『アーティスト』 2011年
監:ミシェル・アザナヴィシウス 主演:ジョージ・ヴァレンティン
★★★★☆
サイレントからトーキーへと移り行く時代を描く
往年のハリウッド世界を舞台にした切ないロマンス話。
カッコイイ映画だね。
一つの時代が終わる哀愁と、新たな世界への希望に満ちた
1920年代のハリウッドを描くのであれば
いっそ映画自体を当時の全編モノクロ、サイレントで作ってしまおうという
とんでもない企画を押し通した一本。
「トーキーなんて下品な物は流行らない」との台詞があったのは
『雨に唄えば』だったろうか。
もちろん、現在一般における「喋る映画」を見て
下品などとは思った事は一度もない。
それはないのだが、時たま古いサイレント作品を見れば
確かにサイレントとは格調が高い代物だと納得もできる。
全編が強烈な主張を持つオーケストラ音楽に彩られ
細かな会話シーンでは、台詞が聞こえない故に
状況から様々な想像力が掻き立てられる。
役者は表情や動作だけで感情の機微までを伝えなければならず
その芝居密度には圧倒されるばかり。
ここぞと言う時にだけ、暗転と共に現れる字幕台詞は
その分どれも印象的でキャッチーだ。
今作はそれを視聴者に肌で感じさせるだけの
サイレント映画としてのクオリティを単体で持っている。
見た事もないはずの時代への郷愁、憧憬を呼び起こす。
だからこそ劇中における主人公の人生観に染み入れるわけだね。
この職人的な仕掛けの見事さよ。
彼はサイレント時代の大スター。
トーキーなどは流行らない、僕のファンは求めていない。
そう信じきって時代に忘れられていくビッグな男。
対するヒロインは、彼に憧れてエキストラからデビューし
後にトーキーでスターに上り詰める若手女優。
この時点で切なさ全開。
男は落ち、女は上る、立場は逆転。
しかし彼女にとって主人公はいつまでも憧れの大スター。
主人公もまた愚かな男の代表みたいな存在だ。
彼女の前では、常に余裕に満ちた紳士でいなければならない。
サイレント映画に対するロマンで没落した男の哀愁を
まさにサイレント映画で見せられる情緒は格別で
圧巻のオーバーラップだろう。
最後の最後、劇的な場面でヒロインに詰め寄られた主人公が
とっさに繕って見せた笑顔……
アレは忘れらないね。
極限まで追い詰められた状況で
なお、彼女にだけは虚勢を張ってみせる男気。
プライドだけ高い馬鹿男と一蹴する事は簡単だけど
誰でもそんな人生に憧れはあるんじゃないかな。
ストーリー以上の大きなドラマは無く
あくまでシンプルに纏まった作品ながら
全要素がハイクオリティだけで構成されたような
芸術系として楽しむのに十分な一本。
『愛、アムール』 2012年
監:ミヒャエル・ハネケ 主演:ジャン=ルイ・トランティニャン、エマニュエル・リヴァ
★★★★☆
年老いて半身不随に陥った妻を
頑なに自宅介護する夫の物語。
夫婦愛が深すぎた故の悲劇とも取れるね。
病院には戻さない、施設には入れない。
この約束を尊重するが故に
壊れていく夫の人生が痛すぎる。
気高い音楽家だったはずのお婆さんが
どんどん人間としての尊厳を保てないまでに衰弱していく様と
その全てに疲れ果てていく夫の姿を見て
悲壮感に打ちのめされる作品だろう。
何より演出がエグイ。
言葉少なく、動きも少ない構造でありながら
いちいちワンカットが長く、余韻が重苦しいわけだよ。
見ている側にも、逃げ場を用意してはくれない演出なんだね。
次第に観客の希望は一つに帰結していく。
つまりは、劇中の台詞にもあるように
「いつか終わる」という表現なのだが
終わるために必要な事は言うまでもない。
観客のほとんどが
頼むから「お婆さん、一秒でも早く死んで下さい」と願う映画など
並大抵の代物ではなかろう。
間違いなく夫婦愛に始まり夫婦愛に終わる作品でありながら
果たしてこの結果を迎える事が本当の愛だったのかと
誰しもが考えさせらるはずだ。
しかし彼に与えられたifの選択肢は
あくまで彼女の姿から「目を背ける」権利であり
起こる現実そのものは絶対に避けられないんだよな。
自分でやるか社会にやってもらうかに過ぎず
正解ルートなど最初から存在はしていない。
繰り返すがこの夫婦は愛が深すぎた。
妻側にとって夫の介護が必要だった事は当然だが
もしかすると夫側にとっても
彼女の存在が人生の支えだったのかもしれない。
彼女を見捨てる自責の念に囚われれば
心が崩壊してしまう人物だったのかもしれない。
こんな重苦しい作品を堂々と世に出す勇気に
まずは拍手だね。
だが現実と照らし合わせれば
彼らなど「かなりマシな環境」である事は間違いなく
そこを思えば「キツイ」という月並みな感想一つで
まずは勘弁して欲しくなる傑作。
『アイアンマン』 2008年
監:ジョン・ファヴロー 主演:ロバート・ダウニー・Jr
★★★★☆
長らく世界の軍事産業を担ってきた企業の社長が
その行為を羞じて世界に拡散した兵器を自ら破壊していくアメコミヒーロー話。
アメリカ〜ン。
とにかく爽快なエンターテイメント傑作。
上記の通り、社長が本来もってる業があるはずなんだけど
悪者が前面に出すぎているせいか雰囲気は軽い。
21世紀以降のCG技術を縦横無尽に発揮しくれて
ただただ楽しく見られる一本。
マーヴェル作品特有の重さは控え目で
一歩間違えればただの自作自演話なのだが
今作は突っ込むポイントではないようだ。
とにかくファンサービス満点で
あらゆる要素を惜しげも無く見せてくれる痛快作として仕上がっている。
特にラスト、最後の最後の社長の台詞は
観客の溜飲を下げる事だけに全てを注いだ力技。
元の題材が良い作品は、隙さえ作らなければ
それだけで十分に楽しめる事の証明。
『アイアンマン2』 2010年
監:ジョン・ファヴロー 主演:ロバート・ダウニー・Jr
★★★☆☆
前作のラストから半年後。
技術を渡すように迫るアメリカ政府に対して
主人公の立場は微妙な物となる。
その頃、主人公を狙うある科学者の姿が…というお話。
基本的には前作のラスト展開でスカっとした分の
ツケを払う作品だろうか。
個別シーンでは相変わらずの軽快なノリが楽しめるのだが
全体通してはどうにも分かり難いお話な上
爽快感の薄い停滞した雰囲気が続いてしまう。
抜けるような心地の良いお馬鹿さは影をひそめ
早くも一作目のテンプレに従って笑いを消化している感じが
少しだけ退屈。
ただキャラクターは安心の素晴らしさ。
ロバート・ダウニー・Jrは見事なまでのハマリ役だし
ノリノリ悪役のハマーや、最後の突入シーンで頭の悪さが爆発するナタリー等
新キャラ二人もまたステキ。
相変わらず良いエンタメ作品はやってるけど
やや衝撃度の薄い二作目だろうか。
『アイガー北壁』 2010年
監:フィリップ・シュテルツル 主演:ベンノ・フュルマン、ヨハンナ・ヴォカレク
★★☆☆☆
1936年、オーストリア併合前のナチスドイツから
前人未到のアイガー北壁登攀を目指す男達のお話。
やはりアイガーの北壁は視覚のインパクトが素晴らしい。
これほどに美しい断崖絶壁が他にあろうか。
“殺人の壁”とまで言われるだけの説得力が
映像から嫌と言う程に伝わってくる。
山岳物の映像作品として素晴らしい一品。
ただそれだけだね。
これだけ描くべき対象がはっきりしていながら
ここまで散漫な印象が残る映画も珍しい気がする。
ナチスとオーストリアのお話だとか
人を愛するお話だとか色々とあるのだが
どれも唐突で、半端な横槍としか言えず
真面目に描くつもりがないなら邪魔にすぎる。
テーマにしたいなら、もっと丁寧に序盤から仕込めばよいのにね。
特にアイガー登攀自体の描写が半分程で終わり
後半、主役と主題が全く変わってからが
あまりにも冗長で驚かされる。
あくまでアイガー北壁の狂気の映像を楽しむ作品か。
『愛と哀しみの果て』 1985年
監:シドニー・ポラック 主演:メリル・ストリープ
★★★☆☆
お互いに計算付くの結婚関係を結んだ男女が
新天地アフリカの大地で、各々の人生を歩んでいくお話。
非常にドライな関係でありながらも
実はお互いに敬意を払っている関係が深いね。
二人とも決して成功などとは言えない結末だが
それでも自身の人生に真っ直ぐ自由である姿は
それだけで間違いなく一つの価値だろう。
アフリカという大地に独自の自然感を持った
一人のハンターとの恋愛であったり
彼と過ごした雄大なハンティングの舞台であったり
農園で協力を仰いだ現地住民との絆であったり
彼女の経験するアフリカはあまりにも多彩。
これが自らが望んだ外の世界だと言わんばかりのパワーに
思わずその土地への魅力までを感じてしまう。
本当に劇中はアフリカ魅了されて
戻りたくない人ばかりだよね。
便利さもなければ、成功も安定もないが
それでも愛さざるを得ない大地とは一体何だ。
長い尺を存分に使いきった密度ある刹那の物語。
『愛と追憶の日々』 1983年
監:ジェームズ・L・ブルックス 主演:シャーリー・マクレーン、デブラ・ウィンガー
★★★☆☆
アメリカで生きる母と娘
それを取り巻く人々の何年にも渡るお話。
登場するのが悪い意味でのアメリカン全開で
とにかく個性と自己主張が激しすぎる駄目人間ばかり。
今まで自分を取り巻いてきた人間関係が
如何に良質だったかを再認識できるクズっぷり。
ちょっと彼女たちには関わりたくはないですね。
ただしパワーはある。
見続けていく内に、これはこれで幸せな人生なのかもと
自然と思えてくるから不思議なもの。
これが映画としての上手さか。
むしろ、あれだけ喧嘩が絶えなくとも
気付けば毎日電話してるらしいという親子の絆は
憧れる人の方が多いのかもしれない。
特に50歳を軽くすぎてからのあの行動力は
見習わなければ駄目じゃないかな。
誰にでも良い顔した良質な人生だけが
人生でもないかもと生き方の強さを感じられる一作。
『愛と誠』 2012年
監:三池崇史 主演:妻夫木聡、武井咲
★★☆☆☆
喧嘩三昧の不良高校生と
彼に惚れたお嬢様が織り成す恋愛ミュージカル。
拷問のような映画とはこの事だな。
全編が極寒演出の目白押しなのだが
そこにいちいち言い訳を入れない手法が凄まじい。
誰がどう見たって、スベリにスベっているはずなんだよ。
だがそんな観客の悲鳴は
まるで何事もなかったようにスルーされ
鋼の精神の元、同じノリが延々と続いていく。
ある意味で三池監督の持ち味が徹底的に発揮された
シュールナンセンス映画だろう。
楽曲は70年代前後の歌謡曲が多いのだが
どれも絶妙に外れた選曲で
道中、懐メロに浸る行為すら許してはくれず
加えて全員の歌があまりに下手すぎるのがポイント。
中にはもっと出来る役者も居るだろうに
敢えての演技指導なのか
最後まで徹底されたズッコケのオンパレードが楽しめる。
極めつけは今作が140分もある事なんだよね。
地獄だよ、地獄、耐久レースですよ。
クライマックスシーンに一青窈、エンディングにかしゆり58と
唐突な時代感スキップも実に馬鹿にしており
何とも凄い映画ですわ。
『愛の泉』 1954年
監:ジーン・ネグレスコ 主演:クリフトン・ウェッブ
★★★☆☆
お洒落なローマ市街を舞台に
三組の男女が繰り広げる愛情物語。
ハイソサエティと言うのかな。
一流女性三人が恋に人生観にと揺れる姿は
圧倒的なオシャレではあるが
あまり感じ入る物は無い一本。
どの男女カップルに目をやってもドラマと言える程のドラマはなく
結論から逆算して描いたような淡白さの方が目に付いてしまう。
確かにローマ市街やヴェネツィアの街並みは素晴らしいが
それ以上の魅力が見えてこない。
あくまで彼女達の生活観に
空想としての憧れを感じる雰囲気芸の映画だろうか。
『アウトレイジ』 2010年
監:北野武 主演:ビートたけし
★★★☆☆
ヤクザ同士の内ゲバ抗争を描いたお話。
登場人物の言動、設定があまりに酷くて
品の無さが逆に笑いになる映画。
基本、誰もが悲惨な最期を遂げる事になるのだが
彼らに全く同情が沸かないのは
全ての登場人物が各々立場こそ違えども
皆が皆、自身よりも弱い立場の人間を
食い物にしてきた悪人連中だからだろう。
自身より弱い人間をいたぶり、強い人間には逆らえない。
大組織の会長だろうが、街の客引きチンピラだろうが
立場によってその対象が違うだけで
人間としての本質は等しくただの小悪党なのだ。
結果、このバイオレンス映画は楽しめる。
彼らに人間として入れ込める要素が無いのだから
その過激で悲惨な描写はただの映像演出として
いとも簡単に笑い飛ばせる。
狙われた仕掛けが見事に冴える一本だろう。
『アウトロー』 1976年
監:ラクリント・イーストウッド 主演:クリント・イーストウッド
★★★☆☆
南北戦争期、北軍の無法集団に妻子を殺された男が
復讐のために南軍に身を寄せたため
敗戦後にお尋ね物として逃げ歩くお話。
復讐物かと思わせておいて
その実は生きる目的すらも見失った男の
無秩序な逃亡劇なんだよね。
道中、憎き仇を目の前にしても
それほどには執着しない様を見れば、
最大の関心事でなくなっている事は間違いない。
むしろ次々と増えていく道連れの面子を見れば
これは戦争や差別や暴力に対しての
一つアンチテーゼとしての流浪の民なんだな。
凶暴な交易商人に夫を殺された誇り高い移民の老婆や
文明化を受け入れたが、結局は迫害から逃れられい事に気付いた年老いた先住民
白人ではなく部族の掟により貶められた先住民少女など…
敵役や周囲を盛り立てるキャラクターすら
戦争が終わり職にあぶれた賞金稼ぎたちであったり
枯れ果てた銀山により寂れ切った街の住人であったりと
どこか全てが物悲しいわけだ。
そんな彼らが安住の地を見つけるお話でもある。
決して無抵抗ではなく、時には銃を取り凶暴にね。
果たして彼らの理想郷とは何なのか。
そんな渇いた世界観の妙を堪能する不思議な一作。
ただ作品を支配する雰囲気からすれば
少しイーストウッドがスーパーマンすぎるだろう。
後の監督であれば、もっと弱々しい人物像を打ち立てたと思うのだが
この時代では、この主人公が限界なのだろうかね。
『アウトロー』 2012年
監:クリストファー・マッカリー 主演:トム・クルーズ
★★★☆☆
軍人崩れの主人公が、若い女弁護士と共に
無差別殺人事件の謎を解明するお話。
トム・クルーズ主演のアクション作で
やっている事自体は、いつものヒーロー作品なのだが
全体がシックな絵作りで統一され
やり過ぎないカッコ良さを追求する
ちょっと大人なサスペンス調の物語だね。
冷静沈着で落ち着いた男だが
ここぞという絶妙なトコロでは
軽々と一線を越えていく
まさに、題名の通りの主人公像が楽しめる。
ヒロインとのロマンスも何のその
去り際に至るまで全く隙がない素敵なダークヒーロー映画。
あくまでエンタメアクション作ではありつつ
コメディタッチなノリを一切出さないトム・クルーズの渋さが拝める
雰囲気満点の一本。
『青い珊瑚礁』 1980年
監:ランダル・クレイザー 主演:ブルック・シールズ、クリストファー・アトキンズ
★★★☆☆
舞台は太平洋の南側、出火により沈没した船から
船乗り、男の子、女の子の3人が無人島に遭難する。
時を置かず船乗りは力尽き、幼い男女だけが残されるが……
何という一本ネタ。
食生活には不自由しない豊かな島で
船乗りから生き方だけは教わった子供達だが
あくまで知っているのはそれだけ。
全くの無知な男女が延々と二人で生活をすると
一体どうなるのか。
この一本のギミックで見せてくれます。
果たして悲惨なのか、羨ましいのか、色々と衝撃なシーン目白押し。
一歩間違えればとんでもない馬鹿話だよね。
性教育ビデオかっての。
ところが描写は本当にそれだけなんだけど、、
その実、テーマ性は強く、人間としての死生観であり
生命の強さであり、文明社会への批判であったり
見る側次第でどうとでも捉えられる演出は中々お見事。
シンプルストーリーながら退屈はしない良作です。
『青の炎』 2003年
監:蜷川幸雄 主演:二宮和也
★★★★☆
耐え難い家庭の事情から
義理の父親を殺してしまう17歳の少年のお話。
実に淡い物語。
物語の筋自体はシンプルだが
全編を通して流れる空気が
所謂、行き場のない若さの葛藤に包まれた
素晴らしい演出作品。
世間を騒がす少年犯罪を鼻で笑うような
洒脱で理知的だったはずのイケメン少年が
なし崩し的に殺人に追い込まれていく姿を
若き二宮一也が、しっかりと演じきる。
この作品の視聴を支えてくれるのは
若い感性への共感と
何よりも主人公キャラクターへの同情だろう。
男の子ならではの憧れや甘さ、時として空想力の強さまで
全てが詰まったような象徴的な存在感が実に良い。
他の全要素を脇に追いやってでも
彼一人の内面に全てを絞った構成勝ちの一本。
『アオハライド』 2014年
監:三木孝浩 主演:本田翼、東出昌大
★★★☆☆
昔馴染みとの劇的な再会から始まる
高校生の若さ溢れる恋物語。
冒頭、僅か15分でメインキャラクターが数人にまで絞られ
生活感の欠片もないまま、学校行事ベースでのみ物語が展開していく
古典的な少女マンガ作風だね。
過剰すぎる音楽や演出には頼らず、抑えるべき展開だけを淡々と抑え続ける
非常にスマートで見やすい仕上がりは素晴らしいのだが
お話のベースが、空気の読めないぶっ込み女がその真っ直ぐさ故に
斜に構えたトラウマ男の心を溶かしていくという王道関係だけでは
少々退屈さが先に立つかもしれない。
二人の関係性を邪魔する鞘当て事案がどいつもこいつも雑魚にすぎて
ドキドキする余地が全く存在しないのも困ってしまう。
ただ、再会シーンの言動が象徴にすぎる事を思えば
最序盤から互いの気持ちは明々白々に示されているので
これは敢えて安心して見ていられる事を意識した作品なのだろう。
それにしてもダメ男が板に付きすぎた東出昌大は見事だね。
彼が高校生に全く見えないのだけはご愛嬌。
『赤い河』 1948年
監:ハワード・ホークス 主演:ジョン・ウェイン、モンゴメリー・クリフト
★★★★☆
アメリカ開拓時代におけるカウボーイ達の
テキサスから1000マイルにも及ぶ大移動を描いたお話。
雄大な大地と何千頭もの牛馬、果て無き旅路。
そのアメリカすぎる光景にビジュアルだけでノックアウト。
まさに圧巻の映像で一見の価値はアリ。
これは西部劇の中で描かれるガンマンではない
真の牛飼い、牛の輸送で一攫千金を夢見て果てていった
命がけのカウボーイの物語なんだね。
保守の象徴としての頑固親父ジョンウェインと
それを乗り越えるの若者としてのモンゴメリー・クリフトが良いね。
人も死ねばサスペンス的な緊張感も走る横断成否の行方と、
彼らの素直になれない愛情に溢れた世代交代の物語との同時進行が
如何にもなBGMと自然風景の元で進む様は見所満載。
結局は古き良き粋な映画で終わらせる貫禄もまた良し。
『赤ひげ』 1965年
監:黒澤明 主演:三船敏郎、加山雄三
★★★☆☆
舞台は江戸時代
貧民のために解放された養生所に放り込まれた
若きエリート医師の成長物語。
養生所のドンである赤ひげ先生のキャラクターは強烈の一言で
無駄口は叩かない、他人に厳しいが自分にも厳しく、仕事の腕は一級品。
豪快で腕っ節は強く、こうと決めた事は決して譲らないが
清濁合わせ呑んで社会を渡り歩くしたたかさも持つ。
そして時折見せるとびきりの愛情と優しさ。
まさに完璧な父性の象徴だろう。
この頑固親父の姿は痛快極まりなく
若き主人公が心動かされるのも当然だね。
但し、物語は超絶スローペースで進む
丹念に丹念に作られた人情劇のオムニバスで
ダイナミック方面の作品ではないかな。
死に行く者達が残す渾身の懺悔大会から
心を失った子供の救済物語まで様々。
衝撃的と言えるようなエピソードは無いのだが
その実直さ故に響く重みもあるでしょう。
人間、人生、そう捨てた物ではないと
気付けば心が温かくなる贅沢な時間が味わえる一品。
『AKIRA』 1988年
監:大友克洋 主演:岩田光央
★★★★☆
第三次世界大戦によって荒廃した東京を舞台に
暴走族の不良少年が軍の機密に巻き込まれていくお話。
いや飛び込んでいく話かな。
まず主人公金田の行動力に惚れましょう。
究極のアニメーション作品と言うべきか
ここまで大胆で斬新な映像に出会ったのは
後にも先にもこの映画だけ。
アニメでなければ表現できない世界というのが
本当に存在するんだと初めて思い知らされた映像作品。
原作が既に漫画の常識を超えた世界観を提示していたのだが
本人自らが指揮をとったこの劇場アニメも
全く申し分のない衝撃と洗練度。
後に数え切れないくらいのフォロワーを生み出す
アイディアの宝庫に圧倒されっぱなし。
数々の美術のお仕事から来る
確立されたSF世界観の美しさも加わり
まさにオンリーワンを楽しめる一品。
ただ、お話はイマイチかな。
この作品が満点にならないあたりが
基本的には練られた脚本が好きなんだなと
自分の趣味趣向をあらためて再認識させられる程には
それ以外の全てが完璧な映画。
『悪人』 2010年
監:李相日 主演:妻夫木聡
★★★☆☆
ある事情から、突発的に人を殺してしまった青年の
苦悩と愛情の様を描くお話。
馬鹿による馬鹿のための馬鹿のお話。
まず、そう言わざるを得ないだろう。
世の中、誰の立場になろうが理不尽には満ちているし
人間関係など屈辱にまみれたものさ。
そんな事は当たり前、何も特別な物ではなく誰だって一緒なんだよ。
しかし、99.99…%の人間は、社会の秩序の中
そこで自己を抑制して立派に生きているわけだ。
絶対に殺人などでは感情を発散させないと言う人間が見れば
この一点だけは譲れないだろう。
劇中の父親なり、母親なり、祖母なりの立場がほとんどだ。
しかし、映画としての魅力は別のお話。
そうは言っても現実に殺人事件は起こるわけだし
加害者も被害者も所詮はただの人間だ。
人間ならばドラマはあるだろう。
この主人公は良いね。
無口で、流動的で、コミュニケーションに飢え
しかし素直に真っ直ぐで。
田舎町で仕事と老人介護に明け暮れる若い日々。
他人との接し方、愛を知らないが故の突発的な衝動
そして愛を知ったが故の後悔。
退屈で平凡で誰ともわかりあえない人生の中
愛し合える二人が出会う奇跡、だがそのタイミングの切なさ。
虚無の世界観に行き着くのではないかとハラハラさせられる
純愛が成せる未来無き逃避行劇。
駄目駄目な二人でありながら、この美しさは否定できないもんだ。
誰が悪い人間で、誰が善い人間か。
劇中の人物像からは一目瞭然ではありつつも
悪人こと主人公は、最早そういう事を語れる次元には居ないのだよ。
「一線を超えた」とはそういうものなのだ。
この階層を区切った仕掛けが見事な一品かな。
『悪の教典』 2012年
監:三池崇史 主演:伊藤英明
★★★☆☆
高校生活における日常の中
殺人鬼の顔を持つカリスマ教師が暗躍するお話。
伊藤英明演じる主人公は、完璧なまでのカッコ良さ。
こんな教師が居たら生徒は嬉しいだろうと思いつつも
あまりに完璧すぎる彼は何かが胡散臭い。
この設定は面白いのだが
どの方向にも最後までノリきれない作品。
ドラマ薄め、サスペンス薄め、エンタメ薄め……
特に個性のあった生徒が中盤までに退場してしまい
肝心の大虐殺シーンまで残るのが
ほぼ誰かもわからないような生徒ばかりでは困る。
そんな中でちょっとした学園小芝居群を見せられても
果たして何処に感情を持っていけばよいのだろうか。
主人公は「平然と人を殺せる男」。
つまりは、ほぼ感情は無し、語りも無し。
殺す理由もなく、別段、手段に拘りもない。
映像には子供が単調に撃ち殺されるだけのシーンが30分続く。
この過程や演出に、一周して笑いが起こるような
エンタメを用意する気もあまり無いようで
結果、小さな苦笑いは起こるのだが
全体では冗長、退屈な印象が強く残る。
「高校一クラス、丸ごと皆殺し by担任教師」
ココまで不謹慎な題材を用意した割には
批判するにも、絶賛するにも、テーマが足りない。
どうせなら行ける所まで突き抜けて欲しかった一本だね。
『悪魔の手毬唄 』 1977年
監:市川崑 主演:石坂浩二
★★★★☆
20数年前の未解決事件を巡り
探偵、金田一耕助の周囲で起こる殺人事件のお話。
原作:横溝正史、監督:市川崑、主演:石坂浩二で送る
『犬神家』に続く劇場シリーズ第二段。
前作を遥かに凌ぐ
横溝ワールド全開の見事な不快感が堪能できる一品。
田舎村特有の閉塞感や、歴史的な家格に伴う確執
愛憎乱れた複雑な血縁関係
そしてその全てが絡み合った犯罪動機と
とにかく劇中全編に漂う曇天模様が凄まじい。
野暮ったい田舎風景の連続や
何処か不安を煽るような独特の間
ショッキングな殺人現場のビジュアル等々
作品を彩る飾り立ても見事の一言。
対して、そこを飄々と立ち回る金田一耕助の存在が
何ともお茶目な雰囲気を醸し出し
このアンバランスさが
実に不思議な世界観を楽しませてくれる。
最後まで、仕掛もオチも十分に楽しめる
傑作サスペンスだね。
『悪名』 1961年
監:田中徳三 主演:勝新太郎、田宮二郎
★★★☆☆
昭和初期の関西地方を舞台に
友情で結ばれた若いヤクザ者二人が
女郎の足抜けを手伝う物語。
もはや内容が聞き取れない程の
ドギツイ関西弁で捲し立てる(河内言葉?)
マシンガントークの世界観が独特だね。
伝統的なヤクザな物語のせいもあろうが
この荒々しく理不尽な空気な中にも
不思議な情緒も見えてくるから面白い。
その世界で生きる刹那的な男の人生観を見る映画かな。
「明日、死んでもいい」と口で言うのは簡単だが
その人生観が体から臭ってくるレベルで伝わるのは
さすがのキャラクター性だろう。
若かりし勝新太郎がただものではなく
彼の可愛い面相の中にも確かな怖さも滲み出ている。
基本的には若くいきがった主役二人の
立ち居振る舞いを見ていれば楽しめる一本。
名を上げてどうするんだってお話だ。
展開はシンプルに淡々と進み
劇的なドラマが登場人物ごとに用意されるような
親切な作りにはなっていないのだが
数人の男女の儚い人生観と映画的な見せ場が綺麗に繋がり
勢いに飲まれるままに気付けば終幕という良作。
『赤穂城断絶』 1978年
監:深作欣二 主演:萬屋錦之介
★★★☆☆
松の廊下の刃傷シーンに端を発する
2時間40分にもわたる忠臣蔵の物語。
『柳生一族の陰謀』の製作陣がほぼそのままシフトした
超大作オールスター東映映画。
スタイリッシュでギラ付いたOPパートからすれば
不思議なくらいオーソドックスな展開が続く
やや拍子抜けと言える作品ではあるね。
それでも萬屋錦之介演じる大石内蔵助の姿が
あまりにも重厚かつ情緒的で
この堂々たる大芝居一つで十分に元は取れる一本かな。
ベースとしてはスマートな忠臣蔵でありながら
突如、リアリティ満点のアクション揺れカメラ演出が挟まったり
視点が近藤正臣が演じる脱落浪士の悲哀に移ってみたり
最後は千葉真一と渡瀬恒彦の1vs1のアクション映画が始まったりと
妙な遊び心とフットワークの軽さが混ざる
不思議な構成であることは間違いない。
結果、個々のシーンはどちらも最高級なのだが
次から次へと世界観の移り変わりが激しいため
いまいち主軸が見えにくい作風になってしまっているね。
常にやりたいことが二つ同居している印象が強く
一本の映画としてはややバランスの悪い仕上りか。
特に、刃傷シーンからスタートする物語なので
亡き殿の人物像が観客の中には存在していない状態なのが問題。
本来、目頭が熱くなるようなオーソドックスなシーンを挿入されても
最初から共感を得るのが難しい作りなんだね。
ただこれを無理やり成立させてしまうのが錦之介の見事さ。
良くも悪くも結局は彼一人の映画だろうか。
戦後の東映オールスター忠臣蔵に
きっちり3本とも出演してどんどん役のランクを上げていった
"中村錦之助"にとって大作映画における大石役は
東映時代劇の終焉によって逃してしまっていた
念願の宿題だったのかもしれない。
この題材で2時間40分飽きるシーンが一つもないだけでも
十分なクオリティの超大作ではなかろうか。
『赤穂浪士 天の巻・地の巻』 1956年
監:松田定次 主演:片岡千恵蔵、市川右太衛門、大友柳太朗 他
★★★☆☆
1956年公開、東映オールスター忠臣蔵。
観客が元のお話を把握している事を前提とした
ダイジェスト風味の作りであるため
正当派の忠臣蔵映画として期待すればやや物足りない。
しかし、さすがはオールスターコンセプトだね。
代わりに各登場人物の見せ場については
徹底して贅沢な尺が用意され
思う存分に、大御所達の貫禄芝居が堪能できる楽しさは
今作ならでだろう。
驚く程に大仰な台詞回しに痺れまくるべし。
狂言回しとして立ちまわる、上杉方の密偵を勤める浪人に
大友柳太朗
威厳と人情を見事に兼ね備えた大石内蔵助に
市川右太衛門
苦渋を舐め続ける悲劇の藩主、浅野内匠頭に
東千代之介
様式美とまで言える悪役爺を見事に体言してみせた吉良上野介に
月形龍之介
恋に生きた美男の脱走者を演じたのは
若き中村錦之助
そして、僅かな登場シーンながら圧巻のインパクトを残す
貫禄の片岡千恵蔵。
まさにお祭りに相応しい豪華絢爛な作りで、
1956年においてこの密度のカラー映像というのも
邦画としては驚き。
やや一作品としての纏まりは薄いのだが
ただただ幸せなひと時を次から次へと提供してくれる素敵な一品。
『あしたのジョー』 2011年
監:曽利文彦 主演:山下智久
★★☆☆☆
言わずと知れた傑作漫画『あしたのジョー』の実写版。
若さの全てをボクシングに捧げ合う
二人の男の魂のお話。
半端かな。
主人公やヒロインに現代風の味を持ち込んでいる割に
舞台は当時の再現に拘っているんだよね。
結果、物語の整合性も含めて
どう仕様もない程に浮いてしまった不思議な世界観に
最後まで慣れきれなかった。
まずここで勿体無い。
またこの原作を現すのに必要な点はただの一つ
「狂気」ではなかろうか。
若者特有、男特有の狂気とも言える拘り抜きには
『あしたのジョー』は語れまい。
しかし矢吹丈のキャラクター性にも
力石徹のキャラクター性にも
この作品からは若者を熱狂させるだけの狂気は見当たらない。
彼らは何故戦うのか。
このテーマから一番大事なパーツが抜けている気する。
役者の頑張りは間違いなく伝わるし
決して全体を通して悪い作りではないのだが
上記の世界観の非統一感と
キャラクター達のボクシングに賭ける拘りが
いまいち伝わらないという脚本の致命傷を考えれば
決して満足できる一本ではないだろう。
『明日に向って撃て!』 1969年
監:ジョージ・ロイ・ヒル 主演:ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード
★★★★☆
銀行強盗で名を馳せた二人の男による
行き先もわからぬ逃避行のお話。
何処に逃げたとしても
結局、この二人に未来は無いんだろうね。
舞台をアメリカからボリビアへ移そうが
彼らにとっての安息の地になろうはずもなく
その性根に導かれるままの人生は変わらない。
しかし、死を目前にしながら
まだオーストラリアへの夢を語るあたり
ある意味では幸せそうに見えなくもないんだな。
そんな二人の腐れ縁、人生の有り方を眺めるのも悪くない一本。
淡々と運ぶストーリーから目を離せば
実は何処を切り取っても一級品のニクイ映画。
特に時折挿入される洒落た音楽や演出は
対照的な主人公達の言動から浮き上がり
何とも言えない不思議な軽快さを彩ってくれる。
『仇討』 1964年
監:今井正 主演:中村錦之助
★★★★★
些細な意地の張り合いから果し合いに及んでしまった侍達の
事後処理としての仇討物語。
これは滑稽だね。
あまりに制度、様式化した「仇討」の虚構と
そこに放り込まれる生の人間の苦悩を描くお話。
武家社会の残酷さや、空虚さを題材にした時代劇は多いが
こうも実直にやるせなさが伝わってくる物は珍しい。
主人公を取り巻く構図自体はシンプルでありながら
延々と社会と人間を対比をする構図が良いのだろうか。
皮肉すぎる展開の一つ一つが何重にも重なり合う
密度の高さについ引き込まれしまう。
武士として求められる行為を取り続ける程に
逆に武士であることに殺さていく主人公を萬屋錦之介が熱演。
剣の勝負に勝つことで事態が悪化するのが現実ならば
彼らの求める人生観はあまりにも出鱈目ではないか。
置かれた立場故の変遷が実に繊細に演じられている。
優しく苦悩を続ける兄役の田村高廣も実に良い。
家と人、両者で板挟みになる彼こそが影の主役。
また、自信と傲慢さを当たり前のように兼ね備える
恐怖の象徴としての丹波哲郎の存在感や
人生の酸いも甘いも噛み分ける説教和尚役の進藤英太郎も抜群。
ここまで役者が嵌っている作品は見ているだけで幸せだね。
誰が悪いと明確に断言できない人間味を感じながら
その誰もが絶妙に届かない心地の悪さを保っている。
何とも困った傑作映画。
『熱海殺人事件』 1986年
監:高橋和男 主演:仲代達矢
★★★☆☆
独自の哲学に従う狂った刑事がみせる
殺人事件捜査のお話。
キャラクターが凄いね。
皆が世間の常識や理屈の全て真逆を行くような
プッツン発言を延々と重ね続けるナンセンス抜群なコメディ映画。
登場人物の皆が狂っているんだけど
出鱈目な事ばかりを口にする彼らの内側にこそ
本質的な物が見えてくる瞬間はあるね。
本音であるが故に生まれる説得力。
ただ、そのあたりは素晴らしいセンスなんだけど
終盤にかけての劇中劇モードあたりから
正直に過ぎる人間的な感情が前面に押し出され
前半戦や舞台設定で見せたナンセンスさからすれば
どうしてもクドく映りその熱演に逆に冷めてしまうのが難点。
人生の苦みや愛が詰まっていて、お話自体はとてもイイ話なんだけどね。
全編を通すと、モードの変わり方に違和感が強く
自分は何の作品を見ていたのだろうと冷静になってしまい
一本の映画としてはやや納得度が低いかも。
なお、主演のハイテンション刑事を演じる仲代達矢は最高。
クッソ真面目な役が多い印象だろうが
この手のやりすぎな事がジョークになるレベルの
作り込まれたキャラクターもハマリ役。
この駄目すぎる主役がカッコよく感じてくるから不思議なもんで
内容とは別に仲代ファンなら是非に見ておきたい一本。
『熱い血』 1956年
監:ニコラス・レイ 主演:ジェーン・ラッセル
★★★☆☆
独自の文化圏を形成しているジプシー部族の族長が
自身の死期を悟り、白人被れの若い弟に後を次いでもらうため
掟に従った彼の結婚話を進めていくお話。
ジプシーの古い風習を楽しむ映画だろうかね。
妻と夫との不思議な関係や
結婚パーティの様子、独特な踊りや歌の数々は
見ているだけで異国情緒たっぷり。
ストーリーにこそ、特に目新しい点はないけれど
白人女と恋仲にありながらジプシー女と結婚する
離れ業をやってのける弟のパワフルさは中々です。
古い伝統を嫌い、白人文化に被れてるように見えて
何だかんだ言いながらも、自身のルーツには誇りを持つ
彼の男らしさが一番の見所でしょう。
そして浅黒い肌を持つジプシー妻の気高さと美しさね。
この何とも素直になれない二人の男女を
包容力抜群の族長が後押しする微笑ましさ。
物珍しい文化圏の音楽で魅了しつつも
展開は、王道とも言える男女の物語。
バランスよく出来てる一本です。
『アトミック・トレイン』 1999年
監:デヴィッド・S・ジャクソン 主演:ロブ・ロウ
★★☆☆☆
ひょんな事から核兵器搭載の列車を止める役目を負ってしまう
何とも運の悪い主人公のパニック映画。
アクション寄りのパニック映画としては
非常に丁寧で、適度にお馬鹿でよく出来ているが
後半から状況は一変。
何故か舞台は列車から、大パニックとなった街へと移る。
人間が持つ残酷さや、愚かさを描くつもりなのだろうが
イマイチ、空回りな重みのない展開が多く
前半のテンポの良い密室空間でのアクションに慣れた後に
こんな冗長な演出が続くシーンへの移行は無理だ。
何処に向かっているのか全く見えなくなる
「何故、ココで終われなかった」系の蛇足映画。
代表作になれる素質あり。
『穴』 1960年
監:ジャック・ベッケル 主演:マーク・ミシェル 、他
★★★★☆
フランス映画。
難攻不落の刑務所脱獄を企む5人の男たちの物語。
圧巻のリアリティと緊張感だね。
特別なBGMや盛り上げ演出などはなく
淡々とした脱出の軌跡を描くだけで全編が進むのだが
その分、密度たっぷり、個性たっぷり、センスたっぷりの
ガチンコ一本勝負。
どんな人間も一つの目的で集団を作るだけで
十分なドラマは既にあるもんだ。
全ては描き切れるかどうかだと実感する一品。
あくまで計画の成否を担保に進めながらも
オチの淡々とした終わり方も心地良く
脱出物は雰囲気作りこそが全てと納得できる良作。
『あなた買います』 1956年
監:小林正樹 主演:佐田啓二
★★★★☆
プロ野球の新人スカウト合戦における
化かし合いの様を描くお話。
ドラフト制度ができる前は自由に学生を囲い込めた時代なのかな。
時代や制度がどうあろうと、プロスポーツ争奪戦の本質など
今でもこんなものだろうとは思えるのだが
やはり、1956年当時の大らかすぎる世相というのが
その泥沼に拍車をかけ圧倒的な面白さを見せてくれる。
あまりの虚構と現金の飛び交いっぷりに
これはもう人間が信用できなくなる映画だよ。
そして、信用できない負の部分を前面に出すからこそ
一周して信じたいと願える感情も何処か見えてくる。
劇中にもある台詞だが
20歳そこそこの若者が一晩明けて突然大金持ちになる構図。
まして、その瞬間が来るまで一言もお金のことなど口にしてはいけない
「健全」の代名詞である野球少年、青年を取り巻く環境として
これは間違いなく狂っているわけだ。
この題材を社会風刺に寄せては描きすぎずに
あくまでスタイリッシュなスカウト稼業のやり取りと
堂々のヒューマニズムで仕立てあげてみせるあたりは
さすがの小林正樹、見事なエンタメ映画。
何といっても、明かにカタギに見えない
胡散臭すぎる伊藤雄之助を人間として信じてみせろという
意地の悪い無理難題を観客と主人公に突き付けてくる
中々に楽しい作品です。
見たいドラマがきっちり見られる
とっても信用度の高い一本。
『アニー・ホール』 1977年
監:ウディ・アレン 主演:ウディ・アレン、ダイアン・キートン
★★★☆☆
コメディアンで徹底した皮肉屋の主人公が
別れた恋人アニーとの恋愛をユーモアたっぷりに振り返るお話。
何と言う屑野郎。
主人公の魅力が全ての映画かな。
最初から最後まで喋り倒しで
常に周囲に社会にと何らかの皮肉を言い続ける。
愚痴ると言うよりも、彼にとっては自然な行為なのだろう。
恋愛においてすら、決して自己を失わず
愛を盾にとった相手への降伏はしない。
そんな彼と付き合えたアニーの人柄も中々。
正直物同士の恋愛は、グダグダな中からも
実にすがすがしさが残る不思議。
個人的にはこんな恋愛関係はご免こうむりたいけどね。
主人公が延々と観客に語りかけてくる演出も含め
映画自体が一つのコメディ劇かのようで
とっても軽快。
社会への皮肉やブラックユーモアがあってこそ
アメリカンジョークなんだという
説得力だけでも楽しめる一品かな。
『アパートの鍵貸します』 1960年
監:ビリー・ワイルダー 主演:シャーリー・マクレーン
★★★★☆
社員3万人を超えるマンモス保険会社に勤める主人公が
上司達に自身の部屋を不倫の逢引場所として提供し
出世を目論もうというお話。
何というチープなストーリーだろう。
だがこれが抜群に面白いから不思議。
気軽に入れるラブホテルのような場所が
無い世の中なんだろうね。
何より、マンモス会社の社員達の活力に負けてしまう。
不倫だろうが、パワハラだろうが
男女の付き合いのために
そこまで精力的に動ける物なのかという姿勢に元気がもらえる。
ヒロインからして、好きでオジサンと不倫してるんだからね。
楽観的なパワーが心地良い。
基本的なお話は堂々のラブストーリーだしね。
格好悪い主人公が格好良く見えてくる瞬間が確実に存在する。
そんな絶妙なカタルシスを楽しめるコメディロマンス傑作。
全体通して落ち着いたテンポが素敵。
『網走番外地』 1965年
監:石井輝男 主演:高倉健
★★★☆☆
冬の網走刑務所に収監された
若きヤクザの姿を描くお話。
実録風の導入からは考えもつかない
超エンターテイメント作風。
舞台を日本最北の流刑地としながらも
決して厳しすぎず、小難しくもなく
あくまで、主人公を始めとした登場人物の
多彩な人間模様が楽しめる。
物語はシンプル。
何処か抜けている純情な馬鹿男が
流されるままの脱獄に巻き込まれるのだが
その大雪原を流離う絵面は圧巻の一言。
北海道らしい雄大さが実に素晴らしい。
男前と荒々しさが共存する
若き高倉健のためのスター映画でありながら
物語に映像にと贅沢なサービスが味わえる一品。
『アバター』 2009年
監:ジェームズ・キャメロン 主演:サム・ワーシントン
★★★☆☆
遠い未来、舞台は異惑星にて
虐げられる原住民との交流を描くお話。
一芸があれば映画はOK。
製作段階から、そんな割り切りが見え隠れする
あらゆる意味で期待通りの一作。
テーマやストーリーは支離滅裂で
結局、主人公が見つけた人生観がなんだったのか
納得いく形で一から教えて欲しいくらいだろう。
しかしそんな事は映像で吹っ飛ぶね。
全編の尺がそれだけで持つかは疑問だが
この圧巻のCGファンタジー世界だけでも
十分にエンターテイメントを提示している。
そういう作品もあってもよい。
映画のコンセプトは自由、正解なんて無い。
一見、大仰な世界観やテーマ性の空気から
どの段階でネタ映画である事に気付けるかが勝負。
おそらく、大佐?の滅茶苦茶な言動が目立ってくるあたりが
起点ではないだろうか。
『あばれ獅子』 1953年
監:大曾根辰 主演:阪東妻三郎
★★★☆☆
後の勝海舟の父親である
江戸ッ子貧乏旗本、勝小吉の人情物語。
何故、こうもヤンチャな中年とは可愛らしいのだろうか。
喧嘩っぱやく、遊び上手で、代わりに敵も多い。
困った人が居ればついつい手を差し伸べる。
息子の存在は大の苦手でありながら
それでも、密かに期待をかけ続ける。
奥さんとは何だかんだと惚気っぱなし。
そんな破天荒な隠居旗本の姿を阪東妻三郎が熱演。
この作品が遺作だってさ……まだまだ若いのにね。
旗本が主役でありながら
まさに、そこにある物こそ江戸ッ子の代名詞。
町人文化にどっぷり漬かったその姿は痛快の一言。
息子は息子でインテリながらの
また違った変わり者で、この二人の掛け合いは実に微笑ましい。
父親と息子の持つ、微妙な気恥ずかしさが綺麗に出ていて
とにかく顔をにやつかせながら楽しめる地味良作。
しかし晩年の阪東妻三郎の人情味に適う人は
まぁいないですね。
何をやっても結局許せてしまう愛嬌がステキ。
『アビエイター』 2004年
監:マーティン・スコセッシ 主演:レオナルド・ディカプリオ
★★★☆☆
20世紀最大の大富豪と呼ばれる
ハワード・ヒューズの航空機にかけた激動の半生を描くお話。
まず映画界の風雲児っぷり。
私財を投げ打って、絶対に回収できない超大作を撮り出す
馬鹿社長っぷりが全てじゃないかな。
この掴みで得た最初の好感触があればこそ、
どう見ても、潔癖症の変人でしかない彼の半生を
最後まで情緒たっぷりに見守れたのだろう。
キャサリン・ヘップバーンとの華麗なる恋愛描写も好感度UP。
ただし、後半戦と言うか本題の方はイマイチ。
航空産業の既得権益、癒着した政治家との戦いとなると
急に自業自得な態度が目立つようになり
また精神的に病んでいる描写ばかりが取り上げられ
ドラマらしいドラマは拝めなくなってしまう。
具体的な政治や経営のお話が用意されるでもなく
ただただ、一方的に追い詰められる描写が続くだけでは駄目。
病気です、幼い頃のトラウマですと
劇中で揺れ動く隙の全くない、確定された事象を延々と描かれても
観客は困ってしまうのだ。
これだけ好き勝手に自分のやりたい事だけを追求し
世界最大のお金持ちと言われながらも
あまり幸せそうには見えない部分に
人生の何たるかを考えさせられる物はあるのだが
ここも主題とするには絶対に残りの人生の方が必要。
30年以上も寿命を残して終幕では、どーにも半端な印象しか残らない。
他に見所と言えば、圧倒的スケールで再現された
アイディア満載の航空機の数々かな。
彼の考案する変態設計の連続は素直に楽しく
劇中でどんどん年齢を重ねるディカプリオの変遷と共に
雰囲気で楽しむ佳作だろうか。
『アフタースクール』 2008年
監:内田けんじ 主演:大泉洋、佐々木蔵之介、堺雅人
★★★★☆
ある朝、突然起こった男友達の失踪によって
不思議な事件へと巻き込まれていく主人公の姿を描くお話。
まずキャラクターが面白い。
佐々木蔵之介の人生に捻くれてしまった男と
大泉洋のただただ真っ直ぐな男とが繰り広げる
絶妙に噛みあわない人間関係と
それ故に漏れてくる各々の人生観が良い。
どこか得体の知れない雰囲気を醸し出す
幼馴染、堺雅人の好演がまた素晴らしく
暖かくもやや切ないお話に魅了される。
その上で一体何が真実で何が嘘なのかを
常に観客に含みを持たせたまま続く探偵劇と怒涛の謎展開。
それを受けるどんでん返し脚本は見事の一言で
終盤には冒頭からのシーン全てが見事に繋がるという
素晴らしい職人技が堪能できる。
終始、人情劇の側面を持たせつつも
観客には常に種明かしを想像させてくれる
贅沢な仕掛けに満ちた一本。
『あぶない刑事』 1987年
監:長谷部安春 主演:舘ひろし、柴田恭兵
★★★★☆
粋で陽気な刑事物。
自由奔放な柴田恭兵と、見るからに渋めの舘ひろしの
オッサンコンビがとにかく素敵。
全編、スタイリッシュな構成で
主役二人による、ひたすらに軽快な掛け合いが楽しめる。
狙われた安っぽさが成功しているB級傑作。
TVシリーズからの劇場版だが
作品本来の魅力は、余すトコロなく出ているので
単体で見ても全く問題ない。
劇場版の方が刑事物としての枠を越えてより荒唐無稽かな。
ストーリー自体はやや重めな点もあるが
あくまで主役の人間性を浮き立たせるための仕掛なので
この順序立てには安心感がある。
この二人は何だろうか。
女に弱いプレイボーイであるのは二人とも一緒。
破天荒でルール破りな刑事であるのも一緒。
渋く決めてるが実際は喋り好きなのも一緒。
なのに、何故ここまで個性が違うのか。
不思議。
役者の持つイメージと、作品として作られた雰囲気が
これほど綺麗に一致した映画ってのは
早々見られる物ではない。
とにかく、良い意味で邦画離れした一品で
社会派でもなく、時代劇でもないのに
日本にこうも痛快なスタイリッシュアクション傑作がある事に驚かされる。
『あぶない刑事リターンズ』 1996年
監:村川透 主演:舘ひろし、柴田恭兵
★★☆☆☆
『あぶない刑事』→『またまたあぶない刑事』→『もっともあぶない刑事』
この80年代劇場版 三部作から10年近くを経て復活した同窓会映画。
やっている事は一緒。
でも、何かが足りない一品。
時代だろうかね。
あれは80年代の怪しげな横浜、関内などの様子にこそ
実は説得力があったのだと、今更ながら納得させられる。
この作品は明るすぎて、近代的すぎて
二人のキャラクターが活躍する舞台としては
根本的に馴染まないのだろか。
悲しい程に浮いている。
対して、それとは逆をいくかのように
どんどんお話のスケールは大きくなり
あくまで、B級として狙われた傑作だった物が
駄目な意味での本当のB級雰囲気すら感じられてくる。
明らかに年を重ねて、役者としての渋みが出ているのに
あくまで昔と「同じキャラ」を演じているあたりも
違和感が出る要因かもしれない。
10年前と全く同じイメージを出せているのは仲村トオルだけ。
その間、あれだけ渋い役柄をこなしてきた中で素晴らしいです。
あと仕方のない事ではあるが
ギリギリで作品の重みを保つ要として必須の存在だった中条静夫さんが
既に亡くなっているのもあまりにも痛い。
誰が悪いでもなく色々と無理のあった復活企画なのだろう。
『アフリカの女王』 1951年
監:ジョン・ヒューストン 主演:ハンフリー・ボガート、キャサリン・ヘプバーン
★★★★☆
第一次世界大戦の開戦によって、
ドイツ領東アフリカに取り残された二人の男女が
命がけの川下りを行い活路を開くお話。
登場人物、僅か二人。
描かれるは、延々と船上で繰り広げられる掛け合いのみという
あまりに潔すぎの良い構成にノックアウト。
これが成立するんだね。
高潔なイギリス人女性としてキャサリン・ヘプバーン
珍しくぐうたら役で登場の船長としてハンフリー・ボガード。
この対照的な二人の描く関係性はは密度抜群。
それがアフリカの大迫力の情景と混ざり合うのだから
何と言う贅沢な一本だろうか。
所々で挿入されるアフリカ動物達の姿や
見た目から一発で納得できる本物の大急流など
とにかく緊迫感に拘った本物の数々。
さらに結局は惹かれていく二人の様を
お約束として、顔を綻ばせて見守りつつも
その行く着く先、落とし所だけは最後まで確信が持てない。
名優二人の職人芸だけでも十分に楽しめる傑作ロマンス。
『アベンジャーズ』 2012年
監:ジョス・ウィードン 主演:ロバート・ダウニー・Jr、クリス・エヴァンス、マーク・ラファロ、クリス・ヘムズワース
★★★☆☆
マーヴルを代表する一大ヒーローが
一度に終結する豪華なお話。
これは一定の枠を超えられない映画だよね。
大人気作品『アイアンマン』シリーズを主軸に
『マイティ・ソー』『キャプテンアメリカ』『ハルク』などから
単体で主演を張れる連中が、画面狭しと暴れ続けるのだから
逆に物語を描ける幅はどうしても狭くなるだろう。
基本、点と点の集合体のような構成で
圧倒的な個性が一つのチームとして「対立と和解」を経ていく
熱いストーリーを期待すればやや肩透かし。
特に前作がやや消化不良気味に終わったキャプテンの扱いは
この作品こそが本番ではなかったのだろうか。
本当にホークアイなどを出している暇があったのか疑問の薄さ。
あくまで見て楽しむ大作で
映像の素晴らしさは文句無しの一級品。
何処を切り取っても、ヒーローばかりが写り込む
絵面の豪華絢爛さだけで十分に楽しいのだから
これは約束された一本なのだろう。
傑作映画とは言い難いが、突っ込むだけ野暮ってもんだね。
『アマデウス』 1984年
監:ミロシュ・フォアマン 主演:F・マーリー・エイブラハム、トム・ハルス
★★★★☆
自由すぎる天才人のモーツァルトと
生の人間である凡人サリエリのお話。
クラシックは間違いなく大衆芸術であるという
当たり前の事をきっちり思い出させてくれる名作。
全編モーツァルト、一級のフルオーケストラ
目を見はる宮廷美術の数々。
こういう豪華さをシンプルに楽しいと思える土壌はあるはずなのに
何故、普段のクラシックはユーザーが少ないのかと
不思議に思ってしまう程に見やすい芸術作品。
お話は天才故の破滅の物語。
サリエリとモーツァルトでは全く目に映っている物が違いながらも
ある種を共有しているあたりは素晴らしい緊迫感。
凡人の嫉妬は当然でありながらも
天才は天才で苦悩するもんだね。
そして締めくくるはあの「レイクエム」。
その壮大さにただただ圧倒される大演出作。
『アメイジング・スパイダーマン』 2012年
監:マーク・ウェブ 主演:アンドリュー・ガーフィールド
★★★★☆
サム・ライミ監督版とは
全く別シリーズの新生スパイダーマン。
スパイダーマンの誕生から描かれる
若きピーター・パーカーの青春劇。
エンターテイメントの側面は残しつつも、
あくまで、主軸は人間としての成長物語。
力を持つ意味とは、人を愛し、また守る意味とは……
周囲から与えられる様々な教訓が彼の人生観を育てていく。
視点を主人公一本に絞ったシンプル作品で、
揺れ動く彼の姿をついつい見守ってしまう実に優しい物語。
つまりこれは、ヒーローの何たるかを語っている映画なんだね。
少々急ぎ気味でトリッキーな展開を見せる個所もありつつ、
一本、筋の通ったテーマが飽きさせない良作。
同じ題材を短期間で仕切り直すからには、
当然、前シリーズとは違った方向性が必要なはずで、
この舵取りは正解だろう。
比較して10年間のCG技術の進歩に注目して見ても楽しい作品。
『雨に唄えば』 1952年
監:ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン 主演:ジーン・ケリー
★★★★☆
1920年代の映画界を舞台に
サイレント時代からトーキー時代への移り変わりに戸惑う業界を
コメディタッチに描くミュージカル。
何と言っても曲が良いよね。
豪華な美術とダンスで彩られる名曲の数々だけで
十分に楽しめる一品。
途中、ドナルド・オコナーによるコメディ芸が
あまりに極まりすぎていて
主役が喰われているとすら思えるのだが
その後、雨の中で歌い踊る一人舞台では
完全にジーン・ケリーが巻き返す。
名人芸のオンパレード、演技合戦の体すらある。
退屈な日常生活にリズムや踊りを与える事で革命を起こす事が
ミュージカル映画の醍醐味とすれば
このシーンは屈指の名シーン。
次から次へと絶え間なく繰り広げられる一級の連続。
何と贅沢な映画だろか。
ただ非常に見やすい分『パリのアメリカ人』程の芸術性と言うか
鬼気迫るような拘りは薄味なのかな。
終盤付近の空想世界の描写がややそれを臭わせるだけに
少し半端な感じが残るのだろか。
ただ、このシーンの風になびく衣装のアイディアは圧巻。
まさに度肝を抜かれた。
100分間、きっちり魅了してくれるクオリティの高いミュージカル傑作です。
『アメリカン・ジゴロ』 1980年
監:ポール・シュレイダー 主演:リチャード・ギア
★★★☆☆
セレブな奥様だけを相手にする
ビバリーヒルズ専門の高級男娼が
ある殺人事件の容疑者にされてしまうお話。
綺麗な映画だよ。
抜けるような青空、爽やかな空気
オシャレに過ぎる音楽もさる事ながら
何よりも主人公の姿が美しい。
完全なヤクザ商売なくせに
彼から感じられる暴力性は最後までゼロ。
とっても理知的で、包容力に満ち
「10年間乾いた女を濡らす快感と意義」を
真剣に語りだすフェロモン男。
相手女性が醜聞を恐れ
有って然るべきアリバイ証言が集められないという
理不尽な現状に対しても
警察の横暴な捜査に対しても
彼の態度は至って紳士に貫かれる。
なるほど、これは女性にとって理想の男を描く作品か。
社会派仕立てのメインストーリーが根底にありながらも
気付けば、純然たる恋愛映画になっているのも納得。
まずリチャード・ギアのイケメンぷりを
映像演出のハイセンスさで彩りきった
コンセプト勝ちの一本。
『アメリカン・ハッスル』 2013年
監:デヴィッド・O・ラッセル 主演:クリスチャン・ベール
★★★☆☆
ノンフィクションをベースとした
詐欺犯罪者とFBIタッグによる
政治家の贈収賄に絡む囮捜査のお話。
登場人物、皆、何処かおかしいのポイントだろうか。
一見して緊迫のサスペンスのようでありながら
その実はプッツン男とプッツン女のお馬鹿な関係に基づく
お馬鹿なやりとりが前面に押し出され
雑な作戦進行が何とももどかしく映る。
現実のいい加減さを現しているのか
人間の活力を現しているのか
どちらにしろ、そのキャラクター性の割りを喰う形で
映画全体が実録物としても、サスペンスとしても、どんでん返し物としても
物足りない印象が残ってしまったのは残念かな。
基本、人間ドラマと割り切って楽しむ映画で
クリスチャン=ベールの器用さを堪能する分には最高だな。
『アメリカン・ビューティー』 1999年
監:サム・メンデス 主演:ケヴィン・スペイシー
★★★★☆
情熱を失った毎日を送り続ける父親
世の全てが窮屈に思えているかのような母親
そして、思春期真っ只中の一人娘。
そんな何処にでもあるアメリカの中産家庭が
崩壊していく様を描くお話。
参った。
一見、どこか愛嬌のある駄目親父の姿を追う
コメディ調のファミリードラマかと思わせておいて
中盤以降、その世界観は遥か遠くへ。
特に娘の恋人となる少年の存在感が凄まじい。
見ているだけで胃が痛くなるかのような
十代の繊細な心が作る独特の空気に
気付けばどっぷりとはめられている。
主人公である親父も含めて
間違いなく彼らはみな、道を踏み外しているはずなのだが
常に鬱屈した何かを抑え続けてきた姿からすれば
それ以後の方が圧倒的に幸せにも映る不思議。
人間の本当の生き方とは何なのか。
そんな漠然としたテーマを
退廃的でありつつもどこか美しい世界観で
見事に描ききってくれる異色作。
スロースターターながら
それ故にどこかで何かが変わった瞬間が際立つ傑作。
『嵐を呼ぶ男』 1957年
監:井上梅次 主演:石原裕次郎
★★★★☆
夜の銀座で一流への野心に燃えたぎる
若きドラマーのお話。
まさに石原裕次郎のための映画だな。
若かりし裕次郎は凄いね。
二枚目である事はもちろんだが、
子供のようなヤンチャな愛嬌を持ち合わせ
それでいて抜群に男臭い。
幼い顔つきからも、ギラギラした野心が滲み出てる
何とも言えない魅力がある。
このあたりの日活映画全般は
登場人物がみな子供臭い精神を持っていながら
背伸びしたカッコつけなのが特徴だよね。
今作も母親に認めてもらいたいだけの
精神不安定な青年という立場と
ドロドロに汚れた芸能世界への野望という
全く相反する物語が、不思議とバランス良く共存していて
独特な熱気が作り出されている。
ロマンス一つとっても、果たして子供なのか大人なのか
とっても曖昧な雰囲気に包まれている。
繰り返すが、石原裕次郎に魅力にノックアウト。
何と言ってもドラマーがかっこいいんだな。
そんな馬鹿なとも思うが、この映画を見てしまえば
世界で一番カッコイイ職業がジャズドラマーである事は間違いなく
時代相応なヤクザな音楽の世界の熱気がダイレクトに伝わってくる。
あのサビが有名な挿入歌も
劇中ではしっかりとジャズとして成立しているから見事。
しかし、堅気でない世界として
音楽界を敬遠していた母親の嗅覚は
結局のところは正解だよね。
登場する芸能事務所の社長や、音楽評論家が
あまりに暴力団のそれにすぎますわ。
『アラジン』 1992年
監:ジョン・マスカー 主演:スコット・ウェインガー
★★★★☆
アラジンの魔法のランプでお馴染みのアラビア物語。
若者とお姫様との恋愛冒険譚。
1990年代ディズニーの金字塔。
圧倒的な枚数とセンスで彩られた
セルアニメの温かみはもちろんの事
キャラクターデザインが日本人から見ても受け入れやすく
お話も極めてシンプルで、お説教がましくもない。
本当に、素直に楽しめるエンターテイメント傑作。
異国情緒溢れる舞台と、ディズニー独特のデフォルメが
ほどよく混ざり合っていて、とても幻想的な雰囲気が楽しめる。
またそのロマンチックな世界観と
主題歌『ホール・ニュー・ワールド』の融合も美しい。
こうした名曲が生まれるディズニー作品は一味違う。
『アラジン ジャファーの逆襲』 1994年
監:トビー・シェルトン 主演:スコット・ウェインガー
★★★★☆
そのまま続編。
厳密には映画ではなくOVA作品。
キャラクターの魅力を存分に楽しめる
純度100%の掛け合いアニメ。
前作、異国情緒の美しさや、ミュージカルとしての完成度、
あるいはジャスミンとの淡いロマンスなどなど
大作映画として影に、ついつい隠れがちになっていたが
『アラジン』のキャラクターはこんなにも面白いのか。
アラジンとジャスミンは、如何なくバカップルぶりを発揮して
実に魅力的なお調子者同士を演じている。
その中でジニーの愛嬌ある肩身の狭さがとってもステキ。
そして今作の主人公であるオウムのイアーゴでしょう。
彼の人間臭さと、軽妙な語り口による爽快感は
70分と言う短い尺を一気に駆け抜けるだけのパワーに満ちている。
本当に彼らの掛け合いを眺めているだけで
幸せな気分になれてしまう安定感。
もちろん、前作のようなスケールの大きさこそ期待できないが
このアラジンの世界に、まだまだ浸っていたいと言う願いを
見事に叶えてくれる小粒な良作。
『アラジン完結編 盗賊王の伝説』 1996年
監:タッド・ストーンズ 主演:スコット・ウェインガー
★★★★☆
三作目。
やはりOVA。
活劇復活だね。
伝説の宝を目指して、盗賊団と入り乱れてのアクション作。
ドラマとしてはアラジンの父親が登場。
彼はifの世界のアラジンの姿なわけだよね。
正しい夢の見方を知らないコソ泥は
そのまま悪の大将になっていくわけだ。
気のイイ兄ちゃんである所のアラジンが
父親の立場からとても難しい感情に悩む展開は切ない。
しかし、そこはディズニー。
父と息子なんてものは、出会って、喜んで、気まずくなって、喧嘩して、和解してさ。
それでも、最後は二人で協力して成し遂げればいいわけだよ。
そんな元気を貰える爽やかな完結編。
もちろん初代のスケールや完成度には遠く及ばないが
お気に入りのキャラクターで
ちょっとイイ話を見せてもらえる満足感は中々。
残念ながら前作に続き、魔人のジニーの印象は薄め。
むしろパロディ描写が続きすぎて、ややクドメな存在だろうか。
新キャラクターが活躍する中では仕方が無いのだけどね。
『アラバマ物語』 1962年
監:ロバート・マリガン 主演:グレゴリー・ペック
★★★★☆
黒人差別全開の1920年代のアメリカ南部を舞台に
公正を貫く弁護士と、その子供達の視点から見た社会像のお話。
いわゆる公民権運動が活発になる1960年代ですら
活動家や指導者的黒人の暗殺事件が多発しているわけで
この地方の20年代保守層の力は半端ではない。
そんな中ですら、客観的に見て無実は無実と貫ける
主人公の心の強さは凄まじい。
暴力的な衝動に捕らわれず、そして卑屈にもならない。
ほぼ、グレゴリー・ペックでしか成立しない主役像という
反則技のような映画。
ただ決して裁判物ではないんだな。
あくまで主役はその子供達。
子供の視点から見た父親像であり、周囲の人間像であり
初めて味会う理不尽な社会の片鱗なわけだよ。
この描写が本当に丁寧で素晴らしい。
現実における様々な欺瞞や嘘がこんな素直な視点から
続々と映し出されていく様はある意味恐ろしいよね。
子供ならではのちょっとした謎や冒険劇の側面もあって
その全容が浮かび上がる様も見逃せない。
しかし理想のアメリカ人像No.1は伊達ではないね。
印象的なのは、主人公が猟銃で狂犬を見事に仕留める姿を見て
息子が父親をカッコイイと見直すシーンでしょう。
理知的なインテリを求めつつ、そういう姿も必要であるという。
アメリカテイスト満載の傑作。
『アラビアのロレンス』 1962年
監:デヴィッド・リーン 主演:ピーター・オトゥール
★★★★☆
1916年、トルコからの独立機運高まるアラブを舞台に
現地に派遣されたイギリス人将校が
イギリスとアラブの間で板挟みなるお話。
複雑な背景だよね。
アラビアそのものにいくつもの民族派閥があって
イギリスも、アラブの独立をうたいながら
フランスなどとともに、植民地化への野心を隠さない。
とんでもない二枚舌。
列強の代理戦争の体は十分にある。
そんな混乱の中で足掻く、ロレンスの人間臭さが実に痛々しい。
強気にもなれば、弱気にもなる。
増長もすれば、卑屈にもなる。
本質的に、彼はアラブ人になりたかったという事なのだが
それを目的に生きるのは、あまりに厳しい人生観だよね。
いくら頑張っても、本当の意味で受け入れられるはずもなく
祖国からも距離を置き、アラブ人からも距離を置かれる。
とても切ない物語。
それを圧倒的な映像美で壮大に描く超大作。
このスケールは反則。
贅沢な尺を使った落ち着いた演出の数々は
生まれながら超大作たる使命を持つ余裕の現れ。
砂漠の遠景を使った名シーンは挙げればきりがない。
史上稀に見るスケールの連続に思わず息を呑み
それだけでも、十分に楽しめる。
このスケールでありながら
必要以上のエンタメ路線に舵を切らなかった事が
見事に当たっているオンリーワン傑作。
『有りがたうさん』 1936年
監:清水宏 主演:上原謙
★★★☆☆
道中で道を譲ってくれた人々に
必ず「ありがとう」と声をかけることで親しまれる
峠道バスの運転手を主人公に据えた人情話。
乗り合いの乗客達から自然と醸しだされる
わずかばかりの人間模様の映画だね。
全編を通して驚く程に何も起こらないのが衝撃的で
劇的な展開もなければ、思わず聞き入る人生譚もない…
ちょっとした会話同士が繋がりつつも
淡々とバスを乗り降りして行くだけの描写が続いていく。
同じ構図、同じ展開、同じシーンが連続して
本当に峠を二つ越えるバス車内だけの作品でありながら
現代社会からすれば信じられない程に
乗り合いの皆が皆、会話をしあう文化が見ていて楽しい。
彼らの日常会話そのものには
決して核心に迫る類の話は出てこないのだが
しかし、皆が皆わざわざ外には漏らさないだけで
何か各々の人生に重たく抱えている物があるだろうことは
その会話の節々からよく滲んでいるのが見事。
劇中終盤の台詞にある
「たった20里の中でもコレだけのことがある」
まさに人それぞれだろう。
表面的なコミュニケーションが続く退屈な構図だからこそ
その奥にある何かに想いを馳せられる。
乗り合いの赤の他人一人一人に、自分の人生と同重量の人生があるわけだよね。
他人に優しくなれる一本かな。
『アリス・イン・ワンダーランド』 2010年
監:ティム・バートン 主演:ミア・ワシコウスカ
★★★☆☆
自分の運命を決めてしまう婚約パーティの中から
思わず逃げ出したアリスが、庭の穴へと落ちてしまう。
そこには不思議な世界が待っていてというお話。
「気が触れている」という言葉がしっくり来る映画。
映像はオリジナリティ溢れるものだが
その意味では、原作の持つ雰囲気は再現できている。
だが基本、全てのシーンが点と点のつなぎ合わせで
登場人物も漫然と出てくるだけで
アリスに我侭な少女性を見る事すらできない。
ティム・バートン流のアリス世界を紹介するという以外には
特に楽しめる要素はない一本かな。
『歩いても 歩いても』 2008年
監:是枝裕和 主演:阿部寛
★★★★☆
亡くなった兄の命日に集まった
老夫婦と子供達、3つの家族が織りなす日常物語。
なんの仕掛けもない淡々とした映画。
しかしこの圧倒的な日常描写の中にこそ
心の機微ってのは潜んでいるわけだよね。
偏屈爺さんと、リアリストなお婆さん
明るい性格の姉と、無口な性格の弟
調子だけが良い夫と、気苦労の多い後妻
無邪気な孫達と、やや距離のある連れ子。
ちらつく亡き兄の幻影。
そんな三世代、三家族。
言ってしまえば何処にでもある小さな身内の集まり。
盆や正月には毎年一千万世帯単位で繰り広げられる
現実世界の姿だろう。
でも十分なんだよね。
これだけで、実に多彩なキャラクター達なんだ。
観客は自身の現状、あるいは若き思い出と共に
必ず誰かの立場に感情移入できてしまう。
このマジックが全て。
全員が揃っている場面では
皆が皆、実に社交的で明るい雰囲気を保とうとする。
しかし、一端、全体の輪から外れた瞬間に
各々は驚く程にドライな事を口にする。
一家族だけとなる帰りの車中の会話
逆に残された老夫婦だけの会話
あるいは母と子、姉と弟、二人だけの会話……
別に大きな悪意があるわけでもなく
ズケズケと本音が出てくるのだ。
この距離感の見事さ、リアリティに
思わずハっとさせられる。
現実問題として面倒くさい事は多々あるだろうが
結局のトコロで家族とは良い物なのだろう。
そう素直に思えてしまう傑作ヒューマン。
『あるいは裏切りという名の犬』 2004年
監:オリヴィエ・マルシャル 主演:ダニエル・オートゥイユ
★★★☆☆
パリ警視庁の部署における確執を舞台に
二人の主任警視の対立がエスカレートしていくお話。
徹底したクズを堪能してください。
情報と事件解決のためなら、何でもありの警察の気質も中々だが
その中でも、壮絶な足の引っ張り合いが恐ろしい。
特にライバル側のキャラクターは強烈。
結果、何人が犠牲になれば済むというのだろうか。
「殺しておくべきだった」が真実その通りになる
凄惨な被害の連鎖も見るに耐えない。
キチガイに情けをかけても、後で自身や身内が殺されるだけ。
人道を説く前に、身を守るには殺すしかないのが現実なら悲しすぎるよ。
警視庁の腐敗や行き過ぎを描く以上に
まずこの人間の業に参ってしまう重い物語。
最後、主人公の到達する境地は、様々な想像が可能だが
どちらにせよ、そこに救いを求めるしかあるまい。
『アルゴ』 2012年
監:ベン・アフレック 主演:ベン・アフレック
★★★★☆
1980年前後、激動のイランを舞台に起こった
アメリカ大使館員の国外脱出計画を描いたお話。
いつの世も、世界中で海外旅行を計画する人が後を絶たないように
普段の生活で触れられない異文化とは
本来は楽しい物のだろう。
ところがこの作品は舞台が違う。
革命直後の情勢不安定な外国において
しかも、自国を敵視する空気が蔓延する中に放り込まれれば
誰の目から見ても、その全ては一変する。
警察でも軍隊でもない一市民の視線がの一つ一つが
こうも恐ろしく感じられるものだろうか。
今まで聴き流していてたはずの意味不明な外国語が
ここまで不安を掻きならしてくる物だろうか。
劇中に登場する全ての景色は、
全て、不安と緊張を煽る方向へと統一され昇華されていく。
そんな圧倒的な緊迫感に拘り抜いた110分。
演出の大勝利と言える傑作。
今作では主役となる脱出対象者6人の中に
特別な個性やドラマが用意されたわけではない。
また、計画の主軸となった偽映画プロジェクトも
派手なエンタメ仕掛けとして機能しているわけではない。
しかしそんなシンプルな物語に対し
観客の視線は間違いなく釘付けになる。
飛びきりの舞台設定と職人芸と言えるテンポ、演出
これらが噛み合うだけでサスペンスは面白いと実感できる一品。
『アルゴ探検隊の大冒険』 1963年
監:ドン・チャフィ 主演:トッド・アームストロング
★★★☆☆
幼き日に国を追われた王子が
国家の再興を賭け、神々の宝を求めて大海原へと旅立つ話。
ストーリーは有って無いような物だが
ギリシア神話をベースとしたモンスターの数々や
大掛かりなギミックをジェットコースター式に目で楽しめる
良質なファンタジー冒険映画だね。
ストップモーションアニメによる不思議な映像が
諸々の退屈パートを全て帳消しにしてくれる。
全編を構成する特撮の技術も凄いのだが
そもそも、映像としての導入の仕方が上手いんだね。
主人公達の置かれた危機的な状況や、期待感を煽る焦らしを十分に撒いた上で
いざ自慢の映像を的確に挿入してくるのだから
自ずからそういう物として目に映ってしまうだろう。
ストップモーションアニメと実写部分とが
綺麗に絡まる瞬間の見応えは十分。
特に、終盤の骸骨シーンの完成度の高さは素晴らしい。
あの骨人間は着ぐるみ手法では絶対に再現できまい。
『或る夜の出来事』 1934年
監:フランク・キャプラ 主演:クラーク・ゲーブル、クローデット・コルベール
★★★★☆
父親に結婚を認めてもらえないご令嬢が
ある日、男の元への脱走劇を試みる。
その道中に出会う主人公と繰り広げられるドタバタ男女劇。
「紳士物」と勝手に呼んでますがね。
ちょっと我儘で、世間知らずのご令嬢が
力強くウィットに富んだ紳士と出会って
振り回されながらも恋に落ちるという王道作品。
と言うよりも、映画ではこれが元祖なのだろうか。
1960年代まで第一線で活躍する黄金パターンだよね。
ジャンルの呼称は「スクリューボールコメディ」らしい。
ストーリーが素晴らしい。
映画はこうでなくてはと手を叩いて叫びたくなる
痛快な強引プレイが光る。
二転、三転する展開に、何所で着陸するのか
気付けば興味津々。
娘の幸せを願う親父さんが良いキャラクターだ。
二人の軽妙な掛け合いがホントに綺麗だよね。
ラスト展開、あの畳み掛けるようなテンポと台詞回しは実にオシャレ。
まさかエンドロールが出る直前こそが
一番の笑い所だとは思わなかった。
最後まで隙無しのノンストップ傑作。
何やら可哀想な登場人物が一人居りますが
彼の事はほっといてあげてください。
『暗黒街の女』 1958年
監:ニコラス・レイ 主演:ロバート・テイラー
★★★☆☆
1930年代のシカゴを舞台に
マフィアの顧問弁護士を勤める主人公が
ヒロインとの恋愛を経て、足を洗えないかと足掻くお話。
カッコいい男だね。
幼い頃の決意から、誰もが認める名士になるべくして
近道として選んだのが裏街道の弁護士稼業。
このギラギラした野望の姿が実に男らしい。
しかし、一人の女性との嘘の無い恋愛を経て
彼女のため、または違う生き方もあるだろうと
自らの人生を見つめ直す姿も素敵。
マフィアの暴君と繰り広げる掛け合いは
抜き身の刀のような緊張感抜群。
彼との関係性は、完全なる友情なわけだよ。
いや、互いが持つ敬愛の証明と言えようか。
こちらもとっても暴力性の高い男臭さ。
誰もよりも強く、そして優しい。
自己犠牲を厭わないそんな理想の紳士を見たければお勧め。
シンプルな映画ながら、ニコラス・レイ監督らしく
映像の密度は全編において高し。
『暗黒街の対決』 1960年
監:岡本喜八 主演:鶴田浩二、三船敏郎
★★★☆☆
街を牛耳る新興暴力団を相手に
汚職刑事と元ヤクザの男が立ち回るお話。
三船敏郎が後の『用心棒』のようにのらりくらりと
暴力団の中に入り込んで掻きまわす筋書だが
お話自体は取り立てて面白い部分はない。
ただし、妙に印象に残る謎の映画だね。
まず導入部分の異常なハイテンポに笑ってしまう。
例えば、一人が話題から退場した瞬間に
同じ場面に次の人物がすぐ入り込むような
独特なカットの連続が余りにも忙しく
状況説明がとにかく素早く事務的で
どこまで本気なのかが初っ端から見えてこない。
一見すれば真面目なギャング映画なんけど
終始、ジョークとのラインが判別できず
三流な刑事物、ヤクザ者、暴力映画全般を
小馬鹿にしてるとしか思えない演出の連続が気付けば楽しい。
それも普通の作品であれば
やや気恥ずかしいナンセンスで終わってしまうだろうが
何故かこんな作品の中央に鎮座するのが
かの三船敏郎と鶴田浩二のW主演なのだから性質が悪いね。
1960年公開映画となればもちろん二人とも大スター。
結果、彼らの存在感があまりにも強烈すぎて
劇中の軽い空気と釣り合わない様相が
最高に意味不明な世界観を醸し出している。
三船敏郎の貫禄のありすぎるド真面目な芝居と
鶴田浩二の二枚目にすぎるウェットな芝居が
二人同時に見事なまでに浮きまくっていて
ジャンルどころか、スター二人までをも
何処か小馬鹿にしているような空気がたまらない。
結果、何のことはない三流アクションが
実に贅沢なコメディとして成立する何とも変な力技。
手放しで面白い部分は全くないんだけど
面白い印象だけは残る詐欺のような一本。
『暗殺』 1964年
監:篠田正浩 主演:丹波哲郎
★★★☆☆
幕末の傑物、清河八郎の暗殺までの経緯を
様々な側面から描くお話。
清河八郎が如何に不思議な人物であるかという事は
全編通したリアルタッチの演出と、丹波哲郎の好演によって
嫌という程に堪能できる。
人を斬って恐怖に震える姿も、時としての神々しいまでのカリスマも
気まぐれの狂気も、清河幕府を開くとまで豪語した俗人の欲も
全て彼の本来の姿なのだろう。
あれだけ多方面から描いての掴みどころの無さは見事。
ただ、清河八郎を描きたいのか、幕末の動乱を描きたいのか
佐々木只三郎による暗殺の執念を描きたいのか
最後まで視点が散漫としていて定まらない印象。
暗殺なら暗殺、八郎なら八郎で統一して欲しかった。
人物は面白いがお話が面白いというわけではないので
何も見えない中で釈然としないまま終わってしまう。
映像は常に冷たく暗い感じが素晴らしく
生々しいカメラワークも合わさった雰囲気はたっぷり。
特別出演の佐田啓二のためとは言え
何の脈絡もなく美味しく竜馬を出すあたりは、
この作風では興が殺がれるので止めて欲しいところ。
清河八郎の語り部ならもっと良い人物が居たのでは?
『暗殺者』 1995年
監:リチャード・ドナー 主演:シルヴェスター・スタローン、アントニオ・バンデラス
★★★☆☆
日々、引退を考えている熟練の殺し屋と
彼を付け狙うもう一人の殺し屋との攻防を描くお話。
二大スターの競演が醍醐味の映画として
割り切って見れば十分楽しめる一本。
終始、渋さを貫くスタローンと
頭のネジが外れた大暴れ野郎を演じる
アントニオ・バンデラスの対比が実に素敵。
ただ、演出全般が重厚感に溢れている中
脚本は突っ込み所の連続で、
このチグハグ感は少々気に掛かる。
最初からB級センスで駆け抜けてくれるなら
薄い展開もさらりと流せるものだが
この作りでは無駄な期待が逆効果だろう。
『安城家の舞踏會』 1947年
監:吉村公三郎 主演:原節子、滝沢修、森雅之
★★★★☆
昭和22年、新憲法の発足により解体された
歴史ある華族の終焉を哀愁たっぷりに描く。
最後のはなむけとして開かれた一夜限りの舞踏会の物語。
なんと言っても殿様だからね。
「四十数万石の云々」という言葉が劇中でもある通り
正真正銘の大名家。
廃藩置県があったのが、この舞台からわずか70数年前とすれば
当然の如く彼らは生まれながらにして格が違うわけですよ。
そして、殿様一家を慕う使用人達の言動が実に良い。
日本において存在した純然たる「貴族社会」でありながら
あまり、この要素を取り上げる作品は見かけませんね。
十分なドラマがあるだろうにね。
移り行く時代に変化を強いられる
父親+子供3人が繰り広げる群像劇。
それぞれが明日からの食い方もわからず
その中でも現実を見つめていく姿は
哀愁に満ちながらも実に爽快。
特に起業で成功したかつての運転手に
求婚されるお姉さんは良いね。
身分違いを胸に秘めながらも追い続けた運転手も良いが
誰よりも貴族で有り続けた彼女が心を動かされる様がまた良い。
そして退廃的なお兄さん。
女中との恋に燃えつつも、どこか冷めた人生観を持ち
それでいて、父親の心意気を応援した
彼の開き直りに救われる物語でもあるだろう。
要するに駄目人間なんだよ。
今後も全く働けないだろう事が予想される
本当に勤勉からは程遠い人種達さ。
しかし、古き良きという言葉がこれ程に似合う舞台も無く
何よりもこの映画は美しい。
具体的には、農地改革であり、相続税の改正であり……
独占された身分や、富を開放した旧制解体の価値は
後の社会に計り知れない利益をもたらしたが
その恩恵を受けた時代に生まれれば
逆にこういう高貴な方々や、成金ではない上流階級が存在する世界に
ある種の憧れを抱いてしまうのだから
人間というのは本当に仕方の無いものだね。
ついつい感じ入ってしまう傑作だろうか。
終戦直後の傑作映画と言うと、
ウィリアム・ワイラーの『我ら生涯最良の年』あたりを思い浮かべるが
これを1947年までに製作完了しているあたり
邦画のフットワークも中々に軽いと感心させられる。
『アンタッチャブル』 1987年
監:ブライアン・デ・パルマ 主演:ケヴィン・コスナー、ショーン・コネリー
★★★★☆
禁酒法の時代、ギャング撲滅のために戦った
捜査官チームのお話。
まさに男の映画。
正義に理屈は要らないとばかりに
禁酒法がどうだろうと、ギャングがどうだろうと
一度、戦うと決めた以上は
結果が出るまで邁進あるのみ。
その過程は間違いなく美しいだろう。
そんな個性的な面子の活躍を
圧倒的な映像美に載せてお送りする
胸躍るサスペンスアクション大作。
『アンドリューNDR114』 1999年
監:クリス・コロンバス 主演:ロビン・ウィリアムズ
★★★☆☆
執事用に購入されたアンドロイドが
次第に人間としての心を手に入れるお話。
これはSFにおける究極の命題だね。
ロボットに人間並みの心が生まれたとして
社会はどう対応すればよいのか。
本当に人間に到達しきったとすれば
その結果、あるいは証明として
アンドロイドは最後に何を求めるか。
この作品は、特定の個人関係に拠るヒューマンドラマではなく
不老不死であるアンドロイドが
一つの家系に、何代にも渡って関わっていく姿を交え
ロボットの「人間化」が丹念に描かれる。
あくまで自身の存在価値を見つめ続ける彼自身の物語。
映画の主役はテーマそのもの。
様々なifの世界観があるだろう中
今作は社会が最大限の理知と優しさに基づいて
その過程を見つめ続けてくれる。
観客にも落ち着いて考える時間を充分に与えてくれる
とっても贅沢で丁寧な一作。
『アンドロメダ』 1971年
監:ロバート・ワイズ 主演:アーサー・ヒル
★★★☆☆
宇宙より墜落した未知の物質により一つの村が死滅する。
回収された物質の正体を科学者達が解明するお話。
舞台装置の一つ一つの作りこみが徹底しているね。
これをビジュアルで丁寧に説明するのは映画ならではの妙だろう。
1970年代初頭に考えられ得る
あらゆる科学的な設定と仕組みを駆使して
未知の病原菌(?)を解明するストーリーなのだが
研究施設の設定やら設備やらを見せていくだけで
軽く前半1時間は過ぎてしまうので
やや素養がなければ退屈な映画に見えるだろうか。
SF科学の舞台装置を本当に作ったという
実直な大作っぷりが見所ではあるんだけどね。
後半戦は未知の生命体の危険度が露骨に見え隠れ。
人の心を不安にさせる絶妙な演出や効果音も見事にハマリ
手探りで解明されていく謎への緊迫感が続く。
とにかく素直でとにかく真面目の
飛び道具無しの科学検証的なSF作品であると同時に
科学への希望と過信への警鐘でもあるのかな。
1970年代初頭のSFの空気感が独特で
おそらく当時とは違った感覚の異世界へ旅立てること間違いなし。
貴重で価値のある作品だが
やはりSFジャンルはリアルタイムが一番とも実感できる。
後の世と当時の視聴では肌で感じる温度が違うだろうね。
『イージー・ライダー』 1969年
監:デニス・ホッパー 主演:ピーター・フォンダ、デニス・ホッパー
★★★★☆
はした金を掴んだ若い男二人が
アメリカ大陸を衝動のままにバイクで横断するお話。
何とも無軌道な作風だね。
映画としての美しさや技法、完成度を全て捨てて
余計な装飾無しに概念だけを抽出した様な映画。
非常に難しい作品だが、決して難しく感じる必要はなく、
自分の心の中に僅かにでも
感じる部分、憧憬を抱く部分、琴線に触れる何かが浮かべば
その時点で映画としては成立してるという事なのか。
もちろん、具体的にはアメリカ独自の世相や文化を
色濃く内包している物語なのだろうが
劇中の自由への語りを見るまでもなく
これは本質としては世界への普遍性がある物語ではなかろうか。
結局は「納得できない」という反骨の共感だろう。
男二人(+一人)で当てもなく延々と怠惰な旅を続ける
所謂ロードムービーの火付け役との評も納得だね。
アメリカ南部恐ろしやシリーズとしても楽しめるし
バイクファッションだけでも楽しいし
心に食い込んでくる様を楽しむもよし
その荒さとは裏腹に意外に楽しめる方向の多い良作。
『イースター・パレード』 1948年
監:チャールズ・ウォルターズ 主演:フレッド・アステア、ジュディ・ガーランド
★★★☆☆
長年の相方と別れた中年の名ダンサーが
ショーパブで新しい女の子を見つけるお話。
大スター、フレッド・アステアの主演ミュージカル。
この時期すでに50歳近い年齢のはずだが
年齢を感じさせない華麗なステップはそれだけで見処。
タップダンススターは他にもいるだろうが
素人目に見てすら彼のダンスは圧倒的に美しく品が感じられるね。
ただ映画としてはややテンポが退屈かな。
男と女の鞘当て合戦が延々と続くだけのロマンスストーリーで
踊りも映画的なエンタメ満載の仕掛けが光るのは
冒頭のおもちゃ屋シーンのみで
あくまでベースは舞台上での演目としてその物を見せる正当派。
古き良き楽しい映画と言えばそれまでだが
おそらく1948年当時としても懐古的な作品だったのではないだろうか。
例えば、1953年公開『バンドワゴン』などは
アステアが引退を見据えた老境の人間を演じるなど
脚本や設定からの仕掛けにも魅力があるが
今作は1930年代をそのままトレースしたかのような錯覚に陥ってしまう。
なお、後のジーン・ケリー映画との決定的な違いは
ヒロインの魅力を対等に引き出せる部分にあるかもね。
アステアが主演の映画である事は明らかながらも
ちゃんと、ジュディ・ガーランドの愛嬌と歌声も記憶に残るのが良い。
『E.T.』 1982年
監:スティーヴン・スピルバーグ 主演:ヘンリー・トーマス
★★★☆☆
事故で地球に取り残された宇宙人と
子供達との友情のお話。
ロマンだね。
地球外生命体の存在に常日頃から思いを馳せているなら
これ程に夢のあるストーリーがあろうか。
まして子供のお話だからね。
あくまで、紳士的な関係を望む宇宙人と地球人という前提があって
始めて成立するステキな世界の映画。
子供目線で描かれるE.T.の存在と
途中から登場する捜索組織の目線の違いが
何とも言えず微笑ましい。
仮に『未知との遭遇』ならば、人生ごと壊してしまうような事態も
子供ならばこれもありかという面白さ。
宇宙人を登場させたからと言って
無理にそこからド派手な展開など作らなくとも
映画は十分に面白いという良作だろか。
『イヴの総て』 1950年
監:ジョセフ・L・マンキーウィッツ 主演:ベティ・デイヴィス、アン・バクスター
★★★★☆
アメリカの演劇世界を舞台に、
円熟したスター女優と、彼女の地位を密かに狙う若い付き人との
ドロドロの舞台裏。
キャラクターに負けるわ。
誰もが認める名優でありながら、
自身の年齢に怯え、生の感情を全く隠さない生き方を貫く女性と
スターの座を射止めるためならば
とことん自身を殺し続け、どんな手段も厭わない野心溢れる若手。
この対照的な二人の生き様に圧倒される。
そこに、演出家であったり、脚本家であったり
プロデューサーであったり、批評家であったりと
彼女達に振り回される男達の姿が絡む面白さ。
様々なキャラクター同士で行われる
「一枚上手」の繰り返しが実に爽快。
ここまで好き勝手やられたら、見ている側が開き直るしかないよね。
生き様を描く映画としても、サスペンスとしても
成功物語としても、恋の物語としても一級品。
目を離す隙のない密度で気付けば終幕。
『怒りのガンマン 銀山の大虐殺』 1972年
監:ジャンカルロ・サンティ 主演:リー・ヴァン・クリーフ
★★☆☆☆
賞金首一味と元保安官が対決するマカロニ西部劇。
元々、マカロニに理知的なストーリーは不要なのかもしれないが
いくらなんでも、この作品は荒すぎる。
突っ込み所を探しながら見る楽しみ方もあるが
真面目に見ないのであれば、少々テンポが悪い事が欠点になるだろう。
見所はリー・ヴァン・クリーフの主演。
これに尽きようか。
マカロニ作品いおいて、数々の悪役、脇役を演じてきた彼を
堂々の主演として楽しめる点は実に感慨深く
全編を通してのBGMも無駄に良い。
とにかく情緒だけで頑張って乗り切る作品。
マカロニの代名詞である雰囲気芸という特徴を
本気で信じてソレだけで撮ってしまった一本かな。
『怒りの荒野』 1967年
監:トニーノ・ヴァレリ 主演:ジュリアーノ・ジェンマ、リー・バン・クリーフ
★★★★☆
娼婦の息子と街中から蔑まれてきた青年が
ある悪党ガンマンと出会い、憧れて弟子入りするが…
こんなに完璧なマカロニは他には無い。
おおよそマカロニウェスタンと聞いて想像できる要素の
全てが完全なる形でここにある。
哀愁漂うテーマ曲の多用、ケレン味溢れる演出の繰り返し
圧倒的に際立った個々のキャラクター性
馬、酒場、早撃ちなど、西部な小道具の数々
このどれもが綺麗にはまっている。
中でもリー・ヴァン・クリーフが教える
「ガンマンの十ヶ条」が最高の味付けだろか。
カッコイイというただ一点が正義である。
お話は割とドラマがあるのが珍しく
主人公の心が常に揺れていて飽きさせない。
それでいてシンプルである事にも拘り抜いたマカロニウェスタンの傑作。
『怒りの葡萄』 1940年
監:ジョン・フォード 主演:ヘンリー・フォンダ
★★★★☆
凶作、恐慌、農業の企業介入などにより
代々の土地を追われた小作人一家が
生活の糧を求めてカリフォルニアへと旅するお話。
キツイ映画だね。
仕事なんてあるはずもない中
あやふやな情報で流入し続ける流浪の民の群れの何と悲しいことか。
過剰人員を集めることで賃金をギリギリまで下げ
徹底して使い倒す果樹園経営者の歪みもさることながら
同時に、現実と妥協してその不当を受け入れざるを得ない側の
人間としての尊厳問題が炙り出されているのが恐ろしい。
真っ当で賢い事を主張し出せば、アカの煽動者として警備団に殺されるか
癒着しきった警察に挙げられる社会構造の重苦しさも凄まじい。
これが1940年の映画とは恐れ入いる。
現在見ると「意味の判らない」映画であって欲しいと願うが
残念ながらそうもいかないのではなかろうか。
この映画に深みを与えているのは
そんな衝撃的な社会派問題作でありながら
同時に家族の強さを描いた作品でもあることかな。
どれだけ手詰まりの流浪を続けても崩れない物はあると信じたいよ。
道中で出会う人々が時折見せる優しさは
彼らの立場を直接に解決するわけではないが
今作があくまで絶望ではなく希望を見出す映画であると示している気はするね。
そして、この主人公の強さはどうだろうか。
苦境に置かれるたび、より自身の強さを増していく。
何も持たない最下層の殺人犯ながら、人間らしい誇りだけは育てていく。
このドン底物語から不思議と元気をもらえてしまう
紛う事なきヘンリー・フォンダの代表作。
社会告発としても、家族のドラマとしても
人間の持つ底力の面であろうと
どう捉えても十分に応えてくれる大傑作。
『生きる』 1952年
監:黒澤明 主演:志村喬
★★★★☆
胃癌を患った初老の市役所課長が
自らの人生を見つめ直すお話。
「いつ、ポックリ逝くかわからない」
人間、この言葉が全てだろう。
舞台装置としてお役所が割りを喰ってはいるが
本筋は批判物などではなく人類不変の物語だね。
人生を有意義に使っているかの問い掛けは
いつの時代も、誰に対しても響く代物で
皆、毎日を噛み締め
できる時にできる事をやらねばなるまい。
ある意味で不変に過ぎて、退屈とも言えるはずの説教題材だが
不思議とこの作品は退屈からは程遠い。
役者一人を徹底して撮り続ける拘りの姿勢も凄いが
そのスタイルに応えきる主演の志村喬も素晴らしい。
ボソボソと聞き取り難く
全く力を感じない台詞からは想像もできない程に
彼の言動はその全てが視聴後にも心に深く残っていく。
死を宣告された男の心の機微を表す
変幻自在の表情に魅了される内に
自然と彼の姿に自身を重ねてしまうのだろうか。
展開に対する尺の割き方も
登場人物達の活躍バランスも
一筋縄ではいかず意外性の連続で
荒々しさに満ちていながらも
その実、計算されつくした結果であろう職人芸な一本。
時代が違うと片付けられない
人生の本質に迫る傑作ヒューマンドラマ。
『異人たちとの夏』 1988年
監:大林宣彦 主演:風間杜夫
★★★★☆
どこか人生に疲れた四十男が
ふと立ち寄った故郷の浅草で
死んだはずの両親に出会うお話。
これはホラー映画だよね。
ただしホラーでありながら究極の人情物。
主人公が12歳の時に亡くなった両親と過ごす時は
言わば彼にとっては失われた時間なんだよね。
怪しい怪しいと思いながらも
相思相愛な親子の触れ合いは何よりも尊い。
そこに嘘がないからこそ
より恐ろしいホラーとしても成立するわけだよ。
往年の浅草の雰囲気、江戸っ子な両親の描写
彼が見る非現実の世界はどれもが情緒に溢れている。
ここの美しさはさすがの大林宣彦。
別格だろう。
来るべきして来るオチも含めて
何か大切な物を再確認させてくれる上
ある種、現実を見据えさせてもらえる良作。
幻の両親や恋人との会話は確かに深いが
病院での息子との会話や、両親を弔う際の仕事仲間との会話など
あくまで現実に存在している触れ合いの方が
より心に響くというオチはとっても健全で心地良い。
『ICHI』 2008年
監:曽利文彦 主演:綾瀬はるか
★☆☆☆☆
眼が見えない女渡世人の活躍を描いた時代劇。
見所はあるのかな。
映画は何かしら楽しもうとするのだが
ここまで見つからないのは妙な話。
座頭市らしく主役キャラクターの一点押しながら
そのキャラが薄すぎるのが問題かな。
時代劇はスターが居れば何とか成立するジャンルながら
そのスターが居ないのに
さも居るかのように振舞うのはさすがに無理がある。
一人で良い演技をしていた窪塚洋介が可哀想。
脇役こそが、ストーリー上のメインというはよくあるが
それはあくまでスターが短い出番で画を締めてくれるから成立するはず。
彼女一人にそれは酷。
悪いのは役者ではなく脚本だけどね。
何のドラマも見せ場もなく、
淡々と尺を埋めるためだけの展開は退屈の一言。
『1911』 2011年
監:ジャッキー・チェン、チャン・リー 主演:ジャッキー・チェン
★★★★☆
孫文と黄興の友情を主軸に描かれた
辛亥革命のお話。
正真正銘の歴史大作。
散々見てきたハリウッドのそれと
何ら遜色のない規模とクオリティが
中国映画で実現しているのは衝撃的だろう。
国外で外交に精を出す孫文と
国内で戦闘行為に明け暮れる黄興。
どちらが欠けても実現しなかったというプロットは素直に綺麗で
革命烈士の熱意、清朝内部の悲哀、諸外国の目鼻の鋭さ……
そして大巨人としての袁世凱の存在感。
おおよそ、当時の中国を取り巻く環境として想像できる
全ての要素が綺麗に纏まっている完成度は見事。
決してやりすぎず、テーマの先行も控え
あくまで、落ち着いた雰囲気を保つ事で
歴史大作の威厳を獲得している傑作。
『1941』 1979年
監:スティーヴン・スピルバーグ 主演:ネッド・ビーティ、他
★★★☆☆
1941年12月。
日本による真珠湾攻撃を受け
本土爆撃の恐怖に浮き足立つ西海岸市民が繰り広げる大騒動のお話。
頭のネジが軽く2,3本は抜けている住民達が見せる
嵐の前の大狂乱の数々を
圧巻の映像規模でお届けする豪華絢爛なコメディ映画。
登場人物が各々で勝手な展開を繰り広げるため
決してテンポが良いわけでもなく
爆笑が提供され続けるわけでもないのだが
苦笑いの一つでも出れば十分だと言わんばかりの
余裕ある構成が何とも贅沢な一品。
これ程の力技は見た事がなく
最早、衝撃映像を撮る事自体が目的なのではと疑ってしまう程に
全てのシーンがストレートに馬鹿馬鹿しい。
冷めた苦笑いから始まったはずの映画だが、
気付けば住民が見せる世界観に見事に引き込まれている。
彼らの行動は、皆が皆、実にアメリカ的で
ジョークとして馬鹿にした雰囲気はありつつも
何処か納得できてしまう面が見えるのは上手いね。
ド直球で勝負する80年代のスピルバーグエンタメの味が
コメディ方面において綺麗に滲み出ている
唯一無二の大作馬鹿映画。
『一命』 2011年
監:三池崇史 主演:市川海老蔵
★★★☆☆
小林正樹監督『切腹』のリメイク作品。
玄関先での切腹を大名家に迫る
強請り浪人が語りだす物語。
大筋はオリジナルと同じなのだが
武家社会への痛烈な皮肉をテーマとしていた元作品とは
根本的に描くべき物が違う。
今作は、もっと普遍的な人間全体の情を訴える内容だろうか。
完全なる劣化再現版かと思わせておいての
最後の仕掛けは中々に見事。
しかし、作品全体で見れば
どうにもバランスの悪い野暮ったい内容が目に付きすぎる。
果たしてよりわかりやすく、より激情的にをモットーにした作風は
この物語に馴染むのだろうか。
傑作映画『切腹』において
唯一、テンポの崩れる個所である回想編を取り上げ
敢えて、より冗長な尺をそこ割いているのは
三池監督らしいおふざけ、悪乗りか。
冒頭で引き込まれるサスペンス調の緊迫感は
このパーツを挟む事で前後編で断絶してしまう。
異なる結論を持たせた意欲は良いのだが
展開運びに隙があり過ぎ、今ひとつ空回り。
作品の密度において足元にも及ばず
完成度の面でトータル大きくマイナス。
そんなリメイク作。
『いつかギラギラする日』 1992年
監:深作欣二 主演:萩原健一
★★★☆☆
現金強奪犯たちが繰り広げる
仲間割れの後処理物語。
性質の悪い登場人物がたくさん出てくる
全編が冗談のようなナンセンス展開の連続ながらも
ド派手なアクション映画として振り切った作り素晴らしいね。
心地の良いスピード感がその暴力性を許してしまう。
ハリウッドのような乱射乱射の銃撃戦に
これでもかのカーアクションシーンが作りたいという
欲求の赴くままの作品だろう。
所せましと活躍するプッツン野郎の大狂乱を素直に楽しむ一品。
1980〜90年代のアクション映画を日本で作ろうという志が垣間見える
良くも悪くも邦画らしくない作品かな。
基本、コメディタッチの作風なのだが
世界観が一人違う主人公、萩原健一の存在感が妙に空気を引き締め
時折入る若者語りと哀愁を匂わせるシーンが
不思議な情緒も見せてくる良娯楽映画。
『イップ・マン 序章』 2008年
監:ウィルソン・イップ 主演:ドニー・イェン
★★★☆☆
香港において、絶大な支持を集めたとされる実在の武術家
葉問の若き姿を描くお話。
舞台は1935年、武術の聖地とされる仏山。
ここで描かれる葉問(イップ・マン)の人柄を楽しむ一品だね。
品行方正で、家族を愛し、無用な争いを好まない。
義にも熱く他人への気遣いも忘れない。
しかし、武術家としての気概は持ち続ける男。
こんな理想的な人間が、果たした存在するのか。
そんな所も含めて、ただただ、彼の温和な人柄と
悩める人間味溢れる姿に惚れていけば
十分に楽しめるという丁寧な一本。
時期的に敵が日本軍となるのはご愛嬌。
もちろん、怪しげな発音の日本語も要注目。
空手の達人である武術好きの将校がライバルなのだが
この副官、中々の糞野郎で、実に悪党冥利に尽きる十分な役柄。
イップ・マン自身の人間性以外、テーマ性は特になく
娯楽映画はこうでなくてはと、手を叩ける素直なお話が楽しめる。
ラスト、対決シーンのイップ・マンの暴れっぷりは中々な代物で
このあまりの強さには、もう笑うしか無し。
耐えに耐えてのこの展開は、カタルシスと言う他はないだろう。
また、武術指導には、サモ・ハン・キンポーが付いているので
素直にカンフー映画として楽しむの有り。
この時期では貴重な一本とも言えるだろうか。
『いつも2人で』 1957年
監:スタンリー・ドーネン 主演:オードリー・ヘプバーン、アルバート・フィニー
★★★☆☆
離婚直前の倦怠期夫婦が
二人の思い出をフラッシュバックしていくお話。
美しいね。
例え、現在の関係性がどうであっても
これだけ良質な思い出が紡がれているならば
二人の出会いには価値がある。
人生の一部分として、確かに存在した現実だよ。
圧巻のロマン彩られた
10年にも及ぶ男女の回想シーンの連続映画。
時系列はバラバラ、その都度、関係性も微妙に違うのだが
どのシーンを見ても、二人だけの世界には力がある。
結果どう転ぼうが、恋愛は無条件で良い。
人と人は思い出を作って何ぼでしょう。
素直にこう思える素敵な情緒に溢れた一品。
『稲妻草紙』 1951年
監:稲垣浩 主演:阪東妻三郎
★★★★☆
ある藩で下された「上意討ち」の命令を軸に
二人の侍、そして市井の娘たちとの
恋と生き様の物語。
美しいね。
どこか人が良くて、愛嬌があって
それでも女性に対しての情愛は強く
最後には他人の幸せのために命を張れる。
そんな人情味溢れる主人公の人生譚として
この作品は極限までいってるよ。
完璧な完成度を誇る一品。
何と言っても、阪東妻三郎演じるキャラクターが珠玉。
飄々として一見すると頼りなげにすら見える中
その実は一つ胸に秘めた力強さが存在する。
二枚目からでは決して到達できないその境地が
問答無用にカッコイイ。
そんな彼との間で繰り広げられる
ヒロインの淡く揺れ動く恋心。
好きなんだけど、他にも好きな人が居るんだよね。
こんな主人公じゃその行き着く先はどうしたって切ないや。
決して嫌味の無い力強い女性陣もステキ。
しかしそこは阪妻、決めるトコは決めるのです。
ラスト、境内の大階段で行われる
決闘シーンの演出の素晴らしさでしょうか。
リアリティの対極とも言える様式美の数々
そしてワンカットの長さですよ。
他じゃ決して見られない独自のセンスが光る。
どこから見たって面白い贅沢な傑作映画。
『犬神家の一族』 1976年
監:市川崑 主演:石坂浩二
★★★☆☆
老資産家が残した遺言を巡り
一族の間で殺人事件が起こるお話。
どちらかと言えば
石坂浩二が演じる金田一耕助がメインを張る
やや、ヒーロー物めいた作風だろうか。
舞台設定から期待される程の
ドロドロした閉塞感は感じられない。
一族物である点からも田舎物である点からも
やや薄味仕立てだね。
しかし、小気味良く進む展開は最後まで面白く
何より映像の凝り方が素晴らしい。
見所自体は満載で最後まで飽きずにノンストップで楽しめる
完成度の高い良作サスペンス。
『いのちぼうにふろう』 1971年
監:小林正樹 主演:仲代達矢
★★★★☆
抜け荷の中継仕事を請け負う怪しい酒場で
ならず者達が見せる人生観のお話。
これは不思議な映画だね。
物語は単純、酒場に迷い込んだ若い男の不幸にほだされて
百戦錬磨の連中が命を賭して一肌脱ぐだけ。
一見すればお涙系の作風になりそうなものだが
そこは小林正樹監督作品ということで
全編が異様な緊迫感と殺気に満ちている。
あまりにステレオタイプな人情語りで
観客側が先に冷めてしまうような展開を見せながらも
むしろ、ならず者側の心がそれで燃えてしまうのが面白い。
彼らが驚く程に純情なんだ。
つまりは世間から弾かれた人生である分
自身の命の価値を探している人達なんだろうね。
あれほど強面で一癖も二癖もある連中が
ああも凡庸な男が見せた一つの心意気に魅了されてしまう姿は
意外ではあるが一周した納得感はある。
妙に野暮ったいセリフ回しもあって
人情映画にしてはとにかく空気が硬いんだが
つまらない人情、つまらない身の上話、つまらない人間…
逆にその硬さ、素朴さ、普通さが尊いわけか。
世間の基準でみた事の大小なんて物は問題外。
何を見出し、何に命を賭け、どう意地を見せるかは
彼らの自由なんだよ。
そんな熱さを小林監督ならではの
観客の心を休ませたら負けと言わんばかりの
圧迫度100%の演出に乗せてくるのが面白い。
1971年公開でありながら白黒映画てのも実に効いてるね。
キャラクター映画としても上々で
何よりも仲代達矢が演じるやさぐれ兄さんが最高。
いつ爆発してもおかしくない緊張感あるキレっぷりと
そこに隠れている可愛い純情さが見事に両立した
見事なヤクザ者を見せてくれる。
彼らの姿を眺めているだけでも十分に楽しい一作。
『イングリッシュ・ペイシェント』 1996年
監:アンソニー・ミンゲラ 主演:レイフ・ファインズ
★★★☆☆
第二次大戦末のインドを舞台にした
全身に火傷を負った記憶喪失のイギリス人兵士と
彼の周囲に集まった人間との物語。
彼自身の過去がフラッシュバックしていくお話。
記憶喪失と言い張る謎のイギリス人兵士
戦争で心に傷を負い、彼の看病を続ける女性
彼の過去を知っているらしい親指の無い男
周囲で爆弾解体の任務に付くインド人将校。
終戦間際、彼らの何かに疲れ果てた死生観だけで十分面白い。
また、少しづづ明らかになっていく過去
国際サンドクラブ(砂漠探検隊)の面々の多彩な顔ぶれ
そして彼らの成り行きの緊迫感も含めて
大筋のストーリーはとても見所が多い。
ただ、全体を包む芸術作風が空回りしている印象が強いかな。
言ってしまえば、何でもない男女関係や
何処にでもある人間同士や民族を絡めた確執を
ここまで肥大化して描かれても困ってしまう。
全編ブレの無い徹底っぷりは凄いけどね。
雰囲気自体は丁寧で綺麗なので
見ていられないという事は全くないが
どうしても、部分部分では退屈にならざるを得ない一品。
『インサイド・マン』 2006年
監:スパイク・リー 主演:デンゼル・ワシントン、クライヴ・オーウェン
★★★★☆
マンハッタンで起こる銀行強盗事件のお話。
実に美しい犯罪計画映画だね。
最初から最後まで、全てが完璧に計算されつくされた
数学的な完成度の脚本が楽しめる一品。
普通は、どんなに華麗な作戦を描いたとしても
何処か人間らしい泥臭さは出てしまうものだが
今作はその香りすら感じられない。
その分、度肝を抜かれる要素も少ないのだが
重苦しいお話を求める事自体が、
このシンプルイズベストな構成からは野暮だろう。
あまりに完成度への拘りが強すぎるため
途中、展開が一線を越えないだろう事が感覚的に伝わり
ある種の安心感すら得てしまうのだが
そこまで含めての職人芸。
最終的なオチも含めて
ただただ、先の展開にドキドキしていれば
気付けば終劇間違いなしの
密度たっぷりのサスペンス傑作。
『インシテミル』 2010年
監:中田秀夫 主演:藤原竜也、北大路欣也
★★☆☆☆
閉じられた空間で7日間を共にすごす。
たったそれだけの仕事内容で
破格の高額報酬を餌に集められた10人。
だがその途中、殺人事件が起って……というお話。
何だろうね。
極限までテンプレート化された
ミステリーのパロディなのだろうか。
あまりに安っぽい造形や展開の数々、
取ってつけたような極端な人物像。
一体、どこを真面目に見れば良いのだろうかと
思わず悩んでしまう一品。
オチはあって無い様なものだし
特に秘められた謎があるわけでもなければ
緊迫する箇所があるわけでもない。
各々に与えられた隠された武器や、メッセージなど
形だけで終わってしまうギミックも不調だよね。
それでも、一応は人間の物語なのかな。
全く生きた臭いのしない空虚な創作人物たちの中
藤原竜也、北大路欣也だけが
主人公格として相応にドラマを展開してくれる。
この体験を通じて、彼らが到達し得た境地に
一種の清涼感を感じる映画だろうか。
むしろ、安さっぽさで満ち溢れた世界観の割に
妙に芸達者な役者を集めたアンバランスさが
見る側を戸惑わせる一因だと思うんだけどね。
あくまでノリノリな役者達に焦点を絞って楽しむのが
正しい見方なのかもね。
『インセプション』 2010年
監:クリストファー・ノーラン 主演:レオナルド・ディカプリオ
★★★★☆
他人の夢へと潜り込み
潜在意識からアイディアを盗むという産業泥棒が存在する世の中。
そんなスペシャリスト達の一大作戦物語。
何と言うハッタリパワー。
荒唐無稽で、出鱈目な単語やシステムのオンパレードながら
ここまで堂々と、かつ丁寧に嘘をつかれれば
ついつい、その世界観に納得してしまう。
夢という誰しもが経験している行為だけに
その「あるあるネタ」を織り交ぜた創作ルールは
思わず直感的に許せてしまう物がある。
夢世界の緻密な構成力には舌を巻くばかりで
初めて『マトリックス』に出会った時のような
肌で感じられる距離の異世界空気が良い。
アイディアではなく、説得力への職人芸で勝負な一本。
小道具の隅々まで、本当に拘り抜かれております。
「夢」に夢見る方々へお勧めな
終始、緊張感抜群のサスペンス巨編。
もちろん、十分なSF作品でもあり
スタイリッシュな映像傑作でもある。
主人公の過去や人物像に焦点が絞られすぎな点は
少しもったないかな。
「ディカプリオ+トラウマ」はさすがにお腹一杯だろう。
ならば、せっかく集まった各分野の謎エキスパート達のお仕事にも
もう少しスポットライトを。
『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』 1994年
監:ニール・ジョーダン 主演:トム・クルーズ、ブラッド・ピット
★★★★☆
インタビュー形式で語られる
200年を生き抜いたヴァンパイアの物語。
耽美。
この言葉に尽きる映画だね。
トムクルーズ、ブラッドピットを主演に迎えた
美青年同士の愛憎入り乱れた関係性や
無垢で残忍な吸血鬼少女などなど
人間社会から逸脱した彼らの人生を表すかのように
画面全てが背徳感に満ち溢れている。
美麗な映像に彩られた
官能世界をただただ堪能していれば大丈夫な
まず世界観で楽しめる一本。
美青年ヴァンパイアである彼らには
何よりハイソサエティで、クラシックな彩りが似合うね。
悩める青年の哲学的な自分語りをメインに据えつつ
立派なゴシックホラーが成立している点も見事。
『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』 1984年
監:スティーヴン・スピルバーグ 主演:ハリソン・フォード
★★☆☆☆
『レイダース/失われたアーク』の続編。
世界を股にかける冒険家(考古学者)のインディ・ジョーンズの大活劇。
全くスカっとできない二作目。
前代未聞の一大アトラクションとも言える
大セットを組み上げた活劇シーンは確かに凄いのだが
どうにも閉塞感が強すぎる。
そもそも、世界を股にかける考古学者の冒険譚のはずが
今作は偶然に不時着した地で巻き込まれるだけの
非常に局地的な物語で、かつ主人公サイドに目的が薄いのよね。
加えて、常時、主導権も敵側にあって
最初から最後まで、主人公達は追い詰められるだけの存在でしかない。
映像的にも、尺の大半は、青空一つ見る事のできない暗い暗い地下のお話では
見ていてモヤモヤする時間があまりに長すぎる。
一作目ではあれ程に個性的で魅力のあった教授も
元々、どういう人物像だったのかすら
自信が持てなくなる程に平凡な男でしかない。
部分的にウィットに富んだ掛け合いはあるが
これも、初代の足元にも及ばない程度の散漫な挿入。
映画全体としてのエンターテイメント要素を全て放棄して
活劇部分の映像製作だけで突っ走った作品だろうか。
ラスト30分の仕掛けだけは素晴らしいが
本当にそれだけの一品かな。
『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』 1989年
監:スティーヴン・スピルバーグ 主演:ハリソン・フォード
★★★☆☆
三作目。
最後の晩餐におけるキリスト聖杯の謎を
行方不明となった父親の行方と共に探索するお話。
世界を股にかけた大冒険が戻ってきたね。
抜けるような青空の下、あらゆる国を飛び回る開放感。
列車に、飛行船に、戦車にと、多彩な仕掛けによる
乗り物アクションの連続も実に心地良い。
冒険娯楽大作はこうでなくてはなるまいよ。
お使い仕事で、たらい回しになるシナリオ自体は
単調と言えば単調なんだけど
今作で初登場する父親が良いスパイスになっている。
これが、度を越えてとぼけたオヤジで
肉体派のインディと、憮然とした研究馬鹿との凸凹コンビによる
何とも噛み合わない掛け合いが、最後まで飽きさせない。
ここに、世界一カッコいい爺さんこと
ショーン・コネリーは贅沢の一言。
しかし、冒頭の過去話は何だったのだろうか。
結局、本編シナリオとも、特には繋がらないお話だった事は
拍子抜けもいいところか。
あくまで長めのオープニングパートなのかね。
一作目程の突き抜けたキャラクター性は無く、
二作目程の馬鹿馬鹿しい大アトラクションも無いが
バランスの取れたインディー・ジョーンズが楽しめる
とっても出来のよい豪華な一本かな。
『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』 2008年
監:スティーヴン・スピルバーグ 主演:ハリソン・フォード
★★★☆☆
前作から20年経って作られた復活第四段。
現実に対して、劇中経過も20年前後という
リンク演出が中々にニクイ一本。
元々、1930年代後半を舞台にした作品だけに
仮に20年進めても舞台はまだまだ1950年代。
ハリソン・フォードが年を取れば
劇中のキャラクターも同じだけ年を取らせるだけ。
実に便利な設定だね。
主人公が、爺さんと呼ばれようが
ヒロインがオバサンになっていようが
敵がナチスからソ連へと変化しようが
やる事は一緒。
古代遺跡の力を悪用しようとする反米軍隊に対して
主人公が痛快に立ち回るだけの一大娯楽作。
コミカルでお馬鹿で、小気味良くて
暴力的で、やや過激描写で……
それでいて、超大作観も失わない贅沢さ。
求める物を全て提供してくれる
実に完成度の高いインディージョーンズ。
何よりも、あのテーマ曲と共に世界を股にかけた冒険譚を
2008年に楽しめる幸せかな。
そこを噛み締める一本だろうか。
『インビクタス/負けざる者たち』 2009年
監:クリント・イーストウッド 主演:モーガン・フリーマン
★★★☆☆
1994年南アフリカ共和国。
アパルトヘイト撤廃から史上発の黒人大統領に就任した主人公は
国の再建の象徴としてラグビーチームの存在に目を留める。
白人の象徴であったラグビーを
黒人も混ざって応援できるようになるまでのお話だな。
劇中でも述べられるように
混乱から再生する国家という物には
皆で共有できる国の誇りが必要なわけだよ。
それが憲法であったり、民主主義であったり
実際の国家の治安であったりするのは
もっともっと先の話なんだよね。
国家対抗戦と言う物が存在する事自体からも
一体、誰がスポーツの利用を否定できようかというお話。
綺麗な話を描かせたら
クリント・イーストウッド監督はもはや円熟の域。
全く嫌味無くテーマを浮き立たたせる姿はお見事。
モーガン・フリーマン演じるマンデラ大統領の魅力が全てで
経済政策より、治安の再生より、国際社会の立場より
まず、真っ先に新生国家に必要な物を
正面から断じきる彼の意思の強さに震える130分。
ちょいとラグビーシーンは長いかな。
そのあたり、終盤の盛り上げ方がくどいののも
いつもの監督です。
『インファナル・アフェア』 2002年
監:アンドリュー・ラウ、 アラン・マック 主演:トニー・レオン、アンディ・ラウ
★★★★★
マフィアに潜り込んだ警察のスパイと
警察に潜り込んだマフィアのスパイとが交錯する
二重奏仕立ての緊迫サスペンス。
潜入物が持っている張り詰めた空気感が素敵だね。
片側だけでも十分なスリルの連続ながら
二組の行動が絶妙に絡み合う今作の持つ楽しさは
相乗効果で果たして何倍になるだろうか。
設定だけで勝ったも同然の面白さだが
そこに胡座をかかない人間ドラマも見事で
マフィア暮らしの中、どんどん人生が不安になっていく警察官側と
エリート警察官として正道の人生に乗り換えてしまおうかと
密かに思うようになっているマフィア側。
彼らの悩み足掻く姿にはどちらにも十分な同情の余地があり
その分、襲いかかる現実の非情さは切なさ全開。
二人の運命は一体どういう落とし所を得るのだろうか。
オープニングシーンが仏像から始まり
「無間地獄」がどうのこうのと言うのならば
まさにという合点の物語だね。
音楽、演出、映像のクオリティはもちろんのこと
エンターテイメント性を全く殺さないテンポの良さも光る
全てにおいて満点の傑作映画。
『インファナル・アフェア 無間序曲』 2003年
監:アンドリュー・ラウ、 アラン・マック 主演:アンソニー・ウォン、エリック・ツァン
★★★★☆
過去編。
前作における主要人物のバックボーンや関係性に
これでもかと言うくらいの過剰な肉付けを盛った
オマケ作品だね。
全員が全員、とにかく複雑で重苦しい過去を背負わされ
皆が昔からの腐れ縁になってしまう後付けっぷりが面白い。
テンポが大事なサスペンス作品では扱えなかった要素を
別作品を使って十二分に補完することで
一作目の価値をも高めてしまおうという反則技の一品。
それでも、単純な補足作だけで終わらせないのはさすが。
本編の10年前にあたる1991年から物語をスタートして
ラストに1997年の香港返還を据えることで
香港ノワール情緒に満ちた一大マフィア物として
単体でも十分なクオリティを誇る良作になっている。
黒社会と警察の関係性に複雑な家族愛が入り込む重厚な物語は
ほとんどがゴッドファーザーのそれ。
「家」や「筋」に拘るヤクザ連中の姿は
もちろん、香港を舞台にしても馴染むわけだ。
事件の一つ一つがお馴染みの人物像に
きっちりと繋がっていく様はカタルシス満点。
初作で回想シーンを演じた俳優二人が
そのまま若さ全開の二人を熱演しているのも
作品の世界観に説得力があっていいね。
一年後公開のスピーディな作りが功を奏した形だろうか。
一番の役得はエリック・ツァン演じるマフィアのボス役かな。
彼がこんなにも魅力的な人物になるとは
一体、誰が思っただろうか。
『インファナル・アフェアIII 終極無間』 2003年
監:アンドリュー・ラウ、 アラン・マック 主演:トニー・レオン、アンディ・ラウ
★★★☆☆
三作目。
初作のラストシーンを真ん中に挟む形で
その数か月後と数か月前が描かれるお話。
二作目で徹底して人物像を書き加えた上で
あらためてアンディ・ラウとトニー・レオンを配置して
人間ドラマを描くという美味しい立ち位置の作品なんだけど
少々複雑に過ぎるんじゃないかな。
過去の話と未来の話を交互に行きかうだけでも
十分に全編通して忙しない構図ながら
場合によっては主人公の精神世界に描写が及び
現実と妄想のシーンが入り混じるから大変だ。
何なら過去と未来とで勝手に会話まで始まってしまうのでは
さすがにピーキーすぎるだろう。
初作で描かれていないだけで「実は居た」という扱いの
完全新キャラが多いのも難しさに拍車がかかっている。
アート志向の強めの作風だが
それでも香港情緒たっぷりの画は目には楽しく
お話としてもケジメをつけるために必要な作品だったのかな。
まさに「無間地獄」であるための一本か。
『インモータルズ -神々の戦い-』 2011年
監:ターセム・シン 主演:ヘンリー・カヴィル
★★★☆☆
ギリシャ神話の世界を舞台に
主人公が征服者と剣を交えるファンタジー。
点と点しか存在しない映画。
全体を通して描かれるお話には特に捻りもなく、
登場人物達にも、ドラマが用意されるわけではない。
淡々と場面が進行するだけの映像では、
どう考えても、退屈な一本という評価にはなるだろう。
しかし、困った事に
その一個一個の"点"に限れば、この映画は究極に美しい。
冒頭、どう考えても、マトモに生活できないであろう
断崖絶壁に存在する謎集落の特異性だけで
既に目と心を掴まれてしまう。
その後も、続々と登場する謎衣装、謎美術、印象的なカットの数々は
どれもシンプルのようで、どこか華美。
全体としての退屈な雰囲気にダレながらも
ついつい、その都度、感心しながら見てしまう。
ファンタジーアクション大作と思って視聴すれば
やや痛い目は見るが
代わりに、ステキな世界観は約束された一本。
『ヴァン・ヘルシング』 2004年
監:スティーヴン・ソマーズ 主演:ヒュー・ジャックマン
★★☆☆☆
世界を混乱に陥れるドラキュラ伯爵の野望と戦う
若きヴァンパイアハンターのお話。
製作時期や予算の賭け方の割には
妙に映像が安い一本。
間違いなく大作ではあるのだが
肝心の戦闘シーンや、異形の者達の数々がどうにもチープに映る。
荒唐無稽の空回り。
ストーリーは有って無いような物。
恐怖を前面に押し出すホラー作りではなく
かと言って、主人公の格好良さを描く作りでもない。
イマイチ、アクション面が地味。
異形狩りのスペシャリスト設定なのだから
主人公は、もう少し、超人でもよかっのではないだろうか。
特に見せ場が用意されなかった、
せっかくのファンタジー武器の数々が泣いている。
ドラマ、映像共に、目に見える破綻は無く進行はするのだが
作品の見所もまた見えてこない。
相応の美術造形と、ヒュー・ジャックマンの渋みを楽しみつつ
淡々と消化していく一本だろうか。
『ウィンチェスター銃'73』 1950年
監:アンソニー・マン 主演:ジェームズ・スチュワート
★★★★☆
1000丁に1丁生まれるという名銃「ウィンチェスター銃'73」を軸に
お互いを狙う物、狙われる物との駆け引きのお話。
この西部劇は凄い。
大よそ、西部劇と言われて頭に浮かぶ物語や要素が
余すトコロなく全て盛り込まれている。
善玉、悪玉、射撃合戦、ライフル、拳銃、保安官
ヒロイン、死に別れ、馬車チェイス、酒場、悪徳商人
ポーカー、早撃ち、騎兵隊、インディアンの襲撃
もちろん、最後の対決。
ダッジシティや、ワイアット・アープまで登場する。
その全てを最高のテンポと密度で詰め込んで
使った尺は何と「93分」
こんなに職人的な仕事があるのだろうか。
何が良いとか何が悪いを通り越して
西部劇であるから良いと胸を張って言える
エンターテイメントに徹した傑作。
『ウインドトーカーズ』 2002年
監:ジョン・ウー 主演:ニコラス・ケイジ
★★☆☆☆
太平洋戦争におけるサイパンでの作戦を舞台に
トラウマ持ちの白人軍曹と
先住民の暗号兵とが見せる友情のお話。
紛う事なきジョン・ウー作品である点がマイナス。
まずは、映像で魅了してやろうとの意気込みが
空回りしている印象を受けてしまう。
隠しても隠し切れないスタイリッシュなアクションと
いつも通りの大量火薬狂っぷりは、
どうしたって、戦争映画の描写とは噛み合わず
贅沢に過ぎ、ファンタジーに過ぎるだろう。
人間ドラマは決して悪くはないのだが
共同戦線を通じての二人の交流という
心温まる真面目なシーンがあればある程に
その他全ての突っ込み所への笑いが増していく。
悪循環がもったいない。
基本、太平洋戦争を扱ったアメリカ映画は
日本人が見ると、日本語発音一つ取っても違和感を感じてしまい
大いに損をしていると思うのだが
今作に限れば、いっそ開き直って笑い飛ばせる点では
得をしているのかもしれないね。
主役が自分の外見が日本人と似ているからと
囮作戦を買って出るシーンが有るのだが
我々の目からすれば、どう贔屓目に見ても日本人とは間違いようがなく
また、発音一つとっても余りに怪しさ全開で
どうにもギャグ映画にしか見えない。
映画が描きたかったであろう大筋は
素晴らしい可能性を秘めているのだが
様々な不具合が重なった結果
全てが噛み合わなかった一本だろう。
『ウエスタン』 1968年
監:セルジオ・レオーネ 主演:チャールズ・ブロンソン
★★★★☆
監督:セルジオ・レオーネ、音楽:エンニオ・モリコーネの
マカロニ黄金コンビが作った本物の西部賛歌。
雄大な西部開拓時代の最後を描く物語。
独特のじらしが冴える芸術的なレオーネ演出と
様々な人物の情念が複雑に絡み合う本格派の物語とが
まさかの融合。
事態がどうなっているのかを追うだけでも楽しい中に
一々、ケレン味の効いた登場人物の言動が合わさる贅沢さが素晴らしい。
特に主人公のハーモニカが初めて登場する場面。
あの陰影の美しさは映画史に残るレベル。
冗長な感じがだけが目立った
『続夕陽のガンマン』とは打って変わり
この緊張感と爽快感の連続は、3時間弱という尺も全く飽きさせない。
それでいて、西部の壮大さ、開拓の空気という
西部劇本来の魅力も存分に堪能できる。
マカロニ式の演出は、通常の物語にも十分に通用すると言う見事な証明。
悪役として登場するヘンリー・フォンダも個性抜群で
それだけでも一見の価値あり。
『ウェストサイド物語』 1961年
監:ロバート・ワイズ 主演:ナタリー・ウッド、リチャード・ベイマー
★★★★★
マンハッタンの貧民街を舞台とした
悪ガキ達が繰り広げる対立物語。
若さと勢いに任せた新機軸のミュージカルで
舞台では不可能だろう大掛かりなロケ地を利用した
集団によるダンスに魅了されまくり。
どの曲も、最高にカッコ良く
個人スターが一人で魅了するという古典スタイルから脱却した
十数人単位の豪華ダンスシーンの連続は圧巻。
こういう土壌がなければ、マイケルのPVだってないわけだよ。
物語は在地の貧乏白人とプエルトリコからの移民との
差別、民族問題に端を発する縄張り争い。
ここに無軌道な若者の集団心理の怖さが上手く出ており
一人ならやれるはずの無い事が
皆と勢いに乗ればついついやれてしまう恐怖感が巧く出ている。
あれは誰もが一度は経験のある後悔の対象だろう。
全編、全てのカットが病的にまで拘りぬかれており
捨ての絵が一枚もないという
脅威の完成度を誇る作品に仕上がっている。
楽曲も映像もどれだけの手間暇をかけて完成させたのかと
恐怖すら感じてしまう本格派。
ちなみに[突然始まるミュージカル]ネタ要素として
最適であろうシーンが多数含まれてるので
もしミュージカルが苦手な人でも笑うつもりで見て欲しい。
それでも楽しめると思えるパワーが確実にあるはず。
悪ガキが、悪ノリの延長として歌いあう姿だけで十分に素敵です。
Get cool! Bust cool! Go cool!
『ヴェラクルス』 1955年
監:ロバート・アルドリッチ 主演:ゲーリー・クーパー 、バート・ランカスター
★★★★☆
輸送中の金貨を狙いあう男二人が
時に協力し、時に出し抜き、競いあう西部劇。
魅力的な人物を徹底的にフィーチャーして
丁寧な世界観や展開で彩を加えていく。
そんな対決構造の教科書のような作品だね。
ゲーリー・クーパー vs バート・ランカスター
二大スター競演に尽きる作品だが
たた彼らを配置しただけでは終わらずに
その見せ方までをも実直に作り込んでいるのが真摯な一本。
終始どっしりと構える主人公に対し
常にはしっこく動きまくるライバルのキャラクター像が
見事なまでに対照的に映し出され
どちらが活躍するシーンも決して退屈にはならず
常に互いに異なった空気感の元に画面が映えまくる。
何をやっても絵になるスターの力に恐れ入る。
男臭い道中の掛け合いから、決闘シーンまで緊迫感も素晴らしく
西部劇を楽しむための入門作品としてお勧めの安定度。
『ウォークラフト』 2016年
監:ダンカン・ジョーンズ 主演:トラヴィス・フィメル
★★☆☆☆
ブリザード社が誇る世界的人気ファンタジーゲームを元にした映画化作品。
人間種族とオーク種族の初接触から、後の大戦争の始まりを描くお話。
この手の作品を実写化した際には
どうしても「ロードオブザリングっぽい何か」の呪縛からは逃れられないね。
あまりに先達が偉大すぎて嫌が応にも粗が目立ってしまう。
比べれば、超常現象が非常に強い世界観に寄っており
都合の良い後出し超パワー展開が続く作風かな。
ゲーム原作としての舵取りは良いのかもしれないが
映像も実写よりはCG色が強めの絵作りになっているので
せっかくの豪華異世界から、いまいちリアリティや重厚感が得られない。
お話も全編通して行き当たりばったりな展開が非常に多く
伏線とそうでない部分があまりに乱雑に交錯するため
一本の脚本としてはほぼ機能していない。
結果、登場人物達までもが安っぽい印象を被ってしまっている。
壮大な世界観の中のごくごく一部
かつ、限られた特定人物だけの言動をピンポイントに見せ続けられることで
映像や設定の豪華さに対し、全体のノリが軽すぎる印象が拭えないのが残念。
一応、単体でも一作品としての筋道は見られるのだが
元設定を知っていれば得をするというよりは
知らないと損をする作りの映画だろう。
『ウォッチメン』 2009年
監:ザック・スナイダー 主演:ジャッキー・アール・ヘイリー 他
★★★★☆
かつて、アメリカの英雄とされながらも
条例により違法とされ解散の道を辿った
マスクヒーロー達の哀愁を描くアメコミ映画。
こういうお話が生まれるから
DC系のコミックスは侮れない。
実在のアメリカにおける社会問題を巧妙に取り入れつつ
その中で、過去の遺物として、政治からも市民からも
距離を置かれたヒーロー達の悲しい世界観が素敵。
特に狂言回しとして配置された
ロールシャッハの存在は強烈。
彼だけが変わりゆく現実、時代を前にして
ただただ、正直に生きてきたわけだよね。
経営者として大成功を収めた者
社会の影でひっそりと暮らす者
その特異な力を誇示し続けながらも
冷戦回避、人類のための研究に没頭する者……
様々な立場で腐った社会と迎合してきた元メンバーだけど
ロールシャッハにとっては、全てが裏切り者なのかもしれないね。
しかし、直接的に裏切っていたのは
もちろん彼ではない。
大筋はかつての仲間が一人殺される所から幕が開く
「ヒーロー狩り」の物語。
この謎をサスペンス調に絡めながらも
米ソ、冷戦社会における閉塞感に満ちた
ダークな連中のif世界を情緒たっぷりに味わえる。
そして、何と言っても
ヒーロー達が繰り広げる骨太で皮肉な生き様は
そんなクソ重い世界観に対してすら
堂々とした位置付けをもっているのだから
実に大した一品だろうね。
見事な大人向け映画。
『WANTED』 2008年
監:ティムール・ベクマンベトフ 主演:ジェームズ・マカヴォイ
★★☆☆☆
仕事はイマイチ、恋人も寝取られ
うだつのあがらないサラリーマンが
実は暗殺者集団の子孫だったといお話。
元の生活との二面性が全然繋がらない
すっきりしない一作。
主人公の本来の人生観が全く理解できない。
世界設定とアクション面は満点に近いのだが
その一方向で突き抜けるわけでもなく
それ以外が面白いわけでもなく
退屈と退屈の間を派手なアクションで取り持つ感じが
なかなかに辛い一本。
もう一人の主役であるアンジェリーナ・ジョリー側を楽しむ映画なのかな。
『浮草』 1959年
監:小津安二郎 主演:中村鴈治郎
★★★★☆
日本全国を巡業する旅一座が繰り広げる人情話。
強烈な頑固親父のキャラクター像と
彼を取り巻く愛憎こもごもを描いている。
一生「アホ、ドアホ」と連呼しているだけのオジサンだが
彼の絶妙な愛嬌が全てだろうね。
登場人物全てが、世渡りの上手い人間ではないのだけれど
彼らの言動には何処かしら自然と共感が沸くんだよね。
人間らしさと言うか、思わず納得してしまうポイントが強く
憎みきれない馬鹿どもが繰り広げる愛憎劇にノックダウン。
一度の人生、このくらい深い人間味を出してみたいんもんだよ。
小津安二郎の作品ではあるのだが
今作は、非日常的な旅一座の姿を描いており
舞台も北の田舎町の風景を広く映しているため
不思議と落ち着かない感じがある。
もちろん、カメラが激しく動く事はなく
語り口調はいつもの調子ではあるのだが
普段との絶妙な違いに何とも不思議な融合を見る一本。
『浮雲』 1955年
監:成瀬巳喜男 主演:高峰秀子、森雅之
★★★★☆
戦時中、ベトナムで不倫関係にあった男女が
戦後に東京へ戻り流れるままの人生を送るお話。
駄目な男と、駄目な女との延々の腐れ縁。
感情と状況に流されるままの自堕落さには
一種の人生の美学すら感じる。
EDの詩にもあったようにこの人生は辛いだろう。
確かに海外での恋仲時代で、二人の人生はピークを過ぎてしまったとは言える。
ただ、それを夢だったとまで言い切りつつも
結局は二人とも自殺はしないんだよね。
蛇足と言いながら、傍から見れば紆余曲折の凄まじい人生なのよ。
社会とか生活とか、そういう外部からの干渉にも拠らず
本当に真っすぐに人と人との心だけを見つめ続けて
これだけの重みがあるのは素晴らしいよ。
人間ってのは、一人一人がここまで深い物なんだな。
延々、悲惨で駄目な二人を見ていながら
あぁ人間って良いなと思える不思議な映画。
『雨月物語』 1953年
監:溝口健二 主演:森雅之、田中絹代、京マチ子
★★★★☆
戦国時代、家族の幸せを願う二人の百姓が
一つの手段に取り付かれ道筋を誤っていくお話。
怖いな。
もちろん、原作として『雨月物語』を脚色した映画なので
元々、怪談物語ではなるのだけど
この作品が怖いのは、全ては演出の妙だろう。
あまりの不気味さ、空気の重苦しさは
もはやホラーを超えて神々しくすらある。
ここが、芸術性と言われる物との境なんだろうなと素直に納得。
どこか幻がかった現実感の薄さと言い
白黒映像の陰影のメリハリと言い
本当に突っ込む隙が無い。
気付けば画面に飲み込まれている見事な一品。
お話は、紆余曲折の末に幸せの形に気付く物で
悲しいながらも最終的な希望は失わないステキな作り。
こちらも素直に染みる。
それにしても、京マチ子の妖艶さよ。
彼女の初登場シーンなど、冷静に考えればギャグに近いんだけど
あまりの存在感に全く笑えない。
主人公が憑かれるだけの説得力はありますよ。
いわゆる可愛らしさでもなく、シンプルな美人でもない
彼女だからこそ成立する恐怖の世界。
『牛泥棒』 1943年
監:ウィリアム・A・ウェルマン 主演:ヘンリー・フォンダ
★★★★★
西部の土地で牛泥棒による殺人事件が起こる。
許せない連中による犯人追跡、捕縛
そして……というお話。
重い。
僅か76分の映画にココまでの力があるものか。
この手のお話は好みです。
程度の差こそあれ、大抵の人には経験のある空気だと思われる。
あの強迫観念に包まれたノリは非常にリアルだな。
人間の集団心理、感情という厄介な代物の帰結、法の持つ意義。
実話が元らしいが、これは時代と土地の問題も多々あるだろう。
西部の荒くれ者に理解できる正義ではなかったのかもしれない。
最後、保安官のさらりとした一言がやるせない。
しかし今は違う。
西部劇という舞台が選ばれているのは
敢えて過去の無法な土地を題材にする事により
そこから、数十年(映画が撮られた時期で、現在は100年以上)経って
その間、我々がどれだけ発達した社会と心を身に付けたのかを
真正面から試されているような物。
いつの時代であろうと
不変のテーマという物は必ず存在する。
一体、自身は誰の立場になるのか、心して見る一作。
『失われた週末』 1945年
監:ビリー・ワイルダー 主演:レイ・ミランド
★★☆☆☆
アルコール依存症の駄目男が繰り広げる
週末3日間の最低物語。
一体、何を見る映画なんだ。
33歳、自称小説家の無職、兄の家に居候、アルコール依存症患者。
この設定だけでも駄目すぎる男が
延々とアルコールを求めて最低行為を繰り返すだけの100分間。
その姿や描写に、何らかの面白さや皮肉が入るような
映画的な仕掛けも無い。
あくまで、アルコール依存症のみをテーマにした社会派なのか。
1945年当時の衝撃作という事になろうか。
途中までは、相応のオチが付くだろうという安心感で見るのだが
その内、落とし所の検討もつかないまま
主人公の屑っぷりは、観客の許容範囲を超えエスカレートしていく。
その様相には恐怖すら覚えてしまう。
映像からも、音楽からも、それを盛り上げる意図しか見受けられない。
視聴後に困ってしまう映画。
自分を強く持たなきゃ駄目だという感想は確かに残る。
『ウホッホ探検隊』 1986年
監:根岸吉太郎 主演:十朱幸代、田中邦衛
★★★★★
不思議なタイトルでありながら、実に堅実。
単身赴任で家族と離れて暮らす父親と、母親、二人の息子。
1980年代、何処にでもいた日本家族のお話。
色々あって、確実に家庭は崩壊するのだが
それでもなお、みんな冷静に家族が大好きで
しっかりお互いの事を尊重して
かと言って、過度に自身を抑え込まない。
賢すぎる面々の言動に、空々しさを感じる人も多いかもしれないが
80年代に相応の家庭できっちり育ててもらった身からすれば
このくらいの謙虚さ、そして家族への余裕が圧倒的なリアリティ。
家族とはこんなもんだろう。
劇的な崩壊などは所詮は極一部の見世物話でしかない。
単身赴任や共働きという事象が育む80年代式の子供達の価値観や言動が
隅の隅まで練りこまれていて、一つのシーンも見逃せない完成度の高い脚本。
この家族が、今後上手くいくかどうかは
彼ら自身の価値観でなければ、判断する事はできないだろう。
探検隊とは良く言ったもんだ。
あと言っておくが、田中邦衛はカッコイイのだよ。
これを忘れてはいけない。
『海がきこえる』 1993年
監:望月智充 主演: 飛田展男
★★★★☆
高知県の田舎高校を舞台に
東京から転校してきた女の子との恋愛模様を綴った青春アニメ。
淡いな。
どちらかと言うと、喧嘩の方が多いような関係から
特に警戒せずに接触を続けている内
実は恋に落ちているという王道パターン。
意識せずとも特別なイベントを繰り返せば
情が移るのは当たり前。
親友との絶妙な関係も良いね。
高校という舞台で完結させる事には拘らず
大学までも跨いで、彼らが大人になる姿をも描く
ちょっと年齢層の幅広いお話。
あまりの爽やかさに
こんな青春時代を送りたかったと
逆に鬱な気分になるお約束の一品だろうか。
厳密には長編TVアニメーションで映画ではない。
『海の上のピアニスト』 1998年
監:ジュゼッペ・トルナトーレ 主演:ティム・ロス
★★★★☆
生まれてから一歩も船外へ足を踏み出した事がないという
船上の天才ピアニストが見せる人生のお話。
結局は、故郷への哀愁なのかな。
彼にとって幸せは何処にあったのか。
知らない世界へ一歩踏み出す勇気と
言葉にするのは簡単なのだが
それほど単純には人間の人生観は語れまい。
虚しい人生と一蹴はできる。
だが間違いなく彼の人生は船上にこそあった。
豪華客船で繰り広げられる圧倒的な映像
エンニオ・モリコーネが担当する音楽の美しさ
幻想的なシーンと合わせる見事なピアノ楽曲の数々
どれもが映像として素晴らしい。
全てにおいて映画として一見の価値がある。
そんな在りし日の船上における華やかさがあればこそ
過ぎ去った時代と現実における切なさが引き立つ。
彼の選択の是非は問わない。
それもまた一つの人生と納得はしよう。
自然とそんな思い耽られる綺麗な一本。
『海の底』 1931年
監:ジョン・フォード 主演: ジョージ・オブライエン
★★★☆☆
第一次世界大戦末期
ドイツのUボート撃沈任務を負ったアメリカ海兵の
緊迫感溢れる攻防のお話。
愛すべき水兵さんだな。
とってもお馬鹿なんだけど、底抜けに明るく誇り高い
彼らの仕種一つ見ているだけで楽しめる。
漠然とした船乗りのお約束のような物が、この時代の作品で既に堪能可能。
多国籍の思惑が入り混じるスペインの寄港地も含め
1918年当時とはこういう物かという説得力がある。
あくまで、列強国同士ならばという事になろうが
このアメリカ、ドイツ両将校の敵に対する紳士的態度が素晴らしく
間違いなく反戦映画の一つではありながら
それ以降の世界とは、少し違う時代の空気を楽しめる
安心して見られる良作映画。
『海辺のリア』 2017年
監:小林政広 主演:仲代達矢
★★★☆☆
認知症を患った老年の名俳優が
施設を抜け出し海辺で娘達と触れ合うお話。
完全なる仲代達矢による仲代達矢のための作品だね。
公開時、84歳にして主演映画ですよ。
劇中の人物設定と現実とが微妙にリンクしていることは隠しようもなく
これは当時、現役俳優として最高ランクのスターである彼を称えるための一本か。
自身を引き取ってもらうために兄弟に頭を下げる旅を描いた
終活映画『春との旅』(公開時77歳)
駄目息子のために自ら命を絶つ『日本の悲劇』(80歳)に続く
人生の終焉を見つめる小林政広監督の仲代三部作と言っても良いだろう。
但し、今作は前二作と比べれば
直接的なテーマ性や社会問題は控えめになっており
何よりも演技メイン、しかも一人芝居が中心になっているのも
主演俳優に焦点を絞ったからではなかろうか。
真っ当な映画とは一線を引いてしまっている低予算作品でありながら
この不思議と贅沢な空気感は面白い。
何せボケ老人が海辺で喋り倒すだけの映画だからね。
シェイクスピアのリア王をモチーフにした要素が
舞台設定にも台詞にも多彩に含まれていながら
別段、老人の語る人生観によって諭される話でないのも不思議な感じ。
あくまで彼は一人の世界だけを生きているボケ老人であり
会話など一切取り合ってはくれない。
周囲が勝手に彼の姿から人生を考えてしまうわけだ。
下手をすれば、所詮人間は本質的には一人なのかなと思えてくるね。
そんな徹底的にドライな作りの中に我々は何を見るべきか。
登場人物が皆どこか駄目な人間であるのも象徴的。
ご親切な説教なんか貰えると思うなよってね。
『裏窓』 1954年
監:アルフレッド・ヒッチコック 主演:ジェームズ・ステュアート
★★★★☆
近所の様子を窓から覗き見る事だけが楽しみな
骨折で自宅療養中のカメラマンが
偶然、殺人を思わせる住人の行動を目撃してしまうお話。
とんでもない代物です。
全編、舞台は主人公の部屋の中。
外の世界は、徹底してこの部屋の窓から覗ける範囲のみ。
部屋に出入りするのは
彼女と通いの看護婦と友人の刑事の3人だけ。
たったそれだけの舞台で拘り抜かれた映像が本当に面白い。
容疑者以外の住人がこれまた素晴らしく
あくまで、窓から覗かれるだけの存在なので
ほぼ会話もなく、ただ映るのは遠景の映像のみ。
それでいて、これほどの個性が描けるものだろか。
十分に魅力的な生活スタイルが覗かれた部屋から丸裸。
本当に不思議なカメラマジックです。
御大は白黒映像が神がかっているだけに
カラーだとどうなのかと思いましたが
やはり天才的ですね。
主人公が一歩も動けない状態である事が
適度に緊張感を増す、全く退屈しない上質なサスペンス仕立て。
ただいつも通り、ストーリー自体に一捻りは無く
あくまで、ミステリーではなくサスペンスなんだな。
映画としての完成度の高さに酔いしれる一品。
『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』 1984年
監:押井守 主演:平野文、古川登志夫
★★★★☆
友引高校は、学園祭を前にしての準備で忙しい。
そんな中、いつも通りに迷惑で騒がしい登場人物たちだが……
やってくれたな。
この一言に尽きる。
総じてアニメ好きというのは
この映画のテーマにはハマるもんです。
余計なお世話と言いたくもなりつつ
恐ろしくなりつつも
ついつい、見入ってしまう説教アニメ。
これ以上のクオリティと、先鋭的なテーマ性には
早々出会える物ではない大傑作。
しかも『うる星やつら』という舞台がまた効くのよね。
原作が、それを代表するかのような世界観なわけで
この相乗効果が生み出す奇跡は見事。
この舞台を借りて描かれる事が
テーマに何倍ものインパクトを与えている。
どうするか。
もし、21世紀の世に再連載が始まったとしたら………
……まぁ、喜んで雑誌を手に取るでしょうね。
これが答えかな。
『ウルフマン』 2010年
監:ジョー・ジョンストン 主演:ベニチオ・デル・トロ
★★★☆☆
全編、霧がかった薄暗さで覆われている様が
雰囲気満点で良い。
あのロンドンは、半ば笑ってしまうが様式美。
鮮明さを伴わない映像密度というのは美しい。
適度にグロくて、適度に人間が汚くて、適度に重い。
この題材から期待する事は、きっちりと見せてくれる。
もちろん、その分ホラー面は薄いけどね。
元々、そういう話ではない。
ただし、人間ドラマも薄味なのは寂しいかな。
半獣人の苦悩の様が、やや投げっぱなしなのは残念。
基本はサスペンス調の作りで、
仕掛けが明らかになるまでの緊張感は中々。
ただ、多少のアクションや、お馬鹿要素もないと
世に出せないのかなというのが気になる一作。
全てが半端で終わる多様性は苦手。
『麗しのサブリナ』 1954年
監:ビリー・ワイルダー 主演:オードリー・ヘプバーン
★★★★☆
ある大実業家の運転手を父に持つ娘が
父親の雇い主である一家の息子に恋をするお話。
痛快でしょう。
駄目人間すぎる色男の弟に惚れて
やり手実業化の兄貴に惚れて
はたまた向こうに惚れられて。
その仲で揺れ動く姿が、実にコミカルで愉快。
自分自身ですら、何所まで本気か理解はできていないという
互いの心境がもたらす、着地点の読めなさが素敵。
ハンフリー・ボガードが演じる仕事の鬼のような中年の兄貴が
実はとってもユニークな人なんだよね。
もうオジサンだからと自らを笑うボギーのダンディさと
デビューからそう時の経たないオードリー・ヘプバーンの可憐さ。
似たような作風の映画は数有れど
このギャップはちょいと一見の価値があるでしょう。
小粋な会話に酔いしれるべし。
『永遠の人』 1961年
監:木下恵介 主演:高峰秀子、仲代達矢
★★★★★
地主の跡取り息子に体を奪われ
なし崩し的に名家に嫁ぐ女がみせた
夫婦喧嘩一代記。
恋人との仲を裂かれたことに端を発する
以降30年間にも渡るドロッドロの愛憎劇を
実に軽やかに描いてみせたハイセンスな大河映画だね。
本来、ウェット全開で然るべき根深い物語なんだけど
九州阿蘇の田舎農村からは想像もできないフラメンコギターBGMやら
章ごとに挿入される方言全開の歌語りナレーションやら
閉じきった人間関係と対比するかのように映し出される
阿蘇の美しく雄大な山々……等々
妙な組み合わせによる演出効果が不思議な相性抜群で
結果、作品が謎のオシャレ感で包まれている詐欺っぷりが見事。
お話は傲慢な御曹司と犯された小作人の娘という
完全「セクハラ+パワハラ」から始まった夫婦関係ながら
どうも精神的に上位に立っているのは奥さん側なのが面白い。
見方によっては「レイプきっかけ」の弱みを盾にして
夫を延々と糾弾し続ける強い女にも映るわけだ。
つまりは、どちらが惚れているか選手権を
長男、次男までをも巻き込んで
数十年に渡り繰り広げているような家族のお話です。
女が持つ強さと弱さ、母親特有の愛情めいた何か
長年連れ添った二人だけが持つ最後の信頼感など
全編が男女、夫婦、親子の情念に満ち満ちている。
それを仲代達矢の名演で思う存分に堪能しつつ
さらに、一枚上手の高峰秀子が盛り立てるという構図も贅沢で
まさに劇中の夫婦関係そのままなんだよ。
僅か100分少々の尺でこれだけのテーマ性を
見せ場連続の圧倒的なスピード感で描いてみせた
エンターテイメントとしても完璧な満点映画。
『栄光のル・マン』 1971年
監:リー・H・カッツィン 主演:スティーブ・マックイーン
★★★★☆
スティーブ・マックウィンを主役に
伝統のルマン24時間レースの様子を描くお話。
古今東西、これ程に熱いレース映画は他に無いだろう。
まさにレース好きの レース好きによる レース好きのための映画。
興味の無い一般層からすれば、もはやカルト作品の域ではなかろうか。
劇中、会話らしい会話はほとんどなく
主人公が口を開くのは何と開始から40分を経過してから。
全編通して描かれるはただの一日、まさに激動の24時間の姿。
その間、ルマンというレースの解説から
現地サーキットの状況、ピットの慌しさ、スタートの緊張感
ドライバーの疲労、雨がもたらす恐怖、突然起こるメカニックトラブルの悲劇
果ては、対照的にのんびりとした観客の姿まで。
そして死と隣り合わせの危険なスポーツである点は特に重点的に
大よそ、モータースポーツを構成する要素全てが
真正面から何の小細工も無く緻密に描かれる。
ここまで真摯な映画が他にあるわけがないのだ。
映画の存在自体がもはやレース好きへの一つのプレゼント。
登場人物もギリギリに抑えられており
相応のドラマはありつつも、台詞は少なめ。
各々の立場は、あくまでその表情と情緒から察する仕様。
夫を事故で亡くした未亡人の問いかけ。
「命は大切な物にかけねばならない。車で速く走る事がそんなに大切か?」
対するは、事故の当事者である主人公。
ずばり「レースは人生だ」
ほんの短い台詞の中にテーマの全てが詰まっている。
皆、言葉少ないからこそ
敢えて、プロフェッショナルな格好よさが際立つ。
中身は8割型がレース映像。
しかし、展開は抜群に熱い。
映画でありながらまるで実際の一レースを見ているかのような
手に汗握る緊張感が味わえる。
そもそも、実在レースの中に既にドラマは内包されているのだ。
その上で、現実のルマンで起こり得るだろう状況を全て
一レースの体で、ドラマチックに詰め込んでいるのだから
その密度は計り知れまい。
ドライバーもスタッフも、レース内容も、その車体に至るまで
ルマン24時間レースを構成する全てが主役。
傑作レースドキュメント映画。
『英国王のスピーチ』 2010年
監:トム・フーパー 主演:コリン・ファース
★★★☆☆
吃音症に悩まされる英国の王子が
自身が望みもしない王として地位と
完璧な演説を求められるその立場に悩み
それでも、周囲の助けを借りながら成長を遂げるお話。
丁寧さに酔いしれる一品かな。
派手なシーンも、驚かされる展開も皆無。
あくまで、視聴前に大筋で理解しているストーリーからは
一歩もはみ出さない王道の数々。
献身的に夫を支える妻であり、後の友人となる一風変わった言語聴覚士であり
彼らとの心の触れ合いを交えて
近代国家におけるイギリス国王としての立位置を
しっかりと踏みしめていく落ち着いた正統ヒューマン。
映画の主役としては
劇中にも登場するエドワード8世の方が
圧倒的に波乱万丈、かつヒューマン要素の強い人物像なのだが
そこを敢えて抑えるわけだから
この作品が目指す所は、その地味にさにこそあるのだろう。
ナチスのヒトラーや、スターリンを引き合いにだしての
演説こそが必要とされる時代というのも
テーマとしては綺麗にはまっており
本当に隙だけはみつからない良作。
『エイリアン』 1979年
監:リドリー・スコット 主演:シガニー・ウィーバー
★★★★☆
宇宙間を貨物船が航行するくらいに未来のお話。
ある船が、未知の信号に誘われ着陸した惑星にて
とんでもない物を抱え込んでしまう。
地味である事が贅沢な一品。
丁寧に丁寧に地味を貫けば重厚と呼ばれるわけだよ。
どの方向から見ても面白いよね。
特撮面から見ても、メカニカルなデザインから見ても
クリーチャーデザインから見ても
もちろん、ホラーとしても、SF世界観としても、サスペンスとしても
全てが一級のお仕事。
冒頭から宇宙船の細やかな造形と
それが宇宙空間を荘厳に飛ぶ姿にノックアウト。
そして、本当に愛すべき素人集団ですよ。
どう考えても迂闊にすぎる行動の数々に
ヤキモキさせながら見るのが面白い。
特にエイリアンの存在を大切に扱う演出が素敵で
彼らの悪質な生態系を一つ一つ描き
肝心の成体は、少しづつ、少しづつ現れていく。
如何に恐怖の生命体であるかが実感で伝わる見事さ。
派手じゃないのが逆に怖いわけよね。
『エイリアン2』 1986年
監:ジェームズ・キャメロン 主演:シガニー・ウィーバー
★★★☆☆
前作で生き延びた主人公が
エイリアンと遭遇した惑星へとケリをつけにいくお話。
何故こうなる。
前作が重厚感すら漂う丁寧なサスペンスだとすれば
今作はお馬鹿ドンパチ映画よ。
あれほど大切にしたエイリアン一体一体の価値が欠片も残ってない。
ただ銃で大量虐殺されるために出てくるようなもんで
映像面のクオリティは圧倒的にパワーアップしているのだが
どうにも、逆に安っぽい感じが抜けない。
例えば、彼らの血液が酸になっているという設定も
シーンごとで重要だったり大して問題にならなかったりと
とにかく構成が粗いのよ。
緊迫感が漂うはずの展開も
神聖不可侵の少女を登場させてしまったため
予定調和のご都合主義で全てが曝け出され
全くドキドキする事がない。
子供の命が地球より重い事に問題はないのだが、
それを緊張感が必要な映画に混ぜるのは無謀だろう。
終わり方が見えるサスペンス程に退屈な物はない。
ちょっとだけ現在と形の変わったスーツだったり
海兵隊の架空武装の数々だったり
未来の世界観そのものを楽しむ作品としては一流。
クリーチャー含め、デザイン面は変わらず素晴らしい。
シンプルなドンパチ映画としてなら十分に見られるが
それで140分は長い気もする。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』 2007年
監:庵野秀明 主演:緒方恵美
★★★★☆
どの面下げて……という言葉がぴったりだが
10年も経てば、アニメのようなジャンルはユーザー層が入れ替わるのだろう。
時代背景も変わっている。
中身は本当にこれがエヴァンゲリオンかという程に
真摯で丁寧に作られていて驚かされる。
新シリーズを独立した一作品として完全に初見で成立する作り。
この一作目はTVシリーズ序盤の再編集がメインだが
本当に贅沢な尺と手間を使って組み上げているため
この作品本来の魅力を損なわない。
描かれ方は独特だが、ベースとしては王道少年物。
男の子は、父親とは上手くいかなくて、他人との関係に過度に敏感で
困った女の子が居たら全力で助けるのが当たり前。
独特な世界観や造形、美術のセンスも健在。
単純なエンターテイメントとしても十分に楽しめ
昔のファンが見ても
何か変わったなと納得できるスタート作品。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』 2009年
監:庵野秀明 主演:緒方恵美
★★★★☆
キャラクターの中身がTV版とは完全に別物。
これは新規作だぞという事を嫌でも実感できる二作目。
起こってしまう結果や、目の前の現実は変わらなくとも
一人一人がそれでも前を向いて進んでいこうとする心が
元作品とは決定的に違う。
但し「謎」を大事に取っておくという手法自体は一緒。
全ての人類にとっての真の謎ではなく
必要によって秘匿された「謎」は陳腐になるというのは
オリジナル版で懲りたとは思うがどうなのだろうか。
もっとも、それは今作の感想ではなく
この段階ではワクワクさせてもらえれば良いかな。
独立作品として見れば
二人の新キャラクターの劇的な登場から話を起こして
主人公の生活や心情の大きな変化に繋がり
思ってもみない展開で事態を緊迫させて
最後にはきっちりと主人公に結論を出させる。
この教科書のような綺麗な構成は何だろう。
もちろん、次回作に繋がるちょっとしたキーワードや謎も
適度に散りばめて連作として完璧な一作。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』 2012年
監:庵野秀明 主演:緒方恵美
★★★☆☆
新劇場版三作目。
ある種、ファンが望む通りのハッピーな願望に応える形だった前作から打って変わり
今作はいつまで経っても成長しない観客に対する
説教映画として舵が切られている。
巨神兵の実写短編と言い、巨大艦船の離陸シーンと言い
基本、作り手がやりたい事を好きにやっているだけの映画だが
これは、前作如きを絶賛してきた
幼すぎる世の中への絶望の現れではないか
開き直りではないのか。
言うまでもなく、劇中で語られる「14年間」とは
1998年から2012年までの期間が意識されているはず。
今作の公開時に30歳を超えていた元中学生世代にとって
エヴァが終わるべきであるというメッセージは
1998年度の劇場版最終Ver.にて一度受け取っているはずであろうから
これは我々に大人になって欲しいと願う
真摯さに満ちた作品とも取れるだろう。
いい大人が14年前に戻りたい
あの頃の世界に返りたいと願う心は
どう考えても、正常の物ではなかろう。
劇中で一人子供のまま取り残されたシンジ君は
かつて彼に自身を投影していた
思春期の観客の成れの果てではないか。
まして、そんな説教にすらも快感を覚えるようでは終わりである。
世代的に非常に納得度の高い一作ではあるのだが
傑作エンタメを期待した若いファンは割を食った形かな。
作品そのものとしては苦い説教を織り交ぜつつも
間違いなく一つ現実を前に進めるお話になっている。
前作で無限ループを匂わせてからの見事な一蹴。
一筋縄ではいかない姿勢はさすが。
つくづく「終わり方」だけに価値のあるブランドである。
『駅 STATION』 1981年
監:降旗康男 主演:高倉健
★★★★☆
厳しい北海道の大地で生きた
ある警察官の人生物語。
ザ・高倉健。
これほどに、男の背中から滲み出る哀愁を
堪能できる作品があろうか。
数ある健さん映画の中でも最も尖った一本かもしれないね。
そして、この監督さんは
厳しい風景を撮らせれば右に出る物は居ないだろう。
物悲しさに溢れた北海道の大地と
主人公が抱える人生観が見事に相俟り
一歩間違えれば、ただのサスペンスやメロドラマで終わり得るお話が
珠玉の人生譚として仕上がっている。
決して順風満帆な人生ではないだろう
汚い世界も数多く見てきたはずだ。
心からの納得など、経験した事すらないかもしれない。
それでも、不器用に生き続けるこの主人公の姿は
果てしなくカッコイイ。
ここに憧れを抱かない男など居るのかね。
『駅馬車』 1939年
監:ジョン・フォード 主演:ジョン・ウェイン 他
★★★★★
偶然同じ駅馬車に乗り込んだ人々の群像劇。
アパッチの襲撃に怯えつつ、各々が目的地を目指す中で
紆余曲折というお話。
思い返せば返す程、無駄なシーンが一欠けらも存在しない。
9人もの登場人物の魅力を余すトコロなく描きつつ
最後に目を疑うような大スペクタクルシーンまで挿入して
実に見事な「99分」
余計な事を描かない美しさってのはあるよね。
直接的な表現が無い分、視聴後にじわじわと効いてくる。
映画に必要な要素が全部存在する
全ての雛型と言ってもよい。
インディアンの人間性やキャラクター性の無さは時代の象徴だろうか。
ひたひたと近づく脅威としてしか描かれない点が
見事な恐怖の演出になっている。
『エクスペンダブルズ』 2010年
監:シルヴェスター・スタローン 主演:シルヴェスター・スタローン
★★★☆☆
独裁国家の元首暗殺の依頼を受けた
傭兵部隊の大暴れ絵巻。
それだけの話だよ。
徹底して、古き良きお馬鹿コマンドアクションを
再現し続けた過激ながらも爽快な一品。
スタローンの親父臭いキャラクターを存分に堪能できる点では
全く隙がない良作。
全編、シャレの効き方も中々で
カメオ出演の選択もウィットに富んでおります。
あそこで笑わない人はいないでしょう。
ただ、せっかく6人という狭いチームの割に
主人公以外のキャラが今ひとつ伝わらないのは残念。
皆、やってる事がド派手な割に、見せ場自体は地味で
どうにも活躍の場が貰えたとは言いがたい。
ジェット・リーまで使ってそれはないだろう。
敵役の没個性も合わさって
本当に、ただ爆発シーンや、暴力シーンを見つめ続けるだけでは
さすがに退屈なんじゃないだろうか。
確かに良作ながら、往年のドンパチ物は
もっと、キャラクターや展開からも面白いぞと
思わず切なくなってしまう一品だね。
『エクスペンダブルズ2』 2012年
監:サイモン・ウェスト 主演:シルヴェスター・スタローン
★★★★☆
任務の途中で命を落とした若者の仇を取るため
主人公一行の傭兵集団が悪党に復讐を行うお話。
前作は、懐古アクションシーンの映像だけが先行し
チームメンバーのキャラクター性が活かされない事が
どうにも不満に思える作品だったのが
今作はさらなる開き直りへ。
これだけのキャストに、所狭しと画面を占領されては
もはやレギュラー陣の活躍を期待する方が
野暮になってしまうという逆転の力技が光る。
スタローン、シュワルツネッガー、ブールス・ウィリスが
チームを組んでの同時に殴り込んでくるインパクトの絶大さ。
さらには、時折、手助けしてくれるナイスな傭兵として
チャック・ノリスまで現れる始末。
こうなると、彼らに命を狙われる敵役の悲惨さにこそ
同情が集まってしまうわけだが
ここにまさかのジャンクロード・ヴァンダム。
これでもかと、往年のアクションスターで埋め尽くされるお祭り感。
その映像の馬鹿馬鹿しさに笑い転げていれば
僅か100分、映画としての出来云々など吹き飛んでしまうだろう。
見事に一芸、コンセプトを詰めきった快作へと化けた一本。
『エクソシスト』 1973年
監:ウィリアム・フリードキン 主演:マックス・フォン・シドー、リンダ・ブレア
★★★★☆
一人の神父が、悪霊憑きの少女を
悪魔払いの儀式により救い出すお話。
怖いね。
ホラーとしての怖さに合わせて
親しい人間が突然発狂するという恐怖だよ。
悪魔憑きって、本来はそういう物だよね。
一体、そうなった際、周りの人間としてどうすればよいのか。
この問いかけが、常に纏わりついてくる恐怖。
絶妙な粗さを残した絵作りで
画面全体から迫る緊迫感は異常。
衝撃映像はともかく、何ら派手な展開があるわけでもなく
当面の話としては、少女の悪魔憑き以上の問題に発展するわけでもない。
ただただ、シンプルに悪魔の恐怖に立ち向かう
人間の意思の物語。
キリスト教に馴染みがなくとも
テーマや映像、演出のセンスがあまりに真に迫っていて
ついつい引き込まれてしまう。
ただ、使われる道具や教会のシステムについて
少しわかりにくいのが難点かも。
『X』 1996年
監:りんたろう 主演:関智一
★★★☆☆
人類分明社会の破壊者と守護者。
二つの勢力に別れて壮絶な争いを繰り広げる
サイキッカー集団のお話。
美しい映画だよ。
原作のCLAMPデザインから起こされた
個性的なキャラクター達に加え、
その繊細さを十分に活かす形で描き込まれた
アニメーションとしての完成度の高さ。
実に美麗な芸術系作品。
加えて、作品を締めるテーマ曲は
X-JAPANの手による珠玉のバラードというのだから
その世界観の洗練っぷりは文句の付けようがないレベル。
ストーリーは有って無いような物。
運命によって、対立、殺しあう勢力同士なんだなと
ただ、それだけの認識があれば済んでしまう一品。
原作好きとして満足できると言えば嘘になるが
100分たらずの劇場版としては、この方向性はアリだろう。
Xの魅力を最も先鋭化して映像化すれば
抽出されるのはこの部分にはなろう。
要は如何に病的か
そして如何に死ぬかだ。
そんな素敵一本。
『X-MEN』 2000年
監:ブライアン・シンガー 主演:ヒュー・ジャックマン、アンナ・パキン 他
★★★☆☆
人類社会からはみ出してしまった異能者達の
苦悩の物語。
独特の魅力で溢れるアメコミデザインを
一体、どう実写映像に落とし込むか。
この一点でまず楽しめる一作。
中々スタイリッシュで現代的なデザインはお見事で
特に、一番人気のキャラクターでありながら
最も再現が難しいと思われるウルヴァリンが
独特の魅力に満ちているのは素晴らしい。
納得の如何には関わらず
まずは、その挑戦っぷりに楽しませてもらえる。
キャラクターも含めて、完全に映画オリジナルの作品だが
お話は、本来の重さが良く出ていて中々に見応えがある。
それでいながら、映像やスター性で楽しめるエンターテイメント作品としても
十分に成立している贅沢な一品。
00年代のアメコミ映画ブームのお手本だろか。
『X-MEN2』 2003年
監:ブライアン・シンガー 主演:ヒュー・ジャックマン、アンナ・パキン 他
★★★☆☆
超能力バトル第二弾。
ウルヴァリンの過去話がメインで
完全に主人公が確定した一本だね。
能力者としては最も地味な絵面の彼が
一番カッコ良く映るのだから、
ヒーロー像とは不思議なもんだ。
前作譲りのスタイリッシュな映像は健在で
日本人がアメコミに抱く垢抜けない感じはゼロ。
新キャラクターも多数登場し
さらに練り込まれた未来的なデザインの数々は
見ているだけで十分に楽しませてくれる。
全体では、人間側の行動が過激になる展開で
ミュータント至上主義にも同情が集まるお話。
結果「やらねば、やられる」抜き差しならない
双方の泥沼状態がより強調された二作目だろう。
あとは完結編に向けて一直線。
『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』 2011年
監:マシュー・ヴォーン 主演:ジェームズ・マカヴォイ、マイケル・ファスベンダー
★★★☆☆
主役は若かりしエグゼビア教授と、マグニートー。
X-MEN誕生とその決裂までを描くお話。
既にメインタイトルで三作もの『X-MEN』が存在する中
せっかくの外伝作品まで、ミュータントのキャラクター紹介は必要だろうか。
X-MEN誕生秘話となれば、登場せねば納得できない人物も多々あるだろうが
どうせ出てきた所で大したドラマは貰えないのだ。
登場するだけでファンは喜ぶというなら
少々、志が低い一本だろう。
その分の尺が、肝心のチャールズとエリックの友情話や
彼らが袂を分かつ事になるまでのドラマを喰ってしまっては本末転倒。
ミュータント全般に共通する悲哀を描くだけなら
既に過去作があるではないか。
今作がせっかく描ける対象はミュータントの中でも特別な二人なのだ。
結果、悩めるエリックを描く映画としては
散漫な視点が多くやや弱めの表現で終わっている。
敵にも味方にも、設定以上の生きた個性は望めない。
ナチス時代、ポーランドのホロコーストから幕を開ける
重厚な入りで期待させる割に最後まで全体の雰囲気は軽め。
物語を実在のキューバ危機と絡めて、まだお気軽エンタメがやりたいのか。
過去三作のノリをそのまま期待する分には少しだけ重く
重いお話を期待すると今度は軽く見える。
大きな穴は無いがそれ自体が目的になってしまっている作品かな。
『エデンの東』 1955年
監:エリア・カザン 主演:ジェームズ・ディーン
★★★★☆
愛情に餓えて育った一人の青年の物語。
ジェームズ・ディーンの熱演が光る一品。
父親との確執、兄貴へのコンプレックス
あるいは、まだ見ぬ母親への不安と期待に溢れた
誰よりも繊細なティーンの姿が、完璧に劇中に現れている。
主人公の行動原理は、全てが愛されたいが故の一心。
結果、周囲の言動一つ一つに過剰に反応してしまう
情緒不安定な表情や動作に大注目。
主人公も問題児ながら
身内の方々もまた、何処か抜けている連中ばかりで
まるで、彼が最も大事にしている心の奥底を狙い撃つかのように
ついつい踏みにじってしまう駄目言動の連続。
そこは察してやれ、気を使ってやれ、折れてやれよと
観客の悲鳴が漏れるような正直さ。
結果、周囲もそれ以上の反撃を喰らい、
連鎖的に皆が皆、不幸になっていくという恐ろしい展開へ。
一人、東(?)へと去る前に
父親と分かり合えた事は奇跡の一言に尽きるだろう。
身内同士の愛情のもつれだけは、いつの時代も変わらないもんだと
人類不変の悩みに思わず安心すらしてしまう傑作青春ドラマ。
あぁ心が痛い。
『エリザベス:ゴールデン・エイジ』 2007年
監:シェカール・カプール 主演:ケイト・ブランシェット
★★☆☆☆
エリザベス一世を主人公に
女王としての孤独と義務に悩む姿を描くお話。
どっち付かずな印象が強いかな。
スペインとの大海戦をクライマックスに据えながら
そこへ至るお話が、どうにもシンプルに過ぎて
あくまで、女王の孤独な心情を際立たせるための
小道具に成り下がっているのが勿体無い。
かと言って、人間としての女王の姿に
そこまでの魅力があるかと言えば疑問。
恋もすれば、嫉妬もする、人情家にもなれば
癇癪だって起こすといった様は
確かに、一人の人間としては納得なのだが
その描写に淡々と終始しすぎて
何故、あの海戦での凛としたイングランド女王の姿へと
繋がるのか、そこまでのドラマはとっても薄味。
アルマダの海戦へと繋がる史劇物として半端で
女王の人間性を描いた人生譚としても半端で
美術のお仕事が派手な割には、
映画としての見どころは少ない一品かな。
『エル・シド』 1961年
監:アンソニー・マン 主演:チャールトン・ヘストン
★★★☆☆
11世紀のスペインで活躍したとされる
英雄エル・シドの人生譚。
1962年公開の超大作史劇で
そろそろブームも終焉といった頃ではあるが
円熟のチャールトン・ヘストンを主人公に
圧巻の美術映像、人海戦術が拝み倒せる贅沢な180分。
この時代のイベリア半島は面白いね。
カトリックとイスラム圏の絡み合いが
一般的な欧州イメージとは異なりとっても新鮮に映る。
確かに地図を見れば一目瞭然だが、
地中海を挟みアフリカ大陸で穏やかな海続きである
この国の歴史は、古くからイスラムとは表裏一体なんだな。
アフリカから侵略を行うイスラム勢力と
古くから半島に根付いているイスラム国家とでは、
決して同一の価値観ではなく
あくまでカトリック国家の英雄である主人公が
ムーア人の王様達とも親しく付き合う様は
絵面一つを見ても、不思議な魅力に溢れている。
基本は歴史物と言うよりは
エル・シド本人の人生を追う形式の映画で
ある種の傲慢さをも含んだ主人公が見せる
中世式の男臭さに痺れる一品だろう。
ただ中盤以降、彼が聖人君子になり過ぎる感があり
人間物語としては、少々喰い足りたりない印象も残る。
映像も作品規模に圧倒される以外は
特に冒険の無い実直な代物で
あくまで、伝説の英雄を描く役目だけを負った映画かな。
『エルマー・ガントリー/魅せられた男』 1960年
監:リチャード・ブルックス 主演:バート・ランカスター、ジーン・シモンズ
★★★★☆
信仰復興ブームで揺れるアメリカを舞台に
口八丁のセールスマンが、独特のパフォーマンスで信仰を説き渡り歩くお話。
日本人には少し難しい感覚なんだろうな。
キリスト教徒ではあるんだけど、本気では信仰していない。
自他共に認めるリアリストでありながら
改めて、聖書を「嘘」と言い切る事には口を濁す感覚。
ほとんど詐欺師なはずの主人公達も、
決してキリストそのものを軽視などしていない。
何とも不思議な距離感だよね。
そういう層が世の中にたくさん存在する事がよくわかる。
素人宣教師が幅を効かせるリバイバルブームは
複雑な問題だったんだろうと思う。
しかし、教会も生き残りに必死で思惑はある。
こういう舞台が見事に効いていて密度高し。
メインテーマは愛だが、何より信仰とメディアと一般大衆だな。
大衆を煽動して成功した御一行が
あるきっかけから、今度は煽動された大衆に攻撃される様は必見。
本当に、世の馬鹿さ加減に耳が痛い一品。
それでいて、過度に押し付けがましくないのは映画としての質の高さか。
まず、バート・ランカスターの好演に尽きるかね。
これほどのお調子者が似合うとは驚き。
愛をテーマにしたエンタメ作品として、きっちり楽しめつつ
それでいて、チクチクと突付いてくる刺激が素敵な社会派傑作。
『エル・マリアッチ』 1993年
監:ロバート・ロドリゲス 主演:カルロス・ガラルドー
★★★☆☆
偶然、街に立ち寄ったギター弾きの男が
血生臭い事件に巻き込まれるお話し。
所謂、メキシコ無法暴力シリーズ。
「メキシコ」、「ギター」、「ガンアクション」。
このキーワードから望まれる世界観が
見事に構築されている完成度の高い作品。
シンプルすぎる筋立てが
極上の乾いたメキシコ空気に拠って
心地よく、淡々と進んでいく不思議な一本だね。
大きな仕掛けこそは無いが
キャラクターの嫌味の無さ、テンポの良さが上々で
主人公の暴力やロマンスの様を
ただただ、情緒に任せて追っていくだけで
幸せになれてしまう。
後の『デスペラード』程の派手さはないが
既に世界観が出来上がっている良作。
『炎上』 1958年
監:市川崑 主演:市川雷蔵
★★★★☆
人生を思い悩むお寺の青年が
最後には金閣寺を燃やしてしまうお話。
実際に起きた放火事件をベースにした小説の映画化だが
今作はまた違うテーマなのだろうね。
若者の生まれと育ちが積み上げてきたコンプレックスと
過剰な高潔さによる歪みを描いた重い作品だけど
その割に、映画自体にはあまり熱量が無いのが面白い。
実に見やすい絵面とハイテンポさのおかげで
そんなお話が妙に気軽に楽しめてしまう。
画面の綺麗さだけで十二分に楽しめる作品の上に
一人の若者の自意識が乗っかっている距離感が見事。
誰もが一度はハマるこじらせ青年の心情というものに
ある種の美しさや尊さを感じられない限りは
この物語自体は理解できんかな。
彼は母親や師匠が持っている俗っぽさ許せないのだろう。
亡き父親との清き思い出のまま時が停止した世界が存在するため
その象徴としての金閣寺に全てのしわ寄せがくる展開か。
見事なスーパー引き篭り話。
そんな主人公が抱く世界への絶望を
市川雷蔵が素晴らしい好演。
冒頭のトップクレジットがなければ
彼とは気付かないレベルだろう。
青年のコンプレックスの根底にある吃音の姿などが
こうも納得の形で表現されているからこそ
駄目にすぎる彼の人生にも素直に入り込める。
そして、友人である仲代達矢の放つ毒がまた凄い。
一人過剰な演技にも見えるのだけど
その分、彼が主人公に示してみせる異世界っぷりが
完璧なまでの説得力を持っているよね。
彼の本音に飲まれてしまうのかな。
一人の若者が世の不条理に負けて壊れてしまう
とっても私的でどうでもいいお話でしかないのだが
炎上シーンからエンディングの流れまでもが実に美しく
汗臭くないのが逆に良い塩梅の一本。
『お熱いのがお好き』 1959年
監:ビリー・ワイルダー 主演:トニー・カーティス、ジャック・レモン、マリリン・モンロー
★★★★☆
殺しの現場を目撃してしまった事から
マフィアに追われる身となった二人の主人公が
女性だけの音楽団に女装の上で紛れ込むドタバタ話。
こんな変態チックな設定を
よく、笑い放題かつ、綺麗で爽やかなお話に昇華できるもんだ。
加えて主人公は徹底したクソ野郎。
男と女の二つの顔を使い分け、狡猾に騙しながらの恋愛アタックなど
どう考えてもロクな印象は残らないはずのお話だ。
ところが、この映画の視聴感は最後まで心地良いんだな。
一つは次から次へと押し寄せる可笑しさの良テンポ。
また、変態行為とそれに反した二枚目っぷりの融合が見事な
トニー・カーティスの粋な存在感と
少々頭の弱い相棒役となっている
ジャック・レモンの底抜けの馬鹿馬鹿しさが良い。
そしてヒロイン、マリリン・モンローの女性としての粗雑さが加わる。
つまりは彼女相手なら、それもまぁ許されるかもしれないと
思わず納得してしまうあっけらかんとした懐の広さだよ。
見事な三者三様が織り成す奇跡だろうね。
一言で現すと、何故か許せる映画。
忘れちゃいけない良脇役として、大富豪のおじいさん。
彼の物事に拘らない余裕、人生を楽しむ秘訣を知った様が
結末に大いなる爽快感を与えてくる。
結局、嘘で固めた人間関係を前提に進むお話は
どれだけ笑っても、その大前提にある爆弾の解体に気を取られて
心からは楽しめないはずなのだが、この映画は肌から伝わる安心感が違う。
まぁ最後までには何とかしてくれるだろうと
観客にお気楽に構えさせてくれる説得力がある。
コメディ映画かくあるべし。
『黄金』 1948年
監:ジョン・ヒューストン 主演: ハンフリー・ボガート
★★★★☆
貧しい浮浪者生活ながらも
人情味に溢れた清廉な男達が
黄金の採掘によって人生を狂わせるお話。
一見すれば、テーマ性先行の作品にも思えるが
エンターテイメントとして、きっちり成立させているのが見事な一本。
一芸に走る事なくあらゆる方向で楽しませてくれる。
ロマン溢れる冒険活劇であり
かつ、手に汗握るサスペンスでもあり
最後はヒューマンドラマとして感じ入る。
完璧なテンポでお送りするエンタメ傑作。
何よりも作品全体を漂う泥臭さと、男三人の友情と崩壊。
次から次へと訪れる困難な事態こそが魅力。
最後に示される人生観の爽やかさも素晴らしく
一筋縄ではいかない人間関係と結果でありながら
決して後味は悪くない。
このバランス感覚の妙が良いね。
しかし、ボギーはよくこの役を受けたもんだ。
後の『孤独な場所で』『ケン号の叛乱』に繋がるのだろうが
ハードボイルドスター、ハンフリー・ボガードにもかかわらず
何故にこうも狭量で傲慢な男の役が似合うのか。
素晴らしい。
『黄金狂時代』 1925年
監:チャールズ・チャップリン 主演:チャールズ・チャップリン
★★★☆☆
舞台は、19世紀アメリカ。
金鉱探しのために冬山に入った男達が繰り広げる
ちょっと重めのドタバタ人情劇。
著名なチャップリン映画では珍しく純粋なコント集かな。
思わずハっとさせられるシチュエーションもあるが
他作品と比べれば社会風刺は比較的に薄味だろうか。
くどく描かず洗練されているとも取れるね。
人間の欲と餓えと限界のお話。
とにかく60分間の完璧な完成度には恐れ入る。
しっかりとした舞台と装置で作りこまれた一級のコント脚本と
チャップリン自身の演技の幅で
21世紀の目で見ても十分に笑い続けられるのは凄いよね。
1925年時点で既にこの芸術は完成されていた事に
何よりも驚かされる作品。
ネジの外れきったアホの子でありながらも
人情には厚くどこか憎みきれない貧乏人。
後の作品でも見られる哀愁漂うキャラクターも
ここで十分に完成済み。
短い作品なので元ネタ探しのためだけにでも
まず見ておいて損は無し。
『王様と私』 1956年
監:ウォルター・ラング 主演:ユル・ブリンナー、デボラ・カー
★★★★☆
19世紀中頃のシャム王国を舞台に
近代化政策として招かれた英国人の女性家庭教師と
異国の頑固王様とがやり合う恋愛ミュージカル。
1956年公開の大作カラー映画という事で
タイの異国情緒が映像からヒシヒシと伝わってくる。
この往年の映画ならではのスペシャルな雰囲気が実に心地良く
エキゾチックな世界観が全編通して味わえる豪華絢爛な一品。
頑固な王様と知的で意固地な女性が繰り広げる王道展開は古典的で
楽曲も含め行儀が良すぎる作風ではあるのだが
クライマックスに流れるシャルウィーダンスの美しさは
それを真正面から乗り越えてなお余りある貫禄だね。
何よりも主演のユルブリンナーが良い。
他作品では堅物のイメージしかないのだが
今作は王様としての野性味と威厳の中にも
常にコミカルな愛らしさが振りまかれているのが面白い。
彼らの恋と言うには程遠い淡い淡い互いの文化へのリスペクト合戦は
見ているだけで幸せになれる事請け合い。
あくまで異文化要素の味付けのある恋愛映画として気軽に楽しむのが吉かな。
『牡牛のフェルディナンド』 1938年
監:ディック・リッカード 主演:
★★★☆☆
花を愛でるのが大好きな
優しい牡牛のお話。
見込まれて闘牛に連れていかれるが
結局は戦わないで最後まで幸せに暮らすお話だね。
お話そのものに尖った教訓があるわけではないが
圧巻のアニメーションによる主人公の表情を見ながら
彼のキャラクターと心情に心を打たれる
10分程度の短編作品。
『王妃マルゴ』 1994年
監:パトリス・シェロー 主演:イザベル・アジャーニ
★★☆☆☆
16世紀フランス、カトリックとプロテスタントの争いに端を発する
サン・バルテルミの虐殺を描くお話。
色々と足りない映画だね。
時代特有の生々しさや、陰惨な雰囲気は十分に画面から感じられる物の
ストーリーや、キャラクターが弱すぎる。
A・デュマ原作の『王妃マルゴ』の映画化としては
特に人物像の描写は譲れない一点だろう。
原作は、彼らの悲しいまでの人間臭さが魅力の話である。
王妃マルゴとアンジュー公アンリとの愛情にも勝る友情
ココナス、ラ・モール両伯爵が見せる男気
厭世の王シャルル9世が最後に見せる王家の誇り
そして、残忍な陰謀、策謀家として描かれる
母后カトリーヌの根底にある一族への愛。
その全てを抜きには、この物語は何一つ成立しない。
映画としてのアレンジ、方針だと言うならば
代替の魅力が必要なはずだが、果たして何があったのだろうか。
終始、暗い暗い、王宮の権謀術数のみを描く
重厚さだけが売りの映像作品になっている。
単に重苦しい雰囲気が拝みたいだけであれば
一応、成立している一本ではあるが
原作好きからは、全てが足りない作品であり
初見からは、何が描きたいかわからない作品。
こんな感想で落ち着く一本だろう。
『大いなる決闘』 1976年
監:アンドリュー・V・マクラグレン 主演:チャールトン・ヘストン、ジェームズ・コバーン
★★☆☆☆
復讐に取り付かれた非道な脱獄犯と
かつて彼を捕えた元保安官の老人との
延々と繰り広げられる追跡劇。
まるで、1950年代映画のようなシンプル作品。
旧世紀の西部時代から時間が止まったかのような二人の男を
やはり、年老いたチャールトン・ヘストンとジェームズ・コバーンが演じる。
この手の終わり行く西部劇への哀愁映画は
かつての大スターが老年を迎えると、撮らねば駄目なのだろうか。
しかし『トム・ホーン』などもそうだったが
大抵は見所が少ない薄い映画に仕上がってしまう模様。
シンプルな構成自体は悪くないのだが
それならば、一体何を見れば良いのか。
かつての西部劇が持っていた勢いを抜きに
特にシナリオにも依存しない映画を見せられても
やはりただのパロディ、抜け殻のように感じてしまう。
『大いなる西部』 1958年
監:ウィリアム・ワイラー 主演:グレゴリー・ペック
★★★★★
水源地を巡る二勢力の対立のお話。
西部のルールに縛られない主人公が
理性的、平和的な解決の道を探る。
西部の雄大な大地を魅力的に描いていながら
その実は、西部劇的な価値観をとことん否定する異色作。
東部から招かれた紳士的な主人公がヤバイくらいカッコいい。
西部で絶対視される名誉や名声とは距離を置き
西部式の挑発、荒くれどものルールにも頑なに乗らない。
それは、自身の勇気を誇示せずとも耐えられるという勇気である。
腰抜けでないのは自分だけが知っていればよいのだから…
それでいて、卑屈さも惨めさも一欠けらすら感じさせない堂々たる態度。
そんな姿に真の強さ、男の理想の全てがあるのだが
その全て肯定できる程、自身の心が進化していない現実を突きつけられる体験でもある。
これぞグレゴリー・ペックの本領発揮だ。
二人の女性のスタイルや、主人公と西部の価値観の違いなど
あらゆる対立構造が綺麗に浮き彫りになり
その虚しさ、愚かさが見事に現れている。
映像面でも、映画ならではの豪快な引きショットの連続で
大地の壮大さを思う様に感じられる。
まさに「THE 映画」な一本。
グレゴリー・ペックとチャールトン・ヘストンの
伝説級のシーンもあるよ。
あれは必見。
『大江戸五人男』 1951年
監:伊藤大輔 主演:阪東妻三郎、市川右太衛門
★★★☆☆
旗本奴と町奴が凌ぎを削る江戸時代初期を舞台に
無益な争いの虚しさを説くお話。
良くできております。
幡随院長兵衛と水野十郎左衛門の対立を主軸に
『播州皿屋敷』など、誰もが知っているお話をも綺麗に組み込む
見事な構成の一品。
何より阪東妻三郎の洒脱な親分役が素晴らしい。
最後まで心地のよい語りっぷりが堪能できる。
結局、劇中でマトモな人間なのはこの人だけだったな。
全体通しては、江戸時代260年間の陰鬱さだよね。
目先の安全の保障のため、延々と無理な虐待を受け入れるお話。
本当にろくな登場人物は居ない。
旗本という存在がゴミ屑なのは常識としても
特に、夫の立場を全く理解できないヒステリー女や
本当に悪いはずの旗本側には怒鳴り込む度胸も発想もなく
一方的に、安全な町人側に詰め寄る婆さんなど
江戸町人の悪い個所ばかりを見せられて
気持ち悪い人間像に、ストレスを溜める時代劇だろか。
最後、親分の人柄は痛い程に染み入るが
要するには、これも耐えろと言ってるわけだからね。
江戸町人文化には、もっと楽しい部分もあるのだけど
テーマとして敢えて取り上げているわけでもないのに
天然でマイナス面を前面に出してしまっている感じかな。
阪東妻三郎、市川右太衛門らの好演と
全体で綺麗に纏まっているという以外は
お話としてはそこまで見所は無い一作。
『大奥』 2010年
監:金子文紀 主演:二宮和也
★★★☆☆
男だけが感染する悪質な流行病により
男女の人口比率が著しく狂ったifの江戸の世を舞台に
男だけで構成された男女逆転の大奥へ奉公に出る主人公のお話。
まず、設定から来る描写の面白さが目に付く。
社会を動かすだけの生産的なお仕事が
男の数では賄えなくなった世だけに
本来の江戸時代で全く女の香りがしない職業を
女性が受け持っている絵がとっても新鮮。
大工なり、商家なり、籠屋でさえも女性。
台詞の一つ一つが、設定から練り込まれていて面白い。
特に、若い男がかかりやすい病なので
「男は女より力は強いが、体は弱いんだから」という台詞が
この世界の全てを現しているだろう。
だが、いくら女性が仕事を受け持つ世とは言え
子を愛するのは女である事に違いはなく
生きがいとして子を求める女が、少ない男を種馬として
毎日、頼み込んで回しあう姿には実に説得力有り。
そんな世が続いているわけだから
一見して、江戸っ子気質満点の主人公ですら
どこか女性的な側面が見え隠れするのも納得だよね。
ただ、それだけの映画かな。
肝心の大奥のシーンは、どうにもドラマ不足。
元々、男同士の妬みや恨みによる足の引っ張り合い
男が自らの性を売り込むような気持ち悪さは
別に逆転設定などなくとも、現実にいくらでも存在した代物だろう。
とすれば、将軍吉宗が女性という設定に
いまいち意味がなくなってしまうね。
まだ将軍が、主人公や大奥と絡み合ってドラマを作るお話ならば別だが
ほとんど絡まない超越者としての存在ではそれも望めない。
本来、女性側の言動にこそ面白さが生まれるifなのだが
男主役に拘りすぎたのではないか。
残るのは、ただ男同士の大奥内の陰惨さだけで
登場人物が皆、軽めの描かれ方で終わってしまう。
主人公もあまりに完璧な男前すぎて
どーにも、展開以上の盛り上がりが望めず
どこがクライマックスか、誰がキーマンだったのかもわからないまま
サラっと物語が終わってしまうのでは拍子抜け。
前半の面白さを本題に生かせなかった佳作かな。
しかし、二宮和也は本当に器用。
「器用」と言うのが役者への誉め言葉かは疑問が残るが
どんな性格を演じても、相応の説得力が出るのは見事。
彼が主人公の江戸ッ子人情時代劇を普通に見てみたいね。
『狼 男たちの挽歌・最終章』 1989年
監:ジョン・ウー 主演:チョウ・ユンファ
★★★★☆
心に傷を負い引退を決めた殺し屋が
誇りと尊厳のために組織と戦うお話。
オンリーワン。
誰がいくら演出を真似ようとも
この芸術世界が作れるのはジョン・ウーのみ。
スローモーションの多用であったり
独特のガンアクションであったり
作風を構成する要素はいくらでもあるが
結局、それは一つのピースでしかないのよね。
あくまで全体を通して唯一無二の雰囲気芸を楽しむ一品。
ノワールとはそういうもんだ。
男としての誇りを貫く主人公の渋み
そこから育まれる警官との友情
とても、愛とまでは呼びようもな
ヒロインとの切ないロマンス……
これらの見事に絡み合いが
あらゆるカットが情緒たっぷりに描かれる様は圧巻。
芸術作風のくせに、決して甘ったるくはない不思議。
観客を突き放すかのような厳しさに満ちている。
これこそが香港か。
アクション映画、特にガンアクションを語る上では
決して外せない傑作ではなかろうか。
『狼たちの絆』 1991年
監:ジョン・ウー 主演:チョウ・ユンファ、レスリー・チャン
★★★☆☆
プロフェッショナルな絵画強盗3人が繰り広げる
ドタバタアクションコメディ。
底抜けに軽い映画だね。
ジョン・ウー監督、チョウ・ユンファ、レスリー・チャン主演とは
到底思えないお馬鹿作品。
『男たちの挽歌』コンビである事自体が
そのまま、コメディとしての笑いにも繋がる一本。
序盤、幼馴染3人の暗い過去から始まるため
人間ドラマ重視のハードボイルドかと思わせ
そんな中身は全て嘘。
見入るよりも、突っ込みドコロの方が多いB級品。
セットから展開まで、全てが安い。
『狼・男たちの挽歌 最終章』において、
哀愁漂う主人公の親友役を演じきったチュウ・コンが
主人公達を見守る刑事役として
一人だけハードボイルドから抜け出してきたような
臭い演技を繰り返す様からすれば
ここすらも計算尽くで、真面目に作る気はゼロなのだろう。
結果、決して傑作とまでは言えない佳作だが
十分に役目は果たしてくれる。
終盤は、ジャッキー・チェンのノリにすら近い展開となり
もはや舐めているにも程があろうという一本。
底抜けに明るいチョウ・ユンファの笑顔が見られる
今では貴重な作品だろう。
『狼よ 落日を斬れ!』 1974年
監:三隅研次 主演:高橋英樹
★★★★☆
架空の剣客主人公が動乱の幕末を駆け抜けるお話。
青春群像劇。
主人公が出会う様々な幕末期の若者達の姿が
時に楽しく、時に切なく、綺麗に描かれている。
悲劇の剣士として伊庭八郎、死を見つめる天才として沖田総司。
そしてひたすら快活な中村半次郎。
彼らの自身に拘った生きる姿は美しいね。
その中で、主人公だけが後ろ向きな心を胸に秘めている姿が
とっても哀しくなるお話。
過去は過去、未来は未来だよ。
しかし、そういう回り道をした主人公が
結局は一番長生きをするわけだから
世の中は不思議なもんだ。
池波正太郎原作の優しい世界観が
丁寧に丁寧に映像化されていて
非常に長い尺の総集編的な映画でありながら
その空気が決して飽きさせない良作。
アクションシーンの拘り演出は三隅監督らしいが
こういう世界観においてはやや蛇足かもしれない。
高橋英樹、近藤正臣、緒形拳、西郷輝彦。
1974年、若さ溢れるこの4人の姿が
見事に登場人物とリンクする様は必見。
『OK牧場の決斗』 1957年
監:ジョン・スタージェス 主演:バート・ランカスター、カーク・ダグラス
★★★★☆
保安官ワイアットアープ一派と
クラント一家の決闘を描くお話。
冒頭のテーマ曲、
「オ〜ケ〜 コラァ〜ル」の響きで
いきなり心を掴まれる西部劇の王道作品。
好青年、純情、正義に溢れた
ただただ、イイ男を演じるのがバート・ランカスター。
一癖も二癖もある人殺しのギャンブラーでありながら
アープと奇妙な友情で結ばれるドク・ホリデイを演じるはカーク・ダグラス。
二人の大スターが作り出す渾身のキャラクター性だけで
もはや、一時も目が離せない傑作。
この凸凹コンビの絡み合いが全ての映画。
ドク・ホリデイの退廃的な死生観は
影あるキャラクターとしての完璧な雛型を作り出している。
複雑なシナリオなど不要と言わんばかりの
全てが真っ直ぐなエンターテイメント傑作。
まさに、楽しむための映画だね。
『大殺陣』 1964年
監:工藤栄一 主演:里見浩太朗 他
★★★★☆
将軍は家綱の代、大老失脚を狙うクーデターに失敗した一派が
追われつつも諦めずに画策を続けていくお話。
相変わらず、テロリスト集団映画が冴える工藤栄一監督作品。
まず、負け状態から始まるのが衝撃的。
大衆性を少し減らして、代りに密度を上げた作風だろう。
その舞台から展開される個々人の群像劇が楽しいね。
本当に駄目な連中ばっかりだが
どう転ぶかわからない展開と、各々の人生の帰結に
常時、緊迫感ばっちり。
こんなにクズばかりで良いのだろうか。
暗さが際立つが、その分最後のお約束の大乱戦シーンは
溜まりに溜まった重みがある。
もちろん、この集団抗争の描写は限界まで汚く
格好良さの欠片も無いグダグダの乱戦こそがシリーズの持ち味。
地味な展開ながら密度ばっちりの良作。
『オーバー・ザ・トップ』 1987年
監:メナヘム・ゴーラン 主演:シルヴェスター・スタローン
★★★☆☆
かつて、妻子を捨ててしまった男が
息子と二人きりのトラック旅を経て
親子の絆を深めていくお話。
父親を軽蔑するインテリ息子と
荒くれ者のトラック運ちゃん。
その中で繰り広げられる心温まる親子の攻防……
もはや、完璧とも言えるヒューマン舞台でありながらも
その実、糞真面目な部分はそっちのけ。
イントロダクションから想像できるような
情緒溢れる作品では決してないのがポイント。
これは、THE・スタローンの映画なんだね。
男の子が憧れる世界に理屈は不要。
大型トラックの運転を教えてもらう行事一つあれば
もう、息子が父親を尊敬するには十分である。
まして、筋骨隆々のアームレスリング世界を舞台に
売られた喧嘩を買ってくれる親父様なぞ目にすれば、
誰だって心を射止められてしまう。
この映画はそれで良い。
全てはご都合主義、全てはスタローンのため。
彼が魅力的な男として映れば
もはや作品は成立している。
男の子が変われるだけの説得力が存在する。
そんな世界観をロックテイスト溢れるBGMで彩る
爽快痛快な1980年代らしい傑作。
『オーメン』 1976年
監:リチャード・ドナー 主演:グレゴリー・ペック
★★★☆☆
死産した息子に代わって養子に迎えられた
ある男の子の周囲に起こる一家の奇怪なお話。
ド派手な展開や、見た目から攻めるホラー分は控えめ。
本当に丁寧に作られた雰囲気こそが全てで
真の怖さとは日常の中に入り込んでくる異物
絶妙な違和感、ズレにこそあるという傑作ホラー映画。
「悪魔の子」という設定と、その原因が超常的な物である事を除けば
作りはサスペンスに近いのではないだろうか。
徹底した演出重視の丁寧さとBGMの不気味さが秀逸。
何より主人公の父親が善良すぎて困る。
この苦悩する一家の長がグレゴリー・ペックだというのは反則。
映画の観客は原因を知っているが
彼の視点ではこんな運命を負わねばならない理由が理解できない。
徹底的に理不尽な展開とキャラクターが持つ真面目さとの間に
絶妙な相乗効果があり見ているだけで辛い気分になってくる。
今作の重厚さには間違いなく主演の存在感が一役買っているね。
キリスト教は詳しくはないので
真の意味するテーマは直感的には理解できないが
そういう点を超越して映像としてとっても良作。
『オール・ザ・キングスメン』 1949年
監:ロバート・ロッセン 主演:ブロデリック・クロフォード
★★★★☆
アメリカの田舎州を舞台にした
豪腕政治家の物語。
骨太だね。
1930年代に活躍した実在の政治家がモデル。
やり口が強引で、真っ黒な噂で満ちて……
しかし誰よりも優秀という、どの国にも居る不変な政治家。
州の文化も情緒も捨てて、公共事業でガンガン近代建設を繰り返す。
それで雇用を生み、民の生活水準を上げ
私企業の過剰な利益を攻撃対象に取り
政府の役割として富の配分を行う。
彼の理想は十分に理解に足る代物。
しかし、大企業を向こうに回せば当然に敵が多くなる。
その敵に対抗するには、こちらも裏手を繰り返すしかない。
そこを突き詰めれば、当然行き着く先は破滅だよね。
議会や判事も含め、親しい一族で有力ポストを占め
全てを支配していかなければ、思うようには動けないわけだ。
また、農民を手足のように動かし、即座にデモ運動を創作する欺瞞。
敵対勢力を潰す事にやっきになり
大衆の支持の独占に拘り過ぎる政治家は
もはや、独裁者と紙一重だという際どさが見事に出ていて素敵。
彼の周りに居る人物が
どんどん本来の理想から足を踏み外していく様は圧巻。
国政に打って出る直前に物語は終わるが
仮に続いたらどうなっていたかは興味の尽きないトコロ。
『オール・ザット・ジャズ』 1979年
監:ボブ・フォッシー 主演:ロイ・シャイダー
★★★☆☆
一人のブロードウェイ演出家の人生を
歌やダンスにのせて幻想的に振り返るお話。
ショービズ世界のお話でありながら舞台シーンはなく
あくまで製作の苦しみや心境描写が続く内幕物だね。
少々難解な構成になってはいるけど
これはもう主人公の人生譚の映画でしょう。
才能と活力に溢れた一流演出家の
破天荒で自由な生き様に魅了されて何ぼの一本。
浮気性で気まぐれで欲求に我慢の効かない
どうしょうもない人間なんだけど
どこか憎めない人の好さが伝わってくるんだ。
特に仕事に対しての真摯さは画面いっぱいに詰まっている。
もちろん、劇中のミュージカルシーンは一級品なのだろうが
ダンスや歌なんてよくわからないド素人の観客が見ても
彼の作る物だからきっと良い物に違いないと自然に思えてしまう。
この順序は上手い。
少々、アート性が先に立ちすぎて
理解を超えるシーンがあったとしても
本筋が一人の人間の人生観に根付いているので
テーマには納得しながら安心して見ていられる。
全編通して死にゆく男と周囲の姿を描いていることが
ほぼわかるお話の構成が良い。
人生もまた一つのショーとして捉えるべし。
あれだけ堪能して惜しまれれば
バイバイライフも良いシーンになるだろうさ。
『オーロラの彼方へ』 2000年
監:グレゴリー・ホブリット 主演:ジェームズ・カヴィーゼル
★★★☆☆
どこか人生に疲れてしまっている主人公が
幼き頃に亡くした父親と無線通信で会話する物語。
素敵なifの世界が楽しめるSF映画。
誰だって自身の人生を振り返れば
もっと違った人生が送れたのではないかと
郷愁たっぷりに物思いに耽られるものだろう。
まして父親という偉大な存在を絡めて
本来、失われたはずの親子の再交流ともなれば
これ程に浪漫に溢れた物語があろうか。
まずこの舞台設定だけで十分に引き込まれてしまう
丁寧な設定の一品。
ただ、そんな哀愁を漂わせておきながらも
作品はどんどんエンターテイメントの世界へと進んでいってしまう。
タイムパラドックスによる仕掛が劇的に描かれ
物語には凶悪殺人犯までもが登場して
果ては人生のやり直しや成功劇にまで及んでしまうのは
もはやハリウッド映画の宿命か。
序盤に感じた物悲しい雰囲気からすれば
少々、このテンコ盛りは面を喰らう構成だろう。
爽やかな気分で終われる一本ではあるが
少々ハッピーエンドで浮かれすぎな個所が野暮ったい印象も残るかな。
亡き父親との夢のような一時を経て
自らの人生を見つめ直す話では駄目だったのかね。
『小川の辺』 2011年
監:篠原哲雄 主演:東山紀之
★★★☆☆
主命により親友を討つ事となった武士が辿る
悲しき旅物語。
ただただ、純粋に綺麗な物を描きたい。
そんな欲求で作られた作品だろうか。
徹底して喧しさが排除された台詞回しと所作
美麗な自然風景の数々と、江戸時代の田舎街並み。
そして、大筋から一歩もはみ出さないお約束の展開。
封建社会の悲哀をメインストーリーに据えつつも
その実、時代劇として完璧なまでに保守的な一本。
それ以上は無いが、決してそれ以下でもない。
100分間、確実に良い気分に浸らせてくれる。
製作側と視聴側の阿吽の呼吸が楽しめる良作。
『山桜』『花のあと』に続く藤沢周平原作の東映作品だが
どれも手堅く纏まった良作だね。
『おくりびと』 2008年
監:滝田洋二郎 主演:本木雅弘
★★★☆☆
人員整理で職を失った中年男が
再就職先に葬儀の仕事を選ぶお話。
丁寧に丁寧に作っていて中々のヒューマンドラマ。
家族の話、親父の話、仕事の話、社会の話。
程よく詰まっていて何でもよし。
ただ、それが邦画の本気かと思うとやや切なくなる点もあるね。
汚い物を描く際のテーマにおいてさえ
正面から描き切る事もできず
綺麗に綺麗に装飾しないと映画にならないのだろうか。
しかし、小規模作品に置いてのそれは
ただ汚いだけで重みが無い事が多く
このような大作でこそ融合が見たいんだよね。
完全なる社会派作以外は、それを認めないというのでは
フィクションとノンフィクションのバランスが何か変。
草原で独奏するシーン一つ取っても
あんな物が本当に求められてるのだろうか。
『鴛鴦歌合戦』 1939年
監:マキノ正博 主演:片岡千恵蔵
★★★☆☆
骨董狂いの長屋の親父と馬鹿殿が繰り広げる
底抜けに明るい人情時代劇。
ほぼ全編が歌唱で構成されている
まさかのオペレッタ時代劇の時点で勝ち確の一本。
その上で、可憐な娘が織り成す恋物語とくれば
さすがに笑顔以外は出てこない
とっても陽気でノー天気な気分に浸れる映画だね。
馬鹿殿役のディック・ミネはもちろんだが
馬鹿親父役の志村喬の美声も意外にも素晴らしい。
彼らの歌声に酔いしれていれば
それだけで十分に楽しい70分一本勝負。
小粒ながら、1939年公開が信じられない
高クオリティな和製ミュージカル。
主演とクレジットがありつつ
出番が少ない片岡千恵蔵にはご愛嬌。
『おしゃれ泥棒』 1966年
監:ウィリアム・ワイラー 主演:オードリー・ヘプバーン、ピーター・オトゥール
★★★★☆
贋作者を父親に持つ主人公と
自らを美術品泥棒と名乗る男とのドタバタ劇。
何と言う安定感。
主人公の娘は愛嬌があって可愛いし
ヒーロー役はひたすらにカッコいい。
贋作がばれる前に盗み出すという計画の実行を通じて
もちろん、深まる二人の愛情。
手に汗握る展開でありながら
登場人物はみなどこか余裕があってお気楽。
ウィットに富んだ掛け合いを追い続けるだけで幸せになれる。
全くマイナス感情の沸きようもない
まさに、楽しむための映画。
さすがのウィリアム・ワイラー監督でしょう。
完璧に手堅い完成度。
こういう紳士映画は60年代までだよね。
オードリー・ヘプバーンは言うまでもなく
『アラビアのロレンス』とは全く異なる
ピーター・オトゥールの軽快な演技も素敵な傑作エンタメ。
『オズの魔法使』 1939年
監:ヴィクター・フレミング 主演:ジュディ・ガーランド
★★★☆☆
家出少女が、ふとしたきっかけで異世界へと迷い込み
冒険の末、大切な物を再確認して家へと帰るお話。
綺麗な映画だよね。
テーマが不変だし、何よりもカラー映像が美しい。
現実世界をモノクロ、異世界をカラーという手法が
良いメリハリになっていて、異世界描写を際立たせる。
明らかに作り物なセットの数々も
異世界故の不思議な質感を助けていてステキだが
あくまで、偉大なる舞台映画ってトコかな。
背景は、舞台セットの延長。
全てにおいて、映画に求められるような没入感は薄く
役者がその役を演じているという事を
観客が理解しながら見ないと駄目な大人な作品。
ミュージカルとしては地味な部類だが、
名曲『虹の彼方に』を楽しむだけでも一見の価値はあるか。
初出はこの映画なのだよ。
『お葬式』 1984年
監:伊丹十三 主演:山崎努、宮本信子
★★★★☆
突如亡くなった妻の父親のため
喪主代理となった主人公が体験する
僅か3日間のお葬式の様を描くお話。
凄まじいリアル描写だよね。
全編が、良い意味で映画らしくない一品。
ちょっとした動作や、小さな事で苦労する様が
どれも、心当たりが豊富で面白い。
特に仏さまが入った棺おけを二階の自宅に運ぶシーンが良いね。
あの集団で階段を進むシーンの細やかは凄いよ。
120分間、そんな密度の連続。
大仰に、笑わせるためのシナリオを用意したわけではなく
あくまで、淡々と、誰もが経験するお葬式を描くだけだが
それだけで、十分に可笑しさは転がっているというのが
お葬式という儀式の不思議な所。
やはりこの監督は目の付け所が違う。
そして、家族皆が割り切って進行していると思いきや
3日間も葬式漬けになっている内に
気付けば十分に感傷的になっている姿もまた上手い。
これだけ皮肉たっぷりに日常業務としての葬式を描きながら
喪主のお婆さんの挨拶が素直に染みるのだから凄いもんだ。
そしてED。
これまた一転、今度は祭りの後と言った雰囲気で
葬式グッズを淡々と庭で灰にしていく姿は圧巻。
単なるコメディとしては終わらせず
感動作としてすらも終わらせないこの捻くれっぷり。
監督デビュー作らしいけど、ハナから完成度高すぎです。
『お茶漬の味』 1952年
監:小津安二郎 主演:佐分利信、木暮実千代
★★★☆☆
冷めているようで何処か繋がっている
お見合い夫婦の不思議な関係性を描いたお話。
佐分利信が演じる夫がカッコイイ。
あんな冷静で品のある中年に一体誰がなれようか。
しかし、人生を達観してる感じは良いのだが
奥さんにすればあの異常なまでの優しさは何の裏返しだろうと
逆に物足りなく勘ぐってしまう物なのかもしれないね。
元々、好き合ったわけでもないわけだ。
人工的な出会いを経て作られた夫婦である事を
少しは気にしているようで、気していない部分もある…
明らかに別世界の住人と開き直り
互いに既に悟っているようで、実はまだ期待もしている…
そんな実に複雑な関係が恒例の小津テンポで淡々と描かれる。
一見すれば、上流階層の恵まれた環境である
わがまま放題の奥さんは幸せに映るのだが
身内同士の人間関係にフォーカスを合わせれば
別段、そこには階級に依らない不変な問題はあるはず。
全編がとってもドライな一品。
テーマは「お見合い結婚」と若い世代の自由恋愛。
当時のこの世代差には戦争経験の違いも大いに絡んでいるんだろうね。
一見、リアリティがあるように思わせながらの
終盤の畳み方はやはりファンタジーな小津映画で
こんな都合よく愛情が帰結する事があるものか。
いや、結ばれる前に恋愛感情があったわけではないからこそ
この展開はあり得るのかもしれないな。
なお、若者代表として鶴田浩二が
飄々とした二枚目役で登場するのが目に新しく
ちょっと得した気分になれます。
それにしても小津監督の題材はいつも鋭いね。
今作における若者世代の男女を見るまでもなく
だいぶ後の世を生きる我々は
やはり訪れた恋愛結婚至上主義の時代を知っているわけだ。
『おとうと』 1960年
監:市川崑 主演:岸惠子、川口浩
★★★☆☆
何所かがぎこちなく、各々問題を抱えている4人家族における
姉と弟の不思議な関係性を描くお話。
親子よりは、圧倒的に本音に近い存在
かつ、友達よりかは腐れ縁に甘えた間柄。
10代における年齢の近い姉弟関係とは
不思議なものだね。
四人が四人共、より良い関係、より良い家族の未来を
心の中では願っていつつも
どうしても日々の生活では
自身のエゴを打ち出さずにはいられない。
皆が皆、そんなある意味では屑野郎なんだけど
最後まで彼らを憎みきれないのは
やはり、誰にでも多少は思い当たる節があるからだろうか。
時代を問わない何か不変なリアリティが
この人間関係、家族関係にはあるという事だろう。
特に姉と弟については、完璧な依存関係だよね。
他に逃げ場を探し続ける弟と、逆に逃げ場を自ら塞ぎたがる姉。
どっちもどっちだが、普通は時間が解決するお話なんだ。
それを許さない展開はどーにも哀しいな。
姉弟が繰り広げる独特の掛け合いや
情緒溢れる映像の数々を眺めているだけで十分楽しめる
オンリーワンな不思議な良作映画。
『男たちの挽歌』 1986年
監:ジョン・ウー 主演:ティ・ロン、チョウ・ユンファ、レスリー・チャン
★★★★☆
香港の黒社会を舞台に
服役を機会に足を洗おうとする兄
兄の職業を知らずに警察に入った弟
巻き返しを夢見る兄の親友。
そんな三人が繰り広げる愛憎劇。
一体、この哀愁はどうした事だろうか。
画面から痛い程に滲み出る悲哀。
ハリウッドからも、邦画からも絶対に出てこない
独特の情緒が、香港マフィア物にはあるんだよね。
アクションシーンが注目される監督ながら
その本質はこちらでしょう。
芸術性があるからノワールなのさ。
銃撃シーンはホントの要所にしか用いないという
徹底した拘りが逆に密度を高めている。
後の作品が似たような演出を銃撃戦で用いても
決してオリジナルに及ばないのは、
用い方に我慢が足りないからではないだろうか。
溜めに溜めるからこそ
武闘派を演じるチョウ・ユンファの所作の一つ一つが
溜息が出る程にカッコイイわけだ。
ドラマで魅了し、情緒で魅了し、アクションセンスで魅了する。
傑作中の傑作。
『男たちの挽歌II』 1987年
監:ジョン・ウー 主演:ティ・ロン、チョウ・ユンファ、レスリー・チャン
★★★★☆
前作の後日譚。
いくら足を洗おうとしても
世の中、そうはいかないという切ないお話かな。
ノワールとしての情緒や、肉親、親友との愛憎劇
あるいは、組織や義理のお話がメインだった前作からすれば
驚く程に薄味に作られた二作目。
NYと香港の二点同時中継もイマイチ空回りで
おかげで、唐突に出番を作られた感のあるチョウ・ユンファが
全くドラマに絡めないのも、物足りない一因だろか。
兄弟のお話も前作でケリは付いているので
本当に、ただの活劇になってしまってるよね。
ただし、アクションシーンの緻密さは異常。
まさにアイディアの宝庫で、溜息が出る程のカッコヨサ。
スローモーションと着弾演出
そして、一見するとお馬鹿ながら、
彼らの演じる姿は確実に美しいと言うガンアクションの数々。
完璧なオンリーワン世界。
『男たちの挽歌』というブランドに何を求めるかだね。
重苦しい世界観や男たちの生き様を求めると肩透かし
あくまで、ジョン・ウー演出が見たいのならば大満足。
そんな一品だろうか。
全体からは浮いてこそいるものの
チョウ・ユンファのカッコ可愛さはガチ。
ただ居るだけでも圧倒的な存在感。
新キャラ、ケンとしての立ち居振舞い、笑顔が素敵すぎます。
まさにスター中のスターの証。
『男たちの挽歌III アゲイン/ 明日への誓い』 1989年
監:ツイ・ハーク 主演:チョウ・ユンファ
★★★☆
初代主人公の一人であるマークの
若かりし頃を描くお話。
ベトナム戦争の末期という舞台は面白いね。
アメリカ軍撤退時期における中華系の難民問題という状況は
日本やアメリカの映画からでは決して出てこない発想だろう。
そんな中、描かれる内容はまさかのラブロマンス。
混乱社会をたくましく乗り切り
延々と、若者三人の三角関係に終始する姿は
作品タイトルを疑ってしまう程。
1989年公開という事だが、撮影自体はいつだったのか。
年代からは『狼/男たちの挽歌 最終章』と同時期の作品となるが
この作品のチョウ・ユンファは見ていて恥ずかしくなるくらい若々しく
まさに青春真っ盛りの好青年そのもの。
同時期撮影だとすれば彼の演技の幅には驚かされる。
シリーズと世界観は共通なのだが
直接に、後の時代へと繋がるようなストーリーではなく
あくまで、名前と主演を借りた外伝作品で
監督も別のお方。
ただただ、主演にだけ惚れていれば良い映画かな。
作品を覆う香港情緒は健在ながらも
男の哀愁という面では不足気味。
ここを逃すとシリーズ作品としてはやや消化不良。
派手なシーンを挿入したいのはわかるが
『ランボー』でもあるまいし
一体誰がこのブランドにおいて
戦車に立ち向かうチョウ・ユンファの雄姿が見たいと言うのか。
色々とやりすぎでクドさが漂う作風であり
そもそも、前二作が90分前後であれだけの密度を実現していたのに対し
外伝が120分も尺を取るという時点で何かがおかしいだろう。
ヒロイン役のアニタ・ムイが歌う主題歌『夕陽之歌』のベタさが素晴らしく
今作をメロドロマとして捉えた際のクオリティを
確実に一つランクアップさせているね。
これは近藤真彦の『夕焼けの歌』のカバーであり
また、時任三郎が悪役で出演していたりと日本の香りもチラホラ。
芸能界が色々と外と繋がっていた時代性も伺える。
決して駄作という事はないのだが
ブランドからの期待とは少し距離を置いて楽しむ一本だろう。
『男たちの挽歌 A BETTER TOMORROW』 2010年
監:ン・ヘソン 主演:チュ・ジンモ、ソン・スンホン
★★☆☆☆
初代『男たちの挽歌』の完全リメイク作品。
舞台を韓国に移し、兄弟に脱北者という設定を加えた以外は
驚くほど忠実にシナリオがなぞられた一品。
黒社会から足を洗いたい兄と
兄のせいで苦労を背負う警察官の弟
そして、落ちぶれて巻き返しを狙う武闘派弟分。
三人が繰り広げる愛憎劇。
この完成されたシナリオは、それだけで十分面白い。
面白いのだが、ここまで綺麗に元作品を再現されると、
むしろ何故にこのリメイクを撮る気になったのかが疑問に残る。
しかも、作品の尺は120分。
これは初代と比べて30分も長く取られており
新しい魅力無しでは、冗長な感覚は抜けないだろう。
また、元々が、香港独特の情緒を大切にした作品なだけに
この消失もただのマイナスポイント。
韓国ならでの新たな魅力が見せられない点は残念かな。
脱北者設定と、食堂のおばちゃんだけでは
さすがに物足りない。
そして、究極の問題は、主演陣の存在感だろう。
このイケメン俳優たちは、十分に演技派だとは思うが
それが作品と似合うかどうかは別のお話。
チョウ・ユンファや、ティ・ロンの渋みが前提だった脚本は
やはり書き直すべきだったのではなかろうか。
特別に悪い点は見当たらないのだが
新しい魅力も加わらないままに
元作品から少しづつ完成度が引かれていったような一本。
『男はつらいよ』 1969年
監:山田洋次 主演:渥美清
★★★★☆
20年前に父親から勘当を受けたヤクザな主人公が
たった一人の妹を想いふらりと帰郷するお話。
キャラクター勝ちである点は間違いないにせよ
それだけの映画ではないよね。
60年代からスタートと言う事で
あくまで、これは任侠物、人情物のパロディ映画でしょう。
主題歌の入り方から何から間違い無し。
ただし、とってもオシャレなパロディ。
到底、暑苦しくて、真面目には見ていられないような
コテコテの人情劇をさらりとジョークで流しつつも
きっちり楽しませてくれる一級品。
どー考えても、この主人公はクソ野郎だよ。
でも、それを超えた不思議な人間味があるんだよね。
そこを感じられるからこその人情物であって
ハナから泣かそうだの、感動させようだの
そんな押し付けがましさは微塵も感じさせない。
気の利いた作りが何とも素敵でしょう。
それも当たり前。
だって、寅さん自体にそんな気はないのだからね。
彼は自らの心のままに歩んでいるだけさ。
兄と妹、ただただ素直な家族の映画なんだな。
あとは、下町情景の勝利。
ちょっとしたカットの隅々までが、本当に情緒たっぷりで美しく
全てにおいて無駄がない。
最高に馬鹿馬鹿しいお話を最高のおもてなしで見せてもらえる幸せ。
この一本で十分に完結している傑作です。
『続・男はつらいよ』 1969年
監:山田洋次 主演:渥美清
★★★☆☆
男はつらいよシリーズの二作目。
「渡世人」という言葉が特に多く使われ
前作に続いて股旅物、あるいは任侠物のパロディ的な位置づけが
より強いコメディ作品。
今回は『瞼の母』よろしくの生き別れの母親との物語をベースに
寅さんが拗ねて拗ねて拗ねまくるお話。
初期シリーズの彼は特に駄目な男なんだけど
それでも憎み切れない愛嬌があるというキャラクター性が
より顕著に楽しめるのが嬉しい。
何より全編を彩る寅さんの啖呵の見事な事よ。
当時、流行語にもなったと言われる
「お?てめぇ さしずめインテリだな?」もこの作品から。
ドラマ上の本筋とは関係ないシーンで何気に使われ台詞だけど
確かにインパクト抜群、ため息が漏れるほど美しい流れだね。
泣いて怒って笑って悔やんで…最後に実らぬ恋に切なくなっての
寅さんを見ているだけで楽しくなる図式が
既に二作目にして完成されている。
初作ほどのドラマ性や仕掛けはないんだけど
その分、安心して見られる空気は増している。
それにしても、当たり前のように東野英治郎が居て
笠智衆がいる世界はいいなぁと思ってしまうな。
子供染みた寅さんを諭す人生の先輩が数多く登場する
初期の構図こそがやっぱりこのシリーズの真骨頂なのかもね。
クソ婆こと母親役のミヤコ蝶々との丁々発止のやりとりの見事さよ。
『大人ドロップ』 2013年
監:飯塚健 主演:池松壮亮
★★★★☆
田園風景広がる片田舎を舞台に
高校生4人が繰り広げるひと夏の青春譚。
主人公の気だるい独り語りをベースに
僅か4人に絞られた登場人物の淡い言動が
一切の生活感無しに淡々と描かれていく。
皆が皆、大人と子供の境界線を
無理にでも引きたがる姿が何ともリアルで
この早熟さと未熟さを兼ね備えた姿に
田舎高校生である事が大いに説得力を加えている。
ちょっとした情景描写に至るまでが情緒満点で
まず舞台設定の見事さが光る。
何故、そんな事で悲しむのか
何故、そんな事で思いとどまるのか
何故、そんな事で悩むのか
年齢を重ねると共に
誰もが重要視きなくなってしまう些細な面だが
あらためてその姿を見せられれば、確かにと思い出す感情ではある。
若かりし頃は何事にも答えを出さねば納得できないのだ。
彼らの充実した高校生活自体にこそ
共感出来ない人も多かろうが
その憤りの本質は万国共通ではなかろうか。
そしてエンディングにおいて
「あの頃に戻りたいか」の問いかけを
さらりと即答で交わす爽やかさが
今作を大人が見ても楽しめる物語として保障する。
痛々しい人物像、痛々しい物語を展開しつつも
決して今作は痛い映画ではないのだ。
その面で今作は「本物」ではない。
だが「本物」を思い出させる丁寧さを持っている。
健全たる青春ストーリーを仕上げた技量に拍手。
池松壮亮を始めとした、キャスト全員のハマリっぷりもお見事。
なお、農家に嫁いだ33歳の東京女のくだりで
ついつい興奮してしまうあたり
幾つになっても馬鹿だなと痛感させられた。
『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』 1932年
監:小津安二郎 主演:斎藤達雄、菅原秀雄、突貫小僧
★★★★☆
戦前の都会サラリーマン一家の姿を
子供目線で描いた作品。
子供の世界をこれ程にリアルに現した作品があろうか。
互いの上下関係を事さらに確認したがる
人間の愚かな習性は大人も子供も一緒であろう。
無邪気な子供達でありながら
社会で当たり前の事を当たり前と認識できるのには
そう時間と手間はかからない。
その分、自分達の上下関係と大人達の上下関係に
大きな隔たりがあれば感じる理不尽も大きかろう。
父親は常に最高であって欲しいと願う
子供心に時代は関係ないのだろうね。
子は親を見て育つと言うが
良くも悪くもその通りの世界が展開され
優しいホームドラマの世界に
どっしりと社会の道理と不条理が詰まっている。
表情や仕草の意味を能動的に観客が受け取ろうとする力が
ごくごく自然に働き出す
サイレントの醍醐味が完璧に味わえる大傑作。
『大人のけんか』 2011年
監:ロマン・ポランスキー 主演:ジョディ・フォスター、ケイト・ウィンスレット、クリストフ・ヴァルツ、ジョン・C・ライリー
★★★★☆
子供同士の暴力トラブルを機に
二組の夫婦が顔を合わせて始まる
大人のけんかを描くお話。
登場人物はたったの4人、夫二人と妻二人。
かたや加害者の親、かたや被害者の親。
立場の強弱は違えども、それぞれに胸に思う所があるのは当たり前。
最初は丁寧に丁寧に体裁を取り繕い
相手側を立てていたはずの良い大人達が
お互い、譲れない一線に触れられるたび
どんどん、真の思いが漏れていく様を描く
良質会話劇コメディ。
とにかく、キャラクターとテンポの小気味良さが素晴らしく
夫婦間の溝、男女の溝、子育てや生き様へのポリシーの溝などなど
話題次第で4人の中ですぐに敵と味方が入れ替わってしまう
人間関係の馬鹿馬鹿しさが何とも心地良い。
誰の立場でもある程度の理解を示さざるを得ない会話のリアリティは
その都度、観客の苦笑いを誘い出す。
着地点を期待しすぎればオチは弱めかもしれないが
ベテラン俳優の熱演と、大御所監督による無駄のない映像だけで
十分な皮肉エンタメとして成立している良作。
『大人は判ってくれない』 1959年
監:フランソワ・トリュフォー 主演:ジャン=ピエール・レオ
★★★☆☆
品行方性とはいかない程度の12歳の少年が
様々な原因から、次第に社会の道を踏み外していく様を描くお話。
この少年の家庭環境は絶妙だね。
水準よりは下、やや不幸な星の元。
しかし最悪ではなく、この家庭で幸せになれる子供も多々存在する事だろう。
両親の喧嘩は絶えず、父親は母の再婚相手で義理の父である。
可哀想と言えば可哀想だが、それだけと言えばそれだけ。
そんなやや不良寄りの普通の少年が
どんどんと、本格的に駄目な方向へと堕落していく様が
とっても現実チックで嫌な感じ満載。
当時のフランス映画特有のリアリティ溢れる演出と
彼の心境変化とが、実によく噛み合っている情緒映画。
確かに環境に恵まれてはいない。
親とは上手くいかないし、教師は憎らしいだろう。
だが、劇中、家族で映画を見に行って
皆が楽しげにはしゃいでいるあの姿に
どうして、幸せが見つからない理由があろうか。
友達も不良仲間とは言え、とっても良い奴である。
たった一つ歯車が違っただけで
どうとでもなったはずの環境だからこそのもどかしさ。
絶妙だね。
間違いなく同情はできない駄目小僧なんだけど
ここまで微妙な変遷を辿られると
途中で修正できなかった大人の責任を感じてしまうわけだよ。
親も子供も淡々と落ちる所まで落ちるのが凄まじく
苦い雰囲気にじっくりと浸れる丁寧な一本かな。
『踊る大紐育』 1949年
監:ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン 主演:ジーン・ケリー、フランク・シナトラ、ジュールス・マンシン
★★★★☆
1日限りの上陸休暇をもらった3人の水兵が
ニューヨークで大騒ぎするお話。
実に夢のある都会賛歌。
出会いから始まり、別れで終わる
このわずか1日だけの物語は良いものだね。
同じ土地に二度立つ事すらないかもしれない
水兵の身だからこその「今を生きろ」という
メッセージを高らかに歌い上げながらも
やっている事はノリのいい馬鹿友達3人の
ただのナンパですよ。
この軽さとバカバカしさが
紐育という最高の空気を持つ街と見事に絡み合い
全編、圧巻の踊りと歌唱で彩られた一品。
よくよく考えればちょっとビターな設定ながら
底抜けに明るく振り切った幸せな時間を届けてくれる。
後の『巴里のアメリカ人』や『雨に歌えば』と比べれば
凝りに凝ったミュージカルシーンギミックは薄めだが
男三人+女三人のコンビネーションの見事さとハイテンポに
圧倒されるまま最後まで楽しめる傑作。
『鬼神伝』 2011年
監:川崎博嗣 主演:小野賢章
★★☆☆☆
平安時代にタイムスリップした内気な男の子が
自身の秘められた宿命の元に
鬼と人間の争いを止めるために戦うお話。
完璧な舞台設定が用意されていながら
何故、こんなに薄い作品に仕上がっているのか。
圧倒的なアニメーションクオリティと
平安時代ならではの幻想に溢れる絵作りの中
お話があまりに弱い。
異なる立場にある二種族の仲介役を務める事が
主人公の役目、ストーリーの主軸となっていながら
各々の言い分、立場に関する描写が弱すぎるのが残念。
特に都側の存在感が
一人の野心家の言にのみ集約されており
全く実態が見えてこない。
「開発が悪い事とは思えない」と主人公が一定の理解を示すシーンは
何のために存在したのか。
また、ネガティブな主人公が
戦を止める闘いの決意を抱く成長物語として見ても
「野心家」一人の唐突な暴走が激しすぎて
彼を倒せば全てが丸く収まるような展開に集約してしまうのでは
肩透かしも良いところである。
それで済むなら、最初から葛藤など不要だろう。
野心家側にしても彼は何がしたくて主人公を呼んだのか。
主人公が父親のトラウマを超えて
一歩踏み出す事の大切さを噛み締めるお話ではあるが
それを自己完結できるなら、他の登場人物は何だったのか。
テーマの提示だけを行っって
具体的なドラマは何処にあるのか。
あらゆる方向において物語が足りない。
異形のデザインも含め、アニメーションの仕事が素晴らしいだけに
特に残念な印象が強く残る一本。
『鬼の棲む館』 1969年
監:三隅研次 主演:勝新太郎
★★★☆☆
色香で男を誘惑する若い女、女に惚れきった粗暴な男。
男を諦められない元女房、偶然訪れる高名なお坊さん。
荒れ果てたお堂を舞台に4人が繰り広げる魂のお話。
もうエンターテイメント性の欠片もない
とにかく語りと描写の映画だね。
危機迫る空気感は得られるがどうにも動きはない
75分程度の尺がぎりぎり可能にしている一本か。
言ってしまえば、色キチガイの女が
男を誘惑し続けるだけのお話なんだけど
その行為と信念に色々な要素が乗っかっていることは伺える。
観客それぞれで考える物だろうけど
少なくとも僕は鬼には勝てそうもないな。
退屈は間違いない作品だけど
とても短い映画なので瞬発力のままに圧倒さるのも良し。
閉じた空間の会話映画ににありがちな役者番付では
どう見ても4番手のキャスティングであろう
お坊さん佐藤慶の一人勝ちな気がする。
これは勝新と高峰秀子の映画ではないよ。
『お早よう』 1959年
監:小津安二郎 主演:-設楽幸嗣、島津雅彦
★★★★☆
小津安二郎が描く
日常家族映画の一作品。
著名な他作品と比べても
今作は徹底して日常を切り取った映画になっており
母親の死や娘の結婚が扱われる事すらない。
ごくごく一般的な子供が居る家庭の会話や
ご近所付き合いの他愛の無さが続くのみで
事件と呼べる物が本当に何一つ起こらないのだから凄い。
それが、圧倒的に面白く可笑しいと言うのだから
まさに職人映画だよ。
手を伸ばせば届くような距離感で繰り広げられる
人間のお馬鹿な部分が
皮肉たっぷりに浮き彫りになる姿は
何故にこうも微笑ましく楽しい物なのだろうか。
「テレビ」を巡る会話の一つ一つが何ともハイセンス。
「一億総白痴化」の温床は
言われればまさにその通りだったかもしれないね。
何故、もう小津安二郎は居ないのか
居れば現代の家族や世相をどう撮ってもらえるのか…
この作品を完璧なリアルタイム感覚で見られた
彼が居た時代に嫉妬すら覚える清々しい傑作映画。
『おはん』 1984年
監:市川崑 主演:石坂浩二
★★★★☆
本当に駄目な男と
それに振り回される女達の話。
西側の言葉使いに包まれた街の雰囲気が
何故か暖かい。
本来、厳しさしかない舞台なのに不思議だね。
そんな日本には生まれていないのに
そこに日本的な安心感を得るという
詐欺みたいな空気が素敵な一本。
可憐な吉永小百合と、勝気な大原麗子の間で
ふらふらする石坂浩二という配役で
既に勝ったも同然な世界観なのだが
それを丁寧に、かつ、くどくもなく淡々と描くのが美しい。
主人公が徹底したクズな男でありながら
どこかわからんでもない。
どうにも憎みきれないのが、キャラクター造形の妙。
まさに雰囲気芸の芸術傑作。
『オペラ座の怪人』 2004年
監:ジョエル・シュマッカー 主演:ジェラルド・バトラー、エミー・ロッサム
★★★☆☆
ヒロインとパトロンと、ストーカーの話。
身も蓋もないが、そういう事ですね。
ただしテーマは愛ですよ、これは本当。
それをミュージカルとして
全編、楽曲に載せてお送りする一作。
まず、映像美が素晴らしい。
全ての美術が幻想的で細やか。
ここまで表現できるのは、映画ならではでしょう。
冒頭、モノクロからカラーへ、現在から過去へと
物語が移っていくシーンはまさに映画。
そこに割り込む強烈なテーマ曲……最高です。
あまりに素晴らしすぎて、完全なる出オチ。
そこから2時間は退屈。
やはり、メインのお話がちょっとツライのと
怪人の面相が全くもって普通の人な事が弱い。
仮面を取る場面くらいは驚かせて欲しいが
ちょっとした火傷の痕だね。
さらに、致命的なのは
申し訳ないがミュージカル映画としては
俳優たちの歌が物足りない事かな。
オペラ座という舞台も求めるハードルを上げてしまっている。
ここまで全編、歌のみで綴られる映画も珍しいので
余計に気になってしまうだろう。
そういう意味では映画としての開き直りもせず、
ミュージカルとしての拘りもせずの半端な一作かな。
『おぼろ駕籠 』 1951年
監:伊藤大輔 主演:阪東妻三郎
★★★☆☆
将軍様のお手つきを狙い、大奥を利用するという
権力者同士の政争に巻き込まれた女性を軸に
殺人冤罪で負われる男と、ある和尚の立ち回りのお話。
ちょっとしたサスペンス映画だろうか。
権力争いの虚しさ、巻きこまれる女性の悲しさ
そして、純粋に被害者とも言える冤罪の男。
彼らの姿の愚かさを描きながらも、主人公はあくまでバンツマ。
つまり、和尚なんだね。
俗世を捨てたと放言しつつも、
粋な説教を繰り返すその姿は確かに痛快だろう。
ただ、無駄に豪華なキャストでお送りする一品なのだが
どうも他には面白いキャラクターが見えてこない。
男気を見せる殿様、月形龍之介はカッコイイが
決して物語のキーマンではない。
では、逃げ続ける冤罪男の佐田啓二が主役かと言うと
彼もひたすらに受身なイマイチな役回り
世話焼きの元気な女性である田中絹代も
別段、居ても居なくても同じだろう。
せいぜい冒頭の展開が最後に繋がる様が見事な
山田五十鈴のインパクトだろか。
敵キャラクターに全く人間味が見えないのも
何か物足りない一因なのかな。
確かにお話はソコソコに着地点を読ませずに楽しめるし
バンツマが立ち回って、説教垂れる姿は相変わらず見事。
最後には、しんみりもできるだろう。
ただそれだけなんだよね。
飛びぬけた特徴の見えない
そんな佳作。
『オリエント急行 殺人事件』 1974年
監:シドニー・ルメット 主演:アルバート・フィニー
★★★★☆
ある列車に偶然乗り合わせていた探偵が
車内で起きた殺人事件の真相を解明するお話。
舞台は非常にシンプル。
今で見れば、冗談のようなお約束の設定において
これほどまでに、先鋭化できるものかという無駄の無さ。
魅力は何と言っても、主役のポワロ氏の掴み所のないアクの強さだろう。
このくらい自分勝手でなければ、この事件は勤まらない。
そして、事件に関わってしまったと思われる登場人物の多彩さが素晴らしく
誰の話を聞いても唸らされる人間味が良い。
何の映像的な派手さもないまま
人間の魅力だけでノンストップで進む疾走感が素敵だね。
オチの面白さは言うに及ばずだが
それよりも物語自体の重厚さと、
豪華なキャラクターの掛け合いを楽しむ一本。
『オリバー!』 1968年
監:キャロル・リード 主演:マーク・レスター、ジャック・ワイルド
★★★★☆
孤児院を追い出された少年のオリバーが
たくましく生き抜いていくお話。
これは卑怯だよね。
いたいけな少年が主人公。
とことん不幸になって、それでも逞しく生き抜く。
こういう物語が面白くないわけがない。
それを彩るのはミュージカルとしての完璧な完成度。
クソ重い舞台設定でありながらも
音楽シーンのコメディタッチの描写に程よく救われる良作。
そして脇に出てくる子供達も実に良い。
主人公の兄貴分のジャック・ワイルドの強烈なスター性が
可愛らしいオリバー役のマーク・レスターと程よく中和していて
彼の図太さ、賢さが、感動主体の物語の中にも
非常に爽やかな視聴感を約束する。
メインの登場人物が少ないだけに
どのキャラクターも素晴らしく練りこまれた職人映画
『オレゴン魂』 1975年
監:スチュアート・ミラー 主演:ジョン・ウェイン、キャサリン・ヘップバーン
★★★☆☆
ニトロ強奪による強盗計画を防ぐため
保安官が悪党達を追う西部劇。
ジョン・ウェインとキャサリン・ヘップバーンの共演が全てかな。
西部の荒れくれ保安官と北部の口うるさい教会女が
成り行きでコンビを組むことになり
反発しあいながらも信頼関係を築いていくという
見事までの王道展開が冴える一作だね。
悪党どもに復讐する立場のヘップバーンが
ぐいぐいと男側を圧倒して率いていく流れは
20年ほど前の作品である『アフリカの女王』に近い。
ボギーに代わるジョン・ウェイン版とも言えるだろうか。
もちろん、ジョン・ウェインならではのキャラクター性は上々で
旧態然とした酒飲み偏屈爺さんは見ているだけで微笑ましい。
『勇気ある追跡』の主人公像がそのままスライドした形だが
今作ではあくまで逞しすぎる大人の男女関係なので
元作品よりストーリー性は薄目の仕上がり。
代わりに雄大なロケーションの元に
西部贅沢映像がてんこ盛りの一大エンタメ作品として楽しめる作りで
半ばテンプレートと化した丁々発止のやりとりを
しっかりと楽しみ抜ける100分強が約束される一本。
締めの爆発アクションも中々にド派手。
さすがにこの芸達者二人の主演は
存在だけで一定の幸せが保証されるね。
20年早ければ不朽の名作の一本にも成り得たかもしれないが
やや時代から外れたマンネリ感は拭えないかな。
『俺たちに明日はない』 1967年
監:アーサー・ペン 主演:フェイ・ダナウェイ、ウォーレン・ベイティ
★★★☆☆
1930年初頭の世界恐慌時代
州を跨いで思うままに銀行強盗を繰り返した
二人組み男女のお話。
心地よいまでの破滅譚だろう。
冒頭からどうしようもない屑達で
基本、まったく同情の余地は無いのだが、
常に何処か寂しさが纏っているのが上手い。
強盗をすれば何処かへ辿り付けると思ったが
実際は進み続けるしかない道だった。
この台詞が泣かせるね。
どう考えても、失った物の方が大きく映るのだが
彼女自身にとっては、果たして得る物はあったのか。
確実に終焉をに突き進む過程ながらも
人生を足掻こうとした姿勢は哀愁を誘う。
ほんの僅かでもゴミ連中の狂乱が楽しそうに映ったら
もう観客側が負けの映画だね。
退屈な社会への抵抗と
破滅へ進む背徳感を完璧に備えた
まさにアメリカンニューシネマの代表作たるに相応しい
今となっては完璧な記号作品。
『雄呂血』 1925年
監:二川文太郎 主演:阪東妻三郎
★★★☆☆
馬鹿正直な若侍が世間から見捨てられ
どんどん酷い目に合っていくお話。
1925年制作のサイレント映画という大昔の作品だが
主人公はいつの時代にも当てはまる人間像ではなかろうか。
真面目で一本気なのは良いのだが
同時に相手の気持ちや立場を考えるより先に
自身の感情や体面で体が動いてしまうタイプだね。
一方的に損をしていることは間違いないけれど
常に自身だけが正しく不当な扱いであるとの想いが続くが故に
次の行動においてより融通が効かず
事態が歯止めなく悪化していってしまう。
俺は悪くないと言いながらも
その行動は途中から一線を越えていき
明らかに周囲の方が迷惑を被る暴走が増えていく姿は恐ろしい。
しかし、そんな男が最後には一人の人間を救う展開なっていくんだよ。
それはおそらく賢く立ち回るタイプ人間たちには
決して救えない状況であったのだろう。
馬鹿でダメすぎる彼だからこそ行動が成立したのは明らかで
これは人間の裏返しなのか。
社会や人間関係への虚無の中、どんどん堕ちていく映画でありつつも
何処かヒューマニズムが残された印象も受ける一品。
サイレントながら実に細やかな心理描写がなされており
演者の表情や仕草だけでも十分に心の変遷が伝わってくる名人芸は心地良い。
日本のサイレント映画なので活弁と共に見てもよいが
今作は無いなら無い方が味が出るかもしれないね。
成程、戦前のバンツマも良いもんだ。
終盤に繰り広げられる大人数による捕り物シーンは
まさに大立ち回りという言葉がぴったりの圧巻の迫力。
白黒、無声映画でありコマ数も近代の映画とは違うのだが
撮影自体のスケール感を考えれば超大作でしょう。
長時間よく続くと思うアイディアの豊富さも実に楽しい良作。
『女が階段を上る時』 1925年
監:成瀬巳喜男 主演:高峰秀子
★★★★☆
銀座の雇われ美人ママが
人生の苦さを見つめていくお話。
何人もの男が登場してひと悶着を起こしていくが
結局、どうあってもこのママは幸せにはなれないんだな…
ただそれも「幸せ」なんて一括りできる正解など
人生においては元々存在しないのだろうという
ビターな帰結になってるんだろうな。
普通、悲しい程に弱い立場の女性が
それでも堪えて生きていくお話となれば
お涙気味の生々しく泥臭い映画になりがちだけど
今作はその姿を堂々と描きながらも
実に作品全体が華麗でオシャレな空気に彩られている。
何を置いても高峰秀子が演じる主人公の気品が一番の見所か。
一癖も二癖もある紳士面した男どもの駄目っぷりが
銀座の高級スナックという虚構の世界を通すことで
むしろ綺麗に透けてくるのが面白い。
主人公の人生を見つめるお話であると同時に
彼女の周りに居る男たちのオムニバスドラマでもある。
森雅之のカッコイイだけのダメ親父っぷりも最高だし
中村鴈治郎が演るテンプレすぎるエロ爺も見事。
若き仲代達矢が見せる青臭いエリート感もハマっているし
おデブな加東大介の優しさと胡散臭さも素晴らしい。
皆が皆、夜の銀座などという世界に自ら足を踏み入れながら
その中にどこかホントを求めているのだろうね。
その弱さこそが人間かな。
厳しさと優しさがセンス良く詰まった
とっても素敵な一品。
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