れ合いが許されるのも
雪国ならではなのかな。
お互いがお互いに傷を舐めあうかのような
自らの存在欲求を満たす付き合い方は病的ながら
各々の置かれた事情と幼き少年少女という情景が
例外的に哀愁を認めてしまうお話かな。
こんなに良くも悪くも無邪気なヴァンパイアは居ないよね。

無論、主人公の取った決断は正しい物ではないのだが
彼が社会を捨てたと言うよりは
社会が彼を捨てたという方が先だろうかね。
放っておけば殺されたであろう状況は
最後の弾みとしては十分な動機。

ただ、怖いお話でもある。
最初にエリと一緒にいた通称「父親」は一体何者だったのか。
彼はヴァンパイアではあり得まい。
しかし、人間社会の規範から完全に逸脱した
献身的な行為の数々を見れば
エリを相当に大事に思っていた人物である事は間違いない。
もしかするとこれが将来のオスカーのなれの果てなのかと思えば
切ない少年少女の触れ合いになど浸ってはいられないだろう。

でも、彼は覚悟を持っていただろね。
そこは譲れない一点。




『墨攻』 2006年
監:ジェイコブ・チャン   主演:アンディ・ラウ 
★★☆☆☆

諸子百家が花咲いた春秋時代の中国を舞台に
過激な防衛思想を持つ墨家の姿を描いた歴史映画。

どんな方向から期待して見ても
必ず肩透かしを食らう困った映画。
攻城戦の再現や細かい技術を期待しても
墨家の学問や思想としての重さを期待しても、
春秋時代の外交の面白さを期待してもどれも駄目。

半端に問答して、半端に防戦して、
半端に恋愛して、半端に人道やって。
とにかく全てが足りていない。
これほど何がしたかったわからない作品も珍しく
アンディ・ラウの男前っぷりだけがもったいない。





『僕たちは世界を変える事ができない』 2011年
監:深作健太   主演:向井理
★★★☆☆

「カンボジアに学校を建てよう」
満たされていながら何かが足りない。
そんな半端な大学生連中がボランティアの広告を目にして始まるお話。

軽い、軽い。
何故、カンボジアなのか?
代表である主人公がサークルメンバーに問われて出せる答えは
「たまたま、郵便局で目に入ったから」
その程度のもんだろう。
取り巻く連中も「何となく」という言葉が全ての答え。

ただ、その軽さが絶妙なリアリティを醸し出す。
向井理、松坂桃李、柄本佑、窪田正孝……
イケメン祭りであればあるほど
今時の若者像を地でいくチャラさがあればあるほど
描くべき物の正解に近づくという不思議な一本。
彼らがカンボジアという国に足を運び、現地で受ける衝撃が大きい程に
そこが対比として綺麗に繋がるのだから儲けもの。
実に計算された作品でしょう。
それでいながら彼らの手法と思考は常にシンプル。
衝撃を受けつつも、最後まで若者であり続けるのが良いんだな。
全ての浅はかさまでをも内包しての行動賛歌なんだ。

実際「ボランティア」は一種のトレンドだからね。
全国どの大学においても、人気サークルであるという事は
紛れも無い事実であり実情も似たり寄ったりだろう。

ややカンボジアの現状、歴史に対しての
ドキュメント番組という面が強すぎたり
お話やキャラクターが小さく纏まりすぎかなとは思うが
あの『バトルロワイヤルII』の深作健太監督とは思えない程
手堅くシンプルに見られる優等生な作品。




『北北西に進路を取れ』 1959年
監:アルフレッド・ヒッチコック   主演:ケーリー・グラント
★★★☆☆

アメリカ国内において
諜報部員と間違われた主人公が繰り広げる
逃避行とロマンスのお話。

一般の紳士然とした男性が
唐突にスパイと勘違いされ
有り得ない程の情報量を最初に提示されるという
監督、お得意の展開だね。
そして主人公が調べれば調べる程に
謎もまた深まっていくサスペンスときたもんだ。

ただし、これは中盤までのお話。
途中でいきなりの種明かしが入って
ほぼ全ての立場や状況の答えが
観客に明かされる投げっぷりに驚かされる。
では、何を描きたかったのかと言えば
これが逆境の中で育まれる男女のロマンスなんだね。
複雑な立場にある二人が困難を乗り越える様を楽しむ映画だろうか。
それも十分な冒険ではあるだけど
やはり舞台や設定が上手く消化された映画には見えないかな。
謎や仕掛け抜きに延々と見せられると
どうしてもクドめで冗長な雰囲気に包まれてしまう。
お話の方は退屈な一本。

ただし、映像的な面白さは中々で
時折挿入される目を見張るような位置からの
カメラワークは中々の衝撃。
特撮も含め技術満載。
またアメリカ国内を転々とする舞台装置も豊富で
話は無理でも視覚からは決して飽きさせないのがポイント。
特にクライマックスに選ばれた場は笑うしかないだろう。

見所は多いが手放しで楽しめる密度ではない。
そんな一品かな。




『僕等がいた 前篇』 2012年
監:三木孝浩  主演:生田斗真、吉高由里子
★★★☆☆

田舎高校を舞台にした若き男女の恋愛劇。

空気の読めない直情型だが
それ故に天然の魅力に溢れた女子高生が主人公。
相手役には何処か暗い過去を背負った
やや荒々しいイケメン男子。
もちろん恋の当て馬として、
彼の親友である爽やかスポーツマンも完備。

そんなコテコテの面子が繰り広げる
愛し愛されのすれ違い絵巻。
思わず、恥ずかしさに目を背けたくなるような
苦くも甘い高校生活の数々。
クライマックスは、学園祭の最後に設けられた
「告白タイム」という徹底っぷりには恐れ入る。
あくまでそのつもりで見る映画だが
求めた物は完璧に満たしてくれる。

通常、恋愛メインの少女漫画原作としても
何か劇的な設定が用意されていたり
スポーツ等に打ち込む姿が主軸になっていたりと
一つはストーリーを進める装置があるものだが
この作品に余計な装飾は一切無し。
リアルな生活観ゼロに主人公の男女が繰り広げる心模様だけが
延々と描かれ続けていく直球120分。

少々、役者の年齢層が高めなのがネックだが
彼らの6年後を描く「後編」がセットになっている企画なのでご愛嬌。
その分、安定した演技で楽しめるかな。




『僕等がいた 後篇』 2012年
監:三木孝浩  主演:生田斗真、吉高由里子
★★★☆☆

後編。
甘い高校生活から一転
相方の男の子がドン底に落ちる物語。

時代と方向性こそ前編とは異なるが
徹底した展開過剰モードは健在で
畳み掛けるように迫る不幸の連続は安定感抜群。
あまりのお約束に笑いを堪えるだけでも大変。
引き続きその気になってこそ楽しめる映画だろう。

眩しすぎる17歳を経験した代償と言わんばかりに
全員が全員、その思い出から一歩も前に進めない不健全仕様。
舞台を6年間も進めて
やっと本来の意味で高校生を卒業できる彼らの姿はあまりに幼いが
その甘さこそが心地良くなる一本。
時間をかけた分、EDの感慨は深いのかな。

変わらず生活観はゼロのまま、
記号としての舞台設定以外に一切の無駄が拝され
登場人物の心模様を描く事のみに終始してくれる。
ハナから真面目な人生譚を作る気はないと
きっちりと開き直ったサービス満点の恋愛完結編。




『ポセイドン・アドベンチャー』 1972年
監:ロナルド・ニーム   主演:ジーン・ハックマン
★★★★☆

大津波によって沈み行く豪華客船で繰り広げられる
決死の脱出劇を描くお話。

パニック脱出映画の金字塔。
大作とはこういう作品を指す言葉なのだろう。
まずセットの数々、アイディアにビジュアル面で圧倒されるばかり。
常時180度裏返った転覆船体が舞台となるのだが
つまりは船内全ての建築、構造物が上下逆さまになっており
その緻密さだけでも一級品。
状況を完璧に映像で再現してやろうという時点で
既に常軌を逸した豪華さが楽しめるエンタメ映画だね。

加えて、所々に象徴的に挿入される選択の場が実に過激。
権威のある側が正しいわけではない
知識のある側が正しいわけでもない
人数の多い側が正しいわけでもない
結局は本人が自ら選択していくしかないと言っているのか。

主人公は、実に傲慢で独裁的で
劇中でも指摘されたように強者の味方。
誰にでも強者であれ、勝ち続けろと説く男。
一見すれば、鼻に付く人間ではあるのだが
その裏返しとして、彼は常に自らの命を掛け先陣を切り
前へ進め、上へ登れと人々に模範を示し続ける。
時には、残酷なまでに進み続けようとする意思力の強さ。
非常時にこそ生まれ得るヒーロー像とはこういう物かと
思わず納得せざるを得ないパワーが素晴らしい。
彼は人間と言うよりは一個の偶像だろう。

対して、脇を固めるキャラクターも中々で
特に現実よりも人の心を重視し続ける
心優しき強持て警察官がお気に入り。
彼もまた人間としては正しいんだよ。

映像やジェットコースター的に現れる困難や
仕掛けを追うだけでも十分に成立する僅か120分弱大作に
これでもかと人間ドラマを詰め込んでくる密度の高さ。
妥協知らずの拘りが感じられる骨太な一本。




『ホット・ショット2』 1993年
監:ジム・エイブラハムズ   主演:チャーリー・シーン
★★★☆☆

ランボーのストーリーをベースにした
人気作品目白押しのパロディ大作映画。

パロディ大作というのが真骨頂。
この手の作品は、今でもひっそりと作られ続け
レンタルビデオ屋の片隅にはあるものだが
これは本物の映画。
まず人気絶頂のチャーリーシーンが主演の時点で頭がおかしい。
全てがプロの仕事で、ここまで安定した映像でお送りする
悪乗りパロディというのが他に類をみない。

一部、古めの戦争映画のシーンもあるが
基本は1980年代〜90年代初頭の人気作を見ていれば
誰でも楽しめるだろう。
本気の馬鹿が見たければどうぞ。




『鉄道員』 1999年
監:降旗康男   主演:高倉健 
★★★★☆

退職を目前に向かえた鉄道員一筋の男が
自身の人生をフラッシュバックするお話。

案外に人を選ぶ映画だろうね。
自身の人生の積み重ねや過去の思い出を
普段から大事にするタイプにこれは効く。
世代もあるかな。
勤続42年なり38年なりを当たり前に見てきた身からすると
時代の移り変わりを交えて描かれるその一本気な男の姿は
本当に古き良き親父。
演出過多にならないギリギリの落ち着きが素敵な一本。

何より主人公キャラクターの説得力が良い。
まさに高倉健でなければ成立しない映画だろう。




『ボディガード』 1992年
監:ミック・ジャクソン   主演:ケビン・コスナー、ホイットニー・ヒューストン
★★☆☆☆

脅迫事件に巻き込まれた人気女性歌手と
彼女を警護するために派遣されたエージェント。
そんな二人が恋に落ちるラブロマンス。

シンプルイズベスト。
そんな言葉が似合う一品。
脅迫事件の謎をベースにしたサスペンス仕立ての中
反発しあいながらも結局は惹かれあっている男女二人。
そんな要素は十分に楽しめる佳作。

さすがに例の主題歌の挿入タイミングは見事で
ロマンチックなシーンを壮大な歌で彩る手法は良いのだが
事前の知名度から下手に期待させすぎるのがネックだろうか。

プライドに溢れたケビン・コスナーの男臭さと
ありきたりな美人とは一線を画すホイットニー・ヒューストンの色気。
悪くはないが他は不要と言わんばかりな構成の映画に
この大ヒット曲は分不相応ではなかろうか。
どうにも物足りない気分にさせられる一本。





『炎のランナー』 1981年
監:ヒュー・ハドソン   主演:ベン・クロス、イアン・チャールソン
★★★☆☆

1924年のパリオリンピックを舞台に
イギリス代表の短距離ランナー達の人生を描くお話。

スポーツ感動物だと思って見ると痛い目を見る一作。
一体「スポーツ」とは何なのか。
五輪での勝利という目標を抱きつつも
それぞれの人生を持つ彼らの姿が重い。

現在のようにエンターテイメント、娯楽産業
つまり物理的な生産業ではない行為にも
生産性を見出す世の中であれば感覚も違うが
本来、スポーツなどに生産性は無いんだよ。
彼らは自己の鍛錬であり、社会の協調性の象徴であり
あくまでより良い紳士たらんとするための
貴族の嗜みとしてスポーツが推奨されたわけだ。

ユダヤ系の主人公の一人は
勝ちを得るために非英国系の個人コーチーを雇うが
それだけで目的を逸脱した行為として非難の対象となる。
プロコーチは金の力で勝利を得る唾棄すべき行為で
和を育てるスポーツの精神に反するという理屈。

また、キリスト教の伝道を本来の仕事とする主人公は
日曜日(安息日)に開催される予選の参加を拒み続ける。
例え王族からの要請であろうと
五輪メダルのために本来の信念を踏み越えたりはしない。

一方は勝利に価値を求めすぎ伝統から批判される。
また一方は自らの信念を尊重しすぎ現実から批判される。
そんな対照的な彼らの姿には
現在にも通ずるアマチュアスポーツの権威という発想を
あらためて考えさせられる。
スポーツの本質にまで迫る見事な一作。

個人的には勝利という一つの目標だけを人生で追い求める姿に
ある種の美意識を見出す事はできるが
他の世界を全く学ばなかった人間を社会が許容できるのは
一種の現代病なんだろうな。




『ホビット 思いがけない冒険』 2012年
監:ピーター・ジャクソン   主演:マーティン・フリーマン
★★★☆☆

『ロード・オブ・ザリング』の前日譚
フロドの義父、ビルボ・バギンズが体験した
60年前の冒険を描いたお話。
なお原作はこちらが先で『指輪物語』の側が続編となる。

話のスケールは『ロード・オブ・ザリング』には及ばないが
映画としてのスケールは決して負けていない。
むしろ10年分の技術進化を思う存分堪能できる
全景色、全シーンに目を見張る贅沢大作で
スピンオフでも何でもない荘厳さに満ちた本気の一本。

前作程に多種多様に絡み合った世界観ではなく
ストーリーは至ってシンプルな構成。
ドワーフとホビットの異種族パーティーが
共に苦難を乗り越える友情物語が軸になっている。
敵対勢力も目指す終着点もはっきりしている分
まるで後のRPGをプレイしているかのように
お約束のファンタジー世界に浸っていられるのも安心。

エルフとドワーフの対立の理由
オーク、ゴブリン、トロールなどの敵側クリーチャの造形美
そして目指す大ボスが「巨大竜」というのも
我々世代には実にツボにはまる一品だね。




『ホビット 竜に奪われた王国』 2013年
監:ピーター・ジャクソン   主演:マーティン・フリーマン
★★★☆☆

前作から、全ての魅力を引き継いだ
圧巻のアトラクションエンターテイメント第二段。

ホビット御一行が巻き込まれる
不思議な冒険の数々を圧倒的な画で見せてくれる
まさにファンタジーの金字塔。
この贅沢を劇場で見ずして何を見るか
時代の最先端を見られる楽しさで2時間半あっと言う間。
この尺をジェットコースターで
間延びせずに駆け抜けられるのは凄いよね。

一世を風靡した『ロードオブザリング』から
見事に10年分の技術進歩が楽しめ
映画の世界は決して止まらないと確信できる新作冥利に尽きる一品。

主人公のホビットは、
前作の時点でパーディ内での信頼を得ているので
やや物語を楽しむ作品としては平坦かな。
それでも、オーランドブルーム演じるレゴラス様の美しさと
暴竜スマウグ様が見せる意外な俗っぽさにノックアウト。
完結編に向けての盛り上がりは満点。




『ボヘミアン・ラプソディ』 2018年
監:ブライアン・シンガー、デクスター・フレッチャー   主演:ラミ・マレック
★★★☆☆

1970〜80年代に活躍したロックバンド
クイーンを伝記的に描いたお話。

凄まじい拘り映像だね。
映画としての根っこを楽曲メインに据え
最高の映像と音響効果で
クイーンそのものの魅力を再認識してもらうことを
何よりの第一目的とした一作だろう。
あらためて聴く楽曲の数々は確かに素晴らしい。

諸々のエピソードが実にドラマティックな展開と演出で再現され
それと連動するように続々と名曲が誕生し
劇中歌で再現されていくというダイナミックな演出は
実にエンタータイメント性抜群。

ただその分、人間物語としては薄味の配分になっていて
バンド結成のタイミングから本編が始まる割には
ものの30分程度でトントン拍子に大成功。
スターになるまでに全くドラマはない作りかな。

以降は基本、クイーン全体というよりは
フレディー・マーキュリー個人の天才故の
異常なまでの多感で繊細な側面が全てだね。
彼の個人的な悩みとバンドとの確執がメインだが
それ自体も特別に重厚な描かれ方ではなく
綺麗なお話で感動的で無難に纏められている。

1985年のチャリティコンサートがピークとなる事を
最初から見せている作りなので
あくまでそこに向かって畳みかける
スピード感を音楽と一緒に堪能する一本なのだろう。

劇中にもMTVという言葉が頻繁に出てくるが
まさにミュージックビデオ根性の粋を集めた力作。




『ポリス・ストーリー/香港国際警察』 1985年
監:ジャッキー・チェン   主演:ジャッキー・チェン
★★★★☆

大物の麻薬組織を追う刑事のお話。

アクションスターとはこういう事か。
大筋は何の事はないB級刑事物。
アクションあり、銃撃あり、カーアクションあり、お笑いあり、ロマンスあり。
何でもありのお約束。
しかし、一つ一つのスケールを大きくしていけば
ここまで爽快な代物になるとは驚きだ。
ジャッキーのメリハリのある動きで彩られれば
ギャグシーンすらその軽快さが違う。
そしてもはや衝撃映像の域にまで到達している
数々の大スタント撮影。

これほど時間を忘れる100分間はそうは無いだろう。
アクション映画の一つの到達点かな。
カルト的な香港センスからも
過度なカンフーアクションからも完全に決別した
まさに一大エンターテイメント。
洗練のされかた尋常ではない傑作。

シンプルにカンフースターの輝きを見たい人には
寂しい作品ではあるけどね。




『ポリス・ストーリー2/九龍の眼』 1988年
監:ジャッキー・チェン   主演:ジャッキー・チェン
★★★☆☆

大企業を恐喝する凶悪な爆弾組織と
前作からお馴染みの香港警察との戦い。

今作は刑事物としての完成度がとっても高く
爆弾犯人の巧妙さと手に汗握る捜査の連続が素晴らしい。
ただ、そういう映画が見たいのかと言われると疑問かな。
ドラマとしての完成度の高さを代償に
いつもの頭の悪さと、無茶な勢いが弱くなった感じだろうか。
確実に映画予算とスタントの危険度は増しているのだが
その割に前作よりも見栄えのしないシーンに
仕上がっているのが何とも勿体無い。
やっている派手さの割に映画は小粒だよね。

アクションシーンのクオリティだけが異常に高い
予算高めの普通の刑事ドラマ。
そんな映画。
ジャッキーの動きはまだまだ素晴らしいが
ここまで主題と切り離されるとカンフーアクションがむしろ冗長かも。




『ポリス・ストーリー3』 1992年
監:スタンリー・トン   主演:ジャッキー・チェン、ミシェール・キング
★★★☆☆

中国警察との共同作戦として計画された
麻薬組織への潜入捜査のお話。

派手な作品だね。
まるでハリウッドアクション映画のようで逆に物足りない。
香港映画としてのパワーが非常に薄味で
延々、何処かで見たような雰囲気に包まれる。

シナリオも緊張感溢れる題材を選んだ割には
そこで魅了しようとは初めから考えられていないため
潜入物としてはあまりに粗い作りで
イマイチ見るところが無い映画かな。

アクションシーンも、クオリティは相変わらず高く
他では見られないオンリーワン映像なのだが
どうも展開が予想の付く物ばかりで
初代のように、その発想はなかったなと
視聴者の度肝を抜くような驚きには出会えない。
いくら質が高くても裏切りがない映像の連続では退屈だね。

相棒役のミシェール・キングのキレが凄まじいので
そこだけを見ても一応楽しめはする一品。





『ホワイトアウト』 2000年
監:若松節朗   主演:織田裕二
★★☆☆☆

陸の孤島となった雪山ダムを占拠したテロリスト達と
織田裕二が戦うお話。

ホワイトアウト級の吹雪に包まれた雄大な雪景色で
バンバンアクションをやるエタンメ作品。
とにかく映画であるための映画で
全てにおいて徹底した薄味仕立てながらも
邦画で大作をという欲求に応えること自体が目的になっている一本。
ハリウッド有名作品のパロディとも言えるシーンも混ざりつつ
そんな馬鹿なと突っ込みながら見るのが正しい姿なのかな。

ただ、それで120分オーバーは少々長いよ。
最初から真っ当なテーマ性や人物造形をやるつもりがないなら
もっと割り切って省いてしまって良いのではないかな。
ここまで淡泊で希薄な相関図でお話を進めるにしては
主役以外が画面を独占するシーンが長すぎる。
ちょっと欲を出そうとする気配が見えるたび
逆に作品全体が安っぽくなっていくのは残念だね。

織田裕二のスター映画としても若干疑問。
彼は日本最後の銀幕スターとも言える存在だけど
その特異なスター性とは、決して無味乾燥なアクション俳優としてではあるまい。
もっとキャラクター性を練り込んだ味のある役が良かったね。
作品規模が大きいことは伝わるだけに
勿体ない印象の方が強く残ってしまう一本。




『香港発活劇エクスプレス 大福星』 1985年
監:サモ・ハン・キンポー   主演:サモ・ハン・キンポー
★★★★☆

警察からの特殊任務を依頼された
昔馴染みの小悪党5人組が
マフィア逮捕のために日本にやってくるお話。

『五福星』の続編だね。
世界観の繋がりはないが
サモ・ハンを主役とした5人仲間の内
4人までもが同一俳優。
その役どころも基本構成は一緒というシリーズ物だろうか。

相変わらずこの5人がやる事なす事
全てがツボ。
徹底した屑行動、くどすぎる冗長ギャグ。
それでも決して険悪にはなりえないという
不思議な絆を感じられる友情5人組。
作品全般があまりにもくだらなさすぎて
もう降参、参ったって映画です。
ここまで徹底してナンセンスを貫けば
笑うしかないだろう。

そして相変わらず謎の立位置で
アクションシーンだけのために登場し続ける
ジャッキー・チェンの存在感よ。
カメオじゃなくて、割と命がけのアクションを担当してるんだよね。
そんな無茶なバランス構成も含めて
間違いなく前作を楽しんだ人なら二度おいしい作品。
ユン・ピョウの方は完全にチョイ役なんだけどね。

実に馬鹿馬鹿しいながらも、
その創作としての美的センスには感じる物がある
でたらめ日本観も含めて、ノンストップに走れる傑作第二弾。




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